Comments
Description
Transcript
要旨集 - 放射線医学総合研究所
Molecular Imaging 2007 Innovation in Drug Discovery Process 分子イメージング研究シンポジウム 2007 −創薬プロセスの革新− 2007 年 1 月 18 日・19 日 18 and 19 January 2007 神戸国際会議場 International Conference Center Kobe 〒650‐0046 神戸市中央区港島中町 6‐9‐1 TEL: 078‐302‐5200 / FAX: 078‐302‐6485 主催 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人放射線医学総合研究所 Organized by RIKEN and the National Institute of Radiological Sciences (NIRS) 後援 文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構、神戸市、 財団法人先端医療振興財団、日本分子イメージング学会、 社団法人日本薬学会、社団法人日本化学会、社団法人日本医学放射線学会、 日本薬物動態学会、日本磁気共鳴医学会、 有限責任中間法人日本核医学会 独立行政法人中小企業基盤整備機構、 株式会社ミッド研究所、株式会社マイクロン Supported by Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT)of Japan Japan Science and Technology Agency (JST) Kobe City Foundation for Biomedical Research and Innovation Japanese Society for Molecular Imaging The Pharmaceutical Society of Japan The Chemical Society of Japan Japan Radiological Society The Japanese Society for the Study of Xenobiotics Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine and Japanese Society of Nuclear Medicine Organization for Small & Medium Enterprises and Regional Innovation, JAPAN MIDD Institute Inc. Micron Co., Ltd. 目 次 組織委員会名簿∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙1 シンポジウム開催の趣旨∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙2 会場周辺図 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙3 プログラム ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙4 挨拶・講演者一覧∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙6 Program∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙8 Abstracts∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙11 基調講演 井村裕夫∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙12 菅野 巖∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙14 渡辺恭良∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙16 鈴木正昭∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙18 H. Kolb ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙20 井戸達雄∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙22 鈴木和年∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙24 佐治英郎∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙26 B. Långström∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙28 飯田秀博∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙30 和田康弘∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙32 塚田秀夫∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙34 尾上浩隆∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙36 L. Farde∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙38 谷内一彦∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙40 須原哲也∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙42 藤林靖久∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙44 佐賀恒夫∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙46 尾内康臣∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙48 千田道雄∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙50 西村伸太郎∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙52 馬屋原宏∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙54 杉山雄一∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙56 事務局∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙58 分子イメージング研究シンポジウム 2007 組織委員会 委員長 渡辺恭良 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラムプログラムディレクター 兼 分子プローブ動態応用研究チームチームリーダー 副委員長 藤林靖久 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 副センター長 委員 鈴木正昭 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム副プログラムディレクター 兼 分子プローブ設計創薬研究チームチームリーダー 尾上浩隆 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム 分子プローブ機能評価研究チームチームリーダー 菅野 巖 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター長 佐賀恒夫 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子病態イメージング研究グループリーダー 須原哲也 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究グループリーダー 鈴木和年 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子認識研究グループリーダー 1 シンポジウム開催の目的 分子イメージング技術は生体内における遺伝子やタンパク質などの分子の量や働きを生物が生 きたままの状態で画像化するための技術であり、疾患に関係する分子を可視化・指標化することで 様々な疾患の高度な診断を可能にし、また新薬候補物質の効果を視覚的・定量的に理解できること で新薬開発の迅速化やコストの削減も可能にしつつあります。欧米諸国ではすでに国家プロジェク トとして動き出しており、各要素技術は日々進歩しています。一方、わが国においては産学官の各 機関がそれぞれの得意な分野・課題について、技術開発を行い、世界をリードする技術水準を持っ ており、全体を俯瞰した国家戦略に取り組むことが重要であるという共通認識に立ちました。 かかる状況の中、ポストゲノム時代における生命の統合的理解を目的に、分子イメージングの基盤 技術を確立する「文部科学省分子イメージング研究プログラム」が理化学研究所と放射線医学総合 研究所を研究拠点に、大学、民間企業とも連携して平成 17 年度よりスタートしました。具体的に は、PET を中心とした分子イメージング研究について、広く分子動態・薬物動態の研究を行うこと により、疾患の早期診断法・治療法確立のための技術開発、創薬のプロセス改革のための技術開発 を行い、これにより、国民の健康増進や、医療や製薬等の産業の国際競争力の強化に貢献するもの であります。 本シンポジウムでは海外からの招待講演者を含め 500 名程度の研究者等の参加を得て、分子イメ ージング研究の現状と今後の展望について意見交換を行います。今回は、特に、分子イメージング の創薬への活用を目指した研究に焦点を当てて、研究基盤の更なる整備のために何を成すべきか、 また、法規制をはじめとした様々な障害因子の克服に関する討論を中心にしたいと思います。これ を通じて、分子イメージング研究の推進・発展のための相互啓発、相互理解、国際交流を深め、ま た、多くの製薬、医療機器等関係企業の協力を得て、研究成果を速やかに技術移転・社会還元する ための産学官連携を推進する環境を醸成する機会としたいと思います。 