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ブレストケアナースセミナー
ブレストケアナースセミナー 大阪会場 日時 平成 20 年 10 月 19 日(日)10:30 ∼16:00 会場 大阪科学技術センター 大ホール ハイライト 共催:日本乳がん看護研究会/サノフィ・アベンティス株式会社 後援:日本看護協会/日本がん看護学会 2008 年10月19日、大阪科学技術センターにおいてブレストケアナースセミナーが開催された。今回は参 加者に対するアンケートなどを交えたアナライザーセッションのほか、乳がんの診断と初期治療の選択、告知 後のケアなどについてレクチャーおよびパネルディスカッションが行われた。ここでは、その概要を紹介する。 講演 知っていますか、他施設で行われている乳がん看護 大野真司先生(国立病院機構九州がんセンター 乳腺科 医長)ご司会のもと「知っていますか、他施設で行われている乳 がん看護」と題してアナライザーセッションが行われた。患者の意思決定をサポートする上で、①思いやり、②コミュニケー ション、③科学的知識、以上3 つが大切なポイントとなるが、今回は「科学的知識」に焦点をあて、 「乳がん診断 ─術式選 択と手術」について徳永えり子先生(九州大学女性医療人きらめきプロジェクト 特任講師)より、 「乳がん薬物治療の基本」 について増田慎三先生(国立病院機構大阪医療センター 外科)より解説が行われた。 講演1 乳がん診断 ─術式選択と手術 九州大学 女性医療人きらめきプロジェクト 特任講師 乳腺 CT 及び MRI 検査により乳房温存術 の適応を慎重に評価 徳永 えり子 先生 として乳房温存術が推奨されるとしながらも、適応を的確 に見極めるためにCTやMRI 検査などを行ってがんの広が りを正しく評価することが重要であると述べた。 現在、乳がんの手術は縮小化傾向にあり、2003 年には 胸筋温存乳房切除術に代わり乳房温存術が術式のトップ となり、以降も増加し続けている。会場においても「自施 センチネルリンパ節生検による有害事象も把握 設の乳房温存率は?」との問いに、 「80%以上」と回答し 最近、リンパ節にがん細胞があるかどうかを見極める方 た者は 28%、 「60 ∼80%」が29%と、乳房温存率が 60% 法として、センチネルリンパ節生検(SLNB)が普及しつつ を超える施設が半数以上にの ぼっていた。StageⅠ、Ⅱの浸潤 性乳がんに対する局所療法で 図 1 センチネルリンパ節生検(SLNB)の概要 SLNB の結果と治療方針 1 は、乳房温存術と乳房切除術 とでは生存率に差はないことが 明らかとなっている。また、従 来、乳房温存術の適応は腫瘍 2 センチネルリンパ 節(SLN)とは「見張 りリンパ節」とも呼ばれ、腫瘍から最初 にリンパ流を受けるリンパ節であり、領 域リンパ節の中で最も転移の可能性の 高いリンパ節である。 SLN の検出には、色素法やラジオアイ ソトープ(RI)法、または両者の併用法 が用いられる。 径 3cm 以下とされていたが、最 近はリンパ節転移がなければ SLNB 適応の目安 3cmを超える症例でも適応とな 腫瘍の大きさが 3cm 以下で、 触診や画像診断でリンパ節転移陰性と 考えられる症例 りうる。徳永先生は、StageⅠ、 Ⅱの浸潤性乳がんの局所療法 1 手 術 SLN の同定と摘出 同定不能 手術中の迅速検査 腋窩リンパ節郭清 転移あり 転移なし 腋窩リンパ節郭清 郭清省略 手術後の検査 転移あり 転移なし 腋窩リンパ節郭清 or 腋窩の放射線照射 or 化学・内分泌療法 経過観察 ある。腫瘍の周囲に色素を注射して染色する方法とラジ 再発する割合は低いことがわかっている。SLNB は腋窩 オアイソトープを注射してガンマ線検査器を用いて検出す リンパ節郭清に比べて術後の合併症および上肢機能障 る方法がある。会場では色素法が51%、色素法とラジオア 害が少なくQOL 改善につながることからも、SLNB で陰 イソトープ法の併用が23%という状況であった。