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官民協働による BOT 道路プロジェクト推進のための

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官民協働による BOT 道路プロジェクト推進のための
官民協働による BOT 道路プロジェクト推進のための
ガイドライン
平成14年3月
国
土
社団法人
交
通
省
国際建設技術協会
官民協働による BOT 道路プロジェクト推進のためのガイドライン
目
次
1. ガイドライン作成の背景と目的.........................................................................................1
1.1
交通インフラ整備の BOT の課題 .............................................................................1
1.2
BOT プロジェクトの成功と失敗 ..............................................................................1
1.3
新たな民間活力導入の必要性 ...................................................................................3
2. 新たな民間活力導入の視点................................................................................................4
2.1
各主体が求める BOT 事業への期待..........................................................................4
2.2
PPP(Public-Private-Partnership)による整備 ....................................................5
2.3
BOT 事業への公共側の積極的参加...........................................................................6
3. 官民協働によるプロジェクトの推進 .................................................................................8
3.1
官民協働 BOT 事業の構築 ........................................................................................8
3.2
官民協働による計画の策定.......................................................................................9
3.3
事業推進のためのリスクマネジメント ...................................................................10
4. 官民協働の事業スキームの提案.......................................................................................14
4.1
官民協働のスキーム................................................................................................14
4.2
ハイブリッド型道路整備 ........................................................................................15
5. BOT 事業の推進に向けての公共側の役割 .......................................................................17
5.1
公共側の役割 ..........................................................................................................17
5.2
多様な資金の活用 ...................................................................................................18
参考
官民協働型 BOT 事業検討のためのケーススタディ .................................................20
1. ガイドライン作成の背景と目的
社会基盤を BOT 方式で整備することは世界各地で行われているが、整備・運営を民間
事業者が実施するためには、前提として一定の環境が整備されていることが必要である。