組織委員長 渡辺 恭良 2 会場案内 理研 分子イメージング研究プログラム研究施設 3 プログラム 平成 19 年 1 月 18 日(木) 12:30‐12:40 開会の辞 玉尾皓平(理化学研究所フロンティア研究システム長) 12:40‐12:50 文部科学省挨拶 12:50‐13:00 プログラムディレクター挨拶 藤木完治(文部科学省大臣官房審議官) 横山哲夫 (独立行政法人科学技術振興機構キーテクノロジー研究開発領域運営統括) 13:00‐13:10 神戸市長挨拶 13:10‐13:25 主催者挨拶 13:25‐13:55 基調講演 「創薬プロセスのイノベーションのために-ICR の提唱-」 矢田立郎 野依良治(理化学研究所理事長) 座長:玉尾皓平 井村裕夫(財団法人先端医療振興財団理事長・ 科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)首席フェロー) 13:55‐14:45 分子イメージング研究拠点について 「放医研分子イメージング研究センターの研究のゴール」 座長:横山哲夫 菅野 巖(放医研) 「分子イメージング研究による創薬プロセスの革新: 理研分子イメージング研究プログラムの概要」 14:45‐15:30 コーヒーブレイク 15:30‐16:45 創薬を目指した新しい化学による分子イメージング 渡辺恭良(理研) 座長:佐治英郎 「PET トレーサーの新合成法: 疾患対応型新規分子プローブの創製と高速 C‐メチル化反応の開発」 鈴木正昭(理研) “Discovery of Molecular Imaging Agents using Click Chemistry and Microfluidics.” Hartmuth Kolb(Vice President, Siemens MI Biomarker Research, USA) 「18F 標識薬剤合成法の変遷」 16:45‐18:00 井戸達雄(福井大学) 創薬のための分子プローブ開発と革新的合成システム化 座長:鈴木正昭 「様々な高品位 PET 用分子プローブの自動生産」 「創薬のための分子プローブの設計・開発」 鈴木和年(放医研) 佐治英郎(京都大学) “Molecular Imaging ‐ a tracer approach to in vivo basic and clinical science” Bengt Långström(Prof., Institute of Chemistry, University of Uppsala, Uppsala, Sweden) 18:30‐20:30 パネル懇談会(会場:クオリティホテル神戸 15F バルセロナの間) 4 平成 19 年 1 月 19 日(金) 9:00‐ 9:50 創薬のための小動物分子イメージング 「動態機能の撮像と解析にかかる最近の進歩」 座長:菅野 巖 飯田秀博(国立循環器病センター) 「小動物分子イメージング用高分解能 PET 装置の現状」 9:50‐ 10:40 和田康弘(理研) 創薬と再生医療の分子イメージング 「創薬と再生医療の分子イメージング」 座長:畑澤 順 塚田秀夫(浜松ホトニクス株式会社) 「再生医療におけるサルの病態モデルを用いた分子イメージング」 10:40‐10:55 休憩 10:55‐11:45 分子イメージング:薬物動態と臨床薬理 尾上浩隆(理研) 座長:杉山雄一 「東北大学における分子イメージング研究戦略と創薬科学への応用」 「分子イメージング:薬物動態と臨床薬理」 谷内一彦(東北大学) 須原哲也(放医研) 11:45‐13:15 ポスター討論 13:15‐14:30 分子イメージング診断と治療の指標 座長:千田道雄 「PET 分子イメージング技術によるがんの質的診断から治療へ:低酸素がんを標的として」 藤林靖久(放医研・福井大学) 「腫瘍イメージングの臨床:現状と今後の展開」 佐賀恒夫(放医研) 「神経症候学の謎を解き明かす分子イメージング」 尾内康臣(県西部浜松医療センター) 14:30‐14:45 休憩 14:45‐15:35 創薬に分子イメージングを活用するためのシステム 座長:谷内一彦 「医薬品開発に PET を活用するために必要なデータ収集法と解析法の標準化」 千田道雄(先端医療振興財団) 「創薬に分子イメージングを活用するためのシステム」~製薬企業の立場から~ 15:35‐16:25 西村伸太郎(アステラス製薬株式会社) マイクロドージングコンセプトと分子イメージングの導入による創薬の加速化 座長:須原哲也 「治験としてのマイクロドーズ臨床試験-実施に必要な非臨床安全性試験」 馬屋原宏(株式会社国際医薬品臨床開発研究所) 「マイクロドージングコンセプトと分子イメージングの導入による創薬の加速化: 薬物動態学的に捉える」 杉山雄一(東京大学) 16:25‐16:35 閉会の辞 米倉義晴(放射線医学総合研究所理事長) 16:45‐18:00 分子イメージング研究プログラム創薬候補物質探索拠点施設ツアー(神戸 MI R&D センター) 5 挨拶・講演者一覧(講演順) 玉尾皓平 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム長 藤木完治 文部科学省大臣官房審議官 横山哲夫 独立行政法人科学技術振興機構キーテクノロジー研究開発領域運営統括・ 株式会社日立製作所研究開発本部 主管研究長 矢田立郎 神戸市長 野依良治 独立行政法人理化学研究所理事長 井村裕夫 財団法人先端医療振興財団理事長・ 科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)首席フェロー 菅野 巖 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター長 渡辺恭良 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム プログラムディレクター 兼 分子プローブ動態応用研究チーム チームリーダー 鈴木正昭 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム 副プログラムディレクター 兼 分子プローブ設計創薬研究チーム チームリーダー Hartmuth Kolb 井戸達雄 鈴木和年 佐治英郎 Vice President, Siemens MI Biomarker Research, USA 福井大学高エネルギー医学研究センター PET 工学部門教授・ 独立行政法人科学技術振興機構キーテクノロジー研究開発領域主管 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子認識研究グループリーダー 京都大学大学院薬学研究科教授 Bengt Långström Prof., Institute of Chemistry, University of Uppsala, Uppsala, Sweden 飯田秀博 国立循環器病センター研究所先進医工学センター放射線医学部部長 和田康弘 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム分子イメージング動態応用研究チーム研究員 塚田秀夫 浜松ホトニクス株式会社中央研究所 PET センター長 尾上浩隆 独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム分子プローブ機能評価研究チーム チームリーダー 谷内一彦 東北大学大学院医学系研究科機能薬理学分野教授 須原哲也 独立行政法人放射線総合医学研究所分子イメージング研究センター 藤林靖久 佐賀恒夫 分子神経イメージング研究グループリーダー 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター副センター長・ 福井大学高エネルギー医学研究センターセンター長 独立行政法人放射線総合医学研究所分子イメージング研究センター 分子病態イメージング研究グループリーダー 6 尾内康臣 千田道雄 県西部浜松医療センター・先端医療技術センター医長 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター客員教授 財団法人先端医療振興財団先端医療センター分子イメージング研究グループリーダー 西村伸太郎 アステラス製薬株式会社研究本部創薬推進研究所先端技術研究室長・ 財団法人先端医学薬学研究センター新薬研究開発部長 馬屋原 宏 株式会社国際医薬品臨床開発研究所(インクロム)理事・品質保証部部長 杉山雄一 東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室教授・ 米倉義晴 独立行政法人科学技術振興機構キーテクノロジー研究開発領域主管 独立行政法人放射線医学総合研究所理事長 7 Program Thursday, 18 January 12:30‐12:40 Opening address Dr. K. Tamao (Director of Frontier Research System, RIKEN) 12:40‐12:50 Address by MEXT Mr. K. Fujita (Research Promotion Bureau, MEXT of Japan) 12:50‐13:00 Address by Program Director Dr. T. Yokoyama (Program Director of Molecular Imaging Program of the MEXT, JST) 13:00‐13:10 Address by Mayor of Kobe City 13:10‐13:25 Address by Organizer 13:25‐13:55 Keynote Lecture Mr. T. Yada (Mayor of Kobe City) Dr. R. Noyori (President of RIKEN) Dr. H. Imura (President of Foundation for Biomedical Research and Innovation) 13:55‐14:45 Session 1 ʺIntroduction of Molecular Imaging Programʺ Dr. I. Kanno (Director of Molecular Imaging Center, NIRS) Dr. Y. Watanabe (Director of Molecular Imaging Research Program,FRS, RIKEN) 14:45‐15:30 BREAK 15:30‐16:45 Session 2 ʺMolecular Imaging with New Chemistry Oriented to Drug Discoveryʺ Dr. M. Suzuki (Leader of Molecular Probe & Drug Design Laboratory, Molecular Imaging Research Program, FRS, RIKEN) Dr. H. Kolb (Vice President, Siemens MI Biomarker Research, USA) Prof. T. Ido (Prof., Biomedical Research Center,University of Fukui Faculty of Medical Sciences) 16:45‐18:00 Session 3 ʺDevelopment of Molecular Probe and Automatic Synthesis System for Drug Discoveryʺ Dr. K. Suzuki (Leader of Molecular Probe Group, Molecular Imaging Center, NIRS) Prof. H. Saji (Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto Univ.) Prof. B. Långström ( Institute of Chemistry, University of Uppsala, Uppsala, Sweden) 18:30‐20:30 Meeting with buffet (Barcelona room, Quality Hotel Kobe) 8 Friday, 19 January 2007 09:00‐09:50 Session 4 ʺMolecular Imaging of Small Animals for Drug Discoveryʺ Dr. H. Iida (Head of Department of Investigative Radiology, Advanced Medical Engineering Center, National Cardiovascular Center) Dr. Y. Wada (Molecular Probe Dynamics Laboratory,Molecular Imaging Research Program, FRS, RIKEN) 09:50‐10:40 Session 5 ʺMolecular Imaging for Drug Discovery and Regenerative Medicineʺ Dr. H. Tsukada (Director of PET Center, Central Research