SLNB で 性と診断された場合は腋窩リンパ節郭清の省略が推奨さ 転移がなければ、理論的には他のリンパ節にも転移がな れる (図1)。なお、SLNB の安全性については欧米で実施 いとされるが、約10%に転移が存在する(偽陰性)のが実 された臨床試験で報告がなされており、アレルギー反応、 情である。ただし、術後薬物療法の施行により、これらが ショック、知覚異常、リンパ浮腫などに注意が必要である。 講演 2 乳がん薬物治療の基本 国立病院機構大阪医療センター 外科 のりかず 増田 慎三 術後薬物療法の標準治療に対する新しい知見 先生 存手術の可能性を高めること、全身への微小転移のコン 現在、乳がんの術後薬物療法の標準治療については、 トロールが早期に図れるため予後改善の可能性があるこ エビデンスに基づいたさまざまなガイドラインが国内外で と、約 80%の確率でがんが縮小し、約 20%の確率でがん 策定されている。わが国では、日本乳癌学会が「乳癌診 が完全に消えることなどがいろいろな臨床試験の結果か 療ガイドライン 薬物療法」を策定しているが、参加者の中 ら示されている。また、 術前化学療法の実施にあたっては、 では「よく利用している」と回答した者は16%にとどまり、 術後に予定する化学療法をすべて術前に行うのが原則で あり、アントラサイクリン系薬とタキサン系薬の逐次投与が 「知っているが利用したことがない」が 42%、 「ほとんど利 標準とされている。 用していない」が 8%、 「知らない」が13%と、看護師にお いては同ガイドラインがまだまだ浸透していない状況が浮 副作用対策も重要なカギ き彫りとなった。海外では、早期乳がんの術後薬物療法 に関するSt. GallenコンセンサスやNCCNガイドラインな 化学療法をスムーズに遂行するためには、副作用対策 どが発表されている。2007年のSt. Gallenコンセンサス が重要なカギとなる。化学療法による骨髄抑制に伴って では、 「ターゲットを重視した治療戦略」が強調され、内分 起こる発熱性好中球減少症(FN) は、FEC100 療法では 泌療法反応性とHER2の状況に基づいて治療法選択の おおよそ20%の確率で見られ、その適切なマネージメント 基本的な考え方となる6 種類の基本分類が提示された。 は非常に重要である。増田先生は、FNの定義を明確に 一方、NCCNガイドラインは、最新のエビデンスをいち早く した上で、大阪医療センターにおける治療方針を提示した 取り込むことをめざし、1年に1回の改訂を原則としており、 (図 2)。がん治療成績を向上させるためには、副作用対 アップデートな情報をインターネットでも配信している。同 策を把握し、予定通りに化学療法を完遂することが大切 ガイドラインは、フローチャート形式にまとめられており理 なポイントであると考えられる。 解しやすいものとなっている。このほか、遺伝子発現解析 図 2 国立病院機構大阪医療センターにおける FN 治療方針 や文献データベースを活用した新しい (OncotypeDX® など) ツール(Adjuvant ! Onlineなど) の利用により化学療法の必 化学療法中 38℃以上の発熱 要性を判定し、治療効果予測を行う試みも進んでいる。 シプロキサン 1200mg 分 3 3 日間内服 化学療法中 39℃以上の発熱 ® 術前化学療法について知っておきたいこと 38℃以上持続 救急受診 WBC/Neu、CRP 胸部 Xp 術前化学療法の適応は、かつては手術不能な局所進 Neu≧500/mm 全身状態良好 発症 3 日以内 行乳がんであったが、最近は手術可能な早期乳がんにも 適応が拡大された。術前化学療法と術後化学療法におい て無再発生存期間と全生存期間に差を認めないことが大 3 ® 解熱 規模臨床試験で示され、現在では術前化学療法は手術 シプロキサン 1200mg 分 3 3 日間内服 もしくは ® マキシピーム 2g×2 回外来点滴 可能早期乳がんに対する標準治療としての位置づけも明 らかになっている。