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原核細胞と真核細胞

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原核細胞と真核細胞
原核細胞と真核細胞
原核細胞
ラン藻類と細菌類がある
核や核膜がなく,DNA がむき出し
ミトコンドリア,ゴルジ体はない
真核細胞は細胞小器官が発達
原核細胞のつくり
普段目にしている生物のヒト,ネコ,ハエ,サクラ,チューリップなどほとんどは真核細
胞でできている。原始的な生物である細菌類やラン藻類は原核細胞でできている。
ラン藻類…ユレモ・ネンジュモ・アナベナ
細菌類…大腸菌・乳酸菌・結核菌・亜硝酸菌・紅色硫黄細菌・緑色硫黄細菌
さて,その原核細胞であるが,核がない。染色体もなく,DNA が無造作に入っている。
ミトコンドリア,リソソーム,小胞体などの細胞小器官もないがリボソームだけは入ってい
る。リボソームはタンパク質合成に必要で,もしもなかったら細胞分裂すらできない。さら
に細胞は細胞膜で包まれており,その外側は細胞壁でコーティングされている。
ラン藻類は光合成ができる。しかし葉緑体はなく,チラ
コイドというものがある。このチラコイドは代謝の分野で
詳しくやるが,光合成色素が含まれている。
真核細胞のつくり
上記の通り,よく目にする生物の細胞である。ミトコン
ドリア,ゴルジ体,小胞体,リソソームなどがあり,染色
体を核の中に収納している。また藻類や植物細胞には葉緑体もある。動物細胞には細胞壁
がなく,細胞膜がむき出しになっている。下の表に原核細胞と真核細胞が持つものをまとめ
た。+はある,-はないことを表す。
細菌 (原核)
ラン藻 (原核)
動物 (真核)
植物 (真核)
細胞膜
+
+
+
+
細胞壁
+
+
-
+
リボソーム
+
+
+
+
ゴルジ体
-
-
+
+
ミトコンドリア
-
-
+
+
葉緑体
-
-
-
+
共 生 説
進化の単元で詳しくやるが,マーグリスによって提唱され,
現在も強く支持されている。約 25 億年前くらいに真核細胞の
生物が現れたが,これはある原核細胞の生物に好気性の細菌
とラン藻類のようなものが入り込んで共生し,それぞれミト
コンドリア,葉緑体になったという説。ミトコンドリアと葉
緑体はどちらも二重膜の構造をしており,さらに核とは別の
DNA を持ち,自力で増殖できる。これが共生説の根拠である。
ただし,この共生説は生物 II の範囲である。
b1036-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
細 胞
ロバート・フックが細胞と名づける
1838 年 シュライデンが植物細胞で
1839 年 シュワンが動物細胞で
細胞説を提唱
細胞小器官の役割は生物学の基礎
細 胞
ロバート・フックがコルクを顕微鏡で見たとき,小さな単位でできていることが分かった。
これを細胞 (cell) と名づけたことから始まる。植物学者のシュライデンと動物学者のシュワ
ンによって細胞説が唱えられた。
細胞小器官の役目
細胞小器官の役割は大まかに覚えておいてもらいたい。
●核 この中に遺伝子の本体である DNA が,染色体に巻き
ついて収納されている。また,中にある核小体は,リボソーム
の成分 (rRNA) を合成している。
●ミトコンドリア 好気呼吸の場である。外から取り入れた
酸素を使い,糖や脂質などを分解し,エネルギー物質である
ATP(アデノシン三リン酸) を合成する。二重膜でできており,
独自の DNA を持つ。
●リボソーム ダルマの形。タンパク質を合成する場所。
●リソソーム あまり出題されない。物質を加水分解するこ
とにより,異物を排除できる。
●ゴルジ体 薄い袋のような形をしている。主として分泌の
はたらきがある。
●液胞 熟した植物細胞に多い。主に水分だが,アントシアン
などの色素が溶けている。
●中心体 (高等植物にはない) 微小管であり,べん毛や紡錘糸の形成の役割を果たす。
●葉緑体 (植物のみ) 有名な光合成の場であり,チラコイドを持つ。
●細胞壁・細胞膜 細胞壁はセルロース (繊維) でできており,植物細胞や菌類にしかない。
水も溶質も通す全透性である。細胞膜は全生物が持つ,外界と細胞内を仕切る膜である。水
と一部の溶質は通すが,通さない溶質もある半透性の性質である。
b1084-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
ミクロメーター
接眼ミクロメーターは円盤状
接眼レンズに取り付ける
対物ミクロメーターはスライドガラス状
ステージに取り付ける
観察は接眼ミクロメーターのみ使用
標本の大きさ測定
顕微鏡で標本を観察し,その具体的な大きさを知るた
めにはミクロメーターというツールを使う。接眼ミクロ
メーターと対物ミクロメーターがあり,それぞれ接眼レ
ンズとステージにセットする。接眼ミクロメーターは小
さな円盤状のガラスに細かい目盛がうってあるものであ
る。また,対物ミクロメーターはスライドガラスと同じ
形をしていて,中心に目盛がうってある。その対物ミク
ロメーターは通常,1 目盛は 10µm(10 ミクロン:1mm の
100 分の 1。1 ミクロンは 1/1000mm) となっている。
この対物ミクロメーターの上にゾウリムシやミドリム
シを置くと目盛が見えなく,測定できない。そこで標本
を観察するときには対物ミクロメーターは取り外し,接
眼ミクロメーターのみを用いて大きさを測定することになる。接眼ミクロメーターは対物レ
ンズよりも目に近い側に置くので対物レンズで拡大されない。そのためレボルバーを回して
倍率を変えても目盛だけは変わらないので,倍率ごとに目盛の意味が違ってくる。だから,
倍率を変えるごとに現在見えている接眼ミクロメーターの 1 目盛が何 µm なのか調べるため
に対物ミクロメーターを使うのである。要するに対物ミクロメーターは目盛のための目盛で
ある。
目盛合せ
右図のように,両ミクロメーターをセットして検鏡す
ると,2 種類の目盛が見える。接眼ミクロメーターを回
し,2 種類の目盛を平行になるように合わせる。
そして目盛が重なる部分を探す。対物ミクロメーター
は 1 目盛が 10µm だから,例えば図のように接眼ミクロ
メーター 6 目盛分が対物ミクロメーター 9 目盛分 (90µm)
となっていれば,現在見えている接眼ミクロメーターは
