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岡山県における観光動向について

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岡山県における観光動向について
日 銀 おかやま
金 融 経 済 レポート
2014 年 12 月
岡山県における観光動向について
日本銀行岡山支店
本稿は、岡山支店総務課 松本 洸 が執筆を担当しました。
本稿に関するお問い合わせは、日本銀行岡山支店総務課(電話 086-227-5111)までお願い致します。
なお、本稿は日本銀行岡山支店のホームページ(http://www3.boj.or.jp/okayama/)でもご覧頂けます。
本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行岡山支店までご相談ください。
転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
0
2014年12月
日本銀行岡山支店
岡山県における観光動向について
■要 旨■
岡山県は、歴史・文化、自然、温泉、テーマパーク、グルメ等の豊富な観光資源に恵
まれている。しかしながら、県内の観光入込客数や総観光消費額は、90 年代後半にピー
クを迎えて以降、趨勢的な減尐傾向を辿っている。
岡山県内の観光入込客数が減尐している背景については、近隣他県が積極的な観光 PR
戦略(広島県「泣ける!広島県」、香川県「うどん県」)や有名観光地の催事等(出雲大
社の大遷宮、石見銀山の世界遺産登録等)で全国的な認知度が向上している一方で、岡
山県は全国的な認知度が向上するような催事等が多くなかったこと、観光客の満足度が
低いこと、民間調査による岡山県のブランド力指数は、外部評価(=県外居住者の評
価)・内部評価(=県民の評価)ともに全国低位となっていること等が影響している可
能性が考えられる。
岡山県内の総観光消費額が減尐している背景については、一人当たりの訪問した県内
観光地数の減尐、宿泊業の低価格競争による宿泊費の減尐、09 年以降、高速道路の割引
料金が導入されたこと等による交通費の減尐などが考えられる。
足もとの岡山県内の観光産業の経済効果を推計すると、総合効果は 4,651 億円であり、
付加価値額(2,753 億円)が県内総生産に占めるウェイトは 3.8%と全国(5.0%)と比
較して観光産業のウェイトが小さい。このように、岡山県は、観光入込客数が趨勢的な
減尐傾向にあり、観光産業の県内への経済効果が小さいことが課題となっている。もっ
とも、こうした試算結果は、観光産業の成長余地が大きく、今後の施策次第では、県内
経済への更なるプラス効果が期待できるともいえる。
こうした中、足もとでは、官民が一体となった、①情報発信力強化、②ホスピタリテ
ィ向上、③広域連携等による集客力強化、④観光振興による地域活性化、といった観光
振興策が進められている。
観光振興策を進める上では、観光消費の牽引役として期待されるインバウンド(訪日
外国人)やシニア層への働き掛けが重要であると思われる。この点、岡山県は両者のニ
ーズ(アクセスの良さ、歴史・文化、自然等)を満たす条件を備えており、観光需要拡
大の素地は整っているように見受けられる。
岡山県では、14 年度に岡山駅前の大型商業施設が開業するほか、15 年度に瀬戸内国
際芸術祭や第 1 回おかやまマラソン、16 年度に JR グループのデスティネーションキャ
ンペーンも実施されるなど、観光産業にとってプラスのインパクトが期待できる様々な
動きが予定されている。こうした機会を上手く活用し、足もと取り組んでいる各施策が
結実することで、観光産業の経済効果を高めることが期待される。
1
1.はじめに
岡山県は、多様性に富んだ多くの魅力的な観光資源に恵まれている。具体的には、江
戸~昭和初期の街並みや大原美術館を擁した倉敷美観地区、日本三名園の一つである後
楽園、神社仏閣の多い吉備路などの歴史・文化や、蒜山高原、瀬戸内海国立公園等の風
光明媚な自然、美作三湯(奥津温泉、湯郷温泉、湯原温泉)に代表される温泉、おもち
ゃ王国、鷲羽山ハイランド等のテーマパーク、フルーツ(マスカット、白桃等)や魚介
(鰆、蛸等)の名産品やご当地グルメ(「蒜山焼きそば」、「日生カキオコ」等)といっ
たグルメなどである。
しかしながら、岡山県内の観光入込客数や総観光消費額は近年減尐傾向にあり、県内
観光産業は伸び悩みがみられている。本稿では、やや長い期間の統計データに基づいて、