しかし、途上国では、その環境が整わないまま、BOT 事業を募集、あるいは開始し、行き
詰まっている事例が散見される。このため、BOT 事業を成功に導くガイドラインを作成す
ることとした。
1.1 交通インフラ整備の BOT の課題
道路等の交通インフラを始めとして、インフラ整備に民間活力を利用することが世界各
地で行われている。
発展途上国においても、早急なインフラ整備への要請と整備財源の不足から、民間資金
を活用する BOT 事業(狭義の BOT 方式だけでなく、BTO 方式や BLT 方式等による事業
も含む)が注目され、交通のほか、電力、通信等の分野で実施されている。
しかし、有料道路や LRT 等の交通インフラ整備の BOT 事業は低迷しているという現状
がある。事業を始めたものの採算性が悪化し中断した例、計画はあるものの民間企業の参
加を促進できずに実施できない例などがある。
交通インフラ整備の特徴は市場リスクが比較的大きいことである。交通インフラの需要
は、社会経済状況や他の交通施設が提供するサービスの水準によって大きく変動する。こ
のため、民間企業は BOT 参入に慎重にならざるを得ない。
また、いったん開始した事業が低迷する理由として、計画時に予測した需要と現実の需
要の乖離がある。単なる予測技術の問題だけではなく、代替交通機関の料金や周辺地域開
発等の政策も関係している。元来、BOT 方式で実施可能な交通インフラの対象案件は限定
されており、事業の実施に際しては適切な案件を選定することがまず必要である。
1.2 BOT プロジェクトの成功と失敗
(1) BOT プロジェクトの失敗要因
発展途上国において採算性の低い BOT プロジェクトを分析すると、計画策定段階での
不十分な検討が問題点として指摘できる。
①高い料金設定
高額な投資を早く回収するためには、高い料金を設定せざるを得ない。しかし、BOT
事業の採算性を左右する交通需要は、利用料金の設定価格に大いに影響を受けることか
ら、高い料金設定により十分な通行量が見込めず、事業が成立しなくなる事例がある。
②過大な需要予測
適切な需要予測に基づいた事業計画が策定されずに、当初の需要予測と現実の交通量
-1-
に大きな乖離があり、事業が困難となっている事例がある。
③小さい収益性
交通分野の BOT 事業は、
一般に代替交通が存在する条件下で実施される事業が多く、
従って市場リスクが大きい。採算面での安定性を確保するためには、交通事業のほか、
関連する収益事業の開発も実施することが考えられるが、交通事業の事業権付与のみで
は収益性は限られている。
④過大な事業
計画されたプロジェクト規模が、一民間事業者が実施するプロジェクトとしての適正
規模をはるかに越えていた事例がある。このプロジェクトでは、景気変動や為替変動が
民間事業者の経営に大きく影響し、企業が撤退してプロジェクトが中断した。
これらは、BOT プロジェクト失敗の直接的原因である。問題は何故このような状況に陥
ったかである。
事業の停滞原因を分析すると、①民間企業の安易な参画および、②公共側の不十分な検
討による計画了承という状況が見えてくる。公共側と民間の役割がそれぞれ十分に議論さ
れないまま、事業が動いてしまうことに問題がある。
(2) BOT プロジェクトの成功要因
先進国における事例を参考に BOT プロジェクトにおける成功要因を整理すると以下の
事項が指摘できる。
①安定的な需要確保
交通プロジェクトでは、需要を安定的に確保することが成功の最大の要因である。
開業当初から需要が多い道路での BOT 事業は採算面で比較的順調である。また、周
辺に混雑路線が存在する場合、そこからの転換により、収益が確保される事例は多い。
②限定された事業区間
優良な BOT 事業は、橋梁やトンネルなどネットワークの限定的な一部分であり、か
つ代替ルートが存在しない区間を対象とした場合に多い。代替ルートがある区間を BOT
事業にした場合、他ルートの利便性向上に応じて当該区間の交通量が大きく減少するこ
ともある。
③公共側の積極的支援
BOT 事業は、民間資金を活用して建設資金を調達するなど開発財源を確保するための
手法であり、あくまでも交通施策の一環として行われるものである。この観点から、公
-2-
共側は有料橋への取り付け道路の整備などの BOT 事業に関連する公的支援を行ってい
る。
ここには、道路は社会インフラであり、公共施設であるという認識が基礎にある。
1.3 新たな民間活力導入の必要性
交通分野の BOT 事業の成功例は必ずしも多くない。事業を成功させるためには、需要
の安定化や公共支援など一定の事業環境の整備が不可欠であり、その環境を十分に整備せ
ずに計画しても成功は困難である。
また、公共側が提示する BOT の事業計画が、元々事業として成立するようになってい
ない場合もある。民間企業は、収益が得られない事業、リスクが大きい事業には参加しな
い。また、仮にリスクが大きい事業に参加表明しても、具体的な交渉になると、計画段階
で中断したり、事業開始後に中断することもある。
元来、交通事業は、市場リスクが大きい事業であり、多大な費用を要することから公共
側が主体的に整備を進めてきた。このため、民間事業として実施するには公共側も相応の
リスク負担が要求される。しかしながら現状では、公共側は BOT 事業の実施に際して費
用負担の面などで民間事業者に事業リスクを任せすぎているという点に問題がある。