1 目盛が 90 ÷ 6 = 15µm とわかる。あとはそれを使えば標本の大きさが分かる。
このミクロメーターの使い方はたまに出題されることがある。練習問題などは公式として
覚えれば問題が解けるが国立二次試験の入試問題となると,根本を理解していないとキツい
かもしれない。中には球形の細胞の体積を計算させる問題もある。その際,半径を r とした
4
場合,球の体積の公式 V = πr3 を使う必要があるので注意してほしい。
3
b1081-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
浸 透 圧 (I) 浸透圧の概要 (改訂 1.0)
浸透圧は水を吸い寄せる作用
Π = cRT
浸透圧と濃度は比例する
浸透圧と体積は反比例する
植物細胞は 吸水力=浸透圧-膨圧
浸 透 圧
コーヒーや紅茶にミルクを入れたり,風呂に入浴剤を入れると,何
もしなくても拡散して均一に混ざる。これは自然界の掟の一つであ
り,受動輸送とよばれる。溶質が濃い所から薄い所へ溶質が流れる
状態を,斜面に物体が転がることに例えて濃度勾配があるという表
現をする。
さて,2 つの水溶液を半透膜で仕切るとどうなるか。半透膜とい
うのは,溶媒と一部の溶質は通れるが,大きな溶質は通れないような膜であり,細胞膜はこ
れにあたる。人工的なものではセロハンなどがある。自然界の掟は濃度を統一させようとす
ることであるが,溶質は半透膜を通過できないので代わりに水が通過する。このとき,水は
濃度の薄い方から濃い方へ移動し,濃い水溶液を薄める形になる。濃度の高い水溶液は高張
液とよばれ,水を吸収する力が強い。また薄い水溶液は低張液とよばれる。浸透圧は濃い水
溶液が薄い水溶液から水を奪う。ナメクジに塩をかけると水が抜けるのはこの原理である。
ファントホッフの式というものがあり,浸透圧 Π[atm] は,モル濃度 c[mol/] に比例する。
T [K] を絶対温度,R[atm · /mol · K] を定数として,Π = cRT となる。
植物細胞の浸透圧
植物細胞の細胞壁は全透膜,細胞膜は半透膜でできている。
ということは高張液に細胞を浸すと細胞膜内の水が抜けて細
胞質がしぼむ。しかし硬く頑丈で水を通す細胞壁はそのまま
だから,結局細胞膜が細胞壁から離れる原形質分離が起こる。
逆に低張液に入れると,細胞質が膨らむ。それに押されて
細胞壁も多少膨らむが,細胞膜が細胞壁を押す圧力を膨圧と
いう。しかし細胞壁は硬いので,細胞膜が膨らんでも押し返
す (壁圧) ため,細胞質からは水が少し漏れ出す。物理の力学
の作用反作用の法則より,膨圧と壁圧が等しくなる。よって,
膨圧があるとき,水が外へ出てしまうので,水を吸う力は弱
くなる。よって,植物細胞での吸水力は
吸水力 = 浸透圧 − 膨圧
の関係が成り立つ。また,細胞の体積と浸透圧は反比例する。
細胞が吸水して膨張したときは濃度が薄くなるので,ファン
トホッフの式より浸透圧が低くなる。体積と圧力の積は一定
として計算すればよい。
b1016-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
浸 透 圧 (II) 浸透圧計算
細胞の体積と浸透圧は反比例する
1
体積 1.2 倍で浸透圧
倍に
1.2
植物細胞の場合は膨圧がかかる
植物は 吸水力=浸透圧-膨圧
放置すると,吸水力と外部浸透圧がつり合う
植物細胞の浸透圧
植物細胞には細胞壁があり,蒸留水に浸してもある程度まで
膨張するが,次第に細胞壁に絞られて水が抜ける。絞られる力
を壁圧というが,この大きさは膨圧に等しい。
必ず知っておいてほしい知識であるが,細胞を色々な濃度の
溶液に浸したとき,細胞の体積と浸透圧は反比例することであ
る。つまり,細胞が外液から水を吸収して大きくなると,細胞
内の濃度が下がり浸透圧も下がる。例題を考えてみたい。
例題 浸透圧 6.0atm のスクロース溶液が等張である植物細胞
A を,浸透圧 4.0atm のスクロース溶液に入れたとき,細胞 A
の大きさ (体積) は等張液に入れたときの 1.2 倍となった。こ
のとき,細胞の浸透圧,膨圧,吸水力を求めよ。
●浸透圧 反比例を用いる。右のようなグラフを自分で描く
と良いかもしれない。等張液に浸したときの体積を 1 として
4.0atm の低張液に入れたときの浸透圧を P とすれば,
6 × 1 = P × 1.2
∴
P = 5.0atm
●吸水力 外液から吸い取られる力,つまり外液浸透圧と吸
水力がつり合うことで平衡が保たれている。このとき吸水力は
外液と同じ 4.0atm。
●膨圧 吸水力=浸透圧-膨圧の式に当てはめてやればよい。
4.0 = 5.0 − 膨圧 となり,1.0atm
このように植物細胞を低張液に入れると,膨圧が発生する。浸透圧と体積は反比例し,吸
水力は外液浸透圧とつり合う。決して難しい問題ではないが,やり方には慣れておかないと
本番でアセる。十分に注意してもらいたい。
また,高張液に入れた場合,原形質分離が起こって外液
浸透圧と細胞内浸透圧が同じになるまで水が抜かれる。こ
のとき,膨圧は生じないので,細胞内浸透圧は外液浸透圧
にそのまま等しくなる。
いずれにせよ,水が抜かれて細胞内が濃くなれば吸水力がアップし,逆に水を吸いすぎて
薄くなれば吸水力がダウンするのであり,スポンジやタオルを考えればよい。直感的に理解
しておくと一層問題が解きやすいといえる。
b1072-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
動物細胞の構造
動物細胞には
上皮・結合・筋・神経の各組織
上皮組織は表皮や分泌腺
結合組織は真皮や骨,腱など
筋組織は筋肉,神経組織はニューロン
上皮組織
体を保護するものから,体内の血管,消化管の内壁部分。多
くの細胞からなる。皮膚の表皮は上皮組織,真皮は結合組織で
あることに気をつけてもらいたい。
上というのは表という意味ではなく,階層的な「上」なので,
血管の内皮や消化管の内壁も上皮組織という。また分泌腺も各
器官の表面にあるので上皮組織になる。
結合組織
主として骨などがあり,組織や器官の間を埋める形で分布す
る。上皮組織は細胞がギッシリ詰まっているのに対し,こちら
結合組織は細胞は少なく,細胞間物質が多い。結合組織には細
胞は少なく,細胞間物質が多い。結合組織には骨組織,軟骨組
織の他,血液や腱などがある。真皮も結合組織であるが,血管
は筋組織,上皮組織などあらゆる組織で構成され,複雑なので
気をつけてもらいたい。ちなみに血管の中を流れる血液は結合
