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平成19年度版(PDFファイル)

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平成19年度版(PDFファイル)
目 次
第4号の編集にあたって
副学長(教育・学生担当) 中 垣 通 彦‥‥‥ 1
1.平成19年度教育支援(推進)プログラム
(1) 国際汎用性と通用性のある情報技術者教育
−産業社会の知識・技術を導入した実践情報工学教育のさらなる推進−
情報工学部機械情報工学科 教授 楢 原 弘 之‥‥‥ 2
(2) 学生自身の達成度評価による学修意識改革
−学習成果自己評価シートをベースとする自己評価システムの構築−
情報工学部機械情報工学科 教授 堀 江 知 義‥‥‥ 9
2.大学院教育の改革
(1) モジュール積み上げ方式の分野横断型コース
情報工学研究科情報科学専攻 教授 延 山 英 沢‥‥‥ 20
(2) ロレーヌ国立工科大学との国際交流協定締結及びダブルディグリー
生命体工学研究科生体機能専攻 教授 塚 本 寛‥‥‥ 28
3.社会人教育支援の取組
(1) 工学研究科社会人プログラムと社会人修学支援講座
社 会 人 支 援 室 長 工学部物質工学科 教授 鹿 毛 浩 之‥‥‥ 33
(2) 社会人教育への取り組み
−北部九州高度金型中核人材育成プログラム−
先端金型センター 教授 鈴 木 裕‥‥‥ 39
4.学生支援の取組
サマーキャンプ
−学生の学びと育ちを支援する−
保健センター 講師 菊 池 悌一郎‥‥‥ 50
5.教育組織の改革
工学部の教育組織の改編
前副工学部長 教授 加 藤 幹 雄‥‥‥ 58
6.e- ラーニング
e- ラーニングで再チャレンジ!
− Moodle による復習の効果 −
情報工学部システム創成情報工学科 教授 小 林 史 典‥‥‥ 67
第4号の編集にあたって
副学長(教育・学生担当) 中 垣 通 彦
今や、世界的規模でこれまでにない急速な情報化の進展に伴い、科学や文化が普遍化し、
今日のグローバル化社会を迎えています。
このような情況の中で、大学は国内外の諸事情から変革を余儀なくされ、教育は現代の
社会と人類に適合した、より優れた内容と制度への発展が求められています。ご承知のよ
うに、大学におけるFD活動や学生による授業評価は、今や必須の教育活動であり、今後
は、教育の目標を明確に示し、個々の学生や集団に応じたきめ細やかな教育活動が求めら
れています。競争的環境の中での個性輝く21世紀の大学像、大学院教育の国際化、実質
化など中教審答申の中で提言されている社会的要請や国公私立の大学改革の取組みを支援
する競争的経費の導入などを受け、大学間の競争は一段と進み、各大学が生き残りをかけ
てそれぞれの大学の進むべき道を模索しています。現在、中教審大学分科会においても、
学士の質の保証、いわゆる「学士力」など学士課程の再構築について議論されており、今
後とも学習成果や人材養成の目的の達成に向けた体系的な教育課程の編成などの方策が今
以上に求められます。
本学では、創立 100 年に亘る不易の建学精神「技術に堪能なる士君子」に謳われる、国
際・技術社会を牽引する技術者の育成を、教育の大方針としています。この工学教育の基
本理念の上に立ち、上述の社会情勢を背景として、学部・大学院教育における教育方法や
実施体制の改革を進め、時代に則した新しい試みを多数導入しています。これらの新しい
取組の成果として、特色GP1件、現代GP3件、大学院GP3件、海外先進教育実践支
援2件、社会人の学び直し教育支援1件が採択され、競争的教育改革支援経費により事業
化されました。
本学では国立大学法人化を機に、従来のFD報告書に代わり、このような新しい先進的
な教育活動などを内外に公表することを目的とした教育ブレティンを編集し、本誌で第4
号を迎えるに至りました。
本誌では、平成19年度に採択された海外先進教育実践支援事業、特色GP支援事業、
大学院教育改革支援事業のほかに、海外大学との間における二重学位取得制度の取組み、
本学の強みを生かした社会人修学支援事業などの教育活動と、増加しつつある学生のメン
タルヘルスに取り組む保健センターの学生支援活動を掲載しました。また、組織運営面で
は、教員組織と教育組織を分離した構造改革を含む工学部の教育組織の再編を平成20年
度に予定していますので、その概要について掲載しています。
最後に、今回紹介した取組みは、本学における先進的な教育の取組みの一部であります
が、教育に対して取り組む本学の熱意と姿勢をご理解頂く一助となれば幸いに存じます。
1
1.平成 19 年度教育支援(推進)プログラム
(1)国際汎用性と通用性のある情報技術者教育
−産業社会の知識・技術を導入した実践情報工学教育の
さらなる推進−
情報工学部機械情報工学科 教授 楢 原 弘 之
1. はじめに
文部科学省の大学教育の国際化推進プログラムの一つに、「海外先進教育実践支援」制
度があり、本学情報工学部の取組が採択された。
この「海外先進教育実践支援」制度では、我が国の高等教育の国際的通用性・共通性の
向上を図るため、大学等の教職員を海外の教育研究機関等に派遣し、高等教育の国際的通
用性・共通性の向上を図る優れた取組みを選定し財政支援を行うことで、高等教育改革を
一層促進させることを目的としている。
情報工学部ではこの制度を利用して、世界に先駆けて産業社会に整合した工学教育を進
めている欧米の先進的な大学の取り組みを詳細に調査することが可能となった。本稿では
このプログラムの概要を紹介する。
2. プログラムの背景・目的・目標
情報工学部は知能情報工学科、電子情報工学科、システム創成情報工学科、機械情報工
学科、 生命情報工学科の5学科を有しており、 これら全学科揃って JABEE 審査を受け、
2006 年 5 月に認定された。学部全体が同時に JABEE 審査を受けたのは全国でも前例がな
く、しかも全学科が認定の評価を得ることができた。こうした成果が得られたのも、従来
から大学を挙げて教育改善に取り組み、積極的に優れた教育制度と組織作りに取り組んで
来たためといえる。
学部の教育内容の品質については、2004 年から開始した本学の中期目標では次のよう
に定めており、特に国際性を持ち、社会に通用する技術者教育を重視している。
・
国際的視野を持ち、国際的に通用する水準の技術者教育を行い、その品質(専門知
識と技術水準)を保証する。
・
専門分野に関する体系的な教育を行い、課題探究と問題解決にあたって、自分の専
門分野に関する知識を的確に応用することのできる能力を養う。
本学の中期目標で定めているような、 国際性を持ち、 社会に通用する技術者を育成す
る 教 育 基 盤 を 確 立 す る た め に は、 卒 業 / 修 了 者 の 修 得 し た 知 識 と 技 術 が 社 会 で 実 際 に
役に立つように、 現実の産業で蓄積された膨大な知識、 技術およびデータ(Knowledge,
Technical and Data: KTD)を巧みに教育に援用することである。すなわち、産業社会の資
産である蓄積された広範な知識や技術を、大学のアカデミック教育の中に導入する方策へ
の検討が本学で進められてきている。
2
具体的な目標対象としては、次の項目を考え、その実現を目指している。
(1)
現場における実地教育と学内アカデミック教育を組合せた実学教育
(2)
企業の実際の技術問題を教材にした課題探求と問題解決プロジェクト・カリキュラ
ム
(3)
企業・技術・社会倫理問題を題材とした倫理教育理論と実際の事例との整合を図る
倫理教育
(4)
技術マネジメント能力と起業能力をもたせる育成プログラム
これらの教育計画の一環として、本プログラムでは、優れた実績を持つ欧米の大学の理
工学における先進的な制度を学ぶために、
・
情報工学部の教育スタッフを派遣してそれぞれの大学の優れた業績を調査する。
・
教員の社会実学教育能力支援(FD)体制や、課題探求と問題解決プロジェクトに
ついて、海外のエキスパートに審査を依頼する。
これらを通じて、国際基準の観点から情報工学部の教育プログラムの教育改善、実施項
目の明確化を行い、情報工学部の教育プログラムの国際汎用性と通用性の向上を図ること
を目標としている。
3. 本プログラムの内容と実績
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図 1 九州工業大学情報工学部におけるこれまでの取組と本プログラムの内容
3
本学の中期目標で定めている国際性を持ち、社会に通用する技術者を育成するための教
育基盤を確立するための教育計画の一環として、優れた実績を持つ欧米大学の理工学にお
ける先進的な制度を学ぶために、情報工学部の教育スタッフを派遣してそれぞれの大学の
優れた業績を調査した。本プログラムは現在も実施中であり、現時点で以下の実績が得ら
れている。
・
H 19 年3月に蘭国デルフト工科大学を訪問しPBL講義体制の現状調査を行った。
ボローニャ宣言を実践している欧州の大学を視察調査することにより、欧州の基準
に基づく実践教育を学ぶことができ、情報工学部の教育プログラムに反映する情報
を得た。
Prof. Tetsuo Tomiyama,TU Delft
PBL 活動中の学生との交流
教育支援施設の見学①
教育支援施設の見学②
教育支援施設の見学③
学内施設(図書館の上に休憩できる広場がある)
4
・
H 19 年3月に英国ラフバラ大学でFD支援体制のインタビューを行った。 また、
H 18 年9月にラフバラ大学から上級講師を招へいし、 英国でのPBL科目を約 1
週間の集中講義で実施(PBLデモ)して貰い、またPBL教育に関する特別講演
会を実施した。本学の4年生と修士1年生を対象に行われたPBLデモの結果より、
英語のみの講義でもグループ活動であれば支障なく実施できることがわかり、今後
の英語教育、PBL教育の基礎情報とすることが出来た。ラフバラ大学を視察調査
することにより、産業社会の KTD を効果的に取り入れ、実践的に役立つ技術者を
育成するための教育支援体制の実際についての情報を得た。
キャリアセンターの見学
教職員能力開発センターの説明会
Prof. Ray Dawson(中央)
教育支援施設の見学(学習スペース)
・
学内施設(学生寮)
H 18 年 10 月に、米国カーネギメロン大学を訪問し情報技術者教育の現状調査を行っ
た。また米国ワシントン大学における実践教育と教育支援体制の視察調査を実施し、
インタビュー結果を和訳してレポートにまとめた。さらにワシントン大学のFD体
制が先進的かつ効果的であることが調査により明らかになり、インタビュー内容を
翻訳し冊子にまとめた。本学においてFD体制は遅れており、今回得られた資料な
どを活用して整備を進める予定である。
5
Dr. Bud Nicola , CELT,
Dr. Donald Wulff , Dr. Wayne Jacobson
University of Washington(中央)
CIDR, University of Washington
Prof. Jeannette M. Wing,
Carnegie Melon University
・
また、平成 19 年3月に米国ウィスコンシン大学でFD支援体制のインタビューを
行った。ABET 基準に基づく教育を実施している米国の大学を視察調査することに
より、米国の基準に基づく実践教育を学ぶことができた。
Professor Kewal K. Saluja(右)
Professor Parameswaran Ramanathan(右)
6
・
Professor David T. Anderson(中央右)
Professor Yu Hen Hu(中央左)
Professor Dan Cobb(中央)
福利厚生施設(ユニオン)の内部
情報工学部の JABEE 教育プログラム中の課題探求と問題解決プロジェクト(PB
L科目)について、英文翻訳した教育プログラムのレビューをラフバラ大学とデル
フト工科大学の教員に依頼し、評価レポートを得た。海外の工学教育関係者による
レビューは、本学の PBL 科目の国際レベルを判断する上で役立つ外部評価レポー
トと言える。この結果によると、本学の実施内容に比較して先進的な実施大学の優
れた点、また講義内容、支援体制などで本学の優れている点も明らかになった。さ
らに改善に対する具体的なアドバイスを受けることができた。本学のカリキュラム
への反映は、今後の活動で詰めていく予定である。
・
H 19 年1月に情報工学部において教職員を対象に学部教育フォーラムを開催し、
「海外における先進的大学院教育 - ワシントン大学における工学教育体制の調査報
告を中心に -」という内容で調査報告と討議を行った。情報工学部全教職員を対象
とした教育フォーラムを開催することにより、本取組を情報工学部全体へと情報発
信し、情報工学部の教育プログラムと制度全般に亘る改善につながることができた。
海外調査により大学院の講義科目のモジュール化が有効なことが判り、大学院の講
7
義カリキュラムにモジュール制を導入することを決定し、平成 19 年度より実施し
ている。
4. おわりに
本計画が目的としている、現実の産業社会が有している膨大な蓄積された知識、技術お
よびデータ(KTD)を巧みに工学教育に取り入れることの必要性は一般にも認識されつ
つあり、今後日本の大学教育の中で広く展開されて行くことと予想される。急速な進化を
遂げている情報工学教育からまず初めに実施されることは自然な成り行きともいえる。今
後は他領域の工学教育へも波及することとなろう。
現在もこのプログラムは実施中であり、関連する情報工学部のプログラムと有機的に結
合・活性化しながら、さらなる推進を実現しようとしている。これらの取り組みが本学の
中期目標に掲げている「国際的に通用する技術者」のための教育につながる教育改善へと
役立つことになれば幸いである。
8
(2)学生自身の達成度評価による学修意識改革
―学習成果自己評価シートをベースとする
自己評価システムの構築―
情報工学部機械情報工学科 教授 堀 江 知 義
1 まえがき
2003(平成 15) 年より情報工学部で始まった、 学習成果自己評価シートによる学生自
身の達成度評価の取組が、平成 19 年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム(特
色 GP)」に選定された。特色 GP の選定は今年で5年目となるが、文部科学省のホームペー
ジによると、「各大学で実績をあげている教育方法や教育課程の工夫改善など学生教育の
質の向上への取組をさらに発展させる取組の中から、特色ある優れた取組を選定し、サポー
トする」ものであり、「選ばれた取組を社会に広く情報提供し、高等教育全体の活性化を
促す」ことを目的としている。
本学の取組は全学的に教育方法の工夫改善に取組んでいることが評価されているが、今
後3年間で学内ばかりでなく、学外へと発展させることが期待されている。今年度はまず、
情報工学部で学修自己評価システムを開発し、来年度より情報工学部における試験運用を
開始し、3年目には工学部を含む全学へと発展させる。近年、卒業要件単位を満たすこと
だけを目的に履修し、大学で学ぶことの目的意識が低い学生が増えているように見受けら
れるが、本取組は学生自身の達成度評価による「学修意識改革」を目指している。
2 本取組の概要
本学の工学部と情報工学部の全学生に対して、学習成果自己評価シートを用いた、学生
自身による学習・教育目標の達成度評価を実施している。これは、高校までの教育現場で
実施されている教員による成績通知と異なり、科目ごとの点数評価を基にして、学生自身
がその学期を振り返って達成度を評価し、次学期の学習・履修計画を立てて、自らの学修
を自己管理するものである。 我が国の大学生によく見られる、 学修意識や目的意識が低
く、受身の姿勢で学修に取組む学生に対して、自己管理能力を涵養する目的を持つもので
ある。
この実績の上に、キャリア形成、ファカルティ・ディベロップメント(FD)、指導教員
制、メンタルヘルスモニタリングと密接に連携して、これらを本学で独自に開発・運用し
て来た教務情報データベースと連動させて、学修自己評価システムを構築する。これによ
り、学生の学修目的と動機を明確化させ、学修の自己管理意識を高揚させ、学生の自己管
理能力の向上を図る取組である。
3 本取組の実施プロセス
(1) 背 景
我が国の中等教育課程においては、一般に学生自身の学修に対する自己管理能力が十分
に涵養されていない傾向がある。そのため、大学において教育を受ける目的と動機が明確
ではなく、その結果として大学入学後に、往々にして進路を見誤まったり、あるいは学修
9
の意味さえも見失う事が多く見受けられる。この傾向は我が国の学生において特に強く、
外国においては余り見られず、留学生と日本人学生の間の顕著な違いとして広く認識され
ている。
大学における教育の改善には大きな二本の柱があり、一つは教育する側である大学と教
員による教育方法の改善と充実、すなわち FD と、もう一つは教育を受ける側である学生
自身の学修意識にあるといえる。本取組は、主に後者、すなわち、日本の学生に一般に欠
