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NOAA/AVHRRデータとGISを用いた1981年から2001年までのブラジル

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NOAA/AVHRRデータとGISを用いた1981年から2001年までのブラジル
GIS -理論と応用
Theor y and Applications of GIS, 2009, Vol. 17, No.2, pp.11-20
【原著論文】
NOAA/AVHRR データと GIS を用いた 1981 年から 2001 年までの
ブラジル・マットグロッソ州における植生変化とその原因
吉川沙耶花・サンガ ンゴイ カザディ
Vegetation change and causes of changes in Mato Grosso using GIS and NOAA/AVHRR data
Sayaka YOSHIKAWA and SANGA-NGOIE Kazadi
Abstract: Vegetation cover change has been reported to occur over large areas in Mato
Grosso, the central-western Brazil state known to have the highest deforestation rate. 5-year
Digital Vegetation Model(DVM)Maps for the 1981-2001 period were created using the first
components of the principal components analysis(PCA)of monthly NOAA/AVHRR multispectral data(Channels 1, 2 and 4). From these 5-year DVM vegetation change maps were
obtained. Three main types of vegetation changes are identified: Degradation, Recovery and
Transitional states. Vegetation and land cover changes are characterized by deforestation
of tropical rainforests in the north and large-scale savannization expanding from the south.
Change rates are shown to be larger over non-inhabited areas(56%)and far away from the
main highways(52%), than over the populated zones in the south(42%), or within 50km of the
roads(44%). These findings point not only to the role of population density and road building
in accelerating deforestation, but also to that of navigable rivers, especially over the roadless
north. In total, degraded and transitional areas had expanded over 53% of MT between 1981
and 2001, in relation to increasing cattle ranching and soybean production in this state. All
these findings highlight the non-sustainable processes of resource development occurring in
Brazil and especially in Mato Grosso.
Keywords: NOAA/AVHRR, 植生図(Vegetation map),森林伐採(Deforestation),マットグロッソ州
(Mato Grosso state)
,地理情報システム(GIS)
1.はじめに
入(Fearnside,1993)や道路網の拡大,大規模農
世界の熱帯林の 48%がブラジルアマゾン流域に
牧場建設のための火入れ(Fearnside,2005)がある.
あり(Park,1992),それらは地域の気候や CO2 の
加えて,商業用森林伐採,採鉱や市場価値の高い種
貯留(Dale,1994)のみでなく地球規模の水循環へ
のみを切り出す選択的伐採(Asner et al.,2005)な
大きな役割をはたしている.一方で,1970 年代以
どが複雑に絡みあい,熱帯林の大量伐採の深刻化が
降よりブラジル北東部や南部の大都市からの人口流
報告されている(Fearnside,2003).
アマゾンの降水は,74.1%が森林と大気による蒸
吉川:〒 514-8507 三重県津市栗真町屋町 1577
三重大学大学院 生物資源学研究科
E-mail:[email protected]
発散由来であり,大気中の水分調整や熱収支の面
からも森林の役割が大変大きい(Salati and Vose,
- 111(11)
-
1984).
この地域では,過去 50 年間に年間降水量の減少
(Bruijnzeel,1996)がみられ,森林伐採の影響で,
水分の地表流出が多くなり土壌浸食の問題と共にア
マゾン河では流量の増加(Gentry,1980)が観測
された.
加えて,アマゾンの森林伐採はアルベドの増加と
それに伴う気温上昇や蒸発散・降水量の長期的減少,
乾期の長期化(Nobre et al.,1991)などの作用によ
り地球規模の気候システムへ大きく影響しているこ
とがわかってきた(IPCC,2008).
特に近年,大規模農牧場による肉牛,大豆,バ
イオ燃料となるサトウキビやトウモロコシの生産
図 1 ブラジル中西部に位置するマットグロッソ州
(解析地域)
は,ブラジル経済に大きな貢献をしている.一方
で,このような開発を続けていると 2050 年までに
は 1 年ごとの森林伐採量のみの評価でその他の植生
アマゾンの森林の 40% が消失するとも言われてい
については言及しておらず,ある 1 年間の気候によ
る(Soares-Filho et al.,2006).
る植生活性の減衰と観測時の雲などの大気条件によ
ブラジル国立宇宙研究所は,1978 年以降 Landsat
るデータ誤差に関しても考慮されていない.
