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日本原子力研究開発機構 - SPring-8
大型放射光施設の現状と高度化 3‑3‑3 専用ビームライン 日本原子力研究開発機構 1.BL11XU(JAEA 量子ダイナミクスビームライン) 1‑1 概要 真空封止型アンジュレータを光源とする BL11XU では、 光学ハッチに Si(111)結晶と Si(311)結晶を真空中で 切り替え可能な液体窒素冷却二結晶分光器が設置され、 6 keV から 70 keV 領域の高輝度放射光を高出力で利用で きる。また、集光と高調波カット用の横置き型 X 線ミラー と Be 屈折レンズとを切り替えて利用できる専用ステージ が整備されている。3 つの実験ハッチにある計 4 式の測定 装置を利用して、主にメスバウアー分光、XAFS、非弾性 X 線散乱、表面 X 線回折による研究が展開されている。 1‑2 移相子と核モノクロメーターを用いた偏光メスバウ アー分光法の開発研究 実験ハッチ 1 上流側では、原子の局所電子・磁気状態に 関する知見が得られる放射光メスバウアー分光を用いた省 エネ・省資源材料の物性研究を展開している。2013 年度 は磁性体に含まれる鉄原子の内部磁場の強度と配列を局所 解析できる偏光放射光メスバウアー分光法の開発を行っ た。本手法では、偏光を制御した放射光メスバウアーγ線 を生成するため、ダイアモンド移相子と核モノクロメータ ーを併用した核共鳴回折光学系を利用する。図 1 に、導入 図 1 偏光メスバウアー分光装置の外観及び光学系 SR :放射光, DM : Si( 111)二結晶分光器, HRM :高分解能 分光器, Si (511) × Si (0975) , S1 :スリット 1 ㎜(V)× 1 ㎜(H) , TXPR :透過型移相子, C220 反射, D1 : PIN 検出器, NBM :核 モノクロメーター, 57FeBO3 111, Hex :外場 150 Oe, S2 :ス リット, 0.5 mm(V)× 1.0 mm(H), D2 : NaI( Tl)検出器, MXFM :多層膜ミラー(付属機器), A, B :試料位置. した測定装置の外観と光学系を示す。本光学系によってσ 表 1 試料位置 A,B で利用できる偏光状態 偏光した放射光は、Si 結晶の高次反射を用いた高分解能分 Polarization-controlled probe beam for 57Fe-PSRMS C 220 TXPR (Offset angle) Horizontal linear polarization(σ) Without 光器により 57Fe の核共鳴エネルギー(14.4 keV)近傍、 バンド幅 2.5 meV まで単色化される。その後、ダイアモ ンド移相子の C 220 回折を用いて、透過 X 線の偏光を直 線、円偏光または無偏光状態に変換する。この偏光を制御 した X 線を速度 V でドップラー振動する 57FeBO3111(核 Vertical linear polarization (π) ○ Without Circular polarization(Left/Right) Δθ= Non-polarization Δθ=0 モノクロメーター)に照射し、Néel 温度近傍の純核ブラ Position A B 8.0 ○ ○ ○ ○ ○ ッグ反射(電子散乱禁制・核散乱許容の超格子反射)を用 い、バンド幅約 10 neV までの超単色化を行うことで、放 知られている。一方、合金中に水素が侵入すると、体積膨 射光メスバウアーγ線を回折方向に出射させる。この時、 張と Fe‐H 間に生じる電子移動により、電子のバンド構造 試料を図 1 の位置 A または B に配置すれば、表 1 に示す様 や原子間磁気相互作用が変調を受けるため、物性に大きな に多彩な偏光状態のプローブ光を用いた放射光メスバウア 変化が予想される。本実験では、母材の c‐GdFe2 とその 3 ースペクトルを観測できる。 水素化物(多結晶 c‐GdFe2H3 及び、高温処理で水素誘起 一例として、本装置により AB2 型水素吸蔵合金の典型 アモルファス化を起こした a‐GdFe2H3)の偏光に依存し 物質であるラーベス相 GdFe2 とその水素化物の鉄の磁気 たメスバウアースペクトルを観測する事で、合金に侵入し モーメントの大きさとスピン配列を調べた結果を紹介す た水素が鉄の磁気モーメントの大きさや配向性に与える影 る。多結晶 GdFe2 はフェリ磁性体(Néel 温度 Tc = 785 K) 響を明らかにした。本測定では、試料を図 1 の A 位置に配置 であり、室温では Gd の大きな磁気モーメントを反映し、 し、外場(Hex = 5.2 kOe)により磁化を光軸に反平行に Fe の磁気モーメントは外場に対して反平行配置する事が 揃えた状態で右円偏光の X 線を入射した時のメスバウアー -104- 大型放射光施設の現状と高度化 図 2 右円偏光の放射光X線で測定した c‑GdFe2, c‑GdFe2H3, a‑ GdFe2H3 の 57Fe メスバウアースペクトル。試料には光軸 と反平行に外場(Hex = 5.2 kOe)を印加した。実線はフィッ ティング曲線。 図 3 Cs を吸着した Vermiculite の動径構造関数 スペクトルを測定した。得られたスペクトルを図 2 に示す。 イドなど重元素の化学結合及び錯体構造特性を明らかにす その結果、ラーベス構造を維持した多結晶の c‐GdFe2 と ることで、未だ十分に体系化されていない重元素錯体化学 では、57Fe 核の 6 本の許容遷移の内、Δm =1 の理論体系を解明するとともに、アクチノイドの新しい分 の 2 成分が強い核共鳴吸収を示しており、鉄の磁気モーメ 離法の開発、放射性廃棄物処理法及び除染法の開発に貢献 c‐GdFe2H3 ントが外場に対して反平行に配置している事が確認され することを目的する。また、福島第一原子力発電所の事故 た。これに対して水素誘起アモルファス化した a‐GdFe2H3 に伴う緊急の課題である福島環境回復支援のために、セシ では、内部磁場が c‐GdFe2 や c‐GdFe2H3 に比べて顕著な ウム(Cs)脱離機構解明と脱離法の開発研究を行っている。 増加を示すと共に、Δm = +1 のみの核共鳴吸収パターンを 2013 年度は、「粘土鉱物に吸着した Cs の吸着・脱離メ 示すことが分かった。上記結果は水素誘起アモルファス化 カニズムの解明」と「ガラス固化体調製時の仮焼層におけ した a‐GdFe2H3 では Fe の磁気モーメントが増加し、Gd る諸条件の影響」について報告する。 の磁気モーメントとの相対的な強度関係が逆転することを (1)粘土鉱物に吸着した Cs の吸着・脱離メカニズムの解明 直接証明しており(図 2)、水素誘起アモルファス化が起き 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、大量の放 た時に Fe リッチ層と Gd リッチ層に相分離(ナノクラスタ 射性 Cs が環境中に放出され、福島県をはじめとする近隣 ー化)が起き、Fe‐Fe 間の磁気相互作用が増加して Gd‐Fe 間 都県の環境汚染をもたらしている。特に農地等の土壌は 磁気相互作用が低下するという、X 線回折や中性子散乱の Cs を選択的に吸着する事が既に報告されているが、その 構造解析からの予測ともよく一致する[1]。本実験から分 メカニズムは正確には解明されていない。この理由は、土 かるように、放射光偏光メスバウアー分光法は、様々な磁 壌がさまざまな粘土鉱物で構成されている点にある。本研 性体の Fe の局所磁気構造を大きさと配向性の両面から精 究では、人工的かつ系統的に組成を変えた粘土鉱物を合成 密解析できる。2013 期には、放射光の高輝度を活かした し、または、放射性 Cs を含まない福島産粘土鉱物を採取 超高圧実験や機能薄膜の原子層単位でのスピン構造解析法 分類した上で、それらに非放射性 Cs を吸着させた試料を に関する偏光メスバウアー分光実験も行われた。その他、 作製し、系統的な Cs の吸着構造を調べることで吸着メカ 全反射メスバウアー分光法によるスピントロニクス系材料 ニズムの解明と剥離法の開発を行う。現在、福島県内の除 の局所磁気構造解析[2]、マントル物質中の鉄の価数とス 染では膨大な量の土壌の処理が大きな課題となっており、 ピン状態を調べる超高圧下測定や 61Ni 高エネルギー放射 仮置き場が確保できないことも除染作業が進まない要因と 光メスバウアー吸収分光法[3, 4]による Ni ナノ金属水素化 なっている。そのために、Cs の吸脱着機構を解明し、減 物の磁気物性研究も実施された。 容化の基礎となる情報を得ることの意義は非常に大きい。 これまでの BL11XU でのアンジュレータ QuickXAFS 実 (三井 隆也) 験から、Cs は粘土鉱物の中で最もバーミキュライトに吸 1‑3 XAFS によるアクチノイドなど重元素錯体の構造及 び電子状態解析 着されやすく、また脱離し難いことが分かってきた。バー ミキュライトは 2 : 1 型粘土鉱物である。モデル構造を構 実験ハッチ1下流側での研究は、溶液や様々なダイナミク 築し、XAFS 動径構造関数を詳細に検討した結果、Cs と スな環境におけるイオンの挙動及び存在状態を、SPring‐8 酸素(O)の強い結合があることが分かった。図 3 に示す の高輝度放射光を用いた XAFS 測定法を用いて、アクチノ とおり、Cs と O には少なくとも 2 種類の結合が存在するこ -105- 大型放射光施設の現状と高度化 とが分かった。一方は水和原子間距離の和とほぼ等しい距 握することは、ガラス製造プロセスの効率化、安全性の確 離(3.20 Å)にあるが、他方はそれより短い 2.98 Åであ 保に欠かせない。そこで、仮焼層形成等に及ぼす廃液中に ることから、より強い結合が存在していると言える。Cs 残存する DBP(リン酸二ブチル)の影響を調べた。実験 はアルカリ金属元素ではあるが、共有結合性の高い結合が のために、模擬不溶解残渣(Mo‐Ru‐Rh‐Pd 合金)及び 見られ、これが脱離し難い環境を形成している可能性が示 DBP 含有模擬廃液をガラス粉末と一緒に空気中、200 〜 唆された。 