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テキサス大学における遠隔学習プログラムの開発方法に関する調査
鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 原 著 論文 テキサス大学における遠隔学習プログラムの開発方法に関する調査 An Investigation of Methods for Developing Distance Learning Programs at the University of Texas 森田 裕介 〒772-8502 鳴門市鳴門町高島字中島 748 鳴門教育大学 学校教育実践センター・教育メディア開発分野 Yusuke MORITA Division of Educational Technology Research Center for School Education Naruto University of Education 748 Nakajima, Takashima, Naruto-cho, Naruto-shi, 772-8502, Japan 抄録: 米国テキサス州にあるテキサス大学において,遠隔学習プログラムの開発方法について調査を行った. テキサス大学は,遠隔学習コースの開発に対し,1999-2000 年に約 5 億円の予算を費やしていた.また,質の 高い遠隔教育プログラムを開発するために,大学教官に対してトレーニングを行っている.トレーニングは, カリキュラム・コーディネータが担当し,遠隔学習プログラム・コースの開発に関する基本方針,コース開発 のための基礎知識,コース設計,コース開発,コースのチェックについて行われる.遠隔学習プログラムの開 発において重要なことは,一貫性とインタラクティビィティを考慮することである. キーワード:遠隔学習,ICT,バーチャル・ユニバーシティ Abstract:This paper presents a method for developing distance learning programs at the University of Texas. The University of Texas system has spent about 4,800,000 dollars on developing distance learning programs in 1999-2000. In addition, the University of Texas system provides training for professors to develop high quality distance learning programs. In the training, the professors are lectured on basic assumptions, basic knowledge on developing courses, instructional design of courses, course development, and checking on developing a courses by the curriculum coordinators. It is the most important that the developers should take consistency and interactivity into consideration on developing the distance learning programs. Keywords:Distance Learning, Information and Communication Technology, Virtual University Ⅰ.はじめに ICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)の進展によって,遠隔教育は大きく変 わった.SCS(衛星通信システム:Space Collaboration System),ISDN 回線を使ったテレビ会議システム, インターネット上でのストリーミングによるビデオ 会議システムなどの ICT が,リアルタイムでの遠隔 コミュニケーションを容易にしたからである. 遠隔教育(Distance Education)は,学習者を主体 とした場合には遠隔学習(Distance Learning) ,教師 を主体とした場合には遠隔授業(Distance Teaching) と呼ばれ(Palloff & Pratt, 1999) ,従来の郵便による 通信添削型の通信教育と区別される(Peterson’s, 2000) .