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遺伝子診断法の現状と将来

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遺伝子診断法の現状と将来
日呼吸会誌
42(6)
,2004.
475
テーマ:肺結核―診断と治療における進歩
遺伝子診断法の現状と将来
結核菌検査コンサルタント
阿部千代治
要旨
感染症の迅速診断に遺伝子が用いられるようになった.結核菌のように増殖の遅い菌の検査には特に有用
である.結核菌の検出や抗酸菌種の鑑別・同定キットが開発され臨床に応用されている.また薬剤耐性菌を検出
するキットも開発されている.しかし,臨床細菌検査をすべて遺伝子検査で代行できるまでには数年あるいは数
十年必要であろう.従来からの培養法と遺伝子診断を適切に組み合わせ用いるのが肝要である.
キーワード:結核菌,遺伝子診断,核酸増幅法,ハイブリダイゼーション
Mycobacterium tuberculosis, molecular diagnosis, nucleic acid amplification, hybridization
はじめに
グノスティクス)
近年,遺伝子工学的技術が進歩し感染症の診断に遺伝
PCR を用いた増幅法であり,結核菌群(アンプリコ
子が用いられるようになってきた.結核についても分離
,Mycobacア#マイコバクテリウム・ツベルクローシス)
菌の鑑別同定キットと臨床材料から直接結核菌を検出す
terium
るための核酸増幅法に基づいたキットが開発され発売さ
ビウム)
,Mycobacterium intracellulare(アンプリコア#マ
れている.またいくつかの抗結核薬については結核菌の
イコバクテリウム・イントラセルラー)検出同定のため
薬剤耐性に関与する遺伝子が明らかにされており,キッ
のキットである.増幅の標的は 16S RNA をコードする
トとして開発されている.ここでは結核の遺伝子診断の
584 bp DNA であり,この領域内に存在する結核菌群,
現状について述べる.
M. avium または M. intracellulare に特異的配列をプロー
avium(アンプリコア#マイコバクテリウム・ア
1.核酸増幅法による迅速診断
ブとした捕捉プローブ法で増幅産物の検出をする.
試験管内で 1∼2 時間以内に多量の DNA や RNA を
dTTP の代わりに dUTP とウラシル DNA グリコシラー
増幅する技術が開発されている.検出機器の改善が進め
ゼを用いることにより,DNA コンタミネーションの中
られてきているが,数コピーの核酸を検出することは不
で一番問題となる“以前に増幅した産物のコンタミネー
可能である.しかし増幅後(106 以上)では容易に検出
ション(carry over)
”を完全に防ぐシステムを採用し
できる.これらの手法は多くの分野で用いられており,
ている.また偽陰性反応チェックのためのインターナル
培養困難な微生物の検出や迅速な診断が要求される例で
コントロールも含まれている.増幅のためには 3 段階の
特に有効である.
温度変化をプログラムできるサーマルサイクラーと増幅
1)結核菌遺伝子の増幅
産物の検出のためにマイクロプレートリーダーが必要で
結核菌の DNA または RNA を増幅する方法として 6
ある.
種のキットが開発されている(表 1)
.これらのうち 3
種は発売され日常の臨床検査に用いられている.
培養菌を用いて調べたこのキットの検出感度は 10 個
以下である.また他の抗酸菌菌種を含む 39 種の微生物
を標的としたときに偽陽性反応は認められない1)2).
(1)既に市販されている核酸増幅法
!アンプリコア#マイコバクテリア(ロシュ・ダイア
" DNA プローブ「RG」
(レビオ・ジェン)
表1 キット化されている結核菌核酸増幅法
① Polymerase chain reaction(ロシュ,アンプリコアマイコバクテリア)
② Transcription mediated amplification(レビオ・ジェン,DNA プローブ「RG」)
③ Ligase chain reaction(ダイナボット,LCX M. ツベルクローシス・ダイナジーン)
④ Strand displacement amplification(ベクトン・ディッキンソン,BDProbe Tec ET)
⑤ Isothermal chimeric primer amplification(メディカジャパン,ICAN)
⑥ Transcription-reverse transcription concerted reaction(東ソー,TRC)
476
日呼吸会誌
42(6)
,2004.
