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タイにおけるバイオエタノール導入への取り組み(Ⅱ)

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タイにおけるバイオエタノール導入への取り組み(Ⅱ)
Digital Asia Discussion Paper Series
DP 07-002
タイにおけるバイオエタノール導 入 への取 り組 み(Ⅱ)
― サトウキビ・キャッサバ加工工場の現地調査 ―
森泉由恵¼
Piyawan Suksri¼¼
本藤祐樹¼¼¼
和気洋子¼¼¼¼
2007 年 3 月
学術フロンティア推進事業
「デジタルアジア構築と運用による地域戦略構想のための融合研究」
慶應義塾大学 デジタルアジア地域戦略構想研究センター
¼
慶應義塾大学商学部和気研究室助手
慶應義塾大学商学研究科博士課程
¼¼¼
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
¼¼¼¼
慶應義塾大学商学部教授
¼¼
1
目
1.
次
はじめに ..............................................................................................................................3
1.1 燃料用エタノール製造の現状...........................................................................................3
1.2 今後の燃料用エタノール供給の見通し ............................................................................5
2.
サトウキビ製糖工場 ............................................................................................................6
2.1 「Mitr Phol」Cane Complex ..........................................................................................6
2.1.1 製糖工場 .....................................................................................................................7
2.1.2 パーティクルボード製造工場 ..................................................................................12
2.1.3 バイオマス発電所 ....................................................................................................12
2.1.4 バイオエタノール工場 .............................................................................................12
2.1.5 サトウキビ研究所 ....................................................................................................16
2.1.6 バイオ肥料工場........................................................................................................16
2.2 「Khon Kaen Sugar」Cane Complex ..........................................................................16
2.2.1 製糖工場 ..................................................................................................................16
2.2.2 バイオマス発電所 ....................................................................................................19
2.2.3 バイオエタノール工場 .............................................................................................19
2.2.4 バイオ肥料工場 ........................................................................................................20
3.
キャッサバチップ工場.......................................................................................................21
3.1 作業工程..........................................................................................................................21
3.2 経営状況.........................................................................................................................29
3.2.1 原材料購入...............................................................................................................29
3.2.2 コスト構成と販売先 ................................................................................................29
4.
キャッサバスターチ工場 ...................................................................................................30
4.1 工場概要.........................................................................................................................30
4.2 生産プロセス..................................................................................................................30
4.3 バイオガスプラント .......................................................................................................36
5.
おわりに ............................................................................................................................37
参考文献 ...................................................................................................................................38
2
1. はじめに
1.1 燃料用エタノール製造の現状
タイ政府は,燃料用エタノール製造事業促進のため,エタノールプラント建設に際し,以下
のような優遇措置を付与している.
・エタノールの製造に必要なプラント機材の輸入に係る輸入関税の免除
・8 年間の法人所得税の免除(通常は 30%課税)
燃料用エタノール製造を行うプラントは上記の優遇措置を享受できるが,新規にプラントを建
設する場合,承認機関である NEC(National Ethanol Committee:国家エタノール委員会)
からエタノール製造ライセンスを取得しなければならない.ライセンス供与のための主な判断
基準は,以下のようなものである(表 1.1).
表 1.1 燃料用エタノール製造ライセンス供与の基準
判断基準
エタノール原料
エタノール生産規模
プラント建設地
エタノール製造技術
環境影響管理
エタノール生産・供給管理
事業実施による
関連産業への影響
事業者の財務状況
農家との取組み体制
その他
内容
輸出過剰分の国内産農産物であること.
原料調達・エタノール販売計画が,提案された生産規模と一致
していること.生産コストと原料管理のデータが考慮されてい
ること.
プラント建設地の近郊に原料調達地が存在すること.
99.5%エタノールの生産が可能なこと.
近隣住民への公害・影響を防ぐため,適切な環境影響管理シス
テムを有していること.
無許可エタノール使用を防ぐため,関連政府機関がエタノール
の生産と供給を管理する.エタノール製品の品質を確保するた
め,プラントは品質管理システムと国際規格を満たすこと.
同様の原料を使用する他の産業への影響を考慮していること.
財政支援を希望する事業者は,BOI の定める基準を満たす必
要がある.
農家にプラントの株主になる機会を提供し,原料の価格を保証
するなど,農家との協力体制を構築していること.
NEC が定める期限までにエタノールプラントの建設を終了し
操業を開始しなければならない.NEC の許可がない限り,ラ
イセンスを譲渡・変更することは不可.
NEDO(2004)「平成 16 年度成果報告書:製糖工場におけるモラセス・バガスエタノール製造モデル事業実施可能性
調査平成」より
これまでに 45 のプラントが製造ライセンスを供与されている.しかし,実際に操業を開始した
プラントは,表 1.2 に示すように 6 ヵ所に過ぎない.操業を開始した 6 ヵ所のプラントのうち,
キャッサバ(fresh cassava roots)を原料とするプラントは,Khon Kaen 県にある Thai Nguan
Ethanol の 1 ヵ所だけである.
3
表 1.2 操業中の燃料用エタノールプラント
生産量
(L/日)
会社名
プラント所在地
原材料
1. Pornwilai International Group
Trading Co., Ltd.
Ayuthaya
Molasses
25,000
2003
Nakhon Pathom
Molasses
200,000
2004
3. Thai Agro and Energy Co., Ltd.
Suphanburi
Molasses
150,000
2005
4. Thai Nguan Ethanol Co., Ltd.
Khon Kaen
Cassava
130,000
2006
Cane/ Molasses
150,000
2006
Cane/ Molasses
200,000
2006
2. Thai Alcohol Pub., Ltd.
5. Khon Kaen Alcohol Co., Ltd.
6. Petrogreen Co., Ltd.
Khon Kaen
Chaiyaphum
承認日
Source: Department of Alternative Energy Development and Efficiency (DEDE), Thailand
EPPO1の燃料用エタノールプラントに関する報告書によると,Thai Nguan Ethanol は,操
業開始 2 ヵ月後に技術上のトラブルに直面し,一時的に操業を停止した.このプラントは中国
から生産技術を導入しているが,この生産技術は,キャッサバの生芋(fresh cassava roots)
ではなくキャッサバチップを原料として利用するものである.しかし,Thai Nguan Ethanol
ではキャッサバの生芋を原料として利用しているため,技術的な不具合が生じたと考えられる.
さらに,Thai Nguan Ethanol では,製造プロセスからの排水処理および原料の安定調達に関
する問題も抱えている.Thai Nguan Ethanol では,キャッサバの買い取り価格をキャッサバ
チップ工場のそれよりも高く設定しているが,キャッサバのスターチ含有率が 32%以上である
ことを求めている.キャッサバチップ工場のキャッサバ買い取りにおける澱粉含有率の基準は,
25~30%である.キャッサバの需要先が増えたことにより,チップ工場から提示される条件が
より良くなるかもしれないと考えているキャッサバ農家は Thai Nguan Ethanol にはキャッサ
バを販売しない.それゆえに,Thai Nguan Ethanol は原料調達が難しい状況となっている.
