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(部門別原稿、協力者氏名、奥付、裏表紙) [PDFファイル
総 則 1 研究のテーマとねらい 教育課程研究会研究推進委員会総則部門(以下「総則部門」 )では、平成 26 年度、組織的な授業改善の推進 に係る研究3年目として、研究テーマを「組織的な授業改善の推進に向けた、校内授業研究の評価(注)と分析に 係る手法についての研究」とし、組織的な授業改善の推進に向けて次年度以降より有効な校内授業研究の実施 を図るために「評価」及び「分析」をより効果的に行っていく手法について追究することとした。研究テーマ の背景については以下のとおりである。 高等学校学習指導要領解説総則編(以下「解説」 )では、高等学校学習指導要領(以下「学習指導要領」 )第 1章第5款の5の(6) 「指導体制の確立及び個に応じた指導の充実」について、次のように示されている。 高等学校段階においては、生徒の特性、進路等が非常に多様化しており、生徒一人一人を尊重し、個性を生かす教育の 充実を図るためには、指導方法や指導体制を工夫改善し、個に応じた指導の充実を図ることが必要である。 個に応じた指導のための指導方法や指導体制については、学校や生徒の実態に応じ、学校や教師が自らその工夫改善に 取り組むことが大切である。今回の改訂においては、従来から示されている個別指導やグループ別指導等といった学習形 態の導入、教師の協力的な指導、生徒の学習内容の習熟の程度等に応じた弾力的な学級の編成に加え、繰り返し指導を新 たに挙げている。教師の協力的な指導については、具体例としては、ティーム・ティーチング、合同授業などの実際の指 導場面におけるもののほか、指導案の作成、教材・教具の開発、共同研究や研修などが考えられる。 (下線は高校教育指導課) 「 『解説』第3章 教育課程の編成及び実施」より ここに述べられているように、学習指導要領に示された新しい学力観に基づき、多様化する生徒の個々の能 力を最大限伸ばしていくためには、教員一人ひとりが培ってきた指導方法に工夫改善を加えながら、教員間で 協力して指導に当たることが必要不可欠である。このような組織的な授業改善の推進に向けて、平成 24 年度総 則部門では、高等学校における校内授業研究をより効果的に実施するために、研究テーマ設定の手法や研究協 議会の在り方を研究した。また、平成 25 年度は、特に単元(題材)を見通した授業づくりに係る手法につい て研究した。 組織的な授業改善の推進に向けて、RPDCA サイクルを踏まえたより効果的な校内授業研究の実践が求められて きた( 「組織的な授業改善に向けて」平成 24 年3月神奈川県教育委員会)が、言うまでもなく、校内授業研究 における「Check(評価) 」 (以下「C」 )と「Action(改善) 」 (以下「A」 )なしに授業を改善することはできない。 したがって、これらが十分に行われていなければ、生徒の「確かな学力」を育むために本来重要であるはずの 日々の授業づくりにおいて、真の「組織的な授業改善」が行われていないということになり、組織的な授業改 善を今後継続していくことも難しくなる。平成 26 年度総則部門では、学校における「C」及び「A」の実施状況 を把握し、課題を明らかにするとともに、その解決に向けた手法を提案する。 (注) 評価:一般的には「教育評価」の略であり、「児童・生徒の学習や行動の発達を教育の目標に照らして測り、判定すること」 (小学館「精選版日本国語大辞典」)とされるが、校内授業研究においては、「授業づくりや研究活動の評価」( 「組織的な授 業改善に向けて」平成 24 年3月神奈川県教育委員会)をいう。本研究における「評価」は後者と定義する。 2 校内授業研究の「C」及び「A」について (1)RPDCA サイクルについて 組織的な授業改善の実践において、RPDCA サイクルを踏まえたより効果的な校内授業研究が必要であることに ついては、すでに述べたとおりである。すなわち、 R(Research、調査) 「学校の実態と課題を把握する」 →P(Plan、計画) 「テーマを設定し研究の計画を立てる」 →D(Do、実施) 「授業づくりに取り組む」 →C(Check、評価) 「授業のよいところや課題を考える」 →A(Action、改善) 「よりよい授業を考える」 という RPDCA サイクルを学校全体で意識的かつ繰り返し行うことにより、授業改善への取組の一層の充実が期 待される。ここで特に重要な点は、RPDCA サイクルは1回のサイクルで終了するのではなく、 「Do(実施) 」から 分かる改善点を整理して今後の授業づくりにつなげるとともに、学校全体で「育みたい生徒像」の再確認や、 「身 に付けさせたい力」を再設定し、その実現のための手立てを必要に応じて軌道修正することにより、図1のイ メージのようにスパイラル(らせん状)に繰り返し行う、ということである。よって、どのように「C」及び「A」 に組織的に取り組んでいくかを検討することが、授業改善の取組を次の段階へとつなげていく上で重要な鍵と なっていくのである。 図1 スパイラルな授業改善の取組のイメージ 育みたい生徒像 身に付けさせたい力の再設定 RPDCA サイクル 身に付けさせたい力 (2)RPDCA サイクルの様々なスパン(期間)における「C」について RPDCA サイクルの設定期間は、図2に示すように、3年間を見通した長いスパンから日々の授業という短いス パンまで、様々なスパンが考えられる。様々なスパンに応じた効果的な方法を用いて「C」を行い分析すること により、 「A」につなげることができる。この後に「C」の方法の例を挙げる。 図2 授業改善の RPDCA サイクル 【RPDCA サイクルの様々なスパンにおける「C」の方法】 ア 3年間を通したスパンにおける「Check(評価) 」 ・学校における「求める生徒像・育みたい生徒像」を実現するための学校教育目標を見据え、生徒が入学から卒業まで の3年間でどの程度成長したかを評価できるような、振り返りアンケート調査の実施と分析 ・学習状況調査や実力模擬試験、教科共通問題等による3年間の学力定着度の把握と分析 ・進路決定に向けた生徒の意識・行動調査と分析 ・学校評価と分析 イ 1年間のスパンにおける「C」 (校内授業研究や教育活動全般について) ・目標に準拠した評価・観点別学習状況の評価から読み取れるデータの分析 ・ 「生徒による授業評価」の実施と分析 ・公開研究授業の事後研究協議会における振り返りと分析 ・実力模擬試験、定期テスト等による1年間の学力定着度の把握と分析 ウ 単元のスパンにおける「C」 ・教科会や研究協議会における振り返りと分析 ・定期テスト結果、小テスト結果、ワークシート、成果物、生徒の振り返り等から読み取れる内容の分析 ・授業観察用チェックシート エ 日々の授業1単位時間のスパンにおける「C」 (注)ミニッツペーパー : 毎回の授業時に配付し、生徒に授 ・ワークシート、成果物、ミニッツペーパー等(注) 業のポイントや疑問点、理解度、評価等を記入するも ・生徒の活動状況、生徒の声等 の。 本研究のテーマは「組織的な授業改善の推進」であることから、次章では、特にその検証の手段として有効 と考えられる「生徒による授業評価」 、 「研究協議会における振り返り、分析」等が各学校で実際にどのように 行われているか、現状を把握する。 3 「校内授業研究の検証や分析に係る調査」及び「『生徒による授業評価』についてのアンケート」の結果と分析 組織的な授業改善の推進に向けた校内授業研究の評価と分析に係る現状を把握するために、平成 26 年度総則 部門の研究推進委員が所属する7校の教員と生徒を対象に、次のア、イ2種類の調査を行った。 (1)調査内容と結果 ア「校内授業研究の検証や分析に係る調査」について ①趣旨:各学校における組織的な授業改善に向けた校内研究の課題と現状を調査する。 ②時期:平成 26 年 10 月 31 日(金)∼11 月 14 日(金) ③方法:調査票への回答方式(調査票の掲載は省略) ④対象:研究推進委員(総則部門)の所属校7校の教員(各学校 10 名) ⑤結果: 「校内授業研究の検証や分析に係る調査」集計結果参照(表1) 表1 「校内授業研究の検証や分析に係る調査」集計結果 質問項目 (1) 自分自身の授業を振り 返り、改善しています か。 問1 校内授業 研究の RPDCA サ イクルに おける 「C」と 「A」につ いて (2) 「C」と「A」をどのよ うな時に意識していま すか。 【複数回答可】 (3) 「C」において、何を意 識しますか。 【複数回答可】 (4) どのような方法で「C」 を行っていますか。 【複数回答可】 (1) 「生徒による授業評 価」を授業改善に活用 していますか。 問2 「生徒に よる授業 評価」に ついて (2) 「生徒による授業評 価」の集計・分析結果 をどのように活用して いますか。 【複数回答可】 (3) 「生徒による授業評 価」を活用することが 難しい理由は何です か。 【複数回答可】 問3 事後研究協議会 について (1) あなたは、研究授業後 の事後研究協議会での 協議を授業改善につな げられていますか。 1 2 3 4 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 回答項目 回答率 常にしている することが多い あまりしていない 全くしていない 1回の授業が終わり、次の授業の指導計画を立てるとき 1単元が終わり、次の単元計画をたてるとき 定期テストを作成するとき 定期テストが終わったとき 1年間の教育課程が終わり、次年度の年間指導計画を立てるとき 3年間の教育課程が終わったとき 生徒に知識・技能を身に付けさせることができたか 生徒の思考力・判断力・表現力を育成できたか 主体的に学習に取り組む態度を身に付けさせることができたか 学校目標や「育みたい生徒像」は実現できたか その他 授業における生徒の学習状況の観察 生徒から提出された材料(レポート、ノート、ワークシート、作品等) 授業後に独自で行う生徒へのアンケートや、生徒からの意見 定期テストの結果 「生徒による授業評価」 授業観察後の他の教員からの意見 教科会での協議 研究授業後の事後研究協議会 その他の方法 必ず活用している (2)へ どちらかというと活用している どちらかというと活用していない (3)へ 全く活用していない 学校で共有している 教科・科目で共有している 個人的に活用している 生徒に還元している 保護者や地域に還元している その他 質問項目(※)について改善が必要と考えられるため 生徒が適切に評価していると言い難いため 生徒の回答時間に制限がありデータとしての信頼性に欠けるため 生徒へのフィードバックを行っていないため 集計や分析が煩雑であるため 活用方法が分からないため その他 必ず活用している どちらかというと活用している どちらかというと活用していない 全く活用していない 10.6% 74.2% 12.1% 1.5% 62.5% 55.4% 12.5% 32.1% 37.5% 3.6% 82.1% 60.7% 67.9% 8.9% 1.8% 92.9% 73.2% 16.1% 80.4% 28.6% 21.4% 5.4% 5.4% 3.6% 13.6% 43.9% 37.9% 4.5% 42.1% 50.0% 84.2% 28.9% 7.9% 0.0% 25.0% 67.9% 21.4% 14.3% 3.6% 7.1% 14.3% 18.2% 63.6% 10.6% 6.1% 問3 事後研究 協議会に ついて (2) 研究授業後の事後研究 協議会では、どのよう な点について協議を行 いますか。 【複数回答可】 1 2 3 4 5 6 7 研究授業を行った教師の授業スキルについて 当該授業の展開について 思考力・判断力・表現力を育成する言語活動について 生徒の様子について 単元を通して身に付けさせたい力が付いたかどうかについて 学校目標や育みたい生徒像の実現につながっているかどうかについて その他 37.0% 75.9% 55.6% 59.3% 42.6% 14.8% 11.1% ※「生徒による授業評価」の質問項目(大項目・中項目) 大項目 中項目 授業内容 「授業の準備、教材の工夫」 、 「授業の充実感」 、 「授業の進め方」 指導方法 「生徒主体の授業の工夫」 、 「説明の分かりやすさ」 、 「生徒への接し方」 自分自身の取組状況 「学習への取組」 、 「態度・姿勢」 イ「 『生徒による授業評価』についてのアンケート」について ①趣旨: 「生徒による授業評価」についての生徒の意識を調査する。 ②時期:平成 26 年 10 月 31 日(金)∼11 月 14 日(金) ③方法:調査票への回答方式(調査票の掲載は省略) ④対象:研究推進委員(総則部門)の所属校7校の生徒(各学校2クラス程度) ⑤結果: 「 『生徒による授業評価』についてのアンケート」集計結果参照(図3) 図3 「 『生徒による授業評価』についてのアンケート」 問1 「生徒による授業評価」は教師の 問2 約 50% 41.5% 60.0% 50.0% 48.4% 約 50% 50.0% 40.0% 31.5% 19.4% 20.0% 26.4% 10.0% 30.0% 14.9% 10.1% 0.0% ② ③ そう思う まあそう思う どちらかといえばそうは思わない そう思わない 20.0% 19.2% 13.5% 10.0% 10.0% 0.0% 21.2% 30.0% 20.0% 7.9% 43.8% 40.0% 40.0% 30.0% ① ② ③ ④ て、最も大きなものは何だと思いますか。 会となっていると思いますか。 ますか。 ① 「生徒による授業評価」の問題点とし 問3 習に対する取り組み方を見つめ直す機 授業改善に生かされていると思い 50.0% 「生徒による授業評価」は自分の学 ① ④ ① ② ③ ④ ② ③ そう思う まあそう思う どちらかといえばそうは思わない そう思わない ④ 0.0% ① ① ② ③ ④ ② ③ ④ 記述した内容に対する教員の説明がない 質問にきちんと答える時間がない 質問項目に問題を感じる その他 (2)現状の分析 表1及び図3の調査結果から、各学校における現状を次のように分析した。 ① 調査ア問1より、8割以上の教員が「自分自身の授業を振り返り改善している」と回答し、特に、毎回の 授業や単元ごとに「C」 ・ 「A」を意識していると回答した教員が 55%∼60%強を占めた。一方で、 「C」にお いて最も意識する項目は「知識・技能を身に付けさせることができたか」 (82.1%)であり、 「思考力・判断 力・表現力」 、 「主体的に学習に取り組む態度」も 60%を超え「学力の三要素」への意識は感じられるもの の、 「学校目標や『育みたい生徒像』は実現できたか」といった学校全体の目標につなげる意識を持つ教員 は1割に満たなかった。 「C」の方法について、 「授業における生徒の学習状況の観察」 、 「定期テスト」と回答した教員がそれぞ れ 92.9%、80.4%であった。 「学習状況の観察」 、レポート等「生徒から提出された資料」を含む様々な評 価機会の中で、やはり「定期テスト」の位置付けが大きいことがわかる。 ② 調査ア問2より、 「生徒による授業評価」 を授業改善に活用していると回答した教員が5割以上を占めた。 しかし、 「生徒による授業評価」の集計・分析結果を「個人的に活用している」と回答した教員が8割を超 え、 「生徒に還元している」と回答した教員は3割に満たなかった。一方、調査イ問1より、 「生徒による授 業評価」が教師の授業改善に生かされていると考えている生徒は約5割であり、 「自分自身の学習に対する 取り組み方を見つめ直す機会となっていると思いますか」 という問いかけに対しては半数以上が 「そう思う」 「まあそう思う」と答えた。 また、半数近くの生徒が、 「記述した内容に対する教員の説明がない」 (43.8%)と答えていることから、 生徒へのフィードバックを通した授業改善の推進についても、今後検討していく必要があると思われる。 ③ 調査ア問3より、研究授業後の事後研究協議会について、協議が授業改善につながっているかどうかの 問いかけに対して「必ず活用している」 、 「どちらかというと活用している」と回答した教員が8割を超え た。ただし、(2)より、 「当該授業の展開」や「生徒の様子」 、 「言語活動」といった視点で協議が行われて おり(いずれも 55%∼76%) 、 「学校目標や育みたい生徒像の実現につながっているかどうかについて」の 視点は 14.8%と低く、校内授業研究が「学校の目標や育みたい生徒像」とつながっていない現状があるこ とが分かった。 (3)課題及び改善の方向性 (2)の分析結果より、学力の三要素への意識は定着しつつあり、日々の授業、単元、1年間の校内授業研 究を通して、自分自身の授業を振り返り改善しようとする教員の努力は伺えるものの、学校としての「育みた い生徒像」や生徒の「身に付けさせたい力」の共通理解が得られていない傾向がある。よって、本研究では次 の2つの事例を示し、改善策を提案したい。 〈改善に向けた2つの事例と1つの方向性〉 ① 「生徒による授業評価」を活用した振り返りの手法(→4、5) ② 「身に付けさせたい力」の育成に向けた「C」と「A」の取組事例(→6) ③ 「共通テスト」を軸とした校内授業研究サイクルのイメージ(→7) 4 「生徒による授業評価」を活用した振り返りの手法(ミニッツペーパー) 「生徒による授業評価」の質問項目を抽出し、授業直後に行う「ミニッツペーパー」に活用することにより、 生徒による適切な評価を促すとともに、速やかに課題を発見して次の授業に反映させ、生徒に還元することが できる。A 高校では、次のような方法を実践した。 (1)A 高校の事例 A 高校では、1学期に実施した「生徒による授業評価」の分析結果より、中項目「授業の充実感」の評価がど の教科においても低かったため、本年度の研究テーマを「生徒が『わかる』授業づくり」として校内授業研究 を行った。 『わかる』とは、 「知識・理解」のみを指すのではなく、生徒が主体的に考え、学び合い等を通して、 気付くことを指している。よって、身に付けさせたい力は「主体的に考え、気付く力」である。 このことを踏まえ、比較的短いスパンで身に付けさせたい力が身に付いたかを見取るために、大項目1つに つき、中項目から適切な評価項目を1つずつ選んで毎授業後にアンケートを実施することにした。 表2 「生徒による授業評価」の質問項目(大項目・中項目) 大項目 教師の指導に関する評価 生徒自身の学習態度に関する評価 中項目 授業内容 「授業の準備、教材の工夫」 、「授業の充実感」、 「授業の進め方」 指導方法 「生徒主体の授業の工夫」 、 「説明の分かりやすさ」 、 「生徒への接し方」 自分自身の取組状況 「学習への取組」、 「態度・姿勢」 表2から、 「生徒による授業評価」の中項目の「授業の充実感」及び「学習への取組」に絞り評価項目を次の ①、②のように設定し、 「生徒による授業評価」の共通小項目の文例の文頭に「今回の…」を加えた。回答項目 は「4 かなり当てはまる」 、 「3 ほぼ当てはまる」 、 「2 あまり当てはまらない」 、 「1 ほとんど当てはまらな い」の4段階とした。 【 「生徒による授業評価」を活用したミニッツペーパー】 *今日の授業を振り返って、該当する番号に○をつけてください。 (4:かなり当てはまる 3:ほぼ当てはまる 2:あまり当てはまらない 1:ほとんど当てはまらない) ① 私は、今回の授業で学習した内容がだいたい理解できている。 4 3 2 1 ② 私は、今回の授業で分からないところがあったら、先生や友達に聞い たり、自分で調べたりするなどして分かろうとする努力をしている。 4 3 2 1 この形式で、第2学年、科目「家庭総合(4)生活の科学と環境 ア食生活の科学と文化」の1時間目終了後、 あるクラスで授業評価を実施したところ、次のような結果が得られた。 図4 ミニッツペーパーによる授業評価の結果 かなり当てはまる 質問① ほぼ当てはまる 質問② あまり当てはまらない 0% 20% 40% 60% 80% 100% ほとんど当てはまらない ①の「授業の充実感」については、 「かなり当てはまる」 、 「ほぼ当てはまる」といった肯定的な意見の生徒が 計 100%であることから、授業の内容が理解できたと考えていることが分かった。さらに、②の「学習への取組」 についても 90%を超えた。本時ではグループで話合いや調べ学習を行ったが、②によって生徒自身に自分の学 習への取組を振り返らせることができた。 「生徒への授業評価」は、年2回のアンケートにより総括的に評価して長期的な授業改善を行うだけでなく、 このように質問項目を絞り、内容を工夫することによって、短期間のサイクルで授業改善を繰り返し行うこと ができることが分かった。 (3) 記述式の評価方法の検討 (2)の手法は手軽に気負わず行えるが、具体的な生徒の声を知ることができないという課題があるため、 生徒に速やかに還元することができ、生徒の真意を把握しやすい授業評価の方法を検討した。そこで、 「ミニッ ツペーパー」に次の質問内容の自由記述欄を追加することとした。 【ミニッツペーパー(追加分) 】 ③今回の授業であなたが大事だと思ったこと、学んだことは何ですか。 ④今回の授業で、疑問に残ったこと、分かりにくかったことがあれば記入してください。 これらを追加して授業の最後に記入させたところ、次のような回答が得られた。 【③への回答】 ○今まで五大栄養素を気にせず食べていたが、今回をきっかけに考えて食べていきたい。 ○普段何気なく食べているものでも役割がある。同じ栄養素ばかり摂っていたから、バランスを考えて食べ る。 ○生きていく中で「食」というのは大事だと改めて思った。体に必要な栄養素について学んだので、もっと (バランスを)考えた食事をしていきたい。 ○一つひとつの食べ物に関心を持ち、どのような栄養素が入っているのかを調べることが大事だと思った。 【④への回答】 ○どの食べ物に一番栄養があるのか、栄養の摂り過ぎはよくないのか、どのくらいの量がベストなのか、と ても気になった。 ○食べ物を加熱するとどのような影響が出るのか、疑問に思った。 これらの回答から、生徒に、 「身に付けさせたい力」である「主体的に考える」という資質・能力の変容が見 られた。また、研究テーマの「生徒が『わかる』授業づくり」という点において、 「生徒は何が分かり何が分か らないのか」を明らかにすることができた。よって、生徒から寄せられた疑問へのフィードバックを含めて単 元の指導と計画を修正することができた。 記述式の評価をさせることは「身に付けさせたい力」が身に付いたのかを見取る方法の一つとして活用でき ることが分かった。各授業後だけでなく、単元の終了時など様々な場面で活用することが考えられる。記述式 の評価は、数値による集計と比較して、より短時間で目視により確認することができるため、教科担当者同士 で情報を共有し、即座に次の授業時に生徒へ還元できる。課題としては、生徒が記入する時間に差があり、短 時間で記入させることが難しいという点が挙げられる。ミニッツペーパーは生徒にとっても授業の「振り返り」 ができるため、授業の観点や内容によって質問の仕方を工夫したり、ワークシート等の工夫をすることにより、 更に改善できるだろう。生徒が記述した内容や授業の様子を教科担当者同士で話し合うことは、小さな一歩で はあるが、組織的な授業改善の推進につながる。今後は教科会を通して、単元の指導と評価の計画や年間指導 計画を作成する際などに役立つよう、更に工夫を重ねたい。 5 「生徒による授業評価」の年間計画 3(2)②で示したとおり、教員へのアンケート及び生徒へのアンケートの結果から、 「生徒による授業評価」 を確実に授業改善に生かすために、教員から生徒への還元を十分に行い、生徒に「生徒による授業評価」の意 義をしっかり理解させる必要があることが分かった。 表3は B 高校の「生徒による授業評価」に係る年間計画の例である。このように、年間計画を立て、 「生徒に 対して改善策等について説明する」 (9月∼10 月)ことを徹底し、 「生徒による授業評価」をなぜ実施するのか、 またどのような計画で進められるのかを明確にして、各教科等での共通理解を図った上で、生徒への説明を丁 寧に行うことにより、生徒に授業評価の意味をより深く理解させるとともに、 「生徒による授業評価」を授業改 善に生かしていくことができると考えられる。 表3 B 高校の年間計画例 時 期 4月 4月 4月∼ 6月 6月 7月 取 組 年間指導計 画の作成 年間指導計 画の提示 趣旨説明 準備 校内研修 第1回 評価実施 8∼9月 分析 9∼10 月 検討 生徒への 説明 9∼10 月 内 容 教科ごとに年間指導計画を作成し1つにまとめる。 年間指導計画、評価規準、履修上の留意点などについての説明を行い、当該授 業のねらいや学習の進め方について理解を図る。 「生徒による授業評価」実施について生徒・保護者・学校評議員等に周知する。 第1回「生徒による授業評価」実施に向けて準備し、教職員へ周知する。 教科会を実施する。 第1回「生徒による授業評価」を実施する。 評価項目を集計する。 集計結果の分析を行い校長に報告する。把握した課題の解決に向けた研究授 業・校内研修等を計画する。 課題解決に向けた検討を行う。 生徒に対して改善策を説明する。 第1回「生徒による授業評価」の集計・分析結果・課題をホームページ上に公 表する。 *11 月以降、改善策等について検討を重ね、第2回「生徒による授業評価」を実施する。 9∼10 月 公表 担 当 各教科 担当グループ 各教科 担当グループ 担当グループ 各教科 各教科 担当グループ 担当グループ 各教科 教科担当 担当グループ 6 「身に付けさせたい力」の育成に向けた「C」と「A」の取組事例(チェックシートと模擬授業) C 高校では、学校全体における授業改善の取組の核となる若手中心の「プロジェクトチーム」を立ち上げ、研 究授業の企画立案を行った。研究授業を通して「身に付けさせたい力」を育成しているかどうかについて評価・ 分析を行うために、教員が共通の視点を持つような「チェックシート」をチームで作成し、研究協議会での協議 内容などを検討、実践した。 (1)チェックシートの作成 C 高校では、 「身に付けさせたい力」として「基礎的な力」 、 「考える力」 、 「発展的に活用する力」を掲げてい る。特に言語活動などを通じて「考える力」を向上させることを学習目標としており、この目標を学校全体で共 有し、達成するために、授業のポイントとなる項目をまとめたチェックシートが、図5「FJ シート」である。 シートには「協同的な学び」 、 「構造化(注1)」 、 「ユニバーサルデザイン(注2)化」という3点の項目を設定し た。これらは、 「考える力」を育むために必要なキーワードとして、外部有識者からの助言等により定めたもの である。 「協同的な学び」とは、個々の生徒ではなく、複数の生徒での学び合いにより「考える力」を深めるも のであり、C 高校では「考える力」を身に付けさせるために、授業で生徒に「共同的な学び」を実現できる言語 活動に取り組ませることを重視している。その際のポイントとして、学びを取り入れる際「場面設定は適切であ るか」 、その活動に「 『考える力』を伸ばすための妥当性はあるか」等の視点を取り上げ、チェック項目とした。 「構造化」のチェック項目では、1 単元(題材)の構成において、どこで 興味関心を持たせるか、どこで「協同 的な学び」を行うかなどを意識した上 で、単元のストーリーを構築する際の 項目を設けている。1授業時間におけ る授業の構成についても同様に、流れ にめりはりを付け、どこで何をするか などの1授業時間のストーリーを構築 する際の項目を設けている。 また「ユニバーサルデザイン化」の チェック項目としては、教室の整備な どの環境づくりが配慮されているか、 学習者全員が達成感を得られる工夫が なされているかなどを確認できる項目 を設定している。 作成したシートをすべての教員が使 用することを通じて、C 高校の学習目標 を共有できると考えた。 図5 FJ シート (注1) 構造化:「分かりやすい環境を用意するだ けではなく、活動の流れをつかみ、関連性を把握 しやすい環境を作ること」 。 「時間の構造化」 、 「物 理的な構造化」 、 「活動の構造化」等。 (独立行政法 人国立特殊教育総合研究所「知的障害養護学校の 先生のための自閉症教育ガイドブック」より抜粋) 。 ここでは、その単元(題材)や1授業時間の流れ や見通しを明確にすることで、学習者にとって授 業の展開を分かりやすく、取り組みやすくするこ ととした。 (注2) ユニバーサルデザイン: 「神奈川県ユニバ ーサルデザイン推進指針」では「人がもつそれぞ れの違いを超えて、あらゆる人が利用できるよう にはじめから考えてデザインする」という概念。 ここでは特に授業において、 「全員の子どもが楽し く『わかる・できる』ように工夫・配慮された授 業デザイン」 (授業のユニバーサルデザイン研究会 ホームページより抜粋)とした。 (2)チェックシートを用いた模擬授業の例 C 高校では研究授業を2回行い、それぞれの研究授業において FJ シートを活用した。まず授業者が FJ シート の重点項目にチェックを入れ、研究授業後、それを全体に配付し、チェックの入っている項目が授業でどのよう に扱われたかを全体の研究協議会で協議する、という形をとった。 さらに、それぞれの研究授業の際、授業者の指導案と教材(ワークシートなど)を他の教員とともに検討する ために、教科に限定せず様々な教科の教員で構成されている「サポートチーム」を立ち上げた。サポートチーム のメンバーは、研究授業を行う前に、学習者の視点で学習指導案やワークシートを見て意見を述べる。その際、 FJ シートを用いて、本時はどういった目的でどの項目に重点を置く授業かなどについて、授業者と共有し検討を する。サポートチームから出された意見は教科会等でも再検討され、実際に研究授業を行った後、研究協議会に おいて全体の教員で協議を行う。 このように、プロジェクトチームが中心となり研究授業を企画し、授業者とサポートチームが一緒になって研 究授業を計画し、最後に全体で協議を行うというサイクルで組織的な授業改善に取り組んだが、1回目の研究授 業を終えて、様々な課題が見えてきた。例えば、 「実際に授業で使うワークシートについて、他教科の教員で構 成されたサポートチームでは、教科の専門性があるため内容が分からない」 、 「FJ シートのチェック項目の意味が 教師役 分からない」 、 「FJ シートの活用方法が分からない」 、 「研究授業までのサポートチームの会議を行うための時間が 取れない」等であった。 そこで、授業づくりの視点をより明確にできるように、2回 図6 教員向け模擬授業の様子 目の研究授業に向けてプロジェクトチームで再検討し、授業者 が研究授業で見てほしい点(例えば、提示する題材の工夫、協 同的な学習の場面での発問や指示の出し方、グループの設定の 仕方など)に絞ってサポートチームの教員向け(教員が生徒役) の「模擬授業」を行うこととした(図6参照) 。その後サポー トチームのメンバーから意見を出してもらい、それらの意見を 反映させて研究授業を行うこととした。この方法により、実際 の研究授業でより効果的に「身に付けさせたい力」を身に付け させる方法が検討できると考えたのである。実際に行ったとこ ろ、様々な視点からの意見が出され、それらを研究授業に生か すことができた。 このように、研究協議会に至る過程を見直し教員向けの「模擬授業」を行うことにより、教員が学習者の視点 に立って意見を述べられるため、より的確な指摘となり、授業改善につなげることができた。また FJ シートを 利用することで、授業の視点が明確になり、研究協議会における協議がしやすくなるといったメリットがあった。 一方で、依然として課題は残っている。研究授業前にサポートチームでの打合せを行う時間を取ることが難し く、研究授業の内容を深めることができなかった。また、FJ シートについても、項目の内容をより分かりやすく して、個々の教員が日頃から FJ シートを活用できるようにする必要がある。さらに、教科を超えて高め合って いけるような協議会を行う必要があるなど、組織的な授業改善の推進に向けて更なる工夫と意識の変化が必要で ある。 生徒役 生徒役 生徒役 7 教師による共通認識 ∼「共通テスト」∼ 授業改善のための取組は当然のことながら年間を通して行われなければならない。そのためには教員間で絶 えず授業研究の成果と課題を共有しておくことが必要となる。前章3(1)アの調査(問1)で 80%以上の教 員が「定期テスト」を授業評価の手段としている。目標としている力を生徒に身に付けさせることが授業の目 的であることを考えれば当然のことである。したがって、定期テストを含め学校で実施されるすべてのテスト とその評価をどのように校内授業研究に位置付けていくかは重要な視点である。ここでは、 「共通テスト」を軸 とした校内授業研究サイクルについて考える。 (1) 「共通テスト」の意義とメリット 教員同士の共通理解のためには、各単元において共通の目標を持つことが前提となる。単元目標の達成度を 見取り、課題を把握し改善の手立てを検討するためにも、 「共通テスト」は必要である。その「共通テスト」を 授業改善の前提とし、教職員の同僚性を構築して協働体制を作り上げていくことが大切である。 (2) 「共通テスト」を前提とした授業 「共通テスト」を授業改善の前提に位置付けることで、研究協議の分析結果を共有することが可能になる。 すなわち、 「共通テスト」=授業改善という図式である。これにより、成果や課題についての共通理解を基に授 業を行うことができ、担当者間で認識のぶれがなくなる。さらに、クラスが異なっても生徒が学ぶ内容に大き な差異が生じなくなり、公平さが保たれる。また、当然教科担当者間の打合せが必要となり、日常的に組織的 な研究協議が行われるため、授業の質の向上や各教員のスキルアップにもつながる。 「共通テスト」を定期テス トに限らず発表活動など様々な評価機会に適用することにより、 「テスト範囲は授業で扱った部分」というよう な、記憶の再生に偏った評価方法ではなく、 「身に付けさせたい力」が身に付けられたかどうかという視点で評 価することができる。 図7は、 「共通テスト」を軸とした授業サイクルのイメージである。 「共通テスト」においても、素案→精査 →実施→課題共有というサイクルを通して、常に具体的な目標との関連を図りながら、改善を繰り返していく ことが必要である。 図7 「共通テスト」を軸とした校内授業研究サイクルのイメージ ◆Do (実施)◆ ◆Plan (計画)◆ ○学校目標との関連性確認 ○Plan に沿った授業展開 ○具体的な「目標」の設定 ○「目標」の確認 ○「評価規準」と「共通テスト」 の素案作成 ・教科・学年を超えた検討 ・授業計画の作成 ・ 「共通テスト」作成会議 ◆Action (改善)◆ ○授業改善案の作成と共通理解 ○「目標」や「評価規準」の修正 ○次段階に向けた改善案提示 ○「共通テスト」の課題を踏まえた 改善 ・研究協議会 ・担当者間での反省会 ・ 「共通テスト」の改善案提示 教 科 会 の 充 実 ○授業計画の練り上げ ○模擬授業の実施と活用を通し た公開授業の実施 ○「共通テスト」の実施 ・授業方法、進度等の日常的な検討 ・模擬授業のフィードバック ・ 「共通テスト」作成会議 ◆Check (評価)◆ ○授業の評価 ○「目標」の達成度確認 ○公開授業の検証 ○「共通テスト」実施における課 題抽出 ・ 「生徒による授業評価」の活用 ・公開授業のフィードバック ・ 「共通テスト」の結果の詳細分析 8 まとめ ∼「協働」をキーワードに校内授業研究を継続する∼ 総則部門では今年度、次年度への継続性という観点から、RPDCA サイクルの「C(評価)」と「A(改善)」の充実を重要 課題とし、組織的な授業改善の推進に向けた校内授業研究の評価と分析に係る手法について研究してきた。アンケー ト調査の分析により、個々の教員による日々の授業の振り返りや改善への努力は伺えたものの、学校としての「育みた い生徒像」や生徒の「身に付けさせたい力」に対する意識の共有化にはまだ課題があることが明らかになった。また、 「生徒による授業評価」を十分に生かし切れているとは言い難い状況も伺えた。よって、本研究では「『生徒による授業 評価』を活用した振り返りの手法」として、効果的にミニッツペーパー等を用いて既存の手段に工夫を加え、授業の評 価・改善を図った事例(4章)、「『身に付けさせたい力』の育成に向けた『C』と『A』の取組事例」として、チェックシートや 模擬授業を用いて組織的に評価・改善を図った事例(5章)を示した。これらはいずれも、授業の改善同様、必要に応じ て見直し、検討し、より改善された形で次の実践がなされている点が重要である。また、「共通テスト」によって教員の共 通理解を図り、これを軸に校内授業研究を継続していくことを提案した。 残念ながら、アンケートからは、「業務の多忙化により授業改善に割く時間的な余裕がない」という声も聞こえた。しか し、組織的に授業改善に取り組むことで、必然的に教材や指導法を共有することになり、それによって教材研究を深め られるとともに、教員が個々に教材づくりに割く時間を短縮できる。何より生徒の成長につながることが教員にとって一 番の喜びであろう。「協働」の意識で臨むことが大切である。 3年間にわたり組織的な授業改善の推進に向けた取組に係る様々な手法を提案してきたが、これらが各学校の組織 的な授業改善の推進に少しでも役立てられれば幸いである。 校内授業研究を実践し、組織として RPDCA サイクルを充実させていくためには、土台となるシステムを構築すること が極めて重要である。そのためには全教員が授業改善に対する共通理解を持ち、ビジョンを共有した上での「協働」の 体制を維持できるような、学校組織マネジメントが不可欠である。今後も継続的に授業改善に取り組んでいくためには、 校長のリーダーシップの下、プロジェクトチーム、教科・科目担当者、授業研究担当者、各教員が連携を図り、必要に応 じて外部機関を活用しながら、授業改善の結果を生徒にスムーズに還元できるようなシステムを各学校で構築すること が求められるのではないだろうか。 国 語 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向 けての方策」 「効果的な言語活動を含めた単元の授業づくり及び授業実践に関する評価・分析・改善のた めの授業観察シートの開発」 (2)研究のねらい 校内研修や公開研究授業における授業観察及び研究協議に際して、観察した本時の授業に関す る事柄だけでなく、単元としての授業計画・実践という視点から評価や分析を行い、組織的に授 業の改善を推進していくための一つの手法として、授業案と関連させながら観察・評価シートを 開発し、その効果的な活用方法を探る。 2.研究で取り組んできた内容 単元の組立てから実践・評価・改善までの過程全般を、組織的取組のモデルという視点に基づき、 協議・検討した。研究のテーマを踏まえ、授業づくりと授業の評価・分析という二つの柱を持った上 で授業実践を行った。授業の評価・分析については、検討の方向性を明確にし、改善へとつなげるた めの「授業観察シート」を作成した。 3.研究のねらいを達成するための手立て 本研究の場を一つの組織と捉え、単元の授業づくりから評価・分析までを一貫して行うことで、学 校における授業改善の方策を探った。研究では、「一回の授業の公開」に向けた取組の検討ではなく、 単元としてのまとまり全体を捉えた上で学校の実状に基づく単元目標を設定し、その目標を実現する ための単元の授業づくりを行った。 「授業観察シート」は評価の項目を、単元の計画にあたる「授業デザイン」と実践にあたる「授業 展開」に大別した。「授業デザイン」では、教科を越えて観察者全員が記入できるよう、生徒の実態 に応じた共通性の高い評価項目を設定するのと同時に、さらに国語科の教員が単元の目標や単元構成 について記入できるように配慮した。また、授業者から観察者へ観察のポイントを記入する欄を設け ることで、授業を見る視点を明確にし、事後の評価の足がかりとした。それに加えて、生徒の単元の 感想等も資料とする「生徒用シート」により、多面的な評価・分析を行えるようにした。 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例 枕草子 (1)研究実施校:神奈川県立逗葉高等学校(全日制) (2)学校の課題: 「古典は難しくて分からない」「古典文法は苦手」と感じている生徒が多い。板書を写したり、 辞書を引いたり、指示に従って授業に取り組むことはできるが、古文の内容を主体的に読み取っ て理解することは難しい生徒もいる。古典の内容を身近に感じさせ、主体的に学習に取り組む態 度を育成することが課題である。 (3)実施校における授業研究のテーマ: ○ 生徒の学習への関心・意欲を高め、確かな学力の向上と定着を図る。(生徒主体の活動的・体 験的な学びの要素を取り入れる。生徒のコミュニケーション能力の育成。) ○外部との連携を図りながら、授業改善を行う。(公開授業の実施、近隣中学校等との授業交流を 増やす。) (4)科目:国語総合 学年:1年 (5)単元名:随筆の楽しみ(『枕草子』にくきもの) (6)単元で身に付けさせたい力: 自らの体験と比較することで、現代との共通点や相違点を見付けながら古語の本質的な意味 を理解する力。 (7)単元のねらい: 文章を読み現代との共通点や相違点を見付けながら、古語の意味を理解するとともに、文章 に描かれた作者の思いを読み味わう。 (8)学習指導における具体の評価規準 関心・意欲・態度 読む能力 知識・理解 文章に描かれた昔の人の思いを表現に即して読み味わおうとしている。 文章に描かれた昔の人の思いを表現に即して読み味わっている。 語句の意味用法を的確に理解している。 (9)単元の指導・評価計画(公開研究授業は「第3次」) 単元の指導・評価計画 (全4時間) 学習活動・学習内容 時 次 指導のねらい 評価の 観点 評価規準 評価方法 ad e 1 1 ・作者作品について理解する。 ・ 扱 う 教 材 の 概 要に つ いて ・全文を音読する。 大まかにつかませる。 ・重要語句の意味を辞書で調べる。 ・ 古 語 辞 典 に 慣 れさ せ ると ともに、語句の意味を理 語句の意味、 作品の概要に ついて理解し ◎ ている。 (ワークシ ート点検) 文章に描かれ た思いを読み 取っている。 文章に描かれ た思いを読み 味 わ っ て い る。 (ワークシ ート点検) 文章に描かれ た昔の人の思 いを読み味わ おうとしてい る。 (ワークシ ートの分 析) 解させる。 2 2 ・前時で調べた語句の意味を基に各 自現代語訳を完成させる。 ・ 文 章 に 描 か れ た思 い を読 み取らせる。 3 3 ・前時の訳を基に作者のにくきもの とその理由をまとめる。 ・ 作 者 の 思 い を まと め させ 理解させる。 ・グループで「にくし」の意味を考 える。 ◎ ・ 「 に く し 」 の 意味 を 現代 ◎ と比較して考えさせる。 4 4 ・前時の「にくし」の意味をもとに ・ 自 分 た ち の 経 験を 同 じよ 自分の「にくきもの」を三つあげ うな文章にすることで、 その理由を書く。 読みを深める。 ◎ ○ ・お互いに読み合う。 ※ a:関心・意欲・態度 d:読む能力 (ワークシ ート確認・ 行動の観 察) e:知識・理解 (10)取組事例 ①実施日:平成26年10月9日(木) 授業担当者:松本 久美 教諭 ②授業クラス:国語総合 35名 ③本時のねらい: ・作者の思いをまとめさせ理解させる。 ・「にくし」の意味を現代と比較して考えさせる。 ④本時の指導内容 学習活動・学習内容 教師の指導と留意点 ・前時の学習内容の確認。 ・前時の現代語訳を記入したプリントを返 ・本時の学習内容の把握。 ・本時はその訳を基に内容を整理し、「に 却する。 評価規準及び努力を要す る(C)と判断される生徒へ の手立て 【読】 文章に描かれ た思いを読み 味わっている。 くし」の意味を考えることを確認する。 (手立て) ・各自訳をもとに作者のにくきものと その理由をプリントにまとめる。 ・グループでの作業手順や流れを伝える。 グループ内の 活動を通じて ・ある程度記入できたら答え合わせ。 分からない部 分の理解を促 す。 ・内容を整理してまとめたものを見て 「にくし」の意味をグループで考え る。 ・それぞれに意見を出させ、グループで一 つにまとめる。 ・意味は現代の言葉に置き換えたら何にな るかということで考えさせる。 (手立て) 問いのねらい について補足 説明を行い、 検討するべき 点を整理させる。 ・各グループで考えた意味とそう考え ・他グループの書いた内容を自分の用紙に た理由を用紙に記入し、黒板に掲示 書きとめて、自分のグループのものと比 各グループか ら出された内 する。 較させる。 容についてそ の理由を確認 (手立て) したり、補足 説明を行った ・次回の学習内容の確認。 ・本時の学習内容を踏ふまえて、次回は自 分の「にくきもの」について書くことを ・ワークシートの提出。 りすることで 、比較しやす い状況をつくる。 伝える。 5. 単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 ① 本研究の「授業観察シート」のねらい 授業観察者の記録(「授業観察シート」)は、授業を振り返る際の重要な資料となることから、観察の 目的に応じた形式のものであることが望ましいと思われる。そのため、観察者の自由度を確保しながらも、 観察のポイントを示すことは不可欠であろう。 そこで、今年度の研究テーマ「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と 分析及び改善に向けての方策」に即し、次の2点をポイントに授業観察シートを作成することとなった。 ポイント1 組織的な授業改善 全教科の教員が観察者となる校内の研究授業で用いることを想定し、教科を越えた授業観察の視点 を取り入れることを意図した。 ポイント2 単元の授業づくり 「一つの単元の中の一時間の授業」としての観察を意識できる構成となることを意図した。 ② 観察の項目 授業観察は、授業デザインに基づいて展開される授業を観察するものである。観察者は目前で展開される 授業を観察しながら、その背景にある授業デザインも意識し、観察の視野に入れる必要がある。そこで、授 業者の「授業デザイン(授業構想)」と「授業展開」の2点を軸として項目を設定した。 授業デザインを構成する要素は、その授業内で何を学ぶか(課題設定)、何を使ってその課題を学ばせ るか(教材)、どのような学習活動を行うか(活動)の3点で、これらが相まって授業のしかけとなる。こ の3点は生徒の実態に即していることが重要である。前項に挙げたポイント1「組織的な授業改善」のため には、同一教科のみならず、他教科の教員の視点からその適否を検証する必要があるため、この項目は全観 察者共通の項目とした。また、今回の研究ポイント2「単元の授業づくり」という視点から、さらに当該教 科では単元の目標に沿った、より具体的な授業デザインについて検討する必要があるので、単元全体を意識 する、当該教科の観察者向けの項目を設定した。 教員がデザインした授業は、その展開においては生徒が主体となる。教員は生徒がどこまで授業の課題を わかり(理解)、主体的に学ぼうとしているか(意欲)を見取り、生徒の声に対応しながら授業を再デザイ ンする。そこで、授業展開の観点として、生徒の理解と意欲、授業者の対応、また、今回の研究授業ではグ ループ学習を取り入れることから「協働」を加えた3点を観察の項目とした。この「協働」の部分について は、授業展開に応じて適切な項目を考えて入れていくものである。 なお、本研究では、授業者が特に見てほしい点を示すために「授業者より」という欄を設け、コメントを 付した。 ③ シート活用上の成果・課題 今回作成した観察シートは、観察の前段に、授業者と観察者による「単元の授業づくり」のための協議が 行われることを前提として作成し、実践事例の授業の前にもこの協議を行った。このことによって、教員個 人の授業技術ではなく、教科・科目としての単元の組立てを観察するという視点が持てた。当該の単元にお いて、どのような力をどのようなしかけにより育成するかについて、観察者が十分に認識した上で授業を観 察することにより、授業者と観察者が授業の目的を共有でき、より深い観察結果と、共通の基準による評価 を得られることが期待できる。それにより、授業後の分析が焦点化され、次回以降の授業プランの改善によ りよい効果があると思われる。 授業観察は授業改善のための必須の手段であるが、観察の目的が明確でないと、後の協議が単なる感想や 意見の交換になりがちである。授業改善の具体的な目標を定め、そのために何を観察するのかという視点を 明らかにし、観察者がそれを意識できる観察シートが工夫されることが望ましい。 6.成果並びに課題とその改善に向けた方策 ① 実践事例 枕草子 古語の意味を伏せて内容から類推させることで、古語の意味を深く理解することができ、古文の文章の 内容を自分の経験と比較して身近なものとしてとらえることができた。また、古典に対して苦手意識を持っ ている生徒もいるのでグループで内容のまとめを確認し古語の意味を考えさせたことは、全員がそろって次 のステップに進むことができたという意味で大変よかった。さらには、その後の学校生活の中でその古語を 使って会話をする場面もみられた。 課題の一つとして、これまでの古典学習の経験から「辞書を使えばよいのではないか?」「なぜ、意味 を伏せて考える必要があるのか?」という疑問を残した生徒もいたことが挙げられる。初めに手順の提示だ けでなく、学習のねらいや、授業者の「思い」をもっと伝え、単元構想を生徒とも共有しておくことが必要 であると感じた。また、当然のことであるが、授業は計画通りに運ばないことが多々ある。今回の研究授業 についても時間通りに行えず、グループから出された意見について、まとめができずに終わってしまったこ とも課題である。次の授業でその部分に触れてから授業を行うことによって、結果的には、こちらのねらい 通りの力を身に付けさせることができたが、1時間ごとでなく単元として授業をとらえ、最終的にどうねら いに近づけていけるか、時間や手法を見直していくことが大切であるとあらためて感じた。 ② 授業評価シート 一般に授業観察では、観察者の視点は授業者の授業技術に向きやすい。しかしながら、授業改善につな げることを目的とする観察では、その授業が展開されるまでの経緯、すなわち、授業計画やその計画の元と なる生徒理解にまで目を向ける必要がある。本研究の観察シートではそれらの観察の項目を明示することで、 観察者の視点を目的に誘導することができたのではないかと思われる。ただし、目的が明確である分、観察 者の自由度は低いため、観察前に目的の共有が入らなければなるまい。また、改善につなげるためには授業 後にこの観察シートをもとに協議が整理されることも望まれる。一連の手続きがスムーズに行われれば、当 該教科の全体の学習計画の改善を促し、また、他教科での生徒理解の一助となることが期待される。 併せて、授業を受けた生徒も、授業実践の評価者として加えるべきであろう。今回の研究で、単元目標が 実現したか否かを確認するのに非常に有効だったのが「生徒用シート」である。ここで得られた声は授業者 にとって次の授業デザインの有益な材料であり、生徒にとっては単元のねらいの確認になるものである。 「生徒用シート」はできるだけ項目をしぼり、平易な表現を用いると生徒の声を引き出しやすい。また、自 由記述形式よりも尺度を評価する形式の方が結果が見えやすいことは言うまでもないが、自由記述形式だか らこそ拾える声もあろう。授業改善につなげるためのものとして、「生徒用シート」のより良い形を研究し ていく必要がある。 ③ 研究全体を通じて 今回の研究は、「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に 向けての方策」という全体のテーマを受けて、授業の「評価」についての協議からスタートした。今まさ に各校において校内授業研究への取組が盛んに行われている中、教員個々の授業スキルだけでなく、学習 評価も含めた単元としての授業づくりに関する協議や研究が求められる状況であるといえる。 そうした中で、学校目標や年間指導計画に基づく具体的な単元の構想と授業実践、事後協議等における評 価と分析、そこから課題や改善点を整理して次なる実践に生かしていくという一連のサイクルは、教科ごと に別々に行うのではなく、教科の枠を超えた学校単位という視点で作り上げていくことが大切である。 本稿で示した授業実践例と評価方法は、生徒の確かな学力の育成に向けた取組を展開する上で参考になる ものと考えられる。特に「授業観察シート」や「生徒用シート」の具体的な項目については、各校の課題や 現状を踏まえて、より効果的なアレンジを加えて活用していただきたい。 教員による授業評価 【授業観察シート】 月 観察者 日 氏名 年 〔 組 国語 科目名 他教科( ) 〕 授業 デ ザイ ン 授業 の しか け 課題設定 題材の選択と扱い 教材 内容、分量等 活動 活動の内容、時間 単元 の 構成 ※ 年間計画、生徒の状況に照ら して単元構成は適当か。 生徒の理 解、意欲 課題や教材、活動に主体的に 取り組んでいるか。理解を深 協働 授業 展 開 めているか。 グループでの活動に参加し、 有効に活用しているか。 授業 者 の対 応 生徒の声を拾い、適切な対応 をしているか。 ※は国語科のみ *授業者より ・口語訳プリントを基に、作者の「にくきもの」とその理由がまとめられているか。 その他、お気づきのことをお書きください。 生徒による授業評価 【生徒用シート】 評 価 1) 「にくきもの」に描かれた清少納言の思いが読み取れた。 評 A B C D 2) 昔と現代の言葉の意味の違いやイメージが理解できた。 A B C D 3) グループ学習に積極的に参加できた。 A B C D 4) グループ学習によって考えを深めることができた。 A B C D 5) 古文は面白いと感じられた。 A B C D A 非常にそう思う 価 B 項 目 ややそう思う C コメント あまりそう思わない D まったくそう思わない 地 理 歴 史 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 共通テーマである「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改 善に向けての方策」を踏まえ、とくに地理歴史科では、「単元の授業づくり」に係って、平成25年7月の 高等学校各教科等教育課程研究協議会(地理歴史科)において、文部科学省の地理歴史科の教科調査官か ら示された「基軸となる問い」を軸に「単元の授業づくり」を研究することとした。 (2)研究のねらい 研究にあたっては、『中等教育資料』に連載された「世界史授業の工夫・改善(1)∼(7)」(平成 25年4月号、7月号、10月号、平成26年1月号、4月号、7月号、10月号 村瀬正幸教科調査官)を参考 にしながら研究を進めた。今回はとくに、「世界史授業の工夫・改善(4)」(平成26年1月号)に掲載 された「授業のシナリオ」を参考にしながら、「基軸となる問い」を軸とした単元の「授業シナリオ」を 作成した上で、単元の指導計画を作成し、公開研究授業を行うことにより、「基軸となる問い」の有効性 を確認することを研究に当たってのねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 研究に当たっては、「世界史授業の工夫・改善(4)」(『中等教育資料』平成26年1月号)を参考に、どん な「問い」を作れば生徒の思考を深め、課題意識を高めることができるかを最終的な目的とし、その上で、問 いの持つ意味(①歴史的事象の理解を深める核となる学習内容を持っている【鍵となる概念を含む】、②深い 思考や新しい理解を促し、考察が持続する【学ぶ価値がある】、③特定の時代や地域を超えた比較や関連付け が可能である【転移を促す】)を考慮しながら、「基軸となる問い」を考えた。また、同時にいくつかの小さ な「問い」の考察を通して順次「問い」を深めることができるよう、小さな「問い」も設定することとした。 これらを、4回の研究協議及び1回の公開研究授業から研究を行った。 事例1(世界史)では、比較的歴史の浅い国ではあるが短期間で発展し、現在超大国として多くの国に影響 力を持っているアメリカ合衆国を取り上げ、「なぜ植民地だったアメリカは短期間で発展する(覇権を握る)こ とができたのか?」を「基軸となる問い」とした。 当初は、「奴隷解放宣言はなぜ行われたのであろうか?」や「アメリカ合衆国はいろんな意味で『新しい』?」 といった問いを立てたが、「単元を貫く」という視点で検討した結果、アメリカの短期間での発展の要素を、 「広大な国土(資源・自然環境・市場)」、「保護貿易」、「移民」と捉え、そこから「なぜ植民地だったアメ リカは短期間で発展する(覇権を握る)ことができたのか?」を「基軸となる問い」とした。 事例2(日本史)では、経済環境の変化が人々の生活や社会に、どのような影響を与えるのかを考察させるた め、資料が充実し、現代との比較がしやすいという観点から近代史に着目し、中でも、人々の生活や社会に様々 な影響を与え、新たな文化を花開かせた欧州大戦による好景気を取り上げ、「ヨーロッパでの戦争は日本に何を もたらしたのか?」を「基軸となる問い」とした。 当初は、「戦争は人々の生活をどう変えたのか」という問いを立て、生活史と経済史を中心に、第一次世界大 戦による好景気が、人々の生活や社会にどのような影響を与えたかを考察させることを考えたが、「生活」を問 いの中に入れることで、焦点が絞られ過ぎてしまうと考えた。そこで、経済環境の変化と生活の変化を軸としな がらも、政治や外交、社会の変化をも網羅的に取り込めると考え、「ヨーロッパでの戦争は日本に何をもたらし たのか?」を「基軸となる問い」とした。 事例3(地理)では、時代に合わせたダイナミックな転身により成長を続けている東南アジアを取り上げ、 「今、東南アジアの成長が世界から注目されているのはなぜか?」を「基軸となる問い」とした。 当初は、「東南アジアにとって『中国』の存在はプラス?それともマイナス?」という問いを立てたが、「単 元を貫く」という視点で検討した結果、成長と注目の理由を民族・農業・工業など各分野において考察するこ とで、時代に合わせたダイナミックな転身により成長を続けている東南アジアの姿を体系的に学ぶことができ るとともに、他地域との連携など国際的な分野への繋がり転移が望めると考え、「今、東南アジアの成長が世 界から注目されているのはなぜ?」を「基軸となる問い」とした。 なお、研究を進める中で、想定される「問いの答え」を設定しておく方が、「基軸となる問い」を立てるに 当たって有効であると考えるに至った。したがって、以下の「授業シナリオ」には「基軸となる問い」及び展 開ごとの小さな「問い」のそれぞれに、「問いの答え」を掲載することとした。 3.「基軸となる問い」に基づく授業づくり(「授業シナリオ」と「単元の指導計画」) 事例1(世界史) 教科名:世界史B 単元:「南北戦争と帝国主義時代のアメリカ」 ねらい 独立後のアメリカ合衆国が発展していく(覇権を握っていく)過程を、ヨーロッパやア ジア、アフリカ等と関連付けながら理解し資料等を活用して考察させる。 基軸となる「問い」 「なぜ植民地だったアメリカは短期間で発展する(覇権を握る)ことができたのか」 →①広大な国土(自然環境・資源・市場) ②保護貿易 ③移民 ①【鍵となる概念】「移民問題」「帝国主義」「資本主義(経済)」 「問い」がもつ意味 ②【学ぶ価値がある】「奴隷解放宣言」「南北戦争」「自由貿易と保護貿易」 ③【転移を促す】「南北問題」「第三世界」「冷戦」「社会主義」「門戸開放」「公民 権運動」「ブロック経済」「GATT」「TPP」 学習過程 展開(1) 「問い:南北戦争はなぜ北部の勝利で終わったのだろうか」 ・資料をもとに、南北の違いを整理するとともに、南北戦争の概要を理解する。 ・書簡等の史料をもとに、奴隷解放宣言のねらいを考察する。 ・北部、南部、西部の関係を整理し、経済的自立が進む過程を捉える。 【北部の経済(や体制)に南部が依存していたから。】 展開(2) 「問い:フロンティアの消滅がもたらしたものは何だろうか」 ・アメリカの経済発展の経過を数値資料や年表をまとめることで理解する。 ・継続する移民と変容の過程をグループごとに地図を作ってまとめさせる。 ・保護貿易政策がアメリカの発展に与えた影響を、資料をもとにまとめる。 ・資料をもとに、南北戦争後の変化や課題を、グループで考察する。 ・独占資本の登場について、企業を軸に年表を作成して整理する。 ・フロンティア消滅と海外進出(孤立主義政策からの転換)を理解する。 【保護貿易政策と広大な領土(国内市場)と移民による発展が限界を迎えた。】 展開(3) 「問い:短期間でめざましい発展と海外進出はどのように結び付くのだろうか」 ・フロンティア消滅後のアメリカの海外進出についてグループで話し合い、共通点や特 徴をまとめ、理解する ・英仏を中心とした市場・資源獲得との比較を通じて、共通点や相違点を考察させる 【さらなる発展への希望を、海外のフロンティアに求めた。】 単元の評価規準 <関心・意欲・態度> ・合衆国の発展を多面的・多角的に検証し、現在とのつながりについて関心を高め、意 欲的に追究しようとしている。 <思考・判断・表現> ・アメリカが発展していく過程を、他地域と関連付けながら考察し、現在につながる課 題を、文章等で適切に表現することができる。 <技能> ・グラフ等の資料を活用して、図表等にまとめることができる。また、奴隷解放や海外 進出に係る資料の要点を読み取ることができる。 <知識・理解> ・アメリカ合衆国の発展や帝国主義に関する基本的な事柄や関連する諸事項について理 解し、その知識を身に付けている。 単元の指導計画 (1)科目:世界史B (2)単元名:アメリカ合衆国の発展と帝国主義 (3)単元のねらい: イギリスから独立を果たしたアメリカ合衆国が、発展していく(覇権を握っていく)過程 を、ヨーロッパやアジア、アフリカ等と関連付けながら理解し、州の成立や移民、海外進 出に関する資料等を活用して考察させる。 基軸となる問い:「なぜ植民地だったアメリカは短期間で発展する(覇権を握る)ことができたのか」 (4)単元で身に付けさせたい力: ・身近な題材からアメリカの発展の背景や歴史的意義、現代社会との繋がりを考察する力。 ・資料活用を通じて帝国主義時代の米国について理解し、文章や発表によって表現する力。またアメリカの発 展時に起こった諸問題やその対応策について理解する力。 (5)単元の評価規準例 関心・意欲・態度 ・合衆国の発展を多面的・ 多角的に検証し、現在との つながりについて関心を 高め、意欲的に追究しよう としている。 思考・判断・表現 ・アメリカが発展してい く過程を、他地域と関連 付けながら考察し、現在 につながる課題を、文章 等で適切に表現すること ができる。 (6)単元の指導と評価の計画 時 間 学習項目 学習活動 資料活用の技能 ・グラフ等の資料を活用 して、図表等にまとめる ことができる。また、奴 隷解放や海外進出に係る 資料の要点を読み取るこ とができる。 ねらい 評価の観点 a b c d 知識・理解 ・アメリカ合衆国の発展や 帝国主義に関する基本的な 事柄や関連する諸事項につ いて理解し、その知識を身 に付けている。 評価規準 評価の方法 南北戦争はなぜ北部の勝利に終わったのだろうか 1 ・南北戦争 ・南北の体制や経済の違 ・グラフや図表から北 い、南北戦争に関する 部優位の状況や、南 資料を読み、黒板等に 部が北部の経済に まとめ、戦争過程や戦 依存していたこと 後の展開を理解する。 を読み取らせる。 ・リンカン ・資料を参考に、奴隷解 ・リンカンの奴隷解放 と奴隷解 放宣言のねらいにつ に対する姿勢や解 放宣言 いて読み取る。 放宣言のねらいに ついて理解する。 この時間の問いを考察させる。 ○ ・南北戦争について ・ノート・ 整理し、ノートや ワークシ ワークシートにま ートの とめている。 記述 ・発問評価 ○ ・資料を読み取り、 ・資料の読 その内容を適切に み取り 表現しようとして ・小テスト いる。 フロンティアの消滅がもたらしたものは何だろうか 2 ・西部の発 ・領土拡大の過程や統治 ・西部開拓の過程や移 ○ 展 政策についての史料 民の重要性、統治政 を読み取り、移民や経 策の変遷について 済発展とも関連付け 考察し、理解する。 て考察させる。 ・フロンテ ・南北戦争後の南部の復 ・南北戦争後の経済発 ○ ィアの消 興や資本主義の発展 展やフロンティア 滅 の過程をまとめ、フロ 消滅の意味を、現在 ンティア消滅と海外 も存在する問題等 進出の背景について も踏まえながら、多 理解する。 面的・多角的に捉え させる。 この時間の問いを考察させる。 ・西部開拓の過程や 移民の重要性、統 治政策の変遷につ いて考察し、理解 しようとしている 。 ・南部の復興や資本 主義の発展の過程 をまとめ、現在も 存在する問題等も 踏まえながら多面 的・多角的に捉え ようとしている。 ・ノート・ ワークシ ートの記 述 ・発問評価 ・資料の読 み取り ・歴史地図 ・小テスト 短期間でめざましい発展と海外進出はどのように結びつくのだろうか ・アメリカ ・海外進出に関する諸事 ・巨大な国内市場や世 の帝国主 項や、海外拡張の共通 論、植民地競争の出 義 点・特徴を理解し、他 遅れなどの背景を 3 国の帝国主義との比 踏まえながら、アメ 較を通じて理解する。 リカ帝国主義の特 徴を考察させる。 この時間の問いを考察させる。 ○ ・小テストやレポー ・ノート・ トにより、この単 ワークシ 元で学んだ事柄ま ートの記 とめることができ 述 る。 ・発問評価 ・資料の読 み取り ・レポート ・小テスト 評価の観点:a【関心・意欲・態度】b【思考・判断・表現】c【資料活用の技能】d【知識・理解】 事例2(日本史) 教科名:日本史B 単元:「第一次世界大戦と日本の経済・社会」 ねらい ヨーロッパが主戦場となった第一次世界大戦の発生が、政治や外交分野だけでなく、生 活や経済面など日本社会に広く影響を与えたことを考察させる。 基軸となる「問い」 「ヨーロッパでの戦争は日本に何をもたらしたのか?」 →時代の一つの区切りをもたらした。 ①【鍵となる概念】「バブル」「総力戦」「資本主義経済」「デモクラシー」 「問い」が持つ意味 ②【学ぶ価値がある】「統制経済」「普通選挙」「憲政の常道」 ③【転移を促す】「大戦景気」「格差」「産業構造の変化(重工業の発展)」「職業 婦人」「社会運動」「政党内閣」 学習過程 展開(1) 展開(2) 展開(3) 「問い:大正時代の「天佑」は、何をもたらし、経済や社会をどのように変えたか?」 ・大戦景気の発生及び成金の出現と産業構造の変化を理解する。 ・俸給生活者など都市中間層の発生を理解する。 ・資料から都市中間層は、社会にどのような文化を出現させたかを考察する。 ・資料から物価の急騰と格差の拡大を考察する。 【資本主義の発達とそれによる産業構造の変化及び社会構造の変化をもたらした。 】 「問い:戦争後に噴出した社会矛盾はどういったものか。また、そういった矛盾に対し て、人々は、どのような関わりを持とうとしたか?」 ・シベリア出兵についてその目的と派兵に至った経緯、影響を理解する。 ・資料をもとに、デモクラシーや社会運動の影響を受けた人々が、政治や社会(生活) に対して、どのような関わりを持とうとしたかを考察し表現できる。 【第一次世界大戦後の社会矛盾に対し、人びとは様々な形で対応した。】 「問い:戦争は、日本の国内外の政治にどんな影響を与えたのか?」 ・国民各層の意識変化やデモクラシーの思潮が登場した背景を理解する。 ・原内閣の成立、普選運動や護憲三派内閣成立の理由を理解する。 ・グループで、日本の第一次世界大戦以前と以後の国際関係の変化を考察する。 ・戦後のアメリカの国際的地位の飛躍的向上と対米観の変化を理解する。 ・資料を基に、中国や朝鮮の民族運動の高揚の理由を考察する。 ・資料を基に、協調外交下の国際社会における日本の立場を考察し表現できる。 【国際社会における日本の立場や対外政策が大きく変化した。】 ★展開(1)∼(3)を踏まえ、基軸となる問い「第一次世界大戦が日本に何をもたら したか」を考察し、400字程度のレポートにまとめさせる。 単元の評価規準 <関心・意欲・態度> ・当時の社会状況や文化に対する関心と課題意識を高めている。 ・当時と現代の社会事象を結びつけつけて意欲的に探究している。 <思考・判断・表現> ・第一次世界大戦がもたらした経済・生活・日本の国際的地位の変化について考察し、 過程や結果を適切に表現することができる。 <技能> ・第一次世界大戦が日本にもたらした影響について、資料から有用な情報を適切に読み 取ることができる。 <知識・理解> ・第一次世界大戦に係る大戦景気、社会運動、国際関係といった事柄を関連付けて理解 し、その知識を身に付けている。 単元の指導計画 (1)科目:日本史B (2)単元名:「日本における第一次世界大戦」 (3)単元のねらい:第一次世界大戦が、政治や外交分野だけでなく、生活や経済面など日本社会に広く影響を 与えたことを考察させる。 基軸となる問い:「ヨーロッパでの戦争は日本に何をもたらしたのか」 (4)単元で身に付けさせたい力 ・資料をもとにして第一次世界大戦が日本の経済や社会に与えた影響を考察し表現する力。 ・第一次世界大戦における基礎的・基本的な知識。 (5)単元の評価規準例 関心・意欲・態度 ・当時の社会状況や文化 に対する関心と課題意識 を高めている。また、当 時と現代の社会事象を結 びつけつけて意欲的に探 究している。 思考・判断・表現 ・第一次世界大戦がもた らした経済・生活・日本 の国際的地位の変化につ いて考察し、過程や結果 を適切に表現することが できる。 資料活用の技能 ・第一次世界大戦が日本 にもたらした影響につい て、資料から有用な情報 を適切に読み取ることが できる。 知識・理解 ・第一次世界大戦に係る 大戦景気、社会運動、国 際関係といった事柄を関 連付けて理解し、その知 識を身に付けている。 (6)単元の指導と評価の計画 時 間 学習項目 学習活動 ねらい 評価の観点 a b c d 評価規準 評価の方法 大正時代の天佑(欧州大戦)は、日本経済に何をもたらし、社会や生活をどのように変えたか。 ・井上馨の ・井上馨の「天佑」の意 ・貿易額の推移などの 「天佑」 味について考える。 資料から「天佑」の 内容を理解する。 ○ ・資料から、好景気 ・資料の読 の背景を読み取っ み取り ている。 ○ ・大戦景気の特徴を ・ワークシ まとめている。 ートの記 述 1 ・成金の出 ・大戦景気が資本家層、 ・風刺画、グラフなど 現と産業 産業構造、にどのよう から好景気に沸い 構造の変 な変化をもたらした た人々や産業を読 化 か知る。 み取らせる。 ・都市中間 ・資料やグラフから産業 ・都市への人口流入に 層の発生 人口の変化、都市文化 伴い、都市中間層や と都市文 の出現を調べる。 都市文化が誕生し 化 たことを理解する。 ・物価の急 ・グラフから物価の急騰 ・物価の急騰による格 騰と格差 を理解する。 差拡大に気付かせ 拡大 る。 ・新しい文化が出現 ・ワークシ した背景をまとめ ートの記 ている。 述 ○ ○ ・グラフから影響を ・発問によ 読み取る。 る理解の 確認 ・この時間 ・生徒自身の考察をまと ・理解したことを表現 の問いの める。 する 考察 ○ ・自分の言葉で考え ・ワークシ をまとめている。 ートの記 述 戦争後に噴出した社会矛盾と、その矛盾に対して人々はどのような関わりを持とうとしたか。 ・シベリア ・シベリア出兵を米騒動 ・シベリア出兵と米騒 出兵と米 の関わりから考える。 動の関係と展開に 騒動 気付く。 ○ ・地図や資料から米 ・発問によ 騒動の特徴を読み る理解の 取る。 確認 2 ・デモクラ ・選挙権がない人々の行 ・人々が政治や社会に ○ シーと社 動について考える。 どう関わろうとし 会運動 たのか知る。 ・この時間 ・生徒自身の考えをまと ・理解したことを表現 の問いの める。 する。 考察 ・人々の生活や考え ・グループ を想像できる。 ワークの 監察 ○ ・自分の言葉で考え ・ワークシ をまとめている。 ートの記 述 戦争は、日本の国内外の政治にどのような影響を与えたのか。 ・デモクラ ・デモクラシーや社会運 ・前時の復習を兼ね、 シーの萌 動が登場した背景を デモクラシーが登 芽と変遷 整理する。 場した背景を整理 し確認する。 ・原敬政党 ・政党内閣や普通選挙法 ・政党内閣や普通選挙 内閣と普 が成立した理由を理 法が成立した背景 通選挙 解する。 を捉える。 ○ ・社会運動の基礎 ・発問によ 的・基本的な知識 る理解の が身についてい 確認 る。 ○ ・資料を読み取り、 ・ワークシ 筋道立てて説明で ートの記 きる。 述と発表 ○ 大戦前後の国際秩序 ・発問によ の変化を理解してい る確認 る。 ・対米観と ・大戦前後の国際関係 ・アメリカを主軸とし 国際関係 (特にアメリカ)を整 た、外交の変化が生 の変化 理する。 じたことを理解さ せる。 