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エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業

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エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業
平成 25 年度
エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業
(グローバル市場におけるスマートコミュニティ等の事業可能性調査)
調査名:タイ王国
バンコク交通渋滞緩和に係る事業可能性調査
調査報告書
平成 26 年 3 月
日本電気株式会社
目次
1. 調査概要 ............................................................................. 1
1.1 調査の目的 ........................................................................ 1
1.1.1 調査の概要 .................................................................... 1
1.1.2 国内調査 ...................................................................... 2
1.1.3 現地調査 ...................................................................... 3
1.1.4 調査体制 ..................................................................... 11
1.2 調査スケジュール ................................................................. 12
1.2.1 全体スケジュール ............................................................. 12
1.2.2 現地調査スケジュール ......................................................... 12
2. 市場分析及び調査結果 ................................................................ 14
2.1 タイ国の経済・財政事情 ........................................................... 14
2.1.1 タイ国の基本概況 ............................................................. 14
2.1.2 タイ国の経済概況 ............................................................. 15
2.1.3 タイ国の政治、行政概況 ....................................................... 17
2.1.4 タイ国の地域区分 ............................................................. 20
2.1.5 タイ国の自然環境 ............................................................. 21
2.1.6 タイ国の社会環境 ............................................................. 22
2.2 タイ国における道路運輸セクターの概要 ............................................. 24
2.3 対象地域の状況 ................................................................... 31
2.3.1 バンコク交通状況 ............................................................. 31
2.3.2 バンコクの公共交通機関の状況 ................................................. 37
2.3.3 バンコクの道路関連施策の動向 ................................................. 43
2.4 バンコクのステークホルダ分析 ..................................................... 50
2.5 バンコクの道路・交通関連法制度 ................................................... 51
2.6 バンコク都の ITS 状況 ............................................................. 51
2.6.1 バンコクにおける渋滞発生状況 ................................................. 51
2.6.2 バンコクの通信ネットワーク状況 ............................................... 58
2.6.3 バンコクの主要道路の時間交通量 ............................................... 59
2.6.4 バンコクの ITS 設備 ........................................................... 60
3. 事業計画 ............................................................................ 67
3.1 プロジェクトの背景、必要性 ....................................................... 67
3.2 プロジェクトの基本方針 ........................................................... 68
3.3 プロジェクトの内容 ............................................................... 69
3.4 プロジェクトのスキーム ........................................................... 72
3.5 想定されるプロジェクトの実施体制 ................................................. 72
3.6 プロジェクト実施スケジュール ..................................................... 74
3.7 プロジェクトの対象地域 ........................................................... 75
3.8 事業費 ........................................................................... 76
3.9 事業費の資金調達計画と見通し ..................................................... 77
3.10 プロジェクトに係る法令・制約 .................................................... 77
3.11 ソリューション提案 .............................................................. 78
3.12 技術、実行戦略 .................................................................. 78
3.12.1 パイロットプロジェクト ...................................................... 78
3.12.2 本プロジェクトへの優位性について ............................................ 80
3.13 プロジェクト実施時のバンコクへの影響、効果 ...................................... 81
3.13.1 平均旅行速度改善効果 ........................................................ 82
3.13.2 燃費削減効果 ................................................................ 88
3.13.3 CO2 削減効果 ................................................................. 95
3.13.4 排出ガス削減効果 ........................................................... 101
1
3.13.5 その他の効果 ............................................................... 108
3.14 投資効果 ....................................................................... 109
3.15 日本国内経済への影響、波及効果 ................................................. 112
3.16 日本企業の優位性 ............................................................... 112
4. 他国への横展開戦略 ................................................................. 112
5. 総括 ............................................................................... 113
2
略語表
略語
正式名称
ADB
Asian Development Bank
ARL
Airport Rail Link
ASEAN
Association of Southeast Asian Nations
ATC
Area Traffic Control
BMA
Bangkok Metropolitan Administration
BMCPL
Bangkok Metro Public Company Limited
BOI
The Board of Investment of Thailand
BRT
Bus Rapid Transit
BTS
Bangkok Mass Transit System
BTSC
Bangkok Mass Transit System Public Company Limited
DLT
Department of Land Transport
DOH
Department of Rural Roads
EXAT
Expressway Authority of Thailand
FS
Feasibility study
GDP
Gross Domestic Product
GPS
Global Positioning System
ICT
Information and Communication Technology
IMF
International Monetary Fund
ITS
Intelligent Transport System
JETRO
Japan External Trade Organization
JICA
Japan International Cooperation Agency
MOT
Ministry of Transport
MRTA
Mass Rapid Transit Authority of Thailand
OBU
On Board Unit
ODA
Official Development Assistance
OTP
Office of Transport and Traffic Policy and Planning
RTP
Royal Thai Police
SRT
State Railway of Thailand
SRTET
SRT Electrified Train
TOT
Telephone Organization of Thailand
TTD
Traffic and Transportation Department
UN
United Nations
VICS
Vehicle Information and Communication System
VMS
Variable Message Sign
3
カタカナ語表
ローマ字
日本語読み(報告書内表記)
Akkamai
エカマイ
Asoke
アソーク
Bangkok
バンコク
BangNa
バンナ
Chang Mai
チェンマイ
Chao・Phraya River
チャオプラヤー川
Charan Saint Wong
チャランサニットウォン
Charoen Krung
ジャルンクルン
KhlongToei
クロントゥーイ
Krung Thon Buri
クルントンブリー
Lat Phrao
ラップラオ
Mahaisawan
マハイサワン
Mo Chit
モーチット
National Stadium
サナームキラーヘンチャート
On Nut
オンヌット
Paung Siri
ポンスリ
Phahon Yothin
パホンヨーティン
Phet kasem
ペッチャガセム
Phetchaburi
ペチャブリ
PhraKhanong
プラカノン
Phuket
プーケット
PongPra
ポンプラ
Rama Ⅰ
ラーマ 1 世
Rama Ⅱ
ラーマ 2 世
Rama Ⅳ
ラーマ 4 世
Rama Ⅷ
ラーマ 8 世
Ramkhamghaeng
ラムカムヘン
Saphan Taksin
サパーンタークシン
Sathon
サトーン
Serithai
セリタイ
Shin Corporations
シン・コーポレーション・グループ
Siam Paragon
サイアム・パラゴン
Silom Rd
シーロム
Sukuhumvit
スクンビット
4
Suvarnabhumi International Airport スワンナプーム国際空港
Tak Sin
タクシン
Thonburi
トンブリー
5
1. 調査概要
1.1 調査の目的
今回の調査ではバンコクの道路における渋滞発生状況やインフラ設備の整備状況等を確認し、
現状の交通量の把握及び将来的な交通量増加の想定を行う。これらに加えて交通情報の管理体制
についても調査・分析を行い、交通情報の管理における課題を明確にする。また、実施計画・導
入効果の推定及びパイロットプロジェクト対象地区の選定等を行う。
1.1.1 調査の概要
以下の表 1.1.1-1 に本業務で調査した項目一覧を示す。本業務ではタイ国バンコク都の渋
滞を調査するために、5 つの調査項目とそれぞれの調査項目に対応する詳細内容の抽出を行
う。抽出後、それぞれの詳細内容について国内調査、現地調査を行うことで、情報の取得を
図る。
国内調査では、国内で公開されているバンコク都に関連する日本政府機関の資料調査や、
バンコク都に高度道路交通システム(Intelligent Transport System, ITS)や交通関係ソリュ
ーションを導入した実績を持つ国内企業・機関へのヒアリングを行うことで情報を取得する。
現地調査では、国内調査では取得できない項目や不明確な項目について、現地政府機関へ
のヒアリングを行い、情報を取得する。また、フィールド調査やバンコクの都民に対して交
通に関するアンケート調査を実施することで、バンコク都の交通状況を把握する。
表 1.1.1-1
項目一覧
国内調査
調査項目
詳細内容
ヒアリング 資料調査 ヒアリング
基本概況
経済概況
政治、行政概況
タイ国の経済・財政事情
地域区分
自然環境
社会環境
タイ国におけるプロ
ジェクトの対象セク
道路運輸セクター
ターの概要
交通状況
バンコク都の状況
公共交通機関の状況
道路関連施策の動向
バンコク都の関連法、 道路・交通法関連法制度
関連政策の調査
道路・交通法関連政策の状況
渋滞発生状況
通信NW状況
バンコク都のITS状況
主要交差点の時間交通量と将来の傾向
ITS設備
1
現地調査
フィールド
アンケート
調査
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
1.1.2 国内調査
国内調査では、資料調査や関係する機関・企業へのヒアリングを行うことで表 1.1.1-1 に
記載された調査項目、詳細内容の情報を取得する。さらに、取得した情報からバンコク都の
渋滞箇所を選定し、その箇所での渋滞原因となっている要素の抽出を行う。渋滞原因を抽出
した結果、渋滞に有効だと考えられる対策を仮定し、対策を実施した際の交通量シミュレー
ションを行うことで、渋滞緩和効果を算出する。
資料調査では、日本貿易振興機構(Japan External Trade Organization, JETRO)や国際協
力機構(Japan International Cooperation Agency, JICA)といった日本政府関係機関が公開
しているタイ国への政府開発援助(Official Development Assistance, ODA)案件資料や経済
レポート等から、タイ国の経済、財政事情や、バンコク都の概況、交通事情の調査を行う。
ヒアリングではバンコク都に導入した ITS 施策や、日本企業がバンコク都に進出した際に
おけるプロジェクト資金源についてのヒアリングを協力会社・関係機関に対して実施すると
共に、本業務に関する意見交換を行う。
以下の表 1.1.2-1 に、ヒアリングを行った協力企業・機関先を示す。
表 1.1.2-1
機関名
国内ヒアリング先機関
機関概要
ヒアリング内容
住友電気工業株式会社
一般道における信号機制御のSIer
過去の信号機設備導入案件の知見
や、交通量調査について
クライメートコンサルティング
合同会社
国内外の地球温暖化に関わる
コンサルティング企業
過去の気候変動プロジェクトの知
見について
日本大学理工学部
交通システム工学科
交通工学の専門家
バンコク都の交通状況、及び既設
ITS設備について
一般社団法人
海外環境協力センター(OECC)
民間の立場から国際的な環境協力を
展開する機関
過去の気候変動プロジェクトの知
見について
2
1.1.3 現地調査
現地調査では、バンコク政府機関や関係機関へ、本業務の主旨を説明すると共に、本業務
の協力依頼や国内調査では取得することが出来なかった情報、及び資金源についてのヒアリ
ングを行う。さらに、現地フィールド調査を実施することにより、本プロジェクトの導入効
果を推定するために必要なバンコク都の渋滞箇所の選定を行う。
本業務では、以下全三回の現地調査を実施した。
(1)第一回現地調査
①実施期間
2013 年 12 月 2 日~6 日
②現地ヒアリング調査
第一回現地ヒアリング調査では、バンコク都の政府関係機関と現地日本企業に対して、
バンコク都の交通状況、及び ITS 状況についての情報提供依頼を行う。以下の表に、機
関・企業毎にヒアリングした内容を示す。
表 1.1.3-1
第一回現地調査におけるヒアリング先機関と内容
機関名
在タイ日本国大使館
Ministory of Transport
-Office of Transport and
Traffic Policy and
Planning(OTP)
日本電気株式会社 タイランド
住友電気工業株式会社タイランド
Ministory of Interior
-Bangkok Metoropolitan
Administration(BMA)
-Traffic and Transport
Department(TTD)
独立行政法人
国際協力機構( JICA)
-タイ事務所
Royal Thai Police(RTP)
-Traffic Police Division
首都高速道路株式会社
-バンコク事務所
Expressway Authority of
Thailand(EXAT)
-Expressway System
Engineering
-R&D Division
機関概要
タイの日本大使館
ヒアリング内容
本プロジェクトの概要説明
タイ国運輸省の輸送・交通政策局
バンコク都の交通状況 と既設ITS
設備について
弊社現地法人
住友電気工業株式会社の現地法人
調査協力依頼
調査協力依頼
日本貿易振興機構(JETRO)
日本の貿易振興を 一元的に行う機関
バンコク都の交通状況 と既設ITS
タイ国内務省に所属するバンコク都庁 設備についてのヒアリング、及
交通輸送部門
び渋滞箇所についての情報提供
依頼
日本のODAを一元的に行う機関
タイ王国国家警察庁 の交通警察部門
首都高速道路株式会社の現地法人
過去の気候変動 プロジェクトの
知見について
バンコク都の交通状況 と既設ITS
設備について
バンコク都の高速道路における
交通状況と既設ITS設備について
高速道路の運用・管理を行うタイ高速 バンコク都の高速道路における
道路公社のR&D部門
交通状況と既設ITS設備について
過去の気候変動 プロジェクトの
知見について
但し、第一回目の現地調査では、RTP への訪問・ヒアリングを行う予定であったが、
バンコクの反政府デモの影響により、RTP への訪問は延期となった。
3
③現地フィールド調査
フィールド調査では、実際にバンコク近郊で渋滞が発生していると考えられる道路を
視察し、渋滞状況、及び ITS 設備の調査を行う。
図 1.1.3-1 に国内調査によって抽出された 11 の渋滞箇所を示す。第一回目の現地調
査では、OTP の交通量統計資料より抽出した、2012 年 7 月におけるピーク時の平均旅行
時間が 14km/h 以下の道路に対して現地視察を行い、渋滞の発生状況の確認を行う。 1表
1.1.3-2 に抽出された道路を示す。
図 1.1.3-1
表 1.1.3-2
調査対象道路
2007 年から 2012 年のバンコク都における主要道路の平均旅行速度
午前ピーク時間 06:00-09:00
ルート名
ラムカムヘン通り - ラーマ9世通り
ラップラオ通り
タクシン通り - ラーマ2世通り
サトーン通り - クルントンブリ通り
マハイサワン通り - ジャルンクルン通り
平均旅行速度[km/h]
2012年7月
13.9
11.9
11.2
13.7
11.6
午後ピーク時間 16:00-19:00
ルート名
ペッチャガゼム通り - チャランサニットウォン通り
マハイサワン通り - ジャルンクルン通り
1
OTP “Transport and Traffic Statistics and Information Tailand”
4
平均旅行速度[km/h]
2012年7月
13.3
10.7
但し、第一回現地調査ではバンコクの反政府デモが実施されており、デモ隊による道
路占拠等が原因で、平常時の交通流とは異なっていた。このため、BMA と調査対象道路
について意見交換を行い、実際の現地視察では国内調査において抽出されたサトーン通
り、ラムカムヘン通りと、新しく追加されたスクンビット通りとラーマ 4 世通り、及び
セリタイ通りの 5 カ所となった。以下の図 1.1.3-2~図 1.1.3-6 に視察を行った道路を
青で塗った調査道路地図を示す。
図 1.1.3-2
図 1.1.3-3
調査道路(サトーン通り)
調査道路(ラムカムヘン通り)
5
図 1.1.3-4
図 1.1.3-5
調査道路(スクンビット通り)
調査道路(ラーマ 4 世通り)
6
図 1.1.3-6
調査道路(セリタイ通り)
7
(2)第ニ回現地調査
①実施期間
2014 年 1 月 16 日~17 日
②現地ヒアリング調査
第二回の現地ヒアリング調査では、第一回現地調査にて意見交換をすることができな
かった RTP への訪問を目的として計画された。また、RTP 以外のバンコク都の政府関係
機関にも再度訪問し、バンコク都の交通状況、渋滞発生状況に関する意見交換を行う。
表 1.1.3-3 に今回の現地調査でヒアリングを行った機関とヒアリング内容を示す。
表 1.1.3-3
第二回現地調査におけるヒアリング先機関と内容
機関名
Ministory of Transport
-Office of Transport and
Traffic Policy and
Planning(OTP)
機関概要
ヒアリング内容
タイ国運輸省の輸送・交通政策局
デモの影響によるバンコク都の交
通状況について
タイ国内務省に所属するバンコク都
庁交通輸送部門
渋滞箇所の選定について
タイ王国国家警察庁の交通警察部門
バンコク都の交通状況と既設ITS
設備について
タイの高速道路管理会社のR&D部門
バンコク都の高速道路における交
通状況について
日本電気株式会社タイランド
弊社現地法人
質問事項の回答・アンケート調査
について
住友電気工業株式会社タイランド
住友電気工業株式会社の現地法人
信号機制御について
Ministory of Interior
-Bangkok Metoropolitan
Administration(BMA)
-Traffic and Transport
Department(TTD)
Royal Thai Police(RTP)
-Traffic Police Division
Expressway Authority of
Thailand(EXAT)
-Expressway System
Engineering
-R&D Division
但し、第二回の現地調査では、バンコクの反政府デモが 2013 年 12 月時点での状況よ
り悪化しており、RTP と EXAT への訪問は延期となった。
③現地フィールド調査
反政府デモの影響による交通状況の変化を考慮し、BMA とプロジェクト対象地区を再
検討した結果、パイロット候補道路はスクンビット通り、区間はオンヌット交差点から
エカマイ駅周辺となった。図 1.1.3-7 に第二回現地調査で視察したスクンビット通りの
パイロット候補区間を示す。
8
A 地点:オンヌット交差点 B 地点:エカマイ駅周辺
図 1.1.3-7
スクンビット通りにおけるパイロット候補区間
9
(3)第三回現地調査
①実施期間
2014 年 3 月 3 日~7 日
②現地ヒアリング調査
第三回現地ヒアリング調査では、RTP への訪問と共に、バンコク都の政府関係機関に
スクンビット通りにおけるパイロットプロジェクトについての意見交換と、既設交通関
連施設への視察を行った。表 1.1.3-4 に今回の現地調査でヒアリングを行った機関とヒ
アリング内容を示す。
表 1.1.3-4
機関名
Ministory of Interior
-Bangkok Metoropolitan
Administration(BMA)
-Traffic and Transport
Department(TTD)
Royal Thai Police(RTP)
-Traffic Police Division
Expressway Authority of
Thailand(EXAT)
-Expressway System
Engineering
-R&D Division
日本電気株式会社タイランド
-自動車ソリューション部
第三回現地調査におけるヒアリング先機関と内容
機関概要
ヒアリング内容
タイ国内務省に所属するバンコク都
庁交通輸送部門
パイロットプロジェクトの概要説
明とBMAの交通関連施設の視察
タイ王国国家警察庁の交通警察部門
パイロットプロジェクトの概要説
明とRTPの交通関連施設の視察
タイの高速道路管理会社
バンコク都の高速道路における
ITS設備について
弊社現地法人
パイロットプロジェクトについて
の意見交換
住友電気工業株式会社タイランド 住友電気工業株式会社の現地法人
パイロットプロジェクトについて
の意見交換
③現地フィールド調査
第三回目での現地フィールド調査では、パイロットプロジェクト対象道路となるスク
ンビット通りにおいて、既設 ITS 設備、渋滞発生要因、及び現時点における交通流の調
査・確認を行った。
10
1.1.4 調査体制
以下に本 FS の調査体制図を示す。
図 1.1.4-1
11
FS 調査体制図
1.2 調査スケジュール
1.2.1 全体スケジュール
本 FS の全体スケジュールを契約締結日から最終報告書提出日まで記載した表を以下に示
す。
表 1.2.1-1
区分
△契約日/▲使用打合せ、決定
現地調査
具体ニーズとフレームワークの確認
渋滞の現状把握・想定
交通情報管理の現状調査
課題の抽出・整理
設備配置・概略実施計画の作成
実施効果の検討
報告書取り纏め
DR
中間報告提出
全体スケジュール
11月
12月
1月
2月
最終報告書提出
1.2.2 現地調査スケジュール
本業務で実施された全四回の現地調査スケジュールを以下に示す。
(1)第一回現地調査スケジュール
2014 年 12 月 2 日
訪問先:日本大使館、OTP、NEC タイランド、住友電気工業タイランド
2014 年 12 月 3 日
訪問先:BMA、JICA
フィールド調査:スクンビット通り
2014 年 12 月 4 日
訪問先:首都高速道路バンコク事務所、BMA
フィールド調査:サトーン通り
2014 年 12 月 5 日
フィールド調査:ラムカムヘン通り、セリタイ通り
2014 年 12 月 6 日
訪問先:EXAT、JETRO、BMA(バンコク都副知事)、NEC タイランド
フィールド調査:ラーマ 4 世通り
12
3月
(2)第二回現地調査スケジュール
2014 年 1 月 16 日
訪問先:BMA、住友電気工業タイランド
2014 年 1 月 17 日
訪問先:OTP、NEC タイランド
フィールド調査:スクンビット通り
(3)第三回現地調査スケジュール
2014 年 3 月 3 日
訪問先:BMA
2014 年 3 月 4 日
訪問先:NEC タイランド 自動車ソリューション部
フィールド調査:スクンビット通り(既設 ITS 施設調査)
2014 年 3 月 5 日
訪問先:RTP、RTP 交通管制センター
フィールド調査:スクンビット通り(渋滞要員調査)
2014 年 3 月 6 日
訪問先:住友電気工業タイランド
フィールド調査:スクンビット通り(渋滞要員調査)
2014 年 3 月 7 日
訪問先:EXAT、BMA コマンドセンター
フィールド調査:スクンビット通り(交通流調査)
13
2. 市場分析及び調査結果
2.1 タイ国の経済・財政事情
2.1.1 タイ国の基本概況
タイ国はインドシナ半島の中央部およびマレー半島の北部に位置する立憲君主制国家で
ある。面積は 513,115 平方キロメートルと日本の約 1.4 倍で、域内ではインドネシア、ミャ
ンマーに次ぐ国土を有する。 人口は 6,408 万人(2011 年、国家統計局)と域内で 4 番目であ
り、国土、人口の面では、インドネシアに次ぎ、フィリピン、ベトナムと並ぶ規模を有する。
経済面では、一人当たりの国内総生産(Gross Domestic Product, GDP)が 5,678 米ドルと、域
内新興国の中ではマレーシアに次ぐ規模を持つ。地政学的な優位性も加味すると、東南アジ
アの新興国の中で最も中心的役割を担う国家と言える。また国民性の面では、民族は大多数
がタイ族、言語はタイ語のみで、宗教は 95%が上座部仏教と単一性が高く、この観点では域
内で最も日本と似た、あるいは親和性の高い国家と捉えることができる。
その他、特徴的な面としては失業率が挙げられる。表 2.1.1-1 に示す他国の平均が約 4.3%
であるのに対し、タイ国はわずか 0.66%(2012 年)である。 世界的に見ても群を抜く水準であ
り、国際通貨基金(International Monetary Fund,IMF)の統計データによると 1.0%を切るの
は他にベラルーシのみで、これに次ぐのがシンガポール等の 2%台である。この要因として一
般的には、農業部門の就業者比率の高さや自営業者、家族従業者による失業者の吸収などが
指摘されている。
表 2.1.1-1
タイ
面積
(平方Km)
人口
首都
タイ国の基本概況(東南アジア諸国との比較)
シンガポール
513,115平方km
マレーシア
716.1平方km
6,408万人
329,735平方km
539万9,200人 2,855万人
クアラルンプー
ル
(人口165万
5,000人)
英語、中国語
マレー語、英
(北京語)、マ
語、中国語、タ
レー語(国語)、
ミール語
タミル語
バンコク
(人口572万人)
言語
(下線は公用 タイ語
語)
宗教
人口の約95%が上
座部仏教、その他イ
スラム教(4%)、キリ
スト教(0.6%)など
仏教、イスラム
教、ヒンズー
教、道教、キリ
スト教ほか
イスラム教、仏
教、ヒンドゥー
教、キリスト教
など
政体
立憲君主国
立憲君主国
立憲君主国
実質GDP成
長率(%)
名目GDP総
額(百万米ド
ル
一人あたりの
GDP(名目)
- ドル
失業率(%)
フィリピン
300,000平方
km
9,586万人
インドネシア
ベトナム
ミャンマー
日本
1,910,931平方
331,689平方km 676,578平方km 377,955平方km
km
23,764万人
8,784万人
6,062万人
12,805万人
マニラ首都圏
(人口1,186万
人)
ジャカルタ
ハノイ(人口
ネピードー
(人口959万人) 644万9,000人)
東京(特別区部
人口894万人)
フィリピノ語、英
ベトナム語、ほ ミャンマー語、
語、セブアノ語 インドネシア語 かに少数民族 シャン語、カレ
など
語
ン語、英語
日本語
仏教(89.4%)、
仏教(約
カトリック教
キリスト教
イスラム教、ヒ 80%)、そのほ
神道系、仏教
(82.9%)、イス
(4.9%)、イスラ
ンドゥー教、キリ かにカトリック、
系、キリスト教
ラム教(5.1%)
ム教(3.9%)、
スト教ほか
カオダイ教、ホ
系、他
など
ヒンドゥー教
アハオ教など
(0.5%)など
共和制(大統領 社会主義
大統領制、
立憲君主国
n.a
責任内閣)
共和国
共和制
6.5
1.3
5.6
6.8
6.2
5
n.a.
