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シンポジウムの報告 2

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シンポジウムの報告 2
シンポジウムの報告 2
2 月 6 日(水)
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講演: 大学国際戦略本部強化事業中間評価の総括
広島大学高等教育研究開発センター長、JSPS 大学国際化戦略委員会委員、
MEXT 科学技術・学術審議会国際委員会中間評価作業部会委員 山本 眞一
金子(JSPS) それでは時間となりましたので、ただいまから大学国際戦略本部強化事業
平成 19 年度公開シンポジウム「大学の国際戦略∼課題と展望∼」と題しまして、2 日目の
プログラムを開始させていただきます。
本日はご多忙のところ多数の皆様にご参加いただき、誠にありがとうございます。はじ
めに、このたびのシンポジウムの司会者である広島大学の山本先生より、文部科学省が 19
年度に実施した本事業の中間評価の総括をしていただきたいと思います。
山本先生におかれましては、この中間評価の作業部会の委員として、このたびの評価に
かかわられました。それでは山本先生、お願いいたします。
山本(広島大学) 皆さん、おはようございます。昨日からお見えのかたもいらっしゃるでし
ょうし、また今日からご参加のかたもいらっしゃると思いますが、今回のシンポジウムは前の 2
回と違い、2 日間にわたるということで、内容的にもかなり盛りだくさんになっております。ま
た、今日は分科会がこれから開催されますが、より具体的なテーマに即してお互いに意見や情報
を交換するという予定になっておりますので、よろしくお願い申しあげます。
私に与えられましたのは、今回のシンポジウムに先立
ち、昨年この大学国際戦略本部事業が第 3 年度を迎える
というときに中間評価を予定に沿って行ったわけです。
その中間評価の結果については、すでに広く公表されて
いるところですので、詳しくはそれを読んでいただけれ
ばいいわけですが、これから皆様がたが分科会に分かれ
て議論をされる際の多少の参考になるのではないかと
いうことで、
短い時間ですが少しこの中間評価がどういうものであったかということをご説明し
たいと思います。
評価も目的はここにあるように、3 年度を迎えるにあたり、大学国際戦略本部強化事業が効果
的に実施され、そしてその目的が十分達成されるように事業の進捗状況を確認し、そして必要が
あれば適切な助言を行い、
かつそれを元に以降の委託費の適正配分を行う判断材料にするという
ことでした。
そして、中間評価の観点としていくつかの項目があり、それは 20 大学すべてがヒアリングの
対象になったわけですので皆様がたは十分ご承知のことと思います。大きく分けて二つあり、共
通なものとそうではないものということで、A のほうは共通のものですが、国際活動に関するマ
ネジメントの強化や大学の内なる国際化への取り組み等とあり、
いくつかの共通項目を評価の際
に設定させていただきました。そのことです。
それから、それ以外にその大学独自のものということで評価項目に挙がったものもあります。
もう少し具体的に総括すれば以上のようなものだったと思うのですが、一つは機能・体制の整備
状況はどうかということです。
つまり、
そもそもの事業の目的である国際戦略が適切に立てられ、
かつそれが目標を達成しつつあるかどうかということが一つです。
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それから二つ目には、
この強化事業のもともとの名前である国際戦略本部という名前があるよ
うに、これは組織としての国際化、つまり従来のような教員個々人の国際交流といったものでは
なく、大学という組織の国際化ということで、国際戦略を実行する際に必要な組織づくりが行わ
れているかどうかということで、
国際戦略本部がどのようなものであるかということも機能体制
の整備状況として、評価の対象にさせていただいたわけです。
また 2 番目として、その国際戦略事業で行う事業そのもの、国際化の計画そのものの達成度
ということで、
当初設定された計画が予定どおり進捗しているかどうかということをお聞きする
とともに、
その計画を上回る進捗状況があったかどうかということもまた評価の対象になったわ
けです。
それからさらに、事業の効果の大きさということで、その事業がいろいろなところに与えるイ
ンパクト、
そしてその事業を実施するためには、
本日もまた分科会の一つとしてあるわけですが、
人材の確保・育成という点でどうであるかというようなこと、あるいはこれらの事業が研究環境
の国際化に資するものであったか、共同研究はどのように展開され、成果はどうか、この取り組
みは持続的な枠組みとして構築されているかどうか、
こういったことを含めてさまざまな項目を
立てて各大学には資料の提出をお願いし、
かつわれわれ評価委員のほうではそれを見て評価をし、
またヒアリングを行ったわけです。
中間評価作業部会の委員は、もうすでに早いうちから公表されておりますが、以上のようなメ
ンバーです。産総研理事の中島尚正先生が主査で、私も委員も一人だったわけですが、このほか
今日お見えのかたがたもたくさんいらっしゃいますので、
もし不足あるいは間違っていることが
あれば、是非ご指摘をいただきたいと思います。こういう委員構成で昨年、書類審査およびヒア
リングをさせていただいたわけです。
手順としては、
書面審査を行うとともにそれに基づいて各大学からかなり入念にヒアリングを
させていただいたわけです。ヒアリングに来られたかたがたは覚えておられると思いますが、単
に委員と各大学関係者が話し合うというだけではなく、
委員の席には膨大な資料が積み上がって
いたことを覚えておられると思います。
各大学から非常にボリュームの大きな資料をいただいて
おり、われわれはそれを適時参照しながらヒアリングを進めさせていただきました。
評価の結果ですが、実は当初設定されていた評価の段階は三段階でした。三段階あり、一つは
順調に進捗ということで、当初計画は順調に実施され、現行の目的を継続することによって目的
達成が可能と判断されると。これが順調に進捗という評価です。
そして第二段階の評価としては、一層の努力が必要ということで、当初計画を達成するには助
言等を考慮し、一層の努力が必要と思われると。こういうものが第二段階の評価です。そして、
一番悪い評価といいますか一番評価の低いものとしては、
当初計画の適切なる変更が必要という
評価も用意し、それぞれ 20 機関の評価をさせていただいたところ、幸いにして多くの機関では
当初計画は順調に実施されている。そして、その目的を継続することによって目的達成が可能で
あるという判断にいたったわけで、これは 17 機関あります。
しかしながら一方で、やはりやや問題がある。例えば体制づくりに問題がある、あるいは中身
が当初の目的どおりには実行できていないのではないかと思われるものが若干あり、
これが最終
的には 3 機関ということでした。3 番目の当初計画の適切なる変更が必要というところは、皆様
がたの努力といいますか大変熱心な活動のおかげもあり、
該当機関なしということでわれわれは
判断をさせていただきました。
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一層の努力が必要というのはどういうことかと申しますと、例えば当初大変大きな期待
をされていたわけですが、この 2 年間ほどの間に、必ずしもそれが目に見えて進捗してい
ないのではないか。あるいは、いくつかの優れた国際戦略活動はあるわけですが、それが
申請機関全体として統一性のあるまとまった国際戦略としては見えないのではないかと思
われるようなものが、若干ではありますがあったわけです。それらについては、一層の努
力が必要であると。
もちろん 3 のように適切なる変更が必要とまでいうようなものは一つもなかったわけで
すが、そういう意味で少し努力をしていただきたいとわれわれのほうから申しあげたかっ
たものが少しあったということです。
評価活動自体は昨年夏までに終わったわけですが、ここからは私の個人的な意見であっ
て必ずしも評価作業部会の委員全体の意見ではありません。そういうつもりで少しお話を
させていただきたいと思います。
国際戦略本部強化事業といっても、さまざまな国際戦略があるわけです。あるところは
国際戦略本部の構築というところに大変大きな労力を割かれているところもあるし、また
ある大学では、むしろこれまでやってこられた特色ある研究活動をさらに国際的に展開す
るためにどういう風に進めていったらいいかという研究の内容を中心に組み立てられた国
際化戦略というものもあるわけです。
もちろん、いずれにしても先ほど私のほうから提示した評価のさまざまな観点に照らし
てどうかということがありますので、どれか特定のところに偏っているということではな
いのです。しかし重点の置きかたというところがあるわけで、それらを含めて、例えば大
きな大学、小さな大学、あるいは大学以外のところ、いろいろな組織の実態というものも
あり、そこに展開される国際戦略本部事業もさまざまです。
こういうさまざまな活動をどう評価するということは大変難しかったわけですが、それ
と同時にこの国際化戦略本部強化事業によって、私としてはいろいろな国際戦略があって
いいのではないだろうか。それをいいところはどんどん評価していくということが必要だ
という風に感じたわけです。
それから 2 番目もこれに関連することなのですが、やはり国際戦略を組織として推進し
ていくためには、どうしても体制づくりというものが必要なことはいうまでもありません。
しかし、体制づくりというのはけっして単に組織図をきちっと描けて、お互いに矛盾のな
いように権限関係が明らかであるというだけでは済まないわけです。
その構築された体制が実際に国際戦略本部の事業を推進するために適切なものである必
要があるわけで、したがって体制づくりは体制づくりそのものではなく、むしろその動か
しかた、動かされかた、その実態といったものが大変重要ではないかと思うわけです。し
かも、これは国際化戦略の中身と関連するわけです。
あとで少しだけスライドをご覧いただきますが、大学の機能というのは、極めていま多
様化しています。その中で国際化ということも極めて多様です。こういったことに対応す
るようなしっかりとした内容とは、一体どういうものであるかということは、本日これか
ら開かれる分科会でもしっかりと議論したいものです。
それから、3 番目に国際化戦略の担い手の養成ということで、従来の国際化というと教授
個人がやっていたということも反省の一つにあるわけですが、そうでなくとも教員あるい
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は教員組織が中心になってやらざるをえなかったのではないかと私は思うわけです。ただ、
組織としての国際化戦略を実施するためには、大学の総力をあげてそれを実行していくと
いうことが必要です。したがって、教育・研究に直接携わる人材だけではなく、それをサ
ポートし、あるいはそれを助言し、あるいはむしろそれをリードしていくような新たな人
材、担い手が必要になってくるわけです。本日の分科会の中にも、そういったことをテー
マにしているところもありますので、是非ご注目をいただきたいと思います。
なお、ここから先はまったくの私見ですが、いまわれわれは大学の国際化ということを
しっかりと考えていくわけですが、一方、わが国の高等教育をめぐる状況は極めて厳しい
ということは皆様ご存知のことです。これは、その中の多くの課題の中のごく一部を切り
取って持ってきたわけですが、例えば 18 歳人口はいま年間 4 万人のペースで減っています
が、2010 年頃になると 120 万台で安定するといわれていて、よかったよかったと思ってい
るかたもおられるでしょうし、また中教審の答申などでも 2020 年ぐらいまでしかいってお
りませんから、これからは安定期に入ると思われているかもしれません。実はその先、再
び 18 歳人口は減るわけです。今世紀半ばには、いまのおよそ半分の 70 万人程度になるで
あろうというのが厚生労働省の予測データです。
したがって、こういうことを考えただけでも、われわれは 18 歳、19 歳という若い、し
かも日本人学生を中心としたこれまでの大学システムというのは、もう絶対にもたないの
ではないかということを感じるわけです。したがって、国際化がこれにどの程度寄与する
かどうかわかりませんが、こういったことも少し頭の片隅に置いておいていただくといい
のではないかと思います。
また、大学の諸機能と書いてありますが、従来日本の大学は明治以来、欧米の進んだ知
識、つまりすでに知られた知識を積極的に取り入れ、しかもごく少数のエリート的な人た
ちに教育を施すということで、専門教育や教養教育、そして研究もむしろ受信型の知識体
系を構築するような研究が主であったと思います。
研究関係は、すでに学術は国境を越えて諸外国の有力大学と競争していかなければなら
ないということで、探求的基礎研究にどんどん力を入れていかなければいけません。また
教育のほうも、高等教育の大衆化に伴って従来のような専門教育、教養教育だけではなく、
レベルはいろいろあって高度な専門職大学院まであるわけですが、大学における職業教育
とは一体何かということを考えなければなりません。この辺もしかし、また国境を越えて
いま国際的な展開を見せなければならないわけです。
そしてさらにこちらの次元にいくと、未知なる知識でただちに応用を目指すというよう
な、どちらかといえば科学技術基本計画に書いてあるような中身を実現するために大学は
どうするかといったこともあり、従来のような大学ではなく、いま大学の機能が急速に拡
張しつつある。そして、国際化はそのための重要な手段の一つだと思うわけで、この辺の
ところも是非お考えいただきたいと思います。
この図(参照 P.201)は大変見づらくて申し訳ありませんが、すでに皆様がたのところに
こういう資料が配られていると思います。この中に載っておりますが、つまり国際化戦略
の担い手を従来以上に真剣に養成していかなければならないのではないかと思うわけです。
この辺のところも是非お考えいただきたいと思います。
いずれにしても評価活動を通じて思うことは、やはり国際戦略というのは大学の将来を
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左右する重要事であろうと。したがって体制づくり、中身の充実、そしてそれを担う担い
手の総合的な組み合わせの中でこれを推進していくべきではないかと思うわけです。それ
では時間がまいりましたので、私から雑駁ではありますが、これまでの評価活動を通じて
考えたことを少し披露させていただきました。どうもありがとうございました。
金子(JSPS) 山本先生、ありがとうございました。このあとのプログラムについて、ご説明
いたします。このあと 11 時 5 分より三つの分科会を開催いたします。分科会 A は「職員の養成・
確保」
、分科会 B「国際的な大学間連携及びコンソーシアムの活用」
、分科会 C「ダブルディグリ
ー・プログラム」です。
開催場所ですが、分科会 A は 1 階会議室、このホールを出て正面です。分科会 B はこのホー
ルです。分科会 C はこちらの建物 4 階の研究会室 A です。それでは 11 時 5 分までに、それぞ
れの会場にお入りいただければと思います。それでは、移動をよろしくお願いいたします。
(了)
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分科会 A: 職員の養成・確保
ファシリテーター
広島大学高等教育研究開発センター長
山本 眞一
事例紹介
神戸大学国際企画課長
竹下 稔
神戸大学国際交流推進本部交流コーディネーター
大林 小織
東京外国語大学外国語学部教授
青山 亨
国際教養大学副学長兼事務局長
小山内 優
山本(ファシリテーター) それでは皆さん、これから分科会の A、これは「職員の養成・
確保」ということで始めさせていただきたいと思います。私はこの分科会のファシリテー
ターを務めさせていただきます、広島大学高等教育研究開発センターの山本です。どうぞ
よろしくお願い申します。
はじめに、この分科会の趣旨について少し説明をしなければならないと思いまして、短
い時間ですが、少し説明をさせていただきます。
ここに、皆さんの手元にも図(参照 P.201)がありますし、また、もっときれいなものが
カラー印刷で配布資料のなかに入っていると思います。ちょっとさっき全体会でも申しま
したように、国際化を進めていくためには、そしてしかもそれを組織的に進めていくため
には、それの担い手というものが必要になるわけです。
それでその担い手としては、従来のように教員だけではなくて職員、あるいは外部人材
といったものが考えられるわけですが、とりわけ、その大学のことをよくご存知で、大学
のためにどのようなことをしたらいいかということを最もよく理解していると思われる職
員の方々に頑張っていただきたいというのが、この分科会の趣旨です。
それでここに図表がひとつ載っておりますが、この図表自体は、学術振興会で作ってい
ただきました。その基になっている一般事務職員スペシャリスト、ジェネラリスト、プロ
フェッショナルという枠組みは、私が以前から「大学の職員一般に必要な能力開発の方向」
ということで書かせていただいたものがありまして、これに国際化ということで、学術振
興会で、もう少し具体的なところを載せてもらったというわけです。
というのは、皆さんのなかでも、もちろん今、国際化戦略を実行しておられる職員の方
といっても、元から大学の職員である方もいらっしゃれば、特にこのために公募、あるい
はその他の方法で外から来られた方、両方いらっしゃると思います。それぞれまた、その
能力に期待されるところも違うのではないかとも思うのですが、しかし共通点も多いわけ
です。
私はそういう職員のキャリアパスといいますか、大学のなかでどのような位置付けが与
えられることが最も仕事がやりやすくなり、かつ大学にとってもいいことかということを
考えてみますと、職員の方々の多くは、これで言うと第3象限といいますか、ローマ数字
のⅢというところに一般事務職員というのがあります。一般事務職員というのは、従来の
感じから言うと、特別に専門知識能力はなくとも、また特別に管理・運営能力がなくても、
とにかく組織として動けるような人であれば、そして若干の法令と学内規則を知っておれ
ば、事務処理はできるというような感覚であったかと思うのです。
そういう方々が年数を重ねてキャリアパスを踏んでいただく場合に、従来はこれが上の
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ほうに上がって、ジェネラリストと申しますか、係長をやったり補佐をやったり事務長を
やったりというふうに、学内のいろいろな部署に行って、管理職として通用するような能
力を磨くのがいいと思われていた節があります。
しかしそれとともに、この右側のスペシャリストと申しますか、ある領域の極めて特別
な専門知識ですね、ここには「高度な専門性を持つ」と書いてありますが、こういうお仕
事に魅力を感じておられる方もたくさんいらしたし、これから益々増えてくる。特に国際
関係などというのは、その典型かもしれません。
しかしながら、わが国の大学は欧米の大学と違って、スタッフの数というのは大変少な
いです。もちろんアウトソーシングや関連の業界まで入れますと、そうではないかもしれ
ませんが、大学のなかにいる職員の数というのは、教員の数に比べて少ないわけです。従
って、その少ない職員がみんな狭い専門領域ばっかりを主張し合っても、なかなか組織と
しては動かしがたいのではないかというのが私の意見です。
従って専門的な知識を持ちつつも、それを応用して、大学のさまざまな問題を解決でき
る人ですね、解決できる能力。国際化で言えば、単に語学ができる、または単に国際関係
に特別な経理ができるとか、こういうことだけではなくて、具体的にこういう問題が起き
たときに、
「ここのところとここのところをうまくつなぎ合わせれば、こういうふうに解決
できる」というような問題解決能力を持った国際推進人材と申しますか、こういった人た
ちが必要ではないだろうかと私は思っております。これを、ここでは「プロフェッショナ
ル」と呼んでおるわけで、つまり問題解決能力のある、しかも専門的な知識も持っている
人たちというような意味合いです。
それから、これらはスペシャリストの方から、そのように努力してなっていただく場合
だけでなくて、ジェネラリストとして訓練を積んでいる方も、単にジェネラリストである
というだけでは済まなくなってきています。部下から上がってくる仕事をチェックすれば
それでいいとか、あるいは学長や、事務局長から言われたことを部下に伝えるだけでいい
というようなことではもう済まないわけでありまして、これはまた問題解決能力を持つと
いうことが必要になってくるわけです。
国際関係をやる人々は、スペシャリストもいればジェネラリストもいらっしゃると思い
ますが、すべての人ができるだけ、このプロフェッショナルなマインドを持っていただい
たらいいのではないかと思って、この枠組みを学術振興会へ提案いたしまして、そこに具
体的なことを少し入れていただいたというのがこの図です。
いずれにしましても、本日ご発表の神戸大学、東京外国語大学、そして国際教養大学の
皆さんには、国際戦略本部の事業を拝見しましても、大変熱心にこの人材の養成、職員の
養成・確保ということをやっておられると思いますので、これから順次ご発表いただきま
して、そして皆さんとの質疑応答とさせていただきます。
なお、これから神戸大学の事例を約 30 分ご紹介いただきまして、その後、質疑応答とな
り、事例紹介をいただくのは、国際部国際企画課長の竹下稔さんと、同じく国際交流推進
本部交流コーディネーターの大林小織さん、このお二人です。どうぞよろしくお願いいた
します。
竹下(神戸大学) はい。ただいまご紹介にあずかりました神戸大学国際部国際企画課長、
竹下です。本日は、
『神戸大学における外部人材による取組とその効果について』というこ
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とでお話しさせていただくことになりましたが、いろいろな諸先輩方等を前にしてお話し
するので大変緊張しております。
また、実際今、皆さんの関心になっていること、これ自体は全大学に共通する問題だと
認識しております。そのなかで、今回、神戸大学自体がこの国際戦略本部事業に採択され
た要素としましては、この人材育成というところをどのようにやっていくかというところ
だったと思います。
昨年 11 月のシンポジウムの時に、当時の副本部長の奥西教授より、構想としていろいろ
お話しさせていただきましたが、その後1年間でどれくらい進んでいるのかというのを、
皆さんご関心として大変おありかと思います。ただ、今回、お受けするにあたりまして、
なかなか進んでない部分があるということで、当初は私といたしましても、お受けするの
をかなりためらっていたところですが、この進み方自体も併せて、今日ご報告させていた
だけたらと思っております。
また、今日は実際の外部人材として来ております大林も一緒におりまして、途中、大林
が実際に外部人材として感じたところ、その辺りについてもお話ししていただく予定にな
っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。それでは掛けさせていただきます。
本日お話しする内容についてです。まず国際交流推進本部、これは OPIE と呼んでおり
ますが、こちらの構成についてまずお話しして、それから外部人材による取り組み、外部
人材の波及効果、それから今後の国際担当専門職員のキャリアプラン・配置について、現
状についてご報告させていただきたいと思います。
まず国際交流推進本部の構成ですが、こちらの図はもう今までに何度かご覧になられて
いる方も多いかと思います。一応、神戸大学には三つの機構がありまして、国際と教育、
それから研究。この国際交流推進本部というのは、国際交流推進機構の下に置かれており
まして、本部長と副本部長と本部企画員により構成されています。
それで、それぞれのチームをつくってやっているところですが、本学の特色としまして
は、教職員が一体となってこの本部の企画をしているということです。大学のなかでは、
これまで教員が主導で、事務方は資料作りなどはしましても、実際の会議では陪席をして
いるだけということがほとんどであったかと思いますが、これが本部のなかでも、事務方
もメインテーブルに着いていろいろな意見を言い合うという。実際の運営についても、事
務側がいろいろなところに出ていって活動するというようなことをしております。
学内のなかでは、まだまだ各部局も教員組織と事務組織となっているなかで、国際本部
のこの取り組みは、先進的なかたちとしてだいぶ評価は受けてはいますが、まだまだ学内
のなかでは、これまでの常識と違ったことをしているということで、
「国際だけは何か勝手
なことをしてる」とか、そのようなことを言われながらも、事務職員がいろいろなところ
に、部局の教員に交渉をしたり、または提案をしたりしています。
最近ですが、この1月から中国に、これも学振さんのお世話になって、学振の北京の研
究連絡センターのなかに事務所を置かせていただくということで展開いたしまして、今こ
のプロジェクトチームのなかにもうひとつ、中国のプロジェクトチームというのが走り出
しております。こちらも、事務職員が積極的にかかわりながら企画をしていくというよう
なことをしています。
この構成のなかで、ここの本部企画員 36 名となっております。ここのところが大変特色
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になっておりまして、国際部の職員、常勤職員 16 人がこの内、本部企画員として携わって
おります。当初は係長以上としていたところですが、国際部の職員は、もうみんな一緒に
なって考えていこうといたしまして、平成19年の4月から、国際部の常勤職員は係員ま
で含めて全員、この本部企画員になるようにいたしました。そのほかに、人事関係の案件
もありますので人事、それから学務関係の案件では学務部からも本部企画員として、これ
らには課長さん方が入っていただくというような格好で構成しております。
そのなかで、今回この本部事業に採択されたことで、いろいろな効果が徐々に現れてき
ています。本部企画員のなかに、いろいろな人事の各部の方が入っていただいたというこ
ともありますが、この本部事業を進めるということで、神戸大学がいろいろな理想を掲げ
る、目標を高く掲げて取り組んでいると。これがだんだんと学内のなかでも理解されて、
それに向かってどのようにしていったらいいかというようなことを、みんなが考えるよう
な雰囲気がだんだんとできてきたところです。
ところが、大学の職員自体だけでは、やはり法人化前のこれまでの常識にとらわれてし
まいがちなところがけっこうございました。ですので、アイデアにも限りがありまして、
こういったときはどうしたらいいんだろうというところで行き詰るというような、そのよ
うなことも多々ありますが、今回のこの大学国際戦略本部強化事業のなかで、この経費を
用いまして外部人材を登用することになりました。
実際に平成 17 年の 10 月から、大林コーディネーターに来ていただいているところです
が、後ほど大林から、この交流コーディネーターの職務内容、それから外部人材としての
取り組みについて、具体に外部のご経験から見た大学自体の実情、驚いたことなども含め
てご紹介させていただきます。これにより、神戸大学の取り組みについては、いろいろな
アイデアを出しながら、少しずつではありますが、着実に進めていくことができていると
思っております。
それで、実際に神戸大学では、どのような外部人材を確保してきたかということを、簡
単に少しここでご紹介しておきます。
国際交流推進本部については、今ご紹介したとおり、大林コーディネーターが平成 17 年
度から来ております。それから平成 18 年度に入りまして、大学のなかでいろいろな英語業
務、翻訳、ネイティブチェック、そのようなことがなかなかできない。外注をしたにして
も、それが正確なのかどうかが分からないということで、18 年度からは、学長裁量枠でそ
のような業務をする、中国系のアメリカ人の方を交流コーディネーターとして登用いたし
ました。
現在では、大学の本部で発表する英語原稿の作成・チェック等を行うとともに、英文ホ
ームページのリニューアルを担当していただきまして、これも、平成 19 年の4月から新し
い英文ホームページができております。ただ、今後の課題としましては、各部局バラバラ
の英文ホームページをどのようにしていくか。これについて、現在どのようにしていくか
ということを考えているところですが、本部のこの企画だけではいかないところ、これは
部局間との調整ということがございますので、この辺りについては順次、部局と話し合い
ながら進めていくような段取りになっております。
続きまして、EUIJ 関西についてです。これも先ほどの組織図の外側にございましたが、
こちらも平成 17 年度から始まりまして、こちらにディレクターと渉外担当マネージャーを
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登用いたしました。これは EUIJ 東京も同じですが、ディレクターには商社のご経験の方
にお越しいただいております。
それから国際部のほうは、平成 18 年度と書いてございます。こちらですが、これも新た
な試みといたしまして、留学生課の常勤職員を外部から登用いたしました。これは、今ま
で通常ですと、人事異動で学内のなかから異動するということになっていましたが、今回
はある異動するポスト、そこについて外部人材を登用しようということになりました。公
募をいたしまして、任期付きではございますが、常勤職員として登用したところです。
それでは、これからコーディネーターの職務内容について、コーディネーターの大林か
ら、お話しさせていただきます。
大林(神戸大学) コーディネーターの大林と申します。どうぞよろしくお願い申します。
着席にて失礼いたします。
まず、私が交流コーディネーターとして現在行っている職務内容について、ご説明申し
たいと思います。
まず第1に、協定関係の業務ということで、協定の管理を行っております。具体的には
三点ございます。全学協定の締結、それから部局間協定への助言・サポート、そして大学
間交流の窓口となっております。
まず第1の全学協定の締結ですが、これは従来の「2部局以上の賛同があって全学協定
とする」という内容のものではなく、
「大学が組織的に取り組んで、大学間の交流を図る」
というものです。具体的なプロセスを申しますと、国際交流推進本部が戦略的に交流を図
りたいという大学を挙げ、その大学について調査し、そして先方と条件等の折衝を行いま
して、協定内容を詰めます。そしてまた、この大学との交流について、内部の調整も行い
ます。そして最終的に国際交流推進本部の提案ということにいたしまして、国際交流委員
会に諮り承認を得ております。
このようなタイプの協定締結を交流コーディネーターが担当しておりまして、これが現
在のところ7件ございます。そして現在数件、交渉中です。
続きまして部局間協定への助言・サポートですが、これは従来どおり部局から上がって
くる協定案に対しまして、交流コーディネーターがその内容に対して助言・サポートを行
います。また、特殊ではありますが、部局間協定でありましても、先方の窓口が国際オフ
ィスの場合は、交流コーディネーターが窓口となりまして、先方と条件の折衝、内部調整
等を行い、協定を締結した事例も現在3件ございます。また数件、交渉中のものもござい
ます。
続きまして大学間交流の窓口ですが、交流コーディネーターが窓口となり協定を締結す
るものですから、先方ともコンタクトができます。そうしますとやはり、必ず交流コーデ
ィネーターを通して、先方からの提案が入ってきます。また、こちらのなかで考えた提案
を、やはり交流コーディネーターを通して先方の担当者に伝えるというかたちになり、大
学としての窓口を互いに一元化して、交流を図っております。
続きまして国際業務研修です。これは、交流コーディネーターの職務内容に含めるべき
かどうかというのは、まだ現時点では精査できておりませんが、私が外部から来た人間と
いうことで、国際交流推進本部でこの研修を行いたいという旨を申し入れました。
過去に行われていました人事課の英語研修では、一般的な英会話のレッスンに限られて
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いましたので、より大学の実務に即したものにするため、国際交流推進本部で、実際に大
学で行われている業務に即したカリキュラムにいたしまして、
「国際業務研修」という名前
の下に研修を行っております。
この「国際業務研修」の狙いですが、職員が同一の目的に向かって取り組む。それから
他部署のことを知り、学内のコミュニケーションを促進する。そして、国際業務を行うこ
とができる職員を拡大するという、この三点の狙いがございました。
具体的に少し研修のご説明を申し上げますと、まず、人事課と協力して、第1回目の国
際業務研修を平成 17 年 12 月に行いました。これは新たな研修の導入ということで、まず
は国際交流推進本部を知っていただくために、第1回目は講演会形式の研修にいたしまし
た。
3部構成にいたしまして、第1部が国際交流推進本部副本部長から推進本部設置と、大
学を取り巻く国際化についてのご説明をいたしました。続きまして第2部では、留学生セ
ンターの教員による留学生受入れの現状についてお話いただきました。第3部では、語学
の研修が主になるということから、国際コミュニケーションセンターの教員による英語で
仕事ができる人材の養成、英語教育への取組みについてお話をいただきました。
この第1回目の研修には 70 名申し込みがあり、非常に反応がいいものとなりました。ア
ンケートを実施しましたが、そのアンケートの回答のなかには、
「大学の国際化への取り組
みや現在の構想がよく分かった」あるいは「大学が置かれている状況、ひいては日本が置
かれている状況、国際競争力を高めることが必要不可欠であることがよく理解できた」
「今
後、研修を受ける上で、大枠が頭に入っているので、目的意識が高まり良かった」など、
狙いどおりの反応が得られました。
この年は、始めたのが 12 月ということがありまして、第2回、第3回、あと3回行いま
したが、この第2回、第3回は実務的な内容ということで、英語のライティングの講習を
行いました。これは事前に研修参加者から現在の職務内容についてヒアリングを行いまし
て、それに基づいたカリキュラムにいたしました。
続きまして平成 18 年度ですが、
英語の能力によりふたクラスにわけて研修を行いました。
まず「担当職員養成研修」というもの。これは一応 TOEIC のスコアをめやすとして、500
∼600 程度の方を対象としました。それからもうひとつ、ある程度英語ができる職員向けに
「専門職員養成研修」というものを行いました。
担当職員養成研修も前回と同様、事前にヒアリングを行いまして、現在の職務内容に沿
ったカリキュラムにいたしました。専門職員養成研修は、プレゼンテーション能力を高め
ることがまず肝要かと思い、それを中心に行いました。いずれの研修も外部の講師に依頼
したのですが、専門職員養成研修は、内部の国際コミュニケーションセンターでのクラス
も、開講していただきました。
また、この研修に加えまして、他大学の講師、あるいは他組織の講師を招きまして、大
学の国際化の評価指数や質保証のお話、また国際会議の運営に関する研修会、それから学
内の講師による高等教育の国際的動向について、ともに考える機会を設けました。専門職
員養成研修参加者から1名を、財団法人フォーリン・プレスセンターでのインターンシッ
プに出しまして、こちらで約1週間、会議の運営等について学ばせていただきました。
続きまして平成 19 年度ですが、これも同じく 18 年度に続きまして、担当職員養成研修
61
と、それから専門職員養成研修を行いました。
専門職員養成研修は、前回と同じですが、もう既に英語ができる方と、また国際部の職
員が前回に引続き入っておりますので、もう語学的なことに重点を置くのではなく、今度
は専門職員養成研修では自身で課題を見つけ、その課題を持って調査をし、その調査結果
を学内で報告をして、ほかの研修参加者とともに検討して考えるという自発的に取組む内
容にいたしました。報告、検討はすべて英語で行っておりました。また、やはりインター
ンシップが重要と考え、本年度も1名、国連大学の高等研究所でインターンシップを、断
続的に1カ月行わせていただきました。
これら平成 18、19 年度の研修ですが、そのアンケート結果には、
「業務内容に即した内
容で、実際に役立っている」
、
「他部署のことが分かって良かった」
、
「他部署の職員と接す
る良い機会になった」とあり、やはりこれも狙いは達成できているといえると思います。
これらの研修を通しまして、国際交流推進本部についても、研修参加者にはよくご理解い
ただいているのかと思っております。
最後に、国際交流コーディネーターの職務内容第三点、OPIE のプロジェクトの企画運営
実施について御説明申上げます。交流コーディネーターというのは、所属が国際交流推進
本部専任ということですので、課をまたがって動きやすいという利点があります。従いま
して、留学生課、国際交流企画課にまたがるような企画などもできております。
以上が、交流コーディネーターの職務内容です。続きまして、外部人材としての取り組
みについて、ご説明申し上げたいと思います。
まず、私は平成17(2005)年 10 月に採用されましたが、その時に「交流コーディネー
ター」という職務で募集され、採用していただきました。なかに入りまして、
「学術交流協
定に関する事務」
、
「海外の大学とのコンタクト・パーソン」
、この二点を職務内容として、
キーワードのようなかたちで与えられました。この時に、この交流コーディネーターとい
うポストの職をつくっていくことも、自分の職務のひとつだと考え、そこからいろいろ試
行錯誤、現在に至るまで行っております。
続きまして、学内における OPIE の広報、職員の意識啓発、学内リソースの活用、学内
コミュニケーションの促進という点ですが、この三点は、相互に関係しています私が大学
という組織に入りまして一番驚いたのが、学内のコミュニケーションが極めて少ないとい
うことでした。教員と職員の間、それから職員間についても、ほとんどお互いにコミュニ
ケーションが取れていないと感じました。
それはおそらく、個々が日々の業務に追われていて、他の部署のことについて知る余裕
がないというのが原因と考え、先ほど申したような研修会のようなかたちでコミュニケー
ションを図っております。また、研修によりコミュニケーションを図ると同時に、学内で
問題意識を持ち、職員がともに考えて、ともに力を合わせて頑張っていこうという、そう
いう雰囲気づくりがつくれるといいと思い研修を行っております。
次に、学内リソースの活用ですが、大学というのは、専門家の集団ですので、やはりそ
の専門家のお力を借りたいと思っておりました。研修にしましても、学外の講師ではなく、
やはり学内の組織のこともよく分かっている教員にお願いしたいとまず思いましたが、そ
こにはさまざまな壁があり、完全に教員にお願いすることはできませんでした。しかしな
がら、研修プログラムに助言をいただいたり、既存の教育プログラムを職員にも開放して
62
いただいたりと、部分的には協力を得られております。
また、四点目の学内コミュニケーションの促進ですが、先ほど申しましたように、交流
コーディネーターは国際交流推進本部の専任ということで動きやすく、そのために学内の
ほかの組織とも連携を図ることを心掛けております。例えば留学生センターで実施されて
いた留学フェアを推進本部との共催というかたちにいたしまして、より大きなかたち、よ
り大きなフェアにいたしました。なおかつそこに各部局の留学担当者に来ていただきまし
て、学生さんに対する説明会等も行っていただくなど、全学的な取組といたしました。
また、留学生課にも、先ほど竹下からご説明がありましたとおり、外部から専門職員が
1名入っております。この職員は留学生の受入れ・派遣に対しての経験がありますので、
その職員と協力をいたしまして、留学生の受け入れ、あるいは本学の学生の派遣の業務を
少し整備いたしまして、全学の担当者に向けて研修会を行いました。
OPIE プロジェクトを進めるにあたりまして、やはり他部局との連携が非常に重要です。
OPIE だけでは何も実際のプロジェクトは実施できませんので、他部局の教員等と必ずまず
意見交換をいたしまして、プロジェクトの構想を進めるようにいたしております。
それから現状の調査、方策、実施ですが、やはり適切な目標設定のためには、現状を把
握することが必要不可欠、これは当たり前のことですが、当たり前のことがなかなか行わ
れていないのが実情でして、そのために、さまざまな現状の調査を行いました。例えば交
流協定の現状。たくさん提携されていますが、実はもう動いていないものがたくさんあっ
たり、またはそういったことの調査です。それからあと学生交流に関する部局での問題点。
これもやはり部局の教員、あるいは事務と意見交換会を行いましてヒアリングを行いまし
た。
また、部局での国際業務の体制がどのようになっているのか調査をしたいと思い、12 研
究科すべての事務部を回り、ヒアリングを行いました。そこで数多くの問題点、現状を把
握することができましたので、それを生かして今後新しいプロジェクトを進めようと考え
ております。
そして最後になりますが、事務職員の職務範囲の拡大・開拓ですが、私が大学という組
織に入って常々感じることは、
「それは先生の仕事ですから」
、
「それは職員の仕事ではない
ので」と、目に見えない区切りがあるということです。特に、教員の職務・責任というの
は、研究・教育が中心ですので、それ以外の現在教員が行っている業務のうち、かなりの
部分を職員ができるのではないかと考えております。ですから、より積極的に職員が、自
分たちにできることは何かということを考え、それを実行に移していかなければいけない
と思っています。
そのためにはある程度、職員にも権限といいますか、責任を与えていただかなくてはい
けないのかと思います。職員に責任を持たせていただくためには、教員と職員の信頼関係
が、そこにきちんと構築されなければいけないのではないかと考えております。
簡単ですが、以上です。
竹下(神戸大学) はい。では、大林からの説明は終わりまして、引き続き、また私から
お話をさせていただきます。
今、大林からもお話がありましたが、これまで大学の業務というのは、教員と事務とい
うのがありまして、従来の事務というのは、先ほど山本先生からもお話がございましたよ
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うに、一般職員として研さんを積むというよりか、いわゆるずっと業務をしながら、だん
だんといろいろなことを知っているジェネラリストが出てくるというようなことがござい
ましたが、神戸大学としては今、専門の職員を育成しようと。それで、プロフェッショナ
ル意識を持った職員が、だんだんと出てくればいいと目指しているところではございます。
そのためには、まず従来の常識。この辺りをどのように変えていくかというところも、微
妙に絡んでくる問題です。
今までの事務では、
「これは先生の仕事だ」ということで、自らその仕事を避けてきたと
いうところもあろうかと思います。なかには、
「こういうこともやりたいのだが、○○委員
会にかけないと進まない」とかそのようなことがいろいろあって、この辺りの全学的な組
織というのを、どこまで意思決定を早く責任を持ってできるような事務局体制にできるか
というところも、これも人材育成と絡めて問題になってくるところです。
今、少し順番が逆になってきましたけど、そのことが3番目の事務職員の意識向上にも
つながるのです。今、大林が、とりあえず国際本部にいることで見えてきたものというこ
とがございます。まず外部人材について、外部人材の方だけが別室にいて、いろいろなこ
とをやっていましたら、その効果は半減してしまうと思います。これはいろいろなことを
考えていても、結局普段からのコミュニケーションというのが取れなければ、どうしても
そこに見えない壁というのが出てきてしまうと思うからです。
神戸大学の交流コーディネーターは、実際は国際部の部屋のなかに座席を置いていて、
それもその一角ということではなくて、完全にひとつの島のなかに、ほかの係長や係員と
一緒に席を置いていますので、もう実際目で見る限りでは、そこでは区別がつかないとい
うような状況です。
また職員についても皆、常勤職員については本部企画員というふうになっておりまして
2枚看板をしょってやっておりまして、職員自身もこれは本部の仕事なのか、国際部の仕
事なのかとわけ隔てなく進めてきているというところが、だんだんとお互いに刺激し合い
ながら、いろいろな考えを共有していけるというような雰囲気ができてきているところで
す。
これは、これまでは例えばこういう外部人材がいらっしゃらない時は、今まで、先ほど
大林から説明があった学内外とのカウンターパートとの連携を図ろうにも、図るすべがな
かった。これが大林が来たことによりまして、海外からの連絡もすべてコーディネーター
に入るようになり、それを見ていて、
「こういうふうにやっていくものなんだ」ということ
が、それを目のあたりにしながらノウハウを蓄積していく、そのような効果が、とりあえ
ず部屋のなかにはあります。
今後は、これが学内の各所においても広がっていくことを期待しているところですが、
ほかの部署では、そういう国際の仕事自体がまだ「仕事でない」というふうな認識のある
ところがありますので、その辺りの意識改革を、今後どのように進めていくかというのが
課題となっております。
そのことで業務の改善、効率化がだんだんと推進されて、今まではもう悩み悩んで、結
局結論が出ないまま日数だけがたっていくというようなことが、少なくとも今、国際部の
なかではなくなりまして、ある事案が来ますと、これはこうしてこうというようなかたち
でけっこう意思決定が早くなってきたとは思っております。
64
あとは、この全学的な人事制度への影響ということですが、これは日々、人事担当の部
署の方とお話をしながら、どのように制度を変えていくかということを相談しているとこ
ろです。国際の業務ではございませんが、課長、事務長、補佐、係長に上がるための資格
試験というのが、今回実施されたところでして、また神戸大学職員の独自採用というよう
なところについても、現在進んできているところです。
このような高度の専門性を持った人材が、最初は外部人材だけだったにしても、新規に
採用される職員のなかで、そういう専門性を持った方が来ることによって、いろいろな刺
激がされることを今後も期待しているところですが、殻を破った企画や提案ができるよう
な職員になれるよう、現在取り組みを進めているところです。
次に、今後の国際担当専門職員のキャリアプランと配置についてです。時間も過ぎてし
まいましたので少し急ぎます。
新規の採用の職員についても、今では外国語能力、中国語、韓国語、あるいは英語の能
力を有する者を重視しながら採用するようにしているところですが、既存の職員について、
どのように能力を向上させていくか。これは今回の国際戦略本部強化事業の評価のなかで
も指摘されているところでして、今現在、外部人材が行っている業務を担える内部人材を
早期に確保する必要があるということです。
これまで大林の企画で、国際業務研修というのを行ってきまして、これは、国際のすそ
野を広げる担当職員研修と高度な専門性を持った専門職員研修というのをやってきました
が、これらのうち、担当職員研修については、日ごろ業務を行っている非常勤職員の方も
対象としております。
と申しますのは、これまで法人化前に定員削減が行われてきまして、各部局においては、
常勤職員がいないセクションが結構あります。実際そういったところには、非常勤職員が
いらっしゃって業務を担っているということで、非常勤職員も対象にしております。この
研修については、参加の回数には制限を設けていません。昨年参加したからといって、
「も
うあなたは1回行ったんだから」というようなことはせずに、何度でも参加できるような
格好にしているところです。
それから今回、新たに国際担当専門職員養成プログラムというものを始めました。これ
は文部科学省等での長期研修者をさらに国際関連部署に配置して、OJT を行うということ
を明示したプログラムです。これによって、実際に国際の研修をした者がさらに国際の業
務に携わることによって、長期的に職員を養成していくと。そのなかから、今度は各部局
の国際連携支援というようなことを、今、配置しようと考えております。
これは各部局の調査に行った結果、全体のなかではまだまだ国際業務について先生のや
る仕事だと思っているところもありますが、こういうのも事務がやっていこうというよう
な部局が幾つかありますので、段階的に国際系のポストの増加を図って、専門職員として
の研さんを積む、キャリアモデルを提示したいと考えております。
また、これらのなかから交流コーディネーターに登用されるような方が育ってきて、国
際部門の専門職として今後活躍していっていただくということを、長期のキャリアプラン
として現在考えているところです。
少し時間が押してしまいまして、最後は駆け足になってしまいましたが、以上でご説明
を終わります。つたない説明で、どうもすいませんでした。ご清聴ありがとうございまし
65
た。
山本(ファシリテーター) どうもありがとうございました。それでは早速の機会ですの
で、時間が押しておりますけれども、ここでフロアとの質疑応答、意見交換を行いたいと
思います。昨日と同様、ご発言の際にちょっとお名前とご所属をおっしゃっていただいて
から、質問をしていただきたいと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。
はい、それでは一番後ろの方。
河合(日本エマージェンシーアシスタンス) 発表ありがとうございました。日本エマー
ジェンシーアシスタンスの河合と申します。非常に参考になりました。ありがとうござい
ました。本来であれば人の部分についてお伺いすることだと思いますが、ちょっと業務内
容についてお伺いします。
交流コーディネーターの職務内容の部分で、協定関係の業務で協定を各大学と結ぶとい
うような業務をされていると思いますが、昨日早稲田大学の大野先生から、いきなり欧米
の大学に行っても、早稲田大学というのはどこの大学なのかということで、なかなかスム
ーズな契約に至らなかったので、まずは名前が知られているアジアの大学ときちんとした
提携を結んで、というような戦略を取られて、その結果、欧米の大学にも名前が知られて、
徐々に締結に向けての具体的な動きになってきたというお話があったんですが、神戸大学
さんで実際にその辺り、取り組みの内容でありますとか、工夫でありますとか、そのへん
のお話を伺わせていただければと思います。
大林(神戸大学) 神戸大学では国際戦略といたしましては、アジア地域、欧米地域と地
域で分けた戦略を考えてはおります。交流協定については、欧米の大学では学生交換は、
なかなか受け入れていただけないところが多いものです。現在のところはまず、EAIE です
とか、NAFSA、といった国際会議に行きまして、そこでさまざまな大学の方とまずお話を
し、神戸大学を知っていただきまして、それをきっかけとしまして今後の交渉につなげて
いくというような方策を取っております。
