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Ni 基超合金 Inconel 718 の固相線温度近傍における

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Ni 基超合金 Inconel 718 の固相線温度近傍における
日本金属学会誌 第 77 巻 第 5 号(2013)170173
Ni 基超合金 Inconel 718 の固相線温度近傍における
力学特性値の引張速度依存性
1
荻 野 章 太1,
大 橋 翼1,2
粕 谷 直 生1,1
吉 田 誠2
1早稲田大学理工学術院創造理工学研究科
2早稲田大学各務記念材料技術研究所
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 77, No. 5 (2013), pp. 170
173
 2013 The Japan Institute of Metals and Materials
Tensile Rate Dependency of Mechanical Properties of Inconel 718 NickelBased Superalloy
around Solidus Temperature
1, Tsubasa Ohashi1,
2, Naoki Kasuya1,
1 and Makoto Yoshida2
Shota Ogino1,
1Graduate
2Kagami
School of Creative Science and Engineering, Waseda University, Tokyo 1698555
Memorial Laboratory for Materials Science and Technology, Waseda University, Tokyo 1690051
Nickelbased superalloys have been applied to gas turbine and aircraft jet engine parts due to superior high temperature
strength and corrosion resistance. However, casting defect such as solidification cracking often occurs. In order to increase
productivity of precision casting and various shape casting processes, predicting the occurrence of solidification cracking by using
CAE (Computer Aided Engineering) should be essential. Therefore, it is necessary to obtain mechanical properties in the state of
solidliquid coexistence.
In the previous reports, high temperature mechanical properties were examined but tensile rate dependency wasn't examined. In this study, high temperature (around solidus temperature) mechanical properties and tensile rate dependency of their
alloy were examined by using originally developed tensile test. [doi:10.2320/jinstmet.J2012054]
(Received September 18, 2012; Accepted February 13, 2013; Published May 1, 2013)
Keywords: nickelbased superalloys, mechanical property, hot tear, stressstrain curve, semisolid
が,試験片に電流を流すことで加熱するため試験片の両端が
1.
緒
言
拘束されており,試験片の熱膨張により圧縮応力が生じてい
る可能性が考えられる.また,標点間距離においてどの程度
Ni 基超合金 Inconel 718 は高温における優れた各種強度
の温度幅の均熱を確保しているかについて不明である.Chu
や耐食性から航空機のジェットエンジンやガスタービンの
らは Ni 基超合金 DZ 951 を用い常温から固相線温度近傍の
タービンディスクとして高温・高圧の環境において用いられ
範囲において引張試験を行った.試験片形状は直径( q ) 5
る.そのため,タービンディスクを製造する際には通常精密
mm の丸棒試験片,標点間距離は 25 mm であり,この範囲
鋳造法が用いられるが鋳造欠陥の一つとして凝固割れをあげ
における均熱の温度幅は±2°
C を確認していると報告してい
ることができる.凝固割れは鋳造のみではなく溶接によって
る25) .引張試験の結果より,引張強度と降伏応力の増加は
も 起 き る113) . 近 年 凝 固 割 れ を 予 測 す る た め に CAE
延性の減少と同じ温度範囲にて生じていると結論付けてい
( Computer
る.また 1110 °
C 付近までの力学特性値を取得しており,
Aided
Engineering )が用いるようになってき
た1422).そこで本研究では
Ni 基超合金の凝固割れをシミュ
± 2°
C の均熱を確認している.Scheil モデルにおける固相線
レーションする熱応力解析を行う際に必要となる固相線近傍
温度の計算値は 1250°
C 付近であるが,Chu らは固相線以上
での力学特性(応力ひずみ曲線,き裂開口ひずみ)の取得に
の温度に達したかどうか述べておらず,き裂開口ひずみも明
関する検討を行った. Ni 基超合金の力学特性を取得した従
らかになっていない.
来の文献において C. S. Lin らは Ni 基超合金 Rene 108 の等
軸晶,一方向凝固試験片を用いて固相線温度近傍における引
張試験を行った23,24).彼らは Gleeble 試験装置を用いている
従来の知見においては下記のような点が問題点となってい
た.


試験片の両端を拘束することにより,加熱時の熱膨張
による圧縮応力が生じている可能性がある.
1 早稲田大学大学院生(Graduate Student, Waseda University)
株 ( Graduate
早稲田大学大学院生,現在東日本旅客鉄道
2 Student, Waseda University, Present address: East Japan
Railway Co., Ltd.)


標点間距離における均熱の温度幅に関する言及がな
い.したがって,ひずみが取得できない.