組織であるが,血球が細胞,血しょうが細胞間物質に当たる。
筋 組 織
筋肉である。筋肉には横紋筋と平滑筋がある。筋組織は筋繊
維 (または筋細胞) という巨大な細胞でできている。効果器の単元で学ぶが,筋繊維と筋原繊
維を混同しないようにしてもらいたい。横紋筋は横じまが見えて収縮が速い。横紋筋には骨
格筋と心筋がある。骨格筋は足や手や腰など,いわゆる日常で言う筋肉であり,自分の意思
で動かすことができる随意筋である。しかし疲労しやすい。心筋も横紋筋であるが,これは
疲労しにくい。それは至極当然で,心臓の筋肉がすぐに疲れたら困る。心筋は不随意筋とい
い,自分の意思では動かせず,自律神経が支配している。また,平滑筋には内臓筋がある。
胃などを調節する筋肉で,こちらも不随意筋である。
神経組織
神経細胞 (またはニューロン) と神経こうからなる。神経こうは
覚えなくてもよいが,神経細胞どうしを結合したり,その間を満
たしている物質のことである。ニューロンに関しては別の単元で詳しく行うが,電流が流れ
ることで興奮を伝導,伝達する。
b1059-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
植物の細胞
植物の組織には
分裂組織と永久組織がある
分裂組織は頂端分裂組織,形成層
永久組織は 表皮組織・柔組織・
機械組織・通道組織
分裂組織
植物細胞の組織は動物細胞の組織と若干違い,分裂組
織と永久組織に大別される。分裂組織は細胞分裂がさか
んであり,永久組織は器官に分化してしまって細胞分裂
を行わない。分裂組織には背丈を伸ばす伸長成長をする
茎頂分裂組織と根端分裂組織がある。これらをまとめて
頂端分裂組織という。また縦に伸びるだけではそのうち
自身を支えられなくなり,倒れてしまう。肥大成長,つま
り横に太るための分裂組織があり,形成層とよばれる。形成層は主として茎の木部と師部の
間にある。イネ科植物など単子葉類には形成層がない。木には成長しないのである。イネや
トウモロコシ,ユリなどの木を見たことのある人はいないと思う。
永久組織
分化を終えてもう分裂しない組織を永久組織というが,表
皮組織,柔組織,機械組織,通道組織がある。
●表皮組織 植物体全体に分布しており,一層でできた表
皮細胞からなる。表皮細胞とクチクラをあわせて表皮系と
いう。クチクラは油性のワックスとタンパク質のクチンを
重ねたもので,水分の蒸発を防ぐ。また,気孔の周りの孔辺細胞も表皮組織である。孔辺細
胞は葉緑体を持つ。根の根毛なども表皮組織の一部である。
●柔組織 葉緑体などの同化組織,根や茎の髄などの貯蔵組織がある。同化組織には葉肉で
ある柵状組織と海綿状組織がある。日光のよく当たる葉の表側にしっかりと葉緑体を敷き詰
めておけば光合成の効率がよいので基本的に葉の表側に柵状組織,裏には海綿状組織が分布
する。柵状組織はその名の通り,フェンスのような形をしている。
●機械組織 細胞壁が厚くなってできた細長い死細胞からな
る厚壁組織と細胞壁の角が厚くなった生細胞の厚角組織があ
る。柔組織と機械組織を合わせて基本組織系という。
●通道組織 根,茎,葉すべての部分に分布し,木部と師部
からなる。木部は道管と仮道管があるが,これは死細胞から
なる。根から吸い上げた水や無機塩類などを通す。また師部
は師管とそれを構成する細胞からなる。同化組織で合成され
た同化産物を運ぶ。光合成で作ったデンプンなどは師管を通
るときはスクロースの形になり,師管を通して運ばぶことを転流という。
b1063-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
体 細 胞 分 裂 (I) 染色体の動き (改訂 2.0)
縦裂は要するに DNA の「コピー」
後期に縦裂した染色体は離れる
中期は染色体が赤道面に並ぶ
分裂期…リボン型の短く太い染色体
間期…細く長いひも型
染色体の行動
体細胞分裂は生物体のあらゆる場所にて行われている。生きていくには体を成長させた
り,仲間を増やしたり壊れた細胞を新しいものに取り替えたりと細胞分裂は何かと必要であ
る。単純に細胞を増やす分裂を体細胞分裂という。
細胞の中には遺伝子の本体となる DNA が入っている染色体がある。細胞を増やすのな
らこの DNA や染色体も増やす必要がある。細胞分裂はこの染色体の動きを観察することが
大切といえる。まず目で見て分からない,特に変化のない時期を間期という。目で見て分裂
している様子が分かる時期は分裂期とよばれる。間期は代謝の活発な G1 期,DNA を複製
(コピー) している S 期,DNA 複製後から分裂開始までの G2 期に分けられる。
そして分裂期 (M 期) は前期・中期・後期・終期の 4 つに分けることができる。
●前期 核膜および核小体が見えなくなり,細く長い染色体はギュッと縮み,リボンのよう
な形になる。このようになることを凝縮するという。
このとき,S 期にコピーされた染色体を分裂する準備がなされる。1 本の染色体をよく見
ると縦に割れていることが分かる。これを縦裂といい「縦裂する」のようにサ変動詞的に使
う。割れた 1 本 1 本を染色分体という。分裂期の染色体は両端がやや太く,真ん中が細い。
この細い部分で染色分体どうしが結合している。この部分を動原体という。
●中期 紡錘糸が染色体の動原体に結合し,染色体が赤道面に並ぶ。
●後期 縦裂した染色分体がほどけて 2 本の染色体になる。そして両極へ移動する。これに
より,染色体 1 本あたりの DNA 量は軽くなる。
●終期 染色体どうしが集まり,凝縮の逆が起こって細長い形に戻る。そして 2 つの核がで
き,核膜と核小体が見えるようになる。その後動物細胞と植物細胞とで若干の違いがあるが,
2 つに分かれる細胞質分裂が行われる。
b2201-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
体 細 胞 分 裂 (II) 植物・動物の違いと観察
動物細胞は中心体が両極に移動
終期ではくびれが起こる
植物細胞は終期で細胞板が形成される
細胞分裂にかかる時間は
数の比を時間にかける
動物細胞と植物細胞の違い
細胞分裂中の植物細胞と動物細胞には様々な違いがあるが,イラ
ストにすると非常に分かりやすくなる。
まず,紡錘糸の起点について。動物細胞は中心体から出てくるが,
植物細胞は細胞質基質の中から出てくる。中心体は微小管の形であ
り,強固な紡錘糸を作れるため,動きの激しい動物細胞には適して