山本(ファシリテーター) よろしいでしょうか。それでは次の方はいかがですか。はい。
こちらの一番後ろですね。
杉本(名古屋大学) 私、名古屋大学の杉本と申します。最後のスライド「今後の国際担
当専門職員養成キャリアプラン・配置」のところですが、そこに国際担当専門職員養成プ
ログラムのご説明がありまして、文部科学省等での長期研修経験者をさらに国際関連部署
に配置して、OJT を行うことを明示したプログラムということになっておりますけど、こ
こで、長期研修で出られた先が国際部署の方に限っておられるのか。それとも例えば文部
科学省でも国際でない部分がかなりありますから、そこに出られた方も、ここで国際関連
部署に戻ってこられたら配置されているのかということがひとつと、文部科学省等とあり
ますので、ほかにどういったところに長期で、研修で出しておられるのかというのを教え
ていただけますでしょうか。よろしくお願いします。
竹下(神戸大学) すいません。ちょっと説明時間がなくなってしまったので、最後のス
ライドで詳しく説明できなかったことをおわびします。
こちらの国際担当専門職員養成プログラムというふうに位置付けまして、将来的に希望
する方が国際の業務に携わっていけると。それは研修の成果に合わせて配置して置こうと
は考えております。まず、ここで言う文部科学省等での長期研修というのは、一般に言わ
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れているリープ、それからもうひとつは日本学術振興会の国際協力員という、どちらも1
年間東京の文部科学省、あるいは日本学術振興会で勤務して、2年目を在外で研修をする
という方で、ここにご参加の方でも結構リープのご経験者の方がいらっしゃると思います。
これまで何が問題だったかといいますと、大学のなかでのキャリアパスというのが、ジ
ェネラリストの養成ということで、いろいろなことを知る。国際も知れば、庶務も知る、
会計も知るというような格好で、必ずしも長期的に国際関連部署で活躍しているかといっ
たらそうではないというような実態がございました。ですので、これは、鉄は熱いうちに
打てというわけではないですが、実際にそういう長期研修にいらっしゃった方が戻ってき
たときに、それが冷めないうちに、さらに学内における国際関連部署で、実際に実務を通
してご活躍いただこうというようなことを考えています。
もちろんこれは行ったからといって自動的にそういうふうになるというわけではなくて、
その研修の成果を見つつということにしようとは考えております。
山本(ファシリテーター) よろしいでしょうか。そうですね。あれですか。文部省等に
研修に出ている方というのは毎年何人ぐらいいますか。
竹下(神戸大学) これもちょっと説明ができなかったところですが、実際に神戸大学で
は法人化を挟んでここ数年間、長期研修を出せていなかったのが現状です。
と申しますのは、やはり定員の問題というのがございまして、定員削減を進めてそれで
なくとも研修に出すだけの定員に余裕がない。さらに法人化後、定員はあったとしても人
件費管理となりまして、これが、運営費交付金が1%削減というのはもう皆さんご承知の
とおりですが、昨年打ち出されました5年で5%の人件費カットというのを達成しなけれ
ばいけないというものがございます。
このことも踏まえますと、どういうふうにそういう人の枠をひねり出すかというのがあ
り、これが実際、各大学さんにとっても一番の問題かと思います。本学でも人事担当の方
とかなりの回数、協議を進めまして、人材育成はしなければいけない。だけど現状として
現員がいない。どうしたらいいのかということで、いろいろ話をしてきたところですが、
今回新たな試みとしましては、今までこのようなプログラムが来て、だれかいませんかと
いうかたちで推薦の依頼を各部署にしますと、必ずその上司の方の推薦ということですの
で、本人を行かせてあげたいけど行かせられないというところがあったと思います。
そこで、今回は職員の方に周知してくださいとだけお願いをし、申込みはご本人から国
際部へ直接してくださいというかたちにしてみました。そうしましたら、今回応募があり、
その次の段階では応募があった方について所属の課長さんなり、事務長さんなりに「応募
がありました。今後、選考した上でよければこれに出します。
」というようなかたちでお話
をしまして、実際に出せるようになったところです。
山本(ファシリテーター) 分かりました。仕事の職場の事情によって、なかなか部下を
手放したくないという上司が多いものですから大変ですね。
もう1人ぐらいいいですか。はい。では、どうぞこちらに。
川久保(新潟大学) すいません。ありがとうございました。新潟大学の川久保と申しま
す。二つございます。ひとつは、先ほど2枚看板とおっしゃいましたが、2枚看板という
ことは頭が二つあるということにも思えます。実際に先ほどは実務に進められるとおっし
ゃいました。2枚看板、つまり国際部が求人めくりの仕事をしているということだと思い
67
ますが、それで本当に支障がなく行っているのかということがひとつ。
それから中間報告書には、神戸大学のうちの違う部署には確か常勤職員のキャリアパス
を構築するというふうに書かれておりまして、あと周辺の大学とも調整もするということ
ですが、もしお話しいただければ、具体策とどんなキャリアパスを考えておられるのか、
これ少し伺ってみたいことと、あと周辺大学との調整など…。
山本(ファシリテーター) そうですね。では、そのへんのところはいかがでしょうか。
竹下(神戸大学) 最初のご質問ですが、国際交流推進本部の本部企画員ですが、まず大
林は国際交流推進本部の所属で、国際部の所属ではございません。私については国際部の
職員であり、国際交流推進本部の職員です。
まず指示命令系統ということですが、国際交流推進本部には本部長、これは国際担当副
学長です。副本部長のうちの1名が国際部長です。あとは本部企画員ということです。そ
うしますと大林に関しましては、国際部長は副本部長でもありますので、命令系統がある
ということではございますが、国際企画課長を含めた国際部のほかの職員については、同
じ本部企画員というような格好になります。
ですが、別にそこで課長だからとかそういうようなことではなく、一緒に仕事をしてい
る仲間として、自由闊達な議論をしながら物事を進めているということで、実際少なくと
も国際部の職員に関しては、本部企画員かどうかというのは、あんまり区別がなくなって
きているということで、そこが、今一番に効果が出てきていることだとは思っております。
特に区別することなく、両方の職務を通常にこなしているというような状態になっており
ます。
それからキャリアパスの構築についての具体案ですが、実際のところキャリアパスの明
示というところまでは、現段階ではまだできていません。これは今後引き続きやっていく
ところですが、近隣大学との調整については、近隣大学の国際担当副学長レベルで、ちょ
うど1年前にお話をしまして、今後いろいろな協力をしていきましょうということをお話
ししました。
まずは研修などを一緒にやっていきましょうというようなことも提案されております。
と申しますのは、これまでも研修についてはそれぞれの大学で確かにやってきていたこと
だと思うのですが、お互いでそれぞれの企画を出し合って、語学研修にとどまらず国際業
務全般について広い知識を与えるような研修をするのであれば、多少人数が多いほうがい
いと思うからです。
これに関しては、例えば留学生に関しては、JAFSA さんではいろいろな研修などをやっ
ていると思いますけど、国際業務の従来の研修というのはどちらかというといろいろな方
のお話を拝聴して、それを自分でどう取込むかというようなことではあったと思うのです。
それを今後はより実践的なトレーニングとしての研修というのを何かうまく開発できない
かと今考えているところです。
実際の人事交流については、本学の人事課長が近隣大学へ赴き、お話を続けています。
そこでは、図書館の方については人事交流をしてもいいのではないかという話は出ており
ます。それは専門性があるからということが理由らしいですが、では、国際部というのは
専門性がどうなのかというところが今、問題になっているところですけれども、他大学と
の意識がそろわないと、まだまだ少し難しいのかなというところがありますので、引き続
68
き調整をしていきながら進めていきたいと思います。
また、人事交流をする際の条件というのを細部に詰めていかなければいけませんので、
その辺りのアイデアとかもし会場の皆さんでお持ちの方がいらっしゃれば、ご紹介いただ
ければと思います。事例発表しているこちらがこのようなことを言うのもなんですが、よ
ろしくお願いします。
山本(ファシリテーター) ありがとうございました。それではちょっと時間がたってし
まいましたので、とりあえずここで神戸大学さんの事例発表を終わりまして、休みという
ことにしたいと思います。竹下課長、大林さんどうもありがとうございました。午後は東
京外国語大学、そして国際教養大学からご説明を願いたいと思います。
それから、時間がもし取れましたら3大学の発表の後、また全体的に少し皆さんとの意
見交換をさせていただければどうかと思っております。まだ質問者の方もいらしたと思い
ますが、そのときまで少しお待ちいただきたいと思います。よろしくお願いします。
金子(JSPS) これより休憩に入りますが、午後のスタートは1時 40 分ですので、それ
までにご着席いただきますようお願いいたします。
(休憩)
山本(ファシリテーター) それでは時間になりましたので、これから午後の部を始めさ
せていただきたいと思います。午後は終わりの時間が 15 時 25 分ということになっており
ます。従ってできるだけ意見交換の時間も取りたいものですから、私たちの予定としては
最初に 30 分ずつ2大学から事例発表をいただきまして、それからあとは質疑応答というこ
とで、質疑応答のときに午前中ちょっと質問ができなかった方も、神戸大学の事例につい
ての質疑も一緒に受け付けることにいたしまして、午後はできるだけ質疑応答、意見交換
の時間を取りたいと思います。
最初は東京外国語大学の事例紹介で、外国語学部教授の青山亨先生、それから国際学術
戦略本部のリエゾンオフィサーの新井早苗さんのお二人からご発表願いたいと思います。
よろしくお願いします。
青山(東京外国語大学) ご紹介いただきました青山でございます。それからこちらが新
井です。東京外国語大学では国際学術戦略本部、通称「OFIAS(オフィアス)
」と呼んでお
りますけれども、私がオフィアスのコアスタッフで、こちらの新井がリエゾン・オフィサ
ーということになっております。よろしくお願いいたします。では、ちょっと座らせてい
ただきます。
私も二枚看板でして、本業といいますか表看板は、東京外国語大学の外国語学部のイン
ドネシア語専攻の教員をしておりまして、普段はインドネシア語やインドネシアの歴史や
文化を教えております。ですので、いろいろと至らないところがあるかと思いますけども、
その点に関しましては新井から、質疑応答のところで詳しい説明をさせていただきたいと
思います。
それでは早速ですが、
『国際学術活動を支える多様な人材の育成』というタイトルでお話
をいたします。お手元の本日配りました資料をご覧いただければと思います。それから緑
の小さな封筒には、三つ折りのパンフレット等が入っております。OFIAS についての説明
と、OFIAS が行っています幾つかのプロジェクトの概略がそちらにもございますので、こ
れはまた後ほど目を通していただければと思います。
69
今回の報告のアウトラインですが、最初に東京外国語大学の概要と特色をお話しいたし
ます。それから、本学の国際戦略についてお話をいたします。ここまでが前段です。続き
まして、本学が直面している、特に国際化にかかわって直面している問題についてお話を
いたします。それを受けて4番目に OFIAS の概要、そして5番目に OFIAS における人材
育成という点に絞ってのお話をいたします。これは「理念と仕組み」
「何をしたか」
、それ
から「どう変わったか」という 3 項目に分けてお話をいたします。最後に今後の課題と展
望といったかたちで締めくくっていきたいと思っております。
まず本学の概要ですが、教職員の教員が 223 名、事務職員が 101 名という構成です。学
生は、これは実数ですが、学部生が 3,808 名、院生が 523 名。大学院には修士課程、博士
課程の両方がございます。それから留学生が 36 カ国1地域 81 大学から来ておりますけれ
ども、これが現時点で 486 名という構成になっております。
大学の組織がどのようになっているかといいますと、ちょっと次を先に見ますが、この
ような教育研究組織になっております。すなわち、まず学部ですが、本学は1学部から構
成されております。外国語学部と称しているわけですが、そのなかに外国語と日本語をあ
わせて 26 の専攻語がございます。学部は、また専攻語とは別に、言語・情報、総合文化、
地域・国際という名前の三つの履修コースに大きく分かれています。大ざっぱに言うとこ
ういう仕組みになっております。
次に学部の上に大学院が乗っかっておりまして、ここには博士前期課程と博士後期課程
がございます。それから大学には研究所が附置されておりまして、全国共同利用の研究所
というかたちでアジア・アフリカ言語文化研究所が、
通称 AA 研と呼んでおりますけれども、
ございます。
さらにもうひとつ、留学生の予備教育を専門に扱っております、留学生日本語教育研究
センターがございます。以上に、保健管理センターを加えたものが本学の教育研究組織に
なります。
スライドの図の右に数字が挙がっておりますけども、これは各部局にいます教員の数で
す。そのうちの括弧のなかが、内数ですが、外国籍の教員の数です。従いまして、外国語
学部の教員は 140 名いまして、その中に 27 名の外国人の教員が含まれております。大学院
地域文化研究科では教員が 14 名おりまして、その中に1名外国籍の教員が含まれておりま
す。アジア・アフリカ言語文化研究所におきましては教員 39 名中、4名の外国人教員が含
まれているということになっております。従って全体を見ますと、全教員の約 14%が外国
籍であるという状況が見えてくるかと思います。
ひとつ戻りますが、このように東京外国語大学は、英語では Tokyo University of Foreign
Studies と申して TUFS と略しておりまして、この英語名からも分かるように、言語にと
どまらず言語を通じて広く外国の文化、社会を学ぶ、研究する大学であるという特徴があ
ります。そして、それがひとつの学部のなかで行われているというところが、まず大きな
特徴としてございます。
内容的には世界有数の言語教育の研究センターであると申し上げてよいかと思います。
全世界をカバーしていますが、主としてアジア・アフリカ地域をカバーし、それらの地域
文化および地域社会を対象としています。ここで地域と言っていますのはアジア地域、ヨ
ーロッパ地域という意味での地域ですが、それらの諸地域の文化および社会についての教
70
育と研究の拠点であるということです。そしてさらにこれらにういて学際的、あるいは分
野横断的に教育、研究を進めていく拠点であるという特色を持っていると考えております。
さて、そこで、こういう大学の特徴を踏まえまして、私たちは七つの柱を有する国際戦
略を立ててみたわけです。最初の柱が「海外研究拠点の設置・整備」ということになりま
す。これは既に中東のレバノンであるとか、あるいはイギリスのロンドンに設けてきたと
ころであります。
それから国際コンソーシアムの形成。これはフランス、イギリス、オランダ、シンガポ
ールの四カ国の人文科学の研究分野のトップ・ユニバーシティと日本の本学とで、コンソ
ーシアムを形成いたしました。
それから3番目が「TUFS グローバル・コミュニティ」と呼んでおりますが、簡単に言
いますと、本学で学んでいった卒業生、あるいは留学して母国に帰られた学生、本学で教
えられた先生方と本学が全地球的にコミュニティ形成を図っているところです。
それから国際協力・社会貢献の推進ということで、具体的に言いますと、最近では数年
前に津波で被害を受けましたインドネシアのアチェであるとか、あるいは戦争の被害を受
けましたアフガニスタンにおける文化財の保護といったことに力を注いでおります。
それから国際連携教育の推進。これは、後ろに地図が載っておりますけれども、国際交
流協定を結んでおります世界各地の協定校との間で学生の交換を行っております。
それから「ユニバーサル・キャンパス 21」の実現。これは実はこれからご紹介します
OFIAS の業務ともかかわっていますが、学内に実際にそこで生活し授業を受け、あるいは
研究・教育を行っている外国の人たちにとって、住みやすい環境としてのキャンパスを実
現しようという試みです。
そして7番目として、国際学術活動を支える人材の育成というポイントになるわけで、
今日はこの7番目のポイントを中心にお話をしていきたいと思います。
これらの国際戦略を担う拠点を、本学では国際学術戦略本部と呼んでおります。Office for
International Academic Strategy ということで、OFIAS となります。当初「国際戦略本部」
という呼び名も考えられたそうですが、
「学術」
「Academic」を入れることによって、学術
研究の分野でも国際化していくのだという意図を込めております。
本学の教育研究の個性、特徴と資源を基盤として、戦略性・機動性を持った国際的な活
動を推進し、さらに、事業を通じて国際化を指導する人材育成を図ること、これが7番目
のポイント、つまりこの OFIAS が行う人材育成のポイントではないかと思います。
人材育成についてもう少し細かく見ていきますと、こういうことをわれわれとしては考
えております。外部人材の採用や実地研修などを通じて、ポストドクター(PD)、つまり大
学院博士課程を修了したレベルの人たち、学生インターン、事務職員など、さまざまなレ
ベルの人材の能力を開発し、国際学術業務に携わる多様な人材の育成を図るということで
す。
つまり、大学の構成メンバーとしては教員、事務職員とおりますけれども、その中に学
生も含めて考えていこうというのが方針のひとつでございます。そういうふうにして国際
学術業務に携わる多様な人材の育成を図っていこうというわけです。これが本学が国際戦
略における人材育成という柱を立てるときのポイントということになります。
さて、外部人材という言い方を今いたしましたが、ここで私たちが重点を置こうと考え
71
ている外部人材が二つあります。ひとつが国際展開マネージャーであり、もう一つがリエ
ゾンオフィサーです。先ほど神戸大学では交流マネージャーとおっしゃっていたと思いま
すが、こちらでは国際展開マネージャーとリエゾンオフィサーという二つのタイプの人材
を考えております。
国際展開マネージャーというのは、高度な実務経験と専門性を持った方で、国際関係業
務の円滑な遂行と体制の整備に携わっていただける方を想定しております。
次に、リエゾンオフィサーとしては、高度な言語運用能力と豊富な世界諸地域の実際的
知識を有する方で、修士号以上取得者を想定しております。国際展開マネージャーの下で
実地訓練を受けつつ、国内外の研究教育機関、公共団体、国際機関、NGO 等で必要とされ
る高度専門職業人に、本人自身も成長していくような、そういう人材を考えているという
ことです。
さて、実はここまでは当初の理念です。実際に起ち上げていきますと、かなりこれは変
わってきました。その理由というのは、理念は理念として、現実の問題として国際化を図
っていかなければならないという、現実に直面する問題があるということでございます。
その説明をまずお話したいと思いますが、そのためには本学のアカデミック・スタッフの
構成を少し見ていただきたいと思います。
先ほども数は示しましたけれども、どういう部局に外国人のスタッフが教員として入っ
ているかということですが、まず専任教員のところを見ますと外国語学部と大学院地域文
化研究科と AA 研に7名ございます。これは専任教員ですので、基本的に日本人教員と同等
に教育研究に従事される方です。
それから特任外国語教員という方がおります。これは学部に 25 名いるわけですが、基本
的には各専攻語を担当するネイティブの教員と考えていただければと思います。ですから、
例えば私のところですと、インドネシア語専攻に日本人の専任教員が2名おりますが、そ
れと別にネイティブの、つまりインドネシアから招聘いたしました教員が1名となってお
ります。大体、任期は2年間から3年間となっております。
それから外国人研究員というスタッフですが、
これは AA 研にのみあるポストですが5名
枠です。大体3カ月から 12 カ月程度の期間で入れ替わってます。
それからその他の外国人研究員ということで、いろいろな分野、さまざまな招聘先、チ
ャンネルで入ってきている研究員が、すべて合わせて数は前後しますけれども 30 名程度お
ります。
これを見ていただいてどういうことが言えるかというと、多様な言語的、文化的な背景
を持ったスタッフがいるということになります。言い方を変えますと、学生と教職員をあ
わせて7人に1人は外国人という割合になります。
このことに関連してもうひとつ、キャンパス内に住居スペースとして、国際交流会館が
ございます。従って、生活圏としての機能も含めたキャンパスの国際化という問題が出て
きます。
東京外国語大学の位置というのは、東京となっておりますが、新宿駅から JR 中央線で
20 分、乗り換えて 10 分と言った場所です。自然に恵まれて緑豊かなところですが、ある
意味辺ぴな場所ではございます。そのような場所なので、結局外国人の先生方も学生たち
も、かなりの時間ここを自分たちのベースとして暮らしていかなければいけないという問
72
題があります。つまり外に簡単に出て、そこで何か調達してくるということが少し難しい
わけです。
そういうところで、結局、日本語・日本文化のみを前提とするサービス提供だけでは、
もちろんキャンパスは成り立たちません。それに加えて、学部の専攻語だけでも 26 言語も
ございますので、外国文化というのはすなわち英語文化であるという等号も成り立たちま
せん。つまり英語以外の言語を使われる教員や留学生がたくさんおります。従って多様性
の確保が不可欠であることは言うまでもありません。
例えば私と同じ東南アジア課程の同僚にラオス語専攻の教員がいますが、特任外国語教
員としてラオス人の先生が来られました。英語でしゃべってもご本人は分かっていただけ
ず、やはりラオス語を使わなければいけないという状況が現実に起こっているわけです。
過去に発生した問題をちょっと挙げてみますが、例えば来日前ですと「ビザが下りない」
、
「契約内容の事前告知が不十分であった」などの問題があります。つまりわれわれがこう
いうことをしてほしいという業務の期待に対して、先方はそれを十分に把握していなかっ
たという問題が日本に来てから判明することがありました。
来日後の問題の中には、
「来日したが、日本側の担当教員が長期海外渡航でいない」
、あ
るいは「離職してしまっている」等の問題もあります。
それからカルチャーショックは一般的ですが、特に生活様式の不適合があります。例え
ば食堂等での食事環境の問題はよくある話だと思いますけども、こういったカルチャーシ
ョックの問題は常に存在しています。
また、先ほど簡単に説明しましたが、国際交流会館という居住スペースがキャンパス内
にありますが、ここは留学生と外国人教員が混住しているという住環境になっていて、や
はり落ち着いた環境を望んでいる教員にとって、いろいろと問題が起こってきます。また、
突発的な病気・けが、あるいはご本人またはご家族の妊娠・出産といったような問題もご
ざいます。
離日時の問題としては、まずオーバーステイの問題があります。これも本当に1日、2
日といったようなささいなことですが、テクニカルにはオーバーステイになってしまうわ
けです。それから、公共料金などの事後精算も問題となります。住宅を離れたあと、電気・
水道・ガス、文部科学省共済組合の脱退等の請求書が来たけど、本人はもう日本にいない
といった状況です。あるいは、研究成果物を出したけれども、ご本人が本国に持って帰っ
ていって、こちらがちょっと予想していなかったような使われ方をされたというようなこ
とが過去に起こっています。日本語はもとより英語だけでも解決しない問題が起こってい
るわけです。このような問題に対して、本学では次のような対応をこれまで行ってきまし
た。
まず 2004 年には、短期的な対応ですが、One Stop Service Office(OSO:オーエスオー)
というかたちで、窓口の一本化を計りました。つまり外国人教員における様々な問題を一
元的に対応する窓口というものを設けました。ただ、これは短期的な対応でありますので、
さらに長期的な対応として、OFIAS というものを構想したわけです。
OFIAS は OSO の機能を統合するとともに、
その他のいろいろな機能を持っていますが、
やはり自前で人材を育成していかなければならないという判断から、人材育成の機能とい
うものを持つことになりました。これが先ほど述べました国際戦略7の実現というものと
73
結び付いていくわけです。
ですから、国際戦略というある種トップダウン的、理念的な部分がまずあり、一方で現
実にこういう問題を抱えていまして、担当の事務職員がいろいろと今まで悩んできた、苦
労してきた問題を解決していこうという、現実的な問題への対応という要請が合わさって、
OFIAS の成立に至ったわけです。
OFIAS の組織とマネジメントというのは、皆さんのお手元の表にもありますが、このよ
うな仕組みです。全学的なサポートを受けて、メンバーを受け入れ、そして評価、あるい
は助言をも受けつつ、しかも学長を含む役員会とほぼ直結したようなかたちで、特に本部
長が法人の理事、大学の副学長を兼ねておりますので、大学の執行部とも直結したかたち
でつくられたものが、この国際学術戦略本部です。また、事務組織上は研究協力課国際交
流係に事務的にはかなり大きな役割を担っていただいております。
さて国際学術戦略本部、OFIAS の中を見てみますとこのような感じです。本部長のもと
に先ほどの国際展開マネージャーが置かれています。それから、これはいろいろなスタッ
フから成り立っていますが、企画セクションがあります。これが 3 つの主な業務に分かれ
ております。国際リエゾンチーム、サービスフロント、これは先ほど言いました OSO の役
割をほぼ吸収したもの、それから国際連携教育チーム。これら 3 つの大きな業務について
OFIAS は仕事を行っているということになります。
今日お話をするポイントの人材育成に関しては 5 つの構成要素からなっております。ま
ず先ほど申し上げましたが、外部人材としては国際展開マネージャーとリエゾンオフィサ
ーがあります。
次に、事務職員は、先ほど申し上げましたように、研究協力課国際協力係が中心になり
ますけども、それ以外にも例えば留学生課等の関連部署の事務職員が、OFIAS 事務職員と
して入っております。
それから教員はコアスタッフとなります。私自身がこの1人ですが、先ほど紹介しまし
た学部大学院、AA 研等から教員がコアスタッフとして参画しております。
学生(学部生、大学院生)も学生インターンというかたちで OFIAS のなかに入り、人材
育成の仕組みのなかに入ってます。
ここで、外部の人材として採用しました国際展開マネージャーとリエゾンオフィサーで
すが、実際にどういう方を採用したかということを少しお話しします。
国際展開マネージャーについては、なかなかいい方を見つけるのが難しかったです。大
学の公募に加えて、ハローワークを通じて情報提供を行ったのですが、結果的には海外経
験が豊富な人材が登録されている国際社会貢献センター(ABIC)から紹介された方々の中
から選考することにより採用が決まりました。選ばれた方は、結果的に本学の OB だった
方で、商社勤務が非常に長く、アメリカ、オランダにも長期滞在されていた方です。です
から、民間の企業でたっぷりと実務経験を積んだ方に来ていただけることになりました。
3年間の有期雇用という形で雇用しております。
それからリエゾンオフィサーは、アメリカ、イギリスで修士号を取得され、それから在
外日本公館で調査活動の経験を持っていて、しかも英語のみならず、ちょうど OFIAS が熱
望していた中東の拠点設置の事務に必要なアラビア語、ヘブライ語の実務能力を持ってい
る方採用することができました。
74
さて、OFIAS での人材育成については、大きく Staff Development(SD)と On the Job
Training(OJT)があろうかと思います。要するに研修を受けたり、実際に仕事をしながら学
んでもらうということです。ここに教員と事務職員、学生インターン、国際展開マネージ
ャー、そして全体をつなぐかたちでリエゾンオフィサーが入るという仕組みで現在は人材
育成をやっております。
ここでもさきほど神戸大学でもおっしゃったことと同じになろうかと思いますが、教員
と事務職員が肩を並べてといいますか、対等といいますか、同じ場でディスカッションし
ながら問題を解決していくという考え方で事業を進めております。この点は OFIAS として
のひとつのポイントと思われます。その上に、学生にも積極的に加わってもらい、これら
三者をコーディネートするというかたちで、リエゾンオフィサーに動いていただく。そし
て国際展開マネージャーには、要所、要所でアドバイスをいただく。こういう仕組みで人
材育成をやってきました。
次に、具体的にどの様なことを行ったのかというまとめをさせていただきます。これま
で ど う い う こ と を し て き た か と い い ま す と 、 ま ず 事 務 職 員 の 研 修 で す 。 Staff
Development(SD)という点からいいますと、事務職員の海外派遣研修が行われました。こ
れまでにレバノン、インドネシア、イギリス、オーストラリア、シンガポール、フランス、
アメリカに8名派遣しております。内容的には海外の高等教育制度の現地調査などという
ことになります。ただ、神戸大学でおっしゃっていましたような長期の研修というのはま
だ実現しておりませんで、実質的には大体1週間から 1 ヶ月程度の短期の研修ということ
になります。
それから実務英語セミナーがあります。これは国際展開マネージャーが企画し実践を行
いました。これまでにセミナー自体は2回行っております単なるテキストブックの英語で
はなくて、実際に民間の企業で実務経験をされてきた方ならではの的確な実務英語のセミ
ナーを行っていただきました。しかもセミナーだけで終わらず、セミナー終了後も、例え
ば実際に事務職員が英語で書類を作ったときに、
「これでいいですか」と見てもらって個別
にそれを添削といいますか、点検していただくということもずっと行っておりまして、職
員には非常に好評をもって迎えられております。
それからブラウンバッグフォーラムというものを開催しました。ブラウンバッグという
のは茶色の袋ですが、茶色の紙袋にサンドイッチでも入れて来て、お昼を食べながら意見
交換をしましょうという意味です。昼食時間を利用しまして、インフォーマルな情報交換
会というのを大体、夏休みなどは除いて、ふた月に1回程度のペースでやってきました。
ここでは海外に派遣された事務職員の報告であるとか、あるいは学生インターンの活動報
告などをやってきました。ここまでが Staff Development(SD)です。
次に、実際に実務に携わりながらどういうことをやってきたかといいますと、これには
まずサービスフロントの活動がいくつかあります。まずひとつは多言語マニュアルの作成
です。これは先ほども見ましたように、本学にはいろいろな文化、言語のバッググラウン
ドを持った教員がおります。
そこで多言語でマニュアルを作っていかなければならないということで、英語だけでは
なくてアラビア語、それにフランス語で、冊子体でマニュアルを作りました。これは生活
情報とか、日本で生活していく上に必要なさまざまな情報に加えて、本学での教育にかか
75
わる情報、あるいは研究にかかわる基本情報というものを収めたものです。一部はウェブ
サイトでも公開しております。
この作成プロセスでは、先ほども申し上げましたけども、単に能力のある、外部から来
たリエゾンオフィサー、あるいは国際展開マネージャーが作ってしまうというのではなく
て、彼らと事務職員とが共同して、それから OFIAS のコアスタッフとして、インドから来
られた外国人の教員の方がおられるのですが、その方も一緒になって、マニュアルを作り
ました。つまり、共同作業を行ったということです。そのことで、このような実務作業の
遂行自体が事務職員の能力を向上していくという結果になったと思います。
それからもうひとつは、メーリングリストによる教員伝達事項の英訳という実務作業で
す。本学ではかなり前から教員に対する必要な連絡事項の伝達をメーリングリストにて行
っています。これはもうルーチンとして普通に行っておりまして、ほぼ 99%の情報伝達は
紙ではなくて、メールで流れているようになっていますが、このメーリングリストを活用
いたしまして、そのなかから外国人の教員にも必要な情報であればそれを英訳して、また
メーリングリストに戻して流すという作業を行っております。
この英訳作業は先ほどの実務英語セミナーの受講者と、それからサービスフロントチー
ムの連携で行ってきております。このようにサービスフロントとして活動の結果を生み出
しつつ、実務作業自体が職員の英語能力、あるいは国際化の意識の向上に実は役立ってい
るということになると思います。
それから学生インターンによるリサーチというものを行っております。これにはいくつ
かありますが、まずひとつは、Times Higher Education、THE (旧称 Times Higher
Education Supplement, THES)と略されておりますが、イギリスで出ている高等教育に
関する情報サイトを対象としたものです。もともと紙媒体の新聞だったのですが、それの
ウェブ版です。それの主要記事を取り上げまして要約して、メーリングリストに流し、ウ
ェブサイトで公開するという作業を行っております。これは基本的にリエゾンオフィサー
が統括しつつ、学生のインターンが行っております。
2 番目に、学生インターンの自由プロジェクトというものも起ち上げておりまして、今課
題になっておりますのは、学生から見た大学の国際化です。学生も大学の重要なメンバー
であるという観点から、学生として大学の国際化というものをどういうふうに見ていった
らいいのかという課題を、学生インターン自身にリサーチさせるというプロジェクトを行
っております。
それから3番目には外大の用語集があります。実は、これには非常に多くの要望があり
ました。つまり各部局ではそれぞれいろいろな文章を英語に直さなければならない、ある
いは英語以外の外国語に直さなければならないといった作業があるわけですが、それが全
然、連携がなく行われていて、用語が統一されてこなかった。ですから、各部局がてんで
ばらばらに必要に応じて英語などに訳していたという現実があったわけですが、それを
OFIAS で集約して TUFS 用語集というのを作っていこうというわけです。これは今かなり
出来上がっており、順次公開しているところです。実はまだ和英しか作っておりませんけ
ども、ゆくゆくは英和編、あるいはほかの言語となっていくことを期待をしているところ
です。
この結果どの様な変化が起きたかということですが、まず挙げたいのは、波及効果とい
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うことです。個人の占有的な知識から共有された技能への転換という効果で、ここがやは
り大事ではないかと考えております。つまり外部からの人材にしても、やはり特定の人に
技能が集中しているという状態では、それが職場全体、事務職員全体の技能の向上へとつ
ながっていかない。しかもそれが次のジェネレーションに伝わっていかないという問題が
ございますので、やはり共有したかたちの技能へと変えていきたい。
そのような流れのなかで OFIAS の役割を見てみますと、OFIAS が一元的に窓口になる
ことによってさまざまな情報、ノウハウが蓄積されてきております。例に取りますと、い
ったん情報がメーリングリストに流れますとそれがそこに残っていて、あとは検索をかけ
れば情報がもう一度取り出されるということになります。メーリングリストに情報が蓄積
されて情報の繰り返し利用が可能となるというかたちで情報の蓄積・共有化が行われてき
たことになります。
それから大学の経営戦略策定機能の強化という効果がございます。先ほど申し上げまし
たけども、学生インターンのリサーチの一例を挙げますと、ボローニャ宣言によるヨーロ
ッパにおける高等教育制度の共通化というのがございまして、大学の国際化を検討するに
当たって非常に重要であるとわかっておりますが、実は教員にしてもほとんど詳細を知ら
ないわけです。しかも時間を割いて調べることもなかなかできない。それを学生インター
ンたちが積極的に調べてくれて、先ほどのブラウンバッグフォーラムで発表するといった
かたちで情報の還元を行っております。
このようなリサーチ力はやはり教員にとっても非常に力強いものでして、使える情報と
して、実際の経営戦略の策定において利用できるものになっています。また、学生インタ
ーン自身もリサーチを通じて、本学の国際化に対する自らの意識が高まるという副次的な
効果も生んでいると思います。
3番目としては、これは当然ですが、事務職員の英語能力および国際化意識の向上とい
うことがあります。これは先ほど申し上げましたが、実務英語セミナーを実施するとか、
英訳作業や用語集作成を、職員だけではなく、職員と教員とが肩を並べて共同作業を行う
といった試みから生まれてきたと思います。
さて、4番目にインターオフィスという言葉が挙がっています。これはちょっと耳慣れ
ない言葉ですが、本学では OFIAS だけではなくて、グローバル COE プログラムや特色
GP、現代 GP、大学院改革プログラムとか、いろいろなかたちでプロジェクトが立ち上が
っています。そういうプロジェクトのマネージャーや担当者同士が緩やかな連携を組んで、
インフォーマルなネットワークを形成するということです。今まで見てきたような活動を
OFIAS が行うことによって、大学の中にインターオフィスというようなものが形成されて
きたわけです。これも波及効果のひとつであり、職場の職員のネットワーク形成に役立っ
てきたのではないかと思います。
さて、それでは最後に少し時間が押しておりますけども、今後の課題と展望ということ
で述べさせていただきたいと思います。まず、問題点を先に挙げたいと思います。最初に、
外部人材の活用というのがやはり問題としてあります。どこが問題かというと、まずリク
ルートをどういうふうに行うかというところです。これはやはりわれわれもいろいろと試
行錯誤して、ようやく人材を確保したというところがございます。
それからマッチングの問題です。つまり先方が「こういうことができる」
「こういうこと
77
をやりたい」ということと、こちらの大学側がこういうことをしてほしいという希望等の
マッチングが、必ずしもうまくいかないわけです。ですから、こちらが希望したような方
を見つけるのはなかなか難しいという点が挙げられます。
現実に見つかる方というのは、やはりこちらの希望に 100%合うというわけにはいかない
わけです。ですから、それはそれなりに柔軟に対応していく必要があるだろうというひと
つの教訓があります。外部人材の活用の難しさということです。
それから2番目には、これはある種の矛盾といいますか、ジレンマですが、こういうふ
うに国際化事業が OFIAS へ集中してしまうという現実があります。これはもちろん大学の
国際化にとって必要なステップですが、逆にそのことが事務職員というチーム全体の国際
化を遅らせるという問題を実は内部に抱えているわけです。ですから、事務全体の国際化
へと向けていかなければならないということです。
具体的に言いますと、例えば OFIAS の On the Job Training の恩恵を直接的に受けるの
は、OFIAS の事務職員に限定されているわけです。ですから、へたをするとほかの事務職
員からは、国際化に必要なことは全部 OFIAS に任せておけばいいのだというような意識が
生まれかねない。ですから、これからは事務職員全体を対象にして言語能力や大学の国際
化に関する理解を高めていく必要があるだろうということです。
3番目にファシリテーション機能の向上という課題があります。これはまだまだ必要だ
ろうと思います。
OFIAS が他の事務部署の国際化事業の支援というのを行っていくことで、
これは先ほどの問題意識とも関係していますが、職員全体の能力を高めていく必要があり
ます。これは実際のところ OFIAS ではまだ十分にできていない課題だと思います。
4番目に、事務職員というのはそもそもいったい何なのだろうという、これはちょっと
根元的な問題といいますか、未解決な問題です。というのは、現在、外部資金によるプロ
ジェクトというのがどんどん増加していることは皆さんもご存じのとおりだと思います。
その結果、事務職員の育成、事務職員に対する研修といった場合に、本来の事務職員に対
する育成と、派遣職員あるいは非常勤職員に対する育成について、かける比重をどのよう
に配分したらいいのだろうかと思案しています。この問題はまだわれわれのなかでは解決
されておりません。
それから最後にキャリアパスの確保があります。これもまだ十分ではございません。例
えばリエゾンオフィサーにしても、学生インターンにしても、育成した人材のその後のキ
ャリアパスをどうするかということです。リエゾンオフィサーも任期付きになりますので、
その任期が終わったあとの次の段階で、さらにステップアップした職に就けるかどうかが
問題となります。このキャリアパスの確保が十分に行われていないということが問題点と
してあります。やはり、この仕組みをしっかりと作っておかないと新しく人を雇うことも
難しくなってくるのではないかということを懸念しております。
それから展望のその2ですが、これはどちらかというとかなり大風呂敷といいますか、
大きな話なので、あくまで問題提起として理解していただければと思います。この大学国
際戦略本部強化事業も OFIAS もそうですが、基本的に期限を持っているわけです。従って
この期限が終わったあとのプロジェクトの持続性をどう担保していくのかという問題が、
やはりあるのではないかと思います。
どんなことができるだろうかと、ちょっとブレインストーミング的にわれわれの内部で
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出してみたのですが、例えば人材育成のカリキュラム化。つまり大学院のコースとして、
人材育成のコースを作ってしまおうではないかというわけです。あるいは OFIAS のセンタ
ー化。つまり大学の外に出して、大学と対等に契約するような事業主体にしてしまうとい
うアイデアです。あるいは、それをさらに押し進めたコモンキッチンです。
「共有の台所」
といいますか、近隣諸大学のいろいろな業務も引き受けるような、ある種のビジネスセン
ターとなっていくというアイデアです。
それから個別の業務としては、例えばスピンオフ的にビジネスとして起ち上げていくこ
ともありえます。
先ほど申し上げました、
THE のメルマガというのがございますけれども、
こういうのはもう商業化して発信していって、ひとつのビジネスとして独立してはどうか
といったような話があります。もちろんビジネスとして構築するには解決すべき課題が残
っているわけですが、たぶん今後はこういったアイデアも検討していかなければ、プロジ
ェクトの持続性という問題は解決しないのではないかと思います。
少し時間を過ぎましたけども、私たちの発表は以上にしたいと思います。最後にここに
OFIAS のウェブサイトと THE の記事の URL を載せていますので、ご参考にしていただ
きたいと思います。どうもありがとうございました。
山本(ファシリテーター) 青山先生、それから新井さん、どうもありがとうございまし
た。それでは引き続き国教養大学の事例発表を願って、その後はすべての大学に対する質
疑応答というかたちに持っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは次は国際教養大学ですが、国際教養大学の副学長兼事務局長の小山内優さんか
らお話を願います。よろしくお願いいたします。
小山内(国際教養大学) お疲れさまです。雪の秋田からまいりました小山内です。時間
もあんまりありませんので、なるべくご質問にお答えできるように、基本的に私のプレゼ
ンテーションは簡単にやりたいと思っております。
と申しますのも、やはり特に国際化といったときに、皆さんお一人ひとりイメージが結
構違うことが多いものですから、今日の資料のなかにもプロファイルがあったと思います
が、旧文部省と文部科学省で留学生や国際協力、それからあとは科学技術の国際交流等を
やらせていただきまして、文部省の国際関係のところを歩いているのです。ただ、やはり
国際化というと皆さんイメージが違うし、そういう意味においては少し語弊がありますが
うさんくさいようなところがございまして、何をもって国際化と考えるのか。
例えば国際ランキングに載っているような大学に関して申し上げれば、たぶん日本の大
学の弱点というのはファカルティが国際化されてない。ファカルティが日本人ばかりとい
うのがあって、そこが、ランキングが非常に低いひとつのポイントになっているのだろう
と思うのです。そういう意味では、本当は留学生ではなくて、外国人教員の増員に力を入
れたほうがランキングを上げるにはいいのだろうと思います。
ただ、このなかには私たちと同じようにランキングと縁のない大学もある。ランキング
というのはさっきご紹介のあった Times Higher Education のランキングなどそういうも
のです。そういったところに載ってない大学から来られた方も結構多いのだろうと思いま
す。
例えばうちの大学では授業を全部英語でやっていますし、会議も英語ですし、学内文書
も基本的に英語で書かれていることが多いのです。では、そういうのが国際化なのかとい
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うと、例えばこれはほとんどの国の大学では、そういうのは別に国際化でなくて、何とな
くグローバルスタンダードに合わせて、国際交流をするときに支障になるからしょうがな
いということでやるのでしょう。
例えばそれがフランスの大学であれば、世界に冠たるフランス語から少し英語も入れる
というのはひとつの決断。これはもう立派な国際化であると思うんです。日本も島国です
からたぶんそういうことだと思うのですが、では同じフランスの例えば初中教育を見ます
と、フランスにもアメリカンスクールやブリティッシュスクールがありますけど、単純に
アメリカなどの学校が単に物理的にフランス国内にあるだけで、そういったのをインター
ナショナルスクールとは呼ばないのです。
では、日本の初等中等教育行政の世界では「国際学校」というと、アメリカンスクール
が入ったりします。ようするに国際というものの考え方や基準というのが分野、人、国に
より違うのだろうと思います。たぶん、フランス語というのはアンテルナショナルという
ものの語源にまでさかのぼると、結局ネーションとネーションの間、インターにあるもの
がインターナショナルなので、だからフランスとドイツのそれこそカリキュラムを折衷し
てつくったらそれこそがインターナショナルスクールになるわけですが、アメリカの学校
がそのまま物理的にフランスにやっても、それはインターナショナルスクールとはいわな
いということであるわけです。
もう一つの例をいいますと、この国際化戦略本部事業が始まる前年に、私はとある大学
におりまして、当時の学長に「学長先生、こういう事業を文科省でつくるらしいのですが、
どうしますか」とご相談したのです。そしたら「君ね、ハーバード大学が全学で国際化し
ましょうとか、執行部で何か言っていますか」
「いや、言ってないでしょう」
「じゃあ、そ
れを国家がサポートするとかそういうことはありますか」
「いや、ないでしょう」
「そうだ
ろう」と、いうことでその大学としてはこの事業にアプライしないことが決まったわけで
あります。
「国際化」についてはそのように内容や意義が異なりますので、そういうことでご参考
になるかどうか、またこれが国際化といえるかどうか分かりませんけれども、国際教養大
がどういうことをやっているかということを、簡単にご紹介をしてまいります。
まず国際教養大学の理念としましては、国際教養というのを打ち出したと。基本的、理
念的には ICU さんに似ていると思います。
国際社会で生きていく人をつくるということで、
私たちの学生は、基本的に4年生ぐらいになるとほとんど英語でいろいろな議論ができる
ようになります。そういう人間をつくっているということです。
2004 年、
ちょうど国立大学法人ができたのと同時にスタートした、
唯一の公立大学です。
1学部しかございません。学生も大体ひと学年 150 名ぐらいしかおりません。正規生ほと
んど日本人です。ただし全員が海外に1年間留学します。それも交換留学でやっています。
当初は交換留学先の大学が少なかったのですが、今4年間の間に 71 校まで増やしました。
つい最近ではグラスゴー大学、トロント大学、オーストラリア国立大学、それからソウル
大学との交流協定などを結びました。
そのように留学先はレベルの高いところばかりなので、ようやく何とか留学にこぎ着け
たという学生をどういうところに出そうか少し悩ましいのですが、逆にそういったところ
の学生が、今度は交換で来るわけでありまして、非常に厳しい評価にさらされているとい
80
うことがいえるのではないかと思います。
ちなみにこの9月から専門職大学院を開設いたします。学部教育はリベラルアーツです
が、院は言語コミュニケーション、英語を使ったコミュニケーションにかかわる3分野を
取り上げていまして、英語の先生方のいわゆる専修免許状の課程もありますが、教職大学
院ではなくて英語コミュニケーションを、使えるコミュニケーションというものを重視し
ています。
他の2分野は日本語教育、それから「発信力」というのは非常に分かりづらいのですが、
ようは英語でジャーナリスティックな文章が書けるということを重視して、国際ジャーナ
リズムに特に文章を書くというところに重点を置いています。
常勤教員は 44 名。そのうち半分が外国人です。教育プログラムの特色はすべての授業が
英語でやられているということと、今申したように、1年間海外留学に行かなければいけ
ません。そのためには TOEFL を 550 取らなければいけないのですが、取れないと海外へ
出られません。550 を取れない学生は、結局いつまでも留年するということになっています。
それから基本的には双方向交流で学費を相互免除して、交換留学生を受け入れています。
それで基本的には1年目の学生は日本人も、それから交換留学の学生も全部寮に住むと。
トータルで見ても7割の学生はキャンパス内に住んでいます。キャンパスの外には何にも
ありません。5キロぐらい離れたところに秋田で一番大きなショッピングモールがあるの
ですが、そこに行くまでの間は何もありません。パチンコ屋も飲み屋も何もないです。ご
飯を食べるところぐらいはありますが、図書館だけは 24 時間開いております。
あとはセメスター制ということで9月入学を重視しています。先ほどご紹介した、院は
9月入学です。学部で GPA や TOEFL を基本的に活用すると。これは善し悪しの点があり
まして、
TOEFL なんて特に外部の試験ですから、
なかなか一生懸命頑張っていても TOEFL
が低いとどうしようもないという問題があります。
これは小さな大学ですからあんまり参考にならないと思いますけど、1学部に五つの小
