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英国立医療技術評価機構(NICE)CEO来日 製薬協にて講演会開催

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英国立医療技術評価機構(NICE)CEO来日 製薬協にて講演会開催
No131_Topics_NICE来日 09.4.30 2:05 PM ページ22
Topics 英国立医療技術評価機構
(NICE)CEO来日
製薬協にて講演会開催
イノベーションの促進の一翼を担いNICEの役割拡大
トピックス
英国立医療技術評価機構(NICE: National Institute for Health and Clinical
Excellence)は、費用対効果に基づく標準的な医療を提供しガイダンスとして提言する
英国政府の機関です。その最高経営責任者(CEO)であるアンドリュー・ディロン氏を招
いて、4月2日製薬協にて講演会を行いました。当日は製薬協会員企業から約90名の参
加があり、英国の今後の医療政策の動向に対する注目と大きな期待がうかがえました。
ディロン氏は、価格の柔軟性や患者アクセス制度において拡大したNICEの役割について、
さらには、イノベーションの促進を目指す今後のNICEの方向性について講演しました。
1. 英国の医療政策とNICEの存在意義
NICEは、英国において公的医療サービス(NHS:
National Health Service)の予算の有効活用を支
援する役割をもっています。具体的には、NHSで提
供される新薬、医療機器、診断技術などを含む医療
技術やサービスが、支払う費用に見合うかを評価し
判断しています。その背景は英国において提供され
る医療サービスの質・量ともに地域差があったこと
と、医師は、歴史的に、新しい治療や技術に対し懐
疑的であり、有用性が確立されるまでは取り入れな
い傾向にあることです。NICEの存在意義は、予防と
治療のガイダンス
(提言・指針)
を通して、最適な治療
方法を提言することで、人々の健康増進に貢献する
ことです。
提供する財源を確保しなければならないことです。
2. NICEが発行するガイダンス数
3. NICEの評価プロセスと結果
スライド①では、NICE設立以降発行されたガイダ
ンス数を示します。新薬、医療機器、診断薬などの
医療技術の経済性を評価する
「医療技術評価
(TA)」
で
は、評価過程の短縮を目的に2006年から導入され
たSTA
(Single Technology Appraisals)
により、
発行数が増加しています。STAは従来のプロセスと
異なり、一剤一適応に限定した経済性評価プロセス
です。今後もTAの増加傾向が予測されます。
NICEのガイダンスは、あくまでも指針であり、
NICEが医師にその特定の技術の使用を強制するもの
ではありません。従って提供される医療技術の最終
的な意思決定は、患者であり医師にあります。NICE
は、医師がどのような医療を提供すべきか、新技術
の利用と費やされるコストとのバランスを踏まえア
ドバイスします。NICEの唯一の強制力は、医師が、
NICEガイダンスで推奨する新治療
(薬)
をある患者に
提供すると判断した場合、病院
(NHS)
はその医療を
スライド②は、NICEの評価プロセスを示していま
す。まず、公開、非公開を問わず、幅広くエビデン
スを集めることから始まります。これらのエビデン
スは企業からも多く提供されます。得られたエビデ
ンスを、評価委員会が解釈し、パブリック・コメント
も踏まえ評価・検討し、最終的にガイダンスが発行さ
れます。評価委員会は、政治的な影響を受けること
なく独立して意思決定を行います。ガイダンスは3年
ごとに更新され、エビデンスの再評価が行われます。
評価委員会が判断するうえで、①質・量が十分で豊
富なエビデンス、②臨床医のアドバイス、③判断が
科学的でかつ社会的価値に即していることが重要で
す。この一貫性を保持するため、NICEは臨床効果お
よび経済性評価の方法に関するガイダンスを発行し
ています(ウェブサイトでも公開されています)。社
会的価値に関して最近の例では、これまでNICEは延
命治療にかかわる医薬品も他の医薬品と同様の方法
JPMA News Letter No.131(2009/05)
