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竹短繊維を用いたプレス成形材料の機械的特性

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竹短繊維を用いたプレス成形材料の機械的特性
八戸工業高等専門学 紀要
第 44 号
(2009, 12)
5
竹短繊維を用いたプレス成形材料の機械的特性
越智 真治 ・長尾
信義
M echanical Properties of Press-Molded Products Using Short Bamboo Fibers
By Shinji OCHI and Nobyoshi NAGAO
Abstract : Recently, plastic products have been increasing. However, the final disposal sites of garbage are
insufficient. Therefore,the material has to be developing that solves the problems. This paper describes the
mechanical properties of press-molded products using short bamboo fiber bundles. Bamboo fibers can be
molded such as plastic by hot pressing. In other words, it will reduce the effects of the environment that
bamboo products replace the some plastic products. The tensile strength of the short bamboo fiber products
increased with increasing molding temperature up to 140°
C and decreased thereafter. The composites possessed tensile strength and Vickers hardness of 39 MPa and HV45, respectively.
1. 緒
材料と比較して,竹材のプラスチック材料への代替の可
言
能性を調査した。
竹は,古くから日用品や工芸品, 築材料などに多く
用いられ,身近な工業材料のひとつであった。竹が身の
2. 実 験 方 法
回りに豊富に存在し入手が容易であったこと,また竹の
持つ優れた機械的,物理的性質がその理由であり,有効
2.1 供試材料
竹繊維として,爆砕処理により取り出した孟宗竹繊維
利用のための様々な工夫がなされてきた 。わが国は世
界有数の木材消費国であるが,同時に世界有数の木材輸
を
用した。爆砕処理とは含水した原料を高温高圧下で
入国でもある。それゆえ近年国内産の竹の需要は低迷し
所定の時間加熱すなわち煮熟した後,圧力を瞬間的に開
ており,全国的に非管理状態の竹林が増加してきている。
放することで,水の熱膨張により繊維を抽出する方法で
放置された竹林は,近接している樹木の枯死や住宅への
ある 。
侵食,地滑りの危険性増加などに繋がるため,多くの自
治体から竹の有効利用が求められている 。
竹はイネ科タケ亜科の植物であり,その種類は 1,200
種類以上である 。気候によって生育する種は異なるが,
また,昨今のゴミ問題や資源の枯渇化などの環境問題
我が国において竹材として代表的なものは孟宗竹と真竹
は地球規模で問題視されている。石油由来のプラスチッ
の二種類である。竹材は,維管束と呼ばれる繊維状の組
ク製品は上記の環境問題の主原因の一つであり,その代
織が竹稈の軸方向に向きをそろえて平行に並んでおり,
替材料の開発が望まれている。生
解性プラスチックを
表皮近傍ではこの維管束が密に,内側では疎となった傾
天然繊維で強化した複合材料(生
解性複合材料)が現
斜構造となっている。化学的な成
は木材と同様でセル
在では特に注目されており,その開発や特性評価などに
ロース,へミセルロース,リグニンからなり,組成はほ
関する研究が盛んに行われている
。また,天然繊維の
ぼ木材と同じである。その中でもセルロースは乾燥した
自己接着力を利用した成形時にバインダを用いない材料
の開発に関する研究も進められている 。
竹稈の半 近くの重量を占めている。セルロースは植物
体を構成する細胞の細胞壁の主成 であり,無数のグル
このような背景の中,本研究では,自己接着力を有す
コースが直線的に結合した構造を持つ。また,その長い
る爆砕処理によって取り出した孟宗竹繊維束(以下,竹
鎖のようなグルコースの結合が集まり束のようになって
繊維と称す)を短く切ったものを
おり,その中で結晶構造になっている部
用し,竹短繊維を異
が多数あるた
なる成形条件のもとでプレス成形した。作製した試験片
め強い強度を有し,植物の骨のような役割を果たしてい
の引張試験,
る。竹材から繊維を取り出した場合,このセルロースが
さ試験を実施し,代表的なプラスチック
主体成
(原稿受付 : 2009 年 9 月 10 日)
機械工学科
豊橋技術科学大学
である 。今回
用した竹繊維の外観写真を
Fig.1 に示す。図において,a)竹長繊維,b)竹短繊維であ
る。
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越智 真治・長尾 信義
Fig.2 Tensile specimen for bamboo fibers.
