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想像を広げて読むための言語活動の取組

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想像を広げて読むための言語活動の取組
想像を広げて読むための言語活動の取組
―音読に重点を置いた1年国語科「くじらぐも」の実践―
富山市立萩浦小学校
教諭 川端 智子
目
次
1
研究主題
・・・・・・・1
2
研究主題設定の理由
・・・・・・・1
3
研究の仮説
・・・・・・・2
4
実践の内容と考察
(1) 仮説1に基づく実践と考察
・・・・・・・2
(2) 仮説2に基づく実践と考察
・・・・・・・5
5
研究のまとめ
(1) 解明されたこと
・・・・・・・10
(2) 今後の課題
・・・・・・・10
6
おわりに
・・・・・・・11
1
研究主題
想像を広げて読むための言語活動の取組
~音読に重点を置いた1 年国語科「くじらぐも」の実践~
2
研究主題設定の理由
学習指導要領の「C読むこと」の指導事項に、低学年は、
「ウ場面の様子について、登場
人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと」と示されている。そこで、この指導事項
に基づいて物語を指導する際に、どのような言語活動を行えば、1年生の子どもたちが、
想像を広げて読むことができるのか考えてみることにした。
1年生は、読み聞かせをすると、読み方のちょっとした抑揚や声色で、豊かに様子を想
像して、それぞれの感性でお話の世界を楽しんでいる。子どもたちの様子から、読み方一
つで、話の内容の理解を助け、想像をかき立てていることがうかがえた。このような1年
生の姿から、
「ア音読に関する指導事項」に示されている音読の働き「自分が理解している
かどうかを確かめたり深めたりする働き」
「他の児童が理解するのを助ける働き」を生かし
た指導をしたいと考えた。そして、子どもたちが、自分自身でいろいろな読み方を試しな
がら音読することを通して、読み聞かせで味わっていたように音声で想像を広げて楽しむ
感覚を味わえるのではないかと考えた。時には身体表現も取り入れて自分なりの読み方で
音読をして、自分や友達の音読を自分の耳で聞けば、物語の内容の理解を深めることがで
き、想像を広げて読む楽しさにも出合うことができるのではないだろうか。さらに、一人
一人が自分の音読の仕方を書いて考えることは、物語の叙述にじっくりと向き合いながら、
場面を読み進めることにもつながると考えた。
また、本学級の子どもたちは、まだ語彙が少なく、文章による表現能力も個によって差
がある。自分の思いを十分に表現できない子どもに、
「子どもたちやくじらぐもの気持ちを
話し合おう」といった学習課題を与えても、物語について話そうとする意欲が高まるとは
思えない。そこで、それぞれの子どもが一人学習で積み重ねてきた音読や「自分なりの読
み方」を基にして話合いをすれば、語彙や言葉での表現能力だけに左右されずに、話し手
の思いが聞き手に伝わるのではないかと考えた。聞き手は、友達の音読やその読み方の工
夫を聞くことにより、自分の読み方との違いに気付く。そして、
「どうしてそんな読み方を
するのか」と疑問を感じ、その根拠を知りたくなる。それが、読み方の工夫やそのように
工夫する根拠(登場人物の心情など)を話し合いたいという意欲へとつながり、交流の場
を生む。話合いによって、一人学習で培われた読みに友達から得られた新しい視点が加わ
り、更に「想像を広げながら読むこと」ができると考える。
このように、「くじらぐも」の学習において、音読に重点を置いて、「どんな読み方をし
たいのか」書く言語活動とそれを基に話し合う言語活動とに取り組むことによって、想像
を広げて物語を読む子どもの育成を目指し、本研究主題を設定した。
【資料1「くじらぐも」の本文」】【〈資料2「くじらぐも」の全体計画」】
-1-
3
研究の
研究 の仮説
仮説1
どんなふうに音読したいのかを書く活動を取り入れたり、自分なりの読み方を工夫して
音読したりする一人学習を積み重ねることで、一人一人が叙述にじっくり向き合いなが
ら、物語の場面の様子について想像を広げて読み味わうことにつながる。
仮説2
一人学習を踏まえて、子どもたちの実態に合った手立てを取り入れ、自分なりの読み方
