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医療現場の感染性微生物の伝播予防のための基本要素

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医療現場の感染性微生物の伝播予防のための基本要素
第Ⅱ部:
医療現場の感染性微生物の伝播予防のために必要な基本要素
II.A. 伝播を防ぐための予防策の有効性に影響する医療システムの構成要素
II.A.1. 管理法
医療機関は感染制御を患者および職業安全プログラムの対象に組み入れることによって、感染性
微生物の伝播を防ぐ責務を果たすことが出来る(543-547)。標準予防策および感染経路別予防
策を指導し、維持し、監視するための基盤設備(434, 548, 549)は、医療機関の使命の実現と
HAIを減らすという医療施設認定合同審査会の患者安全の目標達成を促進するであろう(550)。
標準予防策および感染経路別予防策がどのように適用されるのかを説明している方針や手順(伝
染性のある感染性微生物に感染している患者を同定し患者情報を伝達するために用いられるシ
ステムが含まれている)はこれらの方法が確実に成功するために極めて重要であり、そして医療
機関の特徴によって異なっている。
重要な管理法は、新しく現れる必要性に対応した感染制御および職業健康プログラムを維持する
ための経済的および人的財源を準備することである。特別な要素には、ベッドサイドの看護師
(551)および感染予防と制御の専門家(ICP: infection prevention and control professional)
のスタッフの水準(552)、施設の建築やデザインの決定にICPを含めること(11)、臨床微生物検
査室のサポート(553, 554)、施設の換気システムを含む十分な補給品と器材(11)、遵守のモニ
タリング(555)、伝播を来すシステム不全の評価と修正(556, 557)、医療従事者および上級管
理者へのフィードバッグ (434, 548, 549, 558)が含まれる。施設の指導部の明確な影響力は、
HCWによる手指衛生の推奨手技の遵守に関する研究で繰り返し示されてきた(176, 177, 434,
548, 549, 559-564)。感染制御のプロセスに医療管理者を巻き込むことは、感染制御の推奨
手技に従うためには論理的根拠や財源が必要であることについての管理者の認識を高めること
ができる。
いくつかの管理的要素(施設の文化、個々の職員の振る舞い、労働環境)は医療現場における感染
性微生物の伝播に影響するかもしれない。これらの領域の各々は成果改善のモニタリングや施設
における患者安全のゴールに組み入れることに適している(543, 544,546, 565)。
II.A.1.a.業務の範囲および感染制御専門家に必要な人員配置
米国の病院での院内感染を防ぐための感染サーベイランスや制御プログラムの有効性は、1970
∼76年に実施された「院内感染制御の有効性についての研究(SENIC[Study on the Efficacy
of Nosocomial Infection Control]プロジェクト)」を通じて、CDCによって評価された(566)。
米国の一般病院の代表サンプルにおいて、訓練した感染制御医師や微生物学者を感染制御プログ
ラムに含めることと、250ベッド当たり少なくとも1人の感染制御看護師を持つことは4つの感
染症(CVC関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、カテーテル関連尿路感染、手術部位感染)の割
合を32%減少させることに関連した。
その画期的な研究が公開されてから、ICPの責任は医療システムの増大する複雑性、担当する患
者集団、すべてのタイプの医療現場において使用される医学的処置や器具の数の増加に比例して
拡大した。ICPの業務範囲は1982年に感染制御認定委員会(CBIC: Certification Board of
Infection Control)によって初めて評価され(567-569)、それから5年ごとに再評価されてい
る(570-572)。これらの業務解析の結果は1983年に初めて提供された感染制御認定試験の作
成と更新に用いられた。おのおのの調査にて、ICPの役割は急性期病院での伝統的な感染制御活
動を越え、複雑性と範囲において増大していることが明らかとなった。新しい問題に対応して
ICPに現在割り当てられている活動には、1)急性期ケア病院以外の施設(外来クリニック、日帰
り外科センター、長期ケア施設、リハビリテーションセンター、在宅ケア)におけるサーベイラ
ンスと感染予防、2)感染予防に関連する雇用者健康サービスの監督(感染性微生物の曝露に引き
続く危険性の評価と推奨治療の施行、結核スクリーニング、インフルエンザワクチン、呼吸器防
1
御のフィットテスト、必要に応じた他のワクチン接種(2003年の天然痘ワクチンなど))、3)毎
年のインフルエンザ流行、パンデミックインフルエンザ、SARS、生物兵器攻撃のための準備プ
ラン、4)特定の感染制御策の遵守モニタリング、5)建築および修理に関連した危険性評価と予
防策の実施の監視、6)MDROの伝播の予防、7)感染の危険性を増大させるかもしれない新しい
医療製剤の評価(血管内注射剤など)、8)感染制御に関連した問題についての社会・施設スタッ
フ・州および地域の健康部との連絡、9)地域プロジェクトおよび多施設研究プロジェクトへの
参加、が含まれる(434, 549, 552, 558, 573, 574)。
調査には業務時間についての情報が含まれていたが、同定されている業務のための特別な人員配
置の必要性については、CBICの業務解析のどれもが言及していなかった(2001年の調査には、
回答した施設に割り当てられているICPの数が含まれていた(558))。250床の急性ケアベッド
当たり1ICPは現在の感染制御の必要性に見合うにはもはや十分ではないという文献での意見の
一致がある。21世紀の感染制御プログラムのスタッフの必要性を評価したDelphiプロジェクト
は急性期ケアベッド100床あたり0.8∼1.0人のICPの割合がスタッフの適切な水準であると結
論した(552)。全米病院感染サーベイランスシステム(NNIS: National Nosocomial Infection
Surveillance)の参加者の調査ではICP当たりの平均の日割り調査は115であることを見いだし
た(316)。他の研究結果も似ていた(大規模急性期ケア病院では500床当たり3人、長期ケア施
設では150∼250床当たり1人、小規模の田舎の病院では250床当たり1.56)( 573, 575)。
既に述べたことは、感染制御スタッフはもはや患者集計のみに基づくものではなく、むしろプロ
グラムの範囲、患者集団の特徴、医療システムの複雑性、本質的な職務を遂行するための職員を
援助するための道具(サーベイランスのための電子追跡および検査サポートなど)、施設および社
会の固有または切迫した必要性、によって決定されるべきことを明らかにしている(552)。さら
に、遂行する業務の質を最適にするためには適切な訓練が必要である(558, 572, 576)。
II.A.1.a.i. 感染制御連絡員
患者ケア病棟のベッドサイド看護師を感染制御連絡員(infection control nurse liaison)または
「リンクナース」として指定することは、病棟レベルでの感染制御を強化するための効果的な補
助手段であることが報告された(577-582)。そのような人々は基本的な感染制御の訓練を受け、
ICPと頻繁に連絡するが、病棟でのベッドサイドのケア提供者としての本来の役割も維持する。
感染制御連絡員は病棟レベルでの感染制御の意識を高める。病棟での人々との関係、病棟に特異
的な問題点の理解、病棟でもっとも成功する可能性のある戦略の促進能力ゆえに、新しい方針や
制御介入の実施において、彼らは特に有効である。
そのポジションは十分に訓練されたICPの補助であり、代替ではない。さらに、ICPの人員配置
を考慮するときには、感染制御連絡員の看護師をカウントすべきではない。
II.A.1.b.ベッドサイドナースの人員配置
ベッドサイドナースの人員配置のレベルは患者ケアの質に影響するというエビデンスは増えて
いる(583, 584)。十分な看護スタッフがいれば、手指衛生および標準予防策と感染経路予防策
などの感染制御策に適切な注意が向けられ、それらは正しく継続的に適用されるであろう(552)。
全米の多施設研究は、看護人員配置と内科患者の5つの有害な結果(それらの2つはHAI[尿路感
染および肺炎]であった)の間に強力かつ継続的な逆相関があることを報告した。看護スタッフ不
足とHAIの割合の増加との関係が病院および長期ケア環境におけるいくつかの集団感染で示さ
れ、透析病棟でのC型肝炎ウイルスの伝播の増加でも示された(22, 418, 551, 585-597)。殆
どの症例において、包括的な制御介入の一部として人員配置が改善すると、集団感染は終息し、
HAI率は下降した。2件の研究では(590, 596)、看護スタッフの構成(「移動」または「予備」
vs. 正職員看護師)は一次性血流感染の割合に影響を与えていた。そして、正職員看護師の割合
が減り、予備看護師が増えると、感染率は増加した。
II.A.1.c. 臨床微生物検査室のサポート
感染制御および医療疫学における臨床微生物検査室の重大な役割が十分に記述されており
2
(553, 554, 598-600)、それは2001年に公開された臨床微生物検査室の強化についての米
国感染症学会の指針表明によってサポートされている(553)。臨床微生物検査室は疫学的に重要
な微生物を迅速に検出して報告すること、抗菌薬耐性の新しいパターンを同定すること、集団感