このように、術前化学療法は予後を悪 次コース予定日に来院 予定量で再チャレンジ* 38℃以上持続 Neu<500/mm 炎症所見 3 入院治療 ® マキシピーム 2g×2 回 G-CSF の使用 (遷延時は抗真菌薬考慮) 次コース1段階減量 くするものではないことに加え、乳房温存術などの機能温 WBC:白血球 Neu:好中球 2 *38℃以上の発熱が 2コース以上発現した場合 は減量も考慮する。 パネルディスカッションに先立ち、 「診断・告知におけるケア」、 「乳がん患者の治療選択における看護支援」、 「退院指導のトピック」について講演が行われた。 診断・告知におけるケア 兵庫医療大学看護学部看護学科 教授 鈴木 久美 先生 乳がんの診断・告知を受けた患者は、その衝撃により 活や仕事に関連した心配や気がかり、家族や周囲の人間 さまざまな心理反応を示す。告知直後に見られるショック、 関係に対する気がかりなど社会的側面にも見られる。患 否認、絶望などの初期反応(第 1相)から、不安、抑うつを 者によって診断・告知の受け止め方はさまざまで、心理状 中心とする不快な時期(第 2 相)を経て、約 2 週間を経過 態やストレスの現れ方も多様である。看護師は、乳がん患 した頃から「がんと向き合う」適応の段階(第 3 相)へと変 者に見られる特徴を十分に理解した上で、個々の患者の 化していく。患者は告知に伴って多様なストレス症状を抱 心身の状態を適切にアセスメントし、その患者に最もふさ えるとともに、病気や治療に対する不安や苦悩も感じて わしいサポートを行っていくことが大切である。 いる。その不安や苦悩は心理的側面だけでなく、日常生 乳がん患者の治療選択における看護支援 名古屋大学医学部保健学科看護学専攻 准教授 国府 浩子 先生 乳がん患者は闘病していく上で、短期間のうちに 図 3 基本的なコミュニケーション技術 重要かつ複数の意思決定を行わなければならない オープン形式の質問を行う という過酷な環境に置かれている。治療選択に際 「不安はありますか?」ではなく、 「今、どのようなことがご心配ですか?」 してはどこまで自分自身で決めればよいのか自己 決定の範囲がわからないことも多い上、看護師に 「今の説明を理解できましたか?」ではなく、 「先生の話でわからなかったことは、 どのようなことですか?」または 「今のお話でどのようにお考えになりましたか?」 援助を求める意識もないことが多い。患者は現実 に翻弄されながらとりあえずの選択を行うが、その 後立ち止まって考えをまとめ直しながら最終的な意 患者の言葉を 言い換える 思決定に至る。看護師は患者の心理状態の各段 階において患者が適切な方向を見つけることがで きるよう支援を行う必要がある。また適切な支援を 「あなたが言ったことは∼ということですね」 患者の感情を 受け止めて返す 「あなたは∼と思っているんですね」 患者の言葉の中に 隠れた意味を見出す 「∼というお気持ちだからでしょうか?」 「∼ということでしょうか?」 実現させるためには患者との良好な信頼関係が重 要であり、 そのためのコミュニケーション技術(図 3) の習得が重要なカギとなる。 退院指導のトピック(術後の療養生活のアドバイス) 千葉大学看護学部附属看護実践研究指導センター 阿部 恭子 先生 退院指導すなわち術後の療養生活のアドバイス時に念 対応が求められる。患者個人の生活に対する介入を望ま 頭におくべき事項として、創部のケア、リハビリテーション、 ない患者に対しては、 「パンフレットにアドバイスが記載さ リンパ浮腫予防のセルフケア、補整下着・補整パッドの紹 れていますので、必要に応じてご覧下さい」という情報提 介、日常生活の過ごし方のほか、利用できる社会資源・制 供にとどめる配慮も必要だろう。適切な患者指導の実現 度の紹介などが挙げられる。指導にあたっては、画一的な には、日頃からの看護師同士のきめ細かな情報交換が重 説明ではなく、個々の患者のニーズに応じた臨機応変な 要となる。 