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三輪山神話と蛇婿入り

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三輪山神話と蛇婿入り
文学2011:民話ネットワーク・構造・力(資料 03)
4.
異類婚姻譚の構造
4-0. 異類婚姻譚の2つのタイプ
4-0-1. 異類婿
4-0-2. 異類嫁
4-1. 神話・昔話・伝説の異類婿入り:三輪山神話と蛇婿入り
4-1-1.
神話のレベル:異類婿としての「三輪山神話」
a崇神天皇の時代に疫病が流行る(A)→夢に大物主大神があらわれ、オオタタネコの存在
を告げる(D)→天皇はオオタタネコをさがす(E)オオタタネコ(大物主と活玉依姫のヒ
イヒ孫)を発見し、三輪山の大物主を祀らせる(F)→疫病がやむ(K)
b美しい活玉依姫のところに美しい男がかよってくる→二人は夫婦になり(W)、姫は子を
はらむ(A)→両親は不審に思う(B)→麻糸を男の衣にさす(ε)→麻糸のあとを尋ねる
と三輪山の神の社に辿りつく(ζ)→男の正体が三輪山の神とわかり、子供は神の子である
と知れる(K)→子供は三輪氏と鴨(賀茂)氏の先祖である。
この話は、朝鮮・旧満州・モンゴルなど北方系の諸民族に伝えられているという。
たとえば、モンゴルの族祖神話では、神の子の英雄ゲシル=ボグドゥの場合は、花嫁がその
正体を知るために夫のくるぶしに絹糸を結びつけておく。夜中にめざめてみると、糸が床か
ら天井へとつづき、夫は屋根の頂の穴からさらに天空にかかる虹の橋を登ろうとするところ
であった。
また、清の太祖ヌルハチ(女真族・1616年後金をたてる)の神話の場合は、立派な家の娘が、
夜中に寄りくる神霊によってはらむ。その足に糸をつないでおくと、その正体はカワウソで
あった。カワウソは打ち殺されるが、女はカワウソの子をうむ。子供は長じてヌルハチ(老
獺稚)となる。
4-1-2. 昔話のレベル
【101A「蛇婿入・苧環型」】
登場人物;未知の男(蛇・神)・娘・両親(助言者)
1蛇は死に、子供が生まれ偉人になる
2蛇は退治され、子供はおろされる。
【101B「蛇婿入・水乞型」】
登場人物;未知の男(蛇・援助者=敵)・両親(約束する人)・娘(主人公)・[蛙(助言
1
者)]
1蛇は退治され、娘は家にかえる。
2「姥皮」型;異類婚というスティグマをおった主人公(娘)
4-1-3. 伝説のレベル
【「小泉小太郎」「五十嵐小文治」型】
新潟の五十嵐小文治、長野の小泉小太郎、熊本の緒方三郎など、生まれた子供は異常な能力
を発揮するが、脇の下や背中に鱗や痣があるととかれる。
【沖縄の「アカマタ婿入り」】
三月三日の浜下りの由来となる。「蛇婿入り」が、五月五日の菖蒲湯や酒、九月九日の菊酒
の由来となることも多い。
【「夜叉が池」】
4-1-4. 世間話のレベル
木更津の場合
4-2. 神話・昔話・伝説の異類嫁:海幸・山幸と狐女房
4-2-1.
