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Page 1 (19)日本国特許庁(JP) (12)公表特許公報(A) (11)特許出願公表
JP 2013-540803 A 2013.11.7 (57)【要約】 デュピュイトラン病のような骨格筋線維増殖性疾患は、 TNF-αアンタゴニストを局所的に投与することにより処 置され得る。TNF-αアンタゴニストは、初期段階のデュ ピュイトラン病及び他の骨格筋線維増殖性疾患進行を抑 制し、細胞外マトリックス分解剤(コラゲナーゼやマト リックスプロテイナーゼIのような)と共に、進行した 段階のデュピュイトラン病の処置、特に再発の抑制に有 用である。 【選択図】図23 10 (2) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【特許請求の範囲】 【請求項1】 治療、予防又は進行抑制に効果的な量のTNF-αアンタゴニストを含む、骨格筋線維増殖 性疾患の処置用組成物。 【請求項2】 前記骨格筋線維増殖性疾患が線維腫症である請求項1記載の組成物。 【請求項3】 前記骨格筋線維増殖性疾患が、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及 びペロニー病から成る群より選ばれる請求項1又は2記載の組成物。 【請求項4】 10 疾患部位又はその症状が発現している部位に局所投与するためのものである請求項1∼ 3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 初期段階の骨格筋線維増殖性疾患の処置用である請求項1∼4のいずれか1項に記載の 組成物。 【請求項6】 TNF-αアンタゴニストと、細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤とを含む請求項5 記載の組成物。 【請求項7】 前記細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤が、マトリックスメタロプロテイナーゼ 20 及び/又はコラゲナーゼである請求項5記載の組成物。 【請求項8】 確立した病状の骨格筋線維増殖性疾患の処置用である請求項1∼4のいずれか1項に記 載の組成物。 【請求項9】 外科的筋膜切除、外科的筋膜切開、外科的皮膚筋膜切除、針筋膜切開及び酵素媒介細胞 外マトリックス分解から選択されてもよい、他の骨格筋線維増殖性疾患の処置と共に行わ れる付属的及び/又は併用処置用である請求項8記載の組成物。 【請求項10】 TNF-αアンタゴニストと、細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤とを含む請求項8 30 又は9記載の組成物。 【請求項11】 前記細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤が、マトリックスメタロプロテイナーゼ 及び/又はコラゲナーゼである請求項10記載の組成物。 【請求項12】 患部組織に直接注射するために製剤された請求項1∼11のいずれか1項に記載の組成 物。 【請求項13】 局所投与のために製剤された請求項1∼11のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項14】 40 前記骨格筋線維増殖性疾患がデュピュイトラン病である請求項1∼13のいずれか1項 に記載の組成物。 【請求項15】 前記TNF-αアンタゴニストが、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴ ール、ゴリムバム及びエタネルセプトから選ばれる1又は複数である請求項1∼14のい ずれか1項に記載の組成物。 【請求項16】 TNF-αアンタゴニストの、骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬剤の製造のための使 用。 【請求項17】 50 (3) JP 2013-540803 A 2013.11.7 前記骨格筋線維増殖性疾患が線維腫症である請求項16記載の使用。 【請求項18】 前記骨格筋線維増殖性疾患が、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及 びペロニー病から成る群より選ばれる請求項16又は17記載の使用。 【請求項19】 使用及び薬剤が請求項1∼15のいずれか1項によりさらに規定される請求項16∼1 8のいずれか1項に記載の使用。 【請求項20】 効果量のTNF-αアンタゴニストを単独で、又は細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂 剤と共に、骨格筋線維増殖性疾患の処置を必要とする患者に投与することを含む、骨格筋 10 線維増殖性疾患の処置方法。 【請求項21】 前記細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤が、マトリックスメタロプロテイナーゼ 及び/又はコラゲナーゼである請求項20記載の方法。 【請求項22】 前記骨格筋線維増殖性疾患が、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及 びペロニー病から成る群より選ばれる請求項20又は21記載の方法。 【請求項23】 前記骨格筋線維増殖性疾患がデュピュイトラン病である請求項22記載の方法。 【請求項24】 20 前記TNF-αアンタゴニストを、任意に細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤と共に 局所投与することによる、請求項20∼23のいずれか1項に記載の方法。 【請求項25】 治療、予防又は進行抑制に効果的な量のDAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤を含 む、骨格筋線維増殖性疾患の処置用組成物。 【請求項26】 前記骨格筋線維増殖性疾患が、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及 びペロニー病から成る群より選ばれる請求項25記載の組成物。 【請求項27】 疾患部位又はその症状が発現している部位に局所投与するためのものである請求項25 30 又は26記載の組成物。 【請求項28】 初期段階の骨格筋線維増殖性疾患の処置用である請求項25∼27のいずれか1項に記 載の組成物。 【請求項29】 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤と、細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂 剤とを含む請求項28記載の組成物。 【請求項30】 確立した病状の骨格筋線維増殖性疾患の処置用である請求項25∼27のいずれか1項 に記載の組成物。 40 【請求項31】 外科的筋膜切除、外科的筋膜切開、外科的皮膚筋膜切除、針筋膜切開及び酵素媒介細胞 外マトリックス分解から選択されてもよい、他の骨格筋線維増殖性疾患の処置と共に行わ れる付属的及び/又は併用処置用である請求項30記載の組成物。 【請求項32】 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤を、細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂 剤 (例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ及び/又はコラゲナーゼ)と共に含む、請 求項30又は31記載の組成物。 【請求項33】 患部組織に直接注射するために製剤された請求項25∼32のいずれか1項に記載の組 50 (4) JP 2013-540803 A 2013.11.7 成物。 【請求項34】 局所投与のために製剤された請求項25∼32のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項35】 前記DAMPアンタゴニストは、アラーミンアンタゴニスト、例えば、HMGB1、S100A8、 S1 00A9、 S100A8/9及びS100A12のアンタゴニストの1種又は2種以上である請求項25∼3 4のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項36】 TNF-αアンタゴニストをさらに含む請求項25∼34のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項37】 10 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤を、任意に細胞外マトリックス分解、枯渇又 は開裂剤 (例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ及び/又はコラゲナーゼ)と共に 骨格筋線維増殖性疾患の処置を必要とする患者に投与することを含む骨格筋線維増殖性疾 患の処置方法。 【請求項38】 前記骨格筋線維増殖性疾患が、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及 びペロニー病から成る群より選ばれる請求項37記載の方法。 【請求項39】 デュピュイトラン病の処置のためのものである請求項38記載の方法。 【請求項40】 20 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤を、任意に細胞外マトリックス分解、枯渇又 は開裂剤 (例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ及び/又はコラゲナーゼ)と共に 骨格筋線維増殖性疾患の処置を必要とする患者に局所投与することによる、請求項37∼ 39のいずれか1項に記載の方法。 【請求項41】 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤の、骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬 剤の製造のための使用。 【請求項42】 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤とマトリックスメタロプロテイナーゼとの、 骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬剤の製造のための使用。 30 【請求項43】 DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤及び/又はTNF-αアンタゴニストと、任意に マトリックスメタロプロテイナーゼとの、骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬剤の製 造のための使用。 【請求項44】 使用、疾患又は薬剤が、請求項25∼35のいずれか1項によりさらに規定される、請 求項41∼43のいずれか1項に記載の使用。 【請求項45】 効果量の筋線維芽細胞活性低下剤及び/又は筋線維芽細胞産生阻害剤を患者に局所投与 することを含む、外科的筋膜切除後、針筋膜切開後又は酵素媒介細胞外マトリックス分解 40 後のデュピュイトラン病の再発の低減又は予防方法。 【請求項46】 治療、予防又は再発抑制に効果的な量の筋線維芽細胞活性低下剤及び/又は筋線維芽細 胞産生阻害剤(例えばTNF-αアンタゴニスト)を、骨格筋癒着、例えば癒着性関節包炎、 又は関節周囲の線維症近位指節間関節の治療、予防又は再発防止を必要とする患者に投与 することを含む、骨格筋癒着、例えば癒着性関節包炎、又は関節周囲の線維症近位指節間 関節の治療、予防又は再発防止方法。 【請求項47】 筋線維芽細胞活性低下剤及び/又は筋線維芽細胞産生阻害剤(例えばTNF-αアンタゴニ スト)を含む、骨格筋癒着、例えば癒着性関節包炎、又は関節周囲の線維症近位指節間関 50 (5) JP 2013-540803 A 2013.11.7 節の治療、予防又は再発防止用の、好ましくは患部又はその近傍に局所投与するための、 組成物。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、線維腫症、特にデュピュイトラン病(Dupuytren's disease)などの骨格筋線 維増殖性疾患(musculoskeletal fibroproliferative disorder)の治療に関する。特に、 本発明は、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病)の治療、予防若しくは進 行防止のための、組成物若しくは治療剤、又はかかる組成物若しくは治療剤の組合せ、骨 格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病)の治療、予防若しくは進行防止のため 10 のかかる組成物/治療剤の使用、及び、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン 病)の治療方法に関する。 【背景技術】 【0002】 デュピュイトラン病は、手掌線維腫症として(又は、その既存の病状(established dis ease state)のデュピュイトラン拘縮で)も知られており、最も一般的には、薬指及び小 指を曲げる物理的影響によって手(手掌筋膜)の結合組織を厚くさせ短くさせる、手(手 掌筋膜)の結合組織におけるコラーゲンなどの細胞外マトリックス物質の構造に関連する 疾患である。 【0003】 20 デュピュイトラン病は、白人コーカサス人の人口のおよそ5%が罹患している。最も一 般的な症状は、手の指の進行性屈曲拘縮であり、これは、顕著な機能障害を生じる。進行 性屈曲拘縮は、男性と女性とが共に罹患するが、発病率は男性において高い。 【0004】 デュピュイトラン病の原因は十分に理解されておらず、また、基礎疾患は一般に治療可 能ではない。 【0005】 デュピュイトラン病の治療は、伝統的に侵襲性の外科技術であった。主として、該治療 は、不快感を与える組織の外科的切除を含む。重篤疾患又は再発性疾患において、外科的 切除は、被覆する手掌の皮膚の切除と併用され、全層植皮術によって皮膚欠陥が再び表面 30 化する場合がある。外科手術は、通常、長期のリハビリテーション(通常、3ヶ月)を伴 い、また、事例の最大20%で合併症が報告されている。腱及び関節への二次的変化が生 じた場合、かかる外科的矯正は、後期疾患の主な治療である。それほど侵襲性でない外科 的処置は、結合組織中の線維帯(拘縮)が針の傾斜を用いて分割される針筋膜切開である 。 【0006】 患部組織の酵素的開裂は、外科手術に関連する侵入性を低減し、回復時間を改善させる 開発の中心であった。このアプローチによって、コラゲナーゼの試験に至った。細菌コラ ゲナーゼ(クロストリジウム(Clostridial)のコラゲナーゼ)はファイザー(Pfizer)社及 びオキシリウム社(Auxilium)のキシアフレックス(Xiaflex)(商標)としてFDAに承認 40 されている。米国再発行特許第39941号、米国特許第5589171号、及び同60 86872号は、デュピュイトラン病の治療における結合組織の酵素的開裂のための細菌 コラゲナーゼの使用について記載する。細菌コラゲナーゼは、特定の不都合の影響を受け る。すなわち、これは、例えば、血管に関連するコラーゲンIV型を含む種々のコラーゲ ン物質の非選択的開裂の欠乏;キシアフレックス(Xiaflex)(商標)の場合、アレルギー 反応及び潜在的免疫性の可能性があること;並びに、投与によって出血がもたらされる場 合があり、薬剤が分散すると、副作用の危険性により、コラゲナーゼの長期活性が、局所 的に投与することができる用量を制限することである。 【0007】 国際公開公報第2010/102202号は、新規の温度感受性組換えコラゲナーゼを 50 (6) JP 2013-540803 A 2013.11.7 記載し、その活性は、体温より低い温度でみられるが、体温では比較的不活性である。