3 パネルディスカッション 事例を通して学ぶ ∼診断・告知、治療選択、退院指導におけるケアのポイント∼ 出席者:阿部 恭子先生 大野 真司先生 徳永 えり子先生 増田 慎三先生 大島 彰先生 鈴木 久美先生 国府 浩子先生 上野 洋子先生 千葉大学看護学部附属看護実践研究指導センター 国立病院機構九州がんセンター 乳腺科 医長 九州大学 女性医療人きらめきプロジェクト 特任講師 国立病院機構大阪医療センター 外科 国立病院機構九州がんセンター サイコオンコロジー科 医長 兵庫医療大学看護学部看護学科 教授 名古屋大学医学部保健学科看護学専攻 准教授 関西労災病院 乳がん看護認定看護師 阿部恭子先生(千葉大学看護学部附属看護実践研究指導センター)のご司会により、 「診断・告知におけるケア」、 「治療選択におけるケア」、 「告知後のサポート体制と連携」の各項目について パネルディスカッションが行われた。ここでは、その概要を紹介する。 診断・告知におけるケア 阿部 まず「診断・告知におけるケア」についてお話をう アを心がけています。 かがっていきたいと思います。診断・告知に際し、看護師 阿部 病気をどうしても受け入れられない患者さんについ は同席することが望ましいでしょうか。 てはいかがですか。 大島 国立がんセンターで実施したアンケート調査では、 大島 自分が乳がんであるということを受け入れるのには時 「医師以外の医療従事者の同席を望む」 と回答した患者さ 間がかかりますので、否認を正常な反応として見守ることが んはわずか18%という結果が示されています。同席する意 大切です。事実は把握しても、現実問題として受け入れたく 味をきちんと説明し、患者さんの同意を得る必要があるで ないという患者さんの葛藤を理解しておく必要があります。 しょう。そして、同席した際には、患者さんが十分に理解 阿部 若い女性への告知のフォローが難しいという声が しているのか、疑問点を医師にきちんと質問しているかな よく聞かれますが、これについてはいかがですか。 どを十分に観察することが大切です。 鈴木 傾聴、受容するという態度は年齢にかかわらず同 阿部 告知後に混乱している患者さんにはどう対処すべ 様だと思います。ただ、若い女性の場合は将来のことを考 きでしょうか。 えて治療選択の際に揺れ動くことが多いので、看護師が 大島 医療者は、告知後に現れる段階的な心理反応を 十分に時間をかけて一緒に解決する姿勢が大切です。 十分に理解しておくことが大前提です。 「あなたの気持ち 阿部 告知後うつ状態に陥っている患者さん、精神疾患 は当然の反応ですよ」と伝えることなどで、患者さんの気 のある患者さんへの対応はどうすればよいでしょうか。 持ちも少しは楽になります。そして、 「つらかったですね」 「何 大島 うつ状態は、QOL の低下、自己決定能力の障害、 で私が...というお気持ちでしょうね」 「どうしていくこと 治療コンプライアンスの低下、家族の精神的負担増大、自 が一番よいか一緒に考えていきましょう」などの声をかけ、 殺・事故の原因、在院日数の長期化、医療スタッフの疲弊 ショックを受けている気持ちに寄り添って情緒的なサポー などさまざまな影響を及ぼしますので、その対策は重要な トを行うことが大切です。また、コミュニケーションの構成 課題です。表情や言動、睡眠の状態など精神面、行動面 要素は言葉だけではありません。表情、姿勢、身振りなど の変化に気づき、うつのサインを見逃さないことが大切で も大切な要素です。肩に手をあててあげるだけで、気持ち す。 「涙がすぐ出る」 「まわりに迷惑をかけるのがつらい」 「自 が落ち着くこともあります。 分の人生は無駄だった」などの言葉が出る患者さんには要 上野 患者さんが本当に看護師にサポートを求めている 注意です。うつの徴候を見つけて専門家への橋渡しをす かどうかを見極めることも大切だと思います。いつでも相 ることも看護師の重要な役割でしょう。 