Laboratory, Hamamatsu Photonics K.K.) Dr. H. Onoe (Leader of Functional Probe Research Laboratory, Molecular Imaging Research Program, FRS, RIKEN) 10:40‐10:55 BREAK 10:55‐11:45 Session 6 ʺMolecular Imaging in Pharmacokinetics and Clinical Pharmacologyʺ Prof. K. Yanai (Department of Pharmacology, Tohoku University School of Medicine) Dr. T. Suhara (Leader of Molecular Neuroimaging Group, Molecular Imaging Center, NIRS) 12:40‐13:15 Poster Session 13:15‐14:30 Session 7 ʺDiagnosis with Moleculars Imaging and Therapeutic Indicationʺ Prof. Y. Fujibayashi (Deputy Director of MIC of NIRSand Director of Biomedical Research Center, University of Fukui Faculty of Medical Sciences) Dr. T. Saga (Leader of Diagnostic Imaging Group,Molecular Imaging Center, NIRS) Dr. Y. Ouchi (Head of Positron Medical Center, Hamamatsu Medical Center) 14:30‐14:45 BREAK 9 14:45‐15:35 Session 8 ʺEnvironments for Applying Molecular Imaging to Drug Discovery and Developmentʺ Dr. M. Senda (Director of Molecular Imaging, Institute of Biomedical Research and Innovation) Dr. S. Nishimura (Astellas Pharma Inc.) 15:35‐16:25 Session 9 ʺAcceleration of Drug Discovery by Microdosing Concept and Molecular Imagingʺ Dr. H. Mayahara (Executive Director of InCROM) Prof. Y. Sugiyama (Graduate School of Pharmaceutical Sciences,the University of Tokyo) 16:25‐16:35 Closing Address Dr. Y. Yonekura (President of NIRS) 16:45‐18:00 Tour of RIKEN New Facility in Kobe (Kobe MI R&D Center) 10 Abstracts 11 創薬プロセスのイノベーションのために-ICR の提唱- 井村 裕夫 財団法人先端医療振興財団理事長 科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)首席フェロー ゲノム、ポストゲノム研究の進歩によって、新しい薬剤のターゲットになる候補物質は多数見出 されつつあるにもかかわらず薬剤の開発は遅れており、新薬の申請は欧米でもわが国でも減少しつ つある。特にわが国では新薬の臨床試験にも問題があって、わが国で開発された薬剤候補の臨床試 験が欧米で先行して行われる傾向にある。また、今後臨床試験は国際共同試験として行われる動き にあるが、わが国の状況が改善されなければ国際的な共同試験にも遅れるものと懸念されている。 従って創薬のプロセスを改善して、わが国から新薬を生み出していくことは、緊急の課題であると いえよう。そのためには、薬剤開発に関わる制度を改善することと、開発のプロセスを検討して安 全性、有効性を評価する新しいツールを開発することが必要となる。 科学技術振興機構の CRDS では昨年末から委員会を組織して、研究開発のイノベーションについ て検討し、あらたに ICR(Integrative Cerelity Research)を提案した。ICR では、研究開発のゴー ルを目指して統合的に研究を進めること、研究の各プロセスをできるだけ効率化して期間の短縮と 費用の削減を図ること、臨床研究に関わる基盤を整備して研究の推進を図ること、制度の改革を進 めることなどを提言している。その中で、技術開発としては非臨床試験とフェーズ1の間のマイク ロドージングなどのツールの研究、有効性を判断するための分子イメージングや生化学的手法の研 究、有害事象を予測するための研究などが必要である。特に分子イメージングは、単に薬物動態や 体内分布を知るためだけでなく、有効性を評価するマーカーとしても、今後広く応用されるものと 期待されている。 12 13 放医研分子イメージング研究センターの研究のゴール 菅野 巖 独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 放医研の分子イメージング研究センター(以下、MIC)は、世界最大級の設備を備えた PET セ ンターであり、放射性プローブの超高比放射能など他の追従を許さない優れた技術を持っている。 本題では MIC の分子イメージング研究センターとしての優位点をまとめた上で我々が目指す研究 のゴールを探る。MIC の特長を以下に挙げる。 1. 超高比放射能:世界標準の比放射能レベルより 1 桁~2 桁優れており、これによりプローブの 影響が無視できる定量的な神経受容体のイメージングが可能になる。 2. 豊富なプローブライブラリ:これまで開発してきた豊富な放射性プローブがあり、これらを用 いて目的に応じた多彩な臨床研究が可能になる。 3. 高頻度供給能力:豊富なプローブライブラリからそれぞれが 1 日数回に渡って供給できる能力 を持つため、平行した複数の臨床研究プロトコールが可能になる。 4. マルチモダリティ計測: PET プローブだけでなく MRI プローブの開発も始め PET と MRI の 両者の機能情報を融合した新しい分子イメージング研究が可能になる。 5. 充実した動物実験用設備:複数の動物 PET(MicroPET)と高磁場(7T)MRI を備え、新規プ ローブや新規動物モデルの前臨床試験が容易に可能になる。 6. ハードウエアの開発能力:PET 検出器や MRI アンテナの開発能力を有し、それぞれの次世代装 置へ向けた機器メーカへと技術的インターフェースが可能である。 MIC はこれらの世界屈指の基盤技術をもとに、精神神経疾患研究ではこれまでの定量的受容体測 定による治療薬の適正用量開発などの実績の上に精神疾患の治療の客観的評価法の開発やアルツ ハイマー病などの早期診断と治療法の開発を推進し、腫瘍疾患研究では重粒子治療の治療評価の他 に新規プローブを開発し悪性腫瘍に対する早期発見と治療技術を開発する。これらの研究のゴール は認知症やガンの超早期診断から治療とその評価まで一貫して無侵襲で行う医療システムの開発 である。 また、これらを支える基盤技術自身も、プローブ開発研究では比放射能を理論値まで高めた放射 性プローブを目指すことにより生理活性を無視できる新しいトレーサ解析法領域を切り開く可能 性がある。また、ハードウエア研究では極限の高解像力と高感度を目指した次世代 PET 技術と MRI と PET を合体技術の実現により高感度と高精度解剖が必要な精神疾患や超早期ガンの診断能力の 飛躍的向上を目指したい。 14 15 分子イメージング研究による創薬プロセスの革新:理研分子イメージング研究プログラムの概要 渡辺 恭良 独立行政法人理化学研究所 フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)等による生体分子イメージングの手法を用いて、 病態の分子医学的把握とその情報を有効に用いた薬効評価、また、従来の血中動態だけでない標的 細胞・分子への薬物動態を捉えることができる。特に、“ヒトに対しての創薬”を行っていくために、 不可欠の方法である。近年、世界的に分子イメージング研究が急速に進められており、この領域で も日本が強みを持つ創薬科学、化学、ライフサイエンス、先進的物理工学・機器開発の力を活かし た統合的なプログラムを推進することが絶対必要と考えられてきた。 分子の持つ情報は、構造と機能だけではない。どの細胞内小器官に、どの細胞に、どの臓器に、 というような「場」の情報、そして、どのような時間経過で発現し消長するかという時間情報がこ れに加わる。その上で、様々な分子間での相互作用が起こり、結合‐解離‐変化の中で動的に機能を 果たしている。生体分子イメージングは、特に、この「場所」と「時間」情報に加えて、機能と関 わる定量的な分子情報を提供する。病態研究はヒトを対象にしているだけに、動物モデルでの研究 も行うが、最終はヒト病態において、関連分子の変化量を定量化する必要がある。それは、健常者 との比較であったり、治療効果も含めた病態の変化による比較であったりする。その際、単なる 2 群間の引き算でなく、様々な症状の重篤度との相関や、治療効果度との間の相関を導くことが可能 である。同一人で長期的な追跡研究やゲノム情報との対照研究も行われる。遺伝型(Genotype)と 表現型(Phenotype)との関連について、橋渡し的研究に最も役立つのは、分子イメージングであ り、真の意味での実証系を持ち込むことにより、医療/医学も経験型の学問から、Evidence‐based medicine へとパラダイム変換を遂げていく。 動物・ヒトで同一個体での薬物動態を研究できること、薬剤到達システム(DDS)の開発、標的 分子以外への集積を知ることによる副作用情報、治療効果の標的分子に対する定量的把握、ゲノム 情報との適合と乖離、複合医薬の検定等々、創薬に果たす生体分子イメージングの役割は、大きく クローズアップされている。研究の現状では、どのような研究体制で最適な分子プローブのレパー トリーを作るか、どうして創薬の早い時期で分子イメージングの導入を図るか、First‐in‐man の研 究のためにマイクロドージング概念の導入を我が国でどれだけ迅速に行うことができるか、解決す べき問題が山積している。我々は、科学技術振興機構・国際共同研究(1993‐1997 年) 、日本学術振 興会・未来開拓学術研究事業(1998‐2003 年) 、文部科学省学術創成研究(2001‐2006 年)のプロジ ェクトを中心に PET を用いた分子イメージング研究を行ってきた。平成 17 年度より、文部科学省 分子イメージングプログラムが開始され、その枠組み(オールジャパン研究推進体制)の中で、理 研が創薬候補物質探索拠点に選出された。2006 年秋、神戸市に世界有数の研究施設が竣工し、分子 イメージング研究が拍車をかけて推進されることになった。ここでは、主に、生体分子イメージン グの創薬への有用性について実例を示しつつ、オールジャパン研究体制の拠点としての理研分子イ メージング研究プログラムの研究の方向性について述べたい。 16 17 PET トレーサーの新合成法: 疾患対応型新規分子プローブの創製と高速 C‐メチル化反応の開発 鈴木 正昭 独立行政法人理化学研究所 フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム これまで生命科学研究は生体機能発現機構の分子レベルでの解析を中心に、個々の生理作用にお ける部品・部分機械の特性を明らかにしてきたが、創薬には、これらを統合して個体レベル(in vivo) (ヒトレベルまでを包含)へと展開し、システムとしての生体機能の制御を実現する新たな方法論 の開拓が必要である。このような生体内の分子科学を推進するには、これまでの単独学問分野の枠 を越えた新学問分野の創成が不可欠である。