さなセクションがあるのですが、そのうちこの日本語プログラム以外のダイレクターは皆
アメリカ人です。教育研究会議は英語です。辛うじて大学経営会議とトップと諮問会議。
これは日本語でやっていますけど、外部評価委員会は英語でやっています。総勢数十名の
事務方が総務、企画、それから教務、学生といったところに分かれて活動しております。
教職員数をブレイクダウンしますと、専任教員は半分が外国人。職員でいきますと専任
のプロパーが 22 名。あと私は秋田県から派遣ですが、秋田県からの派遣職員が5名おりま
して、この 27 名については大学と正規職員の雇用契約書を結んでいます。
契約書を結んでいない秋田県研修職員が 10 名おります。これは公立大学の場合、普通は
もっとたくさんの人が自治体から研修などの名目で来るのですが、合わせて 15 名でありま
して、この 10 名は秋田県から給料をもらっていると。派遣職員の5名は大学の会計のなか
で給料をもらっているということであります。
あとは1名、秋田大学から即戦力をお借りして、うちから秋田大学に研修のために職員
を1名出していると。他に嘱託等が 26 名いまして、雪が深いものですから、運転から除雪
からいろいろなことをしていただかなくてはいけない現業の3名は英語ができなくてもい
いのですが、あとは基本的に英語ができないと務まらないポストであります。
やはり外国人の先生方のお相手をする職員が足らないものですから、この間 NOVA がつ
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ぶれかけたことがありましたようで、一番近場の NOVA の店長さんみたいなことをやって
いる人に、早速うちに来ていただきました。
それから今度、通訳担当のプロパー職員が1人どうしても家族の都合で退職するもので
すから、いよいよのっぴきならない事態になってまいりまして、ネイティブの方を1人、
雇わなければいけないかなと。今そういう状況になっております。まだ開学4年目ですの
で、学生アルバイトはまだきっちり機能はしていません。
OB はまだ雇っておりませんけれども、今日私が来させていただいたもうひとつの目的と
いうか、私たちの大学でこれからうちの大学のインターンみたいにして少し事務方で何人
か鍛えようかと思っております。これは英語に関してはほとんど即戦力でありますし、大
学の事務もこれから勉強させますので、できれば皆さんの大学で、どうかうちの卒業生を
事務局職員として雇っていただければと思います。公務員試験は受からないかもしれませ
んので、できれば私立大学にお願いしたいと思っています。
ついこの間、神戸市外国語大学さんに事務局職員として、めでたくうちの学生が1名内
定をいただきまして、これからもそういう路線で若干、就職口を確保していきたいと思っ
ています。
そういうことで職員の英語能力に関して言えば、大体のものが日英両語併記になってい
ます。さっき申したように、嘱託職員が結構多いのですが、このへんの一部はどうしても
英語能力が低くなってしまいます。そうするとやはり学生の面倒を見る、留学生もいるも
のですから、文章は日英両語にしなければいけないのですが、英語で文章が書ける人とい
うのは限られてきますので、そこがちょっと弱点です。
あと、日常的に国際交流先大学との連絡というのがあります。それから外国からのお客
さんも対応します。
それから秋田県の給与水準というのは大体東京の3分の2です。不動産絡みのアパート
などはとても安いのですが、そんなに物価が安いわけではないのです。しかしながら給与
水準は相当安いということで、少しそのへんが募集のネックになっています。なるべく高
望みはしないで、スタッフを充実させたいと思っています。
あと、うちの特徴としてすべての教職員が3年任期であります。これはだいぶ最近広が
ってきております。退職引当金というのは国公立大学制度のなかで存在しないものですか
ら、わずらわしいのです。退職金がないという前提でやったほうが早いだろうということ
で、うちの場合は退職金なしということであります。
年俸制と評価につきまして、一応評価によって年棒のプラスマイナス 20%まであります。
教員評価の場合には教育、学務、地域社会貢献、そして研究というかたちで配分を決めて
総合点を出しております。職員に関してはこういうかたちではないのですが、評価シート
を作って目的をつくらせて、上司と話し合いをしながら、一応 A、B、C みたいな評価を出
しています。
ただ、実際になかなかプラス 20%の S や、あとは悪い評価、年棒が削られる評価という
のは、一応契約にそういうことがあるということは書いてありますが、そんなに「おまえ
給料差っ引くよ」などという評価はそれほど出せません。職員に関しては幸か不幸か昨年、
一昨年は削られるほうはいませんでした。プラス 20%もいませんでした。プラス 10%と 5%
が少し、ほとんどはプラスマイナスゼロのところで収まっています。
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ただ、これをやることによって目的意識というのを持たせられますし、日ごろの上司の
意識も変わってまいりますので、やはり必要かなと思います。ベース年俸は原則3年間変
わりません。3年たつとアップしていきます。ただし、若いレベルでは若干のベースアッ
プ的な能力評価というのがございます。
あとはあまり細かいことを申し上げてもしょうがないと思いますので、最後に今後の今
の問題として、任期制と安定雇用というのをどうしていくのかと。それから昇任基準を、
これは教員も職員も昇任しますけれども、基準をどうしていくのか。あとは例えばたぶん、
総務課長みたいな人が県から来るわけですが、その人によっては「いや、予算がないから
そんなプラス 10%とか、5%とかそんな予算ありませんよ」と言うわけですが、そういうこ
とを言わせないように予算的な裏付けをきちんと取っておくということが必要になってい
ます。あとはいかに評価結果というものを、単なる評価のための評価に終わらせないとい
うことが重要かなと思っております。
私のプレゼンは以上で終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
山本(ファシリテーター) 小山内先生、どうもありがとうございました。
それではこれから全体の質疑応答をしたいと思うのですが、お二人、お二人、お一人だ
から…、それであと神戸大学さんと外国語大学さん。少し前に出てきていただきまして、
恐縮ですが、最初は少し今の二つの大学に対する質疑応答をさせていただいて、少し時間
がたったところでもし神戸大学に質問があれば、お手を挙げていただきたいと思います。
ご発言の際にはお名前とご所属をおっしゃっていただいて、皆さんに知っていただいて、
それから発言をお願いいたしたいと思います。
今のところ予定としては、あと 45 分ぐらいありますので、少したくさんの方にご質問を
していただく機会があるのではないかと思っております。よろしくお願いいたします。
では、始めに東京外国語大学のケースについて、ご質問のある方がいらっしゃいました
らちょっとお手を挙げていただきたいのですが。はい。一番後ろでお手が挙がりました。
君島(法政大学) 法政大学の君島と申します。今のプレゼンテーションのなかで、OFIAS
の構成員が紹介されておりましたが、国際展開マネージャー、リエゾンオフィサー、教員、
事務職員、それから学生インターンという全部で五つの構成員がいるわけですが、この具
体的な人数。何人で実際、運用されているのかというのを差し支えなければお教えいただ
けますでしょうか。
青山(東京外国語大学) どうもありがとうございました。先ほど時間で十分には説明が
できなかったかと思いますが、まず国際展開マネージャーですが、これは1名です。それ
から次のリエゾンオフィサーも1名となります。それから3番目の OFIAS の事務職員です
が、これは7名です。7名のなかには先ほど申し上げましたが、研究協力課の事務や留学
生課、それからあと会計課の課長も参加しております。
それからコアスタッフというのは、これは教員になりますが、これは学部および県から
出ておりますが、全部で9名です。それから学生インターンは5名です。ただしこれは院
生がおりますので、今そのうちの2名は修論の執筆のためにちょっと休んでおりますけど
も、数の上では5名ということになります。従いまして、計 23 名ということになります。
よろしいでしょうか。はい。失礼します。
山本(ファシリテーター) ほかにいかがでしょうか。東京外国語大学に対するご質問。
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はい、どうぞ。
橋田(東京工業大学) 東京工業大学の国際連携コーディネーターの橋田と申します。素
晴らしいプレゼンテーションありがとうございました。二つほど質問がございます。
ひとつは 21 ページ(参照 P.207)になるかと思いますが、波及効果のところで、大学経
営戦略策定機能の強化ということで、学生インターンのことを書かれています。私がちょ
っと思ったのは経営戦略策定というのは、OFIAS なり役員会のレベルではないかと。それ
で学生インターンの出したものが活用されていく。それはひとつの情報のインプットの仕
方だと思うのですが、差し支えない範囲で教えていただきたんですが、この国際展開マネ
ージャーないし、このリエゾンオフィサーが、国際にかかわる企画立案の段階でどのよう
なかかわり方をされているのか。
あともうひとつ、15 ページ(参照 P.206)のところで OFIAS の組織というのがあって、
本部長から展開マネージャー、企画セクションと分かれているのですが、これは企画立案
と実際の執行というか、エクゼクションが分離しているというふうな理解でよろしいので
しょうか。
青山(東京外国語大学) ありがとうございます。これも説明が十分でなかったかと思い
ます。
まず 21 ページです。大学経営戦略策定機能の強化という言い方をしておりますが、これ
はもちろん学生インターンが直接そこに情報を出すという意味ではありません。これは基
本的に OFIAS の運営委員会等に、学生インターンのリサーチ機能の結果というものが挙が
ってくるわけです。これはもちろん報告として挙がってきます。
ただ、実際に挙がってくるものというのは、かなりよくできた冊子体のレポートである
わけです。われわれの OFIAS のなかの本部長は、これは役員会においては本学の副学長を
兼ねておりますので、そのチャンネルを通じて、例えば学生たちのリサーチが使われると
いうことになります。
現実にそこまで行きますとちょっと大きな話ですが、実際に起こっていることというの
は、例えば OFIAS 自身がいろいろな国際化にかかわる業務を行い、かつ意思決定もやらな
ければならないことがあります。ほかの大学と、今回は人材育成という話でしたので、た
ぶん別の分科会の話になると思いますが、デュアルディグリーの問題はどうなるとか、い
ろいろなそういうことが検討されるわけです。
それは実際にヨーロッパとかである先行事例はとうなっているのかといったことを、こ
の学生インターンにリサーチしてもらう。それが直接的、あるいは間接的に大学の経営戦
略策定にも情報として挙がっていくという、そういうことです。
それから2番目のお話なですが、この 15 ページの図で、これは本学が公開している何か
冊子にも出てくる図なのでそれをそのまま使っていますが、ちょっと確かにおっしゃると
おり分かりにくいところがあって、しかもこれは理念と、あるいは現実の部分が少しごっ
ちゃになったような図になっております。
正確に言いますと、この企画セクションというのは下のコアスタッフを中心にした
OFIAS の職員を中心にした会議、運営委員会でいろいろな企画を立てていく。そういう部
分です。国際展開マネージャーももちろんそのなかには入っております。
それから国際展開マネージャーだけ外しているというのは、機動的に必要に応じてさま
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ざまな業務において、実務的な経験に基づくアドバイスをしていただくということで、こ
こでは国際展開マネージャーをひとつ独立したかたちで表示しているとご理解いただけれ
ばと思います。
ほかに何か追加事項はありますか。いいですか。以上です。
山本(ファシリテーター) 以上のようなお仕事をされているということですが、ほかは
よろしいでしょうか。どうぞ。
中田(首都大学東京) ありがとうございました。首都大学東京の中田です。一点、ナン
バー19 番の事務職員の海外派遣研修について教えてください。
先ほどのお話では1週間程度ということでしたが、短期の研修の目的と成果、そしてま
たこの研修へ行くにあたりましての事前準備等について、ご教示いただきたいと思います。
お願いいたします。
新井(東京外国語大学) 1週間ですが、大抵この場合の研修というのは、本部でいろい
ろな事業を行っています。例えば海外で国際会議を開く、あとまたは海外拠点の会所式を
行うとかそういった機会に実際に協力してもらいながら研修、まさに OJT というかたちで
研修の機会としていただくというのを目的としております。その準備の期間というのも結
構長くなりますので、実際に1週間行くまでにも1カ月、2カ月ぐらい準備にかかわって
いただくようなかたちになっております。その経過を通じて学んでいただくというのも大
切なポイントとなっております。
よろしいでしょうか。
中田(首都大学東京) 例えばレバノンですと、現地語の取得を何カ月もやるとかそうい
った特別なことはないのでしょうか。
新井(東京外国語大学) 残念ながらそういうことではございません。
青山(東京外国語大学) あとインドネシアの場合は、これは私が入っていますが、職員
だけではなくてここの OFIAS のスタッフが、教員メンバーが一緒に同行しております。で
すから、そこで教員と一緒に活動を行うことによって、職員が学ぶということです。です
ので、インドネシアに関していえば、例えば現地語は私が話をして、職員に対してはそれ
について説明を行うというかたちを取りました。
新井(東京外国語大学) ありがとうございました。
山本(ファシリテーター) ありがとうございます。それでは次に東京外国語大学に対す
る質問です。では、どうぞ。
河合(国立天文台) 国立天文台の河合と申します。基調なご報告ありがとうございまし
た。
地理的にも近いところで大変お世話になっているところですが、最後のページで近隣諸
大学のビジネスセンターとなる、という点について私たち大変興味があるところですが、
具体的にどのような構想を持たれているのか、分かる範囲で教えていただければと思いま
す。
青山(東京外国語大学) 実は私の部屋の窓から天文台がよく見えています。すいません。
最後のその2というところは、事実上もうブレインストーミングで出した話を、そのまま
出しているという感じですので、これはもう本学のオフィシャルなプランではいっさいご
ざいませんので、ちょっとそこのところはご憂慮ください。
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ですので、皆さんもおそらく同じような、今後プロジェクト国際戦略本部強化事業とい
うのも、いったい期限が切れたあとどういうふうに継続させていくのかというのを、いろ
いろとお悩みではないかと思いまして、われわれ自身もこういうふうに悩んでいるという
ことを少し皆さんにご披露したという次第です。ですので、これはまだ具体的なプランと
かそういったものではございません。
山本(ファシリテーター) はい、ありがとうございます。でも、アイデアというよりも
早速お客さんが付きそうですから、かなり有望なプランのようですね。大学院コースもそ
うですよね。職員のための大学院コース。現に少しあるのですが、今後の展開が期待され
ていますよね。
それでは次に国際教養大学に対してご質問のある方、挙手をお願いしたいのですが。全
学英語の環境というなかで運営されておられるようですがどうでしょうか。
それでは私からひとつだけ。英語力が教職員に要求されるといっても、どの程度のレベ
ルの英語力が要求されるものか。これは職員の仕事の中身によってかなり違ってくるもの
ですか。
小山内(国際教養大学) はい。その都度、その都度、部署、部署によってやはり英語能
力の高さというのは、要求される水準も違うものです。それが例えば部署によって
TOEFL550、あるいは TOEIC にそれの相当や、公募上ではもう少し低い水準、あるいは
「英語ができること」みたいに書いておくけども、別にできなくてもいい、あるいは大学
の事務の経験があれば、英語能力には目をつぶるみたいなこともあります。その部署、部
署によって英語の要求水準というのは変えております。
やはりどうしてもネックになりますのは、自治体から来る方の英語能力です。まだ大学
が開学したばかりで、大学創立当時の知事がまだ現職でおりますから、公務員として非常
にレベルの高い職員に来ていただいているのです。
ただ、それは英語ができるということではありません。仕事はできるんですが英語はで
きないということで、その代償措置というか、会議の際にウィスパリングや、通訳ができ
るような人を、1人雇っております。ただ、この方がさっき申し上げた、辞めてしまう方
なものですから、その後どうするのかというのが少し課題になっております。
できればうちの学生を雇ってしまえば一番早いのですが、うちの大学でいい学生を雇っ
てしまうことはせず、貴重な1期生、2期生でありますから、なるべく外に出しています。
ちなみにこの間、大学の近所のスーパーの売り場で働いている母親が1人で育てた息子さ
んが、証券会社が希望だったそうで、ゴールドマン・サックスは残念ながら重役面接で落
ちたのですが、モルガン・スタンレーとリーマン・ブラザーズに内定しまして、喜びまし
た。他方、本学は県議会や県内マスコミから「なぜ県内に就職させないんだ」と、県立大
学なものですから責められております。
以上です。
山本(ファシリテーター) ありがとうございました。ほかに国際教養大学に対するご質
問はございませんか。はい。
五十嵐(自然科学研究機構) 自然科学研究機構の五十嵐と申します。大変興味深いお話
を聞かせていただきましてありがとうございました。
英語環境での業務ということで、もう待ったなしの状態で、すべての職員がなにがしか
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の英語能力を必要とされていると思いますが、採用のときにある程度一定の TOEFL、
TOEIC 等の英語能力の要件みたいなのを加えて、あと今もう入っていらっしゃる方に、ど
のようなかたちで即戦力になっていただくための研修や、さらに上のレベルを目指すため
にどのような取り組みをされているか教えていただければと思います。
小山内(国際教養大学) すいません。なかなか小さな大学なものですから、英語能力に
関してはこちらで何とかするというのは非常に難しいです。ただ、ここに先ほど職員数の
ところに書いたのですが、今若い女性の方が2人ほど休職しています。他にも何らかのか
たちでうちのプロパーや、嘱託の職員のなかでも、英語圏に留学をした経験者が非常に多
いのです。
ただ、そのなかにマスターなり、ディグリーを取ったことのある人と、半年ぐらい行っ
たことのある人とを比べると、どっちかというと短期の人が多い。そういう人たちが周り
に刺激されて自分たちも無給休職でいいから留学させてくれということがあります。今休
職留学しているのは、2人ともアメリカにマスターを取りに行きました。
あとはむしろわれわれとしては、できたばかりの公立大学の事務ということで、それこ
そ「学籍簿って何」みたいなところからやらなくてはいけません。秋田県には他県と同じ
ようにコンソーシアムがありまして、秋田大学さんですとか、われわれとは別に秋田県立
大学というところもあります。
そういったところと共同で SD をやるということで、外部の講師を加えたときには、例え
ば秋田大学に来られたときには、そこにうちの職員も行くし、秋田県立大学からも職員が
行くと。秋田県立大にやったときはうちからも行くというようなかたちで、共同でそうい
う研修をやっています。
山本(ファシリテーター) はい、ありがとうございました。ほかに特にないようでした
ら、これからもう少し一般的な意味で大学の国際化、あるいは国際化戦略を進める上での
人材養成という問題について、午前中に発表があった神戸大学さんを含めて、3大学の方々
と意見交換をいたしたいと思います。どなたからでも結構です。
先ほど午前中に手を挙げられたような気がしますが。神戸大学に対する何かご質問があ
りました。
発言者不明 先ほどお昼休みのときに大林先生に伺ったのですが、私が少し気になりまし
たのは、やはりかなり大林先生の場合は、組織からつくるところから任された。本当にキ
ーワードで雇ったと。それからあとは「じゃあ、頑張ってくださいね」みたいなことに対
しまして、どのような能力がおありだったのか。そのキャリアについて伺いました。
今こちらは外部人材育成と二つの大学がありましたように、即戦力を育てることはかな
り難しいと。そうなってくるとやはり外部からの方を採るにあたって大学としてどのよう
な点で留意をして、その人材を採ってくるか。
また、先ほども採ってくる先が大変難しかったということですが、そういったことにつ
いても、もしよろしかったら皆さんのご意見等を伺わせていただいたらと思います。お願
いいたします。
山本(ファシリテーター) 外部人材の採り方ですか。最初は神戸大学からお答えいただ
いて、あとお二人にも少しご意見を伺いたいのですが。マイクはありますか。
竹下(神戸大学) 外部人材を登用するにあたって、いろいろなご経験を加味しながら当
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然選ぶわけですが、今先ほど小山内さんからお話があったとおり、国際的感覚がおありで
も大学のことを知らない。それはかなりリスクの面ではあると思います。
そういったなかで、ではどういった方を採っていくかということで、幸いにも神戸の地
域ですと、まだそのへんのところへ両方備えた方からの応募というのがあったので、大林
さんの場合ですと、ブリティッシュ・カウンシルのご経験というのをかなり評価しまして、
採用に至ったということでございます。
それからあとは EUIJ 関西ですと、今度は実際いろいろな方との折衝をするというよう
なことで、そこで商社の方、これは一橋さんも一緒だと思いますけども、そういうご経験
のある方を採用。それからあと EUIJ 関西の広報マネージャーでは在京大使館、外国の日
本公館、そういうところの経験のある方。これも EU 代表部との折衝とかいろいろとそう
いう連絡業務とかがありますので、そのようなバックグラウンドを持った方をなるべく採
るようにいたしました。
それからあとこれは国際ではないのですが、広報マネージャーというのにも外部人材等
ありまして、これはメディアの経験なり、新聞記者さんなどそういうような報道関係のご
経験のある方を採用するようにしております。
それからあと連携創造本部というのが先ほどの説明の中にひとつございましたが、そち
らでは知財関係などの業務がありますので、やはり企業等でそのような連携、または何か
そういうようなご経験のあるような研究の関係。それからあとは契約関係。そうようなご
経験のある方を採るというような格好にしております。
また、ご参考までに連携創造本部では実際今、内部人材も育成しておりまして、海外と
の国際知財という関係ですが、弁理士事務所などのそういったところに数カ月間研修に出
したりするかたちで人材育成をしております。
山本(ファシリテーター) ありがとうございました。それでは青山先生は何かあります
か。
青山(東京外国語大学) これは実際的な経験は、やはり選ばれた側である新井さんにも
少し話をしていただきたいと思いますが、一番大きな問題というのは先ほど神戸大学から
もお話があったように、実務経験のある方は、やはり大学の仕組みというのが全然分かっ
てない。
というか、たぶん大学の仕組みというのは、1回引かないと特殊な文化を持った世界な
ので、その文化が分からないというところが、やはり一番大きなネックといいますか、一
番問題が起こりやすいところだと思います。ですから、ご本人のやれる能力とやりたい意
思というのと、それから大学側のなかで求めている、
「これができる」
「これをやってほし
い」というところが必ずしもうまくマッチングしないという問題があったかなと思います。
このへんはリエゾンオフィサーでもある新井さんから少し。
山本(ファシリテーター) はい、よろしくお願いします。
新井(東京外国語大学) どのような人材を採るかということですので、採られた側とし
てはちょっと申し上げにくい。視点が少し違うかもしれないのですが、少しお話をさせて
ください。
まず、大学側ではないということで、どのような人材が私は同僚として欲しいかという
ことになるのですが、私は、元は経済、または中東地域研究から入って、経済、開発、そ
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して少し大学交換でいろいろプロジェクトをやったあと、この仕事をさせていただいてい
ます。どうしてもその関係で開発プロジェクト、ある意味、少し似たものがあると思いま
す。援助のお金があってそれをどう動かしていくか。どう有効にドナーの側と援助される
側をつないでやっていくかというその応用だと思います。
ある程度、延長でとらえてやってまいりました。考えるのですが、開発に限らずこうい
った政策の研究されている方や、あと高等教育のバックグラウンドがある方などはいいと
思いますが、何にせよ社会プログラムというのでしょうか。そういうのにかかわってこら
れた方に来ていただけると、私はすごく力強いなと思っております。
大学のことをよく知っているというのはもちろん大事なのですが、どうしてもドナーの
側と、お金を受け取ってプロジェクトを動かす側というのは、どうしても事情が違ってく
るのは仕方がない話ですので、そこで柔軟に対応できる方というのを望みたいと思ってい
ます。
山本(ファシリテーター) ありがとうございました。先ほど大林さんにお伺いするのを
忘れましたけども、採られる側の何か苦労話のようなのはありますか。
大林(神戸大学) 私はブリティッシュ・カウンシルのときに学術交流を促進するという
ような仕事をしておりましたので、その観点からアカデミックな方々との接点はありまし
た。ですから、大学というところに対して特別な先入観というものは持っていなかったの
ですが、やはりなかに入りますといろいろな見えないところでの苦労がありました。
特にやはり教員と職員という2重構造が、物事をさらに複雑にしているということを感
じました。ですので、外部の方が入るとすれば、大学のことを知らなくてもそれはおいお
い学んでいけるといいますか、数カ月すればいろいろ学んでいけますので、そういう細か
いそういうところまで見渡せて、調整を図れるような柔軟性を持った方がいいのではない
かと思います。
山本(ファシリテーター) それでは小山内さんには、いろいろな方がスタッフにおられ
ると思いますが、もし新しくまた人材を採りたいと思ったときに、どういう人を採りたい
ですか。
小山内(国際教養大学) さっき非常に荒っぽく本学の体制についてざっとご覧頂いたの
ですが、まず教務関係。ここがやはりどうしても外人の先生が半分いるということで、留
学生よりもたちの悪い苦情がやはり教員から来るわけです。それを受け入れるのは教務係
みたいのがあって、さらに待遇関係については秘書チームというのがあって、そこでいろ
いろ給与などもサポートしています。かつて教務の担当課長していた人が今、そっちの秘
書室長というほうに回ったのですが、その人が苦情を処理しています。
こういう人たちはもともとどこから来たかというと、この秘書室長とキャリア開発室長
2人は民間の金融から来られました。これはある意味で大志を抱いて給料が安くてもいい
ということで、こちら秋田の水準で相当給料が下がったのですが、銀行から来ていただき
ました。
あとは今の教務の担当は、固有名詞を言って申し訳ないのですが、関西外語大さんで働
いていた方で、そういう方は結構、即戦力で英語もしゃべります。あとほかに私立大学の
事務の経験者がもう1人課長級でおります。
あとは今、海外の大学との連携を進めている窓口の担当は JICA の OB です。あと学生の
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担当をしている方で、中堅幹部的な女性の職員が2人いますが、この方々はもともとここ
の大学が始まる1∼2年前まで、ミネソタ州立大学秋田校というのが同じキャンパスにご
ざいました。そこに働いていた方がお二人、ある程度の役職を持って残っていただいてお
ります。
そういうことでまだまだ人は足らないのですが、今例えば募集する職に応じてハローワ
ークなどを使えばいいポストと、それからリクルート系のネットで募集するポストと、あ
とは Japan Times など、英語のできる日本人の方は結構読んでおられますので、そういっ
たところに求人を出したりすることもあります。そういったかたちで使い分けて募集をし
ています。
また、国立大を退職される方もいらっしゃいますので、そういった方を文科省の人事な
りそういったところを通じて募集をするということも、これからは特に私たちのような公
立大や私学にとってはありうることだろうと思います。
下手に私学の OB を採ろうとしますと、やはり私学の多くは東京や京都、大阪などいい
ところにありますので、それなりに給与水準が高い方々です。それよりは国立大の管理職
ぐらい経験された方のほうが安く済んだりすることもありますので、国立大の方には申し
訳ないのですが、そういうことも今後は増えていくのではないかと思います。
以上です。
青山(東京外国語大学) 追加で少しいいですか。先ほどのリエゾンオフィサーの話をし
ていただきましたが、国際展開マネージャーの話を少しします。
当初、ハローワークなど、やはり大学のホームページで公募をするというかたちを取り
ました。17 名の方が応募されましたが、書類審査、面接をやった結果やはりどうも合わな
いと。われわれの大学で求めている人材ではないということになって、これは結局、全部
採用には至りませんでした。
それでその後、先ほどもちょっと名前を申し上げましたけども、ABIC という法人に人材
紹介を依頼しました。ここは 1,700 名ほどの方を登録しているそうです。やはり海外経験
のある元商社員とか、そういう人たちを登録しているところだそうです。ここから確か9
名の紹介があって、全員面接をして、そのなかから1名選んだということです。
本学 OB ではありますが、これはたまたまといいますか、結果的にそうなったというわ
けでありまして、別に本学 OB を求めたわけでありません。かなり試行錯誤しないといい
人材は得られないのだというのがわれわれの経験です。
山本(ファシリテーター) ありがとうございました。確かに人材の採用というのは本当
に大変です。一説によると、私立大学の事務職員というのは結構、人気職種だそうで公募
が少ないのかもしれませんけど、私が知っているだけでも幾つかの大学で公募をすると、
数十倍もの応募者が来るということで、これは国際に限らず一般的な私立大学のスタッフ
です。
そういうことですから、潜在的に大学で仕事をしてやろうという人は多いと思います。
あるいは現在、企業などで仕事をしていて少し給料が下がっても、大学で仕事をしてやろ
うとか、そうでなくてもいろいろ活躍をしたい人も多いような気がするのですが、さらに
人材育成に関して、あるいは人材採用に関して、皆さんから何かご意見があればぜひ。は
い、どうぞ。
90
山嵜(立教大学) 座ったままで失礼します。立教大学の山嵜と申します。よろしいです
か。
皆さんの大学にそれぞれあるのですが、国際教養大学様は公立学校法人ということで、
任期制を取ってらっしゃるということですが、私は私大の職員なので任期ではないのです
が、十何年か仕事をしている立場から見ると、任期制は非常に給料が上がっていくメリッ
トと、いつ首を切られるか分からないデメリットと感じるところもあります。
特に働いている方々のキャリアを積んでいくためのモチベーション。任期制のデメリッ
トをどのようにクリアさせているのかということが少し気になりまして、私たちは今、非
専任職員はやはり任期制で使わせていただいていまして、3年だったり5年だっだりする
のですが、そういった方々を任期が終わったあとも引き続き立教で働いてもらうためにど
うしたらいいか。ないしは任期が終わったらいなくなってしまうのではないかという不安
のなかで、仕事を覚えさせているところとの兼ね合いを少し今、苦慮していまして、ご経
験からいただけるアドバイスがありましたら、ぜひいただきたいと思ったのが1件。
あとにもありますが、先にそちらからでも…。
山本(ファシリテーター) では、せっかくのホットなところで、それではよろしく。
小山内(国際教養大学) 確かに任期制の場合には3年ごとではありますけども、通常の
ベースアップ以上に上がる可能性が高いということもあって、それはひとつの魅力であり
ます。ただ、ベースがうちの場合低いので、そこはある程度、我慢していただくしかない
のです。
あとは基本的にはよほどのことがない限り、ここで3年でさよならというのは、特に事
務職の場合は前例もありませんので、安心していただけているのかなと思います。
秋田のデメリットとしては給料が安いことですが、メリットとしては不動産関係が安い
ので、そういう意味で結構いい家に住めます。特に教員なんかで家を買ってしまったりし
ますと、やはりどうしてもいたいと。とにかく体の続く限りここで頑張るからいさせてく
れという、そういう方については多少、評価が低くても何らかのかたちで人道的な見地か
ら、何とか雇い続けなければいけないのかなと思っています。
テニュア制ということをやりますということは教員に対しては言ってきているんですが、
ただやはりアメリカ的なテニュア制のデメリットというのもよく聞きますので、そこが非
常に今、頭を痛めているところです。
山本(ファシリテーター) はい、ありがとうございました。任期制に対する対策はやは
り定住の意思を示すというところが大変大事なことでしょうか。それでは次の質問。
山嵜(立教大学) ありがとうございます。神戸大学様と東京外国語大学様それぞれに関
係することですが、外部人材の登用で今やってらっしゃるプロジェクトにどんどん前進さ
せてらっしゃるという話を貴重に伺いさせていただきました。例えばリエゾンオフィサー
や交流コーディネーターというお役職を、今後例えば内部職員から登用していく可能性、
またはそれを内部職員の方のモチベーションの効用に利用してくというような方策は可能
性も高く返答の措置があるのでしょうか。
山本(ファシリテーター) それでは東京外大、それから神戸大学の順番でひとつお答え
願えますでしょうか。
青山(東京外国語大学) そうですね。内部的に雇用するかどうかというご質問だったの
91
ですが、ひとつ本学で出している国際戦略のプラン自体に外部人材を活用していくという
ことをかなり強く訴えております。
そういう理念的な面からいえば、外部人材を使っていくことというにもわれわれ自身メ
リットを感じております。つまりやはり大学の人間では見えてこないものが、外部の人を
入れることによって見えてきて、それが大学の職務要因ですか。職員の能力をむしろ活性
化していくという、触媒の働きをしているという、そこにやはりひとつのメリットを見て
おりますので、そこは国際戦略のなかにも外部人材の活用というかたちで表れております。
ですから、理念的にいえばそこを大きく変えるということはないと考えております。追加
がもしございましたら…。
新井(東京外国語大学) 私は 2005 年の 10 月から働いていますが、定期的にということ
ではないのですが、ある程度の期間ごとに少しずつ仕事の重点が移ってきています。
私は最初のころ最初の1年半ぐらいの間にやっていたいろいろなプロジェクトを、本部
事業プロジェクトのなかのこのプロジェクトになってくるのですが、そこを私が結構引き
受けてやっていた部分を、内部の方がちょっと引き継ぎの方でやっていただけるようなか
たちになってきてはいます。私はちょっと新規開拓で別のいろいろなプログラムを立ち上
げたり、そういうかたちでやっていくようにして、継続性、あと持続可能性を探っていく
ようにしております。
山本(ファシリテーター) それでは竹下課長か大林さん。あるいは両方か。はい。
竹下(神戸大学) まず、国際化戦略本部事業の当初の計画では、この事業そのものが現
有人材ではこれから国際化をしていくなかでのプロジェクトを遂行する上で、内部に人材
がいないだろうと。そういうことで経費的な措置をすれば、外部から人材を採ってきてそ
のようなプロジェクトを進めていくことができるだろうと。そういうところから出発した
というところがございます。
おかげさまで大林が大変活躍をしてきているところですが、この計画そのものは人材を、
外部の人材が当初いろいろやってきたものを、その間に内部の人材を育てて、最終的には
内部の人材でもできるようにしようというところが大きな目標ではございます。ですので、
内部の人材にはコーディネーターの職務というものに対して、非常に魅力あるものだと位
置付けなければいけないと。これがキャリアパスの提示というところになってくるのです。
ところがご承知のとおり、国立大学法人というのは基本的には国の機関の制度をかなり
の部分で踏襲しておりますので、現在ある外部人材を登用する際につくった、これは神戸
大学が特命専門委員制度と呼んでいますが、そこの年俸制による俸給と、現在いるプロパ
ー職員のいわゆる普通の一般職の俸給表とはかなり乖離している部分があります。この部
分を今後どのようにうまく結び付けられるのかどうか。それがこの事業の広範の一番の課
題だと私は認識しております。
ですので、今後とも人事制度を構築している上で、例えば内部人材が育って国際専門職
になったら、あとはもう一生、国際専門職なのか。そのようにしていくのか、あるいはも
うやはりコーディネーターをしたあと、5年、10 年という例えばスパンのなかでしたなか
で、その後また普通の職をするのか。その場合にどのような問題が発生するのか。その辺
りを現在いろいろと研究しながら、今後どういうふうにしていくかということを考えてい
るところです。
92
山本(ファシリテーター) はい。大林さん何かありますか。よろしいですか。
それでは大体もう時間になってしまいました。当初の予定では私が多少まとめをしない
といけないということですが、全体会でまた報告させていただきますので、それにお任せ
を願いたいと思います。
いずれにしても人材は先ほど何人かの方もおっしゃったように、国際的な経験、あるい
は実務ができる方と、それから大学のことをよく知った方と。この二つのベクトルを十文
字に並べますと、両方ともできる人、国際性のある人、そして大学のことをよく知ってい
る人、両方とも知らない人と。この四つに分けるといったいどこのプールから人が採れる
かと。それによってまた人材育成のやり方もまた違ってくるのではないだろうかと、漠然
とした印象を持ちながらですが、ちょっと全体会でまた報告をさせていただきたいと思い
ます。
あらためまして今日ご発表の3大学5人の方に拍手をしていただきまして、これで終わ
りたいと思います。どうも皆さんありがとうございました。
金子(JSPS) どうもありがとうございました。これより休憩に入ります。次の全体会合
は3時 55 分から大ホールにて予定しておりますので、お時間までにお集まりいただければ
と思います。どうもありがとうございました。
(了)
93
分科会 B: 国際的な大学間連携及びコンソーシアムの活用
ファシリテーター
広島大学理事・副学長(研究担当)
二宮 皓
事例紹介
京都大学副学長、国際交流推進機構長
横山 俊夫
広島大学社会学研究科教授
西谷 元
横浜国立大学理事(国際担当)
長島 昭
二宮(ファシリテーター) それでは、テーマが「国際的な大学間連携及びコンソーシア
ムの活用」ということで分科会の B を始めます。
私はファシリテーターを務めます広島大学理事・副学長の二宮皓です。よろしくお願い
します。
この分科会のねらいはすでにご承知のことかとは思います。80 名の方がご参加いただい
ているかと思いますが、蛇足になってしまいますが、私から少しこのねらいを説明させて
いただきたいと思います。
特に留学生、研究市場、産学連携の市場でも、または取り組みにおいても大学間の連携、
あるいは大学以外の機関との国際的なコラボレーションが大きなテーマになっています。
しかしそれをどのように進めていいのか、ということについては大学間でも温度差があり
ますし、大学学内においてもそれぞれ温度差があるかと思います。またどのように取り組
めばいいのかということに対して歩きながら考えるという状況ではないかと思います。
ちょうど中学校の英語で 5W1H というのがありましたが、本日の国際連携の How とい
う側面はコンソーシアム型に焦点をあててコラボレーションについて考えてみたいという
点はしっかりしていると思います。
しかし、三つの事例を通しておそらくお感じになるだろうと思いますが、では W に関し
てはなぜそのようなことを考えるのか、また何のために何を考えようとしているのか、と
いうことにおいて、位置取り、ポジショニングについてそれぞれに違いがあるとお分かり
いただけるのではないかと思います。
そしてその違いがそれぞれの大学の国際戦略あるいは国際連携の取り組みに少しでもヒ
ントを与えてくれればこの分科会 B は大成功だろうと思います。午前中に 30 分京都大学の
副学長横山先生に京都大学の取り組みをご紹介いただいて、
そして残りの 12 時までの時間、
20 分ほどありますが、自由にその点について質疑をしていただくというかたちで進めて行
きたいと思います。午後は広島大学と・・・、私が司会をしながら広島大学というのもな
んとなく面映いのですが、私はファシリテーターに徹しまして広島大学のために何とか、
ということはまったくいたしませんのでご安心いただきたいのですが、フェアーにやりた
いと思っております。広島大学を客観的に見せていただきながら考えていきます。広島大
学は西谷先生、それから横浜国立大学は長島先生にご発表いただきます。大変ユニークな
取り組みのようになっているようです。
そして連続して午後もご発表いただいてその後 40 分ほど時間がありますので自由に質疑
をしていただきたいと思っております。そしてこの分科会のなかでどの程度まとめるのか
ということは、私自身定かではございませんし、何か一つのことについて共通認識を持と
うということでもございませんが、ただ全体会で私がこの分科会を代表して報告する義務
94
も持たされておりますので、その点は 10 分ほどの時間を与えられておりますのでまとめ方
については大変恐縮ではございますが私に一任いただければと思っておりますのでどうぞ
ご了解ください。
それでは、長くなってもいけませんので本題に入ります。では京都大学の副学長、国際
交流推進機構長の横山俊夫先生に京都大学の事例をご発表いただきます。
横山(京都大学) おはようございます。横山でございます。
大学の事例紹介ということで、こういう集まりに参加いたしますと、得てしてサクセス
ストーリーを語りがちで、私もつい話したいところですが、さきほど二宮先生がおっしゃ
ったように、この分野では日々新たに流動的なところがあり、振り向いてみれば積み重な
りがある、というのが実状です。
本日申し上げるのは、京都で試みていることではありますが、それは京都だけでは完結
しない、むしろ関係される各大学からもぜひご協力を願いたいという趣旨で展開している
ものす。協力というのはあることへの力添えのようですが、むしろ一緒になってつくって
いただける部分が広がるのではないかと思っております。
まず京都大学の理念について申し上げます。さきほど二宮先生がおっしゃったように、
なぜやるのか、どこに向かっているのかということは大事なことで、特に京都大学は歴史
的な経緯もあり、本当に自由奔放にそれぞれのところで活動しておりまして、群れたがら
ないというのが伝統でした。初めて全学規模の同窓会を平成 18 年秋にやってみたらあまり
人が集まらなくて総長の挨拶が「京大らしいですな・・・」と一言。それで会場は爆笑と
なったのですが・・・。
実は京都大学の基本理念、ミッションステイトメントを 2001 年に作りまして、そこでは
人の言う事を鵜呑みにしない学風あるいは自学自習ではなくて、対話を根幹としてそれを
支えるとしております。これが大事なのです。そしてもう一つ困ったことに、あるいは地
球社会の調和ある共存に貢献するという文言がありますが、公式の注釈が残っておりまし
て、地球社会とは人間だけでなく猿も花も山も川も空も地殻の中もすべて含まれていると
ありました。これは実はこの理念を作成するときに関係していたいろいろな研究者がそれ
ぞれの分野でのフィールドワークの想いを盛り込んだのですね。それで「地球社会」をど
う英訳したらいいのかと困りまして、単にグローバルコミュニティーといったら聞く人は
人間社会のイメージを抱きがちですから。この英訳を作るのに、放置していた期間も含め
て、5 年かかりました。しかし丁寧に作ると使い勝手がありましてあちこちでこれを説明し
ます。最初のころは、
「Oh, brave.」とか「You are mad.」とかいわれましたが最近は風向
きが変わってきまして、私たち自身にも影響が出てきております。
今大事なのは、ヨーロッパの歴史で言いますとルネサンスの頃と匹敵するくらいの時代
であるということでしょうか。人間の見方、そして自然の見方が根底から動き出しており、
それらの言葉はうっかり使えなくなっています。今、分化した末の細胞未分化の多能幹細
胞へのもどした、いわゆる iPS 細胞に関して新聞によく報道されておりますが、私たちは
本当に死ねるのでしょうかという疑問を持つ人が増えてくるでしょう。理想の医療とは何
かということは専門家だけが議論しても結論は出ません。分野を超え、国境も越えておお
いに考えなくてはならない。教科書に書かれていないことも考えるというのは私たちの仕
事ですから、少なくとも大学を挙げてやりましょう、ということになっております。
95
そして国際戦略といたしましては、4つの柱を立てています。まず従来の情報受信型を
軽視するわけではなく、それを充実させると。つまり聞き耳も立てるほどに言いたくなる
ということで、自動的に発信型が出てくるということです。
そして京都大学はマルチラテラルな交流もすると。一対一とは違い、やはり組み合わせ
の工夫が生まれてきまして、世に言う単純な次元で順番に並べてどこの大学が偉い、とか
言いますが、このようなことをやっている限り、いわゆるトップだけが明るく、まわりが
暗くなって、最後にはそのトップも疲れて顔色も良くなくなり全体が暗くなる。これでは
東アジアの伝統的な文明、アヤを織りなして明らかに輝くというイメージから見ても大変
貧しい。私たちがマルチラテラルな交流を唱える背景にはそういう思いがありまして、組
み合わせによってお互いの気づかなかったものが出てくる、ということをねらっています。
3 番目の柱は得意分野での国際展開。これは放っておいても動くのですが、しかし専門家
だけでは学会の中で我々は偉大だと言い合うだけにとどまりがちです。それではだめで、
人類がひろげてきた知識を今はどのように発展させようとしているのか、とうことをいろ
いろな人が国際的に議論しないとしっかりした位置感覚が生まれてこないですね。そのよ
うな交流のかたちを追求します。
4 番目はそれらの活動を支える体制、職員を含めての体制づくりです。
ご覧の組織図のようなしくみを作っています。一見ほとんど以前と変わりませんが、実質
は機動力の出せるようになっています。中ほどにある「全部局」というのが難物でした。
大学全体のことなど考えたことないよとの声が今も強いですから。その上にあります国際
交流委員会は以前は各部局の情報を調整するといいますか、部局から上がってくるものに
OK と言う程度だったのですが、学内全体を見渡す新しい戦略機構の運営委員会を核として、
また交流委員会には、事務職も増やし、コミュニケーション機能を強め、さらに実際に教
員のいる国際交流センターとタイアップして常に全学的な位置付けを明らかにしつつ事業
展開を図っていく。実務体制はこのようなかたちです。
そして今申しました 4 つの柱のうちの2番目と4番目を特に意識しまして University
Administrator’s Workshop というものを企画いたしました。アジア地域の大学国際交流実
務の担当者で実際に実務の責任を持っている人をお招きするということを始めました。こ
れまで 3 回行いました。研究のうえでのいろいろな交流は放っておいても進むのですが実
務家の交流というのは、これまでの研修を別としてあまりありませんでした。国内的には
ありましても、国際的にというのは珍しくて。お招きしましたら、部長さんや課長さんと
いう方もお見えで、私たちは会議で陪席はしてきましたが、自分で演説するのですかとお
っしゃる。そうですよ、と言いましたら、しみじみとたいへん意味のある発言が多くて皆
さん互いに感動いたしました。京大の場合は関連している国際大学組織は AEARU 東アジ
ア研究型大学協会、そして APRU アジア太平洋大学協会ですが、そのなかのアジア地域の
大学をお招きいたしました。さらに、京大が個別に交流協定を結んでいる相手校のしかる
べき方、それから戦略本部に採択された国内の他の大学の方々もお招きしました。
University Administrator’s Workshop が組織された背景の話を少ししておきますと、今
申しました AEARU は 17 大学で、この 1 月から京都大学が 2 年間議長校を務めるといい
うことで、ある意味ではこちらから提案したことに反応していただきやすい状況になって
います。そして APRU のアジア関連の地域の大学がご覧のスライドに挙がっています(参
96
照 P.213)
。APRU はかつては、30 いくつの大学から学長が年に 1 度の総会に集まって、何
となく紳士淑女の社交場という感じでしたが、このごろはそうではなく、それぞれの大学
のいわゆる good practice の報告もありますし、協力を求めるような発言もでてきます。研
究者交流や短期の学生交流も進んでいます。それだけではなくより継続的な研究活動もし
ようということで、シンガポール国立大学が中心になって、シンクタンクをつくっており、
京大はその理事を務めています。気候変動、public health、それから経済統合という 3 つ
の柱で少しずつ活動が実質化しています。もう一つ背景としましては、かつて京都大学が
いろいろと結んでいました協定関係を活用しようということで、京都大学国際シンポジウ
ムが 2001 年から始め、世界各地で開催してきました。今年で 11 回目と 12 回目を準備中で
す。ちょうど国際戦略本部ができました頃からですが、できるだけ大学をあげての行事と
しての性格を高めようと、準備段階から終わってからの成果の公表まで非常にていねいに、
関連の方々を、学内、学外を問わず巻き込んで徹底的に議論をしましょうと。さきほど申
しました対話の伝統ですね。特に、専門用語だけで通じる学会ではなく、一般の方々も招
くわけですから、何を言っているのかわからないということではいけません。発表のタイ
トルからも専門用語を外しました。最近発見されたクロロフィルの何かのタイプの何々性
について、という記号づくめの演題が出されたら、Why Chlorella is important ? に書き直
してもらう。かなり議論に時間がかかりますが、それなりのつながりが学内にできてきま
す。第 8 回は京都大学に 20 いくつあった COE のうちの 7 つを合体させた試みでした。こ
れはもう聖書創世記にでてくるバベルの塔の崩壊の話のようで、はじめはチンプンカンプ