3 ・中国や朝 ・民族運動が高揚した背 ・欧州の民族自立を背 鮮の民族 景を欧州の出来事と 景に民族運動が高 運動の高 関連付けて考える。 揚したことに気付 揚 かせる。 ○ グループの中で積極 ・グループ 的に発言している。 ワークの 観察 ○ ・協調外交 ・アジア太平洋地域にお ・大戦後の世界秩序の 下の日本 ける日本の役割を考 中で日本が目指し と世界 察する。 たことを考える。 資料を活用し仮説を ・ワークシ 立てている。 ート及び 発表 ・導入の問 ・生徒自身の考えをまと ・理解したことを表現 への考察 める。 する。 ○ 自分の言葉で考えを ・ワークシ まとめている。 ートへの 書き込み ・「基軸と ・小論文の作成。 なる問 (400字程度) い」の考 察 ○ 授業内容を活用して 作成している。 ・小論文 ・自分の考察をまとめ て表現する。 評価の観点:a【関心・意欲・態度】b【思考・判断・表現】c【資料活用の技能】d【知識・理解】 事例3(地理) 教科名:地理B 単元:「東南アジアの生活・文化」 ねらい 東南アジアの成長を、東南アジア産業(農業・工業・観光)・自然環境・文化(宗教・ 言語・民族)・歴史的背景を地図(分布図等も含む)、写真、グラフなどの資料を活用 して考察させる。 基軸となる「問い」 「今、東南アジアの成長が世界から注目されているのはなぜか?」 →時代の流れを活かした成長が続いている。 ①【鍵となる概念】「ASEAN」「植民地」「中国の影響」 「問い」がもつ意味 ②【学ぶ価値がある】 「国際協調」「国際理解」「エスニシティ」 ③【転移を促す】「東南アジアと日本の関係性」「他地域との比較」 学習過程 展開(1) 「問い:東南アジアの地理的特徴は何だろうか」 ・地図を利用して東南アジアの半島部と島嶼部の自然環境を気候・植生と関連させてそ れぞれ理解する。 ・東南アジア諸国の位置関係を地図で確認をし、民族構成の分布を統計資料で整理する。 ・地図とグラフを利用して各宗教の地理的分布を自然環境と歴史的背景を関連させて理 解する。 ・「華人」「華僑」と東南アジアの関係を代表的な事例を用いて理解(例:マレーシア のブミプトラ政策) 【半島部と島嶼部で自然環境が異なり、また多種多様な民族が共生している。】 展開(2) 「問い:プランテーション農業が東南アジアに与えた影響は何だろうか」 ・伝統的農業として自給的稲作や焼畑が中心であることを写真資料で理解する。 ・植民地時代に定着したプランテーション農業による農業の変化(栽培作物・生産量) を整理する。 ・近年における農業の変化を代表的な事例を用いて理解する。(例:ベトナムのコーヒ ー生産) 【自給的農業しか行っていなかった地域が植民地政策のプランテーションで変化し、独 立後にはプランテーション農業を基盤として世界的ニーズに合わせた商品作物の生 産に発展している。】 展開(3) 「問い:東南アジアの工業はなぜ急成長を遂げたのか」 ・ASEAN結成以後の輸出品の変化を近隣諸国の需給と関連させて整理する。 ・東南アジア諸国における工業の発展と、それに伴う経済格差を理解する。 ・東南アジア諸国の経済的な結び付きを歴史的背景を踏まえて理解する。 【急成長の原因が、自国の努力以外に新しいフロンティアを求めた先進国による資本や 技術を取り入れなど「グローバル化」の流れが関係している。】 単元の評価規準 <関心・意欲・態度> ・日本との関係が深い東南アジア諸国の地理的知識を、単に東南アジアの知識として学 ぶのではなく、他地域との比較や相違点の考察を行いながら意欲的に探究している。 <思考・判断・表現> ・東南アジアの歴史的背景を正しく理解し、植民地時代からの脱却とその後の国際協調 を活かした成長が世界から注目されていることを農業・工業の各分野を通して考察し ている。 <技能> ・写真資料の判読から東南アジアの特徴を的確に捉え、図やグラフや地図の各資料を相 互活用し統合した知識として身に付けることができる。 <知識・理解> ・東南アジアの地理的現象を総合的に把握して、他地域との結びつきとグローバル化に よる東南アジアのダイナミックな変化を理解することができる。 単元の指導計画 (1)科目:地理B (2)単元名:「東南アジアの生活・文化」 (3)単元のねらい:東南アジアの成長を、東南アジア産業(農業・工業・観光)・自然環境・文化(宗教・言 語・民族)・歴史的背景を地図(分布図等も含む)、写真、グラフなどの資料を活用して 考察させる。 基軸となる問い:「今、東南アジアの成長が世界から注目されているのはなぜか?」 (4)単元で身に付けさせたい力: ・東南アジアの地理的特徴をヨーロッパや南米など他地域との比較を用いて理解する力。 ・東南アジアの産業が、国際的な需要に柔軟に対応することで発展できたことを歴史的背景などと結び付けて 考察する力。 ・東南アジアの発展が、自国の努力以外に先進国によるグローバル化の働きかけと強く関係していることが考 察できる力。 (5)単元の評価規準例 関心・意欲・態度 ・日本との関係が深い東南 アジア諸国の地理的知識 を、単に東南アジアの知識 として学ぶのではなく、他 地域との比較や相違点の 考察を行いながら意欲的 に探究している。 思考・判断・表現 ・東南アジアの歴史的背 景を正しく理解し、植民 地時代からの脱却とその 後の国際協調を活かした 成長が世界から注目され ていることを農業・工業 の各分野を通して考察し ている。 (6)単元の指導と評価の計画 時 間 学習項目 学習活動 資料活用の技能 ・写真資料の判読から東 南アジアの特徴を的確に 捉え、図やグラフや地図 の各資料を相互活用し統 合した知識として身に付 けることができる。 ねらい 評価の観点 a b c d 知識・理解 ・東南アジアの地理的現象 を総合的に把握して、他地 域との結びつきとグローバ ル化による東南アジアのダ イナミックな変化を理解す ることができる。 評価規準 評価の方法 東南アジアの地理的特徴は何だろうか? ・自然環境 ・地図帳から、自然環境 ・自然環境・気候・植 ○ ・気候・植生を読み取 生が結び付いてい る。 ることを理解させ る。 1 ・宗教 ・東南アジアの概要 ・ノート・ ワークシ をワークシートま ートの記 とめることができ 述 る。 ・定期試験 ・資料から、各国の宗教 ・島嶼国はイスラーム 構成比を読み取る 、半島国は仏教が主 であることに気付 かせる。 ○ ・民族構成 ・資料から、各国の民族 ・東南アジア社会にお 構成比を読み取る。 ける「華人」の影響 力を考察する。 ・「華人」の特徴を考察 する。 ○ プランテーション農業が東南アジアに与えた影響は何だろうか? 2 ・伝統農業 ・写真から、自給的稲作 ・伝統的な自給的農業 ・焼畑の特徴を読み取 が中心であること る。 を理解する。 ○ ・ノート・ ワークシ ートの記 述 ・定期試験 ・プランテ ・資料から、年代別の各 ・プランテーション農 ーショ ン 国の生産農作物を読 業により、栽培作物 農業 み取る。 や生産量などが変 化したことを読み 取り考察する。 ・近年の農 ・ベトナムのコーヒー生 ・農業変化のねらいを 業 産などの事例を用い 考察し、世界のニー て、近年の農業の動き ズに応えて柔軟に を理解する。 農業を変化してい ることを考察する。 ○ ・東南アジアの農業 が、伝統的な自給 的農業、プランテ ーション農業、付 加価値の高い商品 作物を生産する農 ○ 業に分かれている ことを理解し、歴 史的背景と結び付 けて記述すること ができる。 東南アジアの工業はなぜ急成長を遂げたのか ・ASEA ・ASEANの結成に伴 ・急成長の原因が、自 N う工業の発展を各国 国の努力以外に新 における年代別輸出 しいフロンティア 3 品目のグラフを用い を求めた先進国に て理解する よる資本や技術の 取り入れなど「グロ ーバル化」の流れが 関係していること を考察する。 ○ ・東南アジアにおけ ・ノート・ るASEANの発 ワークシ 展を、先進国との ートの記 需給と結び付けて 述 記述することがで ・定期試験 きる。 評価の観点:a【関心・意欲・態度】b【思考・判断・表現】c【資料活用の技能】d【知識・理解】 4.事例2(世界史)の研究授業の概要 作成した「授業シナリオ」及び「単元の指導計画」の実践として、平成26年11月19日(水曜日)に神奈川県立 新栄高等学校(2年生)において公開研究授業を行った。 公開研究授業は、新栄高等学校の協力のもと、授業実践とその後の研究協議により構成し、研究推進委員であ る新栄高等学校の宮﨑聡教諭が担当した。授業に使用した資料などの教材については、新栄高等学校の地理歴史 科・公民科の協力・助言を得ることができた。また、今回の研究が単元の授業研究であることから、担当した宮 﨑教諭は、これより前の授業から単元を意識した授業を行い、公開研究授業に臨んだ。 授業後の研究協議においては、主に「基軸となる問い」が単元全体を俯瞰するような問いになり得ているか、 小さな「問い」は、「基軸となる問い」に到達する有効なステップになり得ているか、及び問いを考えさせる 授業の工夫という視点から研究協議を行った。その結果、「基軸となる問い」である「なぜ植民地だったアメ リカは短期間で発展する(覇権を握る)ことができたのか」については、概ね妥当であるという結論が得られた。 小さな「問い」に関しては、移民の取り扱いについては、展開2の中に無理に入れず、別の展開として扱った方 が生徒の理解は深まったのではないかという指摘などがあった。そのほか研究授業の観察からは、教員が単元全 体を常に意識しているだけでなく、生徒も単元全体を常に意識していることや、前時で学習した既習知識を活用 している場面(例えば、アメリカ合衆国の工業生産のグラフ資料を読み取らせる中で、ゴールドラッシュと関連 付けて考察することができる生徒がいた。)が多く見られた。 また、事後に生徒にアンケートを実施した結果、約70%の生徒が「基軸となる問い」を意識しながら授業に取 り組めた。スモールステップの問いについては約80%の生徒が意識して取り組めたという結果が得られた。 さらに、「基軸となる問い」に対する答えを生徒に記述させたところ、想定された答えに到達した生徒は、約 60%であった。 〔生徒の記述の例〕 ・「高率保護関税により、アメリカの産業が守られたから。」 ・「高率関税をかけることによって、アメリカ国内産業が守られたから。」 ・「国内の市場の形成。」 ・「発展するための人口、材料が揃っていたから。」 ・「移民の影響、たくさんの土地、高率関税。」 ・「国内にたくさんの市場が形成されたから。高率関税をかけることによって、アメリカ国内産業が守られた から。」 ・「南北戦争後に高率保護関税が成り立ち、西部と南部が主となり北部の工業品が売れる国内の市場ができた こと。南北戦争中に発達した大陸横断鉄道による交通の向上。」 ・「ホームステッド法により土地を与えられ、物をたくさん生産できるようになり、その中で市場が形成され て国内の中で売買できるようになった。さらに工業化が進む中、大陸横断鉄道がのび、国内だけで発展でき たから。」 ・「豊かな労働力を行使できる場があり、有望な市場によって大量生産・大量消費が可能となったため。」 ・「英国からの産業的な依存から独立し、保護貿易をしたため、国内産業が発達した。更に大陸横断鉄道の影 響により、物の運びが楽になり、駅の近くに町ができたため、国外のみならず、国内にも市場ができたこと も大きい。」 このような生徒の記述を更に詳しく見てみると、単語での解答にとどまった生徒や3つの要素のうちの一つに しか言及できない生徒、 相互の関連性にまで理解が達していないと思われる生徒の記述もあるが、 初めて世界史、 アメリカ合衆国の歴史を学習した生徒が記述しているものとしては、ある程度はねらいを達成している記述であ ると評価できるのではないだろうか。もちろん、その質をさらに高めていくためには、小さな問いの立て方や、 授業展開のさらなる工夫や仕掛けが必要であると考えられる。 5.おわりに 最後に改めて、「基軸となる問い」を軸に「単元の授業づくり」を研究した成果と課題を挙げると、次の3点 を挙げることができる。 ① 「基軸となる問い」を立てることにより、教員が単元全体を常に意識して授業をするだけでなく、生徒も 単元全体を常に意識して学習できることから、「基軸となる問い」は、「教員にとって指導の軸、生徒にと って学習の軸」になり得ること。 ② 「基軸となる問い」を立てることを通して該当単元のスタンダード化が促される効果があること。また、 「基軸となる問い」の作成を通して、内容の精選(考察するための基礎知識の精選)が図られるということ。 ③ 「基軸となる問い」は、教科の専門家による吟味を経なければ立てるのは困難であるということ。また、 答えを意識して問いを立てる方が、より実用的な問いになること。 小さな問いに比して、単元全体を俯瞰するような「基軸となる問い」は、大きく時代や地域を把握しなけれ ば、問いを立てることは困難であった。とくに世界史に関しては、「基軸となる問い」が立てやすい単元と、 立てにくい単元があるように感じた。この点に関しては、問いの事例の収集・集積する必要性を大いに感じ た。 今回は、「基軸となる問い」を軸に「単元の授業づくり」に重点を置き、評価に関しては十分な研究ができな かった。この点については、今後の課題としたい。 公 民 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 共通テーマである「組織的な授業改善の推進−単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改 善に向けての方策」を踏まえ、公民科では「問いと答えをつなぐ単元指導計画の工夫」を教科のテーマと し、言語活動の充実を図ることにも留意しながら、生徒に身に付けさせたい力を明らかにした単元の指導 計画を作成・実践し、それを検証し改善の方策まで検討することを研究テーマとした。 (2)研究のねらい 『中等教育資料(平成 25 年6月号 大杉昭英氏) 』に示された「 『問い』と『答え』をつなぐのが授業 である」という定義をもとに、 「 『問い』を基軸とした単元指導計画を作成し、実践を通じて『問い』を検 証することにより授業改善を図ることができる」 という仮説を立て、 検証することを研究のねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 各推進委員は「問い」を意識して単元指導計画を作成し、授業実践を行った。そのため、単元指導計画 の作成に当たっては『中等教育資料(平成 26 年1月号 村瀬正幸教科調査官) 』を参考に「授業のシナリ オ」を作成し「基軸となる問い」と「基軸となる問いに生徒を導く問い」を意識して単元を構成するよう に工夫した。(表1) 表1 政治・経済 「授業のシナリオ」 (例) 単元名「日本の政治機構」 日本の政治機構について理解させ、市民の声を生かす政治のあり方について ねらい 考察させる。 基軸となる「問い」 市民の声を活かした政治を実現するためにはどうしたらよいか ①「国権の最高機関」 「議院内閣制」 「司法権の独立」 「違憲立法審査権」 「地 方自治の本旨」 「市民参加」 「問い」が 持つ意味 ②「二院制」 「行政改革」 「裁判員制度」 「住民投票」 ③「三権分立」 「立法」 「行政」 「司法」 「基本的人権」 「国会が国民の多様な意見を反映させるためにはどのようなことが必要か」 展開(1) ・国会の役割と権限の理解 ・国会の構成と運営の理解 ・国会の現状と課題について考察する 「行政を国民に開かれたものにするためにはどうしたらよいか」 学 展開(2) ・議院内閣制の理解 ・内閣の権限と行政組織の理解 習 ・行政改革のあり方について考察する 「国民の視点や感覚を裁判に反映させるためにはどうしたらよいか」 過 ・日本の裁判制度の理解 程 展開(3) ・司法権の独立の理解 ・違憲法令審査権の理解 ・司法制度改革について考察する 「住民の声を活かして地方を活性化するためにはどうしたらよいか」 ・地方公共団体の組織と権限の理解 展開(4) ・地方自治の本旨の理解 ・地方自治の課題の理解 ・小田高 TRY フォーラム 〈関心・意欲・態度〉国会の仕組みと権限、実際の運営について関心を高め、意欲的に考え 単 ようとしている。 元 〈思考・判断・表現〉住民参加の視点から、地方が活性化するためにはどうしたらよいか主 の 体的に考察している。 評 〈資料活用の技能〉行政機構の働きに関して、報道で提供される情報等を収集整理し、学習 価 内容が具体的に理解できるよう効果的に活用している。 規 〈知識・理解〉国会の国政における位置付けや権限、国会における法律案や予算の審議ルー 準 ルについて理解し、その知識を身に付けている。 (小田原高等学校 坂本和啓教諭作成) 研究に当たっては、どのような「問い」を作れば生徒の思考を深め、課題意識を高めることができるかを最終的 な目的とし、その上で、 「問い」の持つ意味(①その「問い」を解くことにより公民科の学習目標を達成できるか。 ②得られる学力は転移可能なものであるか。 )を考慮しながら、 「問い」を検討した。その際、表1に示したよう に、小さな「問い」の考察を通じて思考力を深めるように、同時にいくつかの小さな「問い」を検討した。 実践事例1(現代社会)では、 「裁判とは何か? 裁判員制度の目的は?」という問いを立て、裁判官・弁護人・ 検察官・被告人等の配役を決め、横浜地方検察庁が作成したものに改良を加えたシナリオを使用し、生徒全員が教 室内で模擬裁判を行った後、グループワークで評議・表決を行うという授業実践である。学習を通じて、生徒が国 民の権利と司法制度を理解し、他グループの表決とその理由を考察することにより、裁判員制度についての理解を 深め、政治参加の重要性について自覚を高めることをねらいとした。 実践事例2(倫理)では、基軸となる問いとして「今日の日本における信仰の位置付けはどのようなものか」と いう問いを立て、近隣の寺と神社のフィールドワークを行った後、 「今日の私たちにおける信仰の位置付けはどの ようなものか」というテーマでグループワークを行う授業実践である。学習を通じて、生徒が日本における信仰や 思想について基本知識を身に付け、その知識を具体的事象と関連付けて探究する力を付けることをねらいとした。 実践事例3(政治・経済)では基軸となる問いとして「現代経済で貨幣はどのように流れているのか?」という 問いを立てるとともに、本時の問い「なぜ金融が必要なのか?」を立て、さらに小さな問いを組み合わせることに より授業を構成して、実践した。学習を通じて、生徒が金融・財政や貨幣の流れについて理解するとともに、財政 政策や金融政策について考察し表現できる力を付けることをねらいとした。さらに、 「 『問い』を検証することで授 業改善を図ることができる」という研究仮説についても考察した。 3.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例1 現代社会(模擬裁判) (1)研究実施校:神奈川県立弥栄高等学校(全日制) (2)科目:現代社会 年次:1年次 (3)単元名:日本の政治機構と政治参加 (4)単元のねらい ① 政治機構について、その現状と課題を理解させ、現実の生活の中から現代の民主政治と政治参加の意義に ついて考察させる。 ② 民主政治の下に生きる国民として、国家の行為に対して国民自らが責任を持つことになることを、学習 し理解する。 ③ 国民の権利を保障するために法律家が身近なところで重要な役割を果たしていることに気付かせ、国民 の司法参加の意義を理解させる。 (5)単元で身に付けさせたい力 民主政治における個人と国家について考察させ、政治参加の重要性について自覚を深めさせる。また、政 治参加の重要性については、裁判制度や地方自治に触れながら政治と生活との関連について認識を深めさせ、 世論の形成と意義について理解し、一人ひとりが積極的に社会参加する意欲と態度を育成する。 (6)単元の指導と評価の計画(単元全 6 回) 時間 1 ねらい・学習内容 ・国会の地位と役割について理解する。 2 技 知 評価規準・評価方法等 国会について関心を持っている。 ○ ○ 国会の仕組みについて理解している。 【発問・定期試験】 行政権と行政機能の拡大 内閣について関心を持っている。 ○ ○ ○ 官僚政治の課題について考察している。 ・行政権の拡大と官僚政治について理解する。 【発問・定期試験】 公正な裁判の保障 裁判制度について関心を持っている。 ・国民の権利と裁判について理解する。 4 思 ・国会の構成と権限、運営について理解する。 ・内閣と議院内閣制について理解する。 本時 関 政治機構と国会 ○ ○ 模擬裁判に積極的に参加している。 ・裁判員制度について理解する。 【観察・ワークシート】 地方自治と住民福祉 地方自治について関心を持っている。 ・わたしたちの暮らしと地方自治のかかわり、地 方自治の課題について理解する。 ○ ○ 地方自治の課題について理解し、主体的に 考察している。 【発問・定期試験】 5 政党政治と選挙制度 政党政治と選挙制度の課題について、資料 ・政党と政党政治について理解する。 6 ○ ○ から読み取り、課題と問題点を考察してい ・日本の選挙制度と課題について理解する。 る。 【発問・観察】 世論と政治参加 ・世論が政治に与える影響を理解する。 ・無党派層の拡大の影響を理解する。 世論が政治に与える影響を考察し、自分自 ○ ○ 身に関わるという視点を持っている。 【発問・観察】 (7)単元の評価規準 関心・意欲・態度(a) 思考・判断・表現(b) 資料活用の技能(c) 知識・理解(d) 日本の政治機構(国会、行政権、 裁判制度、地方自治、政党政治と 選挙制度、世論)に関心を持ち、 現代の課題意識を高め、意欲的に 課題を追究し考察している。 日本の政治機構の 課題について、その 特徴や問題点、課題 を多面的・多角的に 考察している。 図・写真・統計など の多様な資料の中 から、的確なもの適 切に選択し、効果的 に活用できる。 日本の政治機構(国会、行政権、 裁判制度、地方自治、政党政治と 選挙制度、世論)について理解し ている。また、基本的な事柄を理 解し、その知識を身に付けている。 (8)取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月 31 日(金) 授業担当者:和田 守 教諭 ②授業クラス:1年次国際科(国際科、39 名) ③本時のねらい ・国民の権利と裁判についての基本的な事柄と課題を理解する。 ・ 「刑事裁判と裁判員制度」について主体的に考え、実際に模擬裁判を体験する。 ④本時の指導内容 授業展開 学習活動 指導内容・指導上の留意点 評価規準(評価方法) 導入 5分 ○国民の権利と裁判について ・教師の話をしっかり聞かせる。 学ぶねらいを理解する。 ・国民の権利と裁判について発問をす ○模擬裁判に参加して裁判員 る。 制度を学ぶねらいを理解す ・裁判員制度を学ぶねらいを分かりや る。 すく簡潔に説明する。 教師の話をしっかり聞いて いる。学ぶねらいを理解し ている。【評価規準 (a)】 (発問) 展開① 45 分 ○模擬裁判に参加する。 「模擬裁判」 積極的に模擬裁判に参加し ○自分の役割を意識して模擬 ・各グループの進度に応じて、話し合 ている。他の仲間の意見を 裁判に参加する。 いをサポートする。 聞くことができている。 【評価規準 (a)(b)】 (発問・観察) 展開② 35 分 ○評議・評決に参加する。 「評議・評決」 ○ワークシートに自分の意見 ・各グループの進度に応じて、話し合 をまとめる。 いをサポートする。 ○各班で「評決」について話し ・ワークシートに自分の意見をしっか 合う。 り書かせる。 ○各班の評決を黒板に書く。 ○各班の結論を発表する。 まとめ 5分 ○本時の内容を確認する。 ・感想シートに模擬裁判の感想を具体 自らの意見・感想を自分の ○模擬裁判の感想を書く。 的に記入させる。 言葉で表現できている。 ○模擬裁判の目的を理解する。 ・ 「評決・評議」のポイントを明確にす 模擬裁判の目的を理解して ○次回の授業の内容を確認す る。 いる。 る。 ・教科書で本時にやった内容と次回や 【評価の観点 (b)】 る内容を確認させる。 (感想シート) 積極的に参加し、自分の意 見を表現できている。 【評価規準 (a)(b)】 (観察・ワークシート) 【評価例】 ①「おおむね満足できる」状況(B)と判断した生徒の主な記述内容 ・判決を決めるのは難しくて、有罪だとは思っても証拠を十分突き詰めることはできなかった。 ・自分の意見だけでなく、他人の意見も参考にしたらなるほどと思うところもあった。 ・有罪・無罪のどちらを選んでも、それぞれに理由があって判断が難しかった。 ②「十分満足できる」状況(A)と判断した生徒の主な記述内容 ・一般市民の意見を裁判に取り入れることで、だいぶ判決も変わると感じました。 ・自分自身で判断をすることの大切さや、自分の意見で人の人生が変わってしまうかもしれないということの重要さが分かりました。 ・裁判長や裁判官だけより、国民の意見という違う視点からで判決が大きく変わるなと思いました。 (9)単元の授業作りに基づく授業実践の評価と分析 「基軸となる問い」を設定して授業を行ったが、生徒に対して学ぶことのねらいや意義がより明確に伝えら れると感じた。単元ごとで基軸となる「問い」を設定するのは必要だが、毎回の授業ごとを「小単元」として 「基軸となる問い」を設定することで、より生徒に伝わりやすい明確な授業が実践できると実感できた。 (10)成果並びに授業改善に向けた方策 授業実践の評価・分析・改善についても、基軸となる「問い」があることによってはっきりしやすくなるこ とが分かった。基軸となる「問い」の設定が正しいか正しくないかで身に付けさせる内容を変わり、常にこの 基軸となる「問い」の設定をより良くすることを考え続けることが授業改善の推進にもつながると感じたので 今後も続けていきたい。 実践事例2 倫理(寺と神社のフィールドワーク) (1)研究実施校:神奈川県立藤沢清流高等学校(全日制・単位制普通科) (2)単元名:日本人としての自覚 (3)単元のねらい ・日本における信仰のあり方、発展経緯を理解するとともに、身近な事例をもとにその今日的意味を探求する。 【基軸となる問い】 「今日の日本における信仰の位置付けはどのようなものか」 (4)単元で身に付けさせたい力・そのための手立て ・日本における信仰・思想の発展の基本知識を身に付け、具体的事象と関連付けて探究する力を身に付ける。 ・アクティブラーニングの考え方を取り入れ、探究活動を重視した授業づくりを行う。 ・授業で基本知識を学習したのち、生徒自身が資料解読、実地調査、インタビューなどにより課題を探求する。 (5)単元の指導と評価の計画 (評価の観点:a:関心・意欲・態度 b:思考・判断・表現 c:資料活用の技能 d:知識・理解) 2 学習活動 日本の風 文化の類型、日本 土と生活 の風土を学ぶ。 評価の観 点 評価基準 評価方 法 日本における風土と自然観 日本の風土と文化の特徴を理 W シート の特徴を理解する。 解している。 確認テ ねらい ○ a b c d スト 神との関 古代日本における 古事記に見られる神、自然 わりと道徳 神と祭祀、道徳観 観人間観を理解する。 観 を学ぶ。 神、自然、道徳観の知識を身 W シート に付けている。 確認テ 仏教の受 仏教の伝来と奈良 鎮護国家形成、加持祈祷な 奈良・平安仏教についての基 W シート 容 仏教、平安仏教の ど、現世利益を中心に仏教 本的知識を身に付けている。 確認テ 展開を学習する。 受容が広まったことを理解す スト る。 仏教の日 浄土信仰、鎌倉仏 末法思想の広まりと、専修・ 本的展開 教が起こった社会 易行の重視による仏教の大 背景とその思想の 衆化と、生活・文化への浸透 特徴を学習する。 を理解する。 スト ○ 1 学習 内容 鎌倉仏教の展開についての W シート 知識を身に付けている。 確認テ スト 遊行寺・白旗神社 寺院・神社という身近な事象 身近な事象に関心を持ち、今 ① へ取材を行う。 とこれまで学習した内容の知 日の私たちにおける信仰の意 取材シ 書籍文献による調 識を結び付けて探究する。 味を多角的に考察している。 ート ○ 探 究 活動 ○ 3 査を行う。 て協議を行う。 ○ 意欲的にグループワークに取 ○ 4 探 究 活動 文献や取材からえ グループワークを通して、現 られた内容を共有 在、信仰が私たちにどのよう 本 ② し、テーマに沿っ な位置付けにあるのかをまと 時 り組み、自分の意見をレポート GW シ に表現することができる。 ート め、自らの意見を述べる。 レポート (6)取組事例 ①実施日:11 月 12 日(水) 授業担当者:鵜戸紘一郎 教諭 ②授業クラス:倫理(選択) ③本時のねらい:各自が取材・調査してきた内容を元にグループワークによる意見共有と協議を行う。 ④本時の指導内容(テーマ:「今日の日本における信仰の位置付けはどのようなものか」 ) 授業展開 導入 10 分 本時のガイダ ンス説明 資料を整え、グループワークの準備を行う 《報告》20 分 ・資料による調査と、取材から得られた内容を それぞれ報告する。 ・グループワークシートに沿って内容を整理 する。 展開 グループ ワーク (60 分) 学習活動 《協議》40 分 テーマ: 「今日の私たちにおける信仰の 位置付けはどのようなものか」 指導上の留意点 グループワークの進行 ルールを明示する。 グループ発表 (a)(b) 既習事項の神道、仏教 の知識を踏まえた協議 を行えるようにする。 G ワークシート ・グループワークで整理した内容をもとに協 議を行い、自分の意見を整理する。 まとめ 20 分 評価方法 (b) 本時のワークシートをまとめ、テーマに沿っ たレポートを作成する。 レポート (b) ★「思考・判断・表現(b)」に関する評価基準 「十分満足できる」状況 (A) これまでの学習事項と事象を結び付けて考察し、テーマについての協議内容を踏まえた上 で、他者の意見を尊重しながら自らの意見を筋道を立てて記述することができる。 「おおむね満足できる」 テーマについての協議内容を踏まえた上で、自らの意見を筋道立てて記述することができ 状況(B) る。 「努力を要する」状況 (C)への支援 A:コミュニティ 提出された授業ワークシート、グループワークシートのフィードバック箇所をレポートに反映さ せて再提出させる。 ○協議結果: Y チャートによるブレーンストーミング B:ライフステージ C:生活・文化 ・お祭りごとがある。 ・作ったものに作者の名前が 貼ってある。 ・今も昔も地域に貢献してい る。人々の交流の場として 利用されている。 ・自由に出入りできる。 ・藤沢の中心として貢献。 ・困った時に頼りになる。 ・結婚式に利用される。 ・時代に合わせてスタイルや表現を変える。 ・正月、初もうでなどのイベント。 クリスマス・ハロウィーンなどの季節のイベ ント。 ・七五三やお祓い・厄払いなどの行事。 ・学校との関わり。 ・変わらない存在。 ・芸術作品と結びついている。 ・仏教芸術。 ・建築に影響を与えている。 ・お守り・心の支え。 ・日常に習慣になっているしぐさ。 ・美的感覚。 【生徒の感想・意見】 ・日常生活そのものが、「無宗教」という考えを持つ私たちの信仰なのではないか。 ・信仰心の程度ではなく、場所としての意味のほうが強いのではないか思う。 ・宗教に対する堅いイメージが変わった。開かれた場所として誰もが気軽に足を運べる場所になると思う。 ・宗教は今の日本人にとっては「人生をより良くするための行為」くらいの身近さだと思う。 ・寺と神社は同じようなところだと思っていたが、今回調べてみてみると神社には宗派もないし教義もなかった。同じようでいて成り立 ちや価値観が全く異なることに気付いた。 【遊行寺での取材の様子】 【本時のグループワークの様子】 (7)単元の授業作りに基づく授業実践の評価と分析 ①取材・報告 現地取材を行うことは学習効 果が非常に高かった。 指導者が学習のねらいと内容 について事前打ち合わせを行っ ていたのでリラックスしてイン タビューを行うことができた。 報告をイメージして取材した 班とイメージしなかった班で報 告に差が出てしまった。 ②協議 ③レポート作成 取材報告を受けて、コミュニティ、ライ フステージ、生活文化の3つの視点をフ レームとして提示し、付せんによるブレ ーンストーミングを行い、共通性と独自 性を分けることで気付きを促した。フレ ームにしたがって例をいくつか挙げ たのちはスムーズに気付きを発表し 合った。その後、取材で得た内容につ いて活発に意見交換がなされた。 レポートのテーマについては、基軸 となる問いである「今日の日本におけ る信仰の位置付けはどのようなもの か」を提示した。これまでの学習・協 議を踏まえて自分の意見を述べるこ とは概ねどの生徒もできていたが、協 議のフレームに引っ張られてそのま まの構成でレポートを書いてしまう 生徒も見られた。 (8)成果ならびに授業改善に向けた方策 ①取材・報告 ②協議 ③レポート作成 あらかじめ報告の形式(進め方 や時間)を含めて取材の指示や、 役割分担をする。特にインタビュ ーと取材メモの取り方は練習をさ せておく。発展的には、何を聞く か自体(取材シートの構成)を考 えさせることも検討したい。 今回のフレームは、協議の段階で情 報の共通性や独自性に気付かせレポ ートを書きやすくする目的で教員が 提示した。フレームをどこまで与える か、生徒の能力に応じて調整すること で学習のハードルを決めることがで きると考えられる。 レポートには得た情報や知識をま とめる力と表現する力が必要だが、今 回はワンテーマ 800 字程度としたた め文章力により評価に差が出てしま った。課題を小テーマに分解する、あ るいはまとめる力をトレーニングす ることで改善が見込まれる。 実践事例3 政治経済 (1)研究実施校:神奈川県立高浜高等学校(全日制) (2)科目:政治・経済 学年:3年 (3)単元名 (4)単元のねらい 現代経済の仕組みと特質 経済活動の意義、国民経済における家計・企業・政府の役割、市場経済の機能と限界、物価の動き、経 済成長と景気変動、財政の仕組みと働き及び租税の意義と役割、金融の仕組みと働きについて理解させ、 現代経済の特質について把握させ、経済活動の在り方と福祉の向上との関連を考察させる。 【基軸となる問い】現代経済で貨幣はどのように流れているのか? (5)単元で身に付けさせたい力 ・ 現代経済に関する諸現象について、様々な資料の中から情報を適切に選択して客観的に考察しようとす る力・態度を身に付けさせる。 ・ 価格メカニズムや経済成長について、グラフを読み取り、活用する力を身に付けさせる。 ・ 財政や金融の仕組みについて、貨幣の流れとの関係に気付かせ、景気と関連させて財政政策や金融政策 の在り方について説明する力を身に付けさせる。 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 資料活用の技能 知識・理解 現代経済に対する関心 を高め、現代経済の特 質を意欲的に追究し、 経済活動の在り方と福 祉の向上との関連につ いて客観的に考察しよ うとしている。 現代の経済から課題を見い だし、現代経済の特質を多 面的・多角的に考察し、経 済活動の在り方と福祉の向 上との関連について公正に 判断して、その過程や結果 を適切に表現している。 現代の経済に関 する資料から正 確に情報を読み 取り、適切に選 択して、効果的 に活用してい る。 経済活動の意義、家計・企業・政 府の役割、市場経済、物価、経済 成長・景気変動、財政と租税の意 義と役割、金融の仕組み等、現代 経済に関わる経済の基本的な概念 や理論を理解し、その知識を身に 付けている。 (6)単元の指導と評価の計画 時 学習項目 学習活動 間 ねらい 評価の観点 a b c d 問い:価格はどのようにして決まるのか? 1 市場のはたらき ・3つの経済主体を理 ・完全競争市場で (1) 解し、価格メカニズム は需要と供給の関 の在り方についてグ 係によって価格が ラフを活用して理解 決定されることに する。 気付かせる。 評価規準 評価の方 法 ・価格メカニズムに ワークシ ついてのグラフを ート 理解し、市場の競 ○ ○ 争状態についての 定期試験 知識を身に付けて いる。 問い:なぜ価格メカニズムが働かなくなるのか? 2 ・非価格競争の在り ワークシ 方について意欲的 ート に追究し、的確に 文章表現すること 発表内容 ができる。 市場のはたらき ・市場の失敗の発生に ・市場の失敗によ ○ ○ (2) 気付き、非価格競争の って価格の下方硬 在り方について思考 直性が発生するこ し、発表を行う。 とに気付かせる。 問い:現代の企業の特徴は何か? 現代の企業 3 ・企業には種類があ ・株式会社の成り立 り、現代においては株 ちを理解させ、資料 式会社が企業の代表 から読み取らせる 的なものであること ことで、その現代的 を理解する。 な変容に気付かせ ・写真資料から多国籍 る。 企業を読み取る。 ・現代の企業の特徴 について理解し、 ワ ー ク シ 資料から多国籍企 ート ○ ○ 業についての現状 を読み取ることが 定期試験 できる。 問い:経済成長とは何か? 4 経済成長と景気 ・GDP 等の各種経済指 ・経済成長率につ 変動 標を理解する。 いてグラフ等の資 ○ ・経済成長率について 料から歴史的・国 各種資料を読み取り、 際的比較を行い、 各国と景気変動の関 景気変動との関係 係をまとめる。 に気付かせる。 ○ ・経済成長率につい て資料から意欲的 ワークシ に追究し、その原 ート 因や景気変動との 関連性について考 定期試験 察することができ る。 問い:なぜ金融は必要なのか? 本 時 5 金融の役割(1)・金融が貨幣の流通を 促進していることを 信用創造との関連で 理解する。 ・金融の必要性を文章 で表現する。 ・金融が市場にお ける貨幣の流れに 大きな影響を与え ているということ に気付かせる。 ○ 問い:金融政策により貨幣はどのように流れるのか? 6 金融の役割(2)・金融政策の3つの代 表的手法について理 解する。 ・グラフから日本銀行 の金融政策の変遷を 読み取る。 ・金融政策による 金利の調整が市場 の貨幣の量を調整 しているというこ とに気付かせる。 ○ ○ 問い:財政政策により貨幣はどのように流れるのか? 7 財政の役割と租 ・財政政策の主たる2 ・財政政策によっ 税(1) つの方法を理解し、貨 て市場の貨幣の量 幣がどのように流れ を調整することで るのか理解した上で、 景気の調整等が行 経済状況に応じた財 われていることに 政政策の在り方を判 気付かせる。 断する。 ○ 問い:政府はどのように財源を調達しているのか? 8 財政の役割と租 ・税制度の基本につい ・租税の役割と意 税(2) て理解し、租税や国債 義に気付かせ、財 等の財政活動を行う 源の調達方法にお ○ ○ にあたっての財源の ける問題点を考察 調達方法やそれぞれ させる。 の問題点をまとめ表 現する。 ・金融の在り方と信 ワークシ 用創造について理 ート ○ 解し、金融の必要 性を適切に表現す 定期試験 ることができる。 ・景気状況に応じた 正しい金融政策の 在り方を判断する ワ ー ク シ ことができる。 ート ・日本銀行の金融政 策の変遷をグラフ 定期試験 から読み取ること ができる。 ・財政政策について 正しく理解し、知 識を身に付けてい ワ ー ク シ る。 ート ○ ・経済状況に応じた 財政政策の在り方 定期試験 を適切に判断する ことができる。 ・租税の意義につい て公正に判断する ワークシ ことができる。 ート ・財源の調達方法に おける問題点を意 定期試験 欲的に追究してい る。 問い:現代経済で貨幣はどのように流れているのか? 9 現代経済の仕組 ・貨幣の流れについ ・単元の基軸とな みのまとめ て、金融・財政等の視 る問いに対してま ○ ○ 点から、その概略・意 と め さ せ る こ と 義・問題点を発表す で、単元の学習内 る。 容の理解を深めさ せる。 ・貨幣の流れについ て 積 極 的 に 追 究 発表内容 し、分かりやすく 伝えようとしてい レポート る。 (7)取組事例 ①実施日:10 月 22 日(水) 授業担当者:田中 覚 教諭 ②授業クラス:3年生 必修選択 A「政治・経済」 選択者 12 名 ③本時のねらい:金融の必要性について、銀行の役割や信用創造との観点から理解させる。 ④本時の展開 【本時の問い】なぜ金融は必要なのか? 学習活動・内容 評価方法 金融とは何か? 導入 ・借入が必要となる数パターンの中から 複数の資金の借り方を挙げ、金融機関 の存在意義に気付く。 5分 指導上の留意点 ・クレジットやローン、多重債務問題に触れ つつも、マクロの視点で考えさせる。 銀行はなぜ必要? 展開 ・直接金融と間接金融の違いを知り、銀 行のはたらきによって多くの資金の融 通が可能になることに気付く。 ・信用創造について理解する。 ・銀行の果たす役割という点に留意させる。 定期試験 なぜ銀行だけは政府によって救済されるのか? 35 分 ・バブル経済・バブル崩壊後の不良債権 処理・金融の自由化/国際化の流れを 理解する。 ・銀行だけが救済されることの是非を思 考し、発表する。 ・1980 年代以降の金融を取り巻く環境を理 解させる。 ・ワークシートに記入させ、表現させる。反 対の立場の意見にも注目させる。 定期試験 ワークシ ート 発表内容 なぜ金融は必要なのか? ま と め 10 分 ・金融について、貨幣の流通という視点 から文章にまとめ、その必要性に気付 く。 ・銀行の各経済主体への影響と、銀行が無か った場合の不利益という2点に絞って考え させることで、全員に時間内での提出を促 す。 ワークシ ート 評価規準 思考・判断・表現 知識・理解 「十分満足できる」 状況(A) 金融の必要性について、銀行の役割や 信用創造と関連付けて思考し、表現す ることができる。 金融の必要性について、信用創造等と関連付 けて理解し、正しく理解している。 「おおむね満足でき る」状況(B) 金融の必要性について、思考し、表現 することができる。 金融の必要性について、理解している。 「努力を要する」状 況(C)への支援 金融の必要性について、思考し表現す 金融の必要性について、理解していない。 ることができない。 (授業内容を振り返 (ワークシートの記述から授業内容を振り返 らせ、ワークシートの再提出を促す。 ) らせ、金融の必要性について気付かせる。 ) 【評価例】 課題「なぜ金融は必要であるのか。銀行が果たす各経済主体への役割から説明しなさい。 」に対する生徒の解答 ① 十分満足できる状況(A)と判断した生徒の主な記述内容 企業は新たに設備投資をする際に多額の費用が必要となり、それには間接金融を行う銀行が必要になる。ま た、家計も家を買う時に多額の費用が必要となり、お金を貸してくれるのは銀行だけだ。銀行があるおかげで経済 活動は活発になる。だから金融は必要である。 ② おおむね満足できる状況(B)と判断した生徒状況の主な記述内容 企業を立ち上げる際に銀行からお金を借りる必要がある。また、資金が足りない時も銀行から借りることがある。 だから金融は必要である。 (8)単元の授業作りに基づく授業実践の評価と分析 (1)アンケートによる分析 ①「今日の授業のねらいが分かりましたか」 7割が「Aよくわかった」 、3割が「Bだいたいわかった」との回答であった。 「授業の冒頭あるいは途中に おいて 問いが投げかけられることで、何を理解すれば良いのか、何について考えればよいのかが分かりや すい」との意見が多数であった。 ②「生徒同士で話し合う機会や意見等を発表する機会がある授業だと思いましたか」 9割が「Aそう思う」との回答であった。全員が意見を記述して黒板に掲示し、お互いに質問し合うことで 理解が深まったとの回答が多かった。 ③「今日の授業の『内容』が理解できましたか」 4割が「Aよく理解できた」 、6割が「Bだいたい理解できた」との回答であった。意見を出し合うことで、 一方的に教員の話を聞いているよりも理解が深まったとの回答が見られた。ただし、 「Aよく理解できた」と いう意見は4割にとどまり、 「金融は難しい」という意見が多く見られた。 (2)参観者の感想・意見による分析 ① 講義中心の授業を改めようと思う良い機会となった。問いを設定し、それを効果的に投げかけることで、 講義中心になりがちな地歴公民の授業改善につながると思う。 ② パワーポイントやプリントを使用することで板書の時間を省略し、その分を問の投げかけや話し合いの時 間に活用するのは参考になった。 (9)成果並びに授業改善に向けた方策 ・ 「基軸となる問い」を設定し、単元の指導計画を作成することは、生徒にどのような力を付けさせたいかを明 確にすることになる。また「基軸となる問い」を設定することは、毎時の授業に明確なねらいをもたらす効果が ある。つまり毎時の授業が「単元全体を通して生徒に身に付けさせたい力」を強く意識したものとなり、 「明確 な目的」を持ったものになる。 ・ 「基軸となる問い」を設定した単元計画を作成すると、毎時「各授業の問い」を設定することとなる。これに より生徒に身に付けさせたい力が明確になり、生徒が思考するきっかけとなる。問いを投げかけられることで生 徒は思考・判断を求められ、そのアウトプットとして表現をすることとなり、毎時の授業の中で自然に言語活動 の充実を図ることができる。授業後のアンケートの結果からも、 「他の生徒の発表等を聞くことによって理解が 深まった」との意見が多数見られた。 ・ 課題は、 「問い」の設定が正しくないと生徒の理解が深まらないということである。特に、授業ごとにたてる 「基軸となる問いにつながる問い」の設定が難しい。 「基軸となる問い」に対して多面的な視点からの解答が可 能となるよう指導計画の中で様々な問いを設定するのだが、授業の中でどのような「問い」をどのような順で投 げかけるかには無限のパターンが存在し、各校の実態に応じた設定が必要である。授業の中で問いに答えること ができたが、ねらいである深い理解には到達できなかった生徒がおり、 「問いのつながり」に課題が残った ・ 「基軸となる問い」を中心に置いた授業は、授業実践の評価・分析・改善にも一つの指針を与えるものと思わ れる。授業実践後の研究協議において、問いを設定することに対して肯定的な意見が多かった。また、 「こうい った問いの投げかけの方が効果的ではないか」等の意見も出され、授業改善に新たな視点を与えるものとなり得 る。つまり、 「どのような問いを立てれば生徒に身に付けさせたい力を付けさせることができるのか」というこ とと、 「そのためにどのような活動が効果的であるのか」ということに焦点を当てた授業実践の評価・分析・改 善という手法により、授業を分析して改善の方向を検討することができることが分かった。 4.研究参加者より (1)小田原高等学校 坂本和啓教諭 ・ 「基軸となる問い」を意識することにより、授業のねらいや構成をより明確にできた。特に上位の問いや他の 時間の問いと緊密に関係し、整合性を持つような形で本時の問いを考える過程で、単元−本時−展開の異なる水 準の問いや、 各時間どうしの問い、 各展開どうしの問いのつながりについて、 曖昧な部分に気付くことができる。 それをフィードバックして検討し直す中で、基軸となる問いがより明確になり、それに従って各時間、各展開の つながりも明確になった。グランドデザインを持つて、現在の位置を確認しながら授業をしていく上では有効な 方法であると考える。 ・ 自分の実践では「住民の声を活かして地方を活性化するためにはどうしたらよいか」という問いを設定した が、この問いは、前半に重点をおくと「住民の声を活かすためにはどうしたらよいか」 、後半に重点をおくと「地 方を活性化するためにはどうしたらよいか」となる。理由は、前者の問いは「市民の声を活かした政治を実現す るためにはどうしたらよいか」というより上位の問いとの関係の上で設定し、後者の問いはグループワークのテ ーマ設定した際に出てきた問いであったからである。ここで、単元−本時−展開の問いの関係を完全な階層秩序 で構築することの難しさを感じるとともに、 必ずしも基軸となる問いからトップダウン式に問いを立てるのでは なく、生徒の関心に即した問いのゆるい形の集合という構成もありえるとも考えた。 ・ 「授業実践の評価・分析及び改善に向けての方策」について、基軸となる問いを立てることで、授業実践を評 価する基準がはっきりする。基軸となる問いや各時間の問いを定めることで、ねらいは明確になり、生徒がその 答えに到達したかどうかで授業の評価ができる。答えに到達できなかった場合、問いの立て方や、答えを導き出 すための指導や教材の適切さを点検することで、課題の分析ができ、改善の方策が見付けやすそうである。 (2)瀬谷高等学校 古川竜三教諭 ・ 「基軸となる問い」を基にして単元計画や本時の授業計画を作成したが、まさに、計画を練る際の軸となった。 基軸となる問いから派生させた問いを単元や、本時展開ごとに設定することにより、生徒の学習活動が円滑に進 んだ。また、問いを発問やワークシートの課題で投げかけることによって、本時のテーマや学習内容を的確にと らえる生徒が多くなったことは、実施したアンケート結果からも確認できた。グループワークでも、生徒同士で 課題を適切にとらえられていたため、話合いが円滑に進んだ。 ・ 問いを投げかける順番を変え複数クラスで授業実践をした結果、グループワークにおいて異なる意見やその 理由が多数出た。授業計画を作成する際、どの場面で問いを発するかについても大切な要素であることがわかっ た。 ・ 「授業実践の評価・分析及び改善に向けての方策」について、基軸となる問いを立てることは、計画を練る上 でも、授業を展開する上でも有効な手段といえる。問いを投げかける順序や、グループワークなのか、発問なの かなど、問いを精選しながら計画を立てることが今後の課題である。また、授業後の研究協議や教科会で、新た な発想や改善点が挙げられた。教科内で問いについて話合いを持ち、問いの精選、順序立てを構成することが、 授業内容をより良いものにできる。 5.おわりに 「基軸となる問い」という言葉は、 『中等教育資料』等では地理歴史科(世界史)において主に示されている。 公民科においては、平成 26 年 7 月 15 日に行われた「平成 26 年度高等学校各教科等担当指導主事等連絡協議会 (公民部会) 」における「言語活動の充実」についての行政説明の中で、 「生徒が学習の見通しを立てたり、学習 したことを振り返ったりする学習活動」を計画的に取り入れることが強調され、その際に、このような言語活動 を世界史では「基軸となる問い」と提案していると説明された。 単元指導計画を立てる際に、教科会など担当者間で、生徒に付けさせたい力や「思考力・判断力・表現力」を 育むためにどのような言語活動を行うかについて共有することが、 組織的な授業改善の推進において大切な要素 となる。しかしながら、この部分に触れた実践報告はまだ少ない。そのため、 「問い」という形で生徒に付けた い力を表現し、その問いを解くために適切な「言語活動(レポート・グループワーク・ペアワーク・調べ学習な ど) 」を教科で検討することにより、組織として授業改善を図ることができると考え、問いを中心とした単元指 導計画を作成し、授業実践を行った。 その結果、指導者が授業を組み立て、実践する際にねらいが明確になる、生徒にとってもその授業でどのよう な活動をし、何を考えればよいかが明確になる、などの効果が見られた。また、生徒の発表やレポート、振り返 りなどから授業がねらい通りに進まなかった場合でも、まず「問い」が適切であったかどうかを検討することに より、授業改善の手がかりとなることが分かった。事後研究会をなどの場においても、問いの設定やそれを解く ための活動を検討し共有することにより、能率よく組織的に授業改善に取り組むことができる。 半面、適切な「問い」の設定には、その教科・科目についての「高度な知識や理解」 、適切な「生徒の状況把 握」が不可欠であることも分かった。この「適切な問い」の設定については、今後の課題としたい。 数 学 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策―」 (2)研究のねらい 今回の研究では、過去2年の本研究会における研究である、“単元の指導計画の充実”、“校内授業研究 テーマに基づく授業づくり”を踏襲した形で行うこととした。各県立学校及び県立中等教育学校においては、 目標に応じた年間の研究計画を作成し、年間に数回の研究授業を行うなど、単元の授業づくりに基づく校内 授業研究が行われており、これらの成果を踏まえた授業実践がなされている。 また、昨年度の研究の結果より、複数(組織)での協議を経た授業(単元)計画が、個人で作り上げたも のより優れていることは明らかである。 しかし、授業改善のための研究授業及び事後の研究協議会を行ったとしても、それが授業の良し悪しに 終始し、単元の授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策についての議論にならない現状もまだまだ見 受けられる。 そこで今回の研究では、各学校の教科という組織を想定し、授業実践後の評価と分析及び改善に主眼を置 き、その手法についての提案をねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 本研究推進委員1名の所属する県立小田原高等学校の R(調査) A(改善) 学校の実態と課題の把握 更なる改善の実施 協力を得て、当委員6名を小田原高等学校数学科教員団 と想定し、RPDCAサイクル(図1)に従い、調査(R)結果 を踏まえ設定した校内授業研究テーマ(P)に基づく授業 P(計画) C(評価) 実践・研究の計画 授業づくりの評価 づくり(D)・評価(C)・改善(A)を踏まえた組織的な取組 研究テーマの設定 目標の達成状況の評価 の効果的な手法等について、特に評価(C)・改善(A)に重 点を置き、研究を行った。単元の流れをしっかりと把握 D(実施) した上で、評価(C)・改善(A)に取り組めるよう、2度の テーマに即した授業づくりの実践 公開研究授業を同一校の同一単元内で実施し、そこで浮 図1 校内授業研究におけるRPDCAサイクル き彫りとなった課題や改善策等を踏まえ、単元の指導計 画の再構成を行った。 研究で取り扱う単元は「ユークリッドの互除法と不定方程式」とし、単元内の授業のうち、ねらいの達 成に向けて特に中心となる2つの授業を公開研究授業とした。さらに、この2つの授業では小田原高等学 校の校内授業研究テーマ「物事について多面的・多角的に捉え、論理的に思考し、表現する能力を育成す るための授業づくり」で示された目標を達成するために、数学的活動(数学学習に関わる目的意識を持っ た主体的活動)を意識し、数学における言語活動(数学的に表現した説明や議論等)を行う場面を重視し た。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て 単元の授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策とし て次の2点のことを行う。 (1)付せんを使用したワークショップ 公開研究授業を行う際の本時の「授業」と、その授業を 含む一連の授業で構成された「単元」における成果と課題 をまとめ、校内授業研究テーマに沿ったねらいの達成状況 について検証を行う。縦軸を「成果⇔課題」、横軸を「授 業⇔単元」とした概念化シート(図2)上に付せんを貼る。 その後、参加した委員及び教職員で協議を行い、類似の 成果 授業 ・研究授業 ・生徒の評価 ・数学的活動 ・単元計画 ・単元全体の 目標達成状況 単元 課題 出された課題に対する解決策の検証 図2 概念化シート 意見をグルーピングすることで、課題や改善点を浮き彫り にし、それに対する解決策を議論しやすくする。付せんは 青とピンクの2色を用意し、生徒の活動や様子は「青」、 教師の投げかけやその他は「ピンク」とし、良い点、改善 点や疑問点を書くこととした。 (2)単元・授業の振り返りシート(以下、「振り返りシー ト」という。) 生徒に振り返りシート(図3)を配付し、毎回の授業後 図3 振り返りシート に振り返りを行う。授業ごとに自らの取組や達成度を4段 階で振り返り、さらに意見や感想をまとめる。シートは単元全体の授業を1枚にまとめており、本時の授 業だけでなく単元を通して身に付けさせたい力の定着の様子を自己評価できるようにする。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立小田原高等学校(全日制) (2)科 目:「数学A」 学 年:1年 (3)単元名:ユークリッドの互除法と不定方程式(第2章 整数の性質) (4)学校の課題:生徒主体の授業の工夫(「生徒による授業評価」の課題より) (5)校内授業研究テーマ: 「物事について多面的・多角的に捉え、論理的に思考し、表現する能力を育成するための授業づくり」 (6)単元のねらい: 2元1次不定方程式を、未知数の係数が互いに素であるときの性質を用いる方法とユークリッドの互除 法を用いる方法の2通りの方法で解くことができるようにする。また、RSA暗号の暗号化・復号化の体験 を通して、数学のよさを認識し、それらを事象の考察に積極的に活用することができるようにする。 (7)本単元で身に付けさせたい力: 整数の性質についての理解を深めそれを事象の考察に活用し、自分で考えたことを他者に説明する力。 (8)単元の評価規準 関心・意欲・態度 ・RSA暗号の暗号化・ 復号化の体験を通し て、数学のよさを認 識し、それらを事象 の考察に積極的に活 用しようとしてい る。 数学的な見方や考え方 ・ユークリッドの互除 法の仕組みをアルゴリ ズム化し、それを用い て2数の最大公約数を 導く過程を考察するこ とができる。 数学的な技能 ・2元1次不定方程 式を、未知数の係数 が互いに素であると きの性質を用いる方 法とユークリッドの 互除法を用いる方法 の2通りの方法で解 くことができる。 知識・理解 ・除法の性質を理解するととも に、すべての整数を正の整数 m で割った余りによって分類する 考えを理解している。 (9)校内授業研究テーマに基づく単元計画の工夫 ◆単元計画の柱 物事について多面的・多角的に捉え、論理的に思考し、表現する能力を育てる授業づくり (校内授業研究テーマ) 提示する問題の工夫 ①問題解決を通して、数学的な概念や法則を習得・活用できる問題。 ②問題解決を通して、数学的な見方や考え方を身に付けられる問題。 ③生徒一人ひとりにとって解決する必要性のある問題。 ④多様な思考ができる問題。 考えの共有化 事象の考察に活用 生徒個々の考えを授 習得した数学的な概 業で共有すること 念や法則を日常生活 で、多様な見方や考 における問題に活用 え方があることを理 させる。 解させる。 ◆単元指導の概要(全4時間) 1時 2時 除法の性質を理解させるとともに、すべての整数を正の整数 m で割った余りによって分類す る考えを理解させる。合同式も扱う。 「27263と23701の最大公約数」を求めるために、まずは容易に素因数分解できる2数の最大 公約数を「長方形のタイルをできるだけ大きな正方形ですきまなく敷き詰める」方法を用い て、その手順をアルゴリズム化し、容易に素因数分解できない2数の最大公約数を導く過程 を考察させる。 3時 4時 2元1次不定方程式を、未知数の係数が互いに素であるときの性質を用いる方法と、ユークリッ ドの互除法を用いる方法の2通りの方法で解くことができるようにする。 RSA暗号の暗号化・復号化の体験を通して、数学のよさを認識させる。 (10)単元の指導と評価の計画【 評価の観点 a:関心・意欲・態度 b:数学的な見方や考え方 c:数学的な技能 d:知識・理解 】 評価の観点 評価 時 学習内容 学習活動 ねらい 評価規準 方法 a 1 2 10/7 3 除法の性質 と整数の分 類、合同式 ユークリッ ドの互除法 2元1次不 定方程式 4 RSA暗号 10/14 ・整数を正の整数 m で割った余りに 関する命題の証明 について考える。 ・合同式の定義、 性質を理解し、合 同式を解く。 ・ 「 27263 と 23701 の最大公約数を求 めよ」という問題 を通して、素因数 分解が容易にでき ない2数の最大公 約数の求め方につ いて考える。 ・整数解の求め方 と2元1次不定方 程式の解法を理解 する。 ・2元1次不定方 程式にユークリッ ドの互除法を活用 する。 ・実際に使われて いるRSA暗号の仕組 みについて学び、 グループ同士で暗 号化・復号化の体 験をする。 b c すべての整数を 正の整数 m で割 った余りによっ て分類する考え を理解させる。 素因数分解が容 易にできない2 数の最大公約数 の求め方につい て、ユークリッ ドの互除法が有 用であることに 気付かせる。 未知数の係数が 互いに素である ときの性質を用 いる方法とユー クリッドの互除 法を用いる方法 の2通りの方法 で解くことがで きるようにす る。 RSA 暗 号 の 暗 号 化・復号化を体 験することを通 して、数学のよ さを認識させ る。 d ○ ○ ○ ○ 除法の性質を理解 するとともに、す べての整数を正の 整数 m で割った余 りによって分類す る考えを理解して いる。 ユークリッドの互 除法の仕組みをア ルゴリズム化し、 それを用いて2数 の最大公約数を導 く過程を考察する ことができる。 行動観察 ワークシ ート 振り返り シート 2元1次不定方程 式を、未知数の係 数が互いに素であ るときの性質を用 いる方法とユーク リッドの互除法を 用いる方法の2通 りの方法で解くこ とができる。 行動観察 ワークシ ート 振り返り シート RSA暗号の暗号化・ 復号化の体験を通 して、数学のよさ を認識し、それら を事象の考察に積 極的に活用しよう としている。 行動観察 ワークシ ート 振り返り シート 行動観察 ワークシ ート 振り返り シート (11)【D】第2時の学習指導案 ①実施日:平成26年10月7日(火) 授業担当者:厚美 香織 教諭 ②授業クラス:1年2組 36名 ③本時のねらい:ユークリッドの互除法の仕組みをアルゴリズム化し、それを用いて2数の最大公約数を 導く過程を考察することができるようにする。 ④本時の指導内容 授業 展開 導入 (5分) 展開 ① (60分) 学習活動 問題を考える。 <問題> 27263と23701の最大公約数を求めよ。 指導上の留意点 ・簡単には素因数分解できない。どうするか。 ・素因数分解では簡単に求まら ない2数を提示する。 ・では今日は、素因数分解とは 違う方法で、最大公約数を求め てみよう。 ・(復習)縦84cm、横90cmの長方形の壁を、で きるだけ大きな正方形のタイルですき間なく敷 き詰めるとき、タイルの1辺の長さを求めよ。 ・既習の問題と関連付けて、素 因数分解以外の2数の最大公約 数の求め方を考えさせる。 評価の観点 <素因数分解で求める> 84=22・3・7 90=2・32・5 最大公約数は6、よって1辺の長さは6cm。 <長方形の図で考える> 長方形をできるだけ大きな正方形で敷き詰め る方法で最大公約数の求め方を考える。 ・(1)9×15マスの長方形 (2)14×35マスの長方形 (3)21×49マスの長方形を事 前にペア分用意しておく。 ・84×84の正方形と6×84の長 方形に区切って考えようとして いる生徒に板書させ、他の生徒 にその考えを説明させる。 ・(1)∼(2)の作業の手順をアル ゴリズム化した式を書かせる。 ・4人グループで解かせる。 展開 ① どうやったらい いんだろう? これだと一番 大きくなるよ! ・互除法の原理の説明をする。 (60分) ・ペアで解決する。 (1)49と21の最大公約数を求める。 (2)30と18の最大公約数を求める。 <問題> 27263と23701の最大公約数を求めよ。 ・教師による互除法の原理の説明を聞く。 ・4人グループで解かせる。 ユークリッ ドの互除法 の仕組みを アルゴリズ ム化し、そ れを用いて 2数の最大 公約数を導 く過程を考 察すること ができる。 【数学的な 見方や考え 方】 ・<演習> ユークリッドの互除法を用いて次の2数の最大 公約数を求める。 (3)1219と371 (4)3713と1081 (5)5355と1904 展開 ② ・ユークリッドの互除法の手順を逆にたどるこ とを通して、最大公約数の性質について考え る。 ・ユークリッドの互除法を用い ることによって、a、b の最大 公約数 d は、a の整数倍と b の整数倍の和として表すことが できることを強調する。 ・補充問題「315と255の最大公約数 d を求め、 d を315の整数倍と255の整数倍の和として表 せ」を解く。 ・授業の感想を書かせる。 (振り返りシート) (15分) まとめ (10分) (12)【C】第2時の検証 本時は、授業の導入において、「容易に素因数分解できない2数の最大公約数を求める」場合、既習し た知識だけで解くことが難解であることを示した上で、ユークリッドの互除法を生徒に紹介し、その有用 性を理解させた。長方形の紙を使って生徒自ら作業し、ユークリッドの互除法の仕組みを理解させる流れ は生徒の学習意欲を引き出す効果があったと言える。 その要因は、生徒一人ひとりに長方形の紙を配り、「長方形上に同じ大きさの正方形を敷き詰めるとき の正方形の一辺の長さを求める」問題を計算上で解決するのではなく、生徒自身が長方形の紙を折って試 行したことにあると考えられる。さらに、生徒同士でペアを組み、その検証を行う過程で更なる試行を図 る生徒もいた。正しい解答を出すことだけが目的ではなく、生徒自身が自ら考える過程の大切さを改めて 感じさせる授業であり、ユークリッドの互除法の仕組みもよく理解できていた。 表1に示した生徒アンケートの結果から、質問①,②においては本時の目標が達成できたと判断できる。 表1 本時に対する生徒のアンケート結果 ①今日の授業のねらい(何を勉強するか)がわかりました よくわかった だいたいわかった あまりわからなかった 26人 9人 0人 そう思う だいたいそう思う あまりそう思わない 33人 2人 0人 よく理解できた だいたい理解できた あまり理解できなかった 13人 22人 0人 深まった 少し深まった あまり深まらなかった 9人 22人 4人 か。 ②生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する機会があ る機会がある授業だと思いましたか。 ③今日の授業の「内容」が理解できましたか。 ④単元の振り返りシートで学習の内容が深まりましたか。 ・割る数を余りで割ることの理屈がよくわかりませんでした。 ○付せんを使用したワークショップより 本 課題 解決策 ・長方形の中に大きさの異なる様々な正方形を 作る際に、敷き詰めるときの正方形の一辺の長 さが、長方形の縦と横の長さの最大公約数にな ることが十分理解できない生徒がいた。 ・左記の説明が不十分なままaとbの最大公約数を求 める際に「a=bq+r」の式に移行したため、機械的 には求め方を理解したが、この方法で最大公約数を 求められる理由の理解が不十分で終わってしまっ た。元の長方形の縦と横の長さの最大公約数が、最 も大きな正方形を取り除いた長方形の縦と横の長さ の最大公約数になっていることを時間をかけて説明 することや、使用する長方形の縦と横の長さについ てより適切な値を検討することによって改善され る。 ・今回の授業においては、ユークリッドの互除法の 指導の中で、ペアワークやグループワークに十分に 時間を取り、次回の「2元1次不定方程式」につな げた方が良かったのではないか。 時 単 元 計 画 ・今回の授業のねらいは「ユークリッドの互除 法の有用性」を生徒に気付かせることであった が、後半のテーマにおいた「315と255の最大公 約数dを求め、dを315の整数倍と255の整数倍の 和を表せ。」の問題が今後どのようにつながっ ていくのか、その意図が見えなかった。 (13)【D】第4時の学習指導案 ①実施日:平成26年10月14日(火) 授業担当者:厚美 香織 教諭 ②授業クラス:1年2組 36名 ③本時のねらい:RSA暗号の暗号化・復号化の体験を通して、数学のよさを認識し、それらを事象の考察に 積極的に活用することができるようにする。 ④本時の指導内容 授業 展開 導入 (10分) 学習活動 指導上の留意点 ・数当てゲームをする。 ①1∼9の好きな数を思い浮かべる。 ②その数を5乗する。 ③5乗した数を10で割る。その余りを出す。 異なる素数 p、q に対して、 n = pq、L =LCM( p-1,q-1)とする。 任意の正の整数 x に対して、 x mL 1 x (mod n) (mは整数) ・数の演算を行った後の、余り だけを聞き、どの数か当てるゲ ームを教師の発問により全員に 取り組ませる。 ・数表を活用しながら、RSA暗 号に使われている基本定理に気 付かせる。 評価の観点 ・暗号の仕組みを知る。 ①2つの素数を選ぶ。( p = 2、q = 5) ② n= pq、L=LCM( p -1,q-1)を計算。 (n =2×5、L =LCM(2-1,5-1)=LCM(1,4)= 4) ③Lと互いに素な整数 e を選択する。(e =7) ④秘密鍵を作成するため、ed=mL+1となるよ うな整数 d を求める。 展開 (d ① (15分) mL 1 4m 1 4 5 1 3) e 7 7 ⑤伝えたい文をM,暗号文をCとすると、 暗号化: M (2 7 (8 3 C (mod n) e d M (mod n) ・合同式の解き方を隣の生徒と 確認させる。 512 2(mod 10) よって、M = 2) <暗号を解読して宝物を見つけ出せ!> 暗号文C =14、公開鍵 n=33、e=7 ①n =33を2つの素数の積に分解 33=3×11、p =3、q =11とおく。 ②L=LCM( p-1,q-1)を計算 L=LCM(3-1,11-1) =LCM(2,10) =10 展開 (20分) この余りの表で 考えてみよう! 128 8(mod10) よって、C = 8) ⑥復号化: C ② ・暗号の仕組みを分かりやすく 説明する。 ③秘密鍵 d ・与えられている情報は公開鍵 のnとeのみであるから、秘密鍵d を求めるためには、nを素因数 分解し、Lを求める必要がある ことに気付かせたい。 mL 1 が整数となるような数d e を求める。( d 10m 1 10 2 1 3) 7 7 ④復号化する。 C d 143 2744 5(mod 33) 計算が大変!! 宝物の在処は5。 展開 ③ (40分) ・4人グループになり、グループ対抗で暗号ゲ ームを行う。 ① 自分のグループで、公開鍵と秘密鍵を作成 し、宝物を隠した場所を暗号化する。 ② 隣のグループに公開鍵と暗号文を渡す。 ③暗号文を渡されたグループは、秘密鍵を見 つけ、暗号文を解読する。 ④宝物を探す。 ・暗号化と復号化に当たって は、4人グループを2人ずつに 分け、縦と横の番号をそれぞれ 担当させる。 RSA暗号の暗 号化・復号 化の体験を 通して、数 学のよさを 認識し、そ れらを事象 の考察に積 極的に活用 しようとし ている。 【関心・意 欲・態度】 ・RSA暗号の暗号化・復号化の体験を通して、数 学のよさを認識する。 まとめ (5分) ・実際に使われているRSA暗号 の仕組みについて説明する。 ・実際のRSA暗号では、素数と 素数を掛け合わせた後の数(法 とする数)が310桁にもなる数 を用いており、その素因数分解 の困難さが暗号の安全性を担保 していることを伝える。 ・授業の感想を書かせる。 (14)【C】第4時の検証 RSA暗号の暗号化・復号化の方法を一通り説明し、簡単な暗号化・復号化に取り組ませた後、グループに分 け、「暗号を復号化し宝の在り処を見つけ出すという課題」と「宝の在り処を暗号化し、他のグループに宝の 在り処を見つけ出してもらうという課題」をグループ内の生徒同士の話合いで解決するという形態で授業を行 った。 複雑な暗号化・復号化の仕組みを丁寧に指導し、また、RSA暗号という題材が生徒の興味関心を引く題材で あったため、暗号化・復号化に対する取組は非常によく、「RSA暗号の暗号化・復号化を体験させる」という 目標は達成することができた。また、後者の課題には戸惑う生徒が多く、時間内に学習内容を理解させるとこ ろまではできなかった。表2は生徒アンケートの結果である。 表2 本時に対する生徒のアンケート結果 ①今日の授業のねらい(何を勉強するか)がわかりました よくわかった だいたいわかった あまりわからなかった 12人 22人 2人 そう思う だいたいそう思う あまりそう思わない か。 ②生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する機会があ る機会がある授業だと思いましたか。 ③今日の授業の「内容」が理解できましたか。 29人 7人 0人 よく理解できた だいたい理解できた あまり理解できなかった 8人 21人 7人 深まった 少し深まった あまり深まらなかった 10人 23人 3人 ④単元の振り返りシートで学習の内容が深まりましたか。 ○付せんを使用したワークショップより 課題 解決策 ・課題に取り組んでいる際、暗号化と復号化の 手順に戸惑う生徒がいた。 ・暗号化と復号化の説明の後、スモールステップで 何度か演習させ、その手順を習得させる。また、暗 号の仕組みが分からないままでは暗号化・復号化の 理解が乏しいため、RSA暗号の基本定理をより意識 させる授業展開の工夫が必要である。 ・合同式の授業(第1時)の場面で丁寧に指導する だけでなく、合同式の利用を気付かせるような働き かけの工夫が必要である。 本 時 ・余りを求める場面において、合同式を利用で きていなかった。 単 元 計 画 ・合同式の知識が身に付いていなかった。 ・単元計画にゆとりを持たせ、演習問題を増やすな どして定着を図る。また、家庭学習を充実させるな どの工夫も考えられる。 ○振り返りシートより 複雑な暗号の仕組みと計算の複雑さから難しかったと感じる生徒が多かったようだが、楽しかったとの 記述も大変多く、RSA暗号という題材が生徒の興味・関心を引く題材であるということが言える。また、実 際に世の中で使われている暗号の仕組みの中にある数学を体験できて、数学を学ぶ意義を感じることがで きたという意見もあった。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 <単元の検証> 1時 単元の成果 2時 (本時) 3時 4時 (本時) 単元の課題 除法の性質を示し、それを基にして整数を正の整数で割ったときの余りによる分類の考え方を理解させ ることができた。また、整数問題の解決のための強力な道具に合同式があることを学習させ、17の2012 乗を48で割った余りも、適切な合同式の操作により比較的簡単に求められるよさを実感させることがで きた。 2数の最大公約数を長方形を使って考えることを通して、生徒たちが互除法の原理に気付き、それをア ルゴリズム化することによって、桁数が大きい2数の最大公約数を求めさせることができた。また、ユ ークリッドの互除法の手順を逆にたどることによって、最大公約数の性質(正の整数a,bの最大公約数 をdとすると、ax+by=dを満たす整数 x,yが存在する。)が導かれることを理解させることができた。 前時に学習した最大公約数の性質を用いて、2元1次不定方程式を、未知数の係数が互いに素であると きの性質を用いる方法で解決させることができた。また、その発展として、不定方程式の係数a,bがや や大きい場合の2元1次不定方程式を、ユークリッドの互除法を用いる方法で解決させることができ た。 まず生徒に1∼9までの数を1つ決めて5乗、9乗、13乗…し、その数を10で割った余りを教師が当て るというゲームで導入し、数表を見ながらRSA暗号で使われている基本定理を理解させた。その後、暗 号化・復号化の手順を説明し、あるグループで暗号化した暗号文を他のグループが解読する学習を行っ た。暗号化・復号化の計算は手間がかかるものであったが、グループで協力して粘り強く問題解決をさ させることができた。また、一部の生徒であったが、数学のよさを認識させることができた。 4時で行ったRSA暗号の暗号化・復号化の際に、合同式の計算が重要になる。1時で学習した合同式の 計算の演習が不十分であったために、電卓を使って余りを算出してしまい、合同式の性質を使って解い ている生徒が少なかった。4時の暗号化・復号化における計算の説明の際、単元のつながりを意識し て、合同式の計算についてもう一度丁寧に説明するべきであったと思う。 単元の授業実践の評価と分析及び改善に向けて試みた2つの方策から、次の評価及び分析を行った。 (1)付せんを使用したワークショップ 実践事例1及び2における研究協議会で模造紙に貼り出された付せんをまとめた模式図を図4、図5に 示す。各教員が授業中に感じた意見を付せんに記し、協議会において「成果⇔課題」「授業⇔単元」の2 軸を設けた模造紙に貼り出すと、その意見が大きく分類され、課題や改善点が浮き彫りにされた。これに より、協議する論点や今後の授業の改善点が明確になる。 協議の進行においても、「すべての付せんを模造紙に貼り出す→似た意見をグルーピングする→課題や 改善点を議論して解決する」方法や、「ある教員が付せんを貼って意見を述べる→その意見に対し別の教員 が付せんを近くに貼って意見を述べる→繰り返して意見を展開させ課題や改善点を解決する」方法が取り入 れられた。前者は議論の冒頭から全体の意見が整理して把握でき、後者はテーマが絞られ発言回数が増えて 積み上げる議論が展開できた。課題解決のための目標を明確にして協議を進行することで、ワークショップ の質を向上することができた。 ワークショップの具体的な内容について、実践事例1においては、互除法について生徒が自ら考え説明 するという活動により数学的な見方や考え方が育まれたと考えられる“授業の成果”と同時に、その後の互 除法のまとめや活用の場面で単元内のつながりが弱まってしまったという“単元の課題”が挙がった。実践 事例2では、RSA暗号への生徒の取組の様子が“授業の成果”として、単元を意識した課題学習の実施が “単元の成果”として評価されたが、既習事項の合同式及びフェルマーの小定理の活用や有用性が十分に生 かされなかった点が“単元の課題”として挙げられた。 本時の授業と単元全体の両面から授業を観察・評価することで、授業の質の向上と同時に単元構成の検 討を通した広い視野での授業改善につながった。この検証結果は、次の授業へ反映されるとともに、単元全 体を見直して他の教員の授業や次年度の授業の改善にもつながり、短期的・長期的な授業改善となった。 成果 進行・工夫 単元の意識 進行・工夫 ・前時のつながり ・適切な助言 ・折り紙の使用 振り返りシート ・全体の見通し 授業 ・自主的な取組 単元 ・生徒の疑問の 解決が不十分 ・まとめが不足 進行・まとめ 進行・まとめ 課題 ・後半は知識の 伝達になった ・単元の作り方 単元の構成 単元の構成 図4 実践事例1のワークショップ 教材の工夫・活用 成果 振り返りシート 教材の工夫・活用 振り返りシート ・興味関心向上 ・授業の最初に ・教師の導き 復習している 生徒がいた 授業 ・学び合いの場 単元 ・暗号の仕組の 理解が不十分 ・表の活用不足 説明の工夫 課題 ・合同式を活用 していない ・理解度の差 生徒の取組 図5 実践事例2のワークショップ (2)振り返りシート 今回の研究で使用した振り返りシートを図6に示す。1時から4時までの学習内容を4段階評価するも ので、教員側はこれにより生徒個々への支援や今後の授業の計画へ活用する材料とすることができる。 また、生徒が記載したシートの4段階評価の結果をまとめたものを図7に示す。「かなり当てはまる」 「ほぼ当てはまる」の割合の合計は、1時から3時に進むにつれて増加しているが、4時に大きく減少し ていることが分かる。このことより、単元を通して整数の性質についての理解を深められたが、4時の課 題学習で既習事項を活用できなかった生徒が増えたと分析でき、他の教員の授業や次年度の授業の改善へ の材料とすることができる。 単元・授業の振り返りシート 単元名『 』 年 授業日( 月 日 ∼ 月 日) 組 番 氏名 担当教員 先生 (評価 4:かなり当てはまる、 3:ほぼ当てはまる、 2:あまり当てはまらない、 1:ほとんど当てはまらない) 項番 1 授業日 学習内容 アンケート 評価 月 日 除法の性質 すべての整数を正の整数 m で割った余 と整数の分 りによって分類する考えを理解すること 4・3・2・1 校時 類、合同式 ができた。 月 日 2 校時 月 日 3 校時 月 日 4 校時 ユークリッドの互除法の仕組みをアルゴ ユークリッ リズム化し、それを用いて2数の最大公 4・3・2・1 ドの互除法 約数を求めることができた。 二元一次不定方程式の解の意味について 二元一次不 理解し、簡単な場合についてその整数解 4・3・2・1 定方程式 を求めることができた。 RSA暗号に関心をもつとともに、数学 RSA暗号 のよさを認識し、それらを事象の考察に 4・3・2・1 積極的に活用しようとしていた。 単元終了後に振り返りましょう。 月 ユークリッドの互除法の仕組みをアルゴ リズム化し、それを用いて2数の最大公 約数を求められるようになった。 4・3・2・1 2時 まとめ② 二元一次不定方程式の解の意味について 理解し、簡単な場合についてその整数解 4・3・2・1 を求められるようになった。 3時 校時 月 日 6 校時 かなり当てはまる ほぼ当てはまる あまり当てはまらない ほとんど当てはまらない 1時 まとめ① 日 5 意見・感想 4時 担当教員欄 0% 図6 振り返りシート 20% 40% 60% 80% 図7 振り返りシートの分析 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果と課題 本年度も生徒の数学的活動およびコミュニケーション活動を通して、生徒参加型の授業を達成するこ とができた。また、研究協議においては活発に意見交換ができ、「RPDCAサイクル」のCとAの重要性を実 感することができた。 ①付せんを利用したワークショップでは、授業だけではなく、単元内での学習内容のつながりを協議 することができ、書かれた内容の一つひとつを丁寧に拾い上げることで話が深まるとともに、改善点・課 題を抽出するという成果が得られたが、ワークショップの手法における課題としては、協議内容として 個々の授業の話題が中心となり、単元を見通した話題を充実させられなかったことや、生徒の意見(振 り返りシートや授業の生徒用アンケート)を話題の中にあまり反映させることができなかったこと等が 挙げられる。 ②振り返りシートでは、単元内での理解の深まりを分析できたという成果が得られた。さらにその分 析から、ワークショップで出された意見同様、4時の課題学習において1時の既習事項を活用できなかっ たといった生徒の声を拾い上げることができたが、振り返りシートの課題としては、単元終了後に振り返 る際の質問項目が授業を振り返る際の質問項目と重なっており、単元を貫く視点の質問項目が不足して いた点や、記載された生徒の意見をワークショップに生かしきれなかった点等が挙げられる。 (2)改善に向けた方策 ①付せんを利用したワークショップでの課題を改善するために、参加者に協議の趣旨をより丁寧に説 明することや、生徒が記載した振り返りシートやアンケートの内容、さらに生徒の学習状況の評価など も資料として分析することで、より深まった協議が行えると考えられる。 ②振り返りシートでの課題を改善するために、振り返りシートの質問項目を見直し、単元終了後に振 り返る際の質問項目を単元を貫くような項目にするなど、より分析しやすいものになるよう工夫するこ とや、生徒用アンケートの質問項目をより具体化したり、自由記述欄とは別にコメント欄を項目ごとに 設けるなど生徒が記録しやすい形にすること、また振り返る時間をきちんと設定することで生徒自身が 有益な振り返りができるような工夫ができると考えられる。 100% 理 科 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進−単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方 策」 平成21年3月に告示された高等学校学習指導要領の実施にともない、確かな学力の向上に向けた取組 を一層推進することが求められている。とりわけ、「思考力・判断力・表現力等」の育成を図る授業づ くりが必要であり、学校の課題を踏まえ、研究テーマ及び生徒に身に付けさせたい力を設定し、その力 を高めるための授業の展開方法及び校内授業研究の在り方について実践を行い、授業実践の評価と分析 及び改善に向けての方策について研究した。 (2)研究のねらい 神奈川県高等学校教育課程研究会研究推進委員会(理科部門)(以下「推進委員会」という。)では、 組織的な授業改善を推進するために次の点が有効と考え、これらを実践し検証することをねらいとした。 ・生徒の実態把握と学校としての課題の共有化 ・生徒に身に付けさせたい力の設定(「協働して学び合い、主体的に考えようとする力」) ・学力の三要素、特に「思考力・判断力・表現力等」の育成を図る授業の展開方法 ・授業の展開方法として、「学び合いのある授業」の実践 ・授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策を、研究の成果と課題で示すことにより、各学校及び教 員一人ひとりの授業改善に役立てること 2.研究で取り組んできた内容 (1)授業研究の在り方について 推進委員会では、委員の所属校の実態や授業改善の取組状況等を把握し、生徒に身に付けさせたい力 として「協働して学び合い、主体的に考えようとする力」を設定した。その方法として「学び合いのあ る授業」を取り入れた授業の単元の指導計画から指導案づくりを、委員間の意見交換を通して行った。 単元の指導計画の検討は、委員を物理・化学分野と生物・地学分野の2つのグループに分け、委員の 作成した単元の指導計画を検討し、授業実施科目を物理基礎と生物基礎として進めた。更に、委員の持 ち寄った単元の指導計画を精選することにより指導案づくりを行った。検討の後半では、2つのグルー プを統合し、公開研究授業を行う委員の所属校の状況を踏まえ、意見交換を行い、指導計画の改善を図 った。その後、公開研究授業を実施し、公開研究授業後の検討会において実施した授業について検証を 行った。 (2)研究の対象とした各科目の単元及び内容とその手立て ア 物理基礎では、「音波」の単元を取り上げ、10の班に対し5種類の実験を2班ずつ行わせ、観察や実 験を通し、音波のさまざまな性質について考察し、論理的に説明する力を付けさせる実践を行った。 学習指導要領には、「観察や実験の目的を一人一人の生徒が明確に把握し、見通しを持って観察、実 験などを主体的に行う」ことなどが求められているので、このことに留意した。 イ 生物基礎では、「代謝とエネルギー」の単元を取り上げ、「知識構成型ジグソー法」(詳細は【実 践事例 生物基礎】3.(1)参照)を用いて、アルコールパッチテストの結果に個人差がある理由に ついて、主体的に考え、その考えを自ら説明できるようになるための手立てについて研究を行った。 学習指導要領には、「科学的な思考力や判断力を育成するため、生徒一人一人にじっくり考えさせる とともに、グループで協議をさせた後、自らの考えをまとめさせること」などが求められているので、 このことに留意した。 アとイのいずれについても、教材の共有化を踏まえ、授業実施者の計画に基づき、委員の持ち寄った実 験の指導計画や実験の教材などを協議し、それらを組み合わせて指導内容を精選していくことを通して指 導計画を作成し、授業を実施した。 1 【実践事例 物理基礎】 3.研究の目標を達成するための手立ての工夫 (1)生徒を主体的に考えさせるための工夫について 音波の基本的な性質について、生徒が自ら主体的に考えるために、本時はすべての班が同じ課題に取 り組むのではなく、5種類の実験を2班ずつ行う形態とした。実験に使用する器具は教員が指定し、生 徒には達成すべき課題のみを与え、実験の方法から考えさせるようにすることで、班員同士のコミュニ ケーションが活発になり、言語活動の充実につながるような工夫をした。この実験結果から音波の性質 として考えられることを考察し、単元への理解を深められるようにするとともに、各班が互いに発表し 合い実験結果を共有することで、クラス全体での「学び合い」が可能になるように配慮した。 このような自由度の高い実験においては、実験方法がわからず班の話し合いが停滞することがないよ うに、机間指導をしながらヒントを与えることで、学ぶ意欲を高める配慮が必要である。考察において も、得られた結果から考察する内容は班員によって異なり、場合によっては間違った解釈をすることも あるため、適宜指導を行った。 (2)ワークシート等の工夫について 自由度が高いため、生徒の実験によってどのような結果が期待できるかを、生徒に記述させる方法に 注意を払った。実験結果を記載するシートは全員には配らず、班で1枚模造紙を用意し、必要最低限の 内容をあらかじめ記載させた。これは、一人ひとりがそれぞれ1枚のワークシートを手にすると、情報 共有よりも先に個人でワークシートに取り組んでしまう傾向があるため、班内のコミュニケーションを 円滑に行わせるための配慮である。 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立多摩高等学校(全日制) (2)学校の課題:言語活動の充実 (3)実施校における研究テーマ:「言語活動」を中心とする「コミュニケーション能力の向上」「相互理 解の育成」「自己肯定感の育成」に主眼をおいた授業実践の評価と分析 (4)科目:物理基礎 学年:2学年39名 (5)単元名:音波 (6)単元のねらい: 波動の一例として、身近な音波の現象を、実際の体験を踏まえながら物理学的思考を 基に考察し、探究する。 (7)単元で身に付けさせたい力: 音波に関する現象を、聴覚、視覚を用いながら考察することで、自然現 象を科学的見地から理解し、それを論理的に表現する力。 (8)単元の指導と評価の計画(本時は太枠) 時 学習 間 内容 1 学習項目 ねらい 音波の 身近な音の現象に 音の性質について実験 性質を 関する実験を行う。 し、現象に関心を持つ。 評価の観点 a b ◎ c 評価規準 評価方法 実験内容を適切に記録し、音 実験記録用紙の記述 d ⃝ の性質に関心を持っている。 内容の分析・発表の仕 知る 2 方・行動観察 音波の 音波の様々な性質 様々な音の性質から、音 様々な班の発表から、音波が ワークシートの記述 伝搬と を、実験結果の発表 波が波動現象であること ◎ ⃝ 波動現象であることを的確 内容の分析 諸性質 を基に考察する活 を理解し、考察する。 に捉え、考察できている。 動を行う。 3 ドップ ドップラー効果に ドップラー効果が起こる ラー効 ついて学習する。 果 ⃝ ドップラー効果という現象 ワークシートの記述 メカニズムに関心を持 に関心を持ち、原理を理解 内容の分析 ち、どのような数学的表 し、知識として身に付けてい 現ができるか理解する。 る。 2 ◎ 4 条件を変えたときのドップ ワークシートの記述 ラー効果について考え、 様々な条件によるドップ ◎ ラー効果について、公式を正 内容の分析 どのような数学的表現が しく導きだしている。 できるか考察する。 5 弦の固 弦楽器が鳴る原理 弦楽器の発音のしくみに 有振動 を、固有振動の観点 から理解する。 6 7 ⃝ ⃝ 弦楽器の発音のしくみに関 ワークシートの記述 関心を持ち、それに関す 心を持ち、弦の固有振動の条 内容の分析 る数学的表現を理解す 件を理解し、知識として身に る。 付けている。 弦の固有振動に関 弦の振動の実験を行い、 弦の振動の実験を適切に記 レポートの記述内容 する実験を行う。 各種の固有振動について 録し、結果から数学的表現と の分析・行動観察 考察する。 の対応を判断できている。 気柱の 管楽器の発音のし 気柱の共鳴現象に関心を 共鳴 くみを、実際の演奏 に接し、数学的表現 ◎ ⃝ ⃝ ⃝ 管楽器の発音のしくみとそ ワークシートの記述 持ち、気柱の共鳴現象を の原理に関心を持ち、気柱の 内容の分析 理解する。 固有振動の条件を理解し、知 を学ぶ。 8 識として身に付けている。 気柱の共鳴に関す 気柱の共鳴の実験を行 気柱の共鳴の実験を適切に レポートの記述内容 る実験を行う。 い、気柱の共鳴現象を考 記録し、結果から数学的表現 の分析・行動観察 察する。 との対応を判断できている。 a: 関心・意欲・態度 b: 思考・判断・表現 ⃝ c: 観察・実験の技能 ◎ d: 知識・理解 ◎=特に重視 (9)取組事例 ①実施日:平成26年11月10日(月) 授業担当者:川田 正允 教諭 ②授業クラス:2学年 39名 ③本時のねらい:音の性質に関する各班の実験を通して、音に関する現象に関心を持つこと。 実験方法を自ら考えることによる、 実験のプロセスを主体的に組み立てる能力の伸長。 班員相互のコミュニケーションが不可欠な状況設定による、言語活動の充実。 ④本時の指導内容: 授業展開 導入(5分) 学習内容と活動 指導・支援 ・「音」とはなにかを考える。 評価方法 ・「これから体験する音」について 紹介し、本時が「音」に関して考察 する時間であることを知らせる。 展開(30分) ・10班に分かれ、実験内容(ミッション) ・「音の性質を探る」実験であるこ が記載された用紙の入った封筒を、各班の とを明確に伝える。 代表者が引く。 ・ミッションごとに器具を分けて準 ・ミッションについて、用意された器材を 備しておき、必要に応じて器具の場 ・行動観察(関心・意 用い、生徒自らが実験方法を考えて実験す 所を伝える。 欲・態度) る。(20分) ↓5つのミッション(各班1つを実験する) ・机間指導しながら、実験が円滑に 進むよう助言する。 ・音速を測定する (クラベス、メジャー、ストップウォッ チ) ・適宜、どのくらい実験に時間を割 ・音の正体を探る けるかを伝える。 (傘袋、発泡スチロール、モーター、割 り箸、ケーブル、音源) ・各班に実験記録用紙を1枚配付す ・音の3要素を調べる る。 (オシロスコープ、マイク、キーボード) 3 ・机間指導しながら、実験結果から ・音階を作る 適切な考察がなされるよう助言す (試験管、水、音源) る。 ・うなりと固有振動を調べる (音叉、チューナー) ・実験室に戻り、実験で得られた結果およ びそこから考えられる考察を行い、実験記 録用紙に記入する。(10分) まとめ(10分) ・実験結果を発表する。 ・発表から考えられることに対して、 ・実験記録用紙の記述 適宜補足説明する。 内容の分析(思考・判 断・表現) ・発表の仕方(思考・ 判断・表現) 5.単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 実験の間、生徒一人ひとりが主体的に生き生きと実験に取り組んでいる様子がうかがえた。何もないところ から組み立てる難しさに生徒が懸命に応えている姿が見られ、生徒、教員共に充実した時間であることが感じ られた。生徒が考えた実験方法はうまくいかない点も多く見られたが、失敗から学ぶことの大切さを彼らに認 識させる良い機会になったと考えられる。 また、今回の実験は与えられたものを実行するだけではなく、生徒が5種類の実験の中から1つの指示書が 入っている封筒を引くことで、分担された役割を全うしようとする責任感から、課題に積極的に取り組んだと 考えられる。 さらに、授業の冒頭で、本時のねらいを確認したことが、その後の授業の深みのある展開につながったとい う意見も出た。 ただ、難しい実験に当たった班は、実験方法を見出すのに苦労していたところもあり、難易度の設定に気を 配る必要もある。そのような状況の中でも、インターネットで調べだす班もあり、何とか自力で課題を解決し ようと奮闘する姿も見られた。実験に必要な時間が足りなかったような班もあり、時間配分を考える必要があ るとの指摘があった。 また、活動が盛り上がるのは良いことだが、到達点が見えにくかったという部分もあり、より明確に到達点 を設定することで、さらに充実した活動になると考えられる。単元のねらいの達成度にやや課題は残ったもの の、 ほとんどの時間が生徒の主体的な取組に当てられ、 併せて活発な言語活動が展開されたことが確認された。 6.成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果 授業計画を立てる際に、生徒が主体的に活動する時間の確保と、原理・法則の説明の時間の確保を両立さ せることの困難さから、今回のような実験を取り入れることが難しいと考えてしまう傾向がある。知識伝達 を中心とした教員主導型の一斉授業は、時間的な効率もよく、知識や理解が深まるように思える。しかし、 実際は、与えられた知識を定着させたり、理解を深めさせたりするためには、生徒自らが主体的に取り組む 必要がある。 本実践は、単元の授業づくりをもとに、音波の波動との関連性を、各論に入る前の段階で行なう導入の位 置付けである。そのため、音波に興味を持ち、その後に扱う音波という具体的な現象に対して、波動の抽象 的な概念を適用するという接続的要素も持ったものである。したがって、波動の知識を元にした音波に関す る知識は与えず、実験器具と実験で求めるもののみを示した上で実験方法から組み立てるという高度な要求 をした。 しかも、 高等学校の物理における実験はほとんどが演繹的に行われる確認実験であることが多いが、 本実験は音波が波動であるために持つ特性を実験から見いだす帰納的な手法であるため、普段、受け身にな りがちな実験の進め方に対し、実験方法から考えるという主体性が必要であった。 また、班員全員で実験方法を考え、共有しなければならないため、必然的にコミュニケーションが生まれ る。その結果、授業は活気にあふれ、生徒が主体的に実験を行っていた。 さらに、10班に対して5つの実験を割り振ったことで、2つの班が同じ実験を行うことになった。この点 4 においても、 他の班と実験結果を共有することで内容の検証が可能になった。 例として音波の測定の班では、 ヒトの反応時の反射の時間を考慮するなど、教員の想定を超えた操作を行った班もあった。このようなこと から、本時では、生徒が短い時間の中で思考、判断し、コミュニケーションがなされながら実験が展開され ていたことが伺えた。 他の班に、自分の班が行った実験をいかに分かりやすく伝えるか、発表のスキルも必要になった。また、 自分が行っていない実験がどのようなものだったかを理解するために、他の班の発表を集中して聞く姿が見 られた。このことは、発表全体のレベルアップにつながった。 学習の評価については、波動と音波の接続性を意図する内容であるため、波動の理論が音波に関する実験 の方法にどれだけ応用できたかを見ることで、評価規準を定めることができる。また、本時における内容を 定期試験の論述式の設問として出題(実験をひとつ挙げ、その実験方法と結果、音の性質として考えられる ものを説明する問題)したところ、正答率が高かった(9割超)。これは生徒自ら主体的に実験を行ったた め、内容が定着しやすかったものと考えられる。この点から、先に述べた教員主導型の授業展開でなかった としても、生徒の知識や理解の定着として十分に役立っていると考えられる。 生徒からの評価は、授業後に「私も発表したかった(時間の関係で発表できなかった班があった)」「他 の実験もやってみたかった」「他の班の実験内容に驚いた」「実験方法から考えるのが難しかったが、実験 は楽しかった」といった意見がみられた。授業実践のアンケートの回答では、授業のねらいが理解できた生 徒が97%、意見交換を行なった生徒は100%、授業内容が理解できた生徒は100%と、何れも高い評価だった。 (2)課題とその改善に向けた方策 本実践の第一の課題は、授業中における教員の指導方法である。本時のような自由度の高い課題の場合、 教員側が想定している流れには必ずしもならない場合がある。その際、机間指導や支援がないと、間違った 帰結に向かいかねないため、教員は授業中に丁寧に指導する必要がある。また、指導や支援の仕方によって は、解答を誘導する発言をしてしまう場合があり、主体的な判断を育成することができなくなるため、発言 する際には気を使う必要がある。 第二の課題は、「到達目標をどこに設定するか」である。本実践における評価は、実験記録用紙の記述内 容の分析、発表の仕方を評価資料として、前述のとおり、「波動の理論を音波に関して応用している」こと を評価規準として設定した。今回は実験、考察、発表を1回の授業内で行ったが、時間が45分間では短かっ た。 時間の制約が大きいと考察や理解が深化しない場合もあるため、 内容の精選と時間の管理が重要となる。 さらに、生徒に「何を身に付けさせたいか」をよりに明確に設定する必要がある。今回は各班の実験の結 果と考察を発表し、生徒同士が共有するところまで進めることができた。しかし、実験時間を十分確保する ことを考えると、実験を計画から実施に移すところで区切る設定も考えられる。実際、別の機会で同様な授 業を行った際には、実験記録用紙の記入までを到達点として設定し、発表は次の時間に行った。その際、音 波の伝搬と諸性質を、生徒の発表をもとに教員が補足説明する形で授業を進め、実験を通して理解を深める 工夫をした。このことで、生徒の到達点の設定に着目すると、実験の結果と考察の共有をどのように行うか という課題が改めて明確になった。なお、ここでの思考力・判断力・表現力等の評価方法として、定期試験 の論述式による「他の班の実験を説明せよ」という設問が考えられる。 この他にも、実験の技能や考察に焦点をあて、実験 の器具と方法を指示し 「実験を正確に実施できている、 また、音の性質を見い出している」という評価規準を 設定する授業展開、あるいは、実験内容のみが指示さ れ、使用する実験器具が指示されない条件での生徒主 体の授業展開など、 様々な方法が考えられる。 今後も、 生徒の実情を勘案し、課題の難易度、到達目標や評価 規準、指導方法や時間配分などの設定を明確にした、 生徒主体の実験の授業実践例が求められる。 ミッション用紙の例 5 ←実験記録用紙の例 ↓生徒発表用のポスター 【実践事例 生物基礎】 3.研究の目標を達成するための手立ての工夫 (1)生徒を主体的に考えさせるための工夫について 生徒の言語活動を充実させ、生徒を主体的に考えさせる授業を実現するため、東京大学大学発教育支 援コンソーシアム推進機構が提案している「知識構成型ジグソー法」を活用した授業を実施した。 ここでいう「知識構成型ジグソー法」について、今回は、後の「4.(9)取組事例」の「④本時の指 導内容」にあるように、4分野のエキスパートになるためのグループ活動「エキスパート」と、課題を解 決するための4人のグループ活動「クロストーク」の2回の独立した活動を行なうこととしたが、これに より、生徒一人ひとりの「資料から読み取る」「考える」「まとめる」「発表する」各能力を育成でき ると考えた。 なお、「知識構成型ジグソー法」については、「平成25年度高等学校教育課程研究集録」理科部門で も取り扱っている。 (2)ワークシート等の工夫について 「知識構成型ジグソー法」で最も重要なポイントは、いかに「エキスパート」セッションを充実させる かである。このために、推進委員会では「エキスパート」セッションで用いるワークシートの内容につい て、設定した「エキスパート」ごとの課題の難易度が適切か、用いる図等が理解しやすいように工夫され ているか等について委員が協議しワークシートを作成した。 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立湘南台高等学校(全日制) (2)学校の課題: 生徒を主体的に考えさせるための工夫 (3)実施校における研究テーマ:「学び合いのある授業」の実践及び評価と分析 (4)科目:生物基礎 学年:1年40名 (5)単元名:代謝とエネルギー (6)単元のねらい:体の中では生命の維持に必要な様々な化学反応が起こっており、これには種々の酵素が 必要なこと、またその性質について実験・議論等を通じて考察する。 (7)単元で身に付けさせたい力:得られた情報の共有や議論を通じて、体の中では生命の維持に必要な様々 な化学反応が起こっており、これには種々の酵素が必要なこと、またその 性質について科学的に考察する力。 6 (8)単元の指導と評価の計画(本時は太枠) 時間 評価の観点 学習内容 学習項目 ねらい 1 代謝とエネル ギー 生体内で多くの化 学反応が起きてい ることを学ぶ。 2 触媒としての 酵素 生体内で起こる化 学反応の触媒とし ての酵素を学ぶ 生命活動にはエネルギーが必 要であり、生体内では様々な化 学反応が起こっていることを 知る。 生体内で起こる化学反応の触 媒として、体内には種々の酵素 が存在していることを知る。 酵素の性質① 酵素の特徴とその 性質について学ぶ。 ※アルコールパッ チテスト実施 酵素の性質につい て議論を通じて理 解を深める。 3 酵素の性質② 4 5 ATP の 化 学 的 性質 ATPが化学的にエネ ルギーを蓄える機 序について学ぶ。 6 酵素の性質と はたらき、ATP のはたらきの まとめ ウミホタルの発光 実験を通じて、酵素 の性質やATPのはた らきについての理 解をまとめる。 評価規準 a b c d ◎ 酵素の性質、①基質特異性、② 最適温度、③最適pHについて、 酵素の分子としての構造と関 連付けて考察する。 資料に基づいた議論を通じて、 ○ アルコールパッチテストの結 果(個体差があること)と酵素 の性質とを関連付けて自らの 考えを整理し、科学的に考察す る。 ATPがエネルギーを化学的に貯 蔵するしくみについて、その化 学的構造と関連付けて考察す る。 ウミホタルの発光現象につい て、これまでに身に付けた知識 (酵素の性質やATPのはたら き)をもとに考察し、説明する。 ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ○ 評価方法 生体内で起こる様々な 化学反応について関心 をもっている。 定期試験 酵素、おもに消化酵素 について、その名称と 働きについて理解して いる。 酵素の性質について、 酵素の分子としての構 造と関連付けて考察す ることができる。 積極的に議論に参加し ている。 酵素の性質について、 実験や議論を通じて自 らの考えを整理し、科 学的に考察できる。 ATPの構造と機能を関 連付けて考察すること ができる。 定期試験 酵素の性質やATPのは たらきとウミホタルの 発光現象とを関連付け て考察し、それを科学 的に表現することがで きる。 実験操作を正確に行う ことができる。 実験レポー ト a関心・意欲・態度,b思考・判断・表現,c観察・実験の技能,d知識・理解 定期試験 授業観察 ワークシー トの記述内 容の分析 定期試験 授業観察 ◎=特に重視 (9)取組事例 ①実施日:平成26年11月6日(木) 授業担当者:齋藤 昂良 教諭 ②授業クラス:1年40名 ③本時のねらい:アルコールパッチテストの結果に個人差がある理由について、酵素のはたらきを理解 すると共に、生物の「多様性」がどのように生じるのかという面からも考察できるよ うになる、さらに、多様性の違いを認め、自分や他人を尊重する態度を養うことがで きるようになる(広義のシチズンシップ教育)。 ④本時の指導内容: 授業展開 学習内容と活動 指導・支援 導入 ・前時に行ったアルコールパッチテストの結果を ・パッチテストの結果が人により異な 振り返る。 ることを確認させる。 (3分) 展開① ・実験結果の考察を、個人で行なう。 (2分) ・グループワーク(知識構成型ジグソー法)の進め ・「クロストーク」セッションの際に他 (6分) 方を理解し、「エキスパート」セッションの席に移 のメンバーに説明する責任を負ってい 動する。 るため、「エキスパート」セッションで は一人ひとりがその分野のエキスパー トとならなければならないことを自覚 させる。 7 評価方法 展開② (15分) ≪「エキスパート」セッション≫ ・生徒全員を4つの「エキスパート」グ ワークシー 4分野の「エキスパート」のうちいずれかを分担し、 ループに分け、議論を進めるように指示 トの記述内 情報収集活動を進める。 容 する。 ○エキスパート1 ・机間指導をしながら、各グループで理 「お酒を飲むと酔うのはなぜ?」 解が深まり、問題の把握が適切になるよ ・アルコールの分解反応について理解し、この うに導く。 分解反応がアルデヒドで止まると皮膚が赤くな り、酢酸まで進行すると皮膚に変化が見られな いことを理解する。 ○エキスパート2 「酵素のはたらきってなに?」 ・酵素のはたらき(化学反応を触媒する)と性 質(タンパク質からなり、基質特異性を持つこ と)について理解する。 ○エキスパート3 「酵素はどうやってつくられる?」 ・タンパク質が主成分である酵素は遺伝子の情 報をもとに作られることを理解する。 ○エキスパート4 「遺伝子はどこからやってくる?」 ・遺伝子は親から受け継ぐこと、及び受け継い だ遺伝子は変化しないことを理解する。 展開③ (14分) ≪「クロストーク」セッション≫ ・4分野で得た情報をヒントとして議論 ワークシー クロストークの座席に移動し、アルコールパッチテ するように指示する。 トの記述内 ストの結果に個人差がある理由について議論を進 ・グループの議論の方向を聴取しなが 容 める。 ら、発表させる2グループを選出する。 ・相互に意見を傾聴し、疑問点を話し合う。 ・それぞれの意見に基づいて、グループとしての 意見にまとめる。 まとめ① ≪発表≫ ・発表の要点を把握させる。 (5分) 意見をまとめ発表する。 ・他グループの発表を受けて自グルー ・論理的に説明できるように内容をまとめる。 プの意見を修正してもよいことを指示 ・他グループの内容を聞きながら自グループの考 する。 発表の仕方 えを適宜、修正、変更する。 ・自グループの分の最終的な見解を完成させる。 まとめ② ・「お酒との付き合い方」を考え、自分の意見をま (5分) とめる。 5.単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 最初に、授業の進行が円滑に行われたかを議論した。本研究における「知識構成型ジグソー法」は、異なる グループでの活動を行う必要があるため座席の移動が多くなるが、座席表を作成して生徒一人ひとりに配布し たことで、グループの移動を速やかに行うことができた。また、本授業では、「知識構成型ジグソー法」のや り方をポスターに印刷して黒板に掲示したが、座席表と「知識構成型ジグソー法」のやり方を両面印刷したプ リントを配布すると、授業の進行がより円滑になるのではとの指摘があった。 次に、生徒の活動の内容について議論した。「知識構成型ジグソー法」で最も重要となる活動は「エキスパ ート」セッションと考え、本授業では15分間の時間を使って活動させた。しかし、生徒の議論の状況を見ると、 「エキスパート」の内容を十分に理解させるためにはより多くの時間が必要であり、「クロストーク」セッシ ョンを5分ほど短縮して、「エキスパート」20分間、「クロストーク」10分間としたほうが効果的だったので はないかと考えられた。また、別な方法として、「知識構成型ジグソー法」を2回に分けて行うことで「エキ スパート」の時間を多くするといったアイデアも出されたが、この方法では、2回目の授業のときに、前回の 8 「エキスパート」の内容を忘れてしまっているという懸念があるため、本法を用いた授業は、1単位時間の中 で完結させることが最良であるとの認識で一致した。 生徒の議論の内容については、活発に議論が進んでいるというよりは、むしろ慎重に議論が進んでいった印 象があり、これは、ワークシートの課題設定に起因していることが考えられた。具体的には、ワークシートの 課題設定を、生徒の理解よりやや難しめの設定としたことで、生徒が資料から情報を「読み取る」活動に多く の時間を要したことが原因としてあげられた。 最後に、生徒の理解度について議論を進めた。本授業では、時間の都合により代表して2グループに発表さ せた。発表内容では授業者が設定した目標を概ね達成していた。しかし、ある酵素の遺伝子を持っていない者 は、持っている者に比べて酵素の量が「少なくなる」といった誤解が少なからず認められた。本法では、生徒 主体の活動のみによって理解が進むので、1つの間違った解釈が多くの誤解を生じてしまう危険性をもってい ることが明らかになった。このデメリットは、指導者が机間指導のなかで生徒の議論に対し適切に指導するこ とで誤解を早期に訂正させることにより克服できるという意見が出た。 6.成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果 「知識構成型ジグソー法」を用いた授業は、昨年度の推進委員会において、横浜翠嵐高等学校で実践し、 学び合いによる効果が得られる方法であることが示された。本授業においても、 講義型の授業と比較して、 教師の発問等に積極的に答えない生徒が活発に発言する、発問には良く答えるが自らは質問しない生徒が グループの中で質問しながら議論を進めていく、積極的な活動を示さないことが多い生徒がグループの議 論をけん引したり他の生徒の説明に熱心に聞き入ったりするなど、多くの生徒が受動的ではなく「主体的」 に学習を進めていく姿を見ることができた。これは、本法では生徒が自ら「資料から読み取る」「考える」 「まとめる」「発表する」必要があることから、いわゆる知識伝達を中心とした教員主導型の一斉授業の スタイルと比較して、より「思考力・判断力・表現力等」を育成することができたのではないかと考えら れる。 昨年度及び今年度の2校での授業実践より、「知識構成型ジグソー法」が、幅広く多くの高校でも有効 であることが示された。 また、この授業を構築していく過程において、講義型の授業でなくても「思考力・判断力・表現力等」 の育成を図る授業となるように取組んだが、そのためには講義型の授業以上に教材研究に力をいれる必要 があることを痛切に感じた。 本法において効果的な教材を作成する際、教員一人ひとりが単独で取り組むのでは、時間的にも能力的 にも限界がある。今回の授業の構築や教材の作成には、すべての委員が協力してあたった。具体的には、 ベテランから若手にアドバイスを、若手からベテランに提案をしながら、よりよい授業づくりのために協 力しながら作業を進めていった。このような「組織的な授業改善」が「よりよい授業づくり」に直結して いくという実感を得た。 以上のことから、「知識構成型ジグソー法」を活用した授業実践が、生徒の「思考力・判断力・表現力 等」を育成すると同時に、われわれ教員の「組織的な授業改善」にも資することが示された。 (2)課題とその改善に向けた方策 「知識構成型ジグソー法」は、生徒の言語活動を充実させた授業づくりに効果的であることが再認識され たが、その効果を高めるためには、特に「エキスパート」のワークシート作成において多くの工夫が必要で ある。 昨年度の研究において、ワークシートの課題設定は「生徒の理解よりも少しだけ難易度の高いもの」とす るのがよい、とされたが、今回の実践においては、むしろ「生徒の理解よりも少しだけ難易度の低いもの」 にして、さらに各「エキスパート」間でのつながりを明確にしたワークシートを作成することで、間違った 解釈を減らすと共に「エキスパート」での議論を活発化し、「エキスパート」での議論を「クロストーク」 での議論に円滑に移行することができるのではないかと考えられる。今後、このことを実証する実践例が求 められる。 中央教育審議会では早くも次の学習指導要領の改定に向けての議論がスタートし、生徒が主体的に授業に 関わる「アクティブラーニング」の実施がその中核をなすことが報道されている。生徒の議論を進めるため には、基礎・基本的な知識の蓄積が不可避であり、全ての授業で「知識構成型ジグソー法」を活用した授業 9 を行う必要はないと考えるが、目的に応じこのような方法を用いることは学習指導要領が重視する点等を具 現化するために有効であると考えられる。今後、本法がさらに実施しやすく、また、より効果が高まるため の具体の方法について、他の学校での実践事例を集め、検証していく必要がある。 ワークシート、エキスパートの資料の例 7.まとめ 各実践事例の報告のように、「学び合いのある授業」の実践により「思考力・判断力・表現力等」を育成し、 生徒に「協働して学び合い、主体的に考えようとする力」を身に付けさせることができた。 高等学校学習指導要領では、筋道を立てて実験実習を自ら考案させることや、言語活動の充実が求められ ている。今回の実践事例は、この2つを踏まえて単元の授業づくりの中で実施したものである。 2つの実践事例で共通しているのは、従来行われてきた一斉の講義型の授業とは違う発想で授業を計画し、 教員による積極的なしかけで、授業展開をしていることである。これらを実現するためには、各科目の教員 が意見を出し合い協力して指導計画をつくり、具体的な教材づくりも含め組織的に授業づくりをしていくこと が重要である。また、学び合いの授業の中で、生徒の学習の様子や発言などを教員が注意深く受け止め、これ に対し組織で検討し準備した指導計画に基づき教員が適切に対応することが必要である。これらのことで、実 施授業の内容が質、量、ともに個別の教員で対応するのが難しくなる。すなわち「思考力・判断力・表現力等」 の育成を図る授業づくりには、組織的な授業改善が不可欠である。 10 保健体育(保健) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 組織的な授業改善の推進−単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策 ∼思考力・判断力・表現力等の能力を育み、主体的に学習に取り組む態度を養うための学習活動の工 夫∼ (2)研究のねらい 全体テーマ「組織的な授業改善の推進−単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に 向けての方策」の実践に向けて、研究推進委員会では、まず実態と課題を把握するため、推進委員の所 属校における「生徒による授業評価」の結果について振り返りを行った。その結果から課題を明らかに するとともに、その課題解決を図る具体的な手立てについて検討することが必要であると考えた。 そこで、公開研究授業実践校の学校目標「主体的に学習に取り組む態度を養う」を踏まえ、単元の計 画における学習活動の工夫に着目し、生徒同士が学び合うグループワークなど主体的に学習に取り組む 授業形態について研究することとした。 2.研究で取り組んできた内容 研究授業実践校の学校目標を踏まえ、習得した基礎的・基本的な知識を活用して、課題を解決する授業展 開の工夫、学習活動の工夫を重視した授業のあり方について研究した。 具体的には、生徒の主体的な活動を促すため、講義形式の授業だけではなく、90分授業の特性を生かし、 グループワークを中心とした参加型の学習活動を取り入れることとした。また、講義により習得した知識を 基に分析、判断し、グループワーク等による言語活動を通じて、思考力・判断力・表現力等の能力を育むと ともに、主体的に学習に取り組む態度を養う授業展開を目標とした。 3.研究の目標を達成するための手立て (1)学習指導要領及び解説による目標、指導内容の確認 (2)各校における課題、問題点の抽出及び整理 (3)関心・意欲・態度を育む授業展開・学習活動の工夫 (4)思考力・判断力・表現力等を育む授業展開・学習活動の工夫 (5)主体的に学習に取り組む態度を養う授業展開・学習活動の工夫 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 ※90分授業 (1)研究実施校:神奈川県立厚木清南高等学校(全日制課程) (2)学校の課題 基礎的な知識の定着とコミュニケーション能力の向上 ※生徒が共通に身に付ける資質・能力の明確化と授業評価に基づく授業改善 (3)実施校における研究テーマ:「自分の考えを整理して相手にうまく伝わるようにする表現の工夫」 (4)科目:保健 学年:1学年 (5)単元名:(1)現代社会と健康 イ 健康の保持増進と疾病の予防 (ア)生活習慣病と日常の生活行動 「食事と健康」 (6)単元のねらい ア 生活習慣と日常の生活行動について関心を持ち、学習活動に進んで取り組もうとすることができるよ うにする。 イ 生活習慣病と日常の生活行動について、課題の解決を目ざして、知識を活用した学習活動などにより、 総合的に考え、判断し、それらを表現することができるようにする。 ウ 生活習慣病と日常の生活行動について、課題の解決に役立つ知識的な事項及びそれらと生活や社会の 関わりを理解することができるようにする。 (7)単元で身に付けさせたい力 適切な食事、運動、休養及び睡眠など、調和のとれた健康的な生活を実践することを通して、生活習 慣病を予防し、健康を保持増進するために、生涯を通じて自らの健康を適切に管理し、改善していく資 質や能力。 (8) 単元の指導と評価の計画 ア 単元の評価規準 関心・意欲・態度 思考・判断 知識・理解 ・生活習慣病と日常の生活行動につい て、資料を探したり、見たり、読んだ りするなどの活動を通して、学習に自 主的に取り組もうとしている。 ・生活習慣病と日常の生活行動について、資 料等で調べたことを基に、課題を見付けた り、整理したりするなどして、まとめた考え を説明している。 ・健康の保持増進と生活習慣の予防に は、食事、運動、休養及び睡眠の調和の とれた生活を実践する必要があるという ことについて言ったり書き出したりして いる。 イ 単元の指導と評価の計画 時 ※ a:関心・意欲・態度 b:思考・判断 c:知識・理解 学習内容 学習活動 ねらい a 生活習慣病 とその予防 ○生活習慣病について 資料を探し、調べる。 調べ学習 ○生活習慣病を予防し、 健康を保持増進するに は、適切な食事、運動、 休養など、調和のとれた 健康的な生活を実践する ことが必要であることを 理解できるようにする。 ◎ ○生活習慣病につい て、資料等で調べたこ とを基に課題を見付け たり整理し発表する。 1 食事と健康 ○適切な食習慣のため の具体的なイメージに ついてグループで話し 合う。 ディスカッション b c 評価規準 ①生活習慣病について、資料を 探したり、見たり、読んだりす るなど学習活動に意欲的に取り 組もうとしている。 (関心・意欲・態度) 評価 方法 観察 成果 物 ◎ ○健康の保持増進にとっ て食事は重要な要素であ り、具体的にどのような 食事や食生活のあり方が 健康に望ましいかを理解 できるようにする。 ◎ ①生活習慣病について、資料等 で調べたことを基に、課題を見 付けたり整理したりするなどし てそれらを説明している。 (知識・理解) ②適切な食習慣についての知識 を身に付け、課題解決に向けて の話合いなどの学習活動に意欲 的に取り組むことができるよう にする。 (知識・理解) 観察 成果 物 ①健康の保持増進と生活習慣の 予防には適切な食習慣を実践す る必要があることについて理解 したことを発言したり記述した りしている。 (思考・判断) ③適切な運動習慣についての知 識を身に付け、課題解決に向け ての話合いなどの学習活動に意 欲的に取り組むことができるよ うにする。 (知識・理解) ②適切な運動習慣について課題 解決に向けての話し合いなどの 学習活動を通じて、筋道を立て てそれらを説明している。 (思考・判断) ②休養や睡眠が健康を保持増進 するために必要であることを、 話合いなどの学習活動を通じ て、筋道を立ててそれらを説明 している。 (関心・意欲・態度) 観察 成果 物 観察 ② ◎ ○適切な食習慣につい て、発表を聴き、ワー クシートにまとめ、理 解する。 運動と健康 ○適切な運動習慣につ いてグループごとで話 し合う。 シミュレーション ○健康にとっての運動の 意義や健康のための運 動、また将来にわたって 運動を継続するための具 体策などを理解できるよ うにする。 ◎ ◎ ○ 県 の 施 策 ( 3033 運 動)について学び、自 らの生活について振り 返る。 3 休養・睡眠 と健康 ○休養や睡眠が健康を 保持増進するために必 要であることを基礎的 な知識を基に話し合 う。 ブレインストーミング ○健康の保持増進と生 活習慣病の予防につい て、話合いを基にワー クシートにまとめ、理 解する。 ○疲労の質は、昔とは変 化しており、健康のため の休養の取り方、特に睡 眠の重要性について理解 できるようにする。 ◎ ◎ ④健康の保持増進と生活習慣の 予防には休養・睡眠が必要であ ることについて理解したことを 発言したり、記述したりしてい る。 (知識・理解) 観察 観察 成果 物 観察 ノート (9)取組事例 ①実施日:平成26年10月27日(月) 授業担当者:大場 瑞穂 教諭 ②授業クラス:保健a14う(1年次相当 24名) ③場所:N25教室 ④単元名:(1)現代社会と健康 食事と健康 ⑤本時のねらい ・適切な食習慣についての知識を身に付け、課題解決に向けての話合いなどの学習活動に意欲的に取 り組むことができるようにする。 ・適切な食習慣を実践するために、学習した知識を基に自己を分析したり、評価したりするなどす るとともに、筋道を立てて、それらを説明することができるようにする。 ・生活習慣病を予防し、健康を保持増進するには、適切な食事など、調和の取れた健康的な生活を 実践する必要があることについて理解したことを発言したり記述したりできるようにする。 ⑥本時の指導内容(3時間扱いの2時間目) 授業 展開 学習活動 ○前時の授業を振り返る。 指導上の留意点 評価方法 ・前時の学習内容を振り返り、本時の学習に結 び付ける。 【発問】何のために人は食事をとるのだろう。 導 入 15 分 ○これまで学習した内容をもとに、ブレインス トーミングを行う。 ○意見を書き出した付せんを内容ごとに分類 し、ワークシートに貼る。 【予想される答え】 生きていくため。楽しむため。 栄養をとるため。ストレス発散。等 ○本時の学習内容を確認する。 ・思いついた意見を、数多く付せんに書き出す ように指示する。 ・他の人から出た意見を否定しないようにする など、話し合える雰囲気づくりをする。 ・自分の考えと比較したり、関係を見付けたり しながら分類できるように助言する。 ・本時のねらいを簡潔に説明する。 【学習内容】 生活習慣病を予防し、健康を保持増進するには、適切な食事など、調和の取れた健康的な生活を実践するこ とが必要であること。 1 人間にとって必要な栄養素について、考え たことをワークシートに記入する。 ○BMI について説明しワークシートに記入する。 2 スポーツ選手と一般女性の、1日のエネル ギー摂取量を比較し、考えたことを発表す る。 展 開 65 分 【知・理②】 観察、ワークシ ート ・普段何気なく取っている食事が健康に大きく 影響を与えていることに気付くよう助言す る。 【予想される答え】 2,500。2,800。3,000。等 ○エネルギーの必要量についてワークシートに 記入する。 ・食事のバランス、量等について板書する。 ・ワークシートに整理して記入できるよう支援 する。 3 力士がちゃんこ鍋を食べる理由を考える。 ・自分の食生活を振り返らせながら、健康を 保つためには、食事のバランス、量、リズ ムが大切になってくることに気付くよう助 言する。 【予想される答え】 たくさん食べないと稽古がたいへん だから。太らないといけないから。等 ○食事のリズムや食事をとる際のコミュニケー ションの重要性等について、ワークシートに 記入する。 ま と め 1 0 分 4 昼食について、グループディスカッション し、ワークシートにまとめる。 ○グループごとに用意された昼食の写真を見て 栄養素別に分類する。 ○気付いたことや気になる点を、ワークシート に書き出す。 ○まとめたことを発表する。 ○学習の振り返りをする。 ○「未病」を治すための3つの取組について知 る。 ○次時の学習内容を知る。 ・ワークシートに分類する際、各班を回りなが 【思・判①】 観察、ワークシ ート② ら支援する。 ・ワークシートに記入させることにより、本時 の学習内容を確認するよう促す。 ・神奈川県では「未病」を治す取組として、 「食」「運動」「社会参加」の3つに取り組 んでいることに触れる。 ・次時は運動と健康について学習することを伝 える。 5.単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 ≪生徒による授業評価の結果(%)≫ 2014年 研究授業前(7月) 中項目 かなり 小項目 当てはまる 全評価項目 ほぼ あまり当て 当てはまる はまらない 中項目 全評価項目 46.0 49.0 4.0 1.0 58.3 2.8 2.8 55.6 0.0 授業の準備 教材の工夫 1 2 36.1 44.4 授業の充実感 3 30.6 58.3 5 50.0 6 生徒主体の 授業の工夫 2014年 研究授業実施後(11月) ほとんど当て はまらない かなり 小項目 当てはまる ほぼ あまり当てはま ほとんど当て はまらない 当てはまる らない 80.4 18.3 1.4 0.0 10.0 0.0 0.0 5.0 0.0 0.0 0.0 授業の準備 教材の工夫 2 90.0 95.0 11.1 0.0 授業の充実感 3 70.0 30.0 0.0 0.0 47.2 2.8 0.0 5 75.0 20.0 5.0 0.0 50.0 44.4 5.6 0.0 6 75.0 25.0 0.0 0.0 7 38.9 41.7 11.1 8.3 生徒主体の 授業の工夫 7 89.5 10.5 0.0 0.0 説明の分かり易さ 9 52.8 44.4 2.8 0.0 説明の分かり易さ 9 85.0 15.0 0.0 0.0 生徒への接し方 11 52.8 44.4 2.8 0.0 生徒への接し方 11 70.0 30.0 0.0 0.0 50.0 5.6 0.0 20.0 10.0 0.0 47.2 0.0 0.0 20.0 0.0 0.0 15.0 0.0 0.0 授業の進め方 44.4 15 52.8 16 52.8 学習への取組 13 態度・姿勢 授業の進め方 0.0 70.0 15 80.0 16 85.0 学習への取組 13 態度・姿勢 47.2 1 0.0 小項目 1・・・教材が工夫されるなどして、取り組みやすい授業である。 2・・・事前によく準備されていることが感じられる授業である。 13・・・私は授業で分からないところがあったら、先生や友達に聞いたり、自分で調べるなどして分かろうとする努 力をしている。 15・・・私は授業に対して意欲的に取り組んでいる。 16・・・私は教科書やノート等必要なものを準備して授業に取り組んでいる。 『生徒による授業評価の結果』から、今回の研究授業の成果と課題を考察した。まず全評価項目の結果を比べ ると研究授業実施後では、「かなり当てはまる」の割合が増えていること、当てはまらないという割合が減って いることが分かる。更に細かく見ると、授業の準備・教材の工夫小項目1(教材が工夫されるなどして、取り組 みやすい授業である。)小項目2(事前によく準備されていることが感じられる授業である。)の「かなり当て はまる」の割合が90%及び95%と極めて高い評価が出ている。また態度・姿勢の項目でも「かなり当てはまる」 の割合が80%及び85%と高い評価が出ている。このことから、事前の教材研究や授業準備、教材資料の工夫改善 を行うことで、生徒の授業に対しての意欲や態度、姿勢が高まり、更に全体の評価が高まったと考えることがで きる。これが今回の研究授業の成果であり、よりよい組織的な授業改善へつながるのではないかと考える。 また、授業参加者からのアンケートでは、今回の学校の課題であった「基本的な知識」は、プリント学習によ って、コミュニケーション能力の向上は、「グループワークを取り入れたこと」及び「教員側からの発問や例 示」等により、踏まえられていたという回答が多く見られた。 【授業風景】 6.成果並びに課題とその改善に向けた方策 課題としては、『生徒による授業評価の結果』における学習への取組の小項目13(私は授業でわからないと ころがあったら、先生や友達に聞いたり、自分で調べるなどして分かろうとする努力をしている。)の割合に 注目した。この項目では「かなり当てはまる」が70%と全体の割合の中では一番低く、「あまり当てはまらな い」が10%と全体の割合の中で一番高い結果が出ている。この結果と、学習への態度・姿勢の項目の割合を比 べると、学習への意欲は上がったが、そこで分からなかったことを、自ら質問したり調べたりすることまでは あまりできていないということが分かる。このことから、自ら質問をできる授業の雰囲気づくりや、質問の場 面を設定するなどの工夫、分からなかったことを解決するための調べ学習の場面を設定すること等が今後の課 題であると考える。 今回の研究授業については、研究推進委員会の打合わせで案を練り、十分準備をして臨むことができたが、 実際には、日々の学校生活の中で、十分な教材研究の時間を確保することが困難であることも多い。その場合、 共有して使用できるワークシートの作成等、保健体育科の共有の財産として経年的に積み上げていくことも一 つの方法であると思われる。 また、学校単位で考 えると、教科としての 確認や方向性をいかに 統一していくかが重要 である。学校全体とし て組織的に授業改善に 取り組む時間を確保す ることによって、課題 を明確化し、改善の筋 道を立て、授業に取り 組み、授業評価の結果 を分析し、新たな課題 を認識するという過程 が保障され、教員も安 心して授業改善に取り 組むことができるので はないかと考える。 保健体育(体育) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 組織的な授業改善の推進 −単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策− (2)研究のねらい 学校教育法では、 「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、 基礎的な知識及び技能を確実に習得させ、 これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に 学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」とされている。 研究推進委員会では、①視聴覚教材や学習カードを活用した、技の名称や行い方等、知識の習得、②適 切な練習方法の選択等、思考力・判断力の育成、及び③学習活動の適切な評価の3点を重点的なねらいと して研究に取り組むこととした。 2.研究で取り組んできた内容 個人の課題が明確で、生徒が自主的に取り組むことができるマット運動を単元として、学習活動を適切に評 価につなげるための授業実践を目ざした。 具体的には、マット運動の基本技と発展技の動きとポイントを、生徒にいかに理解させイメージさせるかにつ いて意見交換した結果、技名とポイントを記した「種目別評価票」と「演技映像※」を提示することで生徒の知 識の定着を図ることとした。また、課題解決学習に取り組む際、生徒同士が教え合い、相互評価するための工夫 として、 「タブレット端末」や「学習カード」の活用を取り入れることとした。 ※神奈川県立西湘高等学校体育科が作成した視聴覚教材 3.研究の目的を達成するための手立て (1) 生徒の実態把握 (2) 単元計画における学習内容の確認と精選 (3) 基本技や発展技の練習方法や場の設定、連続技の構成などの精選 (4) 映像や「タブレット端末」の使用方法の検討(生徒同士が教え合い考えて学習するための工夫) (5) 指導案の検討 (6) 「種目別評価票」と「学習カード」の作成 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1) 研究実施校:神奈川県立西湘高等学校(全日制課程) (2) 学校の課題:教員間の教科指導の共有の推進 (3) 実施校における研究テーマ: 「評価を重点に置いた授業づくり」 (4) 科目:体育 学年:1学年 (5) 単元名:器械運動「マット運動」 (6) 単元のねらい ア 次の運動について、技がよりよくできる楽しさや喜びを味わい、自己に適した技を高めて、演技するこ とができるようにする。 ○ マット運動では、回転系や巧技系の基本的な技を滑らかに安定して行うこと、条件を変えた技、 発展技を滑らかに行うこと、それらを構成し演技すること。 イ 器械運動に主体的に取り組むとともに、役割を積極的に引き受け自己の責任を果たそうとすること、 合意形成に貢献しようとすることなどや、健康・安全を確保することができるようにする。 ウ 技の名称や行い方、体力の高め方、課題解決の方法、発表の仕方などを理解し、自己や仲間の課題に応 じた運動を継続するための取り組み方を工夫できるようにする。 (7)単元で身に付けさせたい力 自己の能力に応じて技を選択、習得し、それらの技を組み合わせて連続した技を発表できるようにする。 また、適切な練習方法を選んだり、仲間と互いに教え合ったりすることができるようにする。 (8)単元の指導と評価の計画 ア 単元の評価規準 関心・意欲・態度 思考・判断 運動の技能 知識・理解 ④自主的に取り組も うとしている。 ⑤互いに助け合い、教 え合おうとしている。 ⑥健康・安全を確保し ようとしている。 ⑨自己の技能・体力の程度 に応じて、適切な練習方法 を選んでいる。 ⑩仲間と学習する場面で、 仲間の動きと自己の動き の違いなどを指摘してい る。 ⑪自己の技能・体力の程度 に応じて、連続技の一連の 動きを滑らかに行う工夫 をしている。 ①基本的な技の一連の動きを 滑らかに安定させて回ったり、 回転したりすることができる。 ②学習した基本的な技を発展 させて、一連の動きを滑らかに して回ったり、回転したりする ことができる。 ③開始姿勢や終末姿勢、組合せ の動きや支持の仕方などの条 件を変えて回ったり、回転した りすることができる。 ⑦運動観察の方法に ついて、理解したこ とを言ったり書き出 したりしている。 ⑧技の名称や行い方 について、学習した 具体例を挙げてい る。 イ 単元の指導と評価の計画 時 1 ※ a:関心・意欲・態度 b:思考・判断 c:運動の技能 d:知識・理解 ねらい 学習活動 ○健康・安全を確保した活動の理 ○安全確保について理解す 解と、技能の現状把握ができるよ る。 うにする。 ○「基本的な技」の説明を聞 ○基本的な技の一連の動きを滑ら き、課題別練習に取り組む。 評価の観点 a b c ◎ 評価規準 d ⑥健康・安全を確保しようとして 評価 方法 観察 いる。 【関・意・態】 かに安定させて回ることができる ようにする。 2 ○仲間と学習する場面で、仲間の ○「基本的な技」の説明を聞 動きと自己の動きの違いなどを指 き課題別練習に取り組む。 摘することができるようにする。 ○自主的に取り組むことができる 3 4 ○課題別練習に取り組む。 ようにする。 ○運動観察の方法について、理解 ○「基本的な技」の出来栄え することができるようにする。 チェックを行う。 ◎ ⑦運動観察の方法について、理解 ノート したことを言ったり書き出した ○基本的な技の一連の動きを滑ら りしている。 【知・理】 かに安定させて回ることができる ◎ ようにする。 ①基本的な技を一連の動きを滑 観察 らかに安定させて回ったり、回転 したりすることができる。 【技】 5 ○学習した基本的な技を発展させ ○「発展技」の説明を聞き、 て、一連の動きを滑らかにして回 課題別練習に取り組む。 ◎ ④自主的に取り組もうとしてい 観察 る。 【関・意・態】 ったり、回転したりすることがで きるようにする。 6 ○技の名称や行い方を理解できる ○「発展技」の説明を聞き、 ようにする。 課題別練習に取り組む。 ◎ ⑧技の名称や行い方について、学 習した具体例を挙げている。 ○自己の技能・体力の程度に応じ て、適切な練習方法を選ぶことが できるようにする。 観察 【知・理】 ◎ ⑨自己の技能・体力の程度に応じ て、適切な練習方法を選んでい る。 【思・判】 ノート 時 ねらい 評価の観点 学習活動 a ○学習した基本的な技を発展させ 7 b c 評価規準 d 評価 方法 ○課題別練習に取り組む。 て、一連の動きを滑らかにして回 ったり、回転したりすることがで きるようにする。 ○互いに助け合い、教え合ったり 8 9 ○課題別練習に取り組む。 ◎ ⑤互いに助け合い、教え合おうと することができるようにする。 している。 【関・意・態】 ○学習した基本的な技を発展させ ○課題別練習に取り組む。 ◎ て、一連の動きを滑らかにして回 ○「発展技」の出来栄えのチ せて、一連の動きを滑らかにして ったり、回転したりすることがで ェックを行う。 回ったり、回転したりすることが きるようにする。 10 11 観察 ②学習した基本的な技を発展さ 観察 できる。 【技】 ○開始姿勢や終末姿勢、組合せの ○「条件を変えた技」の説明 動きや支持の仕方などの条件を変 を聞く。 えて回ったり、回転したりするこ ○演技の構成、連続技の練習 とができるようにする。 に取り組む。 ○自己の技能・体力の程度に応じ ○演技の構成、連続技の練習 て、目ざす技や技の組合せを見付 に取り組む。 けることができるようにする。 ○開始姿勢や終末姿勢、組合せの 12 ○演技練習に取り組む。 ◎ ③開始姿勢や終末姿勢、組合せの 動きや支持の仕方などの条件を変 動きや支持の仕方などの条件を えて回ったり、回転したりするこ 変えて回ったり、回転したりする とができるようにする。 観察 ことができる。 【技】 ◎ ⑩仲間と学習する場面で、仲間の ノート 動きと自己の動きの違いなどを 指摘している。 【思・判】 〇自己の技能・体力の程度に応じ 13 ○演技練習に取り組む。 ◎ て、連続技の一連の動きを滑らか に行う工夫をしている。 ○開始姿勢や終末姿勢、組合せの 14 ⑪自己の技能・体力の程度に応じ 観察 て、連続技の一連の動きを滑らか ノート に行う工夫をしている。 【思・判】 ○演技発表会 ◎ ③開始姿勢や終末姿勢、組合せの 動きや支持の仕方などの条件を変 動きや支持の仕方などの条件を えて回ったり、回転したりするこ 変えて回ったり、回転したりする とができるようにする。 ことができる。 【技】 観察 (9)取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月7日(火) 授業担当者 : 荻野 浩司 教諭 ②授業クラス:1学年 3・6・7組 男子 18 名 ③場所:体育館半面 ロングマット4枚 ④単元名:器械運動「マット運動」 ⑤本時のねらい ○技の名称や行い方を理解できるようにする。 ○学習した基本的な技を発展させて、 一連の動きを滑らかにして回ったり、 回転したりできるようにする。 ○自己の技能・体力の程度に応じて、適切な練習方法を選ぶことができるようにする。 ⑥本時の評価 ○技の名称や行い方について、学習した具体例を挙げている。 ○自己の技能・体力の程度に応じて、適切な練習方法を選んでいる。 ⑦本時の指導内容: (14 時間扱いの6時間目) ※学習カードと種目別評価票は別添 授業 展開 導 入 10 分 学習活動 指導上の留意点 評価方法 1 整列・挨拶・出席確認 2 本時の学習内容の確認 3 準備運動(全体) ラジオ体操・ランニング2周 ・出欠確認と同時に健康状態を確認する。 ・本時の学習内容とねらいを説明する。 4 ストレッチング・補強運動(各グループ別) ・他の体の調子や状態に気付き、怪我の予防を 意識して行うよう指示する。 5 「基本的な技」を中心とした練習 (学習した技の復習) ○全体で一斉に今まで学習した技を順番に行い、技の 復習をする。 前転、後転、開脚前転、開脚後転 伸膝前転、伸膝後転、側方倒立回転 頭倒立、倒立、倒立前転 グループ ほん転 平均立ち ○模擬演技のビデオを観察し、前方倒立回転跳びの ポイントや練習での注意事項を確認する。 基本的な技 前転 開脚前転 倒立前転 後転 開脚後転 接 点 場の設定1 6 前方倒立回転跳び(ハンドスプリング)の練習 (技のポイントの確認) 技 群 倒立回転 跳び 倒立 倒立ブリッジ ホップから倒立 発展技 伸膝前転 伸膝後転 後転倒立 前方倒立回 転跳び 着地 マット 倒立姿勢から着地 着地姿勢 着地 マット 一連の動きで 展 開 35 分 ○前方倒立回転跳び(ハンドスプリング)の行い方 について、理解したことを答える。 ○技の課題別に練習する。 ・前方倒立回転跳び(ハンドスプリング)の 行い方について発問し、指名する。 【知・理⑧】 (観察) 7 発展技の課題別練習及び出来栄えチェック (発展技の練習 ※課題に合った練習場所で) ○練習の中で気付いた点や互いに指摘し合ったことな どを学習カードに記入する。 ま と め 5 分 8 用具の片付け 9 本時の振り返り 10 整列・挨拶 ・課題に応じた練習を工夫し、互いに教え合う よう指示する。 基本技(開脚前後転・倒立前転 等) 場の設定2 ○課題に応じた練習用マットを見付け、互いに教え合 い、工夫して練習する。 (4つから選択) ○必要に応じてタブレット端末を使用し、技の出来栄 えをチェックして、技の向上につなげる。 伸膝前転・伸膝後転 前方倒立回転跳び 着地 マット 前方倒立回転跳び 着地 マット ・練習方法や気付いた点、互いに指摘し合った ことなど学習カードを活用、記入するよう促 す。 【思・判⑨】 (カード) ・全員で協力して片付けをするよう促す。 ・問い掛けにより、本時の学習内容が身に付い たかを確認する。 ・健康状態の確認をする。 5.単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 「基本的な技」 、 「発展技」の説明とそれを補完する「種目別評価票」と「演技映像」により知識の定着が図ら れ、自己の能力に応じた技の選択につながった。 「タブレット端末」の活用では、課題が明確になり、積極的に課題解決をしようとする姿が見られた。また、 仲間と教え合う場面も多く見られるようになり、お互いの課題や解決のための手立てを指摘し合うことで、技 の習得や完成度を高めることにつながった。 「学習カード」については、自己の課題及び解決のための手立て等、主に思考・判断に係る記載項目を設け、 運動を継続するための取り組み方の工夫を促すことができた。 評価については、 「演技映像」による統一した評価規準の提示、 「学習カード」の記載項目の工夫により、生徒 の学習活動を適切に評価することができた。 6.