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蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光

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蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
Received: Jul 16, 2013
Accepted: Aug. 25, 2013
Published online: Oct. 30, 2013
Original Article
Identification of Advanced Glycation Endproducts derived fluorescence
spectrum in vitro and human skin
Keitaro Nomoto, Masayuki Yagi, Umenoi Hamada, Junko Naito, Yoshikazu Yonei
Anti-Aging Medical Research Center and Glycation Stress Research Center, Graduate School of Life and Medical Sciences,
Doshisha University
Anti-Aging Medicine 10 (5) : 92-100, 2013
(日本語翻訳版)
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
in vitro 実験および臨床研究による検討
埜本慶太郎、 八木雅之、 浜田梅乃井、 内藤淳子、 米井嘉一
同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター ・ 糖化ストレス研究センター
抄録
【目的】 in vitro サンプルと比較することで、 最終糖化生成物 (Advanced glycation endproducts) 由来のヒトの皮膚蛍光
スペクトルが探索できるか検討した。
【方法】 in vitro サンプルにはヒト血清アルブミンとグルコースの反応液 (HSA-Glc (+)、 (-)) 、 蛍光性 AGEs の一つである
ペントシジン、 および牛皮を用い、 臨床研究では健常者 11 名を対象とした。 HSA-Glc (+)、 (-) は蛍光光度計、 牛皮およ
びヒトの皮膚は光源を発光ダイオード (light electronic dyode: LED) とする試作蛍光測定機 (試作機) にて励起光 375 ( 半
値幅 : ± 5) nm でスキャンした。 ヒトの皮膚蛍光と暦年齢および対象指標である皮膚蛍光 (Auto Fluorescence: AF) との相
関係数を算出した。
【結果】 HSA- Glc (+) およびペントシジンともに 440nm 付近にピークを持つ蛍光スペクトルが得られた。 また、 LED 前
に可視光カットフィルターを装着した試作機にて補正された牛皮およびヒトの皮膚からは 451nm 付近にピークを持つ蛍光
スペクトルが得られた。 さらに、 440nm における皮膚蛍光強度は、 暦年齢と正の相関関係を持つ蛍光を認め (r = 0.582 ,
p =0.060)、 皮膚 AF と正の相関関係を認めた (r = 0.832 , p =0.001)。
【結語】 in vitro 実験結果から、 励起光 370nm 蛍光 440nm の条件で得られる蛍光強度は蛍光性 AGEs に由来するものを
含んでいると確認でき、 ヒトの皮膚からも同様の蛍光スペクトルが検出できることが分かった。 従って、 この AGEs 蛍光を測
定することで、 生体の糖化度を簡便にモニターできる可能性が示唆された。
KEY WORDS: 蛋白糖化最終生成物 (AGEs)、 ペントシジン、 蛍光スペクトラム、 ヒト血清アルブミン、 皮膚
Anti-Aging Medicine 10 (5) : 92-100, 2013
本論文を引用する際はこちらを引用してください。
(c) Japanese Society of Anti-Aging Medicine
〒 610-0321 京都府京田辺市多々羅都谷 1-3
同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター・糖化ストレス研究センター
教授 米井嘉一
電話 & FAX:0774-65-6394 メール:[email protected]
( 1 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
はじめに
500mmol/L となるように 0.l mo1/L で調製した反応液に加え、
