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空心菜栽培による地域貢献・復興支援活動

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空心菜栽培による地域貢献・復興支援活動
空心菜栽培による地域貢献・復興支援活動
森本達雄(岐阜県立恵那農業高等学校)
Keyword:空心菜栽培、水質浄化、塩分吸収
【はじめに】
本校は、1997 年より恵那市の中心を流れる阿木川で
(2)フロート浮島への空心菜苗の移植
定点調査(阿木川ダムの上流約3kmの北谷、下流約
植物が栽培できる浮島を作るにあたり、人が乗って
2kmの東野大橋)を行い、水生生物調査と簡易水質調
も安心して作業できる浮力が必要と考えた。そこでダ
査に取り組んできた」。上流部ではカワゲラやサワガ
ム湖の船着き場などに利用されるフロート(ポリエチレン
ニなど、下流部ではヒラタドロムシなどを確認し、水
製、50×50×高 40cm)で作製することにし、フロー
性生物調査により上流部は「水質階級Ⅰ」、下流部で
トの浮力実験などを校内プールで実施した。安全を確
「水質階級Ⅱ」と評価してきた。上流観測地点は民家
認した上で木枠やコンテナでの野菜栽培について取組
や農地もほとんど無く水質は良いが、下流地点付近に
み始めた。浮島に作った1m 四方のすき間に同じ寸
は民家や田畑があり、生活排水や農業排水が流入する
法の木枠を設置し、そこへコンテナ(三甲㈱ 網目サ
ために、水質がやや低下することを確認してきた。そ
ンテナー A#80 型 外寸 664×468×高 333mm 容量
の2地点の間にある阿木川ダム湖において 2002 年 9
75.2L)を落とし込み設置するという方法をとった。
月、2003 年 8 月、大量のアオコ発生を確認した。アオ
苗を固定させるためにコンテナの底に網戸用の網
コは景観を損ねるだけではなく、一部人体への影響が
(1m×1m)を付け、その上に培養土を厚さ 10c
ある種類も発生し、水道水への影響も心配された。そ
m程度入れ空心菜の苗を移植した。初年度はコンテ
こで市・水資源機構阿木川ダム管理所・本校が協力し、
ナ 16 個に空心菜を計 64 本(1 コンテナに 4 本)移植した。
アオコの発生を防ぐことを目的に 2004 年より水質浄
現在は、フロート 332 個で作成した 9×13m の浮島
化に取り組むことになった。
にコンテ
水質浄化方法は、自然に負荷が少なく経費のかから
ナ 96 個を
ない方法として、浮島で野菜栽培を考案し、ダム湖の
設置し、空
栄養分を野菜により吸収させる活動を始めた。活動を
心菜を計
開始後 13 年の間に、名古屋市の堀川での水質浄化や、
1152 本(1
宮城県での空心菜栽培による復興支援活動などにも
コンテナに 12
取り組み成果を残してきた。地域の方々との協働活動
本)移植し
をとおして生徒は実践力を身につけ、社会貢献の意識
ている。
を向上させている。
フロート間にコンテナを設置し苗を移植(2004.7)
(3)浮島での空心菜栽培と収穫活動
浮島の設置場所については、市民に活動を知っても
【研究内容】
(1)空心菜
らうために通行量の多い国道から見える場所とし、湯
水質浄化実験には、暑
壺川合流
さに強く水をよく吸い、
地点付近
食用が可能な中国野菜の
とした。
「空心菜」を用いること
苗の移植
とした。ヒルガオ科の多
空心菜
作業は、
年生植物で茎が空洞である。暑さに強く水分の多い場
工事用取
所で栽培できる。恵那では路地やハウスで栽培しても
り付け道
種はつかないことや、寒さには弱く霜に当たると茎も