成果並びに課題とその改善に向けた方策 上記5に記載したとおり、①「演技映像」や「学習カード」等の活用による、技の名称や行い方等の知識の習 得、②適切な練習方法の選択等、思考力・判断力の育成、③学習活動の適切な評価等、本研究の3点のねらいに ついて、概ね達成することができた。 課題としては、 「タブレット端末」の利用に際し、指導ポイントを絞らなかったため、細かな改善点を生徒が 示すことができない場合があった。今後は、 「手のつき方」や「回転の速度」など、具体的な観察ポイントを生 徒に示すなど、 「タブレット端末」の効果的な使用方法について研究を行う必要がある。 今回、統一した単元計画に基づいた授業を展開することにより、教科の共通理解が深まるとともに課題の共 有を図ることができた。今後も教科内での密接な連携によって、更なる授業改善に努めていこうと考えている。 【授業の様子】 【学習カード、種目別評価票】 1年 組 番氏名 器械運動(マット運動)種目別評価票 番号 種 目 1 前転 2 後転 3 開脚前転 4 開脚後転 5 伸膝前転 6 伸膝後転 7 倒立前転 8 後転倒立 (伸腕伸膝後転) 9 側方倒立回転 10 側方倒立回転 1/4ひねり 11 頭倒立 12 倒立静止 13 ロンダード 14 頭跳ね起き 15 前方倒立回転跳び ハンドスプリング 16 跳び前転 17 片足水平立ち 18 首跳ね起き 19 Y字バランス 評 価 内 容 回転の前半に膝を伸ばす スムーズに回転し、上体を素早く起こす スムーズに回転する 真っ直ぐに回転する 回転の後半に開脚し、膝を伸ばして立つ すぐにジャンプして、足をそろえて着地する 回転の後半に開脚し、膝を伸ばして立つ すぐにジャンプして、足をそろえて着地する 始めから伸膝を保ってスムーズに回転し、立ち上がる 着地足が後ろに下がらない 始めから伸膝を保ってスムーズに回転し、上体を素早く起こす 両足そろえて着地する 倒立で、静止する スムーズに前転し、上体を素早く起こす スムーズに後転から倒立し、静止する 腰・肩・肘を伸ばす (始めから伸膝を保って回転する) 一直線上で、回転する 伸身姿勢を保つ 一直線上で、回転する 伸身姿勢を保ち、1/4ひねって、足をそろえて着地する 頭倒立の姿勢で、3秒静止する 腰・膝・つま先を伸ばす 倒立の姿勢で、5秒静止する 肘・腰・膝・つま先を伸ばす 空中で素早く足をそろえる マットを手で突き放し、体を浮かせて上体を起こす 腰を跳ね上げて、伸身姿勢になる 両足をそろえて着地する マットを手で突き放し、伸身姿勢で大きく回転する 膝を伸ばし、両足をそろえて着地する ジャンプ後、空中で水平姿勢をとる 前転後、両足をそろえて着地する 両膝とつま先を伸ばし、3秒静止する 上げた足と体を、水平に保つ 腰を跳ね上げて、伸身姿勢になる 膝を伸ばし、両足をそろえて着地する 両膝とつま先を伸ばし、3秒静止する Y字になる 評価(4点満点)印 芸 術 ( 音 楽 ) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 思考力・判断力・表現力等を育む授業実践と分析及び改善に向けての方策 (2)研究のねらい 音楽科教員が1名配置の高校が多いことを踏まえると、音楽科の組織的な授業改善を推進するた めには、各学校の教育目標等に基づいた授業研究テーマとの関連を図りながら、指導計画を充実・ 改善していくことが重要である。 本研究においては、学校の課題を踏まえつつ、学習指導要領において学習の質の充実が求められ ている「創作」について、昨年度とは違うアプローチで扱うこととした。授業の内容が歌唱または 器楽に偏りがちであり、十分に取り扱われていない現状のある「創作」の学習において、生徒が思 考・判断して表現し、達成感を味わう一連の過程を重視した授業づくりを行い、実践・分析して改 善につなげることをねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 公開研究授業を行う委員の所属校の課題を踏まえて、ICT を利用することで「創作」に対するハードルを できる限り下げ、 「つくる喜び」を実感させることを目指した。 具体的には、タブレット型端末(iPad)用の音楽制作アプリ「GarageBand(ガレージバンド)※」を用 いて学校 CM ソングを作曲する、という題材を設定し、音楽を形づくっている要素の働きに気付かせるとと もに、グループでコミュニケーションを取りつつ思考・判断・表現力等を高めることができるよう、題材 の指導計画から学習指導案まで、委員間で意見交換を行って作り上げていった。 特に、題材の指導を開始してから研究授業までの間にも委員会内で授業観察を行い、授業計画の修正・ 改善を行ったほか、研究授業を行わない委員の所属校でも同様の実践を行ってその反省を研究授業に生か すなど、推進委員会の活動の中で RPDCA サイクルを機能させる場を多く設定して研究を行った。 ※GarageBand(ガレージバンド)について ピアノ、ギター、ドラムなど様々な楽器の演奏を簡単に入力・録音・編集できる。タブレット型端 末の内蔵マイクを使って歌を録音することも可能。 <操作画面> テンポ・調などを自由に 変更できる。 歌など、実際の演 奏を録音できる。 入力したフレーズを拍に 合わせられる「クオンタイ ズ」という機能がある。 入力・録音したフレーズを部 品として増やしたり減らした り、シミュレーションしなが ら編集できる。 音の重なりや全体の構成に ついて、 音楽情報と視覚情報 を対応させて表示できる。 鍵盤を表示させてメロ ディを入力することも できる。 3.研究の目標を達成するための手立て (1)ICT の活用 ・研究実施校は ICT 利活用教育推進モデル校として、ICT を利用したわかりやすい授業の課題や可 能性を研究している。この研究では、音楽制作アプリを活用し、楽典の知識や楽器演奏の得手不 得手に関わらず、生徒が創作に取り組めるよう工夫した。 ・タブレット型端末の操作説明では、書画カメラを用いてタブレット型端末の画面を操作する手元 が見えるようにした。 (2)題材設定および指導計画の工夫 ・学校 CM ソングという、コンセプトがわかりやすい題材を設定し、創作への抵抗感がなるべく小さ くなるよう工夫した。 ・創作の過程をスモールステップに分け、順序立てて作業を進められるよう計画した。 ・楽典の知識の習得をあえてねらいとせず、最初から最後まで五線を用いずに活動を進めることで、 五線に苦手意識を持つ生徒も取り組みやすいようにした。 ・音楽制作アプリを用いることで音高やリズム、コードやテンポなどを変化させた結果がリアルタ イムで分かるようになる。その利点を生かし、音楽を形づくっている要素の働きに気づかせ、自 分たちで創意工夫できる授業構成とした。 (3)ワークシートの工夫 ・思考の過程を明確にできるようなワークシート作りを心がけるとともに、タブレット型端末の利 点である直感的操作を阻害しないよう気を付けた。 ・グループ活動がメインになるため、個人のグループ内での役割や自分のアイディアなどをワーク シートに記入させ、個人の評価をしやすいよう工夫した。 4. 【P】題材の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立茅ケ崎西浜高等学校(全日制) (2)学校の課題:基礎学力の定着を図り、 「わかる喜び」 「学ぶ喜び」を実感できる授業づくりに努める こと。ICT 利活用教育推進モデル校として、ICT を利用したわかりやすい授業の課題や可能性を研究す ること。 (3)実施校における研究テーマ:ICT を活用した創作を通して、 「つくる喜び」を味わわせる (4)科目:音楽Ⅲ 学年:3年 (5)題材名:学校 CM ソングを作ろう (6)題材のねらい:ICT を用いて短い楽曲を作曲・編曲し、自分のイメージを作品を通して表現できるよ うにする。 (7)題材で身に付けさせたい力:音楽を形づくっている要素(旋律、リズム、テクスチュア、構成)の働 きや音楽の表情の変化との関わりを主体的に捉え、感じ取る力。グループでの創作活動に主体的・積 極的に取り組み、望ましい人間関係を築く力。 (8)題材の指導と評価の計画: ア.題材の評価規準 音楽への関心・意欲・態度 音楽表現の創意工夫 音楽表現の技能 ① 音楽を形づくっている要素(旋 律、リズム、テクスチュア、構成) の働きに関心を持ち、イメージを 持って作曲する学習に意欲的に取 り組もうとしている。 ② グループでイメージを共有し て編曲する学習に、主体的・積極 的に取り組もうとしている。 ① 表現したいイメージを持ち、音 楽を形づくっている要素の働きを 変化させることによって生み出さ れる音楽の表情の変化や雰囲気の 変化を感じ取り、どのように作 曲・編曲するかについて表現意図 を持っている。 ② 音楽を形づくっている要素(旋 律、リズム、テクスチュア、構成) を知覚し、それらの働きが生み出 す効果について分析し、感じ取っ ている。 音楽を形づくっている要素 (旋律、リズム、テクスチュ ア、構成)の働きを変化させ て作曲や編曲をするために 必要な創作の技能を身に付 け、創造的に表している。 イ.題材の指導計画(7時間) [関]:音楽への関心・意欲・態度 時 学習 内容 [創]:音楽表現の創意工夫 CM分析・機器の操作 1 1 ︱ 2 2 学習活動 ねらい ・既存のCMソングを分析して歌詞および 音楽の工夫や特徴、その効果について考 え、グループでまとめて発表する。 ・歌詞とリズム・音高の関係について分 析し、それらをワークシートを用いて視 覚的に表現する。 ・学校CMソングの歌詞を各自で作成する。 ・タブレット型端末及び音楽制作アプリ の操作方法を学ぶ。 ・CMソングの 特徴、効果的 な作曲技法に ついて学ぶ。 ・機器の操作 に慣れる。 ・作成した歌詞に合うリズムを考え、図 形楽譜( 「1マス=八分音符」のマス目に 文字を書き込む)として表す。 ・メロディのおおまかな音高を考え、マ ス目の中の上下で表現する。 ・歌詞を創作 し、それに合 うリズム・音 高を視覚的に 表現する。 [技]:音楽表現の技能 評価の観点 個人での創作 3 ○ [関]① 観察 発表 ワークシート ○ [関]① 作品 [関]② [創]① [技] 観察 作品 解説シート [創]② 観察 鑑賞シート 創 技 生徒のワークシートから ・グループで編曲を行う歌詞を一つ選ぶ。 ・グループで作 ・小節数とテンポを決定する。 曲・編曲を行 ・オートプレイ機能を使って様々なコー い、 音楽を形づ ド進行を演奏し、歌詞に付けるコードを くっている要 決定する。 素を変化させ ・決定したコード進行に基づいてギター るなどの工夫 やピアノ、ドラムなどの伴奏楽器を入力 を加えながら、 する。 作品を完成さ ○ ・コードの構成音を中心にしたメロディ せる。 を作成し、録音・入力する。 ・入力したものを聴き合い、他のグルー プの作品等も参考にして作品を完成させ る。 ・解説シートに、グループで工夫した点 などをまとめる。 発表 7 評価方法 関 グループでの創作 4 ︱ 6︵本時︶ 評価 規準 ・完成したそれぞれの作品を再生して全 ・作品を発表 員で聴きあい、ワークシートを用いてお し、お互いに 互いに作品を評価し合う。 評価し合う。 ○ ○ ○ (9) 【D】取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月 10 日(金) 授業担当者:長谷部 裕介 教諭 ②授業クラス:3年音楽Ⅲ選択者(22 名) ③本時のねらい:音楽を形づくっている要素(旋律、リズム、テクスチュア、構成)を変化させるなど の工夫を加えながら、イメージを持って作曲・編曲をする。グループでの創作活動に主体的・積極 的に取り組み、コミュニケーションを取りながら作品を完成させる。 ④本時の指導内容: 授業展開 学習活動 指導上の留意点 導入 (5分) ・振り返りと本時の内容の確認 ・前時までの活動内容を振り返り、本時の 見通しを持たせる。 ・各班の作品中間発表 ・自分の班の作品との違いなどについて注 意深く聴くようにする。 展開 (40分) まとめ (5分) ・メロディの創作と録音、伴奏 ・録音データのテンポなどの要素を変化さ パート(ギター、ピアノ、ドラ せ、その効果を感じ取らせる。 ムなど)の入力(グループ活動) ・自分たちの持つイメージに合うように、 要素を変化して比較検討させる。 ・グループでの相談や録音作業が円滑に進 むよう配慮する。 ・残り時間を常に意識させ、時間内に仕上 げることができるようにする。 ・作品解説シート作成 ・作品と並行して「作品解説シート」も記 入するよう指示する。 ・作品データ、作品解説シート ・簡単な本時のまとめを行って作品データ、 の提出 作品解説シートを提出させる。 <研究授業の様子> ↑ 練習室で歌の録音(上) タブレット型端末でメロディを作成中(右)→ 評価方法 観察 作品 解説シート 5. 【C】題材の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 (1)研究協議の方法(ワークショップ型研究協議) ・授業中に、付せんを使用して気付いたことを書き込んでいく。 ・良い点は「黄色」 、課題点は「ピンク」の付せんを使用する。 ・3つの班に分かれ、授業者の良い点と課題、生徒の良い点と課題に分けて「概念化シート※」に貼り 付ける。 ・黒マジックでグルーピングして見出しをつけ、赤マジックで改善点などを書き込む。 ・班ごとに発表する。 ※概念化シート(下)と、実際の使用例(右下) (2)研究協議のまとめ 良い点 【導入】ねらいや作業を しっかりと伝えている。 【声かけ】ヒントを出すタイミ ングが素晴らしい。 興味関心を引き出す雰囲気が 作られている。 【教材】書画カメラが 分かりやすい。 タブレット型端末に より「つくる喜び」を 味わえる。 教師 【旋律づくり】メロディ作りが 難しい。 和音の構成音から音を選ぶ手順 を丁寧に指導すると良い。 【評価】グループ活動時 の個人の評価について どのように個を見るか。 【教材】タブレット端末を準 備するのが現在は難しい。 歌はイヤホンを使ったほう がきれいに録音できる。 【機材の指導】タブレッ ト型端末の操作マニュア ルがあると良かった。 課題 【グループ学習】創作に 関する会話が自然に発生 している。他のグループ の状況を自然と意識し、 良い影響を受けていた。 【音楽性】 タブレット型端末のバラ ンス調整やクオンタイズ 機能を活かしていた。 テンポの違いを感じ取り 変化させていた。 【達成感】最後の 10 分。心が動い た瞬間。 完成した時の生 徒の表情が良い。 生徒 【音楽的課題】 メロディを作る難しさ ヒント集を生しきれていない。 【活動の継続】今回のような グループ活動を継続的に行 うことで定着・成長する。 6. 【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)生徒アンケート集計結果 下表のとおり、大部分の生徒が自分のイメージを表現できたと感じており、 「つくる喜び」を味わわせ るというねらいはある程度達成できたと考える。また、初めは「創作」に対する抵抗感が大きかった生徒 たちだが、授業の後には3分の2の生徒が興味を持てたことがうかがえる。 あまりわからなかった 今日の授業のねらい(何を勉強す るか)がわかりましたか。 よくわかった 7人 生徒同士で話し合う機会や意見な どを発表する機会がある授業だと 思いましたか。 だいたいわかった 10人 そう思う 12人 1人 だいたいそう思う 6人 あまりできなかった よくできた 10人 グループで協力してできましたか。 だいたいできた 7人 1人 あまりできなかった よくできた 8人 自分のイメージした音楽を表現で きましたか。 また創作をやってみたいですか。 そう思う 3人 だいたいできた 9人 だいたいそう思う 9人 1人 あまりそう思わない 6人 <生徒の感想・工夫したポイント(ワークシートから)> ・つくるのも歌うのもとてもたのしくて、完成したらその日ずっと歌っていました。 ・思ってたよりもちゃんと曲になって嬉しかった。先生たちからもほめていただいた。 ・作るのすごいむずかしくて大変だったけど CM っぽくできた気がするし楽しかった! ・最後のメロディのリズムを校歌と同じにして愛着が持てるようにしました。歌詞の前半を対にし てメロディも対にするのを提案しました。 ・曲全体に爽やかさがほしかったのでそれをイメージしながら作り、最後のシャウトで元気な感じ を出して高校生っぽさを出した。 (2)推進委員会での振り返り 今回の実践について、次の4つの観点から成果と課題の振り返りを行った。改善の方策については、各 項目の後ろに「→」で示した。 【1.計画・内容について】 ・段階をなるべく細分化し、スモールステップで進むよう授業計画に変更を加えたのが良かった。 ・生徒の創作が行き詰まってしまう場面が何度かあった。 →創作体験が少ない生徒に1から作らせるのは難しいが、複数の選択肢を与えて選ばせるところ から始めると抵抗が少ないようである。音楽Ⅰでは選択制の創作を行って慣れさせておき、音 楽Ⅱなどで本格的な創作に取り組むのがよいのでは? ・小節数やコード・リズムの種類など、あまり自由度を上げすぎると立往生してしまう生徒が出やす い。条件はあらかじめある程度絞ると取り組みやすい。 ・アプリの操作に慣れさせることと創作の活動を同時進行で行ってしまったため、機器の操作に習熟 させるのが難しかった。 →2時間目あたりで既存の曲を入力する活動を行うと、入力の過程や操作方法が理解しやすく、 創作にも入りやすかったのでは? ・各グループの進度を揃えるのが難しかったが、言葉やリズム、コード進行の選択肢を示した「ヒン ト集」を作成して渡したり、授業者がいくつか例を挙げたりしてある程度対応できた。 【2.評価について】 ・グループワークの中で個人の評価をどのように行うかということが課題。 →ワークシート(鑑賞シート)の中で、自分がグループ内でどのような役割を果たしたか記述さ せた。それに加え、授業中の取組の様子を観察することで評価する。 【3.環境について】 ・2時間目の授業では教員が機器を操作しているのが見えづらかったので、3時間目以降からは書画 カメラを使用して操作する手元が見えるよう改善した。 ・このような実践を、他校でもできるような環境が整備されているか。 →今回使用したアプリは Windows のタブレットでは使用できず、iPad を使用するための環境を整 えるのが大変だった。芸術科では iPad が有効な場面も多い。気軽に使用できるような環境整備 が必要である。 →ICT を使用しなくても、ワークシートをうまく用いて同様の実践をすることは可能。ただし、ク オリティの高い作品が簡単に作れて、作成途中も常に音を聴きながら進められるのはこのアプリ の大きな利点である。 【4.組織的な授業改善について】 ・推進委員会の場でアイディアを持ち寄って授業計画を作り上げていく中で、非常にたくさんの発見 があった。このような場を音楽科教員が日常的に持つにはどうしたらよいか。 →他校の音楽科教員と交流する機会をうまく活用できないか。また、校内で組織的な授業改善を行 う場合、体育や家庭などの教科が類似性が高く、それらの教科と一緒に協議をすることも有効と 思われる。 (3)他校での実践の成果と課題 研究授業実践校以外の学校でも、推進委員が「CM ソング創作」の授業実践を行った。 CASE 1 海老名高等学校(黒澤 幸子教諭) <科目> 音楽Ⅱ(2時間扱い) <内容> 既存の CM ソングの分析および和声音と非和声音についての説明、キーボードを使った自 分の名前による創作、音楽制作アプリを使った CM ソングの創作 <成果> 研究授業の反省を生かして、アプリの操作説明を兼ねて既存曲の入力を行い、グループ 創作をスムーズに始めることができた。アプリに内蔵されている様々な音色を味わいな がら楽器を選択し、複数のパートを重ね合わせて、8小節の作品を完成させた。 <課題> 主要三和音以外の和音を用いた、より複雑なコード進行を使いたいという様子も見られた。 ヒントとして渡したコード進行パターンの内容や活用の仕方等、創作活動における条件設 定をどのように行うか、検討を続けたい。 CASE 2 保土ケ谷高等学校(松山 裕香教諭) <科目> 音楽Ⅰ(7時間扱い) <内容> 既存の CM ソングの分析、キーボードを使った自分の名前による創作、ワークシート・キ ーボードを使った CM ソングの創作 <成果> 音楽を形づくっている要素がもたらす働きについて考える機会になった。短いフレーズの 中で意図を持ってリズムや音高を選び、コードの構成音から表現したいイメージに合った メロディーを作る活動を通して、ある程度の達成感を得られたようだ。 <課題> CM ソングという題材なので言葉のイメージは比較的しやすかったようだが、それでもコピ ーを考える段階で悩んでしまう生徒も多く見受けられた。 「学校 CM」のように宣伝する対象 を決めた方が、 より音楽づくりに時間が使えるのではないか。 自由に創作するというよりは、 自分のイメージに合った言葉、 リズム、 音高を選ぶ過程を踏むことで、 創作への第一歩とし、 音楽Ⅱ、Ⅲへと発展させていくと良いと考える。 7.参考資料(ワークシート) ※紙面の都合上、記入欄等を省略しています。 音楽Ⅲ「CMソングを作ろう」ワークシート① 1 身近な CM ソング(もしくは「ジングル」 )を挙げてみよう。 2 上の①∼⑫から一つ選び、その歌詞の特徴や宣伝のための工夫について考えてみよう。 3 2で選んだ曲の歌詞を、リズムがわかるように次のマス目に書き込んでみよう。 4 さらに、だいたいの音程がわかるように次のように書き直してみよう。 5 今日の本題!「茅ケ崎西浜高校」のCMソングを作ってみよう。 まずは歌詞を作ります。長さは、初めに挙げたCMくらいを目安に。 6 リズムと音程がわかるよう、次のマス目に書き込んでみよう。 音楽Ⅲ「CMソングを作ろう」ワークシート② 1 マス目に書き込んだ歌詞を見て、規則性を見つけよう。 2 テンポと小節数を決めよう。 3 コード進行を決めて、歌詞の上に書き込もう。 ( ) ( ) (1,2には生徒の記入例あり) 芸術(美術・工芸) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「学びがリンクする効果的な『まとめ』の研究」 (2)研究のねらい 多くの学校には美術・工芸担当教員が1校に1名しかいない状況であるため、組織的な授業改善を進め るためには、各学校の教育目標等を踏まえ設定した授業研究テーマに基づき、校内研究授業等の教科の枠 を超えた取組の中で、指導計画を充実・改善していくことが重要である。 美術・工芸担当教員5名で構成される教育課程研究会研究推進委員芸術(美術・工芸)部門のメンバー で、平成 24 年∼26 年度の3年間の組織的な授業改善の推進の取組において、平成 24 年度は「意欲を引 き出し、発想や構想を豊かにする効果的な導入」、平成 25 年度は「『生徒が主体的に取り組める授業展 開』に基づく表現力の育成に向けた学習活動」のテーマで研究を行い、平成 26 年度は、「学びがリンクす る効果的な『まとめ』」に注目した。 この場合の「まとめ」は、「言語活動の充実」を意識した学習活動の振り返りを通じて、次の作品制作 等へとつなげる「リンク」であり、題材(単元)を通して重要なポイントと言える。また、生徒の振り返 りを受けて、授業者も指導を振り返り、題材の指導計画等の改善につなげる「リンク」という意味も含ん でいる。 平成 25 年度までの活動では、美術・工芸における「導入」の工夫が生徒の意欲的な活動を促し、教材 やグループワーク等の授業形態が「主体的な授業展開」を推進し、発想や構想の能力を育て高めることを 示した。これまでの取組を分析し、言語活動の充実と題材の指導計画の更なる工夫を図ることをねらいと し、このテーマを設定した。 2.研究で取り組んできた内容 「言語活動の充実」を意識した授業展開の中で、生徒が学習活動の振り返りを行う「まとめ」、教員 が生徒の取組により自身の指導と評価を振り返る「まとめ」と、各自が捉えたまとめの方法を、各推進 委員が学校の実情に応じた形でリンクさせ指導計画を工夫し、研究を進めた。このうち、「展示方法を 工夫した新しい日本画制作」という、作品の展示スタイルを意識して作品制作する題材の中で、作品形 式や作品展示方法を研究し、発想・構想の能力を高め、作品鑑賞とのつながりを理解させることで、美 術への理解を深める授業において校内授業研究を行い、併せて教育課程研究会の公開研究授業に位置付 ける形で研究を進めた。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て 各校で取り組む授業研究の内容を、研究推進委員会で共有し、「まとめ」の方法や指導計画の構成の 工夫等について相互に意見交換を行いながら検討を進めた。また、研究授業の指導計画や指導案につい て事前に研究推進委員で検討しながら指導の改善に努めた。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実践校:神奈川県立弥栄高等学校(全日制美術科) (2)学校の課題:本校の生徒の場合、日本画、油彩画、彫刻、デザイン領域を 10 人ずつのローテーショ ンで学習している。学習内容が2年次からの授業選択の指針や判断材料になっているが、希望決定が早 いため、生徒の選択に効果的な役割を十分には果たしきれていない。 (3)実践校における研究テーマ:授業研究テーマ「作品つくり、作品表示の仕方、展示方法を通しての効 果的な鑑賞への道筋」 (4)科目: 美術専攻実技Ⅰ(日本画) (学校設定科目) 年次:1年次 (5)題材名:「展示スタイルを考えての新しい日本画制作」〔A表現(1)絵画・彫刻〕 (6)題材のねらい:展示方法を考えた伝統的な作品様式の学習と、それを基盤とした独自の日本画作品の 表現様式を構成、制作することで、伝統文化を受け継ぎつつ新たな創造力を養う。[まとめ(展示の方 法)が導入にリンク] (7)題材で身に付けさせたい力:他者の考えを踏まえた発想・構想力、自らの考えを言語化しまとめる力 (8)題材の指導と評価の計画 a 美術への関心・意欲・態度 作品表現と併せて、伝統 の展示方法や表現形式に も興味・関心を持ち、主体 的に主題を生成し、形態 や色彩構成などを創意工 夫して構想を練ろうとして いる。 時間 90 分 ① 学習 内容 b 発想や構想の能力 c 創造的な技能 d 鑑賞の能力 展示方法や鑑賞形式を考 慮し、表現形式の特性を 生かして、形態、色彩、構 成などを工夫して創造的 な表現の構想を練ってい る。 意図に応じて教材や用具 の特性を生かし、表現方 法 を 工 夫 して、 主 題を 追 求し表現している。 他の生徒の作品のよさや美しさ、作者の心 情や意図と表現の工夫などを感じ取り、作 品に対する見方や感じ方、考えなどを持 ち、理解している。 また、日本の伝統的な美術の表現の特質 や様式、主題や表現方法、日本及び諸外 国の美術文化について理解している。 ◎学習活動 ●学習のねらい 評価規準 評価の 観点 a b c d a美術への関心・意欲・態度 c創造的な技能 b発想や構想の能力 d鑑賞の能力 ◎展示スタイルを考えての新し ○ ○ い日本画制作をする。 ●日本画を理解する。 ◎作品制作の計画を立てる。 ② 鑑賞 準備 ③ 鑑賞 ◎制作工程ビデオの視聴 ○ d作者の心情や意図と表現の工夫などを感じ取 ◎制作Aの準備 り、作品に対する見方や感じ方、考えなどを持 ●写生から制作までの過程を理 ち、理解している。 解 ◎日本画の美術史の解説 ○○ a伝統の展示方法や表現形式にも興味・関心を ●日本絵画、日本画の歴史の学 持ち、主体的に主題を生成し、形態や色彩構成 習 などを創意工夫して構想を練ろうとしている。 ◎日本画の画材解説 b展示方法や鑑賞形式を考慮し、形態、色彩、構 ●日本画の画材の学習 成などを工夫して創造的な表現の構想を練って ◎作品制作Aの準備 いる。 ◎和紙裁断、ドウサ引き等の実 習 ◎作法室で美術品の取り扱い方 ○ c意図に応じて教材や用具の特性を生かし、表 の解説と実習(掛軸等) 現方法を工夫して、主題を追求し表現している。 ●美術品の取り扱い方の学習 ◎作品制作Aを進める。 ◎作品制作Bの準備 ◎てん刻の解説と文字調べをす ○ ○ a作品表現と併せて、伝統の展示方法や表現形 る。 式にも興味・関心を持ち、主体的に主題を生成 ●てん刻の歴史を知る。 し、形態や色彩構成などを創意工夫して構想を ◎作品制作Aを進める。 練ろうとしている。 ◎作品制作Bを進める。 b展示方法や鑑賞形式を考慮し、表現形式の特 性を生かして、形態、色彩、構成などを工夫して 創造的な表現の構想を練っている。 ◎顔彩絵具を使用する。 ○○ a作品表現と併せて、伝統の展示方法や表現形 ◎作品制作Aを進める。 式にも興味・関心を持ち、主体的に主題を生成 し、形態や色彩構成などを創意工夫して構想を 練ろうとしている。 b展示方法や鑑賞形式を考慮し、表現形式の特 性を生かして、形態、色彩、構成などを工夫して 創造的な表現の構想を練っている。 本時 鑑賞 構想 準備 ( ) 準備 ④ 鑑賞 ⑤ 構想 準備 構想 制作 ⑥ 構想 制作 ○ a作品表現と併せて、伝統の展示方法や表現形 式にも興味・関心を持ち構想を練ろうとしている。 b展示方法や鑑賞形式を考慮し、創造的な表現 の構想を練っている。 d他の生徒の作品のよさや美しさ、作者の心情や 意図と表現の工夫などを感じ取り、作品に対する 見方や感じ方、考えなどを持ち、理解している。 評価 方法 ワークシート 活動の 様子 活動の 様子 活動の 様子 活動の 様子 活動の 様子 活動の 様子 ⑦⑧ 鑑賞 構想 制作 ◎ビデオ(日本画家)の鑑賞 ◎作品制作Bでは水干絵具を使 用し作品制作Bを進める。 ◎作品制作Aを完成させる。 ⑨⑩ 構想 制作 ◎作品制作Bを進める。 ○○ ◎作品制作ABの完成時に落款 を入れる。 ⑪ 鑑賞 ◎鑑賞・相互批評する。 ◎作品制作Bの作品のねらいや 意図を説明する。 ○ ○ b展示方法や鑑賞形式を考慮し、表現形式の特 性を生かして、形態、色彩、構成などを工夫して 創造的な表現の構想を練っている。 d作者の心情や意図と表現の工夫などを感じ取 り、作品に対する見方や感じ方、考えなどを持 ち、理解している。 a作品表現と併せて、主体的に主題を生成し、形 態や色彩構成などを創意工夫して構想を練ろう としている。 b形態、色彩、構成などを工夫して創造的な表現 の構想を練っている。 ○ d他の生徒の作品のよさや美しさ、作者の心情や 意図と表現の工夫などを感じ取り、作品に対する 見方や感じ方、考えなどを持ち、理解している。 活動の 様子 活動の 様子 作品 活動の 様子 (9)専門性を高める授業 県立高校で唯一の美術の専門学科であり、幅広い美術分野で高い専門性を学べる教育課程が組まれて いる。生徒は「専攻実技」授業科目のⅠⅡⅢ日本画④②④、Ⅱアクリル水彩画②、ⅠⅡⅢ油彩画④②④、 ⅡⅢ版画②、ⅠⅡⅢ彫刻④②④、Ⅱ立体造形②、Ⅲ総合造形④、Ⅰデザイン④、ⅡⅢビジュアルデザイ ン②④、ⅡⅢクラフトデザイン②④、ⅡⅢマルチメディアアート②④、を選択し段階的に学んでいく。 Ⅰとなっている4分野を1年間で全員履修するため、分野別の実質的な時間は①時間である。また、生 徒は専攻実技以外に、素描④、鑑賞研究②、映像表現②、総合美術④、美術史②などを履修する。 (10)【D】取組事例 ア 実施日:平成 26 年 10 月 17 日(金) 授業担当者:松原 秀伸 教諭 イ 授業クラス:1年5・6組の美術専攻生徒 10 名 ウ 本時のねらい:日本画の表現、展示形式などの理解を通して、日本の伝統文化の一端を知る。伝統 を理解した上で、各自の創造的な感性を生かした表現を工夫し作品づくりをする。 エ 本時の指導内容:例示作品を通して、伝統的な様々な形式の作品を理解する。ワークシートを使い 独自の作品にするための条件設定や計画を立案し、作品制作に取りかかる。 時 間 50 分 学習内容 題材の把握 10 作品の例示 ◎学習活動 ●学習のねらい 評価の 観点 a b c d ◎10 作品の例示された作品を通し ○ て活動内容を理解する。 ●10 作品を鑑賞し、作品の展示方 法などの特質を考え理解する。 評価規準 評価方法 a伝統文化の作品の表現の工 夫を感じ取り、日本の美術文化 の一端を感じ取る。 活動の 様子 ワークシート b独自の展示方法を考え、作品 の目的や意図に応じて、材料 や用具の特性を生かしたより効 果的な表現方法の工夫をして いるかを見る。 活動の 様子 10 作品の解説 30 分 発想・構想 生徒自身が作品 環境を考え、そ れに適 した絵画 表現を考える。 ① 10 分 まとめ 鑑賞・相互批評 ◎主題を基に構想を練る。 ●学習について理解する。 こ し た ず ◎小下図 (アイディアスケッチ)を制 作 ●自分の表現意図に合う表現方法 を工夫する。 ◎小下図を基に次回下図(制作A) を制作す る。そ の折、日本 画 材料 (顔彩絵具等)を使用する。 ◎生徒各自が作品について説明す る。 ○ ○ d自分の作品計画 を堂々と説 明できるか。また、他の生徒の よさや、心情や意図と表現の工 夫などを感じ取り、作品につい てよく理解しているか。 ワークシート 小下図 発表 オ 事後考察 伝統形式の多様性、伝統作品の様式の必然性など、鑑賞を通して学習し、生徒自身に求めた作品環境を 考慮した作品づくりをさせることで、生徒の制作の様子からより積極的な取組姿勢が伺えた。また、時間 が取れず、制作途中で生徒同士の意見交換の機会を作ることができなかったが、生徒同士の会話の中に他 者の作品を語る内容があり、他の生徒からの視点を意識した作品づくりを進めていたことが散見された。 生徒の感想の中には、条件制定としての作品制作にとどまらず、実際の諸施設などで活用や展示されると ころまで踏み込みたいという意気込みが書かれていた。 今回の試みは、条件設定から始めてみたが、生徒は熱心に取り組み、予想以上の成果があったと感じた。 また、他にも作品形式を統一するなどの様々な方法が考えられるため、より良い方法を模索していきたい。 生徒感想 ・作品制作に入る前に、患者さんの気持ちを考え、心が安らげる絵を描くのには何を描いたら最も 良いのかを考えるのが楽しく悩んだりもした。今回の見る人の立場を考えて作品づくりを進める授業が新鮮でし た。・静粛なお祈りの場所の雰囲気を損なわないで、自分らしい表現を使って日本画作品にすることに苦心しま した。・剣道をやっている自分にとって最も興味深い内容を、自分のための記念館的な建物に飾るという前提で 作品を描きました。様々なイメージが浮かび一つに絞っていくのが難しかったです。 カ 授業の様子 ■掛け軸の説明 ■映像による鑑賞 ■アイディア構想の様子 5.【D】その他の取組事例 (1)私に命を吹き込む鏡〜レリーフの制作〔芸術「美術Ⅰ」:デザイン(工芸的内容)〕 ア 研究推進委員:神奈川県立大和南高等学校 片桐 彩 教諭 イ 組織的な授業改善:本校の授業研究テーマである「”考える”生徒の育成を目指し、”考える”授 業の組織的な展開」を踏まえ、発想の学習を工夫することで美術における生徒の思考力の伸長を図っ た。具体的には、校内で使用している『思考力アップツール』(YXWチャート)を利用し、アイディ アスケッチに入る前のブレインストーミングを試みた。 ウ 題材のねらい:自己の内面を見つめ考えたことや大切に思っているものなどを基にして表現のテー マを生成する。想像力を働かせ、こだわりをもって創造的に構想を練り表現を追求する。[構想前の ツールの利用で次の学習へリンク、ツールの使用を次の指導へリンク] エ 身に付けさせたい力:造形要素などによる表現の工夫を通して思考し、発想や構想を深め、意図に 基づいた効果的な表現を追求する力。他者の表現から制作上の意図を読み取り、表現の良さや工夫に ついて味わい理解する力 オ 指導内容と構成の工夫: ①自己の内面を見つめる活動から、題材に関心を持たせる。 ②モチーフについて、点や線などで捉えた形体の特徴・色彩・質感など様々な造形要素を基にして考 え、アイディアを出させて作品の発想・構想を深めさせる。 ③材料の特性を生かし、彫刻刀による様々な彫りの技法を取り入れながら、意図に応じた彫り方を工 夫する。 ④作品について説明する場面や他者の作品の意図等を読み取る機会を設定する。 ・アイディアスケッチに入る前に造形要素や表現のテーマに基づいたブレインストーミングの機会を 設けることで、柔軟な発想を引き出す。 ・制作後に鑑賞会を行い、自他の表現の工夫を味わい理解する機会を設けるとともに、学習を振り返 り、自らの学習を言語化してまとめる力を付ける。 カ 授業の様子・生徒作品 ○ワークシート (抜粋) ■ワークシート記入の様子 ■彫りが終わった段階 (2)「私の好きなコト・モノ」をテーマに絵巻物を制作する〔芸術「美術Ⅱ」:絵画〕 ア 研究推進委員 神奈川県立上溝南高等学校 松川 正浩 教諭 イ 組織的な授業改善:本校の授業研究テーマである「生徒の主体性を引き出す授業」「思考力・判断 力・表現力を育む授業」を意識し、柔軟な発想力や表現の技能を他者と共有しつつ、自主的に制作で きるような題材設定をした。 ウ 題材のねらい:「私の好きなコト・モノ」から各自自由に発想し、自分とも深く向き合う。素材 (巻物)の特性を理解し、特性を生かした表現技能を身に付ける。[振り返りシートが次の学習活動、 指導への双方へリンク] エ 身に付けさせたい力:「私」「好き」「コト・モノ」各部分について深く考え、イメージを醸成す る力。浮かんだイメージを画面に構成する力。描画素材(巻物)の特性を理解し、その特性を生かし た表現技能。「鑑賞」を通じ、作品を多角的な視点で受け止める力。他者と「意見交換」を行い、内 容をまとめ発表する力 オ 指導内容と構成の工夫: ①「私の好きなコト・モノ」をテーマに、イメージを発想し、画面に構成する。 ②素材(巻物)の特性を理解させ、その特性を生かした表現に取り組ませる。 ③作品について説明する場面や他者の作品の意図等を読み取る機会を設定する。 ・演習やグループワークを取り入れることで、他者の考え方も取り入れながら、発想する力を高める。 ・毎授業後の振り返りシートの記入により、学習内容の定着を図るとともに「教師との情報交換」が 「次回の授業を発展させる為の情報」として機能するよう、『双方向フィードバック』に取り組む。 ・制作後のプレゼンテーションにより、学習を振り返り自らの考えを言語化し、まとめる力を付ける。 カ 授業の様子・生徒作品 ■振り返りワークシート記入の様子 (3)芸術祭テーマ課題 ∼空想の動物スクラッチ∼〔芸術「美術Ⅰ」:絵画、鑑賞〕 ア 研究推進委員 神奈川県立相模原中等教育学校 藤井 信孝 教諭 イ 組織的な授業改善:「相手の主張や状況などを的確に把握し、自己の考えや行動をその場にふさわ しい方法で表現し、相手に伝えることのできる力」 本校の授業研究テーマである「制作にまじめに取り組んでいるのだが,一歩踏み込んで表現を工夫 する生徒が少ない。感覚的な表現よりも、表面的な仕上がりを気にする生徒が多い」を意識し、自由 な発想が認められる題材設定をし、展示についても全体で見せる共同作品であることを強く意識付け ることで、表面的な仕上がりに傾かないよう留意した。芸術祭は、これまで芸術科単独で動いていた が、生徒会行事とすることで、生徒会組織、学年との連携をさらに強め、組織として動けるよう工夫 した。 ウ 題材のねらい:創造的な作品制作とともに、芸術祭の展示によって作品の見え方、自他の作品の在 り方の多様性に気付く。[振り返り評価さらに芸術祭による作品相互のリンク] エ 身に付けさせたい力:伝説や神話の世界を参考にしながら空想の動物を想定し、創造的な表現を工 夫する力。芸術祭の展示準備、展覧会により、作品相互の関係を味わい自他の作品を深く理解する力。 オ 指導内容と構成の工夫: ①伝説や神話の世界の生き物の説明を聞き、感性を働かせて想像し、豊かに発想し創造的な表現を行 えるように導入をする。導入でグループワークを行い、発想を広げさせる。 ②前期に表現A『静物画』を制作しており、立体感、明暗の描写は理解している。スクラッチでは明 暗が逆になるが、明部・暗部両方の表現があることを理解させる。 ③制作中から、他者の作品も随時把握させ、展示の順番や方法を検討させる。 ④芸術祭実行委員のリーダーシップのもと、自ら判断し、展示作業を行わせる。 ・芸術祭では、芸術祭実行委員が全体テーマを決定している。今年度は『ミステリー』であり、芸術 祭特別課題として生徒にヒアリングをした結果、空想の動物とした。 ・制作の前に鑑賞や共同制作も可能とすることで、他者の考え方も取り入れながら発想の力を高める。 ・前期の静物画の後、デッサンをやりたいという生徒の声が多かったことから、ニードルによるスク ラッチを取り入れた。 ・制作後、芸術祭実行委員の指示のもと、展示計画に基づいて、他者の作品を展示することで、達成 感や成就感を味わい、かつ自他の作品を認め合うようにする。 カ 授業の様子・生徒作品 ■制作風景 ■生徒の発想アイディア ■多目的ホール展示風景 (4)なぜただの風船が 12 億円なのか ∼現代美術∼〔美術「美術概論」:絵画、映像メディア、鑑賞〕 ア 研究推進委員 神奈川県立白山高等学校 宮田 一宏 教諭 イ 組織的な授業改善:本校の授業研究テーマである「『聴き・考え・表現する』基礎学力の充実とコ ミュニケーション力の育成をはかる。」をもとに、「芸術に親しむ姿勢を育む」ことを意識し、生徒 が取り組みやすく、興味を持ってもらえるような題材設定をした。 ウ 題材のねらい:非現実的な事実を出発点とし、その原因を探っていくことで「問う力」を育み、美 術の多様性を明示することで、その楽しさを発見してもらい愛好する心情を育てる。[振り返りをも とに意見交換したことが指導にリンク] エ 身に付けさせたい力:良く聴き、理解しようとする姿勢。自ら考えまとめ、意見を口述もしくは記 述できる力。 オ 指導内容と構成の工夫: ○以下、基本的に授業の最後には、講義内容をレポートにまとめさせる。 ①美術に関係するハード面を紹介する。(美術館、ギャラリー、オークションなど) ②毎回、現代美術の作家を紹介する。 ③作家同士の関係性から「文脈」の概念を講義する。 ④パラ・トリエンナーレを題材にその是非を問う。 ・一方的な講義は避け、生徒の能動的な鑑賞を目指した。(スケッチを取り入れた鑑賞や実技を取り 入れた追体験型の鑑賞など) ・講義の中にワークショップや実技を組み入れ、集中力や興味を持続させる工夫を凝らした。 ・毎回レジュメ兼メモ用紙を配付し、事前に授業の概要やスケジュールを把握させ、見通しを持たせ るようにした。 6.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 ・ 資料提示や作品の鑑賞を通して、伝統的な表現形式の理解を深めることができたか、授業者側の指 導を検証した。自由な作品づくりとは違い、作品の形態や展示の環境などを考えながら作品制作に結 び付け、作品の制作された社会的な背景や求められる作品スタイルなどを考察することにより、生徒 達は、社会における美術の役割を認識することができた。また、「発想や構想の能力」の向上におい ても、展示環境を意識する事による効果があった。 ・ 思考力アップツールの「YXWチャート」によるワークシートの工夫により、多様なアイディアス ケッチが見られた。また、生徒の学習記録にも「沢山考えることができた」等、思考に対する前向き な記述が多かった。ワークシートの改善により生徒の思考が促進され発想・構想の学習に一定の成果 が認められた。 ・ 「生徒の主体性を引き出す授業」という本校の「校内授業研究の目標」に対し、ワークシートを使 うことで、毎時間の授業の振り返りに主体的な取組が見られ、次の授業への課題を意識できたことは 評価できる。今後の課題としては、生徒は自分自身のことについて振り返りの記述ができるが、「授 業内容がどうであったか?」について、振り返りをするのは難しいようである。 ・ 導入時のグループワークの工夫により発想に豊かさが増した。展示会場全体が一つの作品であるこ とを強く意識付けることで、まとまりのある仕上がりを目指した。芸術祭はこれまで芸術科単独の取 組であったが、生徒会行事とする事で生徒会組織や学年との連携を強化し、組織的な取組となった。 ・ 本校の授業改善テーマの一つに「『学びへの参加』を促す」がある。授業時には、「授業をする」 という当たり前の枠組みを取り去り、座談会形式で取り組んだ結果、生徒の学ぶ意欲を引き出すアイ ディアが多く生まれた。学びへの参加に向け、一つのステップを踏み出すことができた。 7.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 ・ 本研究は作品制作を中心に進める指導計画であるが、いずれの題材においても制作された作品の歴 史的な背景や社会的な側面を踏まえた鑑賞教育を実施した。また、本事例は 10 名という少人数授業 であったが、40 名であっても効果的に行える授業づくりに向けては更なる工夫が必要である。また、 制作における条件付けの方法も、表現形式のみとする等、改善していくことが重要である。 ・ 今年度使用した「YXWチャート」には、「Y型」「X型」「W型」の3種類がある。いずれも多 面的に見たり、アイディアを出したりするために有効とされている。本題材では「X型」を使用した が、発達段階や題材、使用目的によってどの形式が使いやすいかを考えて使用すると良い。さらに、 各題材の使用が可能か、今後の学習指導を通して引き続き検討したい。 ・ ワークシートを工夫することにより、生徒間のコミュニケーションが促進され、次の授業で取り組 む学習内容を一斉指導より確実に全員に伝えることができたが、次回に向けた発展的な取組を期待す る情報交換までには至っておらず、「次の授業へのリクエスト」など生徒に分かりやすい記入欄を作 るとともに、「どのように記入して欲しいか」について、教員が丁寧に説明を行う必要がある。 ・ 生徒自らが芸術祭を作り上げるという意識のもと作品制作に臨めたので、授業において意欲的な取 組が見られた。中等教育学校後期課程生が作業を計画し、的確に前期課程生へ指示できたこともよか った。実行委員は、展示の立案や準備のほか、自分の作品制作もあるので、負担が大きすぎるのが課 題である。「芸術祭」は前期課程生も参加するため、教員の丁寧な指示出しは必要であるが、基本的 に生徒主体の運営であることを、生徒会担当教員を含め、学校全体へ周知したい。 ・ 生徒からの授業アイディアを活用する試みは、授業づくりに大いに役立った。生徒からの多様なア イディアを磨き、授業に取り入れ、学びにつなげられるかが課題である。また、多様な事例も研究し、 授業改善に向け試行錯誤していきたい。 芸 術(書道 ) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けて の方策」 「身に付けさせたい力を定着させる授業づくり―作品及び言語活動の内容による検証―」 (2)研究のねらい 研究推進委員会・芸術(書道)部門では、生徒が主体的に考える機会を持つことができるように配慮 することや生徒が互いに学び合う中で、感性を高め、書表現や鑑賞の能力を高める授業づくりについて 継続的に研究を進めてきた。 今回の研究に当たっては、これまでの実践を深めつつ、身に付けさせたい力を定着させる授業づくり について、生徒の作品及び言語活動の内容を分析し、検証することをねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 商品となるロゴの文字を選びとる作業や完成した作品をプレゼンテーションするなどの言語活動を工夫す ることによって、生徒の思考力を高めることを目ざした。また、成果物を評価するだけではなく創作プリン トや鑑賞プリントの記述や発表の内容を分析することにより、身に付けさせたい力の定着を検証した。 3. 【R】研究のねらいを実現するための手立て 本研究では、感想文の作成やプレゼンテーション等、自らの考えを深めるための多様な言語活動の形態を 提示した。言語活動を通して、身に付けさせたい力が定着したかどうかかを検証するためには、その内容を 記録し分析する必要がある。具体的には、言語活動の過程を評価に生かすための資料として、創作プリント や発表プリントを用いることとした。 4. 【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例(公開研究授業) (1)研究実施校:神奈川県立港北高等学校(全日制) (2)実施校における研究テーマ: 「自学力の育成」を図る授業づくり (3)科目:書道Ⅱ 学年:2年 (4)単元名:漢字の書 ―隷書の学習を生かした創作・缶飲料の商品名を書く― (5)単元で身に付けさせたい力:古典に基づく表現を工夫し、個性的に表現する力 (6)単元のねらい: ・隷書の書体の変遷と特徴を理解する。 ・隷書の特徴を生かした表現を構想し工夫する。 ・隷書の特徴を生かした表現をするための技能を身に付ける。 ・生徒相互の作品鑑賞を通し、隷書のよさや美しさを感じ取り、鑑賞と表現の関連性について理解する。 ・書の伝統と文化に関心を持ち、主体的に創作活動に取り組む。 (7)単元の指導と評価の計画 時 学習内容 1 2 学習活動 ねらい 評価の観点 a b c 隷書の特徴理 ・単元の概要を把 ・完成作品をイ ○ 解 握する。 メージする。 (復習) ・商品名と宣伝文 ・隷書の表現に 構想(選文) 句を決め、字典 ふさわしい文 を活用し、隷書 を考える。 にする。 制 作 ( 隷 書 の ・ 半 紙 に 練 習 す ・字形や字の大 表現・字形と る。 きさを工夫し 大きさの工 整える。 夫) ・缶の絵の中に体 ・意図した表現 制作(缶の絵 裁よく書く。 が実現できる の下敷きを使 ・落款を隷書で書 ように練習を 用・落款を隷 く。 重ねる。 書で書く) 3 4︻公開研究授業︼ 制作(清書) ・落款を隷書で書 ・意図した表現 く。 が実現できる ・清書を仕上げ ように練習を る。 重ね、清書す る。 ( 感 想 を 書 ・感想を創作プリ ・創作活動の中 く) ントに記入す で工夫した点 る。 と練習の経 作品鑑賞 ・創作プリントを 緯、完成度に 基に自己作品 ついて振り返 について発表 り文章で表現 する。 する。 ・友人の作品を鑑 賞し、感想を鑑 賞プリントに 記入する。 a:書への関心・意欲・態度 b:書表現の構想と工夫 評価規準 d ○ ・隷書の書体の変 遷と特徴に関心 を持ち、意欲的、 主体的に理解し ようとしている。 ・隷書の書体の変 遷と特徴を理解 している。 ○ ○ ○ 評価方法 観察 創作プリ ント 途中経過 作品 ・自己の表現のね らいを達成する ために、古典の持 つ伝統的な美を 感受し、表現を構 想し工夫してい る。 ・創造的な書表現 をするために、字 形、全体の構成な どの表現の技能 を身に付けてい る。 観察 清書作品 創作プリ ント 鑑賞プリ ント ○ ・鑑賞と表現は相 互に関連してい ることを理解し、 書のよさや美し さを感じ取って いる。 c:創造的な書表現の技能 d:鑑賞の能力 (8) 【D】取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月9日(木)授業担当者:関口 奈緒美 教諭 ②授業クラス:2年2、6、7組(必修選択科目: 「芸術Ⅱ」と「数学 B」からの選択) ③本時のねらい: ・創造的な書表現をするために、字形、全体の構成などの表現の技能を身に付けている。 ・鑑賞と表現は相互に関連していることを理解し、書のよさや美しさを感じ取っている。 ④本時の指導内容: 3 時 学習活動 指導上の留意点 評価規準 缶の絵の中に体裁よく書く。 前時の活動を振り返らせ、本時の活動内容につ ・創造的な書表現を いて説明する。 するために、字形、 前時の途中経過作品を観察させ、各自の制作意 全体の構成などの 図を明らかにしながら表現させる。 表現の技能を身に 創作プリントに感想を記入 制作意図が十分に表現されている作品を清書と 付けている。 する。 して選ばせる。字形や構成などの工夫について 清書を仕上げる。 記入させる。 4 自己作品について発表する。 本時の活動について説明する。 ・鑑賞と表現は相互 発表を聞き鑑賞プリントに 制作意図を表現上の工夫を中心に発表させ、聞 に関連しているこ 記入する。 き手にもその点を鑑賞プリントに記入させる。 とを理解し、書の 3点の作品を選び理由を記 作品を選ぶ際に、作品鑑賞の視点を意識させつ よさや美しさを感 入する。 つ、理由を明示できるようにする。今回の創作 じ取っている。 創作活動と鑑賞を振り返る。 活動のねらいを再認識させる。 ⑤言語活動を評価に生かすための教材の工夫 創作プリント 商品名と宣伝文句の型を示 すことで、構想のイメージを 膨らませる ませる。 字典を参考に 字典を参考にして隷書の特 徴を生かした表現を構想し、 工夫する。創作プリントに下 書きをする。 この作品を採用するかとい う観点で発表を聞き取る。最 終的に3点の作品を選定す る。 鑑賞プリント 制作 展示 発表(デモ) 聞く 発表 ⑥研究協議(指導案拡大法) 成果 改善点 (青い付せん) (赤い付せん) * 研究協議における付せんの記述及び 及び分析 導入 言語活動の内容に係る成果 言語活動の内容に係る 生徒の反応について 教師の指導について ・目標(身に付けさせたい力)を を 明確に提示している。 ・黒板に表現の工夫の見本を掲 掲 示している。 ・表現の工夫の説明で、表現の 意図に沿った言葉(まろやか、 まろやか、 スッキリ等)を使っている。 *隷書の特徴を生かして、制作 制作 の意図を明 らかにしたこと は、単元のねらいを実現する 、単元のねらいを実現する 上で効果があったと考えられ る。 改善点及び提案 授業全般について ・表現の工夫の説明について ・表現の工夫の説明について、線の工 夫が太細だけ 夫が太細だけであったり、字形の工 夫が縦の伸縮だけ 夫が縦の伸縮だけにとどまったり している。言葉 言葉と表現との関連につ いて考えさせたらどうか。 *表現の工夫を説明するためには、 表現の工夫を説明するためには、隷 書の特徴を十分に理解することが 必要である。 制作 ・発表につなげるための缶の絵 の下敷きがよい。 ・隷書の用筆がうまくできない 生徒の筆を取って一緒に書い ている。 ・前時の作品添削があるの ・缶の絵は事前に半紙に印刷すること で、スムーズに練習が開始 もできる。文字を書いた後に、缶の できた。 絵を書くのも一つの方法である。 ・隷書の特徴が表現できてい ・作品にあまり差異がないので、もう て、前時までの学習がしっ かりなされている。 ・生徒が自分で考えていろい ろと工夫していた。 少しアレンジさせてもよい。 *差異がないのは、隷書の特徴を忠実 に再現した結果と言える。オリジナ リティーを出させるためには別途 発表 手立てを講じる必要がある。 ・黒板の好きな番号の所に自分 ・発表の言葉を考える時に、 ・ 「プレゼンテーション」といった方 で作品を貼るというのが意図 生徒が黒板の作品を見つ が良い。情報の授業との共有も検討 的、主体的に創作する力の定 めていた。 できる。 着という目 標と合致してい ・発表の時、「売り込む」と ・ペアで発表の練習時間を確保すると る。全員の作品を貼るのも大 いう設定があるので自己 変良い。 表現しやすい。 ・ (発表デモ)長すぎず短すぎず 発表する例を示した。 ・発表の型を示し、発表のポイ ントを示した。 「∼だから○○ ・自分の売り込む商品ロゴな 良い。 ・指示棒を使うより作品を持った方が 前を向いて発表できる。 ので、作品に対する責任感 ・制作意図と表現がマッチしていない のようなものを持って作 場合、どのようにプレゼンテーショ 成している。 ンをするのか。 な表現をしました。是非ご採 ・聞く側が「採用作品を選ぶ」 ・ 「採用作品を選ぶ」とあるが、文字 用ください。 」 ・良いところを引き出す工夫を していた。 ・メモをとる様子を見て、発表 のスピードを調節したのは適 切だった。 *全員の作品を黒板に掲示する ことにより、それぞれの作品 の特徴やよさを感じ取らせる ことができた。 という設定なので、よく見 表現で選ぶのか、プレゼンテーショ 聞きしようという意欲を ンの上手さで選ぶのかを明確にし 引き出していた。説明の仕 ていない。 方にも個性が出ていた。 ・言葉の持つイメージを視覚 *単元のねらいが、隷書の特徴を生か した表現を構想し、工夫するという 化している。 (濃い→太い、 ことを踏まえると、字形に触れずに まろやか→曲線の強調、す 商品のキャッチフレーズのおもし っきり→細い) ろさに走ってしまった事例は、課題 *表現者の意図を酌んで鑑 を残したと言える。 賞プリントを記述してい まとめ る。 ・以前と比べると生徒は発表に ・創作プリントの「清書後の感想」と 慣れている。プリントを見な 「売り込み」準備が隣接した時間構 いで発表できたことを評価し 成になっていた。 た。 *創作プリントには、 「工夫した点」 *プレゼンテーションについて や「作品の感想」を記入するつくり は今回が初めてではなく、1 になっている。単元の振り返りは最 学期に実施している。段階を 後に行い、発表用原稿とは別個のも 追った指導の積み重ねが重要 のであるということを生徒に徹底 であると言える。 する必要がある。 5. 【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 発表: 「胡麻豆乳」の濃厚さを出すために、字全体をより隷書体らしく波磔をはっ きりと表現し書き上げました。 創作プリントの感想:前回の授業で「胡」だけが小さくなってしまったので、すべての 文字がバランス良く見えるようにしました。 ・隷書の特徴を「濃厚さ」を表現することに生かしている。 ・文字一つひとつの表現の工夫だけでなく、全体の構成を工夫している。 発表:果実がなっている木をイメージして「果」を自然に生えている木のように した。 「毎日飲んで欲しい」というキャッチコピーのとおり、毎日、朝でも夜でも スッキリと飲めるように全体的に細い線で書いた。選び抜いて考え抜いた商品とい うことが伝わるように「選」の字を大きめに書いた。 ・商品のイメージを、字形や字の大小、線質に工夫を凝らして表現したが、隷書 の特徴をどのように表現したかについては整理しきれていない。 ①この単元で身に付けさせたい「古典に基づく表現を工夫し、個性的に表現する力」を定着させるために、自ら の考えを深めるための多様な言語活動を取り入れた。その際に気を付けなければならないのは、評価の内容と 方法である。この授業では、プレゼンテーションを取り上げたが、身に付けさせたい力は、プレゼンテーショ ン能力ではない。評価すべきは、生徒が構想や表現の工夫を行っているかという点である。「行動の観察」だ けでこのことを評価することは困難であるため、プリント等の記述内容を分析することにより評価を行った。 具体的には、創作プリントに「隷書の特徴をどのように表現に生かしたか」を記入する欄を設ける等、常に生 徒の意識が、本単元のねらい=身に付けさせたい力に向くようにした。 ②表現の工夫を行うためには、まず基本となる古典の理解が重要である。「古典に基づく表現を工夫」するため にも臨書や鑑賞の学習は大切である。今回の単元の場合、臨書は「乙瑛碑」のみであったが、「木簡」を学習 することで表現の幅が更に広がったのではないかと考える。教師がいろいろなアイデアを示したり、生徒の相 互批評などのグループワークを取り入れたりすることにより、表現が広がる可能性があるといえよう。 6. 【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 ①「商品ロゴを売り込む」という場面を設定することでその作品の受け手を意識することができ、採用されるこ とを目ざし、個性的な表現のための工夫を引き出すことができた。また、鑑賞プリントについても、発表する 生徒の創作上の工夫点を聞き取り、メモさせることにより、発表に対する「感想」ではなく、今後の自らの創作 活動のヒントを得ることができた。 ②プレゼンテーションを行う際に、書表現ではなく商品そのものの発表になってしまった生徒もいた。先述の通り、 「商品ロゴを売り込む」という設定は、生徒が主体的に思考し判断し表現するための手段であり、その点からす れば批正すべき状況である。しかし、これは一方で「選文」という創作活動に力を入れた結果とも言える。書道 においては「何を書くか、何を書きたいか」ということが重要であるが、適切な言語活動を取り入れることによ って、「選文」がより効果的に行われたと言える。 ③「身に付けさせたい力を定着させる授業づくり」を展開するためには、まず授業においてどのような力を身に付 けさせるのかを生徒に明示することが必要である。今回の研究では「古典に基づく表現を工夫し、個性的に表現 する力」と設定し、その実現を目ざして生徒によるプレゼンテーション(発表)を、言語活動として設定した。 そして、創作プリントや鑑賞プリントといった評価資料の工夫によって、その力の定着を検証してきた。生徒は、 総じて主体的に創作活動を行っていたが、隷書の特徴をどのように生かして表現したのかという点においては、 個人差があった。公開研究授業と研究協議の中で、この単元の発展形を見いだすことができたのは大きな収穫で あったと考える。 外 国 語 (英 語 ) 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けて の方策―」 (2)研究のねらい 平成25年度は、生徒により多く発話させるために、生徒の言語活動を多く取り入れた単元計画の作 成について研究を行ったが、平成26年度は 共通テーマを踏まえ、各校で設定した英語4技能の 「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標に沿った計画的な単元指導計画と評価についての研究をする ことをねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 本研究推進委員会(外国語部門)の委員は、文部科学省の委託事業「外部専門機関と連携した英語指導力向 上事業」研究担当者を兼ね、それぞれの所属校である港北高等学校、大磯高等学校、相模原中等教育学校の3 校において以下の内容に関する研究に取り組んだ。 ・授業は英語で行うことを基本とし、言語活動の高度化を目指した指導方法。 ・単元ごとに計画を立て、話したり書いたりする活動を行うことによって、生徒が自らの意見・感想を表現す る授業方法。 ・英語4技能の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標に係る達成状況を把握するためのスピーキングテスト 及びライティングテストの実施及び評価方法。 ・英語の授業におけるICТの効果的な活用。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て ・単元のまとめとしての自己表現活動を、英語4技能の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標に沿って段階 的・計画的に設定し、評価する。 例)コミュニケーション英語Ⅰ:本文の内容についてのQ&Aや意見交換の中で、自分の意見を理由 とともに述べる。 コミュニケーション英語Ⅱ:本文に関連した内容を自分で調べて発表する。 本文を読んで、その概要を発表する。 ・学年ごとに設定した学習到達目標を、単元ごとに段階的に達成できるように細分化して、生徒にどのような 力を付けさせたいのか、そのためにはどのような活動をさせるかを考え、ペア・グループ活動の内容と方法を 工夫する。 例)聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基づき、情報や考えなどをまとめるなど、 生徒に主体的に考えさせる活動へ高度化を図る。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例 (1) (2) (3) (4) 研究実施校:神奈川県立相模原中等教育学校 科目:コミュニケーション英語Ⅱ 学年:4年次 単元名:Genius English Communication Ⅱ(大修館) Lesson 3 Nature Technology 単元のねらい ・英文を読んで、特に重要な事実を捉えることを通じ、パラグラフの要旨を理解する。 ・トピックについて、相手に理解できる英語を使って、自分の考えを伝え、質問に答える。 (5) 単元で身に付けさせたい力 ・トピックについて英語で聞き、読み、概要を伝える力 ・トピックについて自分の考えを深め、英語で自分の意見を話し、書く力 (6) 単元の指導と評価の計画 単元の評価規準 コミュニケーションへの 外国語表現の能力 関心・意欲・態度 ・トピックについて関心 を持ち、ペアで意見を交 換している。 ・間違うことを恐れず、 会話を続けている。 時 1 学習内容 タイトル について 学習活動 ・教師のオーラ ル・イントロダク ションを聞き、教 師からの質問に答 えるなどして、単 元内容について、 理解を深める。 ・ペアで話し合っ た後、英語で2∼ 3ペアが発表す る。 ・チャンクごとに スラッシュを入れ て英文の意味を捉 え、音読する。 ・教師の質問に答 えながら内容の理 解を深める。 ・チャンクごとに スラッシュを入れ て英文の意味を捉 え、音読する。 ・教師の質問に答 えながら内容の理 解を深める。 語い・語法、rely on ∼to…の用法 について理解す る。 ねらい レッスンの概要 を理解する。 Part 2 の 内容理解 (Part 1と同じ) 語い・語 法 、 block ∼ from … ing に つ いて 語い・語法、 block∼from…ing の用法について理 解する。 シロアリの巣が 温度や湿度を調 整するメカニズ ムを理解する。 語い・語法block ∼from…ingの用 法について理解 する。 Part 1 の 内容理解 (前半) 2 Part 1 の 内容理解 (後半) 語い・語 法、 rely on∼to… について 3 ・トピックについて、相 手に理解できる英語を使 って、自分の考えを伝 え、質問に答えることが できる。 外国語理解の能力 ・英文を読んで、特に重 要な事実を捉えることを 通じ、パラグラフの要旨 を理解することができ る。 関 表 理 知 言語や文化についての 知識・理解 ・英語の仕組み、使われ ている言葉の意味や働き を理解している。 ・複合関係詞、関係副詞 【非制限用法】の用法につ いて理解している。 評価規準 英文を聞いて、内容を理 解できる。 評価方法 ワークシ ート 筆記テス ト ( 後 日) ○ 英文を読んで、特に重要 な事実を捉えることを通 じ、パラグラフの要旨を 理解することができる。 筆記テス ト ( 後 日) ○ 英文を読んで、特に重要 な事実を捉えることを通 じ、パラグラフの要旨を 理解することができる。 ・英語の仕組み、使われ ている言葉の意味や働き を理解している。 ・rely on∼to…の用法に ついて理解している。 筆記テス ト ( 後 日) 英文を読んで、特に重要 な事実を捉えることを通 じ、パラグラフの要旨を 理解することができる。 ・英語の仕組み、使われ ている言葉の意味や働き を理解している。 ・ block ∼ from … ing の 用 法について理解してい る。 筆記テス ト ( 後 日) ○ 科学技術偏重主 義は何をもたら すことになるの かについて理解 する。 自然にやさしい 科学技術を作り 出すためには何 を利用したらい いのか理解す る。 語い・語法、 rely on ∼ to … の用法について 理解する。 ○ ○ ○ 筆記テス ト ( 後 日) 4 5 Part 3 の 内容理解 自然から ヒントを 得た地球 に優しい 技術に係 る問題点 について Part 4 の 内容理解 方法につ いて 6 全課のま とめ 方法につ いて (Part 1と同じ) カタツムリの殻 がなぜきれいな 表面をしている かについて理解 する。 ・ペアで話し合っ た後、英語で、2 ∼3ペアが発表す る。 自然にヒントを 得た技術を使っ て地球に優しい 技術について意 見を交換する。 (Part 1と同じ) シマウマの縞模 様にはどんな機 能があるかとい うことについて 理解する。 方法について意 見を交換する。 ・ペアで話し合っ た後、英語で、2 ∼3ペアが発表す る。 各グループによる 各パートリプロダ クション。 ・自分の担当パー トを図や絵にし、 グループのメンバ ーに伝える。 ・質問に答える。 ・口頭のリプロダ クションを元にし て、サマリーライ ティングをする。 各パートの要約 を行う。 学習した語彙や 文法事項等を活 用して、各パー トリプロダクシ ョンを口頭で行 う。 ○ 英文を読んで、特に重要 な事実を捉えることを通 じ、パラグラフの要旨を 理解することができる。 筆記テス ト ( 後 日) トピックついて関心を持 ち、ペアで意見を交換し ている。 ワークシ ート 英文を読んで、特に重要 な事実を捉えることを通 じ、パラグラフの要旨を 理解することができる。 筆記テス ト ( 後 日) トピックに関心を持ち、 ペアで意見を交換してい る。 ワークシ ート トピックに関心を持ち、 パート毎の要約を積極的 に口頭で延べている。 ワークシ ート トピックについて間違う ことを恐れず、リプロダ クション、要約を行う。 ワークシ ート ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ トピックについて、相手 に理解できる英語を使っ て伝え、質問に答えるこ とができる。 ※ 関:コミュニケーションへの関心・意欲・態度 表:外国語表現の能力 理:外国語理解の能力 知:言語や文化についての知識・理解 (7) 取組事例 ①実施日:平成26年10月27日(月) 授業担当者:礒邊 和栄 教諭 ②授業クラス:4年D組(40名) ③本時のねらい: ・Lesson 3 のまとめとして各パートの要約をする。 ・読んだことを図や絵としてまとめ、内容を相手にわかりやすく伝える。 ・グループのメンバーの発表をよく聞いて、図や絵としてまとめる。 ④本時の指導内容:授業時間45分 授業展開 導入 (7分) 学習活動 ・新出表現のリピート ・ペアワーク(日本語→英語) ・英語で説明してパートナーに あてさせるゲームをする。 ・クロスワードを渡す。 (宿題) 指導上の留意点 評価方法 ・大きくはっきりとした声で 発音させる。 ・英語をよく聞き取り、その 定義から単語をあてるよう ワークシート 指導する。 展開 (30分) まとめ (8分) 4人一組のグループを作り、各 ワークシート グループの中で発表をする。 1.パート毎に担当を決め、自 ・文章を読解して、それを絵 分の担当のパートを英語で説明 や図にしながら、内容理解 する準備(絵や図)をする。 を深めさせる。後でどのよ 2.グループ内で自分の分担の うな説明をするか考えなが パートを英語で他の3人に説明 らまとめさせる。 する。他の3人は、聞きながら ・グループのメンバーの話の メモ(絵や図)を取る。(後で 内容をよく聞き取りながら 自分のパート以外の部分を要約 図や絵にまとめさせる。 することを意識しながら、話を 聞く。) 3.他のメンバーから聞いた話 ・図を見ながら、リプロダク を(メモを見ながら要約しつ ションさせる。 つ)グループ内において、口頭 で発表する。交代で行う。 自分の聞いた話のいくつかをワ ・理解した内容を要約とし ークシートに要約する。 てまとめさせる。 ワークシート ⑤授業担当者のコメント ・今日は英文を基に描いた絵を用いて英語によるリプロダクションの発表及び英語の要約の発表を聞 いてイメージしたことを絵や表にする活動を行った。教員はファシリテーター役として、授業中 説明にかける時間を極力少なくするようにしている。 ⑥参加教員対象のアンケートのコメント ・図や絵,キーワードをもとに話すというアイデアは、即興的に話さざるを得ない状況を作りだして おり、有益な方法だと思った。 ・教員だけでなく、友だちの話す英語も積極的に聞こうとしていた。 ・単元の内容を英語でまとめさせ発表させるヒントが得られた。 ・同じメンバーでマンネリ化しないようグループをシャッフルしたり、グループの一人ひとりが 別々のタスクを行ったり、様々な工夫が見られた。 ⑦研究協議における指導・助言 ・授業の中の活動には目的や必然性があるかどうかが重要であるが、本日の授業にはそれがあり、 説明にも説得力があった。 ・授業の展開が多様であり、かつ段階を追った適切な展開構成となっていた。 ・一つの活動が、あとの活動にどう生きてくるのか考える視点が大切であり、この授業にはその 工夫が見られた。 ・「教師の説明時間+生徒の活動量=授業時間」であるから、授業の中で生徒の活動量を確保す るためには、いかに教師の説明時間を簡潔にするかが重要である。 ・基本的生活習慣が大切であるように、間違ってもいいから英語で話し続けようとする、いわば 「基本的英語の生活習慣」といえるものが育つ教室環境の設定が大事だと再認識した。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 (1)英語4技能の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標 相模原中等教育学校の4年次では、次表のような目標を立てている。「話すこと」及び「書くこ と」については、それぞれ年度内に2回のテストを実施し、評価する計画である。 