このような状況下、今、陽電子放射断層画像診断法 (PET)などの非侵襲的な分子イメージング技法に注目が集まっている。PET 法は、短寿命放射核 種の使用をもとにヒトを含めた生体での薬剤の標的臓器や標的分子への到達度などの薬剤動態を 高精度かつ非侵襲的に画像化できる有効かつ唯一の手段である。PET で用いられる主なポジトロン 核種としては、11C(炭素 11)、13N(窒素 13)、15O(酸素 15)、18F(フッ素 18)、および 76Br(臭素 76)など がある。この中でも 11C の利用は、すべての有機化合物がその構造中に炭素原子を有している ことから低分子化合物の PET プローブ化には理想的な放射核種である。また、11C を用いる と、同じ合成装置で一日に何度もサンプル調製が可能であり、放射性副生成物の長期保管の必 要もない。このような観点から、演者らはこれまで未知であった炭素-炭素結合形成反応による高 速メチル化法(高速 C‐メチル化法)を考案した。PET 研究分野では、これまで O、N、S などのヘ テロ原子上へのメチル化のみが行われてきたが、この新しい 11C 導入法は、これらの方法を凌駕す る多くの利点をもつ。第一に、標識部位は炭素−炭素結合であるため化学的かつ代謝的に安定であ り、PET 画像の信憑性が保証され、さらに、メチル基は最小の炭素置換基であり、導入位置への自 由度が高く、また極性の変化も最小限に留めることができる。すなわち、リード化合物の機能(生 物活性)の変化を想定の範囲内に設定して PET プローブの設計を行うことができるため、創薬候補 物質のスクリーニングに最適といえる。本法の有効性は、すでに、演者らにより発見され、独自に 研究が展開されてきた脳内の新しいプロスタグランジン受容体(IP2)のサルおよびヒトでの可視化に よって実証されている。上記の C‐メチル化反応は、18F の高速導入や、13CH 3、14CH3、および CD3 基の導入にも適用可能であり、今後、様々な角度からの薬物動態(代謝も含む)研究に役立つだろ う。とくに 14CH3 基の導入は、マイクロドージングコンセプトのもと PET との併用が考えられる AMS(Accelerator Mass Spectrometry、10–18~10–21 M の 14C‐enrich した超微量の薬物サンプルを使 用した質量分析法でヒトにも適用できる)による非侵襲的な長期の代謝解析に有効である。ひきつ づき、高速 C‐メチル化法の一般化とともにそれらの幅広い応用を目指して、多彩な疾患対応型 PET プローブの開発と創薬への分子イメージングの導入を試みている。 18 19 Discovery of Molecular Imaging Agents using Click Chemistry and Microfluidics. Hartmuth Kolb, Vice President, Siemens MI Biomarker Research, 6140 Bristol Parkway, Culver City, CA 90230, USA, [email protected] The in situ click chemistry approach to lead discovery uses the biological target itself for synthesizing inhibitors. Equilibrium‐controlled sampling of bio‐orthogonal, click chemistry enabled fragments by the biological target eventually leads to an irreversible reaction that essentially ‘freezes’ the fragment pair that best fits the protein’s binding pockets. New cyclooxgenase‐2 (COX‐2) and carbonic anhydrase II (CA‐II) imaging agents, containing [18F]‐fluorine, were developed based on this target guided synthesis approach, which utilized click chemistry fragments that exhibited relatively low binding affinities for the respective targets. Biochemical assays revealed these in situ generated hits to be potent inhibitors of the enzymes that generated them. In case of COX‐2, the best inhibitor displayed a KD value of 8 nM, and in case of CA‐II, KD values of 0.2 nM were achieved. Recent efforts towards developing “lab on a chip” devices will also be presented. Microfluidics devices have been developed for enhancing the efficiency of in situ click chemistry screening as well as radiotracer synthesis. 20 21 F 標識薬剤合成法の変遷 18 井戸 達雄 福井大学高エネルギー医学研究センター F 標識薬剤は 18F‐FDG(脳機能診断、腫瘍診断)に見られるように PET-イメージング剤として 18 広く利用されてきた。その理由は 18F の持つ核種の物理的特性(短かすぎない半減期、比較的低い 陽電子エネルギー)と供に F 原子の化学的性質(嵩は H 原子、双極子効果は OH 基のミニックと なる)にあり、分子イメージング用薬剤として今後も強く期待がかけられている。 F の製造には加速器で 16O(3He, n)18Ne‐18F、16O(α,d)18F、20Ne(d, α)18F および 18O(p, n) 18 F の核反応を利用している。 特に18O(p, n)18F の反応は低いエネルギー(10MeV)の加速 18 粒子で効率よく製造できるので18O の濃縮ターゲットが市販されるようになった現在ではもっぱら この方法が採用されている。 、求電子置換反応(F+) 、多重結合への付加 有機化合物への 18F 標識導入は、求核置換反応(F‐) 反応によって進められる。 求核置換反応では 18O 濃縮 H2O をターゲットとして製造した 18F ‐をク ラウンエーテルやクリプトフィックスのような相関移動触媒で活性化するか、TBA 塩として利用す る。脂肪族化合物の場合対応する脱離基としてトリフリル基やメヂチル基を選ぶと効率が良い。ま たこの方法で標識した 18F フルオロアルキル化合物は反応中間体としてアミノ基などへの導入に有 効である。 芳香族(ヘテロ環を含む)ではハロゲン、ニトロ基、メチルアミノ基が置換反応の対 応脱離基となるがカルボニル、ニトロ、ハロゲンなどの電子吸引基がオルト位パラ位にあると反応 効率が高くなる。求核置換反応では原理的にキャリアーフリーの 18F を利用できるため標識薬剤の 比放射能は理論的に 6.3x1013Bq/μmol(1700Ci/μmol)を期待できるが、実際には試薬や反応溶媒・ 反応環境より混入するフッ素の影響で 1/100 程低い値となる。最近放医研では理論量の 1/10 の高い 比放射能で 18F 標識薬剤の合成に成功している。このような高い比放射能の薬剤は比較的濃度の低 いレセプターの画像化を可能にする。 求電子置換反応では標識試薬として F2、XeF2、CH3COOF などが主として使われる。この場合少量の F2 をキャリアーとして加えるため求核置換反応のような 高い比放射能は望めないが、芳香核に 18F を導入するには有効である。特に F‐DOPA、F‐フェニル アラニン、F‐BPA などの芳香族アミノ酸の合成に多用される。通常 18F 2 は 20Ne(d, α)18F の核反 応で製造されるが、18O2ガスをターゲットとし18O(p, n)18F反応で製造する方法も開発されて おり、福井大学では 65%の回収率で 18F2 を取り出すことに成功している。 標識合成は化学反応後の生成体の分離精製過程が重要であり、多くの場合 HPLC によってなされる が、固体抽出に使われるショートカラムを利用することによって操作時間を短縮することもできる。 さらに反応時間を短縮する方法としてマイクロ波照射下での標識合成はとくに求核置換反応に応 用して好結果を得ている。 FDG 合成から 30 年経過したが、この間に開発された 18F 標識技術を紹介し、分子イメージングに よる臨床診断や創薬研究に有効な18F 標識薬剤の開発の一助としたい。 22 23 様々な高品位 PET 用分子プローブの自動生産 鈴木 和年 独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 分子認識研究グループ PET 用分子プローブは、生体丸ごとの分子イメージング研究をするために必要不可欠な要素であ る。特に、標識分子そのものの生体内動態を非侵襲的に定量測定できるという大きな特徴を有して いる。しかしながら、一方で、PET 用分子プローブを製造し、臨床利用するに際し、様々な制約や 困難が伴うことも事実である。これは、PET 用分子プローブが1)短半減期であること、2)透過 性の強い 511keV の消滅放射線を放出すること、3)ヒトに投与するのに十分な安全性を担保する 必要があること、等に起因する。短半減期であるが故に、長時間を要する反応や分離精製等の処理 が不可能であり、輸送も困難である。そのため、ある PET 施設で開発された優れた分子プローブが あっても、他施設では利用できないことはしばしばである。また、せっかく製造しても 1~2 回し か臨床利用できないことも多い。一方、透過力の強い放射線を放出するため、作業者の放射線被ば くを低減するために処理は全て鉛で囲まれたホットセルの中で行うことが望ましく、そのため、自 動化が極めて重要となる。ヒトに投与するためには、最終製剤の安全性確保は非常に重要であり、 製造及び品質検査は明確な責任体制の下、クリーンな環境で人為的ミスを防止しながら行うことが 求められる。 放医研では、上に述べたような様々な問題点に対処するため、多核種対応型多目的自動合成装置 やGMPを考慮した総合的自動製造システムなどを開発してきた。前者は、本体部分と個々の標識 反応に対応した標識反応ユニットを組み合わせることにより、様々な標識反応に対応でき、大多数 の PET 用分子プローブの製造を可能にしたものである。後者は、PET 用分子プローブの自動製造 だけでなく、品質検査、分注処理、帳票類の自動作成、医師からの薬剤オーダーの受付、責任者に よる承認、等様々な機能を有している。特に、自動化に関しては、照射、合成から、品質検査、分 注処理まで完全自動で行うことが可能で、作業者が RI に触れることなく、医師からオーダーのあ った薬剤を、その時、その量を含んだ注射器が、鉛遮へい容器に入った状態で取り出すことが可能 なシステムである。 シンポジウムでは、放医研での PET 用分子プローブ製造の実際と、時間が許せば超高比放射能プ ローブの製造についても報告する予定である。 24 25 創薬のための分子プローブの設計・開発 佐治 英郎 京都大学大学院薬学研究科 生体に於いて、化合物の体内動態、特定部位への分布とその部位での生体分子との相互作用、そ れらの経時的変化を直接測定することは、医薬品の創製、薬の作用機構の解明、治療効果の予測と 評価、病態の早期診断などに有効な情報を与える。