し たがって、デュピュイトラン症候群は、より低い温度でかかる組換えコラゲナーゼを投与 することによって治療することができ、該組換えコラゲナーゼは、活性の持続時間を制限 し、考えられる局所用量を増加させ、コラゲナーゼ関連副作用を低減することが要求され る。 【0008】 現在まで、コラゲナーゼ治療は、中手指節関節(metacarpophalangel joint)の拘縮の治 療に比較的効果があると考えられているが、近位指節間関節の矯正がそれほど十分ではな かった。さらに、外科的処置でのように、再発が予想され得るが、酵素により筋を切断す ることを含む、初期コラゲナーゼ試験の場合には、再発が、特に近位指節間関節に罹患す 10 る疾患において高い。 【0009】 提案されている他の外科以外の治療には、X線治療及び電子線治療などの(初期疾患の 進行を遅延させるための)局所治療、超音波治療、及び低線量放射線治療として適用され る、ビタミンEクリームの塗布が含まれる。 【0010】 デュピュイトラン病の治療のほとんどの研究は、デュピュイトラン病(例えば、米国特 許出願公開第2004/0161761号)の素因の検出、及び産生された細胞外マトリ ックスに焦点を置かれており、これによって、コラゲナーゼに基づく治療が生じた。デュ ピュイトラン病の生化学的経路への研究から得られた潜在的治療に対する決定的な洞察は 20 ほとんどなかった。 【0011】 デュピュイトラン病及び他の骨格筋線維増殖性疾患の治療及び/又は予防(例えば、進 行の防止)における新しい治療的処置の必要性が残されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0012】 【特許文献1】米国再発行特許第39941号 【特許文献2】米国特許第5589171号 【特許文献3】米国特許第6086872号 30 【特許文献4】国際公開公報第2010/102202号 【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0161761号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明者らは、驚くべきことに、TNF‐αアンタゴニストの投与が、初期デュピュイ トラン病の進行防止、及び後期デュピュイトラン病の回復、並びに疾患の再発の低減にお いて、単独で又は別のデュピュイトラン病の治療と併用して効果的であることを見出した 。 【0014】 40 デュピュイトラン病及び他の骨格筋線維増殖性疾患、足底線維腫症(又は、レダーホー ス病(Ledderhose's disease))、癒着性関節包炎(五十肩)及びペロニー病(陰茎の線維 腫症)を含み、これらから選択されることが好ましい、特定の線維腫症及び同様の疾患の 治療における改善の必要性が残されている。 【0015】 本発明は、デュピュイトラン病、足底線維腫症、癒着性関節包炎及びペロニー病のうち の1以上の治療又は予防(例えば、進行若しくは再発の防止)のための、組成物及び方法 を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0016】 50 (7) JP 2013-540803 A 2013.11.7 本発明の第1の局面において、(例えば、治療、予防又は進行抑制に効果的な量の)TN F-αアンタゴニストを含む、骨格筋線維増殖性疾患の処置用組成物が提供される。 【0017】 本発明の第2の局面において、骨格筋線維増殖性疾患の処置用のTNF-αアンタゴニスト が提供される。また、TNF-αアンタゴニストの、骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬 剤の製造のための使用が提供される。 【0018】 本発明の第3の局面において、(例えば、治療、予防又は進行抑制に効果的な量の)DA MPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤を含む、骨格筋線維増殖性疾患の処置用組成物が 提供される。 10 【0019】 本発明の第4の局面において、DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤の、骨格筋線 維増殖性疾患の処置のための薬剤の製造のための使用が提供される。 【0020】 本発明の第5の局面において、(例えば、治療、予防又は進行抑制に効果的な量の)DA MPアンタゴニスト及び/又はAGE炎症経路阻害剤を含む、骨格筋線維増殖性疾患の処置用 組成物が提供される。 【0021】 本発明の第6の局面において、DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE炎症経路阻害剤の、 骨格筋線維増殖性疾患の処置のための薬剤の製造のための使用が提供される。 20 【0022】 本発明の第7の局面において、効果量の1又は複数のDAMPアンタゴニスト及び/又はAG E炎症経路阻害剤を単独で、又は細胞外マトリックス分解、枯渇又は開裂剤と共に、骨格 筋線維増殖性疾患の処置を必要とする患者に投与することを含む、骨格筋線維増殖性疾患 の処置方法が提供される。 【0023】 本発明の第8の局面において、効果量の、TNF-αアンタゴニストのような、筋線維芽細 胞活性低下剤及び/又は筋線維芽細胞産生阻害剤を、単独で又は細胞外マトリックス分解 、枯渇又は開裂剤と共に、骨格筋線維増殖性疾患の処置を必要とする患者に投与すること を含む、骨格筋線維増殖性疾患の処置方法が提供される。 30 【0024】 本発明の第9の局面において、効果量の筋線維芽細胞活性低下剤及び/又は筋線維芽細 胞産生阻害剤を患者に局所投与することを含む、外科的筋膜切除後、針筋膜切開後又は酵 素媒介細胞外マトリックス分解後のデュピュイトラン病の再発の低減又は予防方法が提供 される。 【発明の効果】 【0025】 本発明の組成物及び方法は、デュピュイトラン病(並びに他の線維症及び類似疾患)の 進行を遅延又は停止させることができる。本発明は、初期段階のデュピュイトラン病(並 びに他の線維症及び類似疾患)が、確立した段階の疾患に進行することを防止することが 40 でき、外科的処置及びそれに伴う回復時間を回避することができるという特別な利点を有 する。 【0026】 本発明の組成物及び方法は、癒着性関節包炎及び腱癒着(確立した段階のデュピュイト ラン病における近位指節間関節の癒着のような)の進行を防止及び抑制することができる 。 【図面の簡単な説明】 【0027】 【図1】図1は、手術時の観察における結節及び筋の像を示す。 【図2】図2は、デュピュイトラン病患者の種々の部分の患部組織から切除された組織に 50 (8) JP 2013-540803 A 2013.11.7 おけるα‐SMAを多く含む細胞の分布を示すチャートである。 【図3】図3は、三次元コラーゲンマトリックスにおける細胞の収縮挙動を評価するため のインビトロ試験に使用される培養力モニター(Culture Force Monitor)の写真である。 【図4】図4は、24時間にわたる種々の細胞培養時間(図3の培養力モニターにおける )に対する収縮のグラフを示す。 【図5】図5は、デュピュイトラン病患者とは異なる組織由来の細胞における収縮の平均 割合を示すチャートである。 【図6】図6は、デュピュイトラン病患者とは異なる組織由来の細胞における収縮の平均 割合、メッセンジャーRNAの量、収縮性タンパク質α‐平滑筋アクチン(α‐SMA) の量及び細胞内分布のチャートである。 10 【図7】図7は、デュピュイトラン病患者の結節及び筋における炎症細胞(マクロファー ジ、CD68、マスト細胞、マスト細胞トリプターゼ)の像を示す。 【図8】図8は、α‐SMA及びRAGEが染色されたデュピュイトラン病患者の筋試料 の断面の像を示す。 【図9】図9は、RAGEが染色されたデュピュイトラン病患者皮膚試料の断面の像を示 し、非手掌皮膚及び手掌皮膚における異なった分布を示す。 【図10】図10は、RAGE発現における、結節、非手掌皮膚及び手掌皮膚線維芽細胞 由来の細胞のFACS分析を示すチャートである。 【図11】図11は、RAGE発現における、適合した1組の非手掌皮膚及び手掌皮膚由 来の細胞のFACS分析を示すチャートである。 20 【図12】図12は、TNF‐α、HMGB1又はTGF‐β1によって処理された手掌 皮膚真皮線維芽細胞の収縮性のチャートである。 【図13】図13は、抗TNF‐αの有無における(デュピュイトラン病患者の)初代継 代結節由来細胞の収縮性を示すチャートである。 【図14】図14は、AGEに暴露した手掌真皮線維芽細胞の収縮性を示すチャートであ る。 【図15】図15は、特定のDAMPに暴露したヒト単球からのTNF‐αの産生を示す チャートである。LPSは、正の対照として示すPAMPである。 【図16】図16は、特定の受容体遮断薬の存在下における特定のDAMPに暴露したヒ ト単球からのTNF‐αの産生を示すチャートである。 30 【図17】図17は、S100 A8存在下でのTLR‐4欠損及びMyD88欠損細胞 におけるマウス骨髄細胞からのTNF‐αの産生を示すチャートである。 【図18】図18は、特定のDAMP単独で、及びLPSと組み合わせて暴露したヒト単 球からのTNF‐αの産生を示すチャートである。 【図19】図19は、デュピュイトラン病の病因における外傷及びアラーミンの役割の提 案されたメカニズムの概略図である。 【図20】図20は、抗TNF‐αの有無での、AGEによって刺激された単球の上清へ の暴露に対する手掌線維芽細胞の収縮におけるシワ誘発のチャートである。 【図21】図21は、手掌真皮線維芽細胞の収縮性、及びTGF‐β1に対する用量反応 を示すチャートである。 40 【図22】図22は、TNF‐αに暴露したデュピュイトラン病患者の手掌真皮線維芽細 胞が、より収縮性になるが、非掌真皮線維芽細胞は、収縮性にならないことを示すチャー トである。 【図23】図23は、TNF‐αアンタゴニストに暴露したデュピュイトラン病患者の結 節由来(form)細胞の収縮性の用量関連阻害を示すチャートである。 【図24】図24は、ファロイジンで染色され、応力の軸における配列を示す、対照Ig G抗体のみに暴露した三次元コラーゲンゲル中のデュピュイトラン病患者の結節由来細胞 を示す像である。 図24b及び24cはそれぞれ、ファロイジン及びα‐SMAで染色 され、TNF‐αアンタゴニストによって処理され、応力の軸の配列の損失を示す、デュ ピュイトラン病患者の結節由来細胞を示す像である。 50 (9) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【図25】図25は、線維増殖性疾患の病因における高度糖化最終産物、損傷及びアラー ミンの提案された役割の概略図であり、最終一般的経路におけるTNF‐αの重要な役割 を強調する。 【発明を実施するための形態】 【0028】 本発明は、骨格筋線維増殖性疾患、特にデュピュイトラン病(若しくは、足底線維腫症 、癒着性関節包炎、及びペロニー病などの他の線維腫症及び同様の疾患)の治療の改善を 提供し、これは、その必要のある患者(特に、初期病状の徴候を示す患者)に、治療量、 予防量、若しくは進行抑制量の筋線維芽細胞活性低下剤(myofibroblast activity down-r egulating agent)、及び/又は筋線維芽細胞産生阻害剤を投与することを含み、治療量、 10 予防量、若しくは進行抑制量のTNF‐αアンタゴニストを患者に投与することを含むこ とが好ましい。さらに、本発明は、デュピュイトラン病進行の徴候を有するか若しくは示 す患者に、任意に、初期外科的処置(例えば、筋膜切開若しくは筋膜切除(fasciectomy) )、又は初期の治療的処置(例えば、細胞外マトリックス分解剤(extracellular matrix degradation agent)、枯渇剤(depletion agent)、又は、マトリックスメタロプロテイナ ーゼ、若しくはコラゲナーゼなどの開裂剤(cleaving agent))に対する補助療法(若しく は併用療法)として、TNF‐αアンタゴニストを投与することによる、疾患発現及び/ 又は進行の防止を提供する。さらにまた、本発明は、TNF‐αアンタゴニストを患者に 投与することによる、初期外科的処置又は既存の疾患の治療的処置に対する補助療法とし て、疾患の再発の防止を提供する。 20 【0029】 骨格筋線維増殖性疾患は、筋骨構造と関連する(多くの場合、後期疾患において拘縮に 関連する)、細胞外マトリックスの過剰産生又は非制御産生が特徴である。上述のとおり 、骨格筋線維増殖性疾患には線維腫症が含まれる(文脈が認める箇所で、「骨格筋線維増 殖性疾患」及び「線維腫症」という用語は、区別なく本明細書に使用することができる。 )。本発明は、かかる疾患の治療、特に、(例えば、外科手術又は治療による初期治療後 の)該疾患の進行及び再発の抑制に関係がある。特に、本発明は、デュピュイトラン病、 足底線維腫症、癒着性関節包炎、及びペロニー病から選択される疾患(特に、デュピュイ トラン病)に関係がある。本文書の残りは、概して、デュピュイトラン病の特別参照と共 に、骨格筋線維増殖性疾患の治療のための組成物及び方法について論じる。文脈が認める 30 箇所で、本開示が、デュピュイトラン病に代わる一般疾患又は他の特定疾患で理解されて もよいことが理解される。 【0030】 本発明の治療におけるTNF‐αアンタゴニストの効果は、筋線維芽細胞への線維芽細 胞分化のTNF‐αによるものであると考えられ、これは、デュピュイトラン病(及び他 の線維腫症)における収縮活動、及び非制御細胞外マトリックス発生誘発の主な原因であ ると理解される。本発明者らは、(筋線維芽細胞分化のTNF‐α抑制を示した、Goldbe rg et al, J Invest Dermatol. 2007 November ; 127(11): 2645-2655の教示に反して) このTNF‐α依存性を実証し、また、TNF‐αアンタゴニストを生存可能な治療とし て確認している。 40 【0031】 臨床的コンセンサスは、一般に、臨床的な結節が、既存のデュピュイトラン病の前駆体 であるということである。デュピュイトラン病は、遺伝性素因を有する人に生じ、また、 デュピュイトラン病の発現に対するさらなる危険因子には、局所的外傷、不適切なライフ スタイル(例えば、喫煙、飲酒、及び不適切な食事)、肝臓病、並びに糖尿病が含まれる 。既存の疾患は、中手指節関節(metacarbophalangeal joint)(MCPJ)単独の拘縮と して通常発症し、近位指節間関節(PIPJ)単独の拘縮としてあまり頻繁に発症せず、 両者を発症することが多い、屈曲拘縮として発症する。細菌コラゲナーゼを使用する酵素 筋膜切開のフェーズIII臨床試験は、PIPJ拘縮の40%に対して、MCPJ拘縮の 77%が効果的に治療される(最大5°の完全な伸張)ことを報告した(Hurst et al, N. 50 (10) JP 2013-540803 A 2013.11.7 Engl J. Med, 2009, 361, 968-979)。初期試験(Badalamente et al, J Hand Surg Am, 2 007, 32, 767-774)は、2年の追跡調査で、PIPJ拘縮患者において57%の再発率を 示した。 【0032】 研究の多くは、筋線維芽細胞が、初期で活動的な疾患と同時に存在し、かかる細胞は、 増殖性細胞外マトリックス(ECM)の発生又は堆積(特に、コラーゲン堆積)に関係す ることを示している。TGF‐β1は、筋線維芽細胞表現型を発達させる。また、筋線維 芽細胞も収縮挙動の原因であると考えられている。筋線維芽細胞は、特徴として、血管平 滑筋細胞に特有のアクチンアイソフォームである、α‐平滑筋アクチン(α‐SMA)を 発現させる。α‐SMAは、筋線維芽細胞の収縮性の原因であるタンパク質であると考え 10 られ、筋線維芽細胞の最も信頼できるマーカーである。 