600 ℃で熱処理した模擬ガラス試料 8 種を測定試料として 土壌から Cs を剥離する方法の一つに、土壌に加熱酸処 調製した。不溶解残渣構成成分のうち、Mo 及び Ru につ 理を施し、粘土鉱物から Cs を強制的に剥離する方法が提 いて各々 K 吸収端での EXAFS 信号を室温で取得した。測 案されている。そこで、Cs を吸着したバーミキュライト 定の結果、Mo は低温から酸化物が主体であり、金属成分 について、硝酸、シュウ酸、硝酸と弗化水素酸による加熱 はほとんど無いことが確認された。不溶解残渣合金中の 酸処理を施し、加熱酸処理過程の Cs 近傍の構造変化を経 Mo は、比較的低温から合金が選択的に酸化されることが 時的に調べた。各酸処理によって Cs は剥離されるが、完 考えられる。一方、Ru も酸化物が主であるものの、200 全ではない。一方、シュウ酸による加熱処理過程における 〜 300 ℃の低温では若干の金属成分の存在の可能性が示 バーミキュライト中の Cs の構造解析では、Cs‐O 強度変化 唆された(図 4)。なお、DBP 有無の影響については、明 から、上記と同様に少なくとも 2 種類の酸素が存在するこ 確な相違は認められなかった。今後詳細な解析を行う予定 とが分かった。この Cs‐O に由来するピークは、シュウ酸 である。 (小林 徹、岡本 芳裕、塩飽 秀啓) 処理が進むに従って、その強度比が大きく変化している。 酸処理後も、2.98 Åの Cs‐O 結合は残っていた。それに対 し Cs‐Si に由来するピークは、徐々に小さくなり消滅して いる。バーミキュライトの構造はシュウ酸によって破壊さ れたようである。これらの結果から、Cs は粘土鉱物中の 酸素と強く結合していることが、Cs の脱離を困難にして いる原因と思われる。現在は、バーミキュライト等雲母系 粘土鉱物が持つ特有の Frayed Edge 構造を考慮して解析 を行っている。 土壌だけに限らず、Cs を含んだ焼却灰の処理も大きな 課題である。廃棄物減容化のために、Cs を含んだ焼却灰 を高温で溶融処理しようとすると、1100 〜 1400 ℃の間 で Cs が灰から飛んでしまうこと(再飛散)が問題になっ ている。我々は、溶融処理する際に Cs を吸着する粘土鉱 物を混合することで、Cs の再飛散を防ぐことができると 考えている。そこで焼却灰に、Cs を吸着することで知ら れているカオリナイト及びバーミキュライトを混合し、 1500 ℃までの熱処理を施し XAFS 測定試料とし、粘土鉱 物存在下での Cs 再飛散の挙動を調べた。その結果、カオリ ナイトとバーミキュライトが存在する環境では、1500 ℃ 図 4 模擬ガラス試料の動径構造関数 処理後でも Cs の K 吸収端ジャンプが観察された。つまり 粘土鉱物と混合することで、灰からの Cs 再飛散が抑制さ れることが判明した。特に、バーミキュライトでは再飛散 1‑4 共鳴非弾性X線散乱法による遷移金属化合物の電子 励起の研究 抑制効果が大きかった。今後は、混合比による再飛散防止 実験ハッチ 2 では、硬X線領域にある 3d 遷移金属の K の効果の影響や溶融処理した後の試料の状態などについ て、引き続き分析する予定である。 吸収端、5d 遷移金属の L 吸収端を用いた共鳴非弾性X線 散乱(RIXS)による研究を行っている。測定対象は強相 (2)ガラス固化体調製時の仮焼層における諸条件の影響 使用済み核燃料の再処理後に残る高レベル廃液の処理に 関電子系など遷移金属化合物が中心で、RIXS によって電 おいて、d 電子系元素は高レベル廃液ホウケイ酸ガラスと 子励起スペクトルを観測することで、電子状態やその背後 高温で混ぜ合わせた「ガラス固化体」として処分される。 にある相互作用の効果を明らかにすることを目的としてい その製造過程である模擬仮焼層及び溶融ガラス試料中に含 る。また、同じ非弾性散乱分光器を用いてX線発光分光や まれる白金族や希土類元素等の化学状態及びその変化を把 部分蛍光収量法による高分解能X線吸収分光の測定も行う -106- 大型放射光施設の現状と高度化 ことができる。最近は硬X線の高い透過能を活かして、遷 この分光アナライザーを用いた、電子ドープ型銅酸化物 移金属触媒の電子状態を液体中やガス雰囲気中でその場観 高温超伝導体 Nd2‐xCexCuO4 の測定結果を図 5(b)に示す。 察することも研究の対象となってきている。 比較のために、エネルギー分解能 400 meV で測定したス (1)分光アナライザー開発 ペクトルも合わせて示す。分解能が向上したことにより、 RIXS の研究開始以来、エネルギー分解能(ΔE)を向上 弾性散乱の裾にかかっていた 1 eV 付近のピークが明瞭に させることが重要な技術開発要素となっている。高品質な 観測できるようになった。今後、この分光アナライザーを用 分光アナライザーの製作は、そのための鍵となる部分の一 いることで、高温超伝導体銅酸化物などにおけるサブ eV つである。分光アナライザーは、結晶のブラッグ反射の角 領域の電子励起が観測可能となり、物性とより密接に関係 度分散を利用したものであり、散乱X線のエネルギーを分 した電子ダイナミクスの議論が可能になると期待される。 解することに加えて、結晶を湾曲させることである程度の (2)共鳴非弾性X線散乱による遷移金属化合物の電子状 立体角内のX線を検出器位置に集光させる。 態の研究 2010 年度から分光アナライザーの製作技術で先行して 5d 遷移金属の L 吸収端を利用した研究として、パイロ いる米国の Advanced Photon Source(APS)から技術 クロア型イリジウム酸化物 A2Ir2O7(A = Eu, Pr)の測定 供与を受けており、2013 年度、その方法を用いて銅 K 吸 を行った。5d 遷移金属であるイリジウムの酸化物では、 収端用の Ge(733)反射を用いた分光アナライザーを独自 強いスピン軌道相互作用が重要となり、立方対称に近い結 に製作した。図 5(a)に示す通り、Si(444)チャンネルカッ 晶場中では、5d 電子の磁気モーメントは有効全角運動量 トモノクロメーターと組み合わせることで、約 100 meV Jeff によってよく記述されると考えられている。加えて、 のエネルギー分解能を得ることができた。この分解能は同 スピン軌道相互作用は電子間のクーロン相互作用や運動エ じ条件で測定した APS 製の分光アナライザーとほぼ同じ ネルギーと同程度エネルギースケールにあり、これらが拮 であり、同程度の品質の分光アナライザーが独自に製作可 抗した新しい強相関電子研究の舞台として注目されている。 能となった。 このような 5d 電子状態を調べる上で、光学的に(双極子 遷移が)禁制である d 電子軌道間の励起(dd 励起)を直 接的に観測できる RIXS は極めて有効な実験手法である。 図 6 にパイロクロア型 A2Ir2O7、及び以前に測定した ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 ( Ruddlesden‐Popper シ リ ー ズ ) 図 5 (a)Si(444)チャンネルカットモノクロメーターと今回 製作した Ge(733)分光アナライザーを用いて測定した カプトン箔の弾性散乱。ピークの半値全幅(FWHM)が エネルギー分解能に対応し、およそ 100 meV である。 (b)電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体 Nd2‑xCexCuO4 の共鳴非弾性X線散乱スペクトル。ここでは、Ce 置換 量(x)の違いは無視できる。 図 6 ペロブスカイト型(Srn+1IrnO3n+1)とパイロクロア型 (A2Ir2O7)イリジウム酸化物の Ir の L3 吸収端共鳴非弾性 X線散乱スペクトル。 -107- 大型放射光施設の現状と高度化 Srn+1IrnO3n+1(n = 1, 2, ∞ )の Ir の L3 吸収端 RIXS スペ も明らかとなり、より高速な測定技術の開発が望まれてい クトルを示す。0.3 〜 1.5 eV の範囲にある励起が dd 励起 た。今回は、測定方法に新しい工夫を導入することにより、 である。Srn+1IrnO3n+1 では、0.6 eV 付近に単一のピーク 3 次元的逆格子マッピングに必要な測定時間を 10 秒にま が観測され、これは Jeff = 3/2 から Jeff = 1/2 状態への遷移、 で短縮することに成功した。高速化された 3 次元逆格子マ つまり、スピン軌道相互作用のエネルギーに対応した励起で ッピング法を GaAs 基板上の InGaAs 薄膜成長の測定に応 ある。2 次元性の高いモット絶縁体である Sr2IrO4(n = 1) 、 用した結果、わずか 2 原子層の InGaAs 膜が成長する間に Sr3Ir2O7(n = 2)から 3 次元的金属である SrIrO3(n = ∞ ) おこる格子緩和の瞬間をとらえることができた。2013 年 に進むにつれてバンド幅の増大によりピークの幅が広がっ 度には、本手法が InAs/GaAs(001)自己形成量子ドットの ているが、絶縁体から金属まで Jeff をよい量子数とした波 成長過程に応用され、量子ドット成長にともなう 3 次元形 動関数に基づく電子状態の記述が適していることがわか 状及び内部ひずみの変化のようすが明らかにされた[11]。 る。一方、A2Ir2O7 では、およそ 0.5 eV と 1 eV の 2 つの 今後、本手法は、さまざまなナノ構造の成長過程の解析に ピークに dd 励起が分裂しており、 t2g 軌道が Jeff = 1/2、 利用されていく見込みである。 3/2 の状態から大きくずれていることになる。この分裂は 本装置は、III‐V 族半導体の結晶成長過程をその場 X 線 パイロクロア格子に由来する立方対称結晶場からのずれ 回折測定できる世界的に見ても独自性の高い装置であり、 (三方晶歪み)によるものと考えられ、点電荷モデルで見 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の一端 積もったそのエネルギーはスピン軌道相互作用と同程度で を担う。