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【教育】-行政機関

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【教育】-行政機関
【教育】-行政機関
NSW 州教育コミュニティ省
NSW DEC:Department of Education and Communities
【訪問日】
1
2008年~2012年
豪州における教育制度
豪州では、州政府が教育を所管している。しかし、近年は、連邦政府も教育への関与
を強めており、条件付きの補助金を設ける傾向がみられる。教育内容が州ごとに異なる
ため、現在、全国共通のカリキュラムを採用する動きが広がっている。他の州ではすで
に採用したところもあるが、人口の密集した NSW では導入に時間がかかることもあり、
未だ採用には至っていない。2014 年からは当該共通カリキュラムを採択する予定とな
っている。
車で最寄りの街まで 4 時間かかる土地に住んでいる家庭もあるため通信教育も進ん
でおり、必要な各種設備も無償で提供されている。
同省が提供する教育内容としては School Education、TAFE(Technical And Further
Education;専門的な補修教育を受ける職業訓練学校など)があるほか、転職者などに
専門分野の講座を提供する ACE(Adult and Community Education College)もある。
2
NSW州における教育制度
(1)NSW州教育コミュニティ省(DEC)の概要
NSW州教育コミュニティ省(以下DEC)はボ
ード・オブ・スタディーズ(公立・私立学校のカ
リキュラム作成等を担う部局)、インステテュー
ト・オブ・ティーチャーズ(教員の登録認定を担
う部局)と共に教育大臣の直轄組織であり公立
校・私立校を所管する。
オーストラリア全土の9.5%の面積に全人口
の34%が居住しているNSW州は州内を地方自治体の区域とは異なる10地域に分
けて地域教育事務所を設置し教育施策を展開している。DECでは大学を除く4つのカ
テゴリーの教育部門を管轄し、学校数2,238校、生徒数742,000人、教員
数55,000人以上、職業訓練校(TAFE)は学校数130校、生徒数500,00
0人以上、スタッフ数20,000人以上の規模となる。(2011年11月現在)
(2)地域教育事務所
州内の10区域単位で設置されている地域教育事務所には各地域教育事務所長の
1
もとに、複数の学校教育部長とコンサルタントチームが配置されている。学校教育部
長は州全体で78名おり、一人平均28校を担当し、学校長と連携して学校運営に関
する助言を行ったり、学校の課題を洗い出したり、地域の関係者との良好な関係を構
築するなどの役割を担う。コンサルタントチームは、校長、教員に対してカリキュラ
ムなど専門的な助言指導を提供する。
(3)通信教育
広大な国土を持つオーストラリアでは、最寄りの学校に通うため4時間以上もかか
るような生徒が存在し、100年以上前から郵便による通信教育を実施していた。近
年では地方に通信教育センターが設置され、衛星通信のテレビ会議システムを使った
通信教育が行われ、現在およそ600~700人の生徒が通信教育を受けている。化
学実験、体育、芸術など特殊な環境が必要な授業も、実験教材やDVDを送るなどして
通常の授業と同じ教育を受けることができるよう工夫される。これらの経費は州が負
担しており、居住地の違いによる負担の格差を生まないよう配慮されている。
(4)NSW州における学校制度
小学校と中等教育学校の区分等については以下の通り。
Primary(小学校)
Secondary(中等教育学校)
Year12
HSC(Higher School Certificate)
Year11
Year10
School Certificate
Year9
NAPLAN test
Year8
Year7
NAPLAN test
Year6
Year5
NAPLAN test
Year4
Year3
NAPLAN test
Year2
Year1
Kindergarden
