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冬の日 - TeaPot

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冬の日 - TeaPot
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『冬の日』における大気現象について
田宮, 兵衛
お茶の水地理
1992-05-09
http://hdl.handle.net/10083/12066
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Departmental Bulletin Paper
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お茶 の水地理
第3
3
号
1
9
9
2
年
1
1
日日日川州 l
川I
l
献 呈 論 文
『
冬の 日』における大気現象について
=川日日日日日日l
田
1
. は じめに
過去に成立 した文学作品を対象に して ,そ こで
取 り扱われている天気な どの大気現象を考察す る。
その 目的は ,作品成立 当時大気現象が どの ように
一般的に受け取 られていたのかを知 ることである。
言い換 えれば ,過去において用 い られていた大気
現象の表現について,今 日と同 じに了解 して よい
か どうかを ,文学作品を通 じて確認す る作業であ
る。
この ような作業を行 う意義はつ ぎの通 りである。
現在 ,地球全体 の気候 の変動を理解す る一環 とし
て ,科学的気象測器に よる観測が まだ行われてい
ない時代の気候 の推定 ,すなわち古気候復元の必
要性が指摘 されている。 この うち歴史時代につい
ては古 日記等 の古文書に記 された天候記録を資料
としている。その場合 ,用い られている天候表現
は現在 と同 じ現象を指す ことが前提 とな ってい る。
この前提の限界が明かではないため ,現状では紛
らわ しさが比較的少い雨 ・晴等の記録 しか利用 さ
れていない。数が さほ ど多 くない古 日記等を さら
に有効に活用す るには ,上記前提の限界の検討が
必要である。その一つの方法 として ,筆者は 『
猿
蓑』 の歌仙 を対 象 と して検 討 を試 み た (田宮 ,
1
990,以下前報 と記す)。本報 はその続報である。
検討の結果 ,古気候復元に資す る情報が得 られれ
ば一つの成果 とな る。
本論では ,芭蕉七部集の冒頭の 『
冬の 日』を考
察 の対象 とす る。大気現象 の一般的な了解 の され
かたを文学作 品を通 じて知 るとい う問題設定に対
し,多数の制作者に よる多数 の作品に基づ くこと
が本質的に望 ま しい。 しか し,多量 の作 品を直 ち
に対象 とす ることは困難であ り,そ うい う状況の
下で ,対象 として連句を選択 した理 由はつ ぎの 2
つであるO第-に ,連句は原則 として ,異な る作
者に よるが何等かの関連を持つ相隣 る 2句のみで
一つの世界を形成 し, 1句づつず らしなが らそれ
を繰 り返す (
歌仙 の場 合 は 36句 まで) ので あ る
宮
兵
衛
が ,一つの句 と前句 の関連 と後句 の関連は異 なる
ものでなければな らず ,取 り上げ られた事象 (
本
文 では大気現象) についての様 々な捉 え万が資料
として得 られ る。第二 は,個人の作 品 と異な り複
数が参加 して作 成 され る一 万 , 1人 の リーダ ー
(
『
冬 の 目』 の場合全て芭蕉) が主 導 す る もので
あって , リーダーの意 向が直接的に反映 されてお
り,徒 に拡散す る恐れはない。 この 2つの理 由か
ら,冒頭 の問題設定には連句が最 も適切 と考 えたO
実際にあ らわれ る大気現象 は ,『猿 蓑』 の場 合
は,降水に関す るもの ,風に関す るもの ,天候 を
あ らわす もの,気温表現の 4つに分類 で きた。た
だ し,季節名は対象 としていない (
前報参照)。
なお,古気候学的に ,1
6世紀か ら1
9世紀 は小氷
期 とも呼ばれ る低温期であ り,江戸時代 は この期
間に含 まれ る。ただ し,毎年低温であった とい う
ことではな く,寒暖の変化を長年にわた って平均
して得 られ る平年値が現在 の平年値 よ り低 い とい
うことである。
2
. 『冬の 日』 について
芭蕉七部集 の 冒頭 に置 かれ てい る とい うこ と
は,そのなか で成 立 時期 が最 も早 く,貞 享 元年
(
1
6
8
4
年),名古屋 においてつ くられ た もので あ
る。『
冬の 日』は歌仙 5巻 ,「こが らしの巻」,「
は
つ雪 の巻上 「
寡 の巻上 「
炭責の巻上 「
霜月の巻」
と追加 6句か らな る。 なお ,追加 とは句興断ち切
れ ない場 合 につ くられ る もの で あ る (中 村 ,
1
962)0
全 5巻を通 じ主要 メンバーは ,芭蕉 ,野水 ,荷
骨 ,垂互 ,杜園である。 「こが らし上 「
はつ雪上
「
葺」 の各巻は この主要 メンバ ー 5名が各 7句 ,
正平 が執 筆 と して 1句参 加 して い る。 「炭 膏」,
「
霜月」 の両巻は前記 5名に羽笠が加わ った 6名
で 6句づつである。追加を含めた合計 1
86句 の作
4
句づつ ,羽笠が 1
3
者別 内訳は ,主要 メンバ ーが3
句 ,正平が 3句 とな る。
-1
7-
これ に際 し,句 の解釈 に類す る ことも述 べ るが ,