ンで、お互いにあなた誰ですか、そんな人が京大にいたのですかと言い合っていましたが、
実施までにずいぶん仲良くなって出かけました。
このようなかたちでやりますと、かつてからの交流協定があったが、それだけで活動ら
しいものは何もなかったというのが、急に意味を持ってきました。学生さんを呼んでくだ
さい、ビラを撒いてくださいというようなレベルのことから、もう少し突っ込んで、今あ
なたの大学でこのようなテーマに関連してどのような動きがありますか、ではその方を呼
びましょう、そしてプログラムをまた作り直しましょうというようなことをやりますから、
はじめて協定のありがたみがでてきたわけです。このスライドも去年の分で、
「活地球圏」
というのは変な言葉ですが、ジオスフィアー(geosphere)です。いままでは気象学と海洋
学とそれからいわゆる geology、これらはぜんぜん別でしたけど、実は天地一体、まるで漢
代の説のようですが、それに社会学の人も入れまして、どのような連動があり、その上に
生きている人間の文化は実はどのような背景を前提にしているのかという話までもってい
こうとしたつもりです。バンドン工科大学の先生の中には目を白黒させられた方もありま
したが、私たちもかなり汗を流しました。
これらを背景にして、実際その場ですでに顔見知りになっている実務担当者、いわゆる
人文畑の方もあれば、研究畑、あるいは教育専任の方もおられますが、いずれにせよ実務
に責任を持っている方々が見えてきたということです。一回目ははじめてでもありました
ので珍しくて、お互いに general observation、特に MOU というものがいかに眠りやすい
ものであるかという嘆きが多かったです。二回目になりますと、実は一回目だけは京都大
学が招待しまして、旅費も出しましたが、二回目からはちょっと賭けをしたのです―旅費
は出さずに、滞在費だけですがいらっしゃいませんかと言ったら、一回目よりも多い数の
97
大学から人がみえました。二回目で印象に残っているのは、担当している職員同士のネッ
トワークをもう少し緊密にして、たとえば単位互換とか言っても実際それぞれの大学で行
われている教育の現場で、どのような質の教育がなされているかということを知らないこ
とには何もはじまりませんので、ネットワーク構築が大切であるとの意見交換が深まりま
した。もう一つは、これを支える人についてです。日本のみならずアジアはもともと公務
員型といいますか、役人の採用、研修、昇進という人事体系が大学にも多いものですから、
2,3 年あるポストにいたらまた移り、というのが通例。それが問題だということを互いに
言い出しますと、とめどなくいろいろなところから声があがりました。香港科技大とか韓
国科学技術院(KAIST)などははじめから設計が違いますので、少し事情が異なりますが、多
くの大学は人事異動体制と国際学術展開とのかかわりの危うさを問題にしました。
もちろん、アジア、アジアと言っていても、外の世界もセットで考えなければいけませ
んので、スライドの右上に写っているのはカリフォルニア大学デイビス校のこの分野では
かなり長いあいだ活動されている William B Lacy 先生です。下はミュンヘン工科の筆頭の
副学長をされていました Ernst Rank 先生です。ちょうどドイツ政府が、これまでの諸大学
に対するフラットな支援制度を変更しまして、いわゆるあの人たちの言葉で言うとエリー
ト大学という指定を始めましたが、その指定を最初に受けた大学の一つです。それで彼も
かなり力が入っていまして、キャンパス環境整備をはじめさまざまな提案がありました。3
回目は、実は 10 日ほど前に終わったばかりですが、ここでは 2 回目の経過を踏まえて、具
体的に担当者のネットワークをどのようにしてつくっていくかという突っ込んだ話が行わ
れました。
それから、研究をめぐる国際連携というのは第 1 回目のときが中心になりましたが、2 回、
3 回ときますと、やはり教育のほうに重点がシフトしはじめました。教育について本気で取
り組もうと思いますと、先ほど申しましたように職員の質もあれば、大学でどのような教
育が行われているかということを、外に向かって語りかけるためのきちんとした学事要綱
の作成、それも日本語以外での作成が必要になってきます。ですから、それによって大学
全体の国際化が動いていくという見通しが強くなってきています。同時に、国際交流担当
の専門職に就くような方はどのような資格、どのようなバックグラウンドをもっているべ
きか。たとえば、少なくとも職務に就くまでに学生時代に複数社会での生活の経験がある
とか、この大学で就職したいけれどもこの大学のこのような面が好きで、このような意欲
を持っていますということを作文してもらう。つまりいわゆる公務員試験とは違うタイプ
のリクルートもしなければいけないと。なかなか難しいことですが、キャリアパスもその
ようにして入ってきた方と、従来型の職員として採用された方といろいろあってよいので
すが、今はどうしてひとつにしたがります。そのような問題についても、ずいぶん突っ込
んだ議論が行われました。
共同での学位の交換が始まりますと、やはり互いの質が交換可能かということで、意味
のある評価の仕方について議論されました。特に 3 回目でお招きしたゲストスピーカーは
メルボルン大学の事務畑の経歴で今は副学長をなさっているエリザベス・バレ先生。この
方は日本の大学法人化の困難のようなものを 10 年ほど前にオーストラリアで経験されてい
まして、オーストラリアでは、かつては国から 7 割、8 割という予算があったところが、急
に 15%から 20%くらいしか予算がつかなくなった。そのときにどうしていくかというとき
98
に、方針としては積極的なキャンパスの国際化が打ち出され、留学生の数が 4 倍くらいに
増えたとおっしゃっていました。そのあいだに、それに対応する職員、教員も変わり始め
た。またオーストラリア生まれの学生ですね。オーストラリア、アメリカというのは、そ
こで生まれた方で外の国に留学したいという人が少なくて、それもまた問題です。それら
の課題がいわば地震源となって、全体に大学の改革への動きが出たという話をされていま
した。だいたい、事務サイドの職種につきましては 10 種類くらいのキャリアパスを準備さ
れていました。それぞれのなかで研修していくわけですが、途中で自分はマーケティング
に向いているとか、ブランドメーカーに向いているのでそうなりますと、動いてもよいと
いうお話で、たいへん参考になることが多かったです。私どもの機構のウェブにあがって
いますので、ご覧ください。
そしてもうお一方は、ワシントン大学で国際教育プログラム・オフィサーを長くやって
おられるプリシラ・ストーン先生です。この方は全米の留学生を海外へという大きな流れ
のなかで、かつてはいわゆるミドル・クラスの子弟が少数出かけていきましたものを、も
う少し大きなうねりにして、貧しい学生も、また皆が行きたがるところ以外のところにも
送り出そうと。行ってみれば素晴らしいということもありますので。最近の統計でも、ア
メリカ合衆国生まれで海外留学に出かける学生というのは 1%程度で、非常に少ないのです。
特に熱心に紹介された事例は、アフリカの都会以外のところに短期のグループ研修で学生
を引率するという、ずいぶんリスクもあるのですが、そのような事例をめぐるものでした。
一体、このような University Administrator’s Workshop を何のために京大はやっている
のかと思われるかもしれません。ひとつは私たちの夢がありまして、このような実務家の
連携がまだ始まったばかりですが、あそこにどなたがおられて、どのようなことに熱心で
ということが見えてきましたら、今から申し上げる「多言語教育 10 カ年計画」と連動して、
協力していただけるのではないかということです。理念的なことを申しておきますと、や
はり多様な言語によって成り立っている東アジア、あるいはアジア・太平洋域のスペース
で広がるサイエンス、学術とは何かということを考えるべき時代に私たちはいるわけです。
ひところはアメリカに留学して、流暢に英語が話せるようになって帰国し、英語で論文を
書けば万歳ですというのが多くありましたが、やはりサイエンスは文化の一部です。テク
ノロジーはましてそうです。具体的にそれを適応しようという人間社会それぞれに個性が
あるわけでして、母国語を捨てたサイエンスは、ある意味で借り物であり続けて、クリエ
イティビティに乏しいだろうと。それで多重言語で学んでいこうと。同じ知識でも人間に
とって持つ意味にはどれだけの幅があるかということは、学生時代に学び考えながら深め
ていかないと、いよいよ危ういという時代でもあります。サイエンスはいくらでも力を持
ちますから、放っておいてよいというのは文明を理解しない考えです。ただ、専門家自身
はとても忙しくて責任も取れないというのが世界中の現状です。要するに産業革命以降、
そして 19 世紀の末からの科学革命といいますか、いろいろなパラダイム転換が起こり、生
命科学は 1950 年代から 70 年代にかけてたいへんなことになっているのはご承知のとおり
です。それらは比喩として石油でいいますと、原油と言いますか、クルードです。荒々し
くて、粗野なのです。これは人間社会を構成する知識の位置が決まるまでには、まだまだ
プロセスが必要です。それはまだ uncivilized なのです。京都大学の学生をどのような人間
に育てたいかというときに、ここに書きましたように internationally learned and civilized。
99
civilized というと、人間だけの社会のなかで礼儀作法ができている人を意味するかのよう
ですが、そうではありませんね。東アジアで言う文明は、宇宙的な意味の調和にもコミッ
トするものです。そのようなことを考えています。
そしてやや野心的ですが、2011 年くらいを目処に、今は大学院では英語だけでやってい
るところもかなりありまして、シラバスにも英語だけで学位が取れますとしているところ
もありますが、それは全体ではありません。英語による教育というところは国際教育プロ
グラム KUINEP があるのですが、それは過去数年、10 年近くやってきて、いろいろと失
敗をして、批判もたくさん受けました。近年は、少しずつ改良を重ねて、これからの大計
画の基礎となりそうです。問題はこの短期プログラムは、基本的にたとえば英語、フラン
ス語、中国語で講義をやってくれる人と言って、手をあげた人だけがやるところにありま
す。この方式では、体系だったカリキュラムとして成り立ちません。ちぐはぐで、学生さ
んにとってたいへん気の毒です。何を勉強したかと本国に帰って説明したときに、あれも
やりました、これもやりました、日本文学もやりましたし、数学もやりましたではいけま
せん。そこで考えましたのは、来年からやってくださいといったら皆が引きますが、3 年後
にやりたいという志があるかというかたちでゆるやかな情報収集を行い、それをベースに
カリキュラムをつくり、準備のための手当てもしようと。ということで、10 年後の 2018
年、30%のあらゆる教育を外国語でということを考えています。
今、申しました KUINEP、Kyoto University International Education Program と言っ
ています。そこに限界が書いてありますように今までに 20 くらいのコースが毎年あります
が、教員のほとんどがネイティブ・スピーカーではありませんので、もどかしくて、よく
分からないと。話しているほうは、私の言うことがわからないのか、内容をもっとしっか
り考えろといって居直ったりする。これではよくないと。これについても、例えばこのテ
ーマなら海外のあそこの教室でやっているあの先生と私が、母国語は英語ではないけれど、
それぞれ連携を取り合って、2 つの画面を見ながらやればお互いに補い合うと。あるいは
TA の学生さんが何人かいて、いろいろな言葉で言いなおしてくれるとか、そのような工夫
をすれば、これまでの経験はプラスになるだろうと思っています。
この部屋でもそうですが、この部屋はだいたい 19 世紀型の教室で、高い壇があって、一
方的に話して、聞くほうは…、ここはすこしイスが馬蹄型になって隣の人の顔が見えると
いうだけプラスですが、もう少し違う設計も必要かと思っています。これが実は 10 カ年計
画のアイディアで、非常に荒っぽいですが、このような International Student Exchange
Program Officers(ISEPO)のネットワークをつくらなければなりません。先ほども言いまし
た administrator’s の集まりが背景になって出来上がってくるはずなのです。それぞれの大
学できちんとした、顔の見える、経験がたまっていくタイプの組織があって始まることで
すが、シラバスを調整したり、本当にあの大学とこの大学をイコールで結んでいいのか、
あれは外したほうがいいのでは、などといった事柄をざっくばらんに話し合える信頼関係
があってはじめて、プログラムが実現できる。そして問題は、ここに書いておりませんが、
これをやろうと思ったら、このなかのネットワークだけではいけないので、どこかで質を
維持するための評価組織も共同でつくらなければならないと思っています。
International Student Exchange Program Officer’s Network。はじめはイセポン
ISEPON と言っていましたが、響きが悪いので ISEPO ネットワークというようにしまし
100
た。まだできていませんので、どうかご意見をお寄せください。ご参考までにですが、た
とえば「文明史」というテーマがありますが、先ほどから触れていますように civilization
の言葉にはルーツとして politikos とか、civitas とか古代ギリシア・ローマ以来のひとつの
安定した政体を意味する観念はありますが、ルネサンス以降はだいたい人間中心の civility
を核にした観念になっています。ですから、ハーバードのあの方がおっしゃったように
crash of civilizations ということになる。本来、wenming とか、bunmei というのは天地と
調和していますから、クラッシュするということはないのですが、あちらは大いに戦争も
ありうる。このような観念の違いがあります。古代中国で『易』とか『尚書』に文明とい
う観念が使われましたが、その宇宙調和的な意味がよく残っているのは、むしろ韓国の
moonmyong という言葉かもしれません。日本の評論家が文明と使うときは非常に機械モデ
ルで、高速道路がついて、インターネットが普及をしてというイメージで語りがちですが、
実はもう少し大きな意味があります。このようなことを本気で議論するときに、先生が 3
人くらいいて、工業文明は…というようなことを言ったら、ちょっと待ってください、ど
のような意味でおっしゃっていますかと誰かが言うと。このような対話を複数のキャンパ
スの学生さんも聴く。
Evolution というのは、明治日本の学術の影響で中国でも長らく「進化」を使っていまし
たが、この漢字言葉では、物事がよくなっていくという色がつきすぎます。近年の遺伝子
研究によれば生物種は分化していくだけであって、もともと揃っていた DNA のどの部分が
発現するかで決まると。そうであれば「天演」という漢語のほうが今の知識にかなう)
。こ
のように今の科学が見つけてきた知識を足すと、漢字の使いかたも変わってくるという気
がします。そのようなことを講義するときに、このスライドでは核の部分は英語でやって、
ここで、タイの先生、中国の先生が訳語を解説する。つまり中心部は、語彙を共通にして、
基本はこれで教える。そしてそれぞれのところから文化の厚みを出し合えるような教室を
設計してみたらどうかと。これは、どのような分野がこのような方法に適しているかとい
うのは十分に検討しなくてはなりません。日本で一番困るのは先端を追いかける科学は多
いですが、その分野の、たとえば土木史を語れる教授、植物学史を語れる教授はなかなか
きちんとした処遇を受けておられないことです。それぞれの学術分野の歴史展望を語れる
先生が意識を深く持った先生が協力くれるというのが、ひとつのアイディアですが。そう
すると先端を走っていて、教室でこれをやりなさいと言われ、朝から晩までずっとデータ
だけを読んでいる自分が、何をやっているのかという位置感覚がわきますから、創造的な
力もここから生まれてくると思うわけです。
ご覧のスライドは、IT の専門家が考えた、どこで学生が眠っているかというのを国境を
越えてぱっと分かって、反応できるという意地悪な設計ですが、この方々も私たちが考え
ている教育の内容とあまり関係なしにこのような設計をします。これが互いに寄っていか
なければならないのです。遠隔講義は今申しましたようなプログラムですと、かならず必
要になってきております。ところが、問題は IT の方々はこのようなことができますよ、あ
のようなことができましたと言われますが、何をやるべきかは議論の外にありがちです。
ローテクでもよいので、このような図面を出し、このような図像さえ映ればよいのだと。
双方向の対話があるのが望ましい場合、なくてもよい場合もあるということを、教員との
連絡を密に理解していただく必要があります。そして、administrators もころころと人事
101
異動があって、ノウハウが全然貯まらないというタイプで運営されては困りますから、一
体としていかなければなりません。
おまけに、このような教室にしますとどうしてもキャンパスを越えて広がっているわけ
ですから、わたしはこのような教育を受けて、このような資格をとって、且つこのような
知識についてさらに深めたいという学生が来ます。やはり、その希望を適えるようなかた
ちのプログラムを、それだったらあの講義を受けて、この講義を受けてとか、こちらには
留学もしてというようなことをテーラード・メディスンでなくて、テーラード・エデュケ
ーションが出てくるだろうし、そうしないと満足しませんし、こちらも教えていてくたび
れるだけでは困ります。ですからスライドの下に書きましたように高等教育は多様化して、
単一キャンパスで完結するとは思わないほうが、はるかに文明であり、明るいということ
です。
そして先ほど申し上げました地球社会ですが、日本学術振興会の各位は日本の学術全体
の国際的プレゼンスの強化について考えておられますが、同時に分単位の競争とは別に地
球社会のメンバーとして望ましい学術展開のありかたということでは、古典と歴史という
ものをいろいろな分野にはめこんでいくということも大切ではないかと考えます。二宮先
生もおっしゃったようにポジショニングというのは大変大事なことだと思います。そして
ナマのものに触れて新しい言葉を生み出さざるを得ない状況の研究の推進ですね。世界水
準という場合も、単純なはやり廃りで語るというのでは疲れるだけです。何が良いかとい
うのはあるグループで同じような人間が集まりますと、
「これは世界水準」とか言い合いが
ちですが、本当はそうではありません。一体これが人類史の中でどのような意味を持つか
ということは、専門家だけでは決められません。誰か英雄的個人が手柄をあげている某大
学が素晴らしい、などという言い方ではなく、諸大学の組み合わせによって間に生まれて
くる新しいアイディアはたくさんあります。そのようなことを考えながら、言語意識、文
化意識をキャンパスを越えて広げて行く、というようなことを思っております。どうもあ
りがとうございました。
二宮(ファシリテーター) どうもありがとうございました。
それでは、およそ 12 時若干過ぎてもかまわないと思いますのでご発言・ご質問いただき
たいと思います。ご発言いただくときには、記録の関係もありますので所属と名前をはっ
きりと仰ってください。
高田(JAFSA 事務局) JAFSA の事務局の高田と申します。JAFSA というのは大学のネ
ットワークで現在約 200 の大学に入っていただいております。ISEPO という面白いお話あ
りがとうございます。この計画というのはとても面白いとお思いますが、これを実行する
ための一つの困難な点としては、先生も仰いましたが日本でも見かけられるローテーショ
ンの速さ。国立の場合でも2年から3年で他の部署に変わってしまう。私立の場合だと、
例えばここの部局の人事は自分が握っているから動かさないといって、ある程度英語もで
きるそれなりの人を採ることもできるかもしれませんが、国立大学法人の場合はそれが難
しいと聞いておりまして、それがネックになっているということがあると思います。この
あたりのことをどのように解消して ISEPO というものを実際にマーケットとして流通さ
れるのは一番いいのかということをお聞かせください。
横山(京都大学) これは分科会の A でどのような議論が進んでいるのか興味があるとこ
102
ろですが、一つは引継ぎの仕方ですね。一人の人だと3年いて次に替わるという時も前任
者と職場が重なる時期をなんとか工夫するとか、引継ぎも失敗経験の伝達をもう少し丁寧
にしていただかないと次の人が同じ失敗を繰り返します。私たちのように教員は継続的に
つきあっていますので、横合いから嫌われながら意見を言い続けないといけないというこ
とがありますね。オーストラリアの場合は半分以上は企業から人事をしているといってい
ましたが、そのような人たちもヘッドハンティングによくあい有能であればいつ外へ引き
抜かれるかわからない、ということでプレミア付きで雇用しているということもあるよう
です。ですから日本の場合はどのようなかたちが理想なのか見えてきません。国際交流推
進機構は国際戦略本部ですが事務職員の人事に口出しし始めたら今までとは全く雰囲気が
変わってしまうでしょう。大学の運営の会議でも、そこまで言いますか、と問いただされ
ます。私としては慎重になりすぎずに声をあげてゆきたいところですが。
かろうじて動き出したのが特定職員という制度です。専門性の高い方を雇う場合、若い
時からずっと中にいて、というよりこれまでとは違うかたちで採用していますね。
ただし総務、人事担当者は全体のバランスや波及効果を考えますから、この制度は一方で
は非常に給料も良いです。かつてどこかの大学で部局長されていた方もそこに入ってこら
れるぐらい額には上下の幅があります。他方任期があり5年で終了、再任なしというかた
ちです。それはいけませんね、といっているところです。少しずつ変わりだしたというこ
とです。実際その枠で来た外国籍の方も有能で素晴らしい役割を果たしています。だんだ
んと学内の認識が動き出していると思います。
二宮(ファシリテーター) よろしいでしょうか。何かご自身のお考えがございますか。
今ご質問いただいた方。
高田(JAFSA 事務局) この1年を見ておりますと、今5年間と仰いましたけど専門の方
を雇われてもその後のキャリアパスや、結局中で育てようとしても専門バカみたいになっ
てしまい、周りはどんどん代わっていき、その人がいないと何もできないという弊害もあ
る、というところでいかなるコンペティティブな状況でありつつキャリアパスを形成でき
るかというところが問題だと思います。
横山(京都大学) 重要なご指摘ですね。京都大学のひとつの特徴は「よく喋る大学」と
いうことでして、国際交流課に関しては独りで孤立しているということがないように気を
配っています。特に新しく来た人にはその方の出勤時間に私たちも行きましていろいろな
ことを頼みます。秘書室からや人事部からとか。これを英語で訳してとか直してとか。し
かし、そのような便利屋をさせてはだめですよと私が交通整理を半年ほど行い、だいたい
広がっていいきました。特に COE などで潤沢に予算があるところは自分のところの研究成
果でも、サイマルとか有力な翻訳会社にボンとお金を出して、あそこはかなりいいクラス
の翻訳者がいるからいい英語になりました、ということをやりますと内容がものすごく荒
れます。この単語は複数か単数か、may なのか might なのか、ということは原著者と一緒
に考えなければならないということです。大学の英文公文書作成も同じです。訳者プラス、
もうひとり素人がいて、分る人が横にいてやっとわかりやすい文書ができてくる。こうい
う共同作業ができる人が大事です。そのようなタイプの文体を目指す学術誌を最近京大で
作っていてこれを海外に送ると、海外からの返事では、
「日本から来る英語の出版物でもこ
れは置いておきます」という感想が来て驚いたことがあります。だいたい捨てているのだ
103
なと思いました。要するに引用できないのですね。しっかりと作っていないのは一目でわ
かるので。
二宮(ファシリテーター) ありがとうございました。他の側面からの質問があれば。関
連でも結構です。
安孫子(法政大学) 法政大学の安孫子と申します。ご講演ありがとうございました。基
本的なことで恐縮ですが、京都大学は東アジア、アジア太平洋というそれぞれ地域を限っ
たかたちという今の戦略のお話をうかがいましたが、この選択自身の意味をうかがわせて
いただければと思います。
横山(京都大学) 今の ISEPO については、主として近隣の大学から始めていこうと。太
平洋を越えて西海岸は時差でいうと相当な距離です。ですから双方向で教室を運営できる
のは、これは実験済みでして5年間ほど NTT の協力を受けて行いましたので。ただし他を
無視しているわけでは決してなく、アフリカは特にいろいろな付き合いがあります。ヨー
ロッパは個別にはかなり・・・。なお大学全体としてはどうするのかというのはこれまで
はウィーンやパリなどいくつかの大学とは定期的な交流をしていますがもう少し幅を広げ
て全体を見直している最中です。今日は話には出さなかったのですが・・・。その部分に
関しては空白ではなく流動的な状態です。
特に今気にしているのはニューワールドとオールドワールドという分け方がよいかどう
かは分りませんが、京都の漬物みたいな、蓋を開けたら、においがたってくるよという大
学もたくさんありますので、そのような所ともう少し深く付き合えば思いがけない新しい
こともでるかもしれません。ですから目的も組織も分りにくいけど複雑なところへも輪を
拡げて行きたいと思います。
京大の教員もずいぶん寄付してつくった京都大学教育研究振興財団がありましてそこか
ら派遣したり招いたりする費用が出る場合が多いのですが、その使い方も学位取得後のあ
まり忙しくなく将来性のある人を中心にして動かそう、ということで少し再検討が進めら
れております。
二宮(ファシリテーター) 他にどなたかご質問ございますか。
溝口(東京理科大学) 東京理科大学の溝口です。本日のご講演ありがとうございました。
聞いた中で質問させていただきたいのですが、話の内容がかなり全学的な取り組みとして
様々な活動をされているようにうかがえますけども、組織図を見た場合、先生も国際交流
委員会の従来のあり方のなかでどちらかというと議案を承認するような位置づけのなかか
ら考えられていったとのことですが、いわゆるこのような取り組み全体を議論して推進す
るというのはこの組織の中では機構長としてこの取り組みをされる人たちがこの組織の中
でいるのか、ということが一つです。
もう一つは実務責任者の取り組みをされていますが、実務を行う事務職員の方からこの
ような発案というのはおそらく出てこないと思います。そのようなことをこの組織の中で
議論する場をどのように設けられているのかをお聞かせください。
横山(京都大学) ずばりと矢が飛んできて的に当たったようです。実は両方とも苦労し
ているところです。
国際交流推進機構ができて私がその代表をしておりますが、併任なのです。所属、部局
での入試や学生の論文指導など行いながらですので大変辛いです。委員会という組織は何
104
度やっても委員の皆様にはチャージがかかりにくいのです。委員となれば処遇も変わり専
念できる時間をも確保できるようなシステムを考えてくださいと言っておりますが、これ
に関しても全学にたくさん委員会がありますのであちらもこちらも手を挙げたら財政的に
破綻します。機構の運営委員や事務職の方々とは月に1、2回は、長時間にわたりざっく
ばらんに議論しあって、それも食事やお酒とともに思いの丈をという機会を増やしており
ます。その中で、普通のオフィスアワーで1時間以内の会議ではとてもおっしゃれない事
が出てきます。
しかし制度的にはまだまだ弱いです。制度的にうまくできたら、いけるかどうかもわか
りません。人間の問題、組み合わせの問題でもあります。世界中の古い大学でこのような
対話の工夫をやってきたのかな、と思いますが。外に向かってはスカッとした話をしがち
ですが、現場はそうでありませんから。
溝口(東京理科大学) そのような発案はそうなると学長、副学長などある程度ポリシー
を考える方のなかで議論されていると、それを全学的に興そうという取り組みになるので
しょうか。それとも下から…。
横山(京都大学) いろいろです。まったく上下左右、いろいろです。できれば役員会の
ほうではさらに強力に、この場でこのような事を言ってはいけないかもしれませんが(笑)、
ということがあってもいいと思います。この ISEPO の話は京大の総長がこれで行きたいと
言ってくれたのでかなり市民権を得て動き出しています。
二宮(ファシリテーター) もうひと方、手が挙がっていましたので。
宮崎(東京外国語大学) 東京外国語大学国際学術戦略員の宮崎と申します。実は先ほど
のご質問が私の聞きたいことでしたが、もうお答えになったので少し違う観点からご質問
したいと思います。
このコンソーシアムというのは先ほどおっしゃいましたが外につくって、いわば広報効
果をねらうというものがあると思いますが、つくり方としてはすでに進んでいる MOU で
あるとか、共同研究をしているとか、そのようなことをベースにしてコンソーシアムをつ
くるという場合もありますし。逆にコンソーシアムをつくったから初めてできる、という
こともあると思います。アドミニストレーターズの集会はまさに後者にあたるものとして
非常に面白いと思います。そして先ほどのご質問にありましたが、ではつくったから何が
できるということをどのように考えていくかを我々はかなり頭を悩ましているところです。
その体制についてどのように組んでいるのかということが第1点。それからコンソーシア
ムに関しては我々も進めておりますが、はっきりとした専属のコーディネーターをつけな
いといけないと思っております。京都大学の場合はどのようなことをなさっているのか、
ということが第2点です。それから実際に動かしていく場合、海外の機関がどのような態
度をとってくるのかを話しているうちに温度差があると思いますがそのあたりについて何
か実例がありましたら教えていただきたいと思います。
横山(京都大学) おそらく三つとも一つの質問と私なりに解釈させていただいて答えま
す。私が今心に留めているのは、あまり硬い組織にしないということ。メンバーシップが
どうで、というコンスティテューショナルなことは今のところ考えないようにしておりま
す。すでにあるものに関してはよく見渡せば同じメンバーであってもテーマによって温度
差は大いに変わります。ですから、2∼3年付き合っている間にあそこにいるあの人なら
105
…となり、緩やかにもともとあるバックグラウンドを利用させてもらいながら動かすとい
うことです。全く新しい場合、今見えている University Administrators Workshop も、特
にそこの国が大いに大学行政に介入するタイプの国の場合は、学長が来て OK としてもま
た変更をせまられることもありますし、とても難しいことがあります。しかし基本的には
人間のつながりで進める、という意味ではルーズです。ただし面白くなかったら止めたら
いい、ということです。コーディネーター1名、ではいけないと思います。最低3名はな
くてはいけないと思います。やはり日本の場合は批判すると友情が崩れると思い込む場合
が多いのですが批判しあうのが国際的には友情の基本なので、ある程度ルールを共有でき
るようなコミュニティをまずつくっていくことが基本だと思います。
二宮(ファシリテーター) よろしいでしょうか。それでは5分もオーバーしており昼食
の時間に食い込みすぎてもいけませんので、これで持って午前の京都大学の事例発表は終
わりにいたします。横山先生にもう一度拍手をお願いします。ありがとうございました。
二宮(ファシリテーター) 席の方にお戻りいただければと思います。プログラムの進め
方の変更をさせていただきたいと思います。午後は二つの事例をご発表いただいて、まと
めと質問と思ったのですが、それぞれのところで 20 分ずつ質問していただいた方がより議
論も深まるだろうと考えますので、最初に広島大学の事例を西谷教授にご発表いただいて、
20 分程度質疑応答をし、次に横浜国立大学の事例を長島先生にご発表いただいて、質疑応
答をする。終われば私自身が若干のまとめをするかどうかは別にしても、それで全体会に
移るということで進めていきたいと思いますので、ご了承いただければと思います。では
広島大学の西谷元教授に広島大学の事例として、ご覧のテーマでご紹介をしていただきた
いと思いますので、よろしくお願いいたします。
西谷(広島大学) ただいまご紹介にあずかりました広島大学の西谷といいます。本日の
発表内容としては、コンソーシアムを利用した国際的な大学間連携、またそこにおいて広
島大学が今からご説明する INU、International Network Universities という、この国際
的なコンソーシアムでいったいどのようなことを行おうとしているのかについてご説明し
ていきたいと思っております。
まず、この INU がどういう大学から成っているのかということですが、ごく簡単な地図
の上に大学名がマッピングされています。このように現在では 11 の大学から構成されてい
ます。実は 1 月までは 12 校から構成されていたのですが、スウェーデンの一つの大学が脱
退するということがありましたので、現在では 9 カ国 11 校から構成されています。
これが全体としてどのような目的を持ち、またどのような構成になっているかというこ
とは今からご説明しますが、見ていただいたらわかりますように、もしかしたらあまり聞
いたことのないような大学も含まれているかもしれません。というのは、この INU は、オ
ーストラリアの二つの大学、La Trobe 大学と Flinders 大学の学長が飛行機で同席したとい
うことから始まっていて、最初は学長、副学長レベルでのかなり親睦的な集まりで、最初
の数年間は際立った活動はありませんでした。しかし、徐々に事務レベル、また教員レベ
ルでのいろいろな内部組織が作られるようになってきておりまして、現在では INU 全体と
してここに挙げているような、非常に抽象的な目標を掲げるものではありますが、憲章と
いう文書を有する組織になっています。
INU は憲章というものも作られたようなかなり硬い、一定の基礎を持った組織にはなっ
106
ています。しかし、このような目的が書かれていたとしても、実際には何が行われている
かというのはまた別になってきますので、そういうことも少し具体的な話としてお話して
いきたいと思います。
組織レベルとしては、ここに挙がっていますように、総会・理事会といった学長・副学
長レベルの会議が年二回、春と秋に開かれます。ここではトップレベルの意思決定が行わ
れます。単に話し合うということではなくて、今から説明するように、いくつかの分野に
おいて、実際いくつかのプロジェクトが動いています。セミナーであったり、ダブルディ
グリーであったり、職員の相互訪問やトレーニングであったり、このようなプロジェクト
が動いていますが、そのようなものをボトムアップで挙げていったとしても、結局財政的、
あるいは様々な制限等があってうまく動かないことがあると思います。
そういう点で、この INU の組織ではまず学長・副学長レベルでそのようなプロジェクト
を承認して、下半分に示してありますようないくつかの下部組織が実際の活動を行うこと
により、効率的に目的を達成することがてきていると思います。これらの下部組織は INU
が行っている各分野によって必要な時に作られます。
この INU 全体の活動として、先ほど挙げましたような抽象的なものではなくて、具体的
にどのようなことが行われているのかといいますと、同レベルの大学間での連携を図ろう
と考えています。
現在 11 校ですが、最大でも 20 校くらいまでしか増やす予定はないということが、理事
会・総会の中で認められています。またこれは参加したいから参加できるというわけでは
なくて、参加を希望し、また他の大学等がそれを認めるということによって INU に参加す
ることができます。そして一旦入ったとしても、活動に十分参加できないような場合には
理事会・総会からの発議によって脱会を勧告するということを行ってきています。
今まで、自発的に辞めていった大学もありますし、また活動しないので辞めていただき
たいという形で辞めていただいた大学もいくつかあります。ですから、かなりの入れ替わ
りがあります。今回スウェーデンの大学が脱退しましたが、この大学は熱心に INU の活動
に参加してきた大学ですが、大学の組織全体が改変されるということがありまして、現在
は脱会したい、しかし体制さえ整えばまた入りたいということは言ってきておられます。
その他、地域的なバランスも考えて、現在のところ探しているのが、メキシコやアメリ
カ西海岸、またはハワイ、アフリカ、またヨーロッパからもう一つくらいと考えています。
また中国が結局脱退、または脱退勧告等を受けて今ゼロですので、そこからもということ
を現在考えているところです。
後で少しお話しますが、これを 1 年間の会費を払って、その会費で共同的なことをやっ
ていこうと考えて動いてきています。INU の下部組織として活動している、INU Masters
meeting や Research Steering Committee の内容についてはまた後でお話をしていきたい
と思います。
現在事務局は La Trobe 大学の副学長、ここに写真を載せていますが、真ん中の Bob
Goddard 氏が務めています。その他常勤として二人の秘書が、その時間の一部を INU のた
めに使っています。もう一人フルタイムで、この INU だけを所掌するプロジェクトマネー
ジャーというものが先ほど少しお話しました、各大学からの拠出金に基づいて雇われるわ
けですが、去年の 3 月か 4 月になって、その当時のプロジェクトマネージャーが家庭の事
107
情で辞任されましたので、その後空席になって、現在公募中になっております。各大学の
中から誰かということで回覧などを回したのですが、いなかったので、現在はオーストラ
リアの新聞で公募をかけて、たぶんこの一月か二月の間に新しいプロジェクトマネージャ
ーが選ばれる予定になっております。
このプロジェクトマネージャーが INU の様々な活動に関する書類の作成、いろいろなミ
ーティングのアレンジからプロジェクト同士の相互関係の調整、また各大学との連絡全て
をやってきています。やはりこのようなある程度の組織になりますと、どこかが中心にな
って、実際の日々のいろいろな書類や連絡等をしない限りはなかなか動かないと思います。
その点、INU は今から 4 年ほど前だったと思いますが、プロジェクトマネージャーを初め
て置いて、それから活動が非常に活性化してきているということが言えると思います。
これに対応して、広島大学ではどのような組織を作っているのかといいますと、国際戦
略本部の元に INU を所掌するような委員会組織が設けられています。私はここで、この
INU を実施する部会の委員長という立場で発表させていただいております。
国際戦略本部は INU 以外に海外拠点の利用でなど様々な活動を行っているのですが、そ
の活動の一つとしてコンソーシアムを利用した国際的な戦略展開をしているということに
なります。INU を使って実際何をしているかといいますと、皆さんが興味をお持ちになり
そうなものとして、三つ図の下の方に挙げてあります。
活動の一つとして、他の部会でもやっておられる、ダブルディグリープログラムの開発
を行っています。また職員の養成、そして WebCT を使った遠隔教育というものも INU を
通じて行っているところです。
職員の養成はあまり組織立ったものではなくて活発には行われておりません。後のダブ
ルディグリーと WebCT 等については次にまたご説明します。ここでは少しだけ職員養成に
ついてのことを簡単に触れたいと思います。職員養成は、シャドーイングプログラムとい
うものが中心になっています。これは各大学の職員レベルの人が手を挙げて、他の大学で
こういうことを研修したいということを言いますと、他の大学がホスト大学としてその人
を一週間、二週間、これはプログラムによって違うわけですが、そこの実際の職場に入っ
てずっと横に付いて全ての仕事を一緒に行っていくということをやっています。これをし
ますと、単に説明を聞くというだけではなくて実際にどのような会合でどのような発言を
し、またどのような書類を作ったり、ネゴシエーションをしたりするのか、ということが
まさにシャドーイングという形でできるということで、実際オーストラリアの大学がこれ
までいろいろなレベルで、例えば副学長レベルや研究課長レベルで、成功を収めてきまし
た。それでそのようなことをこの INU の大学間で行いたい、行ったらいいのではないかと
いうことで、実際このプログラムを走らせてきています。広島大学もホスト校になったこ
ともありますし、また送り出したこともあります。
教育に関するものとして、ダブルディグリーコースの開発があげられていますが、もっ
と大学間で協力を行おうということで、教育以外の研究レベルにも幅を広げようとしてい
るところです。
教育については、当然様々な分野というのがあり得るわけで、そうしますと、幅の広い、
理系から文系、社会科学系まで実際どのような分野で協力を行っていくのかということに
なりますが、広島大学と、国内でのコンソーシアムに入っているもう一つの立命館大学、
108
そして他の大学で合意をして行っているのは、平和分野、平和学や平和教育の分野に現在
のところ集中して活動を行ってきています。ですから、この真ん中の教育のところに挙が
ってきていますダブルディグリーコース、WebCT、そして国際学生セミナー、これらは全
て平和関係に特化した形で活動を行ってきています。
これは広島大学、広島ということからおわかりになると思いますし、また立命館大学も
平和というものが教学理念であるなど、共通点として有しています。そういうこともあっ
て、海外の大学もこの問題について共同してやっていくことに合意をして、現在では平和
分野についていろいろな活動を行っているところです。
まずダブルディグリーコースですが、これについて説明するのが本部会の本来ではあり
ませんのでごく簡単に触れておきます。この分野については、本年度から国際的先端連携
に関する文科省の補助金をいただきまして、様々な開発を行っているところです。これは
各大学がこの修士プログラムに科目等を提供して、立命館、広島の大学院生が海外の大学
に行って最低二年、実際には二年半から三年はかかるかもしれませんが、双方の大学から
学位を取るというようなプログラムを作ろうとしています。
相手校としてオーストラリアの大学が 2 校含まれています。オーストラリアの大学の場
合には、学士レベルで Honor をとった学生については、一年間で修士レベルを付与すると
いうコースが既に存在していますので、このような制度を利用しますと二年間でできない
ことはないだろうということで、現在詳細を詰めているところです。
これについては来週の火曜日から始まる会議があります。この INU アカデミックコミッ
ティーで、共通の入学資格、求められる英語能力、また共通科目に対するアセスメント、
そして次に説明しますが、広島での国際学生セミナーを単位化することは可能かどうか、
また取得した単位をどのように交換していくのか、交換可能な最大人数といった様々な問
題を、3 日間だったと思いますが、その日程で、サブコミッティーも作りながら討議をして
いくということになっています。
これが INU 校を利用したダブルディグリーコースということになりますが、もう一つ、
少し細かな字でスクリーンに出しても読みにくいとは思います。これが去年の 8 月に行っ
た学生セミナーのプログラムになります。お手元の方を見ていただくと少しはわかりやす
いと思います。
8 月 5 日に参加者等が平和記念資料館を訪問し、
6 日の平和式典に参加して、
7 日以降にさまざまなプログラムが 4 日間行われるというプログラムを作っています。おと
としが最初で、あと 2 年間、計 4 回は広島で行うということを広島大学の方がコミットメ
ントしていますので、あと 2 回は開かれる予定になっています。
プログラムはここに挙がっていますのと同じように、日にちは固定になっております。6
日の平和式典に出る。これで学生がまずどのようなことが起こったのかということを、実
際にその場に行って経験してから、平和について考えるというプログラムを作っています。
平和といっても、当然いろいろな内容がその中に含まれます。開発も含まれますし、去年
の 8 月の主題となったように、環境問題も含まれます。おととしは憲法 9 条と平和という
内容でしたが、題材を毎年変えながら、ただし平和に関わる様々な問題を扱うことになっ
ています。今年の 8 月は、まだはっきりとは決まっていませんが、核軍縮というものも一
つの題目として挙がっています。決定はまだされていませんので、これから 2、3 ヶ月のう
ちに決めて、全てのプログラムを確定することになっています。
109
これは正直に言って非常に金銭的、あるいは人的なリソースを使うものではあるのです
が、INU の学生で海外からこのためだけに来る学生が 20 名弱、また広大にいる学生が 20
名、外国人留学生が 20 数名、日本人学生も集めて、だいたい 80 名前後が毎年参加して行
ってきています。
この現在行っている学生セミナーというものを単位化できないか、セミナーの前に修士
レベルでの授業等を入れることによって単位化できないか、またこれを共通の科目として
ダブルディグリーの中に入れることができないか、といった議題に挙がっています。一応
学生のアセスメントを見ますと非常にいい点数をもらっています。5 段階評価でいうと 4.5
か 4.6 になっています。
ですからこのセミナーを中心にダブルディグリーに発展できないかということも実際問
題としては出てきました。そしてこれがうまくいけば、まだ提案段階ですが、INU の参加
校以外には授業料をとって、セミナーへの参加を可能にすることもできないかを検討して
いるところです。これができるかどうかはわかりませんが、そういうことも話し合ってい
るところです。
ここまででざっといろいろな活動についてお話しましたが、今までの経験から、実際こ
のようなコンソーシアムはどうすればうまくいくのかを今から 10 分間程でお話していきた
いと思っています。
これはコンソーシアム全体のレベルと次のページ以下に挙がっている参加校のレベルと
で分けることができると思います。まずコンソーシアム全体としては、共通の意識の共有
ということが挙げられます。これはある程度柔軟な集合でやることも可能だと思いますが、
こういうプロジェクトを走らせていく場合にはやはり各大学からの十分な参加、金銭的、
人的な参加というものがない限りうまく動いていきません。
そしてその各種会議でのいろいろな活動を通じてお互いの顔がわかり、考えていること
がわかってきます。こういう学生セミナーをやりますと毎晩ミーティングと称して、先生
たちは夜遅くまでお酒を飲みながら話をしていますので、実際考えていることがよくわか
るのです。まさにどういう方向に行こうとしているか、大学全体でのレベルでもわかりま
すし、個人のレベルでもわかる。そういう共通の意識を共有して目的を設定し、ではそち
らの方へ行こうという地道な積み重ねというものがないと、なかなかうまくいかないと思
っています。その時に大学間のいろいろなレベル、教育だけではなくて教育また財政的な
バックグラウンドが違うとなかなかうまくいきません。
このような個人レベルでの合意が存在したとしても、活動全体のマネージメントがない
限り、このようないくつかのプロジェクトを同時に走らせていくことは難しいと思います。
今お話しているのは、コンソーシアムレベルでの話ですから、コンソーシアム全体をマネ
ージするような事務局、そしてそれをコーディネートするプロジェクトマネージャーとい
うものが必須だと思います。現在のところ、いろいろな理由から La Trobe 大学が事務局を
維持してきています。プロジェクトマネージャーは各大学の拠出金から雇っています。他
の大学に移してはどうかという提案があったりして、広島大学はどうかということもあり
ましたが、いろいろな理由から、現在のところ La Trobe 大学にお願いしています。
このようないろいろな組織というところである程度枠組みができたとしても、資金的な
バックグラウンドがない限りうまくいきません。基本的には、毎年 1 万米ドルの拠出金を
110
参加校が出しています。これが実際ペイするかどうかということは後でみますが、重要に
なってきます。INU の参加校は 10 数校ですから、年間の予算は 1 千万そこそこというこ
とになります。プロジェクトマネージャーを雇いますとこの 1 千万近くがほぼ全て消えて
しまいます。こういうことからしますと、いろいろな活動を行っていくためには、外部資
金の獲得が必要になってきます。
コンソーシアムとしては、La Trobe 大学が INU を根拠にして、いくつかのファンデーシ
ョンに応募して、現在のところ二つの基金から資金を得ています。合計で数千万円の基金
を得て、そこに挙げていますように、一つのファンドは学生セミナーに、そしてもう一つ
はダブルディグリーの開発という形で使われています。
参加校レベルでこのような出費をどのように考えるかといいますと、既にお話しました
ようにトップレベルでの承認がない限りうまくいかないということで、総会・理事会には
必ず学長ないしは副学長、時には両方が参加するということをしてきています。また活動
のマネージメントは、INU では事務局とプロジェクトマネージャーがいたわけですが、広
島大学のレベルでは、国際戦略本部長と平和担当副学長、現在は双方ともに研究担当理事
の二宮先生が担当されているわけですが、のもとで行われています。
ここは思いつくままに書いているので、あまり整理はできていないのですが、大学全体
としてのシステマティックなアプローチというものがない限り、このような活動はうまく
いきません。そのときに考えなければならないのは、財政的また人的リソースです。そう
いうときに一つの大学だけが財政的また人的リソースを出していると、またその大学が出
し過ぎていると思うと、コンソーシアム全体はうまくいきません。フリーライダーの大学
がたくさんいるようなコンソーシアムでは、プロジェクトはうまく働いてきません。です
から、相互に利益があり、全ての大学がこのコンソーシアムから利益を得ていると思わな
い限り、この活動を続けていくことはできません。
コンソーシアムがうまく活動を続けるためには何が必要かといいますと、まず各大学が
能動的に参加する必要があります。そうでないとその大学としてはあまり利益を得られな
いことになります。自分の思っていない方向にそのプロジェクト全体がいく場合もありま
すので、そういうことを考えますと、いろいろなプログラム・プロジェクトを作る段階か
ら、また実際それが動く段階で、人やお金を出し、参加する必要があり、そうすることに
より自分たちの思うような結論やプロセスが完成されてくるということがあります。また、
大学全体としてみたときに、コスト、お金、教員・職員の時間等を使っているわけですか
ら、そういうものと、実際に得られるメリットがあるかどうかということを考えながら進
めていかないと、結局持ち出しになり、長い目で見るときちんと戦略的に続けていくこと
ができません。この観点からすると、INU は、何校かは入り続けていますし、また他にも
入りたいという大学もありますので、コンソーシアム全体としては一応の求心力を持った
活動ができているのではないかと思います。