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スライド①:NICEの発行ガイダンス数
(2000−2008年)
英国立医療技術評価機構
(NICE)
CEO来日 製薬協にて講演会開催
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で評価し判断していましたが、最近、社会的価値に
配慮し、特定の状況を考慮して評価するケースも出
てきています。
スライド②:NICEの評価プロセス
スライド③では、増分費用効果比(Cost/QALY)
とNICEが推奨する確率との関係を示します。増分費
用効果比が大きくなるほど(X軸方向)、推奨される
確率は低くなります(Y軸方向)。しかし他の治療方
法がない場合など、治療薬によっては上限値とされ
る3万ポンド/QALYを超えても推奨される製品もあ
ります。実際にNICEは、提言数342(技術評価数
160)のうち約30%(提言数98)は制限なく推奨し、
約55%(提言数188)は最も効果的な患者群や使用
方法に限り推奨しています。
スライド③:NICEが費用対効果に優れると推奨する基準
4. NICEの拡大する役割と
イノベーションの促進
・医薬品価格規制制度(PPRS:Pharmaceutical
Price Regulation Scheme)の改定が2009年
1月施行され、NICEの役割が大幅に増大されま
した。まず、新たな経済性エビデンスや適応追加
英国立医療技術評価機構
(NICE)
CEO来日 製薬協にて講演会開催
により、NHS患者に対し大きなベネフィットが
証明された場合には、NICEの評価プロセスを経
て価格引き上げが可能となりました(価格の柔軟
性)。さらに、NICEでこれまで費用対効果に優れ
ないと評価された薬剤でも、償還価格の変更や、
治療結果に応じて価格、あるいは負担を変えるリ
スク・シェアリングの導入等により、NHS医薬品
へのアクセスを向上させる方法が明記されました
(患者アクセス制度)。
・イノベーションとその価値については、ロンドン
大学(UCL)イアン・ケネディ教授が、そのテーマ
で 研 究 結 果 を 発 表 し ま す( 2 0 0 9 年 7 月 末 )。
NICEはその提案を評価において考慮するとして
います。
また、経済性分析の事前相談
(Early Scientific
Consultation)
が開始されました。これは、新薬
の開発段階(Ph2∼Ph3の間)における経済性評
価方法のデザイン、比較薬、ならびに適切なアウ
トカム指標の選択に関し、NICEが企業に有料で
相談を行うものです。2009年1月から導入され、
すでに申し込み企業のウェイティング・リストが
できています。
5. 最後に
英国においてNICEの提言は、保険適応の可否とい
う医療に多大な影響力を及ぼす意思決定にかかわって
おります。したがって、現実にNICEと患者団体、製
薬企業等利害関係者との間に対立があることも事実で
す。しかし今回の講演で感じたのは、経済性評価の技
術自体も発展し、社会の要求も変わる中で、NICEも
柔軟性を持ち始めたことです。たとえば、事前相談サ
ービスの開始や、延命治療にかかわる医薬品の閾値緩
和策など、新たな政策を導入しました。さ ら に、
NICEは、これまでの役割に加え、イノベーションの牽
引役を担うことになりました。NICEは、世界的な影響
力が強いだけに、その決定次第では、イノベーション
や新薬の芽を摘むことにもなりかねません。しかし、
適切な評価モデルの下で適正な評価が行われれば、イ
ノベーションや創薬を刺激する可能性もあります。デ
ィロン氏は、資源配分の意思決定とイノベーションの
促進とは、相反する役割であることを認め、バランス
をとるうえで企業との対話の重要性を強調しました。
今後も製薬協として、経済性評価に係るNICEや英
国政府の政策に関し、対話を深めるとともに、情報
収集と分析を通して、しっかりと働きかけを行って
いきたいと考えます。
(国際委員会 欧米部会HTAグループ 葛西 美恵)
JPMA News Letter No.131(2009/05)
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