県内観光の動向を分析し、観光産業の発展の方向性について考察することとしたい。
岡山県内の主な観光地と入込客数
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査(平成 25 年)
」
2
(単位:千人)
2.岡山県の観光動向
(1)観光入込客数の推移
岡山県内の観光入込客数1は、瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)開通(88 年)や岡山空
港の移転・拡張(88 年)といった交通インフラの整備等を背景に増加した後、倉敷チボ
リ公園開園や中国横断自動車道岡山米子線(岡山自動車道)の全線開通が重なった 97
年にピーク(2,737 万人)に達した。しかし、その後の観光入込客数は、NHK 大河ドラ
マ「武蔵 MUSASHI」(03 年)や第 25 回国民文化祭・おかやま 2010(10 年)などによっ
て一時的な回復がみられたものの、西瀬戸自動車道(瀬戸内しまなみ海道)の開通(99
年)、倉敷チボリ公園の集客力低下(USJ 開業による入場客減尐<01 年>)やその後の
閉園(08 年)等の影響から、趨勢的な減尐傾向にある。
なお、13 年は、県北地域で開催された美作国建国 1300 年祭2や 3 年ぶり 2 回目の開催
となった瀬戸内国際芸術祭3といった観光関連事業が盛んに行われたことから、観光入込
客数約 2,395 万人(前年比+0.9%)と 2 年連続の増加となった。しかし、ピーク時と
比較すると未だ低水準(87.5%)に止まっている。
30
観光入込客数
(百万人)
瀬戸大橋開通
チボリ公園開園等
によるピーク
国民文化祭
NHK大河ドラマ「武蔵」放映
25
20
15
10
80
83
86
89
92
95
98
01
04
07
10
((年)
13
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
岡山県内の観光入込客数を出発地別にみると、県外客、県内客ともに 90 年代後半を
ピークに減尐している。足もと、県外客・県内客は、ほぼ 1:1 の割合であり、県外客
は、近畿、中国、四国方面からの来訪が中心となっている。特に、近畿からは県外客全
体の 5 割弱を占めており、遠方(九州、関東以北等)からは県外客全体の 1 割程度に止
まっている。
1
2
3
本稿では、岡山県「岡山県観光客動態調査」における総観光客数(各観光施設を訪れた観光客を
集計した延べ人数)を観光入込客数と読み替えて使用する。
県北地域(津山市、美作市)を中心に開催(13/3~14/3 月)され、計 81.1 万人を動員した。
直島(香川県香川郡)や犬島(岡山県岡山市)といった瀬戸内海の諸島を中心に春夏秋の計 108
日間開催され、計 107 万人を動員した。また、岡山県内では広域連携事業「廻遊―海から山から
―」が開催(13/9~12 月)され、計 6.4 万人を動員した。
3
また、日帰り客・宿泊客別にみると、ほぼ 3:2 の割合となっている。日帰り客は、
振れを伴いながらも横ばい圏内で推移している一方で、宿泊客は、97 年~07 年頃にか
けて急激に減尐した後、足もと低水準横ばい圏内で推移している。
主要観光地別4にみると、近隣に大型商業施設が開業(11/12 月)した倉敷美観地区や、
近年、ご当地グルメによる地域振興や美作国建国 1300 年祭等によって県北の一部観光
資源(蒜山高原、鶴山公園)では増加している一方、海水浴客の減尐がみられる玉野・
渋川や県内有数の温泉地である湯原温泉、後楽園などは減尐傾向にある。
出発地別観光入込客数
(万人)
県外客の内訳
1,500
その他
2.3%
九 州 地 方
2.3%
1,400
中 部 地 方
5.1%
1,300
関 東 地 方
5.2%
1,200
1,100
近 畿 地 方
45.0%
四 国 地 方
13.2%
1,000
中 国 地 方
27.0%
900
県内客
800
県外客
700
97
99
01
03
05
07
09
11
13
((年)
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
(25 年)
日帰り客・宿泊客別観光入込客数
1,800
((万人)
主要観光地別入込客数
1,500
140
(07年=100)
津山・鶴山公園
1,700
1,400
1,600
1,300
1,500
1,200
1,400
1,100
1,300
1,000
1,200
900
蒜山高原
120
倉敷美観地区