の工夫を話題に話合いを進めることで、それぞれの読み方から自分や友達の考えに目を向
け、豊かに場面の様子を想像することにつながる。
4
実践の内容と考察
実践の内容 と考察
(1)
①
仮説1に基づく実践と考察
自分なりの読み
自分なりの読み方
読み 方をつくっていくための一人学習
をつくっていくための 一人学習
この単元で、自分なりの読み方の工夫を一人一人がじっくりと考えていけるように、
一人学習の時間を次のような2つの活動に充てた。2つの活動とは、「ワークシートに
書き込む活動」と「ビデオによる自分の音読の確かめ」である(表1)。本単元の導入
時に、自分なりの読み方を音読で表現したいという意欲を高めるために、全員の共通体
験として、朗読家の鈴木氏による「くじらぐも」の朗読を聴く機会を設けた。
【資料3
鈴木氏による朗読の様子】
表1「一人学習の内容及び個別の支援」
一人学習の内容
一人学習の 内容
1
2
個別の支援
読み方の工
夫が書けない
〇ワークシートの中を3つに区切って、以下の内容を書き込めるように
場合→吹き出
した。【資料4 一場面から五場面のワークシート】
しに書いた言
・教科書の挿絵の吹き出し…登場人物の気持ちや言葉を想像して書く。 葉 を 基 に 、 本
人の思いに沿
・本文…本文の間の空欄に、その文や言葉の読み方を書く。
ったアドバイ
(例 大きく、小さく、ゆっくり、元気に、悲しそうに等)
スを行った。
・本文下のスペース…読み方をそのように工夫した理由を書く。
自分なりに工夫した
ビデオ撮り
自分なり に工夫した音読
に工夫した音読を
音読を ビデオで確認する
ビデオ で確認する活動
で確認する活動
〇ワークシートに書き込んだ読み方で、音読をビデオ撮りする。
に抵抗がある
場合→一人学
〈やり方〉
習の時間に、
・読み方を十分練習してから希望者はビデオ撮りできる。
友達に音読を
・書き込みをしたワークシートの中で、読みたい部分を自分で決めて読
聞いてもらっ
む。
・ビデオ撮りの順番待ちの間は、互いのビデオ撮りの様子を見てもよい。 て も よ い こ と
にした。
・ビデオ撮りをして、自分の読み方に納得できなかった場合、再度チャ
読み方
読み方の工夫を考えるための
の工夫を考えるためのワークシート
を考えるためのワークシートを
ワークシートを書く活動
レンジできる。(※課外)
-2-
②
書く活動を通して、
書く活動を通して 、 自分なりの読み方の工夫と
自分なりの読み方の工夫とその
の工夫とその根拠
その 根拠を考えていくことで
根拠 を考えていくことで、
を考えていくことで 、 場
面の様子を読み味わっていった
面の様子を読み味わっていったA
わっていったA 児
A児は、場面に合った声の調子で読むことが得意で、1学期から、堂々と音読して
いた。「おおきなかぶ」の学習では、おじいさんの「うんとこしょ。」の言葉を、まさ
にかぶを引っ張っているかのように読むなど、声の調子を豊かに変えた音読で、友達
を惹きつけ、賞賛されることが多かった。
本単元の一場面における読み方やそう読む理由をワークシートに書く活動を進め
ると、A児は、さっそく、いかに声の調子を変えて読めば場面の様子が伝わるかという
ことを本文の言葉に着目して、次のようにワークシートに書き込んでいた。
A児のくじらぐもに出会う場面(一
A児のくじらぐもに出会う場面( 一場面)の書き込みの一部
〇「一、二、三、四。」・・・体操をしているように。
→体操しているみたいにしたら、本当に体操をしているみたいだから。
〇「とまれ」・「くじらもとまりました。」・・・きつく
→きつくすると、本当に止まったように見えるから。
【資料5 A児のくじらぐもに出会う場面(一場面)のワークシート】
A児の上記の書き込みを見ると、確かに場面の状況を表す読み方となっているが、く
じらが喜んで子どもたちの真似をしている楽しさには気付いていない。これでは、一見
上手そうに聞こえるA児の音読に、登場人物の気持ちまでは表れないと思われた。そこ
で、言葉を一般的な意味合いでしか捉えられず、物語独特の場面状況を踏まえて捉えら
れないA児のような子どもたちに、二場面以降の書く活動では次のような手立てをとっ
た。
・
誰が話している会話文かを確認し、話している時の気持ちも考えて書くよう促す。
・ 会話文では、身振り手振りなどの身体表現も入れて、音読の仕方を考えてもよいこ
とを伝える。
