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テイラーシステムとフォードシステム出現におけるアメリカの経営経済的

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テイラーシステムとフォードシステム出現におけるアメリカの経営経済的
39
三 田商 学 研 究
2004年12月25日
掲載 承認
第47巻 第6号
2005年2月
テ イ ラ ー シ ス テ ム と フ ォ ー ドシ ス テ ム 出 現
に お け る ア メ リカ の 経 営 経 済 的 ・社 会 的 条 件
一
(1)
内部 請負制 度 の形 成 と崩壊 一
淳
前
〈要
田
約〉
テ イ ラー に よ るr科 学 的 管 理 法 」 が ア メ リ カ で 産 声 を上 げ た の が19世 紀 の 終 りか ら20世 紀 の 初 め
にかけ て であ る。 この 「
科 学 的 管 理 法 」 が 彼 が 所 属 し た ミッ ドヴ ェ ー ル 製 鋼 会 社,並
ム 製 鋼 会 社 だ け に 留 ま ら ず,ア
メ リカ の 鉄 鋼 産 業 の 大 部 分 に,さ
び に ベ ス レヘ
ら に は シ カ ゴ の 食 肉 包 装 とデ トロ
イ トの 自動 車 産 業 へ と普 及 さ れ 始 め た の は1910年 代 の こ と で あ る。 ま た フ ォ ー ドがT型1車
限定 生 産 を挙 行 し,い
種 の
わ ゆ る 「大 量 生 産 体 制 」 の 確 立 を確 固 た る も の と した の が1909年 か ら1927年
に か け て で あ る 。 テ イ ラ ー シ ス テ ム とフ ォ ー ドシ ス テ ム の 内 実 を 規 定 し,特 徴 づ け る ア メ リカ の 経
営 経 済 的 条 件,或
に お い て は,テ
い は 社 会 的 条 件 と は 一 体 何 か 。 こ の 点 を数 稿 か け て解 明 す る こ と と した い 。 本 稿
イ ラ ー シ ス テ ム 出 現 前 に と りわ け 東 部 の 機 械 工 業 企 業 で 支 配 的 に 見 ら れ た 内 部 請 負
制 度 を 取 り上 げ,ま
ず そ の 特 質 と意 義 を把 握 す る と同 時 に,そ
の解 体 の 原 因 を 解 明 し た 。 ま た 解 体
後 の 新 た な動 向 に つ い て も考 察 を 試 み た 。
〈 キ ー ワ ー ド〉
内 部 請 負 制 度,請
職 長,機
1.内
負 価 格,請
負 人,熟
練 労 働 者,互
換 性 部 品,機
能 別 職 長 制 度,万
能 職 長 制,
械 技師
部 請 負制 度 とそ の特 質
19世 紀 後 半,ア
メ リカ東 部 の機 械 工 業 は,フ
ィ ラデ ル フ ィ ア とニ ュー ・イ ン グ ラ ン ドを 中心 に 発
展 を遂 げ た 。 フ ィ ラデ ル フ ィ ア で は舶 用 機 関 や 鉄 道 建 設 用 の工 作 機 械 が 発 展 した が,こ
戦 争 後 の鉄 道 網 の 開 通,す
な わ ち1869年 の シ カ ゴ,サ
れには南北
ン フ ラ ン シ ス コ間 の 開 通 や1874年 の シ カ ゴ,
ニ ュー オ ー リン ズ 間 の 開 通 が 多 大 な影 響 を与 え た こ とは 言 う まで も な い 。 これ に対 して,ニ
イ ン グ ラ ン ドで は銃 機,ミ
1860年 代 以 降,ア
ュー ・
シ ン,繊 維 さ らに 時 計 生 産 の 為 の工 作 機 械 が発 展 す る。
メ リカ東 部 の 機 械 工 場 で は 内部 請 負 制 が 支 配 的 とな り,一 般 的 と な っ た。 と り
40
三
田
商
学
研
究
わ け,ニ ュ ー ・イ ン グ ラ ン ド地 方 の 作 業 現 場 で は 内部 請 負 制 が広 く普 及 して い た。 兵 器 産 業 で培 わ
れ た 高度 な技 術,こ
れ を支 え る熟 練 機 械 工,さ
ら に は 製 造 技 術 と生 産 工 程 の 改 善 ・改 良 に 意 欲 的 な
経 営 者 を もっ ニ ュー ・イ ン グ ラ ン ドの 機 械 工 業 は,19世
紀 末 に至 る ま で 米 国 産 業 界 に お い て指 導 的
な技 術 水 準 を誇 示 して い た。 内 部 請 負 制 は,東 部 機 械 工 業 だ け に 留 ま らず,19世
1)
た る地 位 を確 立 す るア メ リカ 中 西 部 の 鉄 鋼 業 に お い て も支 配 的 と な る。
当時,内
紀 後 半 以 降,確
部 請 負 制 を採 用 して い た 鉄 鋼 工 場 は 当時 最 大 級 の 工 場 で あ り,1900年,全
固
米最 大70工 場
の うち15工 場 を 占め て い た点 か ら も,ま た1900年 最 大70社 の 中 に ラ ン クイ ン され た ロー ウ ェ ル機 械
工 場 (Lowell Machine
and Whitney
Shop),同 年1200名 の 従 業 員 を擁 す るプ ラ ッ トア ン ドホ イ ッ トニ ー 社 (Pratt
Co.),さ らに 同 年1700名 の 従 業 員 を擁iする ホ ワ イ テ ィ ン グ社 (Whiting Co.) とい う最
大 級 の機 械 工 場 が 内部 請 負 制 を利 用 して い た とい う点 か ら も,内 部 請 負 制 度 が 技 術 の遅 れ た小 規 模
な工 場 に 限定 さ れ る 制 度 で は な く,1860年
か ら1880年 当 時,ア
メ リカ の 産 業 を リー ドす る 「先 進
的 」 か つ 大 規 模 企 業 に も顕 著 に 見 られ る制 度 で あ っ た こ とを理 解 し なけ れ ば な ら な い。
とこ ろ で 内 部 請 負 制 と は,工 場 所 有 者 が 工 場 部 外 者 た る請 負 人 に 対 し,生 産 を請 負 わせ る とい う
制 度 で あ る。 請 負 人 は,製
品 の完 成期 日や 製 品 数 に 関 す る生 産 契 約 と そ の 請 負 価 格 契 約 を工 場 所 有
者 とか わ し,請 負 人 自 ら雇 用 した 労働 者 と,工 場 所 有 者 が 所 有 す る建 物,機 械,原 材 料 を使 用 し,
2)
生 産 を指 揮 す る。 従 っ て こ こ に は2種 類 の重 層 的 契 約 が 存 在 す る こ とに な る。1つ は工 場 所 有 者 と
請 負 人 との 間 で か わ され る請 負価 格 契 約 で あ り,も う1つ は請 負 人 と労 働 者 との 間 で か わ され る賃
金 契 約 で あ る。 こ の2種 類 の重 層 的 契 約 の 存在 が 内部 請 負 制 に複 雑 な階 級 構 成 を生 む。 この 点 に 関
し ダ ン ・ク ロー ス ン (Dan Clawson) は,
「請 負 人 は,階 級 関 係 の 中 で 著 し く矛 盾 した 立 場 に あ っ た。 す な わ ち,一 方 で は か れ ち は労 働 者 を
管 理 し,生 産 され る製 品 ご とに利 益 を あ げ るが,他 方 で は か れ らは 生 産 活 動 をお こ な い,一 般 に は
資 本 家 に よ って 多か れ 少 なか れ労 働 者 とみ な され,出
来 高 払 労 働 者 とほ とん ど同 じ方 法 で請 負 価 格
り
に つ い て 敵 対 的 に 交 渉 し た の で あ る 。 請 負 人 は そ の 従 業 員 と の 関 係 で は 資 本 家 で あ り,そ
・ …
. ● . ● ・ ● ● ● ●3)
と の 関 係 で は 労 働 者 で あ っ た 」 (・は 引 用 者 )
1)
ア メ リカ の 中 西 部 の 鉄 鋼 業 に お け る 内部 請 負 制 の 展 開 と労 務 管 理 に つ い て は,平
労 務 管理 の史 的構造 』 千倉書 房
2) こ の 点 に 関 し,ト ー マ スR.ネ
ち 「
工 場所 有 者 は熟練工
(1994年) の79∼111頁
イ ヴ ィ ン (Thomas
(skilled men)
尾 武 久 『ア メ リカ
を参 照 さ れ た い。
R. Navin) は 次 の よ うに 述 べ て い る。 す な わ
と彼 らが 供 給 を受 け る 完 成 品 の 数 と価 格 に つ い て合 意 す る。
次 に,熟 練 工 が 彼 らの 個 別 的 契 約 を履 行 す る の に 必 要 な 労 働 者 を選 定 し,彼
支 払 うか,或
の 使 用 者
らが 適 切 と考 え る賃 金 を
い は工 場 所 有 者 に よ り支 払 わ れ るべ き賃 金 につ い て 許 可 を 与 え,契 約 価 格 か ら そ れ を差
し引 く。 工 場 所 有 者 は 工 場 や 道 具 だ け で は な く,必 要 と な る 原 材 料 や 必 需 品 の す べ て を 提 供 す る こ と
が 常 で あ っ た」 と。 引 用 文 中 の 「熟 練 工 」 とは 勿 論 請 負 人 の こ とで あ る。Thomas
R. Navin,
The
Whitin Machine
Works
since 1831
A Textile Machinery
Company
in an Industnial Village,1950,
p.142.