を 用 い た 森 林 伐 採 量 評 価 を 行 っ て き た(INPE,
そこで,1980 年代までさかのぼり,植生変化と
2006).ここで,最大森林伐採量地域がマットグロッ
その原因を明らかにする必要性がある.本研究で
ソ州(Mato Grosso State; 以降,MT とする)であ
は,ブラジル・マットグロッソ州をモデル地区とし,
ることが明らかとなった.
1981 年から 2001 年までの衛星データを 5 年間ごと
MT( 緯 度 7º21’S~18º02’S, 経 度 50º14’W~
に区切って使用することで,ある 1 年間の気候に左
61º38’W)は,法定アマゾンに指定された州のひ
右されることの少ない植生図を作成し,その変化を
とつで,ブラジルの中西部に位置する(図 1).MT
評価すること,植生変化を強化する人口圧や高速道
の総面積は,903,386 km であり,日本国土の約 2.4
路網建設との関係を明確化,農牧業データを用いて
倍ある.自然植生は,北部に森林,中部に移行帯,
森林伐採量のみならずサバンナ化の原因をより詳細
南部にセラード(熱帯草原)と緯度的変化している
に解析を行うことを目的とした.
2
(Fearnside,2003)
.
以後,使用するデータ(2 章),と解析方法(3 章)
MT は世界最大の肉牛や大豆の生産地であり,
を紹介し,次に解析結果(4 章)を示し,最後に考
移行帯やセラードにおいて大規模農場の増加や牧
察とまとめ(5 章)を述べる.
場開発に伴う森林伐採の北進が指摘されている
(Margulis,2004).Morton et al.(2006) は,2000
2.使用データ
年から 2004 年の大豆総生産金額と森林伐採量との
NOAA/NASA Pathfinder AVHRR Land Data Set か
正の相関を明らかにした.このような定量的に植
ら空間解像度 0.1º,月ごとの Ch1(可視 0.58~0.68
生変化量とその原因を明らかにする研究はまだま
μm)・Ch2(近赤外 0.73~1.10μm)・Ch4(熱赤外
だ 少 な い. と こ ろ が Margulis(2004),Morton et
10.3~11.3μm)を 4 つの期間(Ⅰ期 : 1981 年 7 月
al.(2006),Soares-Filho et al.(2006)らの解析は,
~ 1986 年 6 月,Ⅱ期 : 1986 年 7 月~ 1991 年 6 月,
ブラジル国立宇宙研究所の森林伐採量評価を用いて
Ⅲ期 : 1991 年 7 月~ 1996 年 6 月,Ⅳ期 : 1996 年 7
解析を行っている.ブラジル国立宇宙研究所の評価
月~ 2001 年 6 月)に分けて植生図作成に用いた.
- 111(12)
-
ブラジル国勢地図,数値標高図,気温・降水量デー
あわせて Forests とし,SG と S は Savanna,DA は
タは,植生図作成に用いた.人口密度,牧牛頭数,
Deeply Altered Areas へと 4 つのカテゴリーに再分類
大豆農耕地面積・生産量の各データは,植生変化と
し,これらを用いて Step 3 ではクロス集計法によ
その原因の解析に用いた.全ての使用データの詳細
り,3 つの MT 植生変化図(5- year DVM vegetation
は表 1 に示す.
change Map)Ⅰ-Ⅱ,Ⅱ-Ⅲ,Ⅲ-Ⅳと全期間(Ⅰ-Ⅳ)
変化図(図 4)を作成した.
3.解析方法
最後に(Step 4),牧牛・農耕データそれぞれを
解析方法は,図 2 に示した.植生図作成方法に
自治体の空間ベクタデータとあわせてデータベース
は,顕熱分布の違いを考慮し濃密林から疎林または
化した.MT 植生図Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳと同様の解析期
砂漠などの無植生地域を分類することを可能とした
間にするため,5 年平均牧牛頭数(図 5)と 5 年平
Nonomura et al.(2003)の手法を参考とした.
均大豆耕作地面積(図 6)の分布図を作成した.耕
はじめに(Step 1),データを主要な変動に要約
作地面積・生産量は 1990 年からのデータであるた
することで特徴を把握することが可能な主成分分析
め,耕作地面積・生産量のⅡ期は 1990 年のみのデー
を各チャネル,各期間で行った.得られた各チャネ
タとする.以上より,5 年平均牧牛頭数・大豆耕作
ルの第一主成分を用いてフォールスカラー合成を行
地面積と植生変化の相関関係を導き,その関係性を
い,教師なし分類であるクラスター分析を施した.