第 1表
1
9
6
2
),白
大気 現象 に こだわ る部分以外 は ,中村 (
巻別 の季 の数
990),安 東 (1981,1986,1
989,
石 ・上野 (1
1
2
2
6
1
9
3
6 7 10 7
53464
51
61
41
31
3
1
は ,原文 の表記 に拘 らず ,現在見慣 れ てい る表記
を用 い る。
9
計
1
9
90
) に よった 。 また ,検 討 に際 して の記述 で
9
はつ雪
茜
炭 責
霜 月
秋
5
こが ら し
夏
10
春
3
8
9
40
2
2
71
3.1 こが ら しの巻
1
. 狂句 こが ら し の身は竹哲 に似 た る哉
[
W *] (
芭蕉)
2. たそや とば しるか さの山茶花 [
W](
野水)
自らを仮名草子 の主人公 であ る社会 的脱落者 に
なぞ らえ ,そ の状態 を象徴す る もの と して 「
木枯
追 加 (6句) -
3
2
1
し」 を用 いた芭蕉 に対 し,野水が 「
木枯 し」 で飛
び散 った 山茶花 が笠 に降 りかか る様 子を捉 えて応
(- :該 当無 し)
えた ものである。 「
木枯 し」 の第 1句 に お け る役
以 下,大気現象 に こだわ って巻 ごとにい ささか
割 ,第 2句 との関連 におけ る役割 いずれ もきわめ
て重 要 である。
の分析 を試 み る。最後 に ,作 者別 ・季別 ・長短句
別等 に大気現象 のつかわれ万 につ いて集計す る。
1
9
6
2
) に従 う。
巻 の呼び方 ,李 につ いては中村 (
3. 有 明の王水 に酒屋 つ くらせ て [H](
荷骨)
1
9
9
0
) に よった。
ただ し,追 加 の李 は 白石 ,上野 (
4. か しらの 露 をふ るふ あかむ ま
[H*] (
重五)
5. 朝鮮 のほそ りす ゝきのにはひな き
各巻及 び追加 におけ る李 の数 は第 1表 に示 す と
お りであ る。全体平均 して 4割弱が雑句 で あ る
。
秩 ,春が 2割前後 と多 く,冬 はそ の半分 ,夏 は さ
[H] (
杜 国)
露」 は赤馬が頭 を振 る際の一
第 4句 におけ る 「
らにそ の半分 で あ る。
つ の小道具 にす ぎな い。 前 句 とは有 明 月 か ら朝
露」か らすす きとい う,連歌 以
f
露 J,後句 とは 「
3. 具体例
来 の常套 的関連 で あ る。
1
0
. きえぬそ とはにす ご々々 とな く
[Z] (
荷今)
l
l
. 影法 のあかつ き さむ く 火を焼 て
W *] (
芭蕉)
イユ[
カラ
1
2
. あ る じはひんにた え し虚家
[Z](
杜 国)
1
句 におけ る 「
寒 く」 は早朝 の低温 を確認 し
第1
てい る。前 ・後句 との関連 は 「
卒塔婆上 「
貧」 と
本節 では巻 ごとに大気現象が表れ る句 を順番 に
考察す る。 まず ,大気 現象 を含 む句 とそ の前後 の
句 を示す。 番 号 は発 句 か らの順 番 で あ り, した
が って長句 は奇数 ,短 句 が偶数 とな る。大気現象
に
を付 し,そ の句 の李 を [ ],作 者 を
( ) に示す。季 につ いては ,春 ;F,夏 ;S,
秩 ;H ,冬
;W の記号 を用 いた。雑 句 は Zで表 し
た。 また ,下線 を付 した大気現象が季語 とな って
もそ の印象は少 な くとも暖か くはない と して了解
で きる。
い る場合 ,季節 の記号 に さらに *を付す。使用す
I
S第 2水 準 まで とす
る漢字 の 自体 は原則 と して J
1
3
. 田中な る こまんが柳落 る ころ [H] (
荷今)
1
4
. 霧 にふね 引入 はちんばか [H*](
野水)
1
5
. たそかれ を横 にながむ る月はそ し
る。反復 記 引 ま々々で置 き換 えた. この他 目読 し
てイ メー ジを把 む のに ,最低必要 と思われ るふ り
がなを付す ことにす る。
次 いで ,一 つ一 つ の大気現象 につ いてそ の句 に
[H] (
杜 国)
おけ る使われ方 ,前 ・後句 との関連 を検討す る。
舟 を曳 く人 の様 子 を 「
霧」 を通 してみれ ば ,歩
-
18 -
お茶 の水地理
行 困難者の様 に見 え るとい う第 1
4句 は ,「霧」 に
よる視程 の低下を意味す る。柳す なわ ち川辺か ら
霧 」か ら月を連想す ることは ,古 くか ら
「
霧」,「
行われてい る。 しか し,後句 において ,黄昏時 に
見 え る月は地平線 に近 い三 日月のはず であ り,堤
皿未満) の 「
霧」
在 の気象学 の定義 (
水平視程 11
が 出ていれ ば見 えないはず である。 当時 は これ ほ
ど視程が下 が らない場合 で も 「
霧」 としていた こ
とが推定 され る。
2
2
. しば し宗紙 の名 を付け し水 [Z] (
杜 国)
2
3
. 笠ぬ ぎて無理 に もぬ る ゝ 北時雨
W *] (
荷骨)
ト
ウ
チサ [
2
4
. 冬がれわけてひ と り唐芭
[
W] (
野水)
「
北時雨」 に敢 えて濡れ る とい う第 23句 は ,一
つ の行為を描写 しただけであるが ,前句 との関連
に関心を持 つ風狂人 の行為 とい う意味にな る。後
句 との関連 は ,冬の景色 として冬枯 れ の唐百 を出
している。
本巻に出て来 る大気現象は 5つ あ り,いずれ も
季語 とな ってい る。
風 に関す る もの :こが らし,降水現象 :露 ,寡 ,
北時雨 ,気温表現 :さむ く。
3.