3) Dan
Clawson,
-1920,!980の
1860∼1920年
Bureaucracy
and
Labor
訳 本 『科 学 的 管 理 生 成 史
一
』 今井斉 監 訳
Process
The
Transformation
of U. S. Industry
1860
ア メ リ カ 産 業 に お け る 官 僚 制 の 生 成 と労 働 過 程 の 変 化 :
百 田 義 治/中
川誠 士訳
森 山書 店
(1995年)91頁
テ イ ラー シス テ ム とフ ォ ー ドシ ス テ ム 出 現 に お け るア メ リカ の経 営 経 済 的 ・社 会 的 条 件
(1)
4ヱ
と述 べ て い る。 も っ と も請 負 人 は特 異 な 「労 働 者 」 で あ る が この 点 につ い て は後 述 す る。 ま た 請 負
4)
人 は,多 大 な権 限 を手 に した 。 彼 ら の権 限 は,労 働 者 の 雇 用 権 と解 雇 権,労 働 者 の 「賃 金 決 定 権 」,
労 働 者 の 教 育 ・訓 練 方 法,生 産 方 法 の決 定 権 と監 督 権,さ
らに は 在 庫 品 の 統 制 権 に まで 及 ん だ 。 た
だ し,こ れ を 明 記 す る規 定 や 規 則 は ほ とん ど な い の が 実 情 で あ っ た。 工 場 所 有 者 に は,労 働 者 の 雇
用 権 は 無 く,そ の 任 務 は,工 場,機 械,さ
ら に 原材 料 の 準 備 と提 供,市 場 で の製 品 の 販 売,製
品の
変 更 等 に 限 定 さ れ た 。 以 上 の 点 を 内容 とす る 内部 請 負 制 と並 び,下 位 請 負 制 や 補 助 工 制 度 の歴 史 的
混 在 も認 め られ た が,こ
5)
だ ろ う。
れ らは 実 質 的 に は 内部 請 負 制 の 派 生 形 態,或
上 述 し た 内部 請 負 制 度 の 内 実 を踏 まえ,そ
まず 第1に,内
い は 類 型 形 態 と看 做 して よ い
の特 質 と存 在 意義 を6点 指 摘 し て い こ う。
部 請 負 制 度 を利 用 す る こ とで工 場 所 有 者 は賃 金 の 変 動 リス クか ら解 放 さ れ る。 労
働 者 の 雇 用 権 は 請 負 人 に あ り,労 働 者 の 賃 金 はす で に 契 約 済 み の 請 負価 格 か ら支 払 わ れ る。 労 務 費
の変 動 は た だ請 負 人 の 所 得 に影 響 を与 え るに す ぎず,工 場 所 有 者 へ は 及 ば な い。
第2に,請
負 人 と工 場 所 有 者 との 間 で か わ さ れ る請 負 価 格 の 価 格 形 成 の 根 拠 は 不 明 確 で あ り,常
に双 方 に 不 満 と困 惑 を喚 起 し,誘 発 す る危 険 を孕 ん で い た。
第3に,請
負 人 の 主 た る所 得 は,請 負 価 格 と労 働 者 へ の支 払 い賃 金 総 額 との差 額 と請 負 人 に支 払
わ れ る 日給 か ら構 成 され るが,そ の報 酬 は 労 働 者 の 賃 金 と比べ 高 額 で あ っ た。 まず 第1に 小 銃 工 場
6)
を実 例 に 挙 げ る と次 の 如 くで あ る。
小 銃工 場 の請負 人
(1876-1889)
大 部 門
中部 門
小部 門
5人
8人
5人
43人
11人
年 平均 請 負人数
請 負 人1人
当 た りの年 平 均 労 働 者 数 … … …
請 負 人の平均 年 収
4,800ド
労働 者 の平均 年 収
次 に,1874年
700ド
ノレ
1,740ド
ル
650ド
2人
ノレ
1,430ド
ル
570ド
ノレ
ル
の ホ ワ イ テ ィ ン社 に お け る 請 負 人 の 総 所 得 と従 業 員 の 平 均 賃 金 を 比 較 し よ う。 表1か
4) 労 働 者 の 雇 用 権 に 関 し,ダ
ン ・クi7一 ス ン は 「い か な る規 則 や ガ イ ドラ イ ン に も従 う こ とな く,個
人 的 に す べ て の従 業 員 を 雇 用 し て い た 。 雇 用 に つ い て の 支 配 権 が 家 族 や 地 域 社 会 全 般 に お け る大 き な
権 力 を 請 負 人 に 与 え て い た 」 と述 べ,雇
用 地 域 が 請 負 人 在 住 の コ ミュ ニ テ ィ に 限 定 され る と同 時 に,
雇 用 方 法 も請 負 人 の 恣 意 性 に依 存 す る と い う極 め て特 異 な 「雇 用 権 」 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。 こ
こ か ら,当 時 の ア メ リカ 社 会 に お け る前 近 代 的 労 働 市 場 と雇 用 方 法 の 特 質 を 理 解 で き る。 ダ ン ・ク
ロ ー ス ン著
前掲 翻 訳本
103頁
5) 下 位 請 負 制 と補 助 工 制 度 に つ い て は,中
30∼32頁
6)
川誠士
『テ イ ラー 主 義 生 成 史 論 』 森 山 書 店
(1992年)
を参 照 され た い 。
こ の小 銃 工 場 の 実 例 は,井
上 忠 勝 『ア メ リ カ経 営 史 』 神 戸 大 学 経 済 経 営 研 究 所
り 引 用 し た。 井 上 忠 勝 氏 は,同
頁 に お い て,「receiverの
Tilton)
と い う請 負 人 は,と
10,380ド
ル の 年 収 を え た 。 こ れ は,社
あ っ た 」 と述 べ て い る。
くに 有 力 な 請 負 人 で あ っ た け れ ど も,1881-93年
長 を 除 くな ら ば,他
(1961年)132頁 よ
製 造 を 引 き 受 け た テ ィ ル ト ン (Albert
の期 間 に お い て,平
均
の どの よ うな 会 社 役 員 の 給 料 よ り も高 額 で
三
42
表1
A.W.
学
研
究
$
総所得
賃金
$
$
333
Lawton
Paine
(1874年 )
請負人
請 負人 とそ
の従 業員 の
所得 総額
Taylor
Theodore
商
ホ ワ イ テ ィ ン社 に お け る内 部 請 負 人 と そ の 従 業 員
請 負人 の氏名
Willam
田
333
請 負 人の従 業員
請 負所得
(job work)
192
$
平 均賃 金
人数
141
480
480
331
149
90!
901
514
387
George
B. Searles
1,030
919
391
528
.5
($111)
Welcome
Hewitt
1,575
730
489
571
673
740
828
.3
($172)
1
1-
390
Lewis
Smith
1,635
A.W.
Thomas
1,789
!,403
1,229
1,399
John H. Aldrich
1,193
917
220
697
1十
823
George
2,479
1,834
665
1,169
1.3
500
2,582
674
524
150a
6
318
1,626
643
983
2
577
3
608
2十
520
5
356
O.B.
P. Fisher
Moulton
Joseph G. Allen
2,779
Henry
2,790
966
670
296
Joshua T. Carter
2,863
Orrin Wade
2,945
1,718
1,161
625
522
1,093
639
809
433
942
566
C. Peck
John and
Abraham
3,457
376b
4
426
3,519
1,825
634
1,19ユ
3
565
Smith
3,709
3,739
3
678
Robert
Foster
4,274
12
331
Carlos
Heath
4,737
1,068
1,117
1,347
1,878
2,092
1,408
2,489
1,052
308
F. Baker
485
589
658
473
473
489
545
384
7
Cyrus
1,533
1,706
2,005
2,351
2,565
1,897
3,034
1,436
4
596
780
567
James
Schofield
$406
B.L.
Hopkins
M.
Willard
Hopkins
5,790
John Harrington
5,870
Warren
6,059
Smith
Frederick
Houghton
6,198
3766
6
537
12
331
8.5
353
10
476
J.H. Burbank and
John Flannigan
6,486
718
505
213b
16
312
David
Smith
7,018
8,334
649
1,569
1,349
1,208
996
1,347b
1,347b
500
Taft
445
573
535
551
520
478
506
13
Oscar
1,093
2,142
1,884
1,759
1,516
1,825
1,853
12
516
22
348
23
400
16
619
23
502
George
C.H.
L. Bathrick
9,530
Warfieldc
11,179
Henry
Woodmancy
James
and
Charles
11,414
15,223
Pollock
(出 所 )PayYOII,
job work, and
Library,
Harvard
University.