残り 5 ヵ所のプラントのうち,3 ヵ所は原料としてモラセスを利用し,2 ヵ所はモラセスと
ケーンジュースの両方を利用している.後者の 2 ヵ所のプラント,すなわち Khon Kaen Alcohol
と Petrogreen は,いずれも製糖工場併設型のプラントである.製糖工場併設型のエタノール
プラントは,原料調達,エネルギーの効率的な利用,および廃棄物処理に関して有利である.
既に製糖工場が存在している中でのエタノールプラント建設であるため,新たに農家からサト
ウキビを購入する必要がなく,原料であるケーンジュース,モラセスを容易に調達することが
できる.また,一般に製糖工場は単独で経営されてはおらず,多数の製糖工場を経営し,その
関連製品を生産している企業グループに属している.例えば,Mitr Phol Sugar グループは,5
つの製糖工場を所有し,複数の関連製品工場を運営している.また,Khon Kaen Sugar も,4
1
EPPO stands for the Energy Policy and Planning Office, Ministry of Energy, Thailand.
4
つの製糖工場を所有する KSL グループに属している.したがって,原料のケーンジュースとモ
ラセスは,隣接する製糖工場だけでなく,同じグループに属する他の製糖工場からも調達する
ことができる.
さらに,製糖工場では,製糖プロセスから発生するバガス(サトウキビの搾りかす)を燃料
として工場内で発電しているため,エタノール工場はその余剰分の電力を供給してもらうこと
ができる.また,エタノール工場が直面する大きな問題である排水の処理においても,既に工
場排水から肥料を製造する技術を持ち,サトウキビ栽培農家をその販売先を確保している製糖
工場と連携することにより,容易に問題を解決することができる.このように,独立型のエタ
ノールプラントに比べ,製糖工場併設型のエタノールプラントは極めて大きな優位性を持つ.
1.2 今後の燃料用エタノール供給の見通し
燃料用エタノールの価格は,政府により設定される.当初は 12.75Baht/L で固定されていた
が,原料価格が上昇し政府の財政負担が大きくなったため,政府はコスト積み上げによる価格
設定方式を採用し問題を解決しようとした.その結果,燃料用エタノールの価格は 25.3Baht/L
まで上昇し,ガソリンとの間に大きな価格差を生じさせることとなった.
そこで政府は,2007 年 1 月から,それまでのコスト積み上げ方式をやめ,ブラジルのエタノ
ール輸出価格に輸送費や保険料などをプラスしたものを市場価格の参考値として用いる方式に
転換した.これにより燃料用エタノールの価格は,25.3Baht/L から 19.33Baht/L へと大幅に
低下した.しかし,価格が低く抑えられることは,エタノールプラントの利益幅が減少するこ
とに他ならない.単価が低い分,燃料用エタノールの需要増加が実現しなければ,エタノール
プラントの経営は苦しいものとなる.
過去 2~3 年においては,非常に多くの企業が燃料用エタノールの製造に関心を持ち,製造ラ
イセンスの取得を申請していた.その大きな理由の一つは, MTBE の全廃と,Gasohol95 に
よる ULG95(ガソリン)の完全代替という政府の方針であった.しかし,政府は 2006 年 11
月にその実行を延期することを決定した.こうした状況を受け,既に燃料用エタノールの製造
ライセンスを取得した企業でも,エタノールプラントの建設に二の足を踏むようになっている.
政府は,モラセスの価格が上昇し続けているのに対してキャッサバの価格が安定しているため,
エタノールの原料をサトウキビからキャッサバにシフトしてようとしている.しかし,国内で
キャッサバの生芋という新規の原料を利用した商業規模でのエタノール製造を行う技術が確立
されていない上に,上述したような原料調達の問題もあり,キャッサバ利用エタノールの生産
が計画通り進行するかについては予断を許さない状況にある.
こうした現状を踏まえ,実際に製糖工場,エタノールプラント,キャッサバ加工工場を訪問
し,燃料用エタノールの供給体制に関する調査を実施した.本報告書では,生産プロセス,排
水処理,副産物の利用などサトウキビ,キャッサバ関連工場の運営の実態について述べる.な
お,サトウキビ,キャッサバの生産の現地調査については,「タイにおけるバイオエタノール導
入への取り組み(Ⅰ)-サトウキビ・キャッサバ農場の現地調査-」を参照されたい.
5
2. サトウキビ製糖工場
2.1 「Mitr Phol」Cane Complex
今回の調査で訪問した Mitr Phu Khieo 製糖工場を所有する Mitr Phol グループは,タイ最
大手の製糖会社である.国内に 5 つの工場を持ち,砂糖の年間生産量はグループ全体では 100
万 t にも及ぶ.Mitr Phu Khieo 製糖工場は「Mitr Phol Park」と呼ばれる広大な敷地の一角に
あり,その中では製糖工場を中心としたコンプレックスが形成されている(図 2.1).
③Power
Plant
⑤R & D Center
①Sugar
Factory
Sugarcane
Plantation
⑥Bio-Fertilizer
Plant
Cane
Juice
Bagasse
②Particle
Board
Factory
Molasses
④Ethanol
Factory
図 2.1 Cane Complex の構成
Cane Complex は,以下の 6 つの施設から構成されている.
① Mitr Phu Khieo Sugar Factory(製糖工場)
② MP Particle Board(パーティクルボード製造工場)
③ Phu Khieo Bio Energy(バイオマス発電所)
④ Petrogreen(バイオエタノール工場)
⑤ MP Sugarcane R & D Center(サトウキビ研究所)
⑥ Bio-Fertilizer Plant(バイオ肥料工場)
中心となるのは,①の製糖工場である.②のパーティクルボード製造工場と③のバイオマス
発電所は,①の製糖工場の生産プロセスの副産物であるバガス(Bagasse,サトウキビの絞り
かす)をそれぞれ原材料,発電燃料として利用している.④のバイオエタノール工場も同様に,
製糖プロセスから出るケーンジュース(Cane Juice,サトウキビの絞り汁)とモラセス
(Molasses,廃糖蜜)を原料として,バイオエタノールの生産を行っている.⑥のバイオ肥料
工場は,①の製糖工場と④のバイオエタノール工場からの排水などを利用して,肥料を製造し
ている.以下に,それぞれの施設について説明する.
6
2.1.1 製糖工場
Mitr Phu Khieo 製糖工場は非常に規模が大きく,年間のサトウキビ処理量は最大で 300 万
t-cane にも及ぶ.今年のサトウキビ投入目標は 270 万 t-cane とのことである.工場の年間稼動
日数は 300 日で,うち 120 日がサトウキビの収穫期であるクラッシング期(12 月~3 月),残
りの 180 日間がクラッシング期に製造した粗糖を用いて精製糖を製造するリメルト期である.
生産しているのは,Raw Sugar(粗糖),White Sugar(白砂糖),Refined Sugar(精製糖),
Super Refined Sugar などである.これらの砂糖は,IU という単位で計られる色値,
水分量(%),
糖度(Polarization・%),粒子の大きさ(mm)などの数値により厳密に分類されている.粗
糖の IU が 1,000 以上のものは輸出しかできない.Super Refine Sugar の場合,糖度は 99.90%
以上,水分量は 0.04%以下,色価は 20IU 以下となっている.