神話のレベル:異類婿としての「海幸・山幸」
【海幸・山幸】
①「失われた釣針」のエピソード
火照命(ホデリノミコト)=海幸彦/火遠理命(ホオリノミコト)=山幸彦[海と山の対
立]→釣針と弓矢の交換[海と山の交換][D/E/F]→釣針の喪失[a=呪具の喪失]
→山幸による海神宮の訪問[BC↑](シオツチの神の援助[DEF]→竹の舟による出発
[G]→井戸のそばの桂の木にのぼる→水くみにきた侍女の器に玉を吐き出す[εζ]→ト
ヨタマヒメが玉によって山幸の存在を知る[ηθ])→トヨタマヒメとの結婚[A=W]→
釣針の発見[K]→海神の助言(釣針に呪いをかけること)[F]→呪宝の獲得(シオミツ
タマ=塩盈玉・シオヒルタマ=塩乾玉)[F]→鰐にのって国に帰る[↓]→助言の実行
(海幸は貧しくなる)[H]→山幸は海幸に勝ち、海幸の子孫(隼人族)を服従させ[I]
この話は「失われた釣針」として西南太平洋諸島・北アジア・北西アメリカに広く分布する。
この話は、おそらくインドネシアを原郷とし、隼人族の伝えるものであったろう。
②「トヨタマヒメの出産」のエピソード:タブーと英雄誕生
海神の娘トヨタマヒメが訪れる[W]→海辺に産屋をたてて出産→禁止(出産の姿を見ては
いけない)[γ]→禁止を侵す[δ]→トヨタマヒメは去る[a]→残された子供(ウガヤ
フキアエズ)には母がない[a]「→トヨタマヒメは、妹のタマヨリヒメ(玉依姫)をおく
る[K]→ウガヤフキアエズとタマヨリヒメの結婚[W]→カムヤマトイワレヒコ=神武天
皇の誕生
【全体の構成】
山を支配する弟が、海の他界に趣き、呪宝を手にいれ、海を支配する兄を服従させる。弟は、
2
さらに海神の娘と結ばれ(異類婚=妻は鰐である)、神聖な子供が誕生する(異常誕生)、
子供はさらに海神の娘(タマヨリヒメ)と結ばれ(異類婚)、神聖な子供を生む(カムヤマ
トイワレヒコ)。子供は皇室の祖先である。
4-2-2. 「イザナキの黄泉の国訪問譚」と「海幸・山幸」の構造:タブーと英雄誕生
この神話の構造は、さらに「イザナキの黄泉の国訪問譚」の構造とも一致する。
イザナキ・イザナミの場合は、
①夫が他界(黄泉の国)を訪問する。
②妻が「死」に関する「見るなの禁」を夫に課す。
③夫が禁を侵し、妻の正体を覗き見て恐れ逃げる。
④妻が恥じ、怒る。
⑤夫は他界との交通路遮断し、両者は永久に離別する。
⑥誕生した神聖な神々(アマテラス・ツクヨミ・スサノオ)は、支配者となる。
ホオリ・トヨタマヒメの場合は、
①妻が他界(葦原中国)を訪問する。
②妻が「生」(出産)に関する「見るなの禁」を夫に課す。
③夫が禁を侵し、妻の正体を覗き見て恐れ逃げる。
④妻が恥じ、怒る。
⑤妻は他界との交通路遮断し、両者は永久に離別する。
⑥誕生した神聖な子供(カムヤマトイワレヒ)は、支配者となる。
4-2-2. 昔話のレベル:狐女房と鶴女房
海幸・山幸の後半に見られる<タブーと英雄誕生>のエピソードは、昔話の「異類婚姻
譚・異類女房」にも多く見られる。
【115「鶴女房」】
登場人物;鶴=妻(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
妻は、機を織り、正体を知られて去る。
【116A「狐女房・聴耳型」】
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)・子供
子供は、狐=母親の残した呪宝の力などで不思議な力をもち、出世する。
【116B「狐女房・一人女房型」】
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
狐は、正体を知られて去るが、男の田は狐のおかげで豊かに稔る。子供が異能を発揮するこ
ともある。
【116C「狐女房・二人女房型」】
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
3
4-3. 昔話の異類婚のパターン
4-3-1. 怪物退治型
美しい婿が通ってくる「蛇婿入り」
異類婿が一方的に退治される
4-3-2. 異類婿の変身型
