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 新生児期に発症のなかった患者は、
その後、
さまざまな月齢と年齢で、
多様な発症をする。成人期に発症するOTC欠損
症患者の家系や、
偶然に見つかった症例などもあり、
非定形的な臨床症状がある。行動異常、
繰り返す嘔吐、
睡眠障害、
妄想、
幻覚、
精神症状、
なども尿素サイクル異常症の臨床症状としてあげられる。
何らかの誘因による代謝の変動によって急激に血中アンモニア値が上昇して、
生命が危険にさらされることがある
(このよ
うな急激な血中アンモニアの上昇を発作または急性発作などと呼ぶ)。
また、
年長に達するまでまったく症状が無かったのに
急激に高アンモニア血症を発症する尿素サイクル異常症患者では、
何らかの誘因が引き金となって代謝が大きく変動してい
ると考えられるのである。
精神運動発達の遅れは、
もっともよくみられる。アンモニアの上昇が持続すると中枢神経系の障害が不可逆的になり、
知
的レベルが低下する。その程度は、
高アンモニア血症の程度と持続時間、
回数と密接に関係している。重度の場合、
寝たき
りになる場合もある。そのほか発育障害、
学習障害、
てんかん、
などがある。年長者では行動異常、
性格変化が現れる。
尿素サイクル異常症の診断は、
臨床的な診察、
生化学的な検査、
遺伝子情報に基づいて行う。血中のアンモニア濃度が上昇し、
かつ
アニオンギャップが正常で、
低血糖がない場合には、
尿素サイクル異常症の存在が強く疑われる。血清(あるいは血漿)
のアミノ酸分析に
よって一部の尿素サイクル異常症では診断に至ることがある。
臨床症状から高アンモニア血症の存在を疑い、
アンモニアの測定を行う。特に遅発型発症では、
幅広い臨床症状を念頭に置いて、
アンモニアを
測定する機会を増やすことが求められる。BUNの低値は尿素サイクルの機能低下を表すことがある。アンモニアが上昇した際にAST(GOT)、
ALT(GPT)
の上昇をともなう症例が多いことも重要である。代謝性アシドーシス、
尿酸の高値は有機酸血症の存在を疑わせ、
白血球減少、
血小
板減少はメチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症の存在を疑わせる。アンモニア値上昇があってアニオンギャップ正常、
血糖値正常であれ
ば尿素サイクル異常症が強く疑われる。鑑別診断ではシトルリン、
アルギニン、
アルギニノコハク酸を含むアミノ酸分析を実施する。尿中オロト酸、
ウ
ラシル値は重要な参考となる。
血中アミノ酸、
尿中アミノ酸の分析は、
最も重要な鑑別のための検査であり、
いくつかの尿素サイクル異常症は鑑別可能である。
シトルリン血症、
アル
ギニノコハク酸尿症、
アルギニン血症、
また血中オルニチンの上昇を伴う疾患も診断できる。遅発型発症でも、
アミノ酸分析によって診断される例は多い。
アミノ酸の低値を示す疾患にも注意する。シトルリンの低値はCPS I 欠損症、
OTC欠損症、
NAGS欠損症の診断に重要である。重症例ではシト
ルリン低下はよく見られる。基準範囲の下限の近くにあることも多い。
アルギニノコハク酸の上昇を伴わないシトルリンの顕著な上昇はシトルリン血症I型かシトリン異常症を考える。シトリン異常症ではシトルリンのほ
かにメチオニン、
スレオニン、
セリン、
などの増加を伴う。アルギニノコハク酸の尿中排泄の増加の確認はアルギニノコハク酸尿症の診断をほぼ確定
できる。血中アルギニンの増加はアルギナーゼ欠損症を強く疑う。重症のアルギナーゼ欠損症ではアルギニンは正常の5倍からそれ以上増加して
いる。オルニチンの顕著な増加はオルニチントランスアミナーゼ
(OTA)欠損症あるいはHHH症候群を疑う
(ただしOTA欠損症では新生児期に
は高オルニチン血症はない)。
リジン、
オルニチン、
アルギニンの低値はリジン尿症(リジン尿性蛋白不耐症)
をうたがう。尿中でのこれらのアミノ酸の
排泄増加で確認できる。
尿中オロト酸の排泄(通常クレアチニンあたりの濃度で示す)が高
尿有機酸分析・尿中オロト酸はガスクロマトグラフィー・マススペクト
値の場合、