従って BOT 事業を成功させるためには、適切な事業環境を整備するとともに、新たな
事業スキームも併せて構築することが必要である。
-3-
2. 新たな民間活力導入の視点
BOT 事業は、民間の資金や技術を導入して公共施設整備・運営を行う一手法として開発
されたものである。しかし、事業実施者が民間事業者であるといえども、民間の収益事業
として単独に考えるのではなく、あくまでも「公共側と民間事業者が共に進めるプロジェ
クト」の形態と考えるべきである。
2.1 各主体が求める BOT 事業への期待
BOT 事業の発注者である公共側、道路の利用者である国民、そして事業実施者である民
間事業者は、BOT 事業に対して、それぞれ次のような項目を期待している。
(1) 公共側・国民の期待
公共側、国民は、最小限の費用投資で、優良、かつ安定的な道路サービスが提供され
ることを期待している。
①迅速で確実な整備
交通ネットワークの整備は、国民の社会経済的便益向上のための重要な施策であり、
BOT 事業は、これを促進するための方策として期待されている。従って、緊急を要する
案件については迅速な整備による早期のサービス開始およびその安定的な継続性が求
められている。
②適正な料金の維持による公共性の確保
通行料金は公共的性格を存する料金であり、地域の社会経済状況に適合する料金設定
が求められる。適正な料金範囲に迎えることにより、広く国民に利用されるよう十分に
配慮する必要がある。
③受益者負担の原則
公共性があるとはいえ、有料道路は、アクセスコントロールされた道路である。この
ため、料金徴収によって利用者に対して利用に応じたコスト負担を求めることが可能で
あり、この方式(有料道路制度)は一般に合意されている。
④独立採算性の確保
BOT 事業は、基本的に民間企業が主な事業者となるインフラ整備の形態である。この
ため、公共側からの追加補助等を受けることなく料金収入やその他の関連収入によって
事業を健全に運営可能とすることが望まれる。
-4-
(2) 民間企業の期待
民間企業は、新たな事業機会を得て一定の収益が得られることを期待している。これ
を実現するために、発注者である公共側に次のことを期待している。
①需要の確保
交通分野の BOT 事業を成立させるためには、収入である利用料金を確実に得て継続
性を持たせることが必要である。そのためには、以下の事項に配慮し、一定以上の交通
量を確保することを期待している。
1) 安定した需要がある区間の事業権の確保
ネットワーク全体の一部で代替性がある区間ではなく、需要が集中する橋
梁やトンネル、あるいは需要が十分にある道路に追加的に整備されるバイパス
など、既に安定した需要がある区間を事業範囲として含める。
2) アクセス道路の整備
BOT 区間の需要を確保するため、当該区間へのアクセス道路が着実に整備
されている。
3) 競合ルートの抑制
BOT 事業と競合する道路区間あるいは他の交通ルートにより、BOT 事業の
収益性が悪化しない。
4) 料金水準への補償
社会経済的な水準から妥当な料金と、事業採算面から要求される料金の水
準は必ずしも一致しない。政策的に低料金に抑えられる場合には、事業性を確
保するために何らかの補償がある。
②公共側の適正なリスク負担
民間事業者が BOT 事業を推進するためには、公共側も一定のリスクを負う。たとえ
ば用地買収の遅延や、アクセス道路整備の遅延に対する補償を BOT 事業者に対して行
う等の配慮である。
2.2 PPP(Public-Private-Partnership)による整備
BOT 事業の推進のために、公共側・国民と民間事業者のいずれもが利益を確保できる新
たな事業スキームを構築していくことが必要である。この事業スキームは、民間事業とし
ての成立を可能とするインフラ整備のスキームであり、これを構築するためには公共側の
理解が前提となる。
日本の建設省(現、国土交通省)は BOT 推進のために官民の役割分担に関するガイド
ラインを 1999 年に公表している。このガイドラインでは、公共側と民間企業が最適な形
-5-
でリスクを分担し、それぞれが業務を進めていくことを基本とし、計画、発注、実施の各
段階における各主体の役割を記述している。官と民が互いに得意とする分野を担い、それ
ぞれが業務を行うことでリスクを回避して事業を進めようとするものである。
この考え方を更に発展させ、新たな視点として官民協働(Public-Private-Partnership;
PPP)という考え方を追加する。
ここでは、官と民があらかじめ定めた業務分野を独立して担うのではなく、官と民が協
働した上でプロジェクトを形成し、官と民の適切な協働のもとに事業を進めていくという
考え方である。
この官民協働というのは従来の途上国で行われてきた BOT 事業とは異なっている。従
来行われ(かつ失敗してきた)BOT 事業は、
「公共側が民間事業者に任せたままのプロジ
ェクト」であった。しかし官民協働の BOT 事業は、
「公共側が民間事業者に協力して進め
るプロジェクト」である。
2.3 BOT 事業への公共側の積極的参加
発展途上国におけるプロジェクトは、一般に以下の特徴がある。
・ 経済発展に伴う将来の需要の伸びは期待できるが、採算性を確保するまでの壊任期
間が長い。
・ 経済が不安定で国内外の影響を受けやすいため、市場リスクが大きい。