Fig.1 Appearance of bamboo fibers
a) long and b) short fibers
Fig.3 Shape and dimensions of tensile specimen
2.2 竹繊維の引張試験
竹繊維自身の耐熱性を調査するため,140∼200°
C,60
min で一度加熱処理を行った後の竹繊維の引張強さを
調査した。Fig.2 に示す台紙を準備し,竹繊維がまっすぐ
になるよう張った状態で接着剤で固定し,試験片を作製
したら電源を切って加熱を止め,72 M Pa で 2 min 加圧
した。その後,扇風機で金型を冷却した。冷却後,金型
を
解し,試験片を取り出した,試験片の形状と寸法を
Fig.3 に示す。
した。この試験片を荷重測定機(アイコーエンジニアリ
ング,MODEL-1301D)のつかみ具に取り付け,カッティ
ングラインに って台紙を切り,
引張試験を実施した。
試
2.4 成形材料の引張試験
引張試験は JIS K 7139 を参考にして行った。まず,
験速度は 5 mm/min で,各条件 10 本の試験を行った。
50.0±2.0°
C に 調 節 し た 定 温 乾 燥 器(ア ズ ワ ン,DO300A)で 24±1 h 試験片を保管した。試験片を荷重測定
2.3 竹短繊維プレス成形材料の作製
繊維長は 10 mm とし,あらかじめ温度 24°
C,湿度 50%
で保存したものを
用した。試験片は成形時の温度を変
えて,130°
C,140°
C,150°
C,160°
C,180°
C の 5 種類を 5
本ずつ作製した。まず,プラスチック成形用金型(アズ
ワン,K7139 -1996A 型)に凝着防止スプレーを吹き付け
器(アイコーエンジニアリング,MODEL-1301D)に取
り付けた。試験速度は 5 mm/min で実施した。試験は各
条件につき 5 回行い,その平均値を求め,その値から引
張強さと 95% 信頼区間を求めた。
さ試験
2.5
試験片をビッカース
乾燥させた後,3.15±0.05 g に測定した繊維を入れた。金
型を小型熱プレス機(アズワン,AH-2003)の中心に設
置し,5 MPa の圧力をかけた。小型熱プレス機の温度設
さ測定機(島津製作所,HM V)
に取り付け,試験力を
1ADW
490.3 mN,保持時間 30 s
定を所定の温度にして加熱を開始した。所定の温度に達
出した。試験はひとつの試験片につき 5 回行い,その平
に設定し,加圧を開始した。終了後,圧痕から
さを算
竹短繊維を用いたプレス成形材料の機械的特性
均値を求め,
その値から各条件の平均値と 95% 信頼区間
を求めた。
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らわかるように試験片の密度は 1.30 g/cm 程度である。
しかし,180°
C において 1.35 g/cm と少し密度は増加
し,バラツキも小さくなっている。これは,Fig.4 で示し
たとおり,成形温度が上がるにつれて竹繊維の融解が顕
3. 実験結果および考察
著になり,試験片表面の空孔および試験片中のボイドが
3.1 試験片の観察
Fig.4 に成形した試験片の外観写真を示す。図におい
少なくなっていったためこのような結果になったものと
考えられる。
て,(a)130°
C,(b)140°
C,(c)150°
C,(d)160°
C,(e)180°
C
で成形した試験片である。図からわかるように,Fig.1 で
示した竹短繊維が自己接着により成形されているのがわ
かる。また,成形温度が高くなるほど試験片表面は繊維
3.2 成形温度と引張強度の関係
Fig.6 に試験片の引張強度と成形温度の関係を示す。
また,Fig.7 に竹繊維自体を加熱処理した後の引張強度
が融解したもので覆われるようになり,また若干の光沢
を示す。Fig.6 からわかるように,引張強度は成形温度
を持つようになっている。茶色の部
は融解せず元の繊
140°
C の試験片において 39 MPa で最大となり,それ以
降は温度が上昇するにつれて減少している。同様に,Fig.
Fig.5 に試験片の密度と成形温度の関係を示す。図か
7 から,竹繊維のみを加熱処理した場合でも引張強度は
140°
C までは強度の低下は見られないが,それ以降は減
維の状態のままの部位である。
少しており,竹繊維プレス成形材料は,竹繊維の持つ温
度依存性と同じ特性を持つことがわかった。
また,Fig.8 に引張試験後の外観写真,Fig.9 に破断部
Fig.4 Appearance of specimen
a)130°
C b)140°
C c)150°
C d)160°
C e)180°
C
Fig.5 Relationship between density of specimen and molding temperature
Fig.6 Relationship between tensile strength and molding
temperature
Fig.7 Relationship between tensile strength and heating
temperature
8
越智 真治・長尾 信義
の拡大写真を示す。図中において(a)130°
C,(b)140°
C,
(c)150°
C,(d)160°
C で成形した試験片ある。図より,成
きいため,これらの材料の代替材料として利用できる可
能性があるといえる。
形温度が高くなるほど破断面において長さを保った繊維
が減少していることがわかる。成形温度が低いと繊維間
の接着力が弱く,
繊維間のはく離により破断している。
ま
た,試験片の破断は,成形温度が高くなるほど瞬間的に
3.3 成形温度と弾性係数の関係
Fig.10 に試験片の弾性係数と成形温度の関係を,Fig.
