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骨盤子宮内膜症の発生に関する新たな視点
56 日エンドメトリオーシス会誌 ; : − 〕 〔教育講演 B― 骨盤子宮内膜症の発生に関する新たな視点 )長崎大学医歯薬学総合研究科産科婦人科 )済生会長崎病院産婦人科 カーン カレク ),北島 道夫 ),藤下 はじめに 晃 ),増﨑 英明 ) 監視機構の破綻により逆流子宮内膜細胞の生着 子宮内膜症は,生理的活性をもつ子宮内膜が が助長される可能性がある.月経血の経卵管逆 子宮腔以外に異所性に存在するもので,女性の 流により骨盤腔内に移行した正所性子宮内膜由 約 %に認められ,下腹痛,月経痛,性交痛あ 来の自家組織を骨盤内から除去する能力が低下 るいは不妊の原因となる疾患である〔 〕 .子宮 している場合,免疫寛容あるいは免疫破綻のい 内膜症の発症機序として,経卵管逆流した月経 ずれかが関与していることが考えられる.骨盤 血中の落屑成分が腹膜あるいは卵巣表層へ移植 内局所における免疫応答の異常が,子宮内膜の ・生着して増殖することにより生じる説,ある 排除能の低下とその後の細胞の生着の一因であ いは,子宮内膜および腹膜中皮の化生変化によ る可能性がある〔 〕 . り生じる説が広く受け入れられている〔 ,〕 . 月経血逆流説によれば,経卵管逆流により骨 しかしながら,内膜症の発症機序や病態生理に 盤腔内に流入した子宮内膜組織片が骨盤腹膜中 関して長年にわたり数多くの報告がなされてき 皮に接着し,周囲組織に浸潤して内膜症病変が たが,いまだ定まった説はなく議論の余地があ 形成される〔 〕 .しかしながら,子宮内膜と腹 るのが現況である.月経後の子宮内膜の再生と 膜との接着段階から,浸潤し内膜症病変の形成 増殖には,卵巣ステロイドホルモンが重要な役 に至るまでの知見は必ずしも明らかでない.一 割を担うが〔 〕 ,骨盤腔内での非自己組織であ 方,卵巣チョコレート囊胞は,卵巣表層上皮に る子宮内膜症の増殖・維持は,自然免疫機構に 由来する封入囊胞壁が,周期的な出血による持 よる調節を受けていることが示唆される. 続的な酸化ストレスにより化生変化を生じるこ 本稿では,私どものこれまでの検討から, ( ) 骨盤腹膜子宮内膜症の発生機序, ( )子宮内 膜症腹膜病変の色調変化の生理学的意義,( 腹膜病変の活動性と生殖機能との関連, ( ) とにより形成される〔 〕 .周期的に逆流した月 経血に慢性的に曝露されている骨盤腹膜中皮が 同様の化生変化を起こすかどうかは興味深い点 ) である.私どもの検討によれば,子宮内膜症で 卵巣チョコレート囊胞とその他の良性卵巣腫瘍 は非内膜症コントロールに比較して月経血ある における腹膜病変の合併率と骨盤内の免疫寛容 いは腹水中の hepatocyte growth factor(HGF) 性との関連,および( )子宮内膜症の増殖調 濃度が高く,また,骨盤腹膜病変の近傍の腹膜 節における細菌コンタミネーションの関与,に で形態的に立方円柱状に変化した細胞において ついて述べたい. HGF の発現が亢進していた〔 〕 .一方,赤色 骨盤腹膜子宮内膜症の発症機序 腹膜病変から離れた位置に存在する腹膜では, 子宮内膜症の腹膜病変の発生機序として, 平坦な正常中皮に形態的変化は認められなかっ Sampson〔 〕による移植・着床説や Meyer〔 〕 た〔 〕 .Yashiro ら〔 〕は,HGF を産生する線 による体腔上皮化生説に加えて,骨盤内の免疫 維芽細胞が,平坦な中皮細胞を円柱様に変化さ 骨盤子宮内膜症の発生に関する新たな視点 57 せることを報告している.また,in vitro の検 成される.