CPS I 欠損症とNAGS欠損症以外の尿素合成に関係す
ロメトリー
(GCMS)法で行う。メチルマロン酸血症、
プロピオン酸血症
る酵素の異常が疑われる。尿中オロト酸はGCMSあるいは、
比色法
などの有機酸血症に伴う高アンモニア血症の鑑別には必須である。
で定量することも可能である。OTC欠損症の女性患者あるいは保
因者の診断にオロト酸の測定が行われる。
出生前診断や発症前診断を目的にする場合にも酵素診断および
遺伝子診断が必要になる場合がある。個々の遺伝子診断について
は状況により可能である。
新生児期に実施されるタンデムマスを用いた新生児スクリーニン
グにおいて多項目のアミノ酸測定を実施した場合には、
シトルリン血症、
アルギニノコハク酸尿症、
アルギニン血症、
が診断可能である。一方、
OTC欠損症とCPS I 欠損症、
NAGS欠損症の新生児スクリーニン
グは可能ではない。
尿素サイクル異常症を理解するには生物の窒素バランスを理解しなければならない。経済動物のブタは肉を商品
として販売するので当然窒素バランスは正になる最も効率的な方法で飼育されている。人類では成長しているこども
は窒素バランスが正であるが、
体が大きくならない大人は、
窒素バランスはプラスマイナスゼロでなければならない。生
物は食事として体内に入れた窒素をその分体外に排泄しなければならない。このシステムを維持するために、
魚はア
ンモニアで、
ヒトなどのほ乳類は尿素で、
鳥は尿酸で窒素を体外に捨てる(図1)。
ヒト
(哺乳類)
においてこの尿素合
成を行っているのが尿素サイクルである。
アンモニアは尿素サイクルを介して捨てられるだけでなく、
再利用の回路も存在する(図2)。
表に先天性尿素サイクル異常症の遺伝に関する情報をまとめたものを示す。オルニチントランスカルバミラーゼ欠損
症(OTC欠損症)以外の疾患はすべて常染色体性劣性の遺伝形式をとる。すなわち血族結婚が見られればその危
険性は高くなるが、
基本的には家族内に同一疾患の発生を見ない。
OTC欠損症はX染色体関連遺伝病の形式をと
り、
その遺伝的背景の多様性は良く知られている。筋ジス
トロフィーや副腎不全症と合併して発症すれば隣接遺伝
子症候群の可能性が高い。
また新規(新生)
突然変異(デ
ノボ変異)
が知られ、
Tuchmanらが行った患者家系の遺
伝子解析では1)、
男性患者および女性患者における弧発
例がそれぞれ7%、
80%であることから、
de novo 変異の
多くは精子レベルで起こると予想されている。女性ヘテロ
患者がいろいろな病態を取ることはX染色体の不活化す
なわちライアン仮説【Lyon hypothesis】で説明される。
日本では正確に診断された報告例はない。その理由は診断は酵素活性測定が必須で、
現在日本国内では測定できない
ことによる。欧米ではカルバグル が使用可能であり、
N-アセチルグルタミン合成酵素欠損症の診断は臨床上も必要である。
臨床症状はカルバミルリン酸合成酵素 I 欠損症と類似する。
先天性尿素サイクル異常症は代謝マップでアンモニアに近い疾患から重症型を示す。ごく稀に軽症型で遅発型も見られ
るが、
ほぼ大部分は新生児発症型でありその予後は、
生命予後を含めて極めて悪い。
日本で最も多くの症例が報告されている疾患である。女性ヘテロ患者の診断、
治療はいまだに問題を多く含んでいる。X
染色体関連遺伝病の形式をとるので、
遺伝相談(カウンセリング)が極めて重要な疾患である。
アルギニノコハク酸合成酵素の遺伝子異常による疾患である。シトリン欠損症とは全く別な疾患と考えるべきである。アル
ギニン大量療法で比較的良好な予後が得られる。
したがって新生児期における急性期の治療が非常に重要な疾患である。
従来はアルギニン大量療法が行われてきた。
しかしアルギニン投与により高値となったアルギニノコハク酸は強く中枢神
経系障害を示すことから、
多くの症例の神経学的な予後は不良であった。最近CPS I 欠損症やOTC欠損症に準じての治
療が勧められている。
血中アンモニア値はそれほど高値にならないが、
無治療の場合は知的予後を含めて予後不良である。
これはアルギニンがNO
合成酵素の基質になることから、