起こり,低い温度,
特に 140°
C 以下においては繊維が少し
11 に加熱処理した竹繊維の弾性係数と加熱処理温度と
の関係を示す。Fig.10 から,弾性係数は約 10 GPa であ
ずつ破断あるいは引き抜かれてゆくといった破壊をする
り,各成形温度間の弾性係数には有意差がないと判断で
傾向があった。以上の結果より,竹繊維は成形温度が高
いほどその強度が低下するが,140°
C までは繊維の自己
接着性が温度に比例して向上するため,試験片の引張強
きる。そして,Fig.11 より,繊維そのものの弾性係数も
加熱処理によっては変化しないことから,弾性係数に及
ぼす成形温度の影響はないものと考えられる。これらの
度は 140°
C 付近で最も大きくなり,それ以上成形温度を
結果より,弾性係数も引張強度と同じく,繊維自身の挙
上げると繊維同士の接着性はよくなるが,繊維自身の強
動と同じ傾向を示すことがわかった。
度が低下するためこのような結果になったと考えられ
る。今回得られた最大引張強度 39 M Pa という値は一般
的なプラスチック材料であるポリプロピレンの 28∼38
M Pa,高密度ポリエチレンの 22∼32 M Pa に比べて大
3.4 成形温度とビッカース さの関係
Fig.12 に試験片のビッカース さと成形温度の関係
を示す。図より,ビッカース
さは 130°
C から 180°
C まで
の温度範囲では温度の上昇に伴って緩やかに上昇し,最
大で約 HV(0.05)45 となることがわかる。また,試験片の
Fig.8 Appearance of fracture surface after tensile test at
a)130°
C c)140°
C d)150°
C e)160°
C
Fig.10 Relationship between Young s modulus and molding temperature
Fig.9 M icrophotographs of fracture surface after tensile
test at a)130°
C b)140°
C c)150°
C d)160°
C
Fig.11 Relationship between Young s modulus of bamboo
fiber and molding temperature
竹短繊維を用いたプレス成形材料の機械的特性
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る。
(3) 竹短繊維成形材料の弾性係数は成形温度 130°
C
から 180°
C の範囲では,温度の影響を受けないことが明
らかとなった。これは,竹繊維の弾性係数が加熱によっ
て変化しないことが要因であると考えられる。
(4) 試験片のビッカース さ は 成 形 温 度 の 上 昇 に
伴って大きくなり,最大で HV(0.05)45 となる。これは成
形温度が高いほど試験片表面が繊維の融解質によって密
に覆われるようになるためと考えられる。
Fig.12 Relationship between Vickers hardness and molding temperature
(5) 今回作製した竹短繊維プレス成形材料は,
最大で
39 MPa の引張強度を示した。この値は一般的なプラス
チック材料であるポリプロピレンの 28∼38 M Pa,高密
度ポリエチレンの 22∼32 M Pa に比べて大きく,この材
料は石油由来のプラスチック材料の代替材料として利用
表面の色は温度が高いほど色が黒くなる傾向があった。
できる可能性があるといえる。
これらのことから,成形温度が高いほど試験片の表面は
竹繊維が融解したもので密に覆われるようになり,同時
にその
さが向上するものと考えられる。
謝
辞
また,この材料の表面のビッカース さは,一般的な
エンジニアリングプラスチックであるポリアセタール樹
本研究において, さ試験を実施するにあたり,宮城
高専機械工学科大久忠義氏の協力を得た。記して感謝の
脂(POM )のビッカース
意を表す。
さ HV(0.05)14∼21 と比較す
ると約 2 倍であった。
参
4. 結
言
本研究では,竹繊維を用いて異なる温度で試験片を作
製しその密度と引張強度,弾性係数,そしてビッカース
さを測定し,竹材のプラスチック材料への代替の可能
性を調べた。その結果,以下のことが明らかになった。
(1) 成形温度 130∼180°
C では,成形体の密度 は 約
1.30 g/cm であった。成形温度 180°
C では密度は 1.35 g/
cm に上昇し,バラツキも小さくなった。
(2) 竹短繊維成形材料の引張強さは成形温度に依存
し,140°
C において 39 M Pa で最大となった。また,引張
試験後の破壊面において成形温度が高いほど繊維がまと
まって破断する傾向が見られた。これは,140°
C までは繊
維の融解による繊維同士の接着性が向上するが,それ以
降は加熱による繊維の強度低下が顕著になるためであ
考
文
献
1) 渋沢龍也,竹資源活用フォーラム,竹の魅力と活用,p.
.
126, p.203, p.18, p.128, 創森社(2004)
2) S.Ochi,Development of High Strength Biodegradable
Composites Using M anila Hemp Fiber and Starch
Based Biodegradable Resin, Composites Part A :
Applied Science and M anufacturing, Vol.37/11, pp.
1879 -1883(2006).
3) S.Ochi, Mechanical Properties of Kenaf Fibers and
Kenaf/PLA Composites,Mechanics of Materials,Vol.
40/4-5, pp.446-452(2008).
)
4 越智真治,千葉洸,日本機械学会東北支部第 46 回 会講
演会論文集,pp.84-89 (2009 )
.
.
5) 冨士明良,工業材料入門,p.221,山海堂(1998)
6) 庄司圭介,高橋学,宮城工業高等専門学 機械工学科平
成 19 年度卒業研究論文 射出成形プラスチック歯車の
成形変質層の解析,p.4, p.15(2007)
.
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