三場面の話合いの前に書いたA児のワークシートを見ると、読み方を考える時に、登
場人物の気持ちを想像して、読み方にその気持ちを込めることができるようになってい
た。
A児のくじらぐもに跳び乗る場面(三場面)の書き込みの一部
〇「天までとどけ、一、二、三。」(1回目)・・・はっきり
→はっきり言うと、子どもたちが元気になるから。
〇「天までとどけ、一、二、三。」(2回目)・・・はやく
→速く言うと、子どもたちが、はやく乗りたい気持ちがするから。
〇「天までとどけ、一、二、三。」(3回目)・・・たのしく
→子どもたちが、楽しいメーターがすごく上がるし、くじらが楽しくなるから。
【資料6
A児のくじらぐもに跳び乗る場面(三場面)のワークシート】
三場面の話合いにおいて、A児は、自分の思いを具体的に語れるほど、登場人物の
気持ちや様子を想像できるようになっていた。そして、ワークシートで深めていった考
えを黒板に示しながら発言した。
-3-
A児:(3回目の)「天までとどけ、一、二、三。」を
楽しく言うと、(略)前に言った楽しいメータ
ーが、上がっていく。(黒板に自分で感情曲線
のような線を書きながら説明。)
M児:そしたら、楽しさは30センチの時はここらへ
んで、50センチの時はここらへんになると思
う。(説明しながらメーターの続きを書く。)
〈A児が発言している様子〉
A児が、独自に考えた「楽しいメーター」を線で描いて、子どもたちの楽しい気持ち
を表現したことで、この後に続いて発言したM児など他の子どもも、楽しさを線で表し
ながら話した。楽しさを線で表すことで、読み方の工夫だけでなく、登場人物の気持ち
も語ることができた。
このように、「ワークシートを書く活動」と「自分の読み方を伝える話合い活動」を
繰り返し行うにつれ、子どもたちは、一人学習で書き込む内容に本文とのつながりや、
会話文に登場人物の気持ちを加えることができるようになった。
子どもたちは、会話文において話している人物自身の嬉しい気持ちや残念な気持ちを
読み取ることができるようになったが、さらに、二者の会話には相手を思う気持ちも含
まれていることまで気付かせたいと考えた。そこで、五場面の書く活動では、次のよう
な手立てをとった。
・
会話文では、自分の気持ちだけではなく、相手のことをどう思って話しているかも
書くことを促す。
・ 四場面の話合いの板書を掲示して、空の旅が子どもたちにとってもくじらぐもにと
っても楽しかったことを想起させた後、書く活動を行った。
【資料7
四場面の話合い活動の板書を掲示したもの】
次は、上記の指導を行った後のA児の五場面の書き込みである。
A児のくじらぐもと
と別れる場面(五場面)の書き込みの一部
A児のくじらぐも
別れる 場面(五場面)の書き込みの一部
○「では、かえろう。」・・・元気に
→元気に言うと、15番目(15行後)の「げんき」がもっと元気に見えるから。
〇子どもの「さようなら。」・・・うれしく
→うれしく言うと、くじらぐもに乗せてくれた気持ちだから。
〇くじらぐもの「さようなら。」・・・大きく
→大きく言うと絶対忘れないと思うから。
【資料8 A児のくじらぐもと別れる場面(五場面)のワークシート】
この書き込みを見ると、子どもの「さようなら。」には、自分たちの嬉しさだけでは
なく、くじらぐもへの感謝の気持ちも込められていること、くじらぐもの「さようなら。」
には、君たちのことを忘れないよという感謝の気持ちが込められていることに気付いて
いると思われる。
このように、一人学習における書く活動では、ただ繰り返し書く活動を行えば、場面
の様子を読み深めていけるのではなく、子どもたち一人一人の書き込みを分析し、実態
を的確に把握した上で、スモールステップの手立てを講じていく必要があることが分か
った。
-4-
③ ビデオ撮りによって音読への
ビデオ撮りによって音読への意欲を高め、想像を広げながら読んだ
への意欲を高め、想像を広げながら読んだO
意欲を高め、想像を広げながら読んだO児
一人学習の2つ目の活動として、希望する子どもに自分の音読をビデオで撮り、読み
方を確かめる場を設けた。実際に何度も、ビデオに撮って自分の声を聞き、読む様子を
目で見ているうちに、「大きく」「ゆっくり」「間を空けて」等、自分で決めた読み方
が本当にそれらしく聞こえるかを意識する子どもの姿が増えてきた。くじらぐもと子ど
もたちとの出会いの場面(一場面)から、ビデオ撮りを重ねるにつれて、読み方の工夫