もう一つ考えなければならないのは、個人レベルでのメリット、コストということです。
いろいろな仕組みを作ったとしても、それを実際動かしていくのは教員であり、職員です。
その時に、やっていて無駄だ、手間ばかりかかる、学生のためになっているのだろうか、
教育や研究のためになっているのだろうか、という疑問が出るようなことではなかなか続
けていくことができません。また当然、個人レベルで時間やお金を使っているのですから、
111
そこから得るものがない限り、例えば教員の方が、先ほど言いましたような学生セミナー
等になかなか参加してもらえることにはなりません。ですからそこでのメリット、もしか
したら個人としてはメリットが全くなくても、自分の学生が喜んで参加するのだったら少
し汗をかこう、という教員を見つけてくるということが必要になってきます。
この図では少しわかりにくいかもしれませんが、これは平面と見ずに立体だと考えて見
ていただきたいと思います。右の黒の方で出しているこの辺りが、今まで出てきましたよ
うに組織からみると能動的である。そしてこちらの方は個人レベルで受動的である。この
ようなコンソーシアムとして考えていくときには、一つの大学がいくら能動的、また組織
化されていたとしても、うまく動きません。図では単に A と B とに分けていますが、10 何
校あれば、10 何通りの組み合わせが関わってきます。各大学がどれだけ組織化され能動的
に動くかということは、あくまでもハードというか、作った枠組みでのことであって、こ
のような枠組みが実際動くかどうかということについては、3D という形で、もっと奥へい
っていると見ていただきたいのですが、もう一つの軸、すなわち個人レベルでどのような
ことを行っているのか、そしてできるのかということを考えないといけないと思います。
いくら枠組みを作ったとしても人が動いてくれない。教員の場合はしばしば、やれと言
ってもなかなか動かないわけです。教員で、やってもいいと喜んで飛び込んでくる人はあ
まりいません。やってもいい、これなら何とか考えてもいいだろう、大学のためになるか
もしれないし、自分のため、学生のため、教育全体のため、何かの目標のためにいいかも
しれない、という何らかのもう一つの軸を考えない限り、ハード面の枠組みを考えている
だけでは十分ではないだろうと思います。
ですから、組織的にこのようなものができるということは当然やらないといけないので
すが、それ以外に個人をどのように巻き込んでうまく進めるかというと、なるべく奥の方
に、うまくいったらこの辺りにくるだろう。うまくいかなかったら、いろいろと枠組みは
作ったけれども動かないで留まっているような活動が出てくるかもしれません。それが今
のところうまく動いているのは、具体的な目的、今言ったような学生セミナー、平和に関
する学生セミナーを毎年行うという目的に教員、職員がメリットを感じて積極的に参加し
ているためだと思います。
それが発展してダブルディグリーの話になりますと、一つのコアになるようなプロジェ
クトが常に動いているということが、INU 全体の活動にモメンタムを与えているような気
がしております。以上、少し時間を過ぎましたが、私の発表をこれで終わらせていただき
たいと思います。どうもありがとうございました。
二宮(ファシリテーター) どうもありがとうございました。それでは、2 時 30 分まで、
十分質問の時間を取っておりますので、ご遠慮なく質問をしていただければと思います。
私が質問するわけにはいきませんので、どうぞ。ではお願いします。
長島(横浜国立大学) 横浜国立大学の長島です。簡単なことを伺いたいのですが、拠出
金のお話がありました。各大学から会合に出る時に、代表の方はだいたい何名ずつ出られ
るのかということと、その方の旅費。また学生の参加の話もありましたが、そういう参加
される方の旅費に拠出金は一部使われているのかいないのか、そこを教えて下さい。
西谷(広島大学) まず会議、理事会やアカデミックコミッティーは教員レベルだけです
ので、まずそちらからお話したいと思います。これはその大学によって送ってくる人数は
112
違います。多いところであれば、3、4 人から 5 人ぐらい送ってくる時もあります。また地
理的な問題もあります。例えば今年の秋は立命館大学で行われます。そうしますと、当然
簡単に送れます。ただし、去年の 9 月はスウェーデンで行われたので、ヨーロッパの大学
は送ってくるが、アメリカからは 2 人、日本、つまり広島大学からは 3 名行きました。こ
のように地理的要因もあり、アジェンダによっても異なります。例えばスウェーデンであ
れば、イギリスの大学がたくさん送っても良さそうですが、実は 1 人しか送ってきません
でした。それはやはりその大学のいろいろなコスト、メリットを考え、また学内事情もあ
って決めてくるのだと思います。しかし最低 1 人は絶対に送ってきます。また、最低でも
副学長レベルの人が来られ、学長が来られる場合もあります。
またコストですが、コストは全部派遣校持ちになります。向こうでのパーティー等はホ
スト校がいろいろと行ったりするのですが、基本的なコストは全部送る方が持つというこ
とになります。
次に学生の方ですが、学生セミナーということで考えてみますと、実際には各大学から 1
名ずつは現在招待しています。
長島(横浜国立大学) それは拠出金から出すのですか。
西谷(広島大学) 拠出金と言いますか、ファンデーション等のお金を使って呼びます。1
人はファウンデーション又は広島大学のお金で招待します。ただ、例えば La Trobe 大学の
留学生が東京で勉強している場合もあります。それなら広島までの往復運賃と滞在費、滞
在費は安いところをいろいろと考えたりするのですが、来てもらう。それだけで La Trobe
の参加者が 2 名、3 名増えるわけです。La Trobe から昨年は計 4 人来ていますが、実際そ
のために来ているのが実は 2 名だけで、2 名は日本国内から来ました。海外から来る 2 名の
うち 1 名は INU のお金で招待します。
しかし他の 1 名については実は La Trobe や Flinders
は、自分でお金を出すから、もう 1 名送りますと言って、送ってきてくれています。1 年目
はセミナーをよく知らなかったが、2 年目になったら良さそうだと思ってくれたと思いたい
のですが、各大学のお金で送ってきてくれます。
実は INU では毎年これを開くだけのお金はなくて、INU が学生を招待できるのは隔年に
なります。1 年目と 3 年目は INU が学生を各参加校から 1 名招待します。そうすると 2 年
目、これは去年の 8 月に起こったことですが、INU のお金はない。これは広島大学が学長
裁量経費という形で出していただいて、それで学生を招待しました。結構お金はかかって
います。ただし、そこでも言いましたように、Internationalization at home と昨日のお話
にもあったと思いますが、そのようないろいろな効果もあるだろう。そして広島大学の理
念の一つが平和を希求するものであるということもあって、一応了承していただいて、実
際 INU が招待しないような 1 年目と 3 年目に関しても、かなりコストはかかってくるわけ
ですから、一応 4 年間はホストをしようということです。かなり先先を考えないといけま
せんので、そういう約束でやってきております。それ以降はまだ決まっておりません。
二宮(ファシリテーター) よろしいでしょうか。それでは他にどなたかありませんか。
はい、お願いします。
徳田(香川大学) 香川大学の徳田といいます。広島大学が平和ということを一つの大き
なテーマとして引っ張っていらっしゃるということはよくわかったのですが、二つ質問が
あります。一つは学内の各学部がそこにどのように Involve しているのかということを具体
113
的に教えていただきたいということです。もう一つの質問は、他の大学でも広島の平和と
同じようなプログラムをそれぞれに立ち上げて、Equally に動いているのか、その点につい
て教えて下さい。
西谷(広島大学) まず広島大学の方から言いますと、中心になっているのはいくつかの
社会科学系の学部に当然なってきます。ただし、平和といった時に、少しお話をしました
ように、その定義は広いものです。たとえば去年の 8 月に行われたのは環境問題です。そ
うしますと、社会科学系だけではなくてその他の学部からも参加を願って、先生に来てい
ただいています。平和と言っても広い平和、戦争や戦争のない状態というものだけではな
くて、もっと幅の広い平和ということを考えると、大学内のいろいろな参加をもっと広く
募ることができます。ですから最初から広島大学で考える場合の平和というのは幅の広い
意味での平和ということで、なるべくたくさんの構成員の方が参加できるような形で呼び
かけをして来ていただいています。実際医学部からも参加していただいていますし、生物
生産学部、理学部からも来ていただいています。
また二つ目の点ですが、INU の他の大学では平和という名前では出てこないのですが、
平和という場合に、今お話しましたように、当然人権の問題も出てきます。そうすると、
スウェーデンの Malmo 大学では移民と人権ということで一つの学部を作り上げたところ
で、そこがうまく当てはまってくる。Flinders 大学では特にオーストラリアと東アジアで
の安全保障ということを研究するような学部が一つあるのでそこが当てはまる。La Trobe
大学は紛争解決と平和学というものがひとつあるので、そこはそれを使える。このような
形で、広島大学にも平和講座や平和学部があるわけではないので、そういうことではなく
て、平和というものの概念を広げた場合にそれにオーバーラップするような分野、学部は
当然で出てくると思います。そういう学部の参加を募りながら現在ダブルディグリーのと
ころまで持っていこうとしているところです。
二宮(ファシリテーター) よろしいでしょうか。他にございませんか。はい、お願いし
ます。
早川(名古屋大学) 名古屋大学の国際企画室の早川と申します。私たちは広島大学には
インタビューさせていただいて、いろいろ勉強させていただきましてありがとうございま
した。今回の発表を聞かせていただいて、私たちもコンソーシアムを持っているのですが、
やはり広島の方は教育プログラムの展開において非常に活発に行っている印象を持ちまし
た。二つ簡単な質問があります。一つは、メンバー校についてです。私たちと少し違うと
ころは、中国の大学が入っていないのですが、中国の大学との関わりというものをどのよ
うに考えておられるのか。これがまず第一点。第二点ですが、会費がアメリカドルの 1 万
ドルということですが、これは多くの大学にとってかなり負担ではないかということにつ
いてはどのように考えておられるのか教えていただければと思います。
西谷(広島大学) まず、中国ということについてですが、今まで 2 校か 3 校だったと思
いますが、メンバーになった大学があります。参加実績があまりよくなかったということ
で、結局ある大学は自分で辞めると言ってきました。そして他の大学は、辞めてください
ということで退会を勧告して辞めたということがあります。今言ったように、お金も払わ
ないといけないし、いろいろなプログラムに参加する時にはその分の決心、コミットメン
トがなければ全体の足を引っ張ってしまうことになります。
114
そういうこともあって、1 万ドルを払ってでも入りたいと思うのならば入ってちゃんと参
加してくださいということなのです。当然それは負担なのですが、負担になって大学全体
としてのメリットにならないと思うのなら大学は入ってこないのです。1 万ドル払っても、
今行っているプロジェクトを見てみて、これなら Even になると思うと入ってきてくれて、
その分を取り返すと言ったら変ですが、それだけ参加してくる。
そういうモチベーションをつけるためにも、前はもっと安かったのですが、やはり全然
参加しないで、時々学長等がパーティーのために年に 1 回やってくるというのでは、何も
活発な活動はできないだろう、それならお金をもっと上げて、そのお金でプロジェクトマ
ネージャーを雇うこともできるし、払いたくないような大学は出て行くだろうということ
になりました。コストにメリットを感じない場合は、その大学にとって負担になると思い
ます。
広島大学の中でも 1 万ドルは高い、本当にこれはペイしているのだろうか、という声は
当然あります。しかしそれは収支決算としても、対象になっているものがまさに金銭では
計ることができないものですから、こういうものが 1 万ドルプラス他の支出、先ほど少し
説明したように、会議に送るためにそれだけのお金を出していますし、隔年ごとにセミナ
ーのためにお金を出していますから、拠出金だけではなくかなりのお金を全体には使って
います。しかし全体として考えて、アバウトな評価にはなりますが、コストとメリットで
いいのかどうかということになると思います。ですからその 1 万ドルは見方によっては高
いだろうし、メリットのある大学にとっては十分ペイしているかもしれません。
横山(京都大学) 京都大学の横山です。INU 平和学で共同の修士プログラムを先ほどパ
ワーポイントでお示しになりましたが、そのプログラムを終えた方は 2 枚の修士号の学位
記をどことどこからもらうことになって、それはどういう形での単位計算を基礎とされる
のか、少し具体的に教えて下さい。
西谷(広島大学) これはまだ最終的な制度設計の真最中なので、確定的なことは言えな
いのですが、修士号は二つ取れる。例えば日本の大学の場合、一応修業年限は 2 年ですが、
海外の大学の場合 1 年のものもあります。そうすると、例えば広島大学に 2 年間いながら
その一部分の 1 年間を他の大学へ行って、向こうの修了に必要な単位を取る。ただしその
時には、例えば日本の場合であれば 30 単位中の 10 単位までは読み替えが可能である。そ
うすると他大学で取った 1 年間の修士のために取る単位数のうちの 10 単位までは日本の卒
業単位に組み込みが可能なはずである。それなら実際日本で取らないといけないのは、20
単位プラス修士論文ということになります。
その逆も同じで、向こうの大学のいろいろなシステムが、このように 6 つや 7 つ、実際
の大学が重なってきますと、全てを一つの修士号という中でジョイントされた一つのプロ
グラムを作るのはほとんど不可能になってきます。各大学の学則は各政府の規律のもとに
ありますので、それを曲げてこれに合わせてくれということは絶対に無理です。ですから、
この場合はダブルディグリーの方がうまくいきます。
各大学は各大学の規則に従ってきちんと単位を取り、そこで求められるような、
Dissertation かもしれないし、Theses かもしれないし、ワーキングペーパーかもしれませ
んが、必要な論文も書くことになります。海外の学位習得に必要な基準を満たせば、海外
の学位を習得することになります。その中の 10 単位分だけを日本を持って帰ってきて、今
115
度は広島大学や立命館大学の学則に基づいて学位を習得することになります。それなら普
通の交流と変わらないではないかということもあるので、現在このような二つ、または三
つの大学が共同して、一つの教育ログラムを作ろうとしているわけです。INU 全体として、
これは学位ではないのですが、INU の Certificate を各大学の学長がサインをして、紙切れ
かもしれませんが、Certificate という形で出せたらいいということまで、今話し合いをし
ています。
横山(京都大学) そうしますと、ある部分、例えば今 10 単位とおっしゃっていましたが、
その部分の教育活動については二重に読み込んでいるということですか。
西谷(広島大学) はい、そうです。
横山(京都大学) 違う場所の違う機関が、同じものをまた別のコンテクストで読み替え
ていて、一石二鳥になっているということですね。
西谷(広島大学) はい。そういうことです。ただし、これは日本からは規則上できるの
ですが、オーストラリアの大学はダブルディッピングといってそれはできません。ですか
らオーストラリアと日本の大学がダブルディグリーをやろうとしても、日本から行く学生
は向こうで取って帰って来られるかもしれない。ただしオーストラリアの学生は、その 10
単位分の読み替えがききませんので、まさにフルに向こうとこちらをやらなければいけな
いということになります。
横山(京都大学) がんばってください。
西谷(広島大学) ありがとうございます。
二宮(ファシリテーター) それでは激励をいただいたところで、ちょうど時間でござい
ますので、どうもありがとうございました。
西谷(広島大学) どうもありがとうございました。
二宮(ファシリテーター) 続きまして、横浜国立大学副学長の長島先生からご発表をい
ただきたいと思います。テーマは「国際みなとまち大学リーグ」ということですので、よ
ろしくお願いいたします。
長島(横浜国立大学) ご紹介にあずかりました長島です。
「みなとまち大学リーグ」とい
うことで、ご報告をさせていただきます。実は横浜国立大学は一昨年かその前でしたか、
国際戦略本部の授業の募集がありましたときに、応募は率先をしていたしましたが、敢え
無く落選しました。それで大学の方で独自にそのような国際戦略を立ち上げるということ
で、一元的な国際戦略本部の整備ということに着手するところです。
国際戦略というものを今まさに大学として Approve しようというところにきていますが、
新年度からやりたいということで、いくつか柱を立てております。そのうちのいくつかで
すが、一つがそういう戦略本部の整備、また交流協定など、最後の方でちょっと現状もご
報告いたしますが、そういうものを戦略的に重点化していく。またもう一つは国際的な存
在感、知名度を上げていこうということです。また四番目に書いてありますような、横浜
らしい特色あるプロジェクトを行いたいということです。
今日は、この最後の特色あるプロジェクトの一例をお話したいと思います。特色ある、
と言いましてもなかなか考え方が様々に分かれます。数年前、何人かで相談をしたのです
が、国際的なコンソーシアムというのは最低限二つの条件がある。一つは社会のニーズが
あるものに対応しなければいけないということになりました。もう一つはリソースを活用
116
できるものでありたいということです。他にもいくつかありましが、今の二つが重要な点
です。リソースについては学内リソースと地域のリソースというものがあります。学内リ
ソースについては、横浜国立大学は以前造船学科もありましたし、環境関係には非常に強
い人たちがいる。一方文系では国際法や国際経済などの社会科学系がいるということで、
そういうものを総括的に活かした特色あるプロジェクトをやりたいということです。
横浜の地域的な特性を活かすというと、何と言ってもキーワードは「みなと」というこ
とがありまして、江戸時代末期から西洋文明を入れる港であったわけです。伝統的には開
国に関係をしたということ、また横浜近辺、川崎、その他も入れてたくさんの工業産業が
立ち上がるということで、産業立国の一つの基地になってきた。また西欧文化を輸入する。
このようなことが従来は売りであったわけですが、私も海外の港をいくつか見に行きまし
たが、特に日本の港は非常に活気がない状態で、関係者はこれを盛り上げたい。そういう
点でも社会的なニーズがあるということです。しかし、これからは教育や文化やファッシ
ョンという面でも先頭を切っていくようでないと、港は立ち上がらないだろうということ
があります。
またもう一つ私たちが考えたのは、港というのはいろいろなものが出入りする門、ゲー
トであるという意識がいろいろな方にありますが、そうでなくて、一つの交差点であり、
結節点である。そこをつなぎ目にしていろいろなことが栄えてくると考えようということ
です。
私もずいぶん世界中の都市、港は見ておりますが、そこで気が付くのは、世界には大変
有名な港がいくつかありますが、その有名な港の役割は、一つは国全体とか大陸全体への
門になっているということです。人、商品、国際情報。また情報の通過点ではなくて集積
地になっているという点です。古い港町には知識や伝統文化、歴史というものが集積され
ているということです。もう一つ、たいてい古い大きな有名な港町に行きますと、非常に
伝統と影響力のある大学がその近辺にあるということに気が付きます。それで新しい多国
間交流の企画として「国際みなとまち大学リーグ」というものを考えたわけです。英語で
Port-city University League と書いてありまして PUL と略しております。
この名前でもなかなか難しいのです。
「みなとまち」と書くと何かふにゃふにゃしていて
嫌だ、とか「港湾都市」と呼べ、と厳しくおっしゃる方もいました。また英語を考えると
きにどうしても最初は Association とか Society という普通にある名前が挙がってくるわけ
ですが、私たちはもう少し気楽な感じを出したいということでリーグというのはどうか。
リーグというのは昔の国際連盟の頃に使われた、とかいろいろポリティカルなバックグラ
ウンドもありますが、こういう名前をいくつか考えて、外国、特に言葉にうるさい英国の
大学の先生たちに相談しましたところ、League が一番いいということで Port-city
University League となった経緯があります。
それで、2005 年度に呼びかけの内容を考えまして、いくつか選んだ国の港町の大学に送
って反応をみました。そうしましたら、その段階で私たちが想像した以上に強い反響があ
りました。特に英国、インド、中国からありました。英国の大学などは人脈が多少あった
こともありますが、まだうやむやの状態で、では私たちの方から出かけていくから相談し
ましょうということで、向こうから人が来られ、予想以上に強い反響がありました。そこ
で協議を開始したわけですが、こういう出だしですので、予算全くゼロ、人の手当もゼロ、
117
何もないスタートです。
しばらくしまして、後でポリシーを申し上げますが、地域とのつながりを大事にしたい
という説明をしておりましたら、横浜市や港湾当局が何らかの形で支援してくれると言っ
ていただきました。それから予算全くゼロで、本当にコピー代もないような状況ですから、
その後は進展に応じて学長裁量経費で旅費の一部を支援してもらったり、市は次に申し上
げるセミナーの開催というものがありますが、この会場を提供してくれると言ってくれた
り、個人的にも大きな額ではないと言っては失礼ですが、寄付をしてくださる方が現れま
して、こういうものは始めてみるものだと思った次第です。
そうして第一回のセミナーを 2006 年に言い出しっぺの横浜から開催してみようという
ことで、開催しました。あらかじめリーグのスタートには 9 大学が賛同してくれまして、
この中には向こうから来られたところもありますし、もう少し詳しく聞きたいということ
で私どもが出向いて説明したところもあります。いずれにしても 9 大学からリーグへの賛
同をいただきました。しかし、この第一回のセミナーには 7 大学が参加しました。費用は
全部原則として、自分持ちということで、開催費用等はこちらで持ちました。
内容的には、そこでセミナーを行いましたが、研究の紹介もありました。海洋研究や港
湾研究、歴史の研究です。また、都市や大学の紹介もご講演内容にありました。そしてこ
こでは宣言にも署名をしたということがあります。これは第一回の会合の時ですが、中央
にいるのが横浜国大の学長であります。
それから横浜で開催するということで、市へも働きかけたのですが、市も財政的には援
助が厳しいところですが、施設を提供していただいたり、中田市長が開会に駆けつけて挨
拶をしていただいたりしております。これは市から提供していただいた施設なのですが、
当初私どもは、後で申し上げるポリシーにも関係しますが、小規模で親密な会にしたいと
いうことがありましたが、市の方でこんな立派な会場を貸してくださったので、少し立派
過ぎる感じになっております。このような形で開催しました。ご覧の通り二階席は空っぽ
になっておりますが、だいたいいろいろな方が 100 名ちょっと参加しました。
このリーグは今のようなことでスタートして、参加するところは非常に強い興味を示し
ていただいたのですが、私たちは相談した結果、規約や憲章はつくらない、そういう堅苦
しいものは作らないということでスタートをし、現在まで運営をしております。その代わ
り、ここに書いてあるような Declaration、宣言というものにサインをするということを行
いました。私も理工学系統であって、国際法には疎いものですから、協定や規則、憲章と
いうものがあって宣言というと、もっと上にあるものだと思い込んでおりましたら、国際
法の先生に聞いたら、宣言というのは全く効力がない。規則等は参加するところで、きち
んとした手順で合意に達しないといけないが、宣言というのはその時に集まった人が思っ
たことを言えばいいのだ、と言うのです。これは私たちの目的にぴったりだということで、
今回は宣言にいたしました。ただし、宣言は文書化をしまして、そこに参加者全員で代表
者が署名をするということで、今後残していくということです。
Declaration の中には、こういう言葉が出できます。たいして長いものではありませんが、
特徴ある言葉が出てきます。“Recognizing that the world’s port cities share common
interests …” この何らかの共通性を持っているということをお互い尊重する、Common と
いうことが重要なキーワードの一つです。また “… while enjoying their own unique
118
history, tradition and culture” ということで、それぞれが独自のもの、Unique さを持って
いるということがやはり重要なキーポイントだということです。興味と目標を共有して、
お互いの Unique な伝統を尊重して活かしていくということだと思います。
PUL の特色というのは、これまでお話申し上げたことから少しご理解いただけると思い
ますが、一つは大学にある社会科学系、文系、そして理工系という様々な分野にオーバー
ラップしたものになりうるということ。多様性が一つの売りです。港町には貿易や経済が
深く関わります。またごく最近、大変重要なのは国境管理等の問題です。また国際的な情
報交流、産業開発、環境保護、歴史、芸術、そしてもちろん教育が入るということです。
このような多様性があります。従って構成員や構成大学が自分の興味のあるところに発言
をしていくということが一つの特色です。
もう一つ、私たちが特色として考えていることが、市民との連携ということです。大学
だけではなくて、この場合横浜市や神奈川県、もう一つ、港の管理というのは特別な文化
になっているようでして、港湾当局にも話をして賛同してもらう。更に一般の市民にもで
きるだけ国際的な雰囲気に触れてもらうチャンスを提供する。相互交流ということもでき
ればやりたいということですが、市民の参加も求めるということです。
第三番目が、このリーグは大きくすることはできるだけ控えましょう。濃密で人の顔が
覚えられるような交流にお互いしていきましょう。ただし、そこから先がまた考えたこと
ですが、それぞれの国で開催したときには、その国の地元のいろいろな方にはできるだけ
大勢参加していただく。ですから、これが結節点の一つの役割ですが、メンバーは少ない
のですが、それぞれの場所で開催するときには、その国内の大学や機関、個人に参加を呼
びかけましょう。それが非常に大きな特徴です。
もう一つ PUL にどういう役割をこれから持たせるかというところで、いろいろな議論が
ありましたが、私たちの考えでは、これはあくまでも交流の土台であって、その上でいろ
いろなプロジェクトに動いたり発生したりしてもらえばいいということです。ですから
PUL のメンバーが二国間でも全体でも三国間でも結構ですが、こういう研究協力をしまし
ょうとか、このようなダブルディグリープログラムをやりたいと言えば、そういう話をす
る情報交流の場を定常的にここで準備しよう、土台を準備しようということが基本的な考
えです。
そして副産物として、先ほど申し上げたような市民の国際参加や、港を盛り上げていく
とか、新しい「みなとまち文化」というものの芽を作り出すということを考えたわけです。
合意したポリシーは、今のことをここに再度書いただけですが、継続をしていく、継続
的に開催する。そしてコンパクト、適度なサイズでやっていく。それから共通の興味をお
互いに尊重する。そして、規則がありませんので、柔軟な運営をする。当分の間は横浜国
大が事務局を引き受けるということで、お互いの連絡役やホームページの管理をしており
ます。
第一回のときに試みたことですが、開催に合わせていろいろなことをやろうということ
で、横浜港の見学会、これには市民も会員の方も参加します。そして少し大げさな名前で
すが、横浜国大「海の週間」という一週間を設定しまして、セミナー開催と同時にその次
の日には海洋研究の研究会を大学のキャンパスで開催する。また市民参加の見学会や参加
された外国からの女性のためのプログラム等をやって、一週間、横浜国大「海の週間」と
119
いうことで PR をしました。
これは横浜港ですが、私が中国やシンガポール等のいろいろなところの港湾を見学に参
りますと非常に大きな違いがあります。荷物の出入り量について横浜港は格段にそういう
ところに負けています。橋は立派にはなっていますが。そしてこれは見学会をこんな大き
な船ではないですが、船を借り切りまして、港湾施設を外側から見学しました。これは参
加者です。これも見学会です。この中には市民も混じっています。また女性の方の交流会
です。
そうしましたら、参加された大学の中から、第二回をぜひインドで開催したいという強
い申し出がありました。それで 2007 年、つい先日ですが、マドラス、現在チェンナイと呼
んでいるインドの町から開催の提案がありまして、12 月の初めにマドラス市において開催
しました。ここはご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、南インドで非常に大きな
古い町です。主催はインド工科大学 IIT Madras 校です。これはインドの大学のランキング
をご覧いただくとわかりますが、インドでは非常に重要な大学です。そこがホストになっ
てくれて、同時にこのチェンナイには日本の企業、自動車会社その他も進出を計画したり、
進出したりしているわけで、そういうところも港としても重要なので、港湾当局も一緒に
バックアップをしてくれました。ですから、会議は大学で開催しますが、市の施設の見学
やいろいろなパーティーはそちらが担当してくれたりしました。
会期は 3 日間で、毎日午前中はセミナーですが、午後は見学に行きます。これは後で写
真が出ますが、インド洋大津波の大被害を被った地域です。その被害の状況や港湾施設、
インドが新たに建設をしている海洋大学の見学等、かなり盛り込まれました。これはキャ
ンパスの中ですが、日本の大学より野趣に富んでいまして、このように不思議な木の間を
鹿がたくさん歩いているという面白いキャンパスでした。私は、北インドはだいぶ行って
いますが、南インドは初めてで、非常に興味深い思いをいたしました。
これは開会の様子ですが、大規模な部屋で行ったわけではありません。100 数十人くらい
の部屋を用意して開催をしました。参加者の方はもちろんインドの方が多いのですが、先
ほど申し上げたようにそれぞれの開催校は周りに呼びかけて、周りの大学や周りの産業界
や市民の方にも参加してもらうということで、この近辺の大学の方がこの中に混じってい
ます。
それから大変面白かったのは、港湾当局が大変興味を持ったために、インドの他の地域
の非常に隔たったところも含めて、ゴア等ずいぶん遠いところからも港湾関係の研究所の
トップの方々や、港湾行政にかかわる方々の参加もだいぶありました。
これは写っている人物はどうでもいいのですが、インドというのは地図を見ますと三角
形になっていまして、その東側に長い海岸があるのが地図でもわかります。ここがこのよ
うな砂浜なのです。ここがもろにこの前の大津波でやられて、町の近辺ですと、今の砂浜
のところに船もあり、また右側に粗末な家が見えますが、ここには長いスラムが形成され
ています。やはり現地に行って見るといろいろびっくりすることばかりですが、このスラ
ムや船は大津波のときに全部流されたのだそうです。どうして今もあるのだ、と聞きまし
たら、一年も経たないうちに、防波堤の外側にスラムが形成されたのだという説明を受け
ました。ですから、なかなかこういうことで国際協力をしていくのも、その土地の事情等
を考えると難しい問題が非常にあることがよくわかります。
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またここへ防潮堤のようなものがありますが、これは砂の侵食を防ぐための工夫で、こ
こへは日本の専門家もこれまでに助言をしたり、関わったりしているものもあるのだそう
です。いろいろなタイプが試みられていることがわかります。
さて最後に、これからどうするかということと、横浜国大の国際対応の現状を少しずつ
申し上げます。この「みなとまち大学リーグ」ですが、今後どのように協力していくかと
いう協議の一つは、このようなセミナーをどうやって開催していくかということです。既
に第三回をぜひやりたいという大学が現れまして、今度はポルトガルのリスボン大学と、
リスボンの港湾当局が主催者になって 2008 年に開催することが決まりました。リスボン大
学というのは、ご承知かと思いますが、巨大な南米の国々はスペイン語系とポルトガル語
系に大別されていまして、ポルトガル語の国、主にブラジルですが、そこに対してはリス
ボン大学は非常に強い絆があるのです。ですからリスボン大学の重要性ももちろんあるか
もしれませんが、そういう絆、結節点という意味がまた新たに生じてきたと私たちは感じ
ています。
そして 2009 年にはバンクーバーでどうか、という話が今きておりますし、横浜港の開港
150 周年なので、横浜もまたどうかという話も起こっていまして、再来年のことはまだわか
りません。
それから第二回の開催で、やはり最初の趣旨の理解が行き届いてきたのだと思いますが、
この PUL を土台にしてこういう協力をしましょう、という話がポツポツと起こってきてい
ます。一つが港湾マネージメントに関する連携講座をやりたい。大学院の学生ばかりでは
なくて、港湾のマネージメントサイドの方たちに向けた、マネージメントに関する連携講
座の開催の提案が出ています。
またヨーロッパの大学は今のところ 2 校だけですが、もう少し増える機運にあります。
大学院の協力講座、特に奨学金をあるソースから Apply して、授業をお互いに訪問して聴
講するような、いずれはダブルディグリー等に結びつくのかもしれませんが、その前段階
の相談が今起こっております。
それから各港での、例えば横浜で言えば横浜港の 150 周年、というもので市民、学生も
相互に訪問するようなきっかけを作ろうという話も起こっております。
現在の参加校ですが、今のところはこのような大学で、それぞれの国で非常に有力な大
学が参加を表明しています(参照 P.223)
。右の方に黒字で強調してあるのが国名ですが、
いろいろな国に跨っていることがわかります。ここには書いてありませんが、シンガポー
ルの国立大学等、賛同はしてくれていますが、参加はしていないという大学がいくつかあ
ります。これを地図の上で見ると、だいたいこのような分布になっておりまして、今はヨ
ーロッパから見るとアフリカの重要性が非常にあるので、アフリカをどこか入れてはどう
かという話があるのですが、私たちはまだ躊躇している状況です。
私個人としてもこれまでに大規模大学で国際交流の担当をした経験もあるのですが、横
浜国立大学は中規模大学です。従って、大規模大学とはかなり一味違ったものを計画しな
いと難しいということが、ここ何年かの私の経験でもよくわかりました。非常に難しい部
分と、中規模、小規模大学ならではの特色の出し方、やり易さ等いろいろなメリットもあ
ります。このような中小規模大学向けのコンセプトというのをこれから大事にしていかな
くてはならないなということがわかりました。
121
ここにいくつか書いてありますが、顔の見える国際交流をする。それから、必ずしも特
定のテーマだけに絞ったものではなくて、文理融合型の一工夫ができる。また三番目に書
いてありますが、開催が比較的気楽で容易。インドがすぐやりたいと言ったのも、これく
らいの規模ならすぐにできそうだと思ってやってくれたわけですし、ポルトガルがすぐに
立候補してくれるのも、部屋は一部屋でいいし、大学の校数も片手プラスアルファくらい
の数でやるならこれはいい、という気楽さがあるようです。他の大学を、これから参加を
制限していくという気持ちはありませんが、地域的なバランスを重視することと、このよ
うな気楽で容易に開催、という側面はうまく活かしていけないものかと思っております。
最後に書いてあるのは、結節点ネットワークの重要性。各国内に対しては非常に広く開
かれています。
最後に一言だけ、横浜国立大学の国際交流のご紹介も役目柄、申し上げなければいけな
いと思います。横浜国立大学は非常に早い時期から、最初の学部は 140 年ぐらい前に創設
されておりますから、従来比較的国際感覚、国際意識は熱心な大学の一つだったと思いま
す。そして多数の留学生を受け入れており、帰国者には既に大臣になったり、大学の教授
になっていたりする方は大勢おられるし、各地で活躍中です。現在学部の学生数が 8000 人
くらいで留学生が 800 人おりますので、約一割が留学生。大学院を入れても、例えば研究
者等も含めると、だいたい一割くらいということです。国の数で 23 カ国の 73 大学といろ
いろ交流をしております。
英語だけで卒業できるプログラムは今だいたい 70 名くらいが在籍して受講中というのが
大雑把な規模です。この他に、古くからの造船や津波その他の自然災害等々で、政策的に
海外との協力依頼を受けて派遣をしたり受け入れをしたりしています。
いいところだけを申し上げましたが、悩みが非常にあります。やはり中小規模大学とし
ては先ほど申し上げた予算の点は大変厳しいです。余裕を持って一部あちこちから集めて
振り分けるという余裕が非常に少ない。また対応しにくい分野があります。これが一つの
悩みです。医学部、文学部がありません。今申し上げた予算余力が非常に少ないというこ
ともあります。国際交流基金というものがあるのですが、低利子で全く今は機能しないと
いうことです。また施設、特に宿舎の不足が非常に深刻な状況で、これは皆さんの大学と
恐らく同じだろうと思います。
これが最後のスライドですが、国際戦略の立案をしまして、4 月を目指してスタートして
おります。メリハリの利いた交流をしたい。特色のあるプロジェクトをやりたい。そして
政策型の交流、今世銀や外国機関から受け入れをしていますが、このような政策型の交流
を横浜という地域の特性を活かしてやりたいということです。また海外知名度の向上策。
国際的な OB の活用ということで、海外リエゾンも強化していきたいということを考えて
います。以上です。どうもありがとうございました。
二宮(ファシリテーター) どうもありがとうございました。それでは同様に質問の時間
に入りたいと思います。どうぞ、ご質問いただければと思います。
荒井(中央大学) 中央大学国際交流センターの荒井と申します。最初に PUL の呼びかけ
をされたときの大学というのは協定校とか、それまでの横浜国立大学との関係において、
どういった視点で呼びかけられたのかという点をお聞きしたいと思います。横浜国立大学
としてこの PUL というコンソーシアムでの国際交流と、また協定校は協定校で別の形で重
122
点校を絞って国際関係を強くしていくという二方向で考えていらっしゃるのでしょうか、
とう二つです。
長島(横浜国立大学) これは協定校とは関係ございません。結果的には一部重複します
が。考え方として、とにかく有名な港があって、そこに世界的によく知られた大学がある
ところをリストアップしまして、その中からいくつかに呼びかけを行いました。ですから
私たちの基本的な考えはこのような特色あるプログラムを従来の交流に上乗せしていきた
いということです。中から選ぶということではなくて、従来やっているものはそのまま強
化をしていく。それとは別に上乗せをしたプログラムをこの「みなとまち」だけではあり
ませんが、いくつかやっていきたいということです。
二宮(ファシリテーター)では、他の質問をどうぞ。はい、お願いします。
横山(京都大学) 京都大学の横山です。研究面でこの PUL のつながりは影響が出てきそ
うな感じがしておりますが、教育面では何か具体的なものをお考えでしょうか。
長島(横浜国立大学) 教育面は、先ほど少しご紹介しましたが、例えば港のマネージメ
ントなどというのは、日本にはあまりないのだそうです。専門家はおられます。それで国
際連携をすると、非常に特色のあるプログラムが組めるそうで、私の理解が間違っている
かもしれませんが、それで協力の話が持ち上がっているのです。
横山(京都大学) そうすると横浜国立大学に港湾学というのはあるのですか。
長島(横浜国立大学) 港湾学というのはありませんが、港湾の専門家はおります。講義
のできる人がいます。
横山(京都大学) 新しい学科ですか。
長島(横浜国立大学) そういうことではありません。あることでは外国へ協力する。つ
まり港湾がものすごく栄えている国があるので、そういうところへ先生たちが協力する。
向こうの人は今度こちらで立てる別のものに協力していただくということになると思いま
す。また研究面も、PUL でいろいろアレンジするわけではなくて、ここへいろいろな方が
参加されてみて、ではうちの大学のこれと、お宅の大学のこれが、というので話を取り持
ちましょう、という効果が今少し出始めています。
横山(京都大学) 大変面白いですね。はっきりと始めから読まれずに、ケーススタディ
のような姿勢で、むしろ楽しんでおられるという部分を私は新しい動きだと思いました。
長島(横浜国立大学) 教育で付け加えます。これが一つの契機にもなって、全体ではあ
りませんが、元々の素地から出ているのですが、横浜国大に昨年の 6 月から統合的海洋教
育・研究センターというものをつくりました。そこでは造船や港湾、海洋に関する理工学
ばかりではなくて、先ほど申し上げた国境管理や国際法というものを織り込んだ教育セン
ターを新たに立ち上げております。この PUL のプロジェクトも一つの踏み石になっており
ます。
横山(京都大学) ありがとうございます。私も一言加えたいと思います。実は教育のこ
とを伺いましたのは、今マネージメントといったいわゆる実学とされてきた分野では大き
な変化が起こっているように思っています。10 年ぐらい前まででしたら、例えば土木工学
とか衛生工学とかはありました。その場合、先端の技術はこれです、と言って世界中に一
方的に押し付けていくということになりがちでした。ところが、その土地ごとに何が良い
技術体系か、何が素晴らしい港湾のマネージメントかというのは皆違うはずなのです。そ
123
こに耳を傾けてその対話の中から新しいイノベーションが生まれてくるという流れが、私
の近いところでは環境学で明らかにそういうことが起こっています。汚染された土壌をき
れいにするという場合、何がきれいかということを、何百年のスパンで考えるか、使える
予算はどれくらいか。単に土地を持っている利権者だけではなくて、そこをベースに作ら
れた文学がどういうものがあるかとか、様々な NPO もたくさん関わってきますし、そこで
初めてその場ならではのものが出てくるという時代になってきていますので、私は教育的
にも大きな可能性があるような気がしました。ありがとうございました。
長島(横浜国立大学) ありがとうございました。
二宮(ファシリテーター) どうもありがとうございました。他に更にご質問をいただけ
ればと思います。まだ時間はございますので、ゆっくりとどうぞ。では質問を考えていた
だいている間に私どもから質問をします。
大学がアイデンティティを見つけていくということは大変難しいと思います。しかも例
えば港町や港湾という、港に特化していこうとする。それをどういう手続きを踏まえてい
るのか。横国は「みなと」だという意思決定のプロセスがなかなか難しく、多くの大学は
トップダウンでということもあるかと思います。横国の場合はいかがでしたか。
長島(横浜国立大学) 私が元々私立大学の経験が長いせいもありますが、きちんと規則
で、あるいは先に規約を決めて、というのではなくて、ともかくニーズがどこにあるかと
いうことからスタートしたいという考えもあります。最初は少し何人かの先生方とご相談
して、リソースはかなりあるということがわかりましたので、学内でもそういうところへ
声をおかけしたのです。そうしましたら非常に積極的に参加してくださって、今その中の
一人は事務局を担当してくださるし、また外国へも一緒に説明に行ってくださるというこ
とになって、大学として組織的に決めてからやったということはありません。結果的にこ
れを大学のプロジェクトに取り上げていきましょうということは、最終的には大学のしか
るべき上の会議にかけて承認をいただいております。後で承認をしていただくということ
です。
二宮(ファシリテーター) ということは、長島先生がいらっしゃらなければこういうこ
とは・・・。
長島(横浜国立大学) そういうことは全くありません。先ほど申し上げたリソースを見
つけることに多少慣れているというだけで、リソースはどこにでもあります。
二宮(ファシリテーター) どなたか更にご質問はございませんか。はい、どうぞ。
上神(中央大学) 中央大学の上神と申します。先ほど開催された時に、横浜市と連携さ
れたと伺いましたが、今後やっていかれるうちに役所や国の機関とどのような連携をとら
れていくのか、今もどういうことをされているのか、具体的にお伺いしたいと思います。
長島(横浜国立大学) はっきり申し上げて、最初の相談の時には新しい外部資金の財源
にならないか、という発想ももちろんございました。しかしそれが先ではなくて、私たち
は利用していただける場を提供しようということで、横浜市ばかりではなく、先ほどは市
と港湾を申し上げましたが、例えば、今そういう話はありませんが、市の教育委員会が小
中学生に外国経験を踏ませるためにこういうつながりを使えないかということがありまし
たら、それはお受けして相談に乗りたい。ですから国の問題でも国境の管理というのは今
非常に重要な課題になっているのはご承知の通りですが、そういうところへも少しでもつ
124
ながりを使っていただけたら、というのが私たちの基本的な姿勢です。
二宮(ファシリテーター) よろしいでしょうか。あと、本当に少しになりましたが、い
かがでしょうか。
長島(横浜国立大学) 余分な話を一言付け加えます。私も先ほど申し上げましたように、
南インドというのは初めて行ったのですが、やはり現地に行ってみないとわからないこと
というのはいろいろあるものだということがわかりました。私は元々工学部の機械工学出
身なので、機械や造船というところには卒業生が大勢行っております。
南インドに行って、ある造船会社の社長に会いましたら、その人のお話が非常に印象的
でした。今はかなり大きな造船会社になっていますが、何年か前に造船会社をゼロからス
タートした。お金はあるのですが。設計図は韓国の会社から買いました。工作機械はやは
り韓国から買った。技術指導を受ける。中国から鉄鋼と機械の一部を買った。私は造船学
の権威の先生と同行していたのですが、その造船学の先生がこの内容は全部日本から出て
いるのだ、と言っていました。向こうの説明には日本という言葉は一言も出ていません。
そういうところで、これからの日本の、私の分野で言うと科学技術の認識を高めていくに
は何をすればいいのだろうかということを非常に感じました。そういうところにいろいろ
な、特に東南アジア、開発途上国を中心にしたコンソーシアムというものはまだまだ重要
だと思った次第です。
二宮(ファシリテーター) どうもありがとうございました。
お疲れ様でした。一応予定では 3 時 25 分まで、まとめを含めて時間をとっていただいて
いるようです。そしてその後 30 分程休憩をして、3 時 50 分から全体会で公表なりこの分
科会 B の報告を含めて、三分科会の報告が行われます。ここで、私の拙いまとめをお聞き
になりたいですか。それとも全体会で私もまた報告させていただきますので、同じことを
二回聞かれるのもまた変な話ですので。
ご説明いただいた事例だけではなくて、もっと時間は有効に使われた方がいいと思いま
すので、お集まりの皆さんの中で、こういうことを今悩んでいるがどうしたらいいか、事
例の大学以外で参考になることもご提案いただければ有意義ではないかと思います。そう
いう観点で何かお聞きになりたいことや意見交換はございませんか。せっかく高い旅費を
使ってお互いに来ていただいていますので、ぜひ有効に使ってください。全部が全部税金
とは限りませんが、公的なお金も使っていますのでぜひよろしくお願いします。特にござ
いませんか。
それでは本当に一言だけまとめます。全体会でも今お聞きして報告したいと思っている
のは、一つか二つですが、やはり国際連携、コラボレーション、そしてコンソーシアムと
いうスペシファイされたものは、どの先生方も手段であるという位置づけが明確です。長
島先生のお話の中にもありましたが、これは目的ではないということで、勢い私もそうな
のですが、国際に少し力を入れようと思っている方々はここにたくさんいらっしゃるわけ
ですが、その人たちは国際連携そのものが見事にできあがれば、イベント的に満足してし
まうような、本末転倒とまではいかないのですが、どうしてもそこに力が入ってしまう。
しかしそもそもこれが本当にその大学にとって必要なことなのかということをちょっと
立ち止まって考えて、流行に乗っかるだけ、あるいはそういう形で高く評価されるから、
というのはかつての受験生と同じで、大学に入るための点数でしかない。しかしそれが本
125
当に自分にとって意味のあることなのかということを考えるということが、この三事例の
中からも伝わってきたと思っております。最大の収穫はそこだろうと思います。本当に技
術開発、あるいは制度開発、政策も国としてはこういうことはぜひお願いしたい。今後の
大学はそうあって欲しいというお願い。そういう中にありまして、私どもはつい急いで何
とかしたいという焦りはあるのですが、そこを今日は立ち止まって考えることができたと
いうのが大収穫ではないか、と思って、自分自身の反省も込めて、今日は大変貴重な事例
発表を聞かせていただいたところです。
どの事例が一番いいとかということは大変失礼ですので、それぞれ大変興味深く意味深
長なご提言をいただいたと思っております。全体会では、全体像がわかるように報告させ
ていただきたいと思いますし、もし私の報告に誤りがありましたら、ぜひその場で、そこ
は違うと言っていただければ多くの方々の正しい理解に結びつくと思いますので、その点
もご協力いただければと思います。大変長い時間でしたが、ご発表をいただいた先生方、
ご苦労でございました。また、参会していただいた方々、大変ありがとうございました。
では少し休憩をしていただいて、全体会にお集まりください。ありがとうございました。
126
分科会 C: ダブルディグリー・プログラム
ファシリテーター
桜美林大学教授・大学院学系長
事例紹介
慶應義塾大学国際センター所長、教授
馬越 徹
小尾 晋之介
東北大学副学長(教育国際交流・大学評価担当)
、
理学研究科長、理学部長
橋本 治
東北大学工学研究科教授
升谷 五郎
東京工業大学国際連携プランナー、特任教授
森田 明彦
馬越(ファシリテーター) 皆さん、おはようございます。全体会に引き続き、これから
三つの分科会に分かれてセッションを行いたいと思います。この分科会は C ということで
「ダブルディグリー・プログラム」というテーマです。ご参加ありがとうございます。
私はこの分科会の司会進行を本日担当する馬越でございます。所属は桜美林大学です。