-0.6
365,966
276,448
303,526
250,182
878,043
141,669
n.a.
5,904,672
5,678
51,162
10,304
2,614
3,592
1,528
835
46,192
0.66
2
3
7
6.1
3.3
n.a.
4.5
出典:JETRO
出典:総務省統計局 世界の統計 2013
出典:文部科学省 宗教統計調査
14
2.1.2 タイ国の経済概況
タイ国は、1997 年 7 月のバーツ危機を契機として経済危機に陥ったが、国際機関、日本等
の支援による構造改革が奏功し、その後は順調に回復してきた。GDP は、2000 年以降は概ね
5%前後の成長率を維持している。近年では 2008 年の世界的経済危機、2011 年の洪水被害に
より一時的に成長が減速するがこれらの影響から回復基調にある。 2013 年は各種税制優遇
の終了などで成長率は 3%台に留まり、反政府勢力等の政情不安リスクが残るものの、2014
年以降は 5%前後の安定成長が見込まれている。
また、一人当たり GDP は、2000 年代に急成長を遂げ、2006 年にはモータリゼーション(自
動車社会化)が始まるといわれる 3,000 米ドルを突破した。5 年後の 2011 年には中進国と位
置づけられる 5,000 米ドルに、その後は 7~8%程度の安定した成長を続け、2018 年には 8,000
米ドルに達する見込みである。
表 2.1.2-1
タイ国の名目 GDP
出典:World Economic Outlook Database October 2013, IMF
表 2.1.2-2
タイ国の一人当たり GDP
出典:World Economic Outlook Database October 2013, IMF
15
表 2.1.2-3 の GDP 産業別構成にみると、自動車、電子機器産業を中心とした「製造業」が
全体の 40%近くを占める、次に、「卸・小売・修理」、「運輸・通信・倉庫」「農林漁業・狩猟
業」がそれぞれ、13.4%、9.8%、8.4%と続くが、その他はいずれも 5%以下と製造業に大きく
依存した産業構成となっている。また成長率の点では、
「金融業」、
「ホテル・レストラン」が
2003 年比でそれぞれ約 2 倍、175%増となっている。これらの全体に占める割合はまだ低いが、
近年の急成長が伺える。
また、表 2.1.2-4 の地域別平均賃金格差によると、タイ国の平均賃金も GDP と同様に安定
した成長を続けている。特にバンコク首都圏の平均賃金は約 1 万 6,000 バーツであり、タイ
国の他地域と比較して非常に高い賃金となっている。
表 2.1.2-3
タイ国の GDP 産業別構成(実質)
(単位 100 万バーツ)
部門
2003 年
2011 年※
2012 年※
構成比率
前年比 2003 年比
農林漁業・狩猟業
363,033
396,951
412,175
8.40%
104%
114%
鉱業・採石業
76,616
99,031
107,135
2.20%
108%
140%
製造業
1,318,279 1,793,358
1,917,142
39.10%
107%
145%
電力・ガス・水道
115,195
164,448
180,358
3.70%
110%
157%
建設
82,837
96,875
104,469
2.10%
108%
126%
卸・小売・修理
493,719
621,678
654,279
13.40%
105%
133%
ホテル・レストラン
118,852
186,474
208,104
4.20%
112%
175%
運輸・通信・倉庫
340,644
441,898
477,587
9.80%
108%
140%
金融業
111,807
204,536
217,738
4.40%
106%
195%
不動産
134,641
183,123
190,245
3.90%
104%
141%
108,375
127,182
131,803
2.70%
104%
122%
教育
86,760
117,760
123,719
2.50%
105%
143%
総計
3,468,166 4,599,655
4,898,189
100%
106%
141%
行政・国防・義務的社会
保障
出典:JETRO、タイ国家経済社会開発庁(NESDB)
[注]※2009~2012 年は暫定値、基準年は 88 年
表 2.1.2-4
タイ国の地域別平均賃金格差
16
2.1.3 タイ国の政治、行政概況
(1)行政組織
内閣は国王によって任命された首相 1 名及び 35 名以内の国務大臣によって構成されて
いる。中央省庁は、1 府 19 省で構成され、各省庁には国務大臣の他、一部省庁には副大臣
が任命されている。道路運輸セクターに関わる主省庁は MOT である。
表 2.1.3-1
タイ国における中央省庁一覧
首相府
Office of the Prime Minister, OPM
農業・協同組合省
Ministry of Agriculture and Cooperatives, MOAC
商務省
Ministry of Commerce, MOC
文化省
Ministry of Culture, MOC
国防省
Ministry of Defence, MOD
教育省
Ministry of Education, MOE
エネルギー省
Ministry of Energy, MOEN
財務省
Minister of Finance, MOF
外務省
Ministry of Foreign Affairs, MFA
工業省
Ministry of Industry, MOI
情報通信技術省
Ministry of Information and Communication Technology, ICT
内務省
Ministry of Interior, MOI
法務省
Ministry of Justice, MOJ
労働省
Ministry of Labour, MOL
天然資源・環境省
Ministry of Natural Resources and Environment, MNRE
保健省
Ministry of Public Health, MOPH
科学技術省
Ministry of Science and Technology, MOST
社会開発・人間安全保障
Ministry of Social Development and Human Security, MOS
省
観光・スポーツ省
Ministry of Tourism and Sports, MTS
運輸省
Ministry of Transport, MOT
出典:ROYAL THAI GOVERNMENT
17
MOT における組織一覧は表 2.1.3-2 のとおりである。FS チーム側の提案である交通渋滞
緩和に関する施策・方針立案等に関係する主部門は、OTP である。
表 2.1.3-2
MOT の組織一覧
Government Administrations
State Enterprises
1. Office of the minister
1. State Railway of Thailand
2. Office of the Permanent Secretary
2. Port Authority of Thailand
3. Marine Department
3. Mass Rapid Transit Authority of
4. Department of Land Transport
Thailand
5. Department of Civil Aviation
4. Expressway & Rapid Transit Authority of
6. Department of Highways
Thailand
7. Department of Rural Roads
5. Bangkok Mass Transit Authority
8. Office of Transport Policy and Traffic
6. Civil Aviation Training Center
7. Thai Airways international Public
Company Limited
8. The Transport Company Limited Traffic
9. Airports of Thailand Public Company
Limited
10. Thai Maritime Navigation Company
Limited
11. Aeronautical Radio of Thailand
Limited
12. Suvarnabhumi Airport Hotel Company
Limited
13. THAI-AMADEUS Southeast Asia Company
Limited
出典:MOT
18
(2)バンコク都政府組織
バンコク都は MOI の管理監督下の地方自治体である。他の自治体と異なり知事は MOI か
らの派遣ではなく公選により選出される。道路運輸セクターに関わる主たる部門は、TTD
である。
出典:BMA
図 2.1.3-1
19
BMA の組織構成
2.1.4 タイ国の地域区分
タイ国の地域区分は以下の通り。バンコク首都府および、77 県(changwat)、7 つの地域区
分(バンコクおよび周辺(6 県)、中央部(6 県)、東部(8 県)、西部(6 県)、北部(17 県)、北東
部(20 県)、南部(14 県))で構成される。特にバンコクは周辺圏含むと 1,450 万人の人口を有
し、タイ国にはこれに次ぐ第二の都市が存在しないため、バンコク 1 極集中の構図となって
いる。
出典:Statistical Yearbook Thailand 2013
図 2.1.4-1
20
タイ国の地域区分
2.1.5 タイ国の自然環境
タイ国は熱帯に位置し、年間を通じて気温が高く気温差が小さい。季節は一般的に、3 月
~5 月の夏期、6 月~10 月の雨期、11 月~2 月の乾期に大分される。タイ気象局によれば首
都バンコクの年間平均最高気温は 32.7℃、最低気温は 24.0℃である。年間を通じて大きな変
動はないが、夏期の 3 月~5 月には 40 度を超える日もある。11 月中旬からの 2 か月は最も気
候の良い時期であり、湿度も比較的低いため過ごしやすい日々が続く。降水量は月平均
124.7mm である。降水量は季節により大きく変動し、雨季の 9 月には 350mm に達する一方、
乾季の中でも 12 月~1 月は平均で 10mm ほどとなる。
表 2.1.5-1
バンコクの 30 年平均気温及び降水量(1961-1990)
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
最低気温
21
23.3
24.9
26.1
25.6
25.4
25
24.9
24.6
24.3
23.1
20.8
最高気温
降水量
32
9.1
32.7
29.9
33.7
28.6
34.9
64.7
34
33.1 32.7 32.5 32.3
32
220.4 149.3 154.5 196.7 344.2 241.6
31.6
48.1
31.3
9.7
降水日数
1
3
3
6
6
1
16
16
18
20
21
17
出典:タイ気象局(Thai Meteorological Department)
21
2.1.6 タイ国の社会環境
国際連合(United Nations,UN)の統計によると、2011 年時点のタイ国の人口は 6,951.9 万
人である。1990 年代までは増加率 1~3%以上の急成長を続けて 1990 年代後半には 6,000 万人
を突破。その後、増加率が 1.0%以下となり、2005 年~2010 年には 0.5%と近年は人口増が落
ち着き傾向にある。 UN の推計によると 2011 年以降も人口は 0.5%以下の微増が続き、2035
年に 7,337.9 万人と人口ピークを迎え、以降は減少に向かうと予測されている。
表 2.1.6-1
タイ国の総人口及び増加率 (1950-2550)
出典:United Nations Population Division
[注]※増加率は該当年から 5 年間の増加率
22
一方、都市への人口集中は今後も長期的に続くと予測されている。表 2.1.6-2 に示す通り、
2011 年時点では地方人口が 4,582.9 万人であるのに対し、都市人口が 2,368.9 万人と都市人
口比率は 34.1%である。都市人口の割合は今後さらに急速に増加し、2025 年には 40%、2045
年には 50%を超えると予測され、2050 年においても都市人口は増加しつづけると予測されて
いる。都市化は新興国における共通課題であるがタイも例外ではなく、都市部、特にタイに
おいては 1 極集中であるバンコク首都圏への長期的な人口集中・増加を見据えた取り組みが
必要と言える。
表 2.1.6-2
タイ国の都市・地方人口及び都市化率(1950-2550)
出典:United Nations Population Division
23
2.2 タイ国における道路運輸セクターの概要
(1)タイ国における道路総延長
統計局の「世界の統計 2013」によると 2006 年のタイ国における道路総延長は、180,053
㎞である。 うち主要幹線道路が 51,855 ㎞、二級道路、その他がそれぞれ、44,000 ㎞、84,198
㎞である。1k ㎡当たりの道路延長は 0.35 ㎞と日本(3.20 ㎞)の約 10 分の 1、アジア平均(1.06
㎞)と比較しても約 3 分の 1 程度と道路に関しては整備途上であることが伺われる。これ
は首都であるバンコクがもともとチャオプラヤー川の河口に発達した街で、運河を埋め立
てて本格的な道路整備が開始されたのが 1960 年代以降と、他国と比較すると道路交通の
歴史が浅いことに起因すると考えられる。
表 2.2-1
国(地域)
タイ国、日本及びアジアにおける道路総延長と 1k ㎡当たりの道路延長
年
次
道路延長
主要幹線
道路
二級道路
その他
1k ㎡当たり
道路延長
タイ
06
180,053
51,855
44,000
84,198
0.35
日本
09
1,207,867
62,432
129,377
1,016,058
3.20
アジア平均
1.06
出典:統計局の「世界の統計 2013」
(2)タイ国における車両登録台数
一方、製造業を中心とした経済発展に伴い、タイ国における車両登録台数は近年急増の
一途である。2007 年には約 2,561 万台(二輪車、バス、トラックを含む)であった登録台数
が、5 年後の 2012 年には 27%増の約 3,247 万台にまで拡大。前年比も年々増加傾向にあり、
2007 年の前年比 3.3%増が、2012 年には約 7.6%増と倍近いペースで増加を続けている。特
に 2011~2012 年の高成長は、政府による「1 台目の自動車購入に伴う税制優遇措置」の影
響が大きい。 これは自家用車を初めて購入する人を対象に 10 万バーツを上限とした物品
税の払い戻しが受けられるというものである。結果、同期間は自動車各社とも前年同月比
で 40~75%の販売台数増を記録し、納車まで 3 か月待ちといった状況が続いたという。本
優遇措置は 2012 年 12 月に終了、2013 年はその反動から一時的に伸び悩むと見られている
が、安定した経済成長に伴い中長期的には車両登録台数も安定した伸びが見込まれる。
24
表 2.2-2
タイ国における車両登録台数
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
また各年毎の新規の車両登録台数は以下のとおりである。成長率は年毎にばらつきがあ
るが、直近の 2012 年は前年比 17.8%増を記録。2007 年の年間 240 万台から、372 万台と 5
年間で 1.5 倍の急成長である。
表 2.2-3
タイ国における新規車両登録台数
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
25
登録車両を車種別に見ると他東南アジア新興国と同様、二輪車の比率が 58.6%と最も高
い。一方、経年で見ると、2007 年から 2012 年までの増加率が二輪車では約 1.2 倍である
のに対し、四輪車は 1.4 倍となっており、経済発展に伴い二輪車から四輪車へシフト傾向
にあることが見て取れる。
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
図 2.2-1
表 2.2-4
タイ国における車両登録台数の車種別割合
タイ国における車種別の車両登録台数
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
26
(3)道路運輸セクターにおける主要課題
これら道路面積の不足、車両数の急増等を起因として、タイ国、特に首都バンコクにお
ける交通渋滞は近年の道路運輸セクターにおける最大の問題となっている。前表のとおり、
2012 年のバンコクにおける車両登録台数は 752 万 3,000 台。 これに対し、BMA がキャパ
シティとするバンコクの交通許容量はわずか 160 万台であり、許容量に対して実に 4.7 倍
もの車両が登録されている計算になる。米旅行誌の Travel+Leisure によるとバンコク中
心 5km 圏の平均旅行速度は 12.0 ㎞/h(東京:18.8 ㎞、ニューヨーク:29.0 ㎞)であり、メキ
シコシティ、北京、ジャカルタ、モスクワ等と並び、世界で最も渋滞のひどい都市の一つ
としている。また国連とアジア開発銀行(Asian Development Bank,ADB)の共同リポートに
よると、バンコクでは交通渋滞で毎日、約 1 億 5,000 万円の燃料が無駄になり、労働者は
一年に 44 日を路上で費やさねばならないと指摘している。さらにタイ国の経済研究所は、
渋滞の経済損失を年間約 1,600 億円と試算しており、渋滞の解消はタイ国における喫緊の
課題と言える。
出典:NEC にて撮影
図 2.2-2
バンコク都内のピーク時の渋滞状況
27
(4)渋滞緩和に向けたタイ政府の施策
これに対しタイ政府はモーダルシフトを狙った都市鉄道の整備に注力している。2013 年
12 月時点では、バンコクメトロ(Metropolitan Rapid Transit、MRT)と呼ばれる地下鉄が
1 線(ブルーライン)、スカイトレイン(Bangkok Mass Transit System、BTS)と呼ばれる高
架鉄道が 2 線(スクンビット線、シーロム線)、スワナンプーム空港と都心部を結ぶエアポ
ートレールリンク(Airport Rail Link, ARL)1 線の計 4 線が既に開通、運行を開始してい
る。 MRT は MOT 管轄のバンコクメトロ社(Bangkok Metro Public Company Limited,BMPCL)
が運営。 今後も路線拡張を予定しており、2029 年にかけて現行 1 路線の延長及びパーブ
ル、オレンジ、ピンク、イエロー、ブラウン、グレイなどの新規路線整備が計画されてい
る。 また、ARL は MOT 管轄のタイ国有鉄道(State Railway of Thailand,SRT)の管理下で
子会社の SRT Electrified Train (SRTET)により運行されている。一方、BTS はバンコク
BMA の管理下でバンコク大衆輸送システム社(Bangkok Mass Transit System Public Company
Limited,BTSC)が運営を担当する。BTS も大幅な拡張を予定しており、現行 2 路線の延長と
新規 5 路線の整備が計画されている。
出典:BTSC
図 2.2-3
バンコク都内の都市鉄道
28
この都市鉄道整備を目的の一つとして、タイ政府は通常の予算とは別枠で 2 兆バーツの
特別財源の手当てを審議中である。本計画は 2014 年から 2020 年の 7 年間にわたりインフ
ラ整備必要な借り入れを行う権限を政府に付与するものであり、2013 年 3 月 19 日に「国
の運輸分野インフラ開発のための借入権限を財務省に付与する法律」案を閣議承認し、国
会に提出した。目的は主にタイ国内の交通インフラ整備に向けた予算であり高速及び都市
鉄道等の整備によるモーダルシフトに加えて、メコン地域や東南アジア諸国連合
(Association of South-East Asian Nations,ASEAN)への連結性向上、モビリティの向上
の改善などである。
予算構成は下図のとおり。2 兆バーツのうち 24%を MRT の整備に割り当てる計画である。
その他、高速鉄道に 39%、複線化に 20%、高速道路に 5%などが予定されている。
出典:MOT、Thai-Japanese Association
図 2.2-4
2 兆バーツのインフラ整備の予算構成
出典:MOT、Thai-Japanese Association
図 2.2-5