NOを介した障害が起きることが原因と考えられている。
日本における報告例は極めて少ない。
二塩基アミノ酸(リジン、
アルギニン、
オルニチン)の転送障害が原因である。腎臓の再吸収不全、
腸管の吸収不全により
血中二塩基アミノ酸値の低下がおきる。血中オルニチン値の低下によりOTCのレベルで尿素サイクルが止まることになる。
臨床症状は成長障害、
下痢、
間質性肺炎、
骨粗鬆症、
腎不全、
溶血、
肝腫大・肝機能異常、
血球貪食症候群と多彩である。
スイカにはシトルリンが多く含まれることから患者はスイカが大好きである。
この疾患の病態は日本で解明された。
ミトコンドリアへのオルニチンの移送異常により、
ミトコンドリア内のOTC酵素の反応
が障害される。
佐伯武頼先生、
小林圭子先生が解明した病態である。NICCDの時期から無症状期を経てCTLN2の病期に移行する
という、
極めて特徴的な病態を示すことで知られる。CTLN2においては高アンモニア血症への対応が生命予後に密接に
関係している。他の高アンモニア血症に推奨される高濃度の糖質の輸液や、
脳圧の低下を目的に行われるグリセロールの
投与などで、
患者の症状が悪化し死亡することも良く知られている。
重症の高アンモニア血症の患者を後遺症なく救命したいと考えるならば、
普段からの準備が必要
である。使用薬剤、
血液浄化法、
患者の移送などを一度シミュレーションし、
問題点があれば正して
おくべきである。
前の章で述べた診断作業と同時進行で治療も行わなければならない。
もし高アンモニア血症を呈する患者が現
れたら、
自分の施設で治療が可能かどうかを速やかに判断すべきである。高アンモニア血症の治療の経験のない施
設では、
患者の移送をまず第一に考えることが必要である。
また患者の高アンモニア血症が内科的にコントロールで
きないようなときには、
機会を逸することなく血液浄化のできる施設に患者を移送すべきである。交換輸血は治療的
効果はないので、
無駄な治療を行って時間のロスをしないようにすることは肝要である。他院への輸送に当たっては、
最低10%の糖濃度の輸液製剤を使用して少しでもカロリーが補充できるようにし、
多くの病院にある10%塩酸アルギ
ニン
(成長ホルモン負荷試験に使用する)200 mg/kgを転送に要する間に投与することを勧める。
もちろんフェニル
酪酸ナトリウム、
安息香酸ナトリウムが使用可能なら投与する。
自分のところで十分な準備ができるところでは以下の方法を勧める。
まずは経口たんぱくの摂取をやめることは言
うまでもない。
治療開始最初の90分(∼120分)
で、
ブドウ糖10%濃度の初期輸液製剤30 mL/kg、
静注用安息香酸ナトリウム
250 mg/kg、塩酸アルギニン200 mg/kgを投与する。経口投与が可能なようであればフェニル酪酸ナトリウム
300 mg/kgの投与も可能である。フェニル酪酸ナトリウムと安息香酸ナトリウムの同時投与も可能である。次いで以
後24時間毎に同量の薬剤およびカルニチン100 mg/kgを投与していく。輸液製剤の電解質濃度は症例の状態で
検討する。アミノ酸分析でシトルリン血症、
アルギニノコハク酸血症の診断ならば塩酸アルギニンを600 mg/kg/24h
に増量する。
高アンモニア血症発作の治療においては 60∼100 Kcal/kg/dayのカロリー投与が必須である。これは
glucose 15∼20 g/kg/day+fat 2 g/kg/dayで達成される。必要であればinsulinを0.05 U/kg/hから始める。これ
を投与するためには中心静脈の確保が必須である。
血中アンモニアは少なくとも2時間間隔でフォローし、
上記の高アンモニア血症の治療を開始して8時間たっても、
血中アンモニア濃度が1000( 800)
μg/dL以上の時は血液浄化法の導入を検討する。血液浄化法の適応基準は
一番低値で200μg/dL以上というものからいろいろなものが報告されている。その施設がどれだけ血液浄化法に慣
れているかによるものと思われる。血液持続濾過透析CHDFが新生児、
乳児にも比較的安全に施行できるとのこと
で多く行われている。持続腹膜透析はアンモニア除去効率がCHDFの1/3と言われているが、