本日は 3 名の先生がたをお迎えし、各大学におけるダブルディグリーへの取り組みのご苦
労といいますか、ケースをご報告していただきます。皆様のお手もとに今日のプログラム
があり、その最後に分科会 C の先生がたのプロフィールが載っていますので、ご覧いただ
ければ幸いです。午前中は、慶應義塾大学国際センター所長の小尾晋之介先生に報告者と
してお願いしております。先生、よろしくお願い申しあげます。
先生は理工学部の教授でいらっしゃり、ご専門はそこに書いてあるように流体工学の先
生でいらっしゃいます。いちおう進めかたといたしまして、先生のご報告に入る前にファ
シリテーターの私のほうから若干の分科会 C 全体を通して考える枠組みのようなものとし
て、問題点の指摘をさせていただきます。それを皆さんが考える材料にしていただければ
ということで、最初に 4、5 分ほど問題提起をさせていただきたいと思います。
それから今日、私の不案内な点を、いろいろお助けいただくのは、そちらにお座りの太
田先生でいらっしゃいます。一橋大学の教授でいらっしゃり、日本学術振興会のこのプロ
グラムのアドバイザーもなさっていらっしゃる方です。どうぞよろしくお願いいたします。
皆さまへ事前に私が勝手にお配りしたもので恐縮ですが、このダブルディグリー・プロ
グラムで討議すべき問題点をランダムに書きあげてみました。実はこのダブルディグリー
問題は、国際化戦略本部事業の中で当初各大学から出てきたプロポーザルには、あまり含
まれていなかったものです。
今日の分科会 A の職員の養成問題、分科会 B のコンソーシアム問題は、国際化戦略の全
学的な組織を構築する上での重要事項としてプロポーザルの中に出ておりましたが、ダブ
ルディグリー問題はどちらかというと、この事業がスタートしたあとに日本のみならず世
界で脚光を浴びてきている問題です。
そこで、今回日本学術振興会のほうでもこれを取りあげていただいたという次第です。
私自身も全貌をきちんと把握しているわけではありせんので、このような問題点の整理が
適切であるかどうかは自信がありませんが、一つは名称問題を含めて、ダブルディグリー
とは何かという定義の問題があると思います。
それから複数の学位を出すということが共通認識だと思いますが、その際の法的な根拠
をどこに求めるのか、いわゆる国内法の問題があります。それからダブルディグリーとは
127
そもそもどういう目的で実施され、どういう意義があるのかが問われている。
オーストラリアなどがオフショアプログラム等で展開しているような、市場主義的な原
理もあるでしょう。あるいは昨日からの議論のように、非常に先進的な次世代教育という
か高度な学術交流の原理もあるでしょう。大きく分ければこの二つになると思いますが、
それが学士課程の段階でどうなのか、あるいは大学院のマスター、ドクターの段階でどう
なのかといったこともあると思います。
それからさらには在籍の形態です。複数の大学あるいは大学連合の中でダブルディグリ
ーを模索するわけですから、その在籍、在学の形態や費用負担、特に授業料負担方式がど
うなっているのかという問題があります。
もう一つは学位の種類、一般的な学士、修士、博士に加えて、ディプロマやサティフィ
ケートを含めてもいいのですが、そうしたものを含めて「ダブル」といった場合に、どう
いう種類のものがペアになってダブルなのかという問題もあるでしょう。
それから学位授与の方式です。いわゆる学位記というものが 1 本なのか、2 本なのか。つ
まり一つの学位記をジョイント(連名)で出すことができるのかという問題があります。
日本の文科省は、これまでノーと言ってきているようですが、諸外国のダブルディグリー
の場合はどうなのかといった比較検討も必要だと思います。
それから何よりも重要なことは、ダブルディグリーを考える際に、クオリティ・アシュ
アランス、つまり質保証をどうするかという問題です。それは今日の事例報告で皆さんに
詳しくご報告いただけると期待しています。別々の大学あるいは組織で展開されているプ
ログラムを繋ぐわけですので、その質保証の仕方、これは単位制度をとっている場合、あ
るいは修了学位試験で修了を認定する場合、それぞれのケースの検討が必要でしょう。
ただ EU 諸国も含めて単位化というか、大きくそちらのほうにシフトしていますので、
イギリスがこれまでずっとやってきたような修了学位試験方式というものは、メインスト
リームにはなっていないと思うのですが、そうした質保証に関わるテクニカルな問題もあ
ると考えます。
それからもう一つの大きな問題は、博士学位論文です。特にマスターまでは比較的いい
と思うのですが、博士論文のクオリティをどう両者が担保しあうかとう問題は簡単ではあ
りません。特に博士課程のダブルディグリー・プログラムの場合は、論文の指導方法ある
いはクオリティをどう判断するのかという問題があると思います。
それから、この国際化戦略本部事業との関係で、私自身が注目しているのは、このダブ
ルディグリー・プログラムを、国際化戦略本部がスタートする前からすでになさっていた
大学も個別にはあるわけです。各教室のレベルや個々の先生がたを中心に小さなユニット
でなさっていたところ、つまりダブルディグリーの萌芽的なものがあったことは重要であ
ると考えています。
本日討議をしたいのは、学科・専攻レベルあるいは研究室レベルがこのダブルディグリ
ー問題を主導しているのかというよりも、国際化戦略本部が一つのストラテジーというか
戦略としてダブルディグリー問題を推進しているのかどうか、それがどういう組織でどの
ようなかたちで推進されているのかということです。そうした現状と展望が明らかになれ
ばいいのではないかと思っています。
そうしたことを考えながら、今後の問題点等について皆さんからいろいろなご意見を出
128
していただき、今日何か解決を見出すというところまではいかないかもしれませんが、む
しろ問題点をたくさん出していただき、よりよいダブルディグリーのありかたを探ってい
ければと思っております。
少し予定の時間をオーバーしてしまいましたが、いちおう検討すべき問題点のいくつか
を私なりに整理してみましたので、ご参考にしていただければ幸いです。それでは早速で
すが、小尾先生から慶應義塾大学のケースの紹介をお願いいたします。どうぞよろしくお
願いいたします。
小尾(慶應義塾大学) ご紹介いただきました慶應大学の小尾と申します。それでは、早
速お話にまいりたいと思います。このシンポジウムが国際戦略本部強化事業のシンポジウ
ムということで、大学全体の国際連携に関する体制について、最初に若干ご紹介したいと
思います。
慶應義塾大学は 1964 年に国際センターという組織を立ち上げたのですが、当初は留学生
の受け入れ、派遣について非常にこぢんまりとした規模で行っていたわけです。徐々に大
学間の協定が増えるとか、あるいは国際的な大学間競争などということが増えてきたとき
に、日常業務を中心にやっている部署では、そういった環境の変化に対応した戦略的な動
きがどうしても鈍くなるという問題がありました。
そこで 2005 年 1 月に全学的な国際化に向け、国際連携推進機構(OGI Organization for
Global Initialize)という組織を設置いたしました。そこに国際連携推進室という部署を大
学の学長に直結したようなかたちで置き、トップダウンで国際的な戦略を立て実行できる
ような体制をつくったわけです。そして、その取り組みに関して国際戦略本部強化事業に
採択していただいているという経緯であると理解しています。基本理念はこのスライドに
書いてありますが、これはどの大学においてもおおむね同じことだと思いますので、これ
は飛ばします。
この戦略的な動きのなかで典型的なのは、これまで大学間交流というのは研究者個人の
つながりがまずあって、そこから徐々に徐々に拡大していって、大学間の協定があったほ
うが例えば学生を派遣したときなどに学生寮に入りやすいといった制度上の利点があって、
協定を結んだほうがいいという順番でできていたものが、そうではなく、例えばアメリカ
のトップクラスの大学などに赴いていって、戦略的にパートナーシップを結んでいくとい
う動きができるということです。
そういった文脈で見ると、このダブルディグリーやコンソーシアム加盟といったことも、
あたかもトップダウンで行われているように見えると思いますが、実は今日お話しするダ
ブルディグリーは、ボトムアップなかたちで始まったものです。大学国際戦略強化事業と
かかわりはもちろんあるのですが、平行して動いている取り組みとして今日お話しするも
のがあるという風にお考えいただきたいと思います。
ダブルディグリーという名前のもとに本学で動いているプログラムは、お手もとの資料
にあるように四つあり、最初に始まったものが 2005 年、中国上海にある復旦大学と本学の
政策・メディア研究科という湘南藤沢キャンパスにある新しい研究科との間で、修士課程
で始まったものです。それからほぼ同時期に韓国の延世大学と同じ政策・メディア研究科
が始めたプログラムが一つあります。
それから若干遅れて、理工学研究科で今日集中的にご紹介するエコール・セントラル・
129
インターグループというフランスのグランゼコールと行ったダブルディグリーがあります。
それから、政策メディア研究科で 2006 年に調印されたインドネシア・リンケージプログラ
ムという名前で呼んでいるダブルディグリーがあります。これらはいずれもウェブサイト
などに紹介されていると思いますので、詳細はそちらをご覧いただければと思います。
本日、私がご紹介いたしますのは、昨年か一昨年にフォーラム合同シンポジウムという
ものが横浜であったときに事例紹介させていただいたものと同じで、「戦略的国際連携支
援」という文部科学省からの別の財政的な支援で行っているプログラムです。それによっ
て非常に年々成果が上がっている取り組みですので、これを是非今日はご紹介させていた
だきたいと思います。
タイトルは「ダブルディグリーによる先進的高等工学教育」となっています。これは一
般的な名称ですが、この一番コアになるものは先ほど申しあげたエコール・セントラル・
インターグループというフランスのグランゼコールとのダブルディグリー制度の運用です。
のちほど図で紹介いたしますが、これは学部から大学院修士課程への一貫教育のかたち
をとったダブルディグリーです。ここでは学生の相互交換が主体になっており、戦略的国
際連携支援の資金によって教員の相互派遣などを行い、相互の教育内容や教育方針などの
理解を深めるということをしました。
これは非常に重要なことで、制度的なことよりも実際に教育に関わる、あるいは研究に
携わる教員自身がその意義を感じるということに重点を置きました。それによって学内の
理解者がだんだん増えていったということで、それがうまくいくポイントの一つだったと
思います。
それから、シンポジウムを開催し、学内外に取り組みを広く紹介しました。一昨年の 3
月に本学でシンポジウムを開催いたしましたが、このエコール・セントラルグループのほ
かにドイツから 2 校、イタリア、スペインと、それぞれすでにヨーロッパでコンソーシア
ムとして動いているダブルディグリーのパートナーの大学関係者をご紹介いただき、その
かたがたにも来日していただきました。
同時に、日本国内ですでに同様の取り組みをされていた東北大学、今日は午後にご紹介
されるということで非常に内容が重複して恐縮ですが、非常に似たような取り組みをされ
ております。それから同志社大学です。実は、このエコール・セントラル・インターグル
ープというのが当時フランス国内に四つ学校があり、それぞれが日本の大学と強いパート
ナーシップを持っていました。
われわれはその中でナントという町にある学校、東北大学はリヨン、同志社大学はリー
ルと長いパートナーシップがありました。そのような参加者のご協力でシンポジウムを行
い、日本国内外の関係者の紹介と取り組みの理解といったことを進めていました。
それから派遣学生についてですが、これは学部生を派遣しますので、それなりの準備を
学生に対して提供しなければいけないと考えました。特にこの取り組みでは、派遣先国の
文化理解と語学力の習得が専門知識の習得に加えて重要なテーマになっています。そのた
めの準備として、ここにあるフランス語在外インテンシブと応用フランス語という二つの
科目を立ち上げてフランス語学の学力向上を重点に力を入れました。
この取り組みについては、この図はすでにどこかでご覧になったかたもいらっしゃると
思いますが、もともとフランスのグランゼコールから提唱されたかたちです。この黒い矢
130
印がフランス人の学生が通るパスです。
グランゼコールというのは、大学と並列した高等教育機関で高校を卒業したあと 2 年間
の予備課程を経て専門教育に入ります。その専門教育は、通常 3 年間あります。3 年間ある
うちの最後の 5 年目のかわりに本学へ来て修士課程 1、
2 年間を勉強するようなしくみです。
そうすると、われわれのところには修士課程の正規の課程に入学するので、慶應からは
修士の学位が当然授与されます。フランス側からは、この慶應の 2 年間がフランスにいれ
ば行ったはずの 1 年間の専門教育に相当するという認定をし、フランス側からも慶應の修
士課程が終わった時点で修了証が認定されるというかたちのダブルディグリーです。
日本人の学生に関しては少し複雑に見えますが、日本で 1、2 年の学部の教育を終えたあ
とフランスへ行き、フランスの専門課程に入ります。ここからフランス人の学生と合流し、
そしてフランスから帰ってきて慶應で修士 2 年を終える。すると慶應から修士、それから
フランスからの学位のダブルディグリーということです。
このときには、慶應からは学部卒業の学士は授与しません。これは飛び級ということも
できますが、日本からフランスに行った時点でフランス側のカリキュラムに沿った教育と
いうことになると考えれば話が早いと思います。この時点でフランス人と同じトラックに
乗って、あたかもフランスの学生と同じようなかたちで帰国し、修士を取るということで
す。
ここで一つわれわれの大学で特殊なところは、慶應の理工学研究科の修士課程に国際コ
ースという英語だけで単位充足可能なコースが別途動いていることです。フランス人の学
生は基本的には日本に興味があり、日本語の学習もかなりしているのですが、さすがに大
学院の科目を日本語で取るということはかなり難しいので、われわれが相当数提供してい
る英語の科目を中心に彼らは履修します。9 月に入学できますので、フランスで 6 月に 4
年目を終えた学生が夏休みに日本へ来て、日本で 9 月から始めて 2 年後の 9 月に修了とい
うことです。
一方、
日本人の学生は学部 2 年が 3 月に終わり、
3 年生にいちおう進級するかたちをとり、
それから 3 年生の春学期の途中でフランスに渡り、夏休みはフランス語学研修を受けて秋
から先方の課程に合流するというかたちです。ですから、フランス人の学生は通常 5 年の
ところが 6 年。
日本人の学生にとっては通常 6 年のところが 6 年半という勘定になります。
ただ、修士課程は 2 年間ではありますが早期修了というシステムがあり、非常に優秀な
学生であれば 1 年半で学位を取得できます。その場合は合計 6 年でも修了可能ということ
になります。ただし、もともとそういう考えではじめたわけではないので、まだどうなる
かはわからないところです。
エコール・セントラルという学校がどういう教育理念で行っているかということについ
て、私ども何度もお互い行き来して非常に優れた見識をもって工学教育に取り組んでいる
ところという風に理解しております。
ご存知の方も多いと思いますが、フランスは高校を卒業すれば、希望者は全員大学に入
学できます。一方、グランゼコールの場合は、高校卒業の試験のときに一定の成績を取ら
ないと入学できません。予備クラスに入ってから、またさらにグランゼコールの振り分け
試験がありますが、エコール・セントラルは比較的フランスの中ではエンジニアリング系
ということでレベルが高く人気が高くて、だいたい先方のお話ですと、18 歳人口でいえば
131
上位数%ぐらいの学生が入ってくるような学校だというご説明です。
私どもは長いことお付き合いがあり、ダブルディグリーの導入について先方からたびた
び申し入れを受けていたのですが、先ほど申しあげたこちらの国際コースが 2003 年に始ま
ったのを機に、ようやくこちらも受け入れ体制ができたということで、ダブルディグリー
を始めることに踏み切ったということです。
2005 年に調印をし、最初は受け入れの学生から始まったのですが、最初の年に学生 3 名
を受け入れました。その学生は、昨年 2007 年 9 月に無事 2 年間の課程を終えて慶應で修士
を修了し、このように学位授与式にはフランスからも先方の教員を招き、セレモニー的に
慶應の学位とフランスの学位を二つ並べて授与式をいたしました。
派遣の一期生としては、慶應から学部 3 年生が 6 名、フランスにまいりました。これら
の学生は、順調にいけば今年の夏に帰国し、慶應の修士に入学します。フランスからは、2
年目は 6 名、3 年目は 11 名とほぼ倍倍に増えてきて、今年 9 月にも 10 名の入学が予定さ
れています。慶應側からは 1 年目 6 名、2 年目も 6 名を派遣しております。
普通、理工系の学生は英語もおぼつかないところがフランス語で専門の勉強をするとい
うのは相当勇気の要ることではあるのですが、この辺はフランス語の語学の先生がたと非
常に強い協力を持ち、
「世界に行くのならばこれだけやれ」というようなことを言って学生
を相当モチベートしています。派遣学生は帰国時には大学院に推薦で入りますので、成績
上位の学生だけを選んで派遣しております。
3 年目はいまちょうど募集受付時期で、再来週の月曜日が締め切りとなっており何人来る
かはまだわかりませんが、だいたい 1 年目も 20 名、2 年目も 10 数名の応募があり、その
中から書類選考と面接で派遣学生を選んでおります。
フランス側は、すでに長いことダブルディグリーをやっており、中国では清華大学、上
海交通大学、西安交通大学、西南交通大学の 4 校と 1998 年からすでに、ここのまったく同
じシステムでダブルディグリーを行っており、中国人を毎年 30 人から 40 人ほど受け入れ
ているということです。
フランス人の学生は、なかなか中国へ行きたい人はあまりいないそうですが、若干増加
傾向にあるということです。そのほかブラジルのサンパウロ、リオデジャネイロなどの 6
校とも同じ取り組みを行っています。
たびたび申しあげておりますが、このエコール・セントラルと慶應大学の間でダブルデ
ィグリーに踏み切るまでに、やはりそれなりの長い歴史があります。1987 年に先方の学生
から届いた手紙をきっかけに、学生の相互訪問交流が始まりました。当初はわりと文化的
な研修で約 1 週間、ほとんど観光旅行のようなことをしながら 10 人から 20 人程度の学生
が行き来していました。
それから 10 年弱経った時点で、少し研究活動もできるような研修をする交流協定を締結
しました。これは、先ほどお見せしたフランスの最終年度にあたる 5 年目の卒業研究とし
て、先方の卒業研究はだいたい半年ぐらいなのですが、それを慶應に来て行うというかた
ちの受け入れをしました。慶應から先方への派遣に関しては、大学院のうちの数カ月間を
現地で研究体験するというかたちの交流を続けておりました。
2001 年には交流協定をよりシステマティックに改編し、いま申しあげた研究で先方を訪
問するという形を研究研修と呼び、それから授業の単位を取るために 1 年間交換で行くと
132
いうのを学習研修、それから語学文化研修というものを春休みに 6 週間ホームステイで行
っています。
この三つをいちおう交流の柱として 2001 年に新しい協定が始まりましたが、ダブルディ
グリーの協定を調印したのは 2005 年です。2001 年にこういうかたちで教育カリキュラム
により密接したかたちの協定を結んだのは、実はヨーロッパの中ですでに例のボローニ
ャ・プロセスなどが始まり、エラスムス・プログラムが動き、学生のモビリティが非常に
高まっているときに、フランス側は学生の派遣先として当方をヨーロッパの中でではなく、
アメリカでもなく、アジアの一つの派遣先としておそらく考えたために、こういったカリ
キュラムに密接したものをやりたいということをおっしゃったのだと思います。そういっ
たことで 2005 年度までの間に派遣 168 名、受入 127 名ということで、相当の学生が行っ
たり来たりして、双方の教育機関で相手に対する理解が進んでいったということが背景と
してあります。
一つだけ、学生が派遣される前にどういったことをするかということをご参考までにお
話ししたいと思います。応用フランス語という名前の科目を立ち上げ、フランス語で物理
や数学の授業をします。先生には東京にあるフランス人学校 Lycée Franco-Japonais で日
本にいるフランス人の高校生に数学や物理学を教えているフランス人の先生をお招きして、
大学生向けにちょうどグランゼコールの予備教育でやっているぐらいのレベルの内容の教
育をしていただいています。
そのほかに、相互交流などで来日しているフランス人の先生からフランスの生活や文化、
科学技術についての講演をしていただいたり、学生は日本にいるフランス人の高校生を学
校訪問したりということで、徐々にフランスへ行くムードを高めていくということをして
います。
フランスではこういった具合で非常にうまくはいっていますが、それに加えてヨーロッ
パ全体でダブルディグリーをマスターレベルで展開しております T.I.M.E.ネットワークと
いうものがあり、そちらの準会員として昨年加盟を果たしました。T.I.M.E.というのは Top
Industrial Manager for Europe というものの略称です。
これはヨーロッパの中にある数十校の理工系高等教育機関でつくっているコンソーシア
ムで、この中の加盟校はお互いの二校間協定を結び、修士課程でのダブルディグリーを運
用するということになっています。
昨年は、私どもと東北大学で揃って時期を同じくしてアジアから初めてこのネットワー
クに参加したということになっています。この図の中で赤い印がついているのがエコー
ル・セントラルグループで本学とすでにダブルディグリーを運用している協定先です。そ
れから紫色のところが右のほうに少しありますが、これはすでに大学全体として学生交換
の協定を持っている大学です。その後、包括協定を結んだところがいくつかあり、こうい
ったところと次はダブルディグリーを進めるような構想を順次進めていくことになると思
います。
こちらの T.I.M.E.ネットワークのダブルディグリーは、先ほどのグランゼコールとは大
きく形態が変わり、修士課程だけで完結するようなプログラムになると思います。この場
合は、修士課程の 2 年を 1 年延長し、2 年間相手校に行くというプログラムです。ヨーロッ
パの中ではすでに 10 年近く動いているプログラムで、母校で 1 年、相手校で 2 年というわ
133
れわれが通常では考えにくいような配分になっています。
この 2 年間の派遣というのは非常に重要なポイントです。ヨーロッパの中でこうした取
り組みが始まったのは、当然 EU の市場統合、経済的な統合を受けてということなのです
が、EU の中で国境や文化の違いなどをまったく意識せずに、複数の文化を理解しつつ専門
知識を持って活躍できる人材を育てようという目標がありました。
相手先国の文化の理解を非常に重視しており、そのためには 1 年間の派遣では短いとい
うことで、2 年間派遣することで文化的あるいは言語的なことの理解を深めようというのが
この考え方の根本にあります。
私は個人的にもそういう考えに共感し、是非そういった取り組みに本学も仲間に入れて
ほしいということで、若干の働きかけをしていたのですが、一昨年のシンポジウムのとき
に実はこの T.I.M.E.ネットワークの加盟校の先生がたを何名かお招きし加盟したいという
ことを申し出て、いくつかのプロセスを経て加入にいたったということです。
この修士課程でのダブルディグリーに関しては、例えば慶應に 1 年しかいなくて相手校
に 2 年いたというような学生に、どうして慶應から修士を出せるのだという議論がこれか
ら出てくるのですが、これまで留学生を指導した先生がたが随分増えてきて、たしかにこ
ういったかたちで身元がわかっている学生を受けいれるというは双方にとってメリットだ
ということをかなりのかたが理解されていますので、学内的には徐々に理解が進んでいる
のでなんとか始められるのではないかというようなことで楽観視をしています。
ダブルディグリー・プログラムのまとめをつくりましたが、この戦略的国際連携の支援
をいただきながら、いま申しあげたようなことで制度的にも内容的にも飛躍的な改善がみ
られたという風に思っております。
先ほど馬越先生からのコメントがあった博士課程に関しては、これは実はまだヨーロッ
パの中でも議論されているところで、国によっては絶対しない、またある国ではもう始め
ているというケースもあります。博士課程に関しては、特に形式的なことよりも指導教員
が両校にできますので、双方が相手の研究内容を理解しているような共同研究体制ができ
ていないとおそらくできないという風に考えています。
それをするためにも、相互の研究者の交流をいろいろなかたちで進めるというのが非常
に重要であり、それをにらんでの研究者派遣をいうこともこれまで行っています。これは、
そういうことに価値があるだろうという機運が盛り上がればできますし、ドクターはマス
ターと違って世界共通の学位でもあるので、別に二つ持っていなくともいいだろうという
ことになれば進まないかもしれないというところです。
先ほど申しあげたダブルディグリーのほかの取り組みについても、いちおう一覧表とし
てまとめておりますのでスライドでお見せしますと、両方からそれぞれこういったタイト
ルの学位が出されるということです。こちらに関しては理工学研究科の取り組みとは違い、
通常の修士課程の 2 年間の中に、例えば半期の派遣で休暇の期間などを加えながら詰め込
んで、2 年間で学位を二つ取るという考えで行っているプログラムです。
国際プログラム推進へ向けた系統的な取り組みということで、私の理工学の教員として
の立場とそれから国際センターとしての立場が両方混ざったような意見になりますが、大
学院で学生を派遣しようと大学院生に外国へ行きましょうというのは、これはすでに遅い
わけです。
134
だいたいもう学部に入ったときから大学というのは国際的なところだと、在学中あるい
は卒業してすぐにでも外国に行くのが当たり前だというようなすりこみ教育を入学してす
ぐに始めるというのが非常に重要だと思います。
アメリカ型という言いかたもあるのですが、数週間程度の短期派遣プログラムを用意し
て場合によっては引率の教員をつけて外国の大学などを訪れ、外国で勉強するというのは
どんなことかというのをまずは経験させる。日本人の学生は食わず嫌いが多いのですが、1
回見て面白いとなると、またパタッとそちらへ行く傾向があります。そういったことで、
なるべく低学年のうちに現実味を持たせるようなプログラムを導入する。
それから慶應大学では、全学部むけに交換留学制度を世界の様々な地域の 100 校弱の大
学と行っており、年間 100 名前後の学生を相互に派遣しています。この制度を利用して、1
年だけですが、留学するという学生が前述の数週間の短期派遣プログラムの参加経験者の
なかからぼちぼちでています。
あとは、大学院で専門的な研究研修をする。あるいは学位取得を目的とした長期派遣、
それからダブルディグリーや ERASMUS-MUNDUS などによる相互連携でさらに教育か
ら研究へのつながりをつくっていくということが重要だと思います。
ERASMUS-MUNDUS に関しては、今回のダブルディグリーなどで非常につながりが強
くなったエコール・セントラル側から二つほどお申し出を受けており、こちらもおそらく
今年度中にはいわゆるステージ 3 というものがスタートする見込みです。
国際連携推進事業本部がこういったプログラムの推進にどういった役割を果たすかとい
うことをコメントしてほしいということだったのですが、こういった取り組みは、やはり
トップダウンではなかなか動きにくいというのが学内の人間の実感です。ただ、おそらく
学内のいろいろなところでローカルにやっている取り組みを、横のつながりをつくって少
なくとも学内での情報共有、グッドプラクティスの交換といったことをどんどん促進して
いくという機能は絶対に必要だという風に思っております。
お話ししながら部分的に馬越先生からの問題点についてはお答えしたという風に思って
おりますが、いろいろご質問をいただければ幸いです。ご清聴、どうもありがとうござい
ました。
馬越(ファシリテーター) 小尾先生、どうもありがとうございました。慶應義塾大学の
大変魅力的な取り組みについてご紹介をいただきました。繰り返す必要はないのですが、
慶應の場合は今日、主としてエコール・セントラルを中心としたご報告でしたが、中国、
韓国、インドネシアを含めて、すでにかなり大学とダブルディグリー・プログラムについ
てお取り組みになっています。
今日は特にエコール・セントラル、それから最後に T.I.M.E.の話までしていただきまし
た。特にエコール・セントラルについて私が驚いたのは、その生まれと育ちを拝聴します
と、もう 20 年も前にその基礎がつくられ、そして 21 世紀になって熟成し、こういう形に
育ってきているというお話だったと思います。
いちおう 12 時に終わることになっていますが、お昼の時間を比較的長くとっております
ので、12 時 10 分ぐらいまで会場の皆様と質疑、意見の交換をいたしたいと思います。
お手を上げて頂き、ご所属とお名前をおっしゃっていただき、ご質問あるいはコメント、
何でも結構だと思いますが、慶應義塾大学のプログラムについて議論をさせていただけれ
135
ばと思います。たくさん手があがりました。では、一番早かった一番後ろの方からどうぞ。
お一人で、できれば一つに限って問題を提起していただければと思います。
盧(星城大学) はい。わかりました。星城大学の盧と申します。本日は有意義な話を聞
かせていただきまして、ありがとうございます。
私の質問は、9 枚目のスライド(参照 P.226)に 2007 年度 6 名の学生を派遣されたと書
かれているのですが、
その前のいわゆる応募者は 20 数名だったということです。
具体的に、
20 数名の中からどうやってこの 6 名を選出するのか。そういうプログラムあるいは選出方
法があれば、教えていただきたいと思います。以上です。
小尾(慶應義塾大学) はい。こちらは、選出時期は学部 2 年生のカリキュラムがすべて
終わり、期末試験も受けたあとになりますので、学部 2 年間が修了したときの成績を元に
まずスクリーニングをいたします。これは、帰国後に大学院にそのまま推薦入学というか
たちで入りますので、学部の中でも相当成績が高くないと派遣をしないということです。
それから、成績のほかに志望動機などを文章で書いてもらったものを見て、そこでまず
書類選考いたします。そこで、6 名派遣のときはだいたい 10 名ぐらいが二次選考の面接に
進みました。1 回目の面接は日本人の理工学部の教員が行い、これはおもに精神的に強いか
ということを見るための面接で、本当に大丈夫かというかなり厳しい面接をして、本当に
本人が絶対大丈夫だと言う確信をもたない限りは派遣しないということにしております。
3 回目はフランスからフランス人の先生をお招きし、フランス語あるいは英語での面接を
します。ですから最初の書類選考が 2 月半ば、面接が 2 月の終わり、そして 3 月中旬ぐら
いにフランス人の先生との選考面接を行うというスケジュールで行いました。
馬越(ファシリテーター) 小尾先生に確認ですが、これは文科省の大学国際化推進プロ
グラムとしてやっていらっしゃるということですね。
小尾(慶應義塾大学) そうです。戦略的国際連携支援の補助を受けております。
馬越(ファシリテーター) 慶應から財源を持ち出してやっているということではないの
ですね。
小尾(慶應義塾大学) ほとんどありません。
馬越(ファシリテーター) はい、わかりました。ほかにたくさんお手が上がっていたの
ですが、それではこちらからいきましょうか。できるだけたくさんのかたに発言していた
だきたいと思いますので、手短にお願いいたします。
小林(法政大学) 法政大学の小林と申します。いまの慶應大学の理工学部と政策・メデ
ィア研究科の二つで、おもにこういうダブルディグリー・プログラムをされているという
ことでした。おそらく小尾先生に対応するかたが政策・メディア研究科にはいらして、そ
のかたが熱心にやられているという風に拝察しました。この文科省のプログラムで、ほか
の学部やほかの研究科で新しい動きがあるのでしょうか。その刺激が与えられ、あるいは
予算がついたことによって、ほかの研究科や学部で同じような取り組みをしようとされて
いることはあるでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) ダブルディグリー直接ということではありませんが、これを行う
にあたっては日本側の教育体制がやはり国際標準化していないことにはできないというこ
とで、そういう意味では例えば経済学部の 3、4 年生が英語だけで一連のカリキュラムを取
れるようなコースをつくり、そこで国際的な教育をしようということはでています。
136
ただそれは、私ども理工学研究科で行ったことをご覧になってということでは必ずしも
ないと思いますが、それにしてもこのダブルディグリーというのは、慶應義塾でやってい
る国際的な協力関係に基づく教育の取り組みの中では、いろいろなところで学内的にも広
報しておりますので、間接的な影響はあったかもしれません。ただ、この事業を通じてほ
かの部局に対して働きかけをしたということはありません。
馬越(ファシリテーター) 政策・メディア研究科は湘南キャンパスですね。復旦大学、
延世大学、インドネシア・リンケージプログラムの三つは全部湘南主導のプログラムです
ね。
小尾(慶應義塾大学) そうですね。
馬越(ファシリテーター) わかりました。それでは、こちらの方どうぞ。
片山(香川大学) 香川大学の片山と申します。今日はどうもありがとうございました。
ダブルディグリー・プログラム、このプリントの 3 ページ目の下のプログラムの図なので
すが、慶應大学の学生は学部の専門のところでフランスへ行かれて、修士課程でこちらへ
戻ってくる。それで、フランスの学生は修士課程から入るということです。
これは、現実的な対応としてこういうプログラムにされたのか、それとも慶應大学とエ
コール・セントラルのあるべき姿として、こういうプログラムになっているのか。その辺
りの事情を少し教えていただきたいと思います。要するに具体的にいいますと、慶應大学
の学生はフランスで修士課程、これは進学しないような感じで受け取っています。
小尾(慶應義塾大学) はい。このプログラムは、完全にエコール・セントラル側から、
こういうかたちでやりましょうということで持ってこられたかたちです。これは実は、
T.I.M.E.ネットワークの中でエコール・セントラルがほかのヨーロッパの中の大学と行って
いるかたちという風にうかがっています。
要するに、グランゼコールと普通の 4 年制大学、いまは 3 年制になってきているかもし
れませんが、その大学のカリキュラムの違いをどうやって乗り越えるかということでグラ
ンゼコールのかたがたが考えた形式という風に理解しています。
片山(香川大学) ありがとうございます。
馬越(ファシリテーター) よろしいですか。それでは森先生どうぞ。
森(京都大学) 京都大学の森でございます。こういったプログラムをやると、受け皿の
問題というか、こちら側での授業というのが非常に充実していないと難しいわけで、感心
して聞いていました。その国際コースについて、若干ご説明いただければと思います。こ
れは理工学部で提供されているのか、あるいは全学的なプログラムなのか。
小尾(慶應義塾大学) これは理工学研究科で行っているもので、2003 年に開設された通
称国際コースと呼んでいるものです。修士課程で提供している授業科目のなかから数十科
目を英語で行っており、9 月入学 9 月修了ということで国際的なカレンダーに対応したもの
です。
この開設の経緯はまた別のところで何回かご紹介したので、今回はお話しするのを忘れ
てしまったのですが、やはり優秀な留学生を日本へ呼ぶには、どうしても学年暦のことが
あるし、それから言葉のことがあるので、必ず英語でやり、9 月入学ということをやりまし
ょうと。これができたせいでダブルディグリーの受け皿ができ、非常に加速度的に広がっ
てきたということがあります。
137
本学の理工学部には学科が 11 あるのですが、大学院には大きな専攻が三つあるだけで非
常にオープンな構造になっています。この中から、そういう事業を立ち上げようという教
員のグループで、個別に先生がたを訪問し、英語で授業をされませんかというスカウトを
し、それで何人のかたが賛同されて、そこからいくつかちゃんとかたちになるようなプロ
グラムを立ち上げていきました。ナノサイエンスとエレクトロニクス、フォトニクス、メ
カニクス、マニュファクチャリングといったグループでカリキュラム群をつくって英語の
プログラムをつくりました。
論文指導は英語で問題ありませんし、それから日本の企業へのインターンシップ、それ
から非常に初歩的な日本語会話入門講座などをセットにして行っております。また、文部
科学省の国費留学生の優先配置を受けており、そういった奨学金があるといったことも大
きな励みになっているかと思います。ただ、このダブルディグリーの学生にはいまのとこ
ろ奨学金はなく、彼らはすべて私費で来ています。授業料は減免ですが、生活費はすべて
自分持ちです。
馬越(ファシリテーター) 国際コースというのは 2003 年に立ち上げられたとおっしゃい
ました。そうしますと、プログラム開発費も含めて慶應独自のものですね。
小尾(慶應義塾大学) はい。これは完全に独自です。
馬越(ファシリテーター) それでは後ろの方。
村瀬(長崎大学) すみません。長崎大学留学生課の村瀬と申します。今日はありがとう
ございます。簡単な質問なのですが、先ほどの 3 ページのエコール・セントラルとのこと
で確認なのですが、慶應の学生は 3 年次に向こうにいく場合の授業料は、慶應には払わず
向こうに払うということですか。
小尾(慶應義塾大学) 慶應に払います。向こうには払いません。いちおう学生交換の基
本は、自分が元に在籍したところに払い続けるということになっていますので。
村瀬(長崎大学) 短期留学の交換の考えかたということですか。
小尾(慶應義塾大学) そうです。
村瀬(長崎大学) 当然、学籍はずっと慶應に。
小尾(慶應義塾大学) そういうことです。
村瀬(長崎大学) わかりました。
馬越(ファシリテーター) よろしいですか。では、鳥取大学の若さん。
若(鳥取大学) 鳥取大学の若でございます。先ほどの香川大学の質問と少し重複するか
もしれませんが、この学部の 1、2 年生がこちらで授業を受けて、それから 3、4 年次で向
こうに行くというご説明でした。
フランスのほうの単位認定規定というのはよく知らないのですが、例えばこちらの授業
日数や授業時間数といったものとフランスのほうとの整合性のようなものについて、私た
ちはいま釜慶大学とやっているのですが、交渉で一番困ったのが 1 単位をどういう風に扱
うかということと、それともう一つは日本にはないのですが 3 単位というものが相手がた
にあり、その科目をどういう風に調整していくかということで随分、知恵を出したり汗を
かいたりということをやりました。
フランスのほうで学士を出すということが、この学部の 1、2 年次に慶應大学で受講した
単位を向こうで認定していると思うのですが、その辺りの交渉と、それとカリキュラムの
138
中身にまで立ち入って検討されているのかという辺りを少しおうかがいしたいと思います。
小尾(慶應義塾大学) はい。これは実は、慶應の学生は 2 年が終わったら向こうに入っ
て、ここからフランスでの学生になってしまいますので、単位のトランスファーというの
は一切起こりません。派遣時は両者の協定では、フランスの予備課程の 1、2 年と慶應の学
部 1、2 年が同等のレベルで修了するということだけが条件です。
ですから、ここからこちらに来る学生は当然 3 年に進級するべく 2 年までの科目に関し
てはすべていい成績で合格していなければ派遣しないということになります。こちらにと
っては単位に関しては、本来ここ(帰国時点での派遣元)との整合性を気にしなければな
らず、卒業をどうするかということでおそらく議論になるのが問題だと思うのですが、わ
れわれは、この点はもう一切無視してしまって飛び級にしてしまいましたので、フランス
人の学生と同じことにして大学院に推薦入学というかたちにしました。
ですから、単位のトランスファーについては、想定のとおりに運ぶ場合にはまったく問
題ありません。ただし学業を途中で断念して帰国してきた場合は、1 科目 1 科目中身を見て、
こちらの進級単位に相当するかどうかということを調べ、場合によっては 3 年生に戻って
しまうか、あるいは 4 年生に進級するかというかたちで復学するような一応の体制はでき
ています。
馬越(ファシリテーター) 失礼かもしれませんが、戻ってきた学生もなくはないのです
か。
小尾(慶應義塾大学) なくはないです。
馬越(ファシリテーター) ということだそうです。それでは女性の方。
石川(大阪大学) 大阪大学の石川と申します。非常に魅力的なプログラムを紹介いただ
いてありがとうございました。いま、かなり実は前のかたに聞いていただいたのですが、
私も単位の交換システムについてお聞きしたいと思います。
特に小尾先生は理工系の先生であられるので、実験と研究をどのように評価・認定する
のかということをどのように考えておられるか、それを特にお聞きしたいと思います。特
にこれから、T.I.M.E.というプログラムは 1 年慶應で 2 年派遣先ということですので、その
辺りをどのように扱われるのか。また、法的なしばりがありますので、単位交換はたしか
修士だと相手からは 10 単位しか持ってこられないとか、そのような課題等を持っておられ
ることがありましたら教えていただけますでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) まだ、こちらもきちんと取り組んでいない問題なのですが、では
T.I.M.E.でマスターのダブルディグリーをやった場合にどうなるかということに限って、少
しお話しさせていただきたいと思います。
T.I.M.E.の場合は先ほど申しあげたように、マスター2 年を 1 年延長して 3 年間というか
たちが想定されています。修士課程では、日本の場合は修士論文の重みが非常に重く、場
合によっては学部からずっと続けてきたものを 3 年間ぐらい研究してかなりのレベルにな
って、専門家に近いかたちで終わるということですが、ヨーロッパの場合は、こういった
研究の課題はおそらく最後の半年ぐらいだけなのですね。
それまではコースワークあるいはコースワーク等につながったラボラトリーワークとい
ったものが主体になっており、日本のように研究室にはりついてということにはなりませ
ん。ですから、もしも慶應の学生をヨーロッパに 2 年間送って、慶應に戻ってきて慶應か
139
ら修士を出すときには、通常の慶應の修士論文で要求されるレベルにどうつなげるかとい
うことが実は一番頭を悩めているところです。
いろいろな観点から申しますが、まずはカレンダーが半年ずれていますので、いまのと
ころまだ私の目論見ですが、慶應で 4 月に大学院に入学した学生は、春学期は慶應で授業
を取り、夏に先方へ渡り、2 年間勉強して 2 年後の夏に戻ってきます。そうすると最後にま
だ半年あるので、最後の半年は慶應で修士論文に集中して 3 月に修了すると。
その慶應で行う修士論文に関しては、派遣先の大学の指導教員と慶應側の教員が密接な
連絡を取りながら、共同研究というかたちで共同指導を行い、その内容を慶應に持ってき
てつなげて慶應の修士論文にする。それをいちおう可能性として考えております。修士課
程の場合は、1 年に入ったときからすでに指導教員がだいたい決まっておりますので、あと
はその指導教員と先方のアカデミックアドバイザーといった立場のかたとのやりとりに、
かなり期待しているところがあります。
そういったかたちで行うと慶應の場合は、海外で取った科目は 10 単位しかトランスファ
ーできないということはありますが、そのほかに国外研究という科目やインターンシップ
科目といったいろいろな科目があり、単位のトランスファーなしに外国で行った活動につ
いて慶應の科目として単位を与えるというものがありますので、おそらくざっと数えても
簡単に 30 単位は充足できるのではないかという風に考えています。以上です。
馬越(ファシリテーター) よろしいでしょうか。この T.I.M.E.は、エコール・セントラ
ル以外にも今後広げていかれる予定はあるのでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) そうですね。例えば、ここのマドリード工科大学からはいま修士
課程に学生を受け入れています。そちらとはダブルディグリーの協定はしていませんが、
彼は慶應でマスターの学位を取りますので、それはおそらくマドリードへ帰ってマドリー
ドの学位になってしまうと思うのです。ですから、協定なしでもすでにダブルディグリー
は運用できてしまうことになります。
馬越(ファシリテーター) 事実上できるということですね。
小尾(慶應義塾大学) 事実上できることになります。あとはいま、すでにドイツの大学
でアーヘンやミュンヘン、あるいはドレスデン、それからミラノ工科大学などとは、どん
な分野であればできるかという個別の検討に入っています。
馬越(ファシリテーター) 時間は来ているのですが、この慶應のテーマについてあとお
一人質問をしていただき、最後に太田先生にお願いしたいと思います。
大西(国際連合大学) 国際連合大学の大西と申します。私も慶應の出身者なのですが、
私の在学中にはこういうものはなく、あればおそらく応募しただろうと思いながら先ほど
から聞いておりました。一つ確認なのですが、フランスの留学もそうなのですが、インド
ネシア、韓国、延世大学もあったと思いますが、6 年あるいは 6 年半かかって、学士号は向
こうでもらって、修士号は慶應が出すという構造は変わらないわけですか。
小尾(慶應義塾大学) それはまちまちです。政策・メディア研究科で行っているものは、
慶應ですでに学士を終わって、修士を向こうと慶應で取るというものです。いま私がお話
ししたのは、フランス側から出る学位は修士レベル相当です。また、慶應からは修士のみ
ということになります。
馬越(ファシリテーター) グランゼコールの場合は、修士 equivalent のものということ
140
ですね。
小尾(慶應義塾大学) そうですね。またフランスの教育制度もいろいろ動いていますの
で、少し定義が難しいところです。
馬越(ファシリテーター) そうですね。それでは、いちおう時間がまいりましたので、
今日日本学術振興会のプログラム・アドバイザーをお願いしております太田先生がいらし
ていますから、最後にコメントをお願いいたします。
太田(一橋大学) 一つだけ質問させてください。私、実はこのエコール・セントラルに
実際訪問し、エコール・セントラル側もこの慶應大学や東北大学とのことを非常に熱を持
って話しておられたので、非常に一生懸命されているということがよくわかりました。
私の質問は、先ほど小尾先生が少し言われた単位認定のところで、私も同じ考えを持っ
ているのですが、何かあったとき単位認定をするときに、無理やり単位認定をしなければ
ならない部分もあると思うのですが、もう一つは、先ほど先生がおっしゃったような国外
研究やインターンシップといった汎用性の高い受け皿のようなものをカリキュラムの中に
つくる、そういうものを設けるというのは非常に重要なのではないかと思うのです。
そこについてのある意味でのカリキュラムの修正というか、少しいじらなければいけな
いような気がするので、そこのところについて少しお聞かせ願いたいと思います。そのと
きに併せて、このエコール・セントラルに行く学生が 3 年目、要するに向こうの Year3、
Year4 を取るときには、先生がたのほうでこれとこれとこれを取りなさいとか、これでない
と困るよという風に、ある程度の慶應側からのしばりがあるのか。学生はかなり自由度の
高いかたちで授業を取ることができるのか。このところだけ、お願いいたします。
小尾(慶應義塾大学) 最初におっしゃった受け皿科目、先ほど私が申しあげたのは修士
課程のことで、先生がおっしゃったように学部の 3、4 年にそういう科目があれば、かなり
単位の読み替えは柔軟性をもってできるだろうと思いながら拝聴しました。
学部のカリキュラムだと、学科ごとに独自にやっているところがあって、そこへはなか
なか切り込みにくいところがあります。修士は先ほど申しあげたように大専攻ですのでわ
りと鷹揚に進めることができたというのが一つのポイントだと思います。
それから、フランスに派遣した学生に関しては、いちおう定期的に報告だけしてくださ
いという風に言っているのですが、基本的には先方のカリキュラムにどっぷりつかって、
先方のフランス人と同じようにやりたいことをやってきなさいということを言っておりま
す。
馬越(ファシリテーター) 結局、先ほどのお話によると、フランス側はもう修了生を出
したわけですが、慶應の学生はまだ戻ってきていない。これからですね。
小尾(慶應義塾大学) そうです。これからです。
馬越(ファシリテーター) フランス側の評価はどうなのでしょうか。慶応のプログラム
を高く評価してお帰りになりましたか。
小尾(慶應義塾大学) 来た学生 3 人のうちの 1 人か 2 人は日本の企業に就職するという
ことになりました。やはり、それがダブルディグリーをするための一番の目的ですので、
日本人の学生も帰ってきてどうなるかわかりません。またフランスに行ってしまうか、あ
るいはまったく別の第三国に行くか。それは、まだ 2 年先のことになると思います。
馬越(ファシリテーター) どうもありがとうございました。今日は慶應のチャレンジン
141
グな試みをご紹介いただき、学ぶところが大変多くありました。私の感じでは、エコール・
セントラルにしても T.I.M.E.にしても、かなりネットワークで活動していますね。
日本の場合は個別大学がやっているわけで、そのあたりを今後どうしていくかという問
題もあると思います。それから、何よりも慶應の場合は一大学としてはかなり実績がある
わけですが、数の上で日本は非常にたち遅れている。特に中国とエコール・セントラルの
学生の数の問題を先ほどおっしゃいましたが、やはりかなり先行されていますね。
小尾(慶應義塾大学) そうですね。
馬越(ファシリテーター) もう少し日本はこのダブルディグリー問題をスピーディに進
める必要があるという印象をもった次第です。
少し時間がオーバーして大変恐縮でしたが、これをもって午前中の小尾先生のセッショ
ンは終わらせていただきたいと思います。ご協力、どうもありがとうございました。
事務局からの連絡ですが、午後のセッションは 13 時 40 分から、同じこの場で分科会 C
のグループはスタートいたします。これから 1 時間 20 分ほどの間にお食事を、この周辺で
とっていただくということだそうです。いろいろ楽しい場所があるそうですので、ご活用
いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
(休憩)
馬越(ファシリテーター) それでは時間がまいりましたので、午前中に引き続き、分科
会 C「ダブルディグリー・プログラム」の午後のセッションに入りたいと思います。午後
のセッションの進め方ですが、東北大と東工大の二つのケースを予定しています。いちお
