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「父と母、そして僕と彼女」田中隆晃様(愛知県) 私は

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「父と母、そして僕と彼女」田中隆晃様(愛知県) 私は
【優秀賞】
「父と母、そして僕と彼女」田中隆晃様(愛知県)
私は、今年の夏、かねてからお付き合いをしていた彼女と結婚する予定だ。
現在は、式の日取りも決め、披露宴への招待客を誰にするのか、考えている真っ最中であ
る。
そして、披露宴のお色直し中に流すための映像作りもしている。
「映像で使う写真、どれにしよう。」
「この写真いいんじゃない?」
二人で作業する中で、1枚の写真を見つけた。
歴史と旅行が好きな私と彼女は、島根の出雲大社を訪れたことがあった。
そんな島根で撮った写真をラストで流そうと決めた。
私たちの結婚はすでに決まっていたが、式が遅くなってしまったのには原因があった。
それは三年前、父に肝胆癌が発覚したのだ。
末期と聞かされて、目の前が真っ暗になった。
そして、父は一昨年の夏に亡くなった。
父が死んで半年たったある日、
父の写真を見る母から、ある話を聞かされた。
「あなたは知らなかったかも知れないけど、私たちお見合い結婚だったのよ。」
初めて知った。
「そんなお父さん。初めは、とっても格好つけてたの。名刺の裏には英語が書いてあった
わ。高級フランス料理は口に合わないって文句言ったりしてね。でも、本当に優しかった
わ。」
母は、懐かしむ顔をしていた。
「あと、お父さんとは、よく旅行に行ったわ。」
「どこ行ったの?」
「北海道の旭川とか、九州の別府とか…。」
「へぇ。」
「あ、そうだ。出雲大社にも行ったわ。」
「…出雲大社。」
「そう。私がプロポーズされたのが、なぜか出雲大社の大鳥居のある橋の上だったのよ。」
「それ、本当に変わってるね。」
「ほんとに不思議な人だったわ。」
と笑顔を見せる母に、父は惚れたんだなと思った。
私は、そんな出雲大社のある島根を、また訪れてみたくなった。
父と母の思い出の地を、自分たちの思い出の地にしたいと純粋に思った。
私は、このエピソードを子どもや、孫にも伝えていきたいと考えた。
そして、何より結婚式の映像で最後に流す写真こそ、大鳥居の前で撮った二人の写真なの
だ。
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