2 はつ雪の巻
1
. はつ雪 の ことしも袴 きてかえ る
[
W *] (
野水)
アサガオ
2. 霜 に まだ見 る 苑 の食
[
W *] (
杜 国)
3. 野菊 までたづぬ る蝶 の羽 おれて
[H] (
芭蕉)
第 1句 の人物 は ,人それぞれが何等か の思いを
持 ってむか えてい る 「
初雪」 の 日に も,袴をはい
て通常の勤務 の後 に帰宅す るだけであ る。その人
物 は ,朝顔 が咲 く時刻 には朝食 を とって出勤 しな
ければな らない (
第 2句) が ,その朝顔 も,季節
はずれで 「
霜」 が降 る時候 にな って もまだ咲いて
い る ような哀れ な朝顔 である。ただ し,霜が降 り
る時期に咲 く朝顔 が あるのか ,現在 の常識か らは
異常 に早 く霜が降 りたのかいづれかは解 らない。
第 1句 と第 2句 は冬 の大気現象で関連付け られ ,
第 2句 と第 3句 は哀れ さで関連す る。
1
9
9
2年
6. 桃花 をたを る貞徳タ
の冨
[F] (
正平)
ニシ
7
. 両 こゆ る浅香 の田螺 は りうえて
[F] (
杜 国)
8. 奥 の きさらぎを只な きにな く [F](
野水)
雨」 は浅 ない しは浅香 にかか る枕 詞
第 7句 の 「
的な もの とい うことであ り, したが って前 ・後句
との関連 において も 「
雨」 は特 に役割 を果 た して
いないので ,大気現象 としては考察 の対象 ではな
い。
本巻 に出て来 る大気現象は 3つ で ,いずれ も降
水現象 (
はつ雪 ,蛋 ,雨) であ るが , うち雨 は季
語 で もな く重要 さは欠け る。
3.
3 毒の巻
1
ング レ
1
. つ ゝみかね て月 と り落 とす 霧 かな
[
W *] (
杜 国)
こは りふみ行水 のいなづ ま [
W] (
重五)
歯菜 の葉を初狩人の矢 に負て
[F] (
野水)
時雨」 とい う天候 の特徴 ,積雲 が
第 1句 では 「
断続的に近付 き一時的な雨を もた らすか と思えば
雲 が切れ るとい う状態 を ,雲間か ら見 え隠れす る
いなづ ま」 につ い
月で とらえてい る。第 2句 の 「
ては ,水溜 りの氷を踏 み割 ると 「
いなづ ま」 の よ
うな割れ 目が走 る, とい う解釈がな され てい る。
「
いなづ ま」 の素早 さにおいて 「
時雨」 の始 ま り
万 と関連 させ るのであるが ,「時雨 」 を もた らす
積雲 に雷 が発生 し電光を実際に見た とい うことも
有 り得 ない ことではない。冬 の季節風時上空に強
い寒気 が侵入 して発達 した横雲 中に雷 が発 生す る
ことは通常 の ことである。 「
時 雨」 程 度 の積 雲 で
も雷 が起 こる こ とは現 在 の気 候 で は想 像 し難 い
が ,気候 が全般的に寒冷 で ,寒気が強ければ可能
か も知れ ない。第 3句 は ,狩人が初猟 にでかけ る
時 の風景 である。 この場合は ,水溜 りの氷を踏 み
割 るのは明 るい時間であ り,雷雨時に狩 に出 るこ
いなづ ま」 は氷 の割 れ 方
とも考 えに くいので ,「
とす るほ うが素直 であろ う。
-1
9-
2 3
において,時雨 に関す る作 品で知 られ てい る宗紙
第3
3号
4. 北 の御 門をお しあけのは る [F] (
芭蕉)
5. 馬糞掻 あふ ぎに風 の打 ちかすみ
lF*] (
#%)
6. 茶 の湯老 お しむ野べ の蒲公英
[F] (
正平)
春 「
風」 と 「
かすみ」 の 日に馬糞 を掻 き取 って
かすみ」。馬糞 は
い るのが第 5句 であ る,季語は 「
中村 (
1
9
6
2
) は 『高潮』 と注記 してい るので これ
に関連 し筆者 の見解 を述べ る。 まず 当該句 と前 ・
後句を示す。
1
4
. 命婦 の君 よ り米なん どこす [Z] (
重五)
1
5
. まが きまで津波 の水に くづれ行
[Z] (
荷今)
1
6
. 併食た る魚解 きけ り
[Z] (芭蕉)
5
句 は海岸か ら多少は離れてい る住居 の垣根
第1
第 4句 で押 し開けた門の前 のあ り,他方第 6句 は
その よ うな 日,春 の野辺 では茶 の湯 を楽 しんでい
る とい うことであ る。「
風」は季語 で もな く,そ の
役割 は決定的 とは思 えない。
8. 燈寵ふたつにな さけ くらぶ る
まで壊す よ うな 『
津波』があ った とい う句である
現在 ,『
津波』 は地震等 に よる急 激 な力 に よる大
きな波 ,『高潮』 は台風 に ともな う風 の よ うに持
。
[
H] (
杜 国)
9. つゆ萩 のす まふ力を撰 ばれず