如している学生自身の学修意識を高めることを目的とするものである。
そのために、本学の工学部と情報工学部の全学生に対して、学習成果自己評価シートを
用いた、学生自身による学習・教育目標の達成度評価を実施して来た(図1)。この実績
の上に、キャリア形成、FD、指導教員制、メンタルヘルスモニタリングと密接に連携して、
これらを本学で独自に開発・運用して来た教務情報データベースと連動させて、学修自己
評価システムを構築する。
(2) 学生の履修と達成度評価の問題点
2002(平成 14) 年度より、 本学情報工学部全体で教育システムの見直しを始めた。 従
来より、新カリキュラム、シラバス、FD、アドミッションポリシー、授業評価アンケー
ト、教務情報システムなどを導入するなど、教育システムの改善を継続的に行って来てい
たが、学部開設から 15 年を迎え、学習・教育目標を再設定し、その前後から GPA の設定
や学期の履修単位数の制限、特色ある科目群の設定など、中期目標に「学生に学習の目的
意識と勉学への動機付けを身に付けさせる」ことを第一に掲げて全面的に教育改革を進め
た。この中で、学生の講義科目選択上の問題点が浮かび上がって来た。すなわち、科目の
選択動機として、取りやすい科目を取る、あるいは、空いている時間を埋めるだけのため
に選択するという傾向である。
こうした学生の選択行動の原因としては、学生自身が学習・教育目標の達成度をまった
く意識せず、ただ単に、卒業要件を満たすことだけを考えて履修していて、目的意識が低
いことにあると見られる。中学・高校を通じて、受験のために学習塾などで与えられたこ
とだけを勉強して来たことの弊害と言える。また、指導教員制度も十分に機能していると
は言いがたい状況であった。何か問題があっても学生から指導教員のもとに相談には来な
い、引きこもり学生が増えているが指導教員が気づかない、さらには、学生の指導教員、
指導教員を取りまとめる学年担当教員、保健センターと連携して学修上の相談にのる学生
相談員、保健センターのカウンセラーの間の役割分担が学生たちに分かりにくいという問
題があった。
その対応策として、学生が学習成果達成度の自己評価を行い、学習・教育目標達成を考
慮した科目の選択を促す目的で、さらに、学修に対する自己管理能力の涵養をはかり、学
生自身の学修意識を高めるという目的で、学習成果自己評価シートを導入した。
(3) 学習成果自己評価シートの導入
学習成果自己評価シート(図1) は、2003(平成 15) 年9月から導入され、 その後の
改訂および学科ごとに工夫を凝らしてきて、多くのスタイルが存在するが、基本となるの
は以下のものである。
10
図1 学習成果自己評価シート
11
達成度の点検として、学期の終わりに科目系統と学習・教育目標に対応した2種類のレー
ダチャートを作成し、達成状況を各自が視覚的に確認できるようになっている。自己採点
欄には、履修計画、学習成果、学修への取組を自己評価し、その理由も記述する。自己評
価記入欄には、上記の各項目について、良かった点、反省点、次学期への抱負を記入する
ようになっている。学習・教育目標の達成度評価(図2)は、1枚のシートに学習・教育
図2 達成度評価シート
12
目標ごとの評価点を合計し、各目標の達成具合が確認できるようになっている。これらの
シートはファイルに綴じて次の履修計画時に見直し、 指導教員との面談時の相談資料と
し、各自が卒業まで保管する。
この取組は、同様の問題をかかえる工学部にも広がり、昨年度より全学的に実施してい
る。
4 本取組の特性
(1) 学生自身による自己管理
従来の大学教育のあり方は、大学制度や教育システムからの一方的な教育の賦与傾向が
強く、未だその方法に則っている日本の大学教育には、この問題そのものが見えていない。
本取組はその根本である学生の受講意識を変革しようとするもので、この学習成果自己評
価シートは、学生自身が年2回、期末試験の成績を教務情報システムと呼ばれる、成績報
告・管理システムを見ながら記入する。達成度を自己評価して、次学期の履修方針を立て
る。このように、学生自身の学修は学生自身で自己管理するものであるという意識を持た
せることによってはじめて、学生は学修の目的意識を持つようになり、同時に社会におい
ては必ず求められる自己管理能力を涵養することになる(図3)。そこから出発して学修
の動機をはっきり持たせる事ができる。
(2) 履修申告期間中の指導教員との面談
各自の自己評価結果と次学期の履修方針を指導教員に報告することを勧めている。これ
は中学・高校までの、教員による評価を学生に伝えるのとは全く逆のスタイルとなってい
て、学生自信の学修管理意識を高めることになる。同時に、指導教員制の活性化、学生と
教員のつながりの強化にもつながるものである。さらに、卒業研究配属時に卒業研究指導
教員へ3年間の達成度評価結果を報告し、引き継がれる。
図 3 達成度評価
13
(3) 学修意欲の低下した学生や引きこもり予備軍の早期発見
上記の指導教員との面談結果は、指導教員から学年担当教員に報告してまとめられ、こ
れをもとに最近増加傾向にある学修意欲の低下した学生や引きこもり予備軍とも言える、
問題をかかえる学生の早期発見と、その後のスムーズな対応を可能としている。同時に、
指導教員には個人差や受けとめ方の差があるのが常であるが、学年担当教員と協力して進
めるため、その差や対応の違いが生じるのを補うことができている。
5 本取組の組織性
2003(平成 15) 年9月より、 情報工学部の一学科でこの取組が始まった。 1年生から
3年生まで約 250 人が対象となっており、学科の全教員が指導教員となっているため、一
教員あたり12名程度の学生と面談し、達成度自己評価の報告を受けている。学年ごとに
学年担当教員が取りまとめ、学科の教育検討会議に報告されている。また、指導教員を通
して上がって来た学生の意見は、授業評価アンケート結果と併用して、学科の教員の授業
改善にも利用されている。さらに、必要に応じて保健センターの学生相談員、カウンセラー
とも連携し、対応している(図 4)。
2004(平成 16) 年度より、 情報工学部の5学科すべてが導入し、 学科ごとに工夫を凝
らして実施している。 また、 学部教育委員会が学部全体の取組をチェックする役割を果
たしている。2006(平成 18)年度より、工学部にも導入され、全学教育委員会主導の下、
全学的な取組が始まった。
図 4 学習成果自己評価シートに基づく履修指導体制
2006(平成 18) 年度より情報工学部にキャリアセンターを設置し、 キャリア形成を推
進している。最終的には、教務情報システム、学習成果自己評価シート、授業評価アンケー
ト、キャリア形成の一体化が望まれている。
今回、提案する取組は、情報工学部を中心に始まった学習成果自己評価制度を、全学的
に普及させることも目的の一つになっている。
6 本取組の有効性
(1)学生自身の取組
工学部、情報工学部の全学生が実施し、学生自身による達成度の継続的点検と学修への
14
反映が行われている。学生達も熱心に取組んでいて、当初の予想以上に定着している。学
習成果自己評価シートは学生各自がファイルに綴じて、4年間の学修記録(ポートフォリ
オ)となっている(写真1)。なお、2005(平成 17)年度に情報工学部の5学科すべてが
受審した JABEE による実地審査においても、極めて高い評価を受け、全学科がそろって
認定を受けている。
写真1 学習記録
図5 履修面談報告例
(2)指導教員制の活性化
教員との面談を実施している学科では、面談に訪れる学生は 90%にも達している(図5)。
15
この結果、指導教員制度が活性化され、オフィスアワーも含め、学生と教員のつながりが
強化されている。学習成果自己評価シートは、工夫次第で学生と指導教員のコミュニケー
ションツールともなっている。
(3)学生相談員、カウンセラーとの連携
さらに、各学科の教員である指導教員、学年担当教員と、保健センターでメンタルヘル
スを担当する学生相談員、カウンセラーとの連携も進めており(図6)、問題を抱える学
生の早期発見にも役立てている(図5)。なお、本学におけるカウンセリング件数は年々、
増加の傾向にあることから、こうした早期発見体制の必要性が見て取れる(図7)。
図6 連携の強化
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図7 本学におけるカウンセリング件数の推移
(4)GPA およびストレート卒業率
GPA やストレート卒業率にも多少の変化が見られてきていて、GPA が低い原因となっ
ている一時の無理な履修申告の習慣を改める効果がある(図8、図9)。まだ、ばらつき
の範囲内ともいえるが、今後も注目して行きたい。
(5)ストレート3年進級率
本学では1年次から2年次には全員が進級するため、ストレート3年進級率を指標とす
ることによって、効果を早く確認できる。機械情報工学科 2002(平成 14)年入学生より
自己評価シートおよび面談を開始したが、この学年より4年連続して進級率が向上してい
る(図 10)。また、工学部の各学科は 2005(平成 17)年入学生より自己評価シートを導入
したが、その学年ではすべての学科で効果が現れていることが見て取れる(図 11)。
16
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図8 卒業時 GPA の推移
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図9 ストレート卒業率の推移
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図 10 ストレート3年進級率
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図 11 ストレート3年進級率(工学部)
7 今後の実施計画
(1)取 組
これまでのシート記録方式は、学生自身が時間をかけて考えながら記入するところに意
義があった。しかし、大学で教務情報システムを見ながら成績を記入し、家に帰って自己
評価を行って履修計画を立て、その後、指導教員のもとへ持参して面談を受けるなど、機
動性に難があるといえる。そこで、学習成果自己評価シートに基づく学生自身による達成
度評価の取組をもとに、学修自己評価・電子ポートフォリオ・システムへと次の手順によっ
て発展させる。
学生の学修意識改革と大学の FD に対する回答は学生の心の内にある。しかし従来
の FD ではそれを十分引き出せない所に問題がある事は、大学改革シンポジウムや各
種教育関係会議で発言されている所である。本学が海外先進教育実践プログラムで調
査を行った先進的な教育改善組織 (CIDR) を持つ米国ワシントン大学 (UW) では、従来
型の FD 活動を廃止し、まさに学生の心底から講義に対する意見を巧妙に引き出す方
法を専門的に開発し構築している。 本取組では UW との連携によって、 日本の学生
に合った方策を考案し、次に開発する統合的な情報システムを用いた学習成果自己評
価システムを構築する。
学習成果自己評価システムを開発し、教務情報データベースからの成績データ取得
機能を備え、さらにこれまで別個に実施してきた、キャリア形成評価機能、学生から
の要望・授業評価アンケート機能、講義出席システム表示機能を付加する(図 12)。
4年間の学修記録を蓄積し、学生本人と指導教員が随時、閲覧可能とする。卒業研究
計画書、卒業研究月間報告を含めて、全学的な電子ポートフォリオに展開する。これ
らは、指導教員、学年担当教員、学生相談員、カウンセラーらもアクセス可能である
ため、メンタルヘルスモニタリングの役割も果たすと考えられる。
上の項目 (1) で述べた UW、学生の意識調査について優れた方法を開発しているペ
ンシルベニア州立大学、工学系大学で優れた教育制度を持つイリノイ工科大学 (IIT)
などの、外部で優れた教育システムを実施している国内外機関の調査を行い、相互に
連携しつつ、また全国的な普及にも取り組む。
18
図 12 学修自己評価・電子ポートフォリオ・システム
初年度は、学習成果自己評価シートの電子版ともいえる学修自己評価システムを含む、
電子ポートフォリオ基本システムについて調査・検討を行い、システムを開発する。2年
目は学習成果自己評価シートの導入経験の豊富な情報工学部に試験的に導入し、学生の利
用状況、効果について調査・確認するとともに、各種機能の追加を並行して進める。3年
目は試験運用の成果を生かしてシステムの改良を行い、工学部を含む全学へと展開する。
(2)期待される効果
入学時からの学生自身の学修目的と動機を明確化する。
カリキュラムの履修計画、達成度の評価、キャリア形成にいたるまで、学修におけ
る学生自身の自己管理能力と学修意識を高める。
学修記録の蓄積、指導教員制の活性化、学生指導における連携体制づくり、引きこ
もり早期発見などの学生支援機能を強化できる。
本取組で得られる学修自己評価システムは、他の大学等における教育改革・改善の
取組に対して、有用な情報を提供できる。
19
2.大学院教育の改革
(1)モジュール積み上げ方式の分野横断型コース
情報工学研究科情報科学専攻 教授 延 山 英 沢
1.はじめに
情報工学部の大学院組織である情報工学研究科では、今年度より「モジュール積上げ方
式によるコース制(略称:モジュール・コース制)」を開始した。これは、情報工学部が
ここ数年来取り組んできた教育改革の一環に位置付けられるものであり、大学院博士前期
課程における教育改革の中心となるものである。
情報工学部では、まず学部の教育改革に取り組み、4 年間の準備期間を経た後、平成 17
年度に JABEE(日本技術者教育認定機構)審査を受審し、全国初めての全学科同時認定
という快挙を達成した。そして、学部教育の JABEE 認定に留まらず、ただちに大学院教
育の改革に取り組むこととし、 平成 18 年度に大学院改革ワーキンググループを組織し、
大学院教育の実質化のための議論を開始した。その議論の積み重ねの結果として考案され
たものが、今回導入した「モジュール・コース制」である。
一方、中央教育審議会の答申(平成 17 年 9 月)「新時代の大学院教育−国際的に魅力あ
る大学院教育の構築に向けて−」では、大学院教育の実質化の重要性と必要性が指摘され
た。文部科学省はこの答申を踏まえ、大学院振興施策要綱を作成し、大学院設置基準を改
正すると同時に大学院における優れた組織的・体系的な教育の取組への支援を決定し、そ
の支援策として、本年度から「大学院教育改革支援プログラム」の募集を開始した。情報
工学研究科では、平成 19 年度に導入したモジュール・コース制を中心とする大学院教育
改革の内容を「モジュール積み上げ方式の分野横断型コース」教育プログラムとしてこれ
に応募し採択され、平成 19 年度∼平成 21 年度の 3 年間の支援を受けることが決定した。
2.教育プログラムの概要
情報工学研究科では、大学院教育の実質化を目的とし、コースワークの新たな枠組みと
して「モジュール積み上げ方式による分野横断型コース制」というコース制を考案し、平
成 19 年度に大学院博士前期課程の全専攻をあげて運用を開始。 合わせて、1 年間を 4 分
割するクォーター制の導入と研究開発計画書・報告書制度を実施し、教育研究支援体制の
強化を図っている。
(1)新たな枠組みとしてのモジュール・コースシステムの導入
時代の要請に応じて社会の求める人材育成を行うためには、学問的体系の観点からの専
門知識だけでなく、キャリアパスの観点からの実用的・汎用的知識を身に付けるための教
育が必要である。そのためには、専攻内で学問的体系を主専攻として学ぶのと同時に、キャ
リアパスの観点から設定されたコースワークを一種の副専攻として学ぶという教育体制を
20
とることが有効な手段となる。本件で導入するモジュール・コースシステムは、これを実
現するための方策として、キャリアパスを意識した学際的な知識と技能を身に付けること
のできるコースワーク設定の枠組みを与えるものであり、時代の要請に呼応できるような
柔軟性と機動性を持つことがその特徴である。ここでいうモジュールとは、学習教育上の
一つのまとまった目的を達成するための 3 科目程度からなる科目群のことであり、コース
とは、数モジュールの組み合わせで構成される体系的なコースワークプログラムのことで
ある。「モジュール積み上げ方式による分野横断型コース制」とは、このような構成でコー
ス設定を行う方式のことをいい、次の特徴をもつ。
1. 各モジュールは、各科目での達成目標を積み上げ、数科目で達成できるようなメタな
目的を設定し、その目的に合わせて専攻・分野横断的に必要な科目を組み合わせて作
る。
2. 各コースは、修了後のキャリアパスを意識し、出口(修了時)において身に付ける知
識・技能を明確化して設定し、その目的に必要なモジュールの組み合わせ(と必要に
応じた個別科目)で構成する。各コースは、モジュール自体が専攻・分野横断的であ
ることに加え、キャリアパスを意識した設定としているところから必然的に学際的な
科目設定となる。