談に乗りますよという姿勢をアピールし、タイミングよいケ 4 治療選択におけるケア 阿部 続いて、 「治療選択におけるケア」についてうかが のかを把握して迷いの原因を探ることも重要です。 います。治療についてまったく理解してもらえない患者さ 上野 家族の意思で術式が決定されているケースもあり んが時々見受けられます。このような方にはどう関わって ますので、本当に患者さんの意思であるかを確認するよう いったらよいでしょうか。 にしています。 国府 まず、患者さんが話を聞ける状態にあるかどうかを 阿部 治療の効果よりも有害事象を優先させて治療を選 見極めることが大切です。混乱していて話を聞けるような 択する患者さんについてはいかがでしょう。 状態にない場合は、いくら上手に説明しても何も頭に入り 増田 効果と副作用の両方を説明することは言うまでも ません。患者さんが知りたいこと、こだわっていることを的 ありませんが、副作用の現れ方には個人差があること、対 確に判断し、患者さんに合わせて必要な情報を提供するこ 処法の実際、減量や休薬など必要に応じて治療計画は変 とが大切です。また、一度に多くのことを説明するのでは 更できることなども十分に説明します。 なく、大まかな内容から具体的な事項へと段階的に説明し 大島 治療選択には価値観が大きく影響します。正しい て、一つひとつ問題を解決していく姿勢も大切です。 情報を伝えた上で、患者さんの思いをじっくり聞いてあげ 阿部 治療選択が医師まかせで患者さんが意思決定で ることも大切です。 きないケースはいかがでしょう。 阿部 副作用が強い場合や、治療効果が現れない場合 国府 患者さんが治療選択することが必ずしも必要とい に治療を拒否するあるいは継続できない患者さんにはど うわけではありません。 「先生にお任せします」ということ う対処すべきでしょうか。 も、ある意味意思決定の1つです。患者さんが何を望んで 大野 患者さんにとって身近な存在である看護師には、 いるかを、まず把握しておくことが大切です。 われわれ医師が気づかないような患者さんのサインを察 阿部 患者さんが術式選択について悩んでいる場合はど 知していただき、拒否している原因を見つけていただきた う対処すべきでしょうか。 いと思います。医師からの情報が患者さんに正しく伝わっ 徳永 価値観は患者さんによってさまざまですので、現時 ているのか、医師の説明を正しく理解できているのかなど 点で明らかになっている情報を正確に伝え、その上で患者 を確認していただき、必要に応じて適切な情緒的サポート さんの希望を聞くことが大切です。また、なぜ悩んでいる を行っていただければと思っています。 告知後のサポート体制と連携 阿部 「告知後のサポート体制と連携」は継続的なケアを して、病棟、外来、化学療法センター、放射線科が介入内 実践する上でとても重要です。最近は電子カルテも普及し 容を記録するようにしています。そして、電子カルテを介し てきており、データを介した情報共有はなされているよう て関係者がいつでも閲覧できる状態になっています。た ですが、顔を合わせて話し合うといった面での連携は必 だ、組織の変化、人事異動などで必ずしも継続的な看護 ずしも十分ではないようです。このあたりについてはいか が難しくなってきているのが実情で、正式なミーティングの がですか。 場でなくとも、顔を合わせたときに気軽に質問し合える環 上野 実際のところ、外来の相談窓口でのケア内容を記 境も大切だと思います。 録に残していますが、それが他のスタッフに伝わっていな 阿部 がん患者さんのケアに際しては、一人で抱え込まず いこともあり、当施設でも現在、スムーズな連携システム にチームで知恵を出しながら最善のケアを考えていくこと の構築に取り組んでいる最中です。 が大切だと言えるようです。医師、看護師の先生方から実 フロアより 私の勤務する施設では、2003 年にブレスト 臨床での対処について大変有意義なお話をうかがうこと ケアチームが発足し、 「乳がんケア・アウトカム表」を作成 ができました。どうもありがとうございました。 