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オフィス文化論

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オフィス文化論
オフィス文化論
日本オフィス学会
「オフィスを経営の力に 10の提案」から
第1回
社会、
企業、
人の関係を上手に構築するには
固有の文化というキーワードが欠かせない
産業資本主義社会から知識社会への転換が進む21世紀。オフィスも当然、それにふさわしい「場」へと変わっていかなければならな
い。しかし現実問題として、多くの企業がその方法論を見つけられないでいるのはたしかだ。この課題に取り組むため、日本オフィス
学会では「オフィスを経営の力に」研究会を発足させ、多方面からのアプローチと検討を続けてきた。そして昨年12月、研究の成果を
10項目の提案にまとめ、発表している。
「社会」
「経営」
「空間」といったオフィスを取り巻く環境の変化に対し、企業はどういう戦略を
とればナレッジワーカーとしての社員の力を最大限に活用できるのか。研究会で中心的な役割を果たしたメンバーに登場していただ
き、提案に至った背景とその骨子を解説してもらおう。
恒川和久氏
名古屋大学大学院工学研究科講師
「提案」において主に社会環境に関する項目をまとめた。
つねかわ・かずひさ。1964年愛知県生まれ。名古屋大学工学部建築学科卒業。株
式会社大林組を経て、1996年に名古屋大学工学部助手に。2002年より工学部施
「施
設整備推進室講師。主な研究テーマは「人間行動から見たワークプレイス環境」
「大学や自治体のファシリティマネジメント」など。大
設性能評価手法の国際比較」
学では後身の指導にあたるとともに施設の設計も手掛け、名古屋大学IB電子情報
館・地下鉄名古屋大学駅にて、名古屋市都市景観賞、愛知まちなみ建築賞を受賞。
名古屋大学のFMによって、2008年第2回JFMA大賞・優秀ファシリティマネジメント
賞を受賞。
社会環境が大きく変化している現在、オフィスに求められる条件も多様
になってきた。経営課題、知的生産性の向上などのテーマを考えるとき、
そのベースにある日本人固有の文化に目を向けるのは非常に重要である。
■環境は人の思考や行動に大きな影響を及ぼす
文化的な視点でコンセプトワークを行った環境は、
そこにいる人々の創
造性を高めたり、モチベーションを上げるといった効果をもたらす。
■オフィスで「社員力」を最大化した地方企業
地方企業の中には地域による特性を最大限に活かして仕事環境や生
活環境の向上に考慮したオフィスをつくっているところがある。職場の
雰囲気が変わるだけで従業員はプライドを取り戻し、
その成果は業績に
も確実に反映していく。
■人間中心のワークプレイスをつくるべき
人は何層もの環境に包まれて生活している。しかもその環境は常に変
すべてのベースに「固有の文化」がある
私は1988年に大学の建築学科を卒業したあと、大林組で建築設計
ドイ
店ビル(ドイツ・フランクフルト)、香港国際空港ターミナルビル、
の仕事に就いていました。ちょうどそのころ、品川駅東口地区の再開発
ツ国会議事堂(ベルリン)
などの設計を手掛ける。
計画がスタートし、
大林組では新たに誕生するインターシティに東京本社
を移転するプランが浮上してきます。そして私も新本社を計画するプロ
ジェクトに加わったのです。
その後、私自身は縁があって母校の名古屋大学で教鞭をとることに
■コミュニケーションが組織全体の生産性を上げる
日本はオフィスの生産性が低いといわれるが、
それを解決するにはワーカ
ー全体の底上げを図るしかない。具体的にはコミュニケーションを促進し、
知識共有の「場」としてのオフィスを構築することが大切。それが日本人
にとっての最大の強みにもなる。
■日本人による日本人のためのオフィスを
人々は固有の「見えにくい文化」によって特有の思考や行動パターンを
持つ。日本人の場合は組織への帰属意識が欧米人に比べて非常に高
いため、
その特性を無視したグローバルなオフィスなどありえない。一方
で格差社会などの到来で日本人も多様化してきており、
それをまとめる
ことができるのもオフィスであることを認識すべきだ。
▼「オフィス文化論」の下記バックナンバーはhttp://www.websanko.com をご覧ください。
●「オフィス文化論」
・07年 IV号 刷新というイノベーションで常に変わり続ける日本型ワークプレイスの「変わらない」本質 ・07年 III号 グローバリゼーションが進む時代だからこそ自分の
中の「ローカルの軸足」を知るべきです・07年 II号 「知的創造」の時代に企業が成長していくには人間の関係を考えたオフィスづくりが必要である ・06年 IV号 オフィ
スの「文化」をみんなで育てていこう!・06年 III号「文化」が違えばオフィスも違ってくるはず ・06年 II号 なぜオフィスに「文化論」が必要なのか?