2013A、B 期を通じて実施された課題はのべ 5 課 あった。絶縁体の Eu2Ir2O7 と金属の Pr2Ir2O7 では前者の 題である。「放射光 X 線を用いた太陽電池用 III‐V 族化合物 方が 1 eV のピークが鋭い結果となっているが、三方晶歪 半導体のリアルタイム構造解析」では、光電変換効率の高 みの影響を受けた電子状態の大枠は両者でほぼ同じである い多接合太陽電池の作製を目的とした結晶性の高い歪緩和 ことがわかった。 バッファ層の成長を目的として、傾斜基板上の その他、鉄 Kβ線発光分光による鉄砒素系高温超伝導体 InGaAs/GaAs(001)膜成長過程が研究された。本研究に LaFeAsO1‐xHx[5]や Fe‐phenanthroline 系燃料電池カソー おいては、これまで開発を進めてきた 3 次元X線逆格子マ ド触媒の電子状態に関する研究、Pt の L3 吸収端 RIXS を ッピングの測定技術が活かされている。また、「InAs 量子 用いた固体高分子型燃料電池触媒の価電子帯電子状態の研 ドットの InGaAs キャップ層による格子歪の XRD その場 究などが行われた。 観察」及び「キャップ層成長中における InAs 量子ドット内 (石井 賢司) の歪変化の XRD によるその場観察」では、光通信に適した 波長の半導体レーザーの開発を目的として、GaAs(001) 1‑5 表面 X 線回折計を用いた MBE 結晶成長中のその場観察 上の自己形成 InAs 量子ドットを InGaAs でキャップする 実験ハッチ 3 には、GaAs や InAs などの化合物半導体の 際の歪みと発光特性との相関が調べられた。国外からの利 結晶成長過程の動的測定を目的とした分子線エピタキシャ 用としては、「In‐situ X‐ray characterization of the ル装置と X 線回折計とを組み合わせた装置が設置されてい crystal growth dynamics of Au‐catalyzed InAs る[6, 7]。2011 年度には、その場測定用 X 線回折計用のゾ nanowires」において、近年、とくにヨーロッパで盛んに ーンプレートが導入され、超高真空中の試料位置において 研究されている半導体量子細線成長のその場X線回折測定 1.1 μm(垂直方向)× 1.4 μm(水平方向)の X 線ビーム が実施された。 を得られるようになった[8]。集光 X 線を用いることによ (高橋 正光) って、半導体結晶中の転位や単一のナノ構造など、局所的 な構造の解析が可能になっている。結晶成長を行う分子線 エピタキシー装置は、おおむね順調に稼動している。 参考文献 [1]K. Itoh, et al.: J. Alloys Compd. 376 (2004) 9. 測定技術の面では、X 線用 CCD 検出器などの 2 次元検 [2]K. Mibu, et al.: Hyperfine Interact. 217 (2013) 127. 出器を活用することにより、3 次元のX線逆格子マッピン [3]M. Seto, et al.: Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 217602. グを高速に測定する手法を開発した[9]。X 線逆格子マッ [4]R. Masuda, et al.: Appl. Phys. Lett. 104 (2014) 082411. ピングは、結晶の欠陥やひずみを評価する方法として広く [5]M. Hiraishi, et al.: Supplementary Information of Nature 用いられているものの、典型的には数時間以上の長い測定 時間を必要とするのが通常であった。従来、BL11XU で Phys. 10 (2014) 300. [6]M. Takahasi, Y. Yoneda, H. Inoue, N. Yamamoto and J. は、1 分程度の測定時間での逆格子マッピングを実現し、 Mizuki: Jpn. J. Appl. Phys. 41 (2002) 6247. GaAs 基板上の InGaAs 薄膜成長のその場測定に成果を挙 [7]M. Takahasi: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 021011. げてきた[10]。しかしながら、結晶成長にともなう欠陥の [8]W. Hu, M. Takahasi, M. Kozu and Y. Nakata: J. Physics: 生成は、1 分以下の非常に早い過程を伴う場合があること -108- Conf. Ser. 425 (2013) 202010. 大型放射光施設の現状と高度化 [ 9 ]W. Hu, H. Suzuki, T. Sasaki, M. Kozu and M. Takahasi: 結果、常温常圧近傍でも熱力学的に安定である可能性が示 唆された。この物質の合成反応を完全に進行させるために J. Appl. Crystallogr. 45 (2012) 1046. [10]T. Sasaki, A. G. Norman, M. J. Romero, M. M. Al-Jassim, は、現時点では 900 ℃以上の高温が必要である。水素化 M. Takahasi, N. Kojima, Y. Ohshita and M. Yamaguchi: 物を 900 ℃まで安定化させるために高圧が必要となって Physica Status Solidi C 10 (2013) 1640. いるが、より低温で合成できる反応パスが見つかれば、常 [11]M. Takahasi: J. Cryst. Growth 401 (2014) 372. 圧近傍でもこの水素化物が合成できる可能性があることが 示された。 (独)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 (齋藤 寛之、遠藤 成輝) 量子ビーム応用研究センター 量子ビーム物性制御・解析技術研究ユニット 2‑3 応力測定 量子構造研究グループ 軽量化構造材料として期待されているマグネシウム合金 三井 隆也、石井 賢司 コヒーレントX線利用研究グループ やアルミニウム合金の再結晶機構解明のための測定手法確 立を目指し、白色 X 線と 2 次元検出器によるその場ラウエ 高橋 正光 量子ビーム反応制御・解析技術研究ユニット 法観察の検討を行った。細粒で構成されるマグネシウム合 金では、低角度側のハローの中に細粒からの細かいラウエ アクチノイド錯体化学研究グループ 斑点が存在するが、高温中で保持すると再結晶の生成に伴 岡本 芳裕、小林 徹、塩飽 秀啓 い細かいラウエ斑点が減少し、代わりに大きなラウエ斑点 が出現する様子の観察に成功した。これにより再結晶が発 2.BL14B1(JAEA 物質科学ビームライン) 生する条件の導出が可能となり、製造工程の効率化が図ら 2‑1 概要 れる。加えて、生成される再結晶粒の結晶性、集合組織等 BL14B1 は白色、単色両方の放射光 X 線を利用することが の材料評価が可能となることで、製品の品質評価への応用 できる SPring‐8 では唯一のビームラインである。白色 X 線 が期待できる。また検出器の性能向上により局所歪み、転 を用いた高温高圧下での物質構造研究、時分割 XAFS 法に 位密度等の導出を行うことで、再結晶機構解明につながる よる反応ダイナミクスの研究や鉄鋼材料の歪み測定、単色 データ収集の可能性を見出した。 X 線を用いた表面 X 線回折法による固液界面研究や 2 体相関 (菖蒲 敬久) 分布関数(Pair Distribution Function, PDF)測定と XAFS 法による局所構造研究などを中心に研究を行っている。 2‑4 表面 X 線回折 不純物を含むイオン液体中での電極表面のその場観察実 原子力機構が主体となっている独自研究(受託研究等を 含む)は全ビームタイムの約 75%で、残りの 25 %は文科 験を引き続き行い、次のような実験結果を得た。臭化物イ 省委託事業ナノテクノロジーネットワークなどにより外部 オン(Br -)及びヨウ化物イオン(I -)を含む 1‐ブチル‐1‐メ ユーザーに供している。 チルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニ (米田 安宏) ル)アミド([BMP]TFSA)を電解液とし、Au(111)単結晶 を電極として、電気化学測定と表面X線散乱実験を同時 2‑2 高圧実験 合成 に行い、電極表面構造のイオン種及びイオン濃度依存性を キュービックマルチアンビルプレス高圧ステーションを in situ で追跡した。その結果、Br - 濃度を 2, 20, 200 mM 用いた高温高圧合成実験では、エネルギー分散法によるそ と高くするに伴い、 [BMP]TFSA の還元電流が大きくなり、 の場 X 線回折測定により、合成条件の探索と最適化及び合 表面(1 × 1)構造の再構成構造への変化速度が大きくなると 成反応の機構解明が行われている。主な研究対象は新規金 共に、再構成する面積も増加した。また 200 mM のとき、 属水素化物である。 反射率強度も大きく変化した。これらの結果から、イオン これまで報告例の無かったアルミニウムを主原料とする [1, 侵入型水素化物 Al2CuH( x x 〜 1)の合成に成功した 2]。 高温高圧下での水素化反応条件をその場観察で探索するこ 液体/電極界面ではイオン液体分子とハロゲン化物イオンが 共吸着しており、ハロゲン化物イオンはイオン液体分子の 還元反応を触媒的に促進し、かつ表面原子の移動度を大き とで、新規水素化物の実現に成功した。本成果については くすることがわかった。また、表面X線回折実験を行い、 東北大学と共同プレス発表を行った。また 2012 年度に続 Au(111)表面の再構成構造である(p ×√ 3)構造を追跡し いて CsCl 構造を有する Ti 合金の水素化反応の探索を行 たが、 (p ×√ 3)構造からの回折光を得ることはできなかっ い、成果の一部を解説記事[3]として出版した。