を明確に音読で表現しようとするとともに、聞く人にもそれがはっきりと伝わる読み方
を意識するようになった。
また、ビデオ撮りを繰り返すうちに「楽しく」「元気に」「さびしそうに」といっ
た気持ちが表れるような音読にしたいと願うようになってきた。そこで、声の調子を変
えたり、体を動かすなどの身体表現を取り入れたりするよう助言した。
O児は、自分の音読を堂々と発表したり、自分の考えを学習場面で話したりすること
がほとんどない子どもであった。そのO児が、ビデオ撮りに魅力を感じ、音読で表現で
きる機会を楽しみに、読み方の工夫を考え、次第に物語と向き合うようになった。ビデ
オ撮りに参加しようと、ワークシートによる書く活動にも進んで取り組んでいた。更に
友達のビデオ撮りの様子を見学することで、友達の読み方のよいところ学び、それを生
かした読み方を練習したり、そう読む根拠を考えたりして、次第にO児の主体的な学び
のスタイルが確立していった。
O児は、自分の音読に自信をもつことができると、
話合いでも、意見を言うことができるようになっ
てきた。このようなO児の学習に対する姿から、
ビデオ撮りを一人学習の手立てとして取り入れ
ることは、読み方を考える意欲を高め、想像を広
げながら音読することに有効だったと言える。
〈ビデオ撮りをしているO児〉
(2) 仮説2に基づく実践と考察
①
読み方
読み方の工夫を話題にした話合い活動の概要
物語の場面を5つに分け、一人学習と話合いを交互に行いながら学習を進めた。
自分なりの読み方を工夫し、音読で表現していく一人学習が、話合いに生かされるよ
うに、話合い活動(1時間)の流れを以下のようにした(表2)。子どもたちが読み方の
工夫を語りながら、場面の様子の想像を広げられるようにするために、「導入」「展開」
「終末」のそれぞれの場面で手立てをとることにした。
-5-
表2「話合い活動の1時間の流れ及び手立て」
◇手立て(その手立てを行った場面)
1学習課題の提示
◇毎回の学習課題を同じ課題で貫く。(1~5 場面)
導
◇学習課題を「~のところ(場面)をどんなふうに読みたいか
入
な」として進めた。(1~5 場面)
2音読タイム
◇自分の読み方で音読する。
(一人学習で考えていた読み方の工夫を一人一人が確認する
(導入後)
時間にする。)
3全体での話合い
◇発言者の音読の工夫を聞き、全員で真似てみる。(1~5 場面)
◇どうしてそのような音読の工夫をしたのか理由を語らせるよ
展
うにする。(1~5 場面)
開
◇全員で登場人物の動きを動作化する。(1~3 場面)
◇友達の音読をビデオで見る。(事前に撮影したもの)(3 場面)
◇叙述の内容を確かめるための全員で音読する。(1,2,4,5 場面)
◇ペアでの話合いを設ける。(4~5 場面)
終末
4ミニ音読タイム
◇自分の読み方で音読する。(1~5 場面)
(一人学習で考えていた読み方と変えたい部分があれば、変
えてよいことにする。)
②
読み方を真似
読み方 を真似て音読してみること
を真似 て音読してみることや
て音読してみること や その工夫の根拠を聞くことで様々な視点から意
その 工夫の根拠を聞くことで様々な視点から意
見が交流できた話合い活動
見が交流できた 話合い活動
話合いでは、一人一人が、一人学習で積み重ねてきた「自分なりの読み方」を基にす
るため、発言者の読み方をよく聞いて、真似て読んでみるという方法を取り入れ、発言
者の思いを感じられるようにしたいと考えた。話合いを始めたばかりの頃は、子どもた
ちの表現力が伴わず、読みたいと思う読み方ができないことがあった。また、表現する
ことを恥ずかしがるため、聞き手に読み方の工夫が伝わらず、真似るに至らないことも
あった。そのため、子どもたちは、例えば「楽しそうに」という気持ちで読んだ音読を
聞いても、共感することができず、話合いが深まらなかった。
【資料9
一場面の話合い】
しかし、仮説1でも述べたように、自分の音読のビデオ撮りを契機に、音読に対する
意欲が高まり、音読の表現力が伸びてきた。読み方の工夫を音読に上手く表現したり、
それを全員で真似たりすることができるようになると、次第に話合いの質が高まってき
た。友達の音読の仕方を真似してみることで、感覚的に友達の読み取ったことを理解す
ることができる。
また、話合いを重ねる中で、自分の読み方を伝える時は、一文または一文のある言葉