1t のサトウキビから生産される砂糖は,平均で 105kg / t-cane であるが(粗糖,精製糖の区
別はない),今年の目標は 115kg / t-cane である.一日に 25,500t-cane を投入すると,精製糖
が 1,500t-sugar,粗糖が 1,400t-sugar 生産される.グループ全体での一日あたりの投入量は
113,000t-cane で,精製糖は一日あたり 5,100t,粗糖は一日あたり 7,550t 生産される.
写真 2.1 工場の外観
7
雇用者は,日雇いがおよそ 450 人,常勤がおよそ 300 人である.日雇い労働者の最低賃金は
150Baht / 人・日である.この工場に搬入されるサトウキビは,98%が手作業により収穫を行
ったものである.残りの 2%は収穫用機械を用いている.サトウキビ農家からサトウキビを購
入する際にはケーンジュースの CCS(可製糖率:糖度,蔗糖含有率などから計測)を計り,そ
の値により単価を決定している.CCS の標準の値は 10 である.
会社では,収穫時に畑に火を入れる「火入れ収穫」を行う農家の数を減らすように指導して
いる.サトウキビを燃やすと還元糖の割合が高くなり,品質低下につながるためである.契約
農家のうち,15%程度が「火入れ収穫」を行っているが,最近,その比率が上がる傾向にある.
農家の人々は,作業に手間がかかることや人手が足りないことを理由に「火入れ収穫」を行っ
てしまうという.また,収穫期の最後の方になると急いで収穫を行おうとするため,火を入れ
る率がより高くなる.昨日(3 月 20 日)の火入れ率は 29%であった.他の工場(例えば Khon
Kaen Sugar など)では,恐らく 70%以上の農家が「火入れ収穫」を行っているだろうという
ことである.また,バンコクの近郊の農家でも,50%~60%は「火入れ収穫」を行っている.
サトウキビ農家と製糖会社の関係が上手く行っていれば,
「火入れ収穫」を行う農家は少なくな
るため,「火入れ収穫」の割合は両者の関係を見る一種の指標となっているようである.
また,この工場と契約を結んでいる農家のうち,76%が自分で収穫物を工場まで輸送してく
る.しかし,小規模農家ではイータン(東北地方特有の小型トラック)しか所有しておらず,
大量には輸送できない.そこで,残りの 24%の農家に対しては,会社がサトウキビの depo を
作ってそこまで運んでもらい,depo から工場までは会社の車で会社が輸送することにしている.
会社のポリシーとして,大規模の農場よりも小規模零細農家を守ってそちらと契約する方が,
タイのサトウキビ産業にとって sustainable であると考えている.よって,この企業と契約し
ている農家は小規模零細農家が大部分であるということである.
写真 2.2 工場への搬入を待つサトウキビ輸送トラック
8
工場内に搬入されたサトウキビは,以下のプロセスを経て粗糖になる(図 2.2)
.まず,茎を
カッターで切断し,それをシュレッダーで粉砕する(1.Cutting~2.Shredding).その後,水を
加えながら何層にも連なる圧搾機にかけてミックスジュースを搾り出す(3.Milling,写真 2.3).
ミックスジュースを搾り出した後の搾りかす(bagasse)は,発電の燃料として用いられる.
取り出した絞り汁にライムを加え,凝固した不純物を沈殿させてろ過する(4.Clarification).
その際に沈殿する mud は,フィルターにかけ,その残り(Filter Cake)は堆肥にしてサトウ
キビ栽培に利用する.得られた上澄み液を,多重効用缶を用いて水分を蒸発させて濃縮し,シ
ラップを得る(5.Evaporation).次に,真空結晶缶を用いてシラップをさらに煮詰め,結晶を
成長させる(6.Crystallization).最後に,遠心分離機により結晶と糖蜜の混合物を,結晶と糖
蜜とに振り分ける(7.Centrifugation).
こうして得られた A 糖は,次の精製糖を製造するプロセスに行くか,粗糖のサイロで保管さ
れる(写真 2.4).また,真空結晶缶 C から得られたファイナルモラセスは,バイオエタノール
の原料としてエタノールプラントへと回される.
Bagasse
1. Cutting
Boiler
3. Milling
2. Shredding
Mixed
Juice
4. Clarification
Vacuum
Pan “A”
To Power
Plant
Vacuum
Pan “B”
Vacuum
Pan “C”
Raw
Syrup
Heated and
Limed Juice
Mud
6. Crystallization
Filter
Filter
Cake
To Farm
7. Centrifugation
5. Evaporation
B Sugar
To Refinery
Process
C Sugar
A Sugar
Raw Sugar Storage
図 2.2 粗糖の製造プロセス
9
To Ethanol
Plant
Final
Molasses
写真 2.3 圧搾プロセスの様子
写真 2.4 サイロに貯蔵される粗糖
10
粗糖からは以下のプロセスを経て精製糖が製造される(図 2.3).粗糖に温水を加えて再び溶
かして糖液を作る(1.Melting).そこに石灰乳を加え,さらに炭酸ガスを吹き込んで不純物を
沈殿させる(2.Carbonation).これをろ過し,不純物を取り除く(3.Filtration).次にイオン
交換樹脂を用いてさらに不純物を取り除くと,脱色され無色透明のファインリカーが得られる
(4.Decolorization).その後は,粗糖製造の際と同様に,濃縮,結晶化,分離プロセスを経て
精製糖を取り出す(プロセス 5~7).遠心分離機で結晶から分離された糖蜜は,まだショ糖分
が残っているため,再び粗糖製造の結晶化プロセスに投入される.こうして作られた精製糖は
乾燥・冷却した後,包装され,出荷まで倉庫で保管される.
Raw
Sugar
Refined Vacuum Pan
Super
Refined
Refined
White
1. Melting
Milk of
Lime
6. Crystallization
Gas
CO2
7. Centrifugation
2. Carbonation
3. Filtration
Ion-Exchange
Resin
8. Packaging
Molasses
4. Decolorization
5. Evaporation
Refined Sugar
Storage
図 2.3 精製糖の製造プロセス
写真 2.5 包装され運ばれる精製糖
11
To Raw House
Vacuum Pan
2.1.2 パーティクルボード製造工場
パーティクルボード工場では,粗糖製造プロセスからのバガスを原材料としてパーティクル
ボードを生産している.パーティクルボードとは,木材などの植物繊維質の小片(パーティクル)
に接着剤を加え熱圧成形して作られる木質ボードのことであり,主に家具などに利用される.
この工場では,年間およそ 100,000m3 のパーティクルボードを生産している.
2.1.3 バイオマス発電所
バイオマス発電所では,パーティクルボード製造工場と同様に,粗糖製造プロセスからのバ
ガスを燃料として発電を行い,工場全体に電力を供給している.余剰分の電力は,EGAT
(Electricity Generating Authority of Thailand,タイ電力公社)に売電している.この発電
所では,バガスの他にもサトウキビの葉,米の籾殻,トウモロコシの穂軸なども燃料として用
いているということである.発電所の設備容量は,製糖工場用が 6MW,パーティクルボード
製造工場用が 2MW,工場内オフィス用が 4MW,EGAT への売電用が 29MW で合計 41MW で
ある.
写真 2.6 貯蔵されているバガス
2.1.4 バイオエタノール工場
バイオエタノール工場は,フランスの Maguin 社からの技術導入により建設された.工場の
雇用者は常勤で 60 人である.定められているエタノールのアルコール濃度の最低ラインは
99.5%であるが,この工場では 99.8%~99.9%のものを生産している.