3. モジュール化は、全専攻にばらまかれている科目を下から系統的にまとめ上げるとい
う、いわばボトムアップ的な部分的体系化であり、キャリアパスの観点からのコース
化はトップダウン的な体系化である。このトップダウンとボトムアップとを組み合わ
せた方式であることが柔軟性と機動性を生む。たとえば、コースの開設・改廃は、専
攻組織やコース全体の構成を変えることなく、モジュールの改廃、組み合わせの変更
等を行えばよい。
情報工学研究科では、 全専攻をあげてこのモジュール化とコース化に取り組み、 平成
19 年度に、
「パターン認識モジュール」、
「集積回路設計モジュール」などの 33 モジュール、
および「メディア処理コース」、「LSI コース」などの 6 コースを開設した。
(2)クォーター制の導入と研究開発計画書による教育研究支援体制の強化
前後学期をそれぞれ半分にして1年を 4 分割し、同一科目を週 2 回教えることを前提と
したクォーター制を平成 19 年度から試行的に導入した。技術革新の進歩が早く専門領域
が細分化されていく中、積上げ型科目の配置が容易になるクォーター制は、学生が体系的
に専門知識を獲得するのに有効な手段となる。さらに、1度に履修する科目が半減する、
学期末試験を分散化するなど、学生の負担軽減による学習効果の向上が期待できる。また、
学生は入学時に研究開発計画書を、各学期には研究開発報告書を指導教員に提出すること
を義務付けている。これにより、学生の履修計画、研究計画、研究進捗状況を定期的に把
握し、修了までの適切な履修研究支援を行うことが可能となる。
21
3.情報工学研究科における教育の課程
3.1 人材養成目的
本学の開学以来の理念は、「技術に堪能なる士君子」の育成である。その上で、情報工
学研究科 [ 博士前期課程 ] の人材養成目的は学則により以下のように規定されている。
❖ 情報工学研究科の人材養成目的:コンピュータと情報システムを基盤とし、さまざま
な産業分野や人間生活に資する高度な技術開発や創造性豊かな研究に携わる人材を組
織的に養成する。
❖ 博士前期課程では、情報科学・工学の知識を基礎とし、問題を発見し解決する能力及
び論理的コミュニケーション能力を身に付けた上で、各専門分野で活躍できる能力を
習得させることを目標とする。
3.2 身に付けさせる知識・技能
情報工学研究科では、上記人材養成目的を達成するために、博士前期課程の学生が身に
付けるべき知識・技能として学習教育目標を設定しており、研究科全体の共通の学習教育
目標は次のとおりである。
❖ 情報工学研究科に共通の学習教育目標:21 世紀をリードする情報技術者として、バラ
ンスの取れた総合的開発能力を身に付け、技術に堪能なる士君子として社会において
活躍することを目標とし、その達成のための基礎として、共通で以下のことを学ぶ。
技術者としての豊かな国際性、社会性、倫理観
情報科学・工学および各分野で必要な基礎学力
個人の問題発見能力、問題解決能力
英語を含む論理的なコミュニケーション能力および共同で問題解決に当たれ
る能力
この研究科共通の学習教育目標に加え、各専攻・分野では個別の学習教育目標が設定さ
れ、各コースでは、コースにおいて身に付けさせる知識・技能がコース説明とモジュール
の目的として示してある。
3.3 目的に沿った体系的な教育課程
(1)知識・技能を体系的に身に付けさせる教育課程
❖ 研究科共通の学習教育目標について:情報工学研究科は、全専攻共通に修士論文に対
応する「特別実験及び演習」と定期的に学内での研究発表を行う「講究」が課せられ
ている。これらにより、学習教育目標
,
,
を身に付けることができる。また、
「特
別実験及び演習」と「講究」以外の科目は、情報基礎科目と対象分野科目に分かれて
おり、情報基礎科目を 8 単位以上取得しなければならない。これにより学習教育目標 (B)
を身に付けることができる。
❖ コースで設定されている知識・技能について:今回導入した「モジュール積上げ方式
による横断型コース制」は、それぞれの目的をもったモジュール(3 科目程度の科目群)
を組み合わせてコースを構成するという、コースワークの体系化を行うための枠組み
である。そのため、コースで身に付けるべき知識・技能はモジュールを習得していく
22
ことにより体系的に身に付けることができる仕組みとなっている。たとえば、今年度
開設された「メディア処理コース」は、「パターン認識モジュール」、「グラフィックス
と応用モジュール」、「画像処理モジュール」で構成され、これらのモジュールを習得
することにより、コースで必要な知識・技能を体系的に身に付けることができる。
(2)学位授与までの教育のプロセス管理
情報工学研究科では、以下の計画書・報告書および教務情報システムを用いて学生の研
究、履修状況を把握し、学位授与に至るまでのプロセス管理と適切な支援を行える体制と
なっている。
❖ すべての学生は大学院入学時に「研究開発計画書」を指導教員に提出し、その後は各
学期の最初に「研究開発報告書」を提出することを義務付けている。研究開発計画書
には、研究・開発の概要、年度計画、履修計画を記入し、研究計画報告書には、さら
に研究・開発の進捗状況と指導教員評を記入することになっている。
❖ 学務関連の情報管理システムである「教務情報システム」により、教員が指導学生の
履修状況をいつでもチェックできる体制となっている。
(3)教育方法の工夫
情報工学研究科では、次のような教育方法の工夫を行っている。
❖ 履修指導:上記のように研究開発計画書・研究開発報告書を用いた指導を行っている。
❖ 複数指導教員制:学生一人に対し、主指導教員 1 名、副指導教員 2 名が指導に当たっ
ており、副指導教員は講究や研究開発報告書を通した研究指導を行う体制となってい
る。
❖ Real PBL の単位化:実社会における現実の課題を地域社会や企業に入って解決策を探
求していくフィールド授業としての Real PBL を推進し企業演習として単位化してい
る。
❖ クォーター制の実施:1 年間を 4 つに区切るクォーター制を導入している。1 度に履修
する科目数の半減、期末試験の分散化など、学生の負担軽減による学習効果向上が期
待できる。
4.教育プログラムの内容
4.1 人材養成目的及び教育の課程に沿った教育プログラム
情報工学研究科の人材養成目的は、コンピュータや情報システムに関する知識・能力を
基盤として持ち、時代の要請に応え様々な分野で活躍できる即戦力の学生を養成すること
である。そのような人材育成のためには、学問的体系の観点からの専門知識を身に付けた
上に、キャリアパスの観点からの実用的・汎用的知識を身に付ける教育をする必要がある。
情報工学研究科では、設置以来、専攻の科目体系を「情報基礎科目」と「対象分野科目」
に分け、情報基礎の上に各専門知識を身に付けるという学問的体系の観点からの人材育成
を行っている。これに対して、今回のモジュール・コース制は、キャリアパスの観点から
の教育の体系化を行うものである。学問的体系を基準にした主専攻を 1 次専攻、主専攻と
は全く異なる分野の副専攻を 2 次専攻と呼ぶならば、今回のモジュール・コース制は「1.5
23
次専攻」とも呼ぶべきものである。実際のコース設計としては、主専攻をベースにしたキャ
リアパスを想定し、そのキャリアパスの観点からトップダウン的にコース設計する。そし
て、主専攻では賄い切れない部分(1/3 程度)を他専攻から分野横断的に補うことにより、
キャリアパスを意識したコースを実現するという、主専攻とは完全には離れている形では
ない副専攻としている。学生は、1 次専攻の修了要件を満たした上で 1.5 次専攻としてのコー
ス履修をすることにより、学際的で実用的・汎用的な知識・能力を身に付けることができ
る。システムとしては、モジュールという概念を入れることにより、コースとしての柔軟
性・機動性が発揮される構造となっており、時代の要請に応え即戦力学生を養成するとい
う人材養成目的に沿ったものとなっている。
また、主専攻だけの専攻内で閉じた人材育成ではなく、キャリアパスの観点から必要と
なる学際的な分野の教育を行うシステムである。一つのモジュール内でも複数の授業によ
り専門が組立てられており、各モジュールがそれぞれに設定しているメタな目的は、社会
に求められる知識・技能の一つを身に付けることに対応している。さらに、各モジュール
は他のモジュールと組み合わさってコースとなることで、実用的・汎用的な知識を獲得で
きる。
平成 19 年度には、次のような 33 モジュールと 6 コースを開設した。
❖ 平成 19 年度開設モジュール:パターン認識、グラフィックスと応用、画像処理、集積
回路設計、LSI 設計手法、半導体製造、メカトロニクス制御、ロボティックス、コンピュー
タサイエンス、機械学習・発見、アルゴリズム設計、並列・分散システム、電子物性、
回路システム、ネットワーク、光応用、最適化、ロバスト制御、信号処理、CAE、非線形・
非平衡、流動システム、動力機械、システム生物学、機能的プロテオミクス、生命医
療工学、生命システム情報学、生物構造情報、ソフトウェアシステム、ビジネス・イノベー
ション、IT スペシャリスト、金型、超精密加工
❖ 平成 19 年度開設コース
●メディア処理コース
本コースでは、メディア情報の認識・理解、変換・符号化、生成などの技術について、
基礎理論から先進的な応用システムまでを系統立てて学ぶことができます。学んだ理論や
技法は、大量の生の情報をリアルタイムに分析して実世界にフィードバックするための技
術として、個人生活の質を向上して安心・安全・感動を与えるための技術として、あるい
は人工的に現実感を作り出し対話・知的エージェントを実現するための技術として高度な
メディア処理システムの構築に役立ちます。
修了基準
次の 3 モジュールを履修すること。
・モジュール 1「パターン認識モジュール」
・モジュール 2「グラフィックスと応用モジュール」
・モジュール 3「画像処理モジュール」
● LSI コース
LSI(大規模集積回路)は、情報化社会を形成するための様々なシステムにおける、必
須の構成要素である。LSI 技術は、現在でも 3 年で 4 倍のスピードで高集積化が進んでい
るが、それは製造技術・設計技術の進歩に支えられている。LSI コースは、半導体の物性
24
をもとに製造プロセスについて学ぶ半導体製造モジュール、どのように種々の LSI がどの
ように設計されるか、さらには、大規模で高信頼な回路を設計するための設計技術につい
て学ぶ集積回路設計モジュール、LSI 設計手法モジュールで構成する。
修了基準
次の 3 モジュールを履修すること。
・集積回路設計モジュール
・LSI 設計手法モジュール
・半導体製造モジュール
●ロボットコース
本コースは、ロボットが活動・行動することをテーマとして、コニュニケーションや環
境認識・理解の技術的なアプローチとして、メカトロニクス制御とロボティクスの2つの
モジュールを構成し、メカトロニクスの制御系設計、プランニング、行動・情動規範、セ
ンサ情報処理を学ぶ。ロボティクスやメカトロニクス分野のヒューマノイド、移動ロボッ
ト、仮想エージェント、複合現実感システムなどの問題や新たな技術について、解決と展
開および可能性を見出すことを目的とし、学部科目の基礎知識とともに従来技術の知識の
構築とその応用技術を修得させる。
修了基準
次の 2 モジュールを履修すること。
・メカトロニクス制御モジュール
・ロボティクスモジュール
●デジタルエンジニアコース
本コースでは、プラスチック射出金型、プレス金型、鍛造金型、鋳造金型の4種類の金
型に関して、設計基準、設計手法、型構造などの基本技術を学ぶ。さらに、金型の製作に
欠くことのできない材料・熱処理技術、解析技術、最新の加工技術を学ぶ。こうした技術
を学ぶことで、製造業全般において生産技術に関するエンジニアとして活躍することがで
きる。
修了基準
次の 2 モジュールを履修すること。
・金型モジュール
・超精密加工モジュール
さらに、次のモジュールから 2 単位以上を取得すること。
・CAE モジュール
●ライフサイエンスコース
ゲノム配列情報をはじめとする各種生命情報の蓄積が著しい今日、生命科学と生物工学
はその枠組みや手法を大きく変貌させている。タンパク質や遺伝子など生命現象の各要素
を個別的、分析的に理解するとともに、生物システムを全体的、総合的に把握する必要が
ある。このような認識に基づき本コースでは、分子レベルから細胞、生物個体など上位階
層までの着実な知識体系と方法論を習得し、またそれをダイナミックに応用する態度を養
う。
25
修了基準
次の 3 モジュールを履修すること。
・システム生物学モジュール
・機能的プロテオミスクモジュール
・生命医療工学モジュール
さらに、つぎの 2 モジュールから 4 単位以上を取得すること。
・生命システム情報学モジュール
・生命構造情報モジュール
●バイオインフォマティクスコース
ゲノム科学、ポストゲノム科学の急速な発展とともに、塩基配列、トランスクリプトー
ム、プロテオーム、メタボロームを含む大量の生物情報が生み出されている。一方、タン
パク質の構造解析技術の発展によって、多数のタンパク質の機能が解明されている。これ
らの多様な生物・生体情報から、生物システムを分子レベルから理解するために必要な情
報科学・システム工学・生物物理学の方法論を習得し、医療やバイオテクノロジーの発展
に貢献できる人材を養成する。
修了基準
次の 2 モジュールを履修すること。
・生命システム情報学モジュール
・生命構造情報モジュール
さらに、つぎの 3 モジュールから 6 単位以上を取得すること。
・システム生物学モジュール
・機能的プロテオミスクモジュール
・生命医療工学モジュール
4.2 他大学院の教育の実質化への波及効果
本モジュール・コース制は、 既存の専攻組織を変えることなく、 専攻の枠を超えたモ
ジュール設定が可能でありさえすれば実施できるため、導入しやすいシステムとなってい
る。このコース制は、主専攻と全く異なる副専攻というのではなく、1.5 次専攻という考
え方での体系化であるため、従来の専攻との相性も良く、大学院教育の実質化を図る一つ
の方策として実現性の高いものである。また、同時に実施するクォーター制や研究開発計
画書・報告書を基にした複数指導教員による定期的履修研究指導は、実質化をさらに後押
しする手段として有効である。とりわけ、モジュール積み上げ方式は、モジュール単位で
も目的を明確化しているため、内(学生)と外(社会)からの評価を促し柔軟な改善・変
更がしやすいという構造をしており、教育改善の PDCA サイクルを回しやすい仕組みと
なっている。さらに、クォーター制の導入は、履修期間の単位が短くなるため、人的流動
性を促す効果もある。このように、本件の内容は枠組みとして取り入れやすく、大学院教
育の実質化としての効果が上げられるものであり、大きな波及効果があるものと期待でき
る。
26
5.おわりに
情報工学研究科において本年度導入されたモジュール・コース制はまだ試行錯誤段階に
あり、今後も大学院委員会を中心として、運営管理システムを確立させていくと同時に、
国際化や外部評価の導入などを進めていくこととしている。
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図:履修プロセスの概念図
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(2)ロレーヌ国立工科大学との国際交流協定締結及び
ダブルディグリー
生命体工学研究科生体機能専攻 教授 塚 本 寛
1.ロレーヌ国立工科大学との国際交流協定締結
本学では、 フランスのナンシー工科大学と平成 15 年 5 月に国際交流協定を締結した。
学術交流が 5 年目を迎え学生の教育連携が軌道に乗ってきたことを踏まえ、ナンシー工科
大学から、ダブルディグリー協定の提案があった。また、ナンシー工科大学は組織改編に
よりロレーヌ国立工科大学の1部局となったこと、及びナンシー工科大学との国際交流協
定の有効期限(平成 20 年 5 月)が迫っていることもあり、この機会に、ダブルディグリー
協定締結と併せ、 新たにロレーヌ国立工科大学との間で国際交流協定並びに細則を平成
19 年 8 月に締結した。
ロレーヌ国立工科大学(Institut National Polytechnique de Lorrane :INPL)は、フラン
スのロレーヌ地方にあり、以下のグランゼコール7校を統合した国立大学である。
ナンシー工科大学
(The Ecole Nationale Supérieure des Mines de Nancy)
電気・機械工科大学
(The Ecole Nationale Supérieure d Electricité et de Mécanique)
ヨーロッパ物質工科大学 (The Ecole Européenne d Ingénieurs en Génie des
Matériaux)
農業食品工科大学
(The Ecole Nationale Supérieure d Agronomie et des Industries
Alimentaires)