に限定して話をさせることにした。発言者が最も工夫して読みたい部分を焦点化するこ
-6-
とで、聞き手が理解しやすく、自分の考えとの違いも感じ取りやすいと考えたからであ
る。
くじらぐもと子どもたちの別れの場面(五場面)でも、表2に示した流れで話合いを
行った。子どもたちは、友達の音読から、自分の読み方と比べ、思いの違いに目を向け
たり、読み方に込めた友達の思いを更に聞こうとしたりしていた。その話合いの一部を
次に記載する。【資料 10
本時の指導案(五場面)】
【くじらぐもと別れる場面の話合いより】
O児 :子どもの「さようなら。」を元気いっぱい読みたい。
T
:言ってみて。
O児 :(元気に)「さようなら。」
※以下、同じように工夫した読み方を聞い
全員 :「さようなら。」
て、全員で真似る。
C
:賛成!
C
:反対。
O児 :後から、楽しくなって元気になったから。
MS児:Oさんの(読み方を)を少しかえて、みんなに聞こえるように、ゆっくり言
う。※
MY児:MSさんの(読み方を)を少し変えて、ゆっくりは一緒だけど、悲しく言う。
※
T
:元気と反対だね。
C:読み方、一緒だ。
MY児:だって、もう少し遊びたかったのに、もうお昼で帰らんなんから。※
F児
:私は、悲しく聞こえるように、小さく読むんだけど、子どもはもっとくじら
と遊びたかったから、小さい声で読もうと思った。※
C
:違うよ。悲しく読んじゃだめだと思う。
―(略)―
MI児:子どものさようならが元気じゃないと、くじらが大丈夫かなと思っちゃう。
A児
:MIさんと同じで元気に読みたい。また、くじらに会えるかもしれないから。
S児
:悲しく読むと、
「また、
『げんきよく』~かえっていきました」
(本文)の意味
がなくなる。
ここでは、O児が子どもの「さようなら。」という一言の読み方を話し始めたことを
きっかけに、くじらぐもに向かって、子どもたちがどんなふうに「さようなら。」と言
ったのかを考え合った。
「元気に(読むこと)は同じだけど、…ゆっくりを加えたい。」
「ゆっくりは同じだけど、元気じゃくなくて、悲しい」等、子どもたちの発言からは、
友達と自分との違いを意識して明確に思いを伝えようとする姿や、こだわりをもって
理由を話す姿が見られた。
S児の発言は、本文の最後の一文を根拠に自分の読み方の工夫について語っている。
「どう読みたいか」という自分の思いを友達に伝えたいという気持ちが、物語の叙述
に着目して考えを深めることにつながっている。
話し合われているのは、登場人物の子どもたちの「さようなら。」という短い言葉
-7-
であるが、その読み方の根拠に、自分自身を登場人物と重ね合わせている発言、子ど
もの「さようなら。」を聞いた時のくじらぐもの気持ちを想像している発言、前の場面
とのつながりを考えている発言などがあり、子どもの豊かな考えが交流できた。
③
ペアや全体での話合いを通して、様々な視点の意見や読み方を聞き、考えを練り上
ペアや全体での話合いを通して、様々な視点の意見や読み方を聞き、考えを練り上
げていったB児
B児は、一人学習でお話の世界に自分自身を重ね合わせて、くじらぐもや子どもた
ちの気持ちを想像しながら読み進めていった子どもである。くじらぐもと子どもたち
が別れる場面で、くじらぐもの「さようなら。」について、次のようにワークシートに
書き込んでいた。
〇くじらぐもの「さようなら。」・・・小さく
→くじらも、もっともっと乗りたかった(乗っていてほしかった)から。
【資料 11 B児のくじらぐもと別れる場面(五場面)のワークシート】
この場面の一人学習を経て行った話合いで、くじらぐもの「さようなら。」は元気い
っぱい読むという読み方について話題になっていたが、B児は、反対意見として書き
込み通り「小さく読む」という発言をした。
ところが、S児が、
「くじらのくもは、また、げんきよく、あおい空のなかへ~」と
書いてある叙述に着目して、
「やっぱり元気一杯に読んだ方がよい」と発言すると、B
児のように別れがつらいから「小さい声」で読むと言っていた子どもたちが、本当に
そんな読み方でよいのだろうかと迷い始めた。
そこで、全体の話合いの途中に、ペアでの話合いを設けることにした。
〈「くじらぐもの『さようなら。』をどう読むか」についてB児とK児の話合い〉
B児 :くじらぐもはやっぱり、疲れちゃったから、小さな声で言ったんじゃない?K
君はどう思う?
