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桜島火山2006年以降の昭和火口噴出物の岩石学的

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桜島火山2006年以降の昭和火口噴出物の岩石学的
桜島火山2006年以降の昭和火口噴出物の岩石学的特徴
-2012年5月~2014年1月について松本亜希子*・中川光弘*・宮坂瑞穂*・井口正人**
*
北海道大学大学院理学研究院
**
京都大学防災研究所
要
旨
2012年5月~2014年1月までの昭和火口噴出物の岩石学的解析を新たに行なった。その結
果,2009年9月以降に認められるようになった新鮮なマグマ物質は現在も継続して噴出し
ていること,噴出マグマ中の玄武岩質マグマの影響は時間と共に小さくなっており,活動
度がさらに低下してきていることが明らかになった。また2013年8月~10月の活発化は,
玄武岩質マグマの供給の影響によるものではなく,火道の拡大がもたらしたものであると
推測される。
キーワード: 桜島火山,昭和火口,火山灰,石基ガラス組成,時間変化
1.
はじめに
2006年6月,桜島火山は昭和火口における活動を58
検討を新たに行なったので,その結果を報告する。
2.
2014年1月までの噴火活動
年ぶりに再開した。それ以来,昭和火口ではブルカ
ノ式噴火が継続している。この一連の活動について,
2006年以降の桜島火山の月別爆発回数・火山灰放
高精度・高密度の地球物理学的観測が行なわれてき
出量・有村観測坑における傾斜変化をFig. 1に示す。
ており,マグマの詳細な動きが捉えられている(例
2006年6月の小規模噴火を皮切りに活発化した昭和
えば,山本・他,2012;井口・他,2013)。また,
火口では,2009年7月にはほぼ毎日火山爆発が起きる
物質科学的解析も行なわれており,火山ガス放出量
ようになった。その後も活動は活発化し,ピーク時
や火山灰の水溶性付着成分量,噴出物の連続サンプ
の2010年1-4月には100-131回/月の火山爆発が起き,
リングなど,様々な側面から火山活動と噴出マグマ
100万トン/月の火山灰が放出された。それ以降は,
の関係が検討されてきている (森, 2013;野上・他,
火山爆発回数・火山灰放出量共に減少,そして再び
2013;Shimano et al., 2013)。我々は,2006年6月~
増加するという活動サイクルを繰り返している。有
2012年4月までの噴出物を対象に,岩石学的検討を行
村観測坑における傾斜変動も,2009年10月より顕著
なった(松本・他,2012;Matsumoto et al., 2013)。
な隆起活動が認められ,2010年5月より沈降に転じて
その結果,2006年以降の昭和火口の活動においても
いる。その後は爆発回数・火山灰放出量ほぼ同様の
20世紀の山頂南岳火口の活動と同様のマグマ供給系
サイクルの変動が認められている(井口,2012)。
が活動していること,2009年9月以降に新鮮なマグマ
2012年1月~2014年1月までの活動の概要を以下にま
物質が認められるようになったこと,その石基ガラ
とめる。
ス組成が噴出マグマ中の玄武岩質マグマの割合を反
2012年は1月~5月にかけて活動が活発で,爆発回
映しており,玄武岩質マグマの影響が大きいほど活
数が100-180回/月,火山灰放出量が100万トン/月を超
動が活発化していることを示した。本稿では,2012
えていたが,6月以降は低調になり,爆発回数は60
年5月~2014年1月までの噴出物について,岩石学的
回/月程度,火山灰放出量は35-66万トン/月となった。
よび鹿児島市内でリアルタイムに採取されたもので
ある。試料は火山灰サイズが主体であるが(0.1-1mm),
ラピリサイズの試料も含まれる(5-20mm)。各サイ
ズの試料の採取時期は以下のとおりである。
火山灰試料:2012年5月~2013年11月
ラピリ試料:2012年5月・11月
2013年2月・5月・8月・9月・10月
2014年1月
試料処理および分析は全て北海道大学大学院理学
研究院で行なった。試料は肉眼で観察した後,代表
的なものについて,薄片を作成し鏡下観察を行なっ
た。また,その噴火由来のマグマ物質(本質物Aタイ
プ)とそれ以前の噴火に関連したマグマ物質(本質
物Bタイプ)の認定は,Matsumoto et al. (2013)の方法
に従った。代表的な試料の本質物Aタイプについては,
波長分散型EPMA(日本電子社製JXA-8800)を用い
て石基ガラス組成分析を行なった。測定条件は,加
速電圧15kV,電流値10nA,ビーム径10μm,ZAF補正
Fig. 1. Temporal change of eruptive activity since AD
法を適用した。また,ラピリサイズの本質物Aタイ
2006 (Iguchi, 2013). Top: monthly number of explosion.