染での伝播を制限するための推奨予防策の効果の評価を援助すること、によって医療ケア環境で
の感染性疾患の伝播の防止に貢献している(598)。感染の集団発生は検査助手によって最初に認
識されるかもしれない(162)。医療ケア施設は、検査室サービスの推奨範囲と質、適切に訓練さ
れた検査室スタッフの十分な人数、疫学的に重要な結果を実行者(臨床ケアの提供者、感染制御
スタッフ、医療疫学者、感染症コンサルタントなど)に迅速に連絡するシステム、が利用できる
ことを確認しなければならない(601)。新興病原体やバイオテロについての憂慮が増大するにつ
れて、臨床微生物検査室の役割はかなり重要となってきた。微生物検査室サービスを外部委託し
ている医療機関(外来ケア、在宅ケア、LTCF、小規模急性期病院など)では、感染制御をサポー
トするために必要なサービスの種類(定期的な施設特異的な総合感受性報告書など)を契約によ
って明記することが大切である。
臨床微生物検査室の幾つかの重要な機能がこのガイドラインに密接に関係している:
・ 新しい耐性パターンの検出のために(603, 604)、および定期的な累積抗菌薬感受性サマリー
レ ポ ー ト の 準 備 ・ 解 析 ・ 配 布 の た め に (605-607) 、 米 国 臨 床 検 査 標 準 化 委 員 会
(NCCLS:National Committee for Clinical Laboratory Standards)(2005年以降は臨床
検査標準化協会[CLSI: Clinical and Laboratory Standards Institute]として知られている
(602))によって作成された現在のガイドラインに準拠した検査と解釈による抗菌薬感受性検
査をおこなう。要望がないときは、理想的には臨床検査室は細菌の迅速遺伝子型同定および抗
菌薬耐性遺伝子へのアクセスを持つべきである(608)。
・ 施設や医療機関において、サーベイランス培養が感染伝播のパターンや感染制御介入の有効性
を評価するために必要であれば、それを実施する(解析のための分離菌を保有することも含む)。
微生物学者は積極的サーベイランスプログラムを開始および中止する指標についての決断を
援助し、検査室の財源を最大限に利用する。
・ 医療関連集団感染の調査および制御のための遺伝子型別(現場または外部委託)をおこなう
(609)
・ 患者治療、病室選択、制御策の実施(バリアプリコーションおよびワクチンや化学予防薬の使
用[インフルエンザ(610-612)、百日咳(613)、RSV(614, 615)、エンテロウイルス(616)])
などの臨床的判断を支援するために迅速診断検査を適用する。微生物学者は、迅速結果が患者
措置の決定に影響を与える臨床的状況に、迅速検査の実施を制限するための手引きを提供する
ともに、検査室以外の医療従事者によって実施されるポイントオブケア検査(訳者註:
point-of-care testingは診療や介護の現場で行う臨床検査のこと)の監督も行う(617)。
・ 疫学的に重要な微生物の検出と迅速報告をおこなう(保健所機関に報告する微生物を含む)。
・ 検査サービスが対象集団に適切であること、感度・特異度・適用性・実行可能性のために厳重
に評価されることを確保する精度管理プログラムを実施する。
・ 抗菌薬の適正使用のための効果的な施設プログラムを作り上げて維持する総合チーム参加す
る(618, 619)。
II.A.2. 施設の安全文化と医療機関の特徴
安全文化(安全風土)は管理や労働の安全への共有される義務が理解され実践される労働環境を
指して言う(557, 620, 621)。
「the Institute of Medicine Report, To Err is Human」(543)
の執筆者らは、医学エラーの原因は多岐にわたるものであることを認識しつつも、システム不全
の重要な役割と安全文化の恩恵を繰り返して強調している。安全文化は、1)患者および職員の
安全を向上するための行動管理の取り組み、2)安全計画への労働者の参加、3)適切な防護器具
が利用できること、4)受け入れられる安全策についての集団の労働基準量の影響、5)新しい職
員のための医療社会順応プロセス、によって作られる。安全と患者結果は外科的ICUの研究によ
って示されるように、患者ケア病棟内での医療機関の特徴を向上または作り出すことによって、
促進することができる(622, 623)。これらの要因の各々は伝播予防の勧告の遵守に直接的な関
3
係を持っている(257)。安全の施設文化の測定は医療ケアにおける改善を企画するために有用で
ある(624, 625)。いくつかの病院をベースにした研究は安全文化の測定を従業員の安全策の遵
守と血液と体液への曝露の減少の両者にリンクさせた(626-632)。手指衛生の1件の研究は、
遵守改善には医療機関の安全文化に感染制御を癒合させることが必要であると結論した(561)。
在郷軍人管理医療システムの一部であるいくつかの病院は安全文化の向上に向けて特別なステ
ップを取っており、これにはエラーの報告機構、同定された問題についての根本原因分析の実施、
安全報奨の提供、職員教育が含まれている(633-635)。
II.A.3. 医療従事者の推奨ガイドラインの遵守
推奨されている感染制御策の遵守は医療現場における感染性微生物の伝播を減らす(116, 562,
636-640)。しかし、いくつかの観察的研究は医療従事者の推奨手技への遵守に限定したもの
であった(559, 640-657)。普遍的予防策への観察された遵守は43%から89%の範囲であっ
た(641, 642, 649, 651, 652)。しかし、遵守の程度は評価される診療と、(手袋の使用では)
それらが使用される環境に高頻度に依存している。適切な手袋使用の範囲は最低15% (645)
から最高 82%(650)であった。しかし、動脈血ガス採取および蘇生は相当の血液接触が発生す
るかもしれない処置であるが、それぞれの手袋使用は82%と98%の遵守率で報告されている
(643, 656)。観察された遵守の相違は同じ医療施設での専門グループ間(641)や経験のある専
門家と経験のない専門家の間(645)で報告されている。医療従事者の調査では、自己報告された
遵守は観察的研究で報告された遵守より高いのが一般的である。さらに、観察要素が自己報告調
査に含まれている場合は、自己認識される遵守は観察された遵守よりも大きいことが多い(657)。
看護師および医師では、経験年数の増加は遵守の負の指標である(645, 651)。遵守を向上させ
るための教育は既に研究されている重要な介入である。知識や心構えの正の変化が示されたが
(640, 658)、振る舞いについては伴う変化は限定されているか変化がないことが多い(642,
644)。自己報告される遵守は教育的介入を受けた集団で高い(630, 659)。ビデオテープや動
作フィードバックを組み入れた教育的介入は研究期間での遵守を向上させるのには成功した。こ
れらの介入の長期的効果は不明である(654)。ビデオテープの使用はシステムの問題(コミュニ
ケーションや個人防護具へのアクセスなど)を同定するのに役立つが、さもなければこのような
問題は認識されなかったかもしれない。遵守を向上させるための工学的制御の使用や施設デザイ
ンの概念は興味を得つつある。自動手洗い場の導入は手洗いの継続的な遵守について負に影響し
たが(660)、1件の研究では電子モニタリングや電子音声の使用は医療従事者に手指衛生の実施
を思い出すのを促し、手指衛生製品へのアクセスの改善は遵守を増加させてHAIを減少させるの
に貢献した(661)。どのような技術が遵守を改善させるのかについてはさらなる情報が必要であ
る。感染制御策の遵守の向上には個人および職場環境の両者を継続的に評価することを組み入れ
た総合的なアプローチを必要とする(559, 561)。いくつかの振る舞い理論を用いて、Kretzer
と Larsonは単一の介入(手洗いキャンペーンや感染経路別予防策についての新しいポスターの
掲示など)は医療従事者の遵守を改善させるには無効であろうと結論した(662)。改善には、施
設の指導者が予防を施設の優先項目にして、感染制御策を医療機関の安全文化に組み入れること
を必要としている(561)。文献の最近の評価によって、医療機関の要素(安全風土、方針と実行、
教育と訓練など)および個人の要素(知識、危険の認知、過去の経験など)における変動がSARS
や他の呼吸器病原体に対する防御のための感染制御ガイドラインの遵守の決定因子であること
が結論された(257)。
II.B. 医療関連感染(HAI: healthcare-associated infection)のサーベイランス
サーベイランスは、感染経路別予防策が必要かもしれない疫学的に重要な微生物(黄色ブドウ球
菌、化膿連鎖球菌[A群連鎖球菌]、エンテロバクター-クレブシェラ属のような感受性菌;MRSA、
VRE、その他のMDRO;クロストリジウム・ディフィシレ;RSV;インフルエンザウイルス)
を発症または保菌している単一症例またはクラスター症例をみつけるための重要な道具である。
サーベイランスは罹患率と死亡率を減らして健康を向上するための公衆衛生活動に使用するた
めに、健康に関連する出来事についてのデータの継続的かつ組織的な収集・解析・介入・配布と
して定義されている(663)。産褥性敗血症におけるヒトーヒト間の伝播の役割を記述したIgnaz
4
Semmelweisの仕事が感染性微生物の伝播を減らすためのサーベイランスデータの使用の早期
の例である(664)。プロセス処置とそれらが関連している感染率の両者のサーベイランスは感染
制御の努力の効果の評価および変更のための指標の同定に重要である(555, 665-668)。
「院内感染制御の有効性についての研究(SENIC[Study on the Efficacy of Nosocomial