これらの連続的な変化は,落屑した 討では,培養子宮内膜上皮細胞は HGF を添加 子宮内膜が経卵管的に骨盤腔内に達し,血管新 することで管状形態に変化することが報告され 生とヘム代謝および線維化によって肉眼的およ ている〔 〕 .私どものこれまでの検討では, び病理組織学的所見が変化する骨盤子宮内膜症 間葉系細胞に加えて,活動性の高い子宮内膜病 の自然経過を示している. 変の内膜組織およびそれらに浸潤したマクロフ 子宮内膜症腹膜病変の活動性と ァージに HGF の発現が認められた〔 〕 .これ その生殖機能への影響 らの結果は,HGF が上皮あるいは中皮におけ Revised-ASRM 分類での内膜症の病勢の評価 る細胞形態の変化に関与していることを示唆し 法では,卵巣チョコレート囊胞や骨盤内癒着に ており,赤色腹膜病変近傍の腹膜は HGF の作 随伴した腹膜病変の活動性は十分に考慮されて 用を介して腺上皮様に化生変化を示す可能性が いない.Revised-ASRM 分類による進行度は骨 ある.子宮内膜症腹膜病変の形成には,子宮内 盤痛の程度に関連するが,妊孕性低下について 膜の移植・着床に加えて,腹膜の化生も重要で は,異所性あるいは正所性子宮内膜へのマクロ あることが推察される. ファージ浸潤の亢進や腹膜病変から産生される 子宮内膜症腹膜病変の色調変化の生理学的意義 炎症関連分子の上昇がより関連を示すと考えら 腹膜子宮内膜症の初期病変は,病変周囲の血 れる.そこで私たちは,腹膜病変を Non-opaque 管網形成が未熟であるため透明・半透明であ 腹膜病変,血液が貯留した opaque 赤色病変, る.私どもは,これらの初期病変を透明・半透 黒色病変,および白色病変に分けて,それらの 明(non-opaque)病変と呼んでいる〔 〕 .これ 組織活動性を検討した.微小血管密度,サイト らの病変は,水様,漿液性あるいは粘液性を呈 カイン・ケモカインあるいは増殖因子(Il― , する内溶液を含むが,組織学的にも間質内に血 TNFα,HGF,VEGF,MCP― )の 産 生,細 胞 液貯留が認められない.子宮内膜細胞が腹膜上 ,組織中のマクロフ 増殖性(Ki― ラベリング) に接着し浸潤していく過程では,内膜細胞の増 ァージ浸潤,PGE および PGF α の産生は, 殖・維持は月経周期に沿った細胞分裂と血管新 opaque 赤色病変において,non-opaque 病変や 生の促進により維持される.子宮内膜症の増殖 その他の腹膜病変に比して有意に亢進していた は,エストロゲンと炎症あるいは炎症促進メデ 〔 , 〕 . ィエーターの複合的な作用により調節されてい 疼痛による QOL の低下や受精あるいは着床 る.子宮内膜症腹膜病変は,発育に伴う微小血 障害による妊孕性の低下は子宮内膜症の主徴で 管の過増生により間質内に血液が貯留し,非透 ある〔 , 〕 .現行の子宮内膜症に対する外科療 明性赤色(血液が貯留した opaque)病変とし 法あるいは薬物療法の目的は,内膜症病変の除 て腹腔鏡下に観察される〔 〕 .これらは時間 去と周期的あるいは非周期的疼痛の緩和,また 経過とともに,脱酸素反応によりヘモグロビン 妊孕性の回復である.前述の活動性の亢進した からメトヘモグロビンあるいはヘモジデリンへ 腹膜病変由来の炎症関連分子は着床不全の原因 変化することで色調が赤色病変から黒色病変に となりうることが報告されており〔 , 〕 ,子宮 変化する.この段階では,病変組織の間質内の 内膜症合併不妊症の病態の一因と考えられる. 血液貯留が消失する.黒色病変はその後ビリル 卵巣チョコレート囊胞あるいは良性卵巣 ビンあるいはビリベルジンの貯留と線維化組織 腫瘍での内膜症腹膜病変の合併率 の増加により白色病変へ変化する.