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2003・2004年度短期経済予測(2003. 11)
2.0 (%) 2002年度 2003年度 1.5 2004年度 予測 1.0 0.5 0.0 −0.5 4∼6月期 4∼6月期 4∼6月期 −1.0 民間需要 公的需要 海外需要 実質GDP 実質GDPの推移 2003・2004年度短期経済予測(2003. 11) ■ ■ ■ ● 景気は持ち直すも、本格回復に至らず 懸念材料は円高持続と一層の長期金利上昇 電中研予測の特徴は消費不振、円安、デフレ収束 ひとこと 経済社会研究所 上席研究員 門多 治 景気は持ち直すも本格回復に至らず 政府は11月の月例経済報告で景気持ち直しを宣言し、先行きについても楽観論が拡がってき ています。円高進行、不安定な株価などの不安要因は残っていますが、来年の景気は本格回復 が見込めるのでしょうか。 今回の電中研ニュースでは2003年7∼9月期GDP速報などの経済情報を織り込み、精度の高 さで定評のある当研究所所有の「電中研短期マクロ経済モデル」を用いて実施した2004年度ま での短期経済予測とシミュレーション結果を他の予測機関との比較も交えながら紹介します。 (詳細な予測結果については http://criepi.denken.or.jp/jpn/ 11/20記者発表資料より入手 可能です。 ) ■ 企業部門の好調続く 11月中旬に内閣府より公表された2003年7∼ 9月期のGDP速報では、設備投資を中心とする 国内需要が堅調であったことから、実質GDPは 前期比0.6%増(前年比2.5%増)と7四半期連続の 増加となりました。これを受けて政府は11月の 月例経済報告で「景気持ち直し」宣言を行ない ました。月次景気指標を見ても、鉱工業生産指 数は9、10月と堅調で、冷夏による夏の低調も取 り戻し、所得面での下げ止まりの兆しも出てき ています。しかし、電力需要は一時の勢いが無 くなっており、また、直近の円高など、景気回 復持続に不安も残ります。 2.7%成長と、前年度の1.6%より高めであるが、 2004年度には1.8%に減速する、②デフレは、消 費者物価が来年度にはプラスに転じるなど収束 に向かう、③雇用面は、失業率が2003年度の 5.2%から2004年度には5.0%に低下するが、就業 者数は減少し、依然として厳しい状況が続くと 見込まれます。 今回の景気回復は、輸出を起点として設備投 資の増加につながりました。しかし、企業のリ ストラ持続による雇用調整や公的負担などの増 加による家計所得の不振により、GDPの過半を 占める個人消費が一進一退の動きを続けます。 これにより、円安による外需の下支えがあって も、家計部門を巻き込んだ持続的な成長軌道に ■ 持続的な成長軌道に乗ることは 難しいと予測 乗ることは難しいものと予測されます。 表-1 標準予測の要約 ●外部環境の動向 今後の日本経済を取り巻く外部環境をみると、 ①米国経済が来秋の大統領選挙を前に消費、機 械投資、連邦財政需要を三本柱として好調を続 ける、②米国経済の好調により、東アジア、欧 州など海外経済が来年度にかけて緩やかに回復 する、③原油価格は供給増加要因が多く、緩や かに低下する、と見込まれます。 ●今後の景気動向(標準予測) 国内環境は①実質経済成長率は2003年度は 2004 2003 2002 (実績) (予測) (予測) 1.5 1.3 −0.7 名目GDP(前年度比%) 1.8 2.7 1.6 実質GDP(前年度比%) 1.5 2.2 0.8 内需寄与度 0.2 0.5 0.8 外需寄与度 2.2 0.8 2.8 鉱工業生産指数(前年度比%) 0.2 0.0 −0.6 消費者物価指数(前年度比%) 5.0 5.2 5.4 完全失業率(%) 17.5 16.4 13.4 経常収支(兆円) 25.1 27.9 27.4 通関原油価格(ドル/バレル) 122.9 118.9 121.9 対ドル円レート(円/ドル) 4.3 2.9 2.4 米国実質GDP(暦年、前年比%) 年 度 懸念材料は円高持続と一層の長期金利上昇 ■ 円高持続ケース ■ 一層の長期金利上昇ケース 標準予測では、来年の年初以降、わが国より 長期金利は、標準予測によれば、2003年度平 米国の景気回復力が強いことや日本の金融緩和 均が1.0%、2004年度が1.4%と緩やかに上昇しま が続くことなどから、日米実質金利差が拡大す す。これは、経済がプラス成長を続けることに るため、緩やかながら円安に転じると見込んで よる、いわば「良い」金利上昇です。一方で、 います(2004年度平均122.9円) 。現在、日本の景 景気回復の持続が確認される中で、国債発行残 気での輸出依存度が大きいことから、現在の円 高の増加に伴う価格下落などから長期金利が標 高が続けば、設備投資への波及を含め、景気へ 準予測以上に上昇する「悪い」金利上昇のリス のマイナス影響も大きいと考えられます。そこ クもあります。そこで、ここでは、長期金利の で円高ケースでは、2003年10∼12月期以降も円 実体経済への影響を計測しました。想定は、 高傾向に変化がなく、来年以降も標準予測に比 2003年10∼12月期以降、長期金利が標準予測に べ12円程度円高に推移する場合を想定しました。 比べ0.7ポイント程度高い状況としました。 2004年度の結果でみると、円高による輸出相 長期金利の上昇は、企業の金利負担の増加や 対価格の上昇により、財・サービス輸出は標準 実質金利の上昇により、設備投資や住宅投資を 予測比1.9%押し下げられ、前年度比2.3%増に低 押し下げます。