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犬のカルシウム沈着性角膜変性症に対する EDTA によるキレート療法 織

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犬のカルシウム沈着性角膜変性症に対する EDTA によるキレート療法 織
犬のカルシウム沈着性角膜変性症に対する EDTA によるキレート療法
◯ 織 順一 1) 児玉竜成 1) 佐々木隆博 1) 武藤顕一郎 2) 高瀬勝晤 2)
1)おり動物病院・大阪府,
2)北里大
【はじめに】犬の角膜変性症は、角膜ジストロフィーと異なり非家族性で、炎
症性変化やカルシウム(Ca)沈着症、続発性潰瘍などを伴うことがある。なかで
も羞明や角膜糜爛などの症状を示す Ca 沈着を伴った角膜変性症に対する治療
には、角膜表層切除術や結膜または瞬膜フラップによる外科的治療、そしてエ
チレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)の局所投与などがいわれている。
Ca のキレート剤である EDTA は、病変部の Ca 濃度を低下させる作用がある
ことは知られているが、これまで犬の Ca 沈着を伴った角膜変性症における病
変に対して EDTA を用いた in vitro におけるキレート効果について研究された
報告はみあたらない。我々は、犬の Ca 沈着性角膜変性症に対し診断的治療と
して実施した角膜表層切除術により得られた検体を用いて、in vitro における
Ca 沈着に対する EDTA(1%)のキレート効果を病理学的に検査し、次いで術後
には EDTA の点眼を行いそれらの結果について検討した。
【材料および方法】 眼疾患で来院した犬 4 頭の 7 眼を用いた。犬種は、シェッ
トランド・シープドッグ 1 頭と雑種 3 頭で、年齢は 12-16 歳、体重は 7.6-17.1kg、
性別は雄 2 頭、雌 2 頭であった。症状は、羞明、角膜混濁、流涙などが見られ、
その期間は 2-12 ヶ月で、治療として抗生物質やステロイド等が点眼投与されて
いた。瞳孔反射(直接・間接)は左右とも正常で、診察室内での迷路試験、威嚇反
射、眩目反射などから視覚は維持されていたと判断した。細隙灯顕微鏡検査では、
強弱様々な角膜層内の白色から銀色結晶性物質、角膜表面の凹凸、血管新生、結
膜充鬱血、そして角膜糜爛等がみられた。これら病変部は角膜の 30-80%の領域を
占めていた。角膜のフルオレスセイン染色では、3 眼で陽性を示した。血清生化
学検査では、高コレステロール血症(N=2)、高アルカリフォスファターゼ血症
(N=2)、高窒素血症(N=2)、高クレアチニン血症(N=1)を示し、Ca 濃度は全例にお
いて正常であった。このような所見から Ca 沈着性角膜変性症と臨床診断した。
次いで外科的治療として角膜表層切除術を実施し、切除検体をホルマリン固定後
にヘマトキシリン・エオジン染色(HE)と Ca 検出のための Von Kossa 染色を行っ
て病理検査を実施した。In vitro における研究では、1 例の検体を 3 分割し、そ
れぞれホルマリン固定液、角膜移植用保存液および 1%EDTA 含有角膜移植用保存
液に浸し 5℃で 14 日間保存した。ついで各検体を取り出し電子顕微鏡検査を含め
た病理検査を実施した。その後、角膜移植用保存液と EDTA 含有保存液の好気性
および嫌気性細菌培養も実施した。術後すべての患眼には 1 日 4-5 回の EDTA 点
眼を行い、症状や病変の再発や副反応の有無等を定期的眼科検査により観察した。
【成
績】ホルマリン固定液と角膜移植用保存液に浸した検体の病理所見は、
績】
上皮細胞の一部剥離と腫大を伴う配列不整ならびに肥厚、角膜基質の浮腫およ
び線維芽細胞の配列不整、角膜基質の膠原線維や角膜上皮下の基底膜および角
膜上皮下の好塩基性物質沈着などであった。Von Kossa 染色では、HE 染色で好