リボソーム RNA(rRNA)を標的とした RNA 増幅法
る.結核菌特異 DNA は Rhodamine!
dabcyl,内部コン
で あ り,結 核 菌 群(DNA プ ロ ー ブ「RG」
―MTD)と
トロールは fluorescein!
dabcyl で標識することによりリ
M. avium complex(DNA プローブ「RG」―MACD)の
アルタイムで増幅産物の検出と増幅阻害の監視を行うシ
検出キットである.1 個の菌に存在する rRNA のコピー
ステムを採用している.
数は染色体 DNA にある遺伝子のコピー数の 100 倍以上
である.それゆえ標的として rRNA を用いることは感
度を上げるうえで有利である.Gen-Probe 社で開発した
市販の核酸増幅法と同等の感度であることが報告され
ている10)∼12).
" ICAN 結核菌群検出試薬(メディカジャパン)
DNA プローブ法は逆転写酵素と RNA ポリメラーゼを
等温遺伝子増幅に基づいた結核菌群検出のための試薬
用いる増幅法であり,検査材料の採取後約 2 時間で 106
であり,結核菌群に複数コピー存在する IS 6110 が標的
コピーの RNA を増幅できる.増幅産物はアクリジニウ
である.5’
側が DNA と 3’
側が RNA 部分からなる 1 対
ムエステル標識 DNA プローブを用い,Hybridization
のビオチン標識キメラプライマーを用い,温度を 60℃
protection assay(HPA)で検出する.増幅には高価な
前後に保つことにより,DNA ポリメラーゼにより相補
サーマルサイクラーは必要とせず,42℃ に 30 分間保つ
鎖が合成される.その後 RNaseH がキメラプライマー
ことで RNA を増幅する.
由来の RNA 部分を切断,切断部分から鎖置換反応と鋳
臨 床 分 離 結 核 菌 を 用 い て 調 べ た DNA プ ロ ー ブ
型交換反応を伴った伸長反応が起こる.増幅産物はスト
「RG」―MTD の検出感度は 10 個以下である.また 23
レプトアビジン結合マイクロプレート上でプローブとハ
種の抗酸菌と 10 種の肺の疾患に関連する微生物を用い
イブリダイゼーションを行い,ルミノメータで発光強度
て調べたとき,結核菌群に属する菌を鋳型として用いた
を測定する方法とストリップ上に出現する発色バンドを
ときのみ陽性反応がみられ,他の微生物では陰性であっ
目視判定するベッドサイド ICAN 法がある.前処理検
た3)∼7).
体が得られてから約 3.5 時間,簡易化されたベッドサイ
# LCX M. ツベルクローシス・ダイナジーン(ダイナ
ボット)
ド ICAN では 1.5 時間で結果が得られる.
臨床材料を用いた評価で市販の核酸増幅法と同等の感
結核菌群の抗原タンパク b(Pab,38 kD)をコード
する遺伝子を標的とした増幅法であり,結核菌群の検出
度であることが報告されている13).この試薬は研究試薬
であり,現在診断薬として申請中である.
キットである.4 種のオリゴヌクレオチドプローブを用
③ TRC 法(東ソー)
い,2 種のプローブがそれぞれ 1 本 鎖 DNA 上 の 標 的
等温遺伝子増幅に基づいた転写・逆転写協奏増幅法
DNA とハイブリダイズする(PCR のプライマーに相当
(transcription-reverse transcription concerted reac-
する)
.オリゴヌクレオチドプローブ間にヌクレオチド
tion,TRC)と発蛍光プローブを用いる検出を組み合わ
数個分の隙間が生じる.その隙間を DNA ポリメラーゼ
せた結核菌検出キットである.
結核菌 16 S rRNA 遺伝子
と dCTP ならびに dATP により伸長,この 3’
端と隣接
を標的に用いている.逆転写酵素と RNA ポリメラーゼ
し た オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド プ ロ ー ブ の 5’
端 を DNA リ
の協奏的作用により,41℃ に保つことにより標的 RNA
ガーゼによりホスホジエステル結合することで標的
を極めて効率的に複製できるシステムを採用している.
DNA と相補的 DNA を作り出す.増幅 DNA は ELISA
また核酸の検出法として標的核酸と相補結合することに
で検出する
5)
8)
9)
.
この検査キットは 2003 年に発売中止になっている.
(2)現在臨床材料で評価中の核酸増幅試薬
! BDProbeTec ET(ベクトン・ディッキンソン)
等温遺伝子増幅に基づいた strand displacement am-
より顕著な蛍光増感を与える発蛍光プローブ(intercalation activating fluorescence probe)を開発し,2 つの技
術を組み合わせた TRC 蛍光リアルモニタリングで結核
菌を検出するキットである14).