Pre-School
5~6 歳児
3~5 歳(幼稚園) ・・・正式な学校ではない
NSW州では約4歳で日本の幼稚園にあたるPre-Schoolに入ることができ、5歳で
Kindergardenに入学する。このKindergardenからYear6までが日本の小学校に相当する。
小学校では英語、数学、科学技術、人間社会とその環境(地理、歴史、英語以外の言語
2
など)
、芸術・技術、保健体育の6つの学習分野があり、1教師(担任)が1クラスの授
業全てを受け持つ。
(外国語、科学については専門の教師が入る場合もある。
)
中等教育学校では小学校の学習分野に、英語以外の言語、技術・応用科学を加えた8つ
の学習分野があり、各分野専門の教師が教える。中等教育学校では学年が高くなると必
修科目が減り、選択科目が増え、11~12年生では職業訓練コースを選択することも
可能となる。
義務教育期間中、全州規模の読み書きおよび数学評価プログラム(NAPLAN)による
試験がYear3、5、7、9で実施される。この試験は生徒をランク付けすることが目的
ではなく、教師や保護者に対し、生徒は何ができて、どんなサポートが必要なのかを知
らせることが主な目的となる。
小学校終了時には特別な試験はなく、それまでの履修成績に問題なければそのまま中
等教育学校へ進学することができる。中等教育校のYear10、12では、ボード・オブ・
スタディーズの作成する州統一試験が実施される。成績は試験結果と宿題提出などによ
る学内評価が半々の割合で考慮され、総合評価で決まる。Year12で受験する統一試験
(HSC)の結果に基づく総合評価により、進学できる大学が決まることとなる。
中等教育学校では、小学校の学習分野に、英語以外の言語、技術・応用科学を加えた
8 つの学習分野がある。各分野について、専門の教師が教える。Year7~8 では、8 分野
すべてを履修しなくてはならないが、Year9~10 では上位 4 分野は必須で残り 4 分野か
ら 2~3 分野を選択することができ、専門性を深めることができる。Year11~12 では、
必須分野は英語のみで残りの 7 分野から 4~5 分野を選択することができる。これによ
り、専門性をさらに深く掘り下げるか、それとも広く浅く学ぶかを、生徒自らが選ぶこ
とが可能になっている。
試験問題はすべて英語表記のみであるが、多文化をバックグラウンドとして持つ生徒
への配慮としては、HSC を 5 年間にわたって受験できることがあげられる。このため、
英語力の高くない生徒は、一度に数分野ずつ集中して受験することができる。この制度
を利用して受験時期を早めれば、飛び級も可能になる。
中等教育学校の年齢相当でも、英語力が中級以上の生徒は、普通学級の中で ESL のサ
ポートを受けることとなる。移民の子どもがどの学年に入るかは、ESL スケールブック
を用いた英語能力評価と、母語での学力に応じて、総合的に判断される。多くの場合で、
年齢相当の学年に入り、ESL のサポートを受けることとなる。
3
NSW州における多文化教育プログラム
(1)文化の多様性とその背景
オーストラリアでは5人のうち1人が外国生まれであり、4人のうちに1人が家庭
では英語以外の言語を話し、言語的・文化的に極めて多様な国である。NSW州では
742,000人の公立学校の生徒がおり224,794人(29.7%)が英語以
3
外の言語をバックグランドとして持っている。42,847人(5.8%)はアボリ
ジニまたはトーレス海峡島民である。また136,000人(18%)の生徒が第2
言語として英語サポートが必要であり、更に5,400人は難民、2,400人は留
学生である。毎年6,500-7,500人の新規移民でESLが必要な生徒を受け入
れている。(2011年11月現在)教育現場ではこれらの生徒を支援する中で英語
を学ぶ生徒を次の定義で分類している。
《LBOTE生徒=Language Background other than English》
英語以外の言語をバックグラウンドとして持ち、自分も自宅で英語以外を話す、ある
いは自宅で保護者が英語以外を話す家庭の生徒。オーストラリアにおける学校の多様