鈴木(1999)は,前者を「仮想教室型遠隔教 育」 ,後者を「自立学習方遠隔教育」と呼んでいる. 遠隔学習者は, 家やオフィスなどの任意の場所で, 講義をリアルタイムでの映像配信, もしくはビデオ・ オン・デマンドによって受講したり,Web上で提供 されるコンテンツを用いて学習する.また,他の受 講生とコミュニケーションをとることが可能である (Porter, 1997) .それに対し,通信添削学習者は,郵 31 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 1997−1998 $300,000 1998−1999 $2,700,000 $4,800,000 1999−2000 図1 UT テレキャンパス構築の経費 Distance Education」と呼ばれる部門があり,UT テレ キャンパス(University of Texas Telecampus)の運営, 遠隔学習に関わるインフラストラクチャーの管理, UT システム電子図書館の運営,遠隔学習プログラ ム・コースの開発に関わるトレーニングなどを行っ ている. UT テレキャンパスは,単位認定,学位取得が可 能な, テキサス大学が母体となって運営しているバー チャル・ユニバーシティである.学生は,リアルタ イムでの映像配信や,ビデオ・オン・デマンドを使っ て講義を受講し,メール,チャット等を使って大学 教官とのインタラクティブなコミュニケーションを 行う. レポートもインターネットを通じて提出する. UT テレキャンパスには,UT テレキャンパス長 (Director)である Darcy W. Hardy博士を含めて 10 数名のスタッフがコンテンツの開発・配信などを担 当している. 送されてくるテキストを一人で学習し,添削者と一 対一で学習を進める場合が多い.既に,世界の様々 な国で,ICT を用いた遠隔学習が展開され,その有 効性が報告されている(Harry, 1999). ICT を用いて,地理的制約,時間的制約を取り除 き,通常の大学で行われる高等教育・研究活動を, いつでもどこでも行えるようにした遠隔学習環境を, 総称してバーチャル・ユニバーシティと呼ぶ(日本 教育工学会, 2000) .バーチャル・ユニバーシティは, 資格や学位を取得するための遠隔学習プログラムを 学習者に提供する.遠隔学習プログラムは,いくつ かのコースから構成されており, その概要はインター ネット上で公開されている(Peterson's, 2000) . しかしながら,遠隔学習プログラムの開発にかか る費用や開発方法については,実際に現地に赴き, 調査を行う必要がある. そこで,本研究では,ここ数年間,遠隔学習プロ グラム・コースの開発を急速に進めている米国テキ サス大学(University of Texas)を訪れ,開発に携わっ ている担当者に直接面会し,資料収集を行った. Ⅱ.調 2.UT テレキャンパス構築の経費 図1に,UT テレキャンパス構築の経費の推移を示 す.1999−2000 年は,日本円にして,約 5 憶円の費 用を投資して,遠隔学習環境の構築を行っているこ とがわかる.UT テレキャンパスの構築における資 金は,NSF などアメリカの研究費や学生の授業料な どを用いているとのことであった. 次に, UTキャンパスの運営費の流れを図2に示す. UT システムは,テキサス大学の各キャンパスが, 遠隔学習コースを授業で利用するよう促し, 利用コー ス数に応じた費用を徴収している.UT テレキャン パス側から 15 キャンパス側への資金の流れは, 遠隔 学習プログラムの開発にかかる経費である.この中 には,遠隔学習プログラムの開発を担当する教授の 査 1.UT システム テキサス大学は,テキサス州に散在する 15 のキャ ンパスから構成される総合大学である.UT システ ム(University of Texas System)は,テキサス大学の 15 キャンパスを統括する組織で,各キャンパスの学 長とともにテキサス大学全体の方針決定, 資金運用, 遠隔教育システムの運営などを行っている.また, UT システムには,「 Information Technology and 33 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 UT テレキャンパス UTテレキャンパス • 学生へのサービス費 • 技術費 • コース開発料 • 授業時間費 1セメスタあたり3時間の授業 →2時間に減少 ( 空いた1時間分をコース開発 の時間として充当) オンライン学生 オンライン学生 学費 利用コース数に応じて支払う (2000-2001の場合) 0コース: 5000ドル 1∼5コース: 12000ドル 6∼10ドル: 18000ドル 11∼20コース: 24000ドル 21∼40コース: 36000ドル 1 5 UT 1 5 キャンパス UTキャンパス 図2 UT テレキャンパスの運営費の流れ ンがなされるよう留意する. ・認可を受けた大学教官が,遠隔学習プログラム・ コースの監修を行う. ・通常の講義と同等の学問的水準となるよう,遠隔 学習プログラムおよび各コースを開発する. b.