また、円高を誘発し、輸出も減 下します。さらに、輸出の減少は鉱工業生産、 少します。 一方、金利上昇は財産所得の増加を通じた個 設備投資などを押し下げます。 一方で、物価下落により実質所得が増加し、 人消費へのプラス効果を持ちますが、投資減少 個人消費は押し上げられます。合計では、外需 などに伴なう所得減少の方が大きく、可処分所 減少による企業部門へのマイナス影響が大きく、 得全体では減少し、個人消費は0.2%押し下げら 実質GDPは標準予測比0.5%マイナスとなり、実 れます。この結果、2004年度の実質GDPは0.4% 質経済成長率は1.4%に低下します。 減少し、成長率は1.6%と標準予測0.2%ポイント 低下します。 表-2 円高/長期金利上昇シミュレーション 年 度 ケース名 名目GDP 実質GDP 民間消費 民間住宅投資 民間設備投資 財・サービス輸出 財・サービス輸入 鉱工業生産指数 国内企業物価 消費者物価 経常収支(兆円) 長期金利(%) 為替レート(¥/$) 2003 2004 2004 標準予測 円高 1.3 1.5 −0.3 2.7 1.8 −0.5 0.4 −0.3 0.2 0.4 0.2 −0.0 13.6 9.2 −0.2 6.3 3.8 −1.9 2.7 2.5 1.9 0.8 2.2 −1.0 −0.5 −0.1 −0.3 0.0 0.2 0.0 16.4 17.5 −1.9 1.0 1.4 −0.0 118.9 122.9 −12.1 2004 長期金利上昇 −0.4 −0.4 −0.2 −0.8 −1.7 −0.1 −0.8 −0.2 0.0 −0.5 −1.2 0.7 −0.9 注)標準予測では単位のないものは前年度変化率%、 シミュレーションケースでは標準予測との乖離率%で表示。 電中研予測の特徴は消費不振、円安、デフレ収束 ■ 民間主要機関の短期予測 今回の予測は、政府が景気判断を上方修正し た直後でもあり、各機関共に「民間需要主導の さらに、円安への転換は輸入デフレの収束にも 寄与します。 表-3 主要機関予測との比較(2004年度) 電中研 回復ながら2004年度には景気は減速」という非 常に似通った予測結果を公表しています。比較 した機関の中で2003年度より2004年度の方が高 い実質成長率とみているのは1機関のみです。 また、設備投資と輸出とが総じて数%以上増加 して景気を牽引し、その結果、経常収支黒字は 拡大すると見ています。 ■ 電中研予測の特徴 このような中で、電中研の2004年度予測の特 徴は以下の3点です。 第1に、好調な企業部門から家計部門への波 及が小さく、個人消費の不振が続くとみている ことです。雇用の減少に伴なう実質可処分所得 の減少、消費性向の低下などがその主因です。 第2に、他機関は、為替レートを平均107∼ 113円という前提で予測していますが、電中研は 119∼123円の円安に転ずると見ていることです。 第3に、デフレが収束に向かうとみているこ とです。日本経済は弱いながらもプラス成長を 続け、東アジア向け輸出の好調も加わり、需給 は改善し、産業資材価格の一部で引き上げにつ ながります。また、賃金デフレも、構造調整の 進んだ企業や産業で、優秀な人材獲得に必要な 資金投入の増加により収束傾向がみられます。 ■ 既刊「電中研ニュース」ご案内 No.390 「トピックうおっちゃー」 No.389 ムラサキイガイで養魚飼料を作る 名目GDP 実質GDP 民間消費 民間住宅投資 民間設備投資 財・サービス輸出 財・サービス輸入 鉱工業生産指数 国内企業物価 消費者物価 経常収支(兆円) 長期金利(%) 1.5 1.8 −0.3 0.2 9.2 3.8 2.5 2.2 −0.1 0.2 17.5 1.4 他の主要5機関の予測 最高値 最低値 0.9 −0.3 2.8 1.3 1.2 0.6 0.7 −2.5 11.7 4.2 10.6 6.1 11.9 3.9 5.1 2.9 −0.4 −1.2 −0.2 −0.4 18.0 12.1 1.75 1.3 注)単位のないものは前年度変化率%。 みずほ総研、 日経センター、野村 他の主要5機関とは、大和総研、 総研、UFJ総研の5つであり詳細な予測情報を公表している機関。 ● ひとこと 1年前に行なった2003年 度予測では、設備投資につ いては当所が予測機関の中 で最も高い2.8%増と予測 しましたが、今回、多くの 機関が、水準はさほど高く はありませんが、それを大 幅に上回る増加を予測して 経済社会研究所 います。また、2004年度も 上席研究員 伸びは低下しますが増勢は 門多 治 続くとみられます。しか し、中堅・大企業製造業で の4割近い海外投資比率、期待成長率の低下、 新たな前向き資金需要に対して銀行部門がリス クを取る余力がないことなどを勘案すると、国 内投資がさらに加速する状況にはありません。 消費の行方だけでなく、2004年度以降も設備投 資がどの程度の増勢を維持できるかも景気の持 続性を占う一つのポイントです。 No.388 2003・2004年度短期経済予測について No.387 CRIEPIのうごき 2003秋 2003年12月26日発行 〒100-8126(財)電力中央研究所 広報グループ 東京都千代田区大手町1-6-1(大手町ビル7階) TEL.(03)3201-6601 FAX.(03)3287-2863 http : //criepi. denken. or. jp/ E-mail : www-pc-ml@criepi. denken. or. jp この冊子は大豆油インキで印刷しています 古紙配合率100%の再生紙を使用しています