【0033】 上述するように、本発明は、治療量、予防量又は進行抑制量のTNF‐αアンタゴニス トを患者に投与することによって、線維腫症(特に、デュピュイトラン病)などの骨格筋 線維増殖性疾患を治療するための組成物及び方法を含むことが好ましく、骨格筋線維増殖 性疾患の進行若しくは再発を抑制するか、又は停止させるための組成物及び方法を含むこ とがより好ましい。投与は、局所投与(例えば、注射によって、又は患部組織に隣接して )であることが好ましい。 【0034】 本発明には2つの主な実施態様がある。 20 【0035】 本発明の第1の主な実施態様は、効果的な量のTNF‐αアンタゴニストを、(例えば 、触診可能な筋を示す前の)初期病状を示す患者に投与することによって、初期病状の骨 格筋線維増殖性疾患(特に、初期病状のデュピュイトラン病)を治療するための組成物及 び方法を含む。 【0036】 第1の実施態様によれば、TNF‐αアンタゴニストを含む組成物は、(既存の病状へ の)疾患の進行を防止し、これにより生じる屈曲拘縮を予防するために、患者に投与する ことができる。該方法は、臨床的な結節への直接的な局所投与(例えば、注射による)を 含むことが好ましい。好ましい実施態様において、該方法は、細胞外マトリックス分解剤 30 、枯渇剤、又は開裂剤(コラーゲン分解剤、枯渇剤、又は開裂剤が好ましく、また、例え ば、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、及び/又はコラゲナーゼであっても よい。ただし、例えば、MMP若しくはコラゲナーゼ低下剤、又は誘発剤であってもよい 。)を、好ましくは局所的に(より好ましくは、確認された臨床的な結節に直接)、患者 に投与することをさらに含む。マトリックスメタロプロテイナーゼ、又はコラゲナーゼは 、臨床的な結節に対して局所的である、コラーゲン及び細胞外マトリックスを破砕でき、 これによって、増殖性線維症の病巣に対する投与されたTNF‐αアンタゴニストの接近 が促進され、このため、治療の有効性を高めることができると考えられる。本方法のTN F‐αアンタゴニストの投与は、予防又は進行停止又は抑制治療と考えられる。本実施態 様によれば、初期治療は、TNF‐αアンタゴニストであり、これに、細胞外マトリック 40 ス分解剤又は開裂剤を付加することが好ましい。 【0037】 TNF‐αアンタゴニスト、及び細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は、開裂剤( 例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、及び/又はコラゲナーゼ)との、初期病状 の骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病)を示す患者の複合療法を含む、好 ましい実施態様において、TNF‐αアンタゴニスト、及び細胞外マトリックス分解剤、 枯渇剤、又は開裂剤(例えば、コラゲナーゼ)は、同時に、又は連続して、一緒に、又は 別々に投与することができる。TNF‐αアンタゴニスト、及び細胞外マトリックス分解 剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、コラゲナーゼ)は共に、例えば注射によって、局所的 に投与されることが好ましい。任意に、これらは同時に投与されてもよく、例えば、TN 50 (11) JP 2013-540803 A 2013.11.7 F‐αアンタゴニスト及びコラゲナーゼの両方を含む組成物を(例えば、注射剤によって )投与されてもよく、又は、2つの別々の組成物を同時に適用することによって、投与さ れてもよい。又は、TNF‐αアンタゴニスト、及び細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤 、又は開裂剤(例えば、コラゲナーゼ)は、別々に投与される。別々に投与される場合、 これらは、いずれかの順序、適切な時間間隔で投与されてもよい。別々に投与される場合 、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、コラゲナーゼ)が、最初に 投与され、続いて、TNF‐αアンタゴニストが投与されることが好ましく、細胞外マト リックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤は、TNF‐αアンタゴニスト投与後の適切な時間 、例えば、最低5分後、好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内、さらに より好ましくは6時間以内、及び最も好ましくは15分から3時間以内に投与されてもよ 10 い。 【0038】 TNF‐αアンタゴニスト、及び細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤は、 初期病状の骨格筋線維増殖性疾患の治療のために、同時に投与されることが好ましい。組 成物は、初期病状の骨格筋線維増殖性疾患(好ましくはデュピュイトラン病)の治療のた めに、局所投与(例えば、注射剤、徐放性組成物又はインプラント)で提供されることが 好ましく、該組成物は、任意に、好ましくは補助的な量の、細胞外マトリックス分解剤、 枯渇剤、又は開裂剤(好ましくは、マトリックスメタロプロテイナーゼ、及び/又はコラ ゲナーゼ)と、医薬として許容し得る担体とを併用して、効果的な量のTNF‐αアンタ ゴニストを含む(又は、例えば、該組成物が徐放性組成物である場合、効果的な量のTN 20 F‐αアンタゴニストを放出するように構成される。)。 【0039】 本実施態様によれば、TNF‐αアンタゴニストは、全身合併症を誘発せずに、疾患進 行を抑制するのに効果的な量で提供されることが好ましい。したがって、任意に、TNF ‐αアンタゴニストは、例えば、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より 好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは、少なくとも75%、及び最も好ま しくは少なくとも90%の臨床的な結節組織中の平均α‐SMA陽性筋線維芽細胞集団に よって示すように、臨床的な結節組織における筋線維芽細胞活性を、少なくとも10%、 好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは 、少なくとも75%、及び最も好ましくは少なくとも90%低下させる量で提供され、活 30 性低下又は細胞集団の減少は、投与から、48時間以内で顕著であることが好ましく、2 4時間がより好ましい。効果的な量のTNF‐αアンタゴニストは、投与後2週以内で臨 床的な結節サイズの低減(例えば、突起又は側面又は縦方向の範囲によって測定される、 少なくとも20%、又は少なくとも50%の大きさの低減)が生じることが好ましい。T NF‐αアンタゴニスト治療の有効性は、疾患の進行の全体的な低減によって顕著である ことが好ましい。 【0040】 TNF‐αアンタゴニストは、(例えば、販売許可又はFDA承認の参照によって)慢 性関節リウマチの全身治療で示される(又は、示されるであろう)0.01∼0.5、好 ましくは0.05∼0.2、及びより好ましくは0.095∼0.15の用量範囲の量で 40 投与できることが好ましい。TNF‐αアンタゴニストは、インフリキシマブ、アダリム マブ、セルトリズマブペゴール、ゴリムバム、若しくはエタネルセプトのうちの1つ又は これらの組合せから選択されることが好ましく、TNF‐αアンタゴニストは、セルトリ ズマブペゴールであることが最も好ましく、例えば、臨床的な結節への注射として、1∼ 100 mg、好ましくは5∼50 mg、及び最も好ましくは10∼40 mgの量で投 与されることが好ましい。(例えば、2つの別個の臨床的な結節に)1を超える注射が提 供される場合、その用量は、分割されることが好ましく、このため、提供される全用量は 、上述の範囲にある。 【0041】 本実施態様によれば、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マト 50 (12) JP 2013-540803 A 2013.11.7 リックスメタロプロテイナーゼ、及び/又はコラゲナーゼ)は、TNF‐αアンタゴニス トの補助的な量で提供されることが好ましく、このことは、TNF‐αアンタゴニストの 効能を高めるのに効果的な量を意味する。いずれの場合であっても、最大1 mgの量で 、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテ イナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)が提供されることが好ましい。細胞外マトリックス分 解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラ ゲナーゼ)は、既存の病状の線維腫症において酵素筋膜切開を達成するのに必要である、 細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイ ナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の用量よりも顕著に少ない量(例えば、0.01∼0. 5倍)で、投与されることが好ましい。細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤 10 (例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)は、0.01∼ 0.5 mgの量で提供されることが好ましく、0.05∼0.2 mgで提供されること がより好ましい。 【0042】 細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテ イナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)は、細胞集団の接近において、TNF‐αアンタゴニ ストを支援することができ、さらに、臨床的な結節の細胞外マトリックスの分解も支援す ることができる。 【0043】 本発明の第2の主な実施態様は、好ましくは、外科的筋膜切除、外科的筋膜切開、及び 20 /又は細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、若しくは開裂剤(例えば、マトリックスメタ ロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)治療(好ましくはコラゲナーゼ治療)と併用 して、同時に、連続して、共同して、付随して、併用投与して、又は補助的にこれらと共 に、効果的な量のTNF‐αアンタゴニストを患者に投与することによって、既存の病状 のデュピュイトラン病(若しくは、他の骨格筋線維増殖性疾患)を治療するための組成物 及び方法を含む。該方法は、外科的筋膜切開、針筋膜切開、又は細胞外マトリックス分解 剤、枯渇、若しくは開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラ ゲナーゼ)投与を含むことが好ましく、該方法は、既存の疾患の改善(すなわち、患部の 指のより大きな伸張が可能になる)、より好ましくは矯正(すなわち、最大5°の完全な 伸張)、及び最も好ましくは完全な矯正(完全な伸張)を提供する。該方法は、患部に対 30 する局所的部位への、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリ ックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の投与を含むことが最も好ましい 。治療が、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタ ロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)を含む場合、TNF‐αアンタゴニストは、 同時に、連続して、又は別々の投与によって、複合治療(例えば、複合療法、併用療法、 若しくは補助療法)で提供することができる。本実施態様において、TNF‐αアンタゴ ニストは、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタ ロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)治療に対して補助的であることが好ましい。 本実施態様によれば、TNF‐αアンタゴニストは、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤 、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の 40 投与前後に、例えば、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリ ックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の投与前後4∼6週以内に、好ま しくは、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロ プロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の投与前後14日以内に、さらにより好ましく は、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロ テイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の投与の少なくとも30分前後に、及び、より好ま しくは、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロ プロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の投与後に、例えば、細胞外マトリックス分解 剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲ ナーゼ)の投与4時間から7日後に、別々に投与することができる。これによって、TN 50 (13) JP 2013-540803 A 2013.11.7 F‐αアンタゴニストの投与は、患部へのより良好な接近を獲得することができるが、筋 線維芽細胞を最適に抑制することができる時点で投与されてもよい。 【0044】 本実施態様によれば、TNF‐αアンタゴニストは、全身合併症を誘発せずに、疾患再 発を抑制するのに効果的な量に提供されることが好ましい。したがって、任意に、TNF ‐αアンタゴニストは、例えば、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より 好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは、少なくとも75%、及び最も好ま しくは少なくとも90%の筋組織又は臨床的な結節組織中の平均α‐SMA陽性筋線維芽 細胞集団によって示すように、手術後又は筋膜切開(針筋膜切開若しくは酵素筋膜切開) と比較して、筋組織又は臨床的な結節組織における筋線維芽細胞活性を、少なくとも10 10 %、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好まし くは、少なくとも75%、及び最も好ましくは少なくとも90%低下させる量で提供され 、活性低下又は細胞集団の減少は、投与から、48時間以内で顕著であることが好ましく 、24時間がより好ましい。再発抑制効果は、全細胞集団の50%未満、好ましくは30 %未満、及び最も好ましくは15%未満の筋、組織学的な結節、又は臨床的な結節中のα ‐SMA陽性筋線維芽細胞の集団を、例えば投与2週以内、維持することによって達成す ることができることが好ましい。 