[
H*] (芭蕉)
1
0
. 蕎変 さえ青 し滋賀楽 の坊
[
H] (
野水)
露」の重 さと萩 の枝
萩に 「
露」が潤 ってお り,「
続的に働 く力に よる大 きな波 を指す が ,この区別
0
年程度 で比較的新 し
が明確 にな されたのは最近 5
の反発力が釣 り合 っている状態を とらえたのが第
を意味す る成 分はな く,沖合いでは波 高は 目立た
9句 である。前句 との関連 は二つ の ものの比較 と
い うことにあ り,後句 との関連 は ,全体 としての
ないが波長 の長 い波 が ,陸に近付 くと海底が浅 く
露」が潜 る程度 で枝が擁
季節感覚である。なお ,「
す こと指す言葉 である。その場合原 田を特定す る
う萩 は ミヤギ ノ-ギであ り,ヤマ-ギではなか ろ
う。
必要があれば 『
地震津波』,『(塞) 風 津 波』 と し
た。
2
3
. 捨 し子は柴刈長 にのびつ らん [Z] (
野水)
米 と解釈 して関連付けているので ,これに よって
2
4
. 晦 日を さむ く刀責 る年
は地震津波 ,暴風津波 の判断はで きない。他方 ,
後句 との関連 は ,『
津波』 で打 ち上 げ られ た魚 の
い。本来 ,『
津波 (
港 におけ る波)』 にはその原因
な るため ,さらに港湾部では地形的に ,振幅を増
前句 とは ,宮 中の女官がお くって きた米を救伽1
[
W *] (
重五)
2
5
. 雪 の狂呉の国の笠めづ らしき
[
W *] (
荷骨)
2
6
. 襟 に高雄が片袖 を と く
[Z] (
芭蕉)
4
句の 「
寒 く」 は ,刀を売 らね は歳 も越せぬ
第2
5
句は 「
雪」 に興 じて珍
窮乏生活をあ らわ し,第2
腹 を割 いてみた ら仏 が出て きた とい うことである
台風 に よる高潮 で魚が打 ち上げ られ ることが全 く
。
無 い とはいえないが ,ここは魚 も死ぬ ような急激
な力に よる地震津波 と解釈す る方が 自然である。
しい外 国の笠をかぶ っているとい うことである。
そ こで,理科年表 の1
990年版 の 「日本付近 のお も
両句 の関連 は ,そ うい う客 を迎 え るためには刀を
売 らね はな らぬ ,あるいは ,刀を売 らね はな らぬ
な被害地震年代表」 に よ り,芭蕉 の生年 ,正保元
1
6
4
4
年)か ら本巻成立 の貞享元年 (
1
6
84
年)
午 (
時世には呉 の笠をかぶ った りす る変わ り者 も居 る
の間にあ った津波 を ともな った地震 をあげ ると,
とい う解釈 があるが ,いずれ も大気現象 の観点か
らは 「
寒 さ」す なわ ち 「
雪」 の単純 な対応 の上 に
1
6
6
2
年) 日向灘 ,同四年 (
1
6
6
4
年)疏
寛文二年 (
4
句 と前句 は ,子捨 て と刀を売
成立 してい る。 第 2
5
句 と後句は酔狂な人物
る窮乏生活 が関連 し,第2
の行動 として関連が付 く。
本巻 に出て来 る大気現象 は 6句 7つ あ り, うち
5つ ,降水 現 象 :寡 ,蕗 ,雪 ,天候 現象 :か す
球 にあ ったが ,いずれ も遠隔地 で時間 も離れてい
1
677
年) の春 と秋 に 2回あ り,前
る 延宝五年 (
者 は陸中 ,後 者 は磐 城 か ら房 総 に か け て津波 が
襲 ってお り,荷骨や芭蕉が これを記憶 していた と
。
考 えることは無理 ではなか ろ う。 なお ,理科年表
1
9
8
7
年版 までの 「日本付近 の被害地震年代表」 で
は ,この津波 は尾張 まで及んだ と記述 されていた。
衣 ,気温表 現 :さむ く,が季 語 とな って い る。
風 ,いなづ ま (
大気電気) は季語ではない。
5句 の 『
津波』 は ,後句 との関
以上に よ り,第 1
連 では地震津波 と解すべ きである。連句 の場合 ,
前句 との関連 ,後句 との関連は異 な る ことが前提
5句 に 『
津波』 が あ り,これ に
なお ,本巻 の第 1
であるが ,前句 との関連を風津波 で付け ,後句 と
-2
0-
お茶 の水地理
3
6
. ね られ ぬ夢 を責 るむ ら雨
どの ものか ,また当時そ こまで津波 の原 因を意識
していたか は
,
1
9
9
2
年
[Z](羽笠)
は地震津波 で付 けわけ る とい うところ まで及ぶ ほ
[Z] (
杜 国)
第 34句 は ,狩衣 が 「
春風」 に あお られ た ら 下の
筆者 の連句 の理解 の程度 では解 ら
ない。
第3
3
号
鎧 が見 えた , とい うことで あ り,前句 の花 の下 で
か しこまるのを出陣 の風景 と してい る。後 句 は 出
3.