産業システム工科大学(The Ecole Nationale Supérieure en Génie des Systèmes
Industriels)
地質工科大学
(The Ecole Nationale Supérieure de Géologie)
化学産業工科大学
(The Ecole Nationale Supérieure des Industries Chimiques)
学生数 4,000 人(うち博士課程 1,000 人)に対して、教員数 400 人、研究員 160 人、職員
数 430 人という規模であり、学生の 18%は留学生(50 カ国以上)が占めている。
2.交流の経緯
ナンシー工科大学は熱電半導体分野では世界でもトップクラスの研究機関であり、本学
大学院生命体工学研究科の宮崎康次准教授を中心に、熱電半導体の研究交流を通じて、交
流を深めてきた。2005 − 2006 年度には日仏交流促進事業(日本学術振興会)による共同
研究支援も得て、 つながりは一層深くなった。 最近2年間では、 ナンシー工科大学のポ
スドク研究員の 1 ヶ月招聘、インターンシップ生の受け入れ、また、本学の博士後期課程
学生もナンシー工科大学に 1 ヶ月以上滞在し研究活動を行うなど活発な交流を展開してい
る。
ロレーヌ地方は、鉱山を中心とする工業地帯であったが、鉄鋼業の衰退と共に学術研究
28
都市に変わった経緯があり、北九州市と歴史的背景もよく似ている。そのため、ナンシー
工科大学は、熱電半導体のような物質工学系の研究のみならず、化学、バイオ、ナノテク、
情報など幅広い分野で活躍しており、東京工業大学を中心とする電導性ポリマーの研究グ
ループ(本学からは、生命体工学研究科の金藤教授が参加)にナンシーのグループがヨー
ロッパの拠点として加わっている。
従来、ナンシー工科大学は、アジアでの教育を重要視し、中国、ベトナムなどと交流を
深めていたが、学生に人気がなく、日本であれば学位を取得したいと考えている学生は多
い。フランス協定校からのダブルディグリーの提案は、これまでの本学での交流実績が評
価されたものであり、ヨーロッパにおける本学の地位と評判の基盤をつくる格好のチャン
スである。フランスを旧宗主国とする国々の知識階級の子弟はフランスで教育を受け、そ
の中には日本に関心のある者も多く、交流協定締結によるメリットも増すことで、留学希
望者の増加も見込むことができる。ルノー日産をはじめとした日系企業の進出は、日本文
化を理解するフランス人、アジアを理解するフランス人が熱望されている背景も伺え、さ
らには、日本企業への就職希望者への雇用確保に寄与することも期待される。日本におい
ては英語圏やアジア圏との協定に重点を置く大学が多く、EU 諸国の中心であるフランス
で常にトップ 10 に位置づけられるナンシー工科大学を含むロレーヌ国立工科大学との協
定締結は、本学の国際的地位を確実に向上させ得るものである。特に、両国の現地法人へ
の就職を考える者にとっては、当該国での学位取得は能力の証明として価値がある。本学
においても学生の派遣、受入は、共に、学生に異文化体験・相互理解をはじめ、外国人に
対して物怖じしなくなること、自分の語学能力がまだまだ不十分であることなどを実際に
肌で感じ取ることにつながり、国際感覚の涵養にも寄与する。なお、ロレーヌ工科大学が
ダブルディグリーの協定を締結している大学は、世界各国の大学であり、今回のダブルディ
グリー協定締結は、欧州における本学の知名度向上、地位の確立につながる。
3.ダブルディグリー(二重学位)
ロレーヌ工科大学からは、日本の修士課程相当の学生を修士として受け入れる。先方の
学務委員会で学生の能力を十分に検討し、 ロレーヌ工科大学が推薦した学生が対象とな
る。本学は、GPA3 以上を要求しており、本学が学生を派遣するときも同様である。語学
については、本学の学生がフランスで勉強するためには、B2 級のフランス語能力が必要
である。
履修科目及び履修方法は、既存のカリキュラムにより対応するので、学修細則の改正や
特別なプログラムは特に設けない。生命体工学研究科では、英語で対応する授業(専門科
目 26 単位)が用意されており、たとえ日本語が理解できなくとも、英語を理解できる学
生であれば、英語対応の授業を受ければ十分修了できる単位数(修了要件専門科目 18 単位)
となっている。また、学則上でも、他の大学院での履修科目の認定を 10 単位まで認めら
れているので、ロレーヌ工科大学で修得した単位の認定によって、より修了要件を満たし
やすくなる。
ただし、双方の学位認定は自動的に与えられるものではなく、あくまでも各研究科で取
得単位が認定される必要がある。相手方での取得単位が修了要件として認められるかどう
かは各研究科に委ねられる。したがって、二重学位取得のためには、事前に、指導教員と
29
の綿密な打ち合わせが必要となる。
研究指導については、ケースバイケースと思われるが、2 年間は基本的に受け入れ側で
すべて行うことになる。ロレーヌ工科大学では、1 年半が授業、6 ヶ月が指導教員におい
て研究を行う期間になっている。
学位審査は、双方の研究科で認定し、双方で審査を受けることになる(あるいは、審査
は 1 回のみで審査員が先方に出向くことも考えられる)。通常、両方の学位を取得するの
に要する期間は、本学2年+ロレーヌ工科大学2年=4年である。しかし、現在、先行導
入している他大学研究科では2年半∼3年で設定し、 二重学位プログラムを実施してい
る。本学でもそのようになることと思う。原理的には、最短 2 年間で取得可能であるが、
現実には、双方の研究科が認定する単位を 2 年間で取得するには、相当の努力が必要で、
平易ではなく、指導教員による適切な指導が必要である。
4.制度導入の必要性及び期待される効果等
本学大学院は、幅広い国際的視野と教養及び技術者倫理を身に付けた「技術に堪能なる
士君子」としての高度技術者の養成を基本的な教育目標としており、国際的視野を体得さ
せるために、これまで複数の海外の大学と交流協定を結び短期の学生交流を行ってきた。
今回導入するダブルディグリーにより学生等を長期間海外の大学院等に派遣し、学位取
得や専門分野の研究を行わせることにより、国際社会に貢献できる人材の養成及び本学の
国際競争力の強化を図る。
日本においては英語圏やアジア圏との協定に重点を置く大学が多く、EU 諸国の中心で
あるフランス一流校の常にトップ 10 に位置づけられるナンシー工科大学を含むロレーヌ
国立工科大学との協定締結は、本学の国際的地位を確実に向上させ得るものである。
特に、両国の現地法人への就職を考える者にとっては、当該国での学位は能力の証明と
して価値がある。
本学においても学生の派遣、相手側学生の受入は、共に、学生に異文化体験・相互理解
をはじめ、外国人に対して物怖じしなくなること、自分の語学能力がまだまだ不十分であ
ることなどを実際に肌で感じ取ることにつながり、国際感覚の涵養にも寄与する。
なお、ロレーヌ国立工科大学がダブルディグリーの協定を締結済みの大学は、いずれも
各国のトップクラスの大学であり、今回のダブルディグリー協定締結はそれらの大学と同
列であることの証でもあり、欧州における本学の知名度向上、地位の確立につながると期
待できる。
5.制度の概要
(1)学生の身分
① 両大学において正規の学生の身分を有する。( 海外との二重学籍 )
原則として両大学を修了するまでの間相互に学籍を有する。
② ロレーヌ国立工科大学学生については、 協定に基づく「正規学生(外国人留学生)」
として取り扱う。
③ 学生がロレーヌ国立工科大学で教育及び研究指導を受けている期間は、「留学」とし
て取扱い学則に基づき研究科長が留学を許可する。(ロレーヌ国立工科大学学生が本
30
学へ入学後、 そのままフランスで教育及び研究指導を受ける場合も「留学」 として
取り扱う。)
(2)交流人数・授業料等
① 交流人数は、毎年5名以内とする。
② 授業料等については、検定料、入学料及び授業料は、相互不徴収とする。
その他必要となる、施設関係使用料、渡航費、生活費等は自己負担
(3)教育上の支援体制
どのような内容を学修し、最終的に論文を作成していくのか、派遣前から受入れ予定
教員間で連絡を取り合い、派遣後も、研究指導をスムーズに進められるよう十分な準備
を行う。
両大学に指導教員を配置し、派遣前から協力して教育研究指導にあたり、教育研究活
動が円滑に進められるようにする。
両大学の指導教員は研究の進捗状況を相互に確認し、効率的に進められるようにする。
(4)受入れ条件等
① ロレーヌ国立工科大学等学生を受け入れる場合
先方からの推薦を受け、修士相当の学生を入学資格の確認・選考を行う。
生命体工学研究科において、授業の一部は英語対応も可能である。
② 本学学生を派遣する場合
推薦した者をロレーヌ国立工科大学等で選考の上、入学者を決定する。
一般的に派遣する場合、原則として B2 レベルのフランス語能力が必要となる。
フランス語短期集中講座等がフランスにて実施されるが、研究については十分な英語
能力があれば可で、優秀な学生を選んでからフランス語を習得させる方針である。
派遣時は、取得を目指す学位を確認する。
生命体工学研究科では修士1年後半(または2年次)からの派遣を予定しており、派
遣時までに30単位のうち24単位を修得させた後、1∼2年程度派遣する予定で
ある。
(5)授与される学位
① 九州工業大学:修士(工学)Master of Science
② INPL:Diplôme d Ingénieur(技師国家資格)又は Diplôme National de Master(修士)
本学学生は、派遣に際しどちらの学位取得を目指すのか、事前に打ち合わせることと
なる。
※「Ingénieur」:EC 各校が授与するエンジニア資格 Diplôme d'Ingénieur
EU 規格の Master(修士号)に相当するものであり、フランスの公的機関であるエン
ジニア資格委員会 CTI(Comission des Titres d'Ingénieur)が認定した 233 校のみが授
与できる、非常に限られた資格。
31
この資格を持つ者は特別に Ingénieur diplômé と呼ばれ、就職先を探す際や、社会に
出たあと非常に重宝され、即戦力として活躍する。
(6)修了要件
① 在学期間及び修了要件並びに審査基準は、両大学の規定等に基づく。
なお、本学の場合、大学院設置基準、学則のよる「優れた業績を上げる」ことが満た
されれば、 1年以上の在学期間で修了できる。 ただし、 在学期間のうち「留学」 の
期間を除き、本学において 1 年以上の教育及び研究指導を受けなければならない。
(7)学位授与の時期
学位授与は、両大学において同時期の授与を予定している。
本プログラムを利用して国際感覚豊かなエンジニアとなってほしいものである。
32
3.社会人教育支援の取組
(1)工学研究科社会人プログラムと社会人修学支援講座
社 会 人 支 援 室 長
鹿 毛 浩 之
工学部物質工学科 教授 1.はじめに
本学大学院工学研究科では、平成19年4月から、平成18年度より開設されている同
研究科の社会人プログラムの実践科目と各専攻の専門科目を利用して社会人修学支援講座
を新たにスタートさせた。ここでは、この社会人支援講座とこれを支える社会人プログラ
ムについて紹介する。
2.社会人プログラム開設の経緯
すでに職業を持つ社会人がほとんど在籍しなくなり、その存在価値が問われ続けてきて
いた工学部の夜間主コースが平成17年度末をもって廃止される見通しとなるに伴い、こ
れに代わる大学の社会貢献として、平成17年6月初めに工学研究科では「工学研究科博
士課程社会人履修コース案」がまとめられた。この案は、社会人教育の高度化・多様化の
必要性を認識し、近隣企業185社および関係公共機
関3機関にアンケート調査を実施するなどの準備のも
とに立案されたもので、そこには有職者に対してより
高度な専門教育を行うことを目的とした単位制の社会
人コースの設置、さらに有職者の再教育及び継続教育
を目的とした「技術者大学院講座」と「スーパーティー
チャーズカレッジ」 の開設が盛り込まれた。 その後、
文 部 科 学 省 か ら 夜 間 主 コ ー ス の 廃 止 と、 社 会 人 履 修
コースの設置の方針が認められたことから、本コース
の開設準備のために、工学研究科長の下に社会人支援
室を設置し、平成17年7月から平成18年3月の間
に8回にわたる打ち合わせを行い、なんとか平成18
年度からの開設に間に合わせることができた。 なお、
社会人支援室は工学研究科機械知能、建設社会、電気、
物質、機能システム創成の各専攻と、人間科学、数理
情報の両教室からの各1名に、工学研究科長より室長
を拝命した私の8名で構成された。
その後の文部科学省とのやり取りから、現行制度で
は単位制が不可能なことが判明し、代わりに長期履修
制度を利用するものとなったり、「社会人コース」 の
名称が、現状の工学部のコースと紛らわしいため、
「社
33
図1 社会人プログラム紹介パンフレット
会人プログラム」と変更するといったような若干の紆余曲折はあったものの、ほぼ当初の
案に近いものができ上った。図1に社会人プログラム紹介用のパンフレットの表紙デザイ
ンを示す。
3.社会人プログラムの概要
工学研究科では、すでに昭和 63 年度から大学院設置基準第 14 条に定める教育方法の特
例措置による昼夜開講をはじめとして、大学院における履修形態や教育方法の弾力化を図
り社会人学生の受け入れを実施してきたが、昨今の社会を取り巻く変化を踏まえ、大学院
に求められている企業からの多様なニーズを反映させ、高度な大学院教育、研究指導によ
る社会人の再教育の場を提供するとともに円滑な学位授与の促進を行うことを目的として
新しく本プログラムが作られた。
本プログラムの主な特徴は、以下のとおりである。
①
社会人学生に適した新たな専門科目を新設するとともに、平日夜間、夏期集中、土
曜日など、開講形態を多様化した。
②
職場に関連した研究テーマを利用する「特別応用研究」の新設により、修了までに
必要な単位を取得しやすくし、開講形態の多様化とともに、柔軟な履修計画を可能
とした。
③
実社会において業務上必要となる高度な知識や能力の向上を図ることを目的とした
実践科目を開設した。
④
社会人の履修を考慮して、従来昼間に実施していた専門科目の一部を夜間に開講す
ることとした。
⑤
職業を有していることによって修学、研究時間が十分に取れないことが懸念される
場合には、
「 長期履修制度」を利用することにより、標準修業年限の 2 倍(すなわち、
博士課程前期で4年、同後期で6年)の年数を限度として在籍し、その間、計画的
に教育課程を履修し、柔軟に授業料を納付することを可能とした。
4.社会人プログラムの提供科目
次に、新設された社会人向け科目をそれぞれ簡単に紹介する。なお、これらの科目のう
ち、実践科目及び専門科目の多くは、社会人プログラム対象外の一般の大学院学生も受講
することが可能であるため、一般学生にとっても受講の機会が広がるメリットは大きい。
(1)特別応用研究
「特別応用研究」は、職場での対応科目(コラボレーション科目)で、職場でこれまで
に経験してきた実務的・研究的内容に関し、教員とディスカッションして理解を深めてい
くための科目である。この科目により、博士前期課程では 6 単位、博士後期課程では 4 単
位をそれぞれ取得することができる。博士後期課程では4単位以上の講義等の履修が義務
付けられているが、これが総て特別応用研究によって取得できるようにしたことから、き
わめて円滑な学位取得が可能となった。
(2)プレゼンテーション科目
国際会議、学会等での口頭発表を通じて、研究成果のまとめ方、論文執筆や口頭発表の
34
方法等について教員から指導を受け、これらの改善を図る科目で、この科目により 2 単位
を取得することができる。
(3)実践科目
実社会において業務上必要となる高度な知識の習得や能力の向上を図ることを目的とし
て、以下の科目を提供している。
特許・MOT
MOT 特論 知的財産論
理数 ・ 情報系
情報基礎特論 現代数学特論 現代物理学基礎特論
教養 ・ 語学系
総合技術英語 経済学特論 国際関係概論 近代ヨーロッパ産業文化特
論 批判的テキスト理解
(4)社会人新設専門科目
各専攻において新設された専門科目は以下のとおりである。
機械知能工学専攻
実用熱流体学特論 実用金型新加工法特論 適応材料学特論
制御系 CAD 入門 応用構造解析特論
建設社会工学専攻
地盤シミュレーション工学 景観デザインの歴史的展開と展望
電気工学専攻
先端半導体デバイスプロセス特論 先端電気エネルギー特論
先端エレクトロニクス特論 先端通信特論
物質工学専攻
ナノ材料化学特論 環境 ・ 資源リサイクル論 材料科学特論
計算材料学特論
機能システム創成工学専攻
マテリアル・ナノテクノロジーフロンティア 先端半導体とそのプロダクトシステムへの応用
(5)社会人対応専門科目
さらに、社会人に対応するため、従来から用意されていた以下の科目についても夜間履
修を可能とした。
機械知能工学専攻
弾性力学特論 伝熱学特論
建設社会工学専攻
構造工学特論 道路交通環境 数値水理学 地盤防災工学特論
電気工学専攻