2 兆バーツのインフラ整備におけるターゲット
29
FS チームでは当初、本予算枠の活用を視野に調査を進めたが、BMA によると本予算は既
に上図のとおり具体用途が決められているとのこと。また BMA としても渋滞緩和に向けた
FS チーム側提案の実現に向けては、本予算枠の活用や外貨の借入ではなく基本的には自己
資金にて実施する方向で考えたいとのことである。
(5)渋滞緩和に向けた BMA の施策
BMA の道路運輸セクターにおける将来ロードマップでも、洪水対策、街の緑化、セキュ
リティ、廃棄物管理と並び、渋滞対策が主要テーマの一つとして掲げられている。中でも、
渋滞対策としてのモーダルシフトを最も重要視しており公共交通の整備に注力している。
先にあげた通り、バンコクにおける都市鉄道のうち、MRT、ARL や、その他交通機関のタク
シー、バスは MOT の管轄であるため、BMA としては自管轄下の BTS、およびバス高速輸送
システム(Bus Rapid Transit,BRT)の整備が再優先課題である。
一方、BMA へのヒアリング結果及び入手資料によると、FS チーム側提案である信号制御
や交通流の調整に関しては高い問題意識を持っており、ロードマップ上でも取り組むべき
施策として掲げられている。従い今後は、これら施策の効果を明確化していくことが重要
となる。
出典:TTD、BMA
図 2.2-6
BMA の交通渋滞緩和施策
30
2.3 対象地域の状況
2.3.1 バンコク交通状況
多くの首都圏住民がバンコク中心部へ通勤や通学で通っており、平日はバンコク中心部へ
の交通集中が発生している。また、バンコク西部にはチャオプラヤー川が南北に縦断してお
り、これに伴いバンコク西部から中心部を結ぶ線路、道路は橋への集中を余儀なくされる。
これらの要因により、バンコク都心部、及び放射状の道路で毎朝夕の通勤、通学時間帯に激
しい交通混雑が見られる。
出典:NEC にて撮影
図 2.3.1-1
通勤ラッシュ時の道路写真 1
出典:NEC にて撮影
図 2.3.1-2
通勤ラッシュ時の道路写真 2
(1)道路交通の基本情報
バンコクの人口は表 2.3.1-1 に示す通り、経済発展に伴い年々増加傾向となっている。
また、それに伴い自動車登録台数も表 2.3.1-2 の通り増加し続けている。その結果、バン
コクの土地面積あたりの自動車保有台数は表 2.3.1-3 に示す通り、4,109 台/k ㎡となり、
東京の面積あたりの保有台数の約 4 倍にもなっている。
また、土地面積に占める道路面積については東京 23%に対しバンコクは 5%にと非常に
低いことから、道路面積あたりの車保有台数で比較すると、バンコクは 82,193 台/k ㎡と
なり、実に東京の 16 倍という状況であることが分かる。
31
表 2.3.1-1
バンコクの人口推移
単位:千人
バンコク都
年度
男性
バンコク都と
人口
女性
合計
その周辺 1
2007
2,727
2,988
5,716
10,065
2008
2,722
2,988
5,710
10,162
2009
2,713
2,989
5,702
10,237
2010
2,709
2,991
5,701
10,326
2011
2,692
2,981
5,674
10,377
2012
2,690
2,982
5,673
10,456
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
表 2.3.1-2
バンコクの自動車登録台数推移
単位:千台
年度
バンコク都
タイ王国
2007
5,715
25,618
2008
5,911
26,417
2009
6,103
27,184
2010
6,444
28,484
2011
6,849
30,194
2012
7,523
32,476
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
1
Bangkok, Nakhon Pathom, Nonthaburi, Pathum Thani, Samut Prakan, Samut Sakhon を含む。
32
表 2.3.1-3
バンコクと東京の比較(道路,鉄道)
バンコク
項目
東京 1
ニューヨーク
人口(千人)
6,300
33,470
8,300
面積(k ㎡)
1,568
13,600
1,214
道路面積比率(%)
5
23
自動車台数(千台)
6,444
15,863
線路の長さ(Km)
74
2,578
368
駅数
51
1,200
468
旅行者数(千人/日)
640
20,000
6,432
4,109
1,166
-
82,193
5,071
-
30.745
11.333
2.594
123
28
18
土地面積当たりの自動車
台数(台/k ㎡)
道路面積当たりの自動車
台数(台/k ㎡)
1 駅当たりの平均カバー
範囲(k ㎡/駅)
1 駅当たりの平均カバー
人口(千人/駅)
38
2
-
出典:BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DACADE 2010-2020(BMA)
(2009 年度調査データ)
鉄道などの大規模公共輸送機関についても表 2.3.1-3 に示す通り、1 駅当たりのカバー
範囲は東京の約 3 倍、1 駅あたりのカバー人口は東京の約 4 倍となり、東京に比べて大幅
に利便性に欠けるものとなっていることがわかる。BMA とのヒアリングの結果、BMA とし
ても道路交通の改善には公共交通機関へのモーダルシフトが重要という認識があり、すで
に整備を進めている状況である。しかし、鉄道などの新設には時間がかかる為、全線開通
は 2029 年という長期的な計画となっている。また、慢性的な交通渋滞に伴い大気汚染も
酷く、都市部を歩く際やバイクに乗る場合にはマスクを着用することがバンコク都民の間
で習慣づいているようである。
今もバンコクの自動車数は年々増加していることを考えると、バンコクの交通渋滞、大
気汚染は年々深刻化していくことが予想され、長期的なモーダルシフトのみでなく、短期
的、中期的な観点での改善策を講じ、交通渋滞の深刻化に歯止めをかけていく必要もある
と感じられる。
1
2
東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を含む。
自動車検査登録情報協会 自動車保有台数統計データ
33
(2)道路構成
バンコクの道路は、高速道路 207.9km1、一般道 5,500km2で構成されており、前章でも
記載した通り土地面積に占める道路面積の割合は僅か 5%となっている。また、信号のあ
る交差点数は 2012 年時点で 571 交差点 2 となっており、ほとんどの信号はオフピーク時に
は各信号での時間制御と、ピーク時には警察官による手動制御を行う形態となっており、
東京都のような他の交差点との連携制御がされていない状況である(図 2.3.1-3、図
2.3.1-4)。
出典:NEC にて撮影
図 2.3.1-3
バンコクの信号
出典:NEC にて撮影
図 2.3.1-4
1
2
警察官による手動信号制御室
EXAT annual report 2013
Special Measure from BKK Traffic (BMA)
34
(3)車種の状況
表 2.3.1-4、表 2.3.1-5 に示す通り、全自動車登録台数に対しての自動二輪車の占める
割合は、バンコクでは約 38%、タイ王国全土では約 58%となっており、地方ほどではな
いものの、バンコク都民にとっても自動二輪車は重要な交通手段の 1 つとなっていること
が分かる。
表 2.3.1-4
バンコク都
車種別自動車登録数推移
単位:千人
年度
普通車
自動二輪車
バス
トラック
その他
合計
2007
3,112
2,261
33.7
110.5
196
5,715
2008
3,214
2,339
34.3
114.2
209
5,911
2009
3,343
2,390
34.6
114.5
220
6,103
2010
3,564
2,502
36.9
113.2
227
6,444
2011
3,823
2,633
37.7
119.0
235
6,849
2012
4,270
2,846
38.4
123.8
258
7,523
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
表 2.3.1-5
タイ王国
車種別自動車登録数推移
単位:千人
年度
普通車
自動二輪車
バス
トラック
その他
合計
2007
8,313
15,961
120.7
747.7
474
25,618
2008
8,740
16,264
125.3
771.5
515
26,417
2009
9,159
16,549
127.5
791.4
557
27,184
2010
9,783
17,156
131.7
816.8
595
28,484
2011
10,542
18,018
134.9
852.9
646
30,194
2012
11,711
19,023
137.6
898.2
705
32,476
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
(4)交通事故
交通事故の発生状況について表 2.3.1-6、表 2.3.1-7 に示す。本表にある通りバンコク
の交通事故件数は年々減少傾向にはあるが、2012 年現在で約 37,000 件となっており、バ
ンコクの道路 1km 当たりの交通事故件数は 6.5 件となる。東京都の交通事故件数は約
47,000 件 1、道路総延長 24,400km2であり、道路 1km 当たりの交通事故件数は 1.9 件となる
為、東京都と比較するとバンコクは道路距離当たりで 3 倍以上の事故が発生していること
が分かる。
1
2
警視庁 2012 年統計データ
東京都建設局 2012 年 4 月 1 日現在の調査データ
35
表 2.3.1-6
バンコク都とその周辺 1の事故、死傷者数推移
単位:件
年度
単位:千人
死傷者数
交通事故件数
死亡者数
障害者数
合計
2007
47,516
1,302
23,124
24,426
2008
41,764
1,017
20,682
21,699
2009
42,137
785
18,389
19,714
2010
42,012
258
6,811
7,069
2011
40,250
795
8,826
9,621
2012
36,988
749
9,238
9,987
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
表 2.3.1-7
タイ王国の事故、死傷者数推移
単位:件
年度
交通事故件数
単位:千人
死傷者数
死亡者数
障害者数
合計
2007
101,752
12,492
79,029
91,521
2008
88,689
11,581
71,029
82,640
2009
84,806
11,048
61,996
73,044
2010
83,093
6,602
17,367
23,969
2011
68,583
9,205
21,916
31,121
2012
61,114
8,660
22,257
30,917
出典:Transport and Traffic Statistics and Information Thailand (OTP)
1
Bangkok, Nakhon Pathom, Nonthaburi, Pathum Thani, Samut Prakan, Samut Sakhon を含む。
36
2.3.2 バンコクの公共交通機関の状況
ARC レポート 1によると、バンコク都の公共交通機関には主に鉄道網、都市交通、路線バス、
及び水路が存在する。しかし、その大部分はバンコク都内中央とその近辺に限られており、
近郊を結ぶ鉄道網の整備は行われていなかった。このため、タイ国政府は 2005 年に「開発事
業 5 ヵ年計画 2005-2009 年」を採択し、大量輸送システムの計画を推進した。この計画のう
ち、バンコク都の地下鉄路線であるパープルライン、レッドラインについては日本政府の円
借款により建設が進められている。
(1)鉄道網
タイにおける鉄道の歴史は古く 19 世紀末から建設が始まり、バンコク~アユタヤ間の
鉄道は 1897 年に開業された。現在、タイ国有鉄道は SRT によって運営され、その管轄路
線距離は 4,041km と東南アジア最大規模である。しかし、路線近代化は遅れており、複線
化率は 2.3%である。以下に SRT によって運営されている 6 つの路線、及び ARL の画像を示
す。
①北線:バンコク~チェンマイ間の 751km
②東北線:バンコク~ノンカイ間の 624km
③南線:バンコク~スンガイコーロック間の 1,143km
④東線:バンコク~アランヤプラテート間の 255km
⑤バンコク近郊線:ウォンウィエンヤイ~マハチャイ間の 33km、バーンレーン~メーク
ロン間の 31km
⑥ARL:スワンナプーム国際空港~バンコク都内間の 28.6km
出典:NEC にて撮影
図 2.3.2-1
1
ARC レポート
経済・貿易・産業報告書 2013/2014 年版
タイ
37
ARL
Kingdom of Thailand
(2)都市交通
バンコクにおける大量輸送計画の整備は 1970 年代に始まっており、現在では MRTA と BTS
が開通されている。 1
①MRTA
バンコクの地下鉄は 2004 年に開業したバンスー~ファランポン(ブルーライン)が
タイにおける初めての地下鉄であり、現在のバンコクにはブルー、パープル、オレンジ
の 3 路線が開通している。また、これらの路線については延伸計画が進められており、
2013 年 1 月現在、パープルラインの延伸進捗度は 50.31%、ブルーラインが 30.71%であ
る。
②BTS
現在、バンコクには 1999 年 12 月に開業したモチット~オンヌット間(スクミット線)
及びサパーンタークシン~ナショナルスタジアム(シーロム線)の高架鉄道が運転され
ている。これらの 2 路線については東西南北 4 方向に延長する計画が実施され、シーロ
ム線ではサパーンタークシン駅からチャオプラヤー川を越えてトンブリー側へ続く路線
延長された。以下に BTS の写真を示す。
出典:NEC にて撮影
図 2.3.2-2
1
ARC レポート
BTS
経済・貿易・産業報告書 2013/2014 年版 タイ Kingdom of Thailand
38
③BRT
①と②で記載した都市鉄道網は、大容量の公共交通システムとして機能することが出
来るが、建設コストが非常に高価である。一方、一般道に専用レーンを設けて運行され
る BRT は、他の自動車からの干渉を受けることなく道路を走ることが可能になり、高速
かつ低コストで都市交通網を構築できる利点がある。 1以下に BRT の画像を示す。
出典:BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
図 2.3.2-3
1
BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
39
BRT
(3)路線バス
路線バスは 1907 年にバンコク都の通勤者のために初めて導入された。路線バスはバン
コク都内の公共交通機関として高い人気を誇り、1933 年までにバンコク都内の主要地域を
結ぶ最も有名な交通手段になるまでに成長した。1976 年には、政府が一部の民間バス会社
の路線を引き継いだ BMTA が発足され、現在では、BMTA が 111 のルート、民間バス会社が
99 のルートを管轄し、運用されている。 123以下に路線バスの画像を示す。
出典:BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
図 2.3.2-4
1
2
3
BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
BMTA Official HP http://www.bmta.co.th/en/travel.php
Traffic problems and Solution In Bangkok
40
路線バス
(4)水運
バンコクではチャオプラヤー川やセンセーブ運河において、公共の水上輸送バスやカー
フェリーを運営している。バンコクでは昔から運河が発達しており、渋滞のない交通手段
としてバンコク都民や観光客に利用されている。また、橋の架かっていない地域の住人に
橋の代わりの交通手段としても利用され、自動車、バイクを大量かつ同時に輸送できるこ
とから、渋滞緩和効果のある交通手段として期待されている。1以下に、水上輸送バスの画
像を示す。
出典:BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
図 2.3.2-5
1
BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
41
水上輸送バス
出典:タイ国政府観光庁 HP
図 2.3.2-6
http://www.thailandtravel.or.jp/
バンコクにおける公共交通機関路線図
出典:BANGKOK TRANSPORTATION OVER THE NEXT DECADE(2010-2020)
図 2.3.2-7
バンコクにおける BTS 路線図
42
2.3.3 バンコクの道路関連施策の動向
交通渋滞緩和、事故防止、利便性の向上などを目的として、バンコクでは多くの道路関連
の施策が実施、計画されている。
(1)エリア信号制御(Area Traffic Control,ATC)
1993 年に 369 交差点を対象としたエリア信号制御の導入が、フェーズ 1 として 143 交差
点、フェーズ 2 として 226 交差点の 2 段階の導入計画として開始され、実際に 60 交差点
に導入されたが本計画は 2003 年にキャンセルされた。 1また、BMA からのヒアリングの結
果、このプロジェクトの失敗の要因は、①交通量計測装置の精度が悪い、②VIP が通過す
る際に信号制御をした後、元の制御に戻すのに時間がかかる、③ピーク時にシステムが機
能しておらず、効果がない。という 3 点であると認識していた。
(2)交通情報提供
現在、渋滞情報や道路上に設置された IP カメラの映像などが Web や携帯電話、スマー
トフォン向けに提供されるサービス(Traffy、Traffic Longdo.com)などが実施されてい
る。これについては 2.6.4 章にて説明する。また、BMA は交通流監視を目的とした CCTV カ
メラの設置台数を 2014 年度中に 280 台まで拡張する計画を進めている。 2
出典:NEC にて撮影
図 2.3.3-1
1
2
出典:ITIC
CCTV カメラ
出典:日本大学 理工学部 社会交通工学化
BMA からのヒアリング
図 2.3.3-2
福田 敦教授よりヒアリング
43
交通情報 Web 提供画面
(3)リバーシブルレーン(可逆車線)
リバーシブルレーンは、中央線の位置を時間帯によってずらし、交通量が特に多い方向
の車線を特定の時間帯のみ増やす交通規制であり、朝夕の渋滞などの一方向に偏った渋滞
が発生する道路では混雑方向の道路の許容量を物理的に増やす事が可能であり、渋滞緩和
に大きく貢献することができる。その反面、進行方向が一定しておらず、道路の安全性は
低下する為、設置方法、運用方法は十分検討する必要がある。バンコクでもパホンヨーテ
ィン通りなど 100 箇所以上に導入されており、渋滞緩和に効果を発揮している。
出典:NEC にて撮影
図 2.3.3-3
リバーシブルレーン
44
(4)立体交差点
信号交差点における進行方向の許容量は単純に考えると“青信号時間÷信号サイクルの
トータル時間”に減少する。例えば、青信号 1 分、赤信号 1 分を繰り返す単純な交差点を
想定すると、時間当たりの道路の許容量は半分になる。これを立体交差点に変更した場合、
赤信号での待ち時間が発生しなくなる為、信号待ちによる時間許容量低下による渋滞を大
きく緩和することができる。バンコクでも渋滞緩和施策として立体交差点への変更を、円
借款の有償資金協力事業(案件名:交通計画管理セクターローン)の一部として、1998 年
から 2006 年に 3 交差点に対し実行し、事後評価でも有効性は確認されている。
出典:NEC にて撮影
図 2.3.3-4
バンコクの立体交差点
45
(5)図形情報板(Smart Traffic Sign)
図形情報板の仕組みは基本的には通常の道路情報板と同様であり、図 2.3.3-5 の通り、
収集した道路情報を分析し、渋滞、混雑などの交通情報を提供することで実現される。そ
の際、道路の混雑、渋滞状況を図と色などで分かり易く表示するのが図形情報板であり、
迂回路のある道路環境に設置し、渋滞状況を見易く表示することで交通の分散を促すもの
である。図形情報板についても既にバンコクでも導入されており、それについては 2.6.4
章にて説明している。