プ・Bタイプを複数個合わせて1試料とし,粉末試料
Second: monthly weight of volcanic ash. Bottom:
を作成した。各試料について蛍光X線分析装置(スペ
monthly
クトリス社製MagiX PRO)を用いて全岩化学組成を
radial
tilt
change
in
Arimura
underground tunnel.
ちなみに,7月24日には山頂南岳火口において1年半
測定した。
4.
記載岩石学的特徴
ぶりに大規模な噴火が起きている(井口,2013)。
2013年になると再び活動が活発化し,2月には120回
4.1
火山灰試料
の火山爆発が発生したが,その後は活動度が急激に
2012年5月~2013年11月の火山灰試料は,2009年9
低下した(6月:爆発回数16回,火山灰放出量26回)。
月以降の噴出物と同じく,本質物Aタイプ(軽石・緻
7月には再び活発になり,8月~9月には3000m超の噴
密岩片・スコリア),本質物Bタイプ(緻密岩片・軽
煙柱を記録するような噴火が次々と起こった。その
石・スコリア),強変質岩片(赤色岩片・珪化岩片),
活発化は10月まで継続したが,その後は徐々に低調
鉱物片(斜長石・斜方輝石・単斜輝石・不透明鉱物・
になった(2014年1月:爆発回数14回,火山灰放出量
かんらん石・クリストバライト)からなる(Fig. 2)。
約15万トン)。有村観測坑における傾斜変動は,2012
本質物Bタイプと鉱物片が大部分を占めており,本質
年1月~5月にかけて,一定もしくはやや隆起傾向に
物Aタイプと強変質岩片は少量認められる程度であ
あったが,6月になると急激に沈降に転じ,その沈降
る。2013年8月~10月の昭和火口噴出物には本質物A
は12月まで続いた。その後2013年1月~7月まで緩や
タイプの軽石がより多く認められる傾向がある
かに隆起していたが,8月~10月にかけて急激な沈降
(Fig.2e-g)。また,2012年7月24日の山頂南岳火口
が起き,その後も緩やかな沈降が続いている。
噴出物にも,軽石質の本質物Aタイプが多く認められ
このように,2012年1月~2014年1月まで,火山爆
た(Fig. 2b)。本質物Aタイプ・Bタイプの石基はイ
発回数・火山灰放出量の増減と山体の隆起・沈降の
ンターサータル組織で,無色ないし茶褐色ガラス・
サイクルは,それ以前の活動と同様に調和的である。
斜長石・ピジョン輝石・不透明鉱物からなる。
しかし,2013年8月~10月は,山体が沈降しているに
も関わらず活動が活発化した特殊な時期であるとい
える。
4.2
ラピリ試料
今回対象としたラピリサイズの試料は,採取時期に
関わらず,本質物Bタイプが大半を占めており,それ
3.
サンプル採取および分析手法
に加えて少量の本質物Aタイプが認められる(Fig. 3)。
本質物Aタイプは,軽石・スコリア・緻密岩片と様々
本稿で対象とする昭和火口噴出物は,山体周辺お
であるが,本質物Bタイプは緻密岩片が多く,少量の
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
(g)
(h)
Fig. 2. Photomicrographs of the representative volcanic ash from Showa crater. Width of photo, (a) (b) (e) (f)
(g): 2 mm; (c) (d) (h): 1.1 mm. All the samples are composed of Juvenile-A and –B type materials in addition to
the strongly-altered rocks and isolated crystals.
2013.02.25
2013.05.30
2013.08.18
2013.09.04
2013.09.04
2013.08.18
Fig. 3. Photographs of
the representative lapilli
from
Showa
crater.
Dense lithic are mainly
observed. The volcanic
breccia are found in the
eruptive materials in the
period from August to
Volcanic
breccia
September 2013.
Volcanic
breccia
Fo71
Fo81
Fig. 4. Photomicrographs of the representative lapilli from Showa crater. Left: August 18, 2013 (3 mm width); right:
September 26, 2013 (2.3 mm width). Arrows show olivine phenocrysts.
Fig. 5. Temporal change of SiO2 content for whole-rock
chemistry of juvenile lapilli of Sakurajima volcano since
AD 1955.