知的センシング特論 環境電磁工学概論 電気物性特論 電力工学基礎特論
物質工学専攻
粉体の科学と工学 界面工学特論 金属相変態特論 金属マテリアル加工学特論
機能システム創成工学専攻
物質高次元構造解析学特論 電磁パワードライブシステム工
学特論
5.長期履修制度について 通常の課程学生と異なり修学上様々な制約を受ける社会人に対しては、長期履修制度を
利用することで標準修業年限(博士前期課程 2 年、博士後期課程 3 年)を超えて一定期間
にわたり、計画的に教育課程を履修し、授業料を納め修了することを認めることとした。
なお、現在、博士前期課程1名、博士後期課程3名がこの制度を利用している。(平成
19年10月1日現在)
35
表1 博士前期課程修了時までに各年毎に支払う授業料の納付方法の一例
区分
1 年目
2 年目
3 年目
4 年目
(年間)
535,800 円
535,800 円
(半期)
267,900 円
267,900 円
長期履修
(3 年)
を (年間)
希望した場合
(半期)
357,200 円
357,200 円
357,200 円
178,600 円
178,600 円
178,600 円
長期履修
(4 年)
を (年間)
希望した場合
(半期)
267,900 円
267,900 円
267,900 円
267,900 円
133,950 円
133,950 円
133,950 円
133,950 円
通常の課程学生
計
1,071,600 円
1,071,600 円
1,071,600 円
(上記の金額は平成 19 年度額)
6.社会人修学支援講座の概要
平成17年6月にまとめられた「工学研究科博士課程社会人履修コース案」には当初よ
り、上述したように有職者の再教育および継続教育を目的とした「技術者大学院講座」と
「スーパーティーチャーズカレッジ」の開設が考えられていたが、平成18年4月の社会
人プログラムのスタート時には、これと同時の開設は見送られた。これは、社会人プログ
ラムの準備期間が平成17年7月から翌年4月までと短期間であったため、これらの講座
の準備にまでは手が回らなかったこと、さらにこれらの講座が社会人プログラムの開講科
目を利用するものであったため、スタート直後の科目を直ちに外部に開放することに不安
があったことなどが、主な理由であった。しかし、社会人支援室では、平成18年4月の
社会人プログラムのスタートを待って、平成19年4月からの「技術者大学院講座」と「スー
パーティーチャーズカレッジ」のスタートに向けて、再び準備に入った。そして、主に企
業技術者向けの「技術者大学院講座」と、中学・高校教員向けの数学、理科(物理、化学)
の再教育プログラムである「スーパーティーチャーズカレッジ」を併せて、「社会人修学
支援講座」として、平成19年4月からスタートさせた。「社会人修学支援講座」は、「技
術者大学院講座」と「スーパーティーチャーズカレッジ」から構成されているが、この両
者は、受講者の主な対象をそれぞれ企業技術者と教員であることを外部に分かりやすくす
るために使い分けているもので、受講資格や制度面での違いは何ら存在しない。
社会人修学支援講座は、工学研究科の社会人向け授業科目を活用していることから、本
講座で単位を取得しておけば、その後大学院に入学した場合には既取得単位と見なされ、
社会人の入学後の時間的負担がさらに軽減される。また、この講座を利用することによっ
て大学院の体験が可能であることから、講座の受講が社会人の大学院入学の呼び水となる
ことも期待される。さらに、在学生に対しても、社会人と机を並べることによって、社会
への視野を広げ、卒業後の自身の社会人像を考える一助となることも期待できる。
また、平成17年度に採択を受けた現代GP「学生と地域から展開する体験型理数学習
開発」では、取り組みの事務局として対外的な窓口の役割も担う「理数教育支援センター」、
学外に開かれた実験教室である「サイエンス体験工房」、さらに小・中・高等学校の教員
36
支援や教員との相互交流を目的とした「スーパー・ティーチャーズ・カレッジ」が取り組
みの主要な3本柱を形成しており、このスーパーティーチャーズカレッジが現代GPの取
り組みにおける学校教員支援の役割の一端を担うことも期待されている。
7.社会人修学支援講座の受講費用と受講資格
社会人修学支援講座についても大学と同様に、単位修得を希望する科目等履修生と、単
位修得を希望せず聴講のみが可能な聴講生の区別がある。しかし、広く受講者を募るため、
本講座では、従来必要だった検定料および入学料を不要とし、さらに科目等履修生の受講
費用を従来の三分の一の9,800円に、聴講生の場合には無料とした。これによって従
来の科目等履修生、聴講生では、ともに1科目(2単位)受講するだけで検定料、入学料、
授業料を含むと67,600円かかっていた費用が、低く抑えられている。
また、社会人修学支援講座の受講資格は、この講座が大学院の授業を活用していること
から「大学を卒業した者、または大学卒業程度以上の学力を有するもの」と規定されてい
るが、本講座の目的には地域支援、社会貢献の面も大きく含まれているので、種々の経歴
を持つ受講希望者に対して広く門戸を開放する意味から、企業勤務経験や社会活動の経験
等を十分に考慮して柔軟に対応することとしている。
8.社会人修学支援講座の提供科目
平成19年度に開講された科目は以下のとおりである。
(1)技術者大学院講座
機械知能工学専攻
応用構造解析特論(前学期)
適応材料学特論(後学期)
建設社会工学専攻
景観デザインの歴史的展開と展望(前学期)
電気工学専攻
先端半導体デバイスプロセス特論(後学期)
先端エレクトロニクス特論(後学期)
物質工学専攻
界面工学特論(前学期)
材料科学特論(前学期 ・ 集中)
機能システム創成工学専攻
先端半導体とそのプロダクトシステムへの応用(前学期)
マテリアル・ナノテクノロジーフロンティア(後学期)
各専攻共通
知的財産論(前学期)
経済学特論(前学期)
MOT 特論(後学期)
近代ヨーロッパ産業文化特論(後学期)
(2)スーパーティーチャーズカレッジ
物質工学専攻
環境・資源リサイクル論(後学期)
各専攻共通
現代数学特論(前学期・夏期集中)
現代物理学基礎特論(前学期・夏期集中)
9.おわりに
ここまで、本学大学院工学研究科において平成18年度と19年度に相次いでスタート
した社会人プログラムと社会人修学支援講座について紹介してきた。若年人口が次第に減
37
少し、社会の流動性の高まりによって社会人の転職の機会が増加し、中途退学・退職者の
再チャレンジにも注目が集まる昨今の社会情勢下では、大学および大学院における社会人
教育の重要性はますます増大してくるものと考えられる。そのような意味では、今回の社
会人プログラムと修学支援講座の開設は極めて時宜を得たものであろう。実際、これらの
プログラムの開設に伴って、平成18年度、19年度には特別教育研究経費「工学研究科
における社会人教育の高度化と社会人継続教育への取り組み」が、平成19年度、20年
度には再チャレンジ支援経費として申請された特別教育研究経費「社会人教育プログラム
を活用した技術者再チャレンジ支援」がそれぞれ採択されたことからも、このような時代
の到来が強く実感される。これらの採択によって、前者の予算では18年度に遠隔講義シ
ステムの設備整備が、19年度には教育支援システム整備として50台弱のPCを附属図
書館に入れることができた(図2)。また後者については、平成19年度には21名分の
授業料減免の予算等が、また20年度には10名の授業料減免に加えて再チャレンジを支
援するコーディネーターの経費が認められた。この減免措置によって、受給者に対する収
入の制限等の問題は依然残ってはいるが、修学費用に余裕のない社会人に対しても経済的
支援の道が開かれたので、是非積極的に利用してもらいたい。
図2 附属図書館に整備されたPC
社会人プログラムと修学支援講座は開設間もないこともあり、 宣伝も未だ不十分であ
ると思われるにもかかわらず、社会人プログラムを利用している学生は平成18年度及び
19年度共に10名、また修学支援講座の受講者は平成19年度の科目等履修生が3名、
聴講生が8名を数え、まずまずの受け入れ状況となっている。今後さらに社会への周知と
浸透が必要であり、改良を加える必要のある問題点もなお残っているのではないかと考え
られるが、将来に向けての社会人に対する本学の在り方について一つの方向性を示すこと
ができたと考えている。
38
(2)社会人教育への取り組み
−北部九州高度金型中核人材育成プログラム−
先端金型センター 教授 鈴 木 裕
1. はじめに
2007年から始まる団塊の世代の退職問題、あるいは若年層の高い失業率が、日本の
製造業の競争力低下につながるという懸念から、中核人材育成コンソーシアムが開始され
ようとしている。このコンソーシアムは、すべての製造業を対象としたものであり、個々
の製造業において必要となる人材育成を産学官共同で行い、プロジェクト終了後も、大学
に教育体制を存続していくことが義務づけられている。
これに対し、北部九州地区では、自動車産業の進出が著しいことから、自動車の生産に
欠くことのできない金型を対象とし、 金型産業における中核人材育成を目的としたコン
ソーシアムを平成17年度より実施している。金型の種類に関しては、プレス型、プラス
チック射出成形型、ダイキャスト型、鍛造型を対象とし、金型のソリッド設計技術、構造
解析および成形解析技術を駆使し、金型の設計効率化に寄与できる人材の育成を目標にし
ている。
本稿では、北部九州高度金型中核人材育成プログラムを計画するに至った背景と、プロ
グラムの内容に関して紹介する。
2. 九州地区への自動車産業の進出と産業政策
九州地区への自動車産業の進出は、図1に示すように、1975年福岡県京都郡苅田町
へ日産自動車(株)が進出したのが最初になる。その後、福岡県宮田町へトヨタ自動車九
州(株)が、近年は大分県中津へダイハツ車体(株)が進出し、さらにトヨタ自動車九州、
ダイハツ車体(株)が相次いでエンジン量産工場の新設を行っている。自動車の総生産台
数は、近い将来100万台を超え、150万台に達することが確実となっており、自動車
部品あるいは金型の調達が大幅に増えることが予想されている。
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図1 北部九州への自動車産業の進出
39
これに対し、図2に示すように福岡県を中心として、自動車生産拠点の構築を目指し、
平成15年2月に「北部九州自動車100万台生産拠点推進会議」が結成されている。平
成16年には、企業204社、21団体、41市町村が参画し、インフラの整備、企業誘
致、地場産業の参入促進を組織的に取り組んでいる。
北部九州地区には、図3に示すように、各種の種類の金型を生産する企業が集積してい
る。しかしながら、ICのリードフレームあるいはモータコア等の精密プレス金型を生産
する企業が多く、自動車用金型を生産する企業は多いとはいえない。特に大型のプラスチッ
ク射出成型金型やダイカスト金型を生産する型メーカが少ないのが現状である。九州外か
ら自動車用部品を調達していては、輸送時間・コストの面で問題が生じる。したがって、
地元からの部品調達率を大幅に向上させる必要があることが指摘されており、近年県外か
ら、成型メーカ、金型メーカの進出が相次いでいる
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図2 北部九州自動車 100 万台 生産拠点の構築目標
九州地区の金型産業が抱えている人材面や技術面の懸念材料をまとめたのが、図4であ
る。九州地区に限ったことではないが、①熟練技能者の高齢化、②短納期化の影響、③新
技術への対応、④ギャップの存在が挙げられる。①に関しては、2007年問題とされて
いる団塊の世代の退職が迫っており、技術・技能の伝承を急ぐ必要がある。②に関しては、
短納期の実現が優先されるあまりOJT的な人材育成が困難になってきており、さらに成
形不良対策などの重要なノウハウの整理・蓄積が十分でないことが指摘されている。③に
関しては、設備の更新あるいは新技術への取り組みの遅れが指摘されている。④に関して
は、②とも関連するが、現場での経験・ノウハウが十分に設計に反映されていない点、さ
らに2次元設計と3次元設計の混在があり、技術者間でのノウハウの伝達がスムーズでな
くなっている点が挙げられる。
40
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図3 北部九州地域の金型産業の特徴
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図4 北部九州地域の金型産業人材の懸念材料
こうした状況下にある金型産業に対する対策として、①3次元CAD/CAM/CAE
を活用するデジタルエンジニアリング技術の普及と習得、②解析技術を用いることで、型
設計における設計基準に対する技術的裏づけを取る。 同様に成形不良時の対策と原因追
及を進め、データベース化する、③人材育成コースの設置と充実を図る。などが考えられ
る。こうした対策を実現するために、北部九州高度金型中核人材育成プログラムが検討さ
れた。
41
3.北部九州高度金型中核人材育成プログラム
3−1 想定している人材像
北部九州高度金型中核人材育成プログラムにおいて想定している中核人材とは、図5に
示すように「金型の設計・製造などに関する幅広い知識・技能を持ち、短納期化、低コス
ト化、高精度化などの顧客ニーズに対し、自社技術の改善を行いながら、解決案などを見
つけ提案できる人材」と定義付けている。設計・解析技術といったデジタルエンジニアリ
ング技術を身につけ、先端的な加工技術や製造現場のノウハウ ・ 技能に関する深い知見を
有する技術者とも言える。
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図5 育成の対象となる人材と技術
3−2 カリキュラムの構成
図6には、北部九州高度金型中核人材育成プログラムにおいて設定する講座の一覧を示
す。解析の基礎を学ぶ型構造解析講座、4 種類の金型ごとに3次元設計手法と成型解析さ
らには、事例研究を行う 4 講座、3次元設計技術と3次元CAMを学ぶ講座、新加工技術
を学ぶ講座の計7講座から構成される。各講座を担当する大学側の講師は、本学のほかに
熊本大学、北九州市立大学、大分県立工科短期大学校、日本文理大学というように3県の
大学が参画している。また企業側講師も多く参画している。したがって現場での経験が豊
富な講師陣による実践的な教育が可能になる。表1には、各講座でのプログラムの内容と
学習目標を示す。
表2には、 デジタルエンジニアリングに必要な型構造解析講座における講義内容を示
す。金型の構造部の強度および温度解析を行える技術の習得が目標となる。
図7には、プラスチック射出成形金型設計講座で実施される教育内容の概略を示す。型
の設計・製作においてデジタルエンジニアリングを展開する上で、基礎となる3次元ソリッ
42
ド設計技術と樹脂流動解析技術が習得できる構成となっている。事例研究では、九州地区
では生産がそれほど行われていない大型の射出成形金型の設計事例を紹介し、技術面の討
議を行なっている。
この講座は本学が担当している。
図8には、3次元CAMを用いた加工技術実習講座の教育内容を示す。曲面を含む3次
元形状をモデリングした後、ブロック状の素材から3次元形状の直彫りを行う。使用する
工具、加工工程は参加者に提示し、NC情報の生成の後、NC加工を行う。加工物に関し
ては、表面あらさ等を計測し、加工結果の評価を行う。この講座は大分県立工科短期大学
が担当している。
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図6 中核人材育成講座一覧表
表1 人材育成プログラムの内容
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表2 デジタルエンジニアリングに必要な型構造解析講座
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図7 プラスチック射出成型金型設計講座の内容
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図8 3次元CAD/CAMによる金型モデル設計・加工技術実習講座
44
3 年間のプロジェクト期間において、各講座のカリキュラムと教育資材の完成を目指し、
プロジェクト終了後は、本学において、各講座を集約し自立化を図ることになる。
3−3 インターンシップ制度の活用
人材育成において、現場を経験できるインターンシップ制度の実施はきわめて重要にな
る。民間企業が他の民間企業の技術者を受け入れるインターンシップ制度は、前例がなく、
その実施は困難なものになることが予想された。幸いにして、北部九州地区に進出してい
る自動車メーカを中心に受け入れ先があり、平成17年度より実施している。また、金型
製作の工程にあわせて、型設計、製作、組み立ておよび調整の 3 コースを設定することに
なる。