外国語表現の能力 学 年 (次) 外国語理解の能力 話すこと 書くこと 聞くこと 読むこと 評価方法 (評価時期) 社会的な話題などに ついて、英語の質問 に、的確に答えるこ とができる。 評価方法 (評価時期) 自分の考えなどにつ いて、筋道を立て て、ある程度まとま った英文を、限られ た時間内で書くこと ができる。 評価方法 (評価時期) 日常的な話題などに ついて話された英語 を聞いて、概要を把 握できる。 評価方法 (評価時期) 日常的な話題などに ついて書かれた英語 を、限られた時間で 読んで、概要を把握 できる。 定期試験(9月) 定期試験(3月) 定期試験(9月) 定期試験(3月) 定期試験(9月) 定期試験(3月) 中等4 インタビューテスト (授業中)(9月) スピーチ (授業中)(3月) (2)「話すこと」及び「書くこと」の能力の測定 実際に行われたテストの具体的な内容は以下のとおりである。実施後には担当者が生徒の解答を振り返り、 成果と課題を明らかにし、指導と評価に生かしている。 スピーキングテスト テスト問題 Questions about topics students studied during first term such as: 1) All people must have at least two children during their lifetime or pay a fine. 2) The cloning of humans should be allowed. 3) All students must go to university to become successful in life. 4) Having an international relationship is a good/bad thing. 5) School uniforms should be banned at schools in Japan. 【評価規準(外国語表現の能力)】 1. Fluency …interaction, pronunciation, and intonation (5 points) 2. Content …coherency (5 points) 【評価基準(外国語表現の能力)】 1. Fluency 5- No hesitation, no difficulty understanding pronunciation 4- Only a few minor errors 3- Mostly understandable, a few difficulties for the listener to understand and some hesitations 2- Very slow and hesitant 1- Extremely hesitant, spoke too slowly, difficult to understand at all 2. Content 5- Three clear reasons, and/or good examples to back up the opinion 4- Some good reasons and examples, but slightly more detail or clarity required 3- Some good opinions, but not enough examples to provide support or many good examples, but reasons are slightly unclear 2- Generally, short answer, but answer some complete lack of detail. No opinion or no reasons. 1- Fails to give any understandable answer 1(Fluency)+2(Content)=10 Points 10,9,8, (A), 7,6,(B), 5,4,3,2,(C) 【実施方法(教室、面接官、自習監督など)】 -Situation: One on one (One interviewer per student) -Duration: About five minutes -Place: In a spare classroom (E108) -Interviewer: ALTs (Class A,B by Mr. Cary Watson / Class C,D by Mr. Mark Crombleholme) -Other Activity: The rest of the class is in homeroom doing a special assignment. ライティングテスト テスト問題 最近の子どもはデジタル時代以前の子どもと比べて外で遊ばなくなったと言われるが、 そのことについてどう思うか、100語以上で書く。 【評価規準(外国語表現の能力)】 デジタル時代以前と以後を比較して、自分の意見を明確に書いている。 【評価基準(外国語表現の能力)】 語数 内容 文法的な正確さ A 45語以上 Impressive 英文の70%以上が正確 B 30∼44語 Understandable 英文の50∼69%が正確 C 29語以下 Not Understandable 英文の49%以下が正確 【文法的な正確さについて】 不正解とした事項 ・主語が明確でない。 ・文の形を成していない。 ・動詞の時制が誤っている。 ・前置詞の用法が誤っている。 ・英単語の代わりにカタカナを使っている。 不正解としなかった 事項 ・判断できる綴りの誤りがある。 ・冠詞の用法が誤っている。(冠詞の欠落を含む。) ・名詞の単数形・複数形が誤っている。 【総合評価(上記3項目の「A、B、C」の組み合わせにより、総合評価を付ける。)】 A AAA、AAB(3観点の内、2つ以上がA) B ABB、BBB、BBC(3観点の内、2つ以上がB)、ABC、 AAC C ACC、BCC、CCC(3観点の内、2つ以上がC) ※語数が15以下の場合は、内容・文法的正確さに関わらず、総合評価をCとする。 【実施に当たっての留意点】 ・授業内に生徒が書いたエッセイをもとに、評価例を作成し、それについて担当者間で協議を行い、 評価基準を設定した。 ・文法上の間違いよりも話の展開を重視している。 (3)学習到達目標達成状況の把握 英語4技能の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標ごとに、以下のような表を活用して達成状況を把 握している。まず、年度の初めに学年としての目標値を設定し、2回のテストの達成状況を検証する。 表中のA、B、Cは上記の評価基準と対応している。 【話すこと】 学年 (次) S4 学習到達目標 社会的な話題 などについ て、英語の質 問に、的確に 答えることが できる。 目標とする 達成状況 A 81% : B 19% : C 0% : 科目 コミュニ ケーショ ン英語Ⅰ コミュニ ケーショ ン英語Ⅱ 教科書・ 単元 自主教材 自主教材 評価方法 インタビュ ーテスト (授業中) 具体 教師と生徒 が1名ずつ 対面、5分 間 インタビュ ーテスト (授業中) 教師と生徒 が1名ずつ 対面、5分 間 評価方法 具体 達成状況 A 81% : B 19% : C 0% : A 80% : B 20% : C 0% : 【書くこと】 学年 (次) W4 学習到達目標 自分の考えな どについて、 筋道を立て、 ある程度まと まった英文 を、限られた 時間内で書く ことができ る。 目標とする 達成状況 A 79% : B 15% : C 6% : 科目 コミュニ ケーショ ン英語Ⅰ コミュニ ケーショ ン英語Ⅱ 教科書・ 単元 既習内容 全体 既習内容 全体 定期 テスト 定期 テスト 自己 発見チ ャレ ンジに ついて (70語) 最近 の子ど もた ちの遊 び方 につい て(100語) 達成状況 A 80% : B 14% : C 6% : A 78% : B 16% : C 6% : 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果について ・生徒の達成状況を把握することにより、授業改善に生かすことができた。 ・10月から11月にかけて行われた公開研究授業には、県立高校及び県立中等教育学校から各課程1名の英 語教員が参加し、研究協議において授業改善を推進するためのアイデア等の共有を図った。 ・11月の教科別教育課程説明会では、大磯高等学校におけるこれまで3年間のスピーキングテストの取組 実践、相模原中等教育学校の前期、後期課程におけるライティングテストの取組実践について、研究担 当者による発表を行い、テストの効果的な実施方法や評価基準等について共有を図った。 (2)課題について ・生徒の達成状況を把握し、次の指導や評価につなげるための方法を更に検討する必要がある。 ・英語4技能の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標について、指導した結果を適切に評価しているか という視点も忘れず 、生徒の達成状況を踏まえて見直す必要がある。 (3)改善に向けた方策 ・目標を生徒にも示し共有することで、3年間を通じた学校としての方向性が明確になるだけでな く、生徒が学習する上での目安にもなると考えられる。 ・目標の設定、達成状況を把握するためのスピーキングテスト・ライティングテストの実施、テスト 結果の分析、目標の見直しというサイクルを確立し、教科全体で取り組むことが重要である。 家 庭 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 協同的な学びから主体的な態度を育成する授業実践の評価と分析及び改善 (2)研究のねらい 高等学校家庭科では、生活を主体的に営む力と実践的な態度を育てること、実際の生活において課題 を発見し解決できる能力を育てることなどを目ざしている。 本研究推進委員会では、グループワークなど協同的な学びを授業に取り入れ、生徒が自ら考え行動す ることを大切にした授業を展開した上で、実践後の評価を工夫し、結果を分析することで次の授業に生 かし改善していくことをねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 本研究推進委員会では、平成24年度には、「組織的な授業改善の推進―単元の指導計画の充実を通した 授業改善」をテーマとし、学校として、教科として、組織的な取組を意識しながら、習得した知識や技術 を活用した授業によって問題解決能力を育成する単元の指導計画及び授業展開を検討した。さらに、平成 25年度の研究は、「組織的な授業改善の推進―学校の課題を踏まえた校内授業研究テーマに基づく授業づ くり」をテーマとし、研究授業実施校の学校目標や生徒に身に付けさせたい力の具体を念頭に置きながら、 共通教科「家庭」及び専門教科「家庭」における単元全体を通した効果的な指導事例について検討した。 平成26年度の研究は、「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及 び改善に向けての方策」をテーマとし、研究授業実施校の生徒に身に付けさせたい力を踏まえた単元の授 業づくりから、授業実践の振り返りを分析することで次へ改善できるような方法について検討した。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て 本研究では、研究授業実施校の校内授業研究テーマを踏まえ、研究のねらいを達成するための手立てと して、共通教科「家庭」においては、次の2点に取り組むこととした。 なお、研究授業実施校の校内授業研究テーマは、「学習者の視点に立った学力向上に向けた授業改善」 である。 1点目は、「調理実習後の振り返りの充実」に取り組んだ。調理実習後の振り返りが十分に行えていな いという現状を踏まえ、本研究では、実際に行った調理実習の献立を用いた単元の展開を考えた。生徒た ちは、自身で実際に作り、食べているため、実習経験を生かし、各ライフステージの特徴を捉え、自分や 家族の生活と関連させながら食事の工夫について考えることが期待できると考えた。 2点目は、「授業のユニバーサルデザイン化」に取り組んだ。学習者の視点に立ち、模造紙のまとめ方 の例示をあらかじめ提示することや、ライフステージごとに模造紙の色を変え、段階的な変化を視覚的に 分かりやすく提示することによって、生徒の理解度の向上につなげたいと考えた。また、生徒の学習意欲 の向上にも期待できるのではないかと考え、献立のアレンジの条件を、各グループに模造紙と同じ色のリ ボンで止め、巻物状にして「指令」として渡すことにした。 また、専門教科「家庭」においては、次の2点に取り組むこととした。 なお、研究授業実施校の校内授業研究テーマは、「生徒が主体的に参加する授業」である。 1点目は、生徒が授業に主体的に取り組むための工夫である。授業で学んだ基本的生活習慣の内容を 踏まえた児童文化財(パネルシアター)をオリジナルで製作し、それを生徒が自ら演じる発表会という 授業形態をとることにより、生徒が積極的に授業に参加できると考えた。 2点目は、保育者の立場に立った新たな気付きを促すことである。授業の振り返りにおいてお互いを ほめたり励ましたりすることを通じて、自分が感じたことを基に、保育者として子どもに自己肯定感を 持たせる援助について考えさせたいと取り組んだ。これにより、将来の職業人としての意識を高めるこ とにもつながるのではないかと考えた。 4.単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例1 共通教科「家庭」(「家庭総合」) (1)研究実施校:神奈川県立深沢高等学校(全日制) (2)学校の課題 生徒が主体的に学習に取り組み、学力の定着を図ることが課題である。 (3)校内授業研究テーマ 「学習者の視点に立った学力向上に向けた授業改善」 (4)科目:家庭総合 学年:1年 (5)単元名:(4)生活の科学と環境 ア 食生活の科学と文化[総時間数 28 時間] (ア) 人の一生と食事《6時間》 (イ) 食生活の自立と調理《17 時間》 (ウ) 食生活の文化《2時間》 (エ) 食生活と環境《3時間》 (6)単元のねらい 栄養、食品、調理及び食品衛生などについて科学的に理解させ、食生活の文化に関心を持たせると ともに、必要な知識と技術を習得して安全と環境に配慮し、主体的に営むことができるようにする。 (7)単元を通して身に付させたい力 ライフステージごとの食事の特徴について理解し、生涯を見通した食生活の管理運営ができ、食生 活に関する基本的な知識と技術を身に付け、主体的に生活に生かしていく力 (8)単元の指導と評価の計画 学習内容 学習活動 1 人の一 生と食 事 ・自分の食 生活の問 題点を把 握する。 ・食生活が 心身に及 ぼす影響 について 理 解 す る。 調理実 習 事前学 習 ・調理実習 の準備と 心構えを する。 ∼ 時 4 5 ・ 6 7 ・ 8 9 ・ 10 実習1 実習の まとめ 本時 ・実習を通 して基礎 的な調理 技術を習 得する。 ・実習を振 り返り、 今後にど う生かす か 考 え る。 a:関心・意欲・態度 b:思考・判断・表現 c:技能 d:知識・理解 評価の観点 ねらい 評価規準 評価方法 a b c d ・高校生の時 ○ 自分や家族の食生活に関心を ワ ー ク シ 期に適切な 持ち、向上に努めようとして ート 食習慣を形 いる。 成すること が重要であ ることに気 ○ 食事と健康との関わりについ ワ ー ク シ 付く。 て、理解している。 ート ・ライフステ 定期テス ージの特徴 ト や課題を理 解する。 ・状況に応じ ○ 調理実習に科学的な視点から ワ ー ク シ て食事を整 積極的に取り組もうとしてい ート える力を養 る。 定期テス う。 ○ 調理に関して科学的な視点か ト ・グループ活 動を通じ、 コミュニケ ーション能 力を養いな がら、日常 食を作るこ と が で き る。 ・実習を踏ま え、ライフ ステージに 合った食事 を考える。 ら理解している。 グループで協力して調理実習 に取り組もうとしている。 ○ ○ ○ ○ 行動観察 ワークシ ート 食生活の自立に必要な基礎的 な調理ができる。 食品の調理上の性質や調理法 の特徴について科学的に理解 している。 行動観察 定期テス ト 調理実習を振り返り、ライフ ステージと食事の工夫につい て考え、まとめている。 ワークシ ート 15 食生活 の自立 と調理 ・食品の栄 養的特質 や調理上 の特質に ついて知 る。 16 実習2 ・実習を通 して基礎 的な調理 技術を習 得する。 ∼ 11 ∼ 19 20 ・ 21 ∼ 22 食生活 の文化 実習3 25 食生活 と環境 ・実習を通 して基礎 的な調理 技術を習 得する。 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 栄養、食品、調理及び食品衛 生など、食事と健康との関わ りについて科学的に理解して いる。 ワークシ ート 定期テス ト グループで協力して調理実習 に取り組もうとしている。 行動観察 ワークシ ート 食生活の自立に必要な基礎的 な調理ができる。 食品の調理上の性質や調理法 の特徴について科学的に理解 している。 行動観察 定期テス ト 地域の食生活に関心を持ち、 意欲的に食生活の改善・向上 に努めようとしている。 地域の食文化を理解してい る。 ワークシ ート 定期テス ト グループで協力して調理実習 に取り組もうとしている。 行動観察 ワークシ ート 行動観察 定期テス ト 食生活の自立に必要な基礎的 な調理ができる。 食品の調理上の性質や調理法 の特徴について科学的に理解 している。 ○事前学習(2時間) ○調理実習1(和食) ぶりの鍋照り焼き、ほうれん草のおひたし、豆腐とわかめの味噌汁、ご飯 ○本時 ○調理実習2(洋食) スパゲッティミートソース、ミモザサラダ、 ○調理実習3(中華) チンジャオロースー、スーミータン、奶豆腐、ご飯 28 ・食生活の 現状を知 り、これ からの食 生活につ いて考え る。 ○ 現代の食生活の課題、食品の ワ ー ク シ 安全性と環境についての課題 ート を認識している。 定期テス ○ 食品をめぐる近年の事例など ト から食生活の安全性や環境に ついて考え、まとめている。 ○ 食生活の安全に関心を持ち、 意欲的に食生活の改善向上に 努めようとしている。 作り方、調理計画、調理室の使用方法(グループ分け)、グループで調理計画修正 ∼ 26 ・日本の食 文化につ いて調べ る。 ・日常的な食 品の栄養的 特質や調理 上の特質に ついて科学 的に理解す る。 ・グループ活 動を通じ、 コミュニケ ーション能 力を養いな がら、日常 食を作るこ と が で き る。 ・日本や地域 の食文化を 見直し、主 体的に継承 できるよう になる。 ・グループ活 動を通じ、 コミュニケ ーション能 力を養いな がら、日常 食を作るこ と が で き る。 ・食生活の変 化や問題点 を知り、環 境や食糧自 給率の問題 を考え、今 後を展望で きる ○ (9)【D】取組事例 ①実施日:平成26年10月20日(月) ②授業クラス:1年4組 39名 授業担当者:加藤 玲子 教諭 ③本時のねらい:実習を踏まえ、ライフステージに合った食事を考える。 ④本時の指導内容: 授業展開 導入 (3分) ○ 学習内容 ・ 学習活動 指導上の留意点 ○前時の振り返りと本時の学習内容の確認 ・前時の調理実習の題材について確認する。 ・本時は「ライフステージごとの食事の工夫」につ いて学習することを知る。(ライフステージごと の特徴を確認) ・食に関するライ フステージごと の食事の特徴・ 課題を捉えるこ とを促す。 評価規準 【評価の観点】 (評価方法) 展開 (40分) [展開①](10分) ○実習題材のアレンジを検討(個人) ・指示されたライフステージに適するアレンジをテ ーマ(指令)に沿って考え、ワークシートに記入 する。 検討するライフステージ(グループ数) 幼児期(2)、青年期(3)、壮年期(2)、高齢期(3) 献立アレンジの指令 メインは魚 主食は飯 副菜は変えてもいい、追加はOK 汁物はつける 4歳幼児 野菜嫌い 食べたくなるような工夫を 4歳幼児 食べる量が少ない(ムラ食い) 16歳高校生 運動部でたくさんのエネルギーが必要 16歳高校生 魚嫌い 16歳高校生 野菜不足 40歳代後半 塩分をとりすぎないように 40歳代後半 脂肪分をとりすぎないように 高齢期 歯が悪いのでかみやすくする 高齢期 食欲低下 高齢期 消化機能の低下 [展開②](10分) ○実習題材のアレンジを検討(グループ) ・グループになり、各々が検討したアレンジをグル ープで検討する。 [展開3](20分) ○発表準備(5分) ・模造紙に発表内容をまとめる。 ○発表(15分) ・各 グループ1分 で、アレン ジした献立 を発表す る。黒板にライフステージ順に貼り、発表する。 まとめ (7分) ○本時の振り返り ・各グループの発表を聞いて、ライフステージと食 事についての気付きや考えたことを記入し、ワー クシートにまとめる(個人・グループ検討案の修 正)。 ・個人のワークシ ートを配付す る。 ・4人ずつでグル ープを作る。 ・初めは相談せず に、個人でアレ ンジを考えるよ う指示する。 ・ワークシートを 配付する際に、 グループごとの テーマ(指令) も合わせて配付 する。 ・グループで検討 するが、少数の 意見も大切にす るよう促す。 ・アレンジのねら いをきちんと捉 えるよう指示す る。 ・アレンジの理由 を明確にさせ る。 ・模造紙の書き方 例を提示する。 ・発表を聞く際 は、ライフステ ージを踏まえた 捉え方をするよ うに促す。 ・ワークシートに 記入したことに ついて数名に発 表させ、共有さ せる。 各グループの発表を振 り返り、ライフステー ジと食事について考 え、まとめている。 【思考・判断・表現】 (ワークシート) ⑤本時の評価規準とAと判断される具体的な例とCと評価した生徒への手立ての例 【思考・判断・表現】 学習活動における具体の評価 規準 各グループの発表を振り返り、ライフステージと食事について考え、まとめ ている。 「十分満足できると判断され 各グループの発表を聞き、ライフステージごとの特徴を捉え、自分や家族の る状況(A)」と判断される 生活と関連させながらライフステージと食事の工夫について記述している。 具体的な例 「努力を要すると判断される 状況(C)」と評価した生徒 各グループの発表をヒントに、ライフステージごとの特徴や課題を再確認さ せ自分や家族の食事について考えられるように支援する。 への手立て 実践事例2 専門教科「家庭」(「発達と保育」) (1)研究実施校:神奈川県立磯子高等学校( 全日制 ) (2)学校の課題:生徒の基礎学力の定着と学習意欲の向上 (3)実施校における研究テーマ:生徒が主体的に参加する授業 (4)科目:発達と保育 学年:3年 (5)単元名:(3)乳幼児の生活[総時間数 20 時間] ア 乳幼児の生活の特徴と養護 イ 生活習慣の形成 ・生活習慣の意義 《 4時間 》 《 12 時間 》 〈 2時間 〉 ・児童文化財の製作 〈 4時間 〉 ・実技発表 〈 6時間 〉のうちの1・2時間目・・・本時 ウ エ 乳幼児の生活と環境 乳幼児の健康管理と事故防止 《 2時間 》 《 2時間 》 (6)単元のねらい 乳幼児の生活の特徴と適切な養護の在り方、生活習慣の形成、生活環境の整備、健康管理と事故防 止などについて取り扱い、乳幼児の健全な発育・発達を促す生活について理解させる。 (7)単元を通して身に付けさせたい力 乳幼児の発育・発達に応じた養護や生活習慣の形成などについて理解し、保育者として適切に関わ る為の知識や技術を身に付ける。 (8)単元の指導と評価の計画 a:関心・意欲・態度 b:思考・判断・表現 評価の観点 ねらい a b c d 学習内容 学習活動 1 乳 幼 児 の 生 活 の 特 徴 と養護 ・乳幼児の生活リ ズムの円グラフ からその特徴を 読み取る。 ・おやつ作りの実 習を通して栄養 価やおやつの意 義について考え る。 ・発達に応じた服 の特徴について 考える。 ・発育・発 達に応じ た適切な 養護がで きるよう になるた めに、睡 眠 、 食 事、遊び などにつ いてその 特徴を理 解する。 ・家庭生活を通し て生活習慣の基 礎が身に付くこ とに気付く。 ・生活習慣 形成の意 義と重要 性を理解 させる。 ∼ 時 4 5 ・ 6 ∼ 7 10 生 活 習 慣 の 意 義 児 童 文 化 財 の 製作 ・子どもが生活習 慣を身に付ける ために必要な、 家族や保育者の 援助について考 える。 ・基本的生活習慣 の内容を踏まえ た児童文化財 (パネルシアタ ー)をグループ で製作する。 ・児童文化 財 を 製 作・活用 し、発達 に合わせ た基本的 生活習慣 の内容を 盛り込ん だストー リーを考 える。 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ c:技能 d:知識・理解 評価規準 評価方法 乳幼児の生活リズムの 特徴を考え、まとめて いる。 ワークシー ト 幼児のおやつとしてふ さわしいおやつ作りが できる。 行動観察 発達に応じた衣服の特 徴について関心を持 ち、学習に取り組もう としている。 ワークシー ト 生活習慣の基礎につい て理解している。 ワークシー ト 家族や保育者の援助に ついて考え、まとめて いる。 ワークシー ト グループのメンバーと 協力しながら、パネル シアターの製作・発表 に取り組もうとしてい る。 パネルシアターが子ど もの発達にどのように 働きかけるか考えてい る。 子どもの発達段階に合 った児童文化財を理解 している。 行動観察 ワークシー ト 作品 ∼ 11 実 技 発 表 16 ・製作した児童文 化財(パネルシ アター)をグル ープごとに発表 する。 ・より良い発表を 行うための改善 点について考え る。 ・子どもの 発達段階 に合った 基本的生 活習慣に ついての 児童文化 財を製作 し、発表 する。 ・製作した児童文 化財(パネルシ アター)を幼稚 園で実演する。 17 ・ 18 乳 幼 児 の 生 活 と環境 ・現在の乳幼児を めぐる生活環境 の問題点を調べ る。 ・調べた問題点に ついての原因を 考える。 19 ・ 20 乳 の 管 事 止 幼 健 理 故 児 康 と 防 ・計画的に予防接 種や検診を受け る重要性を考え る。 ・乳幼児に とって望 ましい環 境条件に ついて考 える。 ○ 子どもの発達段階に合 った基本的生活習慣に ついてのパネルシアタ ーを製作し、演じるこ とができる。 作品 発表 子どもの発達段階に合 った基本的生活習慣に ついてのパネルシアタ ーを考え、工夫してい る。また、他者をほめ ることの意義や効果に ついて考え、まとめて いる。 作品 ワークシー ト 振り返りシ ート ○ 幼児への実演におい て、グループのメンバ ーと協力して、意欲的 に取り組もうとしてい る。 行動観察 ○ 乳幼児の様々な生活環 境について関心を持 ち、学習に取り組もう としている。 行動観察 ワークシー ト 乳幼児の心身の健康や 発達に生活環境が及ぼ す影響について理解し ている。 日常の乳幼児の健康管 理について考えてい る。 ワークシー ト 大人の果たす役割につ いて理解している。 ワークシー ト ○ ・日常の乳 幼児の健 康状態の 把握や事 故防止の 必要性に ついて考 える。 ・事故防止と積極 的な安全教育の 必要性を知る。 (9)【D】取組事例 ①実施日:平成26年10月10日(金) ②授業クラス:3年選択「発達と保育」 ○ ○ ○ 授業担当者:藤本 葉子 ワークシー ト 教諭 18名 ③本時のねらい:子どもの発達段階に合った児童文化財(パネルシアター)を演じて生活習慣を身に 付けることの大切さを子どもに伝えるとともに、振り返りの中で他者をほめたり励ましたりするこ とで、保育者として子どもに自己肯定感を持たせる援助について考える。 ④本時の指導内容: 授業展開 導入 (5分) ○学習内容 ・学習活動 ○本時の学習内容の確認 ・本時は、製作した児童文化財(パネ ルシアター)をグループごとに発 表、記録することを知る。 また、次時(6校時)は互いの発表に ついてほめ合い、改善点を見付ける ことを知る。 ・発表の準備をする。 指導上の留意点 ・これまでグループごとに製 作してきた児童文化財(パ ネルシアター)を発表する とともに、他グループの発 表を記録し、ほめ合うこと を伝える。 評価規準 【評価の観点】 (評価方法) 展開1 (55 分) 展開2 (30 分) まとめ (10 分) ○製作した児童文化財(パネルシアタ ー)の発表 ・グループごとに発表する。 ・ワークシートに記入する。 ・発表側は、テーマとタイト ルを明示するように伝え る。 ・記録側は、3観点(演じ 方、製作物のできばえ、基 本的生活習慣について伝え たいことの分かりやすさ) について評価することを確 認させる。また、良かった ところについても記入する ことを伝える。 ○発表のまとめ ・次時(6校時)の内容を知る。 ・次時(6校時)は記録した メモや感想を発表し合い、 改善点を見付けることを伝 える。 ・黒板に各グループの発表に ついて、良かったところを 記入するように伝える。 ○記録したメモや感想を発表する ・他グループの発表の良かったところ を黒板に記入する。 ○ほめることの意義や効果について考 える ・他者をほめたり励ましたりする援助 が子どもに与える効果を考え、発表 する。 ○本時の振り返り ・より良い発表を行うための改善点を 考え、まとめる。 ・保育者の視点で考えさせ る。 子どもの発達段階に合 った基本的生活習慣に ついてのパネルシアタ ーを製作し、演じるこ とができる。 【技能】 (発表) 他者をほめることの意 義や効果について考 え、まとめている。 【思考・判断・表現】 (ワークシート) ・他グループの意見も参考に して、より良い発表を行う ための改善点を話し合うよ うに伝える。 ⑤本時の評価規準とAと判断される具体的な例とCと評価した生徒への手立ての例 【技能】発表 学習活動における具体の評価 規準 子どもの発達段階に合った基本的生活習慣についての児童文化財(パネルシ アター)を製作し、演じることができる。 「十分満足できると判断され 子どもの発達段階にふさわしい基本的生活習慣について取り上げ、言葉や発 る状況(A)」と判断される 音、適度な速さでパネルシアターを演じることができ、子どもの視線や様子 具体的な例 などに気を配りながらパネルシアターの操作をすることができる。 「努力を要すると判断される 状況(C)」と評価した生徒 他のグループの発表を観ることで、自らの演技を振り返り、子どもの発達段 階に合った基本的生活習慣についての内容を考え、演じることができるよう への手立て に支援する。 【思考・判断・表現】ワークシートのまとめ 学習活動における具体の評価 他者をほめることの意義や効果について考え、まとめている。 規準 「十分満足できると判断され る状況(A)」と判断される これまでに学習してきたことを振り返り、子どもの発達段階に合った基本的 生活習慣についてストーリーを考え、他者をほめたり励ましたりする援助が 具体的な例 子どもに与える意義や効果について、自分の考えをまとめている。 「努力を要すると判断される これまでの学習を通して、子どもの発達段階に合った基本的生活習慣につい 状況(C)」と評価した生徒 て振り返り、他グループからの意見を参考にして他者をほめることの意義や への手立て 効果について考えるよう促す。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析を行ったところ、次の点が挙げられた。 実践事例1 共通教科「家庭」(「家庭総合」) ⃝ 単元において、調理実習は前後の授業との関連が希薄になることが課題となっていた中で、調理実 習の事後指導としても振り返りができ、自身の生活と結び付ける効果があった。 ⃝ 各ライフステージの献立のアレンジを考える際に、「巻物」と称し、アレンジの条件を各グループ に伝達したことや、ライフステージごとに模造紙の色を変えることでライフステージの特徴を捉えた アレンジが見通せたことにより、生徒自身に課題を引き寄せることができたと思われる。 実践事例2 ⃝ 専門教科「家庭」(「発達と保育」) パネルシアターという題材は、グループの全員が協力して製作し操作することができるので、一人 ひとりが積極的に参加することができた。また、生徒にとっても身近である、基本的生活習慣を取り 上げることで、自分自身の生活習慣も見直すことができ、生活習慣を身に付けることの意味や重要性 を再確認し、子どもたちにどのように伝えたらよいのか工夫することにもつながったと考える。さら に、ワークシートに関しても、自分の意見を記入することで他者との違いに気付き、自らを振り返る きっかけを見付けやすいような工夫をしたため、生徒が主体的に学習に取り組む手助けとなったと考 える。 ⃝ 将来の職業人として必要とされる資質や能力を育成するという教科目標を踏まえて、「ほめる」こ とを重視した振り返りを行った。保育者は子どもを「ほめる」ことでやる気や自信を持たせ、自立へ と促すことが求められる。自分たちの発表を通してお互いの「良いところ」を見付け、お互いにほめ 合うことを通して、ほめられた気持ちやほめる側の気持ちに気付き、「ほめることの効果」について 考えることができた。 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 実践事例 1 共通教科「家庭」(「家庭総合」) 本研究の成果として、①前時の調理実習の献立をアレンジするという内容であったので、生徒がイメー ジしやすく、生徒同士の協議の活発さに寄与したこと、②「巻物」や「ライフステージごとの色模造 紙」といった視覚的な工夫を凝らすことで生徒の興味・関心を喚起させたことが挙げられる。 課題は、時間配分に検討を要することである。今回、生徒個人で検討する時間とグループで検討する時 間を設けたが、個人検討の時間が長引き、授業時間内に、グループごとの発表ができなかった。 改善への方策として、個人で検討することは知識の活用という意味でも必要と思われることから、検 討と発表の授業時間を分けることが考えられる。また、生徒の授業の振り返りでは、自分だけでなく将 来の家族についての記述が見られたことから、今後は生活設計という視点からの展開も検討していきた い。 実践事例2 専門教科「家庭」(「発達と保育」) 本研究の成果として、①基本的生活習慣を意識したストーリーを考えて、グループごとにパネルシア ターの製作及び発表をし、それを互いに評価し合うことで、生徒が主体となる授業を展開できたこと、 ②専門教科「家庭」の科目について指導計画や授業展開を研究し、実践できたことが挙げられる。 課題としては、グループ発表の振り返りとして、お互いの「良いところ」を板書させたが、代表生徒 が記入していたので、その他の生徒の意見が個人の意見になっているのではないか、一部の生徒だけが 参加しているようにしか見えなかったのではないかという点が挙げられる。また、自らのグループ発表 についての反省も行うことで、発表の改善をさせる時間を作ることも必要であったと考える。 改善への方策として、発表段階においても個々の生徒の意見を聞く機会を作るなどの工夫が考えられ る。なお、本時の評価を踏まえ、次の授業では、発表の様子を撮影したVTRを視聴し、改善点や工夫 できるところを確認することで、製作物の手直しや発表の仕方などの改善を行うことができた点は良か った。 6.参考資料 実践事例1 共通教科「家庭」(「家庭総合」)本時のワークシート 実践事例2 専門教科「家庭」(「発達と保育」)本時のワークシート 情 報 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 全体テーマ :組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び 改善に向けての方策 情報部門テーマ:共通教科情報における問題解決型協働学習に関する研究 ∼学習意欲を高める題材の工夫を通した、思考力、判断力、表現力の育成∼ (2)研究のねらい 平成25年度から学年進行で実施している高等学校学習指導要領では、共通教科情報科の「社会と情 報」と「情報の科学」、どちらの科目においても「問題解決」の考え方やその処理手順を身に付ける ことが学習内容のひとつとなっていることから、「問題解決」を研究の主たるキーワードとして位置 付けた。また、本研究の学習方法についても「問題解決型学習」とし、生徒の学習意欲を高めるため の題材を選択すること、生徒の思考力、判断力、表現力を育成するための言語活動を「考えを持つ、 考えを広げる、考えを深める」の3つの場面に整理すること、タブレット型端末を活用した協働学習 を実践し、学習活動のRPDCAサイクルを意識させること、協働学習の取組状況や思考力・判断力・表現 力をルーブリックにより評価する方法について提案することを研究のねらいとした。 ・「社会と情報」と「情報の科学」の両科目の学習内容として「問題解決」の題材を工夫する。 ・共通教科情報科の学習方法として「問題解決型」協働学習の指導、評価の方法を工夫する。 2.研究で取り組んできた内容 神奈川県高等学校教育課程研究会・研究推進委員会(情報部門)の委員(以下「推進委員」という) 6名との研究協議を通して、次の4点を本研究の課題として取り上げた。 ・「問題解決」の題材は自由度が高いため、生徒の学習意欲を高める題材の選び方が難しい。 ・思考力・判断力・表現力を育成するための言語活動の実践例が十分に共有されていない。 ・タブレット型端末を効果的に活用した情報科の授業の実践例が十分に共有されていない。 ・協働学習の取組状況や思考力・判断力・表現力の評価の方法が十分に共有されていない。 上記の4つの課題に対して、推進委員の所属校である、神奈川県立鶴見総合高等学校、神奈川県立麻 生総合高等学校、神奈川県立茅ケ崎北陵高等学校の3校でRPDCAサイクルを意識した授業改善を行った。 3.研究の目標を達成するための手立て 上記の4つの課題に対し、次の①から④を本研究の目標(ねらい)を達成するための手立てとし、 授業改善のポイントとした。 本研究における授業改善のポイント ① 学習意欲を高める問題解決型学習の題材の選択 問題解決型学習の題材は「身近であること、切実な問題であること、実行可能であること」など の観点で適切に選択することにより、生徒の学習意欲を高める。 ②「考えを持つ、考えを広げる、考えを深める」の3つの場面を設けた言語活動 思考力、判断力、表現力を育むための言語活動を「考えを持つ、考えを広げる、考えを深める」 の3つの場面に分け、段階的に進めることで、思考の深化を図る。 発問(一斉学習) 考えを持つ(個別学習) 考えを広げる(協働学習) 考えを深める (個別学習) ③タブレット型端末を活用した協働学習 問題解決型協働学習にタブレット型端末を活用することで学習履歴の蓄積、共有ができ、生徒の 学習活動のRPDCAサイクルを一層充実させる。 ④協働学習の取組や生徒の思考力・判断力・表現力の評価の工夫 ワークシートやWebアンケートなどの記述や発表資料をルーブリック(学習到達状況を評価するた めの評価基準表)により評価することで、協働学習における個人の評価を行う。 4 【Plan-Do】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 4.1 実践事例1 情報を批判的に読み取る力を身に付けさせる授業実践 (1)研究実施校 :神奈川県立麻生総合高等学校(全日制、総合学科) (2)学校の課題 :生徒が主体的に学ぶ意欲を高める授業づくりの研修を充実させる。 基礎・基本の定着と確かな学力を向上させる授業展開を工夫する。 (3)実施校における研究テーマ:毎時間の「目標」を明確にした上で生徒がわかる授業展開を図る。 言語活動の充実を図る授業展開を図る。 (4)教科・科目 :共通教科情報・社会と情報 年次:1年次 (5)単元名 :情報化が社会に及ぼす影響と課題 (6)単元の目標 :情報の発信と受信の両面において、情報化社会がもたらした課題を提起し、それを 主体的に解決していく姿勢と、技術を学ぶ (7)単元で身に付けさせたい力:情報化社会における情報の特徴を踏まえながら、収集した情報を批判的 に読み取る力 (8)単元の評価規準:(本単元は、小単元であるため、「知識・理解」の評価規準はなしとした。) 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 ・情報社会における、情報の 受信者として、情報を批判的 に読み取ろうとしている。 ・原因を複数考えることができ る。 ・グラフを安易に読み取って はいけないことが判断できて いる。 ・意図を込めたグラフを作 成している。 知識・理解 (9)単元の指導と評価の計画: a:関心・意欲・態度、b:思考・判断・表現、c:技能、d:知識・理解 ◎:重視して指導・評価した観点、○:指導・評価した観点 【持】:個人の考えを持つ活動、【広】:考えを広げる活動、【深】:考えを深める活動 時 学習内容 学習活動 2︵本時︶ 表計算ソフトを利用 ・ 表 計 算 ソ フ ト を 利 用 1 し た グ ラ フ の 作 成 と し、グラフを作成する 読み取り ・意図を込めたグラフを 作成する 情 報 化 社 会 に お い て ・相関関係があるグラフ ど う 情 報 を 読 み 取 る を読み取らせる か① 【持】 ・明らかに違う例を示す 【広】 ・本当の関係を見抜く手 がかりを知る【深】 ねらい 評価の観点 a b c d 意図を込めたグラフ を作成することがで ○ きる ・グラフから因果関 係が分かるわけでは ないことがわかる ・因果関係を誤解さ せるグラフのパター ○ ◎ ンを考えさせる 3︵本時︶ 情 報 化 社 会 に お い て ・相関関係がありそうな ・主体的にグラフか ど う 情 報 を 読 み 取 る グ ラ フ を 疑 っ て み る ら複数の因果関係を か② 【持】 推定することができ ・別な可能性をグループ るようになる ○ ◎ で考え、発表する【広】 ・グラフから原因を 【深】 断定することを躊躇 ・振り返り するようになる ◎ 評価規準 評価方法 ・ 意 図 を 込 め た グ 提出課題 ラフが作成されて いるかどうか ・グラフから因果 関係が分かるわけ ではないことを思 考できているか ・因果関係を誤解 させるグラフのパ ターンから、本当 の因果関係を考え られているか ・原因を複数考え ることができるか ・グラフを安易に 読み取ってはいけ ないことが判断で きているか 提出プリ ント 提出プリ ント (10)取組事例 ①実施日 :平成26年11月6日(木) 授業担当者:大石智広 教諭 ②授業クラス :1年3組 34名 ③本時のねらい:グラフを批判的に読み解き、相関関係や因果関係があるか判断する力を身に付ける。 ④本時の指導内容: 授業展開 第1時 導入 (10分) 学習活動 指導上の留意点 評価方法 ・朝食と成績に相関関係があるグラフを読 ・「朝食を食べると点数が上がる」の信頼性 プリント み取らせる【持】 と理由を数字で書かせる(Webアンケート の記述 ・ありえない原因を示すグラフを見せ、ど システム「REAS」) うしてそのようなグラフができるのか考え ・グラフで関係があるように見えても「因果関 させ、相関関係があっても因果関係がある 係があるとは限らない」ことを理解させる とは限らないことを理解させる 展開 (40分) 導入 (3分) ・「偶然の一致」についてのグラフを見せ 説明する【広】 ・「因果関係が逆」の例を示し、真相をペ アワークで考えさせる【持】【広】【深】 ・「他の要因によるもの」の例を示し、隠 れている原因をグループディスカッション で探させる【持】【広】【深】 ・3つのパターンがあることをもう一度説 明して確認する。 ・朝食と成績に、相関関係がありそうなグ ラフを疑うという課題を示す【持】 ・「別な要因」をグループで考え、発表す る【広】【深】 ・ブレーンストーミングでアイデアをたく さん出させる 第2時 展開 (35分) ・出てきたアイデアをYチャートで分類さ せる ・分類したアイデアを、グループディスカ ッションで厳選し、分類毎に班の意見を決 めさせる ・Yチャートに班のアイデアを書き込ま せ、Yチャートをもとに発表させる まとめ (12分) ・グラフの信頼性を再評価させる【持】 ・ こ の よ う な グ ラ フ を 作るこ と が 良 い か どうかを問いかけ、問題点を説明する ・振り返り ・まず、ワークシートに個人の考えを書かせ プリント た後で、グループディスカッションで考え の記述 を交流させる ・ICレコーダで議論の様子を録音する ・そのグラフには、「別な要因によるもの プリント 」という現象が潜んでいることを示す の記述 ・「朝食を食べている人にありそうなことは プリント 」というテーマでブレストさせる の記述 【方式】ブレーンストーミング+Yチャート ・出てきたアイデアを付箋にメモさせ、ワー クシートに貼らせる ・ブレスト終了後、付箋をYチャートに貼り なおさせて3∼4つに分類させる。 「家庭環境」「学校生活」「その他」 ・司会者に秘密の質問を渡しておき、分類に そってアイデアを出すように促させる ・分野でそれぞれ「テストの点数」につなが りそうなアイデアを抜き出させ、書画カメラ に写させながら発表させる ・グループ全員を前に出し、発表者が代表し 発表する形とする ・ICレコーダで議論の様子を録音する ・「朝食を食べると点数が上がる」をどれ プリント くらい信じるかを数字で書かせる(REAS) の記述 変化した(しなかった)理由や気付いたこ とを書かせる ・本単元で学習したことをさらに深めたい 人は何を学んだらよいか示す (10)生徒のコメント(抜粋) ▼自分は朝ご飯を食べるが、勉強した所は出来るし、していない所はできないから、変わらないと思う▼グラフか ら、何がかくれているのか、本当に注目すべきことは何なのかを、話し合ってみつけることで、グラフをより深く 理解できると思った▼本当の原因について考えてみる必要があると思った▼数字をしっかりみるそしてみたものを すぐ信じず、確認する▼偶然ということもあるのでよく考えて信頼できるのかを考えてグラフや表を見たほうがい いと思った▼様々な変わった方向から物事を見る。疑ってみる▼一つの情報だけを頼りにするのをやめようと思っ た▼隠れた原因がないか考えてからグラフを見るようにしたいです (11)授業の様子 (写真1)一斉学習による発問の様子 (写真2)Yチャート図を使った情報の整理 (写真3)PC教室内でのグループ協議の様子 (写真4)書画カメラを使った発表の様子 4.2 実践事例2 表現の工夫から、情報の本質を見抜く力を身に付けさせる授業実践 (1)研究実施校:神奈川県立鶴見総合高等学校(全日制、総合学科) (2)学校の課題:基礎学力の向上及び、個に応じた学習意欲・知識・技能の向上を図る (3)実施校における研究テーマ:基礎学力の向上と、生徒の学習意欲を高める授業の工夫 (4)教科・科目:共通教科情報・社会と情報 学年(年次):1年次 ※1コマ90分授業 (5)単元名:情報の表現と伝達の工夫 (6)単元の目標:情報伝達手段の1つである“グラフ”の作成を通じて情報には様々な発信者の意図や考 えがあることを理解し、情報の本質を見抜く力を身に付けさせる。 (7)単元で身に付けさせたい力:情報伝達における多様な表現力、情報に含まれる発信者の意図や考えを 見抜く力 (8)単元の評価規準: 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解 グラフによる情報伝達に関心 を持ち、積極的に取り組めて いる。 自分のねらいに適したデータ を選択し、グラフとして情報を 表現している。 情報の表現方法を工夫し、効 果的に情報を相手に伝える 情報機器を活用して、多様な 情報を表現する技能を身に つけている。 情報伝達には発信者の意 図や考えがあることを理解し ている。 (9)単元の指導と評価の計画: 時 学習内容 1 グラフとグラ フの作成につ いて 2 効果的な情報 伝達とPDCAサ イクルについ て 3︵本時︶ 4 ねらいを持っ たデータ選択 と効果的な情 報伝達につい て メディアリテラ シーについて 学習活動 ねらい 評価の観点 a b c d 評価規準 ・取組状況 ・グラフの工夫 ○ ○ ・グラフ作成に おける意図や考 えの理解 評価方法 ・身のまわりにあるグラフに ついて考える。【持】 ・学校の進学状況から2つ の意図を持ってグラフを作 成する。【持】 ・意図をもって作成したグラ フにキャッチコピーをつけ、 効果的な情報伝達を図る。 【持】 ・生徒同士で発表、評価を 行う。【広】 ・グラフを改善する。【深】 ・様々なグラフの表現 方法を身につける。 ・グラフには発信者の ○ 意図や考えがあること について考える。 ・キャッチコピーを工 夫して情報の表現力を 深める。 ○ ○ ○ ・PDCAサイクルを理解 する。 ・取組状況 ・情報を効果的 に伝える工夫 ・情報機器の活 用 実習課 題 ワーク シート ・アンケート結果から、自分 のクラスをアピールするグラ フを作成する。【持】 ・グループ内で発表、評価 を行う。【広】 ・グラフを改善する。【深】 ・グループごとに発表を行 う。【広】 ・振り返り【深】 ・情報の発信者の立場から メディアリテラシーについて 考える。【深】 ・自分のねらいに適した データを選択する。 ・言語活動をとおして、多 様な情報の表現方法を 理解し、発信者の意図を 考える。 ・データの選択と 判断 ・情報の表現力 ・情報機器の活 用 実習課 題 ワークシ ート ・取組状況 ○ ・メディアリテラシ ーの理解 ワークシ ート ○ ○ ・発信者が意図をもって 情 報の 表 現 方法 を 工夫 ○ することについて考える。 実習課 題 ワーク シート (10)取組事例 ①実施日:平成26年10月30日(木) 授業担当者:山田恭弘 教諭 ②授業クラス:「社会と情報」履修者 40名 ③本時のねらい:自分のねらいに適したデータを選択し、効果的な情報伝達を行う ④本時の指導内容: 授業展開 導入 (5分) 展開 (15分) 学習活動と内容 前回の復習 ・“進学”をアピールするグラフで、 グラフの作成方法の確認をする 鶴総の進路状況からグラフを作成 する ・“就職”をアピールするグラフを作 成する ・「グラフの工夫した点」をワークシ ートに記録する 教師の指導と留意点 出席の確認・授業準備 PCへのログオン確認 前回作成したもの見せ、グラフ作成 の流れを確認する 前回使用したExcelファイル「鶴見 総合の進路状況」を用意させ、前回 実習したシートをコピーさせる 前時の“進学”をアピールするグラ フを提示しておき、意図的にグラフ を作成する方法を思い出させる 評価場面及び手立て 【判】自分のねらいに適したデータ を選択しているかをワークシートに 記 入 す るこ と で ね ら いを 明 確 に さ せ、机間指導を行う 【技】ねらいに合ったグラフが作成 できているか机間指導を行う 展開 (65分) まとめ (5分) 自分のクラスをアピールするグラフ を作成する ・自分のクラスが“No.1”だとアピー ルするグラフを作成する ・「アピール点」と「グラフの工夫した 点」をワークシートに記録する ・グループ内で発表する ・メンバーの発表を聴き、工夫して いた点と気がついたことをワークシ ートに記録する ・発表した後、メンバーからのコメン トをワークシートに記録する 振り返り ・グループ発表をしてみて、気がつ いたことをワークシートに記録する。 ・情報の発信者が意図を持ってグラ フを加工するのは、何のためだと思 うかを考える 前時の“進学率”をアピールするグ ラフを提示しておき、作為的にグラ フを作成する方法を思い出させる。 生徒が実習している画面を提示し て、相互に意識させる グループを決め、発表方法を説明 する ワークシートに「何をアピールする か」、「グラフの工夫した点」を記録 してあるので、それを使って発表を させる.発表するときは、発表者の 近くに集まらせる グラフ作成と発表の活動を行って気 がついたことをワークシートに記録 させる 同じデータから様々な情報の表現 ができ、情報を正しく判断する力が 必要なことに気がつかせたい 【判】自分のねらいに適したデータ が選択しているか(手立て)ワークシ ートに記入することでねらいを明確 にさせ、机間指導を行う 【技】情報機器を活用して、ねらい に合ったグラフが作成できているか (手立て)直前の実習を思い出さ せ、机間指導を行う (10)生徒のコメント(抜粋) グラフの見方が変わりました。▼(グラフを作成するとき)データを改ざんしない、一目で分かるようにする。 (グラフから情報を読み取るとき)発信者がどんな意図を持ってグラフを作成したのか考える▼今までグラフの加 工はダメだと思っていたが、今回の授業で宣伝をするにはグラフの加工はしょうがないと考えた。▼差や色だけで 見るのではなく、騙されないように数値をよく見ることに気をつけたほうが良いと思います。 (11)授業の様子 (写真5)グループ発表の様子 (写真6)相互評価の様子 4.3 実践事例3 表現の工夫から、情報の本質を見抜く力を身に付けさせる授業実践 (1)研究実施校:神奈川県立茅ケ崎北陵高等学校(全日制、普通科) (2)学校の課題:知識理解にとどまらず、思考力・判断力・表現力の育成 (3)実施校における研究テーマ:問題解決型協働学習に関する研究 ∼学習意欲を高める題材の工夫を通した、思考力・判断力・表現力の育成∼ (4)教科・科目:共通教科情報・情報の科学 学年:1学年 (5)単元名 :(2)問題解決とコンピュータの活用 ア 問題解決の基本的な考え方 (6)単元の目標:問題の発見、明確化、分析及び解決の方法を習得させ、問題解決の目的や状況に応じて これらの方法を適切に選択することの重要性を考えさせる。 (7)単元で身に付けさせたい力: (8)単元の評価規準: 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解 ・問題解決に関心をもち、問 題解決の目的や状況に応じ て問題解決の方法を選択し、 解決を図ろうとしている。 ・問題解決の目的 や状況に 応じて、適切な解決方法を考 え、実効性などに基づいて選 択している。 ・問題解決の各段階での考え 方や方法について評価して いる。 ・問題解決の各段階におけ る方法を身に付けている。問 題解決の目的や状況に応じ て問題解決の方法や手段を 選択し、活用することができ る。 ・問題解決の考え方や方法 や手段について理解してい る ・問題解決の各段階における 検討の記録に基づいて問題 解決を振り返り、評価すること の重要性を理解している。 (9)単元の指導と評価の計画:評価規準に基づいた評価項目を設定し、それに即した各時限のねらいを明 確にすることで指導と評価の一体化を図った。 時 学習内容 学習活動 ねらい 評価の観点 a b c d 評価規準 評価方法 1・2︵本時︶ 3 4 5 6 7 ブレーンストーミング とカードを使った整 問題の発見と 理法を用いて問題の 整理 発見及び整理を行 う。【持・広】 発見した問題点を事 実と意見に分離す 問題の整理 る。【深】 ブレーンストーミングとカード を 使 っ た 整 理 法 を 用 いて 効 果的に問題の発見、整理さ ◎ ○ せる。 与 え ら れ た 題 材 に 対 ・ワークシート し、多くの問題を発見 し、カードに記入してい る。 問題を事実と意見に分離させ る。 ○ ◎ 発見した問題を事実と ・ワークシート 意見に分けることができ る。 数値で説明できるよう 分析技法 デ にするためグラフの作 ータの整理・グ 成方法を学ぶ。 ラフの作成 【持・広・深】 整理した問題点につ いて解決策を考案す 解決策の考案 る。 【持・広・深】 考案した解決策を説 プ レ ゼ ン テ ー 明するための資料を ション準備 作成する。【持・広・ 深】 考案した解決策を発 表する。 プレゼンテー 【持・広】 ション 発見した事実について、適切 なグラフを選択し、表現する。 考案した解決策を発 表し、単元全体の振 プ レ ゼ ン テ ー り返りを行う。 ション 【広・深】 単元の振り返り 聴き手に納得できるように発 表する。聴き手は発表を批判 的に聞く。本単元を通して学 んだことを共有する。 ○ ◎ 整理した問題点の解決策を 考案する。 聴 き手 が 興 味 を 高 める発 表 資料を作成する。 発見した事実について ・グラフ 適 切な グ ラフで 表 現し ◎ ○ ている。 整理した事実と意見に ・ワークシート 基づく解決策を考案し ている。 ○ ◎ ○ 聴き手が納得できるように発 表する。聴き手は発表を評価 する。 ○ ◎ ◎ 提案する資料を作成し ・発表資料 ている。 聴き手の状況を踏まえ て、自分の言葉で発表 して い る。 他 者 の 発 表 を適切に評価してい る。 聴き手の状況を踏まえ て、自分の言葉で発表 している。聴き手は批判 的に発表を聴いてい る 。 本 単 元 を 通 して 問 題解決の技法を理解し ている。 ・発表の取組 ・発表資料 ・ワークシート ・プレゼンテ ーション ・ワークシート (10)取組事例 ①実施日:平成26年10月29日(水) 授業担当者:三井栄慶 教諭、上原和美 教諭 ②授業クラス:1年7組 40名 ③本時のねらい:問題点をカードを使った整理法により自分たちの考えを可視化できることを理解す る。また、可視化された自分たちの考えについて前単元で学んだ客観的な事実と主観的な意見とで 切り分けることにより、論理的に解決策を考案する手立てとなることを理解させる。 ④本時の指導内容:問題解決の概要を説明した後、テーマ「茅ケ崎北陵高校の食堂の売り上げを伸ば すには?」を題材にし、問題解決に向けて個人作業で問題点を考えたのち、カードを使って問題点 を整理する。その後、出てきた問題点について客観的な事実および主観的な意見とで切り分けるこ とにより、論理的に解決策を考案する手立てとする。 ⑤単元の指導と評価の計画: 授業展開 導入 (15分) 第1時 展開 (10分) 展開 学習活動 ・本単元の流れの説明 ワークシート配布 ・問題解決の説明・テーマの説明 ・学食の問題点の洗い出し ・自分の考えを付箋に記入する。 ・ブレーンストーミング及びカードを 指導上の留意点 ・問題とは現状とのギャップであることを伝え、問題 解決とはそのギャップを埋める手立てを考えること であることを説明する。 ・この作業は個人で進める。問題点をできるだけ複 数個洗いだせるようTTとともに促す。 ・個人で記入した付箋をタブレット型端末で撮影さ せる。 ・ブレーンストーミング及びカードを使った整理法の 評価方法 【関・意・態】 ・授業観察 【思・判・表】 ・付箋に記述され た個人の意見 【関・意・態】 第2時 (20分) 使った問題の整理法の説明 ・個人が洗い出したと問題点をもとに 及びカードを使った整理法を始め る。 導入 (10分) ・カードを使った整理により事実と意 見の違い・ワークシートの配布 ・事実と意見を分ける ・キャッチコピーの提案 ・発表の準備 展開 (20分) 展開 (10分) まとめ (5分) ・発表 ・本時の振り返り 概念を説明する。 ・ブレーンストーミング及びカードを使った整理法の 注意点を留意させながら付箋を貼っていく。 ・付箋を貼っていくプロセスをタブレット型端末で撮 影させる。 ・前時で行ったカードを使った整理の結果は事実と 意見が混在していることに気付かせる。 ・意見と事実の違いを意識させながら付箋を貼り返 させる。 ・付箋の位置を変更するプロセスをタブレット型端末 で撮影させる。 ・グループ協議の経過を踏まえてキャッチコピーを 考えさせる。 ・自分たちのグループの協議の経過とよりよい学食 づくりに向けたキャッチコピーを発表する。 ・本時のカードを使った整理を通して自分の考えが どのように整理されていったか振り返る。 ・授業観察 【思・判・表】 ・付箋が貼ってあ るワークシート 【関・意・態】 ・授業観察 【思・判・表】 ・付箋が貼ってあ るワークシート 【関・意・態】 ・授業観察 【思・判・表】 ・ワークシートに 記述した振り返り (11)生徒のコメント(抜粋) ▼一人ひとりの個人的な意見が最初はバラバラだがそれが段々と一つにまとまっていく過程にグループでの団結力 を感じた。▼付箋を用いたことで、被った意見などが分かりグループ内で共通意見を持っていることが分かった。 ▼付箋だからこそ、意見を分けたりまとめたりがすぐにできる。▼自分たちの考えが見やすくまとめやすかった。 ▼書いて貼るだけなので意見を出すのが短時間で済んだ。▼たくさん意見を出して削っているのがやりやすかっ た。▼自分が思いつかない意見がでる→考えの幅が広がった。▼いろいろな人の意見を効率よくみんなが見られる (12)授業の様子 (写真7)ワークシートと付箋紙で問題を整理 (写真9)グループ内発表の様子 (写真8)タブレット端末でワークシート記録 (写真10)書画カメラを使った全体発表の様子 (13)本単元の学習評価の結果(対象生徒:1学年4クラス) 評価の観点 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解 本単元のルーブリックは(表3) 評価規準 A B C 98% 2% 0% 56% 44% 0% 問題解決の各段階における方法を身に付けている。 52% 48% 0% 問題解決の考え方や方法や手段について理解している 70% 30% 0% 問題解決に関心を持ち,問題解決の目的や状況に応じて問題解 決の方法を選択し,解決を図ろうとしている。 問題解決の各段階での考え方や方法について評価している。 川崎高等学校 綾瀬西高等学校 学習 意 欲 茅ケ崎北陵高等学校 題 材 が情 報 科 の学 習 内容 か 麻生総合高等学校 保護者懇談会用の資料としてクラスをアピー ルするグラフを作る 「朝食と食べると点数が上がる」というのは 本当か? 学食をよりよいものにするためには 業界第2位の企業が第1位になるためには 携帯電話やスマートフォンの利用が、生活に どのような影響があるのか考えよう 現在の情報社会の問題点から、情報機器を活 用した新しいサービスや機能を考えよう 実行 可 能か 鶴見総合高等学校 問題解決型学習の題材 切 実 な問 題 で ある か 実施校 身近 で ある か 6.【Action】成果と課題並びにその改善に向けた方策 本研究の実践事例は、3校ともカード(付箋紙)による情報の整理を言語活動を充実させる手法として 取り入れたが、研究授業後に実施した実施校の教員と推進委員等で行う研究協議においてもカードを使った 整理法で協議を行った。研究授業の参加者には2色の付箋紙を渡し、水色の付箋紙には「良いと思ったとこ ろ」、ピンクの付箋紙には「改善できそうなところ」を授業を観察しながら記入することとした。授業後の 研究協議の場では、付箋紙にコメントを記入済みであるため、模造紙に貼り付ける作業から始めることがで き、短時間で視覚的に成果と課題を整理し、深い意見交換を行うことができた。 (1)成果と課題 ①学習意欲を高める問題解決型学習の題材の選択 本研究では問題解決型学習の題材を「身近であること、切実な問題であること、実行可能である こと」などの観点で適切に選択することにより、生徒の学習意欲を高めることができた。 (表1)問題解決型学習の題材選択の観点 ○ − ○ − ○ ○ − − ○ ○ ○ − ○ − ○ − − − ○ △ ○ ○ − ○ ○ ○ ○ − ○ ○ ②「考えを持つ」、「考えを広げる」、「考えを深める」の3つの場面を設けた言語活動 (図1)のとおり、問題解決の手順の各段階、「問題の発見と明確化」「問題の分析」「解決策 の検討、実践、評価」で、言語活動を「考えを持つ」「考えを広げる」「考えを深める」の3つの 段階を設定して言語活動を行うことで、考えを深めることができた。 (図1)問題解決の手順と言語活動の段階 ③タブレット型端末を活用した協働学習 問題解決型協働学習にタブレット型端末を活用することで、カード整理のプロセスや、発表資料 等の学習履歴の蓄積、共有ができ、生徒の学習活動のRPDCAサイクルを一層充実させることができた。 (表2)タブレット型端末に蓄積する学習履歴の例 言語活動の段階 情報収集 個人の考えを持つ グループ内で考えを共有する グループ間で発表する 振り返り 学習活動の例 インタビュー、アンケート調査 ワークシート記入 ブレーンストーミング、カードによる整理、 プレゼンテーション、ポスター発表、 ワークシート記入 データ形式 音声等、表計算 ワークシート等 画像等 スライド等 ワークシート等 ④協働学習の取組や生徒の思考力・判断力・表現力の評価の工夫 単元の学習前後に、Webベースのアンケートシステムを活用して、生徒に学習意欲や思考力・判断 力・表現力を図る設問に回答させ、個々の生徒の学力の変容を把握することができた。また、協働 学習を通して、考えたことや気付いたこと等、振り返りをワークシートに記述させ、その内容を (表3)のルーブリック(学習到達状況を評価するための評価基準表)により評価することで、協 働学習においても個人の評価を行うことができた。一方で、ルーブリック評価の実践を通して、C 段階の生徒が極めて少ない状況が確認できたため、3段階評価を見直して4段階評価に改善するこ とや、C段階だけでなくA、B段階の状況にある生徒に対しても手立てを準備しておくことが新た な課題になった。 (表3)茅ケ崎北陵高校の1単元のルーブリックの抜粋 観点 a 関心 ・ 意欲・ 態度 観 察 解決 策 検討 b思 考 ・判 断 ・表 現 問題 発見 ワー ク シー ト c技 能 発表資料 d知 識 ・理 解 振り 返 り ワークシート A B C 問題解決の手法を進んで取り入れ、 他者の意見をとりまとめながらの共 同作業に取り組んでいる。 問題解決の手法を取り入 れて、共同作業に取り組 んでいる。 他者の意見を取り入れながら自分の 意見を述べている。 自分の意見を述べてい る。 協議内容を踏まえた上で、事実と意 見を分離して整理し、解決策を考案 している。 協議内容を踏まえた上 で、解決策を考案してい る。 問題解決を図ろうとしていない。 (手立て)共同作業に参加するよ うに、声かけをする。 意見を述べていない。 (手立て)ヒントとなる発問によ り、問題発見を促す。 協議内容を踏まえていない。解決 策を考案していない。 (手立て)ヒントとなる発問によ り、解決策の考案を促す。 グラフ・図表を活用した発表資料を 作成した。 発表資料を作成した。 発表資料を作成してない。 (手立て)進捗を確認し、技術的 又は内容の支援をする。 問題解決の手法について有効性を理 解しており、具体的にどのように進 めればよいか説明ができる。 問題解決の手法について 有効性について説明でき る。 問題解決の手法について有効性を 説明できない。 (手立て)これまでの学習履歴を 確認することを促す。 (2)改善に向けた方策 これらの成果と課題を踏まえ、今後の情報科の授業改善に向けて、①から⑤の方策に整理した。 ① 問題解決の題材は、情報科の学習内容を優先する 「問題解決」は題材の自由度が高いため、生徒の興味・関心に合わせて題材の範囲を広げすぎると情 報科の目標とは異なる方向に進んでしまうことが考えられる。SNSやスマートフォンの利用など情報社 会には様々な問題があり、情報科の授業にふさわしく、生徒に考えさせたい題材がたくさんある状況 を踏まえると、学習内容も学習方法も情報科の目標とすることが望ましいと考える。 ② 生徒に問題を発見させる機会を与える 限られた授業時間数の中で、各単元で生徒に問題発見させる機会を与えるのは難しいことであるが、 授業者から「問題」を与えるのではなく、生徒が様々な分野から自由に「問題発見」させ、問題発見能 力を高めることが望ましい。年間を通して、問題解決型学習を繰り返し、問題発見の手順を段階的に身 に付けさせた上で、生徒自らが問題発見する学習機会を増やしていくことがよいと考える。 ③ 問題解決の各段階をスモールステップに分ける グループで話し合う時間が短かったり、考えを深めるステップが大きすぎたりすると、生徒は考えを 深めることが困難になる。生徒の状況を踏まえ、よりスモールステップで思考を深められるようなワ ークシートを作成し、授業者からはタイミングよく発問や情報提供を行い、言語活動そのものが目的 化しないようにする必要がある。 ④ ICT活用が適切かどうか生徒に判断させる 問題解決の手順には、アンケート調査を行う、収集した情報を整理する、発表資料を作成するといっ た段階がある。そこでICTを活用することが適切なのか、または、手作業が良いのかを生徒に判断させ ることは重要である。 ⑤ 協働学習の評価の工夫 ワークシートやWebアンケートなどの記述や発表資料をルーブリック(学習到達状況を評価するため の評価基準表)により評価することで、協働学習においても個人の評価を行えることが確認できたが、 さらに、これらの情報を有効に活用するために、個々の生徒の学習履歴をデータベースに蓄積し、Web ブラウザを使って生徒間で相互評価できるしくみを作ると、さらに生徒の学習が深まる。 (3)まとめ 本研究は、情報科の各単元の学習を問題解決型学習として取り組み、生徒が互いに発表し合ったり、説 明し合ったりする学習を通して生徒に問題解決の手順を生徒に繰り返し実践させ、確かな学力向上を推進 することができた。また、教員も、問題解決の手順に沿って繰り返し授業改善に取り組み、教員も生徒も、 RPDCAサイクルを回すことができた。特に、カードを使った協議は、効率よく視覚的に成果と課題を整理 することができ、生徒の学習活動でも研究授業後の研究協議でも有効性を示すことができた。今後は、生 徒の確かな学力の育成に向けて多くの学校の教科で問題解決型協働学習を取り入れることを期待する。 (写真11)研究授業後の研究協議の様子 (写真12)カードを使った成果と課題の整理 本研究のまとめ (1)学習意欲を高める問題解決型学習の選択 問題解決型学習の題材は、「生徒にとって身近な問題か、切実な問題か、実行可能」という観点で 選択することが重要である。また、可能な限り情報科の学習内容の題材とすることが有効である。 (2)「考えを持つ」「考えを広げる」「考えを深める」の3つの場面を設けた言語活動 問題解決の基本的な流れ(問題の発見と明確化∼分析∼解決策検討∼実践∼結果の評価)の各段階 で、「発問∼個人で考える段階∼グループで考えを共有する段階∼グループの考えを発表する段 階」の言語活動を一斉学習、個別学習、協働学習を織り交ぜる授業展開は、思考力・判断力・表現 力の育成に有効である。 (3)タブレット型端末を活用した協働学習 共通教科情報科においても、グループに1台、タブレット型端末を活用した授業は、言語活動の充 実に有効である。また、カードによる問題整理やブレーンストーミングなど学習活動では、カメラ 機能を活用して、思考のプロセスを蓄積し、生徒の学習活動の振り返りにタブレット型端末は有効 である。 (4)協働学習の取組や生徒の思考力・判断力・表現力の評価の工夫 個々の生徒の評価を行いにくい協働学習の取組状況や、言語活動で育む思考力・判断力・表現力の 評価(診断的評価、形成的評価、総括的評価)にはルーブリックによる評価が有効である。 農 業 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 学校の教育力を高めることを目的として「生徒主体の授業づくりに向けた単元における授業実践の検 証」をテーマとした。 (2)研究のねらい 昨年度までの研究では、各校共通の課題として、「じっくり考える力」「自分の考えを書く力」「他 者の意見を聞く力」「自分の考えを他者に伝える力」などの思考力・判断力・表現力等の言語に関する 能力の育成に向けた学習の充実が課題であった。それらのことから、今年度の研究では、単元における 学習内容の精選と教材の工夫、及び教科・科目横断的な学習の展開について授業実践し、検証すること とした。 2. 研究で取り組んできた内容 (1)各農業関係高校共通の課題である「言語に関する能力の育成」に向けた授業展開の研究・開発と、生 徒の学習指導上の課題の把握及び共有化 (2)各農業関係高校で取り組む特色ある授業の検証 (3)農業を取り巻く課題を題材とした授業の手立ての検証 (4)教員相互の指導方法や教材の共有化と検証 3.【R】研究の目標を達成するための手立て (1)「言語に関する能力の育成」に向けた一つの方策として、グループワークと発表を取り入れた授業展 開について、時間配分や実験・実習との連携、ワークシート作成に関する工夫について検証する。 (2)各農業関係高校の特色ある授業展開を見学し、授業で工夫している点や参考となる取組、課題を共有 化する。 (3)農業を取り巻く様々な課題を授業で取り上げる手立てについて検証する。 (4)教材の共有化と効果的な活用について検証する。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例1 農業と環境(公開授業研究) (1)研究実施校 神奈川県立中央農業高等学校(全日制) (2)学校の課題 中核的な農業系高校として、農業後継者育成と関連産業の担い手を育成するにあたり、高度で 専門的な知識・技能とともに、望ましい職業観、産業観の育成が求められている。 (3)実施校における研究テーマ 今後、農業の6次産業化等、農業や農業関連産業においても他産業や地域でのコミュケーション能力 や幅広い視座と思考力・判断力・表現力が求められている。それらの育成のため、言語活動の充実をはか る。 (4)科目:農業と環境 学年:畜産科学科1年 (5)単元名:肉用鶏の飼育 (6)単元のねらい: 肉用鶏を例に、家畜の基本的な取り扱いや飼育技 術の基礎を身に付け、生産技術の評価や経済動物と しての家畜についての理解を深める。 (7)単元で身に付けさせたい力: 肉用鶏の発育の特徴と飼育方法を理解し、家畜 飼育の基礎的な知識や技能、望ましい家畜観の育 成を図る。 学習活動の確認(導入) (8)単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 時 1∼2 3∼4 5∼8 9∼12 13∼14 b.思考・判断・表現 c.技能 d.知識・理解 評価の観点 学習内容 学習活動 ねらい a b c d 評価規準 評価方法 ・肉用鶏の飼育に意欲的に取り組ん ・観察 肉用鶏に 肉用鶏の特性、品 肉用鶏の飼育に ○ でいる。 ついて 種等について理解 関心を持たせ、 ・ノート ・肉用鶏の特徴について理解してい 特性や品種につ ○ する。 ・定期テスト る。 いて理解させ る。 ○ 肉用鶏の 入すう、えづけ等 肉用鶏の導入時 ・肉用鶏の導入時に要する基礎的な技術 ・観察 導入 について理解す に要する基礎を を身に付けている。 る。 身に付けさせ る。 ○ ひなの飼 ひなの特性やその ひなの特性を理 ・ひなの適切な飼育管理技術を身に付け ・観察 育管理 飼育方法について 解した上で、適 ている。 ・ノート ○ ・ひなの特性を理解している。 理解する。 切な飼育管理技 ・定期テスト 術を身に付けさ せる。 ○ 肉用鶏の 肉用鶏の発育曲 様々なデータか ・肉用鶏の経営的評価を行うことができ ・ワークシート 飼育とそ 線、飼料要求率等 ら、肉用鶏につ る。 ・ノート の評価 から、その経営的 いて適切な経営 ・肉養鶏の評価方法について理解してい ・定期テスト ○ 評価を行う。 的評価を適切に る 。 行わせる。 ○ 肉用鶏の 肉用鶏のと畜、解 飼育した肉用鶏 ・肉用鶏解体に関する技能を身に付けて ・観察 加工 体を行い、適切な を解体し、生産 いる。 生産物の処理方法 物の評価を行わ について理解す せる。 る。 肉用鶏飼 肉用鶏の飼育、加 肉用鶏について 育のまと 工についてまと まとめ、家畜の 15 め、発表 め、発表を行う。 経済的評価や、 (本時) 適切な家畜観の 育成を図る。 ○ ・肉用鶏の飼育・加工について考察し、 ・観察 まとめ、適切に発表することができる。 ・ワークシート ○ ・適切な家畜観を身に付けている。 ・発表 (9)【D】取組事例(公開研究授業) ①実施日: 平成26年11月25日(火) 授業担当者:巻島 弘敏 教諭 ②授業クラス 畜産科学科1年 39名 ③本時のねらい:肉用鶏についてまとめ、家畜の経済的評価や、適切な家畜観の育成を図る。 授業展開 学習活動 指導上の留意点 評価規準及び評価方法 導入 ○学習活動の確認 ・ブロイラー飼育実習を 【知識・理解】 (5分) ・ブロイラー飼育実習について振り返る。 経時的に振り返らせ、 ・発育段階ごとのブロイラーの飼育管理について理 ・事前に配付したワークシートを返却し、振 肉用鶏の発育成績、経 解している。 り返る。 済性の指標について理 (ワークシート) 解させる。 展開 ○事前に配付したワークシートにもとづいて ・疑問点や意見があれ 【思考・判断・表現】 (37分) 作成したスライドをもとに、ブロイラーの発 ば、積極的に挙手、発 ・各班の発表から、肉用鶏の発育性や経済性、家畜 育、経済性の結果について発表する。 言させるよう促す。 のあり方について思考を深め、適切に考察、表現し ている。 ○事前に配付したワークシートにもとづいて ・ワークシートを基に、 (発表) 作成したスライドをもとに、ブロイラーの発 疑問点や意見をまと 育、経済性についてまとめる。また、実習を め、積極的に挙手、発 とおして感じたことを発表し、各々の畜産に 言させよう促す。 対する見方や家畜観についてまとめる。 まとめ ○本時のまとめ ・発表や討論での内容を 【思考・判断・表現】 (8分) ふまえ肉用鶏の飼育や ・発表や討論を通し、肉用鶏の飼育や各々の家畜観 各々の家畜観について について考え、まとめることができる。 まとめさせる。 (ワークシート、観察) 生徒による発表の様子 スライドを活用した授業のまとめ 実践事例2 愛玩動物(学校設定科目) 私たちの暮らしと農業(学校設定科目) (1)研究実施校:神奈川県立相原高等学校(全日制) (2)学校の課題 専門教育の各分野と普通教科全体を見渡した学校づくりを目ざすとともに、特色ある専門教育づく りのための学習内容の充実・発展が必要となる。 (3)実施校における研究テーマ 言語活動の充実を目ざした生徒主体の授業づくり (4)科目:愛玩動物、私たちの暮らしと農業 学年:3学年(自由選択) (5)単元名:現代の食料・農業が抱える問題点についての討論会 (6)単元のねらい 食料・農業の抱える問題点について、農業や家畜・愛玩動物における基礎的知識・技術をもとに多面 的に考察し、人間と動物の関係を社会的・経営的に思考・判断する能力及び応用・表現する能力を養う。 (7)単元で身に付けさせたい力: プレゼンテーション能力に必要となる「聞く力」「考える力」「話す力」を身につける。 (8)単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 b.思考・判断・表現 c.技能 d.知識・理解 時 1∼2 学習内容 ねらい 評価の観点 a b c d 現 代 の 食 現代の食料・農業 料・農業が が抱える問題点に 抱える問題 ついて理解する。 点について 問題点を考えることを理 解させる。 農業や食料の問題につい て議論するためのテーマ を設定させる。 世界や日本 の現状と農 業問題 世界と日本の農業問題に 興味・関心を持たせる。 ○ 3∼4 人間と動物 関係の現状 と問題点 5∼6 学習活動 世界や日本の農業 の現状について理 解し、世界と日本 の農業問題の違い について理解す る。 人間と動物の関係 を社会的・経営的 に思考・判断す る。 世界と日本の農業問題の 立論・反駁・を考えさせ る。 世界と日本の農業問題を 客観的に考察し、立論・ 反駁・に利用する図や資 料を準備させる。 ディベートを通じて、人 間と動物の関係について 討論させる。 用意した資料を十分に活 用して人間と動物の関係 について説明させる。 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 評価規準 評価方法 ・目的を理解し、テーマを 考えられている。 ・教科の特性及び討論学習 について考察し、討論テ ーマを考えることが出来 ている。 ・農業問題について興味関 心を持ち、意欲的に取り 組んでいる。 ・世界と日本の農業問の立 論・反駁について考えて いる。 ・立論・反駁・回答に利用 する図や資料を示すこと ができる。 ・観察 ・ディベートを通じて、人 間と動物の関係について 理解している。 ・人間と動物の関係につい てわかりやすく説明でき る。 ・観察 ・発表内容 ・観察 ・プリント ・観察 ・観察 ・ワークシート ・プリント ・観察 ・発表内容 7∼8 食料・農 業の抱え る問題点 について 考える討 論会の準備 食料・農 業の抱え る問題点 9∼10 について (本時) 考える討 農業が抱える問題 点について考える 討論会を実施する ために、肯定側・ 否定側それぞれの 立論について調 査・整理を行う。 討論会を実施し て、農業が抱える 問題点について考 える。 論会 テーマについて立論・反 駁・回答をワークシート に準備させる。 今回の予備討論を通し て、本番での問題点や説 明内容の不備について見 つけだし、メリット・デ メリットを客観的に考察 し、立論・反駁・回答に 利用する図や資料を準備 させる。 討論会によって得られる 成果について理解させ る。 資料を十分に活用して相 手に理解できるように説 明させる。 ○ ・予備討論の反省を踏ま ・プリント え、より堅牢な理論の証拠 となる資料を示すことがで きる。 ○ ○ ○ ・テーマの内容について理 ・観察 解している。 ・ワークシート ・討論会の成果を理解して ・観察 いる。 ・発表内容 ・基礎的な知識を基に合理 ・観察 的に判断し、問題点につ ・発表内容 いて表現することができ ・プリント る。 (9)【D】取組事例 ①実施日:平成26年11月17日(月)5・6校時 「愛玩動物」授業担当者:安藤 信貴 総括教諭 「私たちの暮らしと農業」授業担当者:後藤 隼人 教諭 ②授業クラス:自由選択 「愛玩動物」選択生徒及び「私たちの暮らしと農業」選択生徒 合計9名 ③本時のねらい:討論会を実施して、農業が抱える問題点について考える。なお、「生徒主体の授業づくりに向けた単 元における授業実践の検証」の上に立ち、思考力、判断力、表現力の育成を図るととも に、昨年までに実施してきた討論会について検証し、生徒参加型の授業としての討論会 の充実を図る。 ④本時の指導内容: 授業展開 学習活動 指導上の留意点 評価の観点・評価規準及び評価方法 導入 (5分) ・討論会の流れ及び目的について ・ディベートの流れ及びテーマの 【知識・理解】 振り返る。 確認をさせる。 ディベートの流れを理解している。(観察) 展開 (90分) ・テーマ①「豚の去勢は必要であ る。是か否か∼アニマルウェル フェア∼」について、討論会開 始。 ・テーマ②「動物園の動物は幸せ である。是か否か」について、 討論会開始。 ・テーマ③「思い出を残すなら写 真(静止画)か動画か?」につ いて、討論会開始。 ・審査・集計 まとめ (5分) ・本時のまとめ (指導・講評・審査結果発表) ・次回の連絡 ・ディベートの対戦班の確認を行 【思考・判断・表現】 い、審査法を理解させる。 ・資料を十分に活用して相手に理解できるように説明 できる。(発表、観察) ・質問を聞き、内容を理解するた 【思考・判断・表現】 めにメモを取ることの意味を理 ・相手の意見に対してメモをとり、班で相談し、明確 解させる。 な回答をすることができる。(発表、観察) ・メモを基に相手の意見に対する 反駁のための意見をまとめさ せ、明確な回答をさせる。 ・討論の無い回において、他の班 【思考・判断・表現】 の発表を審査用紙を用いて、審 ・他の班の発表をプリントを用いて、審査することが 査させる。 できる(プリント、観察) 実践事例3 園芸科学(学校設定科目) (1)研究実施校:神奈川県立平塚農業高等学校初声分校(定時制) (2)学校の課題:「生きる力」を育む特色ある学校づくり (3)実施校における研究テーマ:学びの楽しさを生徒に感じさせる授業と言語活動の充実 (4)科目:園芸科学(学校設定科目) (5)単元名:これからの野菜経営 (6)単元のねらい:これからの野菜生産と経営方法について学ぶ。 (7)単元で身に付けさせたい力: 野菜に関する様々な考えがあることを知り、これからの野菜生産と経営方法について学ぶ。また、 生徒自ら考え、他者の意見も受け入れ自分の意見をまとめる力を養う。 (8)単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 b.思考・判断・表現 c.技能 d.知識・理解 時 学習内容 1 一般的な流通 経路について 2 3 様々な輸送技 術・貯蔵法に ついて 現在の野菜の 消費の動向に ついて これからの生 産と経営につ いて 4 学習活動 一般的な流通 経路について 学ぶ。 CA 貯蔵やコ ールドチェー ンについて学 ぶ。 現在の野菜の 消費の動向に ついて学ぶ。 ねらい 農業生産物の一 般的な流通経路 について理解さ せる。 様々な輸送技術 や貯蔵方法につ いて理解させ る。 現在の野菜に関 する消費の動向 について理解さ せる。 a b c ○ ○ ○ ○ これからの生 産と経営につ いて学ぶ。 これからの消費 に関連した生産 と経営について 理解させる。 (本時) d ○ 評価規準 ・積極的に流通 経路について 学ぼうとして いる。 ・様々な輸送技 術や貯蔵技術 について積極 的に理解して いる。 ・現在の野菜の 消費の動向に ついて、自ら 考えている。 ・消費の動向に ついて資料に まとめること ができる。 評価方法 ・ノート ・取組姿勢 ・これからの消 費の動向を考 え、それに関 連した生産と 経営について 自ら考え、意 見をまとめて いる。 ・ノート ・取組姿勢 ・ワークシート ・定期テスト ・ノート ・取組姿勢 ・ノート ・取組姿勢 ・ワークシート (9)取組事例 ①実施日:平成26年11月17日(月)2・3校時 「園芸科学」授業担当者:佐藤 力 教諭 「世界史A」授業担当者:金子 幹夫 総括教諭 * 本時(3∼4時)は授業をより効果的なものにするため2科目合同で行った。 ②授業クラス:1年32名(男子19名、女子13名) ③本時のねらい: これからの消費に関連した生産と経営について理解させる。 ④本時の指導内容: (学習の展開) 授業展開 導入 (10 分) 学習活動 ○「野菜」に関する時事問題 ・直近の「野菜」に関する時事問題を取り上 げてコメントする。 ○本時の内容確認 ・本時の目標を理解する。 指導上の留意点 ・野菜に関する時事問題を 取り上げて生徒に興味を 持たせる。 ・本時の進め具合について 説明し、例を示す。 評価規準及び評価方法 展開 (80 分) まとめ (10 分) ○何が大事なことなのか。 ・ワーク1 ワークシートの9個のトマトに関する記 述を読む。 記述の内容で疑問点を共有する。 ・ワーク2 トマトをめぐる9個の文について優先度 の高い順に生徒一人ひとりがランキング を行い、理由も合わせて記述する。 ・ワーク3 2人1組のグループを作り、2人で話し 合って共通のランキングを作成する。 理由も記述させる。 ・ワーク4 5人前後のグループを作り、5人に共通 のランキングを作成する。 理由も記述させる。 ・ワーク5 ワーク4で作成したランキングを板書 し、クラス全体のランキングを作成す る。 ・意見交換 ○野菜をめぐる諸問題の枠組み ・ワーク6 9個の文を個人でグループ分けし、その グループに簡単な名前を付ける。 ○本時の振り返り ・授業感想を通して振り返る。 ・記述で不明な点がないよ うに確認する。 ・生徒が主体的に意見を主 張できる環境作りに留意 する。 ・多数決で決めるというこ とを極力避けるように机 間指導をする。 ・理由は必ず記入させる。 ・ワーク5では意見がまと まらなくても、それが悪 いことではないことを理 解させる。合意形成の難 しさを体験することの意 義を重視する。 【思考・判断・表現】 ・これからの消費に関連 した生産と経営につい て、生徒が自ら考えて いる。 ・これからの消費に関連 した生産と経営につい て、考えたことを他者 へ表現することができ る。 (ワークシート・観察) 【思考・判断・表現】 ・これからの消費に関連 した生産と経営につい て、積極的に他者と意 見交換ができる。 ・他者の意見を受け入れ ながら、自分の意見を まとめられる。 (ワークシート・観察) ・知識を得るというより も、「考え方」の枠組み を理解するということ に重点を置いた授業で あることを伝える。 実践事例4 農業と環境 (1) 研究実施校:神奈川県立平塚農業高等学校(全日制) (2) 学校の課題 「体験的学習を充実させ、専門分野の基礎的・基本的な知識と技術の定着を図る。 (3) 実施校における研究テーマ 「生徒主体の授業づくりに向けた言語活動の充実と検証」 (4) 科目:農業と環境 (5) 単元名:農業・農村をとりまく課題 (6) 単元のねらい 農業や農村をとりまく課題やこれからの農業のあり方を考え、新たな農業・農村の創造に向けて、私 たちは何をしなければならないかを考えるきっかけとする。 (7) 単元で身に付けさせたい力 現代農業の課題として、担い手不足や高齢化といった問題に対して、若者が農業に興味を持ち、就農 したいと思うにはどうすべきなのかといった解決策の一つとして「6次産業化」の考え方が生まれてき た。この6次産業化の考え方を理解し、1つのテーマごとにグループで討議し、発表する能力を身に付 ける。 (8) 単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 b.思考・判断・表現 c.技能 d.知識・理解 時 学習活動 ねらい 農業・農村 をとりまく 課題(概 論) 課題と6次産業化に 問題意識を持たせ、6 ついて理解し、班分 次産業化の考え方を理 けとテーマ設定をす 解させる。 る。 1 学習内容 評価の観点 a b c d ○ 評価規準 評価方法 ・産業・農村を取 ・ワークシート りまく課題を理 ・取組姿勢 解し問題意識を 持つことができ る。 班内で役割を分担し、 テーマを設定する。 ○ 2∼3 テーマごと 図書室を活用し、班 グループ内での各自の の6次産業 ごとにプランを作成 役割を考え行動する。 化計画作成 する。 と発表準備 4︵本時︶ テーマごと 視聴覚室にて班ごと 自分たちの考えを他者 の発表・評 に発表する。 に伝え、他の人の考え 価・まとめ 方を理解する。 ○ ○ ・産業・農村を取 りまく課題に関 心を持ち、積極 的に行動しよう としている。 ・産業・農村を取 りまく課題につ いて資料を整 え、発表準備を 進めている。 ・ワークシート ・取組姿勢 ・プレゼン用シート ・取組姿勢 ・自分たちの考え ・発表の内容 た、アイデアを ・発表の方法 わかり易く発表 ・審査用紙 でき、6次産業 化の考え方を持 つ。 (9) 取組事例 ①実施日:平成 26 年 11 月 13 日(木) 授業担当:伊藤 謙二 教諭 ②授業クラス:食品科学科 1年D組 39 名 ③本時のねらい:6次産業化という考え方を理解し、自分たちの考えを他者へ分かりやすく伝えることや 他の意見を受け入れ評価することができる能力を養う。 ④ 本時の指導内容 授業展開 導入 (5分) 学習活動 ○学習内容の確認 ・審査用紙の配布 ・発表順番、方法の説明 指導上の留意点 ・審査用紙の記入方法の説明と発表を 聞く態度の注意。 ・発表順番と時間、班内で協力して発 表させる。 観点・評価規準及び評価方法 展開 (40分) ○班ごとのプレゼンテーション ・班員全員でステージ上にあが り、発表担当者を中心に発表す る。 ・パワーポイントにてプレゼン用 シートを投影し、説明する。 ・評価用紙に各班の審査をさせ る。 ・1班5分で発表できるように留意す る。 【思考・判断・表現】 ・自分たちの考えた、アイデアをわかり 易く発表でき、6次産業化の考え方が しっかりと自分のものとして持ってい るか。(発表) まとめ (5分) ○講評とまとめ ・班ごとの講評を行う。 ・問題意識を持ち、改善する大切 さを理解する。 ・事前にプレゼン用シートをスキャナ ーでPCに取込み、投影できるよう 準備する。 ・審査用紙を書かせ、他の班の良かっ た点を記入させる。 ・班ごとの良かった点を評価する。 実践事例5 農業と環境 (1) 研究実施校:神奈川県立吉田島総合高等学校(全日制) (2)学校の課題 生徒の基礎学力の定着に向けた授業改善及び総合学科高校としての農業の学びを生かした人材作りの推 進 (3)実施校における研究テーマ 視聴覚教材を活用した生徒主体の授業に向けた取組 (4)科目:農業と環境 (5)単元名:私たちの暮らしと食料・農業・農村 (6)単元のねらい 私たちの暮らしと食料・農業・農村について、地域及び日本、世界の食料供給の現状や安定供給に向 けた課題について理解するとともに、これらの諸問題について、科学的に捉えて合理的に解決し表現す る創造的な能力を身に付ける。 (7)単元で身に付けさせたい力 食料供給の課題及び食の安全と安心、農業・農村の多面的機能の観点で、自分の意見をまとめ、これ らの諸課題を科学的に捉えて表現する能力を身に付ける。 (8) 単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 時 学習内容 学習活動 c.技能 評価の観点 評価規準 a b c d ねらい 1 ・ 地 域 の 農 ・地域農業のあ ・地域農業のあゆ 業・農村の ゆみや農業生 みについて関心 ○ すがたとあ 産の現状につ を高め、現状を ゆみ いて学習す 理解する。 る。 2∼3 ・日本農業の ・日本農業の現 ・日本農業の現状 現状と動向 状と動向につ と動向について いて学習す 理解する。 る。 4∼5 ・世界の食料 ・世界の食料事 ・農業や食料生産 (5が本 事情と食料 情と食料の安 に関する様々な 時) の安定供給 定供給など、 課題について関 農業や食料生 心を持ち、自ら 産に関する 情報を分析する 様々な課題に 力を身に付け ついて学習す る。 る。 6 b.思考・判断・表現 d.知識・理解 評価方法 ・地域の農業・農村のすがたとあ ・授業中の発言、返 ゆみについて興味・関心を持 答 ち、その重要性などについて探 ・ノート 究しようとしている。 ○ ○ ・農業・農村 ・農業が国土や ・農業と国土・環 の多面的機 環境の保全に 境の保全につい 能と地域の 果たす役割に て理解する。 活性化 ついて学習す る。 ・日本農業の現状と動向に関する 様々な資料や情報を収集し、適 切に選択して活用している。 ・ノート ・世界の食料事情と食料の安定供 ・授業中の発言、返 給に関する諸問題の解決を目指 答 して思考を深め、基礎的な知識 ・プリント と技術を基に合理的に判断し、 ・定期テスト その過程や結果を適切に表現し ている。 ・農業・農村の多面的機能と地域 ・ノート の活性化に関する基礎的な知識 ・定期テスト を身に付け、農業の社会的な役 ○ 割と環境との関わりについて理 解している。 (9)【D】取組事例 ①実施日:平成26年10月31日(金) 授業担当者:尾尻 賢一 総括教諭 ②授業クラス:総合学科 1年次6組 33名 ③本時のねらい:「世界の食料事情と食料の安定供給」の学習において、視覚的な教材を活用し、「生徒に じっくり考えさせる機会を与えるとともに、主体的な取組を促す授業」を展開することで、 言語活動の充実に向けた授業研究を行うこととした。 ④本時の指導内容 授業 学習活動 指導上の留意点 評価規準及び評価方法 展開 導入 5分 展開 30分 まと め 10分 ・前回までの取組の確認 ・世界人口が増加する現在において、環境に配慮した、 安全な食料の安定供給について興味・関心を高めるよ う留意する。 ・今回の授業の進め方の説 ・生徒がじっくり考え、食料の確保に関する課題が理解 【思考・判断・表現】 明・DVD「フードイン できるよう指導に留意する。 ・自分の意見をまとめ、他の意見を聞きな ク」を視聴し、プリント ・DVDを視聴させ、米国のトウモロコシ生産について理 がら課題の発掘に取り組んでいる。 に記入する。 解させる。 (発表・観察) ・「じっくり考え、各自の 考えをまとめる」(プリ ・米国のコーンが安価で流通している理由について、じ っくり考えた内容をグループ協議に導かせる ントへの記録) ・進行状況を確認し、各グループの進行担当者に、話し ・米国の農業生産について、自分の意見を ・グループ協議 まとめ、他の意見を聞きながら課題を発 合いをまとめるよう、指導に留意する。 見している。(発表・観察) ・グループによる話し合い の内容を全体に説明す ・活発な意見交換となるよう指導に留意する。 ・他のグループ発表を聞き、自分の考えを る。 ・事前に学んだ、「フードマイレージ」・「仮想水」に まとめている。(ワークシート) 関連させ、食の安全と環境に配慮した、食料の安定供 ・環境に配慮した安全な食 給の観点で捉えることができるよう指導に留意する。 料の安定供給について、 じっくり考える。 ・本時の内容の振り返りと ・食の安全と環境に配慮した食料確保の重要性について ・本時の内容をまとめ、食の安全と環境に まとめ まとめる。 配慮した食料確保の重要性について表現 できる。(定期テスト) ・次回の授業の内容と注意 ・農産物に関わる自由貿易の課題の観点で捉えられるよ 事項について う指導に留意する。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 実践事例1 昨年度の課題を踏まえ、「じっくり考える力」、「自分の考えを書く力」、「他者の意見を聞く力」、「自 身の考えを他者に伝える力」等、言語に関する能力の育成に向けた学習をめざし、事前のワークシート学習、 それに基づく発表を中心に授業を組み立てた。またそれらを基に、自ら学んだ内容を自分なりに他者に伝え、 またそこから生徒間の意見交換などのコミュニケーションが自ずと生まれる光景が見受けられた。 実践事例2 本年度の目標について、単元のねらいを基に検証した。ディベートを用いた授業も今年で3回目を迎えたが、 過去にはグループ内において一貫した意見の統一がなされていないことや、事前の資料作成などの準備ができ ていない点が反省に挙げられた。今回はその反省点から生徒にテーマについて事前に相談させてから、ディベ ートの基本となる「話す」ことと「聞く」ことを意識させる具体的なアドバイスを積極的に試みた。 具体的にはディベートにおける発言のコツである「理由付き、証拠付き」について説明を行ったことにより、 資料を立論時に効果的に利用し説得力のある意見発表を行ったチームがあり効果が実感できた。しかし、ナン バリングの技法をもう少し説明するべきであった。また、「聞く」ことを意識させる点から、相手の話を耳で 聞くだけではなく「メモをとる」ことの実践を行った。加えて、今回は3班編成とし2班が討論を行っている 際、残る1班は必ず審査を行うこととした。その結果、メモを取りながら話し合いを行うことで相手の意見の 論点に的確に回答することで、より充実した議論になった。 実践事例3 昨年度の研究授業においてグループワーク中心の授業展開を行ったが、授業の始めから自らの意見を考え たり、思考したりすることをあきらめてしまっている生徒に対してフォローがうまくいかなかったという課 題が見えた。また、生徒による授業評価においても「授業中、生徒同士で話し合う機会が少ない」と感じてい る生徒が昨年度に引き続き存在することから、今回はグループワークという授業形態を継続しながら、生徒 個人でも取り組むワークを取り入れた学習形態を計画した。 また、「世界史A」と合同で授業を行い、他教科との「組織的な授業改善」に向けた取組も行った。授業展開 は、まず生徒一人ひとりが自分の意見を持つためのワークを行い、その後、グループワークを行った。最終 的にはクラス全体で話し合いを行った。 展開の始めに個人ワークを取り入れることにより、昨年度の課題であった始めから考えるのをあきらめて しまっている生徒に対する指導を十分に行う事ができた。また、生徒一人ひとりが自分の意見や主張をしっ かりと持つことができ、その後のグループワークにおいても自分の意見を主張しつつ、他者の考えも聞くこ とができる環境も作ることができた。 実践事例4 生徒主体の授業づくりを踏まえて、グループワークを中心に生徒同士で話し合いをしながら、他者の意見を 尊重し、メリット・デメリットや特徴などを調べさせ、その中から問題点や改善点を抽出し、柔軟な高校生ら しい発想で問題解決の方策を出し合い、まとめ、わかり易く発表することを目的とした。 はじめの1時間で農業・農村をとりまく課題について復習も兼ねてワークシートで確認させ、後半に班決め、 係決め、テーマ設定、方向性を話し合わせ、次回以降の図書室での調べ学習がスムーズに展開できるように心 がけた。図書室の調べ学習では、グループ内で取り残されている生徒がいないか、考えに行き詰っていないか 注意を払い、適宜助言を与えた。おもしろい発想や、突拍子もないような発想でも批判せずに、前向きに助言 し、生徒の関心を高めるようにしつつ、生徒自身が主体となって考えられるように心掛けた。最後の発表でも、 批判的な意見は控えるように注意し、協力しながら発表するよう展開した。 今回の授業研究では、一定の成果を見ることができたものの、授業テーマとねらいをしっかり理解させるた めに、導入の時間で事例をあげる等ポイントを絞った適切な指導が不可欠であると実感した。今後も更に工夫、 改善を重ね、生徒が主体的に学習活動に取り組めるようにしていきたい。 実践事例5 昨年度までの研究と生徒による授業評価を検証した結果、今年度の研究では、生徒主体の授業づくりの方策 として、DⅤDを活用した言語活動の充実に向けた授業研究を実践するとともに、指導内容の精選及び組織的 な取組体制の構築の観点で取り組むこととした。 昨年度の授業研究では、8名のグループと大人数の協議であったことと、「じっくり考える」時間の確保が 十分でなかったことから、話し合いに参加しきれない生徒が3割ほど程存在していたことから、今年度はグル ープ人数を3名にした。また、DⅤD視聴の際に記録をとらせるなど、学習している内容が強く印象に残って いる状態で、「じっくり考え、自分の意見をまとめる」ことで、協議を活発なものとすることができた。 今回の授業研究に関する生徒の感想では、「他者の意見を参考にすることで、自分ひとりでは思いつかない 発想で協議することができた。」など概ね良好であった。 6.【A】成果と課題とその改善に向けた方策 実践事例1 今後の課題としては、ワークシートの工夫による生徒の考える力、書く力の一層の養成、あるいは発表、討 論、取りまとめの一連の流れをスムーズに行うため、もっと積極的に「話す」「聴く」「討論する」機会を授 業に取り入れ、特に他者との意見交換による学習活動の充実を図ること等が挙げられる。 改善に向けた方策として、他者との意見交換による学習活動を積極的に取り入れた指導計画の検討が必要で ある。 実践事例2 今回の授業研究では専門性を意識し過ぎたため、意見が多面的に展開しづらくなった点が見られたことが残 念であった。テーマ決定の際にディベートを意識したテーマに誘導するかが、スムーズに意見を対立させるた めには必要であることを実感した。今後の課題として、今後はナンバリングの技法を説明していくことにより、 今回より更に説得力ある意見を交わすことができるようにしていく必要があると感じた。 改善に向けた方策として、他の科目の授業の中にもディベートを用いた授業を取り入れ、今回の研究成果を 学校全体の授業づくりに広げていくことが必要である。 実践事例3 過去の授業研究を検証し、個人ワークを取り入れることで、生徒の取組に一定の成果を得ることができた。 課題としては、個人ワークとグループワークの両方を行うという展開上、クラス全体の雰囲気や生徒一人ひ とりの特徴を十分に理解していないと、うまく展開ができないことが分かった。 改善に向けた方策として、教科横断的な授業展開や自分の意見を持つ力、他者の意見を聞く力、周囲の者 と正しく話す力を培う授業づくり等を通して、生徒主体の授業づくりに向けた授業研究を学校全体で行うこ とが必要である。 実践事例4 今回の実践での課題は、6次産業化についての理解が薄い生徒がいることである。改善のために、初めの説 明をもう少し具体的な例を挙げるなどの工夫をすることが必要だと感じた。概ね生徒同士は関心を持って取り 組むことができたが、発言が苦手な生徒やコミュニケーションが苦手な生徒の居場所をどう確保していくか検 討することが必要である。 改善に向けた方策として、今後も更に工夫、改善を重ね、生徒が主体的に学習活動に取り組めるよう学校全 体で取り組むことが必要である。 実践事例5 今回の研究で、単元の目標に合致し、生徒の関心と意欲を高められる視聴覚教材の選定がポイントであるこ とと、教員相互の指導内容の共通認識が必要不可欠であることを改めて認識した。しかし、他の科目において は、これらの点について検証を行っていないため、学校全体で取り組むことが必要である。 改善に向けた方策として、研究成果を学校全体で共有し、生徒主体の学習活動の展開が定着するよう、継続 して授業研究を継続する必要がある。 まとめ 生徒主体の「言語に関する能力育成」に向けた授業実践では、「思考力・判断力・表現力等」の育成を図る 授業ができ、生徒に「協働して学び合い、主体的に考えようとする力」を身に付けさせる有効な手立てになる ことを改めて検証することができた。学び合いの授業の中で、生徒の学習の様子や発言などを教員が注意深く 受け止め、これに対し指導計画に基づいて適切に教員が対応する必要性がある。 また、年間指導計画の学習内容を社会の抱える諸課題に関連付けて取り上げることが重要であり、教科・科 目横断的な学習の取組等により、一層と生徒の興味や理解を高められる。 さらに、生徒主体の授業づくりに向け、教科書や黒板の有効活用以外に、自主作成のワークシート及びプリ ント、スライド・動画などの効率的な利用が求められ、作成した教材についても教科・科目の枠を超えて共有 するなど、教員間のコミュニケーションも必要不可欠である。 これらのことから「思考力・判断力・表現力等」の育成を図る授業づくりには、学校の育みたい生徒像に向 けた組織的な授業改善が求められる。 工 業 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「単元による指導と評価の計画に基づく、指導と評価の一体化を目ざした工業科指導の在り方」につい て。 (2)研究のねらい 各学校においては、調査(R)、計画(P)、実施(D)、評価(C)、改善(A)という一連の活動 が繰り返されながら、生徒のより良い成長を目ざした指導が展開されている。指導と評価とは別物ではな く、評価の結果によって後の指導を改善し、更に新しい指導の成果を再度評価するという、指導に生かす 評価を充実させることが重要である。評価活動を授業の改善に生かすことや、評価の後に「自らの学習状 況に気付かせる」指導 、「自分を見つめ直すきっかけとなる」指導、 「その後の学習や発達を促す」指導を 行うことによって、指導と評価が一体化することになる。また、「指導と評価の一体化」を目ざすことに より、基礎・基本の定着を確実にすることや同時により良い質の高い学習に対する意欲をも確実に高める ことができると考え、研究することとした。 2.研究で取り組んできた内容 今年度、教育課程研究会研究推進委員会の研究主題として、「組織的な授業改善の推進−単元の授業づ くりに基づく、授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策−」が挙げられている。これに伴い、工業 部門のテーマを「単元による指導と評価の計画に基づく指導と評価の一体化を目ざした工業科指導の在り 方」とした。この研究では、ものづくりに関する技術などを学ぶことを目的とした実験・実習の授業、も のづくりに関する理論などを学ぶことを目的とした講義形態の授業の双方について、学習指導の充実と学 習過程における評価の工夫を進めることとした。 実験・実習の授業の評価においては、単元の学習到達度を把握するため、単元に対する評価基準表を作 成し、明確化することを行った。また、講義形態の授業においては、授業の調査、計画から実践の充実を 図り、生徒が主体的に学習に取り組めるような授業展開を行うこととした。 3.【R】研究テーマ達成のための手立て (1)学習指導の充実と単元の到達度を理解させ、評価の基準を明確にした授業展開 指導においては、実習の作業において視覚教材を用いながら、作業の解説を行い、良い作業方法や 改善すべき作業方法を示すことで、生徒が作業のポイントに気づき、自らの改善点を明確にすること ができる。また、生徒のパフォ−マンスを評価するために、ル−ブリックの手法を用いて、評価基準 表を作成し、評価基準を明確化することで、生徒自ら作業の改善ができ、次の授業に取り組む際に役 立てることができる。 (2)授業の調査、計画の充実と実践に重点をおいた授業展開 生徒が単元での目的や取組を十分理解し、課題に対して各班でワークシートを作成しながら、グル ープ単位で課題に取り組み、その中で生徒同士が話し合い調べ学習をし、その内容を他のグループの 生徒へプレゼンテーションをする形態の授業を展開した。このように、教員が一方的に行う講義では なく、アクティブ・ラーニングの学習法を計画、実践した授業展開を行うことで、生徒の課題発見の 力や思考力・判断力・表現力を育成することができる。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例1 工業技術基礎(工業・建設) (1)研究実施校:神奈川県立神奈川工業高等学校(全日制) (2)学校の課題:将来の国際社会で活躍する科学技術者の育成 (3)実施校における研究テーマ:木構造建築物の基礎である「木工事」 (4)科目:工業技術基礎 学年:建設科1年 (5)単元名:木工事(ほぞ継、大入れあり掛けの墨付けおよび加工) (6)単元のねらい:木材加工を通して、木構造建築物の作業工程への興味・関心を持たせ、構造部材の用 途に応じた加工を理解させる。また加工時における正しい姿勢や加工手順、工具の使 用方法を学び安全に作業を行うことで、将来の実践に役立つような態度を育成する。 (7)単元で身に付けさせたい力:加工時における正しい姿勢や加工手順、工具の使用方法を身に付けさせ る。また安全に作業を行うことを意識させることで木工事の技能・技術の定着を図る。 (8)単元の指導と評価の計画: a:関心・意欲・態度 b:思考・判断・表現 c:技能 d:知識・理解 時 学習内容 学習活動 ねらい 評価の観点 a b c 〇 1∼2 3∼4 ・墨付け の基本 作業 ・小屋組につ いて墨付け 作業の順 序・方法を 学習する。 ・さしがねの 使い方を理 解し、正し く各心墨を しるすこと ができる。 〇 〇 5∼6 ・ほぞ孔 加工作 業 7∼8︵本時︶ ・大入れ あり掛 け加工 作業 9∼10 ・ほぞ付 け作業 ・ほぞ継のき ざみについ て、その順 序と方法を 学ぶ。 ・のみとげん のうの使い 方を理解 し、正しく ほぞ孔を加 工すること ができる。 〇 ・継手のきざ みについ て、その順 序と方法を 学ぶ。 ・さしがねと のこぎりの 使い方を理 解し、正し く大入れあ り掛けを加 工すること ができる。 〇 ・ほぞ継のき ざみについ て、その順 序と方法を 学ぶ。 ・さしがねと のこぎりの 使い方を理 解し、正し くほぞ継を 加工するこ とができ る。 ○ 〇 〇 d 評価規準 評価方法 ・さしがねの使用 方法について理 解しようとして いる。 ・構造部材の用途 を理解した墨付 けができてい る。 ・観察 ・課題作品 ・木材の特性を把 握し、作業に適 した加工道具を 正しく選択でき ている。 ・加工作業時の留 意点を理解し、 与えられた条件 で正確に木材加 工作業ができて いる。 ・観察 ・課題作品 ・加工道具を選択 できている。 ・加工作業時の留 意点を理解し、 与えられた条件 で正確に木材加 工作業ができて いる。 ・観察 ・課題作品 ・加工道具を選択 できている。 ・加工作業時の留 意点を理解し、 与えられた条件 で正確に木材加 工作業ができて いる。 ・観察 ・課題作品 11∼12 ・加工の 仕上げ と検査 ・建方にあた って各部材 が無理なく 組み立てら れるよう、 仕口・継手 についてそ の適否を学 ぶ。 ・建方をする ことで仕 口・継手の 加工につい て適否を確 かめ、木構 造を理解す ることがで きる。 〇 〇 ・正しい姿勢で安 全に精度の高い 木材加工ができ ている。 ・加工検査により 各部材の組立て が安全かつ適切 に行えているか 理解している。 ・観察 ・課題作品 ・提出物 (9)【D】取組事例(公開研究授業) ①実施日:平成26年10月7日(火) 授業担当者:黒須智紀 教諭 ②授業クラス:建設科1年1組 12名 ③本時のねらい:小屋組の基本的な加工である大入れあり掛けの加工作業を学ぶ。構造部材の木理を意 識させ、適正な加工道具の作業方法を理解する。 ④本時の指導内容: 授業展開 導 入 (5分) 展 開 (70分) 片付け (10分) まとめ (15分) 学習活動 指導上の留意点 評価場面及び手立て ・前回内容(ほぞ孔加工) ・安全に作業をするため正しい姿 の確認する。 勢での作業を指示する。 木材加工の作業内容を振 り返る。 ・大入れあり掛け男木の加工 作業の概要について説明す る。 ・ほぞ先端の切り落としを 行う。 ・あり墨をしるす。 ・仕上げを行う。 ・大入れあり掛け女木の加工 作業の概要について説明す る。 ・大入れ加工を行う。 ・あり首墨をしるす。 ・仕上げを行う。 ・基本的な加工作業を実演し、加 工道具についても説明する。 ・加工墨付に沿った加工を理解さ せる。 ・切り落とした木口とありほぞ下 端にあり墨をしるす。 ・上端から加工することを指示す る。 ・基本的な加工作業を実演し、加 工道具についても説明する。 ・広のみを使用し欠取りすること を指示する。 ・あり首墨を胴付き面にしるす。 ・あり底はのみを使用して仕上げ ることを指示する。 【思考・判断・表現】 ・適切な加工道具の選択が できる。(活動観察) 【技能】 ・加工作業時の留意点を理 解している。(作業手 順) 【技能】 ・正しい姿勢で安全に木材 加工作業ができている。 (作業手順) 【思考・判断・表現】 ・木材の体裁を理解して墨 付けができている。(活 動観察) ・使用した作業場・工具の 清掃を行う。 ・加工道具を先に片付けさせるこ とにより、安全に心がけさせ、 加工材料・加工場所の清掃を行 わせる。 【技能】 ・加工道具の取扱い留意点 を理解している。(活動 観察) ・ほぞ孔加工との違いを確認 ・複数の加工道具を使う加工方法 する。 で注意する点の確認を行い、作 業報告書作成の指示をする。 授業の様子 プロジェクターで指導用映像を映し、要点を確認 指導用映像 作業姿勢や加工方法を確認するための映像 評価規準及びAの具体例と、Cと評価した生徒への指導の手立て Cと評価した生徒への指導の手立て 「十分満足できると判断される状況(A)」と判断される具体的な例 木材加工を施す箇所 加工種類を理解し、適切な加工道具を選択し加工できる。 加工道具を選択できて 木材加工を施す箇所及び加工種類を理解し、適切な加工道具を選択し加工できる。 「努力を要すると判断される状況(C)」と判断した生徒への手立て いる。 【思考・判断・表現】 完成品を見て 見て木材加工を施す箇所や加工種類を確認しながら、繰 木材加工を施す箇所や加工種類を確認しながら、繰り返し丁寧に説明 し、理解を深めさせる。 加工作業時の留意点を 理解し、与えられた条 件で正確に木材加工作 業ができている。 【技 能】 「十分満足できると判断される状況(A)」と判断される具体的な例 木材加工具を的確に使用でき、精度の高い木材加工ができる。 木材加工具を的確に使用でき、精度の高い木材加工ができる。 「努力を要すると判断される状況(C)」と判断した生徒への手立て 加工作業時の姿勢を確認しながら、時間をかけてゆっくりと木材加工を行わせる。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 (1)公開授業に対する生徒アンケート集計結果 (回収数12/12 回収率100% ) ① 今日の授業のねらい(何を勉強するか)が分かりましたか。 A よく分かった(7) B だいたい分かった(5) C あまり分からなかった(0) ② 生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する機会がある授業だと思いましたか。 A そう思う(6) B だいたいそう思う(4) C あまりそう思わない(2) ③ 今日の授業の「内容」が理解できましたか。 A よく理解できた(7) B だいたい理解できた(5) C あまり理解できなかった(0) (2)公開授業に対する教員アンケート集計結果 (回収率6/8 回収率75%) ① 本時の目標(ねらい)は明確でしたか。 A 明確だった(6) ・映像(静止画、動画)を活用し、理解すべき加工物の構造や加工手順が ・映像(静止画、動画)を活用し、理解すべき加工物の構造や加工手順が分かりやすく伝えられて いた。 ・動画を使う事で、生徒の興味を引き、作業手順を理解するのにもとても役に立った ・動画を使う事で、生徒の興味を引き、作業手順を理解するのにもとても役に立った。 ・本時で学ぶことをよく確認した上で作業に取り組んでいたので、目指すねらいが明確になってい た。 ・作業ごとに説明がされ、とても ・作業ごとに説明がされ、とても分かりやすかった。 ② 学校の課題を踏まえた校内授業研究テーマに基づく授業づくりが行われていましたか。 A 行われていた(1) ) B だいたい行われていた(5) ・研究テーマである評価と分析について、生徒の作業を動画記録して、本人に見せて振り返るなど 研究テーマである評価と分析について、生徒の作業を動画記録して、本人に見せて振り返るなど 高い効果の期待できる工夫された取組があった 高い効果の期待できる工夫された取組があった。 ・生徒は自ら考えて行動できるので、説明や指示は ・生徒は自ら考えて行動できるので、説明や指示は分かりやすく短くてよかった 短くてよかった。 ・TT教員が同じ観点で円滑に評価するための評価基準表を導入する等、組織的な授業改善を念頭 とした授業づくりがなされていると感じた。 ・学校の課題を踏まえた校内授業研究テーマがあまり明確に示されていなかった。 ③ 生徒は積極的に参加していましたか。(取り組んでいたか) A 積極的に取り組んでいた(6) ・私語もなく、熱心に取り組んでいた。分からない所は先生に聞いたり、お互いに教え合ったりし ていた。 ・多くの生徒が興味・関心を高めて作業に取り組んでいるように見受けられた。生徒同士で互いに 指導し合う様子も見受けられた。 ・作業から清掃まで、大変良い姿勢で取り組んでいた。 ・教員の指示が生徒に確実に伝わっていたので驚いた。積極的かつ一生懸命な姿がとても良かった。 ④ 研究協議会において、授業実践の評価と分析が行われ、改善につなげようとしていましたか。 A つなげようとしていた(5) B だいたいつなげようとしていた(1) ・時系列に付せんを見ながら協議を行ったので、ポイントの整理ができた。 ・授業を参観して気付いた意見を、授業時間の経過に沿って整理し共有する手法をとったが、展開 場面ごとに評価や分析の内容を共有しやすく、改善点を見出す上で大変効果的だった。 ・良いところ、改善すべきところについて積極的に話し合いが行われ、今後に生かせると思う。 ⑤ 本日の公開授業(協議を含む)に参加して、組織的な授業改善に向けたヒントが得られましたか。 A 得られた(6) ・組織として「動画をどのような授業のどの場面で使ったら効果的か」を話し合い、データの共有 により均一的な指導につながるのではないかという期待ができる授業でした。 ・実習授業の作業手順の説明において動画を活用することが大変効果的であることを、実践を通し て確認することができた。研究協議での意見交換により、組織的な活用へ向けたヒントも発見で きた。 ・実習におけるICTの活用について、大変多くのヒントが得られた。 (3)研究協議 ・映像による作業姿勢や作業手順の確認は生徒にとって分かりやすいとともに、指導担当者の技量 による偏りも少なくなる。 ・映像を使うことで、作業中の机間指導が行いやすく、評価もしやすい。 ・細かい作業などは映像では分かりにくく、指導担当者の実演も交えるとなお良い。 ・評価基準表を用いることで指導担当者による偏りも少なくなるが、項目が多いため評価をするの に時間がかかる。 ・授業ごとに生徒の作業姿勢等を評価することで次の指導につながる。 ・単元の学習到達状況を評価する(⇒ルーブリック)評価表を作成し、作業中の机間指導時に直接 評価をする(⇒パフォーマンス評価)ための評価基準を明確にすることで、複数の指導担当者が いても共通項目による評価となり、次の指導へ向けた振り返りができるため、「指導と評価の一 体化」につながった。 協議に使用した概念化シート (上段は教員、下段は生徒でそれぞれ破線上が良かった点、破線下が課題等を記した付せんを貼ったもの) 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果と課題 指導と評価の一体化を目ざした工業科指導の在り方について研究を行った。 まずは指導方法であるが、指導者側の経験値による指導の偏りが生じないために作業姿勢、加工方 法を作業工程ごとに映像で確認させることとした。 評価においては単元の学習到達状況を評価する独自の評価基準表を作成し、作業中の机間指導時に 直接評価をしていくことで評価基準の明確化を図ることとした。しかしながら評価基準の項目が細か く多いことにより、評価に時間がかかるため指導との両立が困難な場合もあるといった課題があり、 評価基準表の見直しを含めた改善をする必要があると考える。 指導と評価の一体化を目ざした指導について検討を重ねていくことで単元における「ねらい」がよ り明確となり、評価をする上でも偏りのないものとなることが期待できているものと考える。また評 価基準表の導入により指導者側が次の指導につながりをもてることから、作業に不安を抱く生徒への 指導もより的確となったと感じている。 今回の研究において「指導と評価の一体化」となる道筋ができたため、今後も課題を克服しながら より良い一体化の工業科指導ができるよう研究を続けていきたい。 (2)改善に向けた方策 研究授業には同科の職員が多く参観し、さらに研究協議等の内容を科に報告した上で教科担当者等 で改善に向けた方策を検討した。特にすぐに改善できる点に重きを置き、さらには次年度につながる 改善点についても検討し、研究授業後から取り入れて展開をしている。 ・作業の前後で生徒の意見等をきちんと聞く時間を設けた。 ・授業の導入やまとめで加工の出来具合をグループで発表させることとした。 ・授業の導入時に「授業のねらい」をより明確となるよう教科書で確認をすることとした。 ・次年度を意識した職員研修(OJT)を実施することとした。 7.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立川崎工科高等学校(全日制) (2)学校の課題:基礎学力の定着 (3)実施校における研究テーマ:「生徒主体の授業づくりと指導と評価の一体化」 (4)科目:電気基礎 学年:総合技術科 電気テクノロジーコース 3年 (5)単元名:「消費電力と発生熱量」 (6)単元のねらい:電流や熱量、また電力と電力量について理解させ、計算方法を身に付けさせる。身近な 社会の中で電気がどのように扱われているか実感をもたせ、身近な存在としての電気をより理解させる。 (7)単元で身に付けさせたい力:電気理論の法則など机上における回路計算は理解してきているが、家庭な どの身近なところで利用されている電気について学ぶことにより、実際に活用する能力と態度を育てる。 (8)単元の指導と評価の計画 【関】:関心・意欲・態度 【思】:思考・判断・表現 【技】:技能 【知】:知識・理解 時 間 学習内容 1 電力と 2 電力量 ねらい 関 思 電流や電圧から電力 3 電気使用量 知 評価規準・評価方法等 【技】公式を活用し様々な計算処理ができる。 や電力量の計算能力 ○ ○ 【知】電力や電力量について理解している。 を身につける。 電力量について、身 家庭の 技 【関】各家庭での電気使用量の求め方に興味を 近な存在としての家 庭の電気使用量を題 示し、探究しようとしている。 ○ ○ 【思】「電気ご使用量のお知らせ」から読み取 材に電気を身近に感 れる情報を調べ、グループワークで話し合い じさせる。 まとめることができる。 グループ発表によ 本 家庭の り、他班の説明も含 時 電気使用量 め電気使用量積算の 【思】電気使用量について調べた事柄を考察 ○ ○ 概念を理解する。 5 電流の 発熱作用 熱電気現象 熱エネルギーと電力 【技】公式を使って様々な計算処理ができる。 の法則を理解し計算 ○ ○ 【知】熱エネルギーと電力の関係を理解してい 能力も身につける。 かの効果を学び、そ 【知】グループ発表で得た情報も含め電気使用 量の算出の内訳やその根拠を理解している。 る。 熱電気現象のいくつ 6 し、発表できる。 【関】熱と電気を変換する現象に関心を持って ○ の関係を理解する。 ○ 知ろうとしている。 【知】熱電気現象について理解している。 (9)【D】取組事例(公開研究授業) ①実施日:平成26年11月19日(水) 授業担当者:佐藤基泰 総括教諭 ②授業クラス:総合技術科 電気テクノロジーコース 3年 31名 ③本時のねらい:電気を身近に実感できるように「電気ご使用量のお知らせ」を使い、そこで使用される語 句について発表を行い、電気料金の計算方法について学習する。前回までの授業で、グループワークによ る調べ学習、ワークシートへのまとめ、さらにプレゼンテーションソフトによる発表資料の作成を通して、 言語活動の充実を図ると同時にICTの効果的な活用を意識した授業展開を目ざした。 ④本時の指導内容 時間 学習内容・学習計画 指導と留意点 評価場面及び手立て 導入 3分 ・本時のねらいを知る。 ・前回学習した内容を振り返る。 ・「電気ご使用量のお知らせ」を 提示→スクリーン ・前回作成したワークシートの 内容を確認させ、今日の発表 のイメージを作らせる。 ・班ごとに机を移動させる。 展開1 25分 ・前回グループワークで作成した ワークシートを基に班ごとに発 表させる。(6班分) ・他班の発表を聞き、ワークシー ト2にまとめ、語句や用語につ いて理解を深める。 ・各発表内容を整理し、使用料金 積算の根拠を理解する。 ・発表の段取りを話し合わせ、 スムーズに発表できるように 準備させる。 ・各発表のポイントを板書させ まとめやすくする。 ・発表する側、聞く側の態度に 注意し、速やかに進行させ る。 【思】自分たちの考えを整 理し相手に伝わるように説 明している。 他者の発表を聞き、自分の 考え方を深めている。 (活動観察) 展開2 17分 ・例をあげて使用料金の計算方法 を計算シートで説明する。 →表計算シート ・電気料金の計算シートを使い、 実際に計算させる。 ・計算シートを活用し、例を挙 げて計算方法を理解させる。 ・計算が思うようにできない生 徒には班の中で教え合えるよ うに指示する。 【知】使用料金の計算方法 を聞き、理解している。 (活動観察、作業手順) まとめ 5分 ・再度「電気ご使用量のお知ら せ」を提示し、使用料金の構造 を説明し、使用料金算出の成り 立ちも理解させる。→ディスプ レイ ・電気使用料金の全体像をイメ ージさせる。 ・自分の考え・意見をワークシ ートに書かせる。 【思】電気使用料の全体像 を捉えている。 (活動観察) 8.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 (1)公開授業に対する生徒アンケート集計結果 (回収数29/29 回収率100% ) ① 今日の授業のねらい(何を勉強するか)が分かりましたか。 A よく分かった(16) B だいたい分かった(13) C あまり分からなかった(0) ② 生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する機会がある授業だと思いましたか。 A そう思う(22) B だいたいそう思う(7) C あまりそう思わない(0) ③ 今日の授業の「内容」が理解できましたか。 A よく理解できた(17) B だいたい理解できた(9) C あまり理解できなかった(3) ④ グループワークによる授業にする意味があると思いますか。 A そう思う(18) B だいたいそう思う(11) C あまりそう思わない(0) ⑤ プロジェクターなどを使った授業は分かりやすいですか。 A そう思う(17) B だいたいそう思う(9) C あまりそう思わない(3) (2)ワークシートの生徒コメント(要約) ・分からない事を自力で理解するまではまだできますが、それを他の人へ理解してくれるように説明す るのはとても難しいと思った。 ・質問されたことをしっかり答えられなかったのでもっと調べて返答できるようにしたいと思いました。 ・いつも座学なので、調べ学習があると違った目線から電気について学習することができました。 ・班で協力し、調べる時から分担したので、発表もしっかりできてよかった。 ・グループで初めて積極的に参加し皆の前で発表してよい機会だった。 ・パワーポイントで発表すると見やすくて紙の時より分かりやすく良かったです。 ・パワーポイントの資料の字をもっと大きくするなどの加工がおろそかになってしまった。 PC操作係 役割分担 板書係 発表係(3人) 発表の様子 (3)公開授業に対する教員アンケート集計結果 (回収率7/7 回収率100%) ① 本時の目標(ねらい)は明確でしたか。 A 明確だった。(7) 本時で学ぶことを生徒によく伝え、目的を明確にした上で授業を進めていた。 身近なテ−マ(課題)から電気使用量等について理解を深め授業内容のポイントが明確にされていた。 ② 学校の課題を踏まえた校内授業研究テーマに基づく授業づくりが行われていましたか。 A 行われていた。(3) B だいたい行われていた。(4) 学校の課題を踏まえた校内授業研究テーマということについては、あまり明確に示されていなかった かもしれないが、ワークシートの記述を基に次の指導に生かす授業づくりが なされていると感じた。 基礎学力の定着について、計算練習ができるワークシートが工夫されていて効果が見られた。 生徒達が発表する形をとることで、難しい内容や表現しにくい内容を自分達でわかりやすく説明して いた。また視聴覚教材とプリントをうまく利用し、理解しにくい内容をポイントとして進めている。 ③ 生徒は積極的に参加していましたか。(取り組んでいましたか。) A 取り組んでいた。(7) ICTが効果的に活用され生徒の関心をよく引き出せており、 生徒は主体的に授業に参加していた。 生徒同士で互いに指導し合う様子も見受けられた。 グループワークでは他人まかせにせず、一人ひとり役割があり、生徒は熱心に取り組めていた。 班の発表時にも、ふざけることなく、聴く姿勢ができていた。また、非常に 班の発表時にも、ふざけることなく、聴く姿勢ができていた。また、非常によくノ−トや課題に取り 組み、自分の考え(意見)をきちんと表現できている。 ④ 研究協議において、授業実践の評価と分析が行われ、改善につなげようとしていましたか。 A 改善につなげようとしていた。( ようとしていた。(7) 授業を参観して気付いた意見を、教員・生徒の成果(良かった点)と課題・改善点に分けたチャート に付せんを貼る手法をとり共有することによって、より良い授業を展開できるように協議がされた。 を貼る手法をとり共有することによって、より良い授業を展開できるように協議がされた。 生徒を集中させ効果を上げるための工夫として、グループワークやICTをいかに活用するか、参加 者全体で分析できたと思う。 ⑤ 本日の公開授業(協議を含む)に参加して、組織的な授業改善に向けたヒントが得られましたか。 A 得られた(7) 生徒主体の学習活動を通して、分かりやすく伝えることは難しかったという声が生 生徒主体の学習活動を通して、 やすく伝えることは難しかったという声が生徒から挙げられ、 実践的な気付きを促す効果を確認することができた。 を促す効果を確認することができた。 グループワークやICT活用など生徒を主体的に参加させるためのアイデアが多く得られた。 身に付けさせたい内容をきちんと明確にして指導(授業)を行うことで、生徒も重要なポイントを理 させたい内容をきちんと明確にして指導(授業)を行うことで、生徒も重要なポイントを理 解しやすく、興味を引くことができると感じた。 (4)研究協議(K−J法を用いた研究協議) K−J法を用いた研究協議) ①授業見学者が授業中に気付いたことについて、 成果(良かった点)はピンク色、課題や改善 点は黄色の付せんに簡潔に記入する。 に簡潔に記入する。 ②4象限に区切られた概念化シートの横軸に教 4象限に区切られた概念化シートの横軸に教 師と生徒、縦軸に成果と課題・改善点を配置 し、当てはまる部分に付せん せんを貼りつける。 この時、同じ内容のものはまとめて貼りつけ る。 ③付せんの内容についてK− −J法を用いて、グ ループ協議する。ファシリテーター役( ループ協議する。ファシリテーター役(発言 者が偏らないよう、順調に進行するように口 添えする)が参加者の意見を引き出し授業の が参加者の意見を引き出し授業の 協議に使用した付せんを を貼った概念化シート 成果や課題の改善方法などについて話し合う。 ワークシートと計算シート ④概念化シートの主なコメント (5)評価と分析 ① 生徒のアンケートやコメントから見る評価と分析 生徒が自ら調べたことを論理的に組み立て発表することで、問題発見力や論理的思考力を育むこと ができた。また、教員主導型の授業に比べ生徒主体の授業展開では積極性や意欲の向上が見られた。 生徒自身が学ぶだけでなく、それを他の生徒が理解できるように教えることの難しさを知り、日頃の 自分の学習状況を見つめ直すきっかけとなった。グループ内でコミュニケーションをとり、グループ が効果的に作業を進められ、生徒個人がより良く役割を果たすように力を付けることができた。 ② 授業見学者のアンケートと事後協議から見る評価と分析 ICTを教材提示に利用するだけでなく、生徒が活用し関心を引き出し効果的な授業が展開でき た。 ICT機器と板書を併用し、その利点を生かし効果的に教材提示ができた。 グループワークによる発表では役割分担があり、一人ひとりが責任を持って熱心に取り組んでいた。 計算シートを記入させることで、計算方法のつまずきを見つけやすくし、その後の指導に生かせた。 題材として家庭の電気使用量を扱うことで、身近な存在としての電気を実感させ、関心と興味を引き 出している。 9.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 生徒主体の授業展開の中で、生徒は自ら調べたことをまとめ、プレゼンテーションや板書を使い授 業を行った。これによる成果も多くあったが課題としては、教師が教えたい事と生徒が調べ伝えたこ とにずれが生じることである。生徒の板書では要点を簡単にまとめるはずが、字が小さくて見づらく、 要点もまとめきれていないところもあった。準備段階から教師が生徒の中に入り丁寧に指導し、発表 後に教師が補足説明をするなどの改善が考えられる。 ワークシートにまとめた発表用資料(レポート形式)が良くできていた。これは日頃の実習レポート 作成等の指導の成果だと考える。これに対して、プレゼンテーションソフトで作成した発表用資料は見 づらく不評であった。プレゼン資料作りに慣れていない事が原因だと考えられるが、調べ学習の時には パソコンによるインターネット検索や、自分のスマートフォンを活用してスムーズに作業を進めていた ことと比べると、ICT機器の扱いの慣れに差があるようである。ICT利活用の有用性を考えてもI CT利用のリテラシー能力を高めることも必要である。 研究授業の評価と分析に生徒のアンケートとワークシートのコメントを重視し活用した。授業中の生 徒の質問や何気ないつぶやきにより教師が気付かされることもある。また、授業中に発言できない生徒 や文章にして書くことで考えがまとまる生徒もいる。これらの生徒の意見は次の授業改善に有効である。 商 業 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「様々な分析方法を活用した購買意欲が向上する Web ページの作成」∼新科目「電子商取引」∼ 商業科では、新学習指導要領の実施を受けて、新科目「電子商取引」における実践的な授業展開をテーマ に研究を行った。これらの研究を通じ、生徒自ら課題を見つけ、解決しようとする力を育成し、より積極的・ 主体的に参加できる実践的な授業展開を工夫するとともに、 「観点別評価」 、 「キャリア教育」 、 「思考力・判断 力・表現力」 、さらに「組織的な授業改善の推進」の視点を取り入れた指導案の検討を行ってきた。 より実践的な「電子商取引」を行うために、地域企業や地域社会の教育力を活用した授業改善の実践例を示 すこととした。 (2)研究のねらい 総合ビジネス科に学科が改編され、教育活動を進めるなかで各校の課題を検証したところ、平成 25 年度よ り実施の新学習指導要領における教科「商業」の科目「電子商取引」は、現段階での実施校が少なく、内容も ポイントの洗い出しが困難であることがわかった。そこで今回は、 「電子商取引」の実践例を示すとともに、 地域社会や企業などの教育力を活用したより実践的な科目として内容を精査した。 実践例を示し、それに対する必要な知識・技術を生徒自身に考えさせるとともに様々な分析方法を活用し、 より主体的・実践的な力を身につけるような授業展開・改善をねらいとした。 2.研究で取り組んできた内容 (1)各校の課題の把握と課題解決のための情報交換 各研究推進委員が勤務校の状況について、情報交換を行った。 ア 課題 「電子商取引」は、Web ページの作成・画像処理の作成にとどまってしまいがちであるが、より実践的に 学ぶ機会を設け、応用力を身に付けさせることが課題である。 イ 現状 実践的な活動の場として、チャレンジショップ、産業教育フェア、地域行事、企業連携等、様々な特色 ある取組を実施している。しかしながら、電子商取引を活用している事例がない。 ウ 今後の取組 特色ある活動には従来からどの学校も取り組んでいるが、すべての生徒達が活用する力、応用する力を 身に付けるために、教育課程の中で組織的、体系的な取組を充実させることが必要である。 (2)各校の課題を踏まえた研究テーマ及び科目の設定 ア 研究テーマの設定 情報交換をもとに、様々な分析方法や社会教育力を活用して実践的・主体的な活動を取り入れた「電子 商取引」として取組むこととした。 イ 科目の設定 研究テーマとねらいにもある通り、 「電子商取引」について取組むこととした。 (3)単元の設定、単元の指導計画及び学習指導案の検討 ア 単元の設定 「 (3)Web デザインと広告・広報 (ウ)Web ページ制作の基礎」を単元として設定した。 (単元を設定した理由) 単に Web ページの作成を学習するだけでなく、より実践的に「購買意欲が向上する Web ページ」の作成 を目標に単元を設定した。科目「マーケティング」と連携を図り、顧客のターゲティング・分析を行い、 分析結果に則した Web ページを作成する。1年次の科目「ビジネス基礎」マーケティング分野や、2年次 に並行して学習している「マーケティング」の学習がどのように実践で活用されるのかといった関連付け がしやすく、より実践的な内容となる。これらをコンテンツの作成・広報・販売方法等に活かすなど、科 目間の連携が図りやすいなどの利点がある。 イ 単元の指導計画及び学習指導案 Web ページの表現方法について考察し、購買意欲の向上が図れる Web ページ作成に努める。 ・商品分析(考察) 販売する商品の特徴について、様々な方法で考察し、ターゲティングを行う。 ・ターゲティングを考慮した Web ページ作成 商品分析を踏まえ、ターゲットに沿った Web ページの作成を行う。 3. 【R】研究の目標を達成するための手立て 公開研究授業を効果的に進めるために、以下のツールを用意した。 (1)フリーソフトの活用 フリーソフトを活用した商品分析により、視覚的に捉えることで効果的な発想を促した。 (2)ワークシート・様々な分析方法の活用 ワークシートを用意し、商品の分析、ターゲティングを行わせた。 FABE 分析 USP 分析 4. 【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立商工高等学校 (2)商業高校の課題:社会で活躍できる人材を育てるためにも、知識伝達型の講義だけでなく、実践的・体験的 に学ぶ機会を増やすことで、 課題解決力や応用力を身に付けさせたい。 教育課程のなかで、 組織的・体系的な取組を充実させることが必要である。 (3)実施校における研究テーマ:様々な分析方法を活用した購買意欲が向上する Web ページの作成 ∼新科目「電子商取引」∼ (4)実施科目:電子商取引 (5)実施学年:2年 (6)単元名: (3)Web デザインと広告・広報 (ウ)Web ページ制作の基礎 (7)単元のねらい:HP の表現方法について考察し、ターゲティングと購買意欲の向上が図れる実践的な Web 表 現方法を理解させる。 (8)単元で身に付けさせたい力:商品を的確に分析し、購買意欲の向上を目的とした Web ページを制作すること ができる。 (9)単元指導と評価の計画 時 間 ねらい(◇) ・学習内容(◆) 関 思 技 知 ◇商品を分析する。 1 2 3 4 本 時 (5) 6 7 8 ◆同種商品の特徴を考える ◆販売商品の特徴をみつける ◆ターゲティング(FABE 分析) ◆ターゲットに対する商品表現 ○ ○ ○ ○ ◇商品分析を踏まえ Web ページを的 確に表現する。 ◆商品ページの作成 ◆Web ページの構成・設計図 ◆コンテンツ制作 ◆ターゲットに沿った Web ページの 表現 ○ ⃝ ○ ○ ⃝ ○ ◇ Web ページをより効果的にする。 9 10 11 ⃝ ◆ Web ページの発表と評価 ◆Web ページの改善 ⃝ ⃝ 評価規準 <関心・意欲・態度> 商品の特徴についてグループ内で積極的に発言を 行うなど、討論できる。 <思考・判断・表現> 商品について的確に特徴をつかみ表現できる。 <知識・理解> FABE 分析、USP 分析を理解している。 <関心・意欲・態度> Web ページ制作について、積極的に携わることが できる。 <思考・判断・表現> Web ページ作成について的確に判断・表現できる。 <技能> Web ページを作成する技術を身に付けている。 <関心・意欲・態度> 他からの意見をもとに、Web ページの改善に向け て、積極的に制作に携わることができる。 <思考・判断・表現> Web ページの内容を表現し、発表できる。また、 他の発表を違う側面から捉え、的確な評価ができ る。 意見をもとに Web ページをより効果的に表現する ことができる。 (10) 【D】取組事例 ①実施日:平成 26 年 11 月 13 日(木) 授業担当者:本田 達也 教諭 ②授業クラス:総合ビジネス科2年1組 11 名 ③本時の目標:ターゲットと、商品価値を考慮した構図を作成する。 ④本時の展開 展開 (時間) 学習活動 指導上の留意点 導入 (5分) ・商品特徴とメッセー ジングの確認 ・商品の特徴、メッセージングについ て確認させる。 ・Web ページの構図の 作成 ・各自の資料をもとに、積極的な話し 【関心・意欲・態度】 合いが行われるよう働きかける。 ・机間指導をしながら討論ができ ・他者の意見や既存の Web ページを参 ているか確認する。 考にし、新たな気付きや発見を書き 【思考・判断・表現】 留めておくことを伝える。 ・他者の意見を参考にしながら自 ・構図について、5つの評価項目を満 らの考えをまとめている。 たせるように行われているか、商品 ・Web デザイン評価表を活用し、 の特徴や内容が伝わるか留意する。 ページの構図ができている。 ・進捗状況の確認 ・次回の確認 ・構図をもとに、Web ページのデザイ ンを設計していくことに留意する。 展開 (40 分) まとめ (5分) 評価規準・評価方法等 ⑤本時の評価 評価 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 十分満足できる(A) Web ページ作成に対して自らの考 えを発言出来る。また、他者に対 して助言ができる。 Web ページに対して自らの考えを的確に判断 し、まとめることができる。また、他者の考え に対しても的確に判断し、助言ができる。 おおむね満足できる(B) Web ページ作成に対して自ら考え られる。 Web ページに対して自らの考えをまとめること ができる。 努力を要する(C) Web ページに対して自らの考えをまとめること ができない。 Web ページ作成に対して取り組み が不十分である。 ※本時の C と評価した生徒への手立ての例 評価 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 「努力を要すると判断さ れる状況(C) 」と評価し た生徒への手立ての例 対象生徒へ発問等を積極的に行 い、考えを引き出す。 発問を交えながら出来る限りわかりやすく丁 寧に説明し、身近な題材を取り上げるなど、生 徒が考えやすいよう工夫する。 授業の様子 【メッセージングの確認】 【グループごとの協議】 【協議を踏まえ Web ページを作成】 【ページデザインの編集】 【取引予定のチョコレート】 【取引予定の紅茶】 5. 【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 (1)授業実践の評価・分析 評価項目については以下の通り行った。 優先度 評価項目 色 文章 何の要素によってクリアしているか フォント レイアウト 写真 イラスト ロゴ その企業・ブランドらしさがあるか 1 「らしさ」があるか カテゴリーらしさがあるか 2 コンセプト・メッセージは伝わっているか 3 印象に残るか 4 アイデンティティはあるか(自分が自信あること・よりどころ) 5 情報の順位付けはできているか 使いやすい・わかりやすい UIになっているか ユーザビリティ(使い勝手・使いやす さ)に配慮しているか 各項目、要素を2つ選択したものを構図に取り入れる。