注a.0.B.
Moultonに
関 す る請 負所 得
明 らか に 紛 失 して い る が,し
注b.2人
い は2人
が1っ
か し1874年
(job work)
record
(た と え ば,父
book,
Whitin
の 記 録 は,1874年
Machine
Works
Collection,
Baker
に つ い て の み 記 載 され て い る。 残 りの 記 録 は
の 請 負 所 得 が か れ の 稼 い だ す べ て で あ ろ う。
の 契 約 を 共 有 し た こ れ ら 事 例 で は,2人
の 内 の1人
(た と え ば,息
contractor-employee
213b
の 請 負 人 が2等
親 ) が 年 長 者 の バ トー ナ ー で,か
子 ) は 若 輩 者 の パ ー トナ ー で あ っ た の か ど う か,に
分 す る こ と に 合 意 し た の か ど う か,あ
れ が 請 負 所 得 の す べ て を 所 得 し,い
る
ま1人
つ い て 知 る す べ を も た な い が,わ
た しはか れ ら
の 契 約 を 共 有 し て い た 。 わ た し は,そ
の期 間 に従 っ
に 請 負 所 得 を 等 し く分 割 し た 。
注c.David
SmithとC.
H.
て す べ て を 等 し く分 割 し,そ
Warfieldは
こ の 年 の あ る期 間1つ
れ をその 年 の 後期 のか れ らの記 録 に加 え た。
ダ ン ・クP一
ス ン著
『科 学 的 管 理 生 成 史 』100頁
よ り引用
テイラー システム とフォー ドシス テム 出現 におけ るアメ リカの経営経 済的 ・社 会的条件 (1)
ら,請 負 人 の 総:
所 得 とい え ど もWillam
らWarren
Smithの3034ド
Taylorの333ド
43
ル (ただ し彼 は従 業 人 をかか えて い ない) か
ル ま で実 に バ ラエ テ ィに 富 ん で い る こ とが わ か る。 が,従
業 員 の賃金
よ り も請 負 人 の 所 得 が 遥 か に高 額 で あ る こ とは確 実 で あ る。
第4は,内
部 請 負制 度 は 請 負 人 に 対 し,生 産 過 程 の 改 善 とい う点 で イ ン セ ン テ ィ ブ を供 与 す る と
同 時 に,あ
る条 件 下 で は 逆 に イ ン セ ン テ ィ ブ の 発 揮 を阻 害 す る とい う実 に パ ラ ドキ シ カル な性 質 を
持 つ 点 が 指 摘 で きる。 生 産 過 程 の 改 善 とい う イ ン セ ン テ ィ ブ は ど こ で発 揮 され る の か 。 まず 第1に
請 負 人 は請 負 価 格 の締 結 後,で
き るだ け 迅 速 に 契 約 を履 行 す る為 に,生 産 過 程 の 改 善 努 力,す
なわ
ち 無 駄 な 作 業 の 排 除 と効 率 的 作 業 方 法 の 考 案 に 苦 心 し,尽 力 す る。 こ の 点 に 関 し,フ ィ リ シ ア ・
ジ ョ ン ソ ン ・デ ィ ラ ップ (FeliciaJohnson Deyrup) は レ ミン トン社 (Remington&Co.)
の 作 業 を概
観 し た上 で 次 の 様 に指 摘 す る。 す な わ ち,
「こ れ らの 請 負 人 た ち はす ぐれ た 機 械 工 で あ り,常 に 改 善 す べ く研 究 して い る。 そ の こ とに よ って,
7)
彼 らは 作 業 を単 純 化 し,よ り多 くの 作 業 を生 み 出 し,か くて 利 益 を増 大 して い る」 と。
請 負 人 は,熟 練 労 働 力 の養 成 や 生 産 過 程 に お け る管 理 ・監 督 に 力 を注 ぎ,辣 腕 をふ る う こ とに も尽
力 し た。 また,所 得 増 大 の 為 雇 用 労働 者 数 をで き る 限 り削 減 し よ う と労 働 力 節 約 的 機 械 の 開 発 に も
専 心 した。 これ が 第2の
イ ン セ ン テ ィ ブ の発 揮 で あ る。 この 点 に 関 し,労 働 委 員 会 は,
「ニ ュ ー イ ン グ ラ ン ドの あ る町 の 製 造 業 者 の1人
が 彼 の工 場 に お け る請 負 制 度 の 作 業 に 関 して 述 べ
て い る こ とは,旧 制 度 下 の 請 負 人 や 下 位 請 負 人 が 彼 の企 業 の ほ とん どす べ て の 労 働 節 約 的 機 械 を発
8)
9)
明 し た とい う趣 旨 の もの で あ っ た 」 と述 べ て い る。
「機 械 の 開 発 」 に 関 し て は,チ
ャー ル ズ ・フ ィ ッチ (CharlesFitch) も次 の よ うに 述 べ て い る。
「生 産 性 を で き るか ぎ り増 大 す る こ とが,か
で も あ る。 この よ うな 製 造 業 者,及
れ ら の 関 心 で あ り,利 益 で あ り,ま た こ の 階 層 の 願 望
び 同種 の 製 造 業 者 に お け る生 産 効 率 の 改 善 は ほ とん どが 最 小 の
支 出 で 最 大 の 成 果 を獲 得 す る た め の 細 部 の 開発 に よ る もの で あ る。 出来 高作 業 や 請 負 で 親 方 機 械 工
を雇 用 す る とい う制 度 は,特 殊 な機 械 の 開発 の 第1原
10)
る と考 え られ て い る 」 と。
則 で あ り工 場 に お け る よ り高 い 生 産 効 率 で あ
さ ら に効 率 を上 げ る こ とで 原 価 を削 減 し,そ の 結 果 所 得 の 増 大 を実 現 し よ う と 「工 具 の 改 善 」 が行
7)Felicia
Johnson
Economic
8)U.S.
Arms
of the
Commissioner
ク ロー ソ ン
9)
Deyrup,
Development
Makers
Small
of Labor,
前 掲訳 本
ア ダ ム ・ス ミ ス
80頁
(Adam
of
Arms
the
Connecticut
Industry
Regulation
and
Restriction
Smith)
10)Charles
は,そ
の著 作
ア ダ ム ・ス ミ ス の
(2004年 ) の95∼111頁
Fitch,
Report
ダ ン ・ク ロ ー ソ ン
of Output,1905,
『国 富 論 』 に お い て
p.136.た
on
前掲 訳本
「分 業 」 が
紀 後 半 の ア メ リカ 東 部 の 機 械 工 業 企 業 で は
改 善 と 改 良 を 促 進 し た 。 ア ダ ム ・ ス ミ ス の 見 解 に 関 し て は,拙
第5号
Study
of
the
p.208.
だ し,ダ
ン ・
よ り引 用 。
な る こ と を 力 説 し て い た が,19世
『生 産 シ ス テ ム 』 の 特 質
Valley:ARegional
1798-1870,1948,
稿
「機 械 発 明 」 の 母 と
「内 部 請 負 制 」 が 機 械 の
「マ ニ ュ フ ァ ク チ ュ ア 段 階 に お け る
『分 業 論 』 の 考 察 を 踏 ま え て 一
」 三 田 商 学 研 究 第47巻
を参 照 され た い 。
the
Manufacture
80∼81頁
of Interchangeable
よ り引 用 。
Mechanism,1883,
p.149.た
だ し,
44
三
わ れ た。 これ が 第3の
田
商
学
研
究
イ ンセ ン テ ィ ブ の 発 揮 で あ る。 「工 具 の 改善 」 につ い て は,ヘ
ン リー ・ロー ラ
ン ド (Henry Roland) が 次 の 様 に指 摘 して い る。 す な わ ち,
「こ れ らの 請 負 人 は完 全 に作 業 を支 配 して い た。 彼 ら は 契 約 に よ っ て 自分 た ち の部 門 の 工 作 機 械 を
整備 す るに 足 る小 型 の工 具 を受 け 取 るが,こ
れ らの 小 型 の工 具 は彼 らに よ っ て 自由 に使 用 され た。
そ れ ぞれ の 請 負 人 は 自分 の 工 具 を保 持 し,も し その 工 具 を改 善 した い 場 合 に は,自
11)
と な っ た。 そ れ ぞれ の 請 負 人 は大 な り小 な り 自分 でや る力 を持 っ て い た」 と。
らが工 具 製 作 者
つ ま り,請 負 価 格 が不 変 で あれ ば,請 負 人 は作 業 現 場 の生 産 性 向上 の 成 果 を 自 らの 利 とせ ん が 為 に
製 造 工 程 の合 理 的 作 業 方 法 や 製 造 技術 の 改 良 ・開 発 に最 大 限 の 関 心 を注 ぎ,実 行 す る。 た だ し,請
負 価 格 の下 方 改 訂 が 予 想 以 上 に行 な わ れ れ ば こ と は別 で あ る。 請 負 人 の 製 造 工 程 に お け る合 理 的 作
業 方 法 や 技術 の 改 良 ・改 善 に対 す るモ チ ベ ー シ ョン と熱 意 は 一 気 に 消 失 す る 。 請 負 価 格 の 下 方 改 訂
の 根 本 的動 機 とは,請 負 価 格 の低 下 に よ る工 場 所 有 者 の所 得 :
増大 に あ る こ とは 言 う まで も な い。 た
だ 請 負価 格 削 減 の根 拠 と し て は,経 営 努 力 に よ る 生 産 性 上 昇 の 実 現 (=コ ス トダ ウ ン) とい う経 営
12)
内 部 的 条 件 と,不 況 に よ る製 品価 格 の 低 落 とい う経 営 外 部 的 条 件 の2っ が あ る。 こ の点 を留 意 せ ね
ば な らな い 。
第5に,請
負 人 は通 常 複 数 名 雇 用 さ れ て お り,従 っ て 工 場 で は 実 質 的 に 複 数 名 の 請 負 人 に よ る
「分 権 的 管 理 」 が 実 行 さ れ て い た。 この 点 に関 して,ト ー マ スR.ネ
ィ ヴ ィ ン は ニ ュ ー ・イ ン グ ラ ン
ドの紡 織機 械 メー カ ー の ホ ワ イ ス テ ィ ン ・マ シ ン ・ワ ー ク ス社 (WhistinMachine
Works)
を実 例 に
挙 げ,次 の よ うに 述 べ て い る 。 す な わ ち,
「マ ー ス トン ・ホ ワ イ ス テ ィ ン (Marston Whistin) の 指 導 の下 で ホ ワ イ ス テ ィ ン社 は 初 め て 統 合 的
な生 産 単 位 とな っ た 。 ジ ョ ン ・C・ ホ ワ イ ス テ ィ ン (John C.