図 2.3.3-5
図形情報板の仕組み
(6)個別信号制御
BMA は信号交差点の交通量検知、及び、各道路の上流部に渋滞長を検知するセンサを備
えた個別信号制御システム(ジーニアス社の独自制御方式)を表 2.3.3-1 の通り 3 段階の
フェーズに分けて、2012 年までに 44 交差点に導入を完了している。1この信号制御は日本
に広く適用されているモデラート方式に近い制御となっており、この信号制御の導入効果
が確認できれば、日本の得意とするモデラート方式の信号制御についても同様の効果が得
られると考えられる為、本プロジェクトの事後評価を注視しておく必要がある。
1
Special Measure from BKK Traffic (BMA)
46
表 2.3.3-1
個別信号制御システム導入交差点一覧
List of adaptive traffic signal Intersections
No
交差点名
主要道路名
交差道路名
地区
1st Phase (2010)
1
Krungtep Kreetha
Sri Nakarin
Krungtep Kreetha
Bangkapi
2
Kingkeaw
Oonnuch
Kingkeaw
3
Poekeaw
Nawamintra
Poekeaw
4
Nimitmai
Nimitmai
Hataimit
5
Thawornthawat
Patthanakarn
Soi Patthanakarn 25
Suanluang
Jomthong
Jomthong
Latkraban
g
Bung Kum
Klongsamw
a
2nd Phase (2011)
Somdej Prachao
6
Dao Kanong
7
Prachaniwet
Prachachuen
Prachaniwet
Bang Sue
8
Ratpattana
Ratburana
Ratpattana
Ratburana
9
Access C
Oonnuch-Ladkrabang
Suwannapoom Airport
Latkraban
Entrance
g
Thaksin
10 Sathupradit
Rama 3
Sathupradit
Yannawa
11 Thanon Tok
Chereonkrung
Rama 3
Yannawa
12 Nida
Serithai
Sriburabha
Bung Kum
13 Wongsakorn Market
Saimai
Chalermpong
Saimai
14 Rama 9-Praditmanutham
Rama 9
Praditmanutham
15 Romklao
Romklao
Ramkamhaeng
16
Rama 9
Petpraram
17 Petkasem-Buddhamonthon
Petkasem
Buddhamonthon sai 2
Bangkhae
18 Ramindra-Nuanjan
Ramindra
Nuanjan
Kannayao
19 Oonnuch-Romklao
Oonnuch-Ladkrabang
Romklao
20 Pracha Utit
Suksawas
Pracha Utit
21 Keha Romklao
Romklao
Keha Romklao
22 Ekkachai-Bangkoontian
Ekkachai
Bangkoontian/Bangbon 1
Bangbon
23 Soi Lasan (Mid Block)
Lasan
Lasan-Baring
Bangna
Rama 9 (New)
47
Huai
Khwang
Minburi
Huai
Khwang
Latkraban
g
Ratburana
Latkraban
g
24 Soi Baring (Mid Block)
Baring
Lasan-Baring
25 Sikarin
Srinakarin
26 Kor Por Or
Paholyathin
27 Nongjok District
Chaemsampan
28 Watcharapol
Watcharapol
Rattanakosin
Bangken
29 Jomthong
Jomthong
Wuttakat
Jomthong
30 Latbuakaeo
Ramindra
Latbuakaeo
Bangken
31 Rama 3 (North-South)
Rama 3
Chareonrat
32 Latbuakaeo
Ramkamhaeng
Minpattana
Minburi
33 Serithai-East Ring (East)
Serithai
East Ring
Kannayao
34 Serithai-East Ring (West)
Serithai
East Ring
Kannayao
Ramkamhaeng
East Ring
Sapansung
Ramkamhaeng
East Ring
Sapansung
37 Suansiam
Serithai
Suansiam
Kannayao
38 Oonnuch-Seri Village
Oonnuch
Soi Seri Village
Prawet
39 Bor Pla
Sukapiban (Bangkapi)
Chokchai 4 (Jusco)
Latprao
40 Oonnuch 17
Soi Oonnuch
Soi Oonnuch 17
Suanluang
41 Nakaniwas
Satri Wittaya 2
Soi Nakaniwas
Latprao
42 Naluang
Pracha Utit
Buddhabhucha
ThoongKru
43 Chan (North-South)
Chan
Chareonrat
Sathorn
44 Kaset Nawamin
Praditmanutham
Kasettadmai
Latprao
Soi Sukumvit 105 (Soi
Lasan)
Chantarubeksa
Leapwaree/Sangkasatisu
k
Bangna
Bangna
Don Muang
Bangken
3rd Phase (2012)
35
36
Ramkamhaeng-East Ring
(West)
Ramkamhaeng-East Ring
(East)
Bangkolea
m
出典:BMA
48
図 2.3.3-6
個別信号制御システム Phase1 導入地点 MAP
49
2.4 バンコクのステークホルダ分析
バンコク交通行政、基盤整備、運営に係る組織、機関は、MOT、BMA、RTP である。バンコク交
通渋滞緩和に係る政策立案、導入計画策定、購入は、BMA 運輸交通局が行い、運営を RTP が担当
している。
(1)MOT
関係する内部部局、省関連の公社・公共機関は以下の通り。
・輸送交通政策局(OTP)
・国道局( Department of Highway,DOH)
・地方国道局(Department of Rural Roads,DRR)
・陸運局 (Department of Land Transport,DLT)
(2)省関連の公社・公共機関
・バンコク地下鉄(Mass Rapid Transit Authority of Thailand)
・バンコク大量輸送公社(Bangkok Mass Transit Auhority)
・タイ国有鉄道(State Railway of Thailant)
・タイ高速道路公社(Expressway Authority of Thailand)
(3)BMA
関係する内部部局、都庁関連の公社・公共機関は以下の通り。
・交通運輸局(TTD)
・土木都市開発局(Public Works Department)
(4)都庁関連の公社・公共機関
・バンコク大量輸送システム社(Bangkok Mass Transit System Public Company)
・タイ王国国家警察庁(Royal Thai Police)
警察庁本部、地方警察を含む統括本部より構成されており、バンコク交通渋滞緩和
は統括本部傘下の首都圏警察本部(交通警察部)が担当している。
50
2.5 バンコクの道路・交通関連法制度
タイ国における道路・交通関連の法制度は主に「LAND TRAFFIC ACT B.E. 2522」にて規定され
る。この中で各種交通違反における主要な交通違反における罰則は以下のとおりである。
表 2.5-1
LAND TRAFFIC ACT B.E. 2522 における主要な交通違反の罰則金
違反項目
罰則金額
駐車違反
200 バーツ
一時停止
200 バーツ
信号無視
500 バーツ
速度違反
400 バーツ
運転中のモバイル端末操作
400~1,000 バーツ
2.6 バンコク都の ITS 状況
2.6.1 バンコクにおける渋滞発生状況
(1)現状の渋滞状況
バンコクは、世界的に見て最も渋滞が酷い都市の一つとされている。道路面積に対して
車両台数が多く、道路許容量の飽和、移動速度の低下、渋滞等に伴う経済損失など様々な
問題が発生している。以下はバンコクにおける平均旅行速度を示したグラフである。
表 2.6.1-1
平均旅行速度(km/h)
35.0
30.0
平均速度(km/h)
)
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
出典:BMA
バンコクはメキシコシティ、北京、ジャカルタなどと並び渋滞が酷い都市とされている。
バンコクではバンコク中心部 5km 圏内においては、平均時速はわずか 12km/h 程度とされ
ており、中心部から 10km-20km 圏内においても 35km/h 程度となっている。この数値は東
51
京都、ニューヨークと比較しても低い水準である。
またバンコクにおいては道路面積における車両占有率の高さが問題となっている。現在
バンコクにおいては道路が許容できる車両数のおよそ 4.6 倍の台数が登録されている。
そして平均旅行速度の低下や道路における許容車両数のオーバー等によりどの程度損
失が発生しているのかを複数の機関が調査している。
渋滞により年間 1,600 億円もの経済損失が発生しているとタイの経済研究所が発表して
いるが健康被害についても深刻な状況であり、国際ハイウェイプロジェクト推進委員会に
よれば、バンコクの肺がん発生率はプーケットやチェンマイといったタイにおけるバンコ
ク以外の都市と比較するとおよそ 3 倍も高いとされている。渋滞により多大な経済損失や
健康被害等を出しているバンコクは英国放送協会(BBC)調査による「渋滞の酷い都市ラン
キング」で 1 位となっている。(2013 年 12 月)。
バンコク都はこの交通渋滞を解消するため、都市鉄道等の交通公共機関の整備を進めて
いる。しかし本計画は大規模な整備計画であり、2029 年までの計画と位置付けられている
ため、交通渋滞の解消には長期間を要する。また現状、道路上の信号をそれぞれ警官がマ
ニュアル操作している箇所があり、信号間の連携が取れていない場合がある。そのため交
通流の改善のためには、信号システムの課題にも対応する必要がある。
(2)渋滞要因
バンコク都における一般道路の渋滞は、複数の要因が複合的に影響して発生している。
主な要因を以下に示す。
①学校への送迎による渋滞
通学者の送迎を目的として始業・就業時刻において学校周辺に交通が集中する。
図 2.6.1-1 は、朝の通学時間に、生徒の降車によって車線が閉塞され、その影響が上
流交差点に及んでいる例である。
出典:住友電工(株)にて撮影
図 2.6.1-1
学校への送迎車両による交通容量低下
52
出典:NEC にて撮影
②市場など人の集まる区域周辺での渋滞
市場周辺では、商品や人が道路上に食み出し、かつ、バスやタクシーなどの乗合車両
が周辺に停車するため、交通容量が低下する。図 2.6.1-2 は、商品、人及び乗合車両が
車線を閉塞している例である。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-2
市場周辺での人の車道への溢出し及び周辺での公共車両停止
③交通流の集中による渋滞
他都市と同様に、朝は都心部、夕方は郊外部に向かう交通流が増加する。バンコク都
はこの交通流を捌くための道路網に、以下の特徴がある。
バンコク都はチャオプラヤー川に沿って運河が発達している。この運河を渡るための
橋は、都心部と東地域を結ぶスクンビット通りやペチャブリ通り、同北部地域を結ぶパ
ホンヨーティン通り、及び同西部を結びチャオプラヤー川を横切るサトーン通りやラー
マ 8 世通り等の幹線道路とこれに準ずる主要道路に架けられている。裏道であるソイを
走行したとしても都心に入る又は郊外に出る場合には、これらの主要道路を利用する必
要がある。このため、これらの主要道路の橋梁部上流に交通が集中する。また、スクン
ビット通りとラーマ 4 世通りのように、2 つの幹線道路が T 字路や Y 字路で合流する交
差点においても交通が集中する。図 2.6.1-3 は、橋梁部上流での交通集中の例である。
出典:住友電工(株)にて撮影
図 2.6.1-3
橋梁部付近での交通集中
④交差点での分岐率と処理効率
右折車は対向車と錯綜するために、双方の流れを別の青信号(現示)で制御する必要が
53
ある。右折率が高い交差点では、それぞれの方向に独立で青信号を与える(独立現示)方
式を採用する場合が多く、バンコクにおいてもこの方式が多く採用されている。
図 2.6.1-4 は、右折率の高い信号交差点において、対向する流入路に別(独立)の青信
号を与えている例である。十字路交差点では、各方向に与えられる青時間の割合が平均
で 1/4 に低下するため、右折率の高い信号交差点で処理効率が低下し渋滞が発生する。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-4
交差点での右折車両
⑤隣接する T 字路交差点の制御
2 つの T 字路交差点が近接している場合、例えば、図 2.6.1-5 のような交差点群では、
南北方向の交通と東西方向の交通とが合流する区間が混雑する。スクンビット通りに対
しては、ラーマ 4 世通りとソイ 71 通り(距離 230m)、ソイ 63 とソイ 42(80m)などがこれ
に該当する。
図 2.6.1-5
隣接する T 字路交差点
ラムカムヘン通りに交差するポンスリ通りとソイ 60 は距離が 20m 程度であるため、
ポンスリ通りから、ソイ 60 方向に向かう車両が、ソイ 60 からラムカムヘン通りに右折
する車両に進路を妨げられるため、流れが悪くなっている。
54
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-6
T 字路交差点の交通
⑥無信号交差点での車両挙動
本線道路とソイが交差し、かつ、信号が設置されていない交差点では、本線道路から
ソイに向かう、本線道路を U ターンする及びソイから本線道路に流入する車両が、本線
道路を直進する車両の流れを阻害する。信号で制御されていないため、各方向の流れか
ら、別の流れに円滑に切替わらないため処理量が低下する。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-7
55
無信号交差点
⑦手動制御によるサイクル長上昇と信号無視
警察官による信号の手動制御が実施されている交差点では、サイクル長が上昇する傾
向にある。サイクル長が上昇すると、青信号方向の交通は、次第に車間時間が大きくな
るため、停止線での効率が低下する。加えて。、交差側は赤信号による待ち時間の増加に
より、信号を無視して交差点に侵入する車両の割合が増加し、交通流の乱れや交通事故
により渋滞を引き起こす原因となる。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-8
手動制御によるサイクル長上昇と信号無視
⑧手動制御によるサイクル長上昇と交差点内停止
手動制御によるサイクル長上昇は、交差点内での車両停止を助長する。運転者は赤信
号での待ち時間を避けるため、無理に交差点へ進入する傾向があり、交差点内の車両停
止が発生する。これらの停止車両は他方向の交通流を阻害し、交差点の処理効率が低下
する。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-9
手動制御によるサイクル長上昇と交差点内停止
56
⑨無理な車線変更
バンコクでは、図 2.6.1-10 のように、交差点や道路分岐の直前での割り込みが多い。
この車により有効車線がブロックされ、その後ろで渋滞が発生する。主要道路へ接続す
る道路などでは断続的にこの事象が発生する為、一時的な渋滞でなく継続的な渋滞へと
発展する。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-10
無理な車線変更
⑩バス停留所と信号交差点の位置関係
交差するバス路線への乗換利便性から、バス停留所を交差点付近に設置する場合が多
い。バス停車用の付加スペースが無い場合、バス停車中に 1 車線を閉塞するため、分岐
率の高い信号交差点付近にバス停留所がある場合には、更に交差点で処理効率が低下す
る。図 2.6.1-11 は、信号交差点付近に設けられたバス停留所に停車中のバスが、1 車線
を閉塞している例である。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.1-11
停車中のバスが車線を閉塞
57
2.6.2 バンコクの通信ネットワーク状況
タイにおいては通信分野の市場拡大が続いている。タイの国立科学技術開発庁と国家通信
放送委員会の共同調査によると、2014 年の国内通信市場は前年比 8.3%増の 5,060 億バーツ
(約 1 兆 6,200 億円)となる見通しである。バンコク・ポストなどの現地紙によると、これ
らはスマートフォンの急速な普及によるインターネット利用者の増加などが要因であると指
摘されている。なお、バンコクにおける代表的な通信事業者は TOT(Telephone Organization
of Thailand)、TRUE 社、TRUEMOVE、AIS(Advanced Info Service)等である。
また、2013 年の携帯電話の市場規模は 685 億バーツで前年比 5.2%増、2014 年は 13.4%増
の 777 億バーツとなる見込みであると述べている。このうち携帯電話市場の成長を牽引する
スマートフォンは、2014 年には低価格化等によりシェアを拡大し、600 億バーツの規模に達
すると予想されている。
58
2.6.3 バンコクの主要道路の時間交通量
表 2.6.3-1 は OTP が作成した 2007 年から 2012 年の間におけるバンコクの主要道路の平均
速度の推移である。渋滞ピーク時に調査を行ったもので、午前中(6:00~9:00)のピーク時
における推移である。どの年度においてもタクシン通り~ラーマ 2 世通り間やサトーン通り
~クルントンブリー通り間などは平均速度が低水準のまま推移している。また、ペッチャガ
セム通り~チャランサニットウォン通り間については、2007 年から 2010 年までは 20km/h を
越えていたものの、2011 年には前年比約 43%の大幅低下、2007 年から 2012 年の 5 年間でほ
ぼ半分の水準となっている。これらより、バンコク都の中心部に位置する道路で、より渋滞
が激しことが分かる。
表 2.6.3-1
2007 年から 2012 年における主要道路における平均速度の推移(単位 km/h)
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
7月
7月
7月
7月
7月
7月
Phahon Yothin Rd.~Phaya Thai Rd. 16.5
19.2
14.8
16.7
18.1
15.9
Vinhabadi Rangsit Rd.
29.2
30.9
38
35.6
39.7
41.9
Pracha Chuen Rd.~Rama Ⅴ Rd.
21.2
21.5
19.6
18.9
17.6
18.4
Ramkhamhaeng Rd.~Rama Ⅸ
18.3
14.1
12.9
12.8
16.1
13.9
15.5
17.9
19.4
16.8
20.3
15.8
Rama Ⅳ Rd.
17.6
16.1
18.6
16.7
16.6
15.9
Sukhumvit Rd~Rama ⅠRd.
15
14.5
15.1
14.2
17.4
18.4
Lat Phrao Rd.
16.6
14.1
16.6
12.8
13.5
11.9
Sirindhorn Rd.~Ratchawithi Rd.
24.2
19.8
19.4
22.3
24.5
20.6
15.2
18
16.7
19.1
15
18.3
28.7
28.2
25.1
21.7
12.4
14.5
Tak Sin Rd.~Rama ⅡRd.
15.7
21.4
14.2
14.4
13.4
11.2
Sathon Rd~Krung Thon Buri Rd.
13.7
13.3
14.6
16.8
12.8
13.7
Mahaisawan Rd~Charoen Krung Rd.