【0045】 効果的な量のTNF‐αアンタゴニストは、投与後2∼4週以内において、触診可能な 、又は(例えば、超音波走査によって)測定される、臨床的な結節の症状、及び/又は臨 20 床的な結節サイズの増加(例えば、突起若しくは側面若しくは縦方向の範囲によって測定 される、サイズの25%の増加)を防止するものであることが好ましい。TNF‐αアン タゴニスト治療の有効性は、疾患(例えば、既存の病状)の再発の全体的な防止によって 顕著であることが好ましい。効果的な量のTNF‐αアンタゴニストを投与することによ って、TNF‐αアンタゴニスト投与後の期間内に(例えば、最大6週、好ましくは最大 6ヶ月)、屈曲拘縮によって発現される既存の病状(例えば、矯正治療後の範囲と比較し て、10°未満に維持された屈曲拘縮、より好ましくは、5°未満のさらなる拘縮)の再 発を管理できるか、又は防止できることが好ましい。任意に、これ(例えば2∼4週)を 達成するために、反復投与が提供されてもよい。 【0046】 30 TNF‐αアンタゴニストは、(例えば、販売許可又はFDA承認の参照によって)慢 性関節リウマチの全身治療で示される(又は、示されるであろう)0.01∼0.5、好 ましくは0.05∼0.2、及びより好ましくは0.095∼0.15の用量範囲の量で 投与できることが好ましい。TNF‐αアンタゴニストは、インフリキシマブ、アダリム マブ、セルトリズマブペゴール、ゴリムバム、若しくはエタネルセプトのうちの1つ又は これらの組合せから選択されることが好ましく、TNF‐αアンタゴニストはセルトリズ マブペゴールが最も好ましく、TNF‐αアンタゴニスト(例えば、セルトリズマブペゴ ール)は、例えば、臨床的な結節への注射として、0.1∼100 mg(例えば、0. 1若しくは0.5 mg∼10若しくは20 mg)、好ましくは1∼100 mg、より 好ましくは5∼50 mg、及び最も好ましくは10∼40 mgの量で投与されることが 40 好ましい。(例えば、2つの離れた、若しくは別個の臨床的な結節に)1を超える注射が 提供される場合、その用量は、分割されることが好ましく、このため、提供される全用量 は、上述の範囲にある。さらに、最適な用量は、使用されるTNF‐αアンタゴニストに よって変更できることに留意すべきである。最適な用量は、(筋線維芽細胞の活性及び産 生に対する)最大の抑制効果を奏する用量が好ましい。このため、同じ用量のアイソタイ プ抗体は、最小の効果又は許容し得るわずかな効果ではない。 【0047】 本発明のこの主な実施態様によれば、治療は、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又 は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)の、患 部に対して局所的な投与を含むことが好ましい。細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又 50 (14) JP 2013-540803 A 2013.11.7 は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)は、投 与の24時間又は48時間以内に、疾患に関連する拘縮(例えば、デュピュイトラン病の 場合では、全範囲の5°未満)の改善及び/又は矯正を可能にするのに十分な量で投与さ れる必要がある。コラゲナーゼ(例えば、クロストリジウム(Clostridium)のコラゲナー ゼ)などの細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤は、各拘縮に沿って1以上の 箇所に投与される、最大10 mg、好ましくは投与当たり0.1∼5 mg、より好まし くは0.15∼2 mg、及び最も好ましくは0.5∼1 mgの量で、局所投与されるこ とが好ましい。 【0048】 細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテ 10 イナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)が拘縮改善のために投与され、TNF‐αアンタゴニ ストが再発抑制のために投与される、一実施態様において、細胞外マトリックス分解剤、 枯渇剤、又は開裂剤(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナー ゼ)と、TNF‐αアンタゴニストの単一併用用量を提供することができる。 【0049】 一実施態様において、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤は、効果的な量 で、患部筋組織に投与する(例えば、注射する)ことができ、TNF‐αアンタゴニスト は、再発抑制量で、臨床的な結節及び/又は筋組織に投与する(例えば、注射する)こと ができる。 【0050】 20 いずれかの公知のTNF‐αアンタゴニストは、本発明の実施に利用することができ、 その広い種類は、当該分野で公知であり、開示されている。TNF‐αアンタゴニストは 、ヒトTNF‐αアンタゴニストが好ましい。任意に、TNF‐αアンタゴニストは、モ ノクローナル抗体又はその断片などの抗体;キメラモノクローナル抗体(ヒト‐マウスキ メラモノクローナル抗体など);完全ヒトモノクローナル抗体;組換えヒトモノクローナ ル抗体;ヒト化抗体断片;サリドマイド若しくはその相似体又はPDE‐IV阻害剤など の小分子TNF‐α遮断薬を含む、可溶性TNF‐αアンタゴニスト;TNF受容体、又 はTNF受容体融合タンパク質(例えば、可溶性p55若しくはp75 TNF受容体、 又はTNF受容体融合タンパク質)であってもよい。 【0051】 30 任意に、TNF‐αアンタゴニストは、モノクローナル抗体の機能性断片(例えば、F ab、F(ab’)2、Fvなどの上述の種類のもの、好ましくはFab)を含む、機能 性断片又は融合タンパク質である。断片は、(例えば、安定性及び/又は徐放性のために )ペグ化されるか、又は封入されることが好ましい。 【0052】 任意に、TNF‐αアンタゴニストは、二機能性(若しくは二重特異性)抗体、又は二 機能性(若しくは二重特異性)抗体断片として提供される。二機能性TNF‐αアンタゴ ニスト抗体又はその断片は、例えば、モノクローナル抗体若しくはその断片、キメラモノ クローナル抗体(ヒト‐マウスキメラモノクローナル抗体など)、完全ヒトモノクローナ ル抗体、組換えヒトモノクローナル抗体、ヒト化抗体断片などの抗体であってもよい。T 40 NF‐αアンタゴニストが、二機能性抗体断片又は二機能性抗体部分を含む場合、二機能 性F(ab’)2断片又は二価ScFv(例えば、二重特異性タンデム(tandem)ジ‐Sc Fv)が好ましい。いずれの場合であっても、二機能性(若しくは二重特異性)抗体又は その断片は、一方の可変領域(例えば、抗原結合部分)TNF‐αアンタゴニスト(例え ば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ、ゴリムバム、若しくはエタネル セプトのTNF‐αアンタゴニスト部分)として、及び、他方の可変領域(例えば、抗原 結合部分)TNF‐αアンタゴニスト以外の第2可変領域として、含まれていてもよい。 任意に、該第2の可変領域は、抗体移動阻害剤を含んでいてもよく、該阻害剤は、例えば 、細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン、バインダー、又はアンタゴニスト)であっ てもよい。これによって、抗体又はその断片が、自己集中し、全身取込みを最小化し、こ 50 (15) JP 2013-540803 A 2013.11.7 のため、全身性副作用があるので、高用量のTNF‐αアンタゴニストを投与することが できる。任意に、該第2の可変領域は、DAMPアンタゴニスト(S100A8及び/又 はS100A9のアンタゴニストなど、例えば、米国特許第7553488号に記載され ているもの)、又はAGE阻害剤(例えば、DAMPアンタゴニスト抗体若しくはAGE 阻害剤抗体の可変領域である)を含んでいてもよい。二機能性抗体及び二機能性抗体断片 の生産方法は、当該分野で公知であり、該方法は、本目的に適用されてもよい。 【0053】 TNF‐αアンタゴニストは、投与(例えば、臨床的な結節若しくは筋への注射などの 局所投与)で、患者の40%未満、好ましくは20%未満、及びより好ましくは10%未 満において、触診可能な局所的腫脹、発赤及び心因掻痒として発現される、投与部位刺激 10 をもたらすものから選択されることが好ましい。 【0054】 TNF‐αアンタゴニストは、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズ マブペゴール、ゴリムバム、若しくはエタネルセプト、又はその機能性断片のうちの1つ 又はこれらの組合せから選択されてもよい。注射部位反応及び痛みが少ないことから、T NF‐αアンタゴニストは、セルトリズマブペゴールであることが最も好ましい。 【0055】 局所刺激が患者の許容性を制限し、さらに局所的炎症が疾患の再発に至る場合があるの で、本発明によって、投与に関連する炎症、刺激及び痛みを最小化するのが特に有利であ る。一実施態様において、TNF‐αアンタゴニストは、細胞外マトリックス(ECM) 20 分解剤、若しくは開裂剤(例えば、コラゲナーゼ)と共に、又はその投与前に投与するこ とができ、これによって、ECM分解に対する炎症反応が最小化され、このため、再発を 誘発する治療の可能性を低減させる。 【0056】 細胞外マトリックス(ECM)分解剤、枯渇剤、又は開裂剤は、フィブロネクチン及び コラーゲンを含み、分解し、開裂するか、又は細胞外マトリックスの分解若しくは開裂を もたらすか又は誘導することが可能である、いずれかの適切な薬剤であってもよい。例え ば、ECM分解剤又は開裂剤は、ECM分解酵素、又はECM分解酵素発現上昇剤(ECM d egradation enzyme expression up-regulator)(例えば、リラキシン)であってもよい。 ECM分解剤又は開裂剤は、マトリックスメタロプロテイナーゼ、又はコラゲナーゼであ 30 ることが好ましく、細菌コラゲナーゼ(例えば、クロストリジウムのコラゲナーゼ)、ヒ ト若しくはヒト化コラゲナーゼ、又は突然変異若しくは組換えコラゲナーゼ、又は組換え マトリックスメタロプロテイナーゼ(例えば、組換えマトリックスメタロプロテイナーゼ I、好ましくは、ヒト組換えマトリックスメタロプロテイナーゼI)などのコラゲナーゼ がより好ましい。コラゲナーゼは、時間若しくは温度に依存するか、又は、光力学的に活 性化されるか、若しくは非活性化されて、高い局所用量によって、全身性若しくは永続的 副作用がなく、投与することができることが好ましい。任意に、コラゲナーゼは、カテプ シン(Cathespin)L又はその突然変異体若しくは組換え体である。本発明に使用される適 切なコラゲナーゼの例には、次に示すものに記載されているものが含まれる。すなわち、 英国特許第2323530A号、米国特許第5589171号、米国再発行特許第399 40 41号、米国特許第6086272号、及び国際公開公報第2010/102262号( 及び、任意に、これらの文献に記載されている量で、既存の疾患において、コラゲナーゼ 、及び投与量と投与様式に関するこれらの開示は、引用により本明細書中に組み込まれる 。)である。 【0057】 初期病状とは、例えば、触診可能な筋若しくは重篤な拘縮のない状態で、疾患の徴候、 例えば、組織学的マーカー、又は、特に組織中の臨床的な結節を示すことを意味する。初 期病状のデュピュイトラン病とは、重篤な(例えば、少なくとも5°)屈曲拘縮(又は、 例えば、触診可能な筋)がない状態で、デュピュイトラン病の徴候、例えば、組織学的マ ーカー、又は、特に手掌及び/又は指組織中の臨床的な結節を示すことを意味する。 50 (16) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【0058】 既存の病状とは、臨床的な結節を示すことを意味し、触診可能な筋が存在し、また、拘 縮が明らかである。既存の病状のデュピュイトラン病とは、手掌及び手の指において臨床 的な結節を示すことを意味し、また、屈曲拘縮が明らかである(例えば、少なくとも5° )。 【0059】 デュピュイトラン病の組織学的段階の変化は、次に示すように、3つの別々の段階に、 文献で、Rombouts (J Hand Surg Am, 14, 644-652, 1989)とその後の筆者によって最も簡 潔に分類されている。すなわち、1)高い細胞性による増殖段階、及び有糸分裂像の存在 、2)高い細胞性であるが無有糸分裂像がないことが特徴である線維細胞性段階、及びレ 10 チクリンネットワークの存在、並びに、3)膠原線維の広い束によって分離された少ない 細胞による線維性段階である。段階1)疾患は、上に論ずる(すなわち、結節は存在する が、拘縮は存在しない)ように、初期病状に相関すると考えられる。また、デュピュイト ラン病の段階2)及び3)は、本発明者らの既存の病状(指拘縮が特徴)に相関すると考 えられる。本発明者らは、初期病状において、活性のある筋線維芽細胞が、特にMCP及 びPIP関節に関して、既存の結節及び筋に集中し、また、これらが、指の屈曲拘縮の進 行をもたらすことを見出した。 【0060】 臨床的な結節とは、触診可能な皮下の塊として明らかな手掌又は指の結節を意味する。 【0061】 20 組織学的な(又は組織病理学的な)結節とは、通常渦巻きパターンで、細胞の小さな病 巣から細胞の大きな集中まで及び得るが、臨床的に触診可能ではない、細胞(主として、 マクロファージ及びマスト細胞などの一部の炎症細胞を有する筋線維芽細胞)の集中を意 味する。 【0062】 理論によって拘束されることなく、初期の臨床的に触診可能な結節は、疾患進行時に増 殖する線維芽細胞の病巣であるが、多くの組織学的な結節は、筋の形成、拘縮、及び屈曲 拘縮の根本的な原因である、手掌及び/又は指の種々の箇所に形成されることが考えられ る。 【0063】 30 「結節」が本明細書に使用される場合、文脈から明らかであるのと同様に、臨床的な又 は組織学的な結節(又は、これらのいずれか)であってもよい。 【0064】 デュピュイトラン病に対して特異的な2つの他の実施態様によれば、第1の実施態様は 、20°未満の関節性拘縮を特徴とする、デュピュイトラン病の治療のための組成物及び 方法に関してもよい。また、第2の実施態様は、少なくとも20°未満の関節性拘縮を特 徴とする、デュピュイトラン病の治療のための組成物及び方法に関してもよい。20°の 拘縮は、過渡期であるとみなされる。これは、20°未満の拘縮では、手の移動及び動作 が、依然として概ね十分であるので、多くの患者は、手術を受けずに、疾患の進行を停止 することを選択できるが、20°よりも大きい拘縮では、多くの患者は、手の完全な機能 40 を回復させるのに不可欠な外科手術又は他のコラーゲン枯渇療法(酵素筋膜切開など)を 受けるからである。 【0065】 本発明者らの調査は、TNF‐αが、初期デュピュイトラン病(Dupuyten's disease)( すなわち、初期病状)に対する最適な治療標的であることを示す。既存の病状のデュピュ イトラン病において、理想的な組合せは、再発を抑制する、TNF‐αアンタゴニストと 、コラゲナーゼなどのマトリックスメタロプロテイナーゼとであり、これは、通常、酵素 筋膜切開に関係する。 【0066】 上述するように、筋線維芽細胞は、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病 50 (17) JP 2013-540803 A 2013.11.7 )の進行において、2つの方法に関係する。筋線維芽細胞は、細胞外マトリックス産生又 は堆積、及び収縮挙動の原因である。筋線維芽細胞の活性は、活性のある筋線維芽細胞に 過剰発現される、α‐SMAによって媒介されると考えられる。理論によって拘束される ことなく、本発明者らは、TNF‐αが、少なくとも2つの方法(その1つは、筋線維芽 細胞の活性の低下によるもの、及び、もう1つは、筋線維芽細胞の産生又は誘引の増強に よるもの)において、デュピュイトラン病の筋線維芽細胞の活性に関連することを見出し た。 