Infection Control]プロジェクト)」は感染制御策の異なる組み合わせによって、急性期ケア病
院の院内感染の手術部位感染、肺炎、尿路感染、菌血症の割合が減少することを見いだした(566)。
しかし、サーベイランスは4つのタイプすべてのHAIを減らすために必要な要素に過ぎなかった。
他の医療ケア現場では、同様の研究は実施されていないが、サーベイランスの役割と新しい戦略
の必要性がLTCF(398, 434, 669, 670)および在宅ケア(470-473)で述べられている。サー
ベイランスシステムの重要な要素は、1)標準化された定義、2)感染の危険性のある患者集団の
同定、3)統計学的解析(リスク調整、適切な分母を用いた割合の計算、統計プロセス制御表のよ
う な 方 法 を 用 い た ト レ ン ド 解 析 な ど ) 、 4) 主 な ケ ア 提 供 者 へ の 結 果 の フ ィ ー ド バ ッ ク
(671-676)、である。ハイリスク集団のサーベイランスを介して収集されたデータ、機器の使
用、処置、施設の位置(ICUなど)は伝播の傾向を検出するのに有用である(671-673)。感染症
のクラスターの同定は人、場所、時での共通性を決定するための系統的な疫学調査によって追跡
され、介入の実施やそれらの介入の有効性の評価を導く。
ハイリスク区域や患者に基づくターゲットサーベイランスは財源の最も効果的な使用ゆえに、施
設全体のサーベイランスよりも好まれてきた(673, 676)。しかし、特定の疫学的に重要な微生
物のサーベイランスは病院全体でなければならないかもしれない。サーベイランスの方法は医療
ケア提供システムの変化と共に進化し続けるであろう(392, 677)。そして、使用者に優しい電
子機器が電子追跡やトレンド解析にもっと広く利用できるようになるであろう(674, 678,
679)。効果的かつ正確なHAIサーベイランスの必要性に確実に適合するデータ集積や解析のた
めのソフトウエアパッケージの選択には医療疫学および感染制御の経験のある人々が含まれる
べきである。HAI率の公開報告を必要とする法律が通過し、そのような法律を支援する効果的な
システムを発展させる業務が公表されているので、効果的なサーベイランスの重要性は増大して
いる(680)。
II.C. HCW、患者、家族の教育
医療従事者の教育と訓練は標準予防策と感染経路別予防策の方針と処置が理解されて実施され
ることを確保するために不可欠なものである。予防策の科学的な原則の理解によって、HCWが
正しい手順を適用するとともに、必要条件、財源、医療環境の変化に基づいて予防策に安全に変
更を加えることができるようになるであろう(14, 655, 681-688)。1件の研究では、HCWが
SARSに罹患する可能性は2時間未満の感染制御訓練と感染制御手順の理解の欠損に強く関連
していた(689)。医療従事者、患者、家族を守るためのワクチン(インフルエンザ、麻疹、水痘、
百日咳、肺炎球菌など)の重要な役割についての教育はワクチン接種率の向上に役立つ
(690-693)。
感染性微生物の伝播の予防の原則と実践についての教育は医療専門職の訓練のときに開始すべ
きであり、患者や医療器具に接触する機会のある人(看護および医学スタッフ;療法士および技
術者[呼吸器、理学、職業、放射線、心臓学の職員;瀉血士;ハウスキーピングとメインテナン
スのスタッフ;学生])に提供されるべきである。医療施設では、標準予防策および感染経路別予
防策の教育と訓練がオリエンテーションのときに提供されるのが通常であり、能力を維持するた
めに必要に応じて繰り返される。方針や手順が改訂されるときや、現在の医療の修正を必要とす
る集団感染や新しい勧告の適用のような特別な環境のときは、最新の教育と訓練が必要である。
HCWの責任のレベル、個々の学習習慣、言語の必要性に合った教育や訓練の材料および方法は
学習経験を向上させることができる(658, 694-702)。
医療従事者の教育プログラムはベストプラクティスの遵守における継続的な改善と教育環境と
5
非教育環境(639, 703)、および内科と外科ICU({Coopersmith, 2002 #2149; Babcock,
2004 #2126; Berenholtz, 2004 #2289; www.ihi.org/IHI/Programs/Campaign,
#2563})における器具に関連したHAIの減少に関連した。いくつかの研究は、特定の行為を改
善するためのターゲット教育に加えて、HCWの知識の定期的評価とフィードバックおよび推奨
手技の遵守が、望まれる変化を獲得し、継続教育の必要性を特定するために必要であることを示
した(562, 704-708)。隔離の実践のためのこのアプローチの有効性がRSVの制御で示された
(116, 684)。
患 者 、 家 族 、 面 会 者 は 医 療 現 場 で の 感 染 症 の 伝 播 予 防 の パ ー ト ナ ー と な り う る (9, 42,
709-711)。標準予防策(特に手指衛生、呼吸器衛生/咳エチケット、ワクチン接種[特にインフ
ルエンザ]、他の日常的な感染予防)についての情報は医療施設への入院時に提供される患者情報
資料に組み込んでも良い。感染経路別予防策についての追加情報は、それが始まるときに提供さ
れるのが最も良い。概況報告書、パンフレット、その他の印刷物は追加予防策のための原則、家
族への危険性、感染経路別予防策の目的のための病室の指定、HCWによる個人防護具の使用に
ついての説明、家族や面会者によるそのような器具の使用の指針についての情報を含んでもよい。
そのような情報は家族が感染制御の推奨手技の遵守の主要責任を持つことが多い在宅環境で特
に有用である。医療従事者は、この資料を説明し、必要に応じて質問に答えることが可能であり、
準備されていなければならない。
II.D. 手指衛生
手指衛生は医療ケア現場において感染性微生物の伝播を減らすための最も重要な単一の行為と
して頻繁に言及されており(559, 712, 713)、標準予防策の重要な要素でもある。「手指衛生」
の用語には通常石鹸または抗菌性石鹸と水による手洗いと水の使用を必要としないアルコール
をベースにした製剤(ジェル、リンス、泡)の使用が含まれている。手が肉眼的に汚れていなけれ
ば、手指消毒には認可されたアルコールベースの製剤が抗菌石鹸や通常石鹸よりも好まれるが、
それは殺菌作用が優れ、皮膚の乾燥を減らし、使用しやすいからである(559)。手指衛生の向上
は主にICUでのMRSAとVREの感染の発生を継続的に減らすことに関連してきた(561, 562,
714-717)。手指衛生の科学的原則、適用、方法、製剤は他の刊行物に総括されている(559,
717)。
手指衛生の有効性は指爪のタイプや長さによって低下する(559, 718, 719)。人工爪の人々は
自然爪の人よりも爪の上および下に多くの病原性微生物(特にグラム陰性桿菌と真菌)を持って
いることが示された(720, 721)。2002年、CDC/HICPACはハイリスク患者(ICUや手術室の
患者など)に接触する医療従事者は人工爪や伸張器をつけないように勧告(カテゴリーⅠA)した
が、これはグラム陰性桿菌および真菌の感染の集団発生が分離菌の遺伝子型別で確認されたから
である(30, 31, 559, 722-725)。患者ケアを直接提供しているすべての医療従事者やハイリ
スク患者(癌、嚢胞性線維症など)に接触する医療従事者が人工爪を装着することを制限する必要
性については研究されていないが、専門家は制限することを推奨してきた(20)。現時点では、
そのような決断は個々の施設の感染制御プログラムの自由裁量となる。宝石類が手指衛生の質に
影響するエビデンスは少ない。病原体による手の汚染は指輪装着によって増加するが
(559,726)、医療従事者から患者への病原体の伝播に指輪装着を関連づけた研究はない。
II.E.医療従事者のための個人防護具(PPE: personal protective equipment)
PPEは粘膜、気道、皮膚、衣類を感染性微生物の接触から守るために、単独または組み合わせ
で用いられる様々なバリアおよびレスピレータを指して言う。PPEの選択は患者との相互作用
の性質や予想される伝播様式に基づく。PPEの使用についての指針は第Ⅲ部にて議論されてい
る。皮膚や衣類の汚染を防ぐPPEの着脱の提案手順は図に示されている。汚染した材料の廃棄
と封じ込めを促進するために、使用済みの使い捨てPPEまたは再使用PPEの指定容器は脱いだ
場所に便利なところに設置すべきである。手指衛生は常に、PPEを取り外したあとおよび廃棄
のあとの最終ステップとなる。下記のセクションはこの器具の重要な使用方法と選択方法を強調
6
している。
II.E.1. 手袋
手袋は医療従事者の手の汚染を防ぐために下記の場合に用いられる:1)血液や体液、粘膜、傷
のある皮膚やその他の潜在的な感染性物質に直接触れることが予想されるとき、2)接触感染に
よって伝播する病原体を保菌または発症している患者に直接接触するとき(VRE, MRSA,
RSV)(559, 727, 728)、3)肉眼的に汚染しているか汚染しているかもしれない患者ケア器具
および環境を取り扱ったり触れるとき(72, 73, 559)。手袋は手によって運ばれるかもしれない
感染性物質への曝露から患者および医療従事者を防ぐことができる(73)。手袋が、針刺しやそ
の他の穿刺が手袋バリアを突き抜けた後に、医療従事者を血液媒介病原体(HIV, HBV, HCVな
ど)の伝播からどの程度守るかは確定されていない。手袋は鋭利物の外部表面にある血液量を46
∼86%減少させるかもしれないが(729)、中空針の内腔にある残存血液には影響しない。それ
故、伝播の危険性における効果は不明である。