60℃で 0, 2, 4 日間インキュベーションした (G (+))14)。 また、
食事由来の還元糖と生体の蛋白質により生じる糖化反応
は、 老化および各種疾患に関係している 1,2)。 そのため、 糖
反応ブランクとして牛皮を PBS のみの反応液に加えたものをイ
ンキュベーションした ((G(-))。
化反応により生成する中間体や最終糖化生成物 (Advanced
添加試験は、 50mm 四方に切った水で戻した牛皮切片を湿
glycation endproducts: AGEs) などの反応物と生体との関係が
潤状態にし、 添加前の蛍光スペクトルを測定した。 次に、 各
検討され、 生体の糖化反応進行度 (糖化度) の指標を探索
蛍光性物質サンプル 100 μ L をマイクロピペットにて牛皮に添
し健康増進のための有益な情報となり得るか検討されている 1,
3)。
加した。 添加したサンプルを牛皮に染み込ませ、 室温で 30
それらの試みのうち、 AGEs の物理化学的特性の一つで
分間静置し再び半乾き状態にし、 同様の方法で蛍光スペクト
ある蛍光性が注目されるようになった。 蛍光性 AGEs の多くは、
ルを測定した。 測定部位およびサンプル添加部位は、 牛皮切
励起光 370nm 蛍光 440nm の条件で特徴的な蛍光を持つと言
片の中央とした。 尚、 添加試験中に牛皮サンプルが乾燥して
われ 4-6)、 このことに注目した in vitro サンプルの蛍光測定が
行われている 7, 8)。
いないことを確認した。
近年、 ヒトの皮膚から直接蛍光を測定し評価する試みが行
われるようになり、 420 ~ 600nm の範囲の蛍光強度の平均値
ペントシジン測定
を利用した糖尿病患者の診断用研究機器も開発された 9-11)。
サンプル中のペントシジン測定には、 抗ペントシジンモノク
し か し、 Koetsier ら (2009) は、 励 起 光 350 ~ 420nm 蛍 光
ローナル抗体を用いた市販の enzyme-linked immunosorbent
420 ~ 600nm の幅広い範囲で糖尿病患者の皮膚からは特異
assay (ELISA) キット (FSK ペントシジン、 伏見製薬所、 香川
的な蛍光スペクトルは見つけられなかったと報告している 12)。
県丸亀市) を用いた 8)。 各 50 μ L のサンプルまたはペントシ
また、 現在、 皮膚中に存在が確認されている蛍光性 AGEs は
ジン標準液に、 プロナーゼ溶液 20 μ L とトリス塩酸緩衝液 80
ペントシジン (極大波長 335/385nm) のみであるにもかかわら
μ L を加え、 それらの混合液 55 μ L を 90 分インキュベーショ
ず、 上記測定条件では検出できないと言われている。 従って、
ンした後、 沸騰水中で 15 分加熱しプロナーゼを不活化した。
AGEs 由来の皮膚蛍光スペクトルが発見されたとの報告はなさ
各サンプルは、 マイクロプレートリーダー上のウェルに注入し、
れていない。
37℃、 60 分インキュベーションした。 キットに添付の抗ペント
生体には様々な蛍光性物質が存在するため
13)、
AGEs 特
シジンモノクローナル抗体溶液 50 μ L とサンプルまたはペント
異的な蛍光スペクトルを検出することは困難と考えられる。 しか
シジン標準液を加え、 37℃、 60 分間インキュベーションした。
し、 in vitro サンプルおよびヒトの皮膚を同一の機械で測定し
その後 3,3'5,5'-tetramethylbenzidine (TMB) 0.5mg/mL を含
結果を比較することができれば、 少なくとも AGEs が寄与して
む発色剤を各ウェルに添加後、 10 分間反応させた後、 TMB
いる蛍光領域を特定することができる。 その結果、 特定の蛍
反応停止緩衝液 100 μ L を加え反応停止させた。 得られた
光波長をもつ物質を絞り込み推定できるかもしれない。
反応液は反応液添加後停止後 10 分以内に 450 nm (主波長)
本研究では、 先行研究で用いられている蛋白および組織の
/630 nm (参照波長) における吸光度を測定した。 サンプル
糖化モデルを用いて AGEs に由来する蛍光スペクトルを探索
中のペントシジン濃度はペントシジン標準液で作成した検量線
し、 ヒトの皮膚蛍光スペクトルとの比較を行った。
から算出した。
蛍光スキャン
蛍光スキャンには、 各サンプルの蛍光強度を蛍光光度計
方法
(LS50 型蛍光光度計、 パーキンエルマー社製 ) を使用して
1cm 角セルで測定した。 各フィルターのスリット幅は 10nm、 ス
in vitro 実験
キャン速度は 200nm/min とした。
サンプルの調整
蛋白糖化モデルは、既報の如く 7) ヒト血清アルブミン (human
serum albumin: HSA, Sigma Chemical Co.Ltd, MO, USA) を