8.2
12.3
17
15.1
12
11.6
Ratchadaphisek inner Ring Road
28.5
30.1
29.1
30.3
27.8
27.2
ルート名
Srinagarindra Rd.~Phetchaburi
Rd.
Borommaratchachonnani Rd.~
Ratchadamnoen Klang Rd.
Phet Kasem Rd.~Charan Sanit Wong
Rd.
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning
59
2.6.4 バンコクの ITS 設備
現在、バンコク都では一般道路、高速道路の両方にそれぞれ交通情報を収集・提供する機
器が設置され、交通管制センターにて収集された交通情報を基に渋滞情報を作成し、渋滞情
報を提供するシステムが運用されている。
(1)一般道路
一般道路には交通情報収集・提供機器として CCTV カメラと、図形情報板(Smart Traffic
Sign)、可変情報板(Variablle Massage Signs,VMS)等が設置されている。BMA へのヒアリ
ングによると、CCTV カメラでは目視、車両検知器では自動で交通量を計測し、図形情報板
と VMS に渋滞情報の提供を行う。また、渋滞情報をスマートフォンや WEB を介して提供す
るシステムの運用も行われている。
また、Red Light Camera と呼ばれる赤信号無視の自動検知機や Count down Traffic
Signal System と呼ばれる時間表示付の信号機が設置されている。
①交通情報収集・提供機器
ア) CCTV カメラ
BMA からのヒアリングによると、現在バンコク都では 150 台の CCTV カメラを用い
て交通情報の収集を行っている。これらの CCTV カメラは、バンコク都の主要な 300
交差点をカバーするように設置されており、目視によって交通量を計測する。1以下
に CCTV の画像を示す。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-1
1
CCTV カメラ
日本大学理工学部“バンコクにおけるプローブ情報の活用可能性に関する知見のフィードバック”
60
イ) 図形情報板(Smart Traffic Sign)・VMS
図形情報板は設置された地点より先にある道路を簡易な図形で表す掲示板、VMS
は文字によって交通情報を提供する掲示板である。図形情報板は図 2.6.4-2 に示す
ように道路を色分けして表示し、道路利用者に渋滞情報の提供を行う。現在、バン
コク都には 40 台の図形情報板が設置されており 1、混雑の度合いは情報板上に赤、
黄、緑で表示され、それぞれ渋滞、混雑、自然流を表している。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-2
1
図形情報板(Smart Traffic Sign)
Special Measure from BKK Traffic
61
②交通管制センター
RTP、BMA へのヒアリングによると、RTP は日本や欧米等の機器を利用したトラフィッ
クコントロール・コマンドセンターをバンコク都で運用しており、無線通信システム、
レッドライトカメラ、コールセンター、信号制御システムで構成される。
トラフィックコントロール・コマンドセンターは主にバンコク都を走る自動車・バイ
ク等に交通法を順守させるために設置されており、無線通信システムによる現場の警察
官との連携強化や、レッドライトカメラによる赤信号無視の自動検知を用いて現場での
交通違反の取締りを行う。また、電話による交通情報の提供を行うコールセンターも本
センターに設置、運営されている。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-3
トラフィックコントロール・コマンドセンター
62
③Web での交通情報提供システム
ア) BKKTraffic.com
OTP によると、BKKTraffic.com はバンコク都に設置されている図形情報板、VMS
の情報を WEB から確認することが出来るシステムである。BKKTraffic.com のサイト
にアクセスするとバンコクの地図と図形情報板、VMS のアイコンが表示され、ユー
ザがアイコンを選択すると、その地点で現在表示されている図形情報板、VMS の内
容を確認することが出来る。
イ) BMALiveTraffic
BMA によると、BMALiveTraffic はバンコク都内の渋滞情報を Web によって提供す
るものであり、Thai Traffic Foundation(iTIC)と呼ばれる基金を用いて開発された
システムである。提供している渋滞情報は交通管制センターによって集約された
CCTV カメラの映像から、目視で交通量を計測し渋滞情報を作成していると考えられ
る。
ウ) Longdo Traffic / Traffy
Longdo Traffic と Traffy はタイ国立電子コンピュータ技術研究センター(NECTEC)
が開発した交通情報提供システム、及びルート計画システムである。このシステム
はバンコク都内に設置された CCTV の映像から渋滞状況を目視で判断し、渋滞情報を
Web やスマートフォン上の地図に交通情報を提供する。また渋滞情報に基づいて目
的地までの所要時間の算出や、経路選択を行うことができる。 1
エ) TSquare Traffic & Taxi
TSquare Traffic & Taxi とは、日本の豊田通商が開発したバンコクの交通渋滞情
報配信システムである。このシステムは、バンコク首都圏の 5 大タクシーグループ
が所有するタクシーに車載器(On Board Unit,OBU)を搭載し、タクシーから 3 秒また
は 5 秒ごとにグローバルポジショニングシステム(Global Positioning System,GPS)
情報を取得する。取得した GPS 情報を基に、タクシーが走る道路の渋滞情報を 5 分
毎に作成し、スマートフォン等のデバイスに交通情報を提供するものである。本プ
ロジェクトは 2010 年から 2011 年にかけて総務省の下、豊田通商が実証実験を行い
商用化に結び付けたプロジェクトであり、現在では OBU を搭載したタクシー1 万台
から収集した約 6,000 万/日の交通情報を基にバンコク首都圏 2,500 か所の主要道路、
交差点、高速道路及び迂回路といった交通情報を提供している。 2
1
2
早稲田大学 小尾敏夫“2013 年に向けた ITS アジア戦略の展開へ”
<タイ業界事情>交通渋滞情報配信システム http://www.newsclip.be
63
④その他 ITS 機器
ア) Red Light Camera
BMA、RTP によると、Red Light Camera とは赤信号を無視した車両の自動取締装
置である。この機器が設置された交差点では、自動車・バイクが信号に従わず交差
点に進入した場合、センサと赤外線カメラによって、信号無視をした車両の自動検
知と車両ナンバープレートの画像取得が行われる。撮影された車両ナンバープレー
トの画像はトラフィックコントロール・コマンドセンターにネットワークを介して
送信され、管制員がナンバープレートと車両登録情報を照合した後、違反切符がド
ライバーに送付される。図 2.6.4-4 に撮影された違反車両例を示す。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-4
Red Light Camera によって取得された信号無視車両
イ) Count down Traffic Signal System
BMA へのヒアリングによると、Count down Traffic Signal System は信号が切替
わるまでの時間を表示する機能を備えた信号機であり、バンコク都内に設置されて
いる信号機のほぼ全てが本機能を有する。時間は信号サイクル長の自動制御時の場
合にのみ表示され、警察官による手動制御時の場合は“―”が表示される。図 2.6.4-5
に切り替わり時間が表示された Count down Traffic Signal System の画像を示す。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-5
Count down Traffic Signal System
64
(2)高速道路
バンコク都の首都圏を走る高速道路には、交通情報収集・提供機器として CCTV カメラ
や自動車両検知器、VMS が設置され、これらの交通情報、機器を集約する交通管制センタ
ーが存在する。 1これらの機器、管制センターは EXAT によって管理される。
①交通情報収集・提供機器
ア) CCTV カメラ
一般道路に設置された CCTV カメラと同様に、撮影された道路映像から目視で交
通量の計測を行う機器である。
イ) 車両検知器
EXAT によると、現在バンコク都の首都圏を走る高速道路には 2 種類の自動車両検
知器が設置されており、それぞれマイクロウェーブセンサと画像トラカンと呼ばれ
る。マイクロウェーブセンサは電波を用いて自動車の動きを検知し、交通情報を作
成する機器である。このマイクロウェーブセンサは 1.5km 以下の間隔で設置されて
いる。画像トラカンは画像処理技術を用いて、片側 4 車線の自動車の速度、交通流、
占有度等を計測し、自動で交通量の作成を行う機器である。現在、この画像トラカ
ンは高速道路の South Outer Ring Road と呼ばれる区間に 5km 間隔で設置されてい
る
ウ) VMS
一般道路に設置された VMS と同様に、文字を用いて電光掲示板に交通情報を表示
する機器である。図 2.6.4-6 に、高速道路に設置された VMS を示す。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-6
1
VMS
日本大学理工学部“バンコクにおけるプローブ情報の活用可能性に関する知見のフィードバック”
65
②交通管制センター
バンコク首都圏の高速道路では、EXAT が高速道路交通制御システムを用いて全長約
208km に及ぶ高速道路の交通情報管理を行っている。
以下の図に、EXAT における高速道路交通制御システムのオペレーションセンターとシ
ステムの運用画面の一つである渋滞状況マップを示す。このシステムは、高速道路上に
設置された CCTV カメラや車両検知器を用いて作成した交通情報を管制センターに集約
し、車両速度の計測、車両の検知、渋滞レベルの判断を行う。その後、情報処理された
交通情報を VMS、ラジオ等を介して道路利用者に提供をするシステムである。
現状のシステムはスクリーン 8 面とオペレータ 3,4 人で構成され、試験的な運用が
行われている。
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-7
オペレーションセンター全体像
出典:NEC にて撮影
図 2.6.4-8
66
渋滞状況マップ
3. 事業計画
3.1 プロジェクトの背景、必要性
これまで見てきたように、バンコクにおける交通渋滞は喫緊の課題である。この渋滞緩和に
対し一般的には大きくは 3 つ、道路ネットワークの整備、交通需要マネジメント、ボトルネック
の解消といった施策が考えられる。この中で道路幅拡張、環状線や迂回路の整備といった道路ネ
ットワーク整備は、タイ国政府、BMA 共に取り組む意向を示しているものの、土地収用問題など
も関連するため、容易ではなくかつ長期間を要する。
また、交通需要マネジメントの中でも交通公共機関の整備、またパーク&ライド、ロードプ
ライシングといった規制や制度改革も同様にタイ国政府、BMA 共に取り組みを進めているあるい
は取り組み意向を持っているが、法整備や都民合意を得る必要があり、長期間を要する。
一方、空間分散及び信号改良を中心とした個別ボトルネックの解消は比較的短期的な施策で
ある。従い、年々悪化する交通渋滞を継続的に緩和していくためにも、前述の長期的な施策と並
行してこれら短期的な取り組みを進めることが重要である。 具体的には Information and
Communication Technology(ICT)を活用した総合的な交通管理システムの導入である。バンコク
の主要交差点の交通量情報を収集し、分析・活用した交通量に即した総合的な信号システム制御
を実施する。また収集したデータをもとに渋滞情報や事故情報等をドライバーに提供し、リアル
タイムの交通情報を可視化するとともに迂回誘導を促す。 加えて、蓄積したデータを分析し国
や都における効果的な道路整備計画の立案に役立てる。
このような背景、必要性から本プロジェクトは、バンコクの交通渋滞緩和のために、信号シ
ステムの自動化、交通情報の提供や迂回誘導、道路整備計画のための蓄積データ分析を中心とす
る総合的な交通管理システムを計画・設計・調達・建設・資金調達を含めたパッケージとしてバ
ンコクに提案、構築するものである。
図 3.1-1
渋滞のメカニズムと対策
67
3.2 プロジェクトの基本方針
交通渋滞を緩和するためには、まず渋滞要因を明確にする必要がある。渋滞箇所によって渋
滞要因は異なり、また 1 つではなく複数から成っている。渋滞要因を明確にすることで、各々に
対して適切な対策を実施することができる。本プロジェクトでは、ICT を活用することで、渋滞
個所の可視化や渋滞対策業務のサポート、交通シミュレーションの活用による道路計画立案のサ
ポートを実施することで渋滞緩和を実現する。
プロジェクト実施計画は、まずパイロットプロジェクトを立上げ、本プロジェクトの有効性
を BMA、RTP に対して証明する。有効性の証明手段としては、渋滞個所の可視化を行い、渋滞要
因を抽出する。抽出した個所の画像トラカンデータを用いて、現状の旅行時間および平均速度の
交通シミュレーションを実施する。同時に渋滞対策を実施した際の交通シミュレーションを行い
旅行時間および平均速度を算出し、どれだけ効果があるか仮説を立てる。その仮説について、BMA、
RTP と協議後、渋滞対策を実施し、同様に交通シミュレーションを行い、仮説が正しいか実証す
る。渋滞対策前後を、交通シミュレーションによる比較を実施することでパイロットプロジェク
トの有効性を確認し、本プロジェクトへ移行する。
またシステム構成としては、プロジェクトを実施する上で、交通量計測、信号制御システム
が必要不可欠となる。パイロットプロジェクトでは、画像トラカンおよび信号制御機の製作から
実施すると、製作・設置に時間がかかり、実証実験を行うまでに長期間を要すると考えられるた
め、既設システムとして画像トラカンおよび信号制御システムが導入されている設備を活用する。
プロジェクトの本格導入に向けては、パイロットプロジェクト区間の路線延伸対応および既
設システムが設置されている区間を中心に導入することで、初期費用および導入時間を短くする
ことができる。
68
3.3 プロジェクトの内容
本プロジェクトのデータの流れを図 2.6.4-1 に示す。渋滞箇所を可視化するために、画像ト
ラカンなどの端末センサや、人による現地交通情報の入力よりデータ収集を行う。交通管制セン
ターで収集したデータを分析・活用・蓄積し、効果的な渋滞対策を検討および実行する。これら
を渋滞緩和サポートソリューションとする。
図 2.6.4-1
渋滞緩和サポートソリューション
(1)渋滞原因の特定
渋滞要因としては、2.6 章で述べたとおり下記が主な内容となる。
①学校への送迎による渋滞
②市場など人の集まる区域周辺での渋滞
③交通流の集中による渋滞
④交差点での分岐率と処理効率
⑤隣接する T 字路交差点の制御
⑥無信号交差点での車両挙動
⑦手動制御によるサイクル長上昇と信号無視
⑧手動制御によるサイクル長上昇と交差点内停止
⑨手動制御による現示変更
⑩バス停留所と信号交差点の位置関係
これらの渋滞原因が多岐に渡りかつ原因が複雑に存在する。交差点や車線などの物理的
な道路の形状や、バスや自動車が停止することによる交通量の低下、ラッシュ時の交通量
の集中、不適正な信号制御などの1つ又は複数が重なり合い、渋滞が発生する。
(2)渋滞緩和サポートソリューション
渋滞要因に対する対策が下記 5 つとなる。
69
①信号機制御ソリューション
信号制御は、基本的には時間での制御となり、予め設定された青、黄、赤の時間間隔
で動作する。この場合、朝夕のピーク時のように交通量が大きく増加する場合では、適
切に自動車を流すことが出来ずに渋滞が発生するため、現場の警察官が信号制御機を手
動操作し、信号時間を調節する。しかし警察官は当該交差点の交通状況を目視で判断し
て信号時間を調節しているため、周辺交差点の信号と連携した最適制御はできていない。
この問題を解決するのが、信号機制御ソリューションとなる。道路上に画像トラカン
や車両感知器を設置して交通量や渋滞をアルタイムに計測することで、適切な信号制御
が可能になる。また隣接交差点と青信号の開始時間を調整し、複数の交差点を車群が連
続して通過できるようにする(系統制御)。これらの渋滞を計測し、時間制御および系統
制御を実施することで適切な信号制御を行い、渋滞緩和を実現する。
②ピークタイムシフトソリューション
交通管制センターに蓄積されたデータの分析を行い、どの時間帯にどの道路がどの程
度混雑しているか、またいつ渋滞解消されるかを統計データとして算出する。この情報
を用いて、各会社毎の出勤時間や帰宅時間の変更をするための資料として活用する。ま
た時間帯別所要時間や迂回路情報を生成し、情報板やスマートフォンによるドライバー
へ交通情報を提供することで、行動の意思決定させる情報として活用できる。その結果、
交通情報からドライバーが迂回を選択し、出勤(帰宅)時間を変更することで、渋滞ピー
ク時の交通量が緩和されることが期待できる。
③渋滞現場対応サポートソリューション
重度な渋滞の場合、信号制御機だけでは処理ができないため、現場の警察官との連携
が必要となるが、警察官による手動信号制御では、周辺交差点と連携した制御ができな
い。このため、周辺交差点の交通状況を警察官が把握し、適切に対応させるための支援
ツールを渋滞現場対応サポートソリューションで提供する。
このソリューションは、交通管制センターにて一元管理された交通情報を、専用端末