3−4 金型人材育成連絡協議会
北部九州高度金型中核人材育成プログラムに参加する教育機関は、福岡県、熊本県及び
大分県の大学が中心となる。広域にわたることから、人材育成事業の方針を決定し、さら
に進捗状況の管理さらにはアドバイスを行う目的から、図9に示すように金型人材育成連
絡協議会が設置されている。さらに連絡協議会の下部組織として、人材育成事業の企画 ・
取りまとめ ・ 評価、さらには部会間の調整を行う企画委員会も設置されている。企画委員
会は、各講座の担当責任者で構成されている。
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図9 北部九州高度金型中核人材育成における管理体系
45
4.先端金型センターの役割
平成16年12月に、本学情報工学部に先端金型センターが設置された。学内選考を経
て採択された4分野の一つであり、いずれもセンター化されている。平成17年3月に開
所式を行い、活動を開始している。現在は北部九州高度金型中核人材育成プログラムの実
施拠点として、設備の導入更新を行っている。そのほかにも戦略的基盤技術力強化事業「金
属光造形複合加工技術の高度化による革新的金型製造技術の開発」、新生地域コンソーシ
アム「マイクロナノファブリケーション加工システムの開発」、産炭地域振興センター研
究開発事業「ブロック積層法に基づくプラスチック金型製造法の開発」を実施している。
図10に示すようにプログラムが終了する平成20年度からも、金型に関する教育拠点と
しての役割を担う予定である。
地域企業に対する各種講演会,技術セミナーなどの実施
中核人材育成事業の実施
生産技術の研究・開発
産学官連携事業の提案・実施
加工依頼
3次元CAD利用技術者試験会場
社会人向け大学院設置(金型)(H20年度開始予定)
図 10 先端金型センターの役割
5.プログラムの実施
北部九州高度金型中核人材育成プログラムで計画されている実証講座の実施は、初年度
である平成 17 年度より開始している。プログラムで想定した人材の育成数は、7講座合
わせて単年度 50 名、3 年で 150 名であった。 しかしながら、 各講座の受講者数は、 平成
17 年度だけで 80 名を超えており、期待の大きさを強く感じた。図11には、講座の実施
状況を示す。ここでは、3次元ソリッドシステムを用いた型設計を学んでいる状況を示す。
また図12には、大分県で開催された3次元CAMの講座の状況を示す。
46
図 11 三次元ソリッド設計講座の状況
図 12 三次元CAM講座の状況
6.人材育成プログラムの自立化
前述したように、本プロジェクトでは、プログラムが終了する平成20年度には、予算
面も含めて、大学独自でプログラムを継続することが義務づけられている。本学では、平
成18年度にデジタルエンジニアリングコースとして既存の情報工学研究科のなかに設け
ることが認められた。
図13には、デジタルエンジニアリングコースにおいて開講する科目群を示す。新たに
開講する科目は、金型材料熱処理特論とプラスチック射出成型特論以下、金型の種類ごと
の4つの特論と金型経営特論である。加工系、解析系は既存開講科目をあてる。金型系科
目に関しては4科目8単位以上、解析系は1科目2単位以上、加工系は3科目6単位以上
習得することが、コース終了要件となる。社会人が単位を習得しやすくするため、多くの
科目が集中講義形式をとる。その他として、短期間で金型の設計 ・ 製作を学べる専修コー
スの設置も検討されている。図14、15には、学生募集に用いるパンフレットを示す。
47
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図 13 デジタルエンジニアリングコースで開講する科目群
図 14 デジタルエンジニアリングコースパンフレット(表)
48
図 15 デジタルエンジニアリングコースパンフレット(中)
7.おわりに
平成17年度より実施している、 産学官連携高度金型中核人材育成プログラムに関し
て、紹介してきた。プログラム参加メンバーである大分県立工科短大では、金型エンジニ
アリングコースの開設を行い、教育をスタートさせている。また他地域でも、岩手大、群
馬大、岐阜大でそれぞれ学部、大学院での金型教育をスタートさせている。今後は、こう
した教育機関との連携をとりつつ、金型教育内容の充実をはかる必要がある。
49
4.学生支援の取組
サマーキャンプ −学生の学びと育ちを支援する−
保健センター講師 菊 池 悌一郎
1.はじめに
本学では、平成 16 年度より保健センターのカウンセラー(臨床心理士)の常勤化、学
内教員による学生相談員の増員など、学生支援・学生相談の体制を整備してきた。
体制整備の結果、カウンセラーへの相談件数も年々増加傾向にある。また特に近頃は学
生本人の相談に加え、担当教員をはじめとする教職員からの心配な学生についての相談、
あるいは友人学生を心配する先輩や同輩、 後輩の学生からの相談が見られるようになっ
た。このように徐々にではあるが、学内に「悩む学生を見捨てない」という認識や風土が
広まり根付きつつある状況である。
さらに保健センターでは、平成18年度から年 1 回、一泊二日の日程で、合宿研修『サ
マーキャンプ』を企画・開催している。このサマーキャンプでは、自己の理解を深め、他
者との人間関係、コミュニケーションの知識やスキルを身につける機会を提供している。
ここでは、研修の様子と参加した学生の感想を通して、学生の学びと育ちを支援するサ
マーキャンプの取組を紹介する。
2.サマーキャンプの概要
学生のコミュニケーション・スキルおよび知識の
獲得・向上を意図し、合宿形式で集団的、集中的に
学習する機会を提供することを目的にしている。保
健センターのカウンセリング来談者を含め、多くの
学生にとって対人関係のスキルや自己表現の手段を
学ぶことは、自分たちの苦手な面を克服し、その成
長に大きく寄与するものと考えられる。その方法と
して、 心理教育グループ(ボディワーク、 心理劇、
フォーカシングなど)の手法を用いている。またレ
クレーションをとおしても学生同士の交流を促進し
ている。
平成 18 年度及び平成 19 年度のサマーキャンプの日程等は、次のとおりである。
キャンプ
日程・会場
平成 18 年度
「サマーキャンプ2006」
日程:平成 18 年 9 月 27 ∼ 28 日
会場:ホテル海の中道
平成 19 年度
「サマーキャンプ2007」
日程:平成 19 年9月 19 ∼ 20 日
会場:ホテル西長門リゾート
50
サ マ ー キ ャ ン プ へ の 参 加 者 の 募 集 は、 各
キャンパスの各所に図1に示すポスターを掲
示して行い、申し込みは各キャンパスの保健
センター又は保健室に受け付け用ポストを設
置し行った。
また保健センターのスタッフが、センター
によく来所する学生らに個別に参加を呼びか
けた。
「サマーキャンプ2006」参加者内訳
学部生
院生
スタッフ他
5名
7名
6名
「サマーキャンプ2007」参加者内訳
学部生
院生
スタッフ他
11名
2名
7名
3.サマーキャンプの様子
3.1 サマーキャンプ2006(平成 18 年 9 月 27 ∼ 28 日)
1 日目
14:00∼ ホテル到着・オリエンテーション
ホテルに到着後、オリエンテーションで、キャンプの目的や約束事を確認した。部屋割
り後、各自部屋で休憩を取り、15時からの研修に備えた。
15:00∼ 【研修Ⅰ】出会いのワーク ボディワーク
研修Ⅰでは、まず前半に参加者同士がお互いのことを知り合えるよう「出会いのワーク」
を行った。冒頭、部屋に円形になり座り、それぞれの顔が見渡せるようにすると、参加者
全員の緊張感が伝わってきた。そこで、全員に椅子から立ち上がってもらい、次のような
ワークを行った。
①マッピング:「自分の今住んでいる場所」を、部屋
全体を地図にして、その位置をマッピングしていった。
北九州市内やその周辺、飯塚市、福岡市など、自分の今
住んでいる場所を、他の人と調整しあいながら、自分の
位置を決めていく様子がみられた。
51
位置が決まった後、進行役が一人ずつインタビューし場所を確認していった。その後も、
同様にして「出身地」や「行ってみたい場所」をマッピングした。出身地では留学生や外
国生まれの学生もおり、また、行ってみたい場所としては国内や海外だけでなく、月など
の宇宙をあげマッピングする学生もおり、おおいに盛り上がった。
②仲間探し:次のワークもお互いを知るために行った。今度は、声を出さず口をパクパ
クさせるだけでコミュニケーションし、自分の仲間を探
すという内容である。「誕生日の星座が同じ仲間」につ
いて、各人口をパクパク動かし口の動かし方だけで推測
し仲間を探していった。声を出さず口をパクパクさせる
だけであるが、意外と仲間を見つけることが容易である
ことが驚きであったようだ。その他「同じ動物が好きな
仲間」についても行った。
③他己紹介:続いて、二人一組になってもらい、それぞれ自己紹介を行った。自己紹介
ではやりやすいように「自己紹介ポイント」を書いた紙を配布し参考にしてもらった。お
互いの紹介が終わった後、今度は全員の前で、今紹介してもらった相手のことを代わって
紹介する、他己紹介を行った。全員の他己紹介を終えるまで、少々時間がかかったが、途
中でいくつも質問がとびかった。
以上のワークでは、いわばゲーム感覚で、お互いのことを知り合うことができたのでは
ないかと思う。自己紹介というと、一人ずつ自分のことを話していくのだと考え、とても
緊張し、身構えていた参加者もいたようだったが、このような知り合い方もあるのかと意
外に思いながらも安心したのか、いっきに学生たちの雰囲気もリラックスしたものとなっ
た。
研 修 Ⅰ の 後 半 は、「ボ デ ィ ワ ー ク ( 動 作 法 )」 で あ る。
まず、コミュニケーションについて、特に言葉を使わな
い(ノンバーバル)あるいは身体的なコミュニケーショ
ンについての説明があった。工学系の学生たちにはなじ
みのうすい話であったが興味深そうに聞き入っていた。
その後、実際にそのようなコミュニケーションについて
体験するワークを行った。
①ブライドウォーク:目を閉じた状態で部屋の中を
歩き、手探りで二人一組になり、目を閉じたまま相手
の手の感触などから、その相手をイメージし推測して
いった。
②動作法(腕上げ課題):二人一組になり、 一方が
椅子に座り自分の腕を上方へ持っていく動きをする。
もう一人は、動かす人の動きの方向や速さを調整する
のを手伝うようにした。またリラクゼーションの感覚
も体験した。このワークには自分の身体の動きに気づいていくことだけでなく、ペアの相
手の動きをコミュニケーションしながら手伝うという「援助者」としての体験も含まれて
いた。
52
このようなワークは、ほとんどの学生にとって、初めての体験であった。分かりづらい
部分もあったようだが、説明の時と同様に、どの参加者もとても興味深そうにペアで体験
し合っていた。
18:00∼ 夕食 【研修Ⅱ】レクレーション
3時間の研修の後、部屋に戻り休憩。またこの間に、多くの参加者がホテル自慢の大浴
場に入った。博多湾の夜景の見える素敵なお風呂だった。
その後、夕食を兼ねたレクレーションとなった。屋外でバーベキューや花火を行った。
お肉や野菜を焼き食しながら、さらに話は盛り上がった。
そして夜ふけまで、参加者たちの話は続いた……。
2 日目
7時に起床、8時に朝食としたので、大浴場で朝風呂に入る人、砂浜を散歩する人など、
各自思い思いに朝のひとときを過ごした。
9:00∼ 【研修Ⅲ】心理劇
はじまる前は、いくぶんお疲れ気味の表情の参加者
もあったが、いざはじまると前日同様に活発な様子と
なった。この研修Ⅲでは「心理劇」を行った。ウォー
ミングアップとして「体操」、「進化じゃんけん」、「魚
鳥木ゲーム」といった楽しくまた身体をつかうワーク
を行った。
また、二人ペアになり、一方が「親」役、もう一方
が「子ども」役になり、子どもが親にお願いをする場
面などを、即興で演じるということも体験した。このようにして、
「 役割を取って動くこと、
演じること」に徐々に慣れていけるように進めた。
ウォーミングアップに続く、ドラマの部では参加者を、ひとグループ数名になるように
分け、いくつかのグループを作った。そして各グループで、前日のワークで取り上げた「行っ
てみたい場所」を参考にして話し合い、役割を決め、その場面をドラマにするようにした。
あるグループは、宇宙船に乗り月面を旅行し、地
球 を バ ッ ク に 記 念 写 真 を と る と い う 場 面 を 演 じ た。
その他のグルー
プでも、北海道
へ旅行し温泉に
入るといった場
面が演じられ
た。またエジプ
トのピラミッドの内部を探検するという場面を演じ
たグループもあった。ピラミッド探検を指示する「教
53
授」役、危険をおかしピラミッドの内部に深く入っていく「研究員」役、それに同行する
「現地の案内人」役、さらにはピラミッドの奥に眠る「ミイラ」役やピラミッドの入り口
を守る「神像」役など、さまざまな登場があった。ドラマは即興であるので、ピラミッド
の入り口が崩壊し、内側に研究員たちが取り残されてしまうというハプニングに展開した
が、救助隊(の役)が急遽、飛び入りし、無事ピラミッドから救出するという大団円を迎
えた。特にこのグループのドラマでは、登場人物が多かったり、展開がまさにドラマチッ
クであったので、場面に直接関与していない「観客」役の参加者も、笑ったりハラハラし
たりしながら見守り、参加者全体が一体感を持てた。
各グループのドラマの後、参加者が、自分が演じたり、他の人が演じるのを観ての感想
を述べあい、シェアリングを行った。この心理劇もほとんどの参加者にとって初めての体
験であったが、役割を取ること、そして演じることを楽しむことができていた。参加者の
中には、自分がこんなふうに動いたり演じたりできたことに驚いている人もいた。
12時からの昼食の後、荷物の整理、チャックアウトの手続きなどを行った。その後、
ホテルの前庭で記念写真に参加者全員でおさまった。
13:00∼ 施設外活動
施設外活動として、ホテル海の中道に隣接する水族館「マリンワールド海の中道」を見
学した。 水槽のなかの大小色とりどりの魚たち、 ペンギンたちもいた。 そして圧巻だっ
たのはイルカショーである。高くジャンプしボールをはじくイルカの姿はとても美しかっ
た。またアシカのショーも地味ながらなかなかのものだった。水族館では、参加者同士で
いろいろ話しながら、見学する姿が見られた。
見学後、再びホテルに戻り、送迎バスで帰路についた。JR 折尾駅を経由し、戸畑の保
健センターへ戻った。帰りのバスの中ではほとんどの参加者が居眠りしてしまったが、み
んな充実感に満ちた表情であった。
3.2 サマーキャンプ2007
(平成 19 年 9 月 19 ∼ 20 日)
サマーキャンプ2007でも、前年同様、1日目の
研修では、「出会いのワーク」を行った。
2 日 目 の 研 修 で は「 フ ォ ー カ シ ン グ 」 を 行 っ た。
紙 粘 土 を 使 っ て の 粘 土 フ ォ ー カ シ ン グ を 体 験 し た。
フォーカシングでは、感じているが言葉にできない「感
じ」を、そこに注意を向けて、言葉やイメージにして
いくという作業を行う。
数十分をかけて、各自自分の内面と向き合いながら、
粘土で作品を作っていった。部屋は気持ちのよい静寂
に包まれていた。
作品が出来上がった後は、グループごとに鑑賞し合
い、また他のグループの作品も鑑賞した。
54
3.3 学生の感想(抜粋)
「出会いのワーク」の感想
・個人的に自己紹介が苦手なので、今回一番の山場かなと思っていたのですが、他己紹
介だったので緊張せずにできた。
・普段の自己紹介だと緊張するけど、このやり方は楽しくできてよかったです ✌
・言葉で伝えるのではなくて、部屋を使って出身地などを紹介するのが初めてだったの
ですごく新鮮でした。
・自己紹介の形式がとてもおもしろかったです。ゲーム形式で住所や出身、行きたい場
所・理由などを少しずつ理解していき、一人一人の個性を感じることができました。
最後も他己紹介で緊張よりも楽しかったです。普通の自己紹介するよりも一人一人の
ことが印象に残りました。
「ボディワーク ( 動作法 )」の感想
・一番身近な自分の体の感じ方っていうのをしっかり分かってないんだなあってしるこ
とができてよかったです。
・ボディワークでは、自分の体の感じと実際の状態が異なると実感できたし、このワー
クでも他者との会話が多くなって、しっかりコミュニケートできました。
「心理劇」の感想
・人前で何かをする事を私は、苦手としてきたのですが、そういう面を出さずに演じる
ことができた。
・エジプト劇は相当笑えました。私もとびいりで参加できてうれしかったです。
・本当は劇をするのは苦手なんですけどやってみるとみんなおもしろくて笑いがたえな
くてとてもたのしかったです。自分の新しい一面を知る事が出来ました。
・その場でのアドリブや面白いアイデアがぽんぽん出て、予想がつかない展開になって
いくのを見るのは大変おもしろかった。みんなうまい。
・一番おもしろかったし、一番印象に残った。演技をすることで、あそこまで役者の心
理が想像できるとは思わなかった。なかなか興味深かった。