「たにし長者」
4-3-3. 異類女房との不幸な別れ型:「天人女房」
4-3-3-1. ある日、美しい嫁がやってくる「きのこ女房」「蛙女房」「食わず女房」
4-3-3-2. 動物の恩返し「狐女房」「鶴女房」
4-3-3-3. 女を手に入れる「天人女房」
4-3-4. 正体不明のふしぎな嫁
「龍宮女房」「炭焼き長者」「絵姿女房」
4-3-5. 運命や予言によって嫁を授かる
「炭焼き長者」「産神問答・男女の福分」
4-3-6. 難題婿・難題を解決して美しい娘を手にいれる・長者の婿になる
「謎とき婿」(娘が謎をだす)「蜂の援助」(父やライバルなどの邪魔者が謎をだす)
4-3-7. 嫁くらべ「山田白滝」「皿々山」
4-3-8. 怠け者の結婚
「博徒婿入り」
4-3-9. 主人公が力を示して美しい嫁を手に入れる
「聞き耳頭巾」「一寸法師」「力太郎」「謎とき婿」
4-3-10. 継子や不幸な子どもが幸せな結婚をする
「粟福・米福」「皿々山」「うばっ皮」「灰坊太郎」
4-4. 日本昔話大成の分類
4-4-1. 婚姻・異類婿
101A「蛇婿入・苧環型」
登場人物;未知の男(蛇・神)・娘・両親(助言者)
1蛇は死に、子供が生まれ偉人になる
2蛇は退治され、子供はおろされる。
101B「蛇婿入・水乞型」
登場人物;未知の男(蛇・援助者=敵)・両親(約束する人)・娘(主人公)・[蛙(助言
者)]
1蛇は退治され、娘は家にかえる。
4
2「姥皮」型;異類婚というスティグマをおった主人公(娘)
101C「河童婿入」
「蛇婿入・水乞型」と同一構造
102「鬼婿入」
登場人物;鬼(援助者=敵)・娘(主人公)・姉(敵)
「白い嫁・黒い嫁」と同型(日本での記録は奄美のみで、きわめて少ないが、中国にも記録
がある)
103「猿婿入」
登場人物;猿(援助者=敵・両親(約束する人)・娘(主人公)
娘は、自分の知恵の働きで、自分自身をすくう。
104A「蛙報恩」
登場人物;蛇(敵)・娘(主人公)・両親(約束する人)・蛙(援助者=被援助者)
記録は、たいへん多いが「蛇婿入・姥皮型」との関連がふかい。「蟹報恩」が本来の型では
ないか?
104B「蟹報恩」
登場人物;蛇(敵)・娘(主人公)・蟹(援助者=被援助者)
援助者としての蟹が蛇をたおすというのは、一貫した自然な展開。
105「鴻の卵」
登場人物;蛇(敵)・娘(主人公)・両親(約束する人)・六部=蛙(援助者=被援助者)
106「犬婿入」
登場人物;犬(主人公の夫)・両親(約束する人)・娘(主人公)・猟師(敵)
犬との異類婚姻が肯定される、めずらしい例。中国にひろく分布する。
107「蜘蛛婿入」
登場人物;蜘蛛(敵)・娘(主人公=被害者)
主人公の救済のモチ-フがない。
108A「蚕神と馬」
登場人物;娘(主人公)・両親(約束する人・異類を殺す人=敵)・馬(夫=神)
「犬婿入」と同じ構造をもつ。
108B「蚕由来」(蚕影山由来)
異類婚姻譚ではない。
109「木霊婿入」
登場人物;娘(主人公)・木霊(夫=神)・殿様(敵)・両親(約束する人)
特定の木にまつわる伝説的な要素がつよい。娘の致富譚となることも多い。
4-4-2. 婚姻・異類女房
5
110「蛇女房」
登場人物;蛇=妻(援助者)・貧しい男(主人公)・領主/村人(敵)・子供
主人公は、貧しいが心が美しい。男は、美しい妻と、子供を得る。
111「蛙女房」
登場人物;蛙=妻(援助者=被援助者)・男(主人公)・
妻は、正体を知られて去る。美しい妻を得たことが、すでに幸せである。
112「蛤女房」
登場人物:蛤=妻(援助者)・男(主人公)
妻は、うまい料理をつくって恩返しをするが、正体を知られて去る。
113A「魚女房」
登場人物;魚=妻(援助者)・男(主人公)
妻は、正体を知られて去る。妻は、うまい料理をつくる。
113B「魚女房」
登場人物;魚=妻(援助者・贈与者)・男(主人公)
妻は、正体を知られて去る。妻は、宝物(尽きぬ苧玉など)を残す。
114「竜宮女房」
登場人物;貧しい男(主人公)・竜宮の娘=妻(援助者)・殿様(敵)
殿様は、難題をかける。
115「鶴女房」