【0067】 それぞれの実施態様において、TNF‐αアンタゴニストは、疾患進行又は再発を防止 するか又は抑制するために、延長された(又は連続的な)期間において複数回の投与で提 10 供される。再発が無効にされる場合、例えば、低用量で隔週、毎月又は6ヶ月毎の投与に よって、断続的な治療を提供することができる。又は、連続的な治療は、低用量徐放又は 断続的遅延放出性(delayed intermittent release)インプラント又はパッチによって提供 することができる。又は、初期病状における疾患進行の徴候によって、併用投与を開始す ることができ、また、該併用投与は、任意に、細胞外マトリックス分解剤又は開裂剤(例 えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ)とTNF‐αアンタ ゴニスト治療(例えば、上述の第1の実施態様と一致する)の組合せを含んでいてもよい 。 【0068】 本発明の一実施態様において、初期病状の疾患(例えば、デュピュイトラン病)の進行 20 は、TNF‐αアンタゴニストの局所投与によって、防止するか、抑制するか、又は停止 させることができる。 【0069】 TNF‐αアンタゴニストは、コラゲナーゼ、及び/又はマトリックスメタロプロテイ ナーゼと併用して、又は補助的にこれらと共に、別々に又は同時に投与できることが好ま しい。コラゲナーゼ(特に、光反応性又は温度依存性コラゲナーゼ)は、初期段階の細胞 外マトリックス形成を開裂することによって治療部位への接近を増強することによる、T NF‐αアンタゴニスト疾患進行抑制効果を高める、局所効果のために投与することがで きる。温度依存性コラゲナーゼは、温度に依存するコラゲナーゼ活性を有し、通常、体温 よりも低い温度(例えば、25℃以下)で活性のあるコラゲナーゼ(通常、組換え又は突 30 然変異コラゲナーゼ)であり、このため、(例えば、作用の寿命と関連するいかなる全身 作用又は他の副作用なしで、約20℃で、患部に注射することによって)非常に高い用量 のコラゲナーゼが、非常に局所的に作用することができる。結節部位で炎症を低減し、こ のため、さらなる筋線維芽細胞の発達及び動員を低減するので、TNF‐αアンタゴニス トには、さらなる有益な効果がある。 【0070】 本発明の組成物及び方法は、局所的であることが好ましい、いずれかの適切な投与手段 を利用することができる。特に、TNF‐αアンタゴニストは、例えば、手術時において 、外科的切開に直接適応することによって、注射(好ましくは、直接、臨床的な結節及び /又は筋組織へ)によって、移植されるか、若しくは患部に接近し得る徐放及び/又は遅 40 延放出性ロゼンジ若しくはデバイス、又は、徐放及び/又は遅延放出性パッチ製剤からの 放出によって、局所適用又は他の適切な経路によって、局所的に投与する必要がある。組 成物は、適切に製剤されることが好ましく、通常、医薬として許容し得る担体又は賦形剤 と共に、TNF‐αアンタゴニストの必要な用量を含む。 【0071】 非経口投与用の製剤は、通常、活性成分の無菌水性調製物を含んでいてもよく、これは 、レシピエントの血液によって等張されることが好ましい。関節内投与用の製剤は、活性 成分の無菌水性調製物の形態であってもよい。局所投与に適した製剤には、リニメント剤 、ローション剤、及び塗布剤などの液体及び半液体の調製物;クリーム、軟膏及びペース トなどの水中油型及び油中水型エマルション;並びに、液剤及び懸濁剤が含まれ得る。 50 (18) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【0072】 さらなる局面において、例えば、疾患進行又は再発の抑制のための初期病状又は手術後 の患者による使用のために、例えば、毎日、定期的、又は不定期(好ましくは毎日)の頻 度の、骨格筋線維増殖性疾患の患部(例えば、手、特に、デュピュイトラン病の場合には 、手掌及び指)に局所適用する製剤が提供され、該製剤は、(例えば、上に定義する、か かるTNF‐αアンタゴニストから選択される)局所投与に適したTNF‐αアンタゴニ ストと、適切な賦形剤とを含む。該製剤は、クリーム剤若しくはローション剤、パッチ剤 若しくは薬用グローブ(該グローブは、内面からの活性成分の放出のために、浸漬される )として提供されてもよい。該製剤は、例えば、TNF‐αアンタゴニストの全身投与の 0.001∼0.05、好ましくは0.001∼0.01のような低用量の局所適用によ 10 る投与における濃度のTNF‐αアンタゴニストを含むことが好ましい。任意に、該製剤 は、DAMPアンタゴニスト及び/又はAGE阻害剤をさらに含む。 【0073】 任意に、本発明の組成物及び方法は、デュピュイトラン病のなどの骨格筋線維増殖性疾 患の治療又は進行抑制に効果的であり得る、活性成分をさらに含んでいてもよい。例えば 、TNF‐αアンタゴニストと、血管内皮成長因子ファミリー(VEGF‐A、VEGF ‐B、VEGF‐C、若しくはVEGF‐Dなど)、又は前述のVFGFをコードした薬 剤若しくはその機能性断片の薬剤(国際公開公報第2004/082705号に記載され ているものなど)との複合療法又は併用投与若しくは補助的な共投与において、組合せは 、外科手術、針筋膜切開、又は酵素筋膜切開と共に使用するための進行遅延組合せ(若し 20 くは組成物)であることが好ましい。さらに、又は代替的には、本明細書に記載する、か かる方法又は組成物は、患部に対して局所的に筋線維芽細胞集団を低減する(及び、TN F‐αアンタゴニスト活性を高める)ために、PPARγの活性化剤(ピオグリタゾンな ど)をさらに含んでいてもよい。 【0074】 骨格筋線維増殖性疾患(好ましくはデュピュイトラン病)の治療において、さらなる局 面として、筋線維芽細胞活性低下剤、及び/又は筋線維芽細胞産生(若しくは分化)阻害 剤と併用して、好ましくは、上に論じるそれぞれの実施態様に従ってそれぞれの適切な治 療量で、マトリックスメタロプロテイナーゼ、若しくはコラゲナーゼ(又は、マトリック スメタロプロテイナーゼ若しくはコラゲナーゼ低下剤)を含む治療に使用するための組成 30 物が提供される。好ましい筋線維芽細胞活性低下剤、及び/又は筋線維芽細胞産生(若し くは分化)阻害剤は、TNF‐αアンタゴニストである。 【0075】 さらなる局面において、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病)の再発を 低減又は防止するための方法が提供され、該方法は、外科手術、針筋膜切開、又は酵素筋 膜切開後、患部への局所的な、筋線維芽細胞非活性化剤、及び/又は産生阻害剤の投与を 含む。該薬剤は、TNF‐αアンタゴニストであることが好ましく、前述の用量(関連す る第2の主な実施態様)で投与されることが好ましい。 【0076】 本発明のさらなる局面において、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病) 40 の治療のための方法及び組成物が提供され、該方法及び組成物は、DAMP(損傷関連分 子パターン)アンタゴニストを含む。骨格筋線維増殖性疾患は、線維腫症であり、足底線 維腫症、癒着性関節包炎、ペロニー病、又はデュピュイトラン病から選択され得ることが 好ましく、デュピュイトラン病が好ましい。該方法は、効果的な量のDAMPアンタゴニ ストを、例えば、臨床的な結節の初期病状組織、結節及び/又は筋の既存の病状組織への 注射、又は徐放性パッチ若しくはインプラントの適用、又はクリーム(若しくは、他のか かる局所用製剤)の塗布によって、患部へ局所的に投与することを含むことが好ましい。 本局面による組成物は、効果的な量のDAMPアンタゴニストと、医薬として許容し得る 賦形剤とを含むことが好ましい。 【0077】 50 (19) JP 2013-540803 A 2013.11.7 筋肉労働者におけるデュピュイトラン病の高い発病率を支持する、幾つかの証拠が認め られており、損傷、外科手術、及び感染と、デュピュイトラン病との間の関係が認められ ている。理論によって拘束されることなく、手(又は、疾患に罹患する局所的部位)への 外傷の結果として放出される、DAMP(特に、サブグループのDAMP、アラーミン) は、特に疾患に遺伝的に罹患しやすいものにおいて、筋線維芽細胞産生、及び/又は筋線 維芽細胞活性(収縮を含む)を触媒するか、又は誘導すると考えられる。アラーミンは、 活性のある筋線維芽細胞への線維芽細胞の分化の直接的な生化学的経路による、筋線維芽 細胞活性及び/又は産生を、直接及び/又は間接的に誘導し、TNF‐α産生をアップレ ギュレートすることによって、間接的に誘導すると考えられる(TNF‐α産生自体は、 上に論じるような炎症誘発応力を介して、筋線維芽細胞活性及び産生の指示を促進する。 10 )。アラーミンには、HMGB‐1(高移動度群ボックスタンパク質)、S100 A8 、S100 A9、S100 A8/9、及びS100 A12が含まれ、包含される大部 分はS100 A8である。本発明の本態様の方法及び組成物によるDAMPアンタゴニ ストは、アラーミンアンタゴニストが好ましく、また、1以上の、HMGB‐1、S10 0 A8、S100 A9、S100 A8/9、及びS100 A12のうちの1以上のア ンタゴニストがより好ましく、S100 A8アンタゴニスト(例えば、S100 A8受 容体遮断薬として作用するS100 A8の不活性の断片)が最も好ましい。理論によっ て拘束されることなく、S100 A8(及び他のアラーミン)は、結合TLR 4(to ll様受容体4)によるこれらの炎症作用を誘発すると考えられる。したがって、TLR 4遮断薬は、S100 A8アンタゴニストと考えることができる。 20 【0078】 本局面のDAMPアンタゴニストは、罹患する前の及び初期病状の患者、特に、外傷か ら誘発した初期病状の患者(特に、デュピュイトラン病)における疾患の発症及び/又は 進行の防止又は抑制に使用することが好ましい。代替的に又はさらに、本局面のDAMP アンタゴニストは、例えば、かかる初期治療に対して補助的に、(例えば、手術、又は針 筋膜切開若しくは酵素筋膜切開後の)既存の病状を有する治療後の患者における疾患の再 発の防止又は抑制に使用する。これは、該初期治療が、外傷から誘発されたDAMPアッ プレギュレーション及び放出をもたらす危険性があり、筋線維芽細胞活性化に関連するの で、特に有益である。したがって、DAMPアンタゴニストは、全身合併症を誘発せずに 、疾患発症、進行、若しくは再発を防止するか又は抑制するのに効果的な量で使用される 30 ことが好ましい。よって、任意に、DAMPアンタゴニストは、例えば、少なくとも10 %、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好まし くは、少なくとも75%、及び最も好ましくは少なくとも90%の筋組織又は臨床的な結 節組織中の平均α‐SMA陽性筋線維芽細胞集団によって示すように、外傷後又は手術後 又は筋膜切開(針筋膜切開若しくは酵素筋膜切開)と比較して、筋組織又は臨床的な結節 組織における筋線維芽細胞活性を、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より 好ましくは少なくとも30%、及び任意に50%以上、75%以上、若しくは90%以上 低下させる量で提供され、活性低下又は細胞集団の減少は、投与から、48時間以内で顕 著であることが好ましく、24時間がより好ましい。再発抑制効果は、全細胞集団の50 %未満、好ましくは30%未満、及び最も好ましくは15%未満の筋、組織学的な結節、 40 又は臨床的な結節中のα‐SMA陽性筋線維芽細胞の集団を、例えば投与2週以内、維持 することによって達成することができることが好ましい。 【0079】 効果的な量のDAMPアンタゴニストは、投与後2∼4週以内において、触診可能な臨 床的な結節の症状、及び/又は臨床的な結節サイズの増加(例えば、突起若しくは側面若 しくは縦方向の範囲によって測定される、サイズの25%の増加)を防止するものである ことが好ましい。DAMPアンタゴニスト治療の有効性は、外傷後の患者における疾患の 発症若しくは進行の全体的な防止によって、又は、手術後の患者の疾患(例えば、既存の 病状)の再発の全体的な防止において、顕著であることが好ましい。効果的な量のDAM Pアンタゴニストを(局所的外傷に応じて、初期治療後に及び断続的に)投与することに 50 (20) JP 2013-540803 A 2013.11.7 よって、DAMPアンタゴニスト投与後の期間内に(例えば、最大6週、好ましくは最大 6ヶ月)、屈曲拘縮によって発現される既存の病状(例えば、矯正治療後の範囲と比較し て、10°未満に維持された屈曲拘縮、より好ましくは、5°未満のさらなる拘縮)の再 発を管理できるか、又は防止できることが好ましい。任意に、これ(例えば2∼4週、又 は局所的外傷に応じて)を達成するために、反復投与が提供されてもよい。 【0080】 任意に、本発明の本局面のDAMPアンタゴニストは、TNF‐αアンタゴニストと併 用して(例えば、同時に又は連続して)、共投与されてもよく、これによって、筋線維芽 細胞活性化の2つの経路を制御することができる。一実施態様において、デュピュイトラ ン病などの骨格筋線維増殖性疾患の治療のための組成物が提供され、該組成物は、効果的 10 な併用量のDAMPアンタゴニストと、TNF‐αアンタゴニストと、医薬として許容し 得る賦形剤とを含む。該組成物は、患部(例えば、臨床的な結節若しくは筋組織)への注 射(若しくは他の適用)、又はパッチの適用、又は、局所投与(例えば、インプラント) 若しくは局所適用のための遅延放出及び/又は徐放によって、投与することができる。 【0081】 任意に、本発明の本局面の活性成分及び組成物は、前述する方法(例えば、TNF‐α アンタゴニストの代わりに、及び/又はこれに加えて)として、及び該方法で、細胞外マ トリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤と共に、複合治療、併用治療、又は補助治療(adj unctive treatment)として提供されてもよい。 【0082】 20 本発明の別の局面において、DAMPアゴニズム/アンタゴニズムによる(例えば、D AMPアゴニスト又はアンタゴニストの投与による)筋線維芽細胞活性の調節方法が提供 される。また、DAMPアゴニストを含む、筋線維芽細胞活性を上昇させるための組成物 、及び、DAMPアンタゴニストを含む、筋線維芽細胞活性を低下させるための組成物も 提供される。DAMPアゴニスト又はアンタゴニストは、筋線維芽細胞を調節する量で提 供され、任意に、局所投与のために製剤される。 【0083】 任意に、DAMPアンタゴニストは、二機能性(若しくは二重特異性)抗体、又は二機 能性(若しくは二重特異性)抗体断片として提供される。二機能性DAMPアンタゴニス ト抗体又はその断片は、例えば、モノクローナル抗体若しくはその断片、キメラモノクロ 30 ーナル抗体(ヒト‐マウスキメラモノクローナル抗体など)、完全ヒトモノクローナル抗 体、組換えヒトモノクローナル抗体、ヒト化抗体断片などの抗体であってもよい。DAM Pアンタゴニストが、二機能性抗体断片又は二機能性抗体部分を含む場合、二機能性F( ab’)2断片又は二価ScFv(例えば、二重特異性タンデムジ‐ScFv)が好まし い。いずれの場合であっても、二機能性(若しくは二重特異性)抗体又はその断片は、一 方の可変領域(例えば、抗原結合部分)DAMPアンタゴニスト(例えば米国特許第75 53488号に記載されている、S100A8及び/又はS100A9のアンタゴニスト など)として、及び、他方の可変領域(例えば、抗原結合部分)DAMPアンタゴニスト 以外の第2可変領域として、含まれていてもよい。任意に、該第2の可変領域は、抗体移 動阻害剤を含んでいてもよく、該阻害剤は、例えば、細胞外マトリックス(例えば、コラ 40 ーゲン、バインダー、又はアンタゴニスト)であってもよい。