さらに、 たことから、ハロゲン化物イオンが共吸着していても、イ 鉄を主原料とする新しい錯体水素化物 Li4FeH6 の高温高圧 オン液体分子が表面構造を規定していると考えられた。 合成に成功した[4]。この水素化物は放射光その場観察の -109- (田村 和久) 大型放射光施設の現状と高度化 2‑5 共鳴 X 線発光 も行っている[10, 11]。2013 年度に行われた実験の中から、 代表的強誘電体 BaTiO3 の強誘電性発現機構に関する情 Cs 含有粘土鉱物の実験について報告する。 報を得るため、特定元素の電子状態の情報が得られる共鳴 福島第一原子力発電所の事故に伴い、多量の放射性 Cs X 線発光(RXES)測定を行った。この物質は古くから知 が外部に放出され、重篤な環境被害を引き起こしている。 られているが、その相転移機構は未だ議論の遡上にある。 土壌に降下した Cs は、主に層状珪酸塩からなる粘土鉱物 すなわちキュリー温度 130ºC において、各構成イオンの 中に取り込まれていると考え、その局所構造を探るべく 位置が変位して電気双極子を生み出す変位型であるか、既 Cs 含有粘土鉱物の XAFS 測定を行った。実環境中におけ に存在する電気双極子が整列する秩序‐無秩序型であるか る変化を模擬すべく、乾燥環境下と湿潤環境下での Cs の は確定していない。Ba L3 吸収端において、RXES を利用 局所構造を観測するために、透過能力の高い Cs K 吸収端 した部分蛍光法による高分解能 X 線吸収スペクトル測定を を選択した。結果、層間電荷の比較的高いバーミキュライ 行った。試料を高温にできるホルダーを作製し、キュリー トに対しては乾燥環境下と湿潤環境下とであまり違いが観 温度上下でスペクトルを測定したが、その形状に変化は見 測されなかったのに対し、層間電荷の比較的低いモンモリ られなかった。過去の論文では、通常の透過法で測定した ロナイトにおいては大きな相違が観測された。モンモリロ Ba L3 吸収スペクトルに温度変化が見られることから、相 ナイトは湿潤環境下において多量の水を層間に取り込むこ 転移は変位型であるとの主張がなされたが、本結果はそれ とが知られている。解析の結果、モンモリロナイト中の とは異なる。さらに Ti K 吸収端での RXES 測定を行った Cs は、湿潤環境下においては水分を含んで膨潤した層の ところ、Ti 3d 軌道の遍歴性が観測された。これは理論的に 表面に付着しており、乾燥環境下ではバーミキュライト同 指摘されている通り、強誘電性を発現する TiO6 八面体の 様に層に閉じこめられる形で存在していることが明らかに 歪みを有利にする性質である。以上の結果から、BaTiO3 な っ た 。 今 後 も 引 き 続 き 多 く の 粘 土 鉱 物 中 で の Cs の の相転移の機構は、秩序‐無秩序型あるいは変位型であれ XAFS を測定し、除染作業の一助となるべく研究を進めて ば、TiO6 八面体のみが原子変位するスレーター型である いく。 ことが示唆された[5]。 (松村 大樹、鈴木 伸一、小林 徹、塩飽 秀啓、矢板 毅) (吉井 賢資) 参考文献 [ 1 ]H. Saitoh, S. Takagi, N. Endo, A. Machida, K. Aoki, S. 2‑6 PDF SPring‐8 の偏向電磁石ビームラインでは PDF 解析に適 した 60 keV の X 線を用いた実験が可能である。X 線は原 Orimo and Y. Katayama: APL mater. 1 (2013) 032113. [ 2 ]齋藤寛之、高木成幸、青木勝敏、折茂慎一:放射光 子番号の大きな元素に敏感であるため、重い元素を含む材 料の多い強誘電体での利用に大きなメリットがある。これ 学会誌 27 (2014) 10. [ 3 ]遠藤成輝、齋藤寛之、町田晃彦、片山芳則:まてり ら強誘電体材料の PDF 解析実験[6, 7]からチタン酸バリウ あ, 53 (2014) 94. ムナノ粒子に関する研究を紹介する。チタン酸バリウムは [ 4 ]H. Saitoh, S. Takagi, M. Matsuo, Y. Iijima, N. Endo, K. 室温で強誘電性を示す正方晶構造を持つ強誘電体である。 Aoki and S. Orimo: APL Mater. 2 (2014) 076103. チタン酸バリウムの粒子サイズを小さくしていくと、正方 [ 5 ]K. Yoshii. Y. Yoneda, I. Jarrige, T. Fukuda, Y. Nishihata, 晶構造から常誘電体である立方晶構造へと変化することが C. Suzuki, Y. Ito, T. Terashima, S. Yoshikado and S. 知られている。平均的には立方晶構造を持つチタン酸バリ ウムナノ粒子の PDF 解析を行ったところ、局所構造はよ Fukushima: J. Phys. Chem. Solids 75 (2014) 339. [ 6 ]Y. Yoneda, D. Fu and S. Kohara: J. Phys. Conf. Ser. 502 くオーダーした強誘電的なペロブスカイト構造を有してい ることがわかった[8]。粒径サイズが小さいために長距離 (2014) 012022. [ 7 ]Y. Yoneda, H. Takeda and T. Tsurumi: JPS Conf. Proc. 1 レンジの相関は持たないが、短配位構造はバルクとほぼ同 様の正方晶構造である。また、形状の異なるいくつかの粒 (2014) 012103. [ 8 ]Y. Yoneda, S. Kohara and K. Kato: Jpn. J. Appl. Phys. 52 子で同様の構造解析を行ったところ、ドメインを形成する 能力はモフォロジーに強く依存しており、強誘電性の発現 (2013) 09KF01. [ 9 ]D. Matsumura, Y. Okajima, Y. Nishihata and J. Mizuki: J. に重要な役割を果たしていることがわかった。 Phys. Conf. Ser. 430 (2013) 012024. (米田 安宏) [10]Y. Okawa, T. Masuda, H. Uehara, D. Matsumura, K. Tamura, Y. Nishihata and K. Uosaki: RSC Adv. 3 (2013) 15094. 2‑7 XAFS 及びエネルギー分散型 XAFS [11]T. Sakamoto, K. Asazawa, U. Martinez, B. Halevi, T. BL14B1 ではエネルギー分散型光学系による連続 XAFS 測定[9]とともに、単色 X 線を利用した通常型 XAFS 測定 -110- Suzuki, S. Arai, D. Matsumura, Y. Nishihata, P. Atanassov and H. Tanaka: J. Power Sources 234 (2013) 252. 大型放射光施設の現状と高度化 (独)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 て、常温におけるヘリウム圧力媒体を用いた精確な圧縮曲 量子ビーム応用研究センター 線の決定、および常圧における格子定数の温度依存性の決 定を行い、この準結晶と近似結晶について精密な比較ので 量子ビーム反応制御・解析技術研究ユニット きるデータの取得を行った。本装置を利用した高圧下での 量子ダイナミクス研究グループ 吉井 賢資、米田 安宏 X 線吸収実験では、従来の Yb 系から吸収端エネルギーの 田村 和久、松村 大樹 より低い Eu 系も測定できるように整備した。Au‐Sn‐Eu アクチノイド錯体化学研究グループ 近似結晶について Eu‐L3 端 XANES 測定により Eu の価数 矢板 毅、鈴木 伸一 評価を行い、常圧の 2 価から 11 万気圧で 2.1 価に価数上 塩飽 秀啓、小林 徹 昇するという結果を得た。 量子ビーム物性制御・解析技術研究ユニット DAC 用回折計の大型イメージングプレート(IP)と高エ 高密度物質研究グループ ネルギー X 線を利用して、主に水素吸蔵合金を対象とした 片山 芳則、齋藤 寛之、遠藤 成輝 PDF(Pair Distribution Function)解析のための回折測 定を 2012 年度に引き続き行った。PDF 解析は局所的な構 量子ビーム材料評価・構造制御技術研究ユニット 造の乱れを調べるために有効な手法であり、水素吸蔵合金 弾塑性材料評価研究グループ 菖蒲 敬久 の水素吸蔵・放出に伴う局所構造変化の観測に適用した研 究を実施している。La(Ni, Cu) 5+x 合金は通常の LaNi5 系 3.BL22XU(JAEA 量子構造物性ビームライン) とは異なる特異な水素吸蔵特性を示す。今回、異なる組成 3‑1 概要 の La(Ni, Cu) 5+x 合金に対して水素雰囲気下における回折 BL22XU では高圧下での物質構造研究、共鳴 X 線回 測定を実施し、その水素吸蔵放出特性と構造との関係を調 折・吸収実験、コヒーレント X 線回折実験、応力測定など、 べた。回折プロファイルの Rietveld 解析では水素圧力の 多岐にわたる分野の研究を行っている。実験ハッチ 3 は 増加に伴って等方性原子変位パラメーターが増加すること RI 実験棟に設置されており、ウランなどの国際規制物資 が明らかになった。PDF プロファイルは平均構造モデル の研究も展開している。光源は周期長の長い SPring‐8 標 で約 10 Å 以上の長距離側は良く再現ができるが、約 3 Å 準タイプの真空封止型アンジュレータであり、Si(111)面 に強度が再現できないピークが観測された。これは局所的 を分光結晶とする、低エネルギー用(3 〜 37 keV)、高エ に原子位置がずれていることに起因すると考えられる。 ネルギー用(35 〜 70 keV)の直列に配置した 2 台の 2 結 同じく大型 IP と高エネルギー X 線の利用による応力測 晶分光器と組み合わせて、3 〜 70 keV までのエネルギー 定も実施した。