血液浄化可能な施設
への移送ができず自院で施行可能なら行うべきである。
血中アンモニア測定値の単位にご注意。100μmol/L=180μg/dL、
100μg/dL=56μmol/Lである。単位により倍の値に
なるのでいつも単位をつけて記載するようにする。
安息香酸ナトリウムは通常薬剤部にはない。アンナカ
(安息香酸ナトリウムとカフェインとの合剤)
と決して間違えない。誤用
すると典型的なカフェイン中毒になる。
高アンモニア血症の治療薬としては、
アルギメート
(味の素製薬株式会社)
は窒素が1分子につき2つあるので絶対に使
用しない。
血中アンモニアが予期したようには落ちない、
また再上昇見る様な時の最大の原因は、
タンパク
(アミノ酸)投与の遅れで
ある。十分なカロリーを与えさらにアミノ酸を与えて、
体タンパク質合成(アナボリズム)への変換を図らねばならない。アミノ酸
投与は血中アンモニアが200∼300μg/dLを切って患者の状態が安定していたら速やかに開始する。治療後1週間以内に
は開始しなければならない。投与量はタンパク量(アミノ酸)
として200 mg/kg/dayぐらいから初めて、
3日おきに200 mgずつ
増量する方法を進める。患者のアンモニアを見ながら維持する値を検討する。
ミルクなどの自然タンパクが投与できれば、
そ
ちらの方が良いのは言うまでもない。
尿素サイクルの代謝図を良く見てみると、
この回路を回っているアミノ酸はオルニチンの骨格の上で各種の反応が起きて
いるだけなことに気がつく。たとえ話をすれば、
池袋でオルニチンという山手線電車に埼京線からアンモニアが乗り換えてき
て、
車内で着替えをして尿素に姿を変えて上野で常磐線に乗り換えて行ったということである。Alternative Pathwayは埼
京線にも乗らず大宮から新幹線でアンモニアが出かけて行ったということになる(図1)。
フェニル酪酸ナトリウムや安息香酸ナトリウムなどは30年前に考案された薬物治療法であるが、
いまだに高アンモニア血
症の基本的な治療法である(図2)。
急性期を脱し、
血中アンモニア値が低下したら速やか
(数
日以内)
に蛋白質、
エネルギー投与を開始する。経口(経
管)摂取が不十分な場合は経静脈的投与を併用する。
投与エネルギー量は同化作用を促進させるため100
∼120 Kcal/kg/日は必要である。経口(経管)
で投与す
る場合、
蛋白源は一般調整粉乳を用い、
エネルギーの補
充として蛋白除去粉乳(S-23雪印)
を併用する。経静脈
的に投与する場合は高張ブドウ糖液とアミノ酸製剤を用
いる。蛋白量は少量(0.3∼0.5 g/kg/日)
より開始し、
アン
モニア値をモニターしながら漸増、
経験的に至適投与量
を決める。
蛋白質耐容量が低い重症型では、必要蛋白量の25
%∼50%を必須アミノ酸製剤(アミユー 配合顆粒)
で投
与する
(表1)。患児の必要エネルギー量、
蛋白量は月齢、
状態により異なるので、
検査値、
発育・発達を評価しなが
ら適切な投与量を決定する。
新生児期発症尿素サイクル異常症の薬物療法を表1に示す1)。基本は食事療法に加えて、
アルギニン
(アルギU 配合
顆粒)、
シトルリンの補充や代替経路を利用して残余窒素を排泄させるフェニル酪酸ナトリウム
(Na)、
安息香酸ナトリウム
(Na)
の投与である。安息香酸Naは医薬品として承認されていないので、
倫理委員会で承認の上、
保護者より同意をとる必要
がある。図にフェニル酪酸Na、
安息香酸Naを用いた代替経路による排泄経路を示す。フェニル酪酸Naは安息香酸Naの
約2倍の排泄効果がある。
表1に示す必須アミノ酸、
自然蛋白量は新生児期発症の重症患児に必要な平均的量である。遅発型ではより多くの蛋
白摂取が可能である。N-アセチルグルタミン酸合成酵素(NAGS)欠損症に対してはCarbaglu が著効を示すが、
我が国
では未承認である。オルニチントランスカルバミラーゼ
(OTC)、
カルバミルリン酸合成酵素 (
I CPS I )、
NAGSの各欠損症対
してはアルギニンよりシトルリンの補充が合理的であり、
コントロールが不良の場合はシトルリン
(試薬)
を用いるべきである。