学生に対するサービス ・遠隔学習プログラムおよび各コースは明瞭かつ完 全なものとし,時代に即した内容を提供する. ・大学教官と学生の間で相互にコミュニケーション をとる. ・科学技術上の能力,技術的な能力と技能,学術的 な支援を行う. ・授業にかかる費用および授業料の支払い方針を示 す. ・遠隔学習プログラムを受講するための学力基準を 設け,学生が必要な知識と技能を持っているかど うか評価する. c.大学教官のサポート 大学教官に対し,ICTを用いた授業に必要なトレー ニングを行う.また,開発設備とソフトウェアを提 供する. d.学習のためのリソース 電子図書館など,学習環境を提供する. e.評価 成績,学生の履修率,学生および大学教官の満足 度,学生からの評価を含めて,遠隔学習プログラム および各コースの有効性を評価する.また,学生の 授業時間費が含まれている.具体的には,開発に関 わる教授の 1 セメスターあたりの時間数を 3 時間か ら 2 時間に減少し,その空いた 1 授業時間を遠隔学 習プログラムの開発時間とする.その開発時間に, UT テレキャンパス側が遠隔学習プログラムの開発 方法を大学教官に指導し,実際の開発を行うのであ る. 3. 遠隔学習プログラムの開発方法 UT システムは,ひとつの遠隔学習プログラムに 含まれるいくつかのコースを,複数の大学教官が平 行して開発する方法を採用している.質の高いプロ グラムを開発するため,まず,開発担当となる大学 教官に対してトレーニングを行う. トレーニングは, (1) 開発に関する基本方針,(2) コース開発のための 基礎知識,(3) コース設計,(4) コース開発,(5) コー スのチェックである.以下,各トレーニングで UT システムのカリキュラム・コーディネーターが教示 する開発上の留意点の概要を示す. (1) 開発に関する基本方針 UTテレキャンパスのカリキュラム・コーディネー ターが大学教官に対して示す遠隔学習プログラムの 開発基本方針は, 次のa∼eの5カテゴリーである. a.カリキュラムと授業 ・遠隔学習プログラムを構成する各コースに一貫性 を持たせる. ・大学教官と学生との間に適切なコミュニケーショ 34 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 ・導入ページをアナウンスに使う場合は,そのアナ ウンスが注目を集めるよう際立たせる. ・色やグラフィックスをうまく使う. b.大学教官の略歴 ・自分が誰なのか,遠隔講義を受講する学生に認識 させるため,提示したい情報を掲載する. ・できる限り写真を使う. ・必ずガイドラインに沿って,大学教官の連絡先を 載せる. c.シラバス ・学生がコースの内容を見ることができるように, そして,シラバスを読んだ人を記録できるように する. ・大学教官自身が考えるよりも,もっと多くの情報 を含ませる. ・時々自分自身で見直してみる. ・技術上の要求 (ブラウザのプラグイン) , 締切期限, 成績,および他の方針を明確に示すよう気をつけ る. d.予習問題の領域 ・用語集アイテムをはっきりと示すため, グラフィッ クス,色,メディアを使う. ・慣習にとらわれない方法で用語集を使う. ・カンファレンスについては, インタラクティビティ を考慮し,カラーグラフィックス,メディアを使 う. ・コースの構造に沿って,簡潔なアウトラインをつ くる. ・話題によって素材を構成する. ・意図された内容に常に正確に焦点を置くよう心が けながら,コーススクリプトを書く. ・コーススクリプトを短く, 簡潔でかつ論理的にペー ジに分割する. ・1 ページが本質的なまとまりを形成するようにテ キストを提供する. ・強調あるいは,デモンストレーションのためのメ ディアを加え,Webページに合った表現技術や設 計を利用する. (4) コース開発 表 2 に,コースアウトラインの例とコーススクリ プトの例を示す.オンライン・コースの開発におい て,UT テレキャンパスでは,次のように大学教官 に指示している. ・簡潔なアウトラインを作成する. ・後でスクリプトを書く際は,このアウトラインに 従う. ・アウトラインの番号は,内容的なまとまり,課題, コースのページとする. 