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No.29 平成27年 7月 1日号

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No.29 平成27年 7月 1日号
多様な価値観を
私事ですが、教員と平行して行っていたサッカーの指導で、一番の悔やんでも悔やみきれない思い出
があります。25歳から指導を始めて、ちょうど5~6年が経過した頃でした。子どもたちには、私の
理想とするサッカーの戦術やスタイルを叩き込み、結果も相まって、私自身が指導者として得意の絶頂
にいました。当時の子どもたちは、小学校を卒業後も順調に成長し、中学校でも全国大会で活躍してい
ましたから、将来を楽しみにしていました。メンバーの数人はさらに高いレベルを目指して、強豪校と
言われる高校に半ばスカウトされて入学しました。しかし、2年生になった頃から大きな問題に直面す
ることになりました。それは、彼らが当時の高校の監督の意向に沿ったサッカーをしようとしないとい
うものでした。監督の指示するサッカーの戦術やスタイルを受け入れようとせず、挙げ句の果てには、
「そ
んなサッカーをやるくらいなら辞めた方がいい」と退部届を出してしまったのです。
子どもたちとも話をしましたが、結局は彼らのイメージする理想のサッカーが強すぎて、監督から示
された勝利を目指すためのサッカーを受け入れることができなかったのが原因だとわかりました。類い
希な才能を持ち、将来を嘱望されていた彼らが、こういった形でサッカーから離れていったことに、大
きなショックを受けました。
私はそれまで子どもたちに、
「一番にやっていて楽しい、二番に観ている者も楽しい、そして三番目に
試合に勝つサッカー」を指し示してきました。しかし当時の高校サッカーは、
「チャンピオンスポーツ」
として、先ずは勝つことが最優先されていた時代でした。大きくボールを蹴って、走って走って・・・
彼らのイメージにはそういったサッカー観は全くなかったわけです。
どうして、このような結果になったのか。この一件を契機に、私自身の指導法を振り返ってみました。
高校の先生ともいろいろ話をしました。そして行き着いたところは、私のサッカー観の方向性の間違い
でなく、指導の間違いであったことに気がつきました。つまり、自身の価値観を一方的に押しつけるの
ではなく、子どもたちには、将来にわたって様々な価値観を受け入れる、柔軟な心と頭を育てることが
できていなかったということでした。
子どもたちはこれから成長していく中で、いろいろな人との出会いを繰り返していきます。意気投合
できる関係が築ければ最高ですが、時には苦手なタイプの人や、これまで経験したことがないタイプの
人との出会いに直面することもあるでしょう。けれども自身の受け入れの窓口を狭くしてしまうことで、
新たな可能性を秘めた出会いをシャットアウトすることは実にもったいないことです。
「これからいろい
ろな指導者に出会うだろうけど、これまで取り組んできたサッカーがすべてじゃないんだぞ。新しい指
導者のスタイルを素直に受け入れるのもサッカーの技術の一つだぞ。
」そう指導しておいたら・・・今で
も後悔の念は全く消えていません。
校長
五十嵐 信博
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