●オフィスでも忘れてはいけない「おもてなしの心」
・05年 IV号 「しつらえ」に「もてなし」が加わることでオフィス空間は初めて居心地がよくなります。・05年 III号 作法の文化を若い世代に伝えていけるオフィスなら
贅沢な空間がなくとも「おもてなし」はできます。・05年 II 号「おもてなし」はその場その時のコミュニケーションの工夫
●「日本の伝統に学ぶ21世紀のオフィス文化」
・04年10月号 仮説の空間 ・04年 7月号 空間の領域 ・04年 4月号 仕切りの構造
「社員力」を最大化するワークプレイスが
経営の力になることを証明した地方企業
竣工までは会社にいなかったのですが、
それでも数年間、
立
なったため、
場の異なるメンバーと自分たちの使うオフィスを検討してきた経験は、建
もう一つ、
日経ニューオフィス賞の中部ブロック審査員を務めさせてい
築しか知らなかった私にとって大いに勉強になりました。
ただき、
多くのオフィスを目にすることができたのも、
私にとって大きな刺激
いうまでもなく、
オフィスづくりにおいてコンセプトは非常に重要です。特
になりました。
そこに「会社が目指していくべき方向性」が示されて
に本社ともなれば、
名古屋を中心とする中部ブロックは最近では超高層ビルのオフィスが
いなければなりません。
増えてきたものの、
それでも都心に比べればまだまだ土地の余裕があり、
ところが、
当時まだ20代半ばの若かった私にとって、本社オフィスのコ
ときには感心するほどの「いいオフィス」に出会えます。その代表が、岐
「ファシリティマネジメント
ンセプトをつくっていくという作業は大変でした。
阜県関市に本社を置く精密機器メーカー「鍋屋バイテック会社(NBK)」
の手法が有効だ」とはわかっていたものの、
マネジメントをするにも事前
の事業所でした。生産の場であるとともに公園の持つ快適性を融合し
に考えなければならないテーマが多すぎます。経営戦略、社会環境の
たいという考え方から生まれた「工場+公園」
というコンセプトに基づく
「関
変化への対応、
地球環境問題への取り組み、
当時は進展の予想さえ困
工園」は、
自然環境あふれる新しいスタイルの生産施設として、1993年
難だった情報化への対応などなど、頭の中は検討課題でいっぱいだっ
には日経ニューオフィス推進賞の通商産業大臣賞に輝いています。
たのです。
化し、お互いに関係性を持っている。それにも関わらず「空間環境」しか
考えないオフィスでは、
そこにいる人の力を最大限に発揮させることはで
きない。従業員の求めるオフィス環境の徹底したヒアリングを行うとともに、
その内容と経営との調整を図る総合的なプロデュースにより人間中心
のワークプレイスをつくっていくべきだ。
■ノーマン・フォスター(Norman Robert Foster)
イギリスの建築家。香港上海銀行・香港本店ビル、
コメルツ銀行本
「何か、
これらをまとめる、
1本の串のようなものはないのだろうか……」
オフィス文化論 ● はやわかりメモ
■「文化」はオフィスを考える切り札になる
オフィスから組織論、個人の生き方まで
この会社が素晴しいのは、経営者が理想とする企業像を明確にし、
その方向性に基づいて人や「場」のマネジメントを行ってきたところです。
そんなことを考えていたとき、思い浮かんだのが「文化」という言葉で
20年ほど前、
この会社は深刻な経営危機に陥っていました。多くの地
した。
方のメーカーがそうであるように工場という3K職場が嫌われ、優秀な人
文化とは、人の生き方だけでなく組織のあり方にも大きな影響を及ぼ
が採用できないどころか、
そこで働く従業員たちもプライドを持てず、
全体
します。また社会と個人、社会と企業の関係も文化の一部なのです。
し
に活気がなくなっていたというのです。
たがって、
新しくつくるオフィスについても文化という視点から考えていけ
そんなとき、創業者一族である現会長の岡本太一氏が、
それまで勤
ば、
すべての課題に共通する解が得られるかもしれない。
めていた商社から引き戻されて経営にあたることになりました。
これは大きな発見でした。
彼が最初に行なったのは、
制服のデザインや色を一新することでした。
大林組のプロジェクトでその成果をどこまで発揮できたかはわかりませ
カラフルでおしゃれなものに変えることで、
作業服のイメージを変えたので
んが、
私自身がオフィスの仕事に幅広く携わっていくうえで、
「文化」は重
すね。
また、
工場内をきれいに清掃し、
明るい雰囲気の中で働けるように
要なキーワードになっていったのです。
する。それだけで従業員のモチベーションが高まり、不良率などが一気