エタノールの原料は,クラッシング期には,粗糖生産プロセスで搾り出されたケーンジュー
スのみを用いる.リメルト期には,クラシング期に製造し貯蔵しておいたモラセスを用いる.
モラセスは保存性があるため貯蔵しておくことができるので,一年中平均的にエタノールを作
ることができる.サイロの中には,粗糖が 50%(リメルト期に精製するためのもの),精製糖
12
が 50%ずつ貯蔵されている.サトウキビから搾り出されるケーンジュースは pH が 6~7 であ
るため,そのままではエタノールの原料としては使えず,ph を 4.2~4.5 まで低くするプロセ
スが必要となる.モラセスの場合,pH はちょうど良いが濃度が高すぎるため,蒸留水で希釈
しなければならない.一日の投入量は,ケーンジュースの場合は 2,500t,モラセスの場合は 760t
であり,そこから 20 万 L のエタノールが生産される.
写真 2.7 バイオエタノール工場の外観
写真 2.8 モラセス貯蔵タンク
13
バイオエタノールの生産プロセスは,1. Yeast Propagation(酵母増殖),2. Fermentation
(発酵),3. Distillation(蒸留),4. Dehydration(脱水)という 4 つのプロセスから構成され
る(図 2.4)
.
1. Yeast Propagation(酵母増殖)
酵母増殖プロセスでは,次の発酵プロセスのために酵母を必要な量にまで増殖させておく.酵
母増殖設備は,2 本の増殖タンクから構成されている.
2. Fermentation(発酵)
プロセス 1 で増殖した酵母の中にケーンジュースもしくはモラセスを入れ,発酵させる.発酵
に必要な時間は,ケーンジュースの場合は 16 時間,モラセスの場合は 30 時間である.発酵プ
ロセスが終わった時点でアルコール濃度は 9%~10%になる.発酵設備は,6 本の発酵タンクか
ら構成されている.酵母が働く温度は 33℃であるが,発酵する際に発酵熱が発生するため,冷
却する必要がある.冷却には soft water を用いている.これは,水道水を用いると不純物によ
りパイプが詰まってしまうためである.
発酵プロセスでは多量の炭酸ガスが発生するが,この発生が収まってくる頃に発酵が終了する.
また発酵プロセスでは,ある種の油(フーゼル油など)も発生する.これらは,モラセスを原
料とした場合は 1 日あたり 100L,ケーンジュースの場合はそれより若干多く発生し,灯油と
混ぜて燃料としたり,香料として利用されている.
3. Distillation(蒸留)
発酵液は,エタノール純度を高めるために蒸留・脱水を行う.蒸留は,高さ 40m ほどの蒸留塔
で行われる.蒸留プロセスで精製される液体のうち,8%がエタノールで,残りの 92%は蒸留排
液となる.蒸留プロセスが終了した時点で,アルコール濃度は 93%~95%になる.
4. Dehydration(脱水)
バイオエタノールは,水分が混入するとガソリンとエタノールの相分離が発生し,エンジンの
腐食や燃料の品質低下につながるため,水分を一定量以下にしなければならない.脱水プロセ
スでは,2 塔の脱水塔が 10 分~15 分交代稼動し,脱水を行う.この工場では,Zeolite molecular
sieves 技術を採用し,エネルギー効率を上昇させている.工場長の話では,非常に優れた脱水
技術を用いており,通常はエタノール濃度を 99.5%~99.8%にあげる際に量が減ってしまうが,
この工場の技術では量が減ることはなく経済的にも優れているということである.
脱水されたエタノールはエタノール貯蔵タンクで保管され,バイオエタノールとして出荷され
る.貯蔵タンクは,250m3 のものが 2 基,1250m3 のものが 2 基あり,合計で 300 万 L(15 日
間の生産分)を貯蔵することができる.出荷の前には,飲料用アルコールとして販売できない
ように,エタノールにメタノールを 0.05%混ぜなければならない.燃料用エタノールとして出
荷する際には,PTT や Shell,ESSO といった石油会社が工場まで引き取りに来る.したがっ
て,輸送コストは石油会社が負担している.
14
Molasses
Cane
Juice
pH adjustment
Yeast
1. Yeast
Propagation
CO2
2. Fermentation
Waste
Water
Vinasse
Bio Compost Product
Liquid Fertilizer Product
3. Distillation
4. Dehydration
Ethanol
図 2.4 エタノール製造プロセス
工場長の話では,エタノール工場の経営においては以下の 3 点が重要とのことである.
1. 質の高い原材料を入手すること,価格が適正かつ安定的な原材料を入手すること,原材料
の供給量を確保すること.
2. 環境問題.工場の性質上,においが発生することは避けられないので,近隣の住民に与え
る影響を考慮しなければならない.また,排水の処理をどうするかも大きな問題である
3. 動力源の確保.砂糖工場ならば,工場を動かす際の電力や熱を自分で作ることができ,そ
のメリットはかなり大きい.キャッサバ工場の場合は自社内に発電所を持たないので,そ
れが経営のネックになる.動力源として石炭を用いている工場もあるが,それが酸性雨な
どの環境問題を引き起こし,住民が抗議デモを行ったこともある.
15
2.1.5 サトウキビ研究所
サトウキビ研究所では,サトウキビの生産性の上昇や生産の安定化を目的として研究を行っ
ている.具体的には,施肥や雑草の除去などの栽培管理方法,生産性向上とコスト削減栽培管
理の最適化,病害・害虫への対策,新品種の育成,砂糖の品質管理などについて研究を行って
いる.
2.1.6 バイオ肥料工場
エタノールの蒸留プロセスから発生する廃液は,BOD 値(生物的酸素要求量)が 45,000 ml/L,
COD 値(化学的酸素要求量)が 100,000 ml/L (Sriroth, K. et al., 2006)と汚染度が高く,
また酸性が強いため(pH4),何らかの処理を施さなければならない.この工場では,以下のよ
うな処理を行い,エタノール副産物の有効利用を図っている.
エタノール工場からの廃液は,Vinasse(蒸留残渣)と Waste Water(蒸留廃液)に分離す
ることができる.Vinasse は,濃縮した後に pH を調整して液体肥料として利用する.Vinasse
は,モラセスを原料とする場合は 1 日 900t,ケーンジュースを原料とする場合は 1 日 250t 発
生する(ただし,これらの値は濃縮して 1/3 の量にした後の値).ここから肥料を年間約 20 万
t 生産することができる.
生産した肥料はサトウキビ栽培農家に 800Baht / t で販売しているが,
これを使用する農地は 31 万 rai にも及ぶ.
一方,Waste Water(蒸留廃液)は,粗糖製造プロセスから出るフィルターケーキと混ぜて
バイオコンポストを生産する計画があるが,まだ実現していない.Waste Water は,モラセス
を原料とする場合は 1 日 960m3,ケーンジュースを原料とする場合は 1 日 1680m3 発生する.
現在は,処理を行ってから農民に無料で提供している.工場から 20~30km 以内の範囲であれ
ば,運搬も無料で行うということである.