Whistin) と ジ ョサ イ ア ・ラ ッセ ル
(JosiahLasell) の 時 代 に余 りに 急 成 長 を遂 げ た の で,組 織 は 時 代 の 変 化 に つ い て い け な か っ た 。
1886年 に 工 場 は依 然 と して1860年 と同様,ゆ
は工 場 長 (superintendency)に あ るが,実
11)Henry
Roland,
Six
Example
1897,p.997.
12) こ の 点 に 関 してThomas
るや か に 分 権 化 され て い た 。 理 論 的 に は 作 業 の全 管 理
際 に は工 場 長 は管 理 者 とい う よ り も調 整 者 で あ っ た 。 と
of Successful
R. Navinは
Shop
Management;in
Engineering
Magazine
次 の よ う に 指 摘 し て い る。 す な わ ち 「請 負 作 業
は会 社 の 単 位 あ た りの 直 接 労 務 費 を一 定 水 準 に 凍 結 す る の で,会 社 は,た
12,
(job work)
だ た だ 生 産 高 を上 げ る こ と
で効 率 的 管 理 を行 う部 門 か ら 利 益 を得 る。 この 制 度 の 金 銭 上 の す べ て の 利 益 は 請 負 人 に 帰 属 す る 。 請
負 人 に 彼 ら の 担 当 す る部 門 の 効 率 を改 善 させ よ う とす る制 度 的 有 効 性 は あ る 自然 的 限 界 を持 って い る。
請 負 人 は 理 論 的 に は疑 い も な く,作 業 の 円 滑 か つ 効 果 的 流 れ を維 持 す る為 の 絶 え 間 な い 努 力 に よ り得
られ 利 益 を 実 現 す る が,彼
ら は 理 論 と現 実 と を 調 和 す る に あ た り困 難 に ぶ つ か ら ざ る を え な か っ た の
で あ る 。 請 負 価 格 を 改 訂 す る頻 度 が 少 な い た め に,部
門の生産 高 改善 の ため に特別 な努 力 に向け た金
銭 効 果 に 請 負 人 を密 に 従 わ せ る こ と は 不 可 能 で あ っ た 。 さ ら に ま た,請
の 担 当 部 門 の 多 忙 さ,つ
負 人 自身 の 繁 栄 は 必 ず や 彼 ら
ま り彼 らの あ ず か り知 ら ぬ要 因 に 依 存 す る の で,請
能 力 は 決 して 大 き くは な い と感 じ ざ る を え な か っ た 」 と。 彼 は,請
負 所 得 を増 大 す る 自 ら の
負 人 の 所 得 が,部
昇 と い う経 営 内 努 力 と請 負価 格 の 変 化 や 好 不 況 と い う彼 ら の あ ず か り知 ら な い 分 野,す
部 的 条 件 に 規 定 さ れ る こ と を解 説 し て い る 。Thomas
R, Navin,
ibid, p.144.
門 内 の効 率 性 上
な わ ち経 営 外
テイラー システム とフォー ドシステム出現におけ るア メ リカの経営経 済的 ・社会 的条件 (1)
45
い うの も彼 の主 要 な任 務 は,個 々 の 部 門 を支 障 な く協 調 的 に作 業 させ る こ とだ っ た か ら で あ る。 工
場 で の 実 際 の権 限 は 部 門長 ら (department heads) に あ り,彼
13)
を一 斉 許 さ な か っ た の で あ る」 と。
らは 自分 の 部 門 の 指 揮 に 対 す る干 渉
つ ま り,ホ ワ イ ス テ ィ ン ・マ シ ン ・ワー ク ス社 が 統 合 的 生 産 単 位 の 形 成 に初 め て成 功 し た とは い っ
て も,換 言 す れ ば 工 場 長 を頂 点 とす る管 理 体 制 が 確 立 した とい って も,形 式 的 にす ぎず,実 質 的 に
は各 部 門 長 た る 請 負 人 に よ る 「分 権 的 管 理 」 が 支 配 して い た とい うわ け で あ る。 形 式 的 に で も工 場
長 が 設 定 され て い る工 場 で は,請 負 人 た ちは 工 場 長 の 調 整 に従 う こ と を要 請 され,工
工 場 で は,請
場長 のいない
負 人 た ちが 担 当部 門 と工 場 全 体 の 業 務 上 の 調 和 や 調 整 の実 行 を要 請 さ れ るが,如 何 な
る 「要 請 」 に も忍従 す る とい う こ とは彼 らに と り最 も実 行 困難 な 不 得 意 分 野 で あ っ た 。 とい うの も
彼
14)
らは 「そ の権 力 あ る地 位 の た め に,し ば しば 傲 慢 で あ りま た独 占的 で あ っ た」 か らで あ る。
第6に,何
よ り も重 要 な 点 は,雇 用 権 と現 場 で の 生 産 管 理 権 を掌 握 す る請 負 人 が 熟練 労 働 者 で あ
15>
る とい う点 で あ る。従 っ て,請 負 人 の 内部 に お い て 管 理 労 働 と現 場 労 働 は,換 言 す れ ば 構 想 と執 行
は結 合 して い る。
内部 請 負 制 度 の 制 度 そ れ 自体 の 特 質 で は な い が 大 量 生 産 体 制 の 重 要 な構 成 要 素 で あ り,の ち に
フ ォー ドシ ス テ ム が 踏 襲 す る こ と とな る 「
特 徴 的 要 件 」 が 内部 請 負 制 度 を採 用 す る工 場 です で に観
察 で きた 。 こ こ で,そ
の 「特 徴 的 要 件 」 を指 摘 し,明 らか に して お こ う。 「
特 徴 的 要 件 」 と は互 換
性 部 品 の 製 造 と組 立 て で あ る。 リー ド ・ア ン ド ・バ ー トン社 (Reed and Barton Co.),ボ ー ル ドウ ィ
ン社 (Baldwin Locomotive),さ
ら に は ウ ォ ル サ ム社 (Waltham Watch
Co.) で 互 換 性 部 品 の製 造 と
その 組 立 て が す で に行 な わ れ て い た 。D・ ク ロー ス ン は,互 換 性 部 品 の 出現 に 関 し,
「19世 紀 の 技 術 に 対 す る ア メ リ カ の も っ と も重 要 な 貢 献 を 意 味 す る も の で あ っ た 。 互 換 性 部 品 の 発
展 以 前 に は,ラ
イ フ ル 銃 や 旧 式 歩 兵 銃 が 戦 闘 中 に 故 障 す れ ば,別
の 銃 か ら外 し た 部 品 を 取 りつ け る
こ とは不 可 能 で あ っ た 。 適 当 な 道具 を もっ た 訓 練 さ れ た 職 人 だ け が 必 要 と され る部 品 を作 る こ とが
で き,部 品 を 取 り つ け る こ と が で き た 。 も し 部 品 が 互 換 で き な け れ ば,今
意
16)
味 に お け る 大 量 生 産 は 明 ら か に 不 可 能 で あ る 」 (・は 引 用 者 )
R. Navin,
日用 い ら れ て い る 言 葉 の
13)
Thomas
14)
井上 忠勝
15)
こ の 点 に 関 し て 百 田義 治 氏 は 次 の よ うに 主 張 す る。 す な わ ち 「内 部 請 負 制 度 は,万
前掲 書
ibid, p.139.