医療を目的として製造された手袋はFDAの評価と認可を受けることになっている(730)。非滅
菌の使い捨て医学用手袋は様々な物質(ラテックス、ビニール、ニトリルなど)で作られていて、
日常的な患者ケアに利用されている(731)。非外科使用の手袋の種類の選択は多くの要素に基づ
いており、それらには遂行すべき業務、化学薬品および化学治療薬への予想される接触、ラテッ
クス過敏症、サイズ、ラテックスフリーの環境を作り出す施設の方針、が含まれる(17,
732-734)。手術以外の患者ケアのときの血液および体液への接触には、一般的に1組の手袋
が十分なバリア防御を提供している (734)。しかし、手袋にはかなりの多様性があり、製造過
程の質および材料の種類の両者がバリア効果に影響している(735)。未使用の無傷の手袋のバリ
ア機能には殆ど差はないが(736)、シミュレートした状況や実際の臨床状況で検査されると、ビ
ニール手袋はラテックスやニトリルの手袋よりも失敗率が高いことが繰り返し示された(731,
735-738)。このような理由から、手先の器用さを必要としたり、短時間を越える患者接触な
どの臨床処置にはラテックスまたはニトリルのどちらかの手袋が好まれる。いくつかのサイズの
手袋を仕入れておくことも必要である。もっと重くて再利用できる多用途手袋は汚染した器具ま
たは表面の取り扱いや洗浄などの非患者ケア活動に必要である(11, 14, 739)。
患者ケアのとき、「清潔」から「不潔」に向けて仕事をし、患者ケアに直接必要な表面に汚染を
限定や限局させるという原則を遵守すれば感染性微生物の伝播を減らすことができる。身体部位
の交差感染を防ぐために、1人の患者のケアのときでも手袋を交換する必要があるかもしれない
(559, 740)。また、患者との相互作用が病室から病室に移動する携帯コンピュータのキーボー
ドや他の移動式器具への接触も含んでいるならば、手袋を交換する必要がある。患者と患者の間
で手袋を廃棄することは感染性物質の運搬を防ぐために必要である。手袋を引き続いて再使用す
るために洗ってはならないが、これは微生物が手袋の表面から確実に除去されないことと、手袋
の完全性の継続が保証できないからである。さらに、手袋の再使用はMRSAおよびグラム陰性
桿菌の伝播に関係していた(741-743)。手袋が他のPPEと組み合わせて着用されるときは、手
袋を最後に着用する。隔離用ガウンと一緒に用いるときには手首周囲にピッタリと合う手袋が好
まれるが、それは手袋がガウンの袖口をカバーし、腕、手首、手にさらに信頼できる継続的バリ
アを提供するからである。適切に外された手袋は手の汚染を防ぐであろう(図)。手袋を外したあ
との手指衛生は、認識されていなかった裂け目から感染性物質が通り抜けてきたり、手袋を脱ぐ
ときに手を汚染したかもしれない感染性物質を手が運ばないことを確保する(559, 728, 741)。
II.E.2.隔離用ガウン
隔離用ガウンはHCWの腕や露出した身体部位を守り、衣類が血液、体液、その他の感染性物質
で汚染することを防ぐために、標準予防策および感染経路別予防策によって指定されて用いられ
る(24, 88, 262, 744-746)。選択される隔離用ガウンの必要性と種類は、患者との相互作用
(感染性物質への接触の予想される程度や血液や体液がバリアを通過する可能性など)の性質に
基づいている。隔離用ガウンや他の防護着の装着はOSHAの血液媒介病原体の基準によって要
求されている(739)。臨床着および検査着または快適さや個性目的のために個人着の上から着る
7
ジャケットはPPEとしては考慮されない。標準予防策を適用するとき、隔離用ガウンは血液や
体液への接触が予想される場合のみに着用する。しかし、接触予防策が用いられるときは(標準
予防策のみでは遮断できない感染性微生物や環境汚染に関連する感染性微生物の伝播を防ぐた
め)、病室の入室時にガウンと手袋の両方を着用することが汚染した環境表面に意図せずに接触
してしまうことへの取り組みとして必要である(54, 72, 73, 88)。集中治療室や他のハイリス
ク区域への入室時に隔離用ガウンを日常的に装着しても、それらの区域の患者の保菌や発症を防
ぐこともなく、影響を与えることもない(365, 747-750)。
隔離用ガウンは常に手袋と組み合わせて着用され、必要に応じて他のPPEと組み合わせて着用
される。通常、ガウンは最初に着用するPPEである。腕および体の全部、首から太腿中部かそ
れ以下を完全に覆うことによって、衣類および露出した上体部を確実に防御することができる。
スタッフが適切に覆うことを確保するために、医療施設ではいくつかのガウンサイズが利用でき
るようにしなければならない。隔離用ガウンは病室の外部環境を汚染しないように、患者ケア区
域から去る前に脱がなければならない。隔離用ガウンは衣類や皮膚の汚染を防ぐ方法で脱ぐべき
である(図)。汚染を封じ込めるために、ガウンの外部の「汚染した」側を内側にして、包み込ん
で、そして廃棄物またはリネン用の指定容器に捨てる。
II.E.3.顔面防御:マスク、ゴーグル、フェースシールド
II.E.3.a.マスク
マスクは医療ケア現場では主に3つの目的に使用される:1)医療従事者を患者の感染性物質(呼
吸器分泌物および血液や体液のしぶきなど)への接触から守るために、医療従事者が装着する(標
準予防策と飛沫予防策に矛盾しない)、2)医療従事者の口や鼻に保菌されている感染性微生物の
曝露から患者を守るために、滅菌テクニックを必要とする処置をするときに医療従事者が装着す
る、3)患者から他の人々に感染性呼吸器分泌物が拡散するのを制限するために咳をしている患
者が装着する(呼吸器衛生/咳エチケット)。マスクは口、鼻、目を守るためにゴーグルと組み合
わせて使用してもよく、フェースシールドを下記に議論されるように、顔面に完全な防御を提供
するためにマスクとゴーグルの替わりに用いてもよい。マスクを下記に述べられるような空気
感染にて伝播する感染性微生物を含んでいる小粒子の吸入を防ぐために用いられる微粒子物レ
スピレータを混同してはならない。
口、鼻、目の粘膜は感染性微生物の侵入口として感受性が高く、(ニキビや皮膚炎によって)皮膚
の完全性が障害されると他の皮膚表面も同様である(66, 751-754)。それ故、これらの身体部
分を守るためのPPEの使用は標準予防策の重要な構成要素である。曝露する医療従事者のため
のマスクの防護効果が示されている(93, 113, 755, 756)。血液、体液、分泌物、排泄物の飛
散やしぶきを作り出す処置(気管吸引、気管支鏡、侵襲的な血管措置など)はフェースシールド(使
い捨てまたは再利用可能)またはマスクとゴーグルのどちらかを必要とする(93-95, 96 , 113,
115, 262, 739, 757)。血液や体液曝露が発生しそうな特定の環境においてマスク、眼防御、
フェースシールドをすることはOSHAの血液媒介病原体標準にて要求されている(739)。適切
なPPEは予想される曝露のレベルにもとづいて選択される。医療現場での使用では2種類のマス
クが利用できる:FDAに認可されていて防水性であることが求められている外科用マスクおよ
び処置または隔離用マスク(758 #2688)。マスクの1つの種類がもう1つの種類よりも防御を
よりよく提供するか否かを決定するためのマスクの種類を比較した研究は発表されていない。処
置/隔離用マスクはFDAに規制されていないので、外科用マスクよりも質および性能においても
っと多様である。マスクには様々な形(鋳型および非鋳型)、サイズ、濾過効率、取り付け方法(ヒ
モ、ゴム、耳輪など)が揃っている。医療施設は個々の医療従事者の必要性を満たすために異な
る種類のマスクが必要である。
II.E.3.b.ゴーグル、フェースシールド
感染制御のための眼防御の指針が公開された(759)。特定の業務状況で選択される眼防御(ゴー
グルまたはフェースシールド)は曝露の環境、使用している他のPPE、個人が予見する必要性、
に依存する。個人の眼鏡やコンタクトレンズは十分な眼防御としては考慮されない
8
(www.cdc.gov/niosh/topics/eye/eye-infectious.html)。
眼防御は快適で、十分に周辺が見え、しっかりとフィットできるように調節可能でなければなら
ないとNIOSHは述べている。いくつかの異なる種類、スタイル、サイズの防護器具を提供する
ことが必要かもしれない。製造元の曇り止めコーティング付きの間接的換気のゴーグルは複数の
角度からの飛散、しぶき、呼吸飛沫からの最も信頼できる実用的な眼防御を提供するかもしれな
い。新しいスタイルのゴーグルは曇りを減らすための間接的空気流の特性をさらに良好にするの
みならず、周辺視野を広くし、異なる職員にゴーグルをフィットさせるためにもっと多くのサイ
ズのオプションを提供するであろう。多くのスタイルのゴーグルは隙間が少なく、処方眼鏡より
も良好にフィットする。ゴーグルは眼防御としては効果的であるものの、顔面の他の部分への飛
散やしぶきを防御しない。
呼吸器飛沫を介して伝播する感染性微生物への曝露を予防するために、マスクに加えてゴーグル
を使用することの役割はRSVにおいてのみ研究されている。1980年代中頃に発表された報告
では眼防御はRSVの職業上伝播を減らすことを明らかにした(760, 761)。これが手と眼の接触
によるものか、呼吸器飛沫と眼の接触を防ぐことによるものかについては確定していない。しか
し、引き続く研究によって、RSV伝播は標準予防策+接触予防策を遵守することによって効果
的に予防され、このウイルスにはゴーグルの日常的な使用は不要であることが明らかとなった
(24, 116, 117, 684, 762)。特定の呼吸器病原体において飛沫予防策がたとえ推奨されなく
ても、標準予防策に示されているように、気道分泌物や他の体液の飛散やしぶきが発生しうる場