達成度評価を行う. (2) コース開発のための基礎知識 UTテレキャンパスのカリキュラム・コーディネー ターが,大学教官に教授する基礎知識の概要を,次 のa∼cの 3 カテゴリーに示す. a.インタラクティビィティ ・ 「すること(doing)」を通して学ぶのが,学生にとっ て最も効果的である. ・インタラクティビィティは,遠距離からコースに 参加している学生の疎外感を軽減する. ・実際の 3 つの状況(教師とのインタラクション, コース内容でのインタラクション,他の学生との インタラクション) において, インタラクティビィ ティが重要となる. ・学生は,クラスへの帰属意識を必要とする. ・集団での学習は,教育の成功につながる. ・コンピュータを通じた学習における負の感情的要 素(例えば,孤独,挫折を感じること)を回避で きる. ・他の学生と社会的に関連をもつことは, 1 つの動 機づけとなる. ・他の学生とのインタラクションだけでは,有益な 教育経験を得ることはできない. ・インタラクションは,学習環境の幅広い文脈の中 で行われ,そして,すべての学識経験に関係して いなければならない. b.コンピュータ・カンファレンス コンピュータ・カンファレンス環境での講義の特 徴は,25 項目ある.表1に,コンピュータ・カンファ レンス環境での講義の特徴 25 項目を示す. c.著作権 著作権チュートリアルでは,著作権をもつ素材の 所有権がどのように機能するか,どう使用すれば公 正であるのか,いつ,どのようにして,他の誰かの 教材を使う許可を得るのか,といった点について解 説する.大学教官は,著作権に関する知識を習得す るため,全 12 問からなるテストを受け,すべてに正 答しなくてはならない.大学教官はいつでもテスト を受けられる.また,テストを受け直してもよい. (3) コース設計 大学教官は,(1)と(2)を踏まえて,実際の開発過程 に入る.UT テレキャンパスのカリキュラム・コー ディネーターは,コース設計およびデザインに関し て,次のa∼cの 3 カテゴリーについて指導してい る. a.導入ページ ・学生が見る最初のページは, 有益な情報を提示し, 人目を引くデザインとし, 文章は短く簡潔に書く. 35 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 表 1 コンピュータ・ カンファレンス環境での講義の特徴 25 項目 コンピュータ・カンファレンスの特徴 有効性と利便性 学生のモチベーション 効果的な講義配信 学習の改良状況 学習成果の 評価 1. 学習者が異なるコースを取っていたとしても,同じ学生集団と日程調整をすることが 可能である.性別,経歴,教育等に関してバランスがとれたグループを構成すること ができる. 2. 時間を効率的に使うことができる.出席をとる必要はない.言葉,もしくは社会的な 要因による注意散漫を抑制することができる.授業に遅れてくる学習者を待つ必要は ない. 3. 異なる建物,異なる都市にいても,学習者は共に学習することができる. 4. 教授者は従来と同様に授業を行うことができる.小集団共同学習のための環境として カンファレンスを使うことができる. 5. コンピュータ・カンファレンスは,その他の“ハイテク”教授アプローチと比較する と,ソフトウェア,ハードウェアおよび指導にかかる費用が少ない.スタッフも小人 数ですむ. 6. 学習環境は,学習者が中心である. 7. 学習者は,情報を用いて創造的な活動をすることができる. 8. グループ活動やパーソナル・インタラクション,クラスメートの存在は,学習者の動 機づけとなる. 9. 内気で控えめな学習者は,動機づけられたり励まされることによって発言するように なる. 10. 焦る必要がなく,プレッシャーも少ないため,学習者の満足度はあがる.学習者自 身の最も都合のいいときに,学習者自身のペースで取り組むことができる. 11. 学習者は匿名で授業に参加することができる. 12. 学習者は,クラスメートの学習活動や洞察力から学ぶことができる.学習者は,成 績のランク付けの公平さを確認でき,なぜ他の学習者が自分より良い成績を得るのか 理解することができる. 13. 異なる教示方略や学習スタイルなどを能力に合わせて調整できる. 14. 学習者は,よくまとめられた学習内容を共有することができる. 15. コンピュータを用いることで,教授者は,学習者の活動状況を容易に把握すること ができる.学習者は,コンピュータの教材をインタラクティブに使用することが可能 である. 16. 学習者と教授者は,学習と解説の記録をすべて保存できる.この記録は,コンピュー タで検索することができる.