150頁
が 解 体 さ れ た と は い え,な
働 者 の 充 用 が 可 能 で は あ っ て も,彼
な 段 階 に お い て,量
能的 手工 的熟練
お 精 密 な作 業 に 高 度 な 熟 練 を要 し,作 業 の 遂 行 に 半 熟 練 労 働 者 や 不 熟 練 労
ら に よ る作 業 の 遂 行 に は 熟 練 労 働 者 に よ る 『周 到 な 監 督 』 が 必 要
産 体 制 を実 現 す る うえ で 『
合 理 的 』 な工 場 管 理 制 度 と して 導 入,普
及 し た もの で
あ り,そ の こ とが 内 部 請 負 制 度 の19世 紀 的 起 源 の 本 質 で あ る」 と。 つ ま り,百 田 氏 は 現 場 労 働 の 熟 達
者 た る 熟 練 労 働 者 に よ る 管 理 力 の 掌 握 と生 産 過 程 の 支 配 を 内 部 請 負 制 の 本 質 と把 握 す る 。 百 田義 治
「内 部 請 負 制 度 の 管 理 史 的 意 義 に つ い て
『熟 練 依 存 型 間 接 管 理 制 度 』 の 特 質 と管 理 制 度 変 遷 の 規
定 要 因 を巡 っ て
」駒 澤大 学経 済 学論集
第23巻 第3号
(1991年 )145頁
16) ダ ン ・ク ロ ー ス ン 前 掲 訳 本 77頁
フ ォ ー ドシ ス テ ム の 出 現 は 大 量 生 産 体 制 の 確 立 と意 義 づ け ら
れ,周
知 の よ う に フ ォ ー ドシ ス テ ム の1構
成 要 素 と して 「
互 換 性 部 品 」 が あ る。 互 換 性部 品 は フ ォー
ドシ ス テ ム に お い て 初 登 場 し た の で は な く,そ れ 以 前,内
部 請 負 制 を採 用 した 機 械 工 場 で観 察 さ れ て/
三
46
と し,高
2.内
田
商
学
研
究
く評 価 し て い る 。
部 請 負 制 度 の解 体 とそ の後 の新 た な動 向
1873年 恐 慌 の 勃 発 とそ の 後 の 経 済不 況 は,産 業 資 本 主 義 か ら独 占資 本 主 義 へ の 移 行 と質 的 転 換 を
惹起 した が,同 時 に 内部 請 負 制 の 消 滅 を促 進 す る作 用 を及 ぼ した。 この 経 済 恐 慌 は,ア
メ リカ東 部
の機 械 工 業 企 業 に原 価 削 減 の 至 上 命 題 を突 き付 け,工 場 所 有 者 は請 負 人 に請 負 価 格 の切 り下 げ を要
求 し た。 こ の状 況 下 で工 場 所 有 者 は,内 部 請 負 制 度 の特 質 で あ る 「固 定 的 労 務 費 」,「実 体 と根 拠 の
不 明 確 な請 負価 格 」,さ らに は 「請 負 人 の 高 額 な所 得 」 を放 置 す る わ け に は いか な くな った 。 工 場
所 有 者 は手 始 め に,請 負 人 か ら労 働 者 の 雇 用 権 と賃 金 支 払 い権 を奪 取 す る こ と で,請 負 原 価 の調 査
に 着 手 す る。 こ の 「変 化 」 の 意 義 に つ い てヘ ン リー ・ロー ラ ン ドは 次 の よ うに 述 べ て い る。 す な わ
ち,「 この 賃 金 支 払 い の企 業 へ の 移 管 は,無 害 で とる に た らな い些 細 な 変 化 の よ うに 見 え る が,実
際 の と こ ろ,最 終 的 に は 請 負 人 か ら彼 の 利 益 を奪 い去 る とい う重 大 な結 果 を惹 起 す る こ と に な っ た 。
企 業 が 労 働 者 に賃 金 を直 接 支 払 う よ うに な る と,直 ち に 作 業 の 出 来 高 につ い て の 正 確 な情 報 を得 る
こ とに な っ た。 さ らに,当 然 な が ら生 産 に 費 や さ れ た 労働 時 間 と い う観 点 か ら,出 来 高 が 高 い とか,
あ る い は価 格 に対 して 低 い こ と も発 見 で き る。 か くて 企 業 は,次 年 度 の請 負 人 の 原 価 の低 減 可 能性
に一 層 厳 格 に近 づ け る こ とが で き た。 そ の 結 果,毎
年 の 契 約 の さ い 提 出 さ れ た価 格 を上 手 く “調
17)
整 ” した り,あ るい は低 減 す る こ と もで き る よ うに な っ た の で あ る」 と。
工 場 所 有 者 が 雇 用権 と賃 金 支 払 い権 を奪 取 す る こ とで,労 働 者 の 作 業 出 来 高 を把 握 し,そ れ まで 工
場 所 有 者 と請 負 人 との 間 で常 に 不 満 と困 惑 の種 で あ り続 け た 「請 負価 格 」 の 実 体 に 光 が さ す こ とに
18)
な っ た 。 ホ ワ イ テ ィ ン ・マ シ ン ・ワー ク ス社 で は 請 負 人 は1864年 の56名 か ら1870年 に49名,さ らに
1886年 に は25名 と半 減 し,1888年
に は 請 負 人 は 雇 用 権 を喪 失 し た とい う。 ま た,ウ
連 発 銃 会 社 で は!903年 に 請 負 人 は雇 用 権 を喪 失 し,1904年
ィ ン チ ェ ス ター
の18名 か ら1906年 に は14名 へ,1908年
は
\ い る。 こ の 技 術 的 基 盤 を フ ォ ー ドが 発 展 的 に 継 承 し た点 を看 過 して は な ら な い 。
!7)Henry
Roland,
ibid, p.998.こ れ に 続 け て,ヘ
ン リー ・ロー ラ ン ドは 次 の よ う に 述 べ て い る。 す な わ
ち,「 しか し な が ら全 体 と して は 請 負 人 の 所 得 に 何 ら変 化 を も た ら さ な か っ た。 確 か に 作 業 の 価 格 は
年 々 低 下 し,作 業 の 質 は 着 実 に 改 善 した が,会 社 は 請 負 人 の 大 な る所 得 を満 足 に 足 る もの と して は 眺
め て い な か っ た 。 そ し て つ い に!883年 頃 に は全 請 負 制 度 が 廃 止 され,固 定 給 の 職 長 と出 来 高 給 の 労 働
者 が 難 な く とっ て 代 っ た の で あ る」 と。 こ こ で 請 負 人 の 所 得 に変 化 が 生 じ な い とあ る が こ れ は あ く ま
で 一 時 的 現 象 と見 た 方 が よ い で あ ろ う。 工 場 所 有 者 も所 得 削 減 を要 求 す る行 動 に 出 る。
18)
中 川 氏 は 内部 請 負 制 度 の 消 滅 の 決 定 的 要 因 と して,具
体 的 に,使
置 を挙 げ て い る。 ま た この 「雇 用 部 」 設 置 の 目的 と して,以
の 労 働 者 の 排 除 で あ り,第2に
働 者 を選 別 し雇 用 す る こ とに,請
用 者 に よ る 「雇 用 部 」 の 工 場 内 設
下 の2点
を 指 摘 す る 。 第1に,組
合所属
「1880年 代 と1890年 代 に 急 速 に拡 大 し た移 民 の な か か ら適 切 な 熟 練 労
負 制 度 と い う非 公 式 の 募 集 制 度 が 対 応 し きれ な くな っ た こ と」 で あ
る。 工 場 内 部 で の 雇 用 権 の 奪 回 に 「
移 民 労 働 者 の 利 用 」 が 作 用 し て い る と い う点,興
味深 い指 摘 であ
る。 「労 働 力 の 利 用 範 囲 」 が 請 負 人 の 在 住 す る コ ミュ ニ テ ィ を 超 え な け れ ば な ら な い 情 況 が 出 現 した
こ とに な る。 中 川 誠 士
前 掲書
39頁
テイラー シス テム とフ ォー ドシステム出現におけ るア メ リカの経営 経済的 ・社会 的条 件 (1)
8名,1910年
に は6名 へ と請 負 人 の 数 は減 少 を続 け,1914年
47
に は つ い に消 滅 し た。 工 場 制 生 産 の 出