ヒト試験
用いた。 0.1 mo1/L リン酸緩衝液 (Phosphate Buffer Solution:
対象
PBS) (pH7.4) 500 μ L、 蒸 留 水 200 μ L、 40 mg/mL HSA
200 μ L、 2 mol/dL グルコース水溶液 100 μ L を 60℃で 0
~ 6 日間インキュベーションした (HSA-Glc(+))。 同時に反応
ブランクとしてグルコース水溶液の代わりに蒸留水を添加したも
のをインキュベーションした (HSA-Glc(-))。 また、 蛍光性物質
の陽性コントロールとして、 硫酸キニーネ水溶液を用いた。
皮膚の糖化モデルはコラーゲン組織である牛皮 ( トラッド
ホワイトガム ペッツルーツ社製 ) を、 最終グルコース濃度が
対象は、 健常な男女 11 名 (30.1 ± 11.6 歳 ) とした。 各被
験者には、 個別に試験の説明会を開催した後、 書類上で試
験参加の同意を得た。
皮膚蛍光の対象指標
皮 膚 蛍 光 の 対 象 指 標 測 定 に は、 AGE ReaderTM
(DiagnOptics, Groningen, Netherlands) を用いた 15, 16)。 同機
( 2 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
器は、 皮膚組織へ蓄積した AGEs が紫外線照射により励起
試験サンプルは、 照射時間 1000msec の測定結果の蛍光性
され特有の自己蛍光 (auto fluorescence; AF) を発する性質が
物質添加前と添加後の牛皮の測定結果の差を算出した ( ⊿
あることを利用している 17)。 同測定機は励起光 370nm に対し
Intensity)。 ヒトの皮膚は、 照射時間 5000msec で測定した。
て得られる 300nm ~ 600nm までの強度を分光器にて検出し、
420nm ~ 600nm までを蛍光として用いている。 結果は 420nm
統計解析
~ 600nm までの平均値とし、 任意のユニットである皮膚 AF と
して表示される。
試作機の各波長における蛍光強度と各種検査結果の関係
は、 それぞれの波長における Pearson の相関係数を算出しグ
ラフ化することで、 相関係数スペクトルとして示した。 統計解析
試作の蛍光測定機
には、 Excel を用いた。 また、 r 相関表をもとに危険率を算出
装置は、 分光器 (MS シリーズ C10988MA、 浜松ホトニク
した。
ス、静岡県浜松市) を装着した 375nm の発光ダイオード (light
electronic dyode: LED) (NS365L, ナイトライド ・ セミコンダク
倫理基準
ター、 半値幅± 5nm) を光源とする蛍光測定器とした 18)。 対
本試験は厚生労働省 ・ 文部科学省の 「疫学研究に関する
象が直径 6mm の円形の穴から 45°の角度で測定光が照射さ
倫理指針」 を遵守した。 本研究は同志社大学倫理審査委員
れるように光源を装着した。 分光器特性は、 波長測定範囲 :
会を開催し,試験の倫理性および妥当性について審議を行い、
325 ~ 765nm、 分解能 : 1.2nm とした。 測定前には、 LED ラ
承認のもとに実施した ( 承認番号 0832)。
ンプを点灯しない暗電流における強度を測定し、 LED ランプ
点灯時の毎回の測定結果から引くことで補正した。 以後、 計
測回数は紫外光 LED ランプ、 暗電流ともに 3 回測定した平均
結果
値を用いた。
蛍光スペクトルの補正のため、 LED 前には可視光領域の
迷光を取り除くため可視光カットフィルター (IUV-375, 五鈴精
蛍光性物質のスペクトル
工硝子株式会社、 大阪府大阪市 ) を装着した。 フィルター特
性は、 素材 P2O5-Al2O3、 厚さ 5mm、 屈折率 1.551、 透過率
254nm ≦ 0.1%, 405nm ≦ 1% とした。
牛皮サンプルは、 照射時間 3000msec の測定結果のうち
G (+) と G (-) サンプルの差を算出した ( ⊿ Intensity)。 添加
硫 酸 キ ニ ー ネ 水 溶 液 は、 励 起 波 長 370nm、 蛍 光 波 長
440nm に お い て 極 め て 高 い 測 定 値 を 示 し た (Fig. 1 (a))。
HSA-Glc (+) は励起波長 370nm において、 430 nm 付近に
極大波長が認められた (Fig. 1 (b))。 また、 HSA-Glc (-) は
430nm 周辺でわずかに蛍光強度が高値であった。
Fig. 1. Fluorescence spectrum of quinine sulfate and HSA-Glc
Excitation wavelength was at 370 nm.