PETをはじめとする、放射線を利用する分子イ メージングは、このような創薬に不可欠な情報である、疾患の原因となる遺伝子・タンパク質、そ れらの活性を制御する生理活性物質、薬物などの分子の分布・動態の変化を高感度、定量的に体外 イメージングするために極めて有効な手法である。この分子イメージングを行うには、検出器であ るイメージング機器とともに、放射能シグナルを放出する分子プローブ(放射性化合物)が必須で あり、目的に応じて、それに適した分子プローブを設計・開発することが必要である。 分子プローブとして薬自身の標識体を用いれば、薬の体内分布・動態をイメージングすることが できる。この場合の標識体の合成にあたっては、代謝などを含めた体内での安定性、標識体の合成 の可能性などを考慮して、標識に用いる放射性同位元素、標識部位などを選択する必要がある。薬 の分布・動態に関する分子イメージングの情報は、標的部位への薬の分布状態、代謝プロファイル、 副作用部位などに関する評価を行うことができるとともに、作用点が明確でない場合には薬の作用 点に関する情報も得ることができるものである。本法は、ヒトを対象とした場合にはヒューマンマ イクロドージング試験として臨床試験の対象とする候補化合物の選択に有効であり、創薬の加速化 が期待される。また、製剤を標識した場合には製剤の動態、さらにDDSの有効性を評価することが できる。また、分子イメージングは受容体占有率などの薬の作用点での相互作用を把握することも 可能とする。この場合には、対象とする治療薬の作用点(受容体、トランスポーターなど)に結合す るリガンドを標識し、それを分子プローブとして用い、分子プローブの作用点への結合率に治療薬 が与える影響を調べることにより、受容体占有率などの薬の作用点での相互作用を評価する。また、 この手法は、医薬品の治療効果の評価や至適投与量の設定などにも応用することができる。この目 的に用いる分子プローブは、適切な核種で標識され、比放射能が高く、かつ作用点となる標的分子 の存在する部位に標識放射性核種の半減期に相応して速やかに分布し、そこで標的分子と特異的に 相互作用するように、分子構造-生物活性-体内分布動態の相関に関する研究を基盤に、分子設計 することが必要である。本シンポジウムでは、これらの創薬のための分子イメージングに有効な分 子プローブの設計・開発について述べる。 26 27 Molecular Imaging ‐ a tracer approach to in vivo basic and clinical science B. Långström1,5* G. Antoni5, T. Kihlberg5 F. Karimi1, O. Rahman5, S. Estrada5, O. Lindhe5, H. Hall5, P. Andren5, H. Engler3, G. Blomqvist3, J. Sörenssen5, A. Wall5, L. Apple5, I. Velikyan5, O. Itsenko1, J. Barletta5, E. Blom1, M.Erlandsson1, O. Åberg1, M. Svedberg, O. Eriksson3 and K. Takahashi4 Dep. Biochem. and Org. Chem., 2Dep. Med.Sci., 3Dep. Oncol and Clinical Immun. 4Dep. Neurol., 1 Univ.Uppsala, 4GEHC, Uppsala Imanet, S‐751 09 Uppsala, Sweden * e‐mail: [email protected] Molecular Imaging and especially PET is a tracer application consisting of a variety of components, which now is becoming a valuable tool when applied in basic science and then mainly in neuroscience, but it is also in clinical sciences and drug development since it allows new approaches to explore system biology even in man. In the last years Molecular Imaging has become a valuable tool in the translation of preclinical data into humans. The development of labelling methods, labelling technology and identification of new biological targets are key components to this development. The advent of the combined PET/CT‐scanners and future development of multi‐modality imaging technology combined with multi tracer applications all indicate the need of integrating the development of technology and methods. The development of “molecular tools” is also becoming essential in the future development of PE new drugs. There is a paradigm shift in drug development to a “Learning‐Confirming” concept which emphasizes the importance of transferring knowledge from pre‐clinics to clinics and back. Recently the microdosing concept has gained increasing attention and regulatory acceptance and that will play a significant role in the further development and there is a need to explore and validate more selective tracer tools is important. In the presentation, examples will be given on the development of chemistry methods and techniques, of potential tracers and of combinations of such tracers in order to better describe and characterize biological tissue at risk in vivo. There will also be given examples on concepts on potential future developments. 28 29 動態機能の撮像と解析にかかる最近の進歩 飯田 秀博 国立循環器病センター研究所 先進医工学センター 放射線医学部 PET や SPECT などの核医学的診断では、リガンド・ナノ粒子・ペプチド・タンパクを放射性同 位元素で標識する技術と、イメージング技術や画像解析や動態解析にかかる種々の手法の融合によ り、病態生理学や病態生化学的な変化を低侵襲、高感度かつ高精度で観察することが可能である。 ガンの検出や変性疾患における薬剤の評価、さらに循環器疾患の本態理解と早期診断と治療戦略の 構築に貢献し、再生医療をはじめとする先駆的な医療の評価系としての利用が期待されている。非 侵襲的な生体内のトレーサ追跡技術の中でも放射性同位元素を用いる核医学的方法は高い感度を 有し、かつトレーサの集積に正確に比例した信号強度を提示する、すなわち定量的な評価が可能で ある。特に PET の感度は高く、微量な受容体の機能イメージング評価が可能である。また生体の主 要構成元素である炭素(11C)、窒素(13N)、酸素(15O)、に加えてフッ素(18F)を使って、多 種の分子プローブを標識することができる。組織血流量や酸素代謝量、種々の基質代謝量、さらに 神経受容体結合の評価だけでなく、極微量の疾患関連物質、ペプチド、タンパクの体内動態を高感 度でイメージングが可能である。また、治療候補化合物自身の体内動態の評価、毒性の予測への応 用も期待されている。 一方 SPECT においても最近になって PET に匹敵する定量評価が可能になり、 さらにテクネシウム(99mTc)、ヨウ素(123I)などを使った多くの標識化合物の開発がなされ、多 くの機能を観察することができるようになった。化合物の体内分布の評価にしばしば 125I で標識し たオートラジオグラフィが利用されるが、核種を 123I に置き換えることでインビボ評価が可能にな る。 いずれにせよ核医学的手法では、トレーサの設計に依存して、組織や細胞レベルの生理機能から 遺伝子発現やペプチド・タンパクの動態や受容体分布などの分子機能までを「同一の手段」で可視 化・評価できる点がユニークであり、循環器病をはじめとする種々の疾患の病態を理解する基本的 な情報を得ることができる。また、製剤学的観点で考えた場合、疾患関連物質(タンパク、ペプチ ド、さらに治療薬そのもの)の体内動態の評価は創薬への基盤情報であり、医薬品の安全性や標的 組織、薬効解析の常套手段となる。一方、創薬的視点で捉えた場合、創薬ターゲットとなる蛋白質・ ペプチド、あるいはそのリガンドの時空間的な発現様式の把握に直結するため、ドラッグデザイン に必須の情報を提供することになる。生体分子イメージング技術は疾患の本質に関わる情報を個体 レベルでリアルタイムかつ定量的、高感度に可視的解析することを可能にし、未知の標的や機能の 発見、分解の制御などの独創的かつ重要な基盤技術になりえると考えられる。 本講演では、分子プローブの標識技術、および機能イメージングのための撮像・解析技術につい て概説する。特に、臨床から小動物を使ったプレ臨床評価まで、同じ土俵で機能画像の評価を行う ために必要な基盤技術を明らかにし、その上で評価法の基準化(標準化)が重要な課題であること を明らかにしたい。 30 31 小動物分子イメージング用高分解能 PET 装置の現状 和田 康弘 独立行政法人理化学研究所 フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム 分子プローブ動態応用研究チーム Positron Emission Tomography ( PET ) は生体内の薬物動態や生体機能等を生きた状態での定量 的な情報を含んだ画像として得ることができ、分子イメージングにおいて重要なイメージング装置 の1つである。近年、臨床ではPETによる2‐deoxy‐2‐fluoro‐D‐glucose ( FDG ) 等を用いたスキャン が盛んに行われるようになってきた。小動物実験用PET装置は1990年代後半にプロトタイプが製造 され2000年には最初の商用装置が登場した。臨床用装置と小動物実験用装置との大きな違いはその 空間分解能であり、臨床用PET装置の分解能が4~10 mmであるのに対して小動物実験用PET装置は 2 mm程度である。最近は 1.7 mm 以下の装置も実用化されている。日本国内では小動物実験用装 置として最初の商用装置が大阪市立大学医学部に導入され、近年には放射医学総合研究所、国立循 環器病センター、理化学研究所等にも導入され分子イメージング研究で利用されている。 PET装置で得られる画像は放射能濃度 ( Bq / ml ) という物理量を絶対値として得られること(定 量性)が大きな特徴である。しかしながら高精度定量性のある画像を得る為には最終的な画像を得 るまでの仮定で必要な散乱補正、数え落とし補正、減衰補正、減弱補正(吸収補正)等の多くの補 正が正しく行われることが必要である。