現 に伴 い,必 然 的 に 発 生 した 「多数 の労 働 者 を如 何 に 管 理 す るか 」 とい う当 時 最 大 の 課 題 を解 消 し
たか に 見 え た 内部 請 負 制 度 も,経 営 内努 力 に よ る生 産1生上 昇 と コス トダ ウ ンの 実 現 を踏 ま え た請 負
価 格 の合 理 的 設 定 と い う内在 的 動 機 が1873年 恐 慌 とそ の 後 の深 刻 な不 況 とい う経 営 外 的 動 機 に大 い
に刺 激 され,こ
れ を契 機 に厳 密 な コ ス ト把 握 と コス ト低 減 が 不 可 避 的 課 題 と な り,請 負 人 か らそ の
権 力 の 象徴 と もい え る雇 用 権 を奪 取 し,つ い に は請 負 人 を工 場 か ら追 放 した の で あ る。
こ の よ う な経 過 を と りな が ら内 部 請 負制 度 は 退 潮 を示 し,廃 止 を余 儀 な くされ る。1883年 に シ ン
ガ ー 裁 縫 機 会 社 は20年 間 採 用 した 内 部 請 負制 を廃 止 し,1887年
に は イ ェー ル&タ
ウ ン工 業 会 社 が そ
れ を廃 止 し た。 ペ チ ー ・マ シ ン ・ワー クス社 で は1887年 ま で に は伝 統 的 請 負 組 織 は廃 止 され,ロ
ウ
エ ル ・マ シ ン工 場 で は遅 く と も1890年 ま で に は 廃 止 され た とい う。
19)
19世 紀 後 半 か ら20世 紀 初 期 に か け て,内 部 請 負 制 度 に とっ て代 わ っ た の が 万 能 職 長 制 で あ る。 置
き換 え られ た職 長 の所 得 は請 負 人 の そ れ よ り も低 く,社 会 的 地 位 も低 か っ た 。 従 っ て ウ ィ ン チ ェ ス
20)
ター 社 で は 請 負 人 の大 半 は職 長 に 転 進 す る こ とは な か っ た とい う。 万 能 職 長 制 に お い て 雇 用 権 は工
場 所 有 者 に あ り,彼 が職 長 及 び 現 場 労 働 者 を直 接 雇 用 す る。 前 者 に は 固定 給 が,後 者 に は 出来 高給
が 支 給 さ れ た 。 従 っ て,万 能 職 長 制 に お い て 生 産 管 理 権 を保 有 し,労 働 過 程 を掌 握 す るの は もはや
工 場 外 部 者 た る請 負 人 で は な く工 場 内部 者 た る職 長 (Foreman) で あ る。 こ こで 注 目す べ き は,労
働 過 程 の 間 接 的 管 理 か ら直 接 的 管 理 へ の移 行 (=労働 過程 の管 理権 が外 部者 た る請負 人 か ら内部者 た る
職長 へ移行 ) とい う重 大 な形 式 上 の 相 違 点 を新 た に 示 しな が ら も 「職 長 も ま た 熟 練 労 働 者 な り」 で
あ り,「 熟 練 労 働 者 に よ る労 働 過 程 の 支 配 」 か ら脱 却 して い な い 点 で あ る。 この 点 に 関 して は,万
能 職 長 制 は 内 部 請 負制 と 「実 質 的 共 通 性 」 を保 有 して い る と言 っ て よ い。
内部 請 負 制 の 崩 壊 に 伴 い,請 負 人 に代 わ る 「統 制 者 」 の 出現 が 要 請 さ れ た 。 機i械技 師 (Mechanical Engineer) の登 場 で あ る。 彼 らが 請 負 人 に代 わ り,職 長,あ
19)
請 負 人 と は 異 な り,万 能 職 長 制 に お い て 職 長 は 労 働 生 産 性 に 対 して 直 接 的 な 利 害 を持 た な か っ た と
い う。 こ の 点 に 関 し て は,中
20)
る い は そ れ 以 上 の 座 に 着 くよ うに
John
Buttrick, The
no.3,1952,
川 誠士
p.199-220.こ
Inside Contract
前掲 書
30頁 を参 照 され た い 。
System,
in;The Journal
of Economic
History
Volume
XII,
こ で 次 の よ う に 述 べ て い る。 「請 負 人 の 生 活 は 益 々 困 難 を きわ め た 。 彼 の 利
益 率 や 所 得 は減 少 し た し,首 脳 部 は頻 繁 に 彼 を煩 わ せ た 。 請 負 人 に は もは や 雇 用 や 解 雇 に 関 す る独 占
的 管 理 権 は な し,職 長 や 役 員 と比 べ 彼 の 地 位 は 弱 体 化 し た 。 請 負 人 が 職 長 に な りや す くす る為 に,職
長 の ボー ナ ス制 度 を請 負 人 が 受 け 取 る利 益 と似 せ る とい う改 訂 が な され た 。 ま た職 長 に も工 場 長 が 送
り込 む 労 働 者 を拒 絶 す る こ とが 認 め られ た し,彼
らの 推 薦 状 が ウ ィ ン チ ェ ス ター 社 の従 業 員 名 簿 に 載
る た め に有 効 と さ れ た の で あ る 。 こ れ ら大 胆 と も言 え る努 力 に もか か わ らず,請 負 人 の 半 数 以 上 は職
長 とは な らず 辞 職 し た 。 しか し こ の 退 出 は ほ とん ど特 別 な 問 題 を 引 き起 こ さ な か っ た 。 請 負 人 の 多 く
は 高 齢 で あ り,彼
か わ らず,多
らの 職 務 の ほ とん ど を助 手 に 委 任 した か ら で あ る 」 と。 多様 な懐 柔 策 の 提 示 に もか
くの 請 負 人 は職 長 へ と転 身 を遂 げ る こ とは な か っ た が,そ
の 理 由 と し て助 手 の 存 在 が 指
摘 さ れ て い る。 請 負 人 と助 手 との 所 得 格 差 と助 手 に よ る請 負 人 職 務 の 熟 知 が 助 手 の 職 長 へ の 転 身 を促
進 した と も言 え る だ ろ う。
48
三
表2
田
商
学
研
究
ア メ リ カ に お け る大 学 の機 械 工 学 科 卒 業 生 数 (1868∼1881)
年 度 (1800)
68 69 70
71
72
73
74
75
(4)10
6
9
4
6
76
77
78
79
80
81
大 学名
昃﹂
5
フ ン セ フー
8
1⊥
工一 ル
2
9乙
-⊥
り乙
リー ハ イ
り乙
1⊥
マ サ チ ュー セ ッ ツ工 科 大 学
4
2
1
2
1
(9) (7) (7) (7) (9) (9)
9
2
ジ ョー ジ ア
2
1
ワ シン トン
6
2
8
5
2
3
1
2
2
(4) (2) (1) (4)(1)(4) (6) (3) (6) (5) (6)
ワ ー セ ス工 芸 大 学
6
4
9
10
11
3
4
1
9
16
9
22
12
4
15
!6
1⊥
ウ ィス コン シン
匚
﹂
-
3
尸0
匚﹂
94 り乙
4
3
3
(シ ブ り一 ・カ レ ッ ジ)
カ リフ ォ ル ニ ア
1
5
6
可⊥
ミネ ソ タ
Thurston,
Relations
to our
p.960.た
だ し1882年
Technical
Progress,
以 降93年
お そ ら く は こ の 当 時,機
Education
in Transactions
in
the
of A merican
ま で は 省 略 。 な お,数
United
States, Its Social,
Society
of Mechanical
and
1
Economic
vol.14,1892-y
93,
字 に 付 し た 括 弧 の 意 味 に っ い て は い ま の と こ ろ 不 明 だ が,
械 工 学 科 と な ら ん で 電 気 工 学 科 も設 け ら れ て い る の で,両
区 分 が 明 確 で な い もの に つ い て,上
Industrial,
Engineers,
0乙
1
4
イ リノイ
(出 所 )R.H.
