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1 日本人のスピリットについて 2014年11月10日 駐クロアチア特命全権

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1 日本人のスピリットについて 2014年11月10日 駐クロアチア特命全権
日本人のスピリットについて
2014年11月10日
駐クロアチア特命全権大使
井出敬二
(本講演は,ザグレブ市内のジャーナリスト会館において英語で行いクロアチア語に通訳
したもの。当日は150名を超える聴衆が熱心に聞いた。)
本日はご多忙中お集まりいただき,まことにありがとうございます。
このような機会を与えていただきましたクロアチア・元ジャーナリスト連盟ブランカ・
スタルチェヴィチ会長に厚く感謝申し上げます。
本日は日本人について何か話してほしいというご要望を受けましたので,日本の自然,
年中行事,祭,神話,そして東日本大震災からの復興状況などを説明しながら,日本人の
スピリットについてご説明したいと存じます。
なお私の個人の意見や見方も交えてお話しするものである点をお断りしておきます。
11月2日の万霊節(All Soul’s Day)をクロアチア人がどう過ごすかを見ることができ
ました。私が住んでいるザグレブ市内のレメテ地区の近くのミロゴイ墓地は,お墓参りを
するクロアチアの人達で大変混雑していました。日本でも死者の霊が戻ってくるという考
え方があり,年に数回はお墓参りする習慣があります。クロアチアの万霊節もキリスト教
が広まる前からあった考え方だと聞いています。
また私は本日(11月10日)聖マルティヌス(St. Martin)の日の記念行事に参加して
きました。この日もヨーロッパがキリスト教化する前から始まったと聞いていますが,収
穫を祝うお祭りと聞いています。日本も11月には収穫を祝う様々なお祭りがあります。
本日は北欧その他の諸国の大使,外交官の方にも来て頂いていますが,北欧にも北欧神
話(Nordic myths/mythology)があり,キリスト教化する前の人々の考え方を現代に伝え
ています。日本にも古くからの神話があり,その中には外国の神話と共通する点も様々あ
ります。
1 日本人の由来
最初に日本人の由来についてお話ししたいと存じます。日本は島国で皆さんからは途絶
された所にいる,皆さんとは全く異なる人種だと思われているかもしれません。しかし考
えてみれば,人類は最初にアフリカで出現し,そこから分かれた点で,つながっていたと
思います。
最初の人類(猿人)が初めて出現したのは,今から約500万年前のアフリカでした。
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約180万年前には原人とよばれるかなり進んだ人類が現れ,50万年前ころまでにアジ
アやヨーロッパに広がったと言われています。
その頃日本は大陸と陸続きでした。約7万年前に様々な動物たちと一緒に旧石器時代の
人々が日本に移ってきたとの推測があります。その頃,つまり約7万年前から約1万年前
には最終氷期(last glacial period)が続いていました。
ネアンデルタール人(Neanderthal men)は旧人(Palaeoanthropic men)に属する化石人
類で,最初にドイツで発見され,以後アフリカ,ヨーロッパ,西アジアなどの各地で出土
しました。彼らは死者の埋葬,呪術的儀式を行うなど,精神的発達が認められています。
殺された動物の霊はその「霊界」に送られるための儀式がなされました。彼らは約10万
年前に出現し,氷期に住んでいたと推測されます。
現生人類(新人類)
(Neoanthropic man, Homo sapiens sapiens)は約4万年前に出現し
ました。クロマニヨン人もこのホモサピエンスに属します。彼らは打製石器(旧石器)を
使って採集・狩猟をしていました。
紀元前1万年ころから気候が温暖化にむかいました。
氷期(Glacial age)の期間には日本は大陸とつながっていましたが,氷期が終わり,海
面の水位が上がり,1万2,3000年前頃に日本が大陸から分離されたと言われていま
す。
中石器時代であった紀元前9000年頃から,西アジアで麦の栽培と食肉用の家畜の飼
育が始まりました。
人類はこの温暖化に直面して,磨製石器(新石器)の使用や犬の家畜化などを行い,生
きていくための対応をしました。そして新石器時代に入るころから,人類はその居住環境
によって,モンゴロイド,コーカソイド,ネグロイドに分かれるようになったと言われて
います。しかし身体的特徴に差が表れたと言っても,彼らは皆現生人類ホモサピエンスに
属しています。そして私はスピリットの面ではこれらの人々には共通している面もあるの