・ 上記と同じ理由で、外国資本参加の場合には為替変動に伴う収入変動リスクが大き
い。
・ 安定的な政治体制の歴史が浅いため、政策変更に伴うリスクが大きい。
このため、BOT 事業を成立させるため、公共側は、事業環境を整えるとともに、積極的
に BOT 事業に参加することを検討するべきである。
1) 公共参加の必要性
民間単独では事業性が低い事業でも、公共側が事業に参加し適切なリスク分担と公的
支援により、事業が成立すれば社会的便益が発生し、政策目的が達成されることになる。
加えて、公共参加によって、事業者が採算性確保のために設定する料金を低く抑えるこ
とが可能となり、結果的に需要の増加も期待できる。
-6-
(1)公的支援がない場合
費用が収入を上回っているため事業が成立しない。このため結果的に費用
は発生しないが便益も発生せず、社会的阻害要因は何ら改善しない。
費用
運営
建設費
料金
収入
事業化できない
・・社会経済状況は改善しない
(2)公的支援がある場合
公的支援によって収入が費用を上回り、事業が成立する。これによって利
用者、事業者、利用者以外の国民のそれぞれに便益が発生する。
費用
収入
運営
建設費
料金
公的支援
利益
利用者便益
便益
外部経済効果
図- 1 公的支援と社会経済的便益
2) 公的支出の効果
一般に公的支出によって、BOT 事業者の負担が軽減されるため、BOT 事業者の FIRR
(財務的内部収益率,事業への投資に対する利益還元の指標)が向上する。その一方、
資金源が民間であろうと公的資金であろうと、その投入は社会経済資源の投資であり、
社会経済的な費用対効果を考えれば、公民の比率が変わっても EIRR(経済的内部収益
率,社会経済資源の投資に対する便益還元の指標)は変化しない。
すなわち、公的支出によって FIRR が向上して事業が成立すれば一定の EIRR が得ら
れて、国民と事業者のそれぞれに好ましい状況が発生することになる。
-7-
3. 官民協働によるプロジェクトの推進
公共側と民間が協働で BOT 事業を実施するために、当該プロジェクトの官民協働 BOT
プロジェクトとしての妥当性を評価し、そのプロジェクトに適した官民協働の事業のあり
方を検討する。さらに事業実現のためのリスクヘッジを検討し、官民双方にとって魅力的
な事業計画を策定する。
3.1 官民協働 BOT 事業の構築
(1) BOT 方式の期待
BOT 事業は「民間資金を直接投入するインフラ整備」である。従来は公的主体が公的資
金を用いて直轄で、あるいは部分的に外部に委託して実施していた公共事業を民間の資金
調達力を活用して整備する方式である。
従って、公共側並びに利用者が BOT 方式に期待することは、民間の資金調達によって
公共事業として実施する場合と比べて、早期の供用が可能となることである。また、民間
の経営能力や技術力による安価な事業費や優れたサービスの提供も期待される。
(2) 事業の特定
BOT 事業は、
『民間の活力を利用する公共事業』である。
したがって、社会経済的に事業を実施する意義があることが大前提であり、その上で採
算面から BOT 方式を適切とする事業が採用されるべきである。
官民協働 BOT 事業としての特定の手順を図-2 に示す。
まず、①社会経済的に有意義な事業でなければならない。
次に、②公共側の支援が不要な民間事業として成立可能かという判断がある。ここでは
実際に事業を行う民間企業の存在を確認することになる。もし事業を行える民間企業があ
るのであれば民間にまかせることになる。
次に、③純粋な民間事業としては困難であっても公共側が用地を提供したり、事業実施
について特権を付与することによって民間事業として成立するかという判断がある。もし
成立するのであれば BOT 事業とする。この BOT 事業は、従来行われている BOT 事業と
同様に、公共側が事業に一定の制約や権利を与えるとともに必要に応じて公共側が用地買
収等を実施した上で実施する従来型 BOT 事業である。
次に、④従来型 BOT 事業としては成立しなくとも、公共側が事業に更に積極的に関与
することで BOT 事業として成立するかという判断がある。もし成立するならば官民協働
BOT 事業として実施する。
最後に、⑤公共側の積極的支援があっても BOT 事業として採算性が低い場合には、事
業を実施しないか、あるいはどうしても必要な事業であれば別途、資金を調達し、公共事
業として実施することになる。
-8-
候補事業
実施しない
①社会経済的に
実施すべき事業か
No
Yes
②民間事業として
実施可能か
Yes
No
③従来型BOT事業
として実施可能か
No
民間事業として実施
Yes
④官民協働BOT事業
として実施可能か
No
従来型BOT事業として
実施
官民協働BOT事業
として実施
⑤
Yes
公共事業として
実施
図- 2 官民協働 BOT 事業採用の手順
3.2 官民協働による計画の策定
交通施設の BOT 事業が計画段階で中断したり、事業が開始できない主な要因は、基本
的に、「公共側が期待する整備と、民間が行う企業活動内容の不一致」から生じている。
問題は、この不一致をどこまで近づけられるかという点である。このため、公共側は、官
民協働 BOT 事業の実施に当たり、以下の項目を実施する必要がある。
(1) プロジェクトの明確化
公共側が交通政策に関して一定の目標を示し、当該プロジェクトの位置付けを明確に示