評価は各項目で行う。 これらの項目を満たすためにFABE分析・USP分析、また生徒のイメージを豊かにするための資料を活 用した。実際に販売を行うことを目標にしているため、生徒が主体性を持って取組んでいたが、その資料が複 雑であったため、逆に生徒を困惑させてしまった。また、販売ページに生徒たちが先入観を持っており、商品 のイメージなどの表現、商品や販売のイメージが湧かなかった。 6. 【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果 実際の地元企業に協力していただき、実際に販売することを目標としているため、より実践的な内容で、展 開することができた。また生徒も自ら思考・判断・表現する場面が多くあったため、より主体的に取り組んで いた。 《生徒アンケート結果》 回答数9 Q1.授業のねらい(何を勉強するか)がわかりましたか。 ○ よくわかった 5 ○ だいたいわかった 3 ○ あまりわからなかった 1 この結果から、多くの生徒が単元及び本時における授業のねらいを理解し、学習に取り組むことができ たと考える。 Q2.生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する機会がある授業だと思いましたか。 ○ そう思う 7 ○ だいたいそう思う 2 ○ あまりそう思わない 0 この結果から、ほとんどの生徒がグループワークや発表の機会を与えられていると感じている。協力し て物事を進めていくことの重要性や、思考力・表現力の育成につながった。生徒が主体的に作業に取り組 める要因にもなった。 Q3.研究授業時の内容が理解できましたか。 ○ よく理解できた 4 ○ だいたい理解できた 5 ○ あまり理解できなかった 0 この結果から、半数の生徒がよく理解できたと回答した。しかし、評価表等の活用が難しく、ページ作 成にかなり苦労しているように見受けられた。 (2)課題 公開研究授業では、参観者から次の評価と提案を頂いた。 ①評価 ・ネットショップで実際に販売するという目標があるので、生徒は主体的に行っていた。 ・構図の段階で必要な物を検討しているので生徒はイメージし易い。 ・評価表の使い方を生徒がイメージできておらず、表現がされていなかった。 ・生徒が商品販売ページのイメージを持っていないまま進められていたのではないか。 ②提案 ・他者の評価を有効に活用することを考え、生徒間での話をする場面を設け、グループでの作業を行って みてはどうか。 ・文化祭の会計システムや商業高校としての文化祭の問題提起につなげてほしい。 ・ページの階層化など他のページを参考にする機会を設けたほうが良いのではないか。 授業で実践的な取組が少数であるため、商業全体での取組に広げていくことが課題である。 (3)まとめ 今回の取組は、事例のない中で試行錯誤を繰り返し、構築に至ったが、今後も様々な工夫が必要であると 感じた。今回の評価・提案を受け、実際に販売実績の高い商店や商品の Web ページを参考にしながら作業を 行った結果、生徒の構図に明らかな変化があった。 参考前 参考後 これは授業担当者一人が導き出した結果ではなく、多くの教員の助言により授業の効果が向上したもので ある。この結果から、授業にあたり一人の教員が自身の主観で構築するのではなく、様々な視点を取り入れ て構築されたものの方がより良い結果を導き出せる。そのためには、教員同士が意見を交換できる場面・時 間を確保する必要がある。また、互いの授業を見学し、研究していくことで授業改善を組織的に行うととも に、自校のみでなく他校、そして他都道府県との意見交換・情報交換等を積極的に行っていくことで、より 良い授業へのヒントが得られるのではないか。 今回、実践的な内容で「電子商取引」を構築したところ、生徒が主体的に取り組んでいた。生徒自身の引 き出しは小さく、限られた中での展開であったが、今回の取組にあたり、他の科目と連携・協力を図りなが ら少しずつ生徒の引き出しが広がりを見せてきたように思える。専門教科としてのスペシャリストを育てる ために、多くの科目間で協力し合いながら、生徒の活用力・応用力・実践力の向上を図るべきであると実感 した。そのためにも、個になりがちな教員が連携・協力し、様々な視点から授業を構築・再考する必要があ るのではないかと考える。 水 産 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 水産科で原則としてすべての生徒に履修させる科目「水産海洋基礎」における観点別評価について課題の把 握とその解決法。 (2)研究のねらい 本校は単位制の専門高校であり、2年次以降から各系列の専門科目を選択し、学習する。その基礎となる共 通科目として、1年次に「水産海洋基礎」を全員に履修させ、水産や海洋に係る基礎的な学習を行っているが、 クラスごとに異なる教員が授業を担当している。共通のICT教材と自主作成教材(ワークシート)によって、年 間指導計画に基づき担当者ごとに同様の指導を行っているが、評価の細部については担当者間で共通認識を持 つのが難しい状況にある。 そこで、担当者(評価者)間で各観点の評価方法にバラつきがあるのか実態を把握するとともに検証を行う。 2. 研究で取り組んできた内容 昨年度の研究成果として、同一教材を使うことで異なる担当者が授業を行ってもおおむね同じ内容ができ、ワー クシートの評価についても同様の評価ができるようになった。しかし、同一の評価規準を用いても評価者の解釈の 仕方や主観が大きく影響することもあるという課題も見出された。指導と評価の一体化を目ざすにあたり、担当者 間の共通理解を深めるための打合せも行ってきたが、打合せの回数や時間がいたずらに増えることは担当者の負担 にもなり、どこまで共通理解を深めるべきかを明確にする必要がある。そこで、評価者によって評価のバラつきが どの程度出るのか、実態の把握に取り組んだ。 3.【R】研究テーマ達成のための手立て (1)複数の教員による評価 評価の実態を把握する為、同一授業における複数の評価者の評価を集計し、どの程度評価の値にバラつき が出るのか試行した。 (2)評価の観点の選定 本年度は4観点のうち、最も評価に差が出る(担当者の主観が反映されやすい)と思われる観点として、 「関心・意欲・態度」を選び検討した。 (3)観点のうち比較可能な要素の検討 「関心・意欲・態度」の観点のうち、1回の授業で評価の比較が可能な「生徒の行動観察」のみに絞り、 各評価者による評価の実態把握を行った。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 実践事例 (1)研究実施校:神奈川県立海洋科学高等学校(全日制) (2)学校の課題: 海洋科学について総合的に学ぶ過程で、生徒自らの個性を自覚させ、幅広い進路に対応した専門教育の充 実を図り、特色ある専門教育のための学習内容の充実・発展が必要である。 (3)実施校における研究テーマ: 科目「水産海洋基礎」における評価者による評価のバラつきについて実態を把握、検証するとともに、今 後の指導計画に生かす。 (4)科目:水産海洋基礎 学年:1年 (5)単元名:水産・海洋生物の採集 (6)単元のねらい: 磯採集の仕方を通して、生物と生息環境との関係を復習するとともに、生物への関心を高める。また、研 究活動としての生物採集に必要なことを確認し、価値のある記録として残す手法を学習する。 (7)単元で身に付けさせたい力: 本時の学習活動が研究活動として行うことを意識させ、積極的に学習する姿勢を身に付けさせる。 (8)単元の指導と評価の計画 a.関心・意欲・態度 b.思考・判断・表現 c.技能 d.知識・理解 時 数 学習内容 学習活動 ねらい 評価規準 1︵2時間︶ 海の牧草「植物プ 食物連鎖における植物 海洋環境と生物の関わりにつ ランクトン」につ プランクトンの重要性 いて関心を持って授業に参加 いて を理解させる。 海と環境 し、質問に対し答えようとし a b c d 評価方法 ○ ており、理解する努力をして 行動観察 いる。 ワークシー 海と森の密接な関 陸水環境と海洋環境と 森・川・海の繋がりについて 係について のつながりについて理 基礎的な知識を身に付け、海 解させる。 評価の観点 ト ○ 洋環境と生物の関わりについ て理解している。 磯の環境について 磯採集の仕方を通して 磯の環境と観察する際の注意 、生物と生息環境との 点、生物の多様性について興 2 ︵2時間・本時︶ 関係を復習するととも 味を持って学習しようとして ○ に、生物への関心を高 いる。 める。 水産・海洋生物 の採集 行動観察 採集生物の記録の 研究活動としての生物 生物採集について関心を持ち 取り方、保存につ 採集に必要なことを確 、積極的に手法を学ぼうとし いて 認し、価値のある記録 ている。 ○ として残す手法を学習 する。 漁業の変遷 3 ︵2時間︶ 水産業の歴史と 現状 水産業の歴史と現状 水産業の成り立ちと現状を理 について、漁業の成 解し、これからの水産業や海 り立ちと現状を通し 洋関連産業について、積極的 て、これからの水産 に考えようとしている。 ○ 業や海洋関連産業に 行動観察 ついて考えようとし ワークシー ている。 ト 漁業生産の 沿岸域の生産性の高 動向について さや資源管理型漁業 の必要性、海面総合 管理に関わる基礎的 な事項について理解 させる。 日本と世界の漁業生産の変化 と社会的役割について基礎的 な知識を身に付け、漁業の重 要性を理解している。 ○ (9)【D】取組事例(公開研究授業) ①実施日:平成26年11月5日(水) 授業担当者:藤岡 高昌 教諭 ②授業クラス:海洋科学科1年3組 ③本時のねらい: 岩礁域の多様な環境が生物多様性に関して重要な役割を担っていることを理解させ、生物調査の方法と記録 の取り方の例を示し、意欲的に生物と環境について探究しようとする態度を育てる。 ④本時の指導内容 過程 導入 20分 学習内容 ・出欠確認及びワークシートの返却 ・前時の復習 ・磯採集の際の危険事項確認 展開 60分 ・主な危険生物について ・磯の環境について ・採集と観察の方法について ・採集生物の記録の取り方について ・生物の調査・保存について まと め 10分 ・本時のまとめ 指導上の留意点 ・プランクトンの重要性や多様な環境が 生物の多様性と関係していることを復 習させる。 ・海での活動において危険なことは何か 発問し、意見を出させる。 ・生物の写真を提示し、どんなところが 危険なのか発問しながら、確認させ る。 ・満潮線と干潮線の間が潮間帯であるこ とや、タイドプールに生物が取り残さ れることなど教科書を用いて確認させ る。 ・必要な道具や服装など、教科書を用い て確認させる。 ・記入事項等を発問しながら、確認させ る。 ・種の同定や検索方法について例を挙げ ながら確認させる。また、様々な用途 に合わせた保存方法を紹介する。 ・本時のまとめと、次回の予告をする。 評価規準及び評価方法 【関心・意欲・態度】 ・関心を持って授業に参加し、 質問に対し答えようとしてい る。 ・わからないことは質問し、理 解する努力をしている。 〈行動観察〉 ⑤本時の評価規準及び、判断の具体例 評価 十分満足できる (A) 【関心・意欲・態度】 授業に意欲的に参加し、質問に対し積極的に発言している。 疑問について積極的に質問し、理解を深めようとしている。 ※中でも特に程度の高いものはA○とする。 おおむね満足できる 関心を持って授業に参加し、質問に対し答えようとしている。 (B) 分からないことは質問し、理解する努力をしている。 努力を要する (C) 意欲的な取り組みが見られず、授業に参加していない。 教員が声かけを行い、参加を促しても改善が見られない。 ※中でも一層の努力を要するものはC− 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 授業は45分の2校時続きで構成され、評価者は2校時分の評価を総合的に行う必要がある。ただし、1,2校時連 続で評価に参加できる教員が少ないことから、1校時のみ(3名)、1,2校時連続(4名)、2校時のみ(4名) の合計11名での評価をそれぞれ集計した。また、1校時と2校時で授業展開を変え、その変化が評価にどう影響する かを調べるため、1校時目は写真や実物を使って積極的に発問を行い、2校時目は教科書中心の解説と発問を行った。 1校時は積極的に発言する生徒が多く、2校時はそれとは対照的になった。 また、評価のバラツキをより詳細に見るために、評価は「4.(9)⑤本時の評価規準及び、判断の具体例」のように、 A○、A、B、C、C−の5段階で行った。 表1 評価の数値化(例) ⋮ 図2 標準偏差ごとの生徒人数 図1 評価記録用紙 評価には図1の評価記録用紙を用い、得られた評価を数値化する為にA○=4、A=3、B=2、C=1、C−= 0とし、1校時のみ、1・2校時連続、2校時のみの評価者による評価について表1の例のように生徒ごとに標準偏 差を求めた。こうして、標準偏差が同じならば評価のバラつきの程度が同じとみなし、標準偏差が0∼0.4、0.4∼0.8、 0.8∼1.2、1.2∼1.6、1.6∼2の範囲にある生徒の人数を図2のグラフに示した。 この結果をみると、1校時のみ、2校時のみ、1・2校時通しの順にバラつきが大きい(標準偏差の数値が高い人 数が多い)。これは、1校時のみと2校時のみを評価した教員の数が違う(1校時3名、2校時4名)ので、その影 響かもしれないが、積極的に生徒が参加している授業の方が評価しやすい可能性も示唆された。1・2校時通しでは、 観察時間が長くなるのでバラつきが大きくなると捉えることもできるが、教員によって生徒のどの行動を重く見るか が異なる可能性もある。すなわち、1校時は頑張ったが2校時は努力を要する生徒を評価した場合、間を取って平均 的な評価になるか、1校時の頑張りを重く評価して高い評価になるか、2校時の評価できない点を重く見て低い評価 になるかの違いが現れた可能性がある。 表2 評価者の評価の平均及び標準偏差 また、ここで評価者によって評価規準の捉え方に違いがある 場合もあるため、表2のように評価者の評価のクラス平均と、 各時間帯の標準偏差を出した(教員Kは授業者)ところ、教員 Dと教員Eでは、ほぼ1段階に近いほどの差が見られた。 しかし、どの集団についても標準偏差はあまり変わらないの で、各時間帯についてのバラつきは同程度であったと推測でき る。 勿論、サンプル数が少ないので、今回の結果に有意な差があ るかどうかは判断できないが、評価者の違いによる評価のバラ つきは非常に大きいことが判明した。 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 今回の研究では、組織的な授業改善の必要性を強く感じさせる結果となった。評価規準を示し、同じ生徒を複数の 教員が評価する際、教員によって評価に違いがあることは大きな課題である。 このことからも、教員間で「生徒に身に付けさせたい力」についての共通理解を深め、目標とする到達点を軸に評 価方法を考えていくことが今後の評価の改善につながるものと考えられる。例年課題として挙げられている教員間の 打合せや振り返り、普段のコミュニケーションの向上が求められるという結論に至る。 教員一人ひとりが組織的な授業改善の必要性を意識し、限られた時間の中で効率良く共通認識を持てるよう工夫し ていく必要がある。 育てたい生徒像を、学校単位で、専門系列単位で、教科単位で、科目単位でそれぞれ話し合い、指導と評価の一体 化を図る必要がある。これが組織的な授業改善の根幹ではないだろうか。 看 護 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進――単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方策」 単元『身体の清潔の援助』の指導計画の充実を通した授業改善 (2)研究のねらい ア 本校に入学してくる生徒のほとんどが看護師を志望し、看護の勉強を心待ちにしている。初めての科目に 戸惑いながらも実体験できるものは興味を持って学習に取り組もうとしている。初めて学ぶ内容がほとんど であるが、根拠の大切さにも気付き始めている。生徒自身にどのようにしたら目的を達成できるのかを考え させ、主体的に「看護の心」を育てる力を身に付けさせる。 イ 技術とともに、その根拠を理解させ、自ら考える力を引き出す。またグループワークを行うことでお互い のコミュニケーション能力を向上させる。これらを通して、看護を適切に行う力と態度を育てる。 2.研究で取り組んできた内容 教育課程推進委員会では、本年度の研究テーマに沿って次の点について研究に取り組んだ。 (1)グループワークなどの考えさせる展開を多く取り入れ、生徒が楽しみながらも積極的に授業に参加できるよ うにする。 (2)生徒が自らどのようにしたら目標を達成できるかを考える授業展開をする。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て (1)身体の清潔保持がどのような理由で必要であるかを考えさせ、清潔保持と健康の関連性について理解をし た。 (2)根拠を大切にするよう心掛け、教員が先に根拠を示すのではなく生徒同士でどのようにしたら目標を達成 できるかを考えさせ、その後に正しい方法を教えるという手順をとった。 (3)グループワークを繰り返し行い、生徒同士が発言しやすい環境作りをした。 (4)授業に関わる看護科教員の共通理解を図るため、授業担当者の打合わせを密に行い、具体策を立てた。 (5)授業展開としてはグループ毎に次のように行った。 ①事例患者様への援助方法について根拠を基に検討する。 ②検討した内容を発表する。 ③教員による根拠の確認・評価を行う。 (6)「看護の心」に通じる、看護する相手に対する思いやりや安全・安楽を意識し、プライバシーを守ること について意識付けを行った。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開(取組事例) (1)研究実践校:神奈川県立二俣川看護福祉高等学校 (全日制) (2)学校の課題:看護・医療・社会福祉の専門職にふさわしい知識・技術と学力を身に付け、他と協働しなが ら社会貢献に携わる「看護の心」を育み、健全な規範意識を持ち、正しい判断と行動ができ る人材を育てること。 (3)実施校における研究テーマ:単元『身体の清潔の援助』の指導計画の充実を通した授業改善 (4)科 目:基礎看護 実 施 学 年:看護科1年 (5)単 元 名:身体の清潔の援助 (6)単元のねらい :皮膚の構造と生理についての学習を基礎とし、身体の清潔と健康との関連や人間にとっての 清潔の意義と清潔保持の必要性を理解させ、皮膚・毛髪や口腔等の清潔の援助を行うための 知識と技術を修得させる。 (7)単元で身に付けさせたい力:患者に対する安全・安楽に配慮したさまざまな援助方法の修得 (8)単元指導と評価の計画 時 間 学習内容 学習活動 関:関心・意欲・態度 思:思考・判断・表現 学習のねらい 評価の観点 関 思 技 知 ・身体の清潔と健康と ・自らの生活と関連 ○ の関連や人間にとっ 付けて、身体の清 ての清潔の意義と必 潔の必要性や健康 1 身体の清潔 要性を学ぶ。 と直結することを | の援助 理解する。 2 3 | 8 9 | 10 清 拭 足 浴 洗 髪 12 | 16 知:知識・理解 評価規準 評価の方法 ・清潔の援助について関心 を持ち意欲的に学ぶ姿勢 が見られる。 ○ ・清潔の援助技術に関して 科学的な根拠を考え、援 助の目的・必要性につい て理解している。 ・入浴ができない患者 ・安全・安楽に配慮し ○ に対し、お湯と石鹸 ながら正しい清拭 を用いて身体を拭い 方法を身に付け、 て清潔にする。 実習を通して技能 ・清拭実習を行う。 を修得する。 ・清拭について関心を持ち、 意欲的に取り組んでいる。 ・安全・安楽に配慮した清 ○ 拭方法を身に付けている。 ○ ・清拭の目的・必要性につ いて理解している。 ・入浴ができない患者 ・正しい足浴方法を に対し、足を温湯に 理解し、実習を通 浸して清潔にする。 して技能を修得す る。 ○ ・ケリーパッドを使用 ・ケリーパッドを用 ○ し、ベッドに寝たま いた洗髪の援助方 まで洗髪を行う方法 法を考え、発表を ○ を考える。 通してアイデアを 共有する。 ⑪ 本 時 技:技能 ・洗髪の目的を学ぶ。 ・安全・安楽に配慮し ○ ・皮膚の解剖生理を行 ながら正しい洗髪 う。 方法を身に付け、 ・洗髪実習を行う。 実習を通して技能 を修得する。 ・観察 ・ワークシート ・定期試験 ・観察 ・ワークシート ・実技試験 ・定期試験 ・安全・安楽に配慮した足 ・観察 浴方法を身に付けている。 ・ワークシート ○ ・足浴の目的・必要性につ ・定期試験 いて理解している。 ・グループワークに積極的 ・観察 に取り組んでいる。 ・発表内容 ・グループワークの内容を ・ワークシート まとめ、しっかり発表す ることができる。 ・洗髪について関心を持ち、 意欲的に取り組んでいる。 ・安全・安楽に配慮した洗 ○ 髪方法を身に付けている。 ○ ・洗髪の援助の目的・必要 性について理解している。 ・観察 ・ワークシート ・実技試験 ・定期試験 (9)【D】取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月 23 日(木)5校時 授業担当者:石井 由美子教諭(他6名) ②授業クラス:1年2組 39 名 (山田、森、鈴木、伊藤、清塚、米村教諭) ③本時のねらい:ケリーパッドを用いた洗髪の援助方法を考え、発表を通してアイデアを共有する。 ④本時の指導内容 授業 学習活動 導入 5分 本時の学習内容の理解 ケリーパッドの説明 展開 40 分 グループワーク準備 指導上の留意点 評価方法 ・学習内容の説明を行い、本時のねらいを伝える。 ・グループワーク後、各グループの内容を発表し、 お互いの学びを共有することを伝える。 【関心・意欲・態度】 ・グループワークに積極 的に取り組んでいる。 ・課題にあった考えや意 グループワーク実施 見を、具体的にメンバ ○グループワークテーマ ・ケリーパッドを使い、洗髪を安全・安楽に実施す ーに伝えることができ 「寝たままケリーパッ る方法を考えさせる。 る。 ドを使って、安全・安 ・洗髪の課題について次の2点に注意する。 ・安全・安楽な方法を検 楽に洗髪を行う」 ①ケリーパッドの置き方 グループ配置 1グループ4名 ・各グループ第一実習室・第二実習室に速やかに移 動させる。 ・グループで話し合う ・内容を図に書き込む ワークシート1 ・発表 まとめ 5分 次回予告 ②安全・安楽を考えた患者の体位 ・グループワークは実習と同じメンバーで行い円滑に 進むようにする。 ・生徒自身で考えさせ、教員は質問があったときの み答える。 ・リネン室の戸棚は開放し、必要な物品は取り出せ るようにしておく。 ・準備室のテーブル上に、看護物品を並べておく。 ・授業時の服装はジャージとし、交替で患者役にな る。 ・グループ発表は3グループ程度とする。 ・代表のグループに、話し合った内容を実演で発表 させる。 ・発表しないグループには、類似点や相違点を口頭 で追加発表させる。 ・他グループの発表について、参考にしたい点を自 分のプリントに赤ペンで記入させる。 討し、まとめることが できる。 【思考・判断・表現】 ・安全・安楽を考えなが ら、根拠のある内容と してまとめることがで きる。 ・他グループの発表を聞 き、参考となる点を判 断し、適切な援助につ いてまとめることがで きる。 ・グループで話し合った 方法を発表できる。 ・洗髪の目的についてしっかり伝える。 ※ワークシート2を配付し、内容を把握させる。 (10)グループワークの内容 生徒のグループワーク1 記載例 グループワーク2 配布資料 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 ○ 研究実施校の生徒は、高校入学時から看護師になる目標を持ち、意欲的に授業に取り組んでいる。実習におい てもそれぞれの生徒が主体的に考え、グループワークでは、自らの考えを班員に積極的に伝達し、また、班員の 意見を取り入れながら、より良い答えを導き出そうとする姿勢が伺える。生徒は、新しい気付きに対しペンの色 を変えて書く習慣をつけており、思考力や判断力を身に付けるための工夫がなされている。 ○ 通常では、ひと通りの説明を行った後に実習を行っている。しかし、説明どおりに実習をこなすだけでは、生 徒の思考力を育成することが難しいと考えた。そこで、今回の実習では、事前の説明を一切行わず、生徒にケリ ーパットをどのように使用するのかを考えさせることを主眼とした。生徒は、班員とともに想像力を働かせ、意 見を出し合いながら思考力を深めることができていた。 ○ 生徒が主体的に授業を進めるための工夫として、教員は質問に答えるのみでアドバイスは一切しないようにし た。一定の距離を置くことで、生徒が自主的に活動し、班員と協力しながら問題解決に向けて取組む姿勢が伺え た。また、リネン室の戸棚を開放し、物品を自由に扱うことが可能となったため、生徒の発想力が無限に広がり、 いろいろなアイデアを生み出すことができていた。 ○ 看護の実習では、根拠に基づく行動が必要となってくる。ケリーパットの形状や素材を確認しながら、洗髪の 方法をどのように根拠付けていくのかを自分で考え、また、他者の意見を聞きながら新しい気付きや発見をし、 判断をすることができていた。 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 組織的な授業改善の推進、および生徒の単元ごとの関連性の理解のために、必修科目「基礎看護」を学んでいる看 護科1年生の1クラス(39名)を対象に研究を行った。授業テーマに『ケリーパッドを用いた洗髪の援助法』を取り 上げた。対象の状態にあった適切な清潔援助の方法を判断し、創意工夫することができるよう、生徒たちはグループ ワークを行い自分たちで検討した援助方法を発表し、学びを共有した。 従来の授業の流れでは、講義→デモンストレーション→実習展開の方法で実施していたが、今回はまず自分たちで 考えるという流れで行い、その後にデモンストレーション→実習展開とした。生徒自身の気付きを促すためにグルー プワーク時の教員からの助言は最低限にとどめた。 今回の授業での生徒の感想・意見を授業後に自由記載させた。以下生徒の感想である。(原文のまま) ○ まず自分たちで考えたことが楽しかった。またその方が患者さんのことやその他にも色々と考えることができ、 正確な情報を知った時に納得したり受け入れやすかった。 ○ グループワークすることで自分の考えだけでなく、他の人の考えも知ることができ、考えられる範囲が広がっ た。 ○ しっかりと考えて、大切な事を意識しながらデモンストレーションを見て実習した方が、理解が深まると思う し、吸収しやすくなった。 ○ ある程度物品に触ってみたりすることによって、その物品の扱い方がわかりやすかった。 ○ デモンストレーションは自分たちで考えてからのほうがよい。やり方が覚えやすくなると思うし、自分の考え を発表することも大切だと思う。 ○ 考える時間→デモンストレーション→実習がよいと思う。少し時間がかかってしまうけれど、どうしてこの動 作をするのか、なぜこのようなやり方をするのかを理解した上で実習したほうが実習する時にここに気をつけよ うと思えて手順も覚えやすく、よりよい実習ができると思う。 ○ 自分たちで考えてからデモンストレーションをみて実習した方が自分の考えと比較できて勉強になる。 反面、従来通りの授業の進め方が良いという意見もあった。 ○ 今までのような講義→デモンストレーション→実習の展開がよい。グループワークは時間の無駄である。どう すればよいのか分からない私たちにとっては、まず正しい知識を教えてほしい。その分を講義の時間に回してほ しい。一人一人がきちんと考えや意見を言える状態ならよいが、事前の宿題で考えてこない人もいて、自分の意 見ばかり言うようになってしまった。 ○ デモンストレーションを行った後に、「ここはこうなので、こうしたほうがよいだろうな。」と、話し合い・ 確認の場を持った方が、次回に活かしていけるような学習になると思う。 座学中心で暗記の学習をしていると、疑問を持ったり、考えることが苦手になったり、知識が断片的でつながりや 蓄積がなくなってしまうように感じる。基礎看護では、授業の中ですぐに根拠を示すのではなく、グループワークを 行い、実施に当たって生徒同士で他者の意見を取り入れ、一人ひとりの意識を高めながら、看護場面で行われる援助 行為には、科学的根拠があり、それに基づいた実践が大切であるということを意識付けていきたい。 終わりに、将来医療系で働く意志を持って入学してきた生徒は、専門科目の中でもとりわけ実習を伴う科目「基礎 看護」に強い関心を持っている。看護行為の根拠となる関連分野の基礎的知識を習得させ、思考力および問題解決能 力を育成する。教科指導においても看護場面で多く行われる援助行為には、科学的根拠があり、それに基づいた実践 が専門職として求められているということを意識付けていきたい。 今後の課題としては、生活体験の少ない生徒に対し、いかにイメージ化を図り、「看護」を多方面から考えさせる ことである。興味・関心を持って上級学校へ進学させるため、この科目は7名の教員が関わり、きめ細かい指導を行 っているが、更なる授業改善に取り組みたい。 福 祉 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「組織的な授業改善の推進―単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析及び改善に向けての方 策」―高齢者を介護する家族の事例検討と発表を通した思考力・表現力の育成― (2)研究のねらい 本研究では高齢者の生活、病気、家族等の状況に関する学習を通して、生徒が高齢者の生活環境を総合的に 理解し、生活に対するより良い援助方法について思考する能力を育成できる単元(題材)の指導計画と授業展 開を検討し、授業を実践・評価したのち、その後の効果的な指導につなげていくことをねらいとしている。 また、授業内では事例検討を基に、グループワークや発表を取り入れることで、生徒の思考力・表現力を育 成し、評価と分析から授業改善に資することをねらいとする。 2.研究で取り組んできた内容 本研究推進委員会では、平成 24 年度から「組織的な授業改善の推進」をテーマに、他教科との連携を図り ながら研究を進めてきた。今年度も、「組織的な授業改善の推進」を引き継ぎ、さらに、研究授業実施校生徒 の課題となっている「基礎・基本の定着と思考力・表現力の向上」を踏まえた授業づくりを検討した。特に、 生徒が主体的に学び、自分の考えをまとめ、表現できるような授業展開を工夫し、事例検討を中心とした発表 会形式の授業を行った。 また、今年度の研究主題を踏まえ、研究授業後に授業の評価、生徒のワークシートを使用した授業分析を行 い、効果的な授業づくりに向け、今後の方策を検討した。 3.【R】研究の目標を達成するための手立て 今年度は、研究の目標を達成するための手立てとして、次のような点を中心に取り組むこととした。 1点目は、生徒がこれまでの学習で得た知識を生かしながら思考を深められる学習活動として、具体的な 事例の検討を行うこととした。 2点目は、コミュニケーションを通して思考力・表現力を高めるために、少人数のグループでの事例検討 を実施した。グループ活動では、自分の意見をまとめて同じグループの生徒に伝え、また、相手の意見を聞 き、グループとしての意見をまとめる中で、思考し表現する機会を作るように工夫した。 3点目は、生徒が主体となって、グループでまとめた意見を他のグループに向けて、決められた時間内に 的確に伝えることができるよう、司会やタイムキーパーなどを生徒に役割分担し、発表会の持ち方を工夫し た。 4.【P】単元の指導計画及び重点を置いた授業展開例 (1)研究実施校:神奈川県立二俣川看護福祉高等学校(全日制)福祉科 (2)学校の課題:基礎・基本の定着と「思考力・表現力」の向上 (3)実施校における研究テーマ:「思考力・表現力の育成」 (4)科目:介護福祉基礎 学年:1学年 (5)単元名:(3)介護を必要とする人の理解と介護 イ 高齢者の生活と介護 (6)単元のねらい: 高齢になることにより生じる健康問題や生活の変化、就労・雇用、収入や余暇活動について、具体的な事 例を取り上げ、高齢者の生活に関する課題やニーズについて理解させるとともに、高齢者を支えるための介 護の在り方について考えさせる。 (7)単元で身に付けさせたい力: 高齢者の身体的な変化や認知症など特有の症状や高齢者の世帯構成の特徴を把握した上で、介護を必要と する高齢者とともに生活する家族について理解する力を身に付ける。 (8)単元の指導と評価の計画 時 学習内容 学習活動 高齢者に 見られる 特徴的な 症状 ・生徒における 高齢者( 年齢 確認)と 生徒 自身の状 況を 考える。 ・加齢による身 体的な変 化と 生活への 影響 について学 ぶ。 ・高齢者の生活 状況を考 えさ せる。ま た、 自分の高 齢期 について 考え る。 ・高齢者と高齢 者を支える 人々の社 会参 加の望ま しい 形を考え 、発 表する。 ・高齢者の生活 状況(介 護の 有無、就 労の 状況等) をデ ータから 読み 取る。 ・高齢者が生き がいを持 ち、 積極的な 社会 参加がで きる 支援を考え る。 ・加齢が、心 身に与える 影響がある ことに気付 く。 ・認知症の状態 をイメージ し、情報 を共 有する。 ・認知症の特 徴、種類 につ いて学び 、日 常生活で の影 響につい て理 解する。 ・認知症の状 況に関心が 持てる。 ・認知症が本 人、家族 に与 える負担 を考 える。 ・どのような 点が負担と なるのか理 解する。 1 高齢者と 活動① 2 高齢者と 活動② 3 認知症高 齢者① 4 認知症高 齢者② 5 a:関心・意欲・態度 b:思考・判断・表現 c:技能 d:知識・理解 評価の観点 ねらい 評価規準 評価方法 a b c d ・加齢による 身体的な変 化を理解す る。 ・高齢者の生 活状況に関 心 が 持 て る。 ○ ・加齢が心身に与 える影響を考え ようとしてい る。 ○ ○ ・定期試験 ○ ・高齢者の生活状 況を理解してい る。 ・ 授業への 取 組状況 ・定期試験 ○ ・高齢者の生きが いを考えた支援 について考え、 まとめている。 ・ ワークシ ー ト ・認知症の状況を 考えようとして いる。 ・ 授業への 取 組状況 ・認知症高齢者の 生活について考 え、まとめてい る。 ・ ワークシ ー ト ・認知症高齢者を 取り巻く負担に ついて考えよう としている。 ・認知症高齢者の ・ 授業への 取 組状況 ○ ・データを読 み取り、高 齢者の生活 状況を理解 する。 ・高齢者の生 きがいを把 握し、適切 な支援が展 開できる。 ○ ・認知症の特 徴 を 理 解 し、生活に 与える影響 に気付く。 ○ ・ 授業への 取 組状況 ・高齢者の社会参 加の重要性を理 解している。 ・高齢者の社 会参加の意 義を理解す る。 ○ ・加齢による心身 の状況を具体的 に理解してい る。 ・高齢者の生活状 況を考えようと している。 ・ 授業への 取 組状況 環境の考 え方 6 7 本時 8 高齢者の 家族関係 ①② ・認知症高齢者 が落ち着 く環 境につい て考 える。 ・認知症高齢 者の適切な 生活環境を 考える。 ・介護者とし て、高齢 者が 安全に、 かつ 安心して 生活 できる環 境を 理解する。 ・高齢者の心身 の状況を 理解 した上で の環 境整備を考 え、発表す る。 ・高齢者を介護 する家族 が抱 えやすい 課題 と手立て を自 ら考え、 グル ープで意 見交 換をする。 ・高齢者に必 要とされる 支援を理解 する。 ・各世帯が抱え やすい課 題と 手立てに つい て発表する。 ・発表を通し て、世帯構 造の違いに よる家族機 能の変化と 高齢者を介 護する家族 への理解を する。 ○ ○ 安心、安全に必 要な支援につい ての情報を収 集・整理でき る。 ・認知症高齢者の 安全、安心を理 解し、適切な支 援について考え ようとしてい る。 ・ 授業への 取 組状況 ・状況に応じ た介護を考 える。 ○ ・具体的な支援に ついて考え、ま とめている。 ・ ワークシ ー ト ・世帯構造の 特 徴 を 捉 え、それぞ れの課題と 手立てを考 える。 ○ ・在宅で生活する 上で、介護者と しての家族が抱 えやすい問題と それに対する手 立てを考え、ま とめている。 ・ ワークシ ー ト ○ ・高齢者を介護す る家族の状況に ついて理解しよ うとしている。 ・ 振り返り シ ート ( ) (9)【D】取組事例 ① 実施日:平成26年10月31日(金)6校時 ② 授業クラス:14 H(1年4組) 39名 ③ 本時のねらい:各グループの発表を通して、高齢者を在宅で介護する家族が抱えやすい課題とその手 立てについて理解する。(具体的な事例を通して高齢者の生活に関する課題やニーズを把握する。) ④ 本時の指導内容: 授業 評価規準(評価方法) 学習活動 指導上の留意点 展開 【評価の観点】 導入 ○前時のワークシート※を見直す。 ・振り返りシートの配付。 5分 (※事例を基に、各世帯で生じやすい問題・ ・グループワークの振り返り 課題と手立てについてグループの考えをまと を促す。 めたもの。) ○発表内容の確認をする。 展開 35分 ○事例1についての発表を行う。 (4グループ×4分=16分間) ・夫婦のみ世帯において、介護者(家族)が 抱えやすい課題とそれに対する支援・手立 てについて考えを述べる。 (質疑応答:1分) ○事例2についての発表を行う。 (4グループ×4分=16分間) ・3世代世帯における介護者(家族)が抱え やすい課題とそれに対する支援・手立てに ついて考えを述べる。 (質疑応答:1分) まと め 10分 ○発表内容の振り返りをする。 ○高齢者を介護する家族に対する考えを記入 する。 ・各事例において、前時にグ ループでまとめた意見を確 認させる。 事例1 高齢者夫婦のみ世帯の場合 課題の例) 介護者の身体・精神的負担 介護知識不足、経済的負担 等 事例2 3世代世帯の場合 課題の例) 家族の心理的葛藤 仕事、家事・子育て、勉強 と介護との両立 等 ・まとめた資料を掲示する。 ・発表内容をまとめ、世帯構 造の違いによる家族機能の 変化と高齢者を介護する家 族への理解の視点に触れ る。 在宅で生活する上で、 介護者としての家族が 抱えやすい問題とそれ に対する手立てを考 え、まとめている。 (ワークシート) 【思考・判断・表現】 高齢者を介護する家族 について理解しようと している。 (振り返りシート) 【関心・意欲・態度】 ⑤本時の評価規準とAと判断される具体的な例とCと評価した生徒への手立ての例 【関心・意欲・態度】 学習活動における具体の評価規 高齢者を介護する家族について理解しようとしている。 準 「十分満足できると判断される 発表内容から様々な負担が家族にはあることに気付き、家族の状況によって 状況(A)」と判断される具体 対応が異なることを理解しようとしている。 的な例 「努力を要すると判断される状 事例の登場人物の状況を整理し、具体的な生活場面を考えさせ、その立場と 況(C)」と評価した生徒への なって理解できるよう支援する。 手立ての例 【思考・判断・表現】 学習活動における具体の評価規 準 「十分満足できると判断される 状況(A)」と判断される具体 的な例 「努力を要すると判断される状 況(C)」と評価した生徒への 手立ての例 在宅で生活する上で、介護者としての家族が抱えやすい問題とそれに対する 手立てを考え、まとめている。 家族の状況を把握し、家族が抱えている問題に気付くとともに、どのような 改善案が考えられるのか適切に表現している。 他のグループの発表を記録し、自分のグループとの違いを発見できるよう支 援する。 ⑥実施状況 【ワークシートによる評価の実際】 評価Aと判断できる生徒の記述例 ※生徒の記述のとおりに記載 ○ この事例について、話し合った時は、在宅介護でできることについてしか意見が出なくてそのこと しか考えられなかったのですが、色々なグループの話を聞いてみて、地域との交流や近所と付き合う という、地域の集まりに参加することによって、刺激になるなと思いました。 ○ 考える前は施設入所への準備をするのはどうだろうかと思っていましたが、色々(多く)の生徒の 話を聞き、バリアフリー化することや、安全や徘徊がないように通信機器、カメラ等を使うことや家 族全体で地域の方々と関わることも、孤立させないための対策になるということが考えられました。 多くの課題に対し、多くの対策があることを改めて知りました。 ○ 家族が高齢者をどうするか(介護サービスをうけさせる)ではなくて、高齢者がどうしたいか(介 護サービスは少なくしてできるだけ家族といたい)などもすごく大事なことだと思った。また、介護 サービスだけに頼るのではなくて、地域で助け合ったり、公共施設を利用したりと家族とかが工夫す ればよい方にいくことがあることを知れてよかった。 ○ 高齢者を介護する家族の方は、まず先に介護される側の気持ちになって考えてみる事も大切だと改 めて思った。介護される側の方は、家族に介助される日々の中で「迷惑をかけてしまっているのでは ないか」などというマイナスの思考が強いのではと考え、今回の発表を聞き、身体への負担だけでな く心身への配慮も必要だと思った。 ○ 高齢者を介護するのはすごく大変で家族の負担も多いけど、家族が協力し合えれば介護の負担が少 しずつ減るのではないかと思います。私の家でも数年前、家の中でおじいちゃんの介護をしていまし た。けど、家族で役割を分担したら楽になりました。老老介護や家族介護は大変だけど、お互いの協 力が大変だと思いました。 ○ 高齢者を介護するには孤立感やストレス、不安感を与えずに介護するのはとても大変なことだとや はり思います。でも、少しでも時間などを工夫するなどを行えたらより安心感へと変わると思います。 まず、家族皆で協力し合い介護するのが一番です。 ○ このグループワークをする前でも、家族介護って大変なんだというイメージはあった。けれど、実 際に話し合いをしてみて、金銭的、家族の事情などがあってなかなかうまくいかないことを実感した。 他の班の発表を聞いて「生活保護」「施設」など知識を持っていないと受け取れない、存在を知れな いものもあったと思う。介護の選択を広げるためにも知識を身に付けることが大切だと思う。 ○ 自分が目に見えている課題や問題はもちろん解決していくべきだけど、自分が目に見えていない所 で起きている課題にも目を向けていかなければいけないと思いました。自分がいないところでおきて いる状況をすべて把握するのは難しいことだけど、利用者さん自身の様子を見て、ご家族の方などに 話を積極的に聞いたりして、利用者さんのご家族の方に頼っていただけるような対応をしていくのが 大切だと思いました。 5.【C】単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析 単元の授業づくりに基づく授業実践の評価と分析を行った結果、次の3点が挙げられた。 ○ 介護についての学習を始めたばかりの1年生であるが、教師の予想以上に、自分自身が家族として 事例のような状況にあったとしたら、どのような思いで生活をしていくのかを具体的に考えることが できていた。高齢者と同居している生徒が減少している中、実生活と結び付きづらい部分もあったと 考えられるが、事例の家族状況をしっかりとイメージすることができていた。その上で、自然に専門 職として事例の家族と関わる場合についても話題が広がり、専門職ではどこまで何ができるのかを調 べながら考えることができていた。 ○ 介護が必要な高齢者への支援については、様々なサービスの利用が考えられるが、家族が同居して いる場合や、家族の意向をくみ取る場合など、状況によって、利用するサービスは必ずしも同じでは ない。こうしたことを検討する際に、生徒は、教師からの説明を聞くだけではなく、同じグループの 他の生徒の考えや、他のグループの考えを収集し、思考を深め、家族の課題が多数存在していること を発見できていた。これは、生徒のワークシートの記述からも見取ることができた。 ○ 自分自身の意見を発表するだけではなく、関わる人の立場や状況が異なる中で、専門的に支援する ことはどのようなことなのかを考えるきっかけが見付けられた様子が見られた。1年生は、これから 専門的な知識や技術を習得していくことになるが、その前に、自分の考えだけでは支援できないこと や、自分が知らない支援があること、公的な支援の中で行われるものがあることなどが発見できてい た。福祉の専門職は、本人や家族との関わりの中から、どのような状況なのかを把握するだけでなく、 継続的に関わり、改善が必要な状況は何かを発見し、支援を行うことが必要だということを学ぶこと ができていた。 6.【A】成果並びに課題とその改善に向けた方策 (1)成果 本研究では、単元(題材)を通して、高齢者の身体的な変化や認知症といった高齢者特有の症状、 高齢者の世帯構成を把握した上で、介護を必要とする高齢者とともに生活している家族について様々 な視点で理解する力を身に付けさせることを目的として、単元の指導と評価の計画を作成し、授業の 実践及び評価を行った。その結果、主に三つの成果が見られた。 一つ目は、生徒が家族としての視点と、福祉の専門職としての視点から考えることができたことで ある。 二つ目は、介護に関わる家族の課題は多数存在していることを生徒同士で発見できたことである。 三つ目は、悩みを聞くことだけではなく、介護に対して思いを持つ家族や家族以外に寄り添うこと が、福祉専門職としての支援であり、役割であることが理解できたことである。 「介護福祉基礎」は、新学習指導要領で名称変更された科目であり、介護についてより専門的に、 多面的に考える内容となっている。人を支援することは、生徒自身の生活観だけでなく、専門職とし ての能力も求められることを今回の単元で展開し、提示できたのではないかと考える。 (2)課題及びその改善に向けての方策 研究授業実施校は、専門学科として福祉を学び、対人援助に関わる専門職として進学を目ざすとい う特色がある。そのため、高校入学前から福祉に興味、関心を持つ生徒が多く、また、自分の考えを 適切に表現できる力がある生徒が多い。こうしたことから、本単元にも興味、関心を持って臨むこと ができていた。しかし、授業後の研究協議では、次の三つが課題として挙げられたため、改善の方策 について検討した。 一つ目は、「教師側が、生徒の興味、関心、理解度を事前に把握しきれなかった」ことである。全 体的に福祉に対して前向きな学習が見られる反面、グループ活動では話し合いに十分に参加できない 生徒もいた。 改善の方策として、グループ活動を行うこと自体がこの学年、この科目では今回が初めてであった ため、生徒が集団で活動する際にはどのような様子、傾向があるのか、クラス担任や他教科から情報 を把握する必要があると考えた。 二つ目は、「グループ活動における教員の関わりと、意見の視覚化」である。グループ活動で意見 交換する際には、積極的に発言できる生徒と、そうではない生徒がいた。また、発表に至るまでには、 テーマに対して、発言内容が稚拙となる場面が見られたこともあった。 改善の方策として、教師が各グループに関わり、修正が必要な点への介入を行うことも必要だと考 えられた。また、付せん等を用いて、情報を整理し、意見を見える形にする工夫も有効だと考えた。 三つ目は、「他教科との連携による思考力、表現力の育成」である。実施校の課題として掲げられ ている思考力、表現力の育成については、福祉科だけで取り組むものではない。 改善の方策として、他教科も一緒に、生徒が主体的に学び、考え、表現することができる授業づく りを学校全体として検討する必要がある。また、今回の発表方法では十分ではない点も挙げられるた め、他教科からの指摘による検討も必要だと考えた。 6.参考資料 (1)ワークシート 1 学年「介護福祉基礎」 H 番 氏名: 振り返りシート:高齢者の生活と介護∼高齢者の家族関係∼教 P34∼35 事例をもとに、高齢者を在宅で介護する家族が抱えやすい課題と手立てについて <記録> 発表を聞いて、自分の班の考え・視点と異なる点、良かった点を簡潔にまとめましょう。 班: 班: 班: 班: 班: 班: 班: <高齢者を介護する家族に対する考え> <自己評価> あてはまると思う空欄に○を付けてください。 今日の授業のねらい(何を勉強する A よくわかった B だいたいわかった か)がわかりましたか。 生徒同士で話し合う機会や意見などを A よくわかった 発表する機会がある授業だと思いまし たか。 今日の授業の「内容」が理解できまし A よくわかった たか。 C あまりわからなかった B だいたいわかった C あまりわからなかった B だいたいわかった C あまりわからなかった 特 別 活 動 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 進路決定に向けた「特別活動」(ホームルーム活動)の3年間指導計画及び指導事例案の提案 (2)研究のねらい 平成 23 年 1 月の中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方につい て」において、キャリア教育・職業教育の課題と基本的方向性が示された。その中で、学校教育が重要 な役割を果たし、キャリア教育・職業教育を充実させていかなければならないとされ、経済産業省が平 成 18 年に「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として提唱してい る「社会人基礎力」を意識的に育成していくことが今まで以上に重要になってきている。また、平成 25 年 1 月の中央審議会の答申では「体験活動の推進」について、体験活動は人づくりの原点であるとの認 識の下、未来の社会を担う全ての青少年に、人間的な成長に不可欠な体験を経験させるためには、教育 活動の一環として、体験活動の機会を意図的・計画的に創出することが求められている。 以上のような視点を持ちながら、本年度は昨年度に引き続き、「学業と進路」の項目が盛り込まれたホ ームルーム活動についての研究を行うこととした。特に「高校生として身に付けさせたい力」について 検討し、年間計画を作成するとともに、具体的な活動について検討した。 2.研究で取り組んできた内容 「学業と進路」を扱った指導計画を作成するに当たり、特に「就職」を意識した活動に焦点を当て、集 団活動を主体としたホームルーム活動と「総合的な学習の時間」や教科の指導との連携を視野に入れた 活動計画を検討した。その中で、どの生徒にも勉強や進学の先に就職があることを考慮し、高校生とし て「学ぶことと働くことの意義の理解」と「望ましい勤労観・職業観の確立」をテーマに具体例を作成 した。 【3年間の見通し】では3年間のホームルーム活動における「学業と進路」についての代表的な活動 を示し、それらの活動の土台となる自己理解、他者理解を促す手法を提案した。様々な活動の事前・事 後の指導で活用することができ、キャリア活動をより深めることができるよう検討した。 【指導事例案1】では、現在のキャリア教育でよく行われている職業人講話を例に挙げる。職業人講 話は多くの学校で行われているキャリア教育の活動である。通常は生徒が興味を持った分野について、 専門の講師による講義を受けるスタイルが主流になっている。今回の事例案は講義形式ではなく、クラ スやグループによる討議や発表を通じた集団活動として生徒主体に行うことで、より自己理解を深める 活動となるよう検討した。また、現在各校で行われている活動でも実施の順序や時期などを整理するこ とで効果的な指導となるよう工夫することができる一例として、適性検査を併せて提案する。職業人講 話の事前指導・事後指導として活用することを考慮した。 【指導事例案2】では、 「クラスでハローワーク」という活動を提案する。今までのキャリア教育では ハローワークをはじめ職業について考えるということは自分の興味のある分野、得意な分野など、本人 の考えや意向を主として行うことがほとんどであった。今回の事例案では就職活動の前段階として行う ことの多い職業調べにおいて、他者からの意見を聞くという新しい形をとることで、客観的に自分を知 り、自分に合う職業・職種を見付けるためのアドバイスとなるような提案とした。この事例案において も、現在多くの学校で行われている活動を事前指導・事後指導として取り入れた。 今回提案した各事例案の長所は、新規の活動計画を作ってスタートするものではなく、各校における 従来の活動を生徒主体のものにアレンジすることでより効果的に活用できることと、単発でその場限り の活動で終わりがちになってしまうものに継続性と相乗効果を得ることができるようにしたことである。 今まで講話形式や指導形式であった活動を生徒主体の集団で行うことができるため、年度の途中でも活 用することが可能であり、各校の実情に合わせてアレンジもできる。この研究が各校のキャリア教育の サポートとなり、生徒の自己理解を深め、進路選択における意思決定の一助となることを期待する。 【特別活動(学業と進路について) 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 1月 2月 3年間の見通し】 1年生 2年生 3年生 (1)①アイスブレイク ②人間関係づくり (2)①自分を見つめる (2)②他者から自分を知る (1)①アイスブレイク ②人間関係づくり (4)③求人票の見方・分析 (4)②企業・学校を選ぶ (5)②履歴書を書く (5)③面接練習 (1)③相互理解 (3)①様々な職業を知る (1)①アイスブレイク ②人間関係づくり (3)①勤労観をつくる (3)②様々な職業を知る (3)③様々な職業を体験 する (3)④生き方モデルを作る (4)①職業を決める (5)①適性検査 (5)①適性検査 (4)③求人票の見方・分析 (6)①ライフプラン (6)②自己実現に向けて 3月 ※上記の(1)や①等の数字は以下の見出しの数字に対応しています。なお★印には解説があります。 (1)新しい環境に適応するとともに他者との望ましい人間関係を構築する。 『自分を知る』『他人を知る』 ① アイスブレイク ★ネームトス ・ネームジャング ★座席表作り ★自己紹介ビンゴ ・後出しジャンケン ② 人間関係づくり ・KJ法 ★聞く、話す、見る(傾聴スキル) ③ 相互理解 ・短所のリフレーミング(自己肯定感を高める)・・・25 年度研究集録参照 (2)新たな環境の中で、自らの役割を自覚し、積極的に役割を果たす。『自分を知る』 ① 自分自身で自分を見つめる ★自分のトリセツ ・自分プレゼン ② 他者の視点から自分を知る ★エゴグラム ★ジョハリの窓 ・・・後述あり (3)学習活動を通して、自らの勤労観・職業観について価値観形成を図る。『社会を知る』『働くとは』 ① 自分の勤労観をつくる・・・25 年度研究集録参照 ② 様々な職業を知る・・・職業調べ、職業インタビュー、新聞づくり ③ 様々な職業を体験する・・・インターンシップ、学校・企業見学、ボランティア、高大連携、 仕事の学び場 ④ 生き方モデルをつくる・・・ 職業人講話 →【指導事例案1】 (4)様々な情報を収集し、それを活用して自分の将来について暫定的に決定する。『社会を知る』『働く とは』 ① 自分に合った職業を決める・・・職業・学部・学科研究、 クラスでハローワーク →【指導事例案2】 ② 自分に合った企業・学校を選ぶ・・・企業・学校見学、職業体験 ③ 求人票の見方・分析 (5)進路希望を実現するために諸条件や課題を理解し検討する。『自分を知る』 ① 適性検査(レディネステスト、進路適性検査、SPI等)、自己診断調査 ② 履歴書を書く ③ 面接練習 (6)将来設計を立案し、今取り組む学習や活動を理解し実行する。『未来設計』 ① ライフプランを考える ② 自己実現に向けて ★ネームトス:輪になって、ボールを持っている人が名前を言って自己紹介をする。そのボールを隣の 人に渡し、自己紹介をしていく。 ★座席表作り:互いに自己紹介をし合い、その相手の名前を自分の空欄の座席表に記入し完成させる。 ★自己紹介ビンゴ:3×3の枠にあらかじめ、クラスで決めた9つの項目(生まれた月、星座、血液型、 好きな食べ物等)を各自記入する。1項目ごとに相手を変えて互いに聞き合ったこ とをもう一枚の紙の空欄に記入する。1列または2列そろったら、ビンゴ。 しょうかい し ー と じぶんよう 紹 介 シート(自分用) こうかん よ う 組 番 氏名 インタビューシート(交換用) ニックネーム くみ 組 ないよう わく ないよう きさい か い て しめい ばん 番 氏名 ニックネーム か ま い ま せ ん 『内容』の枠に、内容を記載します。※なければ「なし」と書いても構いません。 ないよう わく え ら ん だ ないよう か き ま す 『どこが?どうして?』の枠に、どうしてその内容を選んだのか、その内容のどこがいいのか書きます。 こうもく 項目 けつえきがた たんじょうづき わく けつえきがた 血液型 たんじょうづき す き 誕 生月 きせつ 好きな季節 か き ま せ ん ※血液型・ 誕 生 月は『どこが?どうして?』の枠に書きません。 なまえ 名前 ないよう 内容 こうもく 項目 けつえきがた 血液型 たんじょうづき す き 誕 生月 きせつ 好きな季節 こうもく 内容 項目 どこが? す き お か し 好きなお菓子 す き ゆうめいじん 好きな有名人 す ぽ ー つ 好き なスポーツ なまえ 名前 どうして? す き 項目 どうして? す き ないよう こうもく どこが? す き お か し 好きなお菓子 す き ゆうめいじん 好きな有名人 す ぽ ー つ 好きなスポーツ ないよう 内容 どこが? ないよう 内容 どうして? どこが? こうもく 項目 す き どうぶつ 好きな動物 い っ て くに 行ってみたい国 きらい やさい 嫌いな野菜 どうして? なまえ こうもく 項目 す き どうぶつ 好きな動物 い っ て くに 行ってみたい国 きらい やさい 嫌いな野菜 名前 ないよう ないよう 内容 どこが? 内容 どこが? どうして? どうして? ★傾聴スキル実習:3人1組で行う。話の内容は「今週の出来事」や「趣味」等の内容にする。 (実習1)Aさんにだけ指令を出しAさんがBさんから1分間話を聞く。Cさんはその様子を見学する。 (実習2)Bさんにだけ指令を出しBさんがAさんから1分間話を聞く。Cさんはその様子を見学する。 (実習3)Cさんが実習1と実習2を比較して気付いたことを発表する。 <実習1の指令> 話している相手に対し <実習2の指令> 話している相手に対し て・・・ て・・・ ①話している人に体を向ける。 ①そっぽを向き足や腕を組む。 ②目を見る。 ②顔を見ない(見たとしても上目づかいや横 ③話にうなずく。 目)。 ④ 時 折 「 な る ほ ど 」 と あ い づ ち を 打 っ た り 語 ③うなずいたり反応したりしない。 尾を繰り返したりする。 ④退屈そうにあくびをしたりする。 ★自分のトリセツ:自分の取扱い説明書づくりとして、自分の似顔絵、自分の性格や得意なこと、苦手 なこと、「こんな風に 扱 われると嬉しい 」など自 分について紹介 し、発表 や掲示等 をする。 (2)② 他者の視点から自分を知る ★エゴグラム ★ジョハリの窓 進路を考えるための自己理解の一つとして「他者の視点から自分を知る」ことが大切である。こ こでは「エゴグラム」を活用して自分の自我状態を確認するとともに他人から見た自分の自我状態 を知ることにより自己理解と自己実現につなげていく。 まずはエゴグラムを理解させ、質問紙法による自分の「エゴグラム」を作らせる。それぞれの自 我のイメージを持つことができたら他人の「エゴグラム」を書くワークに進む。そして、他人が作 成した「エゴグラム」をよりよく受け入れるために「ジョハリの窓」を学習させる。 【手順1】5つの自我とエゴグラムの説明を行い質問紙法を行う。 「エゴグラム」は、私たち誰もが持っている5つの自我(CP「批判的な親の心」、NP「保護的な 親の心」、A「大人の心」、FC「自由な子どもの心」、AC「順応した子どもの心」)の量をはかり、 今の自分がどんな心の状態なのかを知る方法である。 エゴグラム・チェックリスト CP 父性︵ ︶点 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ○ △ ×(できるだけ△はつけない) 部屋の整理など、きちんとしないと気がすまないほうですか。 何でも、やり始めたら最後までやらないと気がすまないほうですか。 自分の考えは最後まで押し通そうとしますか。 お金や時間にルーズな人がいると腹を立てるほうですか。 一度立てた計画は、最後までやり抜こうとしますか。 服装や言葉遣いはいつでもきちんとすべきだと思いますか。 友達と話す時、命令調の言い方になることが多いですか。 自分を責任感が強い人だと思いますか。 自分が親になったら子どもに厳しい親になると思いますか。 親から言われたことはその通りにしてきたほうですか。 NP母性︵ ︶点 A大人性︵ ︶点 FC子供性︵ ︶点 AC素直性︵ ︶点 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ボランティア活動を進んでやってみたいと思いますか。 弟や妹(小さい子)の面倒を見るのが好きですか。 落ち込んでいる友達がいたらなぐさめてあげますか。 ちょっとした失敗やミスは許してあげますか。 看護士や介護士の仕事は自分に合っていると思いますか。 友達や家族の人にものをあげたり、おごってあげるのが好きですか。 学級の委員やグループのリーダーには進んでなるほうですか。 募金や助け合い活動には進んで応じるほうですか。 人からものを頼まれたら断れないほうですか。 掃除当番や係活動は進んでやりますか。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 何かを決める時、慎重に冷静に判断しますか。 学級の話し合いでは、賛成・反対の両方の意見をよく聞きますか。 意見の対立があっても、冷静に対応できますか。 音楽番組よりニュースやドキュメンタリーのほうが好きですか。 自然界や科学の発達に興味がありますか。 友達のから誘われても、嫌なことは嫌とはっきり断れますか。 迷信や占いは信じないほうですか。 時間の使い方が上手だと思いますか。 家の手伝いや学校の当番活動はテキパキとやるほうですか。 体調が悪い時は、無理をしないようにしますか。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 自分の気持ちが顔色や表情に表れますか。 うれしい時は「うれしい」と言葉で言いますか。 色々なことに興味を持つほうですか。 言いたいことは遠慮なく言うことができますか。 「わぁ」「すげぇ」「へぇ∼」などの感嘆詞をよく使いますか。 欲しい物は手に入れないと気がすまないほうですか。 冗談を言ったりふざけたりするのが好きですか。 見知らぬ人ともすぐにうちとけることができますか。 歌や踊りが好きですか。 劇の主役や合唱祭の指揮などに進んで立候補するほうですか。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 思っていることが言えず、後で後悔することがありますか。 友達によく思われようと、無理をしてしまうほうですか。 自分の考えより、親や友達の意見に影響されやすいですか。 他人の顔色を見て行動するようなところがありますか。 遠慮がちで消極的なほうですか。 つらい時でも我慢してしまうほうですか。 嫌な仕事や役割を押しつけられてしまうことがありますか。 先生や友達の評判が気になりますか。 欲しいものがあっても我慢してしまうことが多いですか。 親や先生の期待に応えようと無理をすることがありますか。 ○は2点、△は1点、×は0点でそれぞれの自我ごとに合計得点を出す。 【手順2】質問紙法の得点を棒グラフで「今の自分」に記入する。 エゴグラムを理解させたら直感で「過去の自分」を書かせ「なりたい自分」も書かせる。 20 今の自分 20 過去の自分 18 18 18 16 16 16 14 14 14 12 12 12 10 10 10 8 8 8 6 6 6 4 4 4 2 2 2 0 CP NP A FC AC 0 なりたい自分 20 0 CP NP A FC AC CP NP A FC AC 得点が高いから良いというわけではなく、あくまでも今の自分の自我状態であると説明する。得点が 一番高い自我を最高自我、低い自我を最低自我という。並んでいる場合は複数になる。そして「最高自 我のマイナスを出さない。最低自我のプラスを出す。」ということが鉄則なので次ページの参考資料を見 せながら自己変革に向けて指導をする。 【手順3】他人のエゴグラムを直感で作成する。(数人のグループ内で行うとよい。) 5つの自我のイメージ(CP:厳しさ、NP:優しさ、A:冷静さ、FC:楽しさ、AC:素直さ) が学習できたら他人のエゴグラムを直感で作り本人に渡す。 ∼直感で他人のエゴグラムを作る∼ (棒グラフの高さにも意味を持たせる。) ①まず最高自我を書かせる。 ②次に最低自我を書かせる。 ③2番目3番目4番目と書かせていく。 CP (父性) NP (母性) A FC AC (大人性) (子供性) (素直性) 自分が 知らない自分 っ 【手順4】「ジョハリの窓」を学習させ他人のエゴグラムを受け入れる。 ①「公知」:自分が知っていて他人も知っている自分。 自分が 知っている自分 ②「盲目」:自分が知らなくて他人が知っている自分。 知 ③「秘密」:自分が知っていて他人が知らない自分。 ④「未知」:自分も他人も知らない自分。 て他 他人に書いてもらったエゴグラムは①「公知」か②「盲 目」に該当することを説明する。特に他人からもらったエ ゴグラムが自分の予想と反するものについては、他人が間 違っているのではなく、②「盲目」として受け止めるよう に指導する。また、「ジョハリの窓」を学習する場合、①「公 知」の面積を広げていくとストレスが少なく生活ができる ようになることも指導する。 い人 るが 自 分 知 ら 他 な 人 い が 自 分 ① Public (公知) ② Blind (盲目) ③ Private (秘密) ④ Unknown (未知) (参考資料) C P N P A F C A C 5つの自我状態の役割 (「最高自我のマイナスを出さない」 「最低自我のプラスを出す」) プラス面 しつけをする 几 帳 面 道 徳 的 文 化 伝 統を大 切にする 信 念がある 理想が高 い 統率 力がある リーダーシップがある 説得力がある 愛 情 優しい 大 らかさ 欠 点を許す 思いやり 励まし 元気づける 目をかけ る 慰 める 保 護 す る 親 切 包 容 力 が ある 心配り 配慮に長けている 冷 静 客 観 的 情 報 を集 め分 析 し見 通 し を立 て意 思 決 定 をする 現 実 的 今 ここ に目覚めている 気づきが高い 計画 的 事実を調べる データに基づく 人間 らしい 天 真爛 漫 自 由 明るい 自 発 的 開 けっぴろげ エネ ルギッシュ 好 奇 心 旺 盛 ∼がしたい ∼が欲 しい 無邪気 創造的 感情豊か ハッピー 素 直 人 を信 頼 する 控 えめ 謙 虚 従 順 で辛 抱 強 い 穏 やか 周 囲 に合 わせ る 感謝 誠実 マイナス面 口 うるさい 厳 しい 気 難 しい 強 制 する 押しつける 自 己 主 張 しすぎ 人の意 見を聞かない 排 他 的 圧 力 をかける 圧迫する 攻撃的 人 の成 長 を妨 げる 人 を甘 やかす 過 保 護 過 干 渉 お 節 介 甘 え・ 依 存 を助 長 する わがままを許 す 自 立心を妨げる 依頼心を助長する 評 論 家 になりやすい 打 算 的 冷 た い感 じ 人 間 的 信 頼 感 がない 人 間 味がない 味もそっけもない 役割人 間 裏を見る わがまま 自 己 中 心 本 能 的 衝 動 的 目立ちたがり 単純 人のペース を 考 えな い 我 慢 を 知 らな い 持 続 力がない やりっ放し 無責任 不幸 抑圧 黙り込む 悲観的にクヨ クヨ考 える 自 分 を責 める 罪 悪 感 劣等 感が強い 媚びる へつらう 依 存 す る 依 頼 心 が 強 い 顔 色 を うか がう 周りを気にする これが不足すると・・・ ルーズ 成 り行 き任 せ 妥 協 しや すい 信 念がない 批 判 力がな い けじめがつけられない リーダ ーシップが取れない 人 を人 とも思 わない 冷 たい 自 分の考えを押しつける 相手はダ メという発想 拒絶 排除 行き当たりばったり 非計画的 言 っていることとしていることがち ぐはぐ 現 実 離れ 空 想にふける 判断がずれる 衝動的 本能的 ネ ク ラ シ ラケ 人 間 無 気 力 人 生を楽しめない 抑 圧された気 分 ストレスをためやすい 閉 じこ もる エネルギーが少ない 虚 勢 を張 る 素 直 さが無 い 周 り を気にしない 人の意見を聞かな い 非協力的 感謝を知らない 自己変革のポイント C P N P A F C A C ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 活性化する言葉・態度 「私は・・・と思う」とはっきり述べる 「・・・は好きだ」等はっきり言う 決めたことをきちんとやる 時間や金銭を厳しく管理する 最後までやりとげるように 「良くできたね」と好ましい点や良い点をほめる 「どう?最近は」と相手を思いやる 相手の気持ちを思いやる言葉を多用する プラスの言葉で相手と関わりを持つ 良い点をすぐにほめる 動物を飼ったり草木を育てたりする 贈り物をするなど個人的関心を示すようにする 「もう少し詳しく説明して下さい」 「何が問題?あなたの言いたいことは」と確認 6W3Hで確認する(いつ、どこで、何を、なぜ、 どちら、どのように、いくつ、いくら、どの程度) 物事を冷静に分析する 言いたいことやしたいことを文章化する 同じ状況下で、他の人はどうするか考える 自分の行動に無駄がないか確かめる 当たり前と思わず、なぜかと調べる 「それはおもしろそうだ」「やってみよう」 感嘆詞をたくさん使う ユーモア、冗談を言う 短い空想を楽しむ 不快な感情に時間を割かない 遊びの時間を増やす 美味しい、うれしいという気持ちを表現する 子どもやペットと一緒に遊ぶ 聞き役に徹する 相手の意見に従う 自分を主張しない TV、食事、遊び等は相手に合わせる 「 あ り が と う ご ざ い ま し た 」「 す み ま せ ん で し た 」 「お 世話 にな りま した 」「お 疲れ 様で した 」「ご 苦労 様でした」等をできるだけ多くを使う 参考文献 『自分が変わる・生徒が変わる ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ やめたい言葉・態度 「私には関心がない」 「どっちでも良いじゃないか」 「何とかなるだろう」 自分の意見を持とうとしない態度 約束事や決まり事を守らない 「だめじゃないか」 「しっかりやれよ」 「何をやっているんだ」 援助の手を貸さない態度 相手の感情を考えない態度 一方的に話し続ける 「分かりません」「できません」 「思い出せません」「はい、でも・・・」 新しいことに関心を持とうとしない 最後まで相手の話を聞かない すぐに感情的な反応をする 反省しない 「なぜ、どうやって」に関心がない ニュース解説や社説を見たり読んだりし ない 「ゆううつだ」「悲しい、寂しい」 「嫌だ、つまらない、おもしろくない」 「仕方がない」 ため息をつく 嫌な気持ちにひたりこむ 愉快な仲間に加わらない 暗い面ばかり見ている 受け身の姿勢で過ごす 横柄な態度をとる 謝らない 感謝しない 相手に同意しない 自己主張をする 交流分析』 柴崎 武宏 著 学事出版 【指導事例案1】 題材名:生徒主体の職業人講話 (1)ねらい ・実際に社会で活躍している人を“生き方モデル”とし、自分の勤労観や職業観、将来を見つ める。 また、他人と自分の職業観の違いを比較することで自己理解を深める。 ・一方的に話を聴くだけではなく、調べ学習や他者に伝える活動を取り入れ、職業理解を深め、卒業 後の進路選択を適切に行える能力とともに他者に分かりやすく伝える力を育てる。 ・同級生の観点から職業を伝えることにより、進路未定者のレディネスを促す。 <題材設定のねらい> 「職業人講話」は、ともすると生徒が講師の話を一方的に聴くことに終始しがちである。そこ で、生徒主体の職業人講話を実現できるよう、次のような活動を盛り込むことを考えた。 ①講師への質問事項、是非うかがいたいこと等を事前に考えさせ、「職業人講話」に対し、受 け身ではなく能動的に取り組ませる。この活動で、講話を聴く前の自分自身の勤労観や職業 観、将来についての展望を自覚させる。 ②①の質問事項等を取りまとめて講師の方に事前に伝え、当日の講話に取り入れてフィードバ ックしていただく。このことで、他の生徒の質問等を共有し、自己理解を深めさせる。 ③講師の職業についての調べ学習を行い、生徒に講話の中で職業紹介を担当させる。この活動 で、基礎知識を習得した上で講話を聴かせるとともに、他者に分かりやすく伝える力を向上 させる。 (2)全体構想 ここでの職業人講話は 1 人の講師が話をするのではなく、進路ガイダンスのように複数の異なる 職業に従事する方々を招き、生徒はその中から自分の希望する職業の方の話を聴くことを想定して いる。 ※ここでは骨子の提案なので各校の事情に合わせてください。 (ア)事前指導1回目 ①事前アンケートを行い、生徒全体の進路希望を把握する。 ②講師の人数や職業の種類と生徒の希望進路から、生徒をグループに分ける。当日はこのグルー プで講話を聴くとともに、調べ学習や発表もこのグループで行う。 (イ)事前指導2回目 ①グループごとに集まり、その職種について調べてワークシートにまとめる。 例)資格は必要か、平均給与はどれくらいか、など ②講話の中で行う職業紹介の役割分担を決める。 ③講師への質問事項やうかがいたいこと等を各自で考えるとともに、ワークシートを使って、 自分の勤労観や職業観、将来について考えをまとめる。 ※質問事項はグループで検討したり議論したりして決めることも可能である。 ④質問事項等を講師の方へ伝える。 ※可能であれば、質問事項等を講師の方々へインタビュー形式で取材するようにアレンジする と、より生徒の主体的な活動となる。 (ウ)事前指導3回目 ①講話の中で行う職業紹介をグループで検討し、必要なものを作成し、プレゼンテーションの準 備を行う。 ※これらの資料は当日の発表にとどめず、職種別に模造紙等で掲示物を作り、校舎のフリース ペースを使って他学年に情報発信することも可能である。 (3)講話当日の指導 (ア)グループごとに集まり講話を聴く。追加の質問がある生徒は質疑応答の場で行う。 ※各校の事情に合わせて2時間連続の場合は第2希望まで調査し、講話を聴けるように調整し てもよい。 (イ)本時の展開 学習活動と内容 導 入 1 講師の紹介。 2 ワークシートにメモを取り ながら聴く。 ◎ 実 際 に 社会 で 活 躍 し て い る 方 々 の進 路 選 択 の 過程と各生徒の現在の考えを比較することで 自分自身としっかり向き合わせる。 3 職業紹介のプレゼンテーシ ョンを行う、または聴く。 ○ 興 味 の ある 職 業 の 実 際 を 生 徒 の 目線 を 通 し た プレゼンテーションを聴くことで理解を深め させる。 4 自分たちの質問が反映され た講話を、ワークシートに メモを取りながら聴く。 展 開 ま と め 指導上の留意点 ○:配慮事項 ◎:キャリア教育の視点から見て特に重要なこ と ○自分の将来を考えることは誰にとっても重要 であることを理解させる。 5 講話を聴いて、更にうかが いたいことを質問する。 6 講話を聴き、自分の勤労観 や職業観、将来について振 り返る。また、他の生徒の 質問等を共有し、他人と自 分の職業観の違いを比較す ることで自己理解を深め る。 ○ 職 業 人の 講 話 を 1 つ の 「 生 き 方モ デ ル 」 と し て捉えさせ、各自の勤労観・職業観の構築へ とつながるよう、ワークシートを工夫する。 ○ 希 望 した 職 業 を な ぜ 自 分 が 選 んだ の か 、 ど こ に興味・関心があるのかを振り返らせる。 ◎ 職 業 につ い て 知 る こ と は 、 こ の先 の 人 生 を 考 える上で重要であることを気付かせる。 ○ 自 分 が職 業 に 対 し て ど の よ う に考 え て い る か を自覚させるようにする。 (5)事後指導(必要のある生徒のみ) ・回収したワークシートを基に生徒たちの職業や進路についての考えを把握する。 ・しっかりと考えさせたい生徒に対しては面談等を利用し、自分の将来について真剣に考えるよ う促す。 (6)事後指導(全生徒対象) ・これらの活動を終えた後、ハローワーク等で行っている適性検査を行い、今後の進路指導に生 かす。 ・適性検査を行う際は前回の指導も踏まえてしっかりと取り組む雰囲気づくりをする。 ※キャリア教育のために用意した活動を相互にリンクさせ、単発で終わることなく効果を発揮さ せることができるよう、教員が“活動のつながり”を意識しながら指導を行う。 【指導事例案2】 題材名:クラスでハローワーク (1)ねらい ・他者から就職先を紹介してもらうことで、自身とは異なる視点から進路を見つめる。 ・他者の就職先を紹介することで、より深く職業について研究し、理解を深める。 <題材設定のねらい> これまで行われてきた様々な活動がその場で終わってしまうことを危惧し、それらを統合して活用で きる場を作ることをねらって設定した。長期的な活動で得た知識や資料を基に、生徒が自身の希望を丁 寧に考える場を作るとともに、他者からの視点を交えてより適切な職業はどのようなものなのかを考え ていく時間を作ることで、より深く自己の将来を見つめる時間とする。 (2)全体構想 (ア)活動1「将来設計」 ・将来の理想の私を見据えた職業の希望とその理由をまとめる。 (職種・賃金・就業時間・休日・就業場所など) ・自己の適性などからも判断する。 <活用可能な活動> 自己の適性を知る『自分を知る』・・・「自分のトリセツ」「エゴグラム」「ジョハリの窓」「適性検査」 自らの勤労観をつくる『社会を知る』『働くとは』 (イ)活動2「職業を知る」 ・ 社会における様々な職業を調べ、どのような人物が向いているのかをまとめる。 ・ 適性検査などと関連付けられ、照らし合わせながら職業探しができるようにまとめる。 <活用可能な活動> お話をうかがう『社会を知る』『働くとは』・・・「職業調べ」「職業インタビュー」「職業人講話」 実際に体験する『社会を知る』『働くとは』・・・「インターンシップ」「企業見学」「仕事の学び場」 (ウ)活動3「高卒求人の実際を知る」 ・ 高校に来る求人票を分析し、卒業後に就職する可能性のある職業をまとめる。 <活用可能な活動> 「企業見学」「求人票の見方を学ぶ」 (エ)活動4「クラスでハローワーク」 ・ 各自の将来設計に基づき、職業希望票を作成させる。 ・ クラスメートの職業希望票と実際の求人票を照らし合わせ、適切な職業を紹介し合う。 様々な活動の総まとめとして行う。 様々な活動のまとめを資料として活用する。 (3)留意事項 ・どの活動も、一つを1時間で行う必要はなく、つながりがあることを常に意識する。 ・連続して活動を行う必 要はない。年間や高校生 活を通して最終的な進路 決定までを見据えた活動 にする。 ・各活動でまとめた資料はファイルし、いつでも閲覧できるようにしておく。 (4)展開例「活動4 展開 1 クラスでハローワーク」 学習活動 ・ それぞれの生徒が職業希望票及び適性診 断の結果を提出する。 *希望票…職種・賃金・就業時間・休日・ 就業場所などの優先順位をつ けてまとめさせる。 2 ・ 指導上の留意点 ○ 自分の適性と将来設計に基づいて自己 に適切な就職希望票を作成させる。 *活動1で作成した資料を活用させる。 就職希望者(クラスメート)の希望票 ○ こ れ ま でま と め て き た 職 業 に つい て の 資料を活用させる。 及び職業についての適性などと職業に ついての資料・求人票を照らし合わせ、 *活動2「職業を知る」の活動でまとめ 紹介する就職先をまとめる。 させた資料を活用させる。 ○ 紹介する理由をしっかりと考えさせる。 ○ 様々な進路を考慮して、いくつかの候補 をまとめさせる。 ○ 希望者の適性診断も活用し、多少希望と は異なっていてもお勧めの就職先があ れば紹介する。 3 ・ 照合の結果、お勧めの就職先を就職希 望者へ紹介する。 ○ 紹介する就職先に関してしっかりとし た理由を述べさせる。 *希望票などの資料や紹介したもの就職 先を一緒にまとめポートフォリオとし て活用できる。 4 ・ 勧められた就職先について改めて研究 し、どこを第一希望とするか理由と共 に発表する。 ○ 就職希望先を決定した理由を述べさせ る。 ○ 希望に合った就職先がない場合は、もう 一度展開1から展開3をくり返し、でき るだけ選ぶように指導する(現時点での 希望でよい)。 生 徒 指 導 1 研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 『いじめ問題への対応について∼いじめを未然に防ぐには∼』 (2)研究のねらい いじめ問題は、今日の著しい社会状況の変化の中で複雑化・多様化してきている。また、これまで顕在化 していなかったネット上のいじめ等、新たな問題も発生してきており、いじめ問題は常に喫緊の課題となっ ている。平成25年9月に「いじめ防止対策推進法」が施行され、いじめの未然防止、早期発見、初期対応に ついての責務が明確に示された。それを受け、学校においてはいじめ問題に組織的に取り組む体制を構築す ることが求められ、教職員一人ひとりの意識改革・意識向上も含め、各学校での「いじめ防止基本方針」の 策定が義務付けられた。 そのような新たな取組が行われようとしている中、過去の研究集録にもあるように、いじめの早期発見や 初期対応等に関しては、様々な方面で調査・研究・報告がなされてきた。しかしながら、いじめの撲滅まで には至っておらず、現場での対応に苦慮しているケースもある。そこで今回は、研究の着眼点を、いじめの 早期発見や初期対応ではなく未然防止に置き、生徒・教員を対象としたいじめへの意識調査を実施し、それ に応じていじめを未然に防ぐための様々な取組を取り上げた。本研究が教育活動の様々な場面において活用 されることを期待し、また役立てていただけることを願っている。 2 いじめとは (1)いじめの定義について いじめの防止等は、すべての学校・教職員が自らの問題として切実に受け止め、徹底して取り組むべき 重要な課題である。しかし、いじめは日常生活の延長上で起こり、非常に定義しづらい。昭和 60 年に文科 省が行った「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によるといじめは、「『(1)自 分より弱い者に対して一方的に、(2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、(3)相手が深刻な苦痛 を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。』とする。なお、個々の行為がいじめ に当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。」 と定義されている。 その後、平成 19 年に行われた調査では、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形 式的に行うことなく、いじめられた児童・生徒の立場に立って行うものとし、定義を次のように修正した。 「『いじめ』とは、『当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたこ とにより、精神的な苦痛を感じているもの。』とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」 その定義は継承され、平成 25 年に制定された「いじめ防止対策推進法」の第二条において「この法律に おいて『いじめ』とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定 の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行わ れるものを含む。 )であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。 」と 定義されている。 (2)いじめに関する意識調査 法律では、いじめは上記のように定義されているが、実際の学校現場で生徒や教員がいじめをどのよう に認識しているか、また、どの様な状況等がいじめと認められるかを確認するため、いじめに関する事例を 挙げての意識調査を実施した。本研究推進委員の勤務校7校で抽出した生徒(計300名)と教員全員(計241 名)を対象に実施した結果と考察を次に記す。 【質問用紙】 「いじめかな?」事例から考えてみよう! ●どの時点であなたは「いじめ」と判断しましたか?回答用紙に記入して下さい。 【事例1】 うちのクラスの男子5∼6人のグループで、休み時間にいつも教室でプロレスごっこをしている。1対 1で交代しながら技をかけ合っていたみたいだけど、 ①A くんが技をかけられることが多くなったみたい。 ②それに A くんのときだけ、2∼3人で攻撃していることがある。 ③一方的にやられていて苦しそうな ときもある。今日も「プロレスごっこやろうぜ」って A くんを誘っている。A くんはヘラヘラ笑いながら 仲間に入ってるけど、なんか気になる。これっていじめじゃないのかな。 【事例2】 うちのクラスの B くんはいじられキャラ。①授業中にちょっと外れたことを言うので「KYB」って呼ばれ るようになった。はじめは私もおもしろくてみんなと一緒に笑ってたけど、②このごろ B くんが普通のこと を言っているのにクスクス笑う子が何人かいる。③今日も授業中に一人の子が「KYB、なんかおもしろいこ と言えよ。 」って言った時に、B くんは困った感じで黙ってた。なんか気になる。これっていじめじゃない のかな。 (※ KYB:空気の読めない B) 【事例3】 うちのクラスの C さんはおとなしくまじめなタイプ。掃除の時間もちゃんとまじめにやっている。掃除当 番グループはほうきや雑巾、ゴミ捨ての順番が曜日によって決まっているんだけど、①気がつくといつも C さんが雑巾をやっている。②今日は掃除当番グループの一人の子が「委員会があるからお願い」と言ってゴ ミ捨てまで C さんに頼んでいた。本当はゴミ捨てしたって委員会に間に合うのに。③その子は「C さんはえ らいね」ってニヤニヤしながら肩をたたいていた。なんか気になる。これっていじめじゃないのかな。 【事例4】 D くんはわがままで、自分勝手なタイプ。クラスの係決めや行事の役割分担の時、なんだかんだ理由をつ けて自分のやりたい役を必ずとる。でも、さぼってばかりで、仕事をしていないことが多い。そのため、 ①E くんが D くんに、しっかり仕事をするように注意したけど、D くんは聞こうともしない。不満に思った E くんは、みんなに悪口を言い始めた。②みんなも E くんと一緒に D くんを責めることが多くなった。③そ の後、D くんはクラスで浮いてしまい、行事にも参加できなかった。なんか気になる。これっていじめじゃ ないのかな。 【事例5】 F さんは内気でおとなしいタイプ。SNS で日記を書き、自分の思いを書いている。①日ごろからうらやま しいと思ってた G さんに対し、逆説的な意味も込めて批判的なことを書いてしまった。この SNS 上の日記は G さんには見られないような設定にしていたけど、人づてに G さんに内容が知られてしまった。②怒った G さんは、F さんに対する文句を SNS に書き込んだ。③他の女子生徒も G さんに同調して、F さんの悪口を SNS に同じように書き込んだ。なんか気になる。これっていじめじゃないのかな。 【回答用紙】●どの時点でいじめと判断しましたか?該当するものに1つ○を付けてください。 生徒 ① ② ③ ④ いじめには当てはまらない ⑤ わからない 教員 ① ② ③ ④ いじめには当てはまらない ⑤ その他(自由記述:自由記述欄参照) 結果 【事例1】 ・多くの生徒は、②と③の時点でいじめと判 断しているが、多くの教員は、①と②の時 点でいじめと判断している。 ・生徒も教員も事例の中で最も④の答えの割 合が少なかった。 【事例2】 ・多くの生徒は、②と③の時点でいじめと判 断しているが、多くの教員は、①と②の時 点でいじめと判断している。生徒の意見の ばらつきが事例の中で最も多く見られた。 【事例1】生徒結果 14% 7% 34% 【事例1】教員結果 8% 37% ① ② ③ ④ ⑤ 3% 13% ① 4% 【事例2】生徒結果 14% 28% 28% 37% 42% ① ② ③ ④ ⑤ 【事例2】教員結果 10% 20% 5% ② ③ 4% 25% 28% 39% ① ② ③ ④ ④ ⑤ ⑤ 【事例3】 ・多くの生徒は、②と③の時点でいじめと判 断しているが、多くの教員は、①と②の時 点でいじめと判断している。教員の意見の ばらつきが事例の中で最も多く見られた。 【事例4】 ・多くの生徒は、②と③の時点でいじめと判 断しているが、多くの教員は、①と②の時 点でいじめと判断している。事例の中で、 生徒と教員ともに、②の答えが多い。 ・多くの生徒と教員が、②の時点でいじめと 判断している。 【事例5】 ・多くの生徒は、③の時点でいじめと判断し ているが、多くの教員は、①と③の時点で いじめと判断している。多くの生徒と教員 が、③の時点でいじめと判断している点は 共通している。 【事例3】生徒結果 【事例3】教員結果 16% 7% 26% 34% 17% ① ② ③ ④ ⑤ 【事例4】生徒結果 15% ① ② 38% 【事例5】生徒結果 16% 15% ① ② ③ ④ ⑤ 9% ① 5% ② ③ 43% ④ 15% ⑤ ・③が日常的であればいじめである。 ・プロレスごっこをさせない指導をする。 ・この状況でもAくんはいじめられている感覚がなければいじめにはならない。ただ端からみて異常にみえることは伝えるべきである。 ・次にエスカレートするかしないかで、いじめと判断できるのではないか。 ・①が続くようであれば気にする。 ・①の時点で声かけして判断する。 ・いじめかそうでないかは「繰り返し」がポイントではなかろうか。悪口・無視・攻撃を繰り返すのは嫌がらせで即いじめだと思う。 ・②の行動はいじめの構造と考えるが、Aくんの心情も知る必要がある。 ・①が続くようであれば気にする。 ・軽んじられていることは認められるので、本人の気持ちを確認する。 ・あだなについては本人の承認が必要である。 ・呼んでいる者に悪意があればいじめであろう。 ・掃除をする行為自体は問題ではないので、やらない子の指導をすればよい。 ・詳しい状況がさらにないと、判断できない。 ・掃除はルール通り順番にやるように指導する。 ・Cさんが自分の意向に反していつもやらされているようであればいじめと考える。 ・グループ内でどのような分担を行うべきか確認したり、Cさんや他の子にも話を聞くべきである。 ・悪口を繰り返すのはいじめだと思う。 ・コミュニケーション能力を高めることが重要である。 ・①の段階で教員が助言を行うべきである。 ・Dくんにも問題があるのでは?その指導が優先されるべきである。 ・①の悪口の内容にもよると思う。 ・そもそも学校のことなどでSNSでアップしない。 ・いじめというか、Fさんが書き込んだ時点で駄目だと思う。 ・①②の行為が問題だと思う。 ・SNSの扱いについて指導するほうが先決では? ・双方から話を聞いて確認する必要があるのでは? ・①の時点でFさんに問題があるのでは? ・批判的なことをSNSにアップした時点で、本人に知られようとそうでなくてもいじめである。 ・SNSは、自己責任で利用するもの。自己責任が負えない内容を書き込むこと自体指導すべきである。 ・双方ともに悪い。 ・SNS上に特定の相手に対することを書き込むことは危険だと理解させることが必要である。 ① ② ③ ④ ⑤ 【事例5】教員結果 45% ・B君が精神的に苦痛を感じていないかを確認すべきである。 事例5 29% ⑤ ・B君がKYBと呼ばれることをどう思っているのか?もし嫌だと思っているのなら、①の時点でいじめである。 事例4 3% 44% ④ ・いじられキャラと言っている時点でいじめである。 事例3 32% 9% 15% ③ ・からかいは繰り返されるといじめになる。 事例2 29% 24% 教員⑤その他(自由記述)で回答があったもの 事例1 6% 【事例4】教員結果 18% 11% 18% 9% 4% ① 37% ② 11% ③ ④ ⑤ 考察 ・生徒と教員では、教員の方が早い段階でいじめではないかと思う傾向があり、いじめに対する認識には生徒 と教員間に顕著な相違があると考える。いじめについて常にアンテナを高くしている教員の方が生徒に比べ て、いじめに対する意識が高いことが確認できた。 ・全体的に生徒・教員ともに回答にばらつきがあり、本調査からいじめ問題の難しさが再認識された。また、 特に【事例2∼5】では、30%近くの生徒が④いじめに当てはまらない、⑤わからないと答えていることか ら、本調査のような事例が学校で日常的に起きていると推測できる。 もし、このような事例が実際に起きた場合、教員は臨機応変に対応することが必要である。また、このよう な事例が起きる前にいじめを未然に防ぐ取組を充実させることが求められる。 3 いじめを未然に防ぐには (1)自己理解と他者理解を深める取組における事例 いじめが起こる要因は様々である。いじめが起こらないようにするためには、自己について客観的に認 識し理解することや他者を受け入れられるような、より良い人間関係を築く力が必要となる。そこから自 己肯定感が高まり、自信が付き他者を受け入れ支え合うことができるようになる。また、自己肯定感を安 定して持つことで他者との確執やトラブルも回避することができるだろう。自己理解・他者理解を深め、 人間関係をより良い形で構築する力を身に付けることがいじめを未然に防ぐことにつながる。ここでは、 2つの取組事例を紹介する。 ア 東京都の取組事例 東京都教育委員会が平成 20 年から 24 年の5年間にわたり、次のような研究と取組を実施した。 児童・生徒の自尊感情を高めるための教育の充実が目的であり、自尊感情を「自分のできることできな いこと、すべての要素を包括した意味での『自分』 、を他者とのかかわり合いを通して、かけがえのない存 在、価値ある存在としてとらえる気持ち」と定義し、22 項目の「自己評価シート」と保護者や教員が実施 する 24 項目の「他者評価シート」を開発した。このシートを活用して、 「褒められる、認められる、感謝 される」体験や児童・生徒一人ひとりの自尊感情を高める学習内容や指導方法の工夫を行った。取組を実 践した学校では、児童・生徒の自尊感情の高まりが確認され、規範意識の改善や学力・体力の向上につな がっている。今後、自尊感情測定尺度「自己評価シート」 「他者評価シート」の全校実施を含め、自尊感情 を高める視点からいじめの未然防止の取組として取り上げている。 東京都教職員研修センター研修部教育開発課が主体となり慶應義塾大学の協力で研究を進め、取組の報 告がまとめられており、 「自己評価シート」 「他者評価シート」の様式やグラフ化するためのデータも次の ホームページからダウンロードすることができるので参考にしていただきたい。 ※ 東京都教職員研修センター http://kyoiku-kensyu.metro.tokyo.jp/ →研究成果の活用→東京都教職員センター紀要等→平成 23 年東京都教職員研修センター紀要(第 11 号) イ 北海道の取組事例 北海道教育委員会の取組として北海道上ノ国高等学校の事例を紹介する。 ① 取組の特徴 地域社会や小・中学校と連携したボランティア活動により、生徒のコミュニケーション能力、自己理解 能力、他者理解能力及び共感力や教員のカウンセリング能力の向上を図り、 「全教員による」教育相談体 勢を推進することが掲げられている。 ② ねらい 子ども理解支援ツール『ほっと』 ・6領域学校環境適応感尺度『アセス』の調査結果を活用し、教員に よる個別相談の充実を図った。生徒同士がお互いに認め合うことができる機会を授業やHRにおいて意識 的に設けるようにした。結果として、人間関係の広がりと学校に対する安心感、自己理解力が深められ、 望ましい人間関係づくりの進展と学校不適応の未然防止が図られた。 ③ 子ども理解支援ツール『ほっと』について※1 【趣旨と目的】 児童・生徒のいじめや不登校等の問題行動等への対応は、未然防止の取組を充実させることが重要であ り、とりわけ、児童・生徒が、自分の思いや考えを適切に表現したり、思いやりの心をもって他者と関わ ったりするなど、よりよい人間関係を築く力を高めていくことが大切である。そのため、北海道教育委員 会では、コミュニケーション能力や日常生活等への満足度、精神的な安定度など、児童・生徒をより深く 理解するために必要な情報を計画的、総合的に測定することができる独自シート「子ども理解支援ツール 『ほっと』 」を、北海道医療大学と共同で開発した。 【測定できるコミュニケーションスキル(13 要素) 】 児童・生徒に対しアンケートを実施することにより、コミュニケーションスキルに関する 13 要素の実 態を把握することができる。 「ほっと」は、発達の段階に応じて、小学校低学年、中学年、高学年、中学 校、高等学校の5種類があり、高等学校のアンケート項目は 24 項目から構成されている。 大項目 対人関係 基礎項目 中項目 自己表現 他者配慮 集団維持 関連項目 13 要素 挨拶や感謝 挨拶や、 「してもらったこと」への感謝ができるか。 発言や説明 意見や欲求を主張できるか。 仲間づくり 対人参加や、仲間と協調することができるか。 思いやり 相手への配慮や親切、援助ができるか。 拒否 断ることや、他者からの無理な働きかけに「やめて」と言うことが できるか。 称賛 相手をほめたり、喜ばせたりすることができるか。 ルールやモラル 助言や注意 自律 リーダーシップ 相談項目 要素の説明 規則や秩序を維持したり、不適切な行為を謝罪できるか。 社会的な望ましさを促進する働きかけができるか。 協調性や我慢などの自律的な行動ができるか。 集団をまとめることなど、リーダーシップ行動ができるか。 学業 学業に関連した望ましい行動ができるか。 相談 相談や自己開示ができるか。 緊張 緊張や不安によって話せなくなることがあるか。 ④ 6領域学校環境適応感尺度『アセス』について※2 「児童・生徒の学校環境適応状況等調査」で用いた「アセス」は、広島大学大学院等で開発された児童生 徒の学校適応感を測定することができる尺度であり、下表の6つの因子から構成されている。 児童・生徒の質問紙は、各因子につき5つの質問に5段階で回答(1つの因子で最大で 25 ポイント)す るように作成されている。 因子名 生活満足感 把 握 で き る 内 容 生活全体に対して、満足感や楽しさを感じている程度で、総合的な適応感を示す。 教師サポート 担任(教師)の支援があるとか、認められているなど、担任(教師)との関係が良好であ ると感じている程度を示す。 友人サポート 友だちからの支援があるとか、認められているなど、友人関係が良好だと感じている程度 を示す。 向社会的スキル 友だちへの援助や、友だちとの関係をつくるスキルを持っていると感じている程度を示す。 非侵害的関係 学習的適応 無視やいじわるなど、拒否的・否定的な友だち関係がないと感じている程度を示す。 学習の方法も分かり、意欲も高いなど、学習が良好だと感じている程度を示す。 ※1北海道教育委員会「子ども理解支援ツール『ほっと』 」 http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/ssa/stepup/h25_02_hotto.pdf ※2北海道教育委員会 「中 1 ギャップを理解する」 http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/ssa/chu1gyappu/H22chu1_01.pdf ※北海道教育委員会 「高校生ステップアッププログラム」 http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/ssa/stepup.htm (2)生徒会活動における取組事例 生徒の代表である生徒会が主体となって、いじめの未然防止活動に取り組むことにより、生徒はいじめを 自分たちの問題として捉えることができる。生徒自身がいじめについて考え、いじめに対する意識を高める には、同じ目線である生徒からの働きかけが有効であり、お互いを思いやる心を育むことにつなげることが できる。次に県内2校の取組事例を紹介する。 ア 神奈川県立秦野総合高等学校( 定時制 ) 活動名 「 ストップ・ザ・いじめ会議 」 活動時期 2月末∼3月上旬(平成 24 年度より実施) 活動内容 マナーアップ運動の一環として活動 生徒会が主体となり、ポスター等を作成し全校生徒に会議への参加を呼びかける。事前に教員がビデ オ等を使い「いのちの授業」という形で1時間授業を行う。会議は、生徒会本部役員の呼びかけで集ま った有志 20∼30 名の生徒で、放課後に視聴覚教室を使用して開催し、特に結論は出さないが、生徒同士 で自分の体験談を話す等、いじめについて話し合う中で「相手を傷つけること」について考え、「いじ めは絶対に許されない行為である」ということの自覚につなげることを目的として実施している。 イ 神奈川県立愛川高等学校 活動名 「 携帯安全教室 」( 非行防止教室 ) 活動時期 6月 活動内容 厚木警察署との連携による活動 生徒会役員が愛川中原中学校に出向き、寸劇を交え「LINE」や「ツイッター」等インターネットのル ールや危険性等に関する「携帯安全教室」を実施している。基本的には、年1回6月の実施であるが、 要請がある場合には他の中学校でも実施している。非行防止ということが主の活動であるが、インター ネット上のいじめ防止にもつながる活動でもある。また、 「やって良い事か悪い事かを判断する力」 「他 人の気持ちを考えて行動する思いやりの気持ち」 「悪い事はしない、悪い事にながされない強い意思を持 つ」ことの大切さを伝えることは、いじめ防止活動ということもできる。 悪 い事 良 い事 ネットの利用 君ならどうする? 愛川高校 ver. (3)部活動における取組事例 異年齢の生徒が同じ活動をする部活動では、いじめや人間関係のトラブルの発生が少なくない。部活動 において、いじめに対する意識を高め、いじめを未然に防ぐ活動に取り組むことは有意義である。 国立教育政策研究所生徒指導研究室が普及に力を入れているピース・メソッドは、課題を明確にして手 順を踏むことにより教員間の連携・協力を生み出し、生徒への働きかけを効果的に実施できるという特徴 があることから、いじめ防止学習プログラムの基底となっている。ここでは、ピース・メソッドを取り入 れて成果を挙げている、新潟県の部活動における取組事例を紹介する。 新潟県教育委員会 いじめ防止プログラム 【カリキュラム・学習ユニット編(いじめ・人権学習の展開)第 3 章 部活動で より抜粋】 ア いじめが発生しやすい要因 ① 体力や技術の違い いじめの背景の一つに、「同じことを求め、違いを排除する風潮」が指摘されている。部活動は、 個人の体力や技術が誰の目にも明らかな形ではっきり出る場合が多いため、みんなと違うことから、 攻撃されたり、排除されたりするケースが生じやすい。 ② 優越感とコンプレックス 同じ活動をしていることから、うまくできる生徒は優越感を、うまくできない生徒は劣等感を持つ という状況が生まれやすい。そのことで他を見下したり攻撃したりする言動を生み、いじめにつなが りやすい。 ③ ストレス ほとんどの部が、大会やコンクールを目指して活動している。その中で、いつのまにか勝つことや よい成績を収めることだけが目的になってしまい、「勝たなければ」という雰囲気の中で、生徒はス トレスを強め、いじめの起きる状況が生じやすい。 イ いじめの起きない部活動にするための具体的な手立て ① 部活動の方針について、生徒や保護者に伝える。 ・部活動顧問会(4月上旬): 部の顧問が集まり、学校の部活動の目的と活動上の留意点を話し合 い、決定する。その際、望ましい人間関係作りを大切にすることを確認する。 ・部活動説明会と部活動紹介(4月中旬): 生徒会と打ち合わせ、顧問会で決定したことを部長会 を通して伝える。新入生への説明や部活動紹介でもそのことをきちんと伝える。 ・体験入部期間 : 技術的な指導よりも、部活動の楽しさや「先輩」の優しさを伝え、新入生が安 心して部活動を選べる気持ちを持てるよう、各部活動で工夫した活動を行う。 ・部活動保護者会 : 部活動を見学する機会を設けると同時に、保護者への部活動の活動・運営方 針を説明し、理解を得る。また、生徒が困っていることや悩んでいることがあったら遠慮なく相談 してほしいことを伝える。 ・部長会 : 少なくとも学期に1回は、年度当初の部活動の活動・運営方針を確認し、改善すべき 点について話し合う。また、学校での部活動のスローガンをつくり、各部活動で取り組む。 ② 生徒との信頼関係を深め、ストレスをためさせない。 ・「部活動悩みアンケート」の実施 部活動での生徒の悩みを顧問や学級担任が把握し、適切な対応をとる。 ・部活動顧問との教育相談(上記を実施した後で) 上記の資料を参考に、部活動単位で行い、保護者と連携しながら適切な対応をとる。 ・よさを伸ばすことを基本にした日常練習 ほめることで、自信がつき、次への意欲がわく。また、自分を伸ばしてくれるという顧問への信頼 感も育つ。 ③ 温かい人間関係を育てる。 ・日常の練習の中で、上級生と下級生が一緒に活動する場面をつくる。 上級生が下級生に技術指導を行うことを通して、お互いをよく知り、「先輩」への尊敬の気持ちや 「後輩」への思いやりが育つ。 ・準備や後片付けは全員が協力して行う。 準備や後片付けはみんなの仕事であり、協力してやることで時間の節約やよりよい人間関係ができ ていくことを、体験を通して気付かせる。 ・どんな「先輩」になったらよいか、考えさせる場面をつくる。 上級生にどうされるとうれしかったか。逆に下級生にどうされると嫌だったか。自分の体験を基に 考えさせ、信頼される「先輩になろう」という気持ちを持たせる。 ・大会前後のミーティングで話し合う。 大会に臨む決意や、後の反省を、作文に書かせ、それを部員全員に紹介して互いに励まし、支え合 っていくことを確認する。 ④ 力を合わせることのすばらしさや支え合う大切さについて考えさせる。 ・大会前後のミーティング : 選手、補欠、応援の区別なく頑張った生徒や一生懸命に取り組んだ 生徒、みんなのために尽くした生徒を顧問が全員に紹介する。 ・大会 : 勝ち負けだけが、部活動の目的ではないことや、毎日の活動で、一人ひとりが何を学ん だか、部の仲間たちがどれだけ心や体力・技術を成長させたかが、一番大事であることなどを、試 合後のミーティングで伝える。 ※ 新潟県教育委員会 いじめ防止プログラム http://www.pref.niigata.lg.jp/gimukyoiku/1192033847756.html (4)地域交流における取組事例 豊かな人間性を育むためには人と関わることを喜びと感じる体験が必要であり、地域交流が果たす役割 は大きい。地域交流は学校外に生徒の活躍の場が広がり地域の方々と交わることにより、他者を思いやり、 他者と協調し、そして自ら感動を得ることができるよい機会となる。地域交流は、他者理解や自己有用感 の育成という点において、いじめを未然に防ぐための効果的な取組である。成果を挙げている2校の取組 事例を紹介する。 ア 神奈川県立岸根高等学校 「地域連携事業」 【事業のねらい】 豊かな人間性と社会性、並びに汎用力の育成のために、地域の教育力を活用しながら「高校生の有用 感を高める」という観点を重要視し、地域県民との交流( 「すこやかサークル」での異年齢交流)を活性 化することで、その実現を目ざす。 【事業の実績】 ・地域小学校とのレクリエーション交流、クラブ交流、運動会への参加 ・スポーツ教室の実施(バレーボール、フラッグフットボール、サッカー) ・文化祭における地域交流活動(地域団の文化祭への参加) ・小学校での防災時炊き出し訓練への参加 【事業の評価】 ・小学校との交流において、充実感を味わいながら活動する姿が見られた。保護者からも「うちの子が目 をキラキラさせて『楽しかったよ。 』と言って帰ってきました。 」との言葉をいただいた。 ・地域の文化祭、祭り、音楽交流会などに参加することで、 「他者を楽しませる喜び」 「他者の役に立つ喜 び」を得ることができた。 イ 神奈川県立平塚農業高等学校 「生産物販売」 【活動のねらい】 種まきから栽培を通して、生命全体を維持管理し収穫した生産物を、地域の方々に対して販売するこ とで自己達成感を得ることができる。また、異年齢交流における言語活動、コミュニケーション能力の 向上等、心豊かな人間を育む場として位置付け、地球に根ざした開かれた学校づくりを行う。 【販売の形態】 農業クラブに所属している、野菜研究班・花卉研究班・果樹園芸研究班・食品加工研究班が日頃の実 習カリキュラムで栽培・育成・収穫した生産物を自ら商品化し、それぞれの研究班が地域の方々を対象 として原則毎週火曜日に実施している。 【生徒の声】 ・日頃からの共同作業によって、自分たちで育てた農作物を収穫することに大きな喜びを感じる。また、 地域の方々が楽しみにしてくださっているので、頑張れる。 ・命あるもの(農作物)を育てることの大変さを痛感する。 ・来てくださる地域の方々に、自分で収穫した野菜を販売した時、笑顔を見ることができるのが、とても うれしい。 ・人と接することが苦手だったが、話しかけることができるようになった。 【地域の声】 ・生徒たちが、日頃から栽培した野菜を食すことは、何か温かいものを感じる。 ・生徒が一生懸命販売している姿には、好感が持てる。これからもぜひ続けてもらいたい。 【活動の評価】 他者と協力し、生命あるものを育てる「いのちの授業」を体験することによって、生命の大切さを実感 し、思いやりある優しい心が着実に育まれていることが、生徒のアンケートからも伺うことができる。 (5)異年齢交流によるきずな作りにおける取組事例 幅広い異年齢交流は、それぞれのコミュニケーション能力を大きく向上させ、自身の置かれた環境におい て、果たすべき役割や責任を見つめ直す「自己理解」の場にもなる。自分と関わる様々な人たちの考えを受 容することで、協調性や「他者理解」も身に付いていく。ここでは、異年齢交流によるきずな作りを進め、 いじめを未然に防ぐための成果を挙げている2校の取組事例を紹介する。 ア 神奈川県立平塚中等教育学校の取組事例(スチューデントメンター制度導入校) 後期課程生4年生・5年生(高校1、2年生相当)が前期課程生1年生∼3年生(中学1∼3年生相当) の相談に乗る制度で、各学年の定員は 20 名程度である。具体的な活動としては、一般的な相談業務の他、 ランチアクティビティや宿題サポート等が挙げられる。 【メンター制度導入の目的】 ・後期課程生の視点から、前期課程生の学校生活や人間関係についての悩みの解決の支援を行う。 ・後期課程生は、前期課程生の悩みの解決支援に当たる中で、自らのコミュニケーション能力や人間関係 構築力を向上させる。 ・相談活動を通し、幅広い年齢集団の生徒が自然に調和することで、学校生活の活性化を図る。 【メンターになるため研修の内容】 ・3年次の夏季休業中に指定研修の次の内容の指定研修を受けることが義務付けられている。 ・集団活動によって自己開示をする体験(グループエンカウンターなど) ・傾聴、共感といった話の聴き方に関する体験 ・メディエーション(自己洞察)の学習及び訓練 ・人の話を聞いてストレスを感じた場合の対処の方法 【メンター(4∼5年生)の感想】 ・後輩に頼られて少し照れくさかったが、嬉しかった。 ・何か人の役に立つ仕事ができることは素晴らしいと思った。 ・1年生がとても可愛く愛おしく思えた。 ・自分の存在価値を再認識することができた。 ・人に何かを教えることで、自分も少なからず成長できた感じがした。 【前期課程生(1∼2年生)の声】 ・身近にお兄さん、お姉さんができたような気がした。 ・先生には相談しにくいことも、先輩だと気軽に相談することができた。 ・自分も後期課程になったらメンターをやってみたい。 ・メンターの先輩と一緒に昼食を食べることができて嬉しかった。 ・勉強面で分からないところを親切に教えてくれた。 イ 茅ヶ崎市立浜須賀中学校の取組事例(スクールバディ制度導入校) 教師側の働きかけだけではいじめを根絶することは難しいと考え、 「いじめ防止教室」 「いじめ防止プログ ラム」を実施するとともに、希望生徒を対象に「スクール・バディ・トレーニング」を実施し、生徒の自治 活動によっていじめ防止を図れるように取り組んだ。 (県と湘南 DV サポートセンターとの協働による「地域 と学校によるいじめ防止推進事業」対象校) 【取組の概要】 ○ 第1学年: 「いじめ防止教室」(90 分) 友だちとの「境界」 (適切な距離感)の取り方や、 「アサーティブ」な話し方についてのワークショッ プ形式の講演を実施した。 ○ 第2学年: 「いじめ防止プログラム」 (50 分×4回) 「いじめとはどんなことか」 「いじめられた人の気持ち」 「いじめる人の背景にあるもの」 「アサーティ ブコミュニケーションの取り方」等についてのワークショップ形式の取組を実施した。 ○ 上記修了者のうち希望生徒: 「スクール・バディ・トレーニング」 (50 分×8回) 生徒同士の主体的な支え合いのために、相談の聞き方のスキルを身に付けるトレーニングである。 終了後は、スクール・バディとして活動する。バディ・ルームを活動拠点とし、バディ・ルームに来 る生徒の話を聞いたり、いじめを未然防止する様々な企画を考えたりする。 ⇒ 「いじめを絶対に許さない校風」をつくる。 【取組の効果・成果】 ・生徒に身近な問題を取り上げることにより、具体的なイメージを持って考えさせることができている。 ・いじめを様々な角度から考える場を設定することにより、生徒のいじめ防止のための視野を広げること ができている。 ・日常的に「いじめ防止」について考える環境をつくることにより、生徒が「いじめ防止」について意識 するようになってきている。 ・3年間、継続して取り組むことにより、「いじめを絶対許さない校風」が生徒に定着しつつある。 ・スクール・バディのメンバーが、全校集会や放送で、いじめ防止のキャラクターや生徒が書いた「いじ め防止行動宣言」を紹介する等をして、「いじめ防止」について全校で考えようという環境をつくるこ とができている。 ・スクール・バディが、定期的に全校に「いじめ防止」を投げかけることによって、全校生徒にとって「い じめ防止」が、自分たちの課題として捉えられるようになってきている。 4 終わりに 本研究推進委員会(生徒指導部門)が独自に実施したいじめに関する意識調査の結果・考察から、生徒と教員 のいじめに対する認識には、教員が生徒より早い段階でいじめであると捉える傾向にあることが分かった。ま た、生徒・教員のいじめに対する認識はばらつきが多い傾向があることも分かり、いじめ問題の難しさととも にいじめを未然に防ぐための取組が重要であることを再確認した。 本委員会は、他県や県内の学校のいじめを未然に防ぐための取組を挙げ研究協議を行い、生徒や教員の意識 調査等の実施により「自己理解」や「他者理解」の事態を認識し、その調査結果を活用して教育活動や指導を 進め、自尊感情や自己有用感を高めている事例や、生徒が主体となった行事や体験活動、地域交流、異年齢交 流によるきずな作りなどを実施し「豊かな人間性」を育んでいる事例を紹介した。 これらの取組は、生徒自身の果たす役割や責任を見つめ直す「自己理解」の場となり、生徒が他者の考えを 受容し協調性を身に付けることで「他者理解」の場ともなる。さらに、取組の評価から生徒が自身の存在価値 (自己有用感)をも実感し、体験や交流を通じての達成感の中「感動する心」や「豊かな人間性」も育まれて いく。 このように自己や他者との深い関わりから生徒の人間力が高まり、「望ましい人間関係の形成や社会生活上 のルールの習得などの社会性」の育成につながり、それが「いじめ」に正面から向き合い「共に生きる」こと のできる安心で安全な学校づくりの礎となっていく。 今回紹介した取組の他にも、教員は状況に合わせた適切な声かけ・助言や臨機応変な対応の中から、生徒の ささいな変化に気付き、「いじめではないか」とアンテナを高くすること、また、学校は校内の研修制度をさ らに構築し教員の意識を高めることが求められ、ともにいじめの未然防止に全力で取り組むことが必要である。 人 権 教 育 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 新たな参加体験型学習教材「ワークシート集」の作成に向けた授業展開例の考案とその実践を通し、授 業やLHR等での活用を目ざした教材と人権課題の研究を行う。 (2)研究のねらい 学校教育における人権教育に関しては、各学校における道徳教育全体計画の中に位置付け、学校教育全 体での展開を進めているところであるが、依然として課題の知的理解にとどまる面が見られ、人権感覚が 十分に身に付いていないとも指摘されている。研究推進委員会(人権教育部門)では、「かながわ人権施 策推進指針(改定版)」に基づき、生徒が「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」ができ るようになり、そのことが具体的な態度や行動に現れるような指導、すなわち、「人権感覚を十分身に付 けるための指導」の充実と普及を目ざし、学校の授業等で活用できる教材とその活用方法の作成をねらい とした。 2.研究で取り組んできた内容 「人権学習ワークシート集Ⅵ−人権教育実践事例・指導の手引き(高校編 第15集)−」の平成27年度発 行に向け、平成25年度より3年計画で準備を進めている。本年度はその2年目となり、平成25年度に作成し たワークシートの検証と更に新たなワークシートの考案を目標とし、来年度のワークシート集の編集作業に つなげるための準備を行った。 3.研究の目標を達成するための手立て (1)高校生活の様々な局面で人権問題を考えさせることを前提に、人権課題の検討とその指導案の研究をし た。ワークシートへの記入やグループ討議、意見発表などを通して、「自尊感情」や「他者の立場に立つ 想像力」、「コミュニケーション能力」、「人間関係を調整する能力」などを培い、自分とともに他者を 思いやる「人権感覚」を高めるだけでなく、それが態度や行動に現れるようにしていくことをねらいとし た指導例を作成した(人権学習ワークシート集Ⅵ掲載予定)。 (2)本委員会にて考案、作成したワークシートを使用した授業の指導内容とその成果の検証を行うため、今 年度は授業実践を公開授業とした。昨年度作成のワークシートの中から「ハンセン病差別」に係るワーク シートを取り上げ、現代社会の教科授業の中で実践した。「ハンセン病から人権を学ぶ」と題し、共通教 科の授業で扱う人権教育として実施し、その後、使用ワークシートの内容及び指導の検証を行った。 4.実践事例 (1)実施校:神奈川県立厚木清南高等学校(全日制) (2)ねらい ・病気による人権侵害の原点とも言える「ハンセン病患者」の差別問題を素材に、病気による人権侵害に ついて広く考えさせ、今後同様の事象が起こったときに、生徒一人ひとりが正しい行動を選ぶことができ るようにする。 ・科目「現代社会」の授業の中で、ハンセン病差別を事例として、法の下の平等について考察する。 (3)ワークシート・資料 ・ワークシート:「ハンセン病と人権について学習しよう」(研究推進委員会作成) ・資料:資料1「ハンセン病の悲しい歴史」 資料2「ハンセン病と人権について考える」 資料3「ハンセン病問題から学ぶべきこと」 (平成24年1月 厚生労働省発行の冊子「ハンセン病の向こう側」からの抜粋) 視聴覚教材 (4)進め方 授業展開 学習活動 指導上の留意点 導 入 (10分) 教科書で確認 ・憲法14条「法の下の平等」の条文を確認しながら、具体的な差 別を挙げさせる。 ・説明を簡潔にし、テンポよく進める。 ・「ハンセン病」「らい病」を知っているか尋ね、生徒に関心を 持たせる。 展 開 (60分) ワーク1記入 (10分) ・資料1、資料2を配付し、ワークシート上の質問に対する答え を各自記入させる。 ・視聴覚教材を視聴し、具体的イメージをつかませる。 ワーク2 解説と内容確認 (15分) 【ワーク2】 ・配付した資料を基にワーク2を解説し、「差別の歴史」を確認 させる。 ・発症すると社会に何が起こったか、症状を表す表現や言葉など を生徒に投げかけ、生徒自身に考えさせる。 ワーク3 意見交換 (10分) 【ワーク3】 ・資料3を配付し、ワークシートに従い意見交換を行い、考えを 深める。(ペア/グループ) ワーク4 発表(10分) まとめ (20分) 評価方法 ワークシー ト記入内容 ・ワーク3の内容を発表し、発表者の意見をメモする。 ワーク5 視聴覚教材視聴 (15分) ・視聴覚教材を視聴し、ワークシートに感想を書かせる。 振り返り、感想記入 ・授業を通して分かったこと、感じたことを記入させる。 (本授業は地歴公民の研究ではないため、評価基準は省略しています。) (5)生徒による授業アンケートの集計結果 ※生徒の記述のとおりに記載 □ 今回のワークを通じて分かったこと、感じたこと ・ 自分が思っていた以上の差別があって驚いたのと受けてきた偏見の内容を知り、悲しくなりました。 ・ 間違っている情報を信じないように気をつけたいです。 ・ ハンセン病のことを学んで、こんな病気があるなんて知りませんでした。こんなに苦しんでいる方々 がいるなんて、いまだに差別があるのが許せませんね。 ・ ハンセン病という言葉は初めて聞いたので、ビデオを見て、ハンセン病のことが良くわかった。 ・ ハンセン病の知識があんまりなかったので、今日勉強できて良かった。 ・ 実名を言えないほど差別されるのは酷いことだと思う。知識があれば差別されなかったと思う。 ・ この辛い過去を忘れずに自分の子供にも伝えて行きたいです。 ・ 人間なんて所詮少しでも回りと違う人がいるとすぐに差別したりする。私はこの病気じゃないから気 持ちをすべて分かることはできないけど辛いことばかりだったと思うし、こんなことは今後あってはい けないことと思う。 ・ 病気は怖いけど、かかってしまったらしょうがないと思う。しっかり病気を理解することが大切なん じゃないかなって思います。 ・ 自分がもしハンセン病になってしまったらどうなってしまうのかと考えてしまいました。 ・ 中学校でも習ったりしていたので、知っていることは多かったですが、「らい予防法」が廃止された のが、私の生まれた年というのは本当にびっくりしました。差別はいつでも生まれてしまうものになっ てしまっているので、これからはもっと知識を深めていきたいです。時間がたっても忘れないように、 学習していきたいです。 ・ たくさんの差別があったこと、本当にビデオや資料を見て、心が痛くなりました。家族からも見放さ れるなんて、きっと辛かっただろうし、偏見や差別は絶対にしてはいけないと思いました。 ・ 私たちに関係のない病気と思わないでしっかり考えるべきだととても思いました。 □ 本日視聴したビデオについて、感想・意見等 ・ もし患者が自分の目の前にいたら、自分は差別してしまうかどうかは分からないけど、ビデオを見て、 患者も自分たちと同じ人だなと感じた。 ・ 辛い現実がありますね。女の二人はとても優しく素晴らしいことをしていると思います。私も何か出 来ないかな。 ・ ハンセン病の人たちは未来に向かって、ハンセン病のことを伝えようとするすごい人として、見習わ なきゃいけないところもあってすごいなって思いまいた。 ・ とても感動しました。私もハンセン病を理解していけたらいいなと思います。 ・ 若い人がハンセン病について向き合ってコップの持つところを大きくするなど工夫しているのが良い と感じました。若い人がハンセン病を理解するっていうのは大事なことだと思いました。 (6)成果と課題 「かながわ人権施策推進指針(改訂版)」に基づいた人権教育の分野の中の一つに、「患者等の人権」 がある。今回の実践授業のテーマは、「ハンセン病から人権を学ぶ」とし、病気による人権侵害の原点 である「ハンセン病患者」の差別問題を素材に、生徒たちに人権を考えさせてみた。多くの生徒たちに とって、「AIDS患者」の人権については触れる機会も多いと思われるが、「ハンセン病患者」につ いては、認知度が低く背景知識も少ない中、生徒の反応はどのようなものになるか、授業で扱うことに 若干の不安があった。 ワークシートと資料を活用しながら、十分に基礎的な知識を補うことに留意した授業展開を心がける ことにより、生徒の理解を促し、興味・関心を持たせることにつなげられた。また、社会科の授業の中 に位置付けることにより、法制度等と結びつけながら人々の差別や偏見の仕組みを多角的に教えること が出来ていた。さらに、資料による説明だけでなく、視聴覚教材を活用することにより、生徒は差別の 現実をより身近なこととして捕らえることが出来、当事者の気持ちに寄り添い、自分のこととして考え ることができていた。 「知識や情報のないことが差別につながる」というような記述や「理解をすることが大切」というも のから「子どもに伝えたい」「私も何か出来ないか」などという積極的な意見が、生徒の振り返りアン ケートの随所に見られることから、授業のねらいは概ね達成されたと考える。 今回、テーマに関する基礎的な知識と情報をしっかりと生徒に伝えるため、教師による説明とワーク シートへの記述を中心とした授業展開を試みた。今後は、生徒一人ひとりの人権意識の一層の向上に向 けた手立てとして、ペアワークやグループワーク等も積極的に取り入れ、生徒同士による主体的な気付 きを取り入れた授業展開も考えていきたい。 5.まとめ 人権教育部門では、「新たな参加体験型学習教材『ワークシート集』の作成に向けた授業展開例の考案 とその実践を通し、授業やLHR等での活用を目指した教材と人権課題の研究」をテーマに据え、研究を推 進してきた。昨年度は「デートDV」ワークシートを活用した授業を2校で実践し、その報告からワー クシートの内容・指導例の検証を行ったが、今年度は「ハンセン病から学ぶ人権」ワークシートを活用し た、人権教育部門では初の公開授業を試み、研究を一歩進めた形となった。 これにより、推進委員をはじめ他の教員が授業実践を参観し、取り上げたワークシート活用における授 業の検証や授業展開における留意点など、ワークシートの改善や効果的な指導法作成に向けた具体的な検 討が可能となった。これが今年度の研究の成果であると言える。 今後は、平成25年度、26年度の2年間を通じて、新「ワークシート集」作成に向けて研究作成してきた 各人権項目関連のワークシートと指導方法の解説について、その見直しと効果的な活用方法の一層の検討 を進めるとともに各学校における人権教育の充実を目ざし、これらの授業実践の普及に努めたい。 環 境 1.研究のテーマとねらい (1)研究のテーマ 「持続可能な社会の実現を目ざしたこれからの環境教育」−学校の教育活動を見渡した環境プロ グラムの作成− (2)研究のねらい 平成 18 年度より設置された神奈川県高等学校教育課程研究会環境部門では、高等学校におけ る環境教育プログラムについて継続的に研究を続けている。現在、環境教育においては「持続可 能な開発のための教育(ESD)」が国連において決議され、今年は各国でそれぞれ取組を進めてち ょうど 10 年目の節目の年である。現在、学習指導要領には ESD を念頭においた記述があり、ESD の推進に向けた取組を学校教育の場で支援していくことが読み取れる。21 世紀を生きる世代に必 要な ESD の考え方を学校の教育活動全体の中で捉え、それを組織的に具体化するために必要な事 項は何かを明らかにすることをねらいとして研究を行った。 2.研究で取り組んできた内容 平成 24 年度から高等学校における環境教育を展開するに当たり、学校全体の教育活動を視野に入れ た環境教育プログラムの構築について研究を重ねてきた。 平成 24 年度には「環境教育がはぐくむべき能力」に基づいて、学校の教育活動を照らし合わせた。 平成 25 年度には、環境教育に関する全体計画の策定の必要性を踏まえ、環境教育の全体計画を作成に 必要な手順や書式例について検討を行った。3年目を迎えた今年度は、これまでの研究成果を踏まえて 環境教育プログラムに関する全体計画及び年間指導計画のモデルプランの作成を試みた。併せて、環境 教育に係る授業実践も行った。 3.環境教育プログラムの全体計画及び環境教育年間指導計画(仮称)の例 (1)全体計画 近年、小・中学校における環境教育の全体計画の作成を推進している自治体がいくつかある。 これらの実践例を参考に、図1のように全体計画のモデルプランを作成した。全体計画は、教職 員のみならず、生徒・保護者、一般県民に対しても分かりやすいことが望まれるので、情報量を 絞り、全体像が捉えやすい構成にすることに留意した。なお、モデル校は全日制普通科を想定し ている。作成する過程を通して、全職員の共通理解を図るためのきっかけづくりにしていきたい。 以下に作成ポイントを記載する。 ①環境問題に対する課題と時代背景や社会からの要請の把握 教育関係法規の規定、国や自治体における環境問題に係る重点的な施策を調べ、時代や社会が 環境教育に何を求めているかを調査した。モデルプランでは、国と自治体の施策、時代や社会の 要請を別々に記載した。 ②環境教育の目標、生きる力(育成したい力)の設定 学校目標を踏まえ、学校の教育活動における環境教育の目標を定め、その目標に基づいて生き る力(育成したい力)を設定した。また、その力を育成するため、各学年の取組とつながるよう に学年ごとの重点目標を定めた。 ③具体的な取組内容の検討 多くの学校で実施可能な取組を検討し、教科・総合的な学習の時間における取組、家庭(PTA 活動)・地域・外部機関と連携、施設・設備に分類した。 (2)環境教育年間指導計画 地理歴史科(世界史 A、世界史 B、地理 A、地理 B)、公民科(倫理、現代社会、政治・経済) 理科(物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎、科学と人間生活)、保健体育科(保健体育1 年、2年)、家庭科(家庭基礎、家庭総合)、について、表1のように年間指導計画をまとめた。 ①共通項目の明確化 調査した科目の単元から環境教育に関連する項目を見出し、共通性について分析した。その結 果、エネルギー問題、生活(衣・食・住)、循環型社会、地球環境の4点を共通項目として見出す ことができた。 エネルギー問題は理科と地理歴史科、公民科の科目を中心に展開しており、理科ではエネルギ ーの原理や特性などを取り上げ、地理歴史科・公民科では資源問題を扱っている。 衣料、食糧(食品)、住居を扱っている単元を生活として分類した。家庭科を中心に展開して おり、その他の教科では、理科で物質の特性を扱い、保健で食品について取り上げている。 ゴミや廃棄物の問題を取り扱う単元を循環型社会として分類した。理科、地理歴史科、公民科、 家庭科で展開している。 地球環境は元来の自然の姿について理解する自然環境と、公害などによる環境破壊に分けられ る。自然環境は理科での取り扱いが多く、地理歴史科、公民科、家庭科、保健体育科で環境破壊 について学ぶ。 ②活用方法 環境教育年間指導計画を作成し一覧表にまとめることで、共通項目における他科目での実施時 期を把握することができる。それにより、他科目での知識や技能の習得を前提とした授業展開や、 他科目へのつながりを意識した授業展開を進めることができる。また、同一題材における科目間 の視点の差異を教員が理解し、それを意識した授業を行うことで、生徒の多様なものの見方を養 うことができる。 4.環境教育に係る実践事例 (1)研究実施校:神奈川県立厚木西高等学校(全日制) (2)学校の課題:環境教育実践校として、生徒の意識向上 (3)取組事例 ①実施日:平成 26 年 10 月9日(木) 授業担当者:内藤 芳久 総括教諭 ②授業クラス:2年生 40 名 ③本時のねらい:人間が生活する上で、必要なエネルギー資源の石油、石油代替エネルギー、再生可 能エネルギー、新エネルギーについて理解し、太陽エネルギーの直接、間接的な利 用についても理解を深めることをねらう。また、日本におけるエネルギー事情を知 り、エネルギーの問題点や対策を考察することをねらいとする。 さらに、日頃行っているエコ活動についても思慮する。 ④本時の指導内容: 学習内容と活動 導入 ・本校の環境教育を理解する。 ・各教科における環境エネルギー教 育について理解する。 指導・支援 評価の方法 展開 ・物理におけるエネルギーと仕事の 定義を理解する。 ・人の生活には欠かせないエネルギ ーの変遷や現状を知り、エネルギー 源の種類を理解する。 ・日本のエネルギー事情を知る。 ・化石燃料、再生可能エネルギー、 新エネルギーを理解する。 ・各種発電システムの演示実験を観 察する。 ・設問に対する答えを予想さ 【関心・意欲・態度】 せる。 ・積極的にプリントの問 ・原子力発電に変わるエネル の予想をしている。 ギ ー が 枯 渇 性 エネ ル ギ ーで あることに気づかせる。 ・風力、水力、原子力などは ク リ ー ン エ ネ ルギ ー で ある 【観察・実験の技能】 ことに気づかせる。 ・発電システムを知る。 まとめ ・太陽エネルギーの重要性を再確認 する。 ・生活の中で取り入れているエコ活 動を考えて発表する。 ・太陽エネルギーの利用の直 【思考・判断・表現】 接的、間接的な方法を示す。 ・太陽エネルギーについ ・普段行っている何気ないこ て考える。 と も エ コ 活 動 につ な が るこ ・エコ活動を考えプリン とを気づかせる。 トに記入する。 ・指名して発表させる。 授業風景 原子炉モデル 研究協議の様子 ⑤事後協議 事後協議は授業に参加した生徒を含めて行われた。本時の公開授業は、本校が昨年度から県立高 校教育力向上推進事業 Ver.Ⅱ環境教育実践校として取り組んできた事業の一環として実施したも ので、導入部分に本校の環境教育への取組事例や教科横断的な授業展開を取り入れ、生徒が身の回 りの多くのことが環境教育につながっていることを理解させることを目的の一つとした。パワーポ イントで授業を展開し、実験室の壁にプロジェクターで投影した。 化石燃料の依存度の高さに注目し、再生可能エネルギーの必要性や、各種の発電システムについ て長所や短所も含めて学ぶ授業とした。太陽エネルギーの直接、間接的な利用にも言及した結果、 かなり内容が盛りだくさんな授業展開になってしまった。 演示実験の中で、太陽光発電の効果を LED ライトで確認しようとしたが、光量不足と後ろから見 にくいことから、オルゴールに変えて音で確認した点が評価を得た。 ⑥成果 事後協議に参加した生徒は、「環境をあまり考えたことがなかったが、これからは考えていきた い。」「演示実験や発電の仕組みを見たときは楽しかった。理解できた。 」などの感想をあげていた。 視覚に訴えることの大切さが改めて感じられた。また、広い実験室の授業なので、演示実験が後ろ の生徒に見えづらいことがあるので、プロジェクターとビデオカメラを併用して解消するようにし たが、「最初は話ばかりで眠かった。 」などの感想を考えると、全て、パワーポイントで映像を見続 ける授業の展開に課題があったようだ。 この授業は、原子力発電を含めて、提案要素が多かったが、生徒が環境に対して興味を持ち、エ コ活動を考えるきっかけになったようである。 調査で、生徒が日頃行っているエコ活動は次のようなものだった。 ・ゴミの分別 ・使わないコンセントをこまめに抜く ・エコバッグの利用 ・節水 ・節電 ・冷暖房時に部屋のカーテンの利用 ・マイ箸の利用 ・公共交通機関の利用 ・風呂の水の再利用 等 ⑦課題 今回の授業は、量的に多く、広く浅くの内容であった。表2からもわかるように、生徒の興味関 心を広げるためには受け身的な授業ではなく、生徒が考え、発言をさせる工夫が必要であった。特 に実験装置を見た後、生徒が見たものに対して考えをまとめる機会があるとさらに深化したと思わ れる。映像に関しても、動画を取り入れることでより理解につながっていく。課題が残る授業にな ってしまったが、教科横断的な要素を入れた一つの授業形態の提案としたい。教科書の後半の内容 を研究授業用に先取りして実施をしたが、これらの環境教育が年間を通じて取り組んでいけると、 より大きな効果が得られると思われる。 表2 本時に対する生徒のアンケート結果 今日の授業のねらい(何を勉強するか)がわか りましたか。 生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する 機会がある授業だと思いましたか。 よくわかった 22人 そう思う 3人 よく理解できた だいたいわかった 16人 だいたいそう思う 12人 だいたい理解できた あまりわからなかった 2人 あまりそう思わない 25人 あまり理解できなかった 今日の授業の「内容」が理解できましたか。 10人 28人 2人 5.成果と課題 平成 26 年 11 月には、愛知県名古屋市と岡山県岡山市で「ESD に関するユネスコ世界会議」が開催さ れ、この世界会議において、この 10 年間の取組を総括するとともに、今後も ESD の更なる推進が必要 であることが確認された。一方で、内閣府が実施した、日本国籍を有する成人 3000 人を対象とした ESD に関する世論調査では、79%が ESD を知らないと回答している。 学校教育において ESD を踏まえた取組を推進するには、その前提となる教職員の ESD の認知度を上げ、 その推進への理解を共有することが不可欠であり、その克服が最大の課題といえる。 本推進委員会(環境部門)では、平成 24 年度から3年間をかけて、環境教育プログラムが各学校の 実状に合わせて構築できるような方策についての研究を行ってきた。今年度はこれまでの研究成果を引 き継ぎ発展させることで、環境教育の全体計画と年間指導計画についてまとめるとともに、教科指導の 中で環境を主題とした授業実践とその検証を行った。 今後は ESD についての意識啓発の方策とともに、日々の学校教育の中で実践可能な教科横断的な実践 例の研究を行っていきたい。 6.参考資料 ○ 閣議決定資料 『環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関す る基本的な方針』 ○ 『高等学校学習指導要領 平成 21 年3月告示』 文部科学省 ○ 『埼玉県中学校環境教育指導資料 生きる力をはぐくむ環境教育の構想と展開』埼玉県教育委員会 ○ 『平成 20 年度環境教育指導資料 「生きる力」をはぐくむ環境教育の充実 ∼持続可能な社会を目 指して∼』北海道教育委員会 ○ 『「ESD をふまえた環境教育」推進ガイドブック∼今までの学習指導を見直してみよう∼』神奈川県 立総合教育センター ○ 『「持続可能な開発のための教育(ESD)に関する世論調査」の概要』 内閣府政府広報室 図1 環境教育プログラム全体計画の例 ○○高等学校 環境教育プログラム全体計画 国の動き 時代や社会の要請 学校の教育目標・(方針) ○第3次環境基本計画 ○環境教育促進法 地球規模の環境問題の 基本的人権を尊重し、正義と秩序を愛 県の動き し、協同の精神を培い、新しい時代を担 ○新アジェンダ 21 かながわ 神奈川地球環境保全推進 う有為な人材を育成する。 会議 解決のため、持続可能な 社会の構築、低炭素社会 を実現するための取組の 必要性から、学校におけ る環境教育の重要性が高 まっている。 環境教育の目標 環境問題に関心をもち、環境に対する責任と役割を理解し、環境保全に 参加する態度と環境問題解決のための能力を育成する。 各学年の重点目標 1学年 2学年 主体性 人と人との絆 3学年 探究・深化 生きる力 未来を創る力 環境保全のための力 生徒の取組 ○清掃活動 ○委員会・生徒会活動 教科・総合的な学習の時間 における取組 ○教科 全教科共通テーマの設定 ○総合的な学習の時間 ・講演会 ・調べ学習 ・成果発表会 ○節電 ○ゴミの分別 ○文化祭(エコ容器・生分解ビニール、展示・ブース) ○啓発活動のためのポスター・展示物作り 家庭(PTA 活動) ・地域・外部機関と の連携 ○外部 企業、大学、NPO 等との連携 ○地域 地域貢献デ−(清掃活動) ○家庭(PTA 活動) 花いっぱい運動 相互に連携 施設・設備 ○リサイクル Box ○校内の草木 ○ソーラーパネル ○グリーンカーテン ○ビオトープ 表1 環境教育年間指導計画 表1 環境教育年間指導計画 A:エネルギー問題 B:生活(衣・食・住) C:循環型社会 D:地球環境 4月 教科・科目 単元・題材 5月 課題 単元・題材 6月 課題 単元・題材 7月 課題 単元・題材 10月 課題 単元・題材 課題 世界史A 地理 歴史 世界史B 地理A 地理B 現代社会 公民 現代社会の系統地理的 考察 地球環境問題 D 自然環境に関する諸課 題 D CD 資源・エネルギー問題 AC A 資源と産業 倫理 政治・経済 C 科学と人間生活 物質の科学 熱や光の科学 エネルギー 物理基礎 熱とエネルギー エネルギーの変換と保存 化学と人間生活 理科 化学基礎 金属とプラスチックの再利用 生物の特徴 生物基礎 生物の多様性と共通性 AC 物質の探求 物質の構成粒子 分子と共有結合 成分元素の検出 放射性同位体とその利用 身のまわりの分子からなる物 質 B A A 酸と塩基 身近な物質のpHとその測定 CD 地学基礎 保健 体育 保健 (1年次) 現代の感染症 D 保健 (2年次) 環境汚染と健康 D 家庭基礎 被服の管理と計画 B 家庭 家庭総合 11月 教科・科目 単元・題材 12月 課題 単元・題材 1月 課題 単元・題材 2月 課題 単元・題材 3月 課題 グローバル化のなかの 危機 世界史A 地理 歴史 現代文明の諸課題 世界史B 地理A 深刻化する地球的課題 とその解決策 現代の諸課題と倫理 共に生きる社会をめざ して D 日本経済の特質と国民 生活 現代社会 現代の日本経済と福祉 の向上 現代社会の諸課題 D これからの科学と人間 生活 電気 エネルギーとその利用 酸化還元反応 化学基礎 身近な酸化剤、還元剤 植生の多様性と分布 植 生物基礎 保健 体育 C A 物理基礎 地学基礎 D D 科学と人間生活 理科 D 現代世界と日本 倫理 政治・経済 課題 D 地理B 公民 単元・題材 生と遷移 私たちの地球 CD 植生の多様性と分布 気 候とバイオーム 私たちの地球のこれか ら CD CD D 生態系とその保全 生態系と物質循環 日本の自然環境 A B A CD 生態系とその保全 生態系のバランスと保全 これからの地球環境 D A 保健体育 (A年次) 保健体育 (B年次) 健康被害の防止 環境対策と環境衛生活動 D 食品と環境の保健 食事と健康 家庭基礎 B 住居と住環境 B 衣生活の科学と文化 家庭 家庭総合 食生活の科学と文化 B 住生活の科学と文化 B 消費者の権利と責任 AC 持続可能な社会を目指した ライフスタイルの確立 B ライフスタイルと環境 B C 生活の科学と環境 C 協 力 者 氏 名 総 則 国 語 地理歴史 市川 洋介 浮田 規子 梅田 俊輔 河内 卓矢 椿 久美子 山田 秀二 吉田 和俊 加藤 理香 熊谷 剛 宮前 倫子 渡邊 祐介 竹森 悦也 長沼 純代 松本 久美 新井 貴之 加藤 将 畠 陽一郎 宮﨑 聡 与儀 達人 小杉 隆一 坂本 和啓 田中 覚 古川 竜三 池末 雄太 杉野 武大 宮 洋二 森脇 陽介 荒木 清香 池原 洋達 川田 正允 齋藤 昂良 柴田 克也 田中 政行 西村 裕子 細谷 多恵子 大場 瑞穂 大平 佳子 荻野 浩司 黒岩 美智子 田中 容子 中村 美和子 肥後 光真 輪湖 豊 黒澤 幸子 西川 陽平 長谷部 裕介 松山 裕香 三浦 ひろ美 片桐 彩 藤井 信孝 松川 正浩 松原 秀伸 宮田 一宏 生駒 光識 岩島 久美子 清水 理佐 関口 奈緒美 山本 美和 大島 みどり 島 信哉 濱川 剛行 本郷 真由美 宮本 恵理子 加藤 玲子 久保田 正芳 中田 いずみ 中村 晶子 藤本 葉子 大石 智広 鎌田 高徳 千葉 徹也 三井 栄慶 安藤 信貴 伊藤 謙二 尾尻 賢一 佐藤 力 巻島 弘敏 石倉 一史 岩崎 康仁 金子 黒須 智紀 佐藤 秀世 佐藤 基泰 佐野 千香 三浦 茂和 石原 直人 鈴木 誠 穂田 智範 本田 達也 安井 俊之 石井 英城 小野 昭久 角本 賢一 藤岡 高昌 石井 由美子 森 公美子 山田 みゆき 古宮 雄大 杉山 道代 鈴木 翠 露木 雅史 平林 美織 石井 俊 伊豆原 真人 小岩井 僚 佐々木 圭 矢端 えり 井上 正美 今井富美代 大西 理也 加藤 義雅 神成 智子 黒木 太 宮原 章祥 榎本 康二 河野 武二 坂口 郁 布田 佳奈子 山根 菜摘 相川 和俊 大谷 彩美 内藤 芳久 中川 由香 中島 淳一郎 松本 靖史 岡本 裕子 黒川 裕樹 柴田 功 小松平由美子 岡野 正之 七海 勝浩 浅井 祐一 小林 恵里子 山口 修司 日置 賢司 宇喜多 宣穂 蘇武 和成 渡貫 由季子 長濵 徳克 馬渕 良顕 木村 輝美 小澤 美紀 磯﨑 厚 小野 亜希子 栗田 泉 田中 進 足立 健一郎 槇 健志 松澤 直子 伊東 絵里 渡辺 研悟 鵜戸 紘一郎 公 民 和田 守 厚美 香織 数 学 山下 雄大 理 科 保健体育 芸 術(音楽) 芸 術(美術・工芸) 芸 術(書道) 外国語(英語) 家 庭 最上 洋美 阿部 真奈未 情 報 山田 恭弘 農 業 工 業 商 業 水 産 看 護 福 祉 特別活動 生徒指導 人権教育 環 境 太 担当者 高校教育指導課 岩崎 秀太 山田 尚子 倉前 正 高校教育企画課 橋井 香苗 保健体育課 磯貝 靖子 学校支援課 河又 洋二 行政課 萬俵 好明 総合教育センター 榎本 博之 山下 創 秋山 幸二 木下 貴行 川村 隆之 五十里 雅子 持丸 裕一 石井 晴絵 体育センター 富澤 桂子 松ヶ野 文絵