合には、眼、鼻、口をマスクとゴーグル、またはフェースシールド単独で防御する必要があるこ
とを医療従事者に思い出させることは大切である。使い捨てや使い捨てしないフェースシールド
をゴーグルの代替として使用してもよい(759)。ゴーグルと比較して、フェースシールドは眼に
加えて、他の顔面部分の防御も提供できる。顎から頭頂部まで広がっているフェースシールドは
飛散やしぶきから顔面と眼をよりよく防御し、両側周辺を包み込むフェースシールドはシールド
の縁周囲のしぶきを減らすことができる。
フェースシールド、ゴーグル、マスクは手袋を外して手指消毒をしたあとに安全に外すことがで
きる。器具を頭に固定するために用いられたヒモ、つる、ヘッドバンドは「清潔」と考えられる
ので、素手で触れても安全である。マスク、ゴーグル、フェースシールドの前面は汚染している
と考える(図)。
II.E.4. 呼吸器防御
呼吸器防御は空気感染性微生物の伝播を防ぐために用いられるが、フィットテストの必要性およ
び頻度も含んだ課題が科学的に再評価されているところであり、2004年のCDCのワークショ
ップの課題でもあった(763)。現在、呼吸器防御は感染性粒子の吸入を防ぐためのN95または
それ以上の濾過のレスピレータの使用を必要としている。レスピレータおよび呼吸器防御プログ
ラムの情報は「医療現場における結核菌の伝播の予防のためのガイドライン、2005年」で総括
されている(CDC.MMWR 2005; 54: RR-17 12)。呼吸器防御は、すべての労働環境において
米国の雇用者は毒性物質の吸入から従業員を守るプログラムを実施することを求めている呼吸
器防御のための産業標準(29CFR1910.134)(764)のもとでOSHAによって広く規定されて
いる。OSHAのプログラム構成要素にはレスピレータを装着するための医学的許可;フィット
テストされたNIOSH保証のN95およびそれ以上の微粒子濾過レスピレータなどの適切なレス
ピレータの準備と使用;レスピレータ使用の教育および呼吸器防御プログラムの定期的な再評価、
が含まれる。微粒子レスピレータを選択するとき、本来的にフィットが良好な特性を持つモデル
(95%の使用者に10以上の防御ファクターを提供するもの)が好まれ、理論的にはフィットテス
トの必要性を軽減できる(765, 766)。呼吸器防御に付随している問題は継続する論争の議題と
な っ て い る 。 様 々 な タ イ プ の レ ス ピ レ ー タ に つ い て の 情 報 は
www.cdc.gov/niosh/npptl/respirators/respsars.htmlおよび公開されている研究で見つけ
ることができる(765, 767, 768)。使用者シールチェック(以前は「フィットチェック」と呼ば
れていた)はフェースピース周囲の空気の漏れを最小限にするために、レスピレータを装着する
たびにレスピレータの使用者によって実施されなければならない(769)。フィットテストの最も
望ましい頻度は確定されていない。使用者の顔面の様相の変化、使用者の呼吸機能に影響する医
9
学的状況の発生、最初に指定されたレスピレータのモデルやサイズの変化、があれば再テストは
必要である(12)。
呼吸器防御は1989年に米国の医療従事者を結核菌の曝露から守るために初めて推奨された。そ
の勧告は「病院およびその他の医療現場における結核の伝播予防のためのガイドライン」の2回
の連続した改訂でも保持された(12, 126)。空気感染性微生物(結核菌など)の伝播を防ぐために、
管理および工学的制御(AIIR、結核に罹患している可能性のある患者を早期に認識してAIIRに迅
速に入室させる、結核疑いの患者を感染性がなくなるまでAIIRに保持する、など)に加えて、レ
スピレータを使用することによって恩恵が増大するかは未確定である。幾つかの研究では、他の
管理的および工学的制御と共に、レスピレータの替わりに外科用マスクを用いた病院において、
結核菌の伝播の効果的な予防が示されたが(637, 770, 771)、CDCは現時点では結核疑いまた
は確定の患者に曝露する職員にはN95またはそれ以上のレスピレータを推奨している。吸入伝
播がもっと明確になるまで、または感染予防のためにもっと適した医療ケア固有の防御器具が制
作されるまで、このことはSARS(262)や天然痘(108,129,772)などの空気感染で伝播する他
の疾患にも当てはまる。現在、レスピレータはSARS Co-V感染、トリインフルエンザ、パン
デミックインフルエンザの患者にエアロゾル産生処置(挿管、気管支鏡、吸引など)を実施すると
きに装着することが推奨されている(付録Aを参照)。
空気予防策は麻疹および水痘-帯状疱疹ウイルスの空気感染を防ぐために推奨されているが、こ
れら2つの感染症に対して感受性のある職員を守るための呼吸器防御のための推奨の基となる
データはない。水痘-帯状疱疹ウイルスの伝播が陰圧隔離室のみを用いて、小児患者で予防され
ている(773)。呼吸器防御(微粒子レスピレータを装着すること)がこれらのウイルスの防御を強
化するか否かについては研究されていない。医療従事者の殆どが、これらのウイルスに対して自
然免疫または獲得免疫をもっているので、免疫のある職員のみがこれらの感染症の患者をケアす
るのが一般的である(774-777)。このような環境において医療従事者を守るためにはマスクは
十分ではないと示唆するエビデンスはないが、一貫性および簡素性を目的として、または免疫を
確かめることの難しさゆえに、特定の感染性微生物に拘わらず、すべてのAIIRに入室するときに
レスピレータの使用を要求する施設もあるかもしれない。
レスピレータの安全な脱ぎ方の手順が提供されている(図)。医療現場によっては、結核菌感染の
患者にケアを提供するために用いられた微粒子レスピレータを同じHCWが再使用している。レ
スピレータに損傷がなく、汚れておらず、フィットが形状変化によって弱まっておらず、そして
レスピレータが血液や体液に汚染されていなければ、これは受け入れることが出来る行為である。
レスピレータが再使用できる期間についての推奨の基になるデータはない。
II.F. 血液媒介病原体への HCW の曝露を防ぐための安全業務
II.F.1. 針刺しおよび他の鋭利物関連創傷の予防
針やその他の鋭利物による損傷は医療従事者へのHBV,HCV,HIVの伝播に関連してきた(778,
779)。鋭利物損傷の予防は常に普遍的予防策および現在の標準予防策の重要な要素であった(1,
780)。これには処置の間または処置のあとに器具に遭遇する可能性のある使用者や他の人々の
損傷を防ぐ方法での針や他の鋭利器具の取り扱い方が含まれている。これらの方法は日常的な患
者ケアに適用されるが、他で言及される手術や侵襲的処置での鋭利物損傷や血液曝露の予防につ
いては関連しない(781-785)。
1991年にOSHAが医療従事者を血液曝露から守るために血液媒介病原体標準を初めて発行し
てから、規制活動や立法活動の焦点が制御方法の階層の実施に向けられた。これには工学的制御
の発展と使用を通じて、鋭利物の危険性を除くことに注意を集中することが含まれている。
2000年11月に署名されて法律になった「連邦の針刺し安全および予防の法律」は安全工学鋭
利器具の使用をもっと明らかに求めた血液媒介病原体標準のOSHAの改訂に権限を与えること
となった(786)。CDCは包括的な鋭利物損傷予防プログラム(789)の企画、実施、評価などの
鋭利物損傷の予防についての指針を提供した(787, 788)。
10
II.F.2. 粘膜接触の防止
眼、鼻、口の粘膜が血液や体液に曝露することが血液媒介ウイルスおよび他の感染性微生物の医
療従事者への伝播に関連してきた(66, 752, 754, 779)。粘膜曝露の予防は常に日常的な患者
ケアのための普遍的予防策および現在の標準予防策の重要な要素であり(1, 753)、OSHAの血
液媒介病原体の条例に従うものである。PPEの装着に加えての安全な業務行為は、粘膜や傷の
ある皮膚を感染性物質の接触から守るためにおこなわれる。これには、汚染した手袋の手や素手
が口、鼻、眼、顔面に触らないようにすることと、ケア提供者の顔面に飛散やしぶきが直接かか
らないように患者の位置を定めることも含まれている。患者に接触する前にPPEを注意して着
用することは、使用中のPPEの調整の必要性や顔面や粘膜が汚染するのを避けることに役立つ。
蘇生の必要性が予測できない区域では、マウスピース、一方向弁のあるポケット蘇生マスク、他
の換気器具が、マウスツーマウス蘇生の代替を提供し、処置しているときに口腔および呼吸器体
液がケア提供者の鼻および口に曝露するのを防いでいる。
II.F.2.a. エアロゾル産生処置をするときの予防策
気管支鏡、気管内挿管、気道の開放吸引のような小粒子エアロゾルを産生する処置(エアロゾル
産生処置)の実施は結核(790)、SARSCoV(93, 94, 98)、髄膜炎菌(95)などの感染性微生物の
医療従事者への伝播に関連してきた。標準予防策に従うと、これらの処置をおこなっているとき
はガウンおよび手袋に加えて、眼、鼻、口を防御することが推奨される。エアロゾルが結核菌、
SARS-CoV、トリまたはパンデミックインフルエンザウイルスを含んでいる可能性があるとき
は、エアロゾル産生処置をおこなっている間は小粒子レスピレータを使用することが推奨される。
II.G. 患者配置
II.G.1. 病院および長期ケア環境
患者配置のための選択肢には個室、二人病室、多床病室が含まれる。このなかで、感染性微生物
の伝播についての心配がある場合には、個室病室が好まれる。いくつかの研究がHAIを防ぐため
の個室病室の有効性を示すことに失敗したが(791)、米国建築協会/施設ガイドライン協会によ
って委託された研究を含む他の公開されている研究によると、
「個室」と「感染性および非感染