を持つ現場の警察官に確認させることで、渋滞時における適切な対応を促し、渋滞の緩
和を図るものである。さらに、過去の渋滞時に実施された対処方法およびノウハウとい
ったデータを蓄積していくことで、渋滞発生時において、警察官により適切な対応を促
すことができる。
④警察業務サポートソリューション
警察業務サポートソリューションは、CCTV 映像からナンバープレートの文字を解析し、
登録された車両情報と照合することで違反車両の特定を行う。その後、特定された違反
車両の情報を現場警察官に通知することで、違反車両の取締り強化を支援するものであ
る。また信号無視や違法駐車を検挙した際は、その場所の情報を交通管制センターへ送
信し、違反多発場所を蓄積することで、警察官にて情報共有し警察業務支援を行う。
70
⑤交通流シミュレーションソリューション
渋滞対策の導入効果をシミュレーションする。
渋滞個所を可視化し、物理的な道路拡幅や新規建設などを実行する前に、どれだけ渋
滞緩和効果があるかシミュレーションを行うことで、最大限の効果を得られるように計
画、実行することが可能となる。
また、短期的な改善から長期的な改善までシミュレーションすることで、道路計画や
改善(バス停位置、時間帯一方通行)の意思決定サポートを行う。
(3)プロジェクトの効果
5 つのソリューションの効果を十分に発揮するために、PDCA サイクルの活用が重要とな
る。この PDCA サイクルを行い、継続的な改善を行うことで、渋滞が緩和されていく。
①情報蓄積
端末センサからの交通データ、車両データおよび警察官からの手動データ、過去の実
績情報を蓄積する。
②分析
関連資料や収集データをもとに、渋滞発生状況や時間帯、交通違反の傾向などを把握
し、対策や取締が必要な個所の抽出・発生要因の特定を行う。
③対策検討
発生要因を踏まえた対策を立案し、現場への適用可能性、対策・取締の効果(費用対
効果)を考慮した施策を選定する。
④実施および効果評価
対策実施による効果を検証するために、対策実施前後の渋滞発生状況や違反車両台数
の比較を行い、効果評価を行う。
71
図 2.6.4-2
PDCA サイクルの活用
3.4 プロジェクトのスキーム
路側センサの設置や現地工事については現地企業を想定する。また、システム構築およびシ
ステム導入教育まで日本企業にて実施し、現地企業にノウハウを習得させることで、システム導
入後の保守メンテナンスを現地企業にて行うものとする。これによって、現地雇用を確保すると
ともに、機器故障・システムトラブル時の迅速な対応が可能となる。
3.5 想定されるプロジェクトの実施体制
本プロジェクトの運営関係者は 1.事業主体である BMA、2.運営事業者であるタイ王国国家
警察庁、3.受注者である現地企業、4.発注者・受注者に技術支援を行う日本企業、5.その他
タイ政府・現地企業によって構成される。その運営関係者と役割は下記の通りである。
(1)BMA
本プロジェクトの発注者
・バンコク渋滞緩和に係る政策立案
・導入計画策定
・事業発注
(2)RTP
本プロジェクトの運営者
・現地運用業務(交差点信号制御)
・違反車両の取締まり
72
(3)現地企業
本プロジェクトの受注者
・BMA が発注する業務委託者(契約窓口、仕様確認)
・現地工事
・保守メンテナンス
(4)日本企業
発注者・受注者の技術支援
・道路計画支援
・システム設計
・機器提供
・システム開発
・設備計画から構築、運用、保守まで含めたトータルサポート
(5)その他
【OTP】
BMA とともに本プロジェクトの政策立案に携わる。
【EXAT】
バンコクの都市内高速道路を管轄・運営。
図 2.6.4-1
ビジネススキーム図
73
3.6 プロジェクト実施スケジュール
下記に本提案内容をバンコク全体に適用する場合の概略日程を示す。プロジェクトの整備は
バンコク全体を 1 度に行わず、パイロット、第 1 期、2 期、3 期、4 期の 5 段階に分けて段階的
に整備する。また、パイロットプロジェクトにて実際の効果確認を行い、有効性を確認した上で
第 1 期以降の整備に着手することが妥当である。
パイロット、第 1 期、2 期、3 期、4 期の各整備区間の対象地域については 3.7 章にて説明す
る。
表 3.6-1
プロジェクト実施スケジュール
74
3.7 プロジェクトの対象地域
プロジェクト実施の対象地域は、まずスクンビット通りのアソーク交差点からオンヌット交
差点までの区間を対象にパイロットシステムを構築し、その後第 1 期~第 4 期の工期を経て、バ
ンコク各地域へ拡大していく。
:管制センター
:パイロット対象地域
:第1期整備対象地域
:第2期整備対象地域
:第3期整備対象地域
:第4期整備対象地域
図 2.6.4-1
プロジェクトの対象地域概略図
(1)パイロット対象地域
スクンビット通りのアソーク交差点からオンヌット交差点までの区間を対象とする。
(2)第 1 期整備対象地域
ラーマ 1 世通りのポンプラ交差点からスクンビット通りのバンナ周辺まで及び、ラーマ
4 世通りのプラカノンからクロントゥーイ周辺までを含むエリアの主要道路。
75
(3)第 2 期整備対象地域
パホンヨーティン通りを中心とした周辺地域。
(4)第 3 期整備対象地域
シーロム通り、サトーン通りから西側の地域。
(5)第 4 期整備対象地域
セリタイ通り、ラムカムヘン
3.8 事業費
以下の項目に対しハードウェア製作費、ソフトウェア製作費、工事費等の積み上げを行い、
概算事業費を算出すると、第 1 期整備 60 億円、第 2 期整備 50 億円、第 3 期整備 50 億円、第 4
期整備 50 億円、合計 210 億円となる。また、本設備の運用費は年間 15 億円、設備の更新期間を
7 年間と想定とすると、7 年間のトータルコストは凡そ 315 億円となる。
(1)交通管制センター構築費
収集する交通情報を集約し、交通監視、交通制御を行う施設の構築費
(2)交通管制センター出張所の構築費
交通管制センターのサポートを行う出張所の構築費
(3)ポリスボックスの改修費
バンコクの主要交差点に設置されているポリスボックスの改修費
(4)路側設備の構築費
感応式信号機、車両検知器、CCTV カメラなどの路側設備の構築費
(5)システム設計費
上記全システムの設計費
(6)検査/現地調整費
システムの検査、現地調整作業費
(7)デザイン、ドキュメント整備費
上記施設のデザイン設計費、及び、完成図書の製作費
76
3.9 事業費の資金調達計画と見通し
タイ政府は、交通インフラ整備計画しており、2013 年 9 月現在、総額 2 兆バーツ(約 6 兆円)
の借入枠の国会承認を得るべく努力を続けている。借入枠の活用は、バンコクと地方都市を結ぶ
高速鉄道やバンコクの都市鉄道整備計画が中心であり、バンコクの交通渋滞緩和のみならず、タ
イ全体の経済発展を推し進める計画内容である。FS チームでは当初、本予算枠の活用を視野に
調査を進めたが、BMA としては渋滞緩和に向けた ITS の実現に向けては、本予算枠の活用や外貨
の借入ではなく基本的には自己資金にて実施する方向で考えたいとのことである。そのことから
BMA の通常予算要求として、本プロジェクトの費用を要求して頂く必要があり、その為にはパイ
ロットプロジェクトでの導入効果の実証が重要となる。
3.10 プロジェクトに係る法令・制約
外資参入に関するタイ国の法制度は以下の通りであるが、本プロジェクトでは総合的な交通
監視システムの導入提案であり、従来通りタイ国家警察での運営を想定しているため、これら法
規制上の問題はないものと考える。
表 3.10-1
領域
道路
鉄道
空港
港湾
ICT産業
制限区分
禁止
規制
禁止
規制
禁止
規制
禁止
規制
禁止
タイ国における主要な外資参入規制
制限業種名
外資出資比率上限、条件
国内陸運事業
合弁49%以下or内閣の許可
国内陸運事業
合弁49%以下or内閣の許可
国内航空事業
合弁49%以下or内閣の許可
国内水運事業
合弁49%以下or内閣の許可
サービス業(金融業、倉庫業、学
校等を除く全て)
禁止
土地取引業
規制
建築設計サービス
大規模(外国人資本が5億バーツ)公
共施設以外の建設
土地所有 原則として不可
BOI奨励企業や工業団地公社認定企
業は可能
規制
建設業
その他
合弁49%以下or商業登録局の許可
NG(外国人の営業を禁止)
合弁49%以下or商業登録局の許可
合弁49%以下or商業登録局の許可
出典: BOI、日本アセアンセンター、JETRO(2010 年調査)
77
3.11 ソリューション提案
本調査結果を元に 3.3 章のプロジェクト内容に記載のソリューションを具体化し、BMA に対し
プロジェクト提案を行う。本プロジェクト提案には各渋滞原因とソリューションの対応表、各ソ
リューション実現の為のシステム構成を明記する。
3.12 技術、実行戦略
3.12.1 パイロットプロジェクト
本プロジェクトを本格導入するにあたり、パイロットプロジェクトでの導入効果の実証
が必要となる。パイロットプロジェクト実施エリアは下記を予定している。
図 3.12.1-1
パイロットプロジェクトの対象地域概略図
78
パイロットプロジェクトにて実施するシステム構成図を下記に記載する。
図 3.12.1-2
パイロットプロジェクト システム構成図
3.3 章で述べたプロジェクト内容である、渋滞緩和サポートソリューションの内、パイ
ロットプロジェクトでは下記を実施する。
①信号制御システム
既設交通量システムからデータを取得し、信号制御を行う。信号機自動制御により交
差点渋滞、待ち時間の改善を図る。自動化により周辺状況に応じた最適な信号機制御が
可能となる。
②渋滞緩和現場サポート
路線に設置されたカメラ映像を取り込み、モバイル用端末で表示可能とする。また、
各地点で手動入力した渋滞発生要因等の情報共有を可能とする。
画像解析を行い、交通流データを生成し、地図上に渋滞情報を生成し、渋滞の可視化
を実施する。
③ピークタイムシフト
交通量データ、所要時間、事故データ、違反車両データの統計情報を表示する。特に、
所要時間の時間帯別情報を提示することで、ピークタイムシフトによる渋滞改善を図る。
④渋滞対策シミュレーション
既設の車両検知器から収集した交通量データや、渋滞緩和現場サポートより得られる
データの蓄積管理を行うことで、渋滞改善策のシミュレーションを行う。渋滞の真の原
因追求と改善効果を具体的にすることが可能となる。
79
⑤運用監視システム
信号機の故障状況を一元管理し、迅速な異常検知を可能とする。またメンテナンス計
画支援を行う。
パイロットプロジェクトを実施する上でのメリットを下記にまとめた。
①既設交通量システムの活用
パイロット区間には既設交通流システムおよび交通流データから信号制御できるシ
ステムが導入されている。そのため、既設システムを活用することで効率的にかつ費用
を大幅に抑えることが可能となる。
②他システムとの親和性
既設交通量システムからのデータ取得や既設 CCTV からカメラ映像の取込み、および
中央サーバまでのネットワーク含めてインフラ基盤を構築することで、他システムを活
かしたシステムを構築する。
③交通流シミュレーションによる実証効果の確認
過去の交通データと現在の交通データにて交通シミュレーションを実施することで、
渋滞の減少率など、導入効果を数値で確認することができる。
3.12.2 本プロジェクトへの優位性について
本格導入するフェーズになった際、パイロットプロジェクトで使用したシステムを活用
し、拡張方向へと進めることができる。また、他システムとの接続構築に関してはパイロ
ットプロジェクトにて構築したため、親和性の高いシステムとなり優位性を発揮する。
また、パイロットプロジェクトと同様に、既設交通量システムおよび信号制御が可能な
信号機が設置されている地域から導入することで、初期コストが少なくかつ導入効果が出
る地域から始めることとする。
80
3.13 プロジェクト実施時のバンコクへの影響、効果
プロジェクト実施時の影響・効果については以下の 3 つの視点から検証する。
(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
(2)ピークタイムシフト実施効果の検証
(3)渋滞情報提供による交通流分散効果の検証
また、本プロジェクト実施時の影響・効果を検証する指標としては平均旅行速度を使用する。
各施策での平均旅行速度の改善効果を推察し、その旅行速度改善効果をバンコク全土に当て嵌め
ることにより、燃費、CO2、排出ガスの削減効果、及びバンコクに与える経済効果を推察する。
また、本調査内では検証を行わないが、信号制御、交通管制などの機能は本来、道路の安心、
安全を提供する為のシステムでもある為、交通事故数や死傷者数の減少効果も期待できる。交通
事故数減少に伴う事故渋滞削減により、渋滞緩和効果、燃費向上効果、CO2 排出量削減効果も間
接的に得られると考えられる。
図 3.12.2-1
プロジェクト実施効果算出イメージ
81
3.13.1 平均旅行速度改善効果
(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
平均旅行速度の改善効果は交通流シミュレータ(ドイツ PTV 社製の VISSIM)を使用し
算出する。シミュレーションを行う区間については、1.1.3 章に記載の通りに BMA 担当者
の推薦する 5 地点を候補として絞り込みを実施し、その中の 1 つであるスクンビット通り
をターゲットとした。シミュレーション区間とシミュレータに入力した交通量データを図
3.13.1-1 に示す。
シミュレーションのベースとなる現地交通量については、当初は調査期間中に現地にて
交通量調査を行い最新の実データを取得する予定であったが、反政府デモによる交通封鎖
が行われている状況が継続されていた為、RTP 所有の交通量計測装置にて過去に取得した
データ(2010 年 3 月 30 日 17 時~18 時の同地点の交通量データ)を元に現在の交通量を
推定し、それを使用した。
2013 年の交通量の推定値は、表 3.13.1-1 よりシミュレーション対象エリアの近辺の交
差点が 2 年で 4%の交通量増加であることから、2013 年は 2010 年に対し 6%増加として算
出する。また、シミュレータに入力した各地点の交通量、地点間の距離などについては図
3.13.1-2 に示す。
図 3.13.1-1
シミュレーション区間と入力データ
82
表 3.13.1-1
スクンビットの交通量増加
出典:Traffic Statistics Year2012(BMA)
図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図
83
現地視察にて該当地点の渋滞の主要因はバス停するバスの影響による有効車線数減少
及び、信号サイクル時間が長すぎることによる影響の可能性が高いと考えられた為、シミ
ュレーションは、①現状(信号サイクル 500 秒)のシミュレーション、②バス停の影響を
排除した場合のシミュレーション、③バス停の影響排除と共に信号サイクルを短くした場
合のシミュレーションを実施し、影響評価を行った。
この際、現状の信号サイクルについては、実際は朝、夕のラッシュ時は警察官による手
動制御であり、信号のサイクル長は一定ではないが、かなり長いサイクルとなっている為、
500 秒のサイクルと仮定し、シミュレーションを実施した。また、バス停は本シミュレー
ション区間から排除し、別の区間へ移動したことと想定してシミュレーションを実施した。
本来は移動先の区間の影響も評価が必要であるが、今回はそこまでは考慮していない。
シミュレーション結果を以下表に示す。
表 3.13.1-2
シミュレーション結果(バス停あり・信号サイクル 500 秒)
走行距離
走行時間
平均時速
(Km)
(h)
(Km/h)
0~5 分
887.6
25.8
34.4
5~10 分
997.4
36.8
27.1
10~15 分 539.0
17.0
31.7
15~20 分 1332.3
53.8
24.8
20~25 分 744.9
35.9
20.7
25~30 分 1050.0
38.2
27.5
30~35 分 929.9
46.8
19.9
35~40 分 581.4
22.1
26.3
40~45 分 1143.4
62.2
18.4
45~50 分 698.0
46.9
14.9
50~55 分 990.5
47.3
20.9
55~60 分 841.0
58.9
14.3
計
491.7
21.8
時間(分)
10735.4
84
表 3.13.1-3
シミュレーション結果(バス停なし・信号サイクル 500 秒)
走行距離
走行時間
平均時速
(Km)
(h)
(Km/h)
0~5 分
868.5
24.5
35.4
5~10 分
986.0
36.3
27.2
10~15 分
578.8
19.8
29.2
15~20 分
1311.4
53.1
24.7
20~25 分
779.7
37.9
20.6
25~30 分
1067.2
40.0
26.7
30~35 分
991.8
48.3
20.5
35~40 分
631.5
24.8
25.4
40~45 分
1191.2
58.1
20.5
45~50 分
721.8
43.5
16.6
50~55 分
1098.3
49.1
22.4
55~60 分
946.0
53.3
17.7
計
11172.2
488.7
22.9
時間(分)
表 3.13.1-4
シミュレーション結果(バス停なし・信号サイクル 200 秒)
走行距離
走行時間
平均時速
(Km)
(h)
(Km/h)
0~5 分
988.3
31.1
31.7
5~10 分
823.6
25.3
32.5
10~15 分
1123.8
36.7
30.6
15~20 分
803.4
29.2
27.5
20~25 分
1154.3
44.4
26.0
25~30 分
807.1
29.9
27.0
30~35 分
1129.4
43.0
26.3
35~40 分
811.3
33.5
24.2
40~45 分
1089.8
45.3
24.0
45~50 分
836.0
34.1
24.5
50~55 分
1051.8
42.3
24.9
55~60 分
749.4
31.7
23.7
計
11368.1
426.6
26.6
時間(分)
85
シミュレーション結果を見ると、バス停を排除することによる平均旅行速度の変化は 21.