ではないかと思っています。
日本では,紀元前3~2世紀に縄文時代から弥生時代に移ったと言われています。
稲作は約7000年前にはアジアで始まっていましたが,既に大陸から切り離されてい
た日本では,かなり遅れて稲作が弥生時代に始まりました。つまり紀元前3世紀頃に,ア
ジア大陸から日本に渡ってきた人たちが稲作を伝えたと見られています。弥生時代は紀元
後3世紀まで続きました。当時から水稲耕作が行われていました。
また中国からの儒教が5世紀に,またインド発祥の仏教が6世紀に日本にもたらされま
した。外来の文化は日本人に大きな影響をもたらしましたが,それに先立つ長い期間に育
まれた日本人のスピリットは,後世にも伝えられたと私は思っています。日本では8世紀
はじめに日本最初の歴史書がまとめられました。また7世紀後半から8世紀後半の頃に最
初の歌集「万葉集」が作られました。
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2 現代の日本に伝わる様々な祭とその神話的起源
これから日本の四季と季節ごとの祭や習慣を紹介した DVD をお見せします。これは日本
の外務省が在外公館に定期的に送ってくれる Japan Video Topics というシリーズです。英
語での解説音声をお聞きいただきます。
この DVD を見ていただきながら,農耕文化と,生・死・再生(魂の帰還)のサイクルと
の関連についてもご説明したいと思います。この農耕的構造を持つ宗教性のひろまりは,
互いに隔てられた地域の農民社会に共通して見られるとの指摘があります(宗教学者エリ
アーデの著作からの引用)
。
日本人の多くが,魂(soul)は不滅であると考えてきたと言えると思います。また日本は
一神教(monotheism)ではなく,多神教(polytheism)です。更に無生物にも霊魂(anima)
があると信じるアニミズム(animism)もありますが,アニミズムは農耕民族とよく結び
つくという指摘もあります。
●日本の四季 Spring/Summer/Autumn/Winter(Japan Video Topics 2012/13 No6,
約16分間)
(節分,ひな祭り,入学式,さくら,鯉のぼり,武者人形,田植え,花市場,七夕祭り,
海水浴,暑さよけのすだれ,風鈴,夏祭り(盆踊り),大文字焼き,那智火祭り,会津田島
祇園祭り,秋田竿灯祭り,柿,菊,月見,稲の収穫,収穫の祭り,七五三,紅葉,勤労感
謝,酉の市,熊手,イルミネーション(LED),東京スカイツリー,スキー,年越しそば,
除夜の鐘,初詣,門松,お節料理,お屠蘇,1月の火祭り,お餅,)
DVD の内容の解説:
雛祭り(The Girl’s Dolls Festival):3月3日に女の子のお祭りとして祝います。穢れ,災
いを人形に移し,祓う儀式が由来とも言われますが,現代の女の子はそのようなことを知
らないでしょう。江戸時代に普及しました。
端午節句(The Boy’s Festival)
:5月5日です。ちまきを食べる習慣は中国からきました。
出世を願う鯉のぼりや,武運を祈る甲冑を飾る習慣は,日本で江戸時代から普及しました。
七夕(Star Festival):7月7日。中国から伝来したお祭りですが,魂が戻る季節であるお
盆にあたることから,日本で別の習慣と合体し変形しました。願い事を書いて笹に付ける
のも,日本の習慣です。
盆踊り(Bon Festival Dance):盆に迎えた精霊を送り返す行事です。元は死者の霊を弔う
群舞とも言われます。歌を歌い円舞をします。円舞の習慣は世界の諸民族の間でも見られ
ます。現在では娯楽性が強いものです。日本全国で様々な形態のものが見られます。
七五三:11月には伝統的に稲の収穫を祝う祭りが行われてきました。本日,クロアチア
では聖マルティヌスの日のお祝いが祝われていますが,これも収穫祭です。米国,カナダ
でも感謝祭(Thanks Giving Day)が10月から11月に行われます。この11月に七五
三が行われるようになりまた。
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神楽(Sacred music and dancing):日本では神を祭る舞楽が盛んです。
除夜の鐘(the tolling of temple bells 108 times on New Year’s Eve):12月31日に 108
回の鐘を鳴らします。108 は煩悩(worldly desires)の数という説もある。中国から伝わっ
たという説もありますが,少なくとも現在は日本でのみ行われています。
●石見(いわみ)神楽 Iwami Kagura – Fine Ritual to Modern Folk Art(Japan Video