4 春責の巻
1
. 炭責 のをのがつ ま こそ黒か らめ
陣 を見送 る夫人 の姿 で あ り,「
春 風 」 は特 に重 要
6
句は 「
村雨 」が耳 につ いて眠れ な
ではない。第 3
[
W] (重五)
2・ ひ善く
㌘粧 ひを鏡磨寒
[
W *] (
荷今)
3. 花 森 馬骨 の霜 に咲か え り [
W *] (
杜 国)
4. 鶴見 るま どの月かす か な り [H] (
野水)
5. かぜ 吹かぬ秋 の 目瓶 に酒 な き 日
[H] (
芭蕉)
6. 萩織 るか さを市 に振 りす る [H] (
羽笠)
い夜 で あ るが ,眠れ ぬ真 の理 由は前句 の動作 を さ
せ た何事 かに 由来す る
。
本 巻 に 出て来 る大気現象 は 6つ あ る。風 に関す
る もの :か ぜ ,春 風 ,降 水 現 象 :蛋 ,霧 ,む ら
雨 ,気温表現 :寒 。 この うち ,かぜ ,む ら雨 は季
語 ではない。
寒」
第 2句 で は ,他 人が化粧す るため の鏡 を 「
さの中で磨 いてい る。 この寒 い情 景 は ,第 3句 の
句 の雲 は ,前句 か ら明 ら
なお ,以下 に示す第 30
「
霜」 の降 りた馬 の 白骨 の よ うに咲 く,あ るいは
か な よ うに鍛 冶場 か らの煙 で あ り,後 句 は鍛 冶 の
白骨 の脇 に咲 くイバ ラの花 で さ らに強 め られ る。
多 い奈 良の様 子 で あ るので大気現象 ではな い。
第 1句 と第 2句 は ,寒 中大変 な仕事 で関連 させ る
2
9
. 寅 の 目の且 を鍛 冶 の急起 きて [Z] (
芭蕉)
3
0
. 雲 か うば しき南京 の地
[Z] (
羽笠)
3
1
. いが き して誰 とも しらぬ人 の像 [Z](
荷骨)
が ,女性 の化粧 とい うことに よって も関連す るの
霜」 の降 り
ではなか ろ うか。第 3句 と第 4句 は 「
る明け方 ,徴 かな月光 で鶴 を見 る とい うことで あ
3.
5 霜 月の巻
る。
風 」 も無 い穏 やかな秋 の 目,酒 を飲
第 5句 は 「
7. 秋 の ころ旅 の御連歌 い とか りに
も うと思 った ら既 に 無 か った , とい うこ とで あ
8. 漸 くほれ て冨士 みゆ る寺
9. 寂 と て椿
ウ の花 の落 る音
1
0
, 茶 に糸遊 をそむ る風 の香
l
l
. 雑迫 に烏帽子 の女五三十
る,季 語は秋。前句 とは退屈 な時 の様 子 ,後句 と
し
イ
ト
ユ
は酒が切れ た ので萩 の笠 を市 で売 って酒代 を得 よ
風」 は直接 関連 しない。
うとい うこ とで ,「
1
4
. 血刀 か くす月 の暗 きに
[H] (
荷 今)
1
5
. 霧下 りて本郷 の鐘 七つ き く
[H] (
芭蕉)
[Z] (
荷骨)
[F] (
杜 国)
[F*](垂五)
[F] (
野水)
秋 に旅 の途 中連歌 を試 みてい る前句 に対 し,刺
着 した寺か らや っと雨 が上 が って 「
晴れ 」た空 に
[H*] (
杜 国)
1
6
. ふゆ まつ納豆 た ゝくな るべ し[H] (
野水)
前句 の暗 さか ら,第 1
5句 を秋 の明け方七 ツ (
午
霧」 が 出てい る場合 の暗 さ とす
前 4時) の頃に 「
る解 釈 が な され て い る が ,秋 の 七 ツ で あ れ ば
「
霧」 が出ていな くて も十 分暗 いのではないだ ろ
うか。 ただ し,後 句 との関 連 で は秋 の 明 け 方 の
「
霧」 と解 釈す る方 が妥 当であ る。
富士 山が見 えたのが第 8句 で あ る。後句 はそ の寺
3
3
. 粥す ゝるあかつ き花 にか しこま り
[F] (
野水)
3
4
. 狩衣 の下 に鎧 ふ春風
[F*](
芭蕉)
3
5
. 北 のかたな く々々簾 お しや りて
2
2
. 御幸 に進 む水 のみ くす り
[Z] (
垂五)
2
3
, ことにて る年 の小角豆 の花 もろ し
[S] (
野水)
タドこ
/
2
4
. 萱屋 まば らに炭 圏つ く臼
[Z] (
羽笠)
の静 か さを椿 の花 が落 ち る音 が聞 こえ る ことで示
した。 当時 の旅 は数 日はかか ったはず で あ り,そ
の間 の悪天がや っと晴れ る とい うのは秋 で あれ ば