す。
・ 経済目標を達成するための交通ネットワーク整備の意義を明確にする。
・ 当該プロジェクトの目的を示し、この整備によって期待される社会経済的
な効果、あるいは事業を実施しない場合の損失を明確にする。
・ これによって例えばある道路区間の欠落が、交通網を不完全な姿にし、そ
-9-
の結果、社会経済的に大きな損失であることが明らかとなるのであれば、
当該プロジェクトを本来は公共側自らが行うべきことが示され、BOT 事業
に公共側が参加することの国民的な合意を得られやすくなる。
(2) 協働体制の整備
BOT 事業は、
「公共側が民間に任せる事業」というというのではなく、
「公共側が民間と
共に行う事業」という意識が必要である。
このような意識のもとで民間事業が成立するように公共側は事業に必要な参加を行い、
公共側と事業者で利益(社会的便益を含む)やリスクを共有、分担する。
3.3 事業推進のためのリスクマネジメント
(1) リスクヘッジの考え方
リスクが大きい道路整備事業に民間企業が参入するためには公共側が一定のリスクを
負担する必要がある。その一方、公共側も民間参入によるリスクを回避する必要がある。
ここでは特に重要なリスクヘッジとして以下の4つを示す。
①市場リスク
基本的には市場リスクは民間事業者が負担するリスクである。しかし、需要変動は地
域開発や周辺道路整備といった公共側によるプロジェクトの影響も受ける。特に需要が
安定しない途上国においては、最低交通量の補償など市場リスクに対する公共側の積極
的な負担が必要である。
②信用リスク
信用リスクは、民間事業者の撤退のリスクである。先進国では、撤退に対して罰則的
な条件を課している例もある。民間事業者への過度な負担は民間企業の参入意欲を損な
うこととなるが、リスクヘッジが適切に機能していれば民間企業からの安易な参入や無
理な事業提案を抑制することができる。
③資金調達リスク
資金調達リスクは、民間事業者が当初計画通りの資金調達ができなくなり、事業継続
が困難となるリスクである。基本的には、民間事業者および出資者がリスクを負う。
しかし、発展途上国では、事業そのものの安定性がやや欠けることから資金調達の確
実性が重要であり、公的機関によって資金調達を支援することが民間参入の可能性を高
める方策となることも考えられる。
-10-
④政策変更リスク
政策変更リスクは、経済政策や法令の変更に伴う事業への影響であり、民間事業者か
らはコントロールすることができない。このため、民間企業の参画を促すために公共側
の責任を明確にすることが必要である。
特に公共交通機関の料金設定や、競合交通機関の導入など、交通政策の変更は交通需
要に大きく影響する。これに伴う事業の採算性悪化への責任の所在を明確にしておく必
要がある。
(2) 官民協働のリスクマネジメント
公共側と民間事業者が適切なリスク分担を行い、BOT 事業を円滑に推進するために、公
共側と民間が協力してリスクヘッジを導入していくことが重要である。この官民協働のリ
スクマネジメントを進めるために、公共側は以下の手続きで事業を構築していくことが必
要である。
①民間の能力と役割の認識
BOT 方式による当該道路事業における公共側と民間のそれぞれの能力や役割を認識
し、理解した上で適切な公共側と民間の役割を検討する。
②プロジェクトの分析
公共側提案プロジェクトでは、民間からの意見・提案を受け、公共側の仕様を、民間
の視点で再度精査する。民間提案プロジェクトでは、その内容を公共側の観点から精査
する。
③必要な対策の検討
適切なリスクマネジメントによってプロジェクトが実施可能か、検討する。必要に応
じて、計画や公的支援の導入も含めて事業スキームを見直す。
これらの検討は、公共側が主導的に進めるが、公共側単独での検討でなく、民間企業の提
案や意見を採り入れつつ、実施しなければならない。
(3) 適切な料金設定
交通事業における利用料金の設定は特に重要である。BOT 方式を採用しても交通インフ
ラ整備は独占免許の下での公益的事業であるから料金設定を政策的に定めるのは十分根
拠がある。これに対して事業者は、事業採算性を確保するため高い料金を提示せざるを得
ず、これが事業が進まない原因の一つとなっている。
現行の料金設定の手順と問題点は図- 3の通りである。
質の高いインフラ整備の費用を賄うためには相当の料金水準が必要である。しかし高い
-11-
料金では交通量が少なく事業が成立し得ない。そこで事前に適切な需要予測を実施する必
要があるが、実際には事前の需要予測や財務的検討が十分に行われないまま BOT として
進められているケースもある。
【政府】
【民間事業者】
仕様提示
事業費算定
妥当な料金水準
需要予測
高い料金水準
独立採算事業として成立
するための料金設定
交渉決裂
事業化できない
図- 3 料金設定における公共側と民間の不一致
BOT 事業が独立採算型事業とされ、需要リスクを民間事業者が負っている以上、一定水
準の料金設定は必要である。しかし、特に発展途上国では、この料金は社会経済水準から
求められる料金を上回ることが多く、このため具体的な事業化に至らないことになる。
このため、料金設定に関してはその水準を与件とし、不足分を具体的な数字として算出
した上で、これを補うための方策を検討し、官民協働による対策を実施することが必要で
ある。ここで妥当な料金水準とは、社会経済状況から判断して国民に受け入れられる料金