(3)核酸増幅法の評価
plification と蛍光変化をリアルタイムで測定する結核菌
結核菌の IS 6110 の 541 bp DNA を増幅する自家調製
群検出のためのキットである.結核菌群に特異的 IS 6110
PCR と DNA プローブ「RG」―MTD の検出感度を塗抹
配列の 95 bp 領域を標的に用いている.プライマーは制
検査および液体培養(Septi-Chek)の成績と比較した.
限酵素切断配列である CTC GGG を含んでいる.伸長の
塗抹と培養の両者とも陽性例では両システムともほぼ陽
間にポリメラーゼは制限酵素作用部位に相補的 α-thio-
性を示したが,材料中に菌量が少ない塗抹陰性 10 例中
dCTP を組み込む.結果として完全に切れないでニック
PCR で 5 例,MTD で 3 例陰性であった3).同様の成績
されるだけのヘミホスホロチオ制限酵素部位が作られ
がアンプリコア・マイコバクテリアでも得られた.すな
る.BsoBI により 2 本鎖の DNA の 1 本鎖がニックされ,
わち核酸の増幅に基づいたこれらキットの検出感度は従
その部位から伸長が起こり,DNA の下流鎖が置換され
来の塗抹法や小川培地を用いる培養法より高いが,液体
結核の遺伝子診断
477
表2 複数の研究者により評価された結核菌核酸増幅法の感度と特異性
発表者と文献
3)
Abe(1993)
1)
青木(1994)
2)
Carpentier(1995)
4)
Ichiyama(1996)
5)
Wang(1999)
8)
Lumb(1999)
9)
Garrino(1999)
6)
Catanzaro(2000)
7)
Scarparo(2000)
10)
Bergman(2000)
11)
Piersimoni(2002)
12)
Iinuma(2003)
MTD
アンプリコア
感度
特異性
91.9
100
感度
特異性
98.9
98.0
98.9
100
100
100
98.6
99.3
99.4
96.0
86.0
97.8
96.1
83.0
85.7
97.0
100
94.2
88.0
99.2
93.5
LCX
BDProbe
感度
特異性
100
69.7
78.0
99.3
99.9
100
100
感度
特異性
93.8
94.5
93.5
99.8
99.6
98.7
MTD:DNA プローブ「RG」― MTD,アンプリコア:アンプリコア マイコバクテリウム・ツベルクローシス,LCX:
LCX M. ツベルクローシス・ダイナジーン,BDProbe:BDProbeTec ET
れた15).偽陽性の結果を報告した施設から偽陰性の結果
培地を用いる培養法と同等である.
複数の施設により評価された結核菌群核酸増幅キット
も報告された.同様の結果が MTD を用いた共同研究で
の感度と特異性を表 2 に示した.ここに挙げたものはジ
も得られた16).また 2000 年に PCR 感染症検査研究会が
ャーナルに報告されたものの一部であり,報告者により
331 施設に行ったアンプリコア!マイコバクテリウムの
成績が若干異なるが感度は 90% 以上,特異性はほぼ
コントロールサーベイでも 6 施設から偽陽性(1.8%,6!
1)
∼12)
.感度
331)と 7 施設から偽陰性(2.1%,7!
331)の結果が報
は評価に用いた検査材料の種類,例えば呼吸器材料と非
告された17).これらのことは,施設(独立した部屋)と
呼吸器材料,塗抹陽性材料と陰性材料などにより左右さ
設備(安全キャビネット,3,000×g を確保できるバイオ
れる.同じ材料を用い,2 種または 3 種のキットを評価
ハザード遠心機)の完備はもとより,検査技師の熟練と
した報告でもキット間で感度に差は認められない.
注意深い操作が要求されることを示している.
99% でキットによる有意の差は認められない
検査材料により増幅阻害(偽陰性)も少なからずある
米国の Food and Drug Administration(FDA)は塗
と聞く.その場合は再試験が要求され,検査費用の増加
抹陰性材料からの核酸増幅法による結核菌の陽性率が低
にもつながる.今後感度を上げるためには材料の前処理
いことから,初期にはその使用を塗抹陽性材料に限った.
と核酸の抽出法の改善が要求される.しかし,複雑で時
その後,改良された MTD キットについては塗抹陰性材
間のかかる前処理操作とサンプル調製は日常の検査業務
料で結核菌を否定するために使用することを許可した.