性の指標と考えられるが、LBOTE生徒は必ずしも他の生徒に比べて不利な立場では
なく、複数の言語が話せるというメリットも持っている。
《ESL生徒=English as a Second language》
LBOTE生徒の中でも、第2言語として英語を学ぶためのサポートが必要な生徒。
※LBOTE生徒でもESL生徒以外の多くの生徒はオーストラリア生まれで、英語も上
手に話せる生徒。
家庭で使われている言語は180カ国250言語を超えるが、多いのは中国語(広東
語、北京語等)18%、アラビア語12.9%、ベトナム語6.7%、ギリシャ語4.1%、
ヒンズー語3.9%など。
(2)多文化教育プログラムの考え方
教育区域である10地域の中でもLBOTE生徒の割合は大きく異なり、各地域のプログ
ラムは大きく異なる。LBOTE生徒が多い地域は異文化理解を深めることに力を入れてい
る。
ESLは英語以外をバックグラウンドとする、もしくは英語を第2言語以上の言語とす
る生徒を対象としている。生徒が学ぶ上で障害となる要素を排除することが大切であり、
英語が障害であるならばESLで教え、学校教育を受けていない難民の子どもに対しては
読み書き能力をサポートすることも必要であるとの認識に立ち、生徒が全面的に参加で
き、成功を味わうことができるようにプログラムを工夫している。
入国後、小学生は小学校内でESL教師からサポートを受けることができる。ESLプロ
グラムには1,400名の教員が対応している。
一方、中等教育校の年齢相当で英語初級レベルの生徒は、集中英語センターで 3~5 学期
にわたって英語を学習した後、普通学級へ入学する。この集中英語センターは、州内に 15
ヵ所あり、統一的なカリキュラムで英語を教えている。
中等教育学校の年齢相当でも、英語力が中級以上の生徒は、普通学級の中で ESL のサポー
トを受けることとなる。 移民の子どもがどの学年に入るかは、ESL スケールブックを用い
た英語能力評価と、母語での学力に応じて、総合的に判断される。多くの場合で、年齢相
当の学年に入り、ESL のサポートを受けることとなる。
4
多文化教育や人種差別防止教育は、移民の子どものみを対象とするものではなく、全て
の学校、生徒に適用される。多文化教育によって恩恵を受けるのは、一人ひとりの生徒す
べてである。オーストラリアの信条や政策を他国(クラスメートのルーツとなる国など)
と比較する学習を行うことにより、オーストラリアを学ぶことにも繋がっている。
政府が注力する①文化の多様性とコミュニティ関係政策、②人種差別防止政策といった政
策と考え方は学校の指導の中でも反映されている。
(3)多文化教育における学校の役割
多文化教育や人種差別防止教育は、全ての生徒に適用すべきものであるとの考えのも
と、以下のポイントを挙げ多文化教育を実施している。
・どのような文化や言語のバックグラウンドを持つ生徒であれ、全ての生徒にオースト
ラリア人というアイデンティティを持たせること。
・オーストラリアの民主主義及び多文化社会について教えること。
・オーストラリア人としての権利と義務を教えること。
・学生が持てる力を発揮できるようプログラムを進めること。
・英語以外の言語をバックグラウンドとして持つ学生も参加できるよう努めること。
また、学校が担う多文化教育の重点分野は次のとおりである。
①文化の理解とコミュニティの調和
異文化への固定観念や人種差別の撤廃を目的として、学校内において生徒の異文化交
流を行うプログラム。
②人種差別防止教育
全ての学校にコンタクトオフィサーを任命し、苦情を聞き取り問題を解決する。
③ESL 教育
第2言語としての英語教育のサポート
④難民サポートプログラム
ほとんど英語が話せない生徒への集中英語教育や教員向けの教育を実施
⑤保護者及びコミュニティとのパートナーシップ
学校と保護者やコミュニティとの関係を深めるよう取り組んでいる。
⑥通訳・翻訳サービス
英語がわからない保護者のために通訳・翻訳サービスを提供。翻訳では40の言語に
対応可能。
多文化教育や人種差別防止教育は、移民の子どものみを対象とするものではなく、全
ての学校、生徒に適用される。多文化教育によって恩恵を受けるのは、一人ひとりの生