に下がったそうですから驚きです。
「文化」の感じられるオフィスは
そこにいる人にいい影響を与える
続いて、
工場やオフィスの本格的な改革を進めます。
先ほど説明した「工園」は、
単に緑地の多い工場ではありません。
「働
く環境、
日常を過ごす環境が豊かであればあるほど、私たちの思考は解
オフィスづくりに文化が大切だと思ったきっかけはほかにもあります。
放され、
人が本来持っている感性を呼び醒まします」
と説明しているように、
私のいた大林組の建築設計部門は、文京区本郷のセンチュリータワ
従業員にとって居心地のいい「場」を用意することで創造力を発揮しても
ーに入っていました。ノーマン・フォスターの設計したこのビルは、実に居
らい、
経営の力にしようと考えたのです。
このため、
施設内には社員用のカ
心地がよかったのですね。
フェやジャグジー、
フィットネス、
プール、
寿司バーまでもが設けられました。
大きな吹き抜けによって生まれる10層を一体にした広々とした空間は、
このような改革を続けた結果、職場全体に活気が蘇り、業績は4倍に
中にいる人間に一種の豊かさを感じさせてくれます。そんな気持ちにな
これはまさしく、
文化的な経営戦略の勝利だといえます。
もなったそうで、
ると、
そこから見える景色も、吸っている空気も、他の場所とは少し違うも
のに思える。創造力をかき立ててくれる最高のオフィスでした。
■鍋屋バイテック会社
なぜノーマン・フォスターはオフィスビルにそういう空間をつくったのか。
サイトの「会社案内」のページに関工園の説明があります。
スペース効率を追究するだけが自分の仕事ではないと思
それはやはり、
http://www.nbk1560.com/index.html
ったからでしょう。彼は自分なりにオフィスにおける「文化」
とはこうあるべ
きだと考え、
具現化した。そのコンセプトがはっきりしていたからこそ、
ビル
を利用していた私たちにも、
心理的、
行動的な効果があったのです。
企業ごとの「文化」を考えるところから
そうやって人は、
環境から大きな影響を受けるのですね。
次世代のオフィスづくりは始まっていく
このような経験があったため、名古屋大学に移ってからは「人間行動
といったテーマで研究を続けるようになりま
から見たワークプレイス環境」
鍋屋バイテックの精神的な取り組みは、
私たちにいろいろなことを教え
した。
また、
大学内の施設などの設計にも携わっているのですが、
そのと
てくれます。文化とは地域によって固有のものなのですから、すべての
きにも私なりの文化的な視点を、
できるだけ活かすようにしています。
会社が東京型のオフィスを目指す必要はないのです。自然に囲まれ、敷
オフィス文化論 日本オフィス学会「オフィスを経営の力に 10の提案」から 第1回
社会、企業、人の関係を上手に構築するには固有の文化というキーワードが欠かせない
地に余裕があるところなら、
その環境を活かしたオフィスをつくればいい。
そう考えていくと、
「オフィスというハコ」
と
「デスクレイアウト」
という単層
つまり私たちは、
口にしたり、文章化した以外の情報を大切にしたコミュ
り遂げた達成感や帰属する組織との一体感を持たせるといったことが
そのほうが地元の人にとっても誇りを持って働けるのではないでしょうか。
の空間環境だけを設計するオフィスづくりがいかに乱暴だったかわかり
ニケーションを得意としているのです。
あげられるでしょう。そしてこれらは、
ほとんどがオフィスによって得られる
それだけではありません。
ます。そこには環境の多層性に対する配慮がまったく欠けているのです
したがって組織内のコミュニケーションを活性化していくには、
みんな
のです。
地域文化、企業文化、生活文化など「文化」を分類する言葉を並べ
からね。
オフィスがその役目を果たします。
が共有する「場」が絶対に必要であり、
それだけに、
オフィスをどうつくるかは、
企業が今後も成長していくか、
てみると、
結局、
文化はある特定の社会に固有のものであることがわかり
それでは、
働く環境と人の多層的な関係性をどうやってワークプレイス
日本のオフィスワーカーの生産性を高めるには、
日本社会が重視して
将来性に大き
あるいは生産性を向上できずに消えていってしまうのか、
ます。つまり
「ところ変われば文化も変わる」のです。
に活かしていけばいいのでしょうか? その方法としては、多くのワーカ
きた「場の空気」を大事にした空間をつくるべきだし、逆にいえば、
それ
く関わってくることを知らなければなりません。今までのように「他社と同
