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不動産54

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不動産54
民法Ⅳ講義教材[9]
民法Ⅳ講義教材[9]
2003.5.12.
山田誠一
■説明
第4章 所有権の取得(3)
[1] 不動産の附合
(1) 不動産の附合とは:不動産に他人の物が附合する(不動産に物が付
着する)場合に、その物の所有権を不動産の所有者が取得する(附
合した物の所有者がその所有権を失う)制度である。実質的には、物
の「不動産への附合」である。添付の一制度である。不動産の所有者
が、自己が所有する物を不動産に付着させた場合は、物が不動産の
構成部分となれば、一個の不動産となるが、これは、附合ではない。
なぜならば、所有権の取得が生じていないからである。
(2) 不動産の附合の趣旨:①不動産に物が付着し、分離復旧することが
困難である場合、社会経済上、分離復旧の損失を生じさせる。このこ
とを避けるために、物の所有権を、不動産の所有者に取得させ、分離
復旧を必要としないこととする。②不動産に物が付着し、取引観念上、
物が独立性を失った場合、取引の安全のために、物の所有権を、不
動産の所有者に取得させる。
(3) 附合の要件(242条本文):①附合される不動産は、建物でも土地で
もかまわない。②附合する物は、多くの場合動産であるが、不動産の
場合もありうる。③附合とは、独立の所有権の対象となっていた物が、
不動産に付着して独立性を失い、分離復旧することが困難な場合を
いう。④自然に附合したか、人が附合させたか、附合させた者が動産
の所有者か、不動産の所有者か、第三者かを問わない。
(4) 附合しない場合(242条但書):権原によって物を不動産に附属させ
た場合は、その物の所有権を不動産所有者は取得しない。物の所有
者が、依然として所有する。権原とは、地上権・賃借権などの不動産
を使用する権利をいう。
(5) 附合の効果:附合した物の所有権を、不動産所有者が取得する(24
2条)。物の所有権を失った者は、不動産所有者に、償金を請求する
ことができる(248条)。したがって、附合した物については、物の旧所
有者は、収去権がなく、収去義務を負わない。附合しなかった物につ
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民法Ⅳ講義教材[9]
いては、物の所有者は、収去権があり、物の所有者が不動産を使用
する権利がない場合には、収去義務を負う。
(6) 附合する例・附合しない例:①建物を増築(改築)すると、増築部分
(改築部分)は、増築前の部分(改築しなかった部分)に附合する。建
物賃借人がする増築が問題となる。②土地に播かれた種子・植付け
られた苗木は、土地に附合する。ただし、土地の賃借人が播いた種
子・植付けた苗木は、土地に附合しない。③土地に植栽された樹木
(立木)は、土地に附合する。ただし、土地の地上権者が植栽した立
木は、土地に附合しない。
(7) 最判昭和54年1月25日民集33巻1号26頁[73事件]:Y が注文者、
A が請負人となる、本件建物建築の請負契約が締結された。A と X’と
の間で、右請負契約の工事の大部分について、下請契約が締結され
た。Y は、A に、代金の一部213万円を支払ったが、A は X’に代金を
支払わなかった(代金の支払いとして渡した小切手は不渡りとなった)。
そこで、X’は、棟上げをし屋根下地板を張り終え、屋根瓦をふかず荒
壁を塗らない段階で、工事を中止した。Y と A は、請負契約を合意解
除し、Y は、B との間で、新たに続行工事に関する請負契約を締結し
た(建物の所有権は、Y に帰属する旨の約定が行なわれた)。B は、
工事を続け、本件建物を竣工させた。X(X’の相続人)が、Y に対して、
所有権にもとづいて、本件建物の明渡を求めて訴えを提起した。判
決は、請求を棄却した。
(図)
Y
請負契約
注文主
A
請負人
続行工事についての請負契約
B
請負人
2
下請負契約
X’
下請負人
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(8) 最判昭和44年7月25日民集23巻8号1627頁[75事件]:X と A との
間で、X 所有の本件土地について、賃貸借契約が締結された。A は、
本件土地上の建物(第二建物)を所有していた。A は、第二建物の一
部を B との間で、賃貸借契約を締結した。B は、第二建物の屋上に、
建物(第三建物)を増築した。第三建物については保存登記が行な
われ、B の相続人は、第三建物を Y3 に譲渡し、所有権移転登記を行