これによって、抗体又はそ の断片が、自己集中し、全身取込みを最小化し、このため、全身性副作用があるので、高 用量のDAMPアンタゴニストを投与することができる。任意に、該第2の可変領域は、 AGE阻害剤(例えば、DAMPアンタゴニスト抗体又はAGE阻害剤抗体の可変領域) を含んでいてもよい。二機能性抗体及び二機能性抗体断片の生産方法は、当該分野で公知 であり、該方法は、本目的に適用されてもよい。 【0084】 任意にTNF‐αアンタゴニストと併用する、DAMPアンタゴニストによる患者の治 療は、任意に、(疾患進行の抑制のために)初期病状を有する患者、又は、(再発抑制の ために)デュピュイトラン病の場合における、ゴルファー、建築者、若しくは運転手など 50 (21) JP 2013-540803 A 2013.11.7 の患部(例えば、デュピュイトラン病の場合における手は、局所的外傷に受ける)を有す る手術後の患者に示されてもよい。 【0085】 任意に、例えば、局所的外傷が、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病) の原因である患者のために、例えば、疾患進行又は再発の抑制のために、初期病状又は手 術後の患者によって、例えば、毎日、定期的、又は不定期(好ましくは毎日)の頻度の、 骨格筋線維増殖性疾患の患部(例えば、手、特に、デュピュイトラン病の場合には、手掌 及び指)に局所適用する製剤が提供され、該製剤は、局所投与に適したDAMPアンタゴ ニスト(例えば、S100 A8及び/又はA9アンタゴニスト)と、適切な賦形剤とを 含む。該製剤は、クリーム剤若しくはローション剤、パッチ剤若しくは薬用グローブ(該 10 グローブは、内面からの活性成分の放出のために、浸漬される)として提供されてもよい 。該製剤は、例えば、DAMPアンタゴニストの全身投与の0.001∼0.05、好ま しくは0.001∼0.01のような低用量の局所適用による投与における濃度のDAM Pアンタゴニストを含むことが好ましい。任意に、該製剤は、AGE阻害剤をさらに含む 。 【0086】 本発明のさらなる局面において、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病) の治療のための方法及び組成物が提供され、該方法は、AGE(高度糖化最終産物)阻害 剤を含む。骨格筋線維増殖性疾患は、線維腫症であり、足底線維腫症、癒着性関節包炎、 ペロニー病、又はデュピュイトラン病から選択され得ることが好ましく、デュピュイトラ 20 ン病が好ましい。該方法は、効果的な量のAGEアンタゴニストを、例えば、臨床的な結 節の初期病状組織、結節及び/又は筋の既存の病状組織への注射、又は徐放性パッチ若し くはインプラントの適用、又はクリーム(若しくは、他のかかる局所用製剤)の塗布によ って、患部へ局所的に投与することを含むことが好ましい。本局面による組成物は、効果 的な量のAGEアンタゴニストと、医薬として許容し得る賦形剤とを含むことが好ましい 。 【0087】 デュピュイトラン病は、喫煙、飲酒、及び糖尿病と統計的に有意な関係がある。本発明 者らは、AGEが、喫煙、飲酒、又は糖尿病の遺伝的な傾向がある患者における関連性及 びデュピュイトラン病をもたらす生化学的経路に関係し得ることを提案する。AGE修飾 30 タンパク質は、還元糖とポリペプチドの間の不可逆非酵素グリケーションから形成された 最終産物であり、細胞外マトリックス構造を変化させ、さらに、細胞表面受容体と相互作 用する、タンパク質架橋を形成することによって、これらの影響を及ぼすことが示されて いる。理論によって拘束されることなく、AGEとこれらの受容体RAGEは、デュピュ イトラン病の初期段階及び進行に関係し、AGEは、筋線維芽細胞活性を直接及び間接的 に上昇させると考えられる。罹患する前の又は初期疾患の手掌組織(ライフスタイル選択 又は糖尿病に関連するレベルの増加により存在する)に含まれるAGEは、特に、遺伝的 に疾患に罹患しやすい患者において、筋線維芽細胞産生、及び/又は筋線維芽細胞活性( 収縮を含む)を触媒するか、又は誘導すると考えられる。AGEは、活性のある筋線維芽 細胞への線維芽細胞の分化の直接的な生化学的経路による、筋線維芽細胞活性及び/又は 40 産生を、直接及び/又は間接的に誘導し、TNF‐α産生をアップレギュレートすること によって、間接的に誘導すると考えられる(TNF‐α産生自体は、上に論じるような炎 症誘発応力を介して、筋線維芽細胞活性及び産生の指示を促進する。)。 【0088】 本局面のAGE阻害剤は、罹患する前の又は初期病状の患者(特に、デュピュイトラン 病の患者)における疾患の発症及び/又は進行の防止又は抑制に使用することが好ましい 。代替的に又はさらに、本局面のAGE阻害剤は、例えば、かかる初期治療に対して補助 的に、(例えば、手術、又は針筋膜切開若しくは酵素筋膜切開後の)既存の病状を有する 治療後の患者における疾患の再発の防止又は抑制に使用する。したがって、AGE阻害剤 は、全身合併症を誘発せずに、疾患発症、進行、若しくは再発を防止するか又は抑制する 50 (22) JP 2013-540803 A 2013.11.7 のに効果的な量で使用されることが好ましい。よって、任意に、AGE阻害剤は、例えば 、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、 さらにより好ましくは、少なくとも75%、及び最も好ましくは少なくとも90%の筋組 織又は臨床的な結節組織中の平均α‐SMA陽性筋線維芽細胞集団によって示すように、 手術後又は筋膜切開(針筋膜切開若しくは酵素筋膜切開)と比較して、筋組織又は臨床的 な結節組織における筋線維芽細胞活性を、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10% 、より好ましくは少なくとも30%、及び任意に50%以上、75%以上、若しくは90 %以上低下させる量で提供され、活性低下又は細胞集団の減少は、投与から、48時間以 内で顕著であることが好ましく、24時間がより好ましい。再発抑制効果は、全細胞集団 の50%未満、好ましくは30%未満、及び最も好ましくは15%未満の筋、組織学的な 10 結節、又は臨床的な結節中のα‐SMA陽性筋線維芽細胞の集団を、例えば投与2週以内 、維持することによって達成することができることが好ましい。 【0089】 効果的な量のAGE阻害剤(例えば、ピマジェディン)は、投与後2∼4週以内におい て、触診可能な臨床的な結節の症状、及び/又は臨床的な結節サイズの増加(例えば、突 起若しくは側面若しくは縦方向の範囲によって測定される、サイズの25%の増加)を防 止するものであることが好ましい。AGE阻害剤治療の有効性は、外傷後の患者における 疾患の発症若しくは進行の全体的な防止によって、又は、手術後の患者の疾患(例えば、 既存の病状)再発の全体的な防止において、又は初期疾患の進行の防止において顕著であ ることが好ましい。効果的な量のAGE阻害剤を(初期治療後に)投与することによって 20 、AGE阻害剤投与後の期間内に(例えば、最大6週、好ましくは最大6ヶ月)、屈曲拘 縮によって発現される既存の病状(例えば、矯正治療後の範囲と比較して、10°未満に 維持された屈曲拘縮、より好ましくは、5°未満のさらなる拘縮)の再発を管理できるか 、又は防止できることが好ましい。任意に、これ(例えば2∼4週、又は局所的外傷に応 じて)を達成するために、反復投与が提供されてもよい。 【0090】 本発明の本局面に従って、いずれかの適切なAGE阻害剤を利用することができる。 【0091】 任意に、本発明の本局面のAGE阻害剤は、DAMPアンタゴニスト及びTNF‐αア ンタゴニストのうちの1つ又は両方と併用して、共投与又は投与されてもよく、これによ 30 って、筋線維芽細胞活性化の2つの経路を制御することができる。一実施態様において、 デュピュイトラン病などの骨格筋線維増殖性疾患の治療のための組成物が提供され、該組 成物は、効果的な併用量のAGE阻害剤、及び/又はTNF‐αアンタゴニストと、医薬 として許容し得る賦形剤とを含む。該組成物は、患部(例えば、臨床的な結節若しくは筋 組織)への注射(若しくは他の適用)、又はパッチの適用、又は、局所投与(例えば、イ ンプラント)若しくは局所適用のための遅延放出及び/又は徐放によって、投与すること ができる。 【0092】 任意に、本発明の本局面の活性成分及び組成物は、前述する方法として、及び該方法で 、細胞外マトリックス分解剤、枯渇剤、又は開裂剤と共に、複合治療、併用治療、又は補 40 助治療として提供されてもよい。 【0093】 任意に、AGE阻害剤は、二機能性(若しくは二重特異性)抗体、又は二機能性(若し くは二重特異性)抗体断片として提供される。二機能性AGE阻害剤抗体又はその断片は 、例えば、モノクローナル抗体若しくはその断片、キメラモノクローナル抗体(ヒト‐マ ウスキメラモノクローナル抗体など)、完全ヒトモノクローナル抗体、組換えヒトモノク ローナル抗体、ヒト化抗体断片などの抗体であってもよい。AGE阻害剤が、二機能性抗 体断片又は二機能性抗体部分を含む場合、二機能性F(ab’)2断片又は二価ScFv (例えば、二重特異性タンデムジ‐ScFv)が好ましい。いずれの場合であっても、二 機能性(若しくは二重特異性)抗体又はその断片は、一方の可変領域(例えば、抗原結合 50 (23) JP 2013-540803 A 2013.11.7 部分)AGE阻害剤として、及び、他方の可変領域(例えば、抗原結合部分)AGE阻害 剤以外の第2可変領域として、含まれていてもよい。任意に、該第2の可変領域は、抗体 移動阻害剤を含んでいてもよく、該阻害剤は、例えば、細胞外マトリックス(例えば、コ ラーゲン、バインダー、又はアンタゴニスト)であってもよい。これによって、抗体又は その断片が、自己集中し、全身取込みを最小化し、このため、全身性副作用があるので、 高用量のAGE阻害剤を投与することができる。二機能性抗体及び二機能性抗体断片の生 産方法は、当該分野で公知であり、該方法は、本目的に適用されてもよい。 【0094】 任意にTNF‐αアンタゴニストと併用する、AGE阻害剤による患者の治療は、任意 に、(疾患進行の抑制のために)初期病状を有する患者、又は、(再発抑制のために)糖 10 尿病の、或いは喫煙若しくは飲酒をする(WHO推奨量よりも多い)手術後の患者に示さ れてもよい。 【0095】 任意に、例えば、糖尿病又はライフスタイル(例えば、喫煙及び/又は過度の飲酒)が 、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病)の原因であると考えられる患者の ために、例えば、疾患進行又は再発の抑制のために、初期病状又は手術後の患者によって 、例えば、毎日、定期的、又は不定期(好ましくは毎日)の頻度の、骨格筋線維増殖性疾 患の患部(例えば、手、特に、デュピュイトラン病の場合には、手掌及び指)に局所適用 する製剤が提供され、該製剤は、局所投与に適したAGE阻害剤と、適切な賦形剤とを含 む。該製剤は、クリーム剤若しくはローション剤、パッチ剤若しくは薬用グローブ(該グ 20 ローブは、内面からの活性成分の放出のために、浸漬される)として提供されてもよい。 該製剤は、例えば、AGE阻害剤の全身投与の0.001∼0.05、好ましくは0.0 01∼0.01のような低用量の局所適用による投与における濃度のAGE阻害剤を含む ことが好ましい。 【0096】 本発明の別の局面において、AGE促進/阻害による(例えば、AGE促進剤又は阻害 剤の投与による)筋線維芽細胞活性の調節方法が提供される。また、AGE阻害剤を含む 、筋線維芽細胞活性を低下させるための組成物も提供される。 【0097】 それぞれの実施態様において、反復投与が必要であり得る(例えば、注射)。さらに、 30 再発若しくは発症の徴候が検出される場合に(又は、当然のことながら)、治療を繰り返 して、数ヶ月間若しくは数年間、疾患進行若しくは再発を管理するか、又は制御すること が必要であり得る。 【0098】 さらなる局面において、治療、予防又は進行抑制量の筋線維芽細胞活性低下剤(例えば 、筋線維芽細胞の非活性化のための薬剤、及び/又は筋線維芽細胞産生を阻害するための 薬剤)を、骨格筋癒着の治療、予防又は進行抑制を必要とする患者に投与することによる 、骨格筋癒着の治療、予防又は進行抑制のための組成物及び方法が提供される。 【0099】 該組成物は、筋線維芽細胞の非活性化のための薬剤、及び/又は筋線維芽細胞産生を阻 40 害するための薬剤として、TNF‐αアンタゴニスト、DAMPアンタゴニスト、AGE 阻害剤、若しくはDAMP、及び/又はAGE炎症経路阻害剤のうちの1つ又はこれらの 組合せを含むことが好ましい。該方法及び組成物は、TNF‐αアンタゴニストを含むこ とが好ましい。任意に、他の薬剤は、血管内皮成長因子ファミリー(VEGF‐A、VE GF‐B、VEGF‐C、若しくはVEGF‐Dなど)、又は前述のVFGFをコードし た薬剤若しくはその機能性断片の薬剤(国際公開公報第2004/082705号に記載 されているものなど)、及び/又はPPARγ(ピオグリタゾンなど)を含む、かかる治 療に使用されてもよい。 【0100】 本明細書で言うDAMP及び/又はAGE炎症経路阻害剤には、いずれかの受容体又は 50 (24) JP 2013-540803 A 2013.11.7 上流若しくは下流シグナリング成分の阻害剤又はアンタゴニストが含まれる。例えば、T LR‐4及びMyd88は、DAMP媒介炎症経路に関係すると考えられるので、DAM P炎症経路阻害剤には、TLR(toll様受容体)アンタゴニスト(例えば、TLR‐ 4アンタゴニスト)、又はMyd88アンタゴニスト、又はMyd88低下剤が含まれて いてもよい。例えば、AGE炎症経路阻害剤には、RAGE阻害剤又はアンタゴニストが 含まれていてもよい。任意に、本発明のさらなる局面によれば、上述の局面及び実施態様 は、DAMP及び/又はAGE炎症経路阻害剤によるTNF‐αアンタゴニストの置換、 又はDAMP及び/又はAGE炎症経路阻害剤とTNF‐αアンタゴニストの添加によっ て、修飾されてもよい。 【0101】 10 骨格筋癒着とは、骨格筋線維増殖性疾患の下位集合を意味し、該骨格筋癒着は、過剰の 線維性組織若しくは瘢痕組織が隣接して、又は、癒着をもたらす、腱、筋肉、関節、靭帯 若しくは筋膜と共に形成される。かかる骨格筋癒着の例には、関節周囲の線維症(例えば 、近位指節間関節の周囲)及び癒着性関節包炎が含まれる。本局面によれば、関節周囲( 例えば、近位指節間関節の周囲)の線維症(perarticular fibrosis)、脊髄癒着(例えば 、手術後)、及び癒着性関節包炎から選択される、症状のための組成物及び治療が提供さ れることが好ましい。 【0102】 一特定実施態様において、結節及び/又は筋に、TNF‐αアンタゴニストを、(例え ば、手術後、針筋膜切開後、又は酵素筋膜切開後、若しくはこれと共同して)投与するこ 20 とと、近位指節間関節に隣接する組織に、TNF‐αアンタゴニストを投与することとを 含む、デュピュイトラン病の再発防止方法であり、これによって、デュピュイトラン病( 及び指拘縮)の再発を防止するための治療と、関節周囲の線維性瘢痕組織の形成及び持続 性の低減とを同時に達成することができる。例えば、デュピュイトラン病のコラゲナーゼ 治療の有効性(特に、近位指節間関節の周囲において高い再発率がある)は、臨床的な結 節及び/又は筋組織と、近位指節間関節に隣接する皮下組織(例えば、線維性瘢痕組織) への同時投与による、TNF‐αアンタゴニスト(又は、筋線維芽細胞の非活性化のため の他の薬剤、及び/又は筋線維芽細胞産生を阻害するための他の薬剤)による共療法によ って、高めることができると考えられる。 【0103】 30 癒着性関節包炎(又は五十肩)において、治療は、TNF‐αアンタゴニスト、及びA GE阻害剤又はDAMPアンタゴニストのうちの1つ又は両方を含むことが好ましい。 【0104】 上述のそれぞれの局面及び実施態様中の他の実施態様において、TNF‐α産生又は活 性阻害剤は、TNF‐αアンタゴニストの代わりに、又はこれと共に使用することができ る。 