8Km/h から 22.9Km/h になり、1.1Km/h(約 5%)改善している。さらに信号サイクルの見
直しを行うことにより 22.9Km/h から 26.6Km/h になり、3.7Km/h(約 16%)改善している
ことになる。
このことから、本シミュレーション区間においては、バス停の影響を排除すること、及
び、信号サイクルを見直すことにより、トータルで約 22%の平均速度の向上が見込めると
考えられる。
(2)ピークタイムシフト実施効果の検証
弊社にて実施した 1100 人の街頭アンケート結果を見ると、時間帯別の旅行時間が分か
ればピークタイムシフトを検討するという人の割合は 98%にも達している。各通勤者がピ
ークタイムシフトを実際に行うかどうかは、シフト時間と平均旅行速度の短縮効果に依存
すると考えられる為、ピークタイムシフトを検討する人の全てがシフトを行うとは考え難
い。その為、ここでは時間帯別旅行時間が提供された場合のピークタイム交通量は 3 年前
の交通量に戻るという仮定を行い、平均旅行速度の改善効果を計算する。
表 3.13.1-5 に、2011 年から過去 5 年分の主要道路の平均旅行速度が記載されている。
これによると 2011 年の平均旅行速度は 23.8Km/h であり、3 年前の 2008 年の平均旅行速度
は 27.0Km/h となっている為、ピークタイムシフトにより 3.2km/h(約 13.4%)の平均速度の
向上が見込めると推定する。
表 3.13.1-5
バンコク及び周辺地域における平均旅行速度推移
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
86
(3)渋滞情報提供による交通流分散効果の検証
2.6.4 章でも紹介されているように渋滞情報の Web 提供、スマートフォンへの提供、図
形情報板による提供は既にバンコクにて実現されている。弊社にて実施した 1100 人の街
頭アンケート結果を見ても、56%の人は Web での交通情報を利用した経験があり、75%の人
は図形情報板の渋滞情報を参照し、進路の決定に役立てているという結果となっている。
このため、現状においても交通流分散効果は一定の効果を上げていると考えられる。
本プロジェクト実施に伴い、提供する交通情報の粒度、精度の向上、提供方法の多様化
が見込める為、更なる交通流分散効果も見込めると考えているが、現状の分散効果と更な
る効果の分析にはより詳細な情報が必要となるため、渋滞情報提供による交通流分散効果
については検証をしないこととする。
87
3.13.2 燃費削減効果
(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
①シミュレーション区間における燃料削減効果
シミュレーション区間における燃料消費量は以下の計算式及び前提で算出した。
計算式:
・ 燃料消費量 =燃料消費率原単位(g/km) x 走行距離(km) x 交通量
(台)x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「燃料消費率原単位(g/km)」は表 3.13.2-1 のとおりであり、3.13.1
章のシミュレーション結果である「平均旅行速度(km/h)」をベースに
算出する。
・ 車種は貨物車の割合を 7%でシミュレーション実施しているため、交通
量(台)の 93%を「ガソリン自動車」の「乗用車」、7%を「ガソリン自動
車」の「貨物車・中量車」として試算する。貨物車の積載量は平均 3
トンと仮定する。
・ 「走行距離(km)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図の
「各地点のシミュレータ入力距離」L1~L10 の総和である 8.13 キロメ
ートルを用いる。
・ 「交通量(台)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図の
「2013 年交通量推定(台/時)」の総和である 8,906 台を用いる。
・ 燃料削減効果は、日中(AM7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を対象とし、
平日を 240 日(20 日/月×12 か月)として年間換算する。
88
表 3.13.2-1
車種別燃料消費率原単位
出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所
国総研資料第 671 号「道路環境影響評価等に用いる自動車排出係数の算定根拠(平成 22 年度版)」
今回シミュレーションの対象としたスクンビットにおける現状の平均旅行速度は、
3.13.1 章の「①現状(信号サイクル 500 秒)のシミュレーション」(以降、シミュレーシ
ョン①)結果のとおり、21.8km/h である。また、「②バス停の影響を排除した場合(バス
停なし・信号サイクル 500 秒)のシミュレーション」(以降、シミュレーション②)及び、
「③バス停の影響排除と共に信号サイクルを短くした場合(バス停なし・信号サイクル
200 秒)のシミュレーション」(以降、シミュレーション③)の結果はそれぞれ、22.9km/h、
26.6km/h である。これらの結果から燃料消費率原単位を求めるが、表 3.13.2-1 は平均
旅行速度が 5km/h 単位であり、シミュレーション①、②、③の平均旅行速度を四捨五入
し算出した場合、誤差が大きくなると考えるため、以下の表 3.13.2-2 のとおり、表
3.13.2-1 を 1km/h 単位に細分化して算出することとする。
89
表 3.13.2-2
ガソリン自動車の燃料消費率原単位
平均旅行速度
乗用車原単位
中量車原単位
(km)
(g/km)
(g/km・t)
20
0.0680
0.0670
21
0.0664
0.0658
22
0.0648
0.0646
平均旅行速度 20km/h 及び
23
0.0632
0.0634
25km/h の値から推定
24
0.0616
0.0622
25
0.0600
0.0610
26
0.0588
0.0602
27
0.0576
0.0594
平均旅行速度 25km/h 及び
28
0.0564
0.0586
30km/h の値から推定
29
0.0552
0.0578
30
0.0540
0.0570
補足
表 3.13.2-1 より
表 3.13.2-1 より
表 3.13.2-1 より
シミュレーション①では平均旅行速度が 21.8km/h であるため小数点以下を四捨五入
し 22km/h とした場合、表 3.13.2-2 より、燃料消費率原単位は乗用車で 0.0648g/km、中
量車で 0.0646g/km・t となる。同様にシミュレーション②では平均旅行速度が 23km/h、
シミュレーション③では 27km/h となるため、燃料消費率原単位はそれぞれ、②は乗用車
0.0632g/km・中量車 0.0634g/km・t、③は乗用車 0.0576g/km、中量車 0.0594g/km・t で
ある。 以上を含め、燃料消費量算出に関わる係数を表 3.13.2-3 に纏める。
表 3.13.2-3
シミュレーション
燃料消費量算出に関わる係数
平均旅行速度
乗用車原単位
中量車原単位
(km/h)
(g/km)
(g/km・t)
① 現状
21.8
0.0648
0.0646
② バス停の排除
22.9
0.0632
0.0634
③ ②+サイクル長
26.6
0.0576
0.0594
これら係数をもとに前述計算式を用いて各シミュレーションの燃料消費量及び削減
効果を算出した結果は表 3.13.2-4 の通りである。
90
表 3.13.2-4
シミュレーション区域における消費燃料削減効果(年間)
シミュレーション
消費量(kg)
削減量(kg)
削減率(%)
15,396
-
-
2,776
15,033
363
2.4%
2,601
13,772
1,624
10.5%
乗用車
中量車
合計
① 現状
12,567
2,829
② バス停の排除
12,256
③ ②+サイクル長 11,170
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
結果、シミュレーション①では、乗用車 1 万 2,567 キログラム、中量車 2,829 キログ
ラムと、合計で年間 1 万 5,396 キログラムの燃料が消費される計算となる。これに対し
バス停の影響を排除したシミュレーション②では、乗用車 1 万 2,256 キログラム、中量
車 2,776 キログラム、合計で年間 1 万 5,033 キログラムの燃料消費量となり、2.4%の削
減効果があると算出された。また、バス停の影響排除及び信号サイクル長を変更したシ
ミュレーション③では、乗用車 1 万 1,170 キログラム、中量車 2,601 キログラムと、合
計で年間 13,772 リットルの燃料消費量となり、シミュレーション①と比較して 10.5%の
燃料が削減されるという結果となった。平均旅行速度の観点から見ると、シミュレーシ
ョン①、②の結果から、平均旅行速度が約 5%改善されると 2.4%の燃料削減、またシミュ
レーション①、③の結果から、平均旅行速度が約 22%改善されると 10.5%の燃料削減効果
が見込まれるという結果となった
91
②プロジェクト実施時における燃料削減効果
前項のシミュレーション区間における燃料削減効果をバンコク及び周辺地域全体に
導入した場合の効果を算出する。算出における計算式及び前提は以下の通りである。
計算式:
・ 燃料消費量 =燃料消費率原単位(g/km) x 総走行距離(km)(走行距離(km) x
交通量(台)) x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「燃料消費率原単位(g/km)」は表 3.13.2-2 のとおりで、算出のベースとな
る「平均旅行速度(km/h)」は MOT 提供データである表 3.13.2-5 の「Travel
Speed(km/h)」の値を用いる。
・ 車種は貨物車の割合を 7%でシミュレーション実施しているため、交通量(台)
の 93%を「ガソリン自動車」の「乗用車」、7%を「ガソリン自動車」の「貨
物車・中量車」として試算する。貨物車の積載量は平均 3 トンと仮定する。
・ 総走行距離は、表 3.13.2-5 の「Veh-kms(Vehicle x Distance)」の値を用
いる。
・ これらをもとに算出した①現状の燃料消費量に、表 3.13.2-4 で算出した燃
料消費削減率(②2.4%、③10.5%)を適用し、バンコクおよび周辺地域での燃
料消費削減効果を試算する。
・ なお、表 3.13.2-5 は日次のデータであるため、いったん時間換算したうえ
で、日中(AM 7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を一日の対象とし、平日を 240
日(20 日/月 x12 か月)として年間換算する。
92
表 3.13.2-5
バンコク及び周辺地域における交通指標
出典:Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
表 3.13.2-5 の最新実績値である 2011 年の「Travel Speed」のとおり、バンコク及び
周辺地域における平均旅行速度は 23.8km/h である。小数点以下を四捨五入し 24km/h と
した場合、燃料消費率原単位は、表 3.13.2-2 のとおり、乗用車で 0.0616g/km、中量車
で 0.0622g/km・t となる。総走行距離については、表 3.13.2-5 の最新実績値である 2011
年の「Veh-kms」のとおり、一日あたり 2 億 3,048 万 1,500 キロメートルであり、1 時間
当たりの走行距離に換算すると、960 万 3,396 キロメートルとなる。効果の出る時間帯
を日中 12 時間、240 営業日として換算すると、前述の計算式よりバンコク及び周辺地域
における①現状の年間燃料消費量は、乗用車で 158 万 4,459 リットル、中量車で 36 万
1,266 リットルと、合計で年間 194 万 5,725 リットルとなる。これに前項シミュレーシ
ョン結果の削減率 2.4%、10.5%を適用すると、シミュレーション②において年間 4 万 5,856
リットル、シミュレーション③において 20 万 5,246 リットルの燃料削減効果が見込まれ
るとの算出結果となった。結果を以下の表 3.13.2-6 に纏める。
表 3.13.2-6
バンコク及び周辺地域における燃料消費削減効果(年間)
年間燃料消費量(kg)
シミュレーション
乗用車
合計
中量車
削減量(kg)
削減率(%)
① 現状
1,584,459
361,266
1,945,725
-
② バス停の排除
-
-
1,899,869
45,856
2.4%
③ ②+サイクル長 -
-
1,740,479
205,246
10.5%
-
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
93
(2)ピークタイムシフト実施効果の検証
上記、「(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
②プロジェクト実施時に
おける燃料削減効果」と同様にピークタイムシフトによる燃料消費削減効果を割り出す。
計算の前提となる値は以下となる。
①バンコク及び周辺地域の 1 時間当たりの総走行距離は、960 万 3,396 キロメートル
②ピークタイムシフトの効果がある時間は、日中 12 時間×240 営業日
③基準(24km/h)の燃料消費率原単位は、乗用車で 0.0616g/km、中量車で 0.0622g/km・t
④プロジェクト実施後(27km/h)の燃料消費率原単位は、乗用車で 0.0576g/km、中量車で
0.0594g/km・t
⑤乗用車と貨物車の割合は 93:7。貨物車の積載貨物量平均は 3t
これを元にピークタイムシフトの燃料削減効果を纏めると以下のようになる。
表 3.13.2-7
ピークタイムシフトによる燃料消費削減効果(年間)
消費量(kg)
削減量
削減率
乗用車
中量車
合計
(kg)
(%)
1,584,459
361,266
1,945,725
-
-
ピークタイムシフト後 1,481,572
345,003
1,826,575
119,150 6.1%
現状
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
(3)渋滞情報提供による交通流分散効果の検証
3.13.1 章同様に、本プロジェクト実施に伴い、提供する交通情報の粒度、精度の向上、
提供方法の多様化が見込める為、更なる交通流分散効果も見込めると考えているが、現状
の分散効果と更なる効果の分析にはより詳細な情報が必要となるため、渋滞情報提供によ
る交通流分散効果については検証をしない。
94
3.13.3 CO2 削減効果
(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
①シミュレーション区間における CO2 削減効果
シミュレーション区間における CO2 排出量は以下の計算式及び前提で算出した。
計算式:
・ CO2 排出量=CO2 排出係数原単位(g/km) x 総走行距離(km)(走行距離
(km) x 交通量(台)) x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「CO2 排出係数原単位(g/km)」は表 3.13.3-1 のとおりであり、3.13.1
のシミュレーション結果である「平均旅行速度(km/h)」をベースに算
出する。
・ 車種は、貨物車の割合を 7%でシミュレーションを行っているため、交
通量の 93%を「ガソリン自動車」の「乗用車」、7%を「ガソリン自動車」
の「貨物車・中量車」として試算する。貨物車の平均積載量は平均 3
トンと仮定する。
・ 「走行距離(km)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図
の「各地点のシミュレータ入力距離」L1~L10 の総和である 8.13 キロ
メートルを用いる。
・ 「交通量(台)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図の
「2013 年交通量推定(台/時)」の総和である 8,906 台を用いる。
・ CO2 削減効果は日中(AM7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を対象とし、
平日を 240 日(20 日/月×12 か月)として年間換算する。
95
表 3.13.3-1
車種別 CO2 排出係数原単位
出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所
国総研資料第 671 号「道路環境影響評価等に用いる自動車排出係数の算定根拠(平成 22 年度版)」
96
今回シミュレーションの対象としたスクンビットにおける現状の平均旅行速度は、
3.13.1 章のとおり、シミュレーション①、②、③でそれぞれ、21.8km/h、22.9km/h、
26.6km/h である。これらの結果から CO2 排出係数原単位を求めるが、表 3.13.3-1 は平
均旅行速度が 5km/h 単位であるため、以下表 3.13.3-2 のとおり、表 3.13.3-1 を 1km/h
単位に細分化して算出することとする。
表 3.13.3-2
ガソリン自動車の CO2 排出係数原単位
平均旅行速度
乗用車原単位
中量車原単位
(km)
(g/km)
(g/km・t)
20
159.70
149.30
21
155.90
146.72
22
152.10
144.14
平均旅行速度 20km/h 及
び 25km/h の値から推定
補足
表 3.13.3-1 より
23
148.30
141.56
24
144.50
138.98
25
140.70
136.40
26
138.08
134.50
27
135.46
132.60
平均旅行速度 25km/h 及
28
132.84
130.70
び 30km/h の値から推定
29
130.22
128.80
30
127.60
126.90
表 3.13.3-1 より
表 3.13.3-1 より
シミュレーション①では平均旅行速度が 21.8km/h であるため小数点以下を四捨五入
し 22km/h とした場合、表 3.13.3-2 より、CO2 排出係数原単位は乗用車で 152.10g/km、
中量車で 144.14 となる。同様にシミュレーション②では平均旅行速度が 23km/h、シミ
ュレーション③では 27km/h となるため、CO2 排出係数原単位はそれぞれ②は乗用車
148.30g/km、中量車 141.56g/km、③は乗用車 135.46g/km、中量車 132.6g/km である。 以
上を含め、CO2 排出量算出に関わる係数を表 3.13.3-3 に纏める。
97
表 3.13.3-3
シミュレーション
CO2 排出量算出に関わる係数
平均旅行速度
乗用車原単位
中量車原単位
(km/h)
(g/km)
(g/km・t)
① 現状
21.8
152.10
144.14
② バス停の排除
22.9
148.30
141.56
③ ②+サイクル長
26.6
135.46
132.60
これら係数をもとに前述計算式を用いて各シミュレーションの CO2 排出量及び削減効果
を算出した結果は表 3.13.3-4 の通りである。
表 3.13.3-4
シミュレーション
シミュレーション区域における CO2 排出量削減効果
年間 CO2 排出量(kg)
乗用車
中量車
合計
削減量
削減率
(kg)
(%)
① 現状
29,497,003 6,312,037 35,809,040 -
-
② バス停の排除
28,760,062 6,199,056 34,959,119 849,921
2.4%
③ ②+サイクル長 26,269,980 5,806,689 32,076,669 3,732,371 10.4%
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
結果、シミュレーション①では、乗用車 2,947 万 7,003 キログラム、中量車 631 万 2,037
キログラム、合計で年間 3,580 万 9,040 キログラムの CO2 が排出される計算となる。こ
れに対し、バス停の影響を排除したシミュレーション②では、乗用車 2,876 万 62 キログ
ラム、中量車 619 万 9,056 キログラム、合計で年間 3,495 万 9,119 キログラムの CO2 排
出量となり、2.4%の削減効果があると算出された。また、バス停の影響排除及び信号サ
イクル長を変更したシミュレーション③では、乗用車 2,626 万 9,980 キログラム、中量
車 580 万 6,689 キログラム、合計で 3,207 万 6,669 キログラムとなり、10.4%の削減効果
が得られるという結果となった。平均旅行速度の観点からみると、シミュレーション①、
②の結果から、平均旅行速度が約 5%改善されると 2.4%の CO2 排出量削減効果、またシミ
ュレーション②、③の結果から、平均旅行速度が約 22%改善されると 10.4%の CO2 排出量
削減効果が得られることが確認できた。
98
②プロジェクト実施時における CO2 削減効果
前項のシミュレーション区間における CO2 削減効果をバンコク及び周辺地域全体に導
入した場合の効果を算出する。算出における計算式及び前提は以下の通りである。
計算式:
・ CO2 排出量=CO2 排出係数原単位(g/km) x 総走行距離(km)(走行距離(km) x
交通量(台)) x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「CO2 排出係数原単位(g/km)」は表 3.13.3-2 のとおりで、算出のベース
となる「平均旅行速度(km/h)」は MOT 提供データである表 3.13.2-5 の
「Travel Speed(km/h)」の値を用いる。
・ 車種は貨物車の割合を 7%でシミュレーションを行っているため、交通量の
93%を「ガソリン自動車」の乗用車、7%を「ガソリン自動車」の「貨物車・
中量車」として試算する。貨物車の積載量は平均 3 トンと仮定する。
・ 総走行距離は、表 3.13.2-5 の「Veh-kms(Vehicle x Distance)」の値を用
いる。
・ これらをもとに算出した①現状の CO2 削減量に、前項で算出した CO2 削減
率(②2.4%、③10.4%)を適用し、バンコクおよび周辺地域での CO2 削減効
果を試算する。
・ なお、表 3.13.2-5 は日次のデータであるため、いったん時間換算した上
で、日中(AM 7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を一日の対象とし、平日を 240
日(20 日/月 x12 か月)として年間換算する。
表 3.13.2-5 の最新実績値である 2011 年の「Travel Speed」のとおり、バンコク及び
周辺地域における平均旅行速度は 23.8km/h である。小数点以下を四捨五入し 24km/h と
した場合、CO2 排出係数原単位は、表 3.13.3-2 のとおり乗用車で 144.50g/km、中量車
で 138.98g/km・t となる。総走行距離については、表 3.13.2-5 の最新実績値である 2011
年の「Veh-kms」のとおり、一日あたり 2 億 3,048 万 1,500 キロメートルである。従い、
前述の計算式よりバンコク及び周辺地域における①現状の年間 CO2 排出量は、乗用車で
37 億 1,679 万 765 キログラム、中量車で 8 億 721 万 4,436 キログラムとなり、合計で 45
億 2,400 万 5,201 キログラムとなる。これに前項シミュレーション結果の削減率 2.4%、
10.4%を適用すると、シミュレーション②において年間 1 億 737 万 6,442 キログラム、シ
ミュレーション③において 4 億 7,153 万 6,384 キログラムの CO2 削減効果が見込まれる
結果となった。結果を以下の表 3.13.3-5 に纏める。
99
表 3.13.3-5
バンコク及び周辺地域における CO2 削減効果(年間)
年間 CO2 排出量(kg)
シミュレーション
乗用車
削減量(kg)
合計
中量車
削減
率(%)
① 現状
3,716,790,765 807,214,436 4,524,005,201 -
② バス停の排除
-
-
4,416,628,758 107,376,442
③ ②+サイクル長 -
-
4,052,468,817 471,536,384 10.4%
2.4%
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
(2)ピークタイムシフト実施効果の検証
上記、「(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
②プロジェクト実施時に
おける CO2 削減効果」と同様の計算式にて、平均旅行速度の推定値を基にピークタイムシ
フトによる CO2 消費削減効果を求める。
計算の前提となる値は以下となる。
①バンコク及び周辺地域の 1 時間当たりの総走行距離は、960 万 3,396 キロメートル
②ピークタイムシフトの効果がある時間は、日中 12 時間×240 営業日
③基準(24Km/h)の CO2 排出量原単位は、乗用車で 144.50g/km、中量車で 138.98g/km・t
④プロジェクト実施後(27Km/h)の燃料消費率原単位は、乗用車で 135.46g/km、中量車で