100
岡山市・吉備路
湯原温泉
後楽園
玉野・渋川
日帰り客
1,100
80
800
宿泊客(右軸)
1,000
700
97
99
01
03
05
07
09
11
13((年)
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
4
60
07
08
09
10
11
12
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
岡山県「岡山県観光客動態調査」における主要観光地別観光客数を使用し、同じ定義での比較が
可能な 07 年を 100 として指数化した。
4
13(年)
(
(2)総観光消費額の推移
岡山県内の総観光消費額5は、観光入込客数と同様に、90 年代後半にピーク(98 年:
1,785 億円)に達して以降、一時的な振れを伴いつつも、趨勢的な減尐傾向にある。観
光入込客数が前年比増加した 13 年も、総観光消費額は前年比▲0.8%と減尐しており、
その水準(1,303 億円)もピーク時の 73.0%まで低下している。
総観光消費額
(億円)
1,900
1,700
1,500
1,300
1,100
900
700
500
97
99
01
03
05
07
09
11
13((年)
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
総観光消費額を日帰り客・宿泊客別にみると、日帰り客は、10 年に一時的な増加(第
25 回国民文化祭・おかやま 2010 を主因とした県外客数の増加によるものと考えられる)
がみられたものの、趨勢的な減尐傾向にある。他方、宿泊客は、90 年代後半以降、急激
に減尐した後、足もとについては、低水準横ばい圏内で推移している。また、一人当た
り観光消費額は、日帰り客、宿泊客とも趨勢的な減尐傾向にある。特に、宿泊客の一人
当たり観光消費額は、13 年においても日帰り客の 4 倍程度と水準はなお高いとはいえ、
10 年以降の減尐が顕著であり、総観光消費額の大きなマイナス要因となっている。
総観光消費額減尐の要因としては、一人当たりの訪問した県内観光地数の減尐、宿泊
業の低価格競争による宿泊費の減尐、09 年以降、高速道路の割引料金6が導入されたこ
と等による交通費の減尐などが考えられる。県内企業等からは、「大手ビジネスホテル
の進出や改装により稼働率が低下した 08~10 年以降、稼働率の回復・維持のため宿泊
費の低価格競争が激しい」(サービス業)、「他県と比べて付近に小売店(土産物や飲食
店)が尐ない観光施設が目立つ」(小売業)との声が聞かれている。
5
6
岡山県「岡山県観光客動態調査」における総観光消費額を使用した。なお、総観光消費額は、一
人当たり平均観光消費額に観光客実数(非公表)を乗じたものである。
09/3~11/6 月の間、土日祝日の高速道路料金が上限 1 千円となった。その後は土日祝日等を中心
に ETC 搭載車の割引が実施されている。
5
1,400
日帰り・宿泊別観光消費額
(億円)
35
1,200
30
1,000
25
800
20
600
15
400
10
日帰り客
200
日帰り客
5
宿泊客
宿泊客
0
0
97
99
01
03
05
07
09
11
13 (年)
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
50
一人当たり観光消費額
(千円)
97
99
01
03
05
07
09
11
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
ホテル稼働率
(%)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
07
08
09
10
11
12
13
14(年)
(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」
3.観光関連指標とブランド力
岡山県と近隣他県(兵庫県、鳥取県、島根県、広島県、香川県)の観光関連指標を比
較7すると、観光入込客数は、近隣他県が増加傾向にある一方、岡山県では趨勢的な減尐
傾向にある。また、集客力を示す一観光地点の平均観光入込客数は、岡山県が近隣他県
の中で最下位に止まっているほか、観光客満足度8も見劣りしている。
こうした観光関連指標の低迷は、岡山県が観光産業面で近隣他県に競り負けている可
能性があることを示唆している。近隣他県は、積極的な観光 PR 戦略(広島県「泣ける!