【0105】 該組成物は、(例えば、注射、手術時の堆積によって、若しくは、好ましくは局所適用 によって)患部組織に、及び/又は該組織に隣接して投与するために製剤することができ 、これによって、骨格筋線維増殖性疾患(例えば、デュピュイトラン病)に関して上述す 40 る範囲の用量が達成される/提供される。 また、上述する局所用製剤及び組合せも含まれる。 【0106】 本発明を、次に示す実施例に言及して、限定することなく、より詳細に説明し例示する 。 【実施例】 【0107】 次に示す試験は、デュピュイトラン病の進行をより理解するために取り組まれた。組織 は、デュピュイトラン病患者の結節及び筋から採取し、同じ患者の罹患していない手掌組 織と比較した。試験を、開発された培養力モニターで行い、患部組織と非常に類似する環 50 (25) JP 2013-540803 A 2013.11.7 境中で、筋線維芽細胞集団を監視できることを確認した(Verjee et al, J Hand Surg Am , 34, 1785-1794 and J Cell Physiol 224, 681-690の設定に従った)。4つの実施例を 下に説明する。実施例1は、患部組織中の筋線維芽細胞の存在、分布及び挙動に関する。 実施例2は、デュピュイトラン病における炎症の役割に関する。実施例3は、デュピュイ トラン病における高度糖化最終産物を検討する。また、実施例4は、デュピュイトラン病 におけるDAMPの役割を検討する。 【0108】 実施例1 100人を超えるデュピュイトラン病患者の試料を収集して、筋線維芽細胞分布につい て検討した。100人を超えるデュピュイトラン病患者の筋に関する本発明者らのデータ 10 は、大多数の患者において、筋線維芽細胞が、患部の関節レベルで、手掌に位置する結節 に集中することを示す(図1を参照)。図1によれば、筋線維芽細胞に多く存在する結節 は、指関節の近傍に位置する。図1は次のことを示す。A:デュピュイトラン病患者の筋 の手術時の観察。印をつけたのは、近位指節間関節(PIPJ; 1)の位置である。B :平滑筋アクチンが染色された組織切片の低倍率の顕微鏡写真。結節におけるα‐SMA を多く含む細胞の集合は、PIPJの近傍に位置する。C:α‐SMA陽性細胞(筋線維 芽細胞)を示す、結節部位の高倍率写真。 【0109】 分析された100を超える筋のうち、60%超は結節を含んでいた。顕著な不均一性が あったが、結節は非常に細胞性であり、1 mm2当たりおよそ2500の細胞が渦巻き 20 状に並んでいた。平均で、細胞の99%はα‐SMA陽性であった。結節周囲の部位では 、細胞は、1 mm2当たりおよそ800と非常に少なく、平均でその3分の1がα‐S MA陽性であった。 【0110】 図2は、結節がほとんど細胞性であり、α‐SMA陽性細胞が多く含まれることを示す 。電子顕微鏡による24のデュピュイトラン患者の試料の検査は、臨床的な再発が、疾患 の発症、持続期間、又は重症度において、患者の年齢と関係がないことを示した。組織学 的な結節は、初期疾患及び再発性疾患(各事例において筋の3分の2)両方由来の試料に 多くみられ、また、初期疾患と再発性疾患の間の指拘縮に有意差もなかった。さらに、再 発性疾患後の、初期皮膚筋膜切除試料、初期筋膜切除、二次的筋膜切除又は皮膚筋膜切除 30 の間の結節表面積にも相違がなかった(p=0.5)。初期疾患と再発性疾患は共に、同 様の病因であると考えられ、また、結節は、従来の手術後にダウンレギュレートしないと 考えられる。実際には、初期手術後の運動の増加によって、筋線維芽細胞の分化及び持続 性が促進され得る。筋膜切開又は筋膜切除、及びファイアブレーク(firebreak)皮膚筋膜 切除後の残余の切除されていないデュピュイトラン病患者の組織が、再発のきっかけとな り得る。筋線維芽細胞の持続性によって、外科的筋膜切開又はコラゲナーゼ注射後にみら れた高い再発率を明らかにすることができる。したがって、再発性疾患を予防する重要な 要素は、残存する筋線維芽細胞をダウンレギュレートすることができる。 【0111】 結節の95%(36/38)は、PIPJの近傍にあり、また、結節も、MCPJの手 40 術時に印をつけた2つのみの事例、及びDIPJで印をつけた1つの事例においてMCP Jでみられた。初期又は活動性の疾患において、PIPJの活動的な伸張が、手掌筋膜の 厚化、収縮に対して抵抗するので、緊張は、デュピュイトラン病患者の組織において断続 的に作用し得る。細胞によって感知された緊張の増加は、TGF‐β1の厳密な制御下で 、α‐SMAの動員によるストレス線維への筋線維芽細胞の分化、及び特殊化された付着 部位の形成を促進し得る。そして、これは、大きな力の発生をもたらす。次いで、密に詰 まった細胞性結節は、理論上、指拘縮を促進するか又は維持するのに十分な力を及ぼすこ とが可能であった。その後、細胞は、周囲マトリックスをさらに短くなった形態へ再構築 する。生じる屈曲部変形の増加によって、機能が低下し、そして、関節での動作の低減に よって、結節の筋線維芽細胞により感知された緊張が低減する。進行した指拘縮によって 50 (26) JP 2013-540803 A 2013.11.7 、活動的な関節の有限の伸張による緊張の低減が、筋線維芽細胞アポトーシスをもたらす 可能性があり、これによって、筋線維芽細胞が多く含まれる結節は持続することができな い。このことは、結節から結節のない筋への進行を明らかにし、また、結節のない筋を有 する患者が、重篤な屈曲部変形を有する傾向があった理由も明らかにする。したがって、 関節近傍の結節における筋線維芽細胞の凝集は、指拘縮をもたらし、その後のマトリック ス再構築によって、患部の筋膜が短縮される。最終的に、屈曲部変形の治療は、緊張の喪 失、筋線維芽細胞アポトーシスによる機械的環境の変化を発展させ、このため、残余の結 節のない筋が明らかになり得る。筋線維芽細胞表現型(phenotye)が、周囲マトリックス中 の緊張によって変化することを結論付けることができる。 【0112】 10 利用された培養力モニター(CFM)及び培養条件を図3に示す。(A)矩形状の接種 されたコラーゲンゲルを培地に供し、培地中に浮かせて、2つのフローテーションバー(f lotation bar)の間に拘束し、該バーの一方は、静止するように保持し、他方は、力変換 器に取り付けた。(B)コラーゲンゲル中の細胞によって発生した張力を、力変換器によ って検出し、生存データを15秒毎に記録し、発生した力(ダイン、1×105N)の連 続出力を提供する。(C)24時間の収縮後、ゲルを採取し、α‐SMA mRNA、タ ンパク質、及び免疫蛍光分析のために処理する。(D)高アスペクト比コラーゲンを有す る格子ゲルに、細胞を規定どおりに接種したが、縦横比格子(E)も、細胞収縮性に対す る少ない歪みの影響を比較するために、試験に用いた。 【0113】 20 外科的に切除された筋を二分し、その半分を細胞培養のために処理し、もう一方の半分 の切断面を処理して、免疫組織化学法によって、α‐SMAを多く含む結節(細胞の凝縮 )により、試料を確認した。免疫蛍光分析によるその後の定量は、結節のない試料におけ る10%のα‐SMAストレス線維に対して、組織学的に確認された結節試料におけるα ‐SMAストレス線維を発現した平均35%の細胞で実証された。このことは、筋線維芽 細胞の均質な集団を未だ構成することではないが、α‐SMAを多く含む細胞をサンプリ ングする本方法は、臨床的に定義され、組織学的に定義されていない結節から単離された 、平均9.7%∼15%のα‐SMA陽性細胞に関して報告されている、従来の試験にお ける顕著な改善を表す。真皮線維芽細胞の1∼4%は、α‐SMA陽性ストレス線維を有 することが分かった。 30 【0114】 図4は、真皮線維芽細胞及びデュピュイトラン病患者の結節由来細胞によるコラーゲン ゲルの等尺性収縮を示す。コラーゲンゲルに、150万の非手掌線維芽細胞(A)、手掌 線維芽細胞(B)、又はデュピュイトラン病患者の結節由来細胞(C)を接種し、CFM に24時間培養し、リアルタイム等尺性力収縮を定量した。示されたデータは、1人の患 者由来の細胞を使用した3回の試験を表す。本発明者らのCFMにおいて線維芽細胞が存 在するコラーゲン格子(FPCL)中の真皮線維芽細胞は、安定水準に達したが、結節由 来細胞は、24時間の試験期間において、用量依存的に収縮を継続した。 【0115】 図5は、結節から単離された細胞が、手掌又は非手掌真皮線維芽細胞と比較して、非常 40 に高い割合の収縮(CFMにおいて6∼24時間の収縮の平均割合として測定された)で あったことを示す。高い収縮性は、筋線維芽細胞の特性のうちの1つであり、デュピュイ トラン病における指拘縮の原因である。 【0116】 図6では、デュピュイトラン病患者の結節由来細胞の収縮性が、α‐SMAの転写後の 変化によって調節されることを示す。(A)[収縮の割合(ダイン/時間)]24時間( ±SEM)の、結節由来筋線維芽細胞(結節)、非手掌(NPS)、及び手掌真皮線維芽 細胞(PS)を含む、コラーゲンゲルにおける等尺性の力。24時間後、(B)SMA mRNAを、定量的RT‐pcrによってRPLPOと比較し、(C)α‐SMA mR NAをGAPDHと比較し、また、(D)α‐SMAタンパク質をビメンチンと比較した 50 (27) JP 2013-540803 A 2013.11.7 。試験を3回反復して行い、全3つの異なる結節及び結節のない適合した患者試料の平均 (±SEM)として、データを示す。 【0117】 CFMにおいて24時間の収縮後、FPCLを回収した後に、適合した細胞型の免疫蛍 光分析によって、α‐SMA mRNAレベル、α‐SMAタンパク質発現、及びα‐S MAタンパク質局在化間の比較を行った。α‐SMA mRNAレベルの相違は、結節由 来細胞と真皮線維芽細胞の間でみられなかったが、適合した真皮線維芽細胞と比較して、 およそ3倍のα‐SMAタンパク質レベルが結節由来細胞で確認された。さらに、免疫蛍 光分析を用いて、真皮線維芽細胞において、α‐SMAが、通常、核周囲(peri-nucleur) の細胞質内で「ハロ」に分布することが分かったが、結節由来細胞では、図6Eにみられ 10 るように、α‐SMAが、細胞マトリックス付着部位までの細胞過程全体にわたって、ス トレス線維に多く局在化した。 【0118】 また、細胞を、24時間、ガラスカバーグラス上に培養し、固定し、次いで、α‐SM A抗体(赤色)、ファロイジン(緑色)及びDAPI(青色)を使用して免疫蛍光標識し た。本発明者らの免疫分析データは、単層に培養した場合、手掌及び非手掌線維芽細胞が 、新たな細胞質ゾルα‐SMAの発現と共に、原筋線維芽細胞(proto-myofibroblast)表 現型を獲得することを示す。対照的に、ストレス線維を導入したα‐SMAを有する顕著 に分化した筋線維芽細胞が、結節由来細胞でみられた。適合試料からの結節由来皮膚細胞 、非手掌皮膚細胞、及び手掌皮膚細胞間でみられたこれらの相違は、過去に報告されてい 20 ない。同じ患者から単離された細胞のα‐SMAタンパク質レベル、タンパク質局在化、 及びmRNAレベルを同時に検討した。本発明者らの知見は、α‐SMAの転写後の変化 が、遺伝的に適合した細胞で生じ、デュピュイトラン病患者の筋線維芽細胞表現型を媒介 することを示唆する。 【0119】 実施例2 デュピュイトラン病の炎症の役割 次いで、結節を、他の細胞型、具体的には炎症細胞の存在において検討した。マクロフ ァージ及びマスト細胞の多くが共に、筋の結節のない部位ではなく、結節に含まれること が分かった。 【0120】 30 図7は、デュピュイトラン病患者の結節及び筋の炎症細胞を示す。指の筋部位は、α‐ SMA、CD68陽性マクロファージ、及びマスト細胞トリプターゼについて連続的に染 色した。像は15の患者試料を表す。 【0121】 10の患者試料中の切除されたデュピュイトラン病患者の筋組織において、炎症細胞の 数を系統的に定量した。各部位(結節、結節から遠位にある筋、及び結節のない筋)にお いて、全細胞数、α‐SMA陽性細胞の数、及び好中球エラスターゼが染色された細胞の 数、マスト細胞トリプターゼ、CD3陽性T細胞、CD4陽性T細胞、CD68陽性マク ロファージを計測した(20倍拡大)(表1)。 【0122】 40 (28) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【表1】 10 20 【0123】 これらのデータは、CD68陽性マクロファージ、CD3 T細胞、及びマスト細胞ト リプターゼ陽性細胞が、細胞性結節内でよくみられ、筋組織内ではわずかであることを示 す。好中球エラスターゼ陽性細胞、及びCD4陽性T細胞が、デュピュイトラン病患者の 組織全体にわたって希に観察された。デュピュイトラン病患者の結節は、多数のマスト細 胞を含み、これは、TNF‐αを多く含む供給源である(Krishnaswamy et al., 2006)。 デュピュイトラン病患者の結節組織には、非常に収縮性のある筋線維芽細胞が存在するが 、炎症細胞の存在は、炎症が疾患の病因に重要であり得ることを示唆する。結節のない筋 において、炎症細胞はほとんど観察されなかった。また、実際に、結節のある筋又は結節 30 のない筋中の好中球エラスターゼに対して陽性に染色された細胞がなかったことも関心を 惹く。これは、創傷時の炎症と対照的であり、好中球がよくみられ、好中球は、砕片及び 細菌の除去に関係し、筋線維芽細胞に依存する創傷の収縮を発生させる。しかしながら、 切除された指の筋の試料が結節を含むが、該試料は、必ずしも、最も初期の疾患における 処理を表さないことに留意することが重要である。 【0124】 実施例3 高度糖化最終産物とこれらの受容体 デュピュイトラン病患者の組織、及び手掌皮膚と非手掌皮膚の両方でRAGEの分布に ついて検討した。本発明者らは、デュピュイトラン病患者の結節中のRAGEに対する多 くの染色を発見し、これは、筋線維芽細胞と共に局在化していた(図8を参照)。指の筋 40 の試料を縦方向に二分し、ホルマリンに固定した。組織切片を筋切断面から採取し、連続 切片を、(A、C)α‐SMA及び(B、D)RAGE抗体について染色した。スケール バーを示す。像は、15の患者試料のものを表す。RAGEは、デュピュイトラン病患者 の結節のα‐SMA分布と共に局在化する。 【0125】 また、本発明者らは、非手掌皮膚と比較して、手掌皮膚の表皮表層におけるRAGEの 染色が増加することも見出し、FACS染色は、非手掌皮膚と比較して、手掌皮膚由来の 真皮線維芽細胞によって、顕著に高いRAGE発現を示した。図9を参照されたい。 【0126】 非手掌及び手掌皮膚試料をホルマリンに固定した。組織切片を、RAGEについて染色 50 (29) JP 2013-540803 A 2013.11.7 した。(A、C)非手掌皮膚、及び(B、D)手掌皮膚。スケールバーを示す。像は、6 つの適合した患者試料のものを表す。図9は、非手掌及び手掌皮膚内のRAGEの異なっ た分布を示す。 【0127】 また、結節由来細胞が、適合した真皮線維芽細胞よりも、高いレベルの細胞表面RAG Eを発現することも実証した。結節由来細胞、手掌、及び非手掌線維芽細胞(1試験当た り1×104細胞)を、RAGE抗体で染色し、蛍光標識し、また、FACS分析によっ て平均蛍光強度を評価した。(図10A、C)適合した真皮線維芽細胞に対する結節由来 細胞の細胞表面RAGE発現レベル。(B、D)適合した真皮線維芽細胞に対する結節の ない細胞の細胞表面RAGE発現レベル。A及びBの結果は、4つの適合した結節患者の 10 試料及び結節のない試料について示す(±SEM)。*はp=0.01を表す。(E)1 つの代表的な結節のある適合した患者試料の結節由来細胞、非手掌線維芽細胞、手掌線維 芽細胞、及びアイソタイプ対照、並びに、(F)1つの代表的な結節のない適合した患者 試料のもの。図10を参照されたい。 【0128】 RAGE細胞表面発現が、非手掌線維芽細胞よりも、手掌線維芽細胞で大きいことを実 証した。