132.60g/km・t
⑤乗用車と貨物車の割合は 93:7。貨物車の積載貨物量平均は 3t
これを元にピークタイムシフトの燃料削減効果を纏めると以下のようになる。
表 3.13.3-6
ピークタイムシフトによる CO2 削減効果(年間)
年間 CO2 排出量(kg)
乗用車
中量車
削減
合計
削減量(kg)
現状
3,716,790,765 807,214,436 4,524,005,201 -
ピークタイムシフト後
3,484,266,338 770,158,555 4,254,424,893 269,580,308
率
(%)
6.0%
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
100
3.13.4 排出ガス削減効果
(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
①シミュレーション区間における排出ガス削減効果
シミュレーション区間における排出ガス(窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)、
一酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO2))量は以下の計算式及び前提で算出した。
計算式:
・ 排出ガス量 =排出ガス係数原単位(g/km) x 総走行距離(km)(走行距
離(km) x 交通量(台)) x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「排出ガス係数原単位(g/km)」は表 3.13.4-1 のとおりであり、3.13.1
のシミュレーション結果である「平均旅行速度(km/h)」をベースに算
出する。
・ 車種は、貨物車の割合を 7%でシミュレーションを行っているため、交
通量の 93%を小型車類、7%を大型車類として試算する。貨物車の平均
積載量は平均 3 トンと仮定する。
・ 「走行距離(km)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図
の「各地点のシミュレータ入力距離」L1~L10 の総和である 8.13 キロ
メートルを用いる。
・ 「交通量(台)」は、図 3.13.1-2
シミュレータ入力モデル説明図の
「2013 年交通量推定(台/時)」の総和である 8,906 台を用いる。
・ 排出ガス削減効果は日中(AM7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を対象と
し、平日を 240 日(20 日/月×12 か月)として年間換算する。
101
表 3.13.4-1
車種別排出ガス係数原単位
出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所
国総研資料第 671 号「道路環境影響評価等に用いる自動車排出係数の算定根拠(平成 22 年度版)」
102
今回シミュレーションの対象としたスクンビットにおける現状の平均旅行速度は、
3.13.2 のとおり、シミュレーション①、②、③でそれぞれ、21.8km/h、22.9km/h、26.6km/h
である。これら結果から排出ガス係数原単位を求めるが、表 3.13.4-1 は平均旅行速度
が 5km/h 単位であり、シミュレーション①、②、③の平均旅行速度を四捨五入し算出し
た場合、差が見えづらい結果となるため、以下表 3.13.4-2、表 3.13.4-3 のとおり、表
3.13.4-1 を 1km/h 単位に細分化して算出することとする。
表 3.13.4-2
小型車類の排出ガス原単位
平均旅行
小型車類排出ガス係数原単位(g/km)
速度(km)
NOx
SPM
CO
SO2
補足
20
0.097
0.00193
1.231
0.00622
表 3.13.4-1 より
21
0.095
0.00187
1.204
0.00610
22
0.093
0.00182
1.176
0.00597
23
0.091
0.00176
1.149
0.00585
24
0.089
0.00170
1.121
0.00572
25
0.087
0.00165
1.094
0.00560
26
0.085
0.00159
1.062
0.00550
27
0.083
0.00154
1.031
0.00541
28
0.082
0.00149
0.999
0.00531
29
0.080
0.00144
0.968
0.00522
30
0.078
0.00139
0.936
0.00512
表 3.13.4-3
平均旅行速度
20km/h 及び 25km/h
の値から推定
表 3.13.4-1 より
平均旅行速度
25km/h 及び 30km/h
の値から推定
表 3.13.4-1 より
大型車類の排出ガス原単位
平均旅行
大型車類排出ガス係数原単位(g/km・t)
速度(km)
NOx
SPM
CO
SO2
補足
20
2.058
0.02047
1.497
0.00648
表 3.13.4-1 より
21
2.00400
0.02005
1.47520
0.00637
22
1.95000
0.01964
1.45340
0.00625
23
1.89600
0.01922
1.43160
0.00614
24
1.84200
0.01880
1.40980
0.00603
25
1.788
0.01839
1.388
0.00591
26
1.74080
0.01799
1.36520
0.00582
27
1.69360
0.01759
1.34240
0.00572
28
1.64640
0.01719
1.31960
0.00562
29
1.59920
0.01679
1.29680
0.00552
30
1.552
0.01639
1.274
0.00543
103
平均旅行速度
20km/h 及び 25km/h
の値から推定
表 3.13.4-1 より
平均旅行速度
25km/h 及び 30km/h
の値から推定
表 3.13.4-1 より
シミュレーション①では平均旅行速度が 21.8km/h であるため小数点以下を四捨五入
し 22km/h とした場合、表 3.13.4-2、表 3.13.4-3 より、NOx、SPM、CO、SO2 の小型車類
排出ガス原単位はそれぞれ、0.093g/km、0.00182gm/km、1.176g/km、0.00597g/km、大型
車類排出ガス単位はそれぞれ 1.95g/km、0.01964g/km、1.45340g/km、0.00625g/km とな
る。同様にシミュレーション②では平均旅行速度が 23km/h、シミュレーション③では
27km/h となるため、それぞれを纏めると排出ガス量算出に関わる係数を表 3.13.4-4、
表 3.13.4-5 に纏める。
表 3.13.4-4
小型車類排出ガス量算出に関わる係数
平均旅行速
小型車類排出ガス係数原単位(g/km)
度(km/h)
NOx
SPM
CO
SO2
① 現状
21.8
0.093
0.00182
1.176
0.00597
② バス停の排除
22.9
0.091
0.00176
1.149
0.00585
③ ②+サイクル長 26.6
0.083
0.00154
1.031
0.00541
シミュレーション
表 3.13.4-5
大型車類排出ガス量算出に関わる係数
平均旅行速
大型車類排出ガス係数原単位(g/km)
度(km/h)
NOx
SPM
CO
SO2
① 現状
21.8
1.950
0.01964
1.4534
0.00625
② バス停の排除
22.9
1.896
0.01922
1.4316
0.00614
③ ②+サイクル長 26.6
1.694
0.01759
1.3424
0.00572
シミュレーション
104
これら係数をもとに前述計算式を用いて各シミュレーションの小型車類と大型車類
の合計排出ガス消費量及び削減効果を算出した結果は表 3.13.4-6 の通りである。
表 3.13.4-6
シミュレーション区域における小型車類と大型車類の年間合計排出ガス量と削減効果
削減量(kg)/年
シミュレーション
合計排出ガス量(kg)/年
削減率(%)
NOx
① 現状
② バス停の排除
③ ②+サイクル長
CO
SO2
103,428 1,212
291,748
1,432
100,676 1,183
285,480
1,403
90,338
SPM
1,069
258,690
1,299
NOx
SPM
CO
SO2
2,753
29
6,268
29
2.7
2.4
2.1
2.0
13,090
143
33,058
133
12.7
11.8
11.3
9.3
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
結果、シミュレーション①では、年間の排出ガス量は NOx が 10 万 3,428 キログラム、
SPM が 1,212 キログラム、CO が 29 万 1,748 キログラム、SO2 が 1,432 キログラムとなる。
これに対しバス停の影響を排除したシミュレーション②では、排出ガス量がそれぞれ 10
万 676 キログラム、1,183 キログラム、28 万 5,480 キログラム、1,403 キログラム削減
されるという結果となり、削減率は 2.1~2.7%である。またシミュレーション③では、
それぞれ 9 万 338 キログラム、1,069 キログラム、25 万 8,690 キログラム、1,299 キロ
グラム排出ガス量が削減され、削減率は 9.3%~12.7%という結果となった。
105
②プロジェクト実施時における排出ガス削減効果
前項のシミュレーション区間における排出ガス削減効果をバンコク及び周辺地域全
体に導入した場合の効果を算出する。算出における計算式表 3.13.4-2 前提は以下の通
りである。
計算式:
・ 排出ガス量 =排出ガス係数原単位(g/km) x 総走行距離(km)(走行距離(km) x
交通量(台)) x(貨物車のみ)積載トン数(t)
算出の前提:
・ 「排出ガス係数原単位(g/km)」は表 3.13.4-2 のとおりで、算出のベースと
なる「平均旅行速度(km/h)」は MOT 提供データである表 3.13.2-5 の「Travel
Speed(km/h)」の値を用いる。
・ 車種は、貨物車の割合を 7%でシミュレーションを行っているため、交通量
の 93%を小型車類、7%を大型車類として試算する。貨物車の平均積載量は平
均 3 トンと仮定する。
・ 総走行距離は、表 3.13.2-5 の「Veh-kms(Vehicle x Distance)」の値を用
いる。
・ これらをもとに算出した現状の排出ガス量に、前項で算出した排出ガス削減
率を適用し、バンコクおよび周辺地域での排出ガス削減効果を試算する。
・ なお、表 3.13.2-5 は日次のデータであるため、いったん時間換算したうえ
で、日中(AM 7 時~PM7 時)の時間帯 12 時間を一日の対象とし、平日を 240
日(20 日/月 x12 か月)として年間換算する。
表 3.13.2-5 の最新実績値である 2011 年の「Travel Speed」のとおり、バンコク及び
周辺地域における平均旅行速度は 23.8km/h である。小数点以下を四捨五入し 24km/h と
した場合、排出ガス係数原単位は、表 3.13.4-2、
表 3.13.4-3 から算出する。総走行距離については、表 3.13.2-5 の最新実績値であ
る 2011 年の「Veh-kms」のとおり、一日あたり 2 億 3,048 万 1,500 キロメートルである。
従い、前述の計算式よりバンコク及び周辺地域における現状の年間排出ガス量は NOx が
1,299 万キログラム、SPM が 15.3 万キログラム、CO が 3,702 万キログラム、SO2 が 18.2
万キログラムとなる。これに前項シミュレーション結果の削減率を適用すると以下の表
3.13.4-7 に纏める。
106
表 3.13.4-7
プロジェクト実施時における小型車類と大型車類の合計排出ガス量と削減効果(年間)
削減量(kg)/年
合計排出ガス量(kg)/年
シミュレーション
削減率(%)
NOx
① 現状
SPM
CO
SO2
NOx
SPM
CO
SO2
3,670
777,470
3,643
2.4
2.1
2.0
12,987,817 152,920 37,022,373 182,151
12,637,146 149,250 36,244,903 178,508 350,671
②バス停の排除
2.7
③ ②+サイクル長
11,338,364 134,875 32,838,845 165,211 1,649,453 18,045 4,183,528 16,940
12.7
11.8
11.3
9.3
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
(2)ピークタイムシフト実施効果の検証
上記、「(1)シミュレータによるボトルネック改善効果の検証
②プロジェクト実施時に
おける排出ガス削減効果」と同様の計算式にて、平均旅行速度の推定値を基にピークタイ
ムシフトによる排出ガス削減効果を求める。
計算の前提となる値は以下となる。
①バンコク及び周辺地域の 1 時間当たりの総走行距離は、960 万 3,396 キロメートル
②ピークタイムシフトの効果がある時間は、日中 12 時間×240 営業日
③基準(24Km/h)の NOx/SPM/CO/SO2 の排出量原単位は、
それぞれ乗用車で 0.089/0.00170/1.121/0.00572(g/km)、
中量車で 1.842/0.0188/1.4098/0.00603(g/km・t)
④プロジェクト実施後(27Km/h) の NOx/SPM/CO/SO2 の排出量原単位は、それぞれ乗用車
で 0.083/0.00154/1.031/0.00541 (g/km)、中量車で 1.6936/0.01759/1.3424/0.00572
(g/km・t)
⑤乗用車と貨物車の割合は 93:7。貨物車の積載貨物量平均は 3t
これを元にピークタイムシフトの燃料削減効果を纏めると以下のようになる。
表 3.13.4-8
ピークタイムシフトによる排出ガス削減効果(年間)
削減量(kg)/年
合計排出ガス量(kg)/年
削減率(%)
NOx
現状
ピークタイムシフト後
SPM
CO
SO2
NOx
SPM
CO
SO2
12,987,817 152,920 37,022,373 182,151
11,971,560 141,777 34,315,949 172,377 1,016,257 11,143 2,706,424 9,774
7.8
7.3
7.3
※有効時間(平日昼間)のみを対象とする
107
5.4
3.13.5 その他の効果
その他の効果としてはまず、平均旅行時間の短縮に伴うドライバーのストレス軽減効果が
考えられる。アンケート結果によると、98%の人がピークタイムシフトに興味を持っており、
現状の渋滞に対し大多数が大きなストレスを感じていることが想像される。平均旅行時間を
向上し渋滞緩和を図ることは、これら大多数が感じるストレスの緩和に直接繋がるものと考
えられる。
それに加えて、交通事故の低減効果も挙げられる。渋滞情報に加え、交通事故の発生状況
や事故多発区間などの情報を提供することによる各ドライバーの事故の未然回避や、警察等
の迅速な行動を促すことが可能となる。結果、交通事故の件数や迅速な対応による事故の深
刻化を回避できることが想定される。
最後に、蓄積データの活用による効果である。これらの渋滞や事故情報等を蓄積し、統計
的に分析することで、例えば、今後の効率的・効果的な道路整備計画の推進に役立てること
が可能となる。また将来的には、地下鉄、高架鉄道、バスといった公共交通や、さらには防
犯、防災、エネルギー、行政サービスといった領域の多種多様な情報を組み合わせることで、
新たな効果、価値を生み出すことに寄与できるものと考える。
108
3.14 投資効果
本プロジェクト実施時のバンコク及び周辺地域全体での経済効果は以下のように算出し
た。
計算式:
・経済効果(年間) = 走行時間短縮便益 + 走行経費の削減便益
※走行時間短縮便益 = 渋滞損失時間(時間) x 賃金単価(THB)
※走行経費の削減便益 = 総燃料削減量(L) x 平均燃料費(THB)
算出の前提:
・ 渋滞損失時間は表 3.13.2-5 の走行時間、表 3.14-1 の旅行者数をベース
に、3.13.1 のシミュレーション結果における走行時間の短縮率を適用し
算出する。
・ 賃金単価は、表 2.1.2-4 のバンコクにおける平均賃金(月額 16,000 バー
ツ)を用い、20 日/月、8 時間/日で時給換算する。
・ 総燃料削減量は、3.13.2 章の算出結果を用いる。
・ 平均燃料費は、表 3.14-2 のガソリン市場価格の平均値(2 月 18 日時点)
を用いる。
・ ガソリンの比重は 1 リットル 750g として計算する。
・ 経済効果は、日中 12 時間 (AM7 時~PM7 時)を対象とし、平日を 240 日(20
日/月 x12 か月)として年間換算する。
・ 為替は 1 バーツ 3.16 円(2014 年 2 月 18 日時点)として計算する。
・ 走行時間短縮便益に関しては一般的に、車両及び貨物の時間価値も含ま
れるが、ここでは人の時間価値のみを算出する。
・ 走行経費に関しては一般的に、油脂費、タイヤ・チューブ費、整備費、
車両償却費も含まれるが、ここでは燃料費のみを算出する。
出典:国土交通省 HP https://www.mlit.go.jp/
109
まず走行時間短縮便益を試算する。表 3.13.2-5 よりバンコク及び周辺地域における走行
時間(veh-hrs)は、一日あたり約 970 万時間である。これを日中帯 12 時間×1 年間(240 日)
に換算すると 11 億 6,400 万時間となる。
次にこの旅行時間からバイクの旅行時間を取り除く。表 3.14-1 にて赤枠に示すように同
地域の自家用車(バイクを含む)を利用した 1 日の平均旅行回数は 10,087 千回。青枠で示す
バイクを除いた平均旅行回数は 7,803 千回であることから、車とバイクの旅行比率は 78 対
22 となる。その為、11 億 6,400 万時間に 78%を乗じた 9 億 792 万時間が車に限定した年間総
旅行時間となる。
この年間総旅行時間に対し、シミュレーションより求めた走行時間の短縮効果を乗ずるこ
とでボトルネック改善施策により得られる総旅行時間の短縮効果を求める。3.13.1 章の結果
より、シミュレーション①の走行時間が 491.7 時間、シミュレーション③が 426.6 時間であ
ることから、シミュレーション①と比較してシミュレーション③では 65.1 時間短くなり短縮
率は 13.24%である。車に限定した年間総旅行時間(9 億 792 万時間)に短縮率 13.24%を乗じ
た結果、総旅行時間は 1 億 2,021 万時間短縮されることとなる。
この総旅行時間短縮効果で得られる経済効果は、バンコクの平均時給 100 バーツで換算す
ると、120 億 2,100 バーツ(379 億 8,636 万円)となる。
表 3.14-1
バンコク及び周辺地域における旅行者数(2011 年)
出典: Office of Transport and Traffic Policy and Planning, Ministry of Transport
110
次に走行経費の削減便益を試算する。まず年間の燃料削減量はより、表 3.13.2-6 より
シミュレーション③では 20 万 5,246Kg であり、これをリットルに直すと 27 万 3,661 リッ
トルである。平均燃料費は表 3.14-2 のとおり 38.39 バーツ/リットルであることから、ボ
トルネック改善効果(シミュレーション③)による走行経費の削減便益は 1,050 万バーツ
(約 3,300 万円)となる。
表 3.14-2
バンコク及び周辺地域におけるガソリン価格
Type
Baht/Litre
FuelSave Diesel:
29.99
V-Power Nitro+ Diesel:
32.98
Shell E20 Gasohol:
35.58
FuelSave Gasohol91:
38.08
FuelSave Gasohol95:
40.53
V-Power Nitro+ Gasohol 95:
43.05
Shell Unleaded 95:
48.55
Average
38.39
出典:Shell(2014 年 2 月 18 日時点)
次に、ピークタイムシフトによる経済効果を上記と同様に計算する。3.13.1 章の結果よ
り、ピークタイムシフトによる平均旅行速度向上効果は、上記ボトルネック改善施策(バ
ス停の排除+信号サイクル長の見直し)に対し約 60%の効果と試算される為、これを元に
走行時間短縮便益を計算すると、72 億 900 万バーツ(227 億 8,044 万円)となる。また、
3.13.2 章の結果よりピークタイムシフトによる走行経費の削除便益を計算すると 630 万バ
ーツ(約 2000 万円)となる。これを含めて 2 つの施策の経済効果試算の合計を出すと、
192 億 4,680 万バーツ(約 608 億円)となる。これを表に纏めると以下のようになる。
表 3.14-3
バンコク及び周辺地域の経済効果(年間)
走行時間
走行経費の
短縮便益
削減便益
百万バーツ
百万バーツ
百万バーツ
百万円
ボトルネック改善
12,021
10.5
12,031.5
38,020
ピークタイムシフト
7,209
6.3
7,215.3
22,800
経済効果合計
19230
16.8
19,246.8
60,820
実施施策
経済効果
本経済効果試算から 7 年間の経済効果は約 1,347 億バーツ(約 4,256 億円)となる。これ
に対して事業費と 7 年間の運用コストの概算は 3.8 章に記載の通り、約 315 億円の為、7 年
間の経済効果に対する事業費の割合は 7.4%となる。
111
3.15 日本国内経済への影響、波及効果
日本の渋滞緩和技術を適用・応用し、バンコクの渋滞緩和に貢献することにより、更なる
経済発展が期待でき、我が国のタイに対する投資も増大することになる。また、ASEAN 諸国
への展開も可能であるため、日本の ITS 関連技術の世界標準化の促進に繋がると共に、日本
企業の活躍の場を拡大するものと考える。具体的には以下の効果が期待できる。
①日本国の交通管理システムをベースとしたシステム開発・導入により、日本の道路関連
企業の ASEAN 諸国への進出機会の向上
②日本国の ITS 関連技術の国際標準化対応の促進
③将来的に鉄道・バスなどの公共交通と道路交通管理システムとの連携を行う際、日本で
培った技術やノウハウ等の活用が可能
3.16 日本企業の優位性
日本企業は、ASEAN における ITS プロジェクトのシステム設計を行う等、渋滞緩和対策の根幹
となる交通管理システムに精通している。例えば、日本の道路で運用している交通管理システム
は、各種路側センサと連携した 1 分周期での渋滞状況自動判定、渋滞状況や公用車等の通行車両
判定による信号機制御、VMS、ハイウェイラジオ、VICS(Vehicle Information and Communication
System:道路交通情報通信システム)等各種メディアへの交通情報提供を行うシステムであり、
日本国内にて約 40 年間にわたった実績を誇る。
また、日本では GPS によるプローブ情報システム等による情報提供は、既に、実用化してお
り、携帯ネットワーク以外の通信網の整備が十分に行われていない ASEAN に較べ、高度な技術や
ノウハウの蓄積が進んでおり、交通情報提供においても大きな国際競争力を有する。本提案では、
これらの優位性を積極的に活用しバンコクにおける効果を明確にすることにより、プロジェクト
の実施に繋げる。
4. 他国への横展開戦略
本プロジェクトは、深刻な交通渋滞に直面しているバンコクの渋滞緩和を目的とした社会イン
フラ・システムの整備事業である。バンコク以外の ASEAN においても、経済成長に伴う都市化、
モータリゼーションの進展により、交通渋滞が慢性化している。インドネシア・ジャカルタ、ベ
トナム・ホーチミン等は、バンコク同様、車中心で、都市鉄道等の公共交通機関の整備が遅れて
おり、渋滞も昼夜を問わず発生している。また、2015 年、ASEAN 共同体が設立され、基盤を共通
化する機運が高まっており、バンコクの成功事例は、インドネシア・ジャカルタ、ベトナム・ホ
ーチミンをはじめとする ASEAN 各国へ展開できると考えられる。
112
5. 総括
本事業では、「グローバル市場におけるスマートコミュニティ等の事業可能性調査」として、バ
ンコクを対象に交通渋滞緩和に向けた FS を実施した。FS では国内調査および現地調査を行い、
バンコクの渋滞原因や既設 ITS 設備、関連政策を調査、また関連政府機関などへヒアリングを実
施して、交通渋滞緩和における現状・課題・ニーズを把握するとともに、システムソリューショ
ン提案の作成やビジネススキームの検討などの事業計画を策定した。
調査の結果、交通渋滞を緩和することに対する高いニーズはあるものの、ICT を活用した総合
的な交通管理システムを導入するためには、導入効果の実証が必要不可欠であることが明確とな
った。このことより、本格導入のためにはパイロットプロジェクトの実施、及び、有効性の検証
が極めて重要である。また、システム導入前後の交通流シミュレーションにより、本プロジェク
トの投資効果・経済効果が高いことが確認できた。
このことから本書にて提案したバンコクでの交通渋滞緩和ソリューションは、タイ国の更なる
経済発展に寄与することができる有益なプロジェクトであると言える。
113
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