明らかにすることで植生変化の原因を明確にする.
得られたクラスターをブラジル国勢地図や気温・降
全ての解析には,GIS ソフトウェア IDRISI32 と共
水量から作成した気候分類図,数値標高図を用い
にデータベース作成ソフト CARTALINX を用いた.
て 再 分 類 し,7 つ の 植 生 タ イ プ(EBF:Evergreen
Broadleaf Forests,SdF:Semi-deciduous Seasonal
4.解析結果
Forests,BSF:Broadleaf and Seasonal Forests,SW:
4.1.マットグロッソ州の植生図
Savanna Woodlands,SG:Savanna Grasslands,S:
図 2 に示した解析法に基づき MT 植生図Ⅰ,Ⅱ,
Savanna,DA:Deeply Altered Areas) を も つ,4 つ
Ⅲ,Ⅳをえた(図 3).ここで,EBF は雨期が 9 ヶ
の MT 植生図
(5-year DVM Maps)
Ⅰ,
Ⅱ,
Ⅲ,
Ⅳ
(図 3)
月以上ある,BSF は乾期が 3 から 5 ヶ月ある,共に
を得た.また,各植生図とブラジル国勢地図との精
密林である.SW を含むサバンナは,3 から 5 ヶ月
度評価を行った.
の乾期をもつ植生である.雨期に冠水する SG と耕
次に(Step 2)MT 植生図の 7 植生タイプを EBF
作放棄地を含む雨期に冠水しない S は熱帯草原であ
は f1,SdF,BSF 及び SW は f2,ただし f1 と f2 を
ると定義した.特にこの点に関しては,Lovelands
表 1 使用データ
- 111(13)
-
図 2 解析方法
et al.(2000)や INPE(2009)よりもより詳細に区
と 7.5 倍の急激な増加をみせ,サバンナ化している
分することができた.加えて,DA は強力な人工的
という事実がわかった.
改変地域であり,農牧場や都市などの地域を示す.
MT 植生変化図Ⅰ-Ⅱ,Ⅱ-Ⅲ,Ⅲ-Ⅳ,Ⅰ-Ⅳ(図 4)は,
各時期の分類精度評価は,Ⅰ期:75.2%,Ⅱ期:
これらの変化をより分かり安くするために,以下に
71.9%,Ⅲ期:70.2%,Ⅳ期:61.9%と高い値を示
示す 8 つのカテゴリーを 3 つに再分類した.
したことにより,ブラジル国立宇宙研究所(INPE
域である北東部に BSF(15.1%),(iii)南部に SW
(a)荒廃:f1→f2,Forests→Deeply Altered Areas,
|
Forests → Savanna
|
(b)回復:f2→f1,Deeply Altered Areas→Forests,
|
|
Savanna → Forests
|
(c)移行:Deeply Altered Areas⇔Savanna
(24.0 %),S(2.9 %) 及 び SG(1.0 %),(iv) 州 都
荒 廃 地 域 で あ る f1 → f2( 全 期 間 の 総 変 化 量 で
2006)の解析を更新できたといえる.
MT 植生図Ⅰの空間的特徴は,(i)北西部と北中
部に EBF(MT 全体の 38.1%),(ii)Xingu 川上流
の Cuiabá 市や南部主要道路に沿って DA(15.3%)
の 40.4 %) は 1980 年 代 に は Juruena 川 流 域 に お
という大きく 4 つの分布を明らかにした(図 3,表 2).
い て の 広 大 な 開 発 が み ら れ た が,1990 年 代 に は
MT 北部や先住民保護地域まで進出がみられた.
4.2.1981~2001 年までの植生変化
Forest → Deeply Altered Areas は,1980 年代から南部
MT 植生図の時系列変化(図 3,表 2)をみると,
や道路・河川にそった地域で大きく全期間で 22.8%
EBF は MT 総面積に占める割合のⅠ期 38.1% から
あ っ た.Foresests → Savanna は,1980 年 代 に は 南
Ⅳ期 13.8%と急な減少を示した.一方で,BSF(DA)
部パンタナール地域で,1990 年代には北東部の地域
はⅠ期 15.1%(15.3%)からⅣ期 23.4%(20.7%)
であわせて 22.6%拡大した.