5 ランチョンセミナー ランチョンセミナーでは、関西労災病院における乳がん看 通して、看護の質の向上を図ることを目的に 護認定看護師の活動状 況が同院の乳がん看護認定看護師 院内および院外の教育活動にも積極的に取 上野洋子先生より報告された。 り組んでいる。同院では 2007年にリエゾン 関西労災病院は、兵庫県尼崎市に位置する 642 床の総合病 精神看護専門看護師と乳がん看護認定看護 院で、平成19 年1月には芦屋・尼崎・西宮の 3 市(阪神南医療 師の有志により 「乳がん看護研究会」 を発足。 圏域)における「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受けて 乳腺外科医を含めてディスカッション形式の会を開催した。今 いる。乳腺外科は平成18 年度に外科外来から独立し、日本乳 後は、患者が安心して治療を受けられる環境づくりをモットー 癌学会専門医が 2 名で週 3日の外来診療を行っている。乳が に、相談窓口の充実、スタッフの実践能力の向上、さまざまな ん看護認定看護師は、日常生活支援を中心に病棟活動を行っ 分野との連携により活動範囲の拡大をめざしたい。 ており、手術を安心して終えられることを目標に、リンパ浮 腫の予防や補整下着についてなど、主に退院後の生活につ 図 4 乳がん看護認定看護師の役割 いて相談に乗っている。平成 20 年度からは、週1回、外来相 談窓口での活動も開始し、手術前のオリエンテーションや 治療選択に関する相談、治療中の副作用に関する支援、リン 正しい知識を 持っているのか? で、一緒に納得できる方法を選択するという大きな役割を果 なぜそのように 考えたのか 関係性を作る 問題を明確にする 情報の提供 パ浮腫のセルフケアの支援などを行っている。このように、 乳がん看護認定看護師は、患者さんの背景をよく知った上 何を話したいのか、 何を求めているのか じっくり話を聴こう。 治療法を正しく理解 しているのだろうか? 乳がん看護認定看護師 理解力や対処能力 たしている(図 4) 。患者さんからは、 「手術するまでの待ち 社会的背景は? 家族関係は? 経済的な問題は? 支援者を確認する 時間が不安だったので話を聞けてよかった」、 「忙しそうな 現実的に可能な方法だろうか どうなることが 望ましいのだろう? 看護師さんに “遠慮しなくても相談してよいのだ” と思えると 安心する」 、 「見守ってくれる人がいると思うと、治療をもう 不眠やパニックになって いないだろうか? 情緒的サポート 患者にとって最善の 方法を選択 少しがんばってみようと思える」 などの声が聞かれ、その成果 患者さんと一緒に納得できる 方法を選択していきます。 が示唆される。また、乳がんおよび看護に対する啓蒙活動を ブレストケアナースセミナーの開催を終えて 千葉大学看護学部附属看護実践研究指導センター 認定看護師教育課程 専任教員 阿部 恭子 先生 日本乳がん看護研究会は発足から5 年目をむかえ、現在は る医療者は、このような患者さんのよき相談相手として、そし 430 名の会員数を数えるまで発展してきました。本セミナーで てアドバイザーとしてサポートしていくことが強く求められてい は、日常から看護師が感じている悩みに対し、教科書的な内 ます。患者さんが不安に思っていること、知りたがっているこ 容にとどまることなく、実臨床でのコツやノウハウについて多く と、悩みなどを察知して適切なサポートを行うことが乳がん医 の示唆に富んだ有意義なご意見をうかがうことができました。 療に携わる看護師として大切な役割になります。また、看護師 最近は、インターネットの普及により膨大な量の情報を入手で 自身も決して問題を一人で抱え込まず、医師にも積極的に相談 きるようになり、患者さんは自分がどの情報を受け取ればよい し、チーム全体で乳がん患者のケアに取り組んでいくことが大 のか迷っていることも少なくありません。看護師をはじめとす 切だと思います。 2009 年1月作成 JP.DOC.09.01.10(TXT440A) 6