・最初に軽く 1 対 1 で、お題をもらって話をするのは何もない所から話を作ってすすめ
るのは結構たのしかったし、次に団体でやった。心理劇はシナリオが人によって、きゅ
うに展開が変わりやっている方も見ている方も楽しかったです。
・シチュエーションを考えるのが楽しかったですし、他の人の考えたシチュエーション
もなかなか楽しめました。笑いあり、シリアスあり、のストーリー展開でお腹が痛く
なるほど笑いました。 自分だけでなく、 他の人もみなさん笑顔でやっていたのが印
象的です。最後に 4,5 人グループになって一つの場面を作るのは非常に愉快でした。
思いがけない方向に話が展開していくのも、ドキドキでした。こんなに無邪気に笑っ
たのは本当に久しぶりです。すっごく楽しかったです。
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「フォーカシング」の感想
・ 紙粘土をさわることが本当に久しぶりで、夢中でこねました。その感触を感じている
うちに、ゆったりした気持ちになりました。自分の内の部分に少しだけ目を向けられ
た気がします。そんな時間でした。
・ 自分で作ったものがよくわからないものになったのが不思議でした。ほかの人の作品
は説明を聞くとおもしろいものなどがありました。
・ 十数年ぶりに粘土をこねました。しいとした部屋で無心に粘土をこねると、雑念が取
り払われる感じがしました。
・ ずっと粘土をこねている最中に「やっぱり自分は目立ちたがり」ということに気づき、
新しい自分に触れた気がした。自分が作ったものをみると、まだ少年やなぁっていう
思いと、大人の雰囲気に早くなれればいいなというあこがれを持った。
サマーキャンプ全体の感想
・ ホテルの部屋もさわやかで、眺め(水平線から上る朝日…)も素晴らしかったです。
全体を通して、笑顔の多い、受容の雰囲気で…いろいろな人がいて、どの人もそれぞ
れの自分らしさ(?)のままで、大切にしあえる場。参加させていただいて、本当にあ
りがたいです。充実した一泊でした。学生さんも先生方も、みんな、ありがとうござ
います。
・ 私は今回、全く知らない集団の中で、個を発揮するというテーマを持って挑んだんで
すが、30%くらいしか達成できませんでした。今回の問題点を探し、自分自身を見つ
め直したいと思います。
・ 2 日間という短い間やったけど、いろんなことができて、とても充実してました。最
初は全く知らない人たちと 2 日間すごすのはとっても不安だったけど、みんなフレン
ドリーで話しやすく楽しかったです。とけこみやすいオーラをもった人や、こわもて
やけど話してみたらそうでもない人やいろんなギャップをもった人がいて、勉強にな
りました。ふだんやらないことがやれてよかったです。先生、誘ってくださってあり
がとうございました。それとおつかれさまでした♡♡♡
・ 社会不安障害の気のある私ですので、 当初、 参加しなければよかったなと文字通り
SAD な気分でしたが、様々な活動を通じて、初対面の人とでも、想像以上に対話す
ることができたことに自分自身とても驚いております。又、「ぎごちなかったかもし
れないが、初対面の人とでも、話ができたじゃないか」というある種、楽観的な自信
がつきましたので、参加させていただいて本当に良かったと思います。今後の人生に
プラスになる経験でした。ありがとうございました。
・ 最近は毎日、自宅と研究室との往復だけでしたから、こういう風にゆっくりと楽しむ
時間を持てたことは私にとって、とても貴重な体験になりました。無邪気に笑ってる
自分を今も鮮明に思い出せます。これから半年でこの大学院を卒業し、社会人になる
わけですが、その前にこのサマーキャンプ 2006 に参加でき、貴重な体験をできたこと、
今回のキャンプを企画してくれたスタッフの方々や参加者の皆様に、大変感謝いたし
ます。
・ 最初は知らない人達の中でどうなるのか不安でしたが、みんながこのキャンプを楽し
むということで一致していたので、本当に楽しかったです。
・ 参加していろいろな人と交流して、自然に触れて、自分の考えが少しだけど、変わっ
たような気がします。もっと気楽に何事も取り組んでいこうと。小さな事だけど、そ
んな事を実感できた 2 日間でした。
56
4、学生の学びと育ちを支援するサマーキャンプ
サマーキャンプは、保健センターの行う学生支援・学生相談の活動の一つである。
学生の時期は、社会へのかかわり方を選択する重要な時期であり、正課教育で学ぶ知識
や技術、様々な正課外教育を通しての体験や学びなどは、自分らしいあり方(アイデンティ
ティ)を確立するための貴重な糧となる。学生支援・学生相談は、このような学びと育ち
のプロセスにある学生のニーズに応えていくものである。
近年の学生の傾向として、学力の低下、意欲低下、対人関係の希薄さなどが指摘されて
いる。またさらには不登校傾向、長期のひきこもり、うつ状態・自殺の諸問題、ハラスメ
ントやカルトなどの事件性のある事例など、様々な問題を抱えた学生も少なくない。これ
ら多様な学生たちのニーズに対応するため、保健センターを含む学生支援・学生相談では、
様々な体制や活動を整えている。
その一つとしてサマーキャンプでは、合宿という集団生活を体験し、心理教育プログラ
ムによって、自己理解や対人関係、コミュニケーションについて学び、これらの活動を通
して、学生は、新しい自分の一面に気づいたり、自信を得たりしている。これらは、まさ
に彼らのアイデンティティを確立するために有益なものとなる。
保健センターでは、今後もサマーキャンプを継続していきたいと考えている。また学生
の学びと育ちを支援するために、様々な学生支援・学生相談の体制や活動を、さらに整備、
拡充する必要があると考えている。
57
5.教育組織の改革
工学部の教育組織の改編
前副工学部長 教授 加 藤 幹 雄
本学工学部及び大学院工学研究科は、平成20年度から教育研究組織を改編します。教
育研究組織の主体を学部から大学院に移すとともに教育組織と教員組織を分離して、教育
組織を工学部・大学院工学府、教員組織を大学院工学研究院とします。この組織改編につ
いて趣旨と概要を述べます。
(1)工学部・工学研究科を取り巻く状況と問題点
ポーランドで出会ったヴェネズエラの数学者が「Japanese oil is Japanese people!」と
言いました。ヴェネズエラは良質な石油が豊富に産出するそうですが、地球の裏側の識者
から直接聞いたこの言葉に、わが国の拠って立つ処が何処かということを改めて認識させ
られた思いが致しました。
近年、 少子化により大学入学志願者数が大きく減少しています。 ピーク時の平成4年
度と平成18年度では、506万人から351万人へ155万人減少しています(減少率
30.6%)。一方、同年度の「工学部」入学志願者数は、62万3千人から30万4千人
と31万9千人減少し(減少率51.2%)、大学入学志願者数に比べてその減少率ははる
かに大きくなっています(文部科学省「学校基本調査」)。
国立大学工学部長会議(本年5月)の議案書では次のように述べられています。「日本
の産業基盤を支える工学系に優れた人材の確保が必要であることは、多くの人が認めてい
るにもかかわらず、効果的な対策がなされているとは言えない。各大学の工学系学部では、
学部改組、入試改善、小中学生を対象とした実験体験学習、高校への出前授業をはじめ、
体験入学、高度な実験機会の提供、また高校訪問、高校教諭への要望など様々な対策が行
われている。・・・」同会議では産業界、教育界への働きかけなど、一致協力して効果的
な対策を講じるべく、議論が進められています。このように、工学系志願者の減少が大学
個々の問題を超えて、国レベルの構造的問題として憂慮すべき状況に至っています。
本学工学部においても、出前講義や学校訪問、模擬授業、オープン・キャンパス、大学
訪問の受け入れ、大学説明会など、学生募集活動の充実とともに推薦・前期・後期各試験
の募集区分ごとの入学定員の適正化を図るなど、あらゆる角度から様々な施策を講じてい
ます。
他方、大学院については、博士前期課程への進学者は着実に増加しています。この数年
間、卒業生のほぼ60%が本学大学院に進学し、学部・大学院の教育が実質的に 一貫教
育的 様相を呈していると言えます。しかしながら、現状の教育体制はこれを組織的に明
確に位置づけたものではありません。
また、「ゆとり教育」などの影響から学力低下問題が指摘されています。大学院生のレ
58
ベルも先進諸国に比べて見劣りすることがかねてより指摘されています。たとえば、ノー
ベル化学賞受賞者の野依良治氏は次のように述べています。「欧米とわが国の大学院生の
レベルは(相撲でいえば)三役と十両ほどの差がある。これを遜色のないレベルにするこ
とが肝要だ。」大学院の「大衆化」に伴い、大学院生のレベルの向上が本格的な課題になっ
てきています。学部・大学院博士前期課程を一貫的に見通した教育課程を整備していくこ
とで、足腰のしっかりした(=確かな基礎学力を備えた)学部卒業生や大学院修了生を世
に送り出していくことを展望することができます。
一方、博士後期課程は、社会的背景から全国的に定員確保が容易でない状況になってい
ます。工学研究科では、平成18年度に「社会人履修コース」(博士前後期課程)を設置
して長期履修制度を導入するなど、 社会人が大学院で就学しやすい制度を整えるととも
に、
「 社会人支援室」を置いてその就学を支援しています。また「技術者大学院講座」
「スー
パーティーチャーズ・カレッジ」の開設などを通じて恒常的な社会人支援体制を整え、大
学院の役割を大きく拡げて参りました。その延長線上に「社会人ドクター」の輩出を展望
していますが、これは今後の博士後期課程の方向性を示唆するものと言えます。
(2)教員組織と教育組織の分離
教員組織と教育組織が一体化された現行の「学部講座制」を改訂し、教員組織と教育組
織を分離することで、教育研究組織の弾力化と教育研究機能の強化を図ります。
工学部志願者にも時代を反映した動向が見られます。こういった動向(需要)を見据え
て、中長期的な視点から魅力ある学科構成を基本とした柔軟な教育コース(学生組織)を
組んでいくこと、また教員組織は大きな時差を生じることなく、これに対応できる体制を
整える必要があります。現行の「学部講座制」では学科の学生定員に合わせて教員が学科・
講座に張り付いていますので、教育組織の変更は容易なことではありません。将来にわたっ
て社会のニーズと時代の要請に迅速かつ的確に応えていくためには、こういった制約のな
い、より自由度のある組織体制をとる必要があります。
優れた教育と優れた研究が不可分であることは言うまでもありません。学際融合型の先
端的研究課題が多く提起される今日、学部教育に直結した「講座」という縦割りの専門分
野の拮抗から離れ、随時自由に創造的な新たな研究分野を構想することが可能な教員組織
が望まれます。現在でも工学部では学科を越えて多くのプロジェクト研究が展開され着実
に成果を上げていますが、その体制を組織的・抜本的に整備して研究機能の強化を図る必
要があります。
また、国からの運営費交付金も潤沢というわけにはいきません。むしろ国立大学の基盤
的予算は毎年1%減額されています。このような状況下では、限られた予算・人的資源の
もとでいかに教育効果を上げていくか、工夫が要求されます。この点でも、教員組織と教
育組織を切り離すことで、教員の教育活動の幅を大きく拡げていくことができます。
以上の理念・趣旨のもとに、教員組織・教育組織を分離した新たな体制を整備します。
(3)工学研究院と工学部・工学府
教員組織は大学院「工学研究院」となります。研究院には大きく研究分野でくくられた「研
究系」があり、研究系は「部門」に細分されます。教員は全員、いずれかの研究系・部門
59
に所属します。「研究系・部門」は当面、現行の教育研究体制から大きく乖離しないよう、
教育の継続性を保ちながら滑らかに新体制に移行する形をとります。
学部学生の所属組織はこれまでどおり「工学部」、大学院生の所属は「工学研究科」から「工
学府」となります(平成20年度入学者から)。すなわち、教員は「工学研究院」に所属
して「工学部」「工学府」の教育に当たります。(資料1及び資料3、現行の体制について
は資料2をご覧下さい。)
(3−1)工学研究院
教員は次の7つの研究系・部門のいずれかに所属します(資料3)。
「機械知能工学研究系」―― 機械工学部門、宇宙工学部門、知能制御工学部門
「建設社会工学研究系」―― 建設社会工学部門
「電気電子工学研究系」―― システムエレクトロニクス部門、電気エネルギー部門、
電子デバイス部門
「物質工学研究系」―― 応用化学部門、材料開発部門
「先端機能システム工学研究系」―― 先端機能システム工学部門
「基礎科学研究系」―― 数理科学部門、量子物理学部門
「人間科学系」―― 人間科学部門
(3−2)工学部・工学府
学科・専攻を改編することで現行の教育コースの規模的なアンバランスを是正し、幅広
い教育プログラムを提供します。また、各学科・専攻・コースの教育方針をより鮮明にし
た教育を目指します。
「工学部」は現行の4学科・8教育コースから以下の6学科・12教育コースに再編成
されます(資料1、4をご参照下さい)。
「機械知能工学科」
機械工学コース、宇宙工学コース、知能制御工学コース(名称変更)
「建設社会工学科」
都市再生デザインコース、地域環境デザインコース、建築学コース(新設)
「電気電子工学科」(名称変更)
システムエレクトロニクスコース、電気エネルギーコース、電子デバイスコ−ス
(コース再編)
「応用化学科」(改組)
「マテリアル工学科」(改組)
「総合システム工学科」(新設)
大学院「工学府」は、ほぼ従来どおりの専攻から成りますが、現行の4専攻・1独立専
攻・8教育コースから以下の5専攻・12教育コースに改訂されます。新教育コースは学
部の12教育コースに対応しています。
60
「機械知能工学専攻」
機械工学コース、宇宙工学コース、知能制御工学コース
「建設社会工学専攻」
都市再生デザインコース、地域環境デザインコース、建築学コース
「電気電子工学専攻」
システムエレクトロニクスコース、電気エネルギーコース、電子デバイスコ−ス
「物質工学専攻」
応用化学コース、マテリアル工学コース
「先端機能システム工学専攻」
この改編の変更点を見てみましょう。まず、教員組織・教育組織を分離した新たな体制
の柔軟性を生かして、分野横断型の現「機能システム創成工学専攻」(独立専攻)を「先
端機能システム工学専攻」として発展的に改組し、その学部教育課程として 「総合システ
ム工学科」 を新設します。この新専攻・学科は、時代をリードする先端分野で活躍できる
人材の需要に応えるべく、数学・物理など基礎科学について確かな学力を備え、電気電子
工学、機械工学など複数の工学分野にまたがってそのエッセンスを修得した、総合的な視
点を持った人材の育成を目指します。
現「物質工学科」の「応用化学コース」、「マテリアル創成加工学コース」は独立してそ
れぞれ新学科となり、「応用化学科」、「マテリアル工学科」としてスタートします。その
大学院教育課程は「物質工学専攻」の「応用化学コース」「マテリアル工学コース」に対
応します。
「建設社会工学科」では、新たに3教育コースを設けます。すなわち、従来の教育内容
を基盤とした「都市再生デザインコース」、
「 地域環境デザインコース」の2コースに加え、
かねてより関係方面から要望の多かった「建築学」教育コースを新設します。
現「電気工学科」は「電気電子工学科」と名称を変更し、現在の「電気電子工学コース」
「電子通信工学コース」を上記の3コースに再編成します。また、「機械知能工学科」 では
「制御工学コース」を「知能制御工学コース」と名称を変更します。
(3−3)工学部・工学府の教育課程の整備
以上の教育組織の改編を通じて、学士課程及び大学院各課程の教育課程を整備します。
特に、大学院博士前期課程を「専門教育の中核」と位置づけ、学士課程と博士前期課程の
6年間を有機的・体系的に連携させた「6年一貫的な教育体制」を導入・整備します。
学士課程では、調和の取れた一般教育、工学基礎及び専門基礎に重点を置いた専門教育
を行います。博士前期課程では、「大学院入門科目」を設けるなど、学士課程で修得した
基礎的な素養を基盤として体系的に専門科目を修得できる体制を整備します。優れた学部
学生に「大学院入門科目」の履修を認めることにより、修学年限の短縮や博士後期課程へ
の進学促進を図ります。また従来型の「課程 A に加え、修士論文に代えて修了プロジェ
クト研究論文の作成を課すコースワーク主体の「課程 B」を設置します。これにより深く
幅広い科学技術に関する能力を備えた人材の養成が可能となります。
博士後期課程では「学位の質の保証」と「円滑な学位授与」が可能となる体制を整備し
61
ます。また、現行の社会人プログラム(社会人履修課程)の充実を図り、社会人の就学、
とくに社会人の博士号取得を支援する体制を整備していきます。
(3−4)工学部・工学府の定員
今回の改編により定員は次のように改訂されます。
工学部定員:545名→531名
大学院博士前期課程定員:233名→261名
大学院博士後期課程定員:29名→17名
この他、工学部編入学定員が現行の10名(機械知能工学科)から20名(学科共通)