秋宗 とい うことにな る。
第1
0句 ,春 の風 に 「
糸遊 :かげ ろ う」 が立 つ と
ともに野点 の茶 の香 りも漂 う。前句 と同 じ興趣 ,
後句 はそ の よ うな ところで行われ てい る余興。
121-
特 に 日照 りの水不足 の夏には ささげの花が もろ
い とい うのが第23句 である。季語 は小角豆 の花 で
あるとされているが ,前句の水 あた り用の (
御)
薬 と関連す るのは 「
照 る年」である。 また ,後句
の炭 団を造 る作業 も乾燥 した夏に行 う。
2
7
. しづか さに飯董のぞ く月の前 [
H] (
重五)
2
8
. 露 お くきつね風やかな しき[H*] (
杜国)
2
9
. 釣柿 に屋根ふかれた る片庇 [H] (
羽笠)
露」に濡れた狐 に 「
風」が吹いて悲 し
第28句 ,「
い,季語は 「
露」。その狐は前句 の飯台等に餌 を探
している。後句 では ,その狐 のな く声が干柿が全
面に吊られた山間の家に 「
風」 に乗 って聞 こえ る。
3
3
. いろふか き男猫 ひ とつを捨 てかねて
[F] (
杜 国)
3
4
. 春 の しらすの雪 はきを よぶ [F] (
重五)
3
5
. 水干を秀句の聖わかやかに [Z] (
野水)
3
6
. 山茶花匂ふ笠の こが ら し [
W*] (
羽笠)
白州に積 もった 「
雪」をか くため人を呼ぶ よ う
な第34句の人物 は ,前句 との関連では ,さか りの
ついた猫 を処分す ることもで きない。他方 ,春 の
白州 の 「
雪」 を若 い爽やかな句聖を関連 させ る と
後句 となる。
第 36句はその句聖 を,冒頭 の こが らしの巻の発
句 「
狂句 こが らしの身は竹斎に似たる哉」 を読 ん
だ芭蕉 として ,『
冬の 日』が終 る。
本巻に出て来 る大気現象は 6句 で 8つある。 こ
の うち季語は糸遊 ,露 ,こが らしである。風に関
す るもの :こが らし,風 (2回),降水現象 :露 ,
雪 ,天候表現 :ほれて ,てる年 ,糸遊。
5. 銀 に蛤かわん月は海
[H] (
芭蕉)
第 4句は 「
朝露」 の中を槍 の笠で身分を隠す貴
人。前句 の茶究髪の下着姿の木賊刈 も身を隠すた
めか。後句 では ,その貴人は蛤を買 うのに銀貨を
出す。
追加の大 気 現象 は 2つ。 いず れ も降雨現象 :
蛋 ,朝露。
4. 作者別 ・季別句数等 につ いて
『
冬の 日』 には以上見て きた通 り,大気現象を
含む句は28句 (うち追加 2句) ある。 この うち 3
句には 2つの大気現象がでて くるが ,いずれ も季
語の他に 「
風」が使われてい る場合である。その
1
を,降水現象 ,風に関す るもの,天候現象等
ら3
(
大気電気は ここに含める),気温表現に分類 し,
季語であったか どうかを区別 して示す と第 2表 と
なる。
圧倒的に降水現象が多 く 7種 1
6回,風に関す る
ものは 3種 7回 ,天候現象は 5種 5回がそれに続
く。気温表現は 1種 3回 と少ない。『
猿蓑』の 4歌
仙について 同 じ数 え方 をす る と,降水 :6種 8
回,風 :6種 8回 ,天候 :3種 3回,気温 :2種
3回であるので (
前報),『
冬 の 日』では降水現象
の回数が多 く,風の種類が少ない といえる。
大気現象 の種類を作者別 (
順番 は木枯 しの巻に
おけ る登場順)示 しているのが第 3表である。特
に 目立つのは杜国が 5種 8回 も降雨現象を出 して
いることである。他方芭蕉は ,風に関 して木枯 し
第 2表
3.6 追加
ツレ
ナ
ク
アラレ
1
. いかに見 よと難面 うLを うつ 霞
[
W*](
羽笠)
降水
2
. 樽火にあぶ るかれは らの松 [
W](荷骨)
第 1句は ,あ られが容赦 な く牛に降 り掛か って
いる。その牛の持 ち主は第 2句で,枯れた野原 の
松 のた もとで火に当た っている。
風
天候等
3. と くさ刈下着に髪をちやせん して
[
H](
垂五)
4. 槍笠に官をやつす朝露
[H*] (
杜国)
-2 2
『
冬の 日』 にあらわれた大気現象
非季語
季 語
季
語
雪 .はつ雪 (
3)
,霜 (
2)
,蛋
(
2
) 2)
雨
む ら雨
露 .朝露(
4)
,
寡(
,
北時雨 .