2.2 「Khon Kaen Sugar」Cane Complex
2.2.1 製糖工場
Khon Kaen Sugar Industry Public Co., Ltd.は,1976 年に設立されたタイ大手の製糖会社で
ある.Khon Kaen 製糖工場は,Kwang Soon Lee Group(KSL グループ)に属している.グ
ループ全体での従業員は約 1600 人で,4 つの製糖工場を所有している.2005 年には製糖会社
としては初めてタイ証券取引所に株式を上場した.KSL グループの 4 つの製糖工場の一つであ
る Khon Kaen 製糖工場は,会社の設立と同年の 1976 年に建設された.4 ヶ所の製糖工場の中
では最も規模が大きく,1 日のサトウキビ処理能力は 26,000t 以上である.
工場の年間稼動日数は Mitr Phu Khieo 製糖工場と同じく 300 日で,うち 120 日がサトウキ
ビの収穫期であるクラッシング期(12 月~3 月),残りの 180 日間がクラッシング期に製造し
た粗糖を用いて精製糖を製造するリメルト期である.クラッシング期には,9 台ある A Sugar
生産用の設備はフル稼働させるが,リメルト期は貯蔵してある粗糖を精製するだけなので,3
16
台程度を動かすのみである.B Sugar,C Sugar 生産用の設備は,年間を通してフル稼働する.
サトウキビ投入量は 1 日あたり 25,000t で,そこから Raw Sugar が 760t,Hi-Pol Sugar が
600t,Refined Sugar が 800t,White Sugar が 700t 生産される.年間のサトウキビ投入量は
270 万 t-cane で,そこから 23 万 t の砂糖が生産される(粗糖,精製糖の区別はない).KSL
グループ全体では,1 日あたり 67,000t のサトウキビが投入され,年間約 45 万 t の砂糖(粗
糖+精製糖)が生産される.
写真 2.9 Khon Kaen 製糖工場の外観
写真 2.10 ファイナルモラセス
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写真 2.11 破砕プロセスに投入されるサトウキビ
写真 2.12 出荷される精製糖
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2.2.2 バイオマス発電所
Khon Kaen 製糖工場と同じ敷地内にある Khon Kaen Sugar Power Plant Company Ltd.で
は,製糖プロセスから発生するバガスを中心にバイオマス発電を行っている.同発電所はイギ
リスの Agrinergy Ltd.をプロジェクトディベロッパーとして CDM を申請し,2007 年に承認さ
れている.プロジェクト期間は 10 年間である.Khon Kaen Sugar Power Plant の設備容量は
トータルで 30MW,そのうち 20MW 分を EGAT に売電し,5MW 分を工場内で消費,5MW 分
を他の会社に販売している.
20MW×300 日×24 時間=144,000MWh を EGAT に売電しており,これが CDM の対象と
なる.ただし,CDM 理事会に提出された PDD(プロジェクト設計書)によると,CER(認証
排出削減量)は 144,000MWh 全量でなく,116,768MWh 分の発電量となっている.発電よる
CO2 排出量削減分は 62,529t-CO2 /年で,そこからバガス以外の農業残さを輸送するための CO2
排出量 1,080t-CO2 を差し引いた 61,449t-CO2 /年が CER の対象となっている.
2.2.3 バイオエタノール工場
Khon Kaen Alcohol Company Ltd.は,2006 年 1 月からバイオエタノールの生産を開始した.
エタノール工場の建設には,インドの Praj Industries 社の技術を導入している.Praj
Industries 社は,世界中に 200 以上のエタノール工場を建設している世界的なプラントメーカ
ーである.Praj Industries 社は,1t のモラセスから 260L のエタノールを生産できることを保
証しているが,この工場では,280L 以上のエタノールを生産している.
工場の年間稼動日数は 300 日で,一日あたり 15 万 L,年間 4,500 万 L のエタノールを生産
する.現在は,原料にはモラセスのみを用いている.ケーンジュースも原料として利用できる
が,今は砂糖の価格が高いため全量砂糖生産にまわしており,エタノールの原料としては利用
していない.他の原料としてキャッサバの利用を視野に入れており,将来的には市況によりキ
ャッサバとサトウキビの両方を利用できるようにするつもりである.キャッサバを利用する場
合は,キャッサバスターチの最終製品ではなく,精製する途中段階の水分量が多く質の悪いス
ターチを購入して自社の工場で脱水処理をする予定であり,既にそのためのプラントの建設を
開始している.
現在は,工業用エタノールを販売するライセンスを取得していないため,燃料用エタノール
としてしか販売できない.しかし,将来,ライセンスを取れば,工業用エタノールの輸出を行
うかもしれないとのことである.
Khon Kaen Alcohol Company Ltd.では,現在,プロジェクトディベロッパーをイギリスの
Agrinergy Ltd,プロジェクト参加国をデンマークとして,CDM 理事会に新方法論を提出して
いる(NM0082).一度目の申請で B 評価を受け PDD を再提出したが,2006 年 5 月の CDM 理
事会でも,ダブルカウントやリーケージなど未解決の問題が多数見られると判断されたため,
まだ未承認である.
19
写真 2.13 エタノール工場外観
2.2.4 バイオ肥料工場
バイオ肥料工場では,製糖プロセスから発生するフィルターケーキ,バイオエネルギー発電
所から発生する灰,エタノール工場からの蒸留排液を利用して肥料を生産している.肥料の生
産量は,年間で約 10 万 t である.肥料は,販売するものと近隣のサトウキビ栽培農家に無料で
提供するものとがある.
写真 2.14 エタノール工場からの排液と製造された肥料
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3. キャッサバチップ工場
タイにおいては,キャッサバチップ工場の多くは小規模経営であり,キャッサバ農場の近隣
に立地している.チップ工場では,農場から運び込まれたキャッサバを細かく切断し乾かすこ
とを主たる作業としている.そのため,簡易な加工機械やブルドーザーなどの輸送機械と,天
日干しのための広い整地を所有している.
生産されたキャッサバチップのほとんどは,現在,中国を主とした海外へ家畜飼料として直
接輸出されている.過去においては,EU 向けにチップをさらにペレットへ加工して輸出して
いたが,EU 内における品質の厳格化と価格競争力の低下により,今ではほとんど輸出される
ことはなくなった.
今回の調査では,Khon Kaen 県内のキャッサバチップ工場を見学し,費用や売り上げ,キャ
ッサバ市場に関する情報,作業工程や使用機器についてヒアリングを行った.
3.1 作業工程
キャッサバチップの製造は,以下のようなプロセスを経て行われる.
1. Weighing(重量の計測)
原材料となるキャッサバは,キャッサバ栽培農家によりチップ工場に運び込まれる.キャッ
サバの生芋(Cassava Fresh Roots)は収穫すると腐敗の進行が速く保存性がないため,収穫
後すぐに工場へと輸送される(写真 3.1).
写真 3.1 チップ工場へ搬入されるキャッサバ生芋
チップ工場では,まず初めに工場までキャッサバを輸送してきたトラックごと,計量器(ト
ラックスケール)でその重量を計測する(写真 3.2).工場の入り口に鉄製の板が張られた部分
があり,そこが重量センサーになっている.トラックスケールは,キャッサバをトラックに積
載したままでキャッサバの正味重量を計量することができる.計測された重量は,電光掲示板
でキャッサバ搬入者に示される(写真 3.3).
