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第2部の講演録はこちら - 京都次世代ものづくり産業 雇用創出プロジェクト

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第2部の講演録はこちら - 京都次世代ものづくり産業 雇用創出プロジェクト
商品開発・マーケティングセミナー(2 回シリーズ)
第 2 弾「新興市場での価値創造の新たなマーケティング
~資生堂の中国ビジネスとブランド価値創造~」
第2部
講演「資生堂の中国ビジネスとブランド価値創造」
講師
株式会社資生堂 顧問
高森 竜臣 氏
資生堂の歴史と企業理念
私は、資生堂入社後、1979 年から 1 年半ほどアメリカへマーケ
ティング研修に行き、帰国後は資生堂という企業名称を使わない化
粧品ブランド「アユーラ」の立ち上げに参画しました。これらの経
験から、化粧品のマーケティングとは何か、ブランド価値を創造す
るとはどういうことかを学んだ気がします。1998 年からは、中国
事業のグループリーダーとして上海と北京を担当。その後、海外セ
ルフ事業部長としてアジア全体の中価格帯のマーケティングにも取
り組みました。2009 年に国内に戻った後は、責任者としてマーケ
ティングの立て直しを図り、2014 年6月に退任しました。
資生堂のルーツは、西洋風の調剤薬局です。創業者の福原有信が、
欧米視察に出かけるなど、当社は創業当時からグローバル志向でし
た。1897 年には、「オイデルミン」という化粧水を販売しました。
パッケージや中身の処方は幾度か変えながら、今も店頭で販売され
ているロングセラー商品です。初代社長の時代から、資生堂はグロ
ーバルに通用するブランドをつくるという強い意気込みで会社をつ
くってきました。初代社長福原信三が残した「ブランドは世界に普
及させなければならない」「すべてはリッチでなければならない」「商
品をしてすべてを語らしめよ」という 3 つの言葉は、今も活動指針
のひとつになっています。
現在は、グローバル化とネット化の時代
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本日は、「資生堂の中国ビジネスとブランド価値創造」「中堅・中
小企業のグローバル化に対して」「グローバル展開について」という
3 つのテーマについて、グローバル化とビジネスモデルの転換とい
う今後の経営環境のキーワードからお話ししたいと思います。
今、日本のどの企業もどういう方向に自分の会社を持っていけば
いいのかと悩んでいます。その大きな原因が、第二次 IT 革命、IT
の急激な進化によってもたらされたものと私は思っています。グロ
ーバル化もそうです。IT の進化で、国境も業種間の垣根もボーダ
ーレスになっています。
日本国内における化粧品の販売チャネル別での売上を見ると、ナ
ンバー1 はドラッグストア、2位はネット通販となっています。ナ
ン バ ー 3 は 個 人 の 化 粧 品 店 、 ナ ン バ ー 4 は GMS(General
Merchandise Store)です。さらに離れたナンバー5がデパートと、
少し前と比べて、現在は売上構造がまったく変わっています。
マーケティングで中国市場を開拓する
最初のテーマは、「資生堂の中国ビジネスと顧客価値創造」です。
資生堂は、1981 年に中国市場に参入後、10 年間で 4 回ほど北京市
との技術協力を行いました。その功績が認められて、1991 年には
北京に合弁会社「資生堂麗源化粧品有限公司」を設立しました。
1998 年に中価格帯商品の製造と販売を一体で行う合作会社「上海
卓多姿中信化粧品有限公司」を設立しました。現在は、研究所や投
資会社、営業拠点も含めて中国全土でビジネスを展開しています。
現地のデパートでは、「欧珀莱(オプレ)」という中国女性専用商
品として開発した現地生産ブランドと、日本を含め世界 80 カ国以
上で販売している「Global Shiseido」をカウンター展開していま
す。2003 年からは、専門店ビジネスも始め、今は 5000 余りの店
舗とお取引をしています。新興市場であるドラッグストアなどには、
中価格帯の商品を提供しています。
現地で私が注力したのは、どうすれば資生堂が中国大陸でフリー
ハンド、つまり我々の考えたマーケティングが迅速、効率的・効果
的にできるかということです。そのために、事業基盤の再構築と
脱・日本型マーケティングを行いました。事業基盤の再構築として
は、上海の会社を「Za」という中価格帯ブランドの生産工場に特化
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させ、企画や販売機能は投資会社(独資)へ移管しました。また北
京の輸入品事業を上海へ移行して、「欧珀莱(オプレ)」の製販一体
の会社とし、中国全体のマーケティングは本社が上海の投資会社を
通して行う体制をつくりました。
中国で脱・日本型マーケティングを実践
前述の脱・日本型マーケティングについて、詳しくお話しします。