いるがあまり運動性のない植物細胞は弱い紡錘糸で十分であるため,
高等植物の細胞には必要ない。動物細胞は間期に中心体の複製が行
われ,前期に中心体が分裂するが,植物細胞はそれがない。分裂中,
中心体の周りには星状体とよばれるモノが形成される。
そして中期には赤道面に染色体が並び,紡錘体が完成する。後期
には染色体が分裂し,両極へ移動する。この 2 つの期は動物細胞も植物細胞も同じである。
終期には細胞質が離れ始めるが,植物細胞は細胞の中央から切れ込みが生じてきてその切れ
込みが次第に細胞の外側に進むが,動物細胞では細胞が外側からくびれて次第に内側へ進む
という違いがある。植物細胞で切れ込みとなる境界のことを細胞板という。
分裂時間の観察
細胞分裂の様子は顕微鏡で観察できるが,染色しないと見
えない。よく使われる材料が,分裂がさかんな根端分裂組織
なタマネギの根の先端である。まずは細胞分裂を止め,崩壊
しないように保つために酢酸やホルマリンなどで細胞を固定
する。生物で言う「固定」というのは固めるわけではなく,新
鮮で生きた状態をできるだけ保ちつつ細胞の生命活動を停止
させることである。塩酸などで解離する。これは細胞どうし
の結びつきをゆるめてバラバラにし,観察しやすいようにす
る。これをしないと顕微鏡で見たとき,細胞どうしが重なっ
てしまってよく見えない。そして酢酸カーミン液などで染色
し,最後にカバーガラスをかけて完成である。①固定→②解
離→③染色→④観察の順で行う。
●時間 細胞分裂の所要時間は時間を計れば済むことだが,
それは染色しないと見えないし,染色すると細胞が死ぬので不可能である。そこで多量の細
胞を観察した場合,そこに存在する数と時間は比例するという考えを持ち込む。
分裂周期が 20 時間の細胞を全部で 1000 個観察して分裂期の細胞が 100 個であったなら,
20 時間の 100/1000 が分裂にかかる所要時間と考える。この例なら 2 時間である。
b2095-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
体細胞分裂とDNA量
間期は長く,細胞数が多い
G1 期…DNA 合成 (複製) 準備期
M 期…DNA 合成期
G2 期…DNA 合成後,分裂までの状態
分裂期は 1 つの核あたりに 2 倍の DNA
各期ごとのDNA量
核 1 個あたりの DNA 量は,通常変わらないが,
細胞分裂のときは 2 つの娘核にもとの核と同じだけ
DNA を分配する。そのため,DNA を複製するので
細胞分裂の直前 (前期より前) では,DNA 量が 2 倍
となっている。また,分裂期である前期・中期・後
期・終期は 1 つの細胞とみなすので,この分裂期は
1 つの細胞内に DNA は通常の 2 倍となる。
染色体 1 本あたりの DNA 量は,中期から後期に
移るときに染色分体がほどけて細胞の両極に移動す
る。だから図 1 の破線のように分裂期の途中でグラフが下がる。
細胞数の関係
図 3 のようなグラフはときおり入試に出る。難しい話で
はないので,グラフの読み方を知っておいてほしい。
横軸は細胞内の DNA 量で,縦軸はそれらの細胞の数で
どちらも相対値である。DNA 量が 2 のものが最も多く,次
いで 4 のものが多い。2 と 4 の間のものは少ない。これは
図 1 でいうと S 期 (間期の一部で DNA 合成期) に該当する
が,この時期は短く,あっという間に済む (といっても数分) ので数が少ない。細胞もいつ
でも分裂をしているわけではないので 2 のものが最多数となる。
では,頻出の例題を 1 つ。ある植物の体細胞分裂がさかんで分裂周期 20 時間の部分にコ
ルヒチンという薬品を加えた。コルヒチンは紡錘糸の形成を阻害するはたらきがある。時間
が 30 時間経った後,細胞数と細胞あたりの DNA 量のグラフはどのような概形になるか。
紡錘糸は染色体を引き離すのに重要な役割を果たす。しかしコル
ヒチンを加えることによって細胞分裂は中期で停止してしまう。中
期には複製してすぐの DNA があるため,1 本の染色体は 2 本の染
色分体からなる。このため DNA 量も 2 倍となり,通常の体細胞の
DNA 量を 2 とした相対値でいうと,中期では 4 となる。ここで分
裂が停止するということは,DNA 量が 4 になった細胞が 2 に戻ら
ないということになる。よって,次々に DNA 量が 4 である細胞が
増え,しまいにはこの部分で分裂している細胞すべてが 2 倍の DNA 量となる。分裂周期が
20 時間なので,30 時間後は右図のようなグラフとなることが考えられる。
b1087-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
減 数 分 裂 (改訂 2.5)
遺伝・生殖・発生の基礎
配偶子を作るための分裂
相同染色体は染色体の名前ではない
最終的に染色体は半数になる
相同染色体のうち片方のみが分配される
何のための減数分裂か
子どもは「母親と父親の血を半分ずつもらっている」とよ
く言われる。「血」というのは違うが,事実,染色体や DNA
は母親と父親から半分ずつ来ている。減数分裂は DNA を半
分にするための分裂である。
基本的には生物が持つ染色体の数は偶数本であり,2 つず
つ同じ形をしたものがある。同じ形,同じ大きさの染色体ど
うしを互いに相同染色体であるという。配偶子 (精子や卵) に
は,その相同染色体のうち片方のみが配分される。これで父
親と母親から片方ずつもらい,新しい子どもの遺伝子が完成
する。例えば 2n = 6 のとき,3 組の相同染色体をもつという
意味であり,それぞれどちらかが分配されるので,できる配
偶子は 23 = 8 パターンとなる。
相同染色体の両方が 1 つの娘細胞に入らないようにするた
め,相同染色体どうしが対合する。対合によってできたやた
らとブットい染色体を二価染色体とよぶ。このとき染色体は
縦裂 (コピー) をしているので,二価染色体は 4 本の染色分体
が動原体で結合した状態である。体細胞分裂ではこのような
状況にはならない。
DNAの量
第一分裂の前期に,染色体をコピーして対合するので,第
一分裂の中期までは 4 本の染色分体が並ぶ。第二分裂で縦裂
が解けるため,1 本の染色体に含まれる DNA 量は第二分裂
中期に通常の量に戻る。最後は 4 つの細胞になるが,DNA を
1 回コピーし 2 回分裂しているので,初めの半数になる。