へ増加した.特に,S はⅠ期 2.9%からⅣ期 21.6%
f2 → f1,Deeply Altered Areas → Forests,Savanna
- 111(14)
-
表 2 ブラジル・マットグロッソ州の植生図の植生面積 ( × 106 ha) と総面積に占める割合 (% )
→ Forests などの回復は,道路沿いの地域で少々あ
4.4.植生変化と高速道路との関係
るが 1.6%とほとんどない.移行状態にある Deeply
舗装された主要高速道路からの距離(y:km)を
Altered Areas → Savanna で は, 南 部 全 体 で 12.3 %
5 カテゴリー(0 < y ≦ 50,50 < y ≦ 100,100 <
もサバンナ化が進んでいる.
y ≦ 200,200 < y ≦ 300,300 < y)に分類し,人
結果として,1981~2001 年で,MT 総面積に対
口密度と同様に植生と比較した.全期間で 0 < y ≦
する荒廃の割合は 46.4%,移行は 6.8%であること
50(km) の 地 域 は,EBF は Ⅰ 期:7.5 × 106 ha か
が明らかとなった.これにより MT の 53.2%で何
らⅣ期:1.5 × 106 ha と 1/5 に減少し,S はⅠ期:1.1
かしらの土地開発の影響を受けたことが言える.回
× 106 ha からⅣ期:9.9 × 106 ha と 8.7 倍に増加し
復は MT 総面積に対して 0.9%であり,ほとんどみ
た.50 < y ≦ 100(km)の地域でも同様の結果を
られなかった.
得た.200 < y ≦ 300(km)の地域は Juruena 川周
辺にあり,EBF がⅠ期 : 9.0 × 106 ha からⅣ期 : 4.1
4.3.植生変化と人口密度との関係
× 106 ha に減少,SW がⅠ期 : 0.01 × 106 ha からⅣ期 :
各時期の 5 年平均人口密度(x:人/km2)分布図
3.0 × 106 ha に増加した.90 年代から DA の進入も
を 12 カテゴリー(x=0,0 < x ≦ 1,1 < x ≦ 1.5,
みられた.これは,河川も重要な植生変化因子とな
1.5 < x ≦ 2,2 < x ≦ 2.5,2.5 < x ≦ 5,5 < x ≦
りうることがわかった.
20,20 < x ≦ 50,50 < x ≦ 100,100 < x ≦ 200,
結果として,1981 ~ 2001 年の全植生変化量のう
200 < x ≦ 300,x > 300)に分類し,MT 植生図と
ち 0 < y ≦ 50(km)で土地被覆変化による荒廃と
比較した.人口密度(x)は,北中部が低く,南部
移行を合わせた地域が 44%,50 < y ≦ 200(km)
の州都に向けて高くなる.植生は,x=0(人/km )
で 42%,y > 200(km)で 10%あるということが
の地域では EBF,0 < x ≦ 20(人/km )の地域で
明らかとなった(表 4).ブラジル国立宇宙研究所
は SW・DA,人口密集地である 20 < x ≦ 300(人/
の森林伐採評価(INPE,2006)を用いて解析を行っ
km )の地域では DA に S が疎らに分布していると
た Nepstad et al.(2001)の研究では,森林破壊の
いうことが明らかとなった.
67%が道路から 50 km 未満の地域で発生するとし
植生変化と比較すると,1981~2001 年の全植生
た.一方で,本研究では 50 km 以上の地域で森林
変化量のうち人口分布のない地域で 32%の荒廃と
破壊の 52%が行われている事実が明白となった.
2
2
2
24%の移行の発生が明らかとなった.また,42%が
人口分布のある地域で存在するということも明らか
4.5.植生変化とその原因
となった(表 3).
4.5.1.牧牛
ブラジル全土の総牧牛頭数は,1974 年には 92.5
× 106 頭であったが,2006 年には 205.9 × 106 頭と
- 111(15)
-
図 3 1981 年から 2001 年までの 5 年ごとのブラジル・マットグロッソ州の植生図
図 4 ブラジル・マットグロッソ州植生変化図
- 111(16)
-
表 3 人口密度変化(x:人 /km2)に対する全期間での植生変化量面積(× 106 ha)とその割合(%)
表 4 道路からの距離(y:km)に対する全期間での植生変化量面積(× 106 ha)とその割合(%)
2.2 倍になっている.MT の牧牛頭数は,1974 年に
11.9×106 頭が 2006 年に 26.7×106 頭と 2.2 倍であり,
ブラジル全州の中で最大の増加傾向を示す.