性の有害な患者結果の減少」との間には有益な関係があることが示された(792, 793)。米国建
築協会は個室病室は病院の構想と設計の趨勢であると述べている。しかし、殆どの病院および長
期ケア施設は多床病室を持っており、患者に適切な病室配置を決定するときには、多くの競合す
る優先事項を考慮しなければならない(入院の理由;患者の特徴[年齢、性別、精神状態など];
スタッフの必要性;家族の希望;心理・社会的要因;返済の心配など)。特別な空気感染隔離室
を必要とする明らかな感染性疾患(結核、SARS、水痘など)がなければ、感染性微生物の伝播の
危険性は患者配置の決定をするときには常には考慮されない。個室病室が限られていれば、他の
患者への感染性物質の伝播に拍車をかけるような状態(排膿創、便失禁、封じ込まれていない分
泌物など)の患者、およびHAIになりやすくて有害な結果になってしまう危険性の高い患者(免疫
抑制、開放創、留置カテーテル、長期入院が予想されること、日常生活活動についてHCWに完
全に依存していること)を優先することが慎重な対応である(15, 24, 43, 430, 794, 795)。個
室病室は空気予防策や防護環境下にいる患者に常に必要であり、接触予防策と飛沫予防策を必要
とする患者に好まれる(23, 24, 410, 435, 796, 797)。消化管が貯蔵庫となっている病原体
によって引き起こされた集団感染(疑い)のときは、特に保菌または発症している患者が個人的な
衛生習慣に乏しく、便失禁があり、微生物の伝播を防ぐ処置の継続に協力してもらうことが期待
できない場合は(幼児、小児、精神状態の変化や発達遅延のある患者など)、バスルーム付きの個
室を使用すれば伝播の機会を制限できる。伝播が継続していなければ、個人的な衛生行為と標準
予防策(特に手指衛生と適切な環境清掃)が維持される限り、腸管病原体を保菌または発症してい
る患者に個室用バスルームを提供する必要はない。患者に専用の室内用便器を指定すること、糞
便汚染しているかもしれない取り付け装備や道具 (バスルーム、室内用便器(798)、オムツの重
さを計るのに使用したはかりなど)および近傍の表面を適切な薬剤で洗浄・消毒することは、腸
管病原体による環境汚染が失禁のない患者および失禁している患者の両方に発生するため、個室
病室が使用できない場合には特に重要かもしれない(54, 799)。クロストリジウム・ディフィシ
11
レの伝播を予防するための個室病室の有用性を決定するためのいくつかの研究の結果は確定的
なものではなかった(167, 800-802)。いくつかの研究は保菌または発症している患者と同室
することは必ずしも伝播の危険要因にはならないことを示した(791, 803-805)。しかし、小
児では、医療関連下痢症の危険性は病室内にいる患者の数が増えると増加する(806)。このよう
に、患者因子は感染伝播の危険性の重要な決定要素であり、患者の個室病室や個室用バスルーム
の必要性は症例ごとに決定されるのが最も良い。
コホーティングは同じ微生物を保菌または発症している患者を寄せ集める行為であり、かれらの
ケアを1区域に限定して他の患者との接触を予防するためのものである。コホートは臨床診断、
(できれば)微生物学的確定、疫学、感染性微生物の伝播様式に基づいて作られる。一般的に、重
症免疫抑制患者を他の患者と同室させることは好まれない。コホーティングは
MDRO(MRSA[22, 807] 、 VRE[638, 808, 809] 、 MDR-ESBL[810]); 緑 膿 菌 (29);
MSSA(811); RSV(812, 813); ア デ ノ ウ イ ル ス 角 結 膜 炎 (814); ロ タ ウ イ ル ス (815);
SARS(816)の集団感染の管理に広く使用されてきた。模範的な研究は集団感染の制御のための
患者コホートの追加サポートを提供している(817-819)。しかし、日常的な感染制御策が集団
感染を制御するのに失敗のあとにコホーティングされることがしばしばである。
単一の標的病原体を発症または保菌している患者のみをケアするために医療従事者を指定また
はコホートすることは未感染患者に標的病原体がさらに伝播することを限定するが(740,
819)、現時点では病院(583)や住居型医療ケア現場(820-822)は人手不足に面しているので、
実施することは困難である。しかし、日常的な感染制御策が実施され、患者コホートがつくられ
たあとも伝播が継続していれば、医療従事者のコホーティングは有用かもしれない。
RSV、ヒトメタニューモウイルス(823)、パラインフルエンザ、インフルエンザ、他の呼吸器
ウイルス(824)、ロタウイルスが市中を流行している季節は、発現している臨床症候群に基づい
てコホーティングすることが幼児および年少小児をケアする施設において優先されることが多
い(825)。例えば、呼吸器ウイルスの季節では、幼児は気管支炎の臨床診断のみでコホートされ
るかもしれない。これは病室指定の前に微生物学的に確定することの兵站学的な困難さと費用ゆ
えであり、また季節のほとんどでRSVが優性であることによる。しかし、同じ臨床所見(気管支
炎)が複数の感染性微生物によって引き起こされうるので、可能であれば個室房室が常に好まれ
る(823, 824, 826)。さらに、幼児や小児は体液を封じ込めることができないことと、かれら
をケアするときの濃厚な身体的接触はこの環境における患者および医療従事者の感染伝播の危
険性を増大させる(24, 795)。
II.G.2. 外来環境
伝播しやすい感染性疾患を活動性に発症している患者や潜伏期にある患者が外来(外来クリニッ
ク、開業医、救急外来など)で頻繁に診察されており、医療従事者、他の患者、家族、面会者が
曝露している(21, 34, 127, 135, 142, 827)。2003年のSARSの世界的な集団感染に対応
して、そしてパンデミックインフルエンザに備えるために、外来の医療従事者は呼吸器感染の伝
播を防ぐために、患者受診の最初の時点から下記のセクションIII.A.1.a.に記載されているような
感染源封じ込め策(咳している患者に外科用マスクを装着するか咳をティッシュで覆うように依
頼するなど)を実施することを強力に押し進めなければならない(9, 262, 828)。呼吸器感染の
症状(咳、インフルエンザ様症状、呼吸器分泌物の産生の増加など)があるならば受付に迅速に知
らせるように患者や付き添い者に要望するポスターを施設の入り口や受付や登録机に掲示して
もよい。下痢、発疹、伝播する疾患(麻疹、百日咳、水痘、結核など)への曝露(確認されている
か疑われている)の有無も追加してもよい。感染性の患者を遅滞なく検査用室に入室させること
は(一般待合い区域などで)曝露する人の数を限定する。待合い区域では、感染源制御策に加えて
症状のある患者と無症状の患者の間の距離を維持すれば(>3フィート[約1m])、曝露を限定でき
るかもしれない。しかし、空気感染にて伝播する感染症(結核菌、麻疹、水痘など)は追加予防策
を必要とする(12, 125, 829)。そのような感染症に罹患しているかもしれない患者は耐えられ
るならば、感染源封じ込めのために外科用マスクを装着し、迅速に検査用室(AIIRが望ましい)に
入室させるべきである。これができなければ、待合い区域では患者にマスクを装着させ、他の患
12
者から隔離すれば、他の人への曝露の機会を減らすであろう。患者の同伴者もまた感染性がある
かもしれないので、かれらに症状がみられれば、これらの人々にも同じ感染制御策の適用を拡大
する必要があるかもしれない(21, 252, 830)。例えば、結核疑いにて入院した小児に付き添っ
ていた家族は無症状であったが、疑われもしなかった空洞のある肺結核に罹患していた (42,
831)。感染への感受性を高めてしまう基礎疾患のある患者(免疫不全の患者(43, 44)や嚢胞性
線維症(20)の患者など)は一般待合い区域において感染患者に曝露しないような特別な努力が
必要である。到着の時点で感染の危険性について受付係に知らせれば、かれらを感染から守るた
めの適切なステップがとれるかもしれない。嚢胞性線維症のクリニックの一部では、バークホル
デリア・セパチアを保菌している他の患者への曝露を避けるために、患者は登録時にポケットベ
ルが与えられ、その区域を立ち去って、検査用室が利用できるときに戻るように連絡を受けられ
るようになっている(832)。
II.G.3.在宅ケア
在宅ケアにおける患者配置についての心配事は、感染性のある家族に他の人々が自宅で曝露しな
いようにすることであり、そこに焦点が当てられている。特定の感染症が関連する有害な結末に
特に脆弱な人々では、彼らを家庭から引き離すか、家庭内で隔離することが有益かもしれない。
感染性のある期間は、家族以外の人々には訪問を禁止しなければならないかもしれない。例えば、
肺結核の患者に感染性があり在宅ケアを受けるならば、未感染の年少小児(4歳未満)(833)およ
び免疫不全患者は転居するか家族から離されるべきである。2003年のSARS集団感染のとき、
伝染性のある時期は感染者を隔離することが家庭内伝播の予防に有用であった(249, 834)。
II.H. 患者の移送
感染経路別予防策を必要とする患者の移送を指導するために、幾つかの原則が用いられる。入院
や在宅環境で、これに含まれるのは、1) そのような患者の移送を病室で実施できない診断処置
や治療処置のような重要な目的のみに制限すること、2)移送が必要なときは、患者に適切なバ
リアを用いること(マスク、ガウン、感染した皮膚病変または排膿があってその部位を覆うため
にシーツや不浸透性ドレッシングにて包むこと)、3) 到着を待っている受け入れ区域の医療従事
者に患者のことと伝播予防に必要な予防策について通知すること、4)施設外に搬送される患者
については、受け入れ施設、医療用車両、救急車の職員に、実施すべき感染経路別予防策につい
