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常任編集委員会・大会委員会企画シンポジウム AS2
実践現場における発達心理学の役割
企画・話題提供:本郷
企画・司
会:近藤
企画・指定討論:遠藤
話 題 提 供:浜谷
話 題 提 供:北川
指 定 討 論:長崎
一夫(東北大学)
清美(北海道医療大学)
利彦(東京大学)
直人(首都大学東京)
恵(甲南大学)
勤(筑波大学)
発達心理学の領域において基礎研究が実践にいかに寄与しうるのか、逆に実践は基礎研究にどのよ
うに影響するのかという問題は、発達心理学にとっては古くて新しいテーマである。実践の側として
は、臨床発達心理士の資格認定が 2002 年に始まり、現在では 3000 名以上が臨床発達心理士の資格を
持ち、その多くが臨床現場で活動している。また、心理職の国家資格化も具体化しつつあり、臨床の
現場では心理職が高い専門性を持ち、維持することへの期待と必要性が高まってきている。一方、基
礎研究では、乳児研究や自閉症研究の急激な進展に見られるように、多様な分野で研究が深化・発展
してきており、さらに心理学だけではなく、総合科学としての発達科学も具体的な姿を現しつつある。
こうした中、今まさに実際的な問題として基礎の研究と臨床の実践をどうつないで行くのか、それを
真摯に問い直す時期に差し掛かっているものと考えられる。こうした認識のもと、『発達心理学研究』
編集員会では、現在、
「実践現場における発達心理学の役割」と題した特集号の準備を進めている。そ
れは、
「基礎と実践をつなぐ」
(概説と展望)、
「基礎研究と臨床実践とのインターフェース」
(発達障害、
非行、育児困難等における基礎と応用)、
「基礎研究と生活実践とのインターフェース」
(子育て、保育・
幼児教育、学校、高齢者の生活等における基礎と実践)の三部から成るが、今回はその発刊に先立ち、
それぞれのセクションから話題の提供を得、種々の実践現場において発達心理学あるいは発達心理学
会がどのような役割を果たし得るのか、また果たすべきなのかについて議論を深めたいと考える。
-----------------------------------------------------------------------------------------◇「実践」と「学」との双方向性を通した発達心理学の発展-東日本大震災後の支援を通して-
本郷一夫(東北大学)
2011 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災後、様々な支援が行われてきた。そのような支援に自分自
身でも関わり、また人からも支援され、さらには他の支援者-被支援者関係を見る機会もあった。そ
のような経験も踏まえて、本シンポジウムでは、震災後の支援に焦点を当て、実践現場における発達
心理学の役割について考えてみたい。東日本大震災後の支援の枠組みとして3つの視点が重要である
と感じている。すなわち、
「時間の中での支援」
「関係の中での支援」
「文化の中での支援」である。と
りわけ、第1の「時間の中での支援」に関しては、たとえば被災児童を支援する際に考慮すべき点と
して次の事項が挙げられる。すなわち、(1) 子どもの体験の意味は子どもの成長とともに違ってくる、
(2) 子どもの発達に伴って子どもが抱える問題が異なってくる、(3) 子どもの発達に伴って子どもと保
護者との関係が変わってくる、ということである。また、時間の経過に伴って、子どもを取り巻く物
的環境、保護者の生活基盤の変化などの環境が変化し、それが個人の適応に影響を与える。
これに関連して、発達心理学は、時間の中で人を捉える、人の変化に影響を与える要因を幅広く捉
えるという点に特徴をもつ「学」だと考えられる。また、発達心理学をベースにする臨床発達心理学
的支援では、時間軸と多要因性を考慮した人の理解と支援をその専門性の中核に位置づけている。そ
の点で、東日本大震災後の支援において、発達心理学が果たす役割は大きいと言える。また、中長期
的支援という点からは、最も貢献が大きい学であると考えられる。しかし、現在のところこれまで蓄
積されてきた発達心理学の知見が十分に活かされているとは言い難い。これは発達心理学の不十分さ
を非難するものではない。むしろ、東日本大震災後の支援における発達心理学の役割を考える時、発
達心理学が実践にどう寄与するかという視点だけでなく、実践の知見が発達心理学の発展にどのよう
に寄与するかといった双方向的視点の中で、発達心理学の役割を考えていく必要があるのではないか
ということである。最後に、発達心理学が実践現場に大きな役割を果たしていくためには、発達心理
学領域におけるデータの蓄積とメカニズムの解明が重要だと考えられる。この内、データの蓄積につ
いては豊かなデータの蓄積と縦断的なデータの蓄積が求められる。また、メカニズムについては年齢
横軸的な変化の記述だけではなく、機能間連関の発達的変化を通した発達機序の解明が望まれよう。
-----------------------------------------------------------------------------------------◇アタッチメント研究と臨床実践の橋渡し