これまで、日本企業の多くが、すべての商品に企業ロゴをつけて、
ほぼオールチャネルで販売するアンブレラ・ブランド・マーケティ
ング、あるいはコーポレート・ブランド・マーケティングと呼ばれ
るマーケティングを行ってきました。これは、国内の戦後の物不足
や情報不足から生まれたマーケティングです。情報が少なかった戦
後、消費者は何が良い商品なのかが分からなかった。そのため、商
品に信頼できる企業ロゴがあれば、消費者は安心して購買行動を起
こすというものです。
このマーケティングには、メリットがたくさんあります。たとえ
ば、確立した企業ロゴを使うと、新商品を市場に出す際の投資が安
く済みます。また、同じ企業ロゴが付いた商品を幅広いチャネルに
出すことで規模の経済のメリットを享受することができますし、マ
ーケティング全体も効率的に行うことができます。
ただ、いろんな販売チャネルに出すことで、企業イメージが拡散、
或は企業ブランドを希薄化するというデメリットもあります。また、
企業ブランド内での競合や対立も生まれます。このブランド内コン
フリクトが起きた場合、ブランドにとってダメージとなる価格破壊
が起きます。この価格破壊は新興マーケットほど起きやすいもので
すし、私たちも過去に経験しています。そこで、企業ブランドのイ
メージを毀損させないように個別ブランドの再配置を行うなど、各
ブランドに応じたチャネルを選定して商品を配置しました。
一方で、中国大陸における当社の競争相手となる欧米企業は、商
品の違いを明確化して消費者に伝えるプロダクト・ブランド・マー
ケティング(商品に企業ブランド名をつけない)が主流です。そこ
で、マーケティング手法を日本型からプロダクト・ブランド・マー
ケティングへ転換したわけです。ですから、中国では、「欧珀莱
(オプレ)」を含め、ほとんどの商品から資生堂ロゴを外し、一つ
ひとつの商品が明確な個性を持ちブランドとして認知されるように
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しました。資生堂のステート名には、企業ブランドを毀損しないた
めのルールがあります。そのルールが制限となって、「欧珀莱(オ
プレ)」などのプロダクトブランドの良さが出しにくい。更には、
ブランド個々のメージが資生堂ロゴを使うことにより資生堂のイメ
ージに引きずられるといった現象も起こります。
このように、企業ロゴを使う際のメリットとデメリットを総合的
に考えることも、重要なマーケティングだと思います。
成功のカギは消費者のインサイトにあり
商品コンセプトを開発する際は、誰に向けて価値を創造するのか、
その価値を最も効率的に伝達する方法は何かを探ります。ここが、
ブランド開発や商品開発の起点になります。それから、情報を有機
的に組み合わせて、お客様よりも半歩先のニーズをつくり込みます。
コンセプト開発では、消費者自身が気づいていない欲求やニーズ、
すなわちインサイトを探り当てることが重要になります。インサイ
トを掴み、ものづくりに反映できれば、ヒット商品が生まれる確率
が高まります。その作業は困難ですが、大切なのは日々ターゲット
をよく観察することです。
その成功事例が、当社の「シーブリーズ」です。「シーブリーズ」は
男性用サマー化粧品でしたが、なかなか需要が拡大しませんでした。
そこで、ターゲットを女子高生に据えるなど思い切ったブランドの
リ・ポジショニングを行いました。ターゲットを観察した結果、
「さりげない胸のときめきが、高校生をキュンとさせる」というイン
サイトを掴みました。そこで、「瞬間汗キュン」のキャッチコピーと
ともにタレントの川島海荷さんの CM を打ち出したところ、女子
高生の 3 人に 2 人が「シーブリーズ」のデオウォーターを使うなど、
大きな支持をいただくことができました。
ここまでを要約すると、消費者をとりまく環境とそのインサイト
を探索すること、そのインサイトに響くコンセプトを開発すること
が、価値創造の最重要ポイントとなります。コンセプトですべての
勝敗が決まるので、資生堂では製品の処方もパッケージも宣伝も、
すべて、このコンセプトを実現するための手段だと考えています。
トレンドや市場をつくってきた資生堂の歴史
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ここで、ひとつの市場をつくってきた当社のブランドの歴史を振
り返ります。メンズヘアのスタイルは、10~15 年サイクルで変わ
ります。そういう世相を読み、資生堂では、1968 年に男性整髪料
「MG5」を発売しました。翌年には、香りをつける習慣のなかった
日本の男性に対して、香りも楽しもうというコンセプトのもと、柑
橘系の香りの整髪料「ブラバス」を発売。リキッドのブームをつくり
ました。1985 年には、液状のリキッドから、泡状の「メンズムー
ス」を発売しました。バブル崩壊後は、高品質でリーズナブルなも
のが欲しいというニーズに応えて、1996 年に「GERAID」からワッ
クスを出しました。この商品のキャッチコピー「無造作ヘア」は、流