水準である。
【政府】
【民間事業者】
仕様提示
事業費算定
妥当な料金水準
需要予測
対策
不足分の算定
交渉
図- 4 一定の料金水準を維持するための交渉
-12-
この妥当な料金水準を前提とした上でプロジェクトを実現するために公共側は参加の
程度を検討することになる。これによって、当該プロジェクトの手法を従来型 BOT、官民
協働 BOT、公共事業と定めていく。
(図- 5)
官民協働の手法として資金援助のほか、後述のようなハイブリッド型などがある。なお、
官民協働型にすれば事業が成功する可能性があるプロジェクトであっても、実際の公的支
出が難しい場合には、リスクは高いが従来型 BOT として実施することも選択肢として考
えられよう。
妥当な料金水準
社会経済的妥当性
BOT事業の選択
従来型BOTが適切
リスク低
官民協働BOTが適切
リスク高
支援なし
ハイブリッド・
プロジェクト
公的資金援助
図- 5 妥当な料金水準に基づく事業方式の選択
-13-
BOTとして実施不可能
公共事業
4. 官民協働の事業スキームの提案
公共側と民間が協働で BOT 事業を実施するためには、適切な事業スキームを構築する
ことが必要である。本ガイドラインでは、その一例として、ハイブリッド型の事業スキー
ムを提案する。
4.1 官民協働のスキーム
協働事業としての可能性検討の段階では、公共側がどこまで民間事業者と協働できるか
が問題となる。官民協働の BOT 事業は、本来、公共側が実施する事業に民間資金等を投
入する事業である。したがって民間企業が参入しやすいような事業スキーム作りが必要で
ある。このスキームにおいては官と民が独立し、勝手に事業を進めるのではなく官と民は
組織は独立しつつも必要な連携体制を築き、協働していくことが求められる。
公共側と民間事業者が協働して道路整備の BOT 事業を実施する方式として、公共側が
事業に出資し、民間企業と共に事業会社を設立する方式、あるいは事業会社に補助金を交
付し、民間事業者のコストを軽減する方式が考えられる。資金が入ることは民間事業者に
とっては望ましいが、この方法は事業に対する経営責任の所在が曖昧になるという問題が
ある。
公共側が民間事業者に資金援助を行うことは、僻地の開発など、住民の生活水準向上の
ためのシビルミニマム的な事業では採用し得るであろう。しかし、多くの有料道路事業の
ように、一般道路が存在した上で更に追加して整備される場合については、国民の合意が
必要である。民間が収益を得る事業に公的資金を提供することの妥当性が問われることに
なる。
本ガイドラインでは、先に述べたように、特に発展途上国では有料道路整備は国民生活
向上のための基本的インフラであり、公的支援は妥当との立場をとっているが、これは必
ずしも国民的合意となっている訳ではない。
公共側が民間事業者に直接、資金援助を行う JV 型のほかに、本ガイドラインでは、官
民が責任を明確にしつつ事業を協働する方法として、ハイブリッド型の官民協働のスキー
ムを提案する。
(図- 6)
-14-
(1) JV 型の官民協働スキーム
官民が出資して共同で BOT 事業会社を設立し、その会社がプロジェクト
の建設、維持管理・運営をする。
出資
政府
民間
共同企業体を設立し
一体となって事業を実
出資 施
(2) ハイブリッド型の官民協働スキーム
プロジェクトを構造・機能および/或いは構造的一体性を加味しつつ、採
算性を考慮して二つの部分に分割し、一方を公共側が、他方を民間が夫々
の資金で建設し、プロジェクト全体の維持管理及び運営は民間が自己資金
で行う。
支出
政府
政府による建設
責任を明確にしつつ
協働して実施
出資
民間
民間による建設
民間による維持管理・運営
図- 6 JV 型とハイブリッド型
4.2 ハイブリッド型道路整備
(1) 上下分離方式
同一区間を公共側と民間が分担して整備する方式である。
例えば路盤を公共側が、舗装を民間事業者が整備し、維持管理・運営は民間事業者が行
う。高架道路では、橋脚を公共側が、道路部分を民間事業者が整備することも考えられる。
公共側と民間の区分が明確であれば、整備に対する責任が分かりやすい。公共側あるい
は民間側のいずれか一方でも整備が遅れるとその区間が供用できないため、両者の連携を
十分にとることが不可欠である。
建設
運営
民間
民間
公共
図- 7 ハイブリッドプロジェクト(タイプ1)
(上下分離)
-15-
(2) 区間分離方式
道路を区間に分けて公共側と民間がそれぞれ整備する方式である。
橋梁は民間事業者が、アクセス道路を公共側が整備し、民間事業者が一体的に維持管
理・運営を行う。あるいは本線を民間事業者、インターチェンジを公共側が整備するとい
う分割方法もある。
この方式でも、担当区間が明確であるため、責任分担も明確となる。また、それぞれの
区間が独立しても機能する場合には、片方の整備が遅れた場合でも、本来の整備効果は得
られないものの、各区間の整備効果は得られることになる。
料金所
民間
運営
建設
公共
民間
図- 8 ハイブリッドプロジェクト(タイプ2)
(区間分離)
-16-
公共
5. BOT 事業の推進に向けての公共側の役割
官民協働の BOT 事業の推進に向けて、公共側は、BOT 事業スキームや手続きを改めて
見直すとともに官民協働の仕組みを広く国民に認知してもらう必要がある。