K児 :普通の声で元気に言ったと思うな。だって、その方が子どもたちも元気になる
と思うから。
B児 :そうか…。小さな声は、なんか違うような気もしてきたな。
考えをまとめられるだけの時間ではなかったが、ペアでの話合いを行ったことで、友
達の発言に揺さぶられ、納得いく考えを作り上げようとしている様子がうかがええた。
ペアによる話合いを終了して、3人の子どもが発言を終えたところで、B児は、次の
ように、前回の発言とは異なった考えを話した。
B児:私は、元気に読むことにしました。わけは、
(くじらぐもは子どもたちのことを)
いつも空からずっと見ていられて、空に地図はないけど、空は高くて、元気な
子どもたちが見えたら、くじらぐもは気付いて、すぐ来られるかもしれないか
ら。
一人学習の段階では、もっともっと子どもたちと空の旅をしながら遊びたかったのに
お別れしなくてはならない寂しさから「小さく読む」とよいと感じていたB児が、元気
-8-
に読みたいと発言している。B児は、S児の発言をきっかけに、くじらぐもが元気に帰
っていったという叙述を基に、元気に帰ることができた理由をくじらぐものお話の世界
に身を投じて、考え直したのである。
B児が、一人学習では思いつかなかった考えに変容していったのは、全体の話合いや
ペアでの話合いによって、本文を基にした根
拠や前の場面とつないだ根拠など、いろいろ
な視点を得ることができたからに他ならな
いと考える。また、子どもが迷ったり、意見
が対立したりした時に、ペアによる話合いの
時間を設けることは、子どもたちに立ち止ま
って考えをまとめたり深めたりするための
有効な支援になることが分かった。
④
〈ペアで話し合うB児とK児〉
全体の話合いで広がった想像を終末に
全体の話合いで広がった想像を終末に音読することで、
終末に音読することで、友達の読み方のよさや
音読することで、友達の読み方のよさや自分
友達の読み方のよさや 自分
の読み方の変容を感じることができたミニ音読タイム
の読み方の変容を感じることができたミニ音読タイム
1時間の話合い活動の終末に、毎回、ミニ音読タイムを設けて、それぞれの読み
方で音読する時間を設けた。全体での話合いで想像が広がったことを基に、1時間
の終わりに自分なりの読み方を再び工夫して音読することが、子どもたちの思考の
流れに沿った意味のある振り返りになるだろうと考えたからである。
話合いの回数を重ねていくうちに、一人一人の発言の中に読み方の根拠にこだわ
りが見られるようになったことや、音読する時に読み方の表現力が高まったことで、
ミニ音読タイムにも変化が表れてきた。子どもたちが、生き生きと音読を楽しみな
がらするだけでなく、先に述べたB児のように友達の考えを聞いて、読み方を変え
たことも伝えるようになってきた。
「くじらぐもと別れる場面(5回目の話合い)」の後に書いた感想にも、友達の読
み方のよさや自分の読み方の変容に気付いていることが分かった。
【資料 12
くじらぐもと別れる場面を話し合った後に書いた感想】
感想の内容を見ると、子どもたちが最も関心を寄せたのは、友達の読み方のよさ
であった。全員で真似た発言者の読み方について、「~な感じが伝わってくる読み
方だった。」「とても上手な読み方だった。」「私も~さんみたいな読み方がしたいと
思った。」などと書いていた。子どもたち同士で、読み方に対する表現力を認め合
い、読み方に対するこだわりを強めたり、豊かな表現力のある読み方に憧れを抱き
合ったりしている。
-9-
これらのことから、読み方を話題にした話合いから得られた学びを、毎時間の終
末に、ミニ音読タイムで表現してみることは、自分の深まった読みを振り返ること
ができるとともに、次の学習への意欲
につながったと考える。
このようにして、子どもたちの実態
に合った手立てを取り入れ、自分なり