この段階で これまでの私たちの検討では,卵巣チョコレ は,腺上皮は萎縮し,間質は線維化のためとき ート囊胞を有する女性では,良性卵巣腫瘍のコ に消失する〔 〕 .最終的には,古い病変は消 ントロール女性に比して,有意に子宮内膜症腹 失し,月経周期の継続に沿って新たな病変が形 膜病変を合併する頻度が高く〔 〕 ,また,卵 58 カーンほか 表 卵巣チョコレート囊胞と比したデルモイド囊胞での腹膜病変の合 併率 チョコレート囊胞 (n= ) デルモイド囊胞 (n= ) 腹膜病変なし ( .%) ( .%) 腹膜病変あり ( .%) ( .%) p value* < . χ 二乗検定 * 表 チョコレート囊胞と比した漿液性および粘液性腺腫における腹膜 病変の合併率 チョコレート囊胞 (n= ) SCA/MCA (n= ) peritoneal lesion(−) ( .%) ( .%) peritoneal lesion(+) ( .%) ( .%) p value* < . *χ 二乗検定 SCA,漿液性腺腫;MCA,粘液性腺腫 巣チョコレート囊胞を有する女性での疼痛の有 組織中の FOXP 陽性 Treg 細胞の集積は亢進 無は,腹膜病変の有無と有意に相関することが していた.FOXP 陽性 Treg 細胞の発現を各月 認められた〔 〕 .一方,良性卵巣腫瘍である 経周期により検討したところ,月経期ではその デルモイド囊胞,漿液性腺腫(SCA)および粘 他の増殖期や分泌期に比して FOXP 陽性 Treg 液性腺腫(MCA)においても月経血の経卵管 細胞の発現が亢進しており,子宮内膜症では非 逆流は起こっているが,それらでは内膜症病変 内膜症コントロールに比して FOXP 陽性 Treg の頻度が低く,これらの機序について検討を行 細胞の発現が高い傾向が認められた(図 った. B) . 外来微生物や異物による感染や病変の形成か 年から 年まで後方視的に腹腔鏡下手 ら身体を保護するための免疫応答は,細胞傷害 術の記録を検索したところ,デルモイド囊胞(n 性の免疫担当細胞と抑制的に免疫寛容に働く免 = )に比 疫担当細胞の間のバランスのうえに成り立って して有意に内膜症腹膜病変の合併頻度が低かっ いる〔 〕 .これらは,全身的あるいは骨盤局 )ではチョコレート囊胞(n= た[ .%( / )vs. .%( / ), P< . ] (表 ) .同様に,SCA/MCA(n= ) 所において IL― と TGFβ により調節されてい る〔 , 〕 . 骨盤内での Th 細胞あるいは Treg でも腹膜病変の合併頻度はチョコレート囊胞に 細胞のプライミングには,IL― と TGFβ が競合 比して有意 に 低 か っ た[ .%( / ) ,p 的に働いている.血中あるいは腹水中の TGFβ .これらの機序を検討する目 ) が IL― より優位な場合は,Treg 細胞の数ある < . ] (表 的に,免疫組織化学的手法を用いて,制御性 T いは活性が亢進し Th 細胞(FOXP 陽性 Treg 細胞)の組織中発現を より免疫寛容が優位になり腹膜に侵入した細胞 検討した.腹膜病変を有するデルモイド囊胞の の除去能が低下する.腹腔内で生存する細胞が 囊胞壁あるいはその周囲の腹膜では,腹膜病変 多くなり腹膜病変が形成されやすい骨盤内環境 を有しないそれらに比して有意に FOXP 陽性 がもたらされる(図 Treg 細胞の集積が低下していた(P< . ,図 状態では,Treg 細胞の数あるいは活性が低下 A) .一方,チョコレート囊胞では,同様の 細胞を抑制することに ) .