なった。X は、本件土地の無断譲渡または転貸を理由として、賃貸借
契約を解除した。X が、A の相続人である Y1 らに対して、第二建物と、
第三建物の収去と本件土地の明渡を求めて訴えを提起した。判決は、
請求を棄却した。
(9) ふたつの建物の一体化:所有者が異なり、互に主従の関係にない二
棟の建物が、その間の隔壁を除去するなどの工事により、一棟の建
物となった場合、二棟の建物の所有者による、その建物の価額の割
合を共有持分とする、共有になると考えられる。
(10) 最判平成6年1月25日民集48巻1号18頁[74事件]:A は、縦割
連棟式建物の相互に隣接する2戸を所有していた。その一方の旧建
物(1)については、債権者 X のために、抵当権を設定した。もう一方
の旧建物(2)については、債権者 B のために、抵当権を設定した。そ
の後、A は、旧建物(1)と旧建物(2)との隔壁を一部撤去した(この状
態を、新建物(3)とする)。A は、新建物(3)について、Y1 との間で賃
貸借契約を締結した。Y1 は、旧建物(1)と旧建物(2)との隔壁の残り
を撤去した(この状態を、新建物(3)’とする)。Y1 は、A の承諾を得て、
新建物(3)’の一部について、Y2 との間で、転貸借契約を締結した。
B が、強制競売の申立てを行ない、競売手続きが開始され、X が買い
受けた。X が、Y1Y2 に対して、新建物(3)’の明渡を求めて、訴えを
提起した。判決は、請求を認容した。
[2] 動産添附(附合・混和・加工)
(1) 動産添附(てんぷ):動産の所有権を取得する原因である。所有権が
取得される動産の所有者が、その動産の所有権を失う原因でもある。
(2) 動産の附合(243条、244条):ある動産が別の動産に付着し、毀損し
なければ分離できない状態となること。附合する前の段階の2つの動
産について、主従の区別が可能であれば、従たる動産の所有権を、
主たる動産の所有者が取得する。主従の区別が不可能な場合、2つ
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の動産の所有者は、附合した後の段階の動産を、附合する前の段階
の各動産の価格の割合に応じて、共有する。
(3) 動産の混和(245条):ある動産が別の動産と混ざり合って両者を識
別できなくなること。効果は、動産の附合と同様である。
(4) 動産の加工(246条):①ある動産を材料にして、その動産の所有者
でない者が工作を加え、新しい動産(加工物)が作られた場合、原則
として、加工物の所有権は、材料とされた動産の所有者に帰属する。
②①の場合であって、その工作によって増加した価格が、材料の動
産の価格を著しく上回るときは、加工物の所有権は、工作を加えた者
(加工者)に帰属する。③加工者が、材料を提供した場合には、工作
によって増加した価格と加工者が提供した材料の価格の和が、材料
の動産の価格を上回るときは、加工物の所有権は、加工者に帰属す
る。工作によって増加した価格と加工者が提供した材料の価格の和
が、材料の動産の価格を上回らないときは、加工物の所有権は、材料
とされた動産の所有者に帰属する。
(5) 償金請求権:動産添附の規定により、損失を受けた者は、利益を受け
た者に対して、償金を請求することができる(248条)。
[3] その他の所有権の取得原因
(1) 動産の所有権取得原因:無主物先占(239条)、遺失物拾得(240
条)、埋蔵物発見(241条)。
[4] 金銭の所有権
(1) 金銭(現金)についての所有権:金銭は、善意取得の要件をみたさな
くても、占有を取得した者は、所有権を取得する(判例)。善意無過失
の要件が要求されない。
(2) 最判昭和39年1月24日判時365号26頁:「金銭は、特別の場合を除
いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべき
であり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有者
は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すべきと解すべきで
あり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由
によって取得したか、または、その占有を正当づける権利を有するか
否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者と見るべきもので
ある」。
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