尿素サイクルの後半の酵素の欠損であるアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)欠損症(シトルリン血症1型)、
アルギニノ
コハク酸分解酵素(ASL)欠損症(アルギニノコハク酸尿症)
は前半の3つの酵素欠損症よりもアンモニアのコントロールは
良好であることが多い。アルギニンの大量投与が有効であるが、
ASL欠損症の場合は神経毒性のあるアルギニノコハク酸
が蓄積するため、
アルギニンを減量しフェニル酪酸Naもしくは安息香酸Naを併用することが推奨されている。
アルギニン血症用フォーミュラ
(品名記号 : 明治8103)
を用いた食事
アルギニン血症ではアルギニン投与は禁忌であり、
療法と高アンモニア血症に対してフェニル酪酸Naもしくは安息香酸Naを併用する。
感冒や急性胃腸炎など原疾患以外の病気で体調を崩した状態をSick dayと呼ぶ。Sick dayでは食思不振や発熱により異
化作用が亢進し、
重篤な高アンモニア血症の発作を起こす危険性がある。Sick dayには糖質からのエネルギー量を増やし、
摂
取蛋白量を減量するように指導する。改善しない場合は主治医と連絡をとり、
その指示に従い、
必要に応じて高張ブドウ糖液に
よる補液を行う。
血液・生化学検査、
血中アンモニア値に加えて血中アミノ酸分析、
カルニチン、
微量栄養素などを測定する(表2)。特にフェニ
ル酪酸Naを使用中の患者でアルギニン補充が無く、
蛋白摂取が少ない場合は必須アミノ酸欠乏が生じ、
皮膚症状、
体重増加不
良、
異化亢進による高アンモニア血症を呈することがあるので注意が必要である2)。
摂取蛋白量が1.0 g/kg/日以下と少ない場合、
投与推奨量である450
∼600 mg/kg/日で投与すると必須アミノ酸欠乏になる危険性が高い3)。
国内で行われた6例の臨床研究では、
フェニル酪酸Naの開始時平均投
与量は293 mg/kg/日、
12か月後の維持量は305 mg/kg/日であったこと
より、
開始投与量としては300 mg/kg/日が適当であると考えられる4)。
必須アミノ酸欠乏の指標としては血中アミノ酸分析が不可欠である。
血中イソロイシン値の低値(25μmol/L以下5))が続く場合は摂取蛋白量
を漸増する。食事からの蛋白量が増やせない場合には必須アミノ酸製剤
(アミユー顆粒 )
の併用、
もしくはフェニル酪酸Naの減量も考慮する4)。
先天代謝異常症に対する肝移植を考慮する場合、
本邦では脳死肝移植待機順位が高位にならないため、
生体
ドナーでの肝移植を考慮せざるを得ない。生体肝移植はリスクの高い治療法とされるが、
成育医療研究センターで
最近6年間に行われた先天代謝異常症を対象とする移植後の生存率は95.7%と良好であった1)。本邦の先天代謝
異常症に対する生体肝移植例の検討では、1987年∼2010年までに行われた194例中、OTC欠損症が22.7%、
CPS I 欠損症が5.1%を占めていた。
肝移植の適応疾患は「欠損酵素を補充する目的で行われる肝移植」
と
「肝不全、
肝腫瘍の治療目的に行われる
肝移植」に大別される。前者はさらに「移植により代謝がほぼ完全に是正される」疾患と
「完全には是正されない」
疾患に分けられる(表1)。OTC、
CPS I 、
NAGSの各欠損症は肝移植で代謝がほぼ是正する疾患であり、
内科的
治療でコントロール不良の場合は積極的に考慮すべきであろう。
厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「有機酸代謝
異常症(メチルマロン酸血症・プロピオン酸血症)、
尿素サイ
クル異常症(CPS I ,OTC欠損症)、
肝型糖原病の新規治療
法の確立と標準化に関する研究」班(代表 堀川玲子)
で「代
謝性疾患生体肝移植の手引き‐適応基準」が作成された2)。
先天代謝異常症に対する肝移植適応のスコアリングを表2
に示す。例えばOTCやCPS I 欠損症のように欠損酵素が
肝臓特異的に発現している疾患の場合、内科的治療にも
かかわらず年6回以上入院した症例はスコアの合計が10点
となり、
移植適応と判断される。一方、
ASL欠損症(アルギニ