に追われている検査の現場では受け入れ難い.簡便で有
結核の対策の上で塗抹検査は重要である.塗抹陽性の
効な前処理法の確立が望まれる.また材料が少ない場合
場合に結核菌か非結核性抗酸菌かの迅速な鑑別,また抗
や適切な材料が得られない場合は,2∼3 日分をまとめ
酸菌菌種の同定と感受性試験は患者管理と適切な治療を
て検査することも重要である.
行ううえで重要であり,そのため培養検査も欠かせない.
臨床検査に応用するうえで大きな問題は操作中に起こ
従来から行われているこれらの検査を一切省き,核酸増
るコンタミネーションをいかに防止するかである.PCR
幅法で代行することはできない.米国の CDC も同様の
反応においては dUTP と UNG の使用により一部解除さ
コメントを発表している.
れたが,根本的には反応液の調製室,臨床材料の処理・
2.核酸の相同性を利用した抗酸菌の鑑別・同定
核酸の抽出,増幅・検出室を独立した部屋にすることが
1)鑑別・同定法
必須である.使用する水や容器も核酸フリーのものを選
(1)わが国で市販されているキット
ぶ必要がある.また感度が高い検査であることから検査
わが国では鑑別・同定のための遺伝子を用いたキット
材料の採取(特に内視鏡)にも十分注意を払う必要があ
が 2 種,アキュプローブ法(極東製薬工業)と DDH マ
る.著者らが多施設(9 検査センター)と行ったアンプ
イコバクテリア(極東製薬工業)が発売されている.分
!
リコア マイコバクテリウムキットの精度管理に関する
離培養菌から RNA または DNA を抽出し,ハイブリダ
共同研究で 5 施設から 1∼5.7% の偽陽性結果が報告さ
イゼーションにより検査する方法である.アキュプロー
478
日呼吸会誌
42(6)
,2004.
ブ法は,抗酸菌の rRNA 上の菌種特異的領域に相補的
作が少し複雑であり,時間も 5∼6 時間必要であるが,
DNA をプローブとしたキットであり,米国の Gen-Probe
DDH マイコバクテリアも臨床検査に用いられている.
社により開発された.わが国では結核菌群,M. avium
臨床から分離される菌種の 80% 以上がこの方法で同定
complex,M. kansasii(研究用)
,M. gordonae(研究用)
できる.臨床材料からの分離培養に液体培地が導入され
キットが入手可能である.DDH マイコバクテリアは,
るようになり,非結核性抗酸菌の分離率が増加しており,
臨床上重要な抗酸菌の標準株から精製した全染色体
キットによる鑑別・同定が不可能な菌種が増えている.
DNA をマイクロプレート上にあらかじめコートしてお
これらは 16S rRNA,rpoB 遺伝子などの塩基配列を決
き,それとビオチン標識被検菌 DNA の間でハイブリダ
定することにより同定している.しかし,この種の試験
イゼーションを行い同定するキットであり,Kusunoki
は通常の検査室で簡単にできる方法ではない.このよう
18)
らによりわが国で開発された .18 種の抗酸菌菌種を鑑
別・同定することができる.
な菌株の検査は検査可能な施設に依頼する必要がある.
ヨーロッパで市販されているキットは核酸増幅とライ
(2)ヨーロッパで市販されているキットと評価中の試薬
ンプローブ法を組み合わせた方法であるが,材料直接で
ヨーロッパでは DNA プローブを用いたキットが 2
はなく分離菌について行う検査である.これらのキット
種,INNO-LiPA
MYCOBACTERIA(Innogenetics,
で分別可能な菌種は,DDH マイコバクテリアに含まれ
Ghent,Belgium)と GenoType Mycobacterium(Hain
ている菌種と一部異なるがほぼ一緒である.これらのキ
Diagnostics,Nehren,Germany)が市販または評価中
ットの利点は,DDH マイコバクテリアでは検査に多量
INNO-LiPA MYCOBACTERIA は,
16 S-23 S
である19)20).
の菌を必要とするが,核酸増幅法を取り入れていること
rRNA 遺伝子のスペーサー領域を標的とした PCR で得
から培養早期に結果が得られることである.