後に復習したり,研究したり,更新したりすることが可 能である. 17. コンピュータ・カンファレンスを行うソフトウェアは,共同学習環境を構築する. そこでは学習者が相互に学ぶのを助けあい,教授者が授業を行っているのと同様に チュートリアルを行うことができる. 18. 学習者は,クリティカルに読解したり,記述したりする方法を学ぶことができる. 19. 学習者は,自らのコミュニケーション・スキルを向上させ, “クラスメート”の学習 活動に応答していく.これらを通して学習者は明瞭な思考を行うようになる. 20. 学習者には,クラスメートとの対話で相互に作用する前に,問題を熟考するための 十分な時間がある.研究したり,熟考したり,事実や概念の統合のための時間がある. 21. 学ぶのが遅い学習者であっても考えるのに十分な時間がある. 22. 学習者と教授者は,従来の教示環境と比較して学習をより焦点化することが可能で ある. 23. 各学習者の注意散漫を最小限に抑えることができる. 24. 各学習者の理解度を知ることができる.各学習者は,学んだことを明瞭に説明でき なければならない. 25. 学習者が研究に参加できる水準に達しているかどうかを判断することができる.成 績が一定の水準に達しない学習者を集団の中から見つけ出すことは容易である. また, その学習者への指導方針を明確に示すことができる. 36 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 表2 コース・ アウトラインとスクリプトの例 コース・ アウトラインの例 Ⅰ.テレキャンパスの歴史と目標 A. サービス B. スタッフ−連絡 C. UT テレキャンパススタッフとの連携 Ⅱ.チュートリアルの記述 A. 目的 B. 意図された視聴者 C. 事業計画の配信 D. チュートリアル・ナビゲート E. 会議 F. 技術的な要求 G. コースの著者 Ⅲ.教育的な設計出版 A. 教育目標の確認 B. 資源評価 1. 現存する材料の再検討 2. インターネット資源の探究 3. コース要素の話し合い C. コース設計 D. コース開発 E. コース履行 コース・ スクリプトの例 ---Page Break--●教育目標の確認 ●評価 評価は目的に準じて行う. 予測される結果を熟考し計画を立てる. ・定義 ・教育目標 ・教育対象 ---Page Break--●評価は,学習を効果的に行うため,予測さ れる結果を熟考し,計画を立てる必要が ある. ・どんな学習目標を評価するのか? 知識の獲得,行動のスキル向上 人間性の価値や姿勢 ・誰が評価するのか? 学生,クラスメート,教師? ・どのような評価方略を用いるのか? 形成的か?(学習の間にフィードバッ ク行うこと) ,統括的か?(授業終了時 の学習測定) ・成績は,基準を参照してなされたか? 評価基準が制定されているか? ・評価は,知識・ スキルの範囲をテストして いるか? ・どのようにして評価の信頼性を保証する か? ---Page Break--●対象は,測定可能な学生行動に関して評価 されるべきである. 1.知識のデモンストレーション (再現事実) 2.理解のデモンストレーション (再現事実) 3.知識の適用 (規則,方法,理論を新しい状況に適 用) 4.情報分析 (事実,仮説のステートメントを区別 する) 5.情報合成 (新しい方法でアイディアを集める) 6.議論の評価 (理論の力およびその無力さを確認す る) 37 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 表3 分 類 全 体 コースのチェックリスト チ ェック項 目 □著者ガイドを完読した. □CE からの承認を得るため,また,学部長に概要を説明するため, 基準となる考え方を確立した. 導 入 □コースの概観と表現を確立した. □短い文章を心がけた. シラバス □週単位のスケジュールとした. □聴講者(学生)を想定して作成した. □終了時間を考慮した. □前提(必須)条件を考慮した. □学力レベルは適切である. □方針を示した. □コースの目的を示した. □コースの対象を示した. □授業者の経歴を示した. □コースのアウトラインを示した. □補足資料を掲載した. □カンファレンスの指示をした. □ナビゲーションを記述した. □プラグインと技術的な要求を示した. テスト・ 試問・ □試問 インタラクティビィティ □質問を作成した. □解答を作成した. □ディストラクタ(誤った選択肢)を作成した. □正答を作成した. □ページナンバーを記述した. □レッスンの熟達度テスト □質問を作成した. □解答を作成した. □ディストラクタを作成した. □再試を許可するのか,しないのかを示した. □テストで時間制限を設けた. □復習させるか,させないのかを示した. □テスト得点の比重を明示した. □出席得点を考慮するか否かを明示した. □授業への参加参入を考慮するか示した. □インタラクティビィティ □テレキャンパスのスタッフの支援を要請した. □プレテストを実施する場合 □質問を作成した. □解答を作成した. □ディストラクタを作成した. □各課題のつながりを考慮した. □復習させるか,させないかを示した. コースコンテンツ □モジュール □導入ページを完成させた. 