図 5 に 5 年平均牧牛頭数分布図を示す.特徴的な
傾向を示す MT 南部に位置する Cáceres 自治区をみ
ると,Ⅰ期:453.6×103 頭からⅣ期:549.0×103 頭
と 1.2 倍の増加がみられた.一方で,MT 北部にあ
る Juara 自治区では,Ⅰ期:9.4×103 頭(密度:0.4
頭/km2)からⅣ期:575.1×103 頭(26.8 頭/km2)と
67 倍の増加があった.MT の牧牛数は北部への進出
(Margulis,2004)のみが見られてきたが,北部・
南部と MT 中部を囲むように牧場が拡大しており,
図 5 ブラジル・マットグロッソ州自治区ごとの 5 年平
均牧牛頭数分布図
特に輸送手段である道路周辺から拡大傾向にあるこ
とがわかった.Juara 自治区を中心とした北部地域
106 ton で 5.8 倍となっている.
拡大は,MT 西部に位置する現在未舗装ではあるが
図 6 に 5 年平均大豆耕作地面積分布図を示す.
ロンドニア州から MT 北部への道路建設に伴い進出
MT 中部の高速道路沿いに位置する Sorriso 自治区
が大きくなっていると考えられる.
では,Ⅱ期:140.0 × 103 ha からⅣ期:274.3 × 103
ha と 2 倍となった.同時期の 5 年平均生産量はⅠ
4.5.2.大豆
期:246.2×103 ton からⅣ期:803.1 × 103 ton と 3.3
MT の耕作地面積の 50%を占める大豆生産地域
倍になった.大豆生産は,道路や河川などを輸送手
では,大きな植生改変がある可能性は容易に想像で
段として MT 中部に多く分布し,少しずつ北部へ
きる.SIDRA(2008)のデータより,MT の大豆総
耕地を拡大していることがわかった.
耕作地面積は,1990 年に 1.6×10 ha であったもの
6
が 2005 年には 6.1×106 ha と 3.9 倍となった.総生
産量は,1990 年に 3.1×106 ton,2005 年には 17.8×
- 111(17)
-
表 5 植生(f1,f2,Deeply Altered Area,Savanna)と
牧牛・大豆の相関係数(r)
牧牛
大豆
f1
-0.89
-0.80
f2
-0.07
-0.84
Deeply Altered Area
1.00
0.98
Savanna
0.83
0.85
いる可能性が高い.
次に,植生変化と牧牛頭数変化量の空間分布(図
7 左)をみていくと,北部の牧牛頭数増加傾向にあ
る自治地区で荒廃の f1 → f2 への変化がみられた.
南部の増加地域では,荒廃の Forests → Savanna も
図 6 ブラジル・マットグロッソ州自治区ごとの 5 年平
均大豆耕作地面積分布図
しくは移行の Deeply Altered Areas → Savanna が多
く分布することがわかった.これは,牧牛数が増加
するごとに熱帯林伐採とサバンナ化が進むことが明
4.6.植生変化とその原因との統計的解析
確になった.
再分類した MT 植生図Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳと 5 年平
植生変化と大豆耕作地面積変化量の空間分布(図
均牧牛頭数・大豆耕作地面積の相関関係(r)を導
7 右)をみると,中部の大豆耕作地増加地域では,
出した.表 5 の結果をみると,f1 と牧牛,f2 と大
荒廃の Forests → Deeply Altered Areas が広く分布す
豆耕作地面積はともに r=-0.89,r=-0.84 と負の相
ることがわかった.また北中部の f1 → f2 の地域へ
関が高かった.Deeply Altered Areas ではともに正の
も少しずつ大豆耕作地が拡大している.f1 と牧牛,
相関が高く,牧牛 r=1.00,大豆 r=0.98 であった.
f2 と大豆耕作地面積の相関関係により,古くなっ
これは,牧場建設により熱帯林である EBF を減少
た牧場は農場に変換する傾向にある可能性が高いと
させ,大豆農場拡大のためにその他の森を破壊して
いえる.
図 7 全期間の植生変化と牧牛頭数変化量(左図),全期間の植生変化と大豆耕作地面積変化量(右図)
紫色のメッシュは,牧牛頭数変化量と大豆耕作地面積変化量をそれぞれ示す.
- 111(18)
-
5.考察とまとめ
et al.,2006)以上に MT では森林破壊が進行して
広域に分布する植生を同時期の観測データに基づ
いることを明確化した.