られたビオチン標識 DNA と 16 種の抗酸菌菌種特異オ
3.薬剤耐性に関与する遺伝子
リゴヌクレオチドをコートした膜ストリップを用いるラ
結核菌の薬剤耐性は自然に生ずる突然変異によるもの
インプローブ法で同定する方法である.GenoType My-
と結論されている.これらの耐性菌は薬剤と接触前の結
cobacterium は 23S rRNA を標的とした PCR で得たビ
核菌集団に含まれており,治療中に選択される.結核菌
オチン標識 DNA と 2 種のコントロールおよび 15 種の
の薬剤耐性を支配するのはゲノム遺伝子と考えられてお
ヌクレオチドをコートしたストリップ上でハイブリダイ
り,一般細菌でみられる薬剤耐性プラスミドの報告はな
ゼーションを行う.得られたパターンから 13 種の抗酸
い.薬剤耐性に関与する遺伝子の研究は INH,RFP,
菌菌種を同定するキットである.
PZA,SM,EB,KM,CAM,フルオロキノロン 耐 性
(3)特定の遺伝子の配列決定
菌などで進められており,少しずつ明らかにされてきた.
被 検 菌 株 の 16S rRNA,rpoB ,dnaJ ,HSP-65,DNA
関与する遺伝子と耐性菌に見られる遺伝子変異の頻度を
ジャイレース遺伝子の塩基配列を決定し,標準株の配列
表 3 に示した.現時点ではまだ遺伝子検査に基づいた薬
との間で相同性を比較する.複数の遺伝子を比較するこ
剤感受性試験を日常検査に応用できる段階にはない.遺
21)
とにより抗酸菌菌種を決定することができる .
2)分離菌の鑑別・同定へのキットの利用
伝子による検査を行ったとしても同時に培養法による感
受性試験も並行する必要がある.
これまで菌種の鑑別・同定のために培養法と生化学的
遺伝子変異の検出法としてラインプローブ法,DNA
性状試験が用いられてきた.臨床分離株の中には典型的
チップ法,分子ビーコン法などが開発されている.一部
でない性状を示す菌株もあり,検査技師に熟練が要求さ
の薬剤についてはキットによる検出も可能となった.フ
れる.Bergey’
s Manual of Systematic Bacteriology によ
ィノス LiPA・Rif TB(ニプロ)はラインプローブ法を採
れば,細菌の分類は染色体 DNA の相同性に基づくべき
用した結核菌 rpoB 遺伝子の変異,すなわち RFP 耐性
としている.これまでに報告された菌種は 100 種を超え
菌を検出する試薬である.結核菌群の鑑別でみた感度と
ており,生化学的性状のみで鑑別・同定をできる菌種は
特異性は 100% であり,RFP 耐性菌の検出でみた感度
ごく少数である.この検査に上記キットを導入すること
と特異性は 96.1% と 99.6% である22).RFP 耐性菌の中
により,鑑別・同定が容易になり,しかも同定可能菌種
でフィノス LiPA 野生型を示した菌株は,塩基配列測定
も増えた.
の結果も同様であった.RFP 耐性菌の 80% 以上は INH
臨床分離株を用いた評価でアキュプローブ結核菌群と
にも耐性,すなわち MDR-TB であることから,早急に
アキュプローブ MAC の感度と特異性は 100% であるこ
RFP 耐性菌を検出する意義はある.2002 年に保険適用
とが証明されている.しかも操作が簡便であり,慣れて
が決まり,現在市販されている.
いない検査技師でも正確に鑑別・同定できる.問題は鑑
研究試薬として OligoArray(日清紡)が開発された.