b2502-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
無 性 生 殖
無性生殖には
分裂 出芽 栄養生殖 胞子生殖
親の遺伝子をそのまま子に
ただし,遺伝子が全く変わらないため,
環境の変化には弱い
無性生殖
生物の目的は自分の種を後世に残すことである。原生的な
生物の多くは自分の体をコピーして新個体を作る。高等な生
物ほど生殖方法は複雑である。
大まかに区切ると自分の遺伝子だけを増やすのを無性生殖,
2 個体以上が遺伝子を出し合って子を作ることを有性生殖と
いう。無性生殖で覚えてもらいたいのは,分裂,出芽,栄養
生殖,胞子生殖の 4 つである。
●分裂 1 匹 (1 個) の生物から,2 匹以上の固体ができるこ
と。単細胞生物に多いが,多細胞生物でも行うヤツがいる。
単細胞…アメーバ・ゾウリムシ・ミドリムシ・ケイソウ・ミカ
ヅキモ
多細胞…イソギンチャク・クラゲ・プラナリア
プラナリアは再生の実験動物として使われる「扁形動物」と
いう小さな動物である。
●出芽 親の体の一部からニョキっと生えてきてそれが子ど
もになる生殖。子は親と比べて小さい。
酵母菌・ヒドラ・ゴカイ・ホヤ・サンゴ
ゴカイは環形動物の仲間で,ミミズに毛が生えたようなちょっとグロテスクな生き物であ
る。ホヤは海底で岩や海藻などに固着して生活している。
●栄養生殖 出芽の植物版と思って差し支えない。出芽はちょっと気持ち悪いかも知れない
が,栄養生殖は植物の茎や根などから子が生まれる。
タマネギ・ジャガイモ・サツマイモ・ユキノシタ・オランダイチゴ・オニユリ
ユキノシタは葉の裏が赤く,原形質分離の実験に使われる。漢字では雪の下であるが,大
昔は雪の舌と書いていたそうである。
サツマイモは根で,ジャガイモは地下茎である。たまに出題される。
●胞子生殖 胞子というものを作り,子孫を増やす方法。胞子は
遠くへ飛ばされて発芽するので,種子と似ている。しかし種子は
配偶子どうしが受精して完成したものであるのに対し,胞子は減
数分裂によってできた胞子がバラ撒かれてそのまま発芽する。種
子は 2n であるが,胞子は n で染色体を半分しか持たない。
シダ植物 (ワラビ・トクサ・スギナ)・コケ植物 (スギゴケ・ゼニゴケ)・
カビ・キノコ
ワラビとゼンマイは食用のシダ植物。キノコは菌類。
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被子植物の受精
花粉母細胞→花粉四分子
胚のう母細胞→胚のう細胞
以上が減数分裂
その後体細胞分裂を繰り返す
中央細胞と卵細胞が重複受精
精細胞の形成
花粉はおしべの葯の中で作られる。まず原生殖細胞である花粉
母細胞が減数分裂をする。減数分裂後に花粉四分子になる。花粉
四分子は 1 回体細胞分裂をして花粉になる。花粉は花粉管細胞と
よばれるが,この核を花粉管核,花粉管細胞の中に雄原細胞が共
存する。雄原細胞の核は雄原核とよばれる。なお,この 2 つの細
胞が持つ遺伝子は同じである。正誤問題などでよく問われるので
覚えておいてほしい。
その後,花粉がめしべの柱頭に付着すると,花粉は柱頭の分泌
液から水を吸うことで膨圧を発生させ,原形質流動によってめし
べの中を貫通し,花粉管をつくる。雄原細胞は体細胞分裂をして 2 つの精細胞になり,花粉
管核の後を追う。
卵細胞の形成
めしべの中にある胚珠のさらに中には原生殖細胞である胚のう母
細胞がある。これが減数分裂をすると 4 つの娘細胞になるが,この
うち 3 個は退化消失し,残った 1 個が胚のう細胞となる。種子の養
分になるものを 1ヶ所に集中して蓄えるためである。胚のう細胞は
次に体細胞分裂を 3 回して 8 個の核を持つ胚のうになる。上に描い
たイラストのような図を自分で描いて覚えてもらいたい。
胚のうは右図のように,主役である卵細胞と 2 個の助細胞と 3 個の反足細胞と 2 個の中央
細胞から構成される。中央細胞の核を極核という。胚のう中の 8 個の核はすべて遺伝子が同
じである。何かとよく出るので覚えてもらいたい。
受 精
花粉管を通ってやってくる 2 個の精細胞のうち 1 つが卵細胞と合体して胚,つまり新しい
命に,もう 1 つは中央細胞と合体して胚乳になる。2ヶ所で受精が起こることを重複受精と
いい,被子植物特有の現象である。精細胞は n,卵細胞も n なので胚は 2n だが,中央細胞
は初めから 2n だから,受精すると 3n になる。胚のう 1 個がそのまま種子になる。種子 100
個を作るには,100 個の胚のうが必要なので胚のう母細胞も 100 個必要である。また精細胞
は 200 個必要であるが,これは花粉 100 個でまかなえるので花粉四分子は 100 個必要で,花
粉母細胞はその 1/4 の 25 個で事足りる。
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動物の生殖
精子も卵も始原生殖細胞
○原細胞→一次○母細胞
→二次○母細胞
○は「卵」か「精」
一次○母細胞から減数分裂が始まる
精子形成
オスは動く精子,メスは動かず栄養分を蓄える卵
を作る。これはどちらも始原生殖細胞から分化する。
オスの体内ではこれが増殖,分化して精原細胞とな
る。精原細胞はさらに分裂をして一次精母細胞とな
る。ここから減数分裂が始まるのであり,ここまでは
体細胞分裂となる。一次精母細胞は第一分裂により,
二次精母細胞になる。二次精母細胞は第二分裂をし,
精細胞となる。精細胞はもう分裂はしないがさらに
分化し,最終的に精子になる。
精子はヒトの場合,右下図のようになる。図を描け
るようにしておきたい。
先体 卵膜を溶かす酵素が入っている
核 父親の遺伝子の半分 (n) を持つ
中心体 べん毛を作る
ミトコンドリア べん毛を動かすための ATP を合成
べん毛 泳ぐために必要
卵 形 成
同じく始原生殖細胞が分裂,分化し,卵原細胞,そして一
次卵母細胞となり,ここから減数分裂が開始されるというの
は精子と同様である。しかし減数分裂は若干ながら違う。第
一分裂により二次卵母細胞ができるが,1 つしかできない。
もう 1 つの細胞は第一極体となる。第二分裂により二次卵
母細胞は卵となる。もう片方は第二極体として放出される。
第二分裂のとき,第一極体はほとんど分裂しないが,ヒト
やゴカイなど一部の動物は第一極体も分裂する。極体は退化して消滅するが,極体のあった
位置が卵の動物極となる。その反対側が植物極となる。少しでも多くの卵黄を 1 個の卵に含