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写真 3.2 重量計測器
写真 3.3 重量掲示板
このようにして計測された重量合計からトラック重量を差し引いたものが,キャッサバの買
い取り重量となる.キャッサバ栽培農家への支払いは,現金によりその場で行われる(写真 3.4).
農家には現金とともに支払いの明細書が渡される(写真 3.5).明細書の左側には取引が行われ
た日付や時間が,右側には計測された重量やそれに伴い支払われた金額などが記載されている.
今回の取引では,総重量が 10,060kg,トラックの重量が 4,395kg,キャッサバの重量が
5,665kg であったが,そこからタイ東北部特有の習慣として 10%分(566.5kg)が差し引かれ
るため,最終的なキャッサバの買い取り重量は 5,098.5kg となる.
買い取り重量の 5,098.5kg に単価(1.20Baht/t)を乗じた 6118.20Baht が買い取り価格とな
る.このチップ工場でのキャッサバの買い取り単価は,カセサートの場合は 1.20Baht/kg,ラ
ヨーンの場合は 1.00~1.05Baht/kg である.なお,この工場ではディーゼルの小売も行ってお
り,今回キャッサバを販売した栽培農家は 679.80Baht 分のディーゼルを購入したので,最終
的な支払いは 5,438.40Baht となった.
22
計測に用いている機器の費用は,計量器(トラックスケール)本体が 1 台 18 万 Baht,その
設置工事費が 12 万 Baht,さらに計量端末機が 1 台 5 万 Baht で,合計 35 万 Baht かかってい
る.ただし,これは 10 年前に設置した時の値段であるので,現在はもっと高くなっているとの
ことである.
写真 3.4 支払いの様子(手前が工場主,奥がキャッサバ栽培農家)
写真 3.5 支払い明細書
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2. Sand Removal(土砂の除去)& Chopping(破砕)
工場に運び込まれたキャッサバはトラックから降ろされ,工場敷地内の乾燥場の手前に山積
みにされる(写真 3.6).その後,網のついた破砕機にかけられ(写真 3.7),付着している土な
どが除去される.洗浄は行わず,皮もついたままである.破砕機の中には回転するブレードが
ついており(写真 3.8),これによって 5cm 程度の大きさに破砕する(写真 3.9).夏場に収穫
したものには土などはあまり付着しないので,直接,破砕する部分に入れるが,雨期に収穫す
ると土などが付着しているので,網を通してきれいにしてから破砕する.機械の価格は新しい
もので 1 台 12~15 万 Baht とのことである.
写真 3.6 山積みにされるキャッサバ
写真 3.7 キャッサバ破砕機
写真 3.8 破砕機のブレード
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写真 3.9 破砕後のキャッサバ
3. Drying(乾燥)
次に,破砕したキャッサバを天日干しすることにより乾燥させる.天日干しは,晴れた日に
一日中干すことを 3 回繰り返す.よって,トータルで 3 日間乾燥させることになる.天日干し
用の敷地は 3 ヶ所にわけられており,その都度キャッサバを移動させるため,1 回目と 2 回目,
3 回目は異なる場所で乾燥させることができる.
キャッサバチップは特殊なフィーダー車両により散布する(写真 3.10).フィーダー車両に
はエンジンはついておらず,他のエンジン付きの車両に接続して用いる.上部の広くなってい
る部分からキャッサバチップを入れると,中の口が開閉するようになっており,そこからキャ
ッサバチップを散布することができる(写真 3.11).フィーダー車両の価格は,中古で 1 台あ
たり 4 万 Baht である.
写真 3.10 フィーダー車両
写真 3.11 フィーダー車両開口部
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散布後は,フィーダー車両の後ろにツメのような部品をつけ,タテ・ヨコ・斜めに線を入れ
てキャッサバチップをひっくり返し,全ての面が乾くようにする(写真 3.12).チップの切り
返しに用いる部品の価格は,3,000~4,000Baht である.
写真 3.12 天日干しの様子
乾燥させたチップの収集には,搬入されたキャッサバの運搬に用いていたブルドーザーを使
用する.ブルドーザー本体は,日本製(東洋運搬機株式会社)であった.最大積載重量 2,100kg,
定格出力 83PS のもので,価格は中古で 1 台あたり 70~80Baht である(写真 3.13).
写真 3.13 日本製ブルドーザー
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チップを収集する際には,ショベルの先に新たに細長いショベルを付けて使用する(写真
3.14).チップ収集のためのアタッチメントは,横幅が 5m 程度もあるかなり細長いもので,す
くい上げるのではなく,かき集めるのに効率が良いように工夫されている.
写真 3.14 乾燥後チップ収集用アタッチメント
また,乾燥中に粉末状になってしまったものでもチップに混ぜて販売するため,粉末の乾燥
チップを掃除機のように吸い取って集めるための機械も所有している(写真 3.15).この機械
の価格は中古で 1 台あたり 8 万 Baht である.
見学を行った日は雨が降り出す可能性があったため,工場では乾燥中のチップを 1 ヶ所に集
め,ビニールシートを被せていた.チップが雨に濡れると,澱粉成分が外に流れ出て,澱粉含
有率の低い低品質のチップになってしまうため,チップが濡れないよう注意を払う必要がある
(写真 3.16).
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写真 3.15 粉末状のチップを収集する機械
写真 3.16 乾燥中のチップに覆いをする様子
4. Transport(輸送)
キャッサバは乾燥後でも日数が経過すると澱粉成分が減ってしまうため,キャッサバチップ
の出荷は乾燥が終了してから 3 日以内に行う.この工場では,4 社ほどの輸出業者に出荷して
いる.輸出業者の工場は,Ayutthaya 市や Chonburi 市にあり,出荷先までの輸送はチップ工
場側が負担する.出荷先までの輸送コストは,2006 年には 0.3Baht/kg であったが,2007 年は
原油価格の高騰にともない 0.4Baht/kg 強に値上がりした.チップの販売価格は 2.9~3.0Baht /
kg で,これに輸送コストを上乗せした 3.5Baht / kg で販売する.
高く売れるかどうかは,チップが含む水分量と砂の量によって決定される.通常,チップの
水分含有率は重量の 14%~15%,砂含有率は 5%程度である.したがって,水分と砂の合計含
有率 20%という値が標準の数値になる.それよりも含有率が大きくなる,例えば 22%になった
とすると,価格から 2%分が差し引かれる.20%よりも軽くなっても高く買われることはないた
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め,20%ちょうどを目指してチップを生産する.
チップのまま輸出するか,さらにペレット工場へ持って行きペレットに成型加工してから輸
出するかは,販売先の輸出業者が決定する.最近では EU からのペレットの需要が減少してい
るため,おそらく動物の飼料用として全量チップのまま中国へ輸出されているだろうというこ
とである.
3.2 工場経営の概況
3.2.1 原材料購入
Khon Kaen 県では,基本的には一年中キャッサバを収穫することができるため,年間を通し
て平均的にキャッサバ生芋は入荷される.強いて言えば,サトウキビの収穫最盛期である 12
月は,雇用者がサトウキビ農場へ行ってしまうため人手が不足し,最も入荷が少なくなる.キ
ャッサバ栽培農家は,収穫したキャッサバを工場まで運ぶのに,
1) 自分が所有するトラックで輸送する
2) トラックをレンタルして自分で輸送する
3) 収穫から輸送までを専門の業者に委託する
という 3 つの方法がある.1) や 2) の方法の場合,農家の売上は 6,000Baht/rai である.3)の
方法の場合,コストを差し引いた後に業者から購入価格として支払われる金額は 2,000~
3,000Baht/rai であり,かなり安く買われることになる.しかし,実際にはトラックを所有す
ることは難しく,7 割~8 割の農家は 3) の方法をとっている.