塩基性を示した物質の一部が黒色に染色され、Ca 沈着が確認されたが、EDTA
含有保存液検体の HE では、Ca 成分と見られる好塩基性物質は検出されなかっ
た。走査型および透過型電子顕微鏡検査では、角膜保存液に浸した検体には Ca
沈着像が明確に示されたが、EDTA 含有液保存検体には Ca 沈着像は認められな
かった。2 眼では角膜表層切除術において深部 Ca 組織の一部取り残しはあった
が、術後の EDTA 点眼により全眼に Ca 沈着の進行や再発は見られていない。2
例では点眼初期の一時的な羞明が見られたが、休薬後の再開により症状はない。
1 例では飼い主が点眼を休止したため病変と症状の再発が見られたが、再手術
後の EDTA 点眼により再発は見られていない。
【考 察】今回の症例は、12
歳から 16 歳という高齢犬で角膜混濁が長期にわ
察】
たって存在し、羞明や流涙などの症状や眼科検査の結果により、角膜ジストロ
フィーではなく Ca 沈着をともなった角膜変性症と臨床診断した。このように病
変部が進行して痛みなどの症状を示す場合には、診断的治療として角膜表層切
除術が薦められる。今回切除した角膜検体の in vitro における研究により、EDTA
によるキレート作用により角膜層内の Ca が除去されることが証明された点、お
よび術後行った EDTA 点眼の結果から、EDTA 点眼は Ca 沈着の再発予防に有効で
あると思われる。最後に Ca 沈着性角膜変性症は、全身性疾患によっても引き起
こされることがあり、それら基礎疾患の治療も考慮する必要があると考える。
2009/3/2
材料および方法
眼症状・治療歴
犬4頭の7眼
犬 種 : シェットランド・シープドッグ 1頭
雑種 3頭
年 齢 : 12〜16歳
体 重 : 7.6〜17.1kg
性 別 : 雄 2頭 雌 2頭
・ 症 状 : 羞明、角膜混濁、流涙
・ 期 間 : 2〜12ヶ月
・ 治療歴 : 抗生物質・ステロイド点眼
症例3左眼
眼科検査所見
Case
1
2
3
4
血清生化学検査結果
・ 高コレステロール血症
・ 高ALP血症
(N=2)
(N=2)
・ 高クレアチニン血症
臨床診断
カルシウム沈着性角膜変性症
治療・検査
(N=2)
・ 高窒素血症
細隙灯顕微鏡検査
眼 結晶 凹凸 血管新生 結膜充血 糜爛 角膜染色
右 強 +
+
+ 右 強 +
+ +
+
左 弱 - 右 中 + 左 強 +
+ +
+
右 強 +
- +
+
左 中 - -
(N=1)
・ 正常カルシウム濃度
角膜表層切除術
病理検査
点眼
1.
2.
3. 1% EDTA
(4-
5回/日)
(N=4)
1
2009/3/2
角膜切除検体の検査法
ホルマリン固定と
角膜保存液
分割検体保存・処置
ホルマリン固定
角膜保存液 角膜移植用)
液含角膜保存液
週間冷蔵保存
液の細菌培養(好気性、嫌気性)
病理検査
ヘマトキシリン・エオジン染色(HE)
染色(VK)
電子顕微鏡検査
1. 3
1)
2)
(
3) 1%EDTA
2
4) 2),3)
2.
1)
2) Von kossa
3)
HE
走査型電子顕微鏡画像
(SEM)
角膜保存液の
Von Kossa
染色
液
1%EDTA
術後EDTA点眼6ヶ月(症例3)
病理検査結果
ホルマリンと角膜保存液
EDTA
+
-
所 見(HE染色): 上皮細胞剥離 角膜基質の浮腫
線維芽細胞不整
塩基性物質:
+
-
VK染色 :
+
-
電子顕微鏡:
Ca
沈着
液
細菌培養 : (陰性)
2
2009/3/2
術後 EDTA点眼結果
術後のCa沈着進行や再発なし
2. EDTA点眼初期の羞明 (N=2)
3. 症状の再発なし
4. 点眼休止による再発 (N=1)
1.
結 語
による角膜内Caのキレート効果
1. 1%EDTA
の証明
2. Ca沈着性角膜変性症に対する外科的な
診断的治療としての角膜表層切除術
3. 術後EDTA点眼によるCa沈着予防に有効
4. 基礎疾患の治療
3
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