めるため,極体を放出するのである。精子は自力で移動できるが栄養分を持たない,卵は栄
養分を持つが自力では移動できない。これは動物でも植物でも同じことである。
ウニなどは成熟した卵を水中に放出し,精子がそこに入れば受精する。脊椎動物は二次卵
母細胞から卵になるとき,第二分裂中期で分裂が一時停止し,精子が侵入したとき分裂が再
開される。精子を 100 個作るには一次精母細胞は 25 個でできるが,卵 100 個には一次卵母
細胞は 100 個必要になる。
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核 相
体細胞には偶数本の染色体
染色体が 10 本なら 2n = 10 と表す
体細胞 2n,生殖細胞 n
受精卵は 2n,胚乳は 3n
受精した場合は単純にたす
減数分裂
核相はセンター試験や一般入試における大問の中の小問として出
題されることが多い。入試で出題された場合は点数の稼ぎ所となる
ようにしっかりと理解しておきたい。まず 2n = x の説明から。これ
は 1 つの体細胞に染色体が n 組 2n 本入っているという意味である。
基本的に多くの生物は,染色体を偶数本持つ。これは相同染色体が n
組入っているため,2n 本,つまり偶数になる。染色体の本数を n や
2n で書いたものを核相という。
染色体を 2n 本持つ生物から生まれる子もやはり染色体を 2n 本ず
つ持つ。このとき,父親から n 本,母親から n 本もらっていて 2n 本
である。動物の場合,精子には n 本,卵にも n 本の染色体が入って
おり,受精卵は 2n 本となって分かりやすい。受精した後に体細胞分
裂の卵割を行うが,このとき各割球の核相もいずれも 2n となる。ヒ
トやその辺りにウロついているネコ,イヌ,昆虫など,普通に生きているものは 2n であり,
精子や卵が n であると思ってもらいたい。動物の細胞はこのようになるが,種子植物は重複
受精をするため多少ややこしくなる。また,シダ・コケ植物や菌なども複雑である。
被子植物の核相
葯の中にある花粉母細胞は 2n だが,それが減数分裂してできる花粉四分子はそれぞれ n
である。花粉四分子は花粉となって核は雄原細胞と花粉管細胞に体細胞分裂する。このとき
2 つの細胞の遺伝子はともに同じであるため,核相はどちらも n になる。また胚のう細胞が
体細胞分裂してできた胚のうは 7 個の細胞と 8 個の核があるが,これら 8 個の核の遺伝子型
はすべて同じであり,核相は n である。
中央細胞は核を 2 個含むため,2n となるが,2 つの核はもともと
同じ胚のう細胞から体細胞分裂し,分化したものなので DNA 構造
は全く同じである。
受精すると卵細胞 (n) は胚となり,核相は 2n になる。また中央
細胞 (2n) は胚乳になるが,2n + n = 3n となる。これは母親の遺伝
子が 2 つ,父親の遺伝子が 1 つとなるから,母親 (めしべ) から A,
父親 (おしべ) から a が分けられた場合,胚の遺伝子型は Aa,胚乳
の遺伝子型は AAa となる。遺伝の分野と併せて出題されることが
多いのでチェックしておいてもらいたい。
ある生物において体細胞 1 核内の DNA 量が 1.0pg(p = 10−12 ) ならば,精細胞や卵細胞内
の DNA 量は 0.50pg,胚乳は 1.5pg ということになる。
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卵 割
卵割は体細胞分裂の一種
動物の種類で異なる
16 細胞期までは同調分裂という
分裂周期が短く
分裂ごとに割球が小さくなる
卵割の種類
見事無事に受精できた受精卵は卵割という細胞分裂をして個体へと成長してゆく。卵割に
よってできた新しい細胞を割球という。実際は「割る」わけではなく分裂しているが,分裂
によって細胞が大きく成長せず各割球が小さく細かくなるので割るという表現をしている。
また,各割球の分裂は同時に行われるが,これを同調分裂という。
棘皮動物
哺乳類
等黄卵
等割
端黄卵
不等割
両生類・環形動物・軟
体動物
端黄卵
盤割
鳥類・魚類・爬虫類
心黄卵
表割
節足動物
卵割するとき,卵黄を切ってはいけないので卵黄をよける形で卵
割が行われる。各部の名称を左図のように覚えておきたい。卵は極
体があった方を動物極,反対側を植物極といい,地球に見立てて経
線や緯線を定義する。
●等黄卵 卵黄が少なく,全体に点在している点が特徴。1 回目の
卵割である第一卵割は動物極と植物極を結ぶ経線で細胞質が分かれ
る経割,第二卵割も経割,第三卵割は赤道面で行われる。このとき
23 = 8 個の割球ができているが,8 個すべての大きさは同じである。
これを等割という。哺乳類と棘皮動物 (ウニ・ナマコ・ヒトデ) がこ
の様式である。
● (弱) 端黄卵 卵黄がやや多め。第二卵割後の 4 細胞期までは等黄卵と同じだが,第三卵
割の緯割では赤道よりもやや動物半球寄りで行われる。つまり上の方がやや小さめの割球,
下のほうが大きめの割球ができるということである。これを不等割という。両生類がこれで
ある。軟体動物 (イカ・カイ・タコ) や環形動物 (ミミズ・ヒル) もこれであるが,環形動物
は厳密にいうと「らせん卵割」とよばれる卵割様式となる。
● (強) 端黄卵 卵黄が非常に多く,植物極側に分布する。ニワトリの卵には巨大な卵黄が
あるのは冷蔵庫の卵を見れば分かるとおりである。卵割は円盤状に行われる盤割となる。
●心黄卵 卵黄は中心に多い。初めは核の分裂のみが内部で起こり,そのまま表面に達する
と細胞質に分かれ,細胞層ができる表割が起こる。
b1048-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
ウニの発生
桑実胚→胞胚→原腸胚
原腸胚期で陥入が始まる
陥入して原腸ができる
入口の原口は肛門になり
プルテウス幼生になる
陥入まで
ウニは等黄卵で等割が行われる。卵割が進んで割球が多くなったものをクワの実に見立て
て桑実胚という。さらに発生が進むと,中央に空所ができる胞胚となる。空所を胞胚腔とい
う。この胞胚期に受精膜が破れてふ化する。このとき繊毛が生えており自分で泳ぐことがで
きるようになるが,口や消化管はまだ形成されていないため,自分でものを食べることがで
きない。
幼 生
この後,胞胚の植物極側の細胞が少しずつ胞胚腔内に入り込んで