3.2.2 コスト構成と販売先
この工場では,常勤の労働者を 6 人雇用している.そのうち 1 人がチーフで,賃金は 1 月あ
たり 7,000Bant,残りの 5 人は持っている技術により 1 月あたり 4,000~6,000Baht と賃金に
幅がある.また,賃金以外のランニングコストとしてはディーゼルの購入がある.ディーゼル
は主に作業用の機械の運用,製品の出荷にともなうもので,1 月に 5,000~7,000L 消費する.
キャッサバチップは,もとのキャッサバ生芋の重量を 100%とすると,カセサートの場合は
45~50%,ラヨーンの場合は 32~42%重量分生産することができる.この工場では,1 日に 30
~40t のチップを生産している.現在の出荷先は,キャッサバチップ,ペレットの輸出業者の
みである.キャッサバの加工方法としては,キャッサバスターチ,さらにバイオエタノールが
あるが,今のところ,スターチ工場もエタノール工場もキャッサバ生芋から生産を行っている
ため,チップを販売することはない.また,現時点ではエタノール工場の生産規模が小さすぎ
て,この工場のように生産量が多い所から購入しても対応することができないだろうとのこと
である.しかし,将来的にスターチやエタノール生産においてチップの需要が生まれたら,値
段によっては販売する可能性も視野に入れている.
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4. キャッサバスターチ工場
4.1 工場概要
Sanguan Wongse Industries Co.,Ltd. (SWI) 社は, 1974 年に設立されたタイ最大手のキャ
ッサバスターチ生産企業である.今回の調査では,Nakhon Ratchasima 県にある SWI 社のキ
ャッサバスターチ工場を訪問した.当該工場は,総雇用者数 650 人,年間キャッサバ投入量が
約 73 万 t,年間スターチ生産が約 20 万 t の東南アジア最大規模のスターチ工場である.工場
の技術は,ドイツやフィンランドなどから導入している.
原料となるキャッサバは,契約している近郊のキャッサバ農家から購入しており,多少の変
動はあるが,一年中平均的に入荷される.それにともない,工場も 1 月の正月や 4 月の正月な
ど特別な祭日以外は一年中稼動している.
生産したスターチは,80%が工業用,20%が食品用として販売される.工業用では,出荷さ
れる製品の 8 割が製紙用であり,その他に GLUE(ガムテープや封筒の糊部分など),繊維用
(仕上げに光沢を出す)などに用いられる.食品用では,MSG(グルタミン酸ナトリウム)や
甘味料(ガム,ジュース),パンや酒,ゼリー,冷凍食品などに使われている.
キャッサバスターチには,
「Native Starch」と「Modified Starch」の 2 種類がある.
「Modified
Starch」は,製品の目的に応じた品質にするために,沈殿プロセスでキャッサバに化学物質を
混ぜたものである.製品の目的とは,例えば,糊として使用する製品ならば粘着力が強くなる
ように,食品の麺に用いられるものならば水分を吸収しないようにするということである.こ
れに対して,
「Native Starch」はキャッサバのみで作られたものである.バイオエタノールを
製造する場合は,「Native Starch」を用いる.
この工場では,生産の 8 割が「Native Starch」で,残りの 2 割が「Modified Starch」であ
る.「Native Starch」 は輸出向け,
「Modified Starch」は国内向けが多い.一日あたりの生産
量は,最大で 1 日あたり約 1000t(「Native Starch」と「Modified Starch」の合計)である.
3 年前は 1 日あたり約 750t であったので,生産効率は年々上昇していると言える.
「Modified
Starch」を作る際には,目的の製品によって温度や化学物質の管理をコンピューターで行わな
ければならず,専門の技術者も必要となるので,多額の投資を要する.
完成した製品の輸送はトラックにより行う.国内向けの場合は,全てトラックにより輸送す
る.輸出向けの場合は,最寄りの駅までコンテナで輸送し(10km),輸出港までは列車で運搬
する.国内向け製品輸送に用いるトラックは,自社で所有しているが,輸出向け製品の輸送に
用いるコンテナ,トラクターなどはレンタルする.輸送コストは平均で 1km あたり 0.4~
0.5Baht である.また,輸出向け製品の取引価格は,国内向け製品よりも若干高めに設定され
ている.
4.2 生産プロセス
キャッバスターチの製造は,以下の 8 つのプロセスから構成される.
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1. Sampling(サンプリング)
キャッサバ栽培農家から搬入されたキャッサバ生芋は,重量を計量してから澱粉含有率を計測
する.SWI 社の澱粉含有率の基準は重量の 30%である.農家への支払いは,キャッサバの重量
と澱粉含有率をもとに計算される.
2. Tail Cut(テイルカット)
重量と澱粉含有率の測定を終えたキャッサバは,ベルトコンベアーにより工場内へと運ばれる
(写真 4.1)
.ベルトコンベアーの途中に作業員がおり,キャッサバの一番先端の部分をカット
する(全てのキャッサバの先端をカットするわけではなく,目視による選択を行いカットする
のであるが,どのような基準で選択しているかは不明).切り落とされたテイルは木炭製造業者
に販売する(写真 4.2)
.
写真 4.1 工場内へ運ばれるキャッサバ
31
写真 4.2 テイルカットの様子とキャッサバテイル
3. Peel & Sand Removal(皮と土の除去)
ベルトコンベアーで上まで運ばれたキャッサバは,機械を通して皮や砂,土を除去される.除
去された皮はキノコ販売業者に販売され,キノコを栽培する土に混ぜられる.
写真 4.3 除去された皮と土
4. Grating(すりつぶし)
皮を除去されたキャッサバは,水で洗浄された後に破砕され,さらに細かくなるようにすりつ
ぶされる.
32
5.Extraction(抽出)
すりつぶされたキャッサバを遠心分離機にかけると澱粉が抽出される.澱粉成分抽出後の残り
のキャッサバパルプは除去される(写真 4.4).キャッサバパルプを除いた後は,水と澱粉が混
合した状態になっている.キャッサバパルプは他のものと混ぜて動物の飼料とすることができ
るので,飼料生産業者に販売する.
写真 4.4 キャッサバパルプ
6. Centrifugation(脱水)
キャッサバパルプを除去した後の澱粉と水分が混ざった液体を,水の分子よりは大きいが澱粉
の分子よりは小さい穴を持つ布で包み,回転させて脱水する.このプロセスより生成されるも
のを「wet cake」と呼ぶ.この状態では,まだ水分を 35%程度含んでおり,そのため 5 日間し
か保存しておくことができない.キャッサバからバイオエタノールを製造する場合,原料とな
るのはこの「wet cake」である.澱粉が水に沈殿している状態からでもエタノールを作ること
は可能であるが,マイナスイオンが含まれているため,澱粉を液化・糖化するプロセスで投入
する酵素の反応が悪くなってしまう.したがって,完全に脱水し終わる前の段階の状態,すな
わち「wet cake」を熱水と混ぜて,液化・糖化を行うのが合理的であるということである.た
だし,前述のように「wet cake」は保存性がないため,脱水後すぐにエタノールを作らなけれ
ばならない.