の読み方の工夫を話題に話合いを進
めることで、それぞれの読み方から自
分や友達の考えに目を向け、豊かに場
面の様子を想像することにつながっ
たと考える。
5
〈ミニ音読タイムの様子〉
研究のまとめ
( 1) 解明されたこと
〈仮説1について〉
・
自分なりの読み方を考え、音読で表現していくために、書く活動として、どう読
むか、どうしてそう読みたいかを書き込む一人学習を行うことで、一人一人が叙述
を基に思いを膨らませながら、物語の場面の様子について想像を広げて読み味わう
ことにつながる。
・ 一人学習における書く活動では、ただ繰り返し書く活動を行えば、場面の様子を読
み深めていけるのではなく、子どもたち一人一人の書き込みを分析し、実態を的確
に把握した上で、適切な助言したり、前時の学習内容を確認したりするなどの手立
てを講じていくことが想像を広げて読み味わうことにつながる。
・
一人学習で、ビデオ撮りをして、客観的に自分の読み方を視聴して読み方を確か
めていく方法をとることで、音読する意欲を高め、想像を広げながら叙述を読んで
いくことができる。
〈仮説2について〉
・
発言者の音読を真似、読み方を工夫した箇所について、どうしてそのように読む
のか根拠を聞きながら話合いを進めることは、子どもたちが様々な視点から根拠を
挙げて発言することにつながる。
・
話合いの中で、ペアでの話合いや全体での話合いを適切な場面で取り入れる等、
学習形態を工夫することで、子どもたちは、友達と自分の考えを比べながら、より
よい音読の仕方を考え、互いに思いや考えを練り上げることができる。
・
友達の読み方を聞いては真似ることで、読み方にこだわり、表現することの楽し
- 10 -
さを味わい、より納得のいく読み方やその根拠を考えて物語を読み進めることがで
きる。
( 2) 今後の課題
今後の課題
・
一人学習の時、ビデオ撮りは、一人一人の音読の表現力や読み方に対する自信をつ
けるために有効な方法になったが、希望者だけを対象にしたものだった。すべての子
どもたちが、読む活動も十分満足に行い、読み方に対するこだわりや自信を持って、
話合いに臨めるよう、一人学習の時間の使い方や手立てを更に考えていきたい。
・
今回の実践では、初めて読み方を話題に話合いを行ったこともあり、子どもたちの
反応を見ながら、話合いの際の手立てを変えながら学習を進めた。そのため、話合い
のスタイルが定まるのが遅くなり、話合いが十分に行えたとは言えない。今後は、話
合いの際に有効だった手立てを、単元の初めの話合いから取り入れて、安定した話合
いの流れができるようにしていきたい。
6
おわりに
11月下旬、校内読書旬間に「読書」についての全校集会が行われた。その中で「く
じらぐも」の音読を発表する機会があった。発表する機会が与えられたのはクラスの中
で2名だけだったが、それぞれが、同じ文章でも、自分なりの読み方を最後まで貫き、
静かな体育館で読み上げた。
「音読することに重点を置く」と決めて行った今回の実践の出発点は、入学したばか
りの子どもたちが読み聞かせを聞いている時に見せる表情だった。話を聞く真剣なまな
ざしから、物語の世界に浸りきっていることが分かる。友達の音読を聞くときも、互い
にこんな表情で聞いてくれるとどんなに素敵だろうと思えた。
課題も残った実践だが、読み方を自分で決め、その読み方をみんなの前で紹介したと
いう経験を糧に、自分らしい考え、自分ら
しい表現をこれからも大切につくり上げて
いってほしい。そして、想像を広げて物語
を読む楽しさを味わえる子どもになってほ
しいと願い、これからも研鑽を積んでいき
たい。
〈全校集会で「くじらぐも」を音読する子ども〉
- 11 -
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