Fig. 6. Temporal change of SiO2 content for matrix glass
chemistry of Juvenile-A type materials from Showa
crater since September 2009.
スコリアが認められる程度である。また2013年の試料
には,赤色変質した強変質岩片が少量含まれる。2013
年8月・9月の試料には,火山角礫岩が特徴的に認めら
6. 岩石学的特徴からみる2012年5月~2014年1
月の活動
れる。これは,2006年以降の昭和火口の活動において,
おそらく初めて認められたタイプの岩石である。しか
上述したように,2012年5月~2014年1月の昭和火口
し,2013年11月・2014年1月の試料には,そのような火
噴出物は,それ以前の昭和火口噴出物と非常に類似し
山角礫岩は認められない。
た岩石学的特徴を示す。従って,2012年5月以降もそれ
本質物AタイプおよびBタイプは,2009年9月以降の
以前と同じマグマ供給系が活動していると考えられる。
ものと同様の特徴を示す。斑晶鉱物として,斜長石・
松本・他(2012)・Matsumoto et al. (2013)と同様に,
斜方輝石・単斜輝石・不透明鉱物を含み,少量のかん
本質物Aタイプの石基ガラス組成が玄武岩質マグマの
らん石も存在する。かんらん石は反応縁が無いものと
影響の程度を反映していると仮定すると,2012年5月以
あるものがあり,前者はFo80前後であるが,後者は
降は全体として顕著な玄武岩質マグマの影響の増大は
Fo60-71と鉄に富んだ組成を示す(Fig. 4)。本質物A
認められず,2006年以降の昭和火口の活動において最
タイプ・Bタイプの石基はインターサータル組織で,
も影響が小さい(Fig. 7)。火山活動をみると,2012
無色ないし茶褐色ガラス・斜長石・ピジョン輝石・不
年5月以降南岳直下の膨張圧力源は顕著に収縮し続け
透明鉱物からなる。
ている。マグマ供給量も,2013年1月~10月に一時増加
しているものの,その後は急激に減少している。従っ
5. 岩石学的特徴
て,2012年5月~2014年1月は,活動度が低下してきて
おり,活発化を示すような兆候は見られないといえる。
5.1 全岩化学組成
2013年8月~10月は,南岳直下の膨張圧力源が収縮し
2012年5月~2014年1月の本質物AタイプおよびBタ
ているにも関わらず,噴煙高度3000m級の噴火を継続
イプ(ラピリ試料)の全岩化学組成は,SiO2 = 58.9-59.6
した特殊な時期である。2013年8月~9月の噴出物中に
wt.%と組成幅が狭く,本質タイプや活動時期による違
は,これまでには認められなかった火山角礫岩が特徴
いは認められない。1955年以降の噴出物の時間変化の
的に含まれる(Fig. 3)。これは,火道角礫岩と考えら
傾向とも一致しており,また2009年~2010年噴出物よ
れ,8月~9月に火道が拡大した可能性が示唆される。
りもややシリカに富んでいることが分かる(Fig. 5)。
この時期の噴出マグマの特徴はそれ以前の時期と大き
な違いはなく,むしろ玄武岩質マグマの影響は小さい
5.2 火山ガラス組成
(Figs. 5 and 7)。従って,2013年8月~10月の活動活
2012年5月以降の火山灰試料およびラピリ試料の本
発化は,新たな玄武岩質マグマの注入によるものとは
質物Aタイプの石基ガラス組成はSiO2 = 70.1-74.5 wt.%
考えにくく,火道が新たに拡大しマグマが噴出しやす
(平均)と幅広いが,その色による違いは認められな
くなった結果であったと解釈される。
い。2009年9月からのSiO2量の時間変化をみると,2011
年以降時間と共にシリカに富む傾向にあり(松本・他,
7.
まとめ
2012),2012年5月以降の試料もその傾向と調和的であ
る(Fig. 6)。
岩石学的解析の結果,2012年5月~2014年1月の活
Fig. 7. Comparison between matrix glass chemistry of Juvenile-A type materials and monitoring data. During May 2012 to
January 2014, the effect of basaltic magma became smaller with clear deflation of pressure source, suggesting that the level
of eruptive activity declined. However, the eruptive activity in the period from August to September 2013 was larger. This
probably resulted from the vent expansion, not related to the input of basaltic magma.