一方,IL― が優位な し,強い細胞傷害作用をもつ Th 細胞が活性 骨盤子宮内膜症の発生に関する新たな視点 FOXP 3 陽性細胞/mm 2 12 B 18 囊胞壁 16 腹膜 FOXP 3 陽性細胞/mm 2 A 14 10 8 6 4 * * 2 コントロール 子宮内膜症 14 12 10 8 6 4 2 0 0 デルモイド デルモイド チョコレート囊胞 腹膜病変なし 腹膜病変あり 腹膜病変あり (n=10) (n=6) (n=6) (n=6) (n=6)(n=10) (n=8)(n=4) (n=6) 増殖期 分泌期 月経期 図 A :デルモイド囊胞あるいはチョコレート囊胞において,摘出囊胞壁(白)あるいは生検腹膜(斜線)組 織中の単位面積あたりの FOXP 陽性細胞数を子宮内膜症腹膜病変の合併の有無により比較した.腹膜 病変のないデルモイド囊胞の囊胞壁あるいは腹膜では,腹膜病変を有するデルモイド囊胞あるいはチ ョコレート囊胞の囊胞壁あるいは腹膜に比較して, 有意に FOXP 陽性細胞が低下していた(P< . ) . B :月経周期による組織中の単位面積あたりの FOXP 陽性細胞数の相違を子宮内膜症の有無により比較し た.子宮内膜症(斜線)では,非子宮内膜症コントロール(白)に比較して,単位面積あたりの FOXP 陽性細胞数が多い傾向があり,それらは月経期に高い傾向が認められた. A,B いずれも箱ひげ図の箱の上端から下端までは パーセンタイルから パーセンタイルまでの範囲を 示し,箱中の水平線は中央値を示す. IL-6 IL-6 TGFβ strong suppression TGFβ weak suppression Treg Th17 Foxp3 Th17 Treg Foxp3 immunity tolerance less cell clearance increased cell survival EVENTS effective cell clearance no cell survival 図 サイトカイン(IL― および TGFβ)のバランスが FOXP 陽性 Treg 細胞と Th 細胞のプライミングに与える影響の模式図を示す.IL― あるいは TGFβ による FOXP 陽性 Treg 細胞および Th 細胞間のバランスの変化による免疫応答の調 節機序の詳細は本文を参照されたい.図は Betteli ら〔 〕および Ichiyamara ら 〔 〕の報告をもとに作成した. 59 カーンほか 60 350 TGFβ/IL-6 levels(pg/mL) 300 p<0.05 TGFβ a IL-6 b p<0.05 250 p<0.05 200 150 100 50 0 腹膜病変なし (n=30) 腹膜病変あり (n=15) 良性卵巣腫瘍 子宮内膜症 (n=30) 図 良性卵巣腫瘍(デルモイド囊胞,漿液性囊胞腺腫,粘液性囊胞腺腫)と子宮内 膜症で腹水中 TGFβ(白)あるいは IL― (斜線)濃度を ELISA 法で測定し,良性 卵巣腫瘍の例を内膜症腹膜病変の合併の有無で 群に分けて検討した.内膜症お よび腹膜病変を有する良性卵巣腫瘍では,腹水中の TGFβ の濃度は IL― の濃度 に比して有意に上昇していた(P< . ).一方,腹膜病変のないコントロールで は,腹膜病変を有するコントロールに比して腹水中の TGFβ 濃度が有意に低下し ていた(P< . ) . 箱ひげ図の箱の上端から下端までは パーセンタイルから パーセンタイルま での範囲を示し,箱中の水平線は中央値を示す. 化され,骨盤内に付着した細胞は効果的に除去 ール女性で腹膜病変の形成が低下することに関 され病変形成が少なくなることが予想される 与していると推察される.今後,骨盤腹膜内膜 (図 ) . 症の発生における骨盤内サイトカイン環境と局 前述の免疫機序を考慮し,良性卵巣腫瘍のた め腹腔鏡手術を行った例で腹水中の IL― およ び TGFβ を測定し,それらを骨盤腹膜内膜症の 有無で比較した.