寡(
2)
,
こが ら し(
2)
,春風
非季語
4)
風 .かぜ (
季 語
非季語
かすみ ,糸遊
いなづ ま,ほれ て ,てる年
(
数字は使われた回数)
-
お茶の水地理
第 3表
降
水
第3
3
号
1
9
9
2
年
作老別大気現象
風
天候等
気
温
さむ く (
KGll)
芭蕉
SGO
9
)
つゆ (
こが ら し (
KGOl)
SUO5
)
かぜ (
春風 (
SU34
)
野水
霧 (
KG1
4)
はつ雪 (
HYOl)
荷今
北 時雨 (
KG2
3
)
雪 (
SG2
5
)
風 (
SGO
5
)
かすみ (
SGO
5
)
ほれ て (
STO
8
)
寒 (
SUO2
)
垂五
露 (
KGO
4
)
雪 (
ST3
4
)
風 (
STI
O
)
いなづ ま (
SGO
2
)
糸遊 (
STI
O
)
さむ く (
SG2
4
)
杜国
霜 (
HYO2,SUO
3
)
雨 (
HYO
7
)
# (
SGOl)
SU1
5
)
霧 (
む ら雨 (
SU3
6
)
露 (
ST2
8
)
朝露 (
SPO
4
)
風 (
ST2
8
)
羽笠
霧 (
SPOl)
こが ら し (
ST3
6
)
て る年 (
ST2
3
)
(
KG:こがらし,HY:はつ雪,SG:寡,SU:炭責,ST:霜月,SP:追加)
(
数字は発句からの僻番)
と春風 を出 してい るが ,風 は 『冬 の 日』 では数 が
第 4表
少ない上 ,他 の現象 と併用 され ることが多 い こと
を考 えれば指摘す るに値 しよ う。天候現象を 出 し
たのは主要 メンバ ーの残 りの 3名であ り,芭蕉 ,
巻別 ,季別 の大気現象を含む句及びそれ
らの長短 の数
杜国は出 していない。
第 4表 では ,大気現象 を含 む句を巻別 に李 に分
こが らし
けて示 し,また ,それ らの長短 の別を示 した。 は
つ雪 の巻は 3句 と少 ないが ,他 は 5ない し 6句が
大気現象を含 んでい る。李 については ,こが ら し
はつ雪
第
の巻 ,寡の巻 で冬が多いので , 5歌仙全体 として
も冬が多い。第 1表 と比較す ると,冬 の句 の半分
0句は季語) のに対
以上に大気現象がある (うち 1
炭
責
霜
凡.
計
し,他 の李 では 1- 2割 ,雑句 では 3%程度 であ
る。 この傾 向は 『猿 蓑 』 とほ ぼ 同 じで あ る。 な
春
夏
秋
冬
雑
長
短
一
1
1
1
2
一
1
2
1
2
1
3
2
4
2
1
1
1
3
2
4
3
1
2
1
2
3
5
5 1 6 1
2 2 1
3 1
3
お ,長短 の別 は ,秀 の巻 で長句 ,霜月の巻 で短句
3句づつ とな った。追加
に偏 るが ,全体 としては 1
-
(
- :該当無 し,/ :当該欄無関係)
2
3
-
作句 してい る主要 メンバ ーにつ いてみ る と, 5巻
を加 えて もこれ らの ことは変 わ らない。
第 5表 に大気現象 を含 む句 につ いて ,作者別 に
すべてに大気現象を出 した ものはいない。荷 今が
長句 ・短句 を区別 して集計 した結果 を示す。 同数
はつ雪 の巻 ,杜 国が木枯 しの巻 を除 く 4巻 で大気
第 5表
芭
野
L2,-
I
Jl,-
責
霜
月
L 1,-
計
骨
董
杜
五
国
-,S l
L l, Sl
-, S2 L 1,L2,- ,s l
I
.2, S l
- ,S 1 -,S2
- ,Sl
-,S
(-
第 6表
芭蕉
責
霜
月
S,一
作者別 ,大気現象を含 む句 の季
荷骨
壷五
Z]
計雑[[W]
冬
正平
W ,一 一,H
W ,F
FW , 一 一,W 2
W,- ,W
WH , Z
一 , Z -,F 2
1 ,H
- ,H
追加 (6句)
夏 [S]
春 [F]
# lH]
杜国
/
W
炭
H,F,H
L,-
一
斉
W 2,- -,H
W ,-
/
(
L:
長句,S:
短句)
:該当無し,/ :当該欄無関係)
一/ /
はつ雪
野水
-,S l
/ //
こが ら L
刺
/
/
L4, S I L2, SI L3, S2 -,S5 L4, S3
追 加 (6句)
香
正平
HH
S
L l, L l, S l
#
荷
- ,SI L 1,-
はつ雪
炭
水
/// 一
こが ら L
蕉
作老別 ,大気 現象 を含 む句 の長 ・短句別句数
W,
計
-,- 1,1,- -,1, 1 -, 1
,
1,,
,
-,2
-, l
- ,- / ,/
- , 1 / ,/
l, 2 / ,/