2013 年度より新しい試みとして、放射光 範囲で最大強度の光が利用できるようになっている。集光 X 線回折法によるコンクリート内部の応力歪みマッピング 技術として、高エネルギー実験の際には光学ハッチに設置 の実現を最終目的とし、その第一段階としてセメント硬化 されているベリリウム屈折レンズを、低エネルギー実験の 体の変形挙動評価を試みた。測定した回折パターンのうち 際には実験ハッチ 2 に設置されている 4 枚 3 組の全反射ミ 47 本の回折線についてマルチピークフィッティングを行 ラーをそれぞれ利用することができる。オプションとして い、それらのピーク位置変化から求めた歪みを平均化する 100 nm レベルにまで集光できる KB ミラーも利用可能で ことにより、セメント硬化体内部の結晶相に働く平均弾性 あり、ナノ領域の回折・分光が行える。 歪みの評価を試みたところ、セメント内部の結晶相は弾性 3‑2 実験ハッチ1 に比べると 1 割程度であることから、セメント硬化体の変 的に変化しているが、歪みゲージで測定された歪みの変化 キュービック型マルチアンビル高温高圧発生装置 形はクリープにより生じた塑性変形が支配的であると予想 SMAP180 を 利 用 し た 実 験 と し て 、 現 在 、 室 温 で 圧 力 できた。本材料は水素を含んでいることから中性子実験で 10 GPa、圧力 6 GPa で温度 2000 ℃までの領域で、角度 は測定が困難であるため、中性子との相補利用(中性子で 分散型 X 線回折実験と X 線吸収法による密度測定が可能 は鉄筋コンクリート中の鉄筋の応力評価を実施)として今 である。2013 年度は「高温高圧下における Fe‐C‐S 融体密 後建築技術の確立等で非常に期待される。 度の組成依存性の究明」「X 線吸収法と超音波法を併用し 実験ハッチ1では 2012 年度に引き続き、水素吸蔵合金 た高圧下における物性同時測定法の開発」(大阪大学 寺 の水素吸蔵放出過程の X 線回折その場観察実験を実施し 崎准教授)の 2 件が施設供用課題として行われ、音速の同 た。水素吸蔵合金の実用化の課題の一つに吸蔵放出におけ 時測定が可能となった。また、2012 年度までに行われた るヒステリシス低減あり、この要因を把握するためには水 密度測定に関する論文が出版された[1, 2]。 素加圧下での結晶状態解析が重要となる。そこで水素吸蔵 ダイアモンドアンビルセル(DAC)用回折計では、価 放出過程における X 線回折その場観察実験を添加元素によ 数揺動状態の Au‐Al‐Yb 合金準結晶および近似結晶につい って平衡圧やヒステリシスを調整しやすい TiMn 系合金を -111- 大型放射光施設の現状と高度化 用いて実施した。その結果、静的な構造変化として水素圧 散乱やナノ集光ビームを利用した X 線回折実験を実施し 力の変化に伴い C14 型ラーベス構造の水素固溶相と水素 ている。これらの手法は物質内部の単位格子より大きな 化物相の比率が変化していくことが確認でき、水素固溶相 高次構造(強誘電分域など)の空間分布やゆらぎを捉え と水素化物相ともに吸蔵過程の格子体積が放出過程より僅 ることができると期待されている。これまでに、通常の かに大きくヒステリシスがあることが構造からも明らかに X線回折実験では難しかった原子レベル(数百 pm)か なった。回折ピークの半値幅を解析してヒステリシス要因 ら分域構造レベル(数 μ m)にいたる構造情報をほぼ連 の解明を進めている。 続的に取得するマルチスケール観測法を確立した[5]。 (片山 芳則、綿貫 徹、町田 晃彦、菖蒲 敬久) 2013 年 度 は 、 こ の 観 測 法 を リ ラ ク サ ー 強 誘 電 体 91%Pb(Zn1/3Nb2/3)O3‐9%PbTiO3(PZN‐9%PT)の強誘 電相のドメイン緩和現象の観測(T = 385 K)に応用した。 3‑3 実験ハッチ 3 実験ハッチ 3 では 4 f 、5 f 電子系の共鳴 X 線回折実験、 その結果、PZN‐9%PT では分から時間オーダーの長時間 コヒーレント X 線回折実験、高エネルギーモノクロメータ ドメイン緩和が存在し、これらのドメイン緩和が、誘電率 を利用した高エネルギー X 線による応力測定などが行われ に見られる顕著な冷却速度依存性を説明しうるものである ている。 と期待している。 共鳴 X 線回折実験としては、超伝導クライオマグネット 高エネルギー放射光 X 線を用いた応力測定では、その場 と 3He 循環型冷凍器、入射 X 線の水平直線偏光を任意の 時分割測定手法の開発を行った。2012 年度に立ち上げた 直線偏光に変換する移相子が整備されており、最低温度 複数台の PILATUS 2 次元検出器を利用した応力計測シス 0.6 K、最高磁場 8 T で全偏光解析した回折実験ができる テムにスパイラルスリットを挿入し、さらにイメージング ようになっている。2013 年度には、スクッテルダイトの を計測するための CCD カメラを組み合わせることで、レ 一つである SmRu4P12 について磁場中共鳴 X 線回折実験を ーザー溶接中の母材(Al 合金)が溶融している様子とそ 行った。SmRu4P12 は 16.5 K で磁気秩序相に入ることが の時の局所応力の時間変化を 1 sec 以下で測定することに 知られており、一方、磁場を印加すると、この転移点は 2 成功した[6]。特に、本測定より局所的に発生する残留応 つに分かれ、新たに中間相が現れる。最近の理論研究から 力が降温中で出現することを明らかにした。本手法を応用 この中間相は十六極子秩序(電荷秩序)であると指摘され することでレーザー溶接における残留応力や内部欠陥の制 ており、その実験的検証を行った。入射エネルギーを Sm 御条件の導出、理論計算へのフィードバックに大きく貢献 の L 3 吸収端近傍として、300 反射を観測した。E1、E2 と するものと期待される。また、次世代原子炉で使用する内 もに共鳴散乱信号を確認し、また、中間相に対応する領域 部ダクト付燃料集合体の溶接技術として期待されるレーザ では大きな非共鳴の散乱強度を観測した。この非共鳴散乱 ー溶接に関して、加工後の残留応力除去のための熱処理条 と E2 過程の干渉を利用し、磁場反転スペクトルの非対称 件の決定方法として、高温その場時分割回折測定の可能性 性から磁場方向の反強磁気モーメントを抽出した。その結 を検討した結果、回折プロファイルの幅の変化に着目する 果、中間相では大きな非共鳴散乱が現れ、理論予測通り、 ことで実現できることを明らかにした[7]。本評価法は、 電荷秩序に伴う格子歪みが発生すること、中間相では磁場 レーザー溶接のみならず、加工処理全般に利用できる方法 方向の反強磁性成分が電荷秩序により増強されること、の であることから、破壊法で大量の試験片を用いる従来の評 2 点を確認できた[3]。 価法に比べて、非常に簡便に評価できる点で有効である。 一方、強磁場・極低温実験として、f 電子化合物の格子 2013 年度は応力評価に関する施設供用課題を 6 機関 8 面間隔の精密測定を行っている。通常の X 線回折では格子 件実施した。金属系として高い Tc を持つ MgB2 超伝導線 面間隔の分解能は半値全幅(FWHM)で 10 4 程度と言 材について、加熱処理中の IMD(Internal Mg Diffusion) われているが、高分解能モノクロメータと背面反射を組み 法 MgB2 線材の生成状況をその場観察した結果、Mg の融 合わせた高分解能 X 線回折法では、これを 10 7 程度にま 点(640 ℃)を超えると Mg の回折ピークは消失し、Mg で向上させることができる。Ce0.7La0.3B6 は約 1.5 K 以下 は液相、または蒸気になること、650 ℃付近で MgB2 の回 で反強八極子秩序を示し、これに伴い強四極子が誘起され、 折線がわずかに現れ、670 ℃に保持することで成長するこ 立方晶から菱面体晶へ転移することが理論的に予測されて とを明らかにした[8]。粗大粒を有する鉄鋼材料内部応力 いた。今回、高分解能 X 線回折法を適用することにより、 評価法の確立を目指し、69 keV の高エネルギー放射光を 歪みの大きさとして約 4 × 10 5 で[111]方向に伸びてい 利 用 し た 9 mm 厚 の オ ー ス テ ナ イ ト 系 ス テ ン レ ス 鋼 ることを初めて明らかにできた[4]。これ以外にも、URu2Si2 の隠れた秩序相にこの手法を適用し、3 × 10 5 以上の正 SUS316L 内部に発生する残留応力分布計測では、溶接部 方晶歪みは存在しないことを示すことができた。 ともほぼ一致した結果の導出に成功した[9]。 また、コヒーレント X 線利用の一環としてスペックル 周辺の引張-圧縮応力の観察に成功し、シミュレーション (稲見 俊哉、石井 賢司、大和田 謙二、菖蒲 敬久) -112- 大型放射光施設の現状と高度化 ている。超音速分子線を用いた表面反応ダイナミクス研究 参考文献等 [ 1 ]Y. Shimoyama, H. Terasaki, E. Ohtani, S. Urakawa, Y. Takubo, K. Nishida, A. Suzuki and Y. Katayama: Phys. とリアルタイム SR‐XPS/TDS 同時測定に特長がある。 2013 年度には以下の研究が行われた。 Ni(001)酸化反応ダイナミクスの研究では、初期吸着 Earth Planetary Interiors 224 (2013) 77. [ 2 ]T. Sakamaki, A. Suzuki, E. Ohtani, H. Terasaki, S. 速度の O2 並進運動エネルギー(E t)依存性から、0.06 eV Urakawa, Y. Katayama, K. Funakoshi, Y. Wang, J. W. 以下では物理吸着状態を経由した解離吸着機構、それ以上 Hernlund and M. D. Ballmer: Nature Geosicence 6 (2013) では活性化吸着機構で酸化が進行することがわかった。ポ 1041. テンシャル障壁は 1.6 eV と実測された。また、酸素被覆 [ 3 ]T. Matsumura, S. Michimura, T. Inami, Y. Hayashi, K. 