Topics 2008/09 No9,約3分41秒間)
日本の神話をテーマにした神楽で,とても娯楽的要素が高いものです。多くのグループ
により演じられており,通年で公演が行われています。
DVD の中で,蛇が出てきましたが,これは八岐大蛇(やまたのおろち)という蛇を退治
したスサノオという神の話を表しています。このスサノオは多面的な性格を持つ神であり,
豊饒の神でもあり,暴れる疫病神でもあります。このスサノオの姉は,天照大神という太
陽の神ですが,日本の神話において彼女は姿を隠すことをします。このように「姿を隠す
神」と「暴れる神」というモチーフは,たとえばヒッタイトの神話でも出てくるそうです。
●武道 The Spirit of Budo (Japan Video Topics 2012/13 No3,約4分41秒間)
日本人のスピリットを語る際に武道は欠かせません。
柔道,剣道,合気道,弓道等の「道」とは,自己完成のための「道」を意味しています。
日本の多くの子供達も,武道を通じて,自分への自信,規律,不断の鍛錬が大きな意味
を持つことがわかるようです。
一定の型を覚えれば「技」を身に着けることができるので,最初は多少の忍耐が必要で
すが,外国人でも「技」を習得することが可能です。それが日本の武道が世界で幅広く受
け入れられている理由だと思います。クロアチアでも多くの日本武道愛好家たちが活動し
ていることは,本当にうれしいことです。
●平泉 Hiraizumi - Once again a Beacon of Hope (Japan Video Topics 2011/12 No3,
約4分41秒間)
12世紀に建立された東北の中尊寺の紹介です。日本人は死んだ後に魂が浄土(Pure
land, paradise)と呼ばれる土地に行くと考えていました。この浄土という考え方は,元は
インドから中国を経て日本に伝わった仏教にある考え方ですが,インドでも中国でもこの
浄土信仰は信仰の主流にはなりませんでした。12世紀の日本では,戦争,災害等があり,
人々が死後の世界に救いを求めました。そこで浄土信仰が広まりました。
3 東日本大震災の被害の克服のために挑戦に立ち向かう日本人のスピリット
次に3年8ヶ月前の2011年3月11日の東日本大震災の後の日本の復興についての
DVD をお見せしたいと存じます。
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●工場・道路再建 Keeping the Auto Industry on the Road (Japan Video Topics 2011/12
No3,約5分05秒間)
●災害対応の技術の紹介 Pioneering Disaster Technology(Japan Video Topics 2012/13
No1,約5分間)
新幹線が出てきましたが,今から50年前に世界初めての高速鉄道として操業を開始し
ました。事故による死亡犠牲者は一人も出ていません。更にリニアモーターカー(maglev,
magnetic levitation) の建設を開始することが決まっており,2027年に時速500km
を実現することになります。
●水栽培 Hydroponic Farming (Japan Video Topics 2013/14 No1,約3分31秒間)
被災した農民達が,新しい技術で復興に取り組んでいます。
●東北六魂祭 Tohoku Rokkon Sai(Japan Video Topics 2011/12 No4,約4分21秒間)
秋田竿灯(かんとう)祭,山形花笠祭,盛岡さんさ踊り,福島わらじ祭り,仙台七夕祭,
青森ねぶた祭の6つの祭を,2011年以来東北の各都市において合同で開催しています。
これらの祭りは全て8月に開催されますが,8月は魂と交流をする季節でもあります。そ
のようにして災害にあった人々の心を励ましています。
4 結論
これらの DVD をご覧になって,祭が日本人の古くからのスピリットを伝え,今でも日本
人のスピリットを奮い立たせてくれるものであることがお分かりになったと思います。
クロアチアの皆さんにとっては,日本は遠いエキゾチックな国かもしれません。しかし
11月初めにミロゴイ墓地にお墓参りする沢山のクロアチアの人たちを見て,私たちはお
互いに心情的に分かり合えると感じました。結局,私たちは昔同じところに生まれて,ど
こかの時点で分かれて生活するようになりましたが,同じような生活の中での年間行事等
も通じて,再生を信じて生きているという点で,お互いに共感できる基盤があると言える
のではないかと私は思っています。
ご清聴ありがとうございました。
(了)
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