そしてオフィスづくりにおいて文化が重要だとすると、
そこには共通解
ーにプロジェクトに参加してもらうことが考えられます。そして自由に討議
こそが日本の強みであることを再認識すべきではないでしょうか。
じオフィスにしておけばいい」といった考え方では、生き残っていけない
はありません。企業が違えば文化も異なるし、同じ企業の中でも部門ご
し、理想の職場を徹底的に考えてもらいます。視点を増やすことで環境
とに働き方は違うのですから、
それぞれワークプレイスに求められるもの
の多層性をより明確にしていくのです。
は変わってきます。
したがって、
オフィス構築のプロジェクトにおいては、
毎
しかし、
それだけだと意見がバラバラになり、
まとまりません。
したがって、
のです。
提案03
今回の「提案」は、大きく変化する社会環境に対して、企業がどうい
う選択をすればいいか示す、
貴重な道標になると信じています。
コンセプトワークが必要になってくるのです。
回、
そこにオフィスづくりの専門家が加わり、客観的な現状把握や目指すべ
日本人の人間力を活かした、
百社百様の企業文化を醸成する「場」
今回、
「オフィスを経営の力に 10の提案」をまとめるにあたり、
オフィ
き目標の提示、
経営的な裏付けを得るといった役割を果たす必要があり
を構築する
ス環境の一つとして「社会環境」をとりあげたのは、
そういう理由がある
ます。それが「ワークプレイスをプロデュースする」
という作業になるのです。
(1)
日本文化や日本的価値観に基づく「場」を再考すべきである
アメリカの文化人類学者。動物や人間に関するさまざまな観察から
からです。社会環境とは、
その社会と構成員である人の持つ文化にほ
また、人を包む多重の殻は相互にも関係を持っていますから、
「オフィ
(2)働く意味を見いだす環境はオフィスにおいて醸成される
人間は対人距離について次元的な意識を持っていると主張し、
こ
かなりません。それだけに、文化的な視点を持って、社会環境の変化に
ス空間」によって分断しないようにしてください。最近はセキュリティや内
対応していく姿勢が大切なのです。
部統制の強化といった傾向が強くなってきたことでオフィスの中と外を厳
エドワード・ホールが著書『かくれた次元』で書いているように、人がコ
学、近接空間学)
と名付けた。
そんな考え方を踏まえて、
「10の提案」のうち社会環境に関する項目
しく分けた管理がなされるようになってきましたが、
これも行きすぎると知
育った環境によって変わってき
ミュニケーションをとるときの「距離感」は、
・密接距離 (intimate distance):15∼45cm……愛撫や格闘、慰め、
を解説していきたいと思います。
識創造の芽を摘んでしまいます。
もちろん、情報管理はしっかりしたうえ
ます。
保護などの意識を持つ距離
で、
ワーカーには職場と社会がシームレスにつながっているという感覚を
たとえばドアをノックするとき、
日本人はだいたい2回ですが、
アメリカ人
・個人的距離 (personal distance):45cm∼1.2m……相手の気持
持ってもらうことが大切なのです。
自然にそう
は3回が普通です。こんなこと誰に教わるわけでもないのに、
ちを察しながら話しあえる距離
いった国民性が形成されています。そしてもちろん、
これも文化なのです。
・社会的距離 (social distance):1.2m∼3.6m……接客などオフィ
日本固有の文化というと、
ついつい能や茶といった様式化された芸術
シャルな人間関係を意識する距離で、
オフィスにおいてはこの距離
社員力を最大化するオフィス環境の構造
オフィス環境
社会
環境
知識社会
自己実現
コラボレーション
ユビキタス
感性を持った多様な
人間像
知的生産性
ナレッジマネジメント
フラット型組織
投資対効果
経営
環境
ワークプレイス
空間
環境
提案02
ワーカーの生産性向上には、
コミュニケーションの「場」としてのオ
ナレッジワーク
コミュニケーション
アフォーダンス
変化・多様性・可視化
情報環境
3つの環境が人を介してお互いに影響を与えながら
変化し、変化が常態となり、
スピードが求められる。
フィスづくりが欠かせない
(1)日本が繁栄を続けるためには、オフィスにおけるワーカーの生
産性を上げることが必須である
(2)同じ場に居合わせることが、創造力を生む最良のコミュニケー
ションである
れをもとにした文化研究などをプロクセミックス
(proxemics=近接
に目が向きがちですが、
実はこれらが発達してきた背景にはこのような「見
があれば人前でも自分の仕事に集中できる