別・同定できる菌種が少ないことである.これと比べ操
DNA チップ法により遺伝子変異を検出する方法であ
結核の遺伝子診断
479
表3 薬剤耐性に関与する遺伝子とそれらの関与率
抗結核薬
耐性遺伝子
遺伝子の変異
(%)
野生型配列
(%)
INH
RFP
PZA
SM
EB
FQ
katG,inhA,ahpC
rpoB
pncA
rpsL, rrs
embB
gyrA
80 ∼ 92
92 ∼ 95
92 ∼ 97
60 ∼ 70
65 ∼ 70
60 ∼ 70
8 ∼ 20
5∼8
3∼8
30 ∼ 40
30 ∼ 35
30 ∼ 40
FQ : fluoroquinolone
表4 抗酸菌検査項目と保険点数
(平成 16 年 4 月)
区分番号
検査項目名
保険点数
改正前後
備考(商品名など)
D012
D012-14
感染症血清反応
抗抗酸菌抗体価精密測定
120 → 110
D012-31
結核菌群抗原精密測定
330 → 290
D017
D017-1
D017-3
細菌顕微鏡検査
蛍光,位相差,暗視野使用
その他のもの
D020
D020-1
D020-2
抗酸菌分離培養検査
抗酸菌分離培養検査―1
抗酸菌分離培養検査―2
160 → 140
150 → 130
液体培地
小川培地
D021
D021-1
D021-2
抗酸菌同定検査
ナイアシン
その他の同定検査
100 → 90
280 → 250
種目数にかかわらず一連につき
D022
D022-1
D022-2
抗酸菌薬剤感受性検査
3 薬剤以下
4 薬剤以上
230 → 200
270 → 230
D023
D023-4
微生物核酸同定・定量検査
結核菌核酸同定精密検査
480 → 410
D023-5
D023-6
D023-8
抗酸菌群核酸同定精密検査
結核菌群核酸増幅同定検査
マイコバクテリウムアビウム・
イントラセルラーレ核酸同定
精密検査
結核菌群リファンピシン耐性
遺伝子同定検査
D023-11
D026
D026-6
検体検査判断料
微生物学的検査判断料
38 → 34
22 → 19
マイコドット デタミナー TBGL
キャピリア TB
塗抹検査:蛍光法
塗抹検査:チール・ネールゼン法
培地数に関係なく
500 → 430
550 → 470
570 → 490
→ 550
アキュプローブ TB1)
アンプリコア TB2)
DDH3)
MTD4),LCX5)
アキュプローブ MAC6)
アンプリコア M.avium-intracel.7)
MAC ダイレクト 8)
LiPA9)
145 → 150
1)
アキュプローブ結核菌群同定,2)アンプリコア® マイコバクテリウム・ツベルクローシス,3)DDH マイ
コバクテリア極東,4)DNA プローブ「RG」
― MTD,5)LCX M. ツベルクローシス・ダイナジーン,6)ア
キュプローブ・マイコバクテリウムアビウムコンプレックス,7)アンプリコア® マイコバクテリウム・ア
ビウム, 7)アンプリコア® マイコバクテリウム・イントラセルラー, 8)DNA プローブ 「RG」―MACD,
9)
フィノス LiPA・Rif TB,
り,2 剤用(INH 耐性菌と RFP 耐性菌の検出)と 5 剤
ハイブリダイゼーションに基づく検出すべてに共通す
用(INH,RFP,SM,EB,KM 耐性菌検出)が入手可
ることであるが,多数の遺伝子を同時に検出するのは容
能である.キットで検出可能な耐性菌の割合は,INH
易でない.標的とするオリゴヌクレオチドプローブの
は 80%,RFP 95%,SM 80%,EB 70%,KM 70% と
GC 含量は異なることから,ハイブリダイゼーションの
されている23).
温度と洗浄条件を決定するのは難しい.臨床検査に使用
480
日呼吸会誌
可能なキットの開発のためには,変異型すべてのプロー
ブを使用するのではなく,変異型を選択の上絞り野生型
と適切に組み合わせることが必要と考えられる.
おわりに
抗酸菌検査項目と厚生労働省より査定されている保険
点数を表 4 に示した.培養に基づいた検査に比べ遺伝子
検査の保険点数は高く査定されている.しかし 2 年毎の
保険点数の改正では遺伝子診断の点数の下げ幅が大きい
ように感じられる.今後は欧米諸国で取り入れられてい
るように費用対効果を念頭に置いた使い方も要求される
だろう.前にも記述したようにすべての結核菌検査を遺
伝子検査で代行できるまでには今後しばらくかかる.そ
れまでは従来からの塗抹と培養検査に遺伝子検査を適切
に組み合わせ実施することが重要であろう.
参考文献
1)青木正和,片山 透,山岸文雄,他:PCR 法を利用し
た抗酸菌 DNA 検出キット(アンプリコア!マイコバク
テリウム)による臨床検体からの抗酸菌迅速検出.結核
1994 ; 69 : 593―605.
2)Carpentier E, Drouillard B, Dailloux M, et al : Diagnosis
of tuberculosis by Amplicor Mycobacterium tuberculosis
test : a multicenter study. J Clin Microbiol 1995 ; 33 :
3106―3110.
3)Abe C, Hirano K, Wada M, et al : Detection of Mycobacterium tuberculosis in clinical specimens by polymerase
chain reaction and Gen-Probe Amplified Mycobacterium
Tuberculosis Direct Test. J Clin Microbiol 1993 ; 31 :
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