広島県」、香川県「うどん県」)や観光資源の催事等(出雲大社の大遷宮<13 年>、石見
銀山の世界遺産登録<07 年>)によって、全国的な認知度が向上している一方、岡山県
は全国的に認知度が向上するような催事等が多くなかったことから、岡山県内の観光入
込客数減尐に影響した可能性がある。近隣他県の観光入込客数が増加した時期に岡山県
7
8
各県が公表している観光客数(香川県は公表値である県外観光客入込数を使用)を観光入込客数
として読み替えて使用し、指数化した。なお、兵庫県は年度集計(13 年度は未公表)であり、10
年度に定義変更を実施している。
岡山県「観光満足度調査」の定義に類似した調査を実施している島根県、広島県を比較した。
6
13 (年)
内の同客数は減尐しているなど、統計面からは”競り負け”の状況が明確にみて取れる。
また、観光産業に尐なからず影響を与えると考えられる都道府県別のブランド力に関
する民間調査結果によると、岡山県は、外部評価(=県外居住者の評価)、内部評価(=
県民の評価)とも全国下位に止まっており、近隣他県の中でも低い状況にある。
160
(99年=100)
観光入込客数の比較
観光地の集客力
観光入込客数
平均(千人)
(千人)
観光地点
島根県
150
鳥取県
140
広島県
130
120
110
兵庫県
岡 山 県
297
13,222
44.5
兵 庫 県
932
70,258
75.4
鳥 取 県
127
7,666
60.4
島 根 県
179
11,187
62.5
広 島 県
279
23,034
82.6
香 川 県
133
15,463
116.3
100
90
香川県
岡山県
80
99
01
03
05
07
09
11
13(年)(出所)観光庁「共通基準による観光客入込客統計(平成 24 年)」
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」、兵庫県「兵庫県観光
客動態調査」
、鳥取県「観光客入込動態調査」
、島根県「島
根県観光動態調査」広島県「広島県観光客数の動向」、
香川県「香川県観光客動態調査」
観光客満足度
岡山県
33.1
都道府県別ブランド力
(%)
80
39.4
70
兵庫県
内 60
島根県
57.5
部
27.9
広島県
50
評
島根県
鳥取県
価 40
広島県
27.8
香川県
63.5
岡山県
30
0
満足
20
40
やや満足
普通
60
80
やや不満
不満
100
不明
(出所)岡山県「岡山県観光客満足度調査」、島根県「島根県
観光動態調査」、広島県「共通基準による『全国観光
入込客統計』
(広島県)
」
7
20
20
30
40
50
外 部 評
60
価
70
(出所)㈱博報堂「“属”ブランド力調査」
80
4.観光産業の経済効果
「岡山県観光客動態調査」の観光入込客数をもとに、観光産業がもたらす県内経済へ
の効果を試算9すると、岡山県内の経済効果は 4,651 億円、付加価値額は 2,753 億円であ
り、付加価値額が県内総生産に占める比率は 3.8%となっている。これは、全国(経済
効果 46.7 兆円、付加価値額 23.8 兆円、付加価値額が国内総生産に占める比率は 5.0%)
と比較すると、観光産業のウェイトが小さい。
また、共通基準による観光入込客統計10と人口動態統計(12 年)を使用して、岡山県
の人口一人当たり観光収入額11を試算すると、45,134 円となった。これは、推計可能な
都道府県別計数のうち、下位(39/42)位に止まっている。なお、共通基準による観光
入込客統計の観光消費額は、35/42 位となっている。
観光産業の経済効果
岡 山
経済効果
雇用効果
総合効果
4,651
36.6
直接効果
2,925
26.7
(億円、千人、%)
1次間接効果 2次間接効果
971
5.3
付加価値額
755
4.6
2,753
県内総生産に
占める比率
3.8
(兆円、万人、%)
全 国
経済効果
雇用効果
総合効果
46.7
399
直接効果
21.5
213
1次間接効果 2次間接効果 付加価値額
15.8
111
9.4
74
23.8
国内総生産に
占める比率
5.0
(出所)観光庁「観光白書」
、岡山県「岡山県経済波及効果測定ツール」を使用し、当支店で算出
直 接 効 果:消費額のうち、県外からの財・サービス調達分等を控除したもの
1 次 間 接 効 果:直接効果によって県内各産業にもたらされる生産誘発額
2 次 間 接 効 果:直接効果及び 1 次波及効果によって生じた雇用者所得の増加分が新たな消費に向け
