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グローバルな視野とローカルな視点に立った「地球市民」の学習

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グローバルな視野とローカルな視点に立った「地球市民」の学習
帝国書院『中学生の公民』
グローバルな視野とローカルな視点に立った「地球市民」の学習
埼玉大学教育学部助教授 大友秀明
質を生徒たちに育成することが、今日の社会科教
£
「地球市民」学習の構成
育の課題である。
第4部の「地球市民として生きる」では、世界
したがって、
「公民的資質」の内実に、市民社
平和の実現と人類の福祉の増大のためには、どの
会としての「市民」、国家の成員としての「国民」
ような課題があるのかを理解し、それらの解決す
とともに、グローバル社会の一員としての「地球
べき課題について考え続けていく態度を育てるこ
市民」を加える必要がある。第4部は、この「地
とが学習のねらいである。学習指導要領では、内
球市民」意識を育てる学習である。
容(3)「現代の民主政治とこれからの社会」の
なかの「ウ 世界平和と人類の福祉の増大」の箇
Î
世界平和を広くとらえる学習
所に該当する。
世界平和の実現にかかわっては、日本国憲法の
第4部の「地球市民として生きる」は、三つの
平和主義とわが国の安全と防衛、核兵器の脅威な
章によって構成されている。第1章の「世界平和
ど世界平和にかかわる問題について考えさせるこ
を考える」では、国家間の戦争の防止、平和の実
とが必要である。
現、国際連合の役割と課題、国際平和の実現には
しかし、世界平和とは、戦争のない状態のみを
たす日本の役割を学習する。次いで第2章の「私
さすものではない。世界平和の実現のためには、
たちの地球をみつめて」では、地球的な規模の資
地球上に存在する飢餓、貧困、無知、偏見、暴力、
源・エネルギー問題と地球環境問題について理解
残虐などの事態が解消されなければならない。
し、その解決、対策について考える。最後の第3
教科書には
章の「地球市民として」は、公民的分野の学習と
中学校社会科学習のまとめとなっている。それは、
現在および未来の人類がよりよい社会を築いてい
くための学習である。
Ó
「地球市民」意識の育成
社会科学習の究極のねらいは、
「国際社会に生
きる民主的、平和的な国家・社会の形成者として
必要な公民的資質の基礎を養う」ことである。こ
の「公民的資質」については、
「市民社会として
の市民、国家の成員としての国民という二つの意
味をもったことばとして理解されるべきものであ
る」と説明されてきた。
21世紀の世界がグローバル社会であることは明
らかである。グローバル社会とは、国家という境
界を越えた相互関係が活発化する社会である。ま
た、今日では、一国の枠内や国家を中心とした観
点だけでは認識や解決がむずかしい多くの地域規
模の問題(地球的課題)が発生している。このグ
帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.161
ローバル社会に生き、活動するために不可欠な資
と記し、平和実現のためには「多文化理解」が必
−2−
要であることを強調している。
る民間団体も加わって、世界各地で活動していま
また、国連の活動や課題について、紛争から派
す」(p.166)として、南北問題解消のための開発
生する問題である「難民」の保護、救済活動(p.163)
協力や経済援助活動を取り上げている。
に触れている。さらに、「国連をはじめとする国
授業では、国連のさまざまな活動やわが国の開
際機関も、各国の政府も、南北の格差を少しでも
発協力・経済援助が、なぜ行われているのか、ま
うめるため、開発協力と経済援助を行っています。
た、それらの活動が世界平和の実現にどのような
経済援助は、資金協力ばかりではなく、食糧援助、
役割をはたしているのかを具体的に考えさせ、把
技術協力、教育普及などさまざまな分野におよび、
握させる必要がある。
政府だけではなく、NGO(非政府組織)と呼ばれ
帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.166
する」という考え方で学習できるようにすること
{
エネルギー・環境問題を考え、行動する学習
である。世界平和の問題とともに、地球環境、資
第2章の「私たちの地球をみつめて」では、地球
源・エネルギーの問題は、ともすれば生徒たちに
環境の悪化と資源・エネルギーの有限性とその枯
とっては大きすぎ、また自分とは関係ない遠い世
渇について、人類の将来にとって克服すべき課題
界のことのように思われがちである。しかし、そ
として取り上げている。また、学習指導要領には
れらの大きな、地球規模の問題に対しても、生徒
「適切な課題を設けて行う学習を取り入れるなど
たちの身近なところでかかわりのある問題である
の工夫」とあるが、その際の留意点として、次の
ことを理解させたい。
二つをあげておきたい。
教科書に「ドイツをはじめとしてヨーロッパ
第一に、「地球市民」という立場で考え、行動
の国々では、温暖化をはじめとする地球環境問題
することの重要性に気づかせることである。第3
の解決のために、さまざまな対策がとられていま
部までの学習では、生徒たちは、個人、消費者、
す」
(p.171)とあるが、ヨーロッパの国々ととも
生産者、労働者、納税者、住民、国民などの立場
に、わが国においてもどのような環境対策が行わ
から理解し、考えてきている。ここでは、それぞ
れているのかを具体的に調べる学習がたいせつで
れの立場を踏まえながら、それらにくわえ、「地
ある。
球市民」(人類)という立場で考え、行動する必
また、
「省資源と新エネルギーの開発」(p.172
要性を実感できるように、学習指導を工夫するこ
∼173)
では、省資源・省エネルギー対策の現状に
とである。
ついて調べ、現在の問題・課題や今後の方向性に
第二に、「グローバルに考え、ローカルに行動
ついて考える場面を設定することが必要である。
−3−
帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.170
な意味や意義を明確にしておくことが重要である。
x
多様な学習活動の展開を
確かに、作業的・体験的な学習は、生徒にとって
教科書では、「考えてみよう」「やってみよ
は楽しい活動であろう。しかし、それを推し進め
う」の欄や、インターネットによる検索(p.171)
、
ると、学習活動がゲーム化する恐れが出てくる。
パネルディスカッション(p.173)
、専門家との意
生徒は楽しいからゲーム感覚で授業に参加するか
見交換(p.174)などの多様な活動や教材を用い
もしれない。その活動によって、生徒はなにを学
た学習指導が展開できるように提案している。ま
んだのか、どのような能力、資質を身につけ、高
た、教科書の指導書には学習活動・方法について
めたのかをみきわめる必要があろう。
の解説があるので、参考にしていただきたい。
教師は、なぜ、この内容をこの指導法によって
ただし、学習活動を展開する前に、その教育的
学ばなければならないのかを問うことである。
帝国書院『中学生の公民(最新版)』p.173、174
−4−
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