路で行っ
根も枯れることを確認し、地域の生態系に影響を与え
ている。
ないことが分かった。
332 個のフロートで作成した浮島(2008.6)
移植活動には、恵那市、阿木川ダム管理所、NPO 法人
倍含まれ、
カフェインは含まれないことも分かった
(分
ふれんどりー(ダム湖畔の販売所)の方々と本校生徒、
析機関:カスシウム・カリウムは岐阜県公衆衛生検査センター、カフェ
計 30 名程度で毎年行っている。
インハはビジョンバイオ(株))。学校での販売には至ってい
移植1ケ月後から空心菜の生長がほぼ止まる 10 月
ないが、恵那市が毎年開催知る環境フェアで試飲をし
中旬までの間に 4~5 回、
収穫活動や浮島に集まる生物
ていただいており、「おいしい。」「体によい感じ。」
の調査を行っている。空心菜の収穫量は、毎年約 500kg
など、好評をいたただくことができた。
程度収穫している。2008 年の調査では、11 月に浮島の
空心菜撤去時の根や茎の重量と収穫量を合わせた総重
また家庭科の協力のもと空心菜レシピ集を開発し、
イベントなどで配布している。
量は 1222kg、空心菜の成分分析(日本食品分析センタ
ー)の結果、リン
(5)ペットボトルミニ浮島の作成
含有量 14.2mg/100
流域の子供達にも水質浄化活動を体験してもらうこ
g、ダム湖の年平
とも重要であると考え、小学校などの池で簡単な水質
均 リ ン 濃 度
浄浄化実験ができるよう、小さな浮島づくりにチャレ
(0.0159mg/L)よ
ンジした。カゴやペットボトルを利用して様々な試作
り試算し、約
品を作成した結果、育苗に使用するポットトレイとペ
3
11000 m の湖水
ットボトルを利用し、「ミニ浮島」を考案した。ビニ
からリンを吸収し
ール被服のハリガネを使用し、子供が怪我をしないよ
たことが分かった。
うに工夫し説明書を作成し配布したところ、市内の小
この値から収穫し
中学校の池や会社
た空心菜1束
の貯水池など、た
(100g)を販売す
大きく成長した空心菜(2004.9)
くさんの場所でミ
るとバケツ1杯(約 10 リットル)の水を綺麗にしているこ
ニ浮島での空心菜
とになる。これを「空心菜マイレージ」と名付けた。
栽培による水質浄
3
ダム湖に流入する水量は1億m /年であり、リン
化活動が行われる
を吸収した水量は全体の水量と比較すると1万分の1
ようになった。こ
程度であるが、定量化できたことは収穫であった。
のミニ浮島は、名
阿木川ダム湖の水質の悪化の原因については、
古屋市の堀川で水
①生活排水の影響(ダム湖流域 約 6000 人の浄化施設
排水の栄養塩の蓄積)
質浄化活動に利用
され、その後、宮
②農業排水の影響(ダム湖流域の農地面積は約 351ha
城県での活動に繋が
(稲と飼料作物でほぼ 9 割))
ることとなった。
③自然界からの栄養塩類の流入と蓄積(落ち葉などの
(6)名古屋市堀川での水質浄化活動
流入と分解による汚泥の堆積)
開発したペットボトルミニ浮島(2009.7)
2010 年 7 月、堀川の水質浄化を目的に活動する名古
などが考えられる。浮島での空心菜栽培によりダム湖
屋堀川ライオンズクラブと協力し、町の中心を流れる
の水質改善が画期的に進んだとは考えられないものの、
堀川にミニ浮島を設置した。堀川は、江戸時代に伊勢
浮島の設置以降、大量のアオコは発生していない。
湾から名古屋城まで、物資の水路運搬を目的に掘られ
た堀で、河川からの淡水の流入がほとんどなく、伊勢
(4)空心菜の販売・加工品開発・レシピ作成
湾の海水と雨水などが混ざる汽水域となっている。
収穫した空心菜の販売は、ダム湖畔にある販売所で