3
ρ0
1
91211
5
94
ス チ ー ヴ ン ス工 科 大 学
411
3
5
1
メ リー ラ ン ド農 科 大 学
コー ネ ル
1
1
1
カ ン ザ ス農 科 大 学
5
2
者 の 間 に 重 複 が 生 じ,そ
の
記 の 標 示 が な さ れ た も の と思 わ れ る 。
山下 幸夫 編 著 『経営 史 一
21)
な っ た。 そ の 背 景 に つ い て 簡 単 に ま とめ て お こ う。 第1に
い て は先 に 指 摘 した とお りで あ る。 第2に,独
欧米 』141頁 よ り引用
内部 請 負 制 の 崩 壊 で あ る。 この 原 因 につ
占企 業 の 形 成 は生 産 規 模 の増 大 と資 本 力 の 増 強 を可
能 に し,資 本 力 の 増 強 は 生 産 手 段 の 集 積 を実 現 す る が,こ
こ で生 産 手 段 の う ち労 働 手 段 に 量 的 な変
化 だ け で な く質 的 変 化 が 生 じた 点 に 着 目 しな け れ ば な ら な い。 労 働 手 段 の構 造,及
び そ の 精 度 の格
段 の 高 度 化 と複 雑 化 で あ り,経 験 的 実 践 は科 学 的 原 理 と科 学 的 知 識 に とっ て 代 わ らね ば な ら な く
22)
な っ た。 この 変 化 は,高 度 な技 術 的知 識 を保 有 す る機 械 技 師 の 必要 性 と重 要 性 を増 大 せ しめ る。 第
3に,1800年
代 後 半,ア
メ リカ の大 学 の工 学 部 に機 械 科 が 新 設 され,;機械 技 師 の 本 格 的養 成 の た め
の 環 境 整 備 が 始 め られ た 。
21)
こ の 点 に 関 し,寿 永 欣 三 郎 氏 は,機
械 技 師 は 「と き に は 職 長
(フ ォ ー マ ン) と して,あ
る いはそ れ
以 上 の 立 場 か ら,工 場 内 作 業 の 全 体 を と り し き っ て い た 」 と述 べ て い る。 寿 永 欣 三 郎 「19世紀 末 葉 の
ア メ リ カ と管 理 問 題 」 山 下 幸 夫 編 著 『経 営 史
22)
欧米』 所収
日本 評 論 社
(1977年 )140頁
こ の 点 に 関 し,井 上 忠 勝 氏 は 次 の よ う に 指 摘 し て い る。 す な わ ち請 負 人 の 「こ の よ う な努 力 もや が
て 限 界 に 達 す る と きが きた 。 そ の 原 因 と な っ た も の は,機
械 技 術 に お け る よ り顕 著 な発 達 で あ り,そ
し て長 い 経 験 と伝 統 的 な 機 械 技 術 に も とつ く経 験 的 な実 践 が,科
な け れ ば な ら な くな っ た 」 と。 井 上 忠 勝
前掲 書
151頁
学 的 な知 識 と方 法 に よ っ て代 置 さ れ
テイ ラー システム とフ ォー ドシステム出現 におけ るア メ リカの経営 経済的 ・社会 的条件 (1) 49
そ れ で は,機 械 技 師 に要 請 され た任 務 とは一 体 何 か 。 そ の 点 を明 らか に しよ う。 第1に,機
設 計 と製 造 で あ る こ とは 言 う ま で もな い 。 第2に
え るの が,次
の事 情 で あ る。 す な わ ち,独
械の
管 理 業 務 で あ る。 この 管 理 業 務 に 大 きな影 響 を与
占企 業 の 形 成 に伴 う生 産 規 模 の 増 大 は 工 場 の 大 規 模 化 と
傘 下 の 工 場 数 の 増 加 を促 進 し,工 場 所 有 者 は経 営 全 体 の 問題 の 解 決 に 心 血 を 注 ぐ。 が,こ
と工 場 の
現 実 的 管 理 業 務 に 関 して は その 権 限 を 「誰 か 」 に 委 譲 せ ざ る を え な い と い う事 態 が 一 般 化 す る。 こ
の 「誰 か 」 は もは や 請 負 人 で は な い 。 複 数 名 の 請 負 人 に よ る 「分 権 的 管 理 」 の 消 失 に 伴 い,新
たな
管 理 者 の登 場 が 急 務 とな っ た。
機 械 技 師 の機 能 上 の変 化 の 必 要 性 を い ち早 く認 識 し,厂 新 た な提 案 」 を表 明 し た の が,ヘ
R.タ ウ ン (Henry R. Towne)
Mechanical
で あ る。 彼 は1886年,ア
ン リー
メ リカ機 械 技 師協 会 (American Society of
Engineers) に お い て,「 経 済 家 と して の 技 師 (The Engineers as an Economist) 」 とい う
タ イ トル で報 告 を行 っ て い る。 彼 は,機 械 技 師 は 技術 者 の み な らず 「経 済 家 」 と して の 職 務 と機 能
を新 た に兼 備 せ ね ば な らな い と し,次 の 如 く力 説 す る。 す な わ ち,
「われ わ れ ア メ リカ 人 の 全 国 民 の 名 前 の 頭 文 字 の 組 み 合 せ 文 字,す
シ ン ボル で あ る ドル は,フ
ィー トや,分
や ポ ン ドや,ガ
な わ ち,わ れ わ れ の 貨 幣 単 位 の
ロ ン な ど しめ す 記 号 と殆 ん ど同 じ よ う な頻
度 を も っ て,技 師 の 計 算 の指 標 に結 び つ け られ て い る。 技 師 の 仕 事 の最 終 的 結 果 は,大
ドル とセ ン トの 問 題
て い の 場 合,
す な わ ち相 対 的 な い し絶 対 的 価 値 の 問 題 に帰 着 す る の で あ る。 こ の よ う に述
べ る こ とは,す べ て の技 師 の 仕 事 に と って あ て は ま る こ とで あ るが,と
て あ て は ま る こ とな の で あ る。 何 故 な ら,彼 等 の職 能 が,他
くに機 械 技 師 の 仕 事 に つ い
の 場 合 よ り も しば しば,工 場 の 諸 作 業
を組 織 し監 督 す る執 行 的義 務 をふ くみ,か つ 彼 等 の 組 織 され た努 力 が作 業 の成 果 を生 み 出 す その 職
人達 の 労 働 を指 揮 す る執 行 的 義 務 を含 む か らな の で あ る。
最 善 の 成 果 を確 保 す るた め に は,生 産 的 労 働 の 組 織 は,単 に 生 産 され る商 品 お よび そ れ に 採 用 さ
れ て い る工 程 に つ い て,技 師 と して実 際 に精 通 して い る ば か りで な く,さ らに 同 じよ うに,賃 銀 ・
供 給 ・費 用 会 計,そ
の他 生 産 経 済 や 製 品 コ ス トに 入 り込 み 影 響 を与 え るす べ て の もの に 関連 あ る不
可 欠 の 諸 要 因 をい か に観 察 し,記 録 し,分 析 比較 す る か の 実 践 的 な知 識 を持 っ て い る 人 た ちに よ っ
て,指 揮 ・統 制 され な け れ ば な らな い 。 す ぐれ た 機 械 技 師 は,す
ネ ス ・マ ン も,た
ぐれ た ビ ジ
くさ ん い る。 だ が,こ の 二 つ が 一 人 の 人 の なか に結 び つ け られ て い る の は まれ で
あ る。 しか し,一 人 ま た は そ れ 以 上 の 人 た ち の う ち に,す
え られ て,上
くな くな い。 ま た,す
くな く と も会 計 担 当 者 と して の 技 能 が 加
記 の 二 つ の 異質 の もの が 結 合 さ れ る こ とが 工 場 管 理shop
managementの
成 功 の ため
に不 可 欠 の 条 件 な の で あ り,も し一 人 の 人 間 に お い て結 合 され る な らば 彼 が 彼 自身 あ るい は 部 下 を
通 じて,ビ
ジ ネ ス の 全 部 門 の 作 業 を監 督 し,各 部 門 を全 体 の 調 和 の とれ た発 展 に 従 わせ るた め の 適
23)
格 性 を も ち う る こ とに な り,最 大 の効 果 を あ げ る で あ ろ う」 (・は 引用者 ) と。
23)Henry
一
R. Towne,
The
分 益 制 ・割 増 賃 銀 制
Engineer
』所 収
as an Economist,1886.「
三戸 公
鈴 木 辰治
経 済 家 と して の 技 師 」 訳 本 『賃 金 論 集
上 田鷙 訳
(1967年) 未 来 社
7-8頁
三
50
田
商
学
こ こで 彼 の 言 う 「経 済 家 」 と して の職 務 とは 何 か,そ
研
べ き新 た な機 能 も明 らか とな る。 そ れ は,賃 銀
究
の 内容 が 判 明 す る こ とで,技
供 給,費 用 会 計,そ
師に要請 され る
の他 生 産 経 済 や 製 品 コス トに
入 り込 み 影 響 を与 え るす べ て の もの に 関 連 あ る不 可 欠 の 諸 要 因 を観 察 し,記 録 し,分 析 比 較 す るた
め の知 識 を駆 使 し なが ら組 織 を指 揮 し,統 制 す る こ とで あ る。 この よ うに タ ウ ン は,1エ
ン ジニ ア
の 技術 的 知 識 と管 理 的 知 識 の 内 な る結 合 の 重 要 性 と必 要 性 を主 張 す る 。 が 同 時 に,後 者,す
なわ ち
管 理 的 知 識 の 基 盤 の 脆 弱 性 を指 摘 して い る。
厂と もあ れ,一 方 工 学 は よ く定 義 づ け ら れ た 一 つ の 科 学 で あ りす で に は っ き り した 文 献,お
びた だ
しい雑 誌,経 験 を交 換 す るた め の 多 くの 協 会 を も って い るが,他 方 工 場 管 理 は い まだ 認 め られ て お
らず,ほ