ゆく。この現象を陥入といい,入口を原口という。胚には将来個体
になったとき,表面の細胞などを構成する外胚葉と骨格や血管など
を構成する中胚葉と消化器官などになる内胚葉がある。植物極から
胞胚腔の中にその中胚葉である一次間充織というものが放出される。
これは骨格などになる。陥入によってできた空所を原腸といい,原
腸が表皮にたどり着くまでの胚を原腸胚という。次に内部に放出される細胞は同じく中胚葉
だが,骨格ではなくその他の結合組織性のものになるため,二次間充織という。
原腸が反対側の表皮まで届いたものをプリズム幼生という。さらに分化,成長が進むと口
ができ,原口は肛門になる。この状態はプルテウス幼生とよばれる。このあと,いわゆる
「トゲ」ができて稚ウニを経て成体ウニへと成長する。
ウニの 16 細胞
ウニは 8 細胞期になるまでの第 3 卵割までは等割するが,次の卵割
である第 4 卵割では動物半球が経割,植物半球はやや植物極側に分か
れた面での緯割が行われる。分かりやすくいうと上半分がタテ切り,
下半分が少し下にずらしたヨコ切りである。相対的な大きさに応じて
大割球と中割球と小割球という言い方をする。最も植物極側の小割球
には原腸を形成する能力がある。そのためウニの 16 細胞期の細胞を
バラバラにしてそれぞれ培養した場合,動物極側の中割球は陥入の手前で発生が停止するた
め,胞胚までしか育たない。そういうことなので,緯割が行われる前の 4 細胞期までなら割
球をバラバラにして培養するとすべてプルテウス幼生まで育つ。
b1053-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
カエルの発生
桑実胚→胞胚→原腸胚
→神経胚→尾芽胚
原腸胚期で陥入が起こり
神経胚期で器官分化
尾芽胚期で尾が生える
胞胚腔と原腸の区別
イモリの受精卵が卵割を進めると 32 細胞期あたりから胚の
内部に空所ができる。この空所を卵割腔という。割球が多くな
り,クワの実状になったものを桑実胚といい,その後陥入が始
まるまでの胚を胞胚という。このときの空所は卵割腔でもよい
が,胞胚腔とよぶことが多い。この後,植物側に原口とよばれ
る切れ目ができて,表面の細胞質が中に入り込む陥入が起こる。
その後陥入した細胞質が胞胚腔の中に外胚葉に裏打ちされる形
になる。それによってできた空所を原腸といい,この後は腸管
になる。
神経胚と尾芽胚
この後胚の動物極側 (背側) が盛り上がって神経板を形成する。神経板は 2 つできるが,そ
の 2 つの神経板で囲まれた溝のことを神経溝という。2 枚の神経板は上の方でつながると神
経溝は管のようになり,神経管とよばれるようになる。この時期の胚を神経胚という。この
時期にはすでに器官が分化し始めている。右下図のような断面図はよく出されるのでしっか
り覚え,自分で描けるようにするといい。
この後,胚は細長くなり尾のようなものが生えてくる。
この時期の胚を尾芽胚 (びがはい) という。カエルはこの
ときふ化してかの有名なオタマジャクシになる。
●表皮 (外胚葉) 表皮 (爪・毛),角膜,水晶体など
●神経 (外胚葉) 脳,神経,脊髄,網膜など神経組織
●脊索 (中胚葉) 骨格形成まで胚を支える役割。そのう
ち退化して骨格の一部になる
●体節 (中胚葉) 骨格筋,骨格,真皮など
●腎節 (中胚葉) 腎臓,生殖輸管など
●側板 (中胚葉) 血液,血管,心臓など,血液系のもの
と心筋,内臓筋
●内胚葉 肺,すい臓,胃,腸,肝臓など。心臓以外の内臓とよばれるもの,内分泌腺
どの胚葉が何に分化するか多くて一見覚えにくくて大変そうに見えるが,体の外が外胚
葉,多くの臓器が内胚葉,そしてその中間に中胚葉があると考え,同じ脊椎動物である自分
の体を想像すれば覚えやすいのではないだろうか。
b1052-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
胚域の移植
胚の移植片の運命は
初期原腸胚~初期神経胚で
決定される
原口背唇部の運命は
早期に決定し,脊索になる
予定運命
シュペーマンが行った胚域移植の実験は有名である。イモ
リの胚をいくつも準備し,胚の一部を切り取り,別の胚に貼
り付けるという,とても器用な実験である。
●初期原腸胚 あるイモリの初期原腸胚の予定神経域を切り
取り,別の同じ時期の胚の表皮域に移植する。そうすると移
植片は過去を忘れ,新しい土地に馴染んで表皮に分化する。
●初期神経胚 しかし,同様な実験を神経胚期に入ったイモ
リの胚で行うと,移植片はいつまでも過去にこだわり,周り
が表皮であるにもかかわらず,自己主張し,神経管や脳を形
成する。
これらより,予定運命が決定するのは原腸胚の初期から,
神経胚の前期の間にあることが分かった。一般的に関西人は
大人になって別の地方へ行ってもなかなか関西弁を捨てない
が,小学生の頃に引越して別の地方へ行った場合,その地方
の言葉にすぐに馴染む。これと似たようなものであろう。
形 成 体
原腸胚の初期では,まだ胚の細胞が決定されていなかった。
ということはその前の胞胚期には当然ながら決まっていない
のは自明である。またまたシュペーマンの登場であるが,胞
胚の原口背唇部という部分を切り取り,別の胞胚の胞胚腔の中に移植する。すると,原口背
唇部を移植した場所の周りの細胞は神経管や体節や側板などに分化した。
このように周りにはたらきかけ,細胞の分化を促すことを
誘導といい誘導するものを形成体 (オーガナイザー) という。
この場合,原口背唇部が形成体としてはたらいていることが
分かる。原口背唇部を胞胚腔に移植したことで中からもう 1
つの胚ができた。これを二次胚という。原口背唇部は細胞を
色々な器官に誘導するが,自身は主に脊索となる。脊索は発
生の過程では胚を支えるという重要な役割を果たすが,次第
に脊椎骨などが形成されるとそのうち退化し,骨格の一部と
なる。また,骨格の本体は体節から分化する。
誘導は入試でも頻出な分野の 1 つなので慣れておくことが必要である。
b1062-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
モザイク卵と調節卵
ウニは 4 細胞期まで
イモリは灰色三日月環を含む 2 細胞期まで
調節卵となる
クシクラゲはモザイク卵
陥入は植物極側から行う
モザイク卵
卵割の動画は教材ビデオやテレビ番組などで見られ
るが,見ていると割球をバラバラにしたくなる衝動に
かられる人がいるかもしれない。あれをバラすと結構
不思議なことが起こる。