これらの補正は臨床用装置のようにある程度の大きさを対 象にする場合と大きく異なる場合もあり小動物用に合わせて処理法やスキャン法等を検討する必 要がある。 例えば減弱補正(吸収補正)は外部線源を用いたトランスミッションスキャンとブランクスキャ ンとの比で求めるが、ラット(約300 g)では大きさが小さいためにその値はヒト(約60 kg)に比 べて極めて小さい。トランスミッション及びブランクスキャンはポアソン分布に従ったデータとな り常に統計雑音を含んでいる。このために2つのスキャンの比で求める減弱補正(吸収補正)を高 精度に得る為にはラットの方がヒトに比べて多くのカウントが必要になり長時間のスキャン時間 が必要になることがわかってきている。このことは臨床用装置使用経験からの感覚的に予想される ことと逆である。さらに高分解能であるということによりさらに多くのカウントが必要になる。 このようにスキャンする対象物が小さいということと高分解能であるということにより、高精度 定量性のある画像を得るためのスキャンの条件等は臨床の場合と大きく異なることが多い。今回は 小動物実験用PET装置で高精度定量性のある画像を得る為のこれまでの取り組みを中心に紹介する。 32 33 創薬と再生医療の分子イメージング 塚田 秀夫 浜松ホトニクス株式会社 中央研究所 PET センター 創薬においては、治療に有効な化合物の発見・創成と共に、薬物動態・薬効薬理・安全性に関す る評価が必須あるが、それらの評価の過程においてはヒトに類縁した実験動物であるサル類を対象 に実施することが重要である。その際、科学的観点は勿論の事、動物倫理・経済的観点からも、非 侵襲的に同一個体で繰り返し評価することが出来る手法を活用できる事が望ましいと考えられて おり、さらにその延長線上にはヒトへの適用可能性がある事が期待されよう。我々は、1992 年に世 界初の基礎研究専用の PET センターを設立し、 主にサル類を対象とした医薬品の前臨床段階におけ る評価系の構築を目的として、 「分子イメージングによる創薬支援」の可能性を探ってきた。本シ ンポジウムでは、特に再生医療への応用に関する研究に絞って報告する。 サルのパーキンソン病モデルを用いた遺伝子治療の効果判定を、PET によるドパミンの生合成・ 再吸収部位・受容体活性と共に、アップルテストを用いた行動薬理学的評価も組み合わせて多元的 に評価した結果、慢性的に MPTP 処理されたサルの行動量には有意な低下が認められ、また線条体 のドパミン神経の前シナプス機能の顕著な低下が認められたのに対し、後シナプス機能には変化が 認められない事が PET 計測によって明らかになった。これらの結果から、本動物モデルが患者の病 態を良く反映したものである事が確認されたため、 線条体へのAADC遺伝子導入を試みたところ、 PET イメージ計測およびタスク評価のいずれにおいても高い治療効果が確認された。現在共同研究 者である自治医科大学のグループにより臨床応用に向けて準備が進んでいる。 独自に開発したカニクイザルの脳虚血モデルを用いて、虚血再灌流の各段階において神経障害に 関与する神経伝達物質が異なることを見出し、さらに各種新規脳梗塞治療薬の候補化合物の評価を 試みた結果、ヒトを対象にした臨床評価に移行する直前の段階で、候補化合物の有効性の予測をす ることが可能となった。さらに、脳梗塞後に惹起される運動機能障害の回復に臨床現場で実施され ているリハビリテーションの効果を、 本脳虚血モデルを用いて PET による機能画像評価によって検 証する試みに取り組んでいる。 老齢ザルにおいてはムスカリン性アセチルコリン受容体結合が若齢サルに比較して有意に低下 しており、この低下がタスク評価で計測したワーキングメモリー能力にも関与する可能性を見出し た。そこで老齢ザルに認知症治療薬(ドネペジル)を投与したところ、PET により分解酵素活性阻 害が、マイクロダイアリシスによりアセチルコリン神経伝達亢進がそれぞれ確認され、その結果と してワーキングメモリー能力改善につながっている事を示唆することができた。 今後、これらの成に基づいて、 「生体分子イメージング法」を前臨床から臨床段階への橋渡しと して活用する事を目標にして、更なる基礎および応用研究を実施していく予定である。 34 35 再生医療におけるサルの病態モデルを用いた分子イメージング 尾上 浩隆 独立行政法人理化学研究所 フロンティア研究システム 分子イメージング研究プログラム 分子プローブ機能評価研究チーム 20 世紀初頭、スペインの神経解剖学者ラモニ・カハール(Ramon y Cajal)は、様々な動物の脳 や末梢神経の標本を詳細に観察し、脳や脊髄を構成する中枢神経のニューロンは「いったん発達が 終れば成長と再生の泉は枯れてしまって元に戻らない」とした。この説はその後約 100 年間にわた り生理学の定説となっていた。1997 年 11 月、スウェーデンのイエーテボリにあるサールグレンス カ大学病院のエリクソン(Peter S. Eriksson)とカリフォルニア州ラホーヤのソーク生物学研究所の ゲージ(Fred H. Gage)らは、成人脳の海馬においてニューロンの新生が起こっているという驚く べき事実を発表した。しかし、新生ニューロンの数は極めて少なく、また、脳の他の部位でのニュ ーロンの新生は極めて低いこと、ミエリンなどに由来する軸索伸長阻害因子が存在することなどか ら、中枢神経系内は軸索再生に対し非許容的な環境になっており、脳梗塞や脊髄損傷などにおける 脳の機能的な回復は極めて難しい。2001 年 12 月、慶応義塾大学医学部の岡野栄之教授は、ヒト(中 絶胎児)の神経幹細胞を小型サルの脊損マーモセットに移植し、その握力が約 2 ヶ月後、5 割以上 の機能回復をみたという報告を日本分子生物学会で発表した。以降、近年の神経生物学や幹細胞生 物学の進展に伴い、幹細胞を用いた再生医療が次々に試みられている。マウスやラットで行われて いる最前線の結果を人での臨床応用につなげるためには、霊長類を用いた実験系で立証することが 極めて重要である。我々は、これまでにアカゲザルやニホンザル、カニクイザルなどのマカク属の サルやマーモセットなどを用い、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)による「分子イ メージング」を進めている。再生医療に関わる有効な方法論を構築するには、移植・導入する細胞 や再生素材の最適化と、標的組織への生着、拒絶反応からの回避、未分化細胞の腫瘍化防止などが 重要なポイントになる。サルの病態モデル動物を使い、再生医療の最先端研究と分子イメージング 研究を融合することで、ヒトにおける再生医療の高精細化を目指している。本講演では、我々がこ れまでに行ってきた正常サル、病態モデルサルを用いた分子イメージング、機能イメージング研究 の一端を紹介する。 36 37 東北大学における分子イメージング研究戦略と創薬科学への応用 谷内 一彦 東北大学大学院医学系研究科機能薬理学分野 東北大学は国立大学として初めて PET を稼動させ、25 年間の実績として、世界に先がけた PET がん診断の基礎的・臨床的研究、世界初の PET がん検診の発案、独自の脳診断用プローブの開発、 新規 β アミロイドイメージング剤の開発(下図参照) 、独自の自動標識合成装置の開発、独自の高 分解能・高感度 PET の開発、分子イメージングの開発研究を担う優秀な人材の養成、国際標準の臨 床研究の審査・実施体制と学内ガイドラインを作成などで、日本および世界の研究者の中で高い評 価を得てきた。また産業化・実用化をめざして、多くの製薬企業・PET サイクロトロンメーカーと の共同研究を積み上げてきた。 東北大学は昨年以来 30、東北大学本部・研究担当理事(庄子哲雄)のもとに「PET 疾患診断研究 推進室」を設けて、3 年におよぶ研究科横断的・融合的な学内共同利用を一層充実させて分子 PET イメージング研究をさらに発展させるべく一丸となって努力している。現在進行中の具体的なプロ ジェクトとして、1)独創的な高分解能・高感度半導体 PET の開発、2)β シート構造を認識する プローブの臨床開発と多施設共同臨床試験、3)超小型 PET 分子イメージングプローブ自動合成装 置の開発、4)がん分子イメージング剤、低酸素イメージング剤、神経伝達イメージング剤の開発 と臨床応用、5)放射線医学総合研究所との連携大学院方式による若手人材の養成を開始している。 本講演では東北大学における分子イメージング研究戦略と創薬科学への応用について我々の自験 例を中心に紹介して、 創薬科学発展のための PET 分子イメージングとマイクロドーズ概念への期待 を述べたい。 東北大学で臨床応用されたPET診断プローブ HO N HO O OH OH 腫瘍 O HO OH OH 18 F 18 18 HO HO [ 18 F]FDG CO 2H HO F NH 2 CH3O N11 CH3 CH3 [18F]FDOPA F 脳 N [ 18 F]FDGal [11C]Pyrilamine 11 CH 3 O 18 HN HO O O N F CH3O 11 N H3 C C O OH S O 11 CH 3O O NH 2 N [ 11 C]Methionine [11C]Donepezil OH [11C]Benztropine [ 18F]FdUrd CH3 O N N NO 2 Cl O N H OH HN 18 F O 11 CH3 CH3 O CH3 OH Cl 11 CH3 [11C]Doxepin [11C]Nemonapride [ 18F]FRP-170 東北大学は1982年から多く のPETプローブを用いた臨 床研究を活発に行っている N N O N H H 11 O CH3 N N F O N O 11 S C2H5 N CH 3 CH 3 Cl [11C]Raclopride 38 [11C]BF-227 39 分子イメージング:薬物動態と臨床薬理 須原 哲也 独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究グループ PET は標識した分子化合物の体内動態を経時的非侵襲的に追うことができるという点で、医薬品 の評価に適した方法のひとつである。薬物がどの程度受容体やトランスポーターに結合しているか は薬効を評価する上で重要な指標となる。競合阻害の原理で、薬が受容体に特異結合する割合(受 容体占有率)を求めることができる。これまでの研究から、抗精神病薬による薬効発現に必要なド ーパミン D2 受容体占有率は約 70%以上と考えられており、80%以上の占有率で高率に副作用とし ての錐体外路症状が発現されることが報告されている。我々は、従来から使用されている定型抗精 神病薬である sultopride の大脳皮質ドーパミン D2 受容体占有率を検討したところ、臨床用量の 10 分の1でも高い受容体占有率が得られることを見いだした。これらのことから、従来の定型抗精神 病薬は用量設定が鎮静を目的として高めに設定される傾向であったことが示唆されると同時に、今 後はドーパミン D2 受容体占有率に基づく臨床用量の再設定が必要であることが考えられる。さら に服薬後の経時的変化の研究から、risperidone 4mg の血中半減期は約 18 時間であるのに対し、脳 内 D2 受容体占有率の半減期は約 74 時間であることを明らかにした。受容体占有率の時間変化は、 特異結合部における薬物の動態を反映する薬物動態において重要な指標の一つである。 一方近年、 欧米では臨床用量の 100 分の1以下もしくは 100μg 以下の薬物を早期に人間に投与して、最適化合 物をスクリーニングしようというという microdosing concept が認められてきている。医薬品開発 に PET を応用することは臨床試験のどの段階でも有効であり、我々の施設では PET を用いた新薬 の容量設定試験を行っている。正常者を対象とした Phase 1 試験として、セロトニントランスポー ターの特異的リガンドである[11C]DASB を用いて抗うつ薬・塩酸デュロキセチンの用量設定試験を 施行し、治療効果の発現に必要とされる 80%の占有率を達成するためには、40 mg 以上の投与が必 要であり、また 60 mg であれば、1 日 1 回投与で十分な占有率を維持できることを明らかにした。 