(a) Quinine sulfate ( positive control for fluorescence).
(b) Human serum albumin incubated with glucose (G (+)) and no glucose (G (-)).
( 3 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
極 大 波 長 335/385nm 可 能 な ペ ン ト シ ジ ン は、 励 起 波 長
牛皮を用いた蛍光スペクトル測定
370nm において蛍光波長 444nm にピークを認めた (Fig. 2 (a))。
また、 励起波長 370nm におけるペントシジンの検出感度を
検討するため励起光照射量を下げて再測定したところ、 ペン
トシジン標準物の励起波長 335nm に対する蛍光波長 385nm
の相 対 蛍 光 強 度 は 約 1.7 (Ex 238.5/Em 401.3)、 励起 波 長
370nm に対する蛍光波長 440nm の相対蛍光強度は約 0.04 (Ex
400.0/Em 12.3) であり、 これは励起光 335nm における検出感
度の約 1/42.6 倍に相当した (Fig. 2 (b))。 尚、 ELISA 法にて
上記の HSA-Glc(+) 反応液中のペントシジン濃度を測定したと
インキュベーション期間に依存して牛皮サンプルの褐変化が
認められた (Fig. 4 (a))。 各インキュベーション期間における蛍
光強度の差は、 452.8nm においてインキュベーション期間が
長くなるほど増加した (Fig. 4 (b))。
添加試験結果に関して、 蛍光性物質添加前後の牛皮の蛍
光スペクトルの差は、 420 ~ 600nm の範囲で硫酸キニーネ水
溶液、 HSA-Glc (+)、 ペントシジンいずれも濃度またはインキュ
ベーション期間に依存して増加した (Fig. 5)。
ころ、 0.161 μ g/mL であった。
皮膚蛍光スペクトルと暦年齢および皮膚 AF との関係
照射時間 5000msec における被験者 11 名の補正後の皮膚
試作機の予備実験
照射時間 25msec における皮膚蛍光スペクトルからは、 400
~ 600nm の範囲で特徴的なピークを見つけることができなかっ
た (Fig. 3 (a))。 また、 照射時間 5000msec では分光器の検
出限界を超えたが 451nm および 485nm において特徴的な
ピークを認めた。 しかしながら、 励起光側の迷光が蛍光領域
に混入していることを確認した。 さらに、 補正後の照射時間
5000msec における皮膚蛍光スペクトルは、 励起光と蛍光領域
が分離され、 同様に 451nm および 485nm において特徴的な
蛍光スペクトルからは、 451nm および 485nm に特徴的なピー
クが出現し、 顕著な差が認められた (Fig. 6 (a))。 また、 これら
の被験者の暦年齢 ・ 皮膚 AF の相関係数スペクトルを算出し
たところ、 暦年齢は 500 ~ 700nm、 皮膚 AF は 420 ~ 650nm
における蛍光強度と正の相関関係を認めた (p < 0.05) (Fig. 6
(b))。 尚、 440nm における蛍光強度は、 暦年齢と正の相関関
係を持つ蛍光を認め (r = 0.582 , p =0.060)、 皮膚 AF と正の相
関関係を認めた (r = 0.832 , p =0.001)。
ピークを認めた (Fig. 3 (b))。
Fig. 2. Fluorescence spectrum of pentosidine
The maximum wavelength of 335/385 nm was observed the peak in the fluorescence wavelength of 444 nm at an excitation wavelength of 370 nm.