う通してご発表をいただき、そのあとディスカッションということにさせていただきたい
と思います。
最初に、東北大学グループから「共同教育、ダブルディグリー・プログラムについて」
ということで、お二人の先生からご発表をいただきます。皆様のお手もとに両先生のプロ
フィールがございますので、詳しくはそちらをご覧いただきたいと思いますが、最初に橋
本治先生から、それから続きまして升谷五郎先生からご発表をお願いいたします。
橋本先生は、いま東北大学の副学長として、教育国際交流・大学評価担当をなさってい
らっしゃいます。理学研究科長も兼務されています。それから升谷先生は、同じく東北大
学の大学院工学研究科の教授でいらっしゃいます。それでは、どうぞよろしくお願いいた
します。
橋本(東北大学) 東北大学からの話は、二つに分けさせていただきます。最初の部分で
少し私が概要についてご説明し、具体的な部分については、共同教育小委員会の委員長で
ある升谷教授からお話致します。
題目を「共同教育、ダブルディグリー・プログラムについて」とつけさせていただきま
した。このダブルディグリーに関する分科会では、どういうスタンスでわれわれが考えて
いるかということも含めて、少しご紹介します。
東北大学は 1 年ほど前に総長が替わり、新総長のもと「井上プラン 2007」と申していま
すが、大学としての今後の方針を立案しております。五つの重点課題がありますが、何よ
りも重要なのは教育です。
それを模式化したものがここに示してあります。その中でも特に教育の国際化は、最優
先課題のうちの一つであると申しあげてもよろしいと思います。
142
教育の国際化といっても、いろいろな側面があります。特に留学生に関わる部分、それ
から学生を送り出していく部分、それも学部段階、修士の場合、それから先ほどからある
ような博士の段階。いろいろな意味で、それぞれが異なる側面があり、同時に大学として
インフラを含めて整備しなければいけない面があります。
教育の国際化ということを考えたときに、これは少し違った側面から見た図ですが、学
生を送り出すということ、それからキャンパスのインターナショナリゼーションと申して
おりますが、大学の中に留学生を受け入れるということも含めてキャンパスの国際化を進
めていくということがあります。
例えば、海外研修とここではいっておりますが、大学としていろいろなかたちでの学生
に対する国際化教育を行っていくことを整備していかなければいけない。あるいは進めて
いかなければいけないということで、これがこの分科会での共同教育、あるいは特にその
ダブルディグリーといったところに関わると考えております。
東北大学も協定校が相当数あります。大学全体としての協定校と各研究科、部局レベル
の協定が、全部でだいたい 400 強あるのですが、これも十分生かしているとはまだいえな
いところもあります。そういったものも生かして、特に新しい総長のもとでは、学生を外
へ出すということが非常に重要なことになっております。特にいま学部段階で学生を海外
へどんどん出していくことを非常に重要視しています。先ほどもお話があったと思います
が、1 年で入ったときから、そのような環境が本学には整備されていることを周知すること
が、大変重要なところであると思っています。
ダブルディグリーそのものは、現在のところ学部の後半から基本的には修士レベルのダ
ブルディグリーが実施されています。今後、博士に向けてということ、それから学部レベ
ルをどう考えるかということが課題になっています。
東北大学でも大学国際戦略本部強化事業のもと、国際戦略本部のもとに国際化を進める
ということが一つです。先ほど慶應大学のお話でもありましたように、戦略的国際連携支
援をいただいて特に日中、日欧ということで清華大学、フランスエコールセントラル等の
グランゼコールとの共同教育、ダブルディグリー・プログラムを現在実施しています。広
く国際社会で活躍する指導的人材の養成を目指しております。
私共は、
「共同教育」
、
「ダブルディグリー・プログラム」を若干異なった意味で用いてお
ります。日中、特に清華大学との間でスタートしているのは「共同教育」です。この場合
は絶対的な意味でダブルディグリーを取らなければいけない、要するにディグリーを両方
から出さなければいけないということまでは要求していません。結果として、ダブルディ
グリーとなる場合もありえますが。
エコール・セントラルグループ、INSA-Lyon との間では、先ほど午前中にご説明があっ
たようなかたちでの本来の意味に近い形でダブルディグリーのコースをつくっております。
中国の清華大学と現在実施している共同教育では、特に清華大学のいわゆる直博といわ
れる学生を受け入れています。向こうから見ると、5 年一貫の中に入っているトップクラス
の清華大学の中でもさらにトップクラスの学生を共同で教育するということが基本的な精
神になっています。結果としてダブルディグリーもありうるけれども、清華大学側は直博
ですので必ずしもディグリーを要求はしない。日本側のマスターディグリーというのは、
清華大学としてはあまり関係ない。関係ないというと申し訳ないですが、それほど要求し
143
ないということになります。
いま、この支援プログラムでいただいている学内の運営体制について、ここに図示させ
ていただきました(参照 P.229)
。先ほどの大学国際戦略本部強化事業でつくっている部分
がこの中央にあるオレンジ部分のグローバルオペレーションセンター(GOC)です。
GOC は既存の組織、左側にある国際交流部等々との連携をとりつつ、非常に機動的にこ
うした新しいダブルディグリーあるいは共同教育等に対応する組織となっています。これ
も先ほど午前中にお話がありましたが、修士レベルや大学院レベルの話にまで及ぶと、こ
れは各研究科との密接な連絡がないかぎり駄目ですし、それぞれの指導教員等々の間での
相手側との連携がないと、やはり実のある国際交流になりません。特にこのプログラムの
中では、中心的にいままでやってきたのは理学研究科、工学研究科です。だんだん他の研
究科にもこれが広がっていくという状況にあります。
大学全体としては、この図の中では右のほうで小さくなっておりますが、会議体に近い
のですが、国際交流戦略室で大学としての方針を決めています。
この二つのプログラムですが、2005 年に日中・日欧、戦略的国際連携が採択されました
が、それに先だって交流協定にもとづき、その大学院レベルでの交流についてのいろいろ
な議論がありました。
特に 2004 年になってダブルディグリー、あるいは共同教育プログラムについての下うち
あわせ的なものも始まっていました。2005 年になって、直ちに INSA-Lyon との覚書をま
ず調印することができました。2006 年には清華大学、そしてエコール・セントラル、これ
はそれぞれのところがもともと種を持ち、そのシードから発展し、このような覚書の調印
になり、実際に学生の交換にいたっているという状況にあります。
これで、概要としてはここまでということで、あとは升谷教授のほうからお願いします。
升谷(東北大学) それでは引き続きまして、各プログラムの体制について、升谷のほう
からご紹介させていただきます。
先ほど申しあげたように、中国の清華大学、それからフランスのエコール・セントラル
グループ、それから同じくフランスの INSA-Lyon の三つの組織と協定を結んでいるわけで
すが、実態としては、それぞれ個別に対応をしている部分がかなり強くなっています。
レベルとしては修士レベルで、フランスの場合には Diplôme d'Ingénieur という学位が与
えられます。中国のほうは、修士は与えてもいいけれども与えなくてもいいというかたち
ですので、そこのまず学位のやりかたからして違っている。
それから学生の受け入れおよび派遣を、東北大学側では理学研究科、工学研究科で行い
ますので、そこのところで研究科に合わせたカリキュラムを満足していかなければいけな
りません。このダブルディグリー・プログラムというのは、それぞれ派遣された学生を正
規学生として受け入れますので、入学手続き、単位取得、修士論文の作成・評価といった
ところをすべて正規学生としての条件を満足するかたちをとっていくということを基本と
考えました。
そういうことで、これをやっていく場合に、われわれの学内の体制としては、国際交流
の担当者と教務担当者がチームを組むような格好で密接に意見交換しながら進めてきたと
いうのが実態です。
それから、それぞれの相手先との間ではプログラム推進運営委員会なるものをつくり、
144
年に 2、3 回、日本で開くことと相手先のところで開くということをやって意見の調整を進
めながらやっているところです。
先ほども少しお話がありましたが、授業料ということでは、慶應大学と同じで派遣元、
もともと最初に学籍のあったところにお金を納め続けます。それで受け入れ先のところで
は徴収しないというのが基本です。
東北大学の場合、いままでに国際交流の協定を結んでいたところからの交換留学で来て
いる学生からは不徴収という規則はあったのですが、ダブルディグリーの場合には正規学
生として受け入れますので、その適用する規定がなかったということで、これについては
かなり慌てて規定を改正し、正規学生も不徴収ということを決めました。
もう一つ大きな問題としては、指導言語あるいは講義の言語をどうするかということで
す。これも相手先によって変わっており、フランス側の二つの学校とはそれぞれの現地の
言葉を使うことにしています。ですからフランスから来た学生は日本語で講義を受けてい
ただき、それから、こちらからフランスへ行った学生はフランス語の講義を受けるという
ことでやっております。
なかなかフランスで日本語、それから日本でフランス語というのは、それほどポピュラ
ーなわけではありませんので、やはり少し前に行って、少しの間は特訓コースのようなも
のに入って、それでなんとかスタートラインに立つというのが実状のようです。
清華大学のほうについては、両方とも英語でやりましょうということになっています。
これについては、日本側の受け入れる研究科で英語の講義を用意できるかということでか
なり問題がありましたが、なんとかそれぞれの研究科で手配をしているというのが現状です。
ここからは、各大学の個別のお話をさせていただきたいと思います。まず東北大学と中
国の協定、ここの場合は清華大学ですが、それぞれ各大学が正規学生として必要な履修要
件を満足した場合に、修士レベルの学位をそれぞれから与えます。中国の学生の場合は、
先ほど橋本副学長のほうから申しましたように、直博という必ずしも修士の学位が必要な
いコースの学生ですので、中国からは出さない場合もありますが、日本からは出します。
日本から行った学生は、向こうからも修士をもらうというスタイルです。
東北大学は理学研究科、工学研究科が参加しておりますが、清華大学の場合は日本のよ
うに理学研究科や工学研究科のようにひとまとめではなく、いくつかの系という言いかた
をされているところでまとまって研究科のような動きをされていますので、そこが参加を
決めるということで、参加の意志のあったところをリストアップして交流しているという
状況です。
清華大学はご承知のとおり、中国の中では北京大学と双璧をなす名門校であり、世界的
にも非常に高いところにランキングされています。また、中国の指導部を輩出しているこ
とでも有名なところです。
具体的にどういうタイムスケジュールでやっていくかということですが、左側の中国人
の学生は、学部 4 年間が済んでから直博コースに入り、この中のどこで来るかというのは
必ずしも明確ではありませんが、モデルケースとしては最初の 1 年間は中国で単位を取っ
たりして、それから日本に 9 月頃にやって来て、それで 1 年半かけて日本に在学します。
非常に優秀な学生だということを信じて標準的には期間短縮できるであろうということで
1 年半のところで論文を出し、ここで修士を与えます。それで清華大学のほうへ戻っていき、
145
あとの残りの期間をやって、うまくいけば 9 年でドクターを取り、出て行くということで
す。
一方日本の学生は、実質的には学部に当る最初の 4 年間はあまり関係ないのですが、修
士に入ってから 1 年間は日本で研究をします。それから清華大学に行って、これも 1 年半
いて研究し、帰ってきて最後の少しで論文のまとめを日本でやるといったスタイルをとり
ます。
これによって、研究の大部分をそれぞれの相手校で行うということになります。こんな
ことをやるためには、それぞれの学生の指導教員の先生がたがお互いに非常に密接な協力
関係を持っていなければできない話です。そのため、このプログラムは、非常に密接な協
力関係を持った研究室間で進めていくということを前提としています。
最終段階では修士論文の審査ということを行うわけですが、相手校の先生がたがどうい
う風にコミットするかという点をお話します。例えば日本で最終的に修士論文の審査をす
る場合、その学生には、修士論文を普通の学生より 2 週間先だってまとめてもらいます。
そして、それを中国の指導教官のもとに送ります。それに対してコメントをつけていただ
き、そのコメントに沿って修正したものを日本で審査するというスタイルをとって、向こ
うの先生の審査を反映した格好で日本で審査するというスタイルをとっております。
現状として、2006 年 10 月に中国からの第 1 期生 3 人を受け入れております。それから
2007 年 10 月にさらに 3 人を受け入れ、現在は第 1 期生がちょうどいま修士論文の審査を
受けている最中です。まだ残念ながら、東北大学から清華大学に行っている者は 1 人もい
ないので、いまは片方だけの交流になっております。
続きまして、フランスとのお話をさせていただきたいと思います。これも基本的には同
じです。ただ、いま大学院の理学研究科、工学研究科が参加しているという状況ですが、
先ほど慶應のご紹介にありましたように、エコール・セントラルの場合は学部レベルの学
生がフランスに派遣されます。そうすると例えば工学部の学生が行くと、工学部の学生が
戻ってきてからの大学院の行き先として工学研究科だけではなく、情報科学研究科や環境
科学研究科といわれる独立研究科に進む可能性もありますので、いまそちらのほうにも話
を広げているところで、だいたい話はつきかけているというところです。
エコール・セントラルグループについては、先ほど小尾先生からお話があったとおりで、
ユニバーシティというわけではなくグランゼコールといわれる組織で、工学系統の教育機
関ではありますが、工学を教えるだけではなくマネジメントに関わる経営学といったこと
も非常に熱心に教えているというところです。それで Generalist Engineer というものを目
指しているということになります。
INSA-Lyon もやはりグランゼコールですので、それに近いところですが、もう少し技術
寄りかなという感じのところです。東北大は両校と比べると、自分のところを研究中心大
学という風に自己定義しておりますので、研究を一生懸命やるところです。
それに対してグランゼコールのところは、よりマネジメントに近い工学の素養を持った
マネージャーを育てるというようなところがありますので、非常に相互補完的な意味の強
いダブルディグリー・プログラムであるという風に考えています。
こちらがエコール・セントラルの場合のコースの標準例で、先ほど慶應大学の事例とは
若干異なっております。これは、東北大学が非常にかたいことを言って、学部は飛び級し
146
ないでちゃんと卒業しなさいということを言っていますので、こういうかたちになってい
ます。
日本からの学生は、エコール・セントラルの学期開始の少し前にフランスへ行って、こ
こで少しフランス語の勉強をして、
その後 2 年間フランスで向こうの課程を取ってきます。
それで 6 月か 7 月ぐらいに帰ってきて、そこから半年間ほどは卒業研究をやりなさいとい
うことです。工学部や理学部の先生がたは、卒業研究をやらせるのが非常に大事だと思っ
ており、こういうプログラムになっております。
それからそのあと普通の修士課程で、残念ながら 6 年では終わらず,普通 7 年かかって
しまいます。また、フランスから来た学生は、日本語がぺらぺらであれば 10 月入学が可能
で、これまで 1 人はそういう学生がおりましたが、そうでない学生は半年間、日本語の勉
強をしていただき、それから正規の課程に進んでいただくということで、通常 6 年半かか
るというプログラムになっております。
一方の INSA-Lyon のほうは、どちらかというと修士レベルで完結するような格好のプロ
グラムです。先ほどのエコール・セントラルは学部までかかっておりますが、こちらは修
士レベルということで、日本の学生は修士に入って半年経ったところで向こうへ行く。そ
れで最後の 5 年目と半年ちょっとやって、それで戻ってきて、最後のところのあと 1 年で
研究の仕上げをする。
それからフランスの学生は、5 年目の初めところで日本にやってきて、半年間日本語の勉
強をしたあと 2 年間やって、修了するということです。これも年数的には、日本の学生は 7
年間、フランスの学生は 6 年半というスケジュールが標準的なものと考えております。
実施状況ですが、初年度 2006 年にエコール・セントラルのマルセイユとリヨンから 1 人
ずつ来ています。それから 2007 年にエコール・セントラルから 3 名、INSA-Lyon から 2
名来ております。日本から送り出しているのは、工学部の 3 年生 1 名を昨年 7 月に派遣し、
最初の半年間ぐらいが経っているというところです。
先ほど申しあげましたように、日本人学生にとってフランス語というのは、それほど多
くの者が取っている科目ではないということで、なんとかそれを行きやすくするために、
フランス語のコースを特別に開講しています。ダブルディグリー・プログラムに興味を持
つ学生に、特別コースを開設しているという格好で、一昨年の 11 月頃から初級、初級、初
級、中級、初級という感じで進めてきており、最初は 9 人から始まりました。
それでだんだん絞り込まれて 5 人、5 人ときて、どんどん減っていっているのはさびしい
のですが、今年に入ってのコースもなんとか続いているという状況です。工学部も理学部
もだと思いますが、入学式のときにこういうものがあるということを新入生に宣伝をして
参加を呼びかけているところですが、やはりこれも多少行って帰ってきた学生さんが出て、
うまくいったという事例が出てくると、もう少し希望者が増えてくるのではないかと思っ
ております。
今後の課題としては、東北大学から派遣するためにフランス語のコースをもう少し充実
していきたいということ、それから、中国のほうは英語で講義を行うという話になってい
ますが、やはり生活していくためにはある程度の中国語も話せる必要があると思いますの
で、それを開設していくことを希望しています。
それから、興味を持つ学生への対応の充実。奨学金がなんとかならないであろうか。こ
147
れは行くほうも来るほうも共通の話です。それから、教員の交流がないとこの話は長続き
しませんので、これを是非もっと進めていきたいと思います。さらに、一般的には海外イ
ンターンシップや、短期滞在の制度を導入していって、これを通じてダブルディグリー・
プログラムに興味を持つ学生を増やしていきたいということ考えています。
そのほか、このダブルディグリー・プログラムを先ほどご紹介のあった T.I.M.E.やその
ほかのアジア地域への拡大をしていくということも視野に入っております。また、いまは
ヨーロッパ、アジアへ広げていくというのが水平方向への拡大とすると、ドクターレベル
へのダブル Ph.D.とでもいうのでしょうか、そういった垂直方向に広げていくということも
視野に入れて検討を進めているところです。以上でございます。
馬越(ファシリテーター) ありがとうございました。私から一つだけ確認させていただ
きます。慶應はエコール・セントラルの場合、文科省の戦略的国際連携支援でやっていら
っしゃるということでしたが、東北のほうはどうですか。
升谷(東北大学) はい。これもそうです。
馬越(ファシリテーター) そうですね。それでは引き続き、東工大の発表に移らせてい
ただきます。
先ほど、東北大学のテーマ設定は非常に慎重にといいますか、
「共同教育・ダブルディグ
リー」という表題で発表していただきました。今度は東京工大の森田先生からの発表題目
はダブルディグリーではなく、これからお話がありますが、
「デュアルディグリー・プログ
ラム」ということでご発表をお願いいたします。
先生は国際連携プランナーとしてこの事業に深く関わっていらっしゃいます。東工大の
国際室にご所属になっています。詳しくはプロフィールをご覧ください。先生は、これま
での先生がたとは異なり、社会科学系のご専門の先生でいらっしゃいます。どうぞよろし
くお願いいたします。
森田(東京工業大学) ただいまご紹介にあずかりました東京工業大学国際連携プランナ
ーの森田でございます。今日はデュアルディグリー・プログラムということなのですが、
今回の分科会で最初に馬越先生のほうから提起されたいくつかの問題点踏まえつつ、これ
までの経験をご報告したいと思います。
その前に簡単に、これはもうご承知のとおりだと思いますが、東京工業大学の歴史です。
もうかれこれ 130 年近く前に東京職工学校として設立され、戦前の 1929 年東京工業大学と
なり、戦後 1953 年に大学院をつくり、そのあと発展をしてきて国際関係では 2002 年 4 月
に国際室というものを立ち上げました。そして 2004 年 4 月に国立大学法人東京工業大学に
なったという歴史です。
概要ですが、学生数はおよそ 1 万名、うち学部生が半分、大学院生が半分の 5 千名ずつ
ということです。それに対して教職員が 1141 名、事務職員が 557 名ということで、だいた
い 1 万名の学部生および大学院生の中で、留学生がそのうちのおよそ 1 割を占めていると
いうことで、国立大学の中ではこの比率は一番高いということになっています。その内訳
ですが、学部 282 名、修士 279 名、博士後期課程 332 名、研究生等 145 名というかたちで、
東工大は現在、こうした状況です。
少し留学生の出身をお話ししておこうと思ったのですが、やはりどこでもそうなのです
が、だいたいその 1038 名の中の 4 割近くが中国、1 割強が韓国ということで、以下ベトナ
148
ム、タイ、マレーシア。下はそれぞれの北米や中南米、オーストラリア、太平洋の地域で
どのくらいの学生が留学してきているかということを少しご理解いただくために書いたも
のです。要するに、これでおわかりいただけると思うのですが、中国、韓国とアジアを中
心にした留学生が非常に多く、欧米からは非常に限られているという状況です。
そこで複数学位に関することなのですが、それに関して一つご紹介しておこうと思った
のは、私どものほうで平成 17 年度、18 年度に文部科学省の委託事業ということで大学院
におけるメジャー、マイナー、ジョイントディグリー等に関する調査というものを行いま
した。これは昨年、結果が発表されているのですが、この中に日本国内の国公私立大学院、
これは大学院です。複数大学位制度とありますが、これは大学院の調査だけです。日本国
内 569 校、それから海外の大学に対する調査を行って、この報告書をまとめております。
ですから今日の報告は、この調査も踏まえてさせていただこうという風に思っております。
これはもう製本になっていると思いますので、ご関心のあるからはご入手いただければと
思っております。
そこで本日の本題なのですが、デュアルディグリーに関して、このダブルディグリーあ
るいはデュアルディグリーという言葉が何か定まった定義のようにお話しされているので
すが、実は私どもが、先ほど申しあげた調査を行いましたら、これは実は英語圏において
も必ずしも一致しているわけではないということがわかりました。
先ほどの調査を行ったチームは私が入っているわけではないのですが、私自身も実際に
カナダの高等教育の国際化の専門家であるジェーン・ナイト先生からあるいはジョージア
工科大学から東工大にミッションが来たときにお話を聞いたところ、最初は全然話が通じ
なかったのです。それで、デュアルディグリーというのは一体、おたくでは何という意味
で使っているのかという定義の話が 1 時間ぐらいあったわけです。それで、今日の話し合
いはこの定義でいこうということが決まってから、ある程度話が前進し始めたという経験
が、私自身もあります。
そういうことで、実はジョイントディグリー、デュアルディグリー、ダブルディグリー
といろいろと言いっていますが、これはかなりインターチェンジャブリーに使われています。
それで、われわれの調査に基づくと、米国でデュアルディグリーと呼ばれる場合には海外
との複数学位取得を指す場合が多い。ジョイントディグリーというのは同一学内の同一研
究科ないし、同一学内で他の研究科との複数学位取得を指すことが多い。
英国の場合には、複数の機関が二つの学位を出す場合にはデュアルディグリーとジョイ
ントディグリーが同義に使われているけれども、ジョイントディグリーという名称は、複
数の機関が一つの学位を出す場合にも使われるということで、非常にいま定義自体、言葉
自体がかなり混乱している状況にあるということをまず指摘しておきたいと思います。
その上で、いちおう暫定的な定義がないと話が進みませんので、われわれとしてはこれ
でいこうということを学内で話をしました。
デュアルディグリーという場合は、二つの大学の類似の分野で各一つ、計二つの学位を
取得することである。この定義に基づくと、東京工業大学がやっている清華大学合同大学
院プログラムというのはデュアルディグリー・プログラムになる。
次はダブルディグリーですが、これはまったく異なった分野で計二つの学位を出すこと
という風に、私どもはまず定義することにしました。
149
ジョイントディグリーは、われわれとしては二つないし二つ以上の大学や大学院で学び、
二つの大学名の学位、要するに連名の学位を一つ出すというケースという定義にしようと
いう風に、学内で整理をしました。これは、海外でいろいろなところで話されるときは随
時確認をしながらやっていく以外にないだろうと思うのですが、いずれにせよ、これが定
義です。
そこで先ほどの定義に基づいて、デュアルディグリー・プログラムとして、
「東京工業大
学・清華大学大学院合同プログラム」というものがあるわけですが、これについてご説明
をさせていただきます。これは、いわゆる大学院のデュアルディグリー・プログラムとし
ては日本初のものです。先ほどからお話の出ている中国の清華大学と東京工業大学の大学
院のレベルで合同で教育を行い、両大学から学生に対して学位を出す。
基本的な考えかたは、日本で学んでいるときは日本語で、清華大学で学んでいるときは
中国語を使用し、結果的にこのデュアルディグリー・プログラムの卒業生は中国語、日本
語をそれぞれに駆使して両国の橋渡しができるようなキーパーソンに育ってもらいたいと
いう風に考えているということが、このプログラムの概要です。
清華大学は先ほどもうご紹介があったので細かいことは申しあげませんが、北京にある
総合大学で、理工系を中心に非常に優れた人材を輩出しており、中国あるいは世界におけ
る超一流の大学の一つです。
この清華大学との大学院合同プログラムがどうして立ち上がってきたかということです
が、先ほど東工大学の歴史で申しあげたように、2002 年に東京工業大学の中で国際室とい
うものを設けましたが、これを機会に清華大学との間で大学院合同プログラムを立ち上げ
ようという話になり、その後およそ 2 年間話し合いが行われた結果、いまからおよそ 3 年
半前のことですが、2004 年 9 月にナノテク、バイオの両コースからスタートし、1 年後に
社会理工学コースが加わり 3 コースになったという状況です。
昨年 9 月からは博士課程も開始されました。この博士課程については、少しまたのちほ
どご報告をいたしますが、これに伴って、東工大のほうから清華大学のほうに教員を派遣
し、あるいはこのプログラム自体をサポートする合同プログラム北京事務所というものも
清華大学内に開設しております。
この合同プログラム事務所は昨年、別途国際業務全般、清華大学との東工大との連携業
務全般を面倒みるということで、北京事務所を設けたことに伴い、そこと併合して現在オ
フィスもそこに移っている状況です。オフィスは清華大学の中に開設させていただいてい
ます。
プログラムの概要ですが、先ほど申しあげたようにナノテクノロジーコース、バイオコ
ース、社会理工学コースというものがあります。ここでもう 1 点、討議すべき問題点とい
うところに出ている推進母体、馬越先生のメモの 6 個目の点の推進母体のところについて
少しお話をしておこうと思います。
確かに研究科に実施主体を置いておくというのは、先ほどの慶應大学のご報告にあった
ように、緊密な協力関係が結べるという意味では非常に有効だと思います。こちらと先方
の大学の同じような専攻あるいは研究科同士で話し合いをするというのは、確かに相互理
解をしやすいという意味では非常に効率がいいです。
ただ一方で言われているのは、これは早稲田大学の方からお聞きしたのですが、逆に学
150
内の他の専攻科からの協力を得るのがやはり難しいケースがあると。ですから、そういう
意味では別に立てたほうが、いわゆるバーチャルなかたちで立てたほうが、専攻を越えた
協力を得られる可能性もある。ただ、具体的な専攻に落ちていないコースの運営というの
は、教官にしてみればかなり負担になるという側面もあります。これはちょっとわかりま
せんので、のちほど皆様の大学のそれぞれの状況で是非ご意見を聞かせていただければと
思っております。
もう一つは、先ほど少しご説明をした博士後期課程です。この博士後期課程については、
昨年 9 月から始まったのですが、いまの段階では私どもの定義によるジョイントディグリ
ーというものを出すことは難しい。つまり博士号は東工大から出るか、清華大学から出る
か、どちらかにならざるをえないだろうということで、両方の大学院に入学し、両方の大
学院の指導を受けるのですが、学位取得についてはいまの段階では清華大学のみの名前の
博士号、あるいは東工大のみの名前の博士号になるだろうという風にいわれています。た
だ、ここはまだ日本における制度、特にジョイントディグリーをめぐる法制度等がいま議
論になっているところですので、今後の推移によってどうなるかということが、日本の制
度の一つの大きな問題点だと思いますが、のちほどまた少しお話をします。
現在進行中の修士課程については、こういうスケジュールになっています。東京工業大
学の学生は基本的に 2 年半でいわゆるデュアルディグリーを取得できる。清華大学の学生
はここを見ていただければわかるのですが、だいたい 3 年必要であるという風に考えられ
ています。
これについても、いま少し話し合いを続けていますが、いまの段階の状況をお話ししま
すと、東工大生がまず通常 4 月に東工大に入ってきたら、夏まで東京工業大学で講義等々
を取り、それから清華大学に移り、およそ半年間、清華大学のほうで講義や研究等を行い、
その後もう一度東工大に戻って修士論文の準備をして、修士論文の発表会が終わったあと
にもう一度清華大学へ行き、そこで今度は清華大学で修士論文を発表するというかたちで、
最後の年の 7 月に清華大学から学位が出て、同じ年の 9 月に東工大のほうから学位が出る
というプログラムになっています。
清華大学の学生は、東工大の学生の半年前に入学式、清華大学は 9 月ですので、そこで
入学をしてそのあとおよそ 1 年半後に東工大のほうへ移動してきて、東工大で修士論文の
発表をしたあと、清華大学へ戻って清華大学で修士論文をさらに発表し、同様に学位を授
与されるというスケジュールです。
費用の点ですが、私どもの場合は基本的に両方の大学に学費を納めるということになっ
ています。ただ清華大学から来る学生については、こちらのほうで企業からいただいた寄
付がありますので、それなどを使った奨学金を用意しておき、基本的に日本で勉強する期
間は授業料、授業費、住居費、生活費は東工大のほうで負担しています。ですから学生本
人には負担はないのですが、大学間ということでは基本的にそれぞれの大学に授業料を納
めているというかたちをとっています。
これについても東北大の例では、いわゆる授業料不徴収という規則を設けられたという
ことなのですが、これについても若干まだ学内で議論があり、今日少しお話をお聞きでき
ればと思っています。
東工大のほうから清華大のほうへ行く学生については東工大で支援をしております。
151
ここまでが清華大学の話でした。それでもう一つ、これは学内にデュアルディグリー・
プログラムがあるということで、少し簡単にお話しさせていただきます。東京工業大学の
中にあるイノベーションマネジメント研究科というところがあります。ここでは、いわゆ
る基本的には他専攻の博士課程の学生に対して、技術系修士号を同時に取れるということ
で、これは副専攻というようなかたちになるかもしれないのですが、そういった博士学位
と技術系修士の同時取得を可能とするデュアルディグリー・プログラムを持っています。
ここは技術系修士で専門職大学院ですので、取得要件が 40 単位以上で専攻科目内 22 単
位以上を取る。また特定課題のプロジェクトレポートを出すということになっているので
すが、他専攻で取得した単位について 15 単位までは認めるというかたちで、技術系修士を
取りやすいようなかたちのデュアルディグリー・プログラムを学内で持っております。こ
れは参考までということで、紹介させていただきました。
先ほどの話に戻ります。清華大学の話ですが、この授業料のことについて、私どもは授
業料不徴収について現在いろいろ話をしているのですが、なかなか大学の判断で不徴収に
するのは難しいのではないかということで、この辺りがわれわれとしてはいま一番大きな
課題になっております。
もう一つは、これを見ていただければおわかりになると思うのですが、いわゆる東工大
生が清華大に行っていない期間は当然あります。あるいは清華大の学生が東工大に来てい
ない期間があります。この期間については、やはり授業料を少なくとも不徴収ないし免除
をするべきではないかという議論をいましています。これは特に国費留学生との関係で非
常に大きい関係があり、国費の場合は本邦において滞在して学んでいる期間が対象になる
ということになっているのですが、そうすると先ほど見ていただいたように清華大の学生
が日本に来ていない間の授業料は当然、東工大には払い込まなければいけませんから、こ
の部分については、やはりこれを免除ないし不徴収にすべきではないかという風に私たち
のほうでは思っており、これは現在交渉中です。
そういう意味で、慶應大学や東北大学のお話では、その辺りが非常にすっきり整理され
ており、どうしてそんなに簡単に整理できたのか、私どもは是非これを教えていただきた
いという風に思った次第です。
もう一つは、交換留学生です。交換留学生の場合というのは、皆さんご承知のとおり正
規学生ではありませんので、そういうかたちで入ってきても学位取得の対象にはならない
ということがあります。
この問題について一番大きなものは、われわれの定義によるジョイントディグリー、つ
まり二つの大学から連名で一つの学位を出すわけですから、そのときに東工大に清華大の
ほうから交換留学生として入ってきた場合、その学生に対して東工大として学位を出すこ
とはできません。これは正規学生ではありませんので。
ところが、その逆は可能なのだろうと思うのです。東工大の学生がどこかの大学へ行っ
て、向こうがその学生が交換留学生であるにも関わらず、それが正規の学生であると向こ
うで認定してくれれば、これはジョイントディグリーが出せるという状況になるわけです。
そうなると海外の大学からすると、日本の大学というのはいいとこ取りで、自分の制度
だけは非常に堅くガードしているということになっているわけで、この辺りはいわゆる博
士課程のジョイントディグリーということを考えたときに非常に大きな課題になってくる
152
と思います。
ですから正規学生として認めて、かつ授業料不徴収を行うというところが少なくとも私
どもが東工大の中で話し合っているところでは最大のボトルネックであり、これをどうや
ってブレイクスルーを見つけ出すのかというところが一番大きい課題になっています。
もう少し時間があるので続けますと、その他の課題としては、国内の大学間では二重学
籍が認められていないということで、日本国内でいわゆるデュアルディグリーをやろうと
思ったときにどうしたらいいのだろうということ。あるいは、専門職大学院は全体の単位
の半分まで単位の読み替えが可能ですが、研究大学院の場合は他の大学院で取得した単位
の 10 単位までしか認定されません。これは確か文部科学省全体で決まっておりますから、
もちろんデュアルディグリーをどう考えるかということと関わってくるのですが、学生に
とってはなかなかハードルの高い制度にならざるをえないという状況になっています。
最後ですが、ここはいま申しあげたとおり複数大学院の共同指導に基づく単一の学位、
いわゆるジョイントディグリーを出すうえでの整備が日本国内では十分になされていない
のではないかということで、これは今後大きな問題になっていくのではないかと思います。
この関係で申しあげると、これは馬越先生の問題提起がありましたが、もし、二つの学
位を取るよりも安いコストかつ少ない時間で二つの学位を取れるというのがデュアルディ
グリーのメリットであるとすれば、それはどこまで認められていくべきなのかという課題
があると思うのです。
そのときに、単位がほとんど全部読み替え可能になって、二つのディグリーが若干言葉
の壁があるにせよ非常に容易に出ていったときに、学位の安売りにつながっていかないだ
ろうかという懸念があります。そのときに、二つの大学で共同で指導して一つの学位を出
していくというのは、そういう意味では非常にすっきりしたかたちなのではないかという
議論を私どもは学内でしております。
要するに、デュアルディグリーよりも二つあるいは複数の大学の共同指導による単一の
博士号を出すということは、修士号は少し難しいですが、今後大学間の教育上の国際連携
を進めていくうえで考えていかなければいけない一つの課題なのではないかと考えていま
す。そういうことで少し雑駁なのですが、東工大の現時点での状況と課題について、ご報
告させていただきました。
馬越(ファシリテーター) どうもありがとうございました。
それでは、これからディスカッション・ピリオドに入りたいと思います。東工大の森田先
生のケースですが、私が最初にお配りした点等についても触れていただき、大変ありがと
うございました。問題点がさらに整理されたのではないかと思います。
うかがいますと、東北大と東工大から清華大との共同プログラムについてお話しいただ
いたのですが、東工大のケースは 2002 年に、つまり国際化戦略本部事業が始まるよりも早
くからスタートしていらっしゃったことがわかりました。ただ、現在は文科省の戦略的国
際連携支援スキームを使っていらっしゃるのですか。
森田(東京工業大学) 本年度まで使わせていただいています。
馬越(ファシリテーター) さて、それぞれの大学のプログラムの生まれと育ちは若干違
いますが、森田先生の東工大では、仮の定義とおっしゃいましたが、デュアルディグリー
というかたちで実施をしている。
153
一方、東北大の方は、中身はほぼ同じだと思うのですが、ダブルディグリー・プログラ
ムという名の「共同教育」というかたちでのご説明だったと思います。
その中で、最後に授業料負担のあり方についても紹介がありましたが、この問題は共通
理解を深めていかなければいけませんので、大いに議論していただきたいと希望いたします。
それからジョイントディグリーとは、一つの学位を複数の大学で出していくということ、
つまり一つの学位記を共同で出していくということが原則になりますですね。昨日ご発表
になられた早稲田の大野部長のお話ですと、早稲田が最初それをねらったときには、文科
省レベルでは日本で出す学位に外国の大学の名称が入ることには問題があるとの認識であ
ったようです。ただ現在は、多少変化が起きているのかもしれません。
したがって今後は、いろいろなバリエーションを開発していく可能性が生まれてきてい
ることを前提に、先生のご提案を受け止めて議論すると面白いのではないかと思います。
それを議論するためには、授業料の問題もそうですが、正規学生と非正規の交換学生の
ステータスの問題やさまざまな問題があります。東北大のケースと東工大のケースで重な
るのは清華大学との交流のところです。それから午前中の慶應のケースと重なるのはセン
トラル・エコールとの交流ですので、議論がかみ合うのではないかと思います。
そのあたりから始めていただき、さらに時間があればそれ以外のところにまで発展させ
ていくことはよろしいかと思います。午前中と同じようにご質問、ご意見も含めて承りた
いと思いますが、ご所属とお名前をおっしゃっていただいてご発言いただきたいと思いま
す。それではどうぞ。
片山(香川大学) 香川大学の片山と申します。東京工業大学やそのほかの大学の先生に
も共通しているのですが、修士課程でのいわゆるダブルディグリーでは、お互いの教員同
士の共同研究のうえでこういうダブルディグリーが成り立つという風に理解しているわけ
ですが、いちおうプログラムの定員や学生については人数的なものがあるのですが、実際
にそこに参加する学生というのは、はじめに所属する大学の指導教官が決まってから、バ
ーチャルでも何でもコースにのって向こうとこちらのダブルディグリーを取るのかどうか。
それから実際に、本当に実質的に共同研究を持っている先生の研究室でないと、やはりこ
のコースにはのれないのかどうか。要するに、修士論文の指導に関わる授業ということで
はなく、修士論文の指導に関わる先生の人数などについて教えていただきたいと思います。
馬越(ファシリテーター) いまの質問は、清華およびエコール・セントラルを含めて、
両方についてですね。
升谷(東北大学) それでは、私のほうからお話しさせていただきます。清華大学との共
同研究というお話を非常に強調いたしました。これについて実態としてどうかというと、
まず共同研究があって決まったという事例もありますが、学生が来たことによって共同研
究的な状況になったというものもあります。ですから、その両方であるということです。
それから大学院の場合は指導教員が当然最初から決まっておりますので、それは、そう
いう状況ですが、エコール・セントラルのほうは、学部の 3 年の段階で日本人学生が行く
場合、ごく特別の学科を除いてまだ指導教員は決まっていないという状況です。帰ってき
た段階で決まるというのが実態ですので、このときにはおもに単位の認定などに関しては
学科の教務委員が非常にがっちりと見なければいけないという状況になっています。
INSA-Lyon のほうについては、指導教員がある程度決まった段階で行くということになり
154
ます。
馬越(ファシリテーター) 小尾先生、エコール・セントラルの件を中心に、何かご発言
がございましたらお話いただけませんか。
小尾(慶應義塾大学) エコール・セントラルに関しては、いま東北大学の升谷先生から
ご説明があったとおり、研究という点ではつながっておりませんので、現在行っている方
式では、大学院での指導教員だけを慶應で決定するというかたちになります。
馬越(ファシリテーター) いまの問題に関連して、ご説明の中にありましたが、エコー
ル・セントラルはかなり実務的というか、経営的な力を要求している。つまりグランゼコ
ールですから、学位も Diplôme d'Ingénieur ですね。ですから、研究に対するスタンスが多
少違うのではないかという気もしますが、そのあたりはいかがでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) 私どもで学部 3、4 年生を派遣している先方で与えられるカリキュ
ラムに関しては、この 3 年生課程のうちの最初の 2 年間で、こちら(フランス側)の専門
基礎科目に相当します。ですから、この中では専門的な勉強をほとんどせずに、電気、機
械、コンピューターなどを幅広く非常にみっちりと勉強していくことになります。通常、
先方は 5 年目の最後の学年になって初めて専門の研究をするわけです。その分が日本の修
士課程にくるというかたちになっています。
馬越(ファシリテーター) なるほど。では、橋本先生
橋本(東北大学) やはり、グランゼコールはかなり特殊で、共同研究がベースというい
いかたをしたのは、グランゼコールについては当てはまらないという風に思います。これ
はやはり非常にジェネラリストのための教育なので、むしろカリキュラム的にも一般的に
は日本の大学のほうが、専門という観点からするとはるかにレベルが高いというか前のほ
うに行っている。年次進行が早いということで。やはり違った側面をグランゼコールのい
いところに見つけるということだと思いますので、確かに少し違うと思います。
馬越(ファシリテーター) そうですね。司会があまり喋るのはよくないのですが、慶應
の場合はエコール・セントラルのほうのイニシアチブで始まったという印象を受けました
が、東北の場合もやはりそうなのでしょうか。
升谷(東北大学) エコール・セントラルとは、年次計画というか、何年生が行くという
ことについて、かなり激論を交わしました。これは、もともとエコール・セントラルのご
提案のところで最終的に落ち着きましたが、4 年生のところの単位をどうするのかといった
ことに関して、やはり卒業研究は譲れないというのがこちらのほうの立場で、慶應とは少
し立場が違ったのですが、それで最終的な妥協ということでこのかたちが出てきました。
それからドロップアウトしたときの心配なども多少したのですが、グランゼコールが 1
年目か 2 年目が終わったところでバチェラーの単位を出せるようになったということがあ
り、それを持ってくることによって、こちらでの大学院の試験を受けることができる可能
性があるという理解に立ったスタイルで行くのが一番いいだろうとなりました。
馬越(ファシリテーター) そうですか。どうもありがとうございました。それではフロ
アの先生がた、いかがでしょうか。
片山(香川大学) 引き続きで申し訳ありません。このようなプログラムは学生にとって
非常に有益とは思うのですが、さらに推進するためには就職先の企業等の理解が不可欠で
はないかという風に思います。というのは、学生に勧めるときでも「これだけ君は勉強し
155
たのだから、いいところに就職できるよ」ということを言いたいと思うのです。
そこで実績がすでに出ている東工大の先生に、そういう点ではどうなのか。また、大学
としてもそういう働きかけなどが必要なのかということを少し教えていただきたいと思い
ます。
馬越(ファシリテーター) 慶應のケースは午前中にご発言がありましたので、東工大の
ほうにお願いします。
森田(東京工業大学) はい。東工大のほうも実は昨年に就職推進のためのカウンセラー
の部屋をつくり、そういう活動にも力を入れているところです。日本人の学生については、
もちろん中国語もできるということで非常に付加価値があるという風に一般に評価されて
いると思います。
ダブルディグリーを取った学生ということではなく、いわゆる日本人以外の学生が日本
で就職する場合には、仮に日本語ができてもハンディがある。帰って日本の現地企業に就
職したときも、将来性といったものについてはまだ若干難しい点があるという風には一般
にいわれています。
馬越(ファシリテーター) 慶應の場合、すでに日本企業に就職した修了生は、やはりそ
れを希望して来られたわけですか。たまたまそうなったのでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) どうでしょう。本人と直接話をしていないのでわかりませんが、
もともとこのダブルディグリーの思想としては、他国の文化を理解するところにあると。
それは、理解した国の企業で働くということも当然根底にはあっての話だと思いますので、
本人は最初からそういうことをある程度は考えてきていると思います。
馬越(ファシリテーター) 受け入れ側としても、それを成果として評価をしているとい
うことでしょうか。
小尾(慶應義塾大学) 就職が決まったということが大学の成果かどうかということは、
ちょっと私には判断しかねるのですが。
馬越(ファシリテーター) ああ、そうですか。
小尾(慶應義塾大学) はい。
馬越(ファシリテーター) わかりました。ほかにございませんでしょうか。
富井(東京大学) 東京大学の富井と申します。東北大学の中国のプログラムに関して、
まだ派遣している学生がいないということなのですが、それは応募がないということなの
でしょうか。今後は、どういう風にして集めていこうと思われているのでしょうか。
それからもう一つ全体のプログラム、ダブルディグリーに関して、学生のほうはどうい
う反応をしているのかということを教えていただきたいと思います。
升谷(東北大学) 中国に関しては、残念ながら応募者がいないというのが実情です。フ
ランスは先ほど 1 名しかいないという状況をお話ししましたが、これに関しては応募して
きているけれども、こちらのほうではねた者が何人かいるということです。
全体に関しては、ダブルディグリーの話を一般的には学生も多少関心を持って聞いてい
るようなのですが、いざ自分で行こうという話になってくると、東北の学生はやはり出た
がらないところがあり、先ほどの慶應のお話を聞いてうらやましく思っていました。少し、
そこのところで躊躇してしまうところがあるように思います。
橋本(東北大学) 中国に行く学生がいないという件なのですが、むしろいまの段階で始
156
まったところは、清華大学側がこことやりたいというところで、いま始まっている段階な
のです。ですから、向こうがこちらに送り出したいようなところがいま進んでいるという
ことですが、現在だんだん広がりつつあるので、例えば環境といった領域に広がっていく
と、こちらからも行くメリットが出てくるということもあるので、これはやはり時間が必
要だと思っています。
馬越(ファシリテーター) 今日ご発表の慶應と東北の二つのケースは、先方のイニシア
チブがかなり最初にあったというお話でしたが、東工大のそれは少し違うような気がいた
します。ほかにいかがでしょうか。
村瀬(長崎大学) 長崎大学留学生課の村瀬と申します。先ほど森田先生のほうからご提
言というか問題提起があった授業料のことや学籍のことをもう少し勉強したいと思ってい
ます。これからいろいろな先生がたのご意見をうかがいたいのですが、私の頭の中では、
東工大では清華大にも授業料を納め、両方の大学で正規生ということで、学位を二つ取る
ということについては非常にすっきりするのですが、東工大としては両方に在籍するわけ
ですから二重学籍の問題、あるいは文科省の GP、お金もいただいている事業ですね。
文部科学省からも認められているという意味では、文科省との折衝のところで二重学籍
のことや大学院の教育の実質化など、要するに最初の学位の質の保証というところと結び
つくのですが、その辺は文科省とはどういうやりとりであったのか、何か参考になること
があれば教えていただきたいと思います。
森田(東京工業大学) まず、授業料は先ほど申しあげたとおり両大学に実質的には正規
の額を払っているということなのですが、二重学籍については、日本国内では日本国内で
の二重学籍は認められていないのですが、海外の大学については規程がないということで、
これは文部科学省のほうでも要するにそういうことは可能だということで、清華大と東工
大と同時に正規学生として在籍することは可能になっております。
馬越(ファシリテーター) そうしますと、休学措置にしているわけではないわけですね。
村瀬(長崎大学) 2 年半の修学で東京工業大学、精華大学双方の学位を与えれば、学位の
安売りや、教育の質の低下につながることが心配されますが、東京工業大学はどのように
お考えなのでしょうか。
森田(東京工業大学) これは、私も 2006 年に来たものですから、当初の頃の話は始めら
れた先生からのまた聞きなのですが、その辺りはかなり議論をして、先ほどの冒頭にお話