られることにより、県内産業にもたらされる生産誘発額
350
(千円)
観光消費額と人口一人当たりの観光収入額
一人当たり観光収入額
(兆円)
35
観光消費額(右軸)
300
30
250
25
200
20
150
15
100
10
データ未公表
39位,35位
50
5
0
0
岡
山
県
山沖東長栃静千山大長三和岐福島熊鳥秋北石香新群宮宮高兵滋鹿岩奈佐山徳青愛神茨愛埼広富福京大福
梨縄京野木岡葉形分崎重歌阜島根本取田海川川潟馬城崎知庫賀児手良賀口島森媛奈城知玉島山井都阪岡
県県都県県県県県県県県山県県県県県県道県県県県県県県県県島県県県県県県県川県県県県県県府府県
県
県
県
(出所)観光庁「共通基準による観光入込客統計」
、厚労省「人口動態統計」より当支店で算出
9
10
11
岡山県は、全国との比較を行うため、12 年の計数を使用した。
全国で定義が統一された観光客数の統計が存在していなかったため、10 年より、観光庁が共通基
準を用いた統計の整備を行っており、今回使用した 12 年調査は、42 都道県が公表している(14/12
月現在)
。なお、観光入込客数、観光消費額とも日本人、訪日外国人の合計値を使用した。
観光消費額を人口一人当たりで除算したものを、県民が観光によって得られる収入額と定義する。
8
このように、岡山県は、観光入込客数が趨勢的な減尐傾向にあり、観光産業の県内へ
の経済効果が小さいことが課題となっている。もっとも、こうした試算結果は、岡山県
の観光産業の経済効果は成長余地が大きく、今後の施策次第では県内経済への更なるプ
ラス効果が期待できるともいえる。観光産業は裾野が広く、対個人サービス(宿泊業や
飲食サービス業等)のほか、運輸業、卸売・小売業、情報通信業、金融・保険業といっ
た多くの産業と結び付きが深いため、県内経済の成長力向上のためにも、積極的な観光
振興策が求められる。
県内観光産業の経済効果の波及
消費額
(億円、%)
ウェイト
対個人サービス
1,606
38.4
運輸
1,238
29.6
飲食料品
492
11.8
石油・石炭製品
262
6.3
不動産
141
3.4
農林水産業
110
2.6
繊維製品
90
2.2
その他の製造工業製品
60
1.4
教育・研究
46
1.1
対事業所サービス
42
1.0
その他
98
2.3
4,186
100.0
合計
(出所)岡山県「岡山県経済波及効果測定ツール」を用いた経済効果の算出
過程における産業部門別波及効果
6.観光振興に向けた提言
観光産業の経済効果をより高めていくためには、認知度向上による新規客の獲得のほ
か、観光客の満足度向上によってリピーターを獲得し、観光入込客数・観光消費額とも
に増加させていく必要がある。
こうした中、岡山県では、下表に示すとおり、①県内観光情報等の発信力強化、②ホ
スピタリティ向上、③広域連携等による集客力強化、④民間企業を中心とした観光振興
による地域活性化(消費額増加の施策)など、観光振興策が進められている。
岡山県の 14 年度観光関連予算は、前年度比倍増(7 億円)しており、行政の観光施策
積極化によって今後の観光産業へのプラス効果が期待できる。
今後、これらの取り組みが結実し、大都市圏を中心に足もとの観光消費を牽引してい
るインバウンド(BOX1)やシニア層(BOX2)などの需要を獲得することで、県内の観光
産業が一段と発展することが期待される。
インバウンドの一人当たり旅行支出額(約 16 万円12)は、国民一人当たりの年間消費
額(約 123 万円13)の 1/8 相当であるほか、シニア層も消費意欲が旺盛であると言われ
ている。このため、インバウンドやシニア層の需要の獲得は県内経済への効果が大きい。
12
13
観光庁「訪日外国人消費動向調査」
(平成 26 年 7~9 月期)
。
総務省「家計調査」
(平成 25 年)のうち、一世帯当たりの消費支出を世帯人員で除したもの。
9
取り組み事例(一部)
実施団体
岡山県
岡山市
情
報
発
信
強 岡山県観光連盟
化
両備ホールディン
グス㈱
岡山県観光連盟
ホ
ス
ピ 倉敷市
タ
リ
テ
ィ
向 岡山県外国人観光
上 受入協議会
岡山県
広
域
連
携
等
に
よ
る
集
客
力
強
化
岡山県観光連盟
山陽・山陰スマー
ト観光プロジェク
ト推進協議会
岡山後楽園・岡山
城等連携推進協議
会
瀬戸内ブランド
推進連合
施
策
岡山弁で「すごい」を意味する「もんげー」がアニメ「妖怪ウォッチ」で有
名となったこともあり、
「もんげー岡山!」をキャッチフレーズに認知度向上