( 4 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
Fig. 3. Exploratory experiment of preproduction of fluorometer
Subject was 28 year-old Japanese man
(a) Human skin fluorescence spectrum after irradiation by a normal LED for 25 msec and 5,000 msec
(b) Human skin fluorescence spectrum after irradiation for 5,000 msec by an LED fitted with a visible light cut-off filter.
Fig. 4. Relation between fluorescence intensity and incubation period with glucose (N = 3)
(a) Appearance of bovine skin samples incubated with glucose in each time
(b) Fluorescence spectrum of bovine skin samples after irradiation for 3000msec. Δ Intensity means the difference between sample incubated with
glucose (G (+)) and no glucose (G (-)).
( 5 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
Fig. 5. Results of fluorescent sample added tests (N = 3)
(a) Quinine sulfate, (b) HSA-Glc (+), (c) pentosidine were added to bovine skin samples and incubated in glucose free solution. Δ Intensity means
the difference in intensity between fluorescent-added and negative samples, irradiated at 1,000msec.
( 6 )
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p
Fig. 6. Fluorescence spectra of human skins and correlation coefficient of the intensity (N = 11)
(a) Subjects were healthy men and women.
(b) Pearson’s correlation coefficient (r) were plotted each wavelength on the graph.
考察
加を認めると報告している 7)。 従って、 一般的な蛍光性 AGEs
測定条件である励起光 370nm 蛍光 440nm にて得られた結果
in vitro サンプルの蛍光スペクトル
は、 様々な部位の糖化および老化現象と関連付けて議論でき
AGEs の物理化学的性質の一つとして、 主に励起光 370nm
るとの利点があると考えられ、 これを AGEs 蛍光とした。
蛍光 440nm にて特徴的な蛍光を有する物質が存在すると報告
されている 4)。 本研究では、 HSA を糖化反応させたサンプル
から 440nm 付近 ( ピークトップ 430nm) にピークを持つ蛍光ス
牛皮の蛍光スペクトル
ペクトルが得られた (Fig. 1 (b))。 HSA-Glc (-) も同様に 440nm
試作機による牛皮糖化モデルの蛍光スペクトル解析結果か
付近で微小なピークを認めたが、 これは元の HSA 試薬中の
ら、 主に 451nm における蛍光強度が生体のコラーゲン組織
蛍光と考えられ、 HSA-Glc (+) から差し引くことで糖化反応由
の糖化度に大きく関与していることが示唆された (Fig. 4 (b))。
来の蛍光強度が算出できる。 また、 Fig. 2 (b) より極大励起波
Bachmann ら (2006) は、 励起光 360nm における生体組織か
長 335nm 蛍光波長 385nm のペントシジンは励起波長 370nm
ら検出される蛍光性物質は、 現在のところ 440 ~ 460nm で検
蛍光波長 440nm において、 約 1/42.6 の感度で検出できるこ
出されるコラーゲンに由来する蛍光のみであると報告している
とがわかった。 同測定条件によりペントシジンが検出できたと
21)。
の報告は現在のところない。 Paul ら (2001) はヒトの皮膚の励
はコラーゲンの糖化反応生成物に由来するものである可能性
起光 370nm 蛍光 440nm の相対強度と皮膚生検中サンプル中
が高い。