徒すべてである。オーストラリアの信条や政策を他国(クラスメートのルーツとなる国
など)と比較する学習を行うことにより、オーストラリアを学ぶことにも繋がっている。
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多文化主義において学校の果たす役割として挙げられるものは次のとおりである。
・ オーストラリア人のアイデンティティを明確にする。
・ オーストラリアにおける民主主義を伝える。
・ オーストラリアの民主主義における権利・義務を理解できるようサポートする。
・ コミュニティにおける調和を推進する。
・ 人種差別に対し、決定的な態度で対応する。
・ 包括的な学習環境を提供する。
オーストラリア人であるというアイデンティティを育むことは非常に重要である。外
国籍のまま在籍している生徒に対しても同様に、オーストラリア人としてのアイデンテ
ィティを育む教育を行っているが、オーストラリア人としての価値観を教えることは多
様な文化について理解を深めることに繋がり、仮に母国に帰国した場合にも有益である。
また、すべての生徒に「(オーストラリアに、州に、コミュニティに、学校に)所属し
ているのだ」という意識を与えることも大切である。
人種差別防止教育は、いかなる人も差別を経験してはならないとする考えに基づいて
いる。教師への研修プログラムでは、人種差別は個人へのいじめではなく、文化、家族、
人種へのいじめであることを強く教えている。人種差別は、学校での教育により抑制可
能なものである。文化、言語、宗教の差を、認識するに留めず、その差に対する理解を
深めることが重要である。
(2)多文化主義教育の歴史
1969 年から子供の移民を対象としたプログラムをはじめている。1979 年には多文化
主義教育についての政策方針を打ち出しているが、その際の内容は生徒への影響が十分
に反映されたものではなかった。具体的には、人種差別を経験した生徒にはアイデンテ
ィティが確立されず、成績にも悪影響を及ぼしていたことなどが挙げられる。2005 年に
はインドネシアでの爆破テロなどの動きを受け、共生の観点に基づき「文化多様性とコ
ミュニティ関係についての政策方針:学校での多文化主義教育」を策定し、平和的に多
様な見解を理解・表現する必要性を訴えている。また、同年、反人種差別の政策方針(’92
の政策の改訂)も策定している。
4.質疑応答、意見交換等
Q 多文化主義教育は教育政策の中で、どのような位置づけをされているか。
A 多文化主義教育とアカデミックな教育は、車の両輪として行う必要がある。そのカリキ
ュラムについては、専門家と常に意見交換をしながら最先端の手法を取り入れ、質の高
い教育を継続的に行うことを考えている。
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Q 移民が入国してから、就学するまでの手続きの流れを教えてほしい。
A 移民を学校へ行かせるまでの手続きとしては、難民と永住者の場合で異なる。難民の場
合は、連邦政府がスポンサーとして国に受け入れる。連邦政府がオリエンテーションを
行う。ケースマネージャーが対応し、教育制度などについても説明する。永住者の場合
は、ビザ取得時に連邦政府より説明し、教育研修省のサイトを紹介される。教育研修省
のホームページには、学校へ入れるために何をすべきかが、43 言語で示されている。
Q ウェブにアクセスできない人々はどうするのか。
A 学校側でアクセスサポートを行っている。また、公立図書館等でも見ることは可能。
【文責】2008 年
財団法人愛知県国際交流協会 伊藤 雅彦
財団法人自治体国際協会 須磨
珠樹
2009年
名古屋市国際交流課 平野
2010年
ひろしま国際センター 秋元
2011年
山形県川西町産業振興課 神尾 亜希之
2012年
佐賀県 新産業・基礎科学課 田島 誠
喜子
秀樹
※本文の内容は、2012 年にシドニー事務所川上所長補佐が、2013 年に平澤所
長補佐がまとめたもの。
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