のための PR を展開している。また、
「晴れの国大使(岡山県所縁の有名人を
PR 大使として任命)」が岡山県を PR するほか、移住、ふるさと納税募集等も
含めた総合的なプロモーション活動を行っている。
「桃太郎のまち岡山」と題し、有名人等を採用した短編動画の作成やオリジ
ナル吉備団子コンテスト等による PR プロジェクトを展開している。また、
「ア
ートと文化の街」としての岡山市を展望しており、岡山城、後楽園周辺を中
心に「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」を開催(14/11~12 月)している。
岡山県観光総合サイト「晴れらんまん。おかやま旅ネット」を通じて、イベ
ントの周知、観光ルートの紹介、県内観光地のフォトライブラリー掲載等に
よる積極的な情報発信を行っているほか、県内各地の観光案内所と連携して、
来訪客への総合的な観光案内を行っている。
当社オリジナルキャラクター「七葉院まゆせ」を用いた 3D プロモーションを
展開している。同キャラクターを使用し、ラッピング観光バス(車載モニタ
ーを通じた観光ガイド付)を運行し、岡山県内観光地の情報発信を行う。
岡山県タクシー協会や岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合と連携したホスピ
タリティ向上の研修会、ガイド団体と協力したボランティアガイド育成研修
会等を実施している。
「おもてなしマイスター認定制度」を導入し、倉敷美観地区を中心とした観
光施設や店舗等において、高齢者・障害者のサポート等をはじめとしたホス
ピタリティ向上を目指している。また、12 年度より「おもてなしマイスター
通信」を創刊し、事例紹介等を通じた情報共有を図っている。
行政や宿泊施設、観光施設等の 69 団体で構成されており、通訳・翻訳ボラン
ティアの育成やハラール認証取得推進といった外国人観光客受け入れ態勢の
充実化を図っている。
兵庫県と連携し、NHK 大河ドラマ「軍師官兵衛」の観光 PR といった相互協力
や岡山県東部・兵庫県西部を中心とした地域の連携・交流による地域活性化
事業を実施している。また、鳥取県とは、アンテナショップ(とっとり・お
かやま新橋館)を共同で開業した(14/9 月)。ここで両県の名産品を販売する
ほか、観光等の情報発信による首都圏での認知度の向上を図っていく。
鳥取県観光連盟と連携し、マイカー利用の広域観光客誘客のためのドライブ
マップ作製やスタンプラリーを実施している。また、日本観光振興協会が主
催する「旅フェア」には、中国地方 5 県の観光連盟と共同で出店し、首都圏
からの誘客を目指している。
岡山市のほか地公体 7 団体、民間企業 43 社等で構成され、産官学の連携によ
る ICT(情報通信技術)を活用した観光振興を目指している。スマート観光情
報インフラ(AR<拡張現実技術>・多言語対応等)の整備に取り組んでおり、
ICT を利用したバスツアー、AR 観光アプリの開発等を行っている。
岡山県と岡山市が、別々に管理・運営していた両観光施設(県:後楽園、市:
岡山城)を一体的に運営することで観光客の誘致を積極化するために当協議
会が設立された。夏季イベント「幻想庭園」
「烏城灯源郷」の同時開催といっ
た連携強化により、相乗効果の拡大を目指している。
瀬戸内海に面する 7 県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、
愛媛県)の地域資産を生かした瀬戸内ブランドの確立を目指すために当連合
が設立された。百貨店での物産展開催や㈱JTB 中国四国とのリレーフォーラム
実施等により、観光産業を中心に更なる経済効果、雇用創出を目指している。
㈱クロスカンパニ
ー
真庭郡新庄村を舞台に町おこしイベント「クールオカヤマフェス」を 13 年よ
り開催している。県内飲食店が出店するフードコーナーや森林セラピー等の
体験型イベントを通じて新庄村の県内外への認知度向上に貢献している。
㈱ベネッセ HD
直島(香川県香川郡)や犬島(岡山県岡山市)等で現代アートを通じた地域
振興を行っている。犬島では、近代化産業遺産の銅精錬所を利用した美術館
のほか、建築、現代アート等を公開しており、延べ 100 万人以上が来場する
瀬戸内国際芸術祭の開催地の一つとなっている。
10
観
光
振
興
に
よ
る
地
域
活
性
化
㈱JTB 中国四国、
㈱中国銀行
津山信用金庫
イオン㈱
岡山県
岡山県観光連盟
観光客誘致に向けた活動の促進や観光資源のブランディング支援、名産品等