38 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 語彙集 □課題 □導入ページを完成させた. □ページ □ページ番号をつけた. □ページ分割は適切である. □グラフィック,映像のアイディアが取り入れられている. □技術的なグラフィックス,表のダウンロード,PDF ファイルにつ いて, □学生がダウンロードするテキストファイルを前もって 用意した. □ダウンロードするドキュメントに関する学生への指示を 明記した. □テストでのページの移動やコメントを明記した. □カンファレンスでのページの移動やコメントを明記した. □テレキャンパスのサイトディレクトリにない資料には,URL の 設定をした. □賞賛のためのページを用意した. □自習用ページを用意した. □語句と定義を示した. □コースページにおける位置を明確に示した. □コースの終わりに参照ページを設定した. 参考資料 (関係書目録) 参考資料 □テレキャンパス外の Web サイトへの URL 集を作成した. (他サイトへのリンク) □サイトの要約の記述を掲載した. カンファレンス □ページの移動を明示した. □コース・カンファレンス・ルーム:テレキャンパス・スタッフと □同期的カンファレンスでのスケジュールを確立した. □授業参加の指標を作成した. □非同期的カンファレンスでの筋道を確認した. □個人的ではなく,かつ丁寧な質問を用意した. 学習目標 □学習目標を確立した. □学習目標にあったテスト問題か確認した. □学習目標にあったページか確認した. ・意図した内容を正確に伝えるようにする. ・全ての割当,テスト,活動の詳細を確認する. ・自己評価のための質問を作る. ・電子掲示板を討論に使用する. ・学習を, マルチメディア, Shockwave アプリケーショ ンで補強する. (5) コースのチェック 表 3 に,コースのチェックリストを示す.UT テレ キャンパスでは, よりよいコース設計と開発のために, 詳細なチェックリストが作成されている.リストは, コース全体,導入部,シラバス,テスト・試問・イン タラクティビィティ,コースコンテンツ,語彙集,参 考資料(関係書目録) ,参考資料(他のサイトへのリン ク),カンファレンス,学習目標のそれぞれについて詳 細な確認を行うものである. 以上,質の高いプログラムを開発するために,UT システムのカリキュラム・コーディネーターが行うト レーニングの概要を示した.大学教官は,これらのト レーニングを受けた後に, カリキュラム・コーディネー ターの指導と技術的なサポートを受けながら,実際に 遠隔学習コースの開発を行う.トレーニング開始から コース開発終了までに,約 9 ヶ月間を費やす. 5.UT テレキャンパスの将来構想 現在,世界中の大学生および社会人が,UT テレキャ ンパスのプログラムを受講し,修士号を取得すること が可能となっている.テキサス大学副総長 Mario J. Gonzalez 博士は,UT テレキャンパスの将来構想につ いて次のように述べた. 「UTテレキャンパスで学ぶ遠 39 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 そして,次の 3 点が明らかになった. (1) UTシステムは, UTテレキャンパスの構築に対し, 約 5 憶円の資金を投資していた. (2) UT システムは,開発担当となった大学教官の授業 時間を削減し,その大学教官に対してトレーニン グを行っている. (3) 質の高い遠隔学習プログラムを開発するため,カ リキュラム・コーディネーターは,大学教官に対 して,遠隔学習プログラム・コースの開発に関す る基本方針,コース開発のための基礎知識,コー ス設計,コース開発,コースのチェックについて のトレーニングを行っている. 今回の調査は短期間であったため,開発方法につい ては, コース開発における留意点とカリキュラム・コー ディネーターの指導内容を示すにとどまった.プログ ラム全体の統括的な開発過程については,さらに長期 的な調査を行い,明らかにする必要がある.