さらに、公共側の負担すべき事業費が不足する場合においては、ODA 事業との連携に
ついても検討すべきである。
5.1 公共側の役割
BOT 事業を推進するためには、公共側が BOT 事業に積極的に参加することが重要であ
り、公共側には次の対応が求められる。
①BOT 事業への参画の仕組みの構築
公共側が BOT 事業に参画することについて国民的合意を形成し、具体的な仕組みを
制度化する。全体の建設費、維持管理費と公共負担や社会経済効果の関係等について検
討し、BOT 事業に対する投資限度額についてルールを定める。
②適正な事業計画の策定
交通インフラ整備が国家開発計画や経済開発計画に適合するのは当然として、更に、
事業採算性があり実施可能な事業計画を策定することが必要である。特に需要予測に関
しては希望的数値ではなく、市場調査を踏まえて算定する等、民間企業の参加を十分促
せる精度にすることが要求される。
③民間の創意工夫が活かせる発注
例えば道路部分だけでなく、上下空間や一体的な沿道開発など民間事業者の創意工夫
も十分反映できる仕様を検討する。
④道路整備財源の充実
BOT 事業への支援、あるいは公共側自らの道路整備を進めるためにも道路整備財源の
充実は極めて重要である。財源を充実するためには一定の経済力が必要であるが、広く
負担させれば、個々の負担は小さくとも大きな資金が得られる。特に交通需要が将来的
に大きく増加することが見込める場合には、日本の道路整備財源制度に代表されるよう
な受益者からの広い資金確保は有効である。
⑤民間事業者選定の透明性・公平性
民間企業の参入意欲を高めるとともに BOT 事業に対する国民の信頼性を確保する
ため、事業者選定に当たって透明性および公平性を確保する必要がある。
具体的には事業者選定に際して公募による競争入札あるいはプロポーザル競争を実
施することが望まれる。
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5.2 多様な資金の活用
官民協働 BOT プロジェクトは民間事業者と公共側が共に資金調達して実施するもので
ある。しかし、公共側は資金調達が困難であるから民間資金を活用する BOT 事業を導入
しようとするのである。官民協働 BOT プロジェクトの実施に当たって、公共側は様々な
資金を活用することになるが、その選択肢として ODA も考えられる。
(1) ODA と BOT 事業の関わり方
ODA は民間事業者を支援するために実施するのではない。道路整備に対する ODA の目
的は途上国の社会経済の安定・向上や環境の改善であり、そのために道路ネットワーク形
成を支援する。
道路ネットワーク形成を BOT 事業と ODA が協働して行う。ODA は官民協働 BOT 事
業推進にとって、重要な役割を担うことになる。
①ODA から BOT 事業への期待
交通ネットワーク形成に際し、一部区間でも BOT 事業で実施可能であれば、公的資
金の支出を減少させることができる。また、ODA の目的とする社会経済の安定、向上
等の早期達成が可能となる。このため、ODA で交通ネットワークを整備する際には BOT
事業の促進につながるよう配慮することが好ましいと考えられる。
②BOT 事業から ODA への期待
BOT 区間の一部や連絡する交通ネットワークが公的資金により整備されれば事業性
が向上する。また、ODA があることにより、当該事業の国際的信用が高まることが期
待される。
(2) ODA による官民協働 BOT 事業の支援方策
先進国は国際協力を通じ、官民協働 BOT 事業の推進に向けて以下の支援を現地政府に
行っていくことが考えられる。
① BOT 事業を進めるため M/P、F/S 調査等の技術協力を行う
BOT 事業に対する制度の整備、個別 BOT 事業の仕様書作成、BOT 事業応募者の評
価等に関する技術移転を促進することにより、BOT 事業を側面支援する。
② BOT 事業と一体的に整備する公共側の基盤整備に対して資金提供あるいは融資を行
う
BOT の有料道路に接続する一般道路の建設、周辺地域開発、あるいは当該有料道路
に関連する道路環境整備等を必要に応じて ODA によって支援する。これによって当
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該 BOT 事業の採算性を安定させるとともに、
当該 BOT 事業の国際的信用が高まり、
国際公的金融機関等から BOT 事業への融資が円滑に進むことが期待される。
③ 新しい技術導入を支援する
BOT 事業のねらいは公的支出削減だけでなく民間の先進的技術の導入も期待される。
このため、ITS などの技術を導入しやすくするための現地国における基盤整備を支援
する。
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参考 官民協働型 BOT 事業検討のためのケーススタディ
官民協働型 BOT 事業を検討するため、某国の某有料道路を対象に、BOT 事業の可能性
を検討した。
1. 対象事業の概要
本道路は、某国首都圏に整備する分離 4 車線の放射線有料道路である。
本道路を含む有料道路網については、
すでに ODA によって F/S が実施されており、
2010
年を目途に環状線 2 本(11km)、放射線 11 本(87km)の整備されることになっている。