登場人物;鶴=妻(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
妻は、機を織り、正体を知られて去る。
116A「狐女房・聴耳型」
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)・子供
子供は、狐=母親の残した呪宝の力などで不思議な力をもち、出世する。
116B「狐女房・一人女房型」
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
狐は、正体を知られて去るが、男の田は狐のおかげで豊かに稔る。子供が異能を発揮するこ
ともある。
116C「狐女房・二人女房型」
登場人物;狐=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい若者(主人公)
117「猫女房」
登場人物;猫=女房(援助者=被援助者・贈与者)・貧しい男(主人公)
記録のきわめてすくない話。猫は、人間になる。
118「天人女房」
登場人物;貧しい男(主人公)・天人=女房(援助者・贈与者)・子供・天女の父(敵)
6
119「笛吹婿」
登場人物;笛吹き男(主人公)・天人=女房(援助者・贈与者)・殿様と鬼(敵)
天女は、男の技にほれて女房になる。殿様は、難題をかける。
4-4-2. 婚姻:難題婿
120A「絵姿女房・桃売型」
登場人物;貧しい男(主人公)・長者の娘=女房(援助者・贈与者)・殿様(敵)
男は、桃売り(行商=周縁的な存在)に身をやつし、殿様(=中心的存在)と入れ替わる。
笑わない女房を笑わせるという難題。女房を描いた絵を媒介にして、話が展開する(「忠臣
ヨハンネス」)
120B「絵姿女房・難題女房型」
登場人物;貧しい男(主人公)・長者の娘=女房(援助者・贈与者)・殿様(敵)
「竜宮女房」との比較
121「蕪焼長者」
登場人物;貧しい男(主人公)・長者の娘=女房(援助者・贈与者)・鬼/河童(敵=贈与
者)・長者
主人公は、蕪ばかり食べている独身者(=焼畑耕作者・周縁的存在)。鬼や河童をだますト
リックスタ-。「炭焼長者」と同じ展開の話もある。
122「嫁の輿に牛」
登場人物;貧しい若者(ニセの主人公)・長者の娘(与えられるもの)・氏神(贈与者)・
殿様(主人公)
「博徒婿入」「鳩提灯」と比較すること。
123「ぼっこ食い娘」
登場人物;三人兄弟(主人公/ニセの主人公)・長者(贈与者=難題の提出者)・娘(与え
られるもの=難題の提出者)
「三国一の婿が欲しい」という高札。
124「蛸長者」
登場人物;蛸とりの若者(主人公)・父親(トリックスタ-・援助者)・長者の娘(妻=も
う一人の主人公)・化物(敵=贈与者)
息子の嫁とりの前半と、娘の冒険の後半のふたつの話からなると考えてよい。
「宝化物」「恐がることを習いに出た若者の話」
125「博徒婿入」
登場人物;ならず者(トリックスタ-・主人公)・長者の娘(贈られるもの)・長者(贈与
者)・神託
126「鳩提灯」
7
登場人物;ならず者(トリックスタ-・主人公)・長者の娘(贈られるもの)・長者(贈与
者)・神託
127「蜂の援助」
登場人物;若者(主人公)・蜂(被援助者=援助者)・長者の娘(贈られるもの)・長者
(敵=贈与者)
128「娘の助言」
登場人物;若者(主人公)・娘(贈られるもの=援助者)・長者(敵=贈与者)
129「播磨糸長」
登場人物;若者(主人公)・娘(敵=贈られるもの)・和尚/婆(援助者)・旦那(敵=贈
与者)
130「謎解き婿」
「蜂の援助」「播磨糸長」「娘の助言」「一把の藁十六把」以外の謎解き婿の総称。
131「一把の藁十六把」
登場人物;若者(主人公)・娘(贈られるもの)・長者(敵=贈与者)
132「話三荷」
登場人物;若者(主人公)・娘(贈られるもの)・爺(敵=贈与者)
133「山田白滝」
登場人物;貧しい若者(主人公)・娘(贈られるもの=敵)・長者(贈与者)
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