従って、 牛皮糖化モデルから検出された 451nm の蛍光
のペントシジンには正の相関関係があると報告しているが、 本
牛皮への添加試験の結果から、 蛍光スキャン結果にて励起
研究結果より直接測定している可能性が高いと考えられる 19)。
光 370nm 蛍光 444nm 付近で検出できたペントシジン由来蛍
ペントシジンは血漿中に微量ではあるが存在し、 加齢に伴い
光の変動を 451nm 付近で検出できたことは、 ペントシジンは
濃度が上昇する
2,20)。
また、 真皮などコラーゲンを多く含む組
現在報告されている唯一の皮膚中蛍光性 AGEs であり、 現在
織中に存在することから、 蛍光測定法にて測定可能であること
最も研究されている蛍光性 AGEs の一つであることから 3,22)、
は生体の糖化度を測定し他の老化 ・ 疾患との関係を検討する
今後の生体の糖化および老化度をモニターするうえで大きな意
のに適していると考えられる。 従って、 AGEs 由来の蛍光強度
義を持つ (Fig. 5 (c))。 また、 試作機が AGEs 蛍光をモニターし
測定には、 励起波長 370nm 蛍光波長 440nm が適切と考えら
ており、 散乱光などの別の光を検出している可能性が低いと考
れた。 Hori ら (2012) は、 アルブミン以外にもコラーゲン、 エ
えられる。 尚、 HSA-Glc (+) の蛍光スペクトルは他の添加サンプ
ラスチン、 ケラチンなど、 様々な生体の蛋白質がグルコース水
ルと比べ最も短波長側にピークを持つため (430nm 付近 )、 添
溶液とのインキュベーション期間に依存して同様の蛍光強度増
加前後の差も短波長側が比較的高値になっていた (Fig. 5 (b))。
( 7 )
蛋白糖化最終生成物 (AGEs) 由来の蛍光スペクトルの探索
ヒトの皮膚蛍光スペクトル
利益相反申告
AGE Reader は健常者と糖尿病合併症および腎疾患患者
との蛍光スペクトルの差をモニターできるものの、 健常者間に
関してはこの検出感度では差異を認めることが困難と考えら
れる 23)。 特に、 蛍光性 AGEs 特異的なスペクトルを検出で
きていないためターゲットが絞れず、 幅広い蛍光領域の平均
強度を用いている点が当該分野の発展の妨げになっている。
Koetsier ら (2009) は、 キセノンランプを光源とする蛍光測定器
を別途作製し、 励起光 350 ~ 420nm 蛍光 420 ~ 600nm の幅
広い範囲で糖尿病患者に特異的な蛍光スペクトルを探索した
が見つけることができなかったと報告している 12)。 キセノンラン
プは、 光源の光強度が時間的に変化しにくく安定した光源で
あるが、 低密度照射体であるため生体では励起光の散乱が強
く感度が低下する。 この散乱を避けるために励起光幅の狭帯
域化を図ると励起光量が減衰する。 上記のような測定器の技
術的な限界も課題として挙げられる。
本研究で用いた試作機は、 光源に LED を使用することで
発光スペクトルの半値幅が狭くなり、 照射時間を長くすること
で AGE Reader より高い蛍光強度が得られるようになった。 ま
た、 可視光カットフィルターを紫外光 LED 前に装着することで
励起光 LED の影響を取り除くことができ、 照射時間を長くす
ることで高純度の蛍光スペクトルが得られるようになった (Fig.
3 (b))。 その結果、 皮膚において 451 および 485nm において
AGE Reader では検出できなかったピークの検出が可能となっ
た (Fig. 3)。 このように、 試作機は AGE Reader の蛍光スペク
トル検出上の問題を解決できたことで、 この分野においてまだ
なされていない蛍光スペクトルと生体の糖化度の関係を物質レ
ベルで検証をすることが可能となった。 一方、 新たに励起光
側の強度が分光器の測定可能ゲイン値を超えてしまうという問
題が発生した。 励起光強度は、 被験者の皮膚色による影響な
どを補正するために必要と考えられるため 24, 25)、 今後の検討
課題としたい。
試作機によるヒトの皮膚蛍光スペクトル測定結果より、 451nm
または 485nm 付近のピークは健常者間でも差が認められた
(Fig. 6 (a))。 同領域は皮膚 AF との相関関係が強く、 HSAGlc (+)) の蛍光スキャン結果とも近いことから、 AGEs 蛍光が含
まれていることが示唆された。 今後は、 皮膚稽古強度とヒトの
生体情報との関係を検討することで、 生体の糖化度を簡便に
モニターできる波長をさらに追跡したい。
結語
in vitro 実験結果から、 励起光 370nm 蛍光 440nm の条件
で得られる蛍光強度は蛍光性 AGEs に由来するものを含んで
いると確認でき、 ヒトの皮膚からも同様の蛍光スペクトルが検出
できることが分かった。 従って、 この AGEs 蛍光を測定するこ
とで、 生体の糖化度を簡便にモニターできる可能性が示唆さ
れた。
( 8 )
本研究を遂行するにあたり利益相反に該当する事項はない。
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