行語になりました。2009 年は、ポスト・ワックスとして「 uno
(ウーノ)」から FOG BAR という自然な整髪が自由自在の霧状の
整髪料を出してヒットしました。草食男子たちは、女の子から髪を
触ってもらいたいけれど、ワックスだとゴワゴワしてダメだと。そ
ういう裏インサイトを捉えて、成功した事例です。
消費者とのコミュニケーションについて、FOG BAR の場合は商
品名やメッセージ性など、さまざまなことを勘案して媒体を振り分
けながらプランニングを行いました。つまり、店頭プロモーション
を基点に、ターゲットが最もコンタクトするものに対象を当てはめ
ていく形です。プロモーションを行った後は、ターゲットにメッセ
ージが届いているか、ブランド価値が高まっているかといったこと
を検証して、次につなげるため PDCA を回します。これらが、
我々の行ってきたブランド価値創造の最低限のプロセスです。
グローバルな中小企業が多いドイツ
ここから、「中堅企業のグローバル化」のテーマに入ります。ベン
チマークには、グローバルな大企業以外に、世界的なマーケット・
リーダーの中小企業が最も多いドイツを取り上げました。
独立した 16 州から成り立っているドイツでは、産業クラスターが
数多く形成されており、地方ごとにベンチャー創出等の産業育成機
能の仕組みができあがっているようです。現在、産業グローバル化
の最先端を走ろうとして、「プラットフォーム・インダストリー
4.0」に取り組んでいます。これは、現実世界のセンサーネットワー
クで得られた情報と強力なコンピューターの能力を結び付け、より
効率的・高度な社会の実現を目指すという、第 4 次産業革命とも
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呼べる大変野心的なプロジェクトです。
ドイツの輸出額は主要国の 3 番目で、一人当たりの輸出額は日
本の約 3 倍もあります。その多くが、中小企業の輸出で、「隠れた
チャンピオン企業」がたくさんあります。「隠れたチャンピオン」と
は、年商 50 億ドル以下で、キラーコンテンツを持ちながら、一般
に知られていない企業と定義されているようです。
代表的なチャンピオン企業が、首都ベルリンから遠く離れたバイ
エルン州にある「DELO」です。ここは、スマートカード用の接着剤
で世界シェア 80%を持っています。キラーコンテンツは、光硬化
型などの特殊接着剤で、グローバル・マーケティングをしながら、
お 客 さ ん と 二 人 三 脚 で商 品 開 発 し て き た 会 社で す 。 「 TENTEROLLEN」は、世界シェア 80%の医療用ベッドのキャスター・メ
ーカーです。ここもお客さんのニーズを吸い上げ、技術者や販売先
が連携しながら製品開発を推進しています。また、世界 25 カ国で
事業を展開しており、従業員の異文化対応能力も育成しています。
一方、日本の中小企業は、ドイツに比べて直接投資も輸出も格段
に小さくて、輸出商品も長年横ばいです。しかし、私たちの調査で
は、これから海外進出したいという中小企業がたくさんいます。
今は、国や府からの支援策がたくさんあります。しかも、ネット
時代は、小さい企業でもマーケティング展開次第で大きな企業に勝
つことができる“小が大を食う時代”ですので、ぜひ、積極的にグ
ローバル化に取り掛かっていただきたいと思います。
海外展開の際は、相手を徹底的に分析せよ
最後のテーマは、「グローバル展開について」です。グローバル展
開のポイントは、①徹底した消費者市場分析、②リスクをチャンス
に、③自社ならではの CSR、④ビジネスモデルの変革、⑤人材育
成です。
最初のポイントですが、海外展開の際は一度、マクロの視点から、
その国を見た方がいいと思います。中国では、1978 年に改革解放
運動が起こり、1992 年には社会主義市場経済へ移行しました。さ
らに、2001 年に WTO へ加盟し、2005 年に商業型企業の認可が下
りるようになりました。すなわち、中国のビジネス環境の歴史はま
だ新しい。そこを押さえたうえでマーケティングをしておけば、ど
んなトラブルが起こっても、ある程度は解決できます。
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中国では、国が出すキャンペーンも見逃せません。2001 年の
WTO 加盟のときは、「国退民進」です。国有企業は少し退いて、民
間企業、特に海外企業に頑張ってもらうという方針です。このよう
に、国の方針が分かると、相応のマーケティングが可能となります。
消費者分析も重要です。2000 年代は、80 年代、90 年代生まれ
の「80 后 90 后」が出てきた時代です。この世代は、裕福で学歴も
高く、IT ツールを使いこなす。以前とは、まるで価値観が違う
人々です。また、女性の肌も分析し、中国の女性はシミ・ソバカス
よりも白い肌に強い憧れを持っている、香りの嗜好も違うというこ
とがわかっています。こうした分析結果をデータベース化して、商
品やコンセプト開発に活用しています。