率 0.5 ML で初期吸着速度が減少するのは、0.5 ML で酸 Fushiya, T. D. Matsuda, R. Higashinaka, Y. Aoki and H. 素吸着サイトが転移してポテンシャル障壁が増大するため Sugawara: Phys. Rev. B 89 (2014) 161116(R). という新しい解釈を提起した。 [ 4 ]T. Inami, S. Michimura, Y. Hayashi, T. Matsumura, M. Si‐MOSFET の ゲ ー ト 酸 化 膜 形 成 に と っ て 重 要 な Sera and F. Iga: Phys. Rev. B 90 (2014) 041108(R). Si( 001)‐2 × 1 表面の O2 分子による室温酸化において、 [ 5 ]大和田謙二:高圧力の科学と技術 23 (2013) 245. Si(111)‐7 × 7 表面と同様に、分子状吸着状態を新たに見 [ 6 ]菖蒲敬久, 張朔源, 城鮎美:日本材料学会第 63 期通 出した(図 1)。Si(001)面における分子状酸素の吸着状態 はこれまで報告例がない新しい知見である[1]。 常総会, 福岡, 2014.5. [ 7 ]河野史明, 十亀 求, 山田 知典, 菖蒲 敬久, 永沼 正行, これまでに Ge(111)‐c(2 × 8)表面の酸化で、超音速 O2 分子線の Et を 1.0 eV 以上にすることで、Ge3+ が形成 小澤 隆之, 村松 壽晴: JAEA-Tech. 2014. [ 8 ]葉術軍: Thesis, Kyusyu Univ., 2014.1. されることを見出している。今回、O2 曝露と O2 分子線 [ 9 ]K. Suzuki, T. Shobu, A. Shiro and S. Zhang: Advanced (Et : 2.3 eV)照射のいずれによる酸化でも、ins 酸素原子 (Ge‐O‐Ge)が主成分であることを明らかにした。Et 増加 Materials Research 996 (2014) 76. に伴って ins 酸素原子のみが増加したことから、Et 誘起 (独)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター 量子ビーム物性制御・解析技術研究ユニット Ge3+ 形成が ins 酸素原子の増加によることが分かった。 また、Ge(100)‐2 ×1 表面の室温酸化において初期吸着確 率(s0 )の Et 依存性を調べた。0.1 eV 以下では物理吸着状 高密度物質研究グループ 態を経由した解離吸着が支配的であるが、Et の増加に伴っ 片山 芳則、綿貫 徹、町田 晃彦 量子構造研究グループ て活性化吸着が支配的になり、0.47 eV 付近から再び s0 が大きく増加した。以上の結果から、少なくともポテンシ 稲見 俊哉、石井 賢司 ャル障壁が二つ存在することが分かった。さらに、酸化の 進行に伴って増加する Ge1+ と Ge2+ の強度比 Ge2+/Ge1+ コヒーレントX線利用研究グループ 大和田 謙二 量子ビーム材料評価・構造制御技術研究ユニット 弾塑性材料評価研究グループ がほぼ 0.5 を保つことを見出した。この結果は、最表面の Ge‐Ge ダイマーのブリッジとバックボンドに酸素原子が 挿入された酸化状態が増加することを示唆している。 菖蒲 敬久 グラフェンと水素との反応による界面処理について東北 大学電気通信研究所を支援した。4H‐SiC(0001)面上に 4.BL23SU(JAEA 重元素科学ビームライン) 形成したエピタキシャルグラフェンに対し、原子状重水素 4‑1 概要 を用いたインターカレーション過程をその場 SR‐XPS と 重元素科学ビームライン(BL23SU)は、高輝度軟 X 線 LEED によって観察した。水素インターカレーションによ を利用したアクチノイド化合物の電子状態の研究を主目的 って、共有結合の開裂が進んでグラフェン層数が1層増え、 とする。利用実験は、蓄積リング棟実験ホール内の表面化 界面層がグラフェンに転化したことが分かった。これによ 学及び生物物理分光ステーション、さらに RI 棟内のアク ってグラフェンのキャリア移動度低下を抑制する効果が期 チノイド実験ステーションで展開されている。 待される。 4‑2 表面化学実験ステーション 酸化反応モデルを検証するために東北大学多元物質科学研 SiO2 /Si(111)界面における点欠陥発生を介した統合 Si 表面化学実験ステーションでは、超音速分子線で誘起さ 究所を支援した。室温における Si(111)‐7 × 7 表面の長時間 れる表面反応をリアルタイムその場光電子分光(SR‐XPS)、 酸化過程をリアルタイム SR‐XPS 測定した。SiO2 /Si(111) 低エネルギー電子回折(LEED)、走査プローブ顕微鏡 界面の酸化が進行するにつれて酸化速度は減少したが、さ (SPM)、昇温脱離質量分析(TDS)などを用いて研究し らに酸化を続けると酸化速度が再び増加する「自己増速酸 -113- 大型放射光施設の現状と高度化 300 K に お い て Cu 3 Au( 111)と Cu (111) 表面に O2 分子線を照射し、 O 1s 光電子ピークを測定して酸素 吸着曲線を求めた。O2 分子線の Et が 2.3 eV では Cu(111)の方が Cu3 Au(111)よりも酸化されやす い。これは、Cu3 Au(111)表面に存 在する Au 原子が O2 分子の解離吸 着過程のポテンシャル障壁を高く するためであり、d バンド中心モデ ルで説明できる。また、Cu(111) の場合には高曝露量では Cu2O 酸 化物が生成するが、Cu3Au(111) では生成しないことが分かった。 これは Cu3Au(111)では酸化表 面の 2、3 層目に Au 原子が存在す るため、衝突誘起吸収機構による 酸化が起こりにくいためである[3]。 図 1 各酸化条件(O2 ガスに曝露、O2 分子の並進運動エネルギー: 0.06 eV、0.15 eV、 0.39 eV)における Si(001)表面の O 1s および Si 2p 内殻光電子スペクトルとそれ らのピーク分離結果(文献 3 より)。O 1s 光電子スペクトルで相対結合エネルギ ー‑4 eV 付近に分子状吸着酸素のピークが観測される。 高温酸化性ガス雰囲気中での合 金表面の酸化挙動について新日鐵 住金(株)を支援した。Ni と Sb 添 加 Ni 合金に対して、5 × 10 4 Pa 程 度の酸素分圧下で SR‐XPS で酸化過 化現象」を見出した。この自己増速酸化の開始時点で界面 程を評価した。酸化層の成長は Ni‐Sn 合金の方が遅く、耐 の歪み Si 原子の総量が増加することから、増速酸化は歪 酸化性の向上も確認された。また、酸素が存在する酸化環 み緩和のための点欠陥発生によって律速されることが分か 境においても Sn の偏析が進行することが確認された。 った。すなわち、SiO2 /Si(111)界面でも従来の統合 Si 酸化 Ni 基金属間化合物触媒の表面分析について(独)物質・ 反応モデルが成り立つだけでなく、Si(111)表面特有の増 材料研究機構を支援した。今回はメタノール分解反応前後 速酸化も歪みによって発現することが明らかとなった[2]。 の Ni3Sn 触媒表面の化学結合状態の差異を SR‐XPS 分析し High‐k /Ge ゲートスタックの界面設計に関して大阪大 た。表面には主に金属 Ni、Sn が存在し、僅かな SnO2 も 学大学院工学研究科を支援した。HfOx /Ge 構造に AlOx 界 確認できた。反応前後で Ni 2p 光電子スペクトルに大きな 面層を挿入する効果を調べるため、HfO2 /AlOx /GeOx /Ge 変化は見られなかった。各温度で 1 時間の反応後でも Sn スタックを作製し、SR‐XPS による界面構造評価を行った。 3d 光電子スペクトルには大きな変化がなく、SnO2 の顕著 室温にも関わらず HfOx 膜の成膜過程で Ge 基板との間で な増加は認められなかった。このことから、メタノール分 相互拡散が生じるが、HfO2 膜堆積前に極薄 AlOx 界面層を 解反応中に Ni、Sn は選択酸化されず、Ni3Sn が安定的に 形成した HfOx /AlOx /Ge 構造では HfGeOx 成分は全く見ら 存在して触媒活性サイトとしての役割を務め、高い触媒活 れず、HfO2 膜中への Ge 拡散を抑制できることが分かっ 性がもたらされると結論した[4]。 た。さらに、AlOx 層越しのプラズマ酸化では、室温でも 良質な極薄 GeOx 界面層が形成できることを確認した。 2013 年度以前に実施した実験のうち、Al(111)面の窒 化反応ダイナミクス[5]、V(001)面の酸化膜が D2 分子脱 高性能 SiC パワーデバイスのヘテロ界面評価に関して大 離に与える影響[6]、Si (111)面の酸化反応ダイナミクス[1]、 阪大学大学院工学研究科を支援した。SiC 基板を高密度プ Si 基板上エピタキシャルグラフェン[7]、Cu(111)面上の ラズマ窒化処理と熱酸化処理して Si( O)N/SiC 構造を形 グラフェン[8]、Si( 001)酸化[9]、Si( 111)酸化[2, 成し、N 原子の化学結合状態を SR‐XPS 分析した。C‐N 結 Metal/High‐k /Ge ゲートスタック[11, 合はほとんど存在せず、Si 原子と N 原子との結合を示唆 応ダイナミクス[13]、Cu3Au の酸化反応ダイナミクス[14]、 する結果を得た。SiC 基板のプラズマ窒化では炭素をほと Si 高指数面の酸化[15]、ダイヤモンドライクカーボンの分 んど含まない SiN 膜が形成されると結論した。 析[16]、Ni 基金属間化合物の水素生成触媒作用[17]につい 超音速 O2 分子線による Cu 合金表面の酸化過程に関する 10]、 12]、TiAl の酸化反 て論文が出版された。 研究では大阪大学大学院理学研究科を支援した。