動はこれまでの昭和火口の活動の一環であり,玄武岩
質マグマの影響はさらに小さくなっている。地球物理
ける多項目観測に基づく火山噴火準備過程解明のた
めの研究 平成24年度報告書,pp.49-54.
学的にも活発化の兆候は見られないことから,活動度
松本亜希子・中川光弘・宮坂瑞穂・井口正人(2012):
が低下してきていると考えられる。2013年8月~10月の
岩石学的特徴からみる,桜島火山の活動とその評価
活発化は,新たな玄武岩質マグマの注入によるもので
-2006年6月~2012年4月の昭和火口の活動について,
はなく,火道が拡大したために起きたものであると考
桜島火山における多項目観測に基づく火山噴火準備
えられる。活動度は低下してきているが,今後もこの
過 程 解 明 の た め の 研 究 平 成 23 年 度 報 告 書 ,
ような火道拡大による活発化は起きる可能性があり,
pp.109-118.
森 俊 哉( 2013 ) :昭 和火 口と 南岳 火口 の火 山ガ ス
注意を払う必要がある。
HCl/SO2比の推移(3),桜島火山における多項目観
謝
辞
測に基づく火山噴火準備過程解明のための研究 平
成24年度報告書, pp.75-80.
本研究を遂行するにあたり,京都大学防災研救助火
野上健治・井口正人・味喜大介・為栗健・山本圭吾・
山活動研究センターのスタッフの方々には大変お世話
園田忠臣・関健次郎・佐藤泉(2013):桜島昭和火
になった。また,鹿児島大学の宮町宏樹ご夫妻には,
口における噴火活動と地球化学的観測研究-火山灰
試料採取に協力していただいた。北海道大学理学部の
水溶性成分による噴火活動評価-,桜島火山におけ
野村秀彦氏・中村晃輔氏には,薄片作成において大変
る多項目観測に基づく火山噴火準備過程解明のため
お世話になった。以上の方々に深く感謝致します。
の研究 平成24年度報告書, pp.89-94.
山本圭吾・園田忠臣・高山鐵朗・市川信夫・大倉敬宏・
参考文献
横尾亮彦・吉川慎・井上寛之・堀田耕平・松島健・
内田和也・中元真美(2012):水準測量による桜島
井口正人(2012):桜島火山の噴火活動-2011年7月~
2012年6月-,桜島火山における多項目観測に基づく
火山噴火準備過程解明のための研究 平成23年度報
告書,pp.1-11.
火山の地盤上下変動(2010年11月~2011年11月),
京都大学防災研究所年報,第55号B,pp.155-161.
Matsumoto, A., Nakagawa, M., Amma-Miyasaka, M. and
Iguchi, M. (2013) : Temporal variations of the
井口正人(2013):桜島火山の火山活動-2012年7月~
petrological features of the juvenile materials during 2006
2013年6月,桜島火山における多項目観測に基づく火
to 2010 from Showa crater, Sakurajima volcano, Kyushu,
山噴火準備過程解明のための研究 平成24年度報告
書,pp.1-8.
Japan, Bull. Volcanol. Soc. Japan, Vol. 58, 191-212.
Shimano, T., Nishimura, T., Chiga, N., Shibasaki, Y.,
井口正人・太田雄策・中尾茂・園田忠臣・高山鐵朗・
Iguchi, M., Miki, D. and Yokoo, A. (2013): Development
市川信夫・堀田耕平(2013):桜島昭和火口噴火開
of an automatic volcanic ash sampling apparatus for
始以降のGPS観測-2012年~2013年-,桜島火山にお
active volcanoes, Bull. Volcanol., Vol. 75, 773.
Petrological features of eruptive materials from Showa crater, Sakurajima Volcano, during May 2012 to
January 2014
Akiko MATSUMOTO, Mitsuhiro NAKAGAWA, Mizuho MIYASAKA, Masato IGUCHI**
* Graduate School of Science, Hokkaido University
** Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University
Synopsis
We carried out the petrological investigation about the eruptive materials from Showa crater during May
2012 to January 2014. The volcanic glass compositions of the fresh juvenile materials suggests that the ratio of
basaltic magma in erupted magma became much smaller, concluding that the level of volcanic activity of
Sakurajima volcano declines. The existence of vent breccia in the eruptive materials in the period from August to
October 2013 indicates that the large eruptive activity in this period was probably induced not by the injection of
basaltic magma, but by the vent expansion.
Keywords: Sakurajima volcano, Showa crater, volcanic ash, matrix glass composition, temporal change
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