子宮内膜症および腹膜病変を 有する良性卵巣腫瘍の例では IL― に比較して TGFβ の 濃 度 が 有 意 に 高 か っ た(図 ,P< 所免疫の変容に関するさらなる検討が重要であ ると考えられる. 子宮内膜症の増殖機序における 細菌コンタミネーションの役割 .TLR を介したサイトカイン産生調節と子 宮内膜症細胞の増殖 . ) .一方,腹膜病変のない良性卵巣腫瘍の 細菌性エンドトキシン(LPS)はパターン認 例では腹水中の TGFβ 濃度は有意に低かった 識受容体である TLR を特異的受容体として, ,P< . ) .これらの結果は,骨盤内で その他の補助分子とともに NFκB による細胞 のサイトカイン環境の変化とそれに引き続く 内シグナル伝達に関わる〔 〕 .私どもの検討 FOXP 陽性 Treg 細胞の増加による Th 細胞 では,子宮内膜症および非子宮内膜症コントロ に代表される細胞傷害性免疫担当細胞の活性低 ールにおいて,マクロファージや子宮内膜腺上 下が骨盤腹膜子宮内膜症病変の発生に関与して 皮細胞あるいは間質細胞に TLR 遺伝子および いる可能性を示している.また,腹水中の TGFβ 蛋白の発現が認められた〔 〕 .TLR を介した の低下は Th LPS の作用を検討する目的に,腹水由来マクロ (図 細胞の活性亢進させ,コントロ 骨盤子宮内膜症の発生に関する新たな視点 61 ファージや正所性あるいは異所性子宮内膜腺上 を提唱した〔 〕 .月経血における E.Coli のコ 皮および間質細胞を抗 TLR 抗体で処理したの ンタミネーションは,子宮内膜症での月経血あ ち,LPS を作用させた.その結果,マクロファ るいは腹水中のエンドトキシン濃度の上昇の原 ージからの HGF/VEGF/IL― /TNFα の産生な 因である.月経血中に細菌がコンタミネーショ らびに子宮内膜細胞の増殖が有意に抑制された ンする機序の つとして,子宮内膜症の月経血 〔 〕 .これらは LPS に惹起される炎症反応や あるいは腹水では PGE 濃度が亢進しており, 細胞増殖が TLR を介することを示している. PGE は直接的な細菌増殖刺激作用あるいは間 .体液中のエンドトキシン濃度 接的に免疫抑制作用により影響を及ぼすことが 子宮内膜症あるいは非子宮内膜症コントロー 推察される〔 〕 . ルの月経血および腹水中のエンドトキシン濃度 を測定した.月経血中の細菌性エンドトキシン 濃度は腹水中のそれに比較して ∼ まとめ 骨盤内局所の初期免疫反応には自然免疫が重 倍高く, 要な役割を担っている.骨盤腹膜子宮内膜症の 腹水および月経血中のエンドトキシン濃度はコ 発生ならびに進展に関して考えられている病態 ントロールに比して内膜症で有意に上昇してい を図 た〔 〕 .また,エンドトキシン濃度は月経期 膜細胞の腹腔内への逆流と,それに引き続く腹 に最も高く,増殖期あるいは分泌期でも少量の 膜表面への内膜細胞の着床に加えて,それらの エンドトキシンが認められた〔 〕 .子宮内膜 刺激に起因する腹膜中皮の化生は腹膜子宮内膜 症では月経血中のエンドトキシン濃度が亢進し 症の発生機序の ており,これらはエンドトキシンが経卵管逆流 疫寛容に作用する免疫担当細胞(Foxp 陽性 により骨盤内に到達し腹水中に持続的に骨盤内 Treg 細胞)の優位性の亢進と細胞傷害性免疫 に存在することを示している. 担当細胞(Th .子宮腔内あるいは骨盤内のエンドトキシン の由来 にまとめた.月経時の経卵管的な子宮内 つと考えられる.骨盤内で免 細胞)の低下は腹膜病変の発 生に関与している.チョコレート囊胞を有する 女性に比較してその他の良性卵巣腫瘍の女性で 子宮内膜症あるいは非内膜症コントロール女 は骨盤腹膜病変の合併が低下しており,これら 性の下部生殖器には,大腸菌(E.Coli)を含む は内膜症で Foxp 陽性 Treg 細胞が低下してい 正常腟内細菌叢を構成する微生物のコンタミネ ることと一致している.