の販売活動の促進等を積極化する「地域振興に関する連携協定」を締結した。
また、㈱JTB 中国四国では、地域企業と連携した着地型旅行商品の開発等も手
掛けており、観光産業による地域振興を目指している。
観光客数が減尐傾向にある湯郷温泉等の県北地域観光活性化のため、行政等
と共同で「美作市の観光活性化 検討委員会」を発足した。関係者と連携し、
誘客のための施策を検討、提言、実行することで地域活性化を目指している。
岡山県、岡山市、倉敷市と包括連携協定を締結しており、観光情報発信のほ
か、地産地消の推進、名産品の販路拡大、災害対策等で協力する。また、各
自治体をイメージしたデザイン柄の電子マネーカード(WAON)を発行し、同
カード決済額の一部を自治体へ寄付することで地域活性化へ貢献している。
着地型旅行実現のため、県内観光地を回遊する商品開発を実施している。通
常、旅行会社が行うタイムスケジュール、ガイドの手配等を一元的に行った
旅行パック商品を作成し、これを旅行代理店へ提案している。
着地型観光の推進のため、全国各地の旅行会社への情報提供に加え、視察ツ
アーの実施、コンベンション誘致活動等による観光客増加のための施策を多
く実施している。
(出所)新聞報道及び各 HP 等より抜粋
7.おわりに
本稿では、岡山県の観光動向の現状について、各種統計を用いて分析・考察するとと
もに、観光振興策等について整理した。
国内の人口減尐が先行きの趨勢的な観光需要のマイナス要因として影響する中で、岡
山県内の観光入込客数や観光消費額が増加し、観光産業の経済効果を高めるためには、
積極的な情報発信による認知度・ブランド力の向上、官民連携による積極的な施策の実
行が必要不可欠である。この点、統計から推考された課題については、行政を中心とし
た様々な観光振興策の活発化により、解決に向けた道筋が整いつつあるように見受けら
れる。
また、岡山県では、14 年度に岡山駅前において年間 2,000 万人の来店数を見込む大型
商業施設が開業する予定であるほか、15 年度に瀬戸内国際芸術祭や第 1 回おかやまマラ
ソン、16 年度に誘客効果の高い JR グループのデスティネーションキャンペーン14も実施
される予定である。こうした県内の様々な動きは、観光産業にとってプラスのインパク
トが強く、経済効果をより高める大きなチャンスである。今後、こうした機会を上手く
活用し、足もと取り組んでいる各施策が結実することで、観光産業の経済効果を高める
ことが期待される。
以
14
上
JR グループと指定された自治体が連携し、ポスター掲示やイベント開催による誘客を目指す大型
観光事業。岡山県は、16/4~6 月に実施される予定である。
11
(BOX1)インバウンド(訪日外国人)需要
岡山県内のインバウンド(訪日外国人)は、リーマンショック(09 年度)、東日本大震災
(11 年度)による一時的な落ち込みがみられたものの、観光庁主導訪日旅行促進事業(ビ
ジット・ジャパン事業15)の影響もあって、全国と同様に増加傾向にある。岡山県内のイン
バウンドを地域別にみると、定期便が就航した台湾を中心に、アジアからの客が半数強を
占めている。また、全国と比較すると、瀬戸内国際芸術祭や大原美術館等のアートへの関
心が高いと思われる欧米からの比率が高い。
13 年度は、円安効果や岡山空港の台北線定期便就航、東南アジア諸国(タイ、インドネ
シア等)のビザ免除等の規制緩和、瀬戸内国際芸術祭の実施等により、過去最高となる 9
万人を記録した。
インバウンドは、消費意欲が極めて旺盛であるため、需要の取り込みによる県内経済へ
の効果は大きい。この点、インバウンドは、広域に亘る観光地を巡るため、交通網が発達
している点を重視する傾向が強い。交通の要衝である岡山県は、こうしたニーズを満たし
ており、他県と比較してインバウンドを取り込みやすいと思われる。今後の課題は、①岡
山空港発着の定期便継続が不透明となった16台湾客の安定的な確保のほか、②海外への情報
発信の強化等による県内観光地への誘客、が挙げられる。県内企業等からは、
「ジャパンレ
ールパス17利用客を中心に、岡山県を安価な宿泊地点としか認識していない客や岡山市、倉
敷市内に数時間滞在するに止まる客も多く、県内経済への効果はまだまだ低い」
(サービス
業)との声が聞かれている。
10
9
(万人)
地 域 別 内 訳
インバウンド(訪日外国人)数
1200
全 国(右軸)
岡 山
その他
10.2%
岡 山
1000
8
7
欧米
29.3%
800
6
台湾
21.1%