海外事業ではリスク管理と社会貢献が重要
2 つめのポイントですが、海外展開では常にビジネスリスクが伴
います。たとえば、2002 年の BSE、2003 年の SARS などの感染
症のほか、2005 年は反日運動がありました。また、他企業の例で
すが、2006 年には商品に異物混入という問題が起こり、1 週間で
商品が中国市場からフェードアウトしました。その後も 2008 年の
チベット、2009 年のウイグルで騒動が発生しています。
また日本企業であるがゆえに意識しなければいけないリスクもあ
りますし、お客様のクレーム対応もリスクのひとつです。知的財産
のリスクもあります。現地では、資生堂を騙る偽物商品がたくさん
出回っています。私が中国を担当していたときの最盛期には、年間
400 万個くらいの偽物商品や仕掛品を摘発したこともありました。
こうした経験から言えるリスク対応のポイントは、まず、すべて
の製造工程を常にチェックすること。第 2 に、常に現地の法律・
法規をトレースすることです。私が、短期間で中国ビジネスの形を
整備できたのは、企画や営業部門よりも先に法律部門をつくり込ん
だからです。第 3 に、現場の問題や情報が直ちに本部へ届く体制
づくりです。加えて、常日頃から行政・メディアと良好な関係を築
いておくことです。
時代に合ったビジネスモデルへの転換
海外では、社会貢献も重要です。資生堂では、中国内陸部の黄土
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高原で、ボランティアとして参加した日本の社員と中国社員が一緒
になって毎年3000本の植林を行っています。植林以外にも、社
会貢献として、資生堂の名前を付けた希望小学校の設立や美容の手
ほどきなどの活動も行っています。
4 つめの「ビジネスモデルの変革」ですが、これだけビジネス環境
が激しく変わると、ビジネスモデルも変えなくてはいけません。資
生堂では、伝統の継承と革新の継続として、ビジネスモデルを変え
ています。変えてはいけない伝統は、長年、お付き合いをしている
お得意様のネットワークと高い品質、お客様第一主義です。反対に、
革新の対象は、お客さんとの店頭活動や販売チャネルです。
こうした観点から、当社は、既存のビジネスモデルとプラットフ
ォーム、ダイレクト・マーケティングを融合させて、「ワタシプラ
ス」「ビューティ&コー」というネット領域でのビジネスも展開して
います。これらは、オンラインとオフラインの「OtoO」ビジネスで
す。「ワタシプラス」は資生堂の企業価値を伝えるサイトですが、サ
イト内で資生堂の商品と美容の高度な知識を持つビューティーコン
サルタントがお客様に対応しています。「ビューティ&コー」は、異
業種の企業が集まって新しい価値をつくるプラットフォームで、
40 社が参画しています。
こうした取り組みのおかげか、最近は 20~40 代の会員数が増え
ています。第 1 部で、林先生からご指摘をいただきましたが、顧
客層はだいぶ若返ってきています。短期間のデータですが、落ち込
んだ会員総数も、2008 年を凌駕するレベルにまで増えてきていま
す。
これからの時代に求められる人材とは
最後に、「人材育成」についてです。これからの時代には、どのよ
うな能力を持った人材が必要かを考えてみました。まず、コンシュ
ーマ・オリエンテッド(顧客志向)のある人。次に、チャレンジスピ
リット。また、オープンマインド。異文化をしっかりと理解してコ
ミュニケーションができる人です。続いて、プロフェッショナルマ
インド。さらにグローバルマインドです。もちろんコミュニケーシ
ョンツールである英語は必須ですが、流暢である必要はありません。
また、コントリビューター、会社利益に貢献できる人です。私は、
ここを最重要視しています。外資系や海外の企業で働く社員は、会
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社の利益に貢献するという強い意識(Profit Planning と呼ばれて
いるものですが)を自然と身につけています。ところが、日本企業
では稀にしかいません。この彼我の差が競争力の差につながります
ので、ここを変えていく必要があると思います。
2 年前に、ハーバード・ビジネススクールは、「グローバル・エ
コノミーにおいて創造力が今ほど求められる時代はない」というレ
ポートを出したように、最後はクリエイティビティです。人材像と
して、イノベーターと呼んでもいいと思います。イノベーターとは、
普段から異なる事象を関連付けて、新しいアイデアをつくることが
できる人です。物事を注意深く観察して、常に「なぜだ?なぜだ?」
と問いかけることができる。社外や業界外にネットワークを持って、
その人々と情報を交換しながらアイデアを生み出す。常に、新しい
ことにトライする習慣がある。みなさんも社員の方々を見るときに、
こうした点を参考にしていただければ、うれしいですね。
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