とん ど文 献 を もた ず,経 験 を交 換 す るた め の 機 関 も媒 体 もな く,い か な る種 類 の協 会 も組
織 も もっ て い な い。 だ が,す
で に工 場 管 理 の 技術the
art of work
験 が 厖 大 な 量 に ま で蓄 積 せ られ て い るに もか か わ らず,世
shop managementに
関 す る経
間 一 般 に 利 用 せ られ る記 録 は な い の で あ
る。 古 くか らの 企 業 は そ れ ぞれ 多 か れ 少 な か れ独 自 のや り方 で経 営 し,他 の 同種 の 企 業 の 同様 の 経
験 か ら利 益 を うけ る こ とが 殆 どな く,ま た 自分 か ち与 え る こ と もほ とん ど な い。 他 方 新 し く発 足 す
る企 業 は,よ
り大 きな 苦 労 を か か え,ふ つ う,経 験 に た い し て大 きな 対 価 を支 払 うが,管 理 者 の 能
力 に した が って,多
か れ 少 な か れ そ れ な りに独 自の 完 全 な体 系 を徐 々 に つ く りあ げ て ゆ くの で あ る,
そ して そ の とき,ま っ た く同 じ よ う な作 業 分 野 で 他 の 人達 に よ っ て す で に達 成 され た もろ も ろの 利
24;
益 や 助 力 を殆 ん ど うけ とら な い の で あ る」 と。
さ て,彼 は 管 理 的 知 識 を2つ の 主 要 分 野,す な わ ち 「工 場 管 理 (Shop Managdment) 」 と 「工 場
25)
会 計 (Shop Accounting) 」 に分 類 し,専 門 的 知 識 の普 及 の ため 出 版 の 充 実 を図 らね ば な らな い とす
る。 「工 場 管 理 」 に は,組 織
責 任,報
告,請
負 と出 来 高制,並
に関 す るす べ て の 問 題 が 該 当 し,「 工 場 会 計 」 に は,時
制 か,各 種 雑 費 の 配 分,利 益 の確 定,簿
び に そ の 他 現 場 管 理 あ る い は工 場
間 と賃 銀 体 系,原 価 の 決 定,個
数 制 か 日給
ら に そ の他 企 業 の 製 造 部 門 に 関 連 し,成 果 の
26)
測 定 と記録 に関 連 す る会 計 の シ ス テ ム に 入 るす べ て の 問 題 が該 当 す る とい う。
管 理 知 識 の 記 録 化=文
記 の 方 法,さ
献 化 作 業 と同 時 に,彼
は 「
今 や 必 要 な の は,こ の 問 題 に興 味 と関 心 を もつ
27)
人 々 の 間 に お け る経 験 の交 換 の た め の 媒 体 だ け で あ る」 と し,管 理 的 経 験 の 交 流 の場 (=論文 と報
告 書の発 行 と報告 書 の討 議 と意 見 交換 の場) を設 定 す る重 要 性 を訴 え た。 そ して,1880年
に 設 立 され
た ア メ リカ の機 械 技 師 協 会 が この 役 割 を担 うべ きで は な い か との 提 議 を行 っ て い る。
24)
ヘ ン リーR.タ
25)
厳 密 に 言 え ば,タ
ウン
前掲論 文
「第 三 の 項 目の もの が あ る が,そ
の で あ るが,す
掲 論文
前掲 訳 本
目 を挙 げ,以
下 の よ うに説 明す る。
れ は 従 属 的 な も の で あ り,前 二 者 の な か に 部 分 的 に 含 ま れ て い る も
な わ ち 『工 場 書 式 』Shop
前 掲訳 本
9-10頁
ウ ンは 「
工 場 管 理 」 と工 場 会 計 」 の他 に 第3項
Forms
and
10-11頁
26)
ヘ ン リーR.タ
ウン
前掲 論文
前 掲訳 本
11頁
27)
ヘ ン リーR.タ
ウン
前掲 論文
前 掲訳 本
11頁
Blanksで
あ る 」 と。 ヘ ン リーR.タ
ウン
前
テ イ ラー シ ス テ ム と フ ォー ドシス テ ム 出現 に お け る ア メ リカ の 経 営 経 済 的 ・社 会 的 条 件
(1)
51
28)
経 営 学 形 成 前 夜,経
営 学 成 立 へ 向 け て の 曙 の 時 代 に 出 現 し た 「新 動 向 」 と して タ ウ ン の 著 作 「経
済 家 と して の 技 師」 を読 む と実 に興 味 深 い 。 そ の 経 営 経 済 的 背 景 と し て は,ま ず 第1に 独 占企 業 の
形 成 と生 産 手 段 の集 積 に よ る技 師 の 高 度 化 と そ の過 程 で 生 じた 技 術 者 機 能 の 拡 大 (=技術 的 知 識 と
管理 的知 識 の 結合 )要 請 で あ る。 ま た,第2に
師 が 職 長 と して 期 待 され,ま
内部 請 負 制 か ら万 能 職 長 制 へ の移 行 が あ る。 機 械 技
た利 用 され た こ とは 言 う まで も な い。
内部 請 負 制 の 消 滅 に 応 じて,生 産 管 理 権 の所 在 は外 部 者 た る請 負 人 か ら企 業 内 部 者 た る職 長 に移
行 した もの の,こ
れ に 関 す る職 長 の 職 務 遂 行 に は 由 々 し き問 題 が潜 伏 して い た 。 こ の 点 をテ イ ラー
は 察 知 し,次 の よ うに 指 摘 して い る。 す な わ ち,
「大 規 模 の 機 械 工 場 を は じめ て も は じめ 数 年 間 は あ ま り成 功 を しな い の は なぜ か とい え ば,適
職 長 お よ び組 長 を得 る こ とが 困難 一
とい う よ りはむ し ろ不 可 能
29)
原 因 で あ る」 と。 適 当 な職 長 が 得 られ な い の は な ぜ か と言 えば,そ
「役 割 は 種 々 雑 多 で あ り,生 まれ つ き素 質 と して,い
当な
で あ る こ とが 何 よ りも第 一 の
の
ろ い ろ の こ とが 必 要 で あ る ば か りで な く,
種 々 の 知 識 を もつ こ とが 必 要 で あ る。 だか ら生 まれ つ き素 質 の よ い 人 で,多 年 特 別 の 訓練 を経 た 人
30)
で なけ れ ば,満 足 に そ の役 目を果 た す こ とが で き な い」 (・は引用 者) か らで あ る。
工 場 が 大 規 模 化 す る に伴 い,職 長 の 果 た す べ き役 割 と機 能 は複 雑 化 し,「 熟 練 」 を要 す る職 長 の 獲
得 が 益 々 困 難 を極 め る に 至 る とい う彼 の 認 識 を理 解 で き る。 こ こ か ら,い わ ゆ る 「職 長 機 能 の 二 重
の 細 分 化 」 を内 実 と した 「機 能 別 職 長 制 度 」 が 彼 に よ り提 起 され る こ とに な る。 タ ウ ン が 「
機 械技
師 」 に そ の機 能 の 拡 大 を要 求 した の に対 し,テ イ ラー は 管 理 者 (=職長 ) に機 能 の 分 割 を要 請 し た
の で あ る。 我 々 は,内 部 請 負 制 か ら万 能 職 長 制 へ,ま
た万 能 職 長 制 か ら機 能 別 職 長 制 度 へ とい うア
メ リカ管 理 史 に お け る歴 史 的 展 開 を踏 ま え た上 で,テ
イ ラー に よ る提 起 の 中 に,(1) 工 場 内部 に よ
る生 産 管 理 権 の奪 回 (=内部 請 負制度 と万能 職 長制 度 を分 つ決 定 的相 違 点 ) と (2)生 産 管 理 権 行 使 に
お け る 「熟 練 労 働 」 の 解 体 と分 解 (=万能職 長制 度 と機 能別 職 長制 度 を分 っ 決定 的相違 点 ) とい う2つ
の論 理 を看 取 す る こ とが で き る。 テ イ ラー シ ス テ ム の 内容 と特 質 に つ い て は別 稿 に お い て 詳 細 に 検
討 す る。
28)
経 営 学 の 成 立 に つ い て 小 島 三 郎 氏 は 次 の よ うに 指 摘 し て い る。 「経 営 学
Administration,
Science
of Business
or Firm,
う こ とに つ い て は 諸 説 が 存 在 す る が,し
(Management,
Betriebswirtschaftslehre)
か し一 般 に定 説 と して19世 紀 末 か ら今 世 紀 の 初 頭 に か け て で
あ る とい わ れ て い る 。 しか も学 者 に よ っ て は よ り詳 し く,1903年
を も っ て 経 営 学 の成 立 の 時 期 で あ る
と主 張 す る 者 も少 な くな い 。 な ぜ な ら,そ の 年 に ア メ リカ で は か の テ イ ラ ー
場 管 理 法 』 (Shop Management)
Business
が いつ 頃生成 したか とい
が 出 版 さ れ,ま
『
商 業 経 営 論 と個 別 経 済 学 』 (Handelsbetriebslehre
(F.W. Taylor)
の 『工
た ドイ ツ で は か の ゴ ン ベ ル ク (L. Gomberg)
und
Einzelwirtschaftslehre)
の
と い う論 文 が 公 表
さ れ た か ら で あ る」 と。 小 島三 郎 『現 代 経 営 学 総 論 改 訂 版 』 税 務 経 理 協 会 (1978年)3頁
29)Frederick
Winslow
Taylor, Shop Management,1903「
工 場管 理法 」 訳本 『
科学 的 管理法 』上 野
陽一 訳
30)F.W.テ
産 業 能 率 短 期 大 学 出版 部
イラー
前掲論 文
(1969年) 所 収
前掲 訳 本
116頁
116頁
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