表面温度 -114- (寺岡 有殿) 大型放射光施設の現状と高度化 の窒素 K 殻 XANES スペクトル中の微細構造には水溶液中 4‑3 生物物理分光ステーション 生体内で遺伝情報を司る DNA 分子は、放射線との相互 のプロトンイオン濃度の違いによる顕著な変化が見られ、 作用により分子変異(DNA 損傷)を生じ、この分子変異 その共鳴吸収エネルギーと振動子強度の pH 依存性が、プ が一つの要因となって、発ガンや突然変異を引き起こすこ リン環塩基部位の特定の窒素サイトでのプロトン化、脱プ とが知られている。これらの損傷が、どのような励起過程 [18 20]。 ロトン化によることが明らかにされた(図 2(a)) あるいはイオン化過程を経て、不対電子種などの中間生成 また、 ピリミジン環ヌクレオチド (シチジン一リン酸(CMP) 、 物を生成し、最終的にどのような変異に固定されるかを明 ウチジン一リン酸(UMP)、デオキシチミジン一リン酸 らかにすることで、放射線による突然変異誘発などの遺伝 (dTMP))の窒素 K 殻 XANES スペクトルの測定と解析に 的影響の物理的な初期過程の理解が進むと期待される。そ より、同様の構造変化の与える共鳴吸収エネルギーと振動 こで、生物物理分光ステーションでは、軟 X 線吸収分光、 子強度の変化があることが実験的に明らかにされ、その塩 液体分子線光電子分光、電子常磁性共鳴(EPR)や、修復 基構造に対する DFT 計算によるスペクトル解析によって、 タンパク質を損傷検出のプローブとした生化学的な方法を 分子内原子位置までも詳細に特定した塩基損傷の開始点の 駆使することで、これらの分子変異の生成に関する物理的 知見を得ることができた[21, 22]。塩基の構造変化が係わる な初期過程をあきらかにするための研究を進めている。 これらの系統的な共鳴吸収エネルギーと振動子強度の変化 DNA の放射線損傷を溶媒相互作用のもとにおいて調べ は、放射線の与える局所的なプロトンイオン濃度変化が共 るため、液体分子線分光実験を東京農工大学のグループと 同する新規の DNA 放射線損傷のメカニズムを示唆する 共に継続して行っている。核酸塩基内に生成する内殻空孔 (図 2(b))。さらに、XANES スペクトルの DFT 解析による 状態は塩基損傷の開始点の一つの可能性である。空孔生成 塩基の水和構造の特定と、窒素サイトについての電子分光 確率とその際に塩基に付与されるエネルギーとは、着目す 分析を進めている。 る原子の分子内結合サイトだけでなく溶媒相互作用により 内殻イオン化によって DNA 分子内に生じる分子構造変 変化し、また、塩基損傷経路を決定するポテンシャル曲面 化を予想するため、DNA モノマー分子(ヌクレオチド分子) も溶媒相互作用の支配下にあると考えられる。以上から、 の一つであるアデノシン三リン酸(ATP)の薄膜に対して、 塩基中に生成する内殻空孔状態を原子レベルまで特定して 軟 X 線(560 eV)を照射し、照射前後の XANES スペクト 調べるために、DNA 構成単位分子であるヌクレオチドに ルの変化を観測した。照射により、酸素 K 殻 XANES 領域 ついて、多種の異なる水溶液条件における内殻吸収端近傍 のσ*(C‐O)に相当するピークの顕著な減少や、窒素 K 殻 吸収スペクトル(XANES)を測定した。これにより、ア XANES 領域のσ*( N‐C)に相当するピークの減少が確認 デノシン一リン酸(AMP)、アデノシン三リン酸(ATP)、 された。それぞれのピーク強度の減少量の違いから、ATP グアノシン一リン酸(GMP)などプリン環ヌクレオチド 分子中の糖部位の C‐O 結合切断が効率よく起こることが 図 2 (a)GMP の窒素 K 殻吸収端領域の XANES スペクト ルの pH 依存性。点プロットは測定結果。実線は DFT 計算による再現スペクトル[19]。 (b) 水由来のイオンにより構造変化した核酸塩基の XANES スペクトルの変化が観測され、水の放射線 分解(間接効果)と核酸塩基の内殻吸収(直接効 果)の共同する放射線損傷が示唆された。 -115- 大型放射光施設の現状と高度化 電子分光を行い、超伝導と磁性を担っている 5f 電子が遍 明らかになった[23]。 EPR 装置を用いた実験では、DNA を構成する窒素や酸 歴的な状態にあり、局所密度近似に基づくバンド計算によ 素の K 殻励起により中間状態として生じる短寿命の不対電 って記述できることを明らかにした[26]。強磁性転移温度 子種に関する知見を得ることを目的としている。これまで (TCurrie= 9.5 K)以下での測定も行い、強磁性転移に伴い、 の実験において、ウラシル、シトシンおよびチミンなどの 5f 電子状態が変化することを見出した。 ピリミジン塩基の EPR 測定を行った[24]。ウラシル蒸着膜 またウラン化合物以外では、軟 X 線角度分解光電子分光 に対する軟 X 線照射中の EPR 測定実験では、EPR 強度の のバルク敏感性を利用して、LaTiO3 /SrTiO3 界面に発現 窒素および酸素の K 殻吸収端近傍の軟 X 線エネルギー依存 する 2 次元自由電子に対するバンド構造およびフェルミ面 性 に XANES ス ペ ク ト ル と 同 様 の ピ ー ク が 現 れ た が 、 の観測が行われた[27]。 XANES スペクトルよりも EPR 強度の方が小さかった。ピ 軟X線磁気円二色性(XMCD)測定ステーションでは、ウ リミジン環の環外にアミノ基を持つシトシンでは EPR 強 ラン化合物の磁性の研究を中心に、強相関電子系をはじめ機 度が増感し、メチル基を持つチミンでは XANES とほぼ同 能性磁性材料にいたる幅広い研究を展開している[28 34]。 じ挙動を示したことから、ピリミジン環外の置換基によっ XMCD の元素・軌道選択的磁気プローブとしての特長を て EPR 強度が変化すると予想した[24]。そこで、Br を置 生かした研究成果を紹介する。UCoAl は温度 T=15 K 以 換基に持つ 5‐ブロモウラシルで同様の測定を行ったとこ 下で、磁場 H 〜 1 T 以上で磁化の急激な増大を示し、常磁 ろ、EPR 強度は著しく減少した。今後さらにピリミジン 性状態から磁場誘起強磁性状態への一次のメタ磁性転移を 環外の官能基を系統的に変えた場合に不対電子種の生成効 示す物質である。さらに磁場増大に伴い磁化も飽和するこ となく増大する。この特異な磁性を調べるため、1 Hz 円 率がどのように変化するかを調べる予定である。 内殻共鳴励起あるいは内殻イオン化後にオージェ過程を 偏光スイッチングを活用し、U と Co 元素に対して元素選 経て価電子軌道に生じる、一空孔状態あるいは二空孔状態 択磁化測定を行った。その結果、U と Co サイトでともに などオージェ終状態の違いに起因した、各種 DNA 損傷の 明瞭なメタ磁性転移を示し、磁場誘起強磁性状態において、 誘発量の変化を調べるために、内殻共鳴励起エネルギー U と Co の磁場に対する磁気モーメントの増加率が異なる (π* 共 鳴 )を 持 つ 軟 X 線 を 照 射 し た と き に 誘 発 さ れ る [28]。 (U の方が Co よりも大きい)ことが分かった(図 3) DNA 鎖切断や塩基損傷を定量する実験を行った。真空中 また、分子線エピタキシー法により作製された で軟 X 線を照射したプラスミド DNA を大気中に取り出し (Fe1‐xCox)4N 系の XMCD 研究では、Co と Fe に加え N の て酵素反応バッファー溶液で回収した後、ピリミジン塩基 XMCD ス ペ ク ト ル お よ び そ の 磁 場 依 存 性 の 測 定 か ら 、 損傷、プリン塩基損傷、および脱塩基サイトを定量するた Co 3d および Fe 3d 電子のスピンモーメントと軌道磁気モ め、それぞれ、Nth, Fpg, Nfo といった 3 種類の DNA グ リコシレースで処理した。アガロースゲル電気泳動法によ ってプラスミド DNA のコンフォメーション変化の量を見 積もることで、各種 DNA 損傷量を定量した。π* 共鳴エネ ルギーとイオン化エネルギー(560 eV)でのプラスミド DNA の吸収強度はほぼ等しいにもかかわらず、π* 共鳴エ ネルギーの照射によって得られた各種損傷の誘発量の方が 明らかに高い値を示した。特に、一本鎖切断(SSB)およ びプリン塩基損傷量はイオン化エネルギーの照射に比べて およそ 1.6 倍高い収率であった。一方、ピリミジン塩基損 傷と脱塩基サイトの量は、SSB やプリン塩基損傷量よりも 低い収率であった。これらの結果から、π* 共鳴励起は鎖 切断やプリン塩基損傷の誘発にかかわっていることが推測 される[25]。 (藤井 健太郎) 4‑4 アクチノイド実験ステーション バルク敏感な軟 X 線光電子分光を用いて、ウラン化合物 とその関連物質の電子構造の研究を進めている。光電子分 光測定ステーションにおいては、常圧において超伝導相と 強磁性相の共存を示す URhGe に対する軟 X 線角度分解光 図 3 XMCD による UCoAl におけるウランサイトとコバルト サイトでの元素選択的磁化曲線 -116- 大型放射光施設の現状と高度化 ーメントをそれぞれ決定し、それら遷移金属と N との混 [16]K. Yokota, M. Tagawa, A. Yoshigoe and Y. Teraoka: 成についての新たな知見を与えた[29, 30]。これら一連の成 果により主著者である伊藤啓太氏(筑波大学大学院数理物 Journal of Surface Analysis 20 (2014) 221. [17]Y. Xu, Y. Ma J. Sakurai, Y. Teraoka, A. Yoshigoe, M. 質科学研究科)は 2013 年度の SPRUC Young Scientist Demura and T. Hirano: Appl. Surf. Sci. in press. [18]H. Shimada, T. Fukao, H. Mimani, M. Ukai, K. Fujii, A. Award を受賞するに至った。 (藤森 伸一、竹田 幸治) Yokoya, Y. Fukuda and Y. Saitoh: Chem. Phys. Lett. 591 (2014) 137. [19]H. Shimada, T. Fukao, H. Mimani, M. Ukai, K. Fujii, A. 