北川恵(甲南大学)
話題提供者の北川は臨床心理学を専門としている。臨床実践においてはエビデンスに基づく支援を
提供し、その効果を検証することが重要になっており、アタッチメント理論とその研究知見が役立っ
ている。特に、話題提供者はここ数年、アタッチメントに焦点づけた親子関係支援プログラムである
the Circle of Security(COS)プログラムを実践している。親子関係には適切なしつけを行うことや、
一緒に遊んで楽しい時間を共有することなどたくさんの側面があるが、子どもが養育者に健全なアタ
ッチメントを形成できることが子どもの発達や精神的健康に長期的で重大な影響を及ぼすという発達
心理学の研究知見が、アタッチメントに焦点づけた介入を行う妥当性の根拠となる。また、アタッチ
メントの世代間伝達研究においては、子どもの健全なアタッチメント形成に必要な養育者の特徴につ
いての検討がなされており、養育者の敏感性や内省機能が注目されている。COS プログラムでは、養
育者のそうした特徴を高める介入を行う。その結果、目標通り子どものアタッチメントが改善されて
いるかどうかは、アタッチメント研究でもっとも標準的に使用されているストレンジ・シチュエーシ
ョン法を介入前後に行うことで、介入効果が実証されている。このように、エビデンスに基づく介入
実践を行うにあたり、発達心理学の基礎研究知見は有益である。一方で、臨床実践は基礎研究にどの
ように役立つのだろうか。臨床場面では、実際問題の解決を目標として支援を行う。実際問題には多
くの要因が複雑にからんでおり、支援者は自覚的・無自覚的に複雑な多要因に働きかけるうちに、原
理原則が仮説生成的に見えてくる。例えば、アタッチメントの基礎研究において、発達早期に形成さ
れたアタッチメント・パターンが高確率で持続することが実証されているが、変化の可能性もある。
しかし、変化のメカニズムはまだ明らかになっていない。そうした問題意識をもって臨床事例を振り
返ると、臨床実感を伴った仮説が生まれるかもしれない。その仮説が一般化できそうか検証する研究
を行うことで、人間理解が深まるだろう。原理原則を明らかにしようとする基礎研究と、実際問題へ
の対応を目指す臨床実践とが有機的に橋渡しされることの意義や今後の課題について、特にアタッチ
メントの領域から話題提供を行う予定である。
-----------------------------------------------------------------------------------------◇保育実践と発達支援専門職の関係から発達心理学の役割を考える:第二世代の発達支援理論の構築
に向けて
浜谷直人(首都大学東京)
発達段階論や愛着理論などの(発達)心理学理論は、自覚するかどうかは別に、日常的な信念や常
識として内面化され、時には俗説となり、深く広範に、功罪両面あるが、保育実践に多大な影響を与
えてきた。また、近年、発達障がい児や「気になる子」の保育実践において、子どもの理解や保育方
法という具体的なレベルで、
(発達)心理学へのニーズが高まり、実際、すでに顕著な影響を与えてい
る。発達支援の専門職は、適切な子ども理解を提示することで発達障がい児への不当な扱いを防ぎ、
発達を促す具体的な手立てを提供するなどの点で、(発達)心理学が保育実践に貢献する役割を担い、
実績が評価されている。一方で、
(発達)心理学の専門的な知見や技法を保育実践に導入することの弊
害が指摘されている。保育現場の表面的なニーズに応えて、専門的な知見を注入することで、豊かで
多面的な実践を単純化したスキルに貧困化し、実践が「心理療法化」
・「訓練化」してしまう。(発達)
心理学による、子どものみたて(アセスメント)は、保育者が、対象児を子ども集団から排除し、適
応主義の枠内で保育することに免罪符を与えかねない。子ども理解という保育者にとって中核的な専
門性を、専門職に外注し、分業化することは、長期的には、保育実践の貧困化、保育者の熟達化の阻
害、保育者集団の同僚性の破壊を招く。以上を発達支援専門職の第一世代の功績と課題として受けと
め、第二世代はいかなる役割を担い展望できるか。本報告では、保育現場の実践の言語に寄り添い、
そこから、発達の科学を立ち上げて、それを実践にふたたび還元することで、豊かな実践と保育者の
自律的な力量形成に寄与する可能性を提起したい。一例として、
「場面の切り替えが難しい」という保
育者の主訴(実践の言語)を科学してみる。切り替えとは、それまでの活動がひとつのまとまりとし
て区切られて、心の中で時間が分節化されることである。それは、次の行動への見通しや具体的な指
示によって可能になるのではない。むしろ、活動を振り返り、そこに、身体感覚も伴う充実感などを、
大切な人と共感することによって実現される。その充実した活動が、翌日や次の機会へ継続・発展す
ることによって確かなものになる。第二世代においては、実践の言語を出発点として、子どもの発達
を、継続的・協同的に質が高くなる保育実践との関係において科学することが期待される。
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