目視によるき裂発生の認識はき裂開口ひずみ特定にお
第
5
号
Ni 基超合金 Inconel 718 の固相線温度近傍における力学特性値の引張速度依存性
いて客観性に欠く.
171
が減少する.そのため上側のビッカース圧痕の変位量が最大
これらの問題点が解決されていなければその力学特性値で
となる点をき裂開口として定義する.
は熱応力解析を行うことはできない.そこで大橋らはこれら
固相線,液相線温度は熱力学計算ソフトウェア(J Mat Pro
の点に着目し,これらの問題を解決する条件での力学特性の
ver.5, Thermo Tech 社)を用いて,平衡凝固モデルとして計
取得方法を検討し,力学特性値を取得した26).
算した結果,それぞれ固相線が 1219°
C,液相線が 1391°
Cと
ところが大橋らの取得した Inconel 718 の力学特性値に注
算出された.
目すると引張応力が破断の前に一定になる領域が見受けられ
る.このように高温の応力ひずみ曲線において流動応力が
3.
結 果 と 考 察
観察される場合クリープの発生が考えられる.すると粘性を
考慮する必要があり,そのためにひずみ速度を変量したデー
Fig. 1, Fig. 2 に引張速度 3 mm/min の応力ひずみ曲線を
タが必要となる.ところが大橋らの研究においてはひずみ速
示し, Fig. 3 に引張速度 3 mm / min での引張強度とき裂開
度の依存性については検討していない.そのため大橋らの手
口ひずみを温度ごとにまとめたものを示す. Fig. 1, Fig. 2
法を踏まえた上で引張速度を変量し,ひずみ速度依存性を検
の 1182, 1223°
C における応力ひずみ曲線では,ともに破断
討し, Ni 基超合金 Inconel 718 における粘性について検討
ひずみは 5以下である.従来,破面を観察した際に粒面が
することを目的とする.
確認できる場合は液相の部分が存在し,その液相部で破断が
起きるために脆性破壊が起きているとされている.高温ク
2.
実 験
方 法
リープにおいても粒面で破断が起きるため必ずしも液膜が存
在するわけではないが,凝固末期においては粒界の液膜で破
本研究では Ni 基超合金の Inconel 718 (圧延材,未時効)
断するため脆性な挙動を示すことは超合金以外の従来知見に
を用いて試験を行った.組成に関しては Table 1 に示すとお
よっても報告されている27,28).Fig. 4 には破面を温度と引張
りである.試験装置は大橋らと同じものを使用し,この装置
では試験片の熱膨張による圧縮応力の発生を防ぐために Cap
と試験片に取り付けたナットの接触により引張を開始する仕
組みとしている.試験片の形状は q8 mm ,長手方向の長さ
150 mm の丸棒であり,表面の加工傷などを減少させるため
に表面はエメリー紙(# 1200 )を用いて研磨をしている.そ
して加熱時には酸化を起きにくくするため Ar ガス雰囲気で
行った.温度の制御を行う熱電対と破断部との温度差や,試
験片を加熱させる際の制御熱電対に与える加熱プログラムは
大橋らが使用していた条件と同じものを用いる.加熱プログ
ラムでは加熱速度が 12.5 °
C /s, 5 °
C /s, 1 °
C/ s の 3 段階で目標
温度まで加熱し, 30 秒間等温保持を行った後,引張を開始
した.引張速度に関しては大橋らの高温引張試験の 30 mm/
min を基準とし,さらにひずみ速度依存性を検討するために
引張速度 3 mm / min についても行った.応力はロードセル
株 )を
に動ひずみアンプ(AS2503,Avio 赤外線テクノロジー
Fig. 1
Stressstrain curve of Inconel 718 at 1182°
C.
Fig. 2
Stressstrain curve of Inconel 718 at 1223°
C.
介して計測した荷重を試験片の初期の断面積で割ることで算
出 し た . 試 験 片 の 加 熱 部 分 の 長 さ は 約 100 mm 程 度 で あ
り,その中でも最も熱が集中し温度が高くなる中心部付近の
2 mm を標点間距離とし,均熱に関しては標点間 2 mm にお
いて±3°
C である.ひずみの算出方法に関しても大橋らと同
じ方法を用い,あらかじめ試験片にマーカーとして 0.5 mm
間隔でつけたビッカース圧痕を高速度ビデオカメラ
株 フォトロン)で撮影することによ
(FASTCAM1024PCI,
って取得している.そしてこのビッカース圧痕の変位量を測
定していくとき裂開口後き裂の上側のビッカース圧痕の変位
Table 1
Inconel 718
Chemical compositions of Inconel 718.
(mass)
Ni
Ti
Al
Nb
Mo
C
Cr
Fe
52.32
0.99
0.56
5.16
2.89
0.030
18.27
Bal.
172
第
日 本 金 属 学 会 誌(2013)
77
巻
速度ごとにまとめている( fs 固相率, Ts 固相線温度).
引張速度 30 mm/min と 3 mm/min の力学特性値をより比
1219 °
C よりも上の温度の破面の SEM 画像を観察すると粒
較しやすくするために Fig. 5 にはそれぞれの引張強度,Fig.
面が確認できることから脆性破壊していることが分かる.と
6 にはそれぞれのき裂開口ひずみを示す.Fig. 5 の引張強度
ころが一番下の 1167°
C での破面を観察すると破面はディン
に関しては超合金以外の従来の文献同様引張速度(もしくは
プル形状をしており,延性な挙動を示しながら破壊したとい
ひずみ速度)が遅い方が低いことが分かる29,30) .ところが
うことが分かる.ところが Fig. 4 において 1199, 1196 °
Cの
Fig. 6 をみると 1180°
C から熱解析によって算出した固相線
破面を観察すると,算出値である 1219°
C よりも低い温度で
である 1219°
C 付近まではき裂開口ひずみに大きな差が見ら
あるにもかかわらず粒面が観察できることが分かる.このこ
れない.
とから展伸材であってもミクロな偏析等により実際の固相線
一般的にクリープの式である Norton 則は
·e=Asn
温度は解析による固相線温度よりも低い可能性があることが
示唆される.
という形であるためひずみ速度を算出する必要が存在する.
と ころ が 1180 °
C か ら 1219 °
C 付 近ま では 脆性 な挙 動で あ
Fig. 3 Relationship between tensile strength, crack initiation
strain and temperature of Inconel 718 near the solidus temperature(3 mm/min).
Fig. 4
Fig. 5
SEM images of fracture surface.
Tensile strengthtemperature curve.
5
第
号
Ni 基超合金 Inconel 718 の固相線温度近傍における力学特性値の引張速度依存性
173
1227°
C ではひずみ速度を算出し,Norton 則における A 値,
n 値を算出できた.
文
Fig. 6 Crack initiation straintemperature curve.
り,破断ひずみが非常に小さいためにひずみ速度が算出でき
な い . よ り 高 温 域 の 1220 °
C 以 上 に な る と 引 張 速 度 が 30
mm / min と 3 mm / min で破断ひずみに差が現れる.そのた
め 1227°
C ではひずみ速度の算出が可能であり,応力とひず
み速度の関係を対数プロットしその傾きを n 値とすると,
Norton 則において
A 値2.94×10-3[(MPan・s)-1]
n 値2.39
という値を得ることができた.
結
4.
言
本研究においては Ni 基超合金の凝固割れを予測・制御す
ることを最終目標としている.大橋らは CAE を用いて凝固
割れの予測をする際に必要な力学特性値の取得方法を確立
し,固相線温度近傍における応力ひずみ曲線,き裂開口ひ
ずみを取得した.大橋らの研究を受けて本研究では Ni 基超
合金のひずみ速度依存性を検討し以下のような結果を得られ
た.