て前もって連絡しておくこと、である。結核については、救急車のような狭い空間の共有では追
加予防策が必要かもしれない(12)。
II.I. 環境処置
患者ケア区域のノンクリティカル表面の洗浄と消毒は標準予防策の一部である。一般に、この処
置は感染経路別予防策の患者でも変更する必要はない。すべての患者ケア区域の洗浄と消毒は高
頻度接触表面(特に、患者に最も近くて最も汚染している可能性がある区域[ベッドレール、ベッ
ドサイドの机、室内用便器、ドアノブ、シンク、患者近傍の表面の器具など])では重要である(11,
72, 73, 835)。洗浄の頻度と程度は患者の衛生レベルや環境の汚染レベルに基づいて変更する
必要があり、腸管が保存庫となっている感染性微生物では確実に実施する(54)。これは便失禁
や尿失禁の患者が多いLTCFや小児施設では特に当てはまる。また、防護環境では埃の蓄積を最
小にするために洗浄回数を増やす必要がある(11)。透析センターの環境表面の洗浄と消毒のた
めの特別な勧告が公開されている(18)。すべての医療環境において、管理、人員配置、計画で
は伝播に関与しうる表面の適切な洗浄と消毒を優先すべきである。環境が保存庫であることが疑
われている集団感染(疑いまたは確定)では、日常的な洗浄処置が再評価されるべきであり、訓練
された清掃スタッフの追加の必要性について評価しなければならない。継続的かつ正しい洗浄が
実施されることを促進するために、遵守されていることが監視され再強化される必要がある。
EPA登録した消毒薬または洗浄/消毒薬(日常的な洗浄と消毒のために医療施設の全体的な必要
性に最も合ったもの)が選択されるべきである(11, 836)。一般に、使用量、稀釈、接触時間に
ついての製造元の勧告に従って、既存の施設洗浄/消毒薬を使用することは、保菌者または発症
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者が滞在していた部屋の表面から病原体を除去するのに十分である。これには複数のクラスの抗
菌薬に耐性の病原体(クロストリジウム・ディフィシレ、VRE, MRSA, MDR-GNB[11, 24, 88,
435, 746, 796, 837]など)が含まれる。頻繁にみられることであるが、集団感染における病
原体の環境保存庫が、特定の洗浄薬および消毒薬を使用しなかったことよりも、洗浄と消毒の推
奨処置に従わなかったことに関連することがある(838-841)。
特定の病原体(ロタウイルス、ノロウイルス、クロストリジウム・ディフィシレなど)は日常的に
用いられる病院消毒薬の一部に耐性である(275, 292, 842-847)。ロタウイルスの伝播を制
限するための特別な消毒薬の役割が実験的に示された(842)。また、クロストリジウム・ディフ
ィシレは塩素をベースにしていない洗浄剤に曝露すると芽胞産生のレベルが増加し、芽胞は一般
的に使用される表面消毒薬に対して増殖型細菌より耐性なので、伝播が継続しているときはクロ
ストリジウム・ディフィシレの患者の部屋の日常的な環境消毒に5.25%の次亜塩素酸ナトリウ
ム(家庭用漂白剤)と水の1:10稀釈の使用を推奨している研究者もいる(844, 848)。1件の研究
によると、次亜塩素酸塩溶液の使用はクロストリジウム・ディフィシレの割合の減少に関連して
いた(847)。これらの微生物の存在に基づいて消毒薬を変更する必要性は感染制御委員会に相談
して決定することができる(11, 847, 848)。プリオンを含んでいる組織またはハイリスク体液
に接触した表面や医療器具の消毒と滅菌、および血液と体物質のこぼれの洗浄のための詳細な勧
告は「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン」(11)および「滅菌と洗浄のガイドライ
ン」(848)にて入手できる。
II.J. 患者ケアの器具および器材/機器
医学器具および器材/機器は感染性微生物が患者と患者の間を伝播するのを防ぐために、製造元
の説明書に従って、洗浄されて管理されなければならない(86, 87, 325, 849)。有機物を除く
ための洗浄はクリティカル器具およびセミクリティカル器具や器材の高水準消毒と滅菌に常に
先行しなければならない。というのは残存した蛋白性物質は消毒および滅菌のプロセスの効果を
減弱させるからである(836, 848)。室内便器、静脈内ポンプ、呼吸器のようなノンクリティカ
ル器具は他の患者に使用する前に徹底的に洗浄と消毒をおこなう。そのような器材や機器は感染
性物質がHCWと環境に接触するのを防ぐ方法で取り扱われるべきである。ノンクリティカル物
品の洗浄と消毒の指針のなかに、患者ケアで用いられるコンピュータおよび個人用の携帯情報機
器(PDA: personal digital assistant)も含むことが大切である。病原体によるコンピュータの
汚染についての文献が総括されており(850)、2件の報告がコンピュータと患者の保菌および発
症と関連づけている(851, 852)。容易に除菌できるキーボードのカバーおよび洗濯できるキー
ボードが使用されているが、これらの物品の感染制御での有益性と最善の処置は確定していない。
すべての医療施設において感染経路別予防策下の患者に、指定されたノンクリティカル医療器具
(聴診器、血圧計のカフ、電子体温計など)を提供することは伝播予防に有用である(74, 89, 740,
853, 854)。このようなことができなければ、使用後の消毒が推奨される。日常環境および特
別な環境における医療器具や患者ケア物品の洗浄と再生のための特別なプロトコルの制作にお
ける詳細な指針については他のガイドラインを参照する(11, 14, 18, 20, 740, 836, 848)。
在宅ケアでは、耐久性医療器具を家から持ち出す前に、肉眼的にみえる血液や体液を除くことが
望ましい。器具は洗浄剤/消毒薬を用いて、現場で洗浄できる。そして、可能であれば再生場所
に移送するためにプラスチックバッグにいれるべきである(20, 739)。
II.K. 織物と洗濯
寝具類、タオル、患者や居住者の衣類などの汚れた織物は病原性微生物に汚染しているかもしれ
ない。しかし、それらが安全な方法で取り扱われ、移送され、洗濯されれば、疾患伝播の危険性
は無視できるほどである(11, 855, 856)。汚れた洗濯物を取り扱うための重要な原則は、1) 物
品を振ったり、感染性微生物をエアロゾルするかもしれない方法でそれらを取り扱わないこと、
2)取り扱われる汚れた物品で身体や衣類を接触するのを避けること、3)汚れた物品を洗濯バッ
グまたは指定された容器に入れること、である。洗濯シュートを使用するならば、それらは汚染
した物品からエアロゾルが拡散するのを最小にするように維持されなければならない(11)。汚
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れた織物の取り扱い、移送、洗濯のための方法は医療機関の方針や当該規則によって決定される
(739)。手引きは「環境感染制御のためのガイドライン」に提供されている(11)。柔軟性のな
い規則や法律よりも、清潔な織物の衛生的および常識的な保存と処理が推奨される(11, 857)。
医療施設外で洗濯する場合は、清潔な物品が免疫不全患者のリスクとなる感染性真菌胞子を含ん
でいるかもしれない外気や工事埃によって汚染するのを防ぐために、移送している間は包装する
か、完全に覆って閉鎖空間に置く必要がある(11)。
施設は個人防護具として使用された衣類や血液・感染性物質にて肉眼的に汚れたユニフォームを
洗濯することが求められている(739)。HCWのユニホームを自宅で洗濯することの安全性を決
定するデータは殆どないが、1件の公開された研究では感染率の増加はないことが観察された
(858)。他の研究では自宅または病院でゴシゴシ洗濯された物からは病原体は検出されなかった
(859)。自宅では、伝播しやすい感染性微生物を持っている患者の織物や洗濯物を特別に洗濯し
たり別に洗濯したりする必要はない。そして、暖かい水と洗剤にて洗っても良い(11, 858,
859)。
II.L. 固形廃棄物
医療現場から発生する固形廃棄物の取り扱いは連邦および州の医療廃棄物および非医療廃棄物
についての法律に従う(860, 861)。感染経路別予防策の患者の部屋からの非医療固形廃棄物
には追加予防策は必要ない。固形廃棄物は十分な強度の一重のバッグに入れても良い(862)。
II.M. 食器類と食事用具
食器洗濯機に用いられる熱湯と洗剤の組み合わせは食器類や食事用品の除染に十分である。それ
故、食器類(皿、グラス、コップなど)や食事用品には特別な予防策は必要ない。再利用される食
器類や食事用品を感染経路別予防策が必要な患者に用いても良い。自宅や他の共同社会の環境で
は、使用された食事用品や飲用容器を共有してはならないが、これは良好な個人衛生の原則に一
致したものであり、呼吸器ウイルス、単純ヘルペスウイルス、消化管に感染していたり糞口感染
によって伝播する感染性微生物(A型肝炎ウイルス、ノロウイルスなど)を防ぐためである。用具
や皿を洗浄するための適切な手段がなければ、使い捨て製品を使用してもよい。
II.N. 追加処置
感染性微生物の伝播を防ぐためのプログラムの主な要素とは考えられないが、そのようなプログ
ラムの有効性を改善する重要な補助策には、下記のものが含まれる:1)抗菌薬の管理プログラ
ム、2)抗ウイルス薬および抗菌薬による曝露後化学予防、3)曝露予防の前後に用いるワクチン、
4)伝播しやすい感染症の症状のある面会者のスクリーニングによる制限。抗菌薬の適正使用の
詳細な議論はこのガイドラインの範囲を越えている。しかし、一般法則はMDROのセクション
で 言 及 さ れ て い る ( 医 療 現 場 に お け る 多 剤 耐 性 菌 の 管 理 、 2006 年 .