33
7. Drying(乾燥)
「wet cake」をスプレードライヤーで乾燥させ,水分含有率を 12~13%にまで低下させる.12
~13%が標準的な水分含有率であり,この状態になれば 1 年間保存することが可能になる.
8. Sizing(サイズ調整)
乾燥後は,冷却しゴミをふるってから,目的の製品に応じたサイズになるように調整する.そ
の後,包装され出荷される.
写真 4.5~4.7 は,以上のプロセスごとの生成物を右から順番に並べたものである.
写真 4.5 は,
原料となるキャッサバの生芋である.写真 4.6 は,右端がカットされたテイル,真ん中の 2 つ
が除去された皮や土,左端が皮を除去し洗浄したキャッサバである.写真 4.7 は,右端がキャ
ッサバパルプ除去後の状態で(プロセス 5),下に沈殿しているのが澱粉である.右から 2 番目
がキャッサバパルプ,左から 2 番目が「wet cake」,そして左端が最終製品である.
写真 4.5 キャッサバ生芋
写真 4.6 プロセス 2~3 の生成物と除去物
34
写真 4.7 プロセス 5~8 の生成物
キャッサバパルプの利用について
原料となるキャッサバ生芋の重量を 100%とすると,生産プロセスから発生するキャッサバ
パルプはそのうちの 22%を占める.現在は,キャッサバパルプを工場の敷地内で天日干しにし
て水分を蒸発させ,家畜飼料として販売している.しかし,これを発電の燃料として利用する
計画があり,来年にもキャッサバパルプ用の発電プラントを建設する予定である.
写真 4.8 キャッサバパルプを天日干しする様子
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バイオエタノール製造について
ある程度はバイオエタノールの製造も視野に入れているが,現在,キャッサバスターチの需
要先を確保できていることもあり,自らがエタノールプラントを建設することは考えていない.
エタノール生産については,工場建設の認可に多額のお金が必要である,国の政策としてもま
だ安定していないなどの理由から,現時点ではあまり積極的ではない.
キャッサバ利用エタノール工場の操業が上手く行っていない現状に対しては,原材料確保の
難しさが最も大きな理由であるとの見解である.SWI 社では,キャッサバ栽培についての農家
の指導を行ったり,農家からの買い取りの際にもなるべく中間業者を通さないようにして栽培
農家の所得が増えるようにするなど,キャッサバ栽培農家との信頼構築に努力を続けてきてい
る.こうした長年の努力の上に農家との良好な関係を築いているのであり,エタノールプラン
トを建設したからと言って急にキャッサバを買い取ろうとしても,農家は売ろうとはしない.
したがって,これまでにキャッサバを扱ってきた実績のない工場が,安定的に原材料を確保す
ることは難しいのではないか,とのことである.
4.3 バイオガスプラント
この工場では 1 日あたり 9,600m3 の水を使用しており,これとほぼ同量の排水が発生するが,
生産プロセスから出る排水には大量の有機物が含まれている.そこで工場は,Korat Waste to
Energy 社というバイオガスプラント会社と提携して,その排水から発生する CH4 を回収しバ
イオガスとして利用している.具体的には,ラグーンに嫌気性調整反応装置を設置し,工場排
水の COD を削減するとともに,大気中に放出されている CH4 を回収している.工場は工場排
水を無料で Korat Waste to Energy 社に引き渡し,生産されるバイオガスを購入している.
9,600m3/day の廃水から 135,000m3/day のバイオガスが発生しており,バイオガスにより Wet
Cake を乾燥させるためのボイラー用燃料として使用している重油を完全に代替することがで
きる.重油の消費量は,1 月あたり 600,000L である.工場は,Korat Waste to Energy 社から
バイオガスを 1L あたり 8Baht で購入している.バイオガスにより代替される重油の価格は
12Baht / L であるので,スターチ工場にとっても利益がある仕組みとなっている.さらに,乾
燥プロセスでの重油を代替しても,まだバイオガスの量に余裕があるため,残った分で発電を
行っている.発電電力量は,1 ヶ月あたり 72MWh である.工場では 7.5MW の設備容量分の
電力が必要だが,現在の容量は 3MW とのことである.
工場敷地内には 600rai の排水処理池があり,そこでメタン回収後の排水の処理を行っている.
7 つの排水処理池で,混合物を沈殿させ,その上澄み液を取る作業を繰り返す.上澄み液は再
利用し,貯水池の底に溜まった沈殿物は,肥料製造業者に販売している.排水は,最終的に BOD,
COD を最初の 90%減少させ,魚が住めるくらいの水質にまで処理しているということである.
なお,Korat Waste to Energy 社はイギリスのコンサルタント会社 Eco Securities Group をパ
ートナーとして,メタン回収事業を CDM 理事会に申請しており,2005 年 5 月に既に承認され
ている.この PDD によると,年間 9,506t の重油が代替され,20,000MWh の発電が行われる
結果,10 年間で 3,127,745t-CO2 が削減できるということである.
36
5. おわりに
燃料用エタノールの導入においては,様々な選択が存在する.まず,ガソリンと燃料用エタ
ノールの間での選択,そして,農家の栽培作物の選択である.さらに,砂糖工場では,砂糖生
産とエタノール生産の間での選択があり,キャッサバ加工工業でも,キャッサバチップ,キャ
ッサバスターチ,キャッサバ原料エタノールの間での生産の選択がある.
一方,燃料用エタノールの生産は,サトウキビ,キャッサバの栽培農家をはじめとして,製
糖工場,キャッサバ加工工場,農業生産における日雇い労働者など,極めて広い範囲の経済主
体に影響を及ぼす.同様に,燃料用エタノール生産を気候変動の観点から見た場合にも,使用
時のみならず,これらの非常に幅広い生産段階における環境影響が存在する.
したがって,燃料用エタノール生産の導入に関する評価を行う際には,原料生産やエタノー
ル生産単独での評価ではなく,社会全体としての影響を評価しなければならない.また,製糖
工場の調査で見た通り,燃料用エタノールの生産においては,副産物,廃棄物の利用を通じた
複数の産業との有機的なつながりがある.これらは,一つの生産システムとしてとらえ,評価
されるべきである.
燃料用エタノールの生産は,CO2 排出量の削減,エネルギー安全保障,所得格差の改善など
多数の目的関数を持つ.また,消費者の受容性などの社会的条件,原油価格の動向などの経済
的条件などさまざまな条件下におかれている.そしてこれらの目的関数,制約条件は時にトレ
ードオフの関係にある.例えば,燃料用エタノールを普及させるためのインセンティブとして
小売価格を低く抑えることは,原料となる作物を栽培する農家の収入の減少につながる.した
がって,燃料用エタノールの導入についての選択肢の評価においては,これらの目的関数,制
約条件を同時に考慮し,社会的なバランスを考えて政策を実行しなければならない.今後は,
こうした包括的な評価を行うことのできるモデルを開発し,どのような選択をすることがタイ
にとって持続可能であるのかについて,定量的評価を行っていく予定である.
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