これらは,逆流月経血 ーションが存在している可能性がある.腟腔内 がほぼすべての女性で認められる現象であるの の E.Coli が上行性に子宮腔内に移行して月経 に対して,内膜症の罹患率が %程度であるこ 血にコンタミネーションし,それらが経卵管的 とを考慮すると興味深い所見である.骨盤内に に腹水中に細菌性エンドトキシンを放出し集積 おける炎症促進性サイトカインの産生と子宮内 していると推測した.そこで内膜症あるいはコ 膜症の増殖には自然免疫が関与している.私ど ントロール女性から月経血を採取し月経血培養 もは,これまでで初めて子宮内膜症の発育・増 を行ったところ,子宮内膜症の月経血ではコン 殖に関する新たな病態仮説として「細菌コンタ トロールに比して有意に E.Coli のコロニー形 ミネーション仮説」を提唱した.子宮内膜症女 成能(CFU/mL)が亢進していた〔 〕 .さら 性の月経血の経卵管逆流により腹水中に集積さ に,赤色腹膜病変を有する例では,それらを合 れたエンドトキシンは,骨盤内炎症の増悪と 併しないチョコレート囊胞のみの例に比較して TLR を介した子宮内膜症の増殖に関与してい 有意にコロニー形成能が亢進していた. る.これらの新たな病態生理に基づいた子宮内 これらの結果から,私どもは,子宮内膜症の 膜症の治療ストラテジーの開発のため,内膜症 新たな病態仮説として,LPS/TLR を介した増 女性の腟内あるいは子宮腔内環境の詳細な検討 殖進展に関する「細菌コンタミネーション仮説」 が必要であろう. 62 カーンほか Retrograde menstruation Transplantation and implantation Coelomic metaplasia heme metabolism Immune defect or tolerance integrins E-cadherin cell to cell attachment Mφ . . . . . . . . . .. .. . peritoneal cavity Mφ - decreased phagocytosis of Mφ - decreased killer activity of NK cells LPS (bacterial endotoxin) in PF TLR4 eutopic/ectopic endometria: gland cells, stromal cells endometrium and PF : Mφ mitogenic/angiogenic factors: HGF, VEGF ER ER estrogen (E2) - growth of gland cells/stroma - metaplastic transformation Development of endometriosis engagement of innate immunity estrogen (E2) pro-inflammatory response Persistence, growth and progression Immuno-surveillance survival of autologous cells 図 移植説,化生説あるいは免疫障害説による子宮内膜症の発症および進展機序において,それら と TLR を介した細菌性エンドトキシン(LPS)による子宮内膜症の増殖・進展ならびに LPS と エストロゲンとの間のクロストークとの関連を示す. 文 献 〔 〕Strathy JH et al. 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