- ,- ,-
,
1,-
-, 1
2, 1
,
-,2
- , 1 / ,/
3,- / ,/
-, - - ,2
1, 1 9, 4
,
2, -
-,-
1,2, 3
2, 5
(
F:
香,S :夏 ,H :秩,
W:
冬,Z:
雑,各欄左長句,右短句)
(
-:該当無し,/ :当該欄無関係)
-2 4 -
お茶の水地理 第3
3
号 1
9
9
2
年
現象 を出 してい る。 また ,野水 が 3句 と少 ない こ
と,杜 国は追 加 を含 め る と 8句 と多 い こと,芭蕉
の 3句 に寒 さが 出て くるだけ で あ る。 いずれ も貧
困な どに関連 してい る。
が長句 ,重 互が短句 に偏 ってい る ことが 目立 つ。
本文 の よ うな形 で連句 のなか の大気現象 につ い
第 6表 は ,巻 ごと及 び追加 につ いて ,作者別 に
て考察 を加 え るに際 して ,残 され てい る ことは ,
長句 ・短句別 に李 を示 した ものであ る。主要 メン
必ず いづれか の李 でな くてはな らない発句 におけ
バ ーを比較 す る と,大気現象 の句数 が少 ない野水
る大気現象 の役 割 であ る。 『
冬 の 日』 で は は じめ
が全巻 を通 じて大気現象 を含 む句 が 1句 しか ない
猿 蓑』
の 3巻 の発句 に大気現象が はい ってお り,『
夏を出 して い る こと,荷今 が秋 に大気現象 を 出 し
ていない こ とに気 づ く。 また ,冬 の場 合 は大気現
では 4歌仙 の うち 2歌仙 が大気 現象 を含 む句 が発
句 で あ る。 また ,花 ,月 の定座 ,及 び恋 の句 な ど
象 を含 む句 に長句 が多 いが ,
香,
秋 では短 句 が多 い。
連句 の決 ま りと大気現象 の関係 の有無 も確認す べ
き課題 であ る。
5. おあ りに
本文を,お茶の水女子大学で3
3回目 『
春の日』を迎え
られると同時に御退官 となられ る式
一つ一つ の大気現象 につ いては第 3節 で述 べた
が ,ここで は各歌仙 に またが った興味 あ る点 を挙
正英先生に捧げ
る。当面,地理学的とは見えない文章であるが,御容赦
賜れば幸いである.
げ る。
「こが ら し」 の巻 の発句 におけ る 「こが ら し」
参考文献
は ,一般的 な価値基準か らは否定 的な イ メージで
使われ てお り,現在 の木枯 しのイ メージ とは離れ
安東次男 (
1
9
81) : 『
連句入門 蕉風俳話の構造』筑
摩書房 ,3
0
6ページ.
ていない。 しか し,脇 の句 におけ るイ メージ,め
(
1
9
8
6
) :『
風狂始末 芭蕉連句新釈』筑摩
るいは冒頭 の発 句 に対 応 させ た最 終 巻 「
霜月の
書房 ,2
8
7ページ.
巻」 の挙句 では肯定 的な もの とな ってい る。 これ
(
1
9
8
9
) :『
続風狂始末 芭蕉連句新釈』筑
が作者 であ る芭蕉 に対す る尊敬 の念 の表現 で ある
摩書房 ,2
1
6ページ.
のか ,当時 の一般 的な木枯 しのイ メー ジに肯定 的
(
1
9
9
0
) :『
風狂余韻 芭蕉連句新釈』筑摩
な部分があ った のか ,なお検討 を要す る。
寮」 の巻第 2
5
句 ,「
霜
「
はつ雪 」 の巻 の発句 ,「
月の巻」第 3
4
句 では雪 に対 して否定 的 な意味 を与
書房 ,2
1
6ページ.
1
9
9
0
) :『
芭蕉七部集』岩波書
白石悌三 ・上野洋三 (
0
),6
5
0+4
9
ページ.
店 (
新 日本文学大系7
えていない。『
冬 の 日』の作者達 は ,降 ・積雪 の少
ない太平洋 沿岸地域 の住 人 では あ ったが ,歌仙 に
1
9
9
0
) :『
猿蓑』の連句における大気現象
田宮兵衛 (
1
号 ,9-1
5.
について.お茶の水地理,第3
親 しむ よ うな階層 は雪 で苦労す る ことはない とい
中村俊定 (
1
9
6
2
) :連句篤.大谷篤蔵 ・中村俊定校注
う背景 も無 視 で きないで あろ う。
『
冬 の 目』 では気温表 現 が少 な く,「こが ら し」
1
句 ,「
寮」 の巻第 2
4
句 ,「
炭売」 の巻 の脇
の巻第 1
5
),2
8
2
『
芭蕉句集』岩波書店 (日本古典文学大系4
-51
7.
HUYUNOI
HI"
We
a
t
heri
n"
Hyo
eTAMI
YA
-25-
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