中国
14.9%
マレーシア
1.0%
5
600
4
シンガポール
1.0%
タイ
2.0%
香港
6.0%
韓国
14.5%
400
3
全 国
2
その他
9.0%
200
1
台湾
21.3%
0
0
4年度
6年度
8年度
10年度
12年度
(出所)岡山県「外国人旅行者宿泊者数」、日本政府観光局
(JNTO)
「訪日外客数」
マレーシア
1.7%
欧米
18.2%
中国
12.7%
シンガポール
1.8%
タイ
4.4%
香港
7.2%
韓国
23.7%
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
日本政府観光局(JNTO)
「訪日外客数」
15
16
17
03 年度以降、韓国、台湾、中国、アメリカ、東南アジア諸国等の 14 市場を中心に訪日旅行を促進
するための事業(現地消費者、旅行会社向け事業、官民連携事業等)を実施している。
14 年度当初は、通年運航の計画であったものの、運航会社であるエバー航空が搭乗率の低迷を理
由に 10 月下旬以降の運航を中止し、15 年度以降の運航も未定としたもの。
JR グループが運営する鉄道・バス・フェリーが乗り放題となる外国人旅行者限定の割引切符。
12
(BOX2)シニア消費動向
高齢化の進行により、今後、人口比率が上昇することが見込まれるシニア層(60 歳以上)
は、近年、消費の牽引役となりつつある。
国内観光地を選ぶ際に重要視する事項を各年代別にみると、シニア層は、「自然の豊か
さ」や「歴史・文化」
、
「温泉施設」の重要度が高い。こうしたニーズを満たしている岡山
県は、観光需要獲得の素地が整っているため、今後、積極的な情報発信や各観光施設のイ
ンフラ整備を充実させることで、消費意欲の旺盛なシニア層を誘客することができれば、
更なる県内経済への効果が期待できる。
実際、シニア層の関心が高い「歴史・文化」に関連して、竹田城18(兵庫県朝来市)の
影響を受けた備中松山城や NHK 大河ドラマ「軍師 官兵衛」の放送による黒田官兵衛に関
連した観光地など、認知度が向上した観光地では、観光入込客数が増加傾向にある。
もっとも、観光入込客数が増加している観光地であっても、観光地周辺の小売店等をは
じめとした観光インフラの整備不足により、総観光消費額は必ずしも増加していないとす
る声も尐なくない。県内企業等からは、「知名度が低かった観光地への観光客が増加して
いるものの、飲食店、お土産物等の小売店が尐ないため、観光客がお金を落としていく構
造になっていない」(観光施設)との声が聞かれている。
今後の課題は、県内経済への効果を高めるために、観光地の受入態勢(インフラ)整備
や県内観光地間の連携等を如何に推進できるかであろう。
国内観光地を選ぶ際に重要視する事項
30代未満
自然の豊かさ
38
歴史・文化
40
温泉施設
37
宿泊施設
36
インフラ充実
46
旅行費用の安さ
42
食事の魅力
46
積極的な情報発信
18
テーマパーク、有名スポット
32
30代
40代
45
37
34
42
43
35
44
14
35
(%)
50代
52
41
43
50
46
35
51
11
29
61
54
43
43
45
32
45
16
19
60代以上
72
63
47
46
45
41
36
19
6
(出所)
(財)経済広報センター「旅行に関する意識・実態報告書」
18
映画やテレビ CM 等のメディア露出によって認知度が向上したことから、12 年以降、観光入込客数
が急激に増加した。竹田城の認知度向上より、雲海と城跡が同様にみられる備中松山城の観光入
込客数も増加傾向にある。
13
備中松山城と竹田城の入込客数
100
「軍師 官兵衛」関連観光地の入込客数
(前年比、%)
(千人)
備中松山城
600
竹田城(右軸)
250
225.3
500
80
217.4
200
400
60
150
155.0
145.3
300
40
126.7
100
200
74.5
52.7
20
100
50
27.3
45.7
9.1
0
0
06
07
08
09
10
11
12
13 (年)
(出所)岡山県「岡山県観光客動態調査」
、朝来市「朝来
市主要施設観光動態調査」等
(注)備中松山城は年集計、竹田城は年度集計
14
0
13/10 11
12
14/1
2
3
4
5
6
7月
(出所)岡山市、瀬戸内市の黒田官兵衛関係施設
の客数をもとに当支店で算出
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