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熊野沖付加プリズムの海底ー掘削孔総合水理観測
熊野沖付加プリズムの海底−掘削孔総合水理観測 ○芦 寿一郎・辻 健・藤内智士(東大海洋研) ,坂口有人・布浦拓郎・井町寛之(海洋研究開発機構) , Kevin Brown(スクリップス海洋研) ,土岐知弘(琉球大理) ,橋本善孝・柴田伊廣(高知大理) , 森田澄人・後藤秀作(産業技術総合研究所) ,清川昌一(九大理) ,溝田あゆみ(日本海洋事業) 本航海 YK0603 は,熊野沖の四国海盆,付加プリズムさらに熊野トラフの地下流体移動の流路・供 給源・時間変動を海底面での試料採取・長期観測によって明らかにすることを目的とした.流体移動 経路の把握は,岩石の力学強度に大きな影響を与える「付加プリズム・海盆内の流体圧」を知る手が かりとなる.また,流体組成や湧水量の時間変動は付加プリズム内の応力状態の指標である.2007 年 度には,熊野沖において IODP 深海掘削が予定されており,本研究による海底面での情報を統合するこ とにより,地層内流体移動の3次元情報を得ることができる.調査は, 「しんかい 6500」を用いた海底 観察,岩石・堆積物試料採取,湧水量計の設置,時系列採水装置による現場採水,海底ガンマ線測定, 長期温度計測装置の設置回収,海水温度計の回収,とシービームによる海底地形調査を行なった. 調査地点としては1)樫野崎海丘,2)付加プリズム先端,3)巨大分岐断層,4)熊野トラフ泥 火山,に大きく分けられる. 1)樫野崎海丘:地震探査断面と同じく北に緩く傾斜した砂岩シルト岩互層の露頭が認められた(第 940 潜航) .岩石試料は上位から下位へ固結度の増加が確認できた.冷湧水の兆候は認められなかった. 2)付加プリズム先端:過去 2 回の潜航が行われているが,いずれも固結したシルト岩の露頭を視認 し化学合成生物群集は確認していない(芦ほか,2002 など) .しかし,同じ断層でも湧水活動は場所に よって異なることが多いため,新たな地点において潜航調査を実施した(第 943 潜航) .結果は明瞭な 変形構造は認められず,侵食を示す構造が多数見られた.また,先の潜航と同じく冷湧水の存在を示 すものは全く認められない. 3)巨大分岐断層:分岐断層は浅部でさらに分岐し,海底面には複数の断層崖が認められる.北側の 断層崖では,これまでの多数の潜航調査においてバクテリアマットが発見されている.一方,南側の 断層崖ではこれまでに深海曳航ビデオカメラが2測線, 「かいこう」による調査が1測線行われている が冷湧水の報告はない.今回の潜航調査(第 942 潜航)では,断層崖の崖錐堆積物上に多数の貝によ る這い跡が観察され,その端にシロウリガイが存在する点も複数みられた.北側の断層崖では, これまでに発見されていたバクテリアマット域で,通常型の湧水量計(CATmeter)を3台,ガス採取 器・水圧計・海底流速計付きの CATmeter を1台を設置した(第 944, 948, 949 潜航) .観測は約 1 年 間実施する.海底観察では,以前に比べより広範囲に広がるバクテリアマットが見られ,バライトチ ムニーが初めて認められた.湧水の化学組成を調べるため,時系列採水装置をバクテリアマット域に 設置し,海底直上水の採取を 2 地点で行なった.また,YK0303 において海底に設置した LTMS(長期 温度計測装置)および海水温度計の回収を行なった. 4)熊野トラフ泥火山:熊野トラフには多数の泥火山が発達する.本航海では,第 3,第 5 および,第 5 熊野海丘の南方に存在する小海丘の3ヶ所で調査を行なった.第5熊野海丘は,複数回の泥質物質の 噴出によって形成されたとみられる表層微細地形がサイドスキャンソナーによって取得されている. 第 941 潜航では,それぞれに対応するマウンド状構造・陥没地形などの地質構造,礫の密集状況の詳 細が明らかになった.また,炭酸塩クラスト・チムニーの試料採取を行なった.第3熊野海丘の第 945 潜航では,一部シロウリガイの分布があるものの,第5熊野海丘に比べて化学合成生物群集の活動は 低いことが確認された.第 5 熊野海丘南方の小海丘は,直径が約 1km で比高 40m である.第 946 潜航 により,頂上部は半遠洋性の泥で覆われているものの,その周辺には炭酸塩クラストが広く分布し, さらに縁辺部にはバクテリアによる変色域の発達が確認された.第 947 潜航では,バクテリアマット 分布域において,LTMS(長期温度計測装置)および CATmeter 各 1 台の設置を行なった. 本研究は,巨大分岐断層の海底面への出口において湧水観測を行い,付加プリズム内からの流体排 出・化学組成の時間変動の解明を目指す.南海トラフ付加プリズムでは,超低周波地震の発生が報告 されており(Ito and Obara, 2006) ,プリズム内の変形・流体移動に関係する可能性がある. 流体の排出経路については,樫野崎海丘および付加プリズム先端での潜航により,いずれも冷湧水 の兆候は認められなかった.樫野崎海丘での潜航は1回であり調査は不十分であるが,付加プリズム からの流体移動が海丘までは達していない可能性が高い.一方,分岐断層による南側(海側)の断層 崖に沿って生きた二枚貝が認められることから,崖錐堆積物中で地下からの流体は分散しているもの の,流体湧出の可能性が強く示唆された. 熊野トラフの泥火山では,これまで調査された第3,第5熊野海丘に加え,南側の比高 40m の小海 丘で潜航調査を行い,活発な湧水活動を確認した.頂上部は半遠洋性の泥で覆われていることから, 泥ダイアピルが海底面をやや押し上げて出来た構造(初生泥火山)であると解釈される. 図1 熊野沖沈み込み帯の湧水経路模式図と潜水地点.熊野トラフ泥火山は除く. 文献: Ito, Y. and Obara, K.(2006) Very low frequency earthquakes within accretionary prisms are very low stressdrop earthquakes, Geophys. Res. Lett., Vol. 33, No. 9, L09302, 10.1029/2006GL025883. 芦 寿一郎ほか 12 名 (2002) 熊野沖南海トラフ付加プリズムの地質構造と冷湧水 -YK01-04 Leg 2 熊野沖調査概要,深海研究, 20, 1-8.