ミニ浮島の設置前に塩水での空心菜栽培実験を行っ
2006 年より始め、毎年完売している。また空心菜の消
たの結果、海水と同等の塩分 3%では萎れたが、塩分
費を増やすため、
販売に適さない太い茎を乾燥させ
「空
1%区は生長が確認でき、堀川での栽培は可能である
心菜茶」を開発した。ほうじ茶のような風味で、煎茶
と考えた。
と比較すると、カルシウムは約 4 倍、カリウムは約 2.5
5 基のミニ浮
塩分吸収実験を申し込み、水田に設置させていただい
島に空心菜
た。農業用水が利用できないことから、鈴木さんは自
20 本を設置
前で井戸を掘り稲作を行っている。井戸水の塩分濃度
した。3 ケ月
は 0.04%、水田の塩分濃度は 0.13%であった。
後、野菜の生
空心菜を塩分に慣れさせるために、育苗段階に
長量を設置時
0.5%、1.5%の塩水を3週間かん水した。2011 年 6 月
と比較したと
水田に空心菜をミニ浮島により設置し、8 月 27 日(移
ころ、重量比
植後 77 日目)に重量比較したところ、対象区(100)
で 1650 倍とな
堀川に設置したミニ浮島(2010.7)
に対して塩水0.5%区が127、塩水1.5%区が111となり、
り、汽水域でも
塩水かん水の効果が確認できた。また、成分分析の結
空心菜が一定量
果、ナトリウム量 300 mg/100 g(食品成分表
生長することが
26mg/100g の 11.5 倍)となり塩分当量は 762mg/100g、
確認できた。成
空心菜(12 株)の重量 3.21kgより算出すると 24.6g
長した空心菜を
の塩分
生で食べてみた
吸収。
ところ、ほどよ
1株あ
い塩気を感じた。
3 ケ月後大きく成長した空心菜(2010.10)
たり約
岐阜県公衆衛生検査センターでの成分分析の結果、ナ
2gの
トリウム 200mg/100g を確認した。
撤去作業時の野菜重
塩分吸
量 330kgより計算し、成長した空心菜全体で 1600g
収を確
の塩分吸収が確認できた。この実験により淡水の河川
認でき
の他に、河口付近の汽水域でも、空心菜の栽培が可能
た。
であると分かった。
津波被災した水田での塩分吸収を確認
また、ミニ浮島で13種類(アベハゼ、アオモンイ
2012 年以降、仙台市宮城野区や東松島市の仮設住宅
トトンボ、イチモンジセセリ、カニなど)の生物も確
において空心菜苗の配布や農地での空心菜移植活動を
認でき 生物の新たな住処となることも確認できた。
行った。仙台市宮城野区の津波被災農地で空心菜を栽
培し以下の内容が分かった。2012 年 8 月 19 日~8 月
(7)宮城県での空心菜栽培による復興支援活動
31日まで降雨は無く、13日連続で気温は30度以上であ
2011 年 3 月に発生した東日本大震災は、太平洋沿岸
った。水やりは全く無い状態でも空心菜は大きく生長
の農業にも大きな被害を及ぼし、津波による水路施設
し、空心菜は乾燥にも強いことが分かった。根を掘り
の損害は大きく、農地の瓦礫撤去とともに、塩分除去
上げてみると、
地中 30cm 程度までたくさんの細い根が
も大きな課題となっていた。名古屋市堀川での空心菜
張り、乾燥した農地でも水分を吸収していることが分
栽培実験により、汽水域で空心菜が生長し、一定量の
かった。成長した空心菜を食べてみると塩気も感じら
塩分吸収を確認したことから、津波の流入した水田で
れた。成分調査の結
の栽培により塩分吸収に役立てることができないかと
果、100g当たりナトリ
考えた。塩害
ウム 310mg(成分表の
が予想される
空心菜 28mg と比較
水田で稲作に
すると約 11 倍)
含む
挑戦する鈴木
ことが確認でき、農
英俊さんをテ