いての解析は現場調査データのみでは難しいが,衛
最後に,農耕データとの比較では,北部への進出
星データを用いることで可能となる.しかし,今ま
(Margulis,2004)のみならず MT 中部を囲むよう
での研究で,ある 1 年間の気候による植生活性の減
に北・南部への牧場開発の拡大が顕著であった.大
衰と観測時の雲などの大気条件によるデータ誤差を
豆の農場は,MT 中部に広がり,1990 年代後半以
含んだ結果となってしまうという問題点があった.
降北部への大きな進出もみられた.
本研究では,1981~2001 年までの NOAA/AVHRR
また,牧場建設のために多くの熱帯林が破壊され
データを用いてブラジル・マットグロッソ州におけ
ていることを示し,大豆農場は主に牧場の放棄地を
る 5 年ごとの MT 植生図Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳを作成した.
利用して拡大化を続けていることがわかった.これ
北部には熱帯林があり,南部には人間活動地域があ
は牧場地の拡大が継続する限り,大豆農場も拡大が
ることがわかった.
可能であり,間接的に森林破壊に拍車をかけている
作成した植生図から,植生の荒廃・回復・移行地
ということが言える.特に,2000 年以降の大豆耕
域を導きだし,その特徴を把握した.20 年間で植
作地の拡大は激しく,2004 年ごろから少々の減少
生荒廃した地域は MT 総面積に対して 46.4%,移
傾向にある.これはこの地域で 2004 年から 2005 年
行した地域は 6.8%であることが本研究により明ら
にかけて発生した大旱魃や大豆さび病の流行による
かとなった.一方で回復した地域はわずか 0.9%と
ものと考えられる.気候や流行病による生産量の頭
ほとんどなく,解析誤差の範囲内である可能性も高
うちがすでに進行している可能性があると言える.
い.
本研究で得られた植生図は,環境・気候変動のエ
森林の荒廃は主に 1980 年代に発生し,北進し続
ネルギー収支と物質循環解析などの気候環境影響評
け,1990 年代には北部の MT 州境界の地域にあっ
価やモデリングなどに利用可能である.新しい植生
た.回復はごく少量で,移行地域は,1990 年代に入っ
図作成により得られた植生変化原因解析結果は,ア
て飛躍的に増加した.
マゾンやマットグロッソ州政府の違法森林伐採管理
ここから 1980 年代は,天然林の伐採が盛んに行
や森林保全などの意思決定支援データとなりうる.
われ,1990 年代以降には森林伐採された土地が牧
近年の動向や将来予測を行う際のデータのひとつと
場や農場などに変換されたことがわかった.植生変
しても利用することが可能である.今後は,2001
化の空間的な動向は,人々のいる南東部から北・西
年以降の植生図の作成や本研究で言及していない焼
の方向に道路と河川に沿って進出していることが明
畑や火入れなどの問題も考慮した解析,上記のよう
らかとなった.
な広い利用も考えていきたい.
植生変化と人口密度との比較では,人が居住し
ている地域での荒廃・移行は全変化量の 42%であ
参考文献
り,残り 56%の荒廃・移行が人が居住していない
Asner, G.P., Knapp, D.E., and Broadbent, E.N.(2005)
地域で存在するということも明らかとなった.道路
との比較では,道路から 50 km 未満の地域で 44%,
50 km 以上の地域で 52%の荒廃があった.Nepstad
et al.(2001)は,森林破壊の 67%は道路から 50km
Selective Logging in the Brazil Amazon. Science, 310,
21.
Br uijnzeel, L.A.(1996)Predicting the hydrological
impacts of land cover transformation in the humid
tropics: the need for integrated research. In Gash, J. H.
未満の地域であるとしていたが,本研究では新しく
C., Nobre, C. A., Roberts, J. M., and Victoria, R. L. eds.
作成した植生図を用いることでこれを更新できた
Amazonian Deforestation and Climate. Chichester, UK:
といえる.また,2050 年までにアマゾンの森林の
John Wiley & Sons, 15-55.
40%が消失すると予測されている研究(Soares-Filho
CPTEC: Centro de Previsão de Tempo e Estudos Climàticos
- 111(19)
-
(2007)Plataformas de Coleta de Dados, Dados
J.(2006)Cropland expansion changes deforestation
meteorológicos, hidrológicos e amientais de PCDs.
dynamics in the southern Brazilian Amazon. PNAS,
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Morton, D.C., DeFries R.S., Shimabukuro Y.E., Anderson
2009 年 9 月 24 日デジタルライブラリ掲載)
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