また患者を対象とした Phase II 試験として、統合失調症患者に抗精神病薬であるパリペリドン徐放 化製剤を投与してドーパミン D2 受容体占有率を測定し、至適用量に関する検討も行った。このよ うに臨床試験の段階で PET を用いれば、薬剤開発における負担が人的にも、経済的にも大幅に効率 化することが期待され、ヒト in vivo における候補化合物の動態特性を把握することができる「目」 としての PET の役割は今後ますます大きくなることが考えられる。 40 41 PET 分子イメージング技術によるがんの質的診断から治療へ:低酸素がんを標的として 藤林 靖久 独立行政法人放射線医学総合研究所・分子イメージングセンター 福井大学・高エネルギー医学研究センター がんは、活発な増殖により血管新生が対応できず、低酸素部位が生じると考えられている。がん 細胞は低酸素耐性を獲得していることが多く、正常組織が低酸素によって破壊されたところでもが ん細胞は生存可能であり、このことががんの浸潤能力をもたらしているともいえる。また、低酸素 状態においては放射線感受性やある種の抗がん剤に対する感受性が低下することが知られており、 低酸素部位の存在は、予後にも大きく関係すると考えられる。がんの低酸素部位イメージングは、 浸潤性や治療予後の評価に有用である。 演者らは、これまでに低酸素部位に集積するポジトロン CT(PET)薬剤として Cu‐62‐ATSM (diacetyl‐bis(N4‐methylthiosemicarbazone))を開発し、その有用性を検討してきた。種々の検討の 中で、Cu‐ATSM 集積部位は、同じく低酸素部位で集積が亢進されると考えられる解糖系イメージ ング薬剤 FDG とは大きく異なることを見出した。このことは、Cu‐ATSM が酸素分圧のみに依存 した集積を示す薬剤ではなく、なんらかの質的情報を提供しているものであることを示唆している。 そこで、Cu‐ATSM 集積部位の生化学的・分子生物学的特性について検討を行った。 Cu‐ATSM は細胞内還元によって滞留するが、その腫瘍内還元は NADH あるいは NADPH 依存 的であり、かつ cytochromeP450 や cytochrome b5 の酸化還元に関与する小胞体酵素の活性を要求 した。さらに、集積部位は数ミリメートル四方以上の範囲にわたって血管がほとんど見当たらず増 殖細胞も存在しないにも関わらず安定した状態にあり、このような細胞群はこれまでほとんど議論 の対象とはなってこなかったが、実際には腫瘍体積のかなりの部分を占めており、治療抵抗性の高 さをうかがわせる所見であることから、その特性の詳細な評価が今後の治療戦略に大きく繋がって いくものと考えられる。 Cu‐62 は、ジェネレータによって製造される核種であり、現在放射線医学総合研究所において定 期的に製造され複数の研究施設に供給が開始されているなど、今後の展開が期待できるものである。 一方、放射性 Cu には治療に適した物理的特性を有するものがあり、診断から内用照射治療への展 開が容易と考えられる。Cu‐64 は、病院内サイクロトロンを用いて容易に製造可能な β 線核種であ るが、同時に少量のポジトロンも放出することから治療を実施しながら薬剤の生体内動態の同時モ ニタリングを行うことが可能である。治療と診断(薬物動態モニタリングから治療効果副作用の予 測)の同時進行は分子イメージングの究極の目標であり、その実現は大きなインパクトをもたらす と考えられる。 42 43 腫瘍イメージングの臨床:現状と今後の展開 佐賀 恒夫 独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 分子病態イメージング研究グループ 分子イメージングは、生体内で起こっている生理的・病的現象を体外から分子レベルで捉えてそ れを画像化することであり、疾患の病態解明、早期診断、治療薬開発に貢献すると期待されている。 悪性腫瘍患者の診療において、分子イメージングにより個々の腫瘍に内在する様々な性状が明らか になれば、それが診断や治療の貴重な指標となる。現在、多くの腫瘍イメージングプローブが実験 動物レベル、臨床レベルで試されているが、日常臨床の現場でルーチンに使われているのは、糖代 謝イメージングプローブのフルオロデオキシグルコース(FDG)のみである。腫瘍組織における糖代 謝亢進を指標とする FDG‐PET 腫瘍診断の臨床的有用性についてはこれまで多く報告されてきてい るが、決して“万能”の診断薬ではなく、多くの問題点も明らかになってきており、当初期待された 悪性腫瘍の早期診断や良悪鑑別には限界がある。これからは、個々の腫瘍に対し、FDG‐PET のも たらす代謝情報をもとに治療効果や予後を予測し、治療計画を策定するといったテーラーメイド医 療への応用に向けた検討が重要と考えられる。また、近年急速に普及してきた一体型 PET/CT は、 MDCT のもたらす高精細な解剖学的情報と PET のもたらす機能・代謝情報を日常臨床レベルで高 精度に融合し診断に供することを可能とし、FDG‐PET の診断能の向上をもたらした。また、3 次元 画像や仮想内視鏡など MDCT の能力を PET と組み合わせることにより、放射線治療計画、手術計 画、手術のナビゲーションへ等への応用も期待される。 一方、FDG の欠点を補強する、あるいは FDG とは異なる角度から腫瘍を評価する新規プローブ の検討も進んでいる。当施設では、以前からアミノ酸代謝イメージングプローブであるメチオニン を重粒子線治療患者の評価に応用しているが、本年度より核酸代謝を指標として細胞増殖を評価す るフルオロチミジン(FLT)、放射線治療・化学療法に対する抵抗性の原因となる腫瘍内低酸素を標 的とする Cu‐ATSM の臨床研究を開始した。さらに、抗体イメージング、ソマトスタチン受容体を はじめとする受容体イメージング、腫瘍増殖に欠かせない腫瘍内新生血管を標的としたイメージン グなど、種々の新規腫瘍イメージングプローブの開発、臨床応用が待たれる。将来的には、多種多 様なプローブを用いて、様々な角度から腫瘍を評価することが可能になると期待されるが、これら を日常臨床に効率よく応用していくためには、その時にどういう情報が求められているかを正しく 認識し、目的にかなった適正なプローブを選択していくことが臨床医の重要な役割となる。 本講演では、腫瘍イメージングの臨床の現状および将来展望について述べるとともに、分子病態 イメージング研究グループでの腫瘍イメージング研究の取り組みを紹介する。 44 45 神経症候学の謎を解き明かす分子イメージング 尾内 康臣 県西部浜松医療センター 先端医療技術センター 医長 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 客員教授 神経症候学とは神経病変に伴って生じる運動・認知機能異常の特徴を抽出分類化し、病理所見と 対比することで責任病巣と phenotype の関連性を構築する学問である。ここで重要なのは生前の phenotype と病理的所見には時間的ギャップが存在すること、組織標本と生体標本の連続性の欠如 である。生前中に認められる様々な症状は最終帰結点の病理像を反映しないことは容易に想像でき る。その代表はアルツハイマー病の病理像と in vivo イメージングで示される異常所見の相違であ る。勿論、動物の病態モデルを作成して、脳内における生物学的変化を in vivo、in vitro 両面から 調べることで phenotype と関連させることは可能だが、果たして動物が示す行動変化がヒトの神経 症状を具現しているとは言えない。ヒト脳の分子イメージングはその点正に進行中の病態を画像化 でき、病理学的検討までの時間的ギャップを埋めてくれる。実際のベッドサイドの神経症候学では MRI 形態画像所見を病理所見の代替として参考にするが、しばしば形態と神経症状のミスマッチが 生じることがある。ある神経症状が示されていてもそれがどの病態から生じているか不明なことは 多々経験する。分子イメージングの出番である。 神経症候学の代表に記銘力障害があるが、物忘れは万人のヒトが経験する神経症候である。現在 キーワードになっている MCI(mild cognitive impairment:軽度認知障害)の中の amnestic MCI は純粋健忘、側頭葉性健忘と言われた病態を表し、側頭葉内側領域を中心とする辺縁系の障害が責 任病巣と考えられているが、分子イメージングでよく描出される。不安定歩行も万人が経験する。 ゆっくりした歩き方からパーキンソン症状かと疑われ、開業医を悩ませることもあるが、分子イメ ージング法が助けになる。治療の選択は重大で抗パーキンソン病薬の選択を誤ると高齢者の ADL を悪化させ、保険医療の窮状に拍車を掛けることになる。パーキンソン病でユニークな神経症候と して仰臥位ではフリーな四肢運動が一旦立ち上がると停止してしまうことである。その姿勢変化で の違いを調べてみると、パーキンソン病患者は起立することで小脳虫部や前頭葉 foot area の活動を 強めるが、前頭前野とくに背外側前頭前野の活動は低下してしまう。立つことで motor execution にブレーキが掛かってしまう可能性が示唆された。社会復帰をかける患者にとっても分子イメージ ングは有力な助けとなる。意欲低下は精神的側面が強いが、謎の多い神経症候である。外傷後ある いはくも膜下出血後慢性期の MRI 形態画像で異常を示さない患者の意欲低下は前頭葉皮質下を中 心とする前辺縁系の異常、あるいはコリン系の異常に起因することとが推察できた。 今回の講演では、臨床現場で判断に迷う神経症候に対する分子イメージングの役割について上記 した実例を交えて紹介したい。 46 47 医薬品開発に PET を活用するために必要なデータ収集法と解析法の標準化 千田 道雄 財団法人先端医療振興財団 先端医療センター 分子イメージング研究グループ PET を医薬品開発における臨床試験に使うためには、 「定量性」が非常に重要となる。しかし、 PET は以下に述べるように測定値の方法依存性があるため、ある結果が別の装置方法で再現される かが問われるほか、多施設臨床試験では施設差をいかにコントロールするかが課題となる。 第一に、PET カメラは機種によって分解能や感度、散乱線の割合といった物理学的性能がかなり 違う。分解能は部分容積効果となって定量性に影響し、感度等は NEC(noise equivalent count)す なわち S/N 比つまり測定精度に影響する。 第二に、PET データは、放射能投与量、データ収集時間、収集モード(2D, 3D) 、および画像再 構成方法といった、データ収集方法に依存する。まずカメラによって基本的性能が異なるため、最 適な収集条件も異なる。また、画像再構成の方法や条件によって分解能と雑音がかわるため病変が 描出されたりされなかったりするほか、臓器放射能濃度の測定値も変わる。 第三に、体重と身長、血糖、心拍出量といった被験者の条件によってデータの精度が変わる。PET は被験者の体重が大きければそれに応じて放射能投与量を増やせばよいというほど単純ではなく、 一般に身体が大きくなるにつれて、投与量を増やしても体幹部の画質すなわち測定精度が急速に劣 化する。 第四に、画像から数値を抽出する際に、画像解析者が設定する関心領域(ROI)によって、また 脳の場合解剖学的標準化の方法によって、同じ画像でも得られる数値が変わる。脳は非常に複雑な 構造をしており、たとえばひとくちに前頭葉といってもどこにどのような大きさと形の ROI をとる かによって値が大きく変わる。主観が入るのを嫌って自動的に ROI を設定するソフトウエアもある が、コンピュータがつねに適切に ROI を取れるというわけではない。 第五に、PET で測定した放射能濃度の測定値から、受容体結合能などの生理学的生化学的パラメ ータを計算する際には、これらパラメータ(未知数)と臓器の放射能濃度との関係を記述する数学 モデル(方程式)を解くが、その数学モデルが付随する仮定も含めて幾通りもあり、どの方法を用 いるかによって、同一のデータから出発してもパラメータの推定値や推定精度が変わる。 