引張強度は超合金以外の従来の知見同様,引張速度が
遅い方が小さいということを確認した.


Inconel 718 において 1180°
C から 1219°
C 付近の温度
では脆性な挙動を示し,き裂開口ひずみが小さくなるのでひ
ずみ速度を算出するのに十分な伸びが得られなかったが
献
1) T. Watanabe, T. Toriyama, R. Kimura, T. Nakazawa, H. Chiba,
S. Tanaka, T. Ueki and M. Yoshida: J. JILM 58(2008) 395
405.
2) T. Watanabe, T. Toriyama, R. Kimura, T. Nakazawa, H. Chiba,
S. Tanaka, T. Ueki and M. Yoshida: J. JILM 58(2008) 464
472.
3) A. Zama and M. Yoshida: J. JFES 82(2010) 583589.
4) A. Zama and M. Yoshida: J. JFES 82(2010) 640646.
5) A. Zama, I. Endo and M. Yoshida: J. JFES 82(2010) 697701.
6) M. J. Cieslak, T. J. Headley and R. B. Frank: Weld. J. 68(1989)
473482.
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15) J. N. Duont, C. V. Robino, A. R. Marder and M. R. Notis:
Metall. Mater. Trans. A 29(1998) 27972806.
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Mater. Sci. Eng. A 497(2008) 388394.
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