ノコハク酸尿症)の場合、欠損酵素は全身で発現している
ため、肝移植後高アンモニア血症の発作は軽減してもアル
ギニノコハク酸濃度は正常化しない。
また本症ではアルギニ
ン投与にてアンモニアのコントロールも良好であることが多く、
スコアも低値となるため肝移植に関しては慎重な判断が必
要となる。
常染色体劣性遺伝病の場合は、保因者である親からの移植は多くの場合問題とはならない。一方X連鎖性遺伝の
OTC欠損症の場合、
ヘテロ接合体母親からの移植は、
十分な効果が上がらない可能性や、
術後母親が発症する危険性も
あり、
慎重な判断が望まれる3)。
先天代謝異常症に対する肝移植の適応基準は未だ確立したものは存在しない。肝移植適応のためのスコアリングを判
断の一助にして頂ければ幸いでる。OTC及びCPS I 欠損症の肝移植治療は、
実績があり、
コントロール不良例に対しては、
治療法の一つとして考慮すべきであろう。
これまでの項目でも説明されましたように、
血液中のアンモニア濃度は、
食事に含まれる蛋白質の量、
体の組織を
作るのに使われるアミノ酸量、
体の蛋白質が壊れて出てくるアミノ酸量、
腸内細菌が産生するアンモニアなど多くの
要因のバランスで変化します。このため、
これらのバランスが崩れると血液中のアンモニアが高くなる原因になり、
い
ったんバランスが崩れだすと場合によっては急激にアンモニア値が上昇する発作を来すこともあります。このような
場合は意識障害や痙攣など重篤な症状を来し、
後遺症が残ったり、
ひどい場合は死に至る危険性もあります。この
ため、
日常生活では安定したバランスをいかに崩さないかがポイントになります。規則正しい生活を心がけ、
体調を
整えることが高アンモニア血症発作を予防することとなりますが、
その際の注意点を以下の項目で解説しますので
参考としてください。
感染は言うまでもなく体調を崩す最も一般的な原因です。発熱や下痢、
嘔吐などはそれ自体が体に負担をかけ、
体を形づくる蛋白質が壊れてアンモニアの上昇を来す原因となります。
また食欲低下、
薬の服用困難や腸での薬
剤吸収の悪化など、
様々な要因で治療がうまくいかなくなる原因ともなります。感染症状が出た場合はできるだけ
安静を保ち、
早期に医療機関を受診し状態を確認してもらいましょう。尿素サイクル異常症のための薬や食事内
容はできるだけ普段と変わらないようにしますが、
困難な場合は点滴などが必要になる場合も多いため医療機関
に相談してください。高アンモニア血症発作は急激に発症する場合がありますので、
状態が悪いときは我慢せず
夜間でも早めに受診することが大切です。普段から主治医と相談して、
時間外はどこにどのような形で受診する
のかを考えておきましょう。
感染予防も大切です。手洗いやうがいは習慣づけるようにしましょう。外出時はマスクを着用し、
人混みに行くこ
とはできるだけ避けましょう。
また予防接種は定期接種、
任意接種を問わず積極的に受けるようにしましょう。
蛋白摂取制限を行っている人は、
設定されている摂取量を守ることが大切です。設定量より多い蛋白質を摂れ
ばその分アンモニアが上昇します。
また一日の設定量を守っていても摂取量にばらつきがあると、
蛋白質を多く摂
った後にアンモニアが上昇する危険があるので、
摂取量はできるだけ均一になるよう心がけましょう。摂取カロリー
の把握も重要です。十分なカロリーが摂れないと体蛋白からアミノ酸が産生されアンモニア上昇の原因となります。
カロリー摂取の過剰も肥満の原因となりよくありませんので、
主治医や栄養士の指示に従い安定した食事内容と
することが大切です。
定期的に飲むよう指示されている薬は忘れないよう必ず飲みましょう。先に述べたバランスは一定量の薬を飲むことが
前提になっています。
もし忘れてしまったら時間をずらしてでも1日量を服用するようにしてください。薬を飲んですぐ吐いて
しまった場合は再投与を考えます。少量の場合は何もしなくてもよいと思いますが、
30分以内に多量に吐いた場合は1回
分をもう一度追加で飲ませてもよいでしょう。それ以降に多量に吐いた場合は、
食後1時間以内なら半量を追加、
それ以降
なら様子を見て、