また,他 大学の遠隔学習コースの開発方法に関する調査を行い, 実際にコースを受講した学習者の視点から,遠隔学習 プログラムの開発方法を検討していく必要がある. 隔学習者が増えるよう,修士号を取得できる遠隔学習 プログラムを充実させていく.他の国の大学がロイヤ リティを支払い,テキサス大学のプログラムを使って 教育を行うこともできる.」 一方,UT テレキャンパス長 Darcy W. Hardy 博士は 次のように述べた. 「テキサス州は大きく, どこにでも 大学があるわけではない.仕事を持つ人々は容易に大 学に来ることができない.UT テレキャンパスという システムを使って,すべての人に教育を受ける機会を 与えたい.」 以上のことから,テキサス大学が,遠隔学習プログ ラムの開発と教育への利用を,大学の経営上の方針と して推進していることがわかる.また,日本の 2 倍の 面積を持つテキサス州の社会人を対象としていること から,遠隔学習環境の構築は,生涯学習の一環として の教育機会の提供であると捉えることができる. Ⅲ.考 察 テキサス大学が,多額の資金を投入して遠隔学習プ ログラムおよびコースを開発していることは既に述べ た.このことは,UT テレキャンパスには社会的ニー ズがあり,長期的な展望に立てば投資に見合うだけの 収入を得られる,と UT システムが予測していること を示している.遠隔学習プログラムおよびコースは, デジタルコンテンツとして蓄積や改変が容易であるた め,結果的にコストの削減につながるからであろう. 一方で, UT テレキャンパスは,遠隔学習プログラ ムを質の高いコースによって構成し,学生へのサービ スを充実させている.多くの遠隔学習プログラムがイ ンターネット上で提供されている米国の現状では,テ キサス大学は他大学との厳しい競争的環境に置かれて いることは否めない.そのために,UT システムは, 大学教官に対してトレーニングを行い,コースの一貫 性,学習内容の充実,学習者とのインタラクティビィ ティの重視を徹底させているのであろう.遠隔学習プ ログラムの開発において重要なことは,教育工学にお ける教授デザインに関する研究,コンピュータを介し たコミュニケーションに関する研究などを基盤とし, 大学教官自信が設計・開発していくことであるといえ る. 謝辞 米国滞在中は,テキサス大学オースティン校機械工 学部 Billy V. Koen 教授の支援を受けた.また,テキサ ス大学副総長 Mario J. Gonzalez 博士と UT テレキャン パス長 Darcy W. Hardy 博士,UT システムの Lori McNabb 女史には, 多数の資料を提供していただいた. この紙面を借りてお礼を述べたい. 注記 本調査は, 平成11年度文部省科学研究費補助金 〔基 盤研究 (B) (1) 〕 (課題番号 11480031, 研究代表者 鳴 門教育大学 木村捨雄 教授)の援助を受けた. 引用文献 Ⅳ.まとめ 本研究では,米国テキサス大学(University of Texas) を訪れ,UT テレキャンパスと呼ばれるバーチャル・ ユニバーシティの構築にかかる費用と,遠隔学習プロ グラムおよびコースの開発方法について調査を行った. 40 Harry, K. (1999) Higher Education through Open and Distance Learning, Routledge, pp.1-298 日本教育工学会編(2000) 教育工学事典,実務出版, pp.430-431 Palloff, R. M., Pratt, K. (1999) Building Learning Communities in Cyberspace – Effective Strategies for the Online Classroom -, Jossey-Bass Publishers, pp.3-20 Peterson’s (2000) Guide to Distance Learning Programs, pp.9-24 Porter, L. (1997) Creating The Virtual Classroom, John 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 15,31-37,2000 Wiley & Sons, Inc. (小西 正恵(1999) インター ネットによる遠隔学習,海文堂出版,pp.1-200) 鈴木 克夫(1999) 二つの遠隔教育−通信教育から遠 隔教育への概念的連続性と不連続性について−, メディア教育研究,No.3,pp.1-12 (2000 年 9 月 4 日受理) 41