ししたように清華大学では中国語で勉強し、それで単位を取り、日本では日本語で学んで
日本語で単位を取るということで、そういう意味では通常の日本人学生よりは負荷をかけ、
そのうえでもちろん格別に留学生だからということで下駄をはかせてもらっているわけで
はないので、いわゆる教育水準を保つという意味では十分そういうことは保てるか、ある
いはもちろんそれ以上のことを要求しているからこそ社会的評価が得られるものとして設
計されたという風に聞いています。
馬越(ファシリテーター) はい、どうぞ。
高松(名古屋大学) 名古屋大学の高松と申します。私は日本語教育に興味があるのです
が、その半年なり集中的に日本語を特訓するというお話もありましたが、そこでどのよう
な教育が行われるのか。アカデミックジャパニーズの研究分野に必要な能力を主眼に教育
するのか、あるいは一部はマネジメント的なものを学んで企業に就職するという人もかな
157
りいるのではないかと思うのですが、そういった人のニーズも見越したビジネス日本語の
ようなものも含んだ内容で教育していらっしゃるのか。
ビジネス日本語については、いま経産省のほうが中心になって「アジア人材資金構想・
高度実践留学生育成事業」という風なものをやっており、私も少しそれに関わっているの
ですが、特別にそういった経産省からのお金が出てそういうことも行われている状況です
が、既存のこういう事業で、その辺までも配慮して内容を組み立てていらっしゃるのか。
それとも研究分野に必要な範囲の最低限の日本語能力を身につけさせるということで集中
的にやっていらっしゃるのか。その辺を少しおうかがいしたいと思います。
馬越(ファシリテーター) いまの質問にお答えいただく前に確認しますが、授業そのも
のは英語でやっている部分と日本語でやっている部分、つまり両方あるわけですか。中国
のほうは英語でやっているわけですね。
升谷(東北大学) 中国は英語、フランスについては日本語でやるということになります。
それで、まずは講義を理解できるようにするということが第一目標です。半年間でほとん
ど連日日本語だけというコースに入っていただきます。たまたま私の研究室にもいまその
ダブルディグリーで 1 人学生が来ておりますが、昨年 10 月に来たときは英語で私と会話し
ておりましたが、年末ぐらいには日本語で喋るようになってきておりますので、日常会話
はなんとかできるようになってきたかなというレベルです。あと 3 カ月で大学院の講義が
分かるというのは少し難しいと思いますが、同じ研究室の学生などと一緒に動けば、その
サポートを受けてなんとかいけるかなと思っています。
その学生は国費留学生の資格を取ってきておりましたので、全学としての日本語コース
に入れられているのですが、実は工学研究科としても日本語のクラスを国際交流室がつく
っておりまして、これはかなりアカデミックのほうにシフトを置いたようなコースで、半
年間の全学のコースが終わったあとも引き続きそちらのコースでも、時間が空いていると
きにやってもらいたいということを言っています。先ほどのお話にあった「アジア人材資
金構想」は東北大でもやっておりますが、それとはいまのところ、このプログラムが直接
リンクしているということはないと思っております。
馬越(ファシリテーター) 東工大のケースはいかがでしょうか。
森田(東京工業大学) 私どもも東北大と同じような状況で、その「アジア人材資金構想」
は私どもでもあるのですが、それとこの清華大学がいま直接つながっているということは
ありません。清華大学のプログラムについては、先ほど申しあげましたが、なかなかこち
らにいる間に日本語で単位を取っていくというのは、かなり無理があるものもあるので、
東工大の教員が向こうへ行って向こうで講義をやったり、こちらへ来ているときには日本
語の補習をやっておりますが、そういうかたちでできるかぎり語学のハンディがないかた
ちで、あまり顕在化しないような努力は、いわゆる補講と、あとは清華大学にいる間に少
し東工大の授業もオファするというようなことで対応をしております。
馬越(ファシリテーター) それは日本語でやっているのですか。
森田(東京工業大学) 日本語やったり、少し英語でやったりというところです。
馬越(ファシリテーター) 高松さん、よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。
石川(大阪大学) 大阪大学の石川でございます。それぞれの先生がたに質問させていた
だきます。まず東工大ですが、聞き逃したのかもしれませんが、これまでの実績につて、
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双方の参加学生数の実績を教えていただけますか。
それから東北大のお二人の先生がたですが、少し聞きにくいのですが、あえて自分の都
合で聞かせていただきますが、日本の学生がまだ始まったばかりでこれまで行った実績が
ないというお話だったので、そのことと関係するのですが、指導教員側に学生を行かせる
意欲があるかということです。
その場合、清華のほうから受け入れるばかりで超過になっていると、ある意味で清華大
学の教育を肩代わりしていると。私自身が必ずしもそれがいけないと思っていることでは
ないのですが、優秀な学生が来るということでメリットはもちろんあると思うのですが、
彼らが東北大の学位を必ずしも要らないということは、東北大のプロダクトになるわけで
はない。
何故あえてこのようなことを失礼ながらお聞きするかというと、私どもの大阪大学も同
じように理工系の強い大学で、同じことを始めると、どうやって学内的に説明するか。学
内的に少し理論武装をしなければいけないので、その辺のアドバイスをいただきたいと思
います。特に、受け入れに関して英語コースもつくらなければいけないと。受け入れ側の
教員に負担があります。その辺りをどのように乗り越えてつくられたかということを大変
失礼ですが教えていただければと思います。
馬越(ファシリテーター) それでは東工大、東北大の順にお願いします。
森田(東京工業大学) 申し訳ありません。実は、これに実績は入っているはずなのです
が、何故か落ちていますので、のちほど。
馬越(ファシリテーター) 入っていますよ、4 ページに。脱落していますか。
森田(東京工業大学) あ、いいえ。これは定員なので。これに対して実績を入れてきて
いたはずなのですが、ちょっと落ちていますので、のちほどメールか何かで送らせていた
だきますので、申し訳ありません。
馬越(ファシリテーター) これはスタートして随分経っていますから、在籍者の概要は
わかりますね。
森田(東京工業大学) 数字なので、いい加減なことは言えませんので、すみません。
馬越(ファシリテーター) そうですね。では、ストックがどれくらいになっているかと
いうことは、あとでお調べいただくということにします。では、東北大の場合はいかがで
しょうか。
橋本(東北大学) はい、簡単なほうから。英語の教育については、理学研究科と工学研
究科で、これとは独立に英語のコースがすでに存在しておりましたので、理学研究科の場
合は修士から博士までの一貫の英語コースで「IGPAS(International Graduate Program for
Advanced Science)」というのですが、それがすでに国費枠もいただいてあったということで、
そこに組み込めばいいだけなのですね。
工学研究科の場合も博士のそういうコースがありますので、それを援用するということ
ですむので、英語の教育そのものが非常に大きな問題になるということは、少なくとも理
学研究科と工学研究科についてはありません。ほかに広げていくときにまた若干の問題が
あるかもしれません。
それから入超になっているといったことについては、やはり先ほども答えたとおりなの
ですが、いま一緒にやっている分野だけに限っていると、どうしてもそういうことになり
159
うるという気はしています。しかし向こうも総合大学ですから、やはり分野がどんどん広
がっていく。これは、やはりそれぞれの広い分野の中で最終的には考えなければいけない
という風に思っています。
升谷(東北大学) 一つだけ追加させていただきたいのですが、各先生がたがどうお考え
かという状況ですが、清華大学の学生を受け入れる意志のある研究室は手を上げてくださ
いということで、昨年度調べたことがあります。そうすると、対象としている専攻の研究
室の半分以上が手を上げてきていますので、過半数は非常に優秀な学生に来てもらうこと
はウェルカムであると。自分のところの学生を送り出すことはどうかということについて
はまだアンケートをとったことがないので、そこはわかりません。
馬越(ファシリテーター) ところで東北大の場合、いわゆる GOC(Global Operation
Center)はこのプログラムの運用に直接には関わっているのでしょうか、いないのでしょ
うか。
橋本(東北大学) いいえ、むしろ直接的に担っているという風に。
馬越(ファシリテーター) そうですか。
橋本(東北大学) おそらく GOC なしでは動かないプログラムという風に考えています。
馬越(ファシリテーター) そうすると、将来的には理学研究科や工学研究科以外の他の
研究科にも広げていくということになりますでしょうか。
橋本(東北大学) すでにいくつかの研究科が強い興味を示し、実際に進めようという風
にしております。
馬越(ファシリテーター) ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
盧(星城大学) 星城大学の盧と申しますが、東京工業大学にお聞きしたいのですが、今
日ご報告のテーマと少し離れている質問ですが、先ほど冒頭で留学生はいま 1 割程度おら
れると。これは、国公立大学の中では最も高いのではとおっしゃっていました。私たちの
ような私立大学であれば、
むしろ 1 割以上の留学生数を持っている大学は多いと思います。
一つお聞きしたいことは、こういう留学生を募集する際、そもそもいまの 1 割は自然の
結果としてなったものなのか。あるいは、例えば国際室のほうで方針を出し、だいたいの
数値目標を出されているのか。その辺をおうかがいできればと思います。
森田(東京工業大学) これも戦略的に取り組み、ここまで増えてきたということだと聞
いています。2002 年に国際室をつくり、そのあと大学を国際化するうえで何が必要かとい
うことでポリシーペーパーというものを 1 年間ほどかけてつくり、それに合わせていろい
ろな学内の整備や語学教育など、もちろん対外的な広報といったことをやってきた結果で
あるという風に聞いています。
馬越(ファシリテーター) もう 1 人、お手が上がっていました。どうぞ。
金城(琉球大学) 琉球大学の金城と申します。清華大学とのプログラムのことで両方の
大学におうかがいしたいと思います。東北大学は共同教育プログラムということで学位を
伴わない。東工大は学位を伴うということで少し立場が違うかもしれませんが、カリキュ
ラムの調整をする際に、相手大学に行ったときにはこういう科目やこういう内容の分野の
教育を受けてくるというようなことを事前に、カリキュラムのすり合わせがされていたの
かどうかということが一つです。
あとは、言語のほうも東工大のほうは中国語でなさるのですね。その際に、先生がたと
160
のカリキュラムのコーディネートをする際には英語でされるのか。カリキュラムのコーデ
ィネートを中心とする先生をどなたか置いて、そういうことをやっていらっしゃるのか。
その点を、両方の大学におうかがいしたいと思います。よろしくお願いします。
森田(東京工業大学) まずカリキュラムについては、確か東北大学のほうでもそうだっ
たと思うのですが、その運営会というか向こうの担当の先生がたとこちらの担当の先生が
たで、年に何回かお会いして話をしています。
また、協定書は日本語と中国語でつくっています。そのようなかたちで、いわゆるどう
いったカリキュラムになっていくかというのは、もちろん事前に話をして決めながら進め
ているという状況です。
升谷(東北大学) 東北大学の場合は、まだ受け入れのほうしか事例がありませんので、
そちらのお話をさせていただきます。最初に、こちらに来られる学生がいままでに大学レ
ベルで取った講義科目を教えていただきます。それがこちらで読み替え可能かどうかをチ
ェックして 10 単位までは認めます。
それから、こちらのほうで先ほどご紹介しました英語で開講されている科目の中からど
れが取れそうかということを指導教員と学生が話し合って決めていき、必要科目数を満た
すというのが実情です。
馬越(ファシリテーター) よろしいでしょうか。私から少し質問ですが、そうするとク
オリティ・アシュアランス(質保証)の点から、特に東工大の場合、すでに修了生が出て
いますので、修士論文のクオリティについては、これは両方で書く場合に両大学の指導教
員が指導することになると思うのですが、論文のテーマは類似したものなのでしょうか。
森田(東京工業大学) 私自身、直接その指導に携わっているわけではないのですが、あ
る程度違っていればいいという話を聞いています。
馬越(ファシリテーター) わかりました。森田先生のほうから、将来の学位のありかた、
いわゆるデュアルディグリー、ジョイントディグリー等のありかたについて、あるいは授
業料のありかたその他、いろいろ問題提起もあったのですが、フロアの先生がたからご自
身の大学のご経験や個人的な意見でも結構ですけれども、特にコメント等がありましたら、
ご発表いただいてもよろしいのではないかと思います。いかがでしょうか。ではアドバイ
ザーの太田先生、一言お願いいたします。
太田(一橋大学) ちょうどいま私が関わっている文科省からの委託研究と重なっている
部分があるので、そこのところからも少し話をします。東工大の話で授業料の不徴収が認
められている交換留学生として来日した場合、正規学生ではないので学位取得ができない
と書いてありますが、交換留学生が正規学生でないというところは、必ずしも決まってい
ません。
これは、ちょうどいま短期留学生や交換留学生の実態調査、つまり文科省の 5 月 1 日付
の留学生数調査にかなり漏れがあるのではないかというのが文科省の中にあり、短期留学
や交換留学、あるいは超短期といわれている 1 週間から数カ月のいわゆる 1 セメスタ以下
がどれぐらいいるかという調査を一橋大学で受け、おそらく皆様のところに届いたアンケ
ートがあると思いますが、悉皆調査を行いました。
それをいま回収し分析しているところなのですが、はっきりいうと交換留学生を正規学
生として受け入れているところのほうが逆に多いです。正規学生として受け入れないとこ
161
ろにはどういうケースがあるかというと、そもそも交換留学のようなものをものすごく早
い時期になさっていて、それを受け入れるために別科をつくっておられる。
そうした日本語別科や日本語のいわゆる正規課程ではないところでアイランド的につく
っておられて、そこで交換留学生をまとめて受け入れていたというところは、別科が進学
課程の別科と違って交換留学生の受け皿としての別科になっている場合は、いわゆるそう
いう別科制と同じような扱いになりますから、どうしても非正規生的な扱いになります。
ところが、ある一定のところからのある意味では後発組になると、正規学生で入れたほ
うが留学生としてのいろいろなベネフィットをフルに受けられるだろうということで、そ
れぞれ学部にはりつけて入れていますから、正規学生がイコール学位の取得ということで
はなく、正規学生として受け入れて、しかし学位は取得しないというケースのほうがむし
ろ圧倒的に多いと思います。
ですから交換留学生や短期留学生というのは、今回でもわかったのですが、かなりいく
つかのバリエーションがある中で、受け入れかたがやはり違うのですね。ただ全体的にい
えることは、そういう風な別科などで受け入れている場合は非正規生のほうが多いのです
が、そうでない場合は、学部にちゃんとはりつけて正規生として受け入れるケースが多い。
ですから、交換留学生ですから授業料の不徴収になります。それから、もちろん学位を
取得しません。それから私は少し思ったのですが、二重に両方とも正規学生としているの
で、両方の大学に授業料を納付する義務が生じているということなのですが、今度は自分
の学生が出る場合、送る側の大学は留学という学籍に変える。正規学生に極めて近いので
すが、休学ではない。休学と正規学生の中間ぐらいのところで留学という学籍を起こして、
その間は留学という学籍にしているということによって、授業料は発生しないのだと。
休学にしてしまうと、その休学期間の単位認定をするのはよくないというかたがいるよ
うなのですね。でも実際は、休学しているときの単位認定をしている学校も結構あるとい
うこともわかったのですが。それで、その留学という学籍を起こしているというところが
結構あるということです。
私は、この二重に授業料を払うというのはやはり少し大変だという感じで、やはり慶應
大学の話になったように、ホーム・インスティテューションに払うということを原則にし
て、交換留学ではないにしても 2 年ほどいるということがありますが、それに準じた扱い
をするのが妥当なのではないかと。
これは、もう一ついま私の大学で話が出ているのですが、中国からの公費派遣留学とし
て向こうから送ってくるときに、授業料を免除してくださいという言いかたになっており、
あくまでこれは学内での議論の段階なのですが、中国から 3 年も 4 年も博士課程を取るた
めに来る人の授業料を取らないで見合うだけの学生を送れないから、こちらは 1 セメスタ
の学生を何人も送ろうとか。それで月数でバランスをとろうという風に考えています。実
際、そういうケースがすでにあるようにも聞いていますので、必ずしも授業料免除云々を
正規学生云々とかいうことでしばらないでいいというのが私の考えです。
馬越(ファシリテーター) どうもありがとうございました。まだまだ討議したいテーマ
はありますが、時間がまいりまして次の全体セッションの時間との関係もありますので、
そろそろこの会を閉じたいと思います。本来であれば、私がここでサミングアップをしな
ければいけないのですが、ダブルディグリー問題は非常にチャレンジングだけれども、な
162
かなか難しいなというのが全体を通しての感想です。それから日本では蓄積がまだ少ない
という意味では、もう少しわれわれは頑張らなければいけないのではないかという感じが
いたします。
先にも述べましたように、中国はかなりアクティブにジョイントディグリーなりデュア
ルディグリー・プログラムに取り組んでいますので、私どもも今後さらにこれを加速させ
る努力をしていかなければならないのではないかという感想をもった次第です。長時間、
ありがとうございました。特にご発表の先生がた、大変ありがとうございました。
(了)
163
各分科会からの報告、講評、全体まとめ
金子(JSPS) まもなく開始時間となりますので、ご着席のうえ、いましばらくお待ちいただ
ければと思います。
金子(JSPS) それでは山本先生、お願いいたします。
山本(司会) それでは、お待たせいたしました。最後のセッションになります。これまで三
つの分科会に分かれて議論をしていただきましたが、はじ
めに各分科会でどのような議論があったのか、そのご報告
あるいはコメントをいただきたいと思っております。それ
ぞれ 10 分程度でお話しいただきたいと思います。
それでは司会者の特権を生かして、私からでよろしいで
しょうか。でははじめに、分科会 A は人材養成、国際化推
進のためのさまざまな活動を支える人材をどうやって確保、
あるいは育成していくかという問題です。事例を紹介していただいたのは神戸大学、そして東京
外国語大学、そして秋田の国際教養大学の 3 大学の先生、スタッフのかたからお話をいただき
ました。
神戸大学は、内部人材の養成ということで、外部人材を積極的に採用され、これを交流コーデ
ィネーターということで国際経験の非常にあるかたを採用され、
この方を中心に国際化推進活動
をお進めになっているということでした。
また、東京外国語大学でも OFIAS という組織をつくられ、この中で外部人材、東京外国語大
学の場合は国際展開マネージャー、そしてそのもとにリエザンオフィサーというかたを置かれ、
このリエザンオフィサーのかたにもご登壇をいただきお話をうかがったわけです。
それから国際教養大学は、もう教員の半分ぐらいが外国人ネイティブのかたということで、大
学そのものがまさに国際的な環境にあるため、
ほとんどすべての教職員が少なくとも英語運用能
力が必要であるという環境の中にあるということです。したがって人材は多様ですが、よくうか
がってみると民間におられたかた、国際経験のあるかたがたくさんおられるようです。
いずれにしてもこの三つの大学に共通していえることは、
国際化を推進するための人材として、
内部登用もあれば外部からの採用もあるわけですが、
とりわけ即戦力となる外部のかたはどうい
うかたをどのようなかたちで採用し、かつ仕事をしてもらうかということについて、さまざまな
悩みというものも含めてお話をいただいたわけです。
いろいろな議論が出ましたが、私なりに感想を述べますと、大学の国際化というのはある意味
でスペシャリティというか専門性が要求されるわけです。
つまり国際的な実務あるいは経験豊富
なかた、しかしこういうかたを外部から求める場合に、しばしば大学のことをよくご存知ないと
いうかたがいらっしゃいます。したがって、そういう意味では外国関係の実務がよくできるかた
かということと、もう一つは大学のことをよく知っておられるかたかどうかということで、二つ
の軸で切ると四つの場面が出てまいります。
理想を言えば、国際活動も知っているし大学も知っているというかたが望ましいわけですが、
おそらくそのどちらかが重点であるというかたが来るわけです。
外部の国際化はよく知っている
けれども、大学のことは必ずしもよく知らない。逆に、大学の特性というものはよく理解されて
いるけれども、国際化ということについてはこれからである。
164
もちろん理論的にはその両方ともご存知ないというかたもいらっしゃるわけですが、
両方とも
ご存知ないかたは内部の職員にはたくさんいるかもしれませんから、
そういう人たちを国際的な
人材として育てるにはどうしたらいいかということを、
われわれは長期的には考えていかなけれ
ばならないわけです。
しかし、そうでない外部登用の場合は、特に大学の実情をよく理解していただく。そして内部
登用の場合は、
逆に国際的な実務にどのように習熟していただくかということが非常に大きな問
題になるのではないかと私なりに思ったわけです。
ただ、多様な人材あるいは国際人材を育成するということで、当初私が少し考えていたのは、
先ほどの分けかたでいうと、
大学のこともよく知らなければ国際化のこともよく知らないという
いわゆる初歩的なまだ入って間もないような若手の職員をどうやってプロフェッショナルな職
員に育てていくのかということも少し議論したかったのですが、
そこまでは時間がなかったので
できませんでした。
各大学あるいは今日発表をされなかった大学でも、
案外この外部人材というのはすでにたくさ
ん採用され、そして仕事をされているということがよくわかり、大変私にとっても有意義な勉強
になるセッションでした。そういうことで簡単ではありますが、ご報告を終わらせていただきま
す。それでは、次に分科会 B の報告を二宮先生からお願いいたします。
二宮(広島大学) 分科会 B は「国際的な大学間連携及びコンソーシアムの活用」ということ
で、今日一つの流行あるいは必然性にもなっているかもしれませんが、国際的なディメンジョン
で大学間がネットワークをつくって何か目標を達成していこうということでの組織づくりを始
めているわけです。
その生い立ちやつくりかた、
あるいはそれをどう維持していくのか。
そしてまた一番の眼目は、
それをどう活用すればいいのかということについて、それぞれ京都大学、広島大学から、また横
浜国立大学は国際戦略本部強化事業には採択されなかった大学ですが、
それにもかかわらずいま
そういうネットワーキングに挑戦されているということでのご紹介をいただいたわけです。
いくつかわかりきったことですが、
一つ一つはお手もとのパワーポイント資料がありますので、
どんな名称のどんな組織なのかということはご確認いただければと思います。
いくつかの共通す
るトピックにまとめてご報告させていただきたいと思います。
第 1 点は、やはりこのネットワーキングコンソーシアムというのは、おそらく国際化もそう
ですが、やはり何かをするための手段であるということのようです。ですから、そこに目標を達
成するために有効であるかどうかという単なるアクセサリーでやっているわけではないし、
フリ
ルでもないのだと。そういう必然や合理的な必要性がやはりないと、このネットワークコンソー
シアムというのはうまくいかないかもしれない。あるいは必要ないかもしれない。
例えば、横浜国立大学の場合は港というアイデンティティの中で、それは国際的プレゼンスを
高めるためにこそ必要だと認識されているようです。広島大学の場合は、INU と呼んでおりま
すが、これはもう先に外で組織が編成され、それにいま加わっていったというかたちになってお
ります。
それをつくった人も加わった人たちも何のためにこれをつくるのかということがわから
ないままに、何年も無駄な時間とは言いませんが、そんなことを言えば広島大学のかたがたにお
叱りを受けますので、無駄ではないと思いますが、何年もインキュベーションするために、ある
いは発展させるために時間がかかった。しかし、やがてこれをやろうというかたちで取り組んで
いくようになり、その組織の活用が見えてくるといったような組織。
165
京都大学の場合には、そこにある組織に参加しながら、研究大学を中心とした中程度の大きさ
の組織をつくられて集まっていらっしゃるということもありますが、
アドミニストレーターとい
う表現をされていましたが、
おそらく教員も含めた職員のワークショップをアジアの大学のかた
がたの集まりの中で繰り返し行ってきて、
国際交流を支援するプラットフォームを実務責任者の
共通理解と連携を深めるという意味でつくってこられたということもありますし、
またのちほど
ご報告しますが、別のやりかたもある。
ですから大学によっては、やはりそれぞれ何のためかというのがあったし、必ずしもそれがわ
からないままにやってきたけれども、
結果として非常にうまく使えるようになってきたというこ
ともあるので、必ずしも第一歩がすべてこれのためだということがなくとも、組織というのはひ
ょっとすると使えるかもしれないということもわかったわけです。
こういうネットワーキングをつくるときに三者共通しているものは、
やはりその大学の特色と
して何をアイデンティファイするかというプロセスがどうも欠かせないようです。
例えば京都大
学の場合をまた勉強してみると、
建学の精神あるいは京都大学そのものが帝大の頃から自由とい
うものを学風として、
容易には一つにまとまろうぜず対話を重視しながら学問を深めていくとい
う学風があるという風に横山副学長からうかがいました。
それを実際にシンポジウムというかたちで本当に繰り返し 10 数回行われていくのですね。こ
れは制度的なネットワーキングではないけれども、柔軟なネットワーキングなのですね。京都大
学等に皆さんが集まってきて、
そこで何のためにそういうことをするのかということを聞いてい
ると、
新しい知をジェネレートしていくための仕掛け、
ネットワーキングだったようなのですね。
ですから極めて緩やかで、かといって特定のテーマを誰かに教えましょうとか、あるいはそこを
深く研究しましょうといったことではなく、
極めて難解な誰もわからないテーマをあえて選んで
も、専門外の人も議論できるように工夫して、面白い議論をされる場合もあったようです。
まさに知を創造する仕掛けとしてのネットワーキングが巧みに組み込まれていたという感じ
がして、ああ、京都大学らしいなと。それで、それを支える職員のというかたちになっていたの
かなという勉強をしました。
広島大学は INU という組織を使うのに、なかなか問題提起ができなかった。ところが、ある
ことを契機として、
広島大学は平和科学研究センターを非常に早くからつくっていましたので平
和研究というものが一つの特色なのですが、
それを前面に出してグローバルシチズンといった概
念とつなげながら、そのメンバー校に提案していき、大変ヒットしていく。それが、ダブルディ
グリーまでいきそうだというところまでこられたようです。
それから横浜国大は、頑張らなければ、負けてはいられないということで国際戦略本部をつく
られ、港町ということで世界の港町にある有力大学との連携の中で港を考える。そして地域とと
もに考えていくという独自のアイデンティティというものを提案された。ですから、横浜国大の
場合は自ら提案して、賛同してインド、ポルトガル、イギリスなどの大学のかたがたが本当に自
前で資金ゼロから始められたようです。ですから、お金がなくてもネットワーキングができると
いうのが長島理事のお話だったと思います。
そういうかたちで、
結論は特色をアイデンティファイするところがあったという感じがいたし
ます。そこで国際戦略が出てきて、ネットワークというものを使いたいと。使えば、これがさら
に進むという確認があったのだろうと思います。一旦コンソーシアムのようなものができると、
組織ですので、
どのような組織にするかということと同時にどう維持していくかということで皆
166
さん工夫され、広島大学の場合は年間 100 万円もお金を会費として使っている。
横浜国大の場合は、お金を投入されるのはほとんどゼロに等しいと。ゼロから 100 万円にい
たるまで組織を維持するために、大会を開くというのはまた別ですが、メンバーシップという組
織維持のためのコストというものがいろいろあるのだという感じがいたしました。ただ 100 万
円とか、組織ですのでやはり手段ですから、その目標との関係の中で絶えず吟味しなければいけ
ないということを私たちに教えてくれると思います。
活用方策は、教育的に活用するかと。大学のミッションがほぼ明確なので、教育で活用できる
のかと。あるいは、研究知の創造のような研究を刺激するかたちで活用できるのか。あるいは、
社会貢献や地域貢献といった地域を巻き込んだかたちでこのネットワークは活用できるのかと
いうような学生のため、あるいは研究のため、研究に支えられた教育のためなど、この辺はどこ
でも共通に持っているところですので、
特色との関係でこのネットワーキングの性質が決まって
くるのではないかということですので、この活用方策には正解がないと思います。やはり目標と
の関係で、どんな活用ができるか。だから工夫をすればいいと。工夫は国際的な合意の中で工夫
するということになると思います。
最後はやはり、広島大学からのお言葉でしたがコストベネフィットということで、お金を投入
しただけの効果があるかどうか。国際というのは、ついお金はたくさん使って評価を忘れがちで
あるということは反省しなければいけないと思います。
派手なことをやって、格好よくやって、楽しくて皆が「ああ、いいですね。素晴らしいですね。
うちにはできませんね」などとお世辞を少し言われて、その気になって。なんだかすごくいいこ
とをやっているように見えるけれども、実際にはお金を無駄遣いしているかもしれない。そこを
やはりわれわれは、もうそろそろ反省しなければいけないという意味で、コストベネフィット、
評価という視点を必ず目標に照らして、
少し立ち止まって考えてみる時期にさしかかっている大
学もあるでしょうし、
もう少しやってみなければいけないという大学もあるかもしれないという
印象を受けました。少し長くなりましたが、以上です。
山本(司会) ありがとうございました。それでは、分科会 C の報告を馬越先生からお願いい
たします。
馬越(桜美林大学) 馬越でございます。私は年とともに、この種のシンポジウムに不真面目
になりまして、2 日間通しで出ることはほとんどないのですが、今回は昨日からこの時点までフ
ルに参加いたしましたので、昨日うかがったことも含めて、私ども分科会 C のダブルディグリ
ーのセッションとクロスさせながら報告させていただくということでよろしいでしょうか。
私は、
山本先生と一緒にこの国際化戦略委員会事業の選定と評価の委員会にもご一緒していたもので
すから、多少そのことにも触れさせていただきたいと思います。
昨日、木村先生が最初におっしゃったように、私はこの国際化戦略本部が目的とする全学横断
的な組織づくりというものが、この 20 大学が基点になっていわゆる「総論の時代」から「各論
の時代」に入ったと考えています。それは、確実にそういう方向に進んでいるという意味で、大
きな成果が上がりつつあると評価をしております。
しかし前回の中間評価でもそうでしたが、
例えば以前から問題になっていた学部間あるいは場
合によっては学科間の障壁、この岩盤というものはなかなか打ち破れない、このような状況がま
だ残っているのではないかというような感じをもっております。あと 2 年間、さらに頑張る必
要があると思っています。
167
今日の私どもの分科会 C との関係でいうと、国際化戦略本部事業のプロポーザル段階の制度
設計には、ダブルディグリーというような個別のテーマは、それほど入っていなかったと思うの
です。この事業は研究に重点を置いた制度設計になっておりましたので、教育関係は比較的手薄
であったかと思うのですが、走り出してみると、やはり必然的にそういう研究の内在的な発展と
して、こうした次世代教育というか大学院の高度化推進というようなことで、ダブルディグリー
問題が出てきたということがよく理解できました。
そういう意味でダブルディグリーの問題は非常にチャレンジングな問題ですし、今回、日本学
術振興会でこのテーマを一つのセッションのテーマとしていただいたのは大変よかったと思っ
ております。
昨日、タイヒラー氏が講演で言われたように、どうも日本人は能力に比してグローバルプレー
ヤー、グローバルアクターとしての力が弱すぎるという指摘があったと思います。やはりこうい
うダブルディグリー等を積極的に利用することによって、
若い世代がグローバルプレーヤーとし
て育っていくという芽に、このプログラムはなるのではないかという予感をもったわけです。
昨日、梶山九州大学総長が講演の最後に、たしかインターナショナルカレッジ構想に言及され
ました。それから、早稲田の大野先生がグローバルカレッジという構想をお話しになりました。
そのいずれのカレッジ構想の中にも、
ダブルディグリーあるいはジョイントディグリー構想とい
うものが組み込まれているというお話でした。
私は、そうした構想を大変評価しますが、しかしそのカレッジだけに特定し、そこがグローバ
ル化すればいいということではないと思いますが、もしそうなるようなことになれば、かつての
「出島」のようなことになってしまうので、これはよほど気をつけて全学横断的なかたちでダブ
ルディグリーの問題を考えていく必要があるのではないかということを、私は本日の分科会 C
の司会をしながら考えた次第です。
ここからが分科会 C の報告です。結論から言えば、ダブルディグリーの問題は非常にチャレ
ンジングであるけれども、それほど容易なことではないという感じを受けました。例えばダブル
ディグリーとは何かという定義自体が、
日本語として必ずしもまだきちんと定義されていません。
そのような状況の中で、ダブルディグリーやデュアルディグリー、あるいはジョイントディグリ
ーという言葉が違った意味合いで使われているようです。
本日は慶應大学、東北大学、東京工業大学の事例のご報告を頂戴したわけですが、ダブルディ
グリーとは何かという定義についてはニュアンスの差がありましたので、
やはり今後つめていく
必要があると感じました。ダブルディグリーを進めていくには、やはりきちんと定義をする必要
があると思います。
第二に、ダブルディグリーの法的根拠をきちんと整理する必要がある。これまでいわゆる単位
互換がなされてきて、その延長線上にダブルディグリー問題もあるのだと思います。ただ、単位
互換はいちおう学校教育法等の法律的な根拠のもとに設計されていますが、
ダブルディグリーあ
るいはジョイントディグリー、デュアルディグリーとなると、これまでの法的枠組みをある意味
でジャンプしなければいけないいくつかの課題があります。そうした法的な処理についても、未
解決の問題が残っているということです。
第三の問題は、ダブルディグリーによって何をねらうかという意義・目的です。これはオース
トラリアなどがやっている市場原理に基づく展開もあるでしょう。しかし日本では、今日ご発表
いただいた 3 大学はすべて高度先端学術的な分野で若い研究者を養成するという学術原理とで
168
もいえる意義・目的を持って実施している印象をもちました。
それから現時点に日本の大学雅取り組んでいるのは、本日報告された 3 大学とも主として修
士レベルのダブルディグリー・プログラムでした。今後は博士課程も含めて、博士論文をダブル
で出すということが一体可能なのかどうかも考える必要があると思います。
東工大の先生の今日
のお話では、これはやはりすべての段階(学士、修士、博士)の問題ではないかというお話もあ
りましたが、学士課程、大学院課程(修士・博士)それぞれのレベルで考える必要があるでしょ
う。
第四の問題は、その在学形態です。在籍の形態に伴う授業料負担のあり方等についても、これ
はやはり同じ大学とダブルディグリーを行っても、授業料負担方式が若干違うようです。それは
それでいいと思うのですが、調整が必要なところは調整をする必要があるでしょうし、今後われ
われが宿題をいただいたような気がいたしました。
それから何よりもダブルディグリーとなると、国境を越えた教育の問題ですので、クオリテ
ィ・アシュアランス(質保障)をどうしていくかという問題が一番大きい。単位制度をとってい
る場合と、修了試験方式をとっている場合をどう調整するかという問題もあるでしょう。今日の
ご発表は、エコール・セントラルというグランゼコールのネットワークと慶応および東北大との
関係でしたが、そういうものを個別の大学間の単位認定でやっていくのか、ヨーロピアン・クレ
ジット・トランスファーシステム(EUCT)を使ってやるのかについても、認定方式、質保障の
方式を含めてもっと詰める必要があるでしょう。
それから博士論文については、そのクオリティ(質)のエクイバレンシー(同等性)をどのよ
うに担保するかということは相当難しい問題になってまいります。博士のレベルでは、早稲田大
学がコロンビア大学とすでにやっていらっしゃいますが、
まだ日本はこの面ではたち遅れている
のではないかと思います。
それから最後に第六としては、こうしたダブルディグリー・プログラムを推進する母体の問題
があると思います。これはやはり 1 人の教師であったり、研究室であったり、学科であったり、
それぞれのレベルで母体になることは当然ですが、私どもの関心としては、いわゆる国際化戦略
本部のような組織が全学的にどう関わっていき、
全学化していくかという問題が大変重要なテー
マであると思います。
本日、東北大学からご紹介いただいた東北大学とエコール・セントラルとの協定等の事例、そ
れから清華大学との事例では、やはり国際化戦略本部(GOC)が非常に強いイニシアティブを
持って関わっていらっしゃるというグッドプラクティスが報告されたと思っております。
いずれにしても非常にチャレンジングですが、
なかなかダブルディグリーという問題は難しい。
最後に是非申しあげたいことは、この面で日本は非常にたち遅れているということです。アメリ
カはアメリカ自体が「世界」だと思っていますから話は別ですが、EU は EU スタンダードを前
面に非常に頑張っている。今日のエコール・セントラルの場合も、これは大学間ネットワークで
非常にアクティブです。
その証拠に、今日われわれの分科会でご報告いただいた 3 大学のうち、東工大は送り出しと
受け入れがほぼイーブンになっておりましたが、慶応と東北大の場合は、どちらかといえば受け
入れのほうが多く、なかなか日本人(特に男子学生)が出て行くケースが少ないのが気になりま
す。少ない原因をもっときちんと分析をしなければいけないと思います。いずれにしても私ども
は、この問題への取り組みを始めたばかりですが、量的にみて日本のダブルディグリー問題にお
169
いても、世界の中でプレゼンスを発揮できていないのではないかと思います。
その証拠に、最近名古屋大学の国際化戦略本部の作成したパンフレットによりますと、中国で
は WTO 加盟以来、中外合作弁学条令を制定し、800 近いダブルディグリーを可能にするような
協定を作っているようです。その先陣を切っているのが清華大学であり北京大学です。このよう
な協定のうち、ダブルディグィーを認定しているコースが 2004 年時点で 164 もあるようです。
もちろん日本でも、この国際化戦略本部事業(20 大学)に入っていない大学でもたくさんダ
ブルディグリーを実践していることを、私はインターネット等で知っています。小さな芽という
ものは、たくさんあると思います。しかし、その芽をさらに大きくしていく努力を国際化戦略本
部事業に加わっている 20 大学が主導され、スピードアップしないと、日本の存在感はますます
アジアの中でも薄いものになっていくのではないかと、
私は心配しています。
以上でございます。
山本(司会) ありがとうございました。以上、三つの分科会の報告、コメントが終わったわ
けですが、若干時間をいただき、少しフロアからご質問あるいはご意見などをお受けしたいと思
います。例によって、ご発言の際にはお名前とご所属をおっしゃっていただき、お話しいただき
たいと思います。
いかがでしょうか。これがもうラストチャンスですので、是非何かひとこと言って帰ろう
と思っているかたもいらっしゃると思いますので、どうぞご遠慮なくおっしゃってくださ
い。いかがでしょうか。はい、どうぞ。
小山内(国際教養大学) すみません。先ほど分科会で喋らせていただいて、またこの場でも
喋らせていただきます。国際教養大学の小山内でございます。私の大学でも、もともとの中期計
画にデュアルディグリー・プログラムをやるということで、これは学部レベル、しかもリベラル
アーツ系、文系です。当初この計画を書いたのは大学が設立前の時点で中期計画を書いており、
いま私どもは開学 4 年目の県立大学ですので、
この中期計画は当然県の職員が書いたわけです。
県の職員が、当時流行だったので勢い余って書いてしまったのかもしれません。
最近になって、県議会で「あの話はどうなったかい」と。
「いや、やっています」という
ことで、近々公約を実行することにはなっているのですが、果たしてどれだけの日本人学
生が応募してくるのかということに関しては、学内でもやってみないとわからない状況で
す。やることはやるのですが、果たしてどれだけのニーズがいまの学部生、しかも文系に
あるのかということで、この辺り、なにやら一時盛り上がっていたけれども下火になって
きたというような皆さんの理解なのでしょうか。少しその辺を馬越先生におうかがいした
いと思います。
馬越(桜美林大学) そうですね。国際教養大学のプランそのものについて私は見ていないの
でよくわかりませんが、私は昨日からいろいろな先生がたにインタビューしました。昨日発表さ
れた早稲田の国際部長の大野先生にインタビューしましたところ、
早稲田は学部レベルで北京や
清華等でやっている、それから鳥取大学の岩崎副学長のお話では、韓国の釜慶大学とダブルディ
グリー・プログラム(学士課程レベル)を実施しているということでした。
ところが伺いましたところ、やはり数は非常に少なく、受け入れが中心で、日本人学生を派遣
することが非常に難しいとのことでした。
つまりダブルディグリーというのは非常に負担がかか
る。金銭的にもそうですし、修業年限を考えても最短の 4 年間で二つの学位を取ることは、か
なり難しい。
ですから、
かなり負担覚悟でチャレンジするという動機づけをどうしていくかという点におい
170
て、一工夫も二工夫も要るのではないかと思います。
ダブルディグリーに限っていうと、日本の場合、どこに問題があるのかよくわかりませんが、
アイディアはいいけれども具体的な形として、
つまりかなりの量で成功しているという大学は少
ないのではないかと思います。
そういう意味で中国の大学などとは非常に違うという印象をもち
ます。
山本(司会) ありがとうございました。ダブルディグリーとは何かといういちおうの説明は
なされているわけですが、どうも適切な日本語訳がないところをみると、それが適切な日本語訳
が定着すれば少し一般化するかなと私自身は思っております。
いずれにしても、いま学生の学力向上ということがいわれておりますから、その中でこれがど
ういう風になっていくのか。国際化とも関係があるわけですが、それ以外の面でも非常に重要な
概念の一つではないかと私も思っております。ほかに、いかがでしょうか。
二宮(広島大学) すみません。ダブルディグリーのことで、少し聞いてみてもらいたいこと
があるのですが。例えばマスターが一番いい例だと思うのですが、二つの異なる分野の学位を取
るというのが本来のダブルディグリーではないかと思うのです。
そのときに、マスターに基礎教育、共通教育がどこまであるかというのはカリキュラムを見な
ければいけませんが、できれば法律を志す人が、例えば医師の基礎の部分で医学の基礎の部分で
学位が取れるものなら取ってみるとか、
経営や環境などがあってもいいのではないかと思います。
それが国際的な二つの異なる大学で取れるのか、
あるいは国内の大学で取れるのかというのは
また場の問題、インスティテューションの問題ですので、それは法律的にどうなっているかとい
うことを考えなければわからないと思います。
私は、それよりはジョイントという、やはり英知を集めて一つの大学だけでは提供しきれない
豊かなカリキュラムというものを提供し、一つの国際的な合意のもとで、それぞれがもちろんク
オリティ・アシュアランスは認証過程の中で受けていくわけですので大丈夫だと思っていますが、
学位授与権を持つ大学が集まってその範囲内でのプログラム、日本はいま、たちまち一つの学位
を共同で出すということができないと思うのです。だから、ダブルになるのですね。
同じプログラムを開発して、でも一つでは出せないから、それぞれ別々に読み替え認定をして
出しましょうと。そうでなければ学習歴が記録に残らないというか、豊かさを保障しないので。
しかし、本当は 1 枚のジョイントディグリーというものが特定の分野に限って国際的なコンソ
ーシアムでもいいですし、3 大学でもいいのですが合意ができて、その社会的承認を受けられる
ものならば、認知を受けられるものならば、そういうものを出していきたいと。
結論はもう簡単なことなのですね。広島大学だけが出す学位よりはるかに、中身を見てくださ
いと。より豊かで多様なニーズにこたえられるし、コンテクストが違うでしょうと。同じエンバ
イロンメント・スタディでも全然コンテクストが違うのではないでしょうかと。そういうものが
本来あったほうがいいかなという風に、
個人的にこういう立場にいながらいつも思っております。
ですから、ダブルディグリーそのものは一過性のものかなと。一時期、そういうものしか取れ
ないという意味での少し消極的な受け止めをしていて、
それ自身はよほど法学部の人が別の分野
の知識を持って法曹界に出るべきであるということであれば、非常にわかりやすい。教育学をや
る人が、アカデミックなディスプリン・ベーストの化学なら化学をきちんと持って高等学校の先
生になるということもナレッジベーストな教員養成であれば、非常にわかりやすい。
そのように考えてみたときに、
教養というのはもっとトータルなホリスティックなものだと思
171
うのです。ですから、ディスプリン・ベーストな分野と教養という総合型のものとは、ダブルデ
ィグリーというのは少し位置づけかたが違うのではないかと思うのですが、
秋田国際教養大学の
小山内先生のところは、どのようにそれを考えられるかという感じで答えてみたいなと、ふと思
ったものですから、ちょっとマイクをいただきました。
山本(司会) ありがとうございました。それでは、最後となります。どうぞ。
森田(東京工業大学) 私も今日午後、発表の機会を与えていただきました東京工業大学の森
田でございます。ちょうどディアルディグリー・プログラムとジョイントディグリー・プログラ
ムの話になったものですから、最後に少し感想を申し述べたいと思います。私はジョイントディ
グリー・プログラムというものが将来的な方向ではないかというような気がしています。
その結果、どういうことが大学に起こるのだろうかということですが、これまでは一定水準以
上の教育を与えて、
それを学位として保障するという責任と権限が各大学に課せられていたわけ
ですが、ジョイントディグリーになった場合、複数の大学の先生のご指導を受け、あるいはその
課目を受けて卒業していくという制度へ移行していくわけです。
一体これはどういう制度なのだ
ろうということを少し私どもの学内で話をしたときに、
これはもしかすると従来大学に課せられ
ていたそういう特定の教育を学生に与えるといった責任のかなりの部分が個々の教員の責任に
かかってくると同時に、
個々の教員に対する評価というものが非常に顕在化するのではないかと
いう話になりました。
ですから、そういう意味では非常に個性化するというか、あるいは個々の教員の社会的な評価
のようなものが非常にクリアになると同時に、
その大学の持っている意味も随分変わっていくの
ではないかと思います。
これは、まだいますぐ起こるということではないでしょうけれども、おそらくこのデュアルデ
ィグリー、そしてジョイントディグリーの流れの延長線上にあるものが、おそらくそういう国境
を越えた個々の教員と学生との結びつきという、
ある意味では大学の最も原初的な形態がもう一
回復活するようなことになるのではないと思うわけです。それで結局その学位というのは、どこ
の大学といったことではなく、だれだれ先生のこういう課目の指導を受けて取った、というよう
に個人化していくのではないかということを少し話したことがあります。
ですからこのデュアルディグリー、
そしてジョイントディグリーは単なる制度的なものではな
く、
何か構造というか大学というもの自体を変えるような可能性を持っているのではないかとい
う話をしたことがあります。
山本(司会) どうもありがとうございました。それでは、予定されていた時間がまいりまし
たので、この辺りで質疑応答を終わりたいと思います。
2 日間にわたる熱心なご討議にご参加いただきまして、ありがとうございました。この国際戦
略本部推進事業は 5 カ年計画ということで、今年 3 月で 3 カ年を終わるわけで、昨年には中間
評価も終わり、
そして本日の分科会のように三つの具体的なテーマに即して議論ができるように
なってきたということは、
いよいよ国際化戦略はこれから具体性を持った各大学における実際の
国際化活動であるという風になってきたと思います。
したがってあと 2 年間、これがさらに発展するということを期待しつつ、全体の会議を終わ
りたいと思います。長時間にわたり、ご協力ありがとうございました。また、本日は馬越先生、
二宮先生、どうもありがとうございました。それでは、これで終わらせていただきます。どうも
ありがとうございます。
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金子(JSPS) 山本先生、二宮先生、馬越先生、ならびに分科会でご講演いただいた講師の先
生がた、誠にありがとうございました。いま一度、講師のかたに拍手をお願いいたします。以上
をもちまして、本シンポジウムを終了いたします。本日は、本シンポジウムにご参加いただきま
して誠にありがとうございました。
なお、お帰りの際にはアンケート用紙がございますので、ご協力いただければと思います。ま
た、名札および名札入れのご返却をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
(了)
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