何度も吐くようなら医療機関へ相談しましょう。風邪薬などは普通に使ってもよいですが、
高アンモニア血
症になりやすい薬はありますので注意してください(表)。
前述したように、
アンモニアは腸内細菌からも産生され、
腸から吸収されて血液中のアンモニア値が上昇する原因となり
ます。これを防止するためにラクツロース
(商品名;モニラック、
ラクツロース、
カロリール、
ピアーレ)
という薬が使用されます。
ラクツロースは糖の一種ですが、
内服すると分解されることなく腸
へ達し、
ここで腸内細菌の作用で酸へ分解され腸内の環境が
酸性に傾きます。これによってアンモニアの産生や腸管吸収が抑
えられ、
血中アンモニアの上昇を防ぐことができます。腸蠕動を亢
進させる作用もあるため便秘薬としても使用される薬ですので、
この薬を飲んでいても便通がよくない場合は主治医に相談してく
ださい。また、便秘自体も血中アンモニア値上昇のリスクとなりま
すので、
規則正しい便通があるかは日頃から注意しましょう。
尿素サイクル異常症の方は一般的に血中アンモニアの高値に慣れていることが多いので、
アンモニアの値が高くても症
状を示さない場合があります。特に体重増加のために薬の量が徐々に足りなくなっている、
あるいは食事量が少しずつ増
えてしまったなど、
慢性の経過で血中アンモニア値が上昇する場合は値が高くても普通に生活できていることがよくありま
す。このような場合は血液検査で血中アンモニアの値を確認しないと高アンモニア血症になっているかどうかはわかりませ
んので、
調子が良くても定期受診の日には必ず病院で血液検査をしてもらい、
値を確認するようにしましょう。体調の変化
が起きた場合はできるだけ早期に血中アンモニア値を測定することが大切です。早い時期に高アンモニア血症がわかれ
ばそれだけ早く治療が開始でき、
正常に戻るまでの時間も短縮できます。嘔吐や活気のなさ、
意識混濁、
異常行動、
けい
れんなどは高アンモニア血症による症状かもしれません。
このような症状が見られるときはただちに病院を受診してください。
前述した嘔吐、
活気のなさ、
意識混濁、
異常行動は急激に発症する場合があります。このような場合は普段に増して血
中アンモニアが上昇している可能性が高いのでただちに病院を受診し、
検査、
治療を開始してもらいましょう。一刻を争う
病状であることも多いので躊躇しないでください。血中アンモニアの値によってはただちに集中治療室での管理や透析な
どの血液浄化療法を必要とする場合もあります。このような状況にならないよう、
普段から規則正しい生活、
服薬、
食事療
法をしっかり行い、
異常があるときは主治医に相談するということを徹底しましょう。
別稿でも示されているように、
尿素サイクル異常症の管理の中心は高アンモニア血症に対するものであり、
すなわ
ちアンモニアによる神経障害を抑止することが第一義となる。
専門医に紹介するタイミングは、
高アンモニア血症を示す患者を診た際にまず自施設に治療の手段がどの程度備
わっているかにより変わってくるものと思われる。例えば新生児発症の高アンモニア血症の場合など、
早急な脳保護
のために発見後は直ちに血液浄化療法管理が可能な施設への転院を考慮すべきである。
「新生児あるいは小児の血液浄化療法管理が可能な施設」には必ずしも先天代謝異常専門医が常駐する訳では
ないが、
まずは救命と脳保護を優先する。その際にも、
急性期治療の項(P9)
に挙げる内科的治療のうち、
自施設で
可能なものを開始して、
出来る限りアンモニアの上昇を抑えながら搬送に備える必要がある。内科的治療に反応して
アンモニアの上昇を抑制できた場合には、
次に高アンモニア血症の原因検索、
あるいは安定期導入のために、
専門
医に相談することとなる。
患者が安定期に入っている場合には、
専門医と連携を取りつつ日常管理を行う場合もあると思われるが、
体調不
良時などには早めに治療を行っておくと同時に血中アンモニア値をモニターし、
自施設での管理のみでは安定しない
場合には、
専門医に相談して治療方針を立てる、
あるいは転院を考慮することになろう。
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