業用水の確保できな
レビで拝見
い津波被災農地にお
し、本校から
いても空心菜の栽
空心菜による
津波被害を受けた水田での空心菜栽培(2011.6)
東松島市津波災農地での移植活動(2013.7)
培は十分可能であることがわかった。
活動2年目からは生徒とともに宮城を訪れ、仮設住
【生徒の感想より】
宅の方々や
「ダム班では多くの人と関わることができました。市
地元高校生
役所の人やダム管理所の人などたくさんの人と関わる
との交流も
ことができ、コミュニケーション能力が身に付きまし
行っている。
た。身の回りの水について、普段あまり考えてこなか
仮設住宅で
ったけど、自分達の生活が水質に影響を及ぼしている
は苗の配布
ことを学んだ。
人以外の生き物にとっても重要な水を、
とともに、
大切にしていかなければいけないと思った。」
試食を配布
「宮城での活動を通して、たくさんのことを知り学ぶ
しながら調
仮設住宅で空心菜苗と試食を配布(2015.7)
理方法について説明した。
ことが出来た。宮城で活動(2013 年)するまで、テレ
ビであまり放送されなく無かったこともあり、殆ど復
配布した空心菜の苗は、プランタに植え栽培利用さ
旧は終わっていると思っていた。現地には津波で基礎
れていたが、水やりが不足すると茎が堅くなってしま
だけが残った住宅団地があったり、津波で破壊された
い食べにく
ままの民家が残っていたりするのを見て、驚いた。仮
いとの感想
設住宅の方々は皆さん大変優しく、私たちが元気をも
を確認した。
らって帰ってきたように感じた。農地に空心菜を植え
そこで、恵
付けたが、
土の中からサンダルや手鏡が出てきた時に、
那市の会社
初めて津波の怖さを実感した。ここで見たことや考え
より廃棄す
たことを、これからたくさんの人に話し伝えなければ
るコンテナ
いけないと思った。
」
をいただき、
洗った容器
仮設住宅でコンテナでの栽培を説明(2015.7)
【今後の展開】
に空心菜苗を置き、水を入れることにより水やりの手
今後も阿木川ダム湖での水質浄化に継続的に取り組
間が省くことができ、茎も柔らかくなり食べやすくな
み、アオコ発生を防ぎ水環境の保全に貢献してゆきた
ることがわ
い。また県内外、海外の河川や湖沼、河口部などにお
かった。昨
いても、水質保全に役立てていただけるよう情報提供
年、東松島
を進めてゆきたい。
市の仮設住
それにより、「汚れた水」という「負の価値」を、
宅で配布し、
「栄養分の豊富な水」という「正の価値」への意識転
たくさんの
換が図られれば、一層の貢献ができると期待できる。
方に栽培利
用していた
だくことが
【各種表彰】
仮設住宅で「コンテナドボン栽培」
(2015.8)
できた。生徒はこの栽培方法を「コンテナドボン栽培」
・内閣府主催「地方シンクタンクによる政策コンペ」
審査委員長特別賞(2007.12)
と名付け、イベントなどで宣伝を行っている。容器と
・日本河川協会「河川功労者表彰」(2010.5)
苗があればどこでも栽培が可能で、農地の無い一般家
・第12回日本水大賞 奨励賞(2010.7)
庭、アパートのベランダ、大型船の甲板など、いろい
・国土交通省「手づくり郷土賞(一般部門)」
(2011.1)
ろな場所での利用が可能である。
今年は、東松島市の農家に空心菜苗を 700 本栽培し
ていただいた。その農家は本校が配布した空心菜苗を
栽培し、一昨年より市場出荷を行っている。これによ
り現地での苗の生産から栽培流通までの形を作り上げ
ることが出来たと考えている。
【引用・参考文献】 特になし
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