本道路は、首都圏において最も交通量の多いルートであり、隣接の都市から首都圏中心
部へ通じる幹線となる。沿道は、中高級の住宅地開発が進んでおり、私的交通需要が急速
に増加すると見込まれている。
現時点では、この地域を通過する道路は一般道しかなく、この有料道路は、強力な代替
路になる。
本路線は、7.2km の高架区間、0.8km の半地下区間、4.3km の平面区間から構成され、
一般道路との交差は、すべて立体交差となる予定である。
なお、一部区間には不法占拠者が居住しているものの、事業実施時にはすべて移転して
いるものと想定する。
対象事業路線図
Route3
Route5
7.2km
4.3km
0.8km
Elevated
Semiunderground
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Ground level
2. BOT の事業計画
(1) 交通需要
本路線は、交通需要の多いルート上にあり、接続するネットワークや沿道での開発も進
みつつあることから、交通量は着実に伸びていくことが予想される。
交通量
2001 年 :16,000 台/日
2015 年 :60,000 台/日
以後、年率10%で増加、100,000 台/日が上限
(2) 事業費
建設費
:143 百万 USD
維持管理費
:0.4 百万 USD/年
運営費
:0.6 百万 USD/年
(3) BOT 条件
本事業における BOT の条件は、以下のとおりである。
プロジェクトタイプ
:BTO
事業期間
:30 年(建設 3 年、供用 27 年)
用地
:政府負担
財源的政府保証
:用地を除いてなし
(4) 料金設定
以下のように設定した。
0.9USD/台
(5) 資金計画
事業費の 30%を資本金として調達する。この国では BOT 実施条件として、最低 20%の
資本金としているが、これよりも余裕を見込んだ。
(6) 事業の実施可能性
本事業の財務分析の結果、多大な建設費に対するローンの返済がプロジェクトの収益性
を圧迫し、コンセッション期間(30 年)を通した資本利益率(ROE)は約 5%になると見
込まれる結果となった。したがって事業採算性を満足できず、事業主体として許容できな
いことが明らかとなった。
このままでは民間事業者の参入は期待できない。
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3. 事業計画の見直し
BOT 事業を成立させるために事業計画の要素を見直すこととした。
(1) 料金設定
収益性を向上させるために料金を上げることが行われるが、無制限に上げれば、結局利
用者から見放されることになる。
したがって地域経済状況や料金と交通需要との関係から妥当な料金水準を設定する必
要がある。ここでは近隣の有料道路の料金設定、および料金設定と交通量等の関係から
1.4USD/台程度が妥当な料金水準と判断した。
なお、新たに設定した料金と将来交通量の関係を改めて検討したところ、1.4USD/台
では将来交通量への影響は少ないものと考えられた。
(2) 官民協働
民間企業の参入を可能とするために、政府の支援を検討した。
ここでは次の2種類を設定した。
①市場リスクの分担
開通後 15 年間の年間交通量が予想交通量の 80%を下回った場合には、予測収入の
80%に満たない額について政府が補填する。
なお、逆に 120%を上回る場合には、120%を超える収入について事業主体が政府に対
して支払う。
②ハイブリッドプロジェクト
有料道路の一部区間を政府が建設する。これによってプロジェクト収支を強く規定す
る建設費の事業者負担を少なくする。
(3) その他
さらに、いくつかの条件を修正する。ここでは資本比率を 30%から、規定ぎりぎりの
20%までに減少させる。
(4) 事業の実施可能性
事業計画の見直しの結果、約 30%の建設費削減があればコンセッション期間 30 年間を
通した資本利益率(ROE)が約 15%となり、事業性があることがわかった。更に、政府に
よる市場リスクの分担により民間企業参入の可能性を、より高められる。
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4. 官民協働 BOT の事業計画
以上の検討の結果、本事業は、区間分離ハイブリッド型の官民協働プロジェクトとする
ことで成立する可能性を高めることができる。
建設
費用
維持管理
費用
公共
環状 3 号線とのインターチェンジ
環状 5 号線とのインターチェンジ
半地下空間(0.8km)
43 百万 USD
民間
高架区間(7.2km)
平面区間(4.3km)
100 百万 USD
全区間
1.0 百万 USD/年間
Route3
Route5
7.2km
4.3km
0.8km
Elevated
Semiunderground
:public sector
:private enterprise
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Ground level
<当初計画(従来型 BOT)における資本利益率:ROE=4.8%>
<官民協働 BOT における資本利益率:ROE=15%>
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