www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf)。
II.N.1. 化学予防
抗菌薬や局所消毒薬が特定の微生物の感染や集団感染を防ぐために用いられることがある。限定
された状況下で、曝露後の化学予防が推奨される感染症には、百日咳(17, 863)、髄膜炎菌(864)、
エアロゾル化した物質に環境曝露したあとの炭疽菌(865)、インフルエンザウイルス(611)、
HIV(866)、A群連鎖球菌(160)がある。患者や医療従事者のMRSA保菌に対して、限定した環
境下で抗菌薬の経口投与を行うことがある(867)。
化学予防の別の様式は抗菌薬の局所投与である。例えば、三重色素(triple dye)は黄色ブドウ球
菌(MRSAを含む)やA群連鎖球菌によって引き起こされる保菌、皮膚感染症、臍炎の危険性を減
らすために新生児期の臍帯に日常的に用いられている(868, 869)。三重色素をNICUの低体重
児の使用に拡大することは1件の長期にわたるMRSA集団感染を制御したプログラムの1要素
であった(22)。局所消毒薬が医療従事者や特定の患者の除菌に用いられている。これにはMDRO
ガ イ ド ラ イ ン で も 議 論 さ れ て い る よ う に 、 ム ピ ロ シ ン が 用 い ら れ て い る (870 867,
15
871-873)。
II.N.2.免疫予防
感受性のある医療従事者に推奨される特定のワクチン接種は医療施設における感染の危険性と
伝播の可能性を減らした(17, 874)。雇い主がHCWにB型肝炎ワクチン接種を提供することを
求めたOSHAの命令は職業上HBV感染の発生を急激に減少させる重要な役割を果たした(778,
875)。医療従事者での水痘ワクチンの接種は水痘患者に曝露したあとの感受性のあるHCWの
管理上休務の必要性を減らした(775)。また、産科クリニックでの風疹 (33, 876)および急性
期環境での麻疹(34)の医療関連感染の報告は小児疾患に対して感受性のある医療従事者へのワ
クチン接種の重要性を示した。多くの州は免疫を持っているエビデンスがなければ、HCWへの
麻疹と風疹のワクチン接種を求めている。LTCFと急性期ケア環境の患者および医療従事者を標
的とした毎年のインフルエンザワクチンのキャンペーンは施設の集団感染を予防し限定するの
に役立ち、医療従事者のワクチン接種率の改善に向けて注意を促した(35 , 611, 690, 877,
878 , 879)。
医療施設での百日咳の伝播は医療従事者および患者の両者を巻き込んだ大規模かつ大損害の集
団感染に関連した(17, 36, 41, 100, 683, 827, 880, 881)。免疫が減弱しているので、百
日咳の幼児に濃厚接触したHCWは特にハイリスクであり、そして、2005年まで成人に使用で
きるワクチンがなかった。しかし、2005年に2つの無細胞百日咳ワクチンが米国で認可され、
1つは11∼18歳の人に用いられ、1つは10∼64歳の人に用いられる(882)。このガイドライ
ンが公開された時点のACIPの暫定的勧告には、青年および成人(特に、生後12ヶ月未満の幼児
に接触する人および患者に直接接触する医療従事者)が含まれている(883 884)。
小児と成人へのワクチン接種はワクチンで予防可能な疾患の医療環境への侵入を防ぐのを助け
るであろう。小児に勧告されたワクチン接種スケジュールは、Morbidity Mortality Weekly
Reportの1月号に毎年公開されており、必要に応じて暫定的に改訂される(885, 886)。成人の
ワクチン接種スケジュールはまた、健康成人およびハイリスクな医学状況ゆえに特別なワクチン
接種が必要な成人にも利用できる(887)。
いくつかのワクチンが感受性のある人々の曝露後予防にも用いられており、それには水痘(888)、
インフルエンザ(611)、B型肝炎(778)、天然痘(225)、ワクチンが含まれる(17, 874)。将来、
新しく開発された黄色ブドウ球菌の結合ワクチン(まだ研究中である)の特定の患者への接種が
ハイリスク群(血液透析患者および特定の外科手術の候補など)でのMRSAを含む医療関連黄色
ブドウ球菌を予防する新しい方法を提供するかもしれない(889, 890)。
免疫グロブリン製剤はまた、特別な環境下での特定の感染性微生物の曝露後予防に用いられる
(水痘-帯状疱疹ウイルス[VZIG]、B型肝炎ウイルス[HBIG]、狂犬病[RIG]、麻疹およびA型肝炎
ウイルス[IG]( 17, 833, 874))。RSVモノクロナール抗体製剤(パリビズマブ)は1つのNICUで
RSVの院内集団感染を制御するのに寄与したかもしれないが、この状況においてその使用を日
常的に推奨することを支持するエビデンスは不十分である(891)。
II.N.3. 面会者の取り扱い
II.N.3.a. 感染源としての面会者
面会者は幾つかの種類のHAIの感染源として同定されている(百日咳(40, 41)、結核(42, 892)、
インフルエンザおよび他の呼吸器ウイルス(24, 43, 44, 373)、SARS(21, 252-254)など)。
しかし、医療施設での面会者スクリーニングの効果的な方法は研究されていない。面会者スクリ
ーニングは感染性疾患が市中で集団感染している時期およびハイリスク患者の病棟では特に重
要である。兄弟の訪問は、出産センターの産後室、小児入院病棟のICU、小児のための居住環境
にてしばしば奨励されている。病院環境では、小児の面会者は自分の兄弟のみを訪問すべきであ
る。小児疾患および一般呼吸器感染の入り込みを防ぐために、面会する兄弟や他の小児のスクリ
ーニングは、かれらが臨床区域に入ることが許可される前に必要である。伝播する疾患の徴候や
症状のある家族および面会者が臨床区域に入らないように警告するために、スクリーニングは症
状を用いた受動的なものになるかもしれない。もっと積極的なスクリーニングには、最近の曝露
または現在の症状に関連した情報を誘い出すスクリーニング手段または質問を完了させること
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が含まれるかもしれない。その情報は施設のスタッフによって検閲され、面会者は面会が許可さ
れるか排除される(833)。
百日咳および結核の小児患者に面会する家族は現在の感染症の徴候と症状ばかりでなく曝露歴
についてもスクリーニングされなければならない。感染している可能性のある面会者は、適切な
医学スクリーニング、診断、治療を受けるまでは除外される。除外することが患者または家族の
最大の利益であると考えられないならば(重症患者または末期患者の重要な家族など)、症状のあ
る面会者は医療施設にいる間はマスクを装着して、病室に留まり、他の人々への曝露を避ける(特
に、公共待合い区域やカフェテリア)。
面会者スクリーニングはHSCT病棟にて継続的に用いられている(15, 43)。しかし、2003年
のSARS集団感染のときの経験やパンデミックインフルエンザの可能性を考えると、効果的な面
会者スクリーニングシステムの開発は有益である(9)。呼吸器衛生/咳エチケットに関する教育は
面会者スクリーニングに加えて有用である。
II.N.3.b. 面会者によるバリア予防策の使用
医療現場での面会者によるガウン、手袋、マスクの使用は科学的文献にて特別に言及されたこと
がない。幾つかの研究では、MRDOの制御に面会者のガウンと手袋の使用を含んでいたが、面
会者による使用が測定可能な効果を持っているかを決定するための独立した解析はなされなか
った(893-895)。ケアを提供するか極めて濃厚な接触をしている家族や面会者(授乳や抱擁な
ど)は他の患者に接触するかもしれないので、バリア予防策が正しく使用されないと伝播に寄与
しうる。特別な勧告は施設や病棟によって異なり、相互作用のレベルによって決定される。
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