PET を診療や医学研究に用いる場合には、当該施設にてつねに一定の装置と方法で測定すればよ く、また機種や方法が異なる場合でもそのことを考慮してデータを解釈すればよい。しかし、医薬 品の臨床試験ではデータが出てから「後解釈」することは許されず、データを収集する前に解析方 法と評価基準を決めておかなければならない。PET を医薬品の臨床試験に用いることができるよう にするためには、学会や公的研究機関が主導しメーカーの協力のもとに、装置による差をたくみに 補正して方法を標準化しデータの信頼性を高めるための多施設比較研究を推進しなければならな い。 48 49 「創薬に分子イメージングを活用するためのシステム」~製薬企業の立場から~ 西村 伸太郎 アステラス製薬株式会社 研究本部 創薬推進研究所 先端技術研究室 財団法人先端医学薬学研究センター 新薬研究開発部 画像診断技術の一つである PET を新薬研究開発に応用すれば研究開発の効率化が可能ではない かとの期待から既に欧米有力製薬企業では大規模投資が行われ、マイクロドージング試験や早期探 索臨床試験が推進されている。欧米の規制当局は実施のためのガイドラインを示し、NIH では研究 推進のための各種プログラムを策定して人材育成や産学へのサポートを実施して強力な産官学連 携が構築されている。本講演では実例を交えて PET 利用のためのシステムについて概説する。 医薬品研究開発において PET 試験の利用は①PK 試験②PD 試験③薬理・薬効試験の 3 種類に大 別できる。GCP 準拠による PET を用いた PK 試験の国内最初の例としては、筆者らが 2001 年に抗 認知症薬 FK960 を用いて実施した。この方法は臨床投与量や臓器毒性の予測に役立つと思われる。 PD 試験については主に中枢領域で利用が進んでいる。開発候補品の脳内神経伝達物質受容体やト ランスポーター部位に結合する状態を超微量・高比放射能の PET 薬剤と薬効用量付近の非標識体の 開発候補品を組み合わせて測定が可能である。この方法の特徴としては血中濃度推移との乖離があ りがちな中枢薬において薬剤ターゲットとの結合の状態が生きたままの状態で観察でき、正確な臨 床投与量の推定が可能であるため汎用されている。PET の薬理薬効試験への応用は中枢、がん、循 環器領域などで多く行われている。試験のプロトコールとしては開発候補品の投与前後での生体機 能情報比較による薬効判定、あるいは薬理メカニズムの検証を目的としている。中枢領域では認知 症の PET 薬剤としては FDG による脳グルコース代謝測定や、Aβ アミロイドイメージング PET 薬 剤が注目されている。米国では最近 ADNI と呼ばれるプロジェクトが進行中である。これは NIH や民間製薬会社 9 社がスポンサーとなり全米50ヵ所の臨床研究施設でアルツハイマー病治療薬の 基礎データを収集する目的で長期かつ大規模な臨床 PET/MRI、遺伝子等のデータベース構築が進 められている。国内においては(財)先端医学薬学研究センターのグループが 2002 年から健常ボ ランティアや脳変性疾患の脳画像データベースを構築中である。 がん領域に関しては PET 薬剤とし て FDG が臨床検査で汎用されているが、がん細胞への集積メカニズムの異なる PET 薬剤も盛んに 研究が行われている。 非臨床試験では担がんマウスとこれらの PET 薬剤を用いた薬効評価試験が行 われている。循環器領域での本邦における薬効評価例としては、カルシウム拮抗剤であるニバジー ルの脳梗塞の患者への連続投与前後での PET 測定による脳血流量の改善が報告されている。 PET の医薬品研究開発利用となると「PET はサイエンスのショーケース」であり多くの要素技術 から成り立っているため技術的課題が山積している。その解決には高い専門性を持つ人材の育成お よび技術の統合が必要である。更にそれらを支える早急なレギュレーション体制や連携体制整備も 本邦においては急務である。先進的な欧米の取り組みに対して日本の産官学がどのような対抗策を 講じるかが PET のみならず国内のバイオ産業全体の将来の鍵を握っていると思われる。 50 51 治験としてのマイクロドーズ臨床試験 - 実施に必要な非臨床安全性試験 馬屋原 宏 株式会社国際医薬品臨床開発研究所(InCROM) 品質保証部 大学や国立研究所の独立行政法人化に伴い、これらの研究機関における創薬の動きが活発化して いる。創薬のためには臨床試験が必要であるが、欧米と異なり日本では臨床試験に 2 種類がある。 一つは大学や国立研究機関において研究目的で行われる「 (治験外)臨床試験」であり、もう一つ は新薬の承認申請のためのデータを収集する目的で行われる「治験」である。後者は厚生労働省の 管轄である薬事法と、その枠内の省令 GLP・GCP・治験薬 GMP (c‐GMP) 、及び 60 種類以上もの ICH ガイドラインに適合した方法でデータを収集しなければならない。 マイクロドーズ臨床試験を治験として実施する場合、日本では 1997 年に日・米・欧で合意された ICH-M3 ガイドライン(臨床試験の実施のための非臨床試験の実施時期のガイドライン)に適合 した種類と内容の非臨床安全性試験が必要である。欧米ではマイクロドーズ臨床試験のための政策 文書やガイダンスが通知されており、ICH‐M3 基準よりも緩和された条件の非臨床試験でマイクロ ドーズ臨床試験が実施可能である。 マイクロドーズ臨床試験の実施に必要な(すなわち規制当局により要求される)非臨床試験は、 日本と欧米で異なるだけでなく、EU と米国の間でも相違がある。本年 11 月からこの ICH-M3 ガ イドラインの改訂作業が開始され、2 年後にはマイクロドーズ臨床試験の実施に必要な日・米・欧共 通の基準が決定される可能性がある。 筆者は、マイクロドーズ臨床試験の実施のために規制当局が最低限要求すべき非臨床試験につい て詳細に検討し、結論としてマイクロドーズ臨床試験の実施に必要な非臨床安全性試験は通常型の 単回投与毒性試験だけでよいと提案している(下記文献参照)。単回投与毒性試験のデータが必要な 理由は、マイクロドーズの上限(100μg/man)以下でも致死的な化合物(一部のトキシン類)や、 薬理/毒性作用を持つ化合物(活性型ビタミン、生理活性物質、ホルモン類、抗がん剤など)があ り、これらを排除するためである。このような極端な活性物質は in vivo の薬効薬理試験で通常排 除されるが、薬効薬理試験が常に in vivo で実施されるとは限らないこと、また薬理の専門家の全 てに毒性学的素養があるとは限らないことから、毒性学的検討が必要と考える。また、まれに種差 により動物よりもヒトの感受性が高い場合も考えられ、ヒトへの投与量よりもはるかに高い用量で 何が起こるかを動物で見ておくことが必要であると考える。なお、その他の非臨床試験を必須とし ない根拠についても述べるが、紙面の都合で詳細な内容は以下の文献を参照されたい: 馬屋原 宏;マイクロドーズ臨床試験の安全性.臨床評価。33(3),679‐694 (2006)。 52 53 マイクロドージングコンセプトと分子イメージングの導入による創薬の加速化: 薬物動態学的に捉える 杉山 雄一 東京大学大学院薬学系研究科 独立行政法人科学技術振興機構キーテクノロジー研究開発領域主管 膨大な数の候補化合物から、種々の前臨床評価・臨床開発の厳しいハードルを乗り越えて、医薬 品を市場に出すためには、およそ 15 年の開発期間と、1000 億円近い開発費が必要といわれている。 しかし、最近の報告によると、臨床評価に入った候補化合物のうち、実際に医薬品として承認され 市場に出てゆくのは、20%以下である。また上梓された後に、予期しない副作用が発見されたり、 思ったほどの効果が得られず、市場から撤退せざるを得なくなる医薬品もある。この傾向は、近年 の EBM(evidence based medicine)がより厳しく求められる中でますます強くなって来ている。 Microdosing とは、薬効の生じえる投与量の 1/100 以下の投与量でかつ 100 ug 以下の量を健常ボ ランティアに投与し、薬物動態特性を調べる方法論である。PET 試験と組み合わせることにより組 織分布を調べることができるという利点も有する。この方法論が医薬品開発に適用されるならば、 前臨床試験の結果残ってきた候補化合物の中から、薬効に優れ副作用の少ない化合物を Phase‐1 臨 床試験にもっていくことができるという長所を有する。例えば、中枢を標的とする化合物を開発す る場合について考えてみる。血液脳関門透過性、中枢内の受容体との特異的結合を Microdose(MD) 試験により評価することは極めて重要な選択基準となる。その際、実験動物でのマイクロ PET 試験 を行い、投与量の増大とともに変化する血液脳関門透過性の変化、受容体占有率の変化の結果、さ らには、ヒト組織、実験動物組織を用いた in vitro 試験(代謝、輸送、受容体結合)の結果をもと に、適切な数学モデル解析を行うことにより、ヒトにおいて、投与量とともに、血中および組織中 の暴露量、さらには受容体の占有率がどのように変化していくかについても予測可能となり、効果 的に臨床投与量を予測することができるようになる。また、臨床 Phase 1‐II においては、医薬品を 投与した後に適当な PET 用標識化合物を用いて受容体占有率と薬効薬理を測定することにより、 適 切な臨床投与量を求めることができる。 一方で、MD 試験では投与量が臨床用量の 1/100 以下という極めて微量であるため、臨床投与量 での体内動態との整合性が取れない可能性が指摘されている。MD と臨床投与量の範囲で、体内動 態の線形性が保たれなければならないが、その保証は無いという意見である。最近、欧州において CREAM(Consortium for Resourcing and Evaluating AMS Microdosing)Trial と呼ばれる臨床試験 が行われ、種々の特性を持った 5 種の医薬品において MD と臨床投与量において血中濃度推移が比 較された。その結果、ほとんどの医薬品において補外性があることが示された。また、ファーマコ キネティクス理論によると、薬物濃度が代謝酵素、トランスポーターなどへの Km 値に比べて十分 に低いところでは、線形性が保たれることは当然であり、それを否定する根拠はないと、私は思っ ている。臨床投与量で非線形性を示す化合物についても、in vitro 動態特性データ(動物、ヒト) あるいは in vivo 動物試験データとヒト MD 試験結果とを総合的に動態モデルを用いて解析し、 MD 54 試験の結果から臨床投与量での体内動態を精度よく推定することが可能であり、その方法論につい ても示したい。 (参考文献) 1) Y.Sugiyama: Druggability: selecting optimized drug candidates Drug Discovery Today (editorial) 10: 1577‐1579 (2005) 2) 杉山雄一、津谷喜一郎 編著 「臨床薬理に基づく医薬品開発戦略」 廣川書店、2006 3) 杉山雄一、栗原千絵子、馬屋原宏、須原哲也、池田敏彦、伊藤勝彦、矢野恒夫、三浦慎一、西 村伸太郎、大塚峯三、小野俊介、大野泰雄: マイクロドーズ臨床試験の実施基盤:指針作成 への提言.臨床評価 2006;33(3):649‐677. 55 分子イメージング研究シンポジウム組織委員会事務局 独立行政法人理化学研究所 基礎基盤・フロンティア研究推進部 分子イメージング研究推進室 〒650‐0047 兵庫県神戸市中央区港島南町 6 丁目 7 番 3 電話 078‐304‐7111 E‐MAIL [email protected] FAX 073‐304‐7112 独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 運営企画ユニット 〒263‐8555 千葉県千葉市稲毛区穴川 4‐9‐1 電話 043‐206‐ 4706 E‐MAIL [email protected] FAX 043‐206‐4079 56