まず,クシクラゲという,クラゲに似たクラゲでな
いややこしい動物について。コイツは正常に発生した
場合,クシ板というものが 8 本できる。しかし,卵割
中の胚をバラすと 2 細胞の時は 4 本しか持たないクシ
クラゲが 2 匹,4 細胞の時は 2 本しか持たないクシクラゲが 4 匹発生する。このように正常
な個体が発生しない卵をモザイク卵という。
調 節 卵
モザイク卵の対義語が調節卵であり,割球をバラバラ
にされてもうまく調節して正常な胚を作る卵である。
●ウニ ウニはもっとすごい。2 細胞の時に割球をバラし
て育てると 2 匹,4 細胞期でバラすと 4 匹のプルテウス幼
生に育つ。しかも何かが欠けているわけではなく,若干
小さいがすべて正常である。
しかし,調節作用があるのは 4 細胞期までである。第
3 卵割,つまり 4 細胞から 8 細胞になる時,ウニは赤道面
で卵割が行われ,動物半球と植物半球側に割球が分かれ
る。陥入は植物極側から行われる。そのため,8 細胞期で
バラした場合,動物半球側の 4 個の割球は陥入が始まる
原腸胚の前である胞胚で成長がストップする。また植物
極側は陥入した後の原腸胚でストップする。
●イモリ イモリの胚は植物極側に灰色三日月環という,
半環状の暗い模様が見える。これは発生に必要な要素で
ある。両生類の胚は 2 細胞期ではっきりとした割球に分
かれないので,細い毛などで縛る。弱い縛り方にすると頭 2 つの幼生 (オタマジャクシに似
る) になるが,強めに縛ると,灰色三日月環がない割球は細胞の塊になるが,灰色三日月環
を 2 等分するように縛ると,正常な幼生が 2 匹発生する。だから調節卵である。
灰色三日月環は後に原口背唇部となり,様々な器官を誘導するため,これがなければ陥入
も起こらず,発生が進まないのである。
b2098-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
誘 導
別の細胞にはたらきかけるのが形成体
形成体の代表は原口背唇部
単独で△になるものでも
形成体によっては違うものに分化させる
器官に分化させる作用を誘導という
形 成 体
胚が発生する時,細胞どうしが互いに作用し合うことによって正常
な個体へと成長していく。しかし多くある細胞が一斉にデタラメに成
長するとわけの分からない形になってしまう。この時,リーダーとなっ
て他の細胞に指令を出すような細胞があり,これを形成体 (またはオー
ガナイザー) という。形成体はある物質を分泌することで他の細胞に
指示を出す。その物質は胚全体を拡散して広がるが,やはり形成体か
ら遠い側が物質の濃度が薄く,近い側が濃いことになる。その濃さに
よって胃に分化したり,腸に分化すると考えられる。分化というのは,
それまで何の機能もなかった細胞が器官にまで成長することである。
ある細胞が他の細胞に指示を出して分化させることを誘導という。こ
のように,生物の体はうまくできている。
眼の形成
眼は色々な部分から成り立つ。カエルで考えてみたい。まず発生におけるリーダーである
原口背唇部が比較的近い外胚葉の予定神経域にはたらきかける。そして神経管となり,その
先が脳になる。この誘導がなければ眼はもちろん,その他の器官も形成されない。
そして脳の先にくぼみができるが,これを眼杯といい,隙間は眼球が入るスペースにな
る。眼杯は後に網膜になる。網膜は脳に直結している神経性のものである。眼杯はその近く
の予定外胚葉表皮域にはたらきかけ,水晶体を誘導する。そして水晶体はその近くの表皮域
にはたらきかけ,角膜を誘導する。これで眼は完成である。
このように,誘導されて分化した器官が他の細胞にはたらきかけて次々と誘導が起こるこ
とを連鎖の誘導といい,ドミノ倒し的な感じである。だから途中に異常があると正常に分化,
発生が進まなくなる。
b2097-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
中胚葉誘導
各胚葉を別々にして培養したら
それぞれは自身の運命に従う
違う胚葉どうし接着させて培養したら
違うものに分化する
タンパク質であるアクチビンが活躍
誘 導
カエルの胚では形成体である原口背唇部が色々な細
胞にはたらきかけて自身は脊索になる。その原口背
唇部も実は別の細胞から誘導されてできる。1969 年
ニューコープが行った実験が有名である。
カエルの胞胚は外から見ると球形だが,動物半球側
は中に胞胚腔とよばれる空洞がある。その断面図が右
図である。これを動物極付近 A と植物極付近 C と,赤
道付近 B に分ける。A,B,C を単独で培養すると A
は外胚葉性の表皮に,B は中胚葉性の脊索や筋肉に,
C は内胚葉性の組織にそれぞれ分化する。
その次のステップとして,A と C をしばらく接着させる。そしてその後別々に培養する
と,A からは分化しなかった中胚葉性の脊索や筋肉ができた。これが中胚葉誘導である。
ここから得られる結論は,初めから中胚葉が脊索や筋肉に分化するのではなく,胞胚期に
C の部分に接着することによって中胚葉への誘導がなされるのである。形成体である原口背
唇部も実は C 部分からの誘導によって出来上がる。
アクチビン
誘導は形成体から分泌される化学物質によるものである。
そこで中胚葉を誘導する物質の 1 つとしてタンパク質のア
クチビンが分かっている。両生類の中胚葉誘導の物質とい
えばアクチビンと覚えてもらいたい。
アクチビンがある部位から分泌され,胚の中を拡散する。
しかし分泌部位に近い所ではアクチビン濃度が高く,遠い
所では薄い。この濃度に応じて分化する器官が違う。
それを調べた実験がこれである。カエルの胞胚の予定外
胚葉域にあたる A(アニマルキャップともよぶ) を様々なア
クチビン濃度の培養液中で培養する。そうするといずれも
中胚葉性の器官 (心臓,血管,脊索,骨,筋肉,腎臓など)
に分化したが,アクチビンの濃度によって分化した器官が異なっていた。似たような実験の
問題がよく出されるので,この実験の概要は覚えておいてもらいたい。
アクチビンは両生類の中胚葉誘導でよく出てくるが,哺乳類や鳥類ではアクチビンではな
いことに注意してもらいたい。他の物質であるが覚えなくても大丈夫である。
b2099-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 生物■
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