えにくい文化」があるわけで、
しかも日本人の行動や思考のパターンは
・公衆距離 (public distance):3.6m以上……講演会など公衆と
むしろこちらに起因するのです。ですから、
オフィスのようなコミュニケーシ
の間にとる距離
ョンスペースをつくるときには民族的な特性を知っておかなければなりま
せん。
それでは日本人の特性とはどんなものなのでしょうか。これについては
今回の「提案」をまとめたメンバーの一人でもある小笠原泰氏が『なんと
なく、
日本人』の中で見事に分析しています。
提案 01
GDPに基づく就業者1人あたりの労働生産性を比べてみると、
日本は
企業などの組織と個人の関係、
つまり距離感において、欧米人は「参
しかし製造業の労働生
先進諸国の中では低いほうだとされています。
加」するという意識が強いのに対し、
日本人は「帰属」意識を優先させま
働く環境を、人間中心のワークプレイスとして幅広くとらえ、
産性は世界のトップクラスなのですから、問題になるのは、
やはりオフィス
す。そして自分の役割を明確にすることで、本来、与えられたタスク以上
プロデュースする
ワーカーの生産性の低さでしょう。今後、
さらに人口減少が進むことを考
の働きをするのです。
したがって、
この「日本人の人間力」を最大化する
(1)多層的な働く環境と人の関係をプロデュースする
えれば、
なんらかの対策が必要になります。経済産業省がクリエイティブ
には、
オフィスにおける居場所を常に確認できるようにしておかなければ
(2)情報ネットワークから都市空間まで、幅広く働く環境をとらえデ
オフィス推進を掲げるのも、
これが動機といってよいでしょう。
なりません。
このとき重要なのは、
一部の人の能力を高めることではなく、
底上げに
それを知らずに、
「流行っているから」とノンテリトリアル形式のフリー
よる全体的な生産性の向上です。優れた社員はすでに十分に創造力
もちろん、
これからの
アドレスを導入すると失敗する可能性があります。
ここでのキーワードは多層性です。
を発揮していますからね。契約社員や派遣社員までをも含めたすべて
オフィスの形態として固定席を設けず、
自ら場所を選べるということも重
オフィスづくりというと、
従来は空間環境しか考えていませんでした。
「ス
のワーカーに創造力を発揮してもらうことで、
初めて、
組織力の強化につ
要だと思いますが、
その場合にはワーカーが「場」の喪失感を持たない
ペースを借りてデスクを置けばオフィスはできる」
と思われていたのです。
ながります。
ように、
何らかの工夫が必要でしょう。
しかし実際には、人はそんな単純な殻だけを被って生きているわけで
そしてそのためのキーワードが「コミュニケーション」です。
現在の厳しい経営環境は、
日本企業の伝統だった年功序列や終身
ザインする
■エドワード・T・ホール(Edward T. Hall)
リアルからバーチャ
はありません。社会環境、生活環境、情報環境など、
コミュニケーションが活発になり、
チームによる情報共有が進めば、知
雇用制を崩壊させつつあり、
派遣などの非正社員の増加、
人材の流動化、
ルなものまで何層もの環境に多重に包まれているのです。
さらに知識が創造されるプロ
識創造の担い手は自然に増えていきます。
格差の拡大といた社会環境の変化をもたらせました。その結果、働く人
たとえば、
同じオフィスであっても職場の人間関係といった社会環境に
セスをチームで共有することが、組織全体の創造力の向上につながる
の価値観も従来では考えられないほどに多様化しています。たとえば労
その一例でしょう。
よって居心地が良くも悪くもなるのは、
のです。
働における自己成長を最重視する人もいれば、家庭や地域での生活の
しかも、社会心理学や行動科学などの「人間−環境系」の研究分野
現在では情報ネットワークが進化したため、
このような作業はバーチャ
ほうがより大事だと考える人だっているのです。
では、人と環境は相互に影響を及ぼしあうとされています。つまり、人間
ルな環境でも可能なように考える人がいますが、
それは難しいと思います。
したがってこれからの経営者は、
この「多様な人々」を上手にまとめ、
をとり巻く環境は実に多層で、複雑なのですね。そしてその複雑さが多
というのも、
日本語をベースにした日本人の人間関係においては、
言葉で
モチベーションを高める工夫をしていかなければなりません。
様な文化をつくっていくのです。
伝える以外に「場の空気」を読むという作業が非常に重要だからです。
その方法は百社百様で共通解はないものの、
方向としては、
仕事をや
Fly UP