適合した手掌及び非手掌皮膚由来の線維芽細胞(1×104)を、RAGE抗体 で染色し、蛍光標識し、また、FACS分析によって平均蛍光強度を評価した。細胞表面 RAGE発現レベルは、非手掌線維芽細胞よりも、手掌線維芽細胞で常に高かった。デー タは、8つの適合した患者試料のものを示す。図11を参照されたい。 20 【0129】 筋線維芽細胞形成に対するAGEの影響について調査するさらなる試験において、コラ ーゲンゲルを150万の手掌線維芽細胞に接種し、ウシ血清アルブミン(BSA)(15 μg/ml)の存在下、若しくはこれがない状態(PS単独)で、24時間、又は、A GE‐BSA(150 μg/ml)の存在下で、種々の時間培養し、また、等尺性の力 収縮を培養力モニターで定量した。データを、図14において、3人の異なる患者の試料 による3回の試験の+/−SEMとして示す。手掌真皮線維芽細胞の収縮性が、AGEへ の暴露によって影響を受けないことは、図14から明らかである。 【0130】 高度糖化最終産物が、炎症細胞によっても作用するか否かについて次に調査を行った。 30 他の系においては、高度糖化最終産物は、炎症性サイトカインの放出をもたらすことが示 されている(Uribarri et al., 2005)。手掌線維芽細胞を接種したコラーゲンゲルを、抗 TNF‐α(10 μg/mlの存在下、又はこれがない状態で、AGE(100 μg/ ml)刺激単球(M)からの上清と共に、24時間培養し、また、等尺性の力収縮を定量 した。試験を2回行った。興味深いことに、AGEと共に培養したヒト単球からの上清は 、TNF‐αに依存して、手掌線維芽細胞の収縮を刺激した(図20)。 【0131】 実施例4 手掌線維芽細胞への外因性HMGB1の添加の影響について検討した。手掌線維芽細胞 に接種したコラーゲンゲルを、TNF‐α(1 ng/ml)若しくはHMGB1(1 n 40 g/ml)若しくはTGF‐β1(10 ng/ml)の存在下、又はこれがない状態( PS単独)で、24時間培養し、また、(Verjee et al, Hand Surg Am, 34, 1785-1794, 2009、及びVerjee et al, J Cell Physiol, 2010に記載されているような培養力モニタ ー技術を利用して)等尺性の力収縮を定量した。試験データを、3回の試験(2回のHM GB1以外)の+/−SDとして図12に示す。 【0132】 収縮の増加傾向がHMGB1から生じたが、これは、統計的に有意ではなかった(図1 2)。本発明者らのデータは、未処理の手掌線維芽細胞と比較して、10 ng/ml T GF‐β1による手掌線維芽細胞の収縮性の有意な増加(p=0.0001)を示した。 【0133】 50 (30) JP 2013-540803 A 2013.11.7 図15に示すように、本発明者らは、S100A8に暴露したヒト単球、及びS100 A9(他のアラーミン)にある程度暴露したヒト単球が、用量依存的にTNF‐αを産生 することを見出した。図15から理解されるように、S100A8は、試験範囲内のS1 00A9及びS100A12よりも活性がある。病原体関連分子パターン(PAMP)で あるLPSを、正の対照として示す。 【0134】 S100A8の公知の受容体は、高度糖化最終産物(RAGE)の受容体、並びにTo ll様受容体2及び4である。1×105/mlのヒト単球を、いずれかの抗体にTLR 4、TLR2若しくはアイソタイプ対照(図示せず)を添加したヒトS100 A8(0 .5 μg/ml)、又は可溶性RAGE(sRAGE)と共に、10%FCSに14時 10 間インキュベートした。TNF‐αレベルをELISAによって決定した。本発明者らは 、TNF‐α産生をもたらす単球上に、S100A8を結合する主な受容体が、TLR‐ 4であり、RAGE又はTLR‐2ではないことを見出した(図16)。 【0135】 S100A8がTLR‐4に主に結合し、また、単球によるTNF‐α産生をもたらす 細胞内シグナリングが、野生型C57Bl/6動物の骨髄由来細胞を有するTLR‐4又 はMyD88欠損マウス由来の骨髄細胞によるTNF‐α産生に対する、マウスS100 A8の影響を比較することによって、アダプタータンパク質MyD88に完全に依存する ことを確認した(図17)。図17において、マウスS100A8に対する暴露における 野生型のTLR4−/−及びMyD88−/−マウス骨髄細胞によって産生されたTNF 20 ‐αを、ELISAによって測定した。 【0136】 HMGB1も単球上で作用して、炎症性サイトカインが放出されることをインビトロで 示すことは非常に困難である。これは、インビボで、他のTLRリガンドと共に作用し、 高度に精製されたHMGB1単独では、インビトロで、単球によるTNF‐α産生をもた らさないからである(図18)。図18に結果を示す本発明者らの試験は、1×105/ mlのヒト単球を、HMGB1と共に、又はLPS単独若しくはLPS及びHMGB1と 共に、示される濃度で14時間、10%FCSにインキュベートすることを含む。TNF ‐αレベルをELISAによって決定した。HMGB1が単独では、単球によるTNF‐ α産生を刺激しないが、LPSとの併用で活性化されることが分かった。 30 【0137】 図19は、デュピュイトラン病の病因における外傷及びアラーミンの役割の提案された メカニズムの概略図を示す。理解することができるように、外傷(101)によって、細 胞傷害(103)が生じ、また、S100A8などのアラーミン(105)が放出し、該 アラーミンは、TNF‐αなどの炎症性サイトカインがMyd88(111)を介してシ グナル伝達をすることができる(113)、マクロファージ(109)などの炎症細胞の TLR‐4(107)に結合する。その後、TNF‐αは、筋線維芽細胞(119)が形 成される線維芽細胞前駆体(117)上でTNFR(115)に結合することができる。 【0138】 実施例5 40 デュピュイトラン病患者の結節(筋線維芽細胞を含む)由来の初代継代培養細胞を、上 述の培養力モニターを使用して、10 μg/mlの量で、モノクローナルヒトTNF‐ α抗体(モノクローナルIGG1培養物#1825、R&Dシステムズ社(R&D Systems) (カナダ)から入手可能)によって処理した。かかる初代継代細胞の対照培養物と比較し て、抗TNF‐α処理細胞は、30%以上の量の対照によって、24時間にわたり収縮す ることが分かった(対照と比較して、30%を超える効果的な筋線維芽細胞失活に相当す ると考えられる。)。このことを図13に示し、24時間にわたる勾配(又は収縮の割合 ;ダイン/時間)を、対照細胞及びTNF‐α抗体処理細胞のそれぞれについて示す。 【0139】 これは、TNF‐αアンタゴニストによって24時間のみ処理する場合、デュピュイト 50 (31) JP 2013-540803 A 2013.11.7 ラン病患者から臨床的に培養された筋線維芽細胞の活性が低下すること(例えば、収縮挙 動の低減及び/又は存在量の低減)を直接示す。臨床的な状況における筋線維芽細胞に対 するTNF‐αアンタゴニストの効果が持続し、患者の治療レジメが反復適用を含むので 、本試験は、効果的に筋線維芽細胞活性を管理でき、これによって、患部へのTNF‐α アンタゴニストの局所適用により、骨格筋線維増殖性疾患(特に、デュピュイトラン病) の進行を低減し、及び/又はこの再発を抑制すると考えられる。 【0140】 等尺性条件下において、コラーゲン格子からのTGF‐β1ヒト手掌線維芽細胞の添加 によって、収縮性が高まることを確認することができた(図21)。手掌線維芽細胞を接 種したコラーゲンゲルを、TGF‐β1のない状態(PS単独)、又はTGF‐β1(1 10 0 ng/ml)の存在下で、24時間培養した。データを、3人の患者の細胞を使用し た3回の試験の+/−SDとして示す。 【0141】 その後、デュピュイトラン病患者の手掌皮膚及び非手掌皮膚における収縮割合に対する TNF‐αの影響を比較した。手掌線維芽細胞を接種したコラーゲンゲルを、TNF‐α のない状態(PS若しくはNPS単独)、又は、TNF‐α(1 ng/ml)の存在下 で、24時間培養した。データを、手掌皮膚について3人の患者由来の細胞、及び非手掌 皮膚について1人の患者由来の細胞を使用した3回の試験の+/−SDとして示す。本発 明者らは、手掌皮膚へのTNF‐αの添加で、培養力モニターにおける収縮を有意に高め る(図22)ことを見出した。しかしながら、デュピュイトラン病において皮膚筋膜切除 20 を受ける患者から得た、非手掌真皮線維芽細胞に、TNF‐αを加えた場合、収縮割合に 変化がないか、又は該割合はわずかな低減であった。デュピュイトラン病が手掌にのみ罹 患し、めったに足の裏又は陰茎の白膜(ペロニー病)に罹患しないことに留意することは 興味深い。 【0142】 重要な次の問題は、用量依存的に抗TNF‐αを添加することによって、デュピュイト ラン病患者の筋線維芽細胞の収縮性を回復させることができる否かであった。デュピュイ トラン病患者の筋線維芽細胞/線維芽細胞(150万)を接種したコラーゲンゲルを、抗 TNF‐α(マウス抗ヒト、R&Dシステムズ社製、MAB2010)の存在下で、24 時間培養し、また、等尺性の力収縮を定量した。試験を、5人の非選択患者由来の細胞を 30 使用して、3回反復して行った。アイソタイプ対照抗体又は0.1 μg/mlの抗TN F‐αによる効果はなかった。値は平均±SEMを表す。結果を図23に示す。デュピュ イトラン病患者の筋由来の筋線維芽細胞への抗TNF‐αの添加(1∼10 μg/ml の用量範囲)は、用量依存的に、培養力モニターにおける収縮をダウンレギュレートした (図23)。 【0143】 次に、筋線維芽細胞形態に対する抗TNF‐αの影響を評価した。未処理ゲル中の細胞 又はIgGアイソタイプ対照抗体に暴露した細胞はすべて、紡錘状であり、最大応力の軸 に並んだ(図24a)。しかしながら、10 μg/ml抗TNF‐αによって処理した ゲルでは、細胞の多くは、応力の方向に並ぶことなく、星状の形態を示した(図24b、 40 c)。 【0144】 図24の試験において、図23に示す試験のゲルを、3%パラホルムアルデヒドに固定 し、α‐平滑筋アクチン抗体(赤色)、ファロイジン(緑色)、及びDAPI(核‐青色 )を使用して免疫蛍光標識した。図24aは、アイソタイプ対照IgG抗体に暴露したゲ ルの細胞を示す。図24b及び24cはそれぞれ、ファロイジンで染色された、10 μ g/ml抗TNF‐α抗体、及びα‐平滑筋アクチンに対する抗体に暴露したゲルの細胞 を示す。もとの像は100倍で撮影した。 【0145】 図25は、線維増殖性疾患の病因における高度糖化最終産物、損傷及びアラーミンの提 50 (32) JP 2013-540803 A 2013.11.7 案された役割の概略図を示し、最終一般的経路におけるTNF‐αの重要な役割を強調す る。ここで、TNF‐αは、初期デュピュイトラン病のための、及びコラゲナーゼによる 治療後の再発を防止するための、重要な治療標的である。 【0146】 これらの実施例は、活性のある筋線維芽細胞の役割及び挙動に特に関係のある、デュピ ュイトラン病(Duputren's)患者の結節物質及び収縮挙動についての理解を高める初めての 知見を示す。これらの知見は、筋線維芽細胞活性、並びにDAMP及びAGEにおけるT NF‐αに関係し、これは、初期病状から既存の病状への発症若しくは進行を防止するか 又は抑制し、かつ、患者が初期矯正治療を受けた、既存の疾患の疾患再発を防止するか又 は抑制するのに、TNF‐αアンタゴニスト、DAMPアンタゴニスト、及び/又はAG E阻害剤を使用することができるという知見を支持する。 【0147】 本発明は、好ましい実施態様に関して説明されている。しかしながら、当業者が、本発 明の範囲から逸脱することなく、変更及び改良できることが認識される。 【図1】 10 (33) 【図2】 【図3】 【図4】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (34) 【図5】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (35) 【図6】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (36) 【図7】 【図8】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (37) 【図9】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (38) 【図10】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (39) 【図11】 【図12】 【図13】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (40) 【図14】 【図15】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (41) 【図16】 【図17】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (42) 【図18】 【図19】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (43) 【図20】 【図21】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (44) 【図22】 【図23】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (45) 【図24】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (46) 【図25】 JP 2013-540803 A 2013.11.7 (47) JP 2013-540803 A 2013.11.7 【国際調査報告】 10 20 30 40 (48) JP 2013-540803 A 2013.11.7 10 20 30 40 (49) JP 2013-540803 A 2013.11.7 10 20 30 40 (50) JP 2013-540803 A 2013.11.7 10 20 30 40 (51) JP 2013-540803 A 2013.11.7 10 20 30 40 (52) JP 2013-540803 A 2013.11.7 10 20 30 40 (53) JP 2013-540803 A 2013.11.7 フロントページの続き (51)Int.Cl. FI テーマコード(参考) A61K 38/46 (2006.01) A61K 37/54 A61K (2006.01) A61K (2006.01) A61K 39/395 N 9/08 A61K 39/395 9/08 (81)指定国 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,T J,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,R O,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA, BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,H U,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI ,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US, UZ,VC,VN Fターム(参考) 4C076 AA11 AA17 AA72 AA94 BB11 BB31 CC09 CC29 4C084 AA02 AA03 AA17 AA19 AA20 AA21 DC09 MA02 MA66 NA14 ZA942 ZA962 ZC412 ZC422 ZC752 4C085 AA14 AA16 BB43 BB50 GG01 GG10 10