参考文献 [ 1 ]A. Yoshigoe and Y. Teraoka: J. Phys. Chem. C 118 (2014) Yokoya, Y. Fukuda and Y. Saitoh: J. Chem. Phys. 151 9436. (2014) 055102. [ 2 ]J. Tang, K. Nishimoto, S. Ogawa, A. Yoshigoe, S. Ishidzuka, D. Watanabe, Y. Teraoka and Y. Takakuwa: [20]島田紘行、鵜飼正敏:放射線化学 94 (2014) 3. [21]H. Shimada, T. Fukao, H. Mimani, I. Sakuma, N. Surface and Interface Analysis, in press Okuizumi, M. Ukai, K. Fujii, Y. Fukuda, Y. Saitoh and A. [ 3 ]Y. Tsuda, K. Oka, T. Makino, M. Okada, W. A. Dino, M. Yokoya: 16th International Symposium on Microdosimetry Hashinokuchi, A. Yoshigoe, Y. Teraoka and H. Kasai: (MICROS 2013), October 2013, Treviso, Italy. [22]H. Shimada, H. Mimani, N. Okuizumi, I. Sakuma, M. Physical Chemistry Chemical Physics 16 (2014) 3815. [ 4 ]M. Fan, Y. Xu, J. Sakurai, M. Demura, T. Hirano, Y. Ukai, K. Fujii, A. Yokoya, Y. Fukuda and Y. Saitoh: J. Teraoka and A. Yoshigoe: Catalysis Letters 144 (2014) Chem. Phys. to be published. [23]K. Fujii, A. Narita and A. Yokoya: J. Phys. Conf. Ser. 502 843. [ 5 ]Y. Teraoka, M. Jinno, T. Takaoka, J. R. Harries, R. Okada, Y. Iwai, A. Yoshigoe and T. Komeda: IEEJ Trans. (2014) 012034. [24]T. Oka, A. Yokoya and K. Fujii: Appl. Phys. Lett. 98 EIS 134 (2014) 524. (2011) 103701. [ 6 ]Y. Teraoka, M. Tode, J. R. Harries and A. Yoshigoe: IEEJ [25]Y. Sugaya, A. Narita, A. Yokoya and K. Fujii: J. Phys. Trans. EIS 134 (2014) 473. Conf. Ser. 502 (2014) 012040. [ 7 ]末光眞希、吹留博一:Nanotech Japan Bulletin 7 (2014). [26]S. Fujimori, I. Kawasaki, A. Yasui, Y. Takeda, T. Okane, [ 8 ]S. Ogawa, T. Yamada, S. Ishizduka, A. Yoshigoe, M. Y. Saitoh, A. Fujimori, H. Yamagami, Y. Haga, E. Hasegawa, Y. Teraoka and Y. Takakuwa: Jpn. J. Appl. Yamamoto and Y. Ōnuki: Phys. Rev. B 89 (2014) 104518. [27]G. Berner, M. Sing, H. Fujiwara, A. Yasui, Y. Saitoh, A. Phys. (STAP) 52 (2013) 110122. [ 9 ]S. Ogawa, J. Tang, A. Yoshigoe, S. Ishidzuka, Y. Teraoka Yamasaki, Y. Nishitani, A. Sekiyama, N. Pavlenko, T. and Y. Takakuwa: Jpn. J. Appl. Phys. (STAP) 52 (2013) Kopp, C. Richter, J. Mannhart, S. Suga and R. Claessen: 110128. Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 247601. [10]J. Tang, K. Nishimoto, S. Ogawa, A. Yoshigoe, S. [28]Y. Takeda, Y. Saitoh, T. Okane, H. Yamagami, T. D. Ishidzuka, D. Watanabe, Y. Teraoka and Y. Takakuwa: Matsuda, E. Yamamoto, Y. Haga, Y. Ōnuki and Z. Fisk: e-Journal of Surface Science and Nanotechnology 11 Phys. Rev. B 88 (2013) 075108 [29]K. Ito, T. Sanai, Y. Yasutomi, S. Zhu, K. Toko, Y. Takeda, (2013) 116. [11]T. Hosoi, I. Hideshima, Y. Minoura, R. Tanaka, A. Y. Saitoh, A. Kimura and T. Suemasu: Journal of Applied Physics 115, 17C712 (2014). Yoshigoe, Y. Teraoka, T. Shimura and H. Watanabe: [30]K. Ito, T. Sanai, S. Zhu, Y. Yasutomo, K. Toko, S. Honda, IEICE Technical Report 113 (2013) 19. [12]T. Hosoi, I. Hideshima, R. Tanaka, Y. Minoura, A. S. Ueda, Y. Takeda, Y. Saitoh, Y. Imai, A. Kimura and T. Suemasu: Applied Physics Letters 103 (2013) 232403. Yoshigoe, Y. Teraoka, T. Shimura and H. Watanabe: [31]H. Hojo, K. Fujita, H. Ikeno, T. Matoba, T. Misoguchi, I. Microelectronic Engineering 109 (2013) 137. [13]M. Hashinokuchi, M. Tode, A. Yoshigoe, Y. Teraoka and Tanaka, T. Nakamura, Y. Takeda, T. Okane and K. M. Okada: Appl. Surf. Sci. 276 (2013) 276. Tanaka: Applied Physics Letters 104 (2014) 112408. [14]M. Hashinokuchi, A. Yoshigoe, Y. Teraoka and M. [32]M. Ye, K. Kuroda, Y. Takeda, Y. Saitoh, K. Okamoto, S.- Okada: Appl. Surf. Sci. 287 (2013) 282. Y. Zhu, K. Shirai, K. Miyamoto, M. Arita, M. Nakatake, [15]S. Abe, S. Ohno, R. Kanemura, A. Yoshigoe, Y. Teraoka, T. Okuda, Y. Ueda, K. Shimada, H. Namatame, M. S. Ogata, T. Yasuda and M. Tanaka: Appl. Phys. Express Taniguchi and A. Kimura: Journal of Physics: Condensed 6 (2013) 115701. Matter 25 (2013) 232201. -117- 大型放射光施設の現状と高度化 [33]V. R. Singh, V. K. Verma, K. Ishigami, G. Shibata, Y. Yamazaki, A. Fujimori, Y. Takeda, T. Okane, Y. Saitoh, H. Yamagami, Y. Nakamura, M. Azuma and Y. Shimakawa: Journal of Applied Physics 114 (2013) 075108. [34]C. Guglieri, E. Cespedes, A. Espinosa, M. Angeles L.-M., N. Carmona, Y. Takeda, T. Okane, T. Nakamura, M. Garcia-Hernandez, M. A. Garcia and J. Chaboy: Advanced Functional Materials 2013. (独)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター 量子ビーム反応制御・解析技術研究ユニット 表面反応ダイナミクス研究グループ 寺岡 有殿 量子ビーム物性制御・解析技術研究ユニット 電子構造研究グループ 藤森 伸一、竹田 幸治 (独)日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター 放射場生体分子科学研究グループ 藤井 健太郎 -118-