になります。したがって、工学部卒業生数は、555名から551名となりますので、現
行とほぼ同じ規模で推移することになります。 この入学定員改訂は教育の質を保証すべ
く、教員数を確保しながら第1節で述べた問題点について総合的に解決を図ろうとするも
のであります。各学科・専攻ごとの定員改訂は資料4をご覧下さい。
(4)おわりに
以上、工学部・工学研究科改組の趣旨と概要を述べて参りましたが、詳細は工学部ホー
ムページをご覧下さい(http://www.tobata.kyutech.ac.jp)。
工学部では、入試倍率の改善、魅力ある教育内容と学科構成、大学院教育の見直しと学
部・大学院一貫的教育の必要性、そして学士課程・大学院博士前期・後期課程の学生定員
のあり方について、また、教育研究体制(教員組織)のあるべき姿についてあらゆる角度
から検討を加えて参りました。その結果として、今回の改組は、改善を必要とする部分は
残っているものの、工学部が抱える主要課題を包括的に改善すべく現時点における重力ポ
イントに収束した感があります。
今回の「教員組織の弾力化」は本学が社会に掲げた「中期計画」の重要項目の一つであ
ります。教員組織と教育組織の分離は工学部が今後、将来にわたって教育研究両面におい
て社会的ニーズ・時代の要請に柔軟に、そして的確に応えていくための基盤となる一手で
あると言えます。
折しも工学部では総合教育棟(旧共通教育研究棟)が今年度末に全面的に改修され、そ
の斬新な全貌を露わにします。もとより本学工学部は国立大学でも有数の緑豊かなキャン
パスにあって、勉学に相応しい落ち着いた雰囲気に包まれていますが、従来とは見違えん
ばかりに教育施設も整備され、勉学する環境は格段に改善されます。この新たな教育環境
のもとで、今回の改組が工学部の教育研究機能の一層の整備・充実と先進的な展開へ向け
た大きな第一歩となることを確信する次第です。
62
資料1
大学院・学部改組計画の概要
《大学院の教育組織》
《教員の組織》
【工学府】
【工学研究院】
博士後期課程
機械知能工学研究系
機械知能工学専攻
機械工学部門
建設社会工学専攻
宇宙工学部門
電気電子工学専攻
知能制御工学部門
物質工学専攻
建設社会工学研究系
先端機能システム工学専攻
(名称変更)
建設社会工学部門
博士前期課程
(教育を担当)
電気電子工学研究系
システムエレクトロニクス部門
機械知能工学専攻
電気エネルギー部門
建設社会工学専攻
電子デバイス部門
電気電子工学専攻
物質工学研究系
物質工学専攻
応用化学部門
先端機能システム工学専攻
(名称変更)
材料開発部門
先端機能システム工学研究系
《学部の教育組織》
先端機能システム工学部門
基礎科学研究系
【工学部】
数理科学部門
機械知能工学科
量子物理学部門
建設社会工学科
人間科学系
電気電子工学科(名称変更) 応用化学科
(改組)
(教育を担当)
マテリアル工学科
(改組)
総合システム工学科
(新設)
63
人間科学部門
資料2
工学部・工学研究科の現状
大 学 院
工学研究科
(教育・研究組織)
博士後期課程
機械知能工学専攻
建設社会工学専攻
電気工学専攻
物質工学専攻
機能システム創成工学専攻
(独立専攻)
博士前期課程
機械知能工学専攻
建設社会工学専攻
電気工学専攻
物質工学専攻
機能システム創成工学専攻
(独立専攻)
学 部
〈学部所属教員が大学院を兼務〉
工学部
(教育・研究組織)
機械知能工学科
建設社会工学科
電気工学科
物質工学科
共通講座
64
資料3
大学院・学部改組に伴う「教員組織」の新旧比較
(旧)
講座(学部等に設置)
(新)
研究院の研究系・部門(大学院に設置)
【工学部】
機械知能工学科
材料科学講座
生産工学講座
熱流体学講座
宇宙工学講座
制御知能学講座
建設社会工学科
基盤建設工学講座
国土デザイン工学講座
電気工学科
電気エネルギー工学講座
電子デバイス工学講座
電子機器工学講座
通信システム工学講座
センシング・システム工学講座
ネットワーク工学講座
物質工学科
分子創製化学講座
機能設計化学講座
物質生産化学講座
マテリアル機能工学講座
マテリアルプロセス工学講座
数理情報基礎講座
【工学研究院】
機械知能工学研究系
機械工学部門
宇宙工学部門
知能制御工学部門
建設社会工学研究系
建設社会工学部門
電気電子工学研究系
システムエレクトロニクス部門
電気エネルギー部門
電子デバイス部門
物質工学研究系
応用化学部門
材料開発部門
基礎科学研究系
数理科学部門
量子物理学部門
人間科学系
人間科学部門
人間科学講座
【工学研究科・独立専攻】
機能システム創成工学専攻
機能性材料創成工学講座
機能システム設計工学講座
先端機能システム工学研究系
先端機能システム工学部門
65
資料4
工学府・工学部の入学定員新旧対照表
(旧)
(新)
【工学研究科】
(大学院博士前期課程)
入学
定員
【工学府】
(大学院博士前期課程)
入学
定員
機械知能工学専攻
58
機械知能工学専攻
78
建設社会工学専攻
29
建設社会工学専攻
39
電気工学専攻
69
電気電子工学専攻
59
物質工学専攻
46
物質工学専攻
51
機能システム創成工学専攻
31
先端機能システム工学専攻
34
計
233
計
【工学研究科】(大学院博士後期課程)
【工学府】(大学院博士後期課程)
261
機械知能工学専攻
3
機械知能工学専攻
4
建設社会工学専攻
2
建設社会工学専攻
2
電気工学専攻
7
電気電子工学専攻
4
物質工学専攻
4
物質工学専攻
4
先端機能システム工学専攻
3
機能システム創成工学専攻
計
【工学部】
13
計
29
【工学部】
17
機械知能工学科
135
機械知能工学科
140
建設社会工学科
73
建設社会工学科
80
電気工学科
183
電気電子工学科
130
物質工学科
154
応用化学科
70
マテリアル工学科
60
総合システム工学科
51
計
計
545
注.工学部機械知能工学科の編入学定員10名を20名とし、学科共通定員とする。
66
531
6.e- ラーニング
e- ラーニングで再チャレンジ !
− Moodle による復習の効果 −
情報工学部システム創成情報工学科 教授 小 林 史 典
んー ? こりゃすごい !
8 月上旬のある日、期末試験の点数を Moodle [1] に入力した後、何気なくアクセスログを
見ていた私は、思わず声を上げてしまった。何に驚いたかというと、期末試験直前 2 日間の
アクセス数がそれぞれ 700、505 と、それまでの最高記録の約 4 倍になっていたことである。
私が担当していたのは「電気回路」で、交流の扱いにハードルがあり、不合格率の高さ
で学科開設時から有名な科目である。そこで担当以来、演習を多くするなど工夫し、講義
1
資料はすべて Moodle に上げて、 試験前にはこれで勉強しろよ 、 と言ってきた。 にもか
かわらず、それまで決してアクセスは多くなかったし(後述)、他にも学生の意欲に疑問
を持つことがあった。
ところが、期末試験直前に意外なことが起きていたのである。さらに驚いたのはログに、
前年度不合格になり、しかも履修態度のよくなかった学生の名前が沢山見られたことであ
る。これは面白い ! と早速ログの分析にとりかかった。
復習した者は合格
まず調べたのは、 上述のように態度の変った再履修生のアクセス数と成績の関係であ
2
る。その結果が表 1 で、Moodle でよく復習した グループは平均点が 20 点以上よく、そ
の効果は明白である(最終成績に占める期末試験の比重は 40%で、それ以前のレポートな
どが平均的なら、50 点取ればまず合格する)。また、2 つのグループの間の差だけでなく、
アクセス回数と期末成績との間の単純な相関係数も 0.42 で、 ないことはない、 という程
度ではあるが、相関がある。
この結果に対して、もともと出来のいい学生が Moodle をよく利用するのでは ? という
疑問が出されるかもしれない。しかし期末以前の、中間試験やレポートなどの平均成績は、
2つのグループ間で逆転しており(アクセス数 10 以上が平均点 47、5 以下が 50)、 アク
セスの少ない学生の方がもとは成績が良かった。つまり、Moodle の効果は表以上にある
のである。
再履修生の意欲は、頻繁にアクセスした者の多さにも現れている。表 2 はアクセス数の
トップ 15 で、 *をつけたのが再履修者であり、5 名いるのでリストの 1/3 を占める。 再
履修は全部で 10 名だから、1/2 がトップ 15 にいるのである(通常の履修は 80 名で、10
名がトップ 15 にいるので、「アクセス上位率」は 1/8 でしかない)。
1
2
私の資料は、しゃべりのポイントはすべて書いておく、という方針 [2] で作っており、それを見れば、大事なこ
とはすべて思い出せるはずである。
というより、勉学の意欲そのものが高かった、と言うべきであろうが。
67
以上の結果から、詳細な分析はさらに必要だが、Moodle は再履修生に復習のよい機会
を提供し、その結果もよかった、と言ってよいのではないだろうか。
表1 Moodle アクセスと試験成績の関係(再履修生)
Moodle のアクセス回数
期末試験の平均点
10 以上
51
5 以下
28
表 2 学生の Moodle アクセス回数ベスト 15
学生
アクセス
学生
アクセス
学生
アクセス
A*
137
F*
55
K
34
B*
108
G
44
L
34
C
105
H
44
M*
33
D
77
I
43
N*
31
E
56
J
41
O
26
初めての履修者にも効果あり
これは素晴らしい、と上々の分析結果に意気込んで、次に、大部分を占める、初めて履
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修する学生の状況を調べてみた。図 1 がその結果の一例で、
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図 1 Moodle アクセス回数と成績上昇の相関
68
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表 3 Moodle アクセスと期末での成績変化の関係(初履修生)
Moodle のアクセス回数
期末での成績変化の平均
10 以上
− 1.9
5 以下
− 10.9
「期末までは成績が良くなかった学生が、Moodle による直前の復習で、期末でいい成績
を上げた」
という仮説を立て、期末以前のレポート、中間試験、小テストの平均と、期末との差(成
績の増分)を縦軸に、Moodle のアクセス回数を横軸に取ってある。
ところがご覧のように、相関は見えない。ちなみに、相関係数は 0.11 である。
しかし、ここで、再履修と初めての履修は違うのだ、と引き下がるのもシャクである。
そこで、再履修生 の場合と同様なグループに対して、レポート等と期末試験の成績差を
求めてみた。その結果が表 3 で、ある程度の有意差がある 3 ことがわかる。
再履修生の事情
Moodle による復習の効果が再履修生の方に顕著に出たのは、再履修生に次のような事
情があるからではないだろうか:
・アクセスと意欲が相関している
初めての履修生には、Moodle で復習しなくても十分理解できる学生がおり、アクセ
スが少ないから出来が悪い、とは言えない。
一方再履修生は、すんなり理解できたらそういう事態にはならないので、やる気が出
たらアクセスする、と考えられる。
・教えてもらえる仲間がいない
同学年の優秀な学生はクラスにいないので、Moodle の存在が大きい。つまり、勉強
する気になったら Moodle に頼るのである。
いずれにしても、一部の特殊な事情の学生に限られるにせよ、Moodle に関わってきた
人間にとって、当てにする学生がいるのはうれしいことである。
参考のためここで、Moodle 上の「電気回路」コースの運用形態を紹介しておこう。利
用している機能は
・教材提示
・点数公開
・成績集計
の3つで、授業で使った PowerPoint や PDF を電子的に置き、レポートやテストの点数を、
学生が見られるようにするとともに、「評点」機能で集計している。なおレポートの電子
提出は、電気回路は回路図が重要で、電子的に描く手間を考え、させていない。
3
期末での成績変化の 2 つの値、
− 1.9 と− 10.9 がそれぞれ有意な差であるか、
を検定する。自由度からどちらも
(ほ
ぼ)正規近似可能であり、− 1.9 は有意でない、− 10.9 は有意、となって、アクセス回数で 2 つのグループが形
成される、と言える。
69
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図 2 アクセス数の学期内推移
ログからうかがえること
ログから意外なことがわかるものだ、と感心して、いくつかの側面からデータをながめ
てみた。たとえば図 2 は、学期全体のアクセス数の経緯である。
ここには 2 つのことが見えている:
1.
5 月初旬(授業開始から 22 日目が5月 10 日)までは、全くと言えるほどアクセ
スがない
2.
5 月以降、ときどきピークが現れ、期末の直前に急激に増えている
これらの原因を少し考察してみたい。
1. 必要がないと使わない
5 月を境に何が変ったかと言うと、その時期からレポートや中間試験の結果の公開を始
めたことである。図2には点数を公開した日が黒い矢印で示してあるが、その後に、それ
を見に行ったと思われる学生がかなりいる。教材はそれ以前から載せてあるのだが、成績
の確認という必要性がないと、Moodle は意識されないようである。
これはまあ当然と言え、今年度の後期からすぐに、できるだけ Moodle にアクセスしな
いと困る状況を作り出そうと考えている。
2. 少数が急に多数に
一方、中間試験と小テストの前数日間にわたって、アクセスがベースレベルから少し上
がっている。これは、試験前なのでレポート成績などの確認は必要ないはずで、試験勉強
と考えられる(詳細は省略するが、ログには、何にアクセスしたか、が記録されており、
それからも裏付けられる)。しかし、決して多くの学生ではない。それがなぜ、期末試験
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直前になって急激にアクセスが増えたのだろうか。
私はこれは、最近の学生に多い付和雷同型の行動の結果ではないか、と考える。あるファ
クタで、あるスレッショルドを越えると、急激に「少数派」が「多数派」になるのである。
今回も、なぜだか理由はよくわからない。ただ何人かが、このままではヤバい、と思った
かして、藁にすがる思いで、Moodle による復習を始めた。それが波のように多数の学生
に広がったのではないだろうか。
こうした形の学生の意識ないし行動は、レポートなどの成績を公開した直後にアクセス
のピークがあることからもうかがえる。ピークを形成する学生が全員毎日、成績出たかな
あ、と見に行っていれば、アクセスの多い日が続くはずである。ところが、実際はそうで
はなく、頻繁にアクセスする者は 10 人前後である。そして、成績が出たのを見た彼らが、
出たぞー、と友人に(おそらく携帯メールで)知らせ、ネズミ算式にアクセスが増えるの
では、と考えられる。
チャンスを与えて待つ:おわりに
Moodle のログ分析といっても、ひょんなことから始めたもので、今後やるべきことは
山のようにある。まずは、もう少し詳しい分析をしてみたい。
さらに、ログは、どこが理解しにくいか、もある程度教えてくれるので、それによって、
学生のレベルに対応した講義後のアフターサービスを検討する必要があろう。 4
が、そうした方向の話とは別に、今回の経験が残してくれた大事な教訓を 1 つ確認して
おきたい。それは、安部首相が突然退陣して色あせたものの、最近の流行語の 1 つ、
「 再チャ
レンジ」の場を提供することの重要性である。教材が全部 Moodle に上っていなかったら、
再履修生が変貌するチャンスは、少なくとももう少し、低かったはずである。不合格者や
留年生は教員の視野から外れがちになるが、積極的に手を差し伸べないまでも、来る者は
拒まず、という姿勢は必要ではないだろうか。私の研究室での個人的経験でも、B4 のと
きはまあまあだった学生が、その後の 2 年間に脱皮して急激に成長することがある。そし
て、 そういう学生にとって、 過去の教材が Moodle に完全に残っていることが、「避難小
屋のともし火」の 1 つになってくれそうな気がしている。
最後に、データの統計的解釈についてお手伝いくださった廣瀬教授と、学習心理の示唆
をいただいた西野准教授にお礼申し上げます。
参考文献
[1] 井上ほか:Moodle 入門、海文堂(2006)
[2] 小林:e- ラーニングは FD の延長線上、九州工業大学 教育ブレティン(2006)
4
ただし、こうした分析のためには、現在の Moodle のログ機能には問題がある。XML 形式のファイル全体を変換
して読みやすくする学内計画があるそうで、今後に期待したい。
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