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稀少部位子宮内膜症の画像診断

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稀少部位子宮内膜症の画像診断
60 日エンドメトリオーシス会誌
; : −
〔ワークショップⅡ―
/子宮内膜症の画像―癌化と稀少部位―〕
稀少部位子宮内膜症の画像診断
大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座
坪山
はじめに
つある(図
子宮内膜症の発生部位は common site,less
common site,rare site の
尚寛
つに分類され,後
者の病変を稀少部位子宮内膜症と呼ぶ〔 ,〕
.
)
.
つは脂肪抑制 T WI で病
変内に含まれる点状の高信号域を検出する方法
,これはこの画像所見を想定していな
で〔 ― 〕
いと見落としてしまうほど微小なものである場
稀少部位子宮内膜症は腸管,皮膚・腹壁,尿路,
合が多いので注意が必要である.もう
リンパ節,上腹部臓器,胸膜・肺,脳・神経,
少出血の検出に有用な比較的新しい MRI シー
骨,乳腺などさまざまな臓器に病巣を形成する
クエンスである磁化率強調画像(Susceptibility
ことから,患者は婦人科以外の診療科を受診す
weighted imaging ; SWI)を撮影する方法であ
ることも多い.しかし治療においては婦人科医
る〔 〕
.出血するとヘモグロビンは急性期にオ
の協力は不可欠であり,的確な診断が重要であ
キシヘモグロビンからデオキシヘモグロビン
る.いずれの部位においても月経周期に関連し
へ,亜急性期にはメトヘモグロビンへ,そして
て症状を繰り返すことが診断の大きな手掛かり
慢性期にはヘモジデリンへと変化するが,T WI
となるが,症状が必ずしも月経周期と関連しな
高信号で検出できるのはメトヘモグロビンを含
い場合もあり,画像診断の役割は重要である.
む亜急性期血腫のみである.一方,SWI は出
稀少部位子宮内膜症の画像診断を
血成分の磁化率の変化に非常に鋭敏で,メトヘ
つのポイン
つは微
トにまとめ,下記に述べる.
モグロビンだけでなくデオキシヘモグロビンや
ポイント
ヘモジデリンも低信号として描出可能であり,
)稀少部位子宮内膜症の MRI 所見
は卵巣子宮内膜症性囊胞と異なる.
急性期から慢性期の血腫を幅広く検出すること
卵巣子宮内膜症性囊胞の MRI 所見はよく知
ができる.ちなみに,稀少部位子宮内膜症が出
られており〔 〕
,内容液が脂肪抑制 T 強調像
血性囊胞を伴いにくい原因については,ホルモ
(T WI)で高信号を呈する囊胞性病変として描
ン感受性に違いがある可能性や,病変が軟部組
出される.これは月経に関連して繰り返される
織の中に形成される深部子宮内膜症の形態をと
囊胞内の出血に起因し,T WI ではしばしば低
るので物理的に囊胞を形成しにくい可能性が考
信号を呈する(shading)
.多発性や癒着など形
えられている〔 〕
.実際,稀少部位子宮内膜
態的な評価も重要であるが,診断の鍵となるの
症のなかでも比較的出血性囊胞を形成しやすい
はやはりこの出血の存在である.
鼠径部病変はヘルニア囊や Nuck 管水腫などの
一方,稀少部位子宮内膜症が卵巣病変ほど出
フリースペースを伴いやすく〔 , 〕
,膀胱子
血性囊胞を形成することは珍しく,出血成分は
宮内膜症などの深部子宮内膜症でもよりフリー
非常に小さいかあるいは全くみられないことが
スペースに近い粘膜下で出血性囊胞の形成が認
.したがって,稀少部位子宮内膜症
多い〔 ― 〕
められる〔 〕
(図
)
.
の画像診断においては微小な出血をいかに的確
稀少部位子宮内膜症は充実成分を主体とする
に検出するかが重要となり,そのための方法は
点 も 卵 巣 子 宮 内 膜 症 と 異 な る.充 実 成 分 は
稀少部位子宮内膜症の画像診断
図
歳代 術創部および鼠径部子宮内膜症の MRI
脂肪抑制 T 強調像(a,b)
:腹腔鏡下卵巣成熟囊胞性奇形腫摘出術後のトロッカー挿入部に一致して
腹直筋に腫脹と微小な点状高信号域が認められる(矢印)
.同様の病変が
右鼠径部にも同定可能だが,注意して見ないと容易に見落とされる危険
性がある.
磁化率強調画像(c,d)
:腹壁および右鼠径部の病変は低信号域として明瞭に描出されている(矢印).
図
歳代 膀胱子宮内膜症の MRI
T 強調像(a)
:膀胱後壁から頂部にかけて壁肥厚を認め,中心部は低信号を呈する(矢印)
.膀胱子宮
窩を挟んで接する子宮体部前壁漿膜側に境界不明瞭な低信号域を認め,内部に点状高
信号域を認める(矢頭)
.腺筋症の画像所見であるが漿膜側のみに位置しており,骨盤
腹膜子宮内膜症であることがわかる.
脂肪抑制 T 強調像
(b):膀胱壁の病変には粘膜側に多数の小さな出血性囊胞の形成が認められる
(矢印)
.
61
62
坪山
図
歳代 腸閉塞で発症した回腸子宮内膜症の MRI
T 強調像(a)
:回腸遠位部に低信号を呈する壁肥厚を認め(矢印),漿膜面の癒着により病変部は折れ
曲がるように屈曲している.腸管子宮内膜症の特徴的な像である.
脂肪抑制 T 強調像(b)
:病変には出血を示唆する高信号域を認めない(矢印).
T WI で低信号を呈し,内部に点状高信号域を
.点状高信号域は異所性
伴うこともある〔 ― 〕
内膜組織を,低信号の充実部はそれに伴って増
生した線維化や平滑筋を反映しており,強い線
維化を伴う場合は辺縁にしばしば spiculation
が認められる.この画像所見や病理像は子宮腺
筋症と完全に一致しており〔 〕
,子宮腺筋症
を T WI で診断するのと同様に,
“稀少部位子
宮内膜症は T WI で診断する”くらいの心構え
をもっておく必要がある.これはとくに脂肪抑
制 T WI で高信号域を伴わない病変の診断に重
要で,例えば腸管子宮内膜症は脂肪抑制 T WI
で %のみでしか点状高信号域を伴わない一
方,T WI ではかなり特徴的な像を呈する〔 ,
〕
(図
, )
.すなわち,病変が漿膜側から
筋層に及ぶと T WI 低信号の壁肥厚を呈し,さ
らに粘膜下層や粘膜に浮腫や病変の浸潤が及ぶ
と“mushroom cap sign”と呼ばれる高信号帯
図
歳代 直腸子宮内膜症の MRI
T 強調像:直腸前壁に低信号を呈する扇形の
壁肥厚を認め,粘膜面に高信号帯を伴ってい
る(矢印;mushroom cap sign).子宮の junctional zone は肥厚しており,腺筋症が示唆さ
れる.
を伴う.また病変部の漿膜面が癒着によって折
り畳まれるように短縮するため,病変部で腸管
ポイント
は屈曲し壁肥厚は扇形の形態を呈する.
の特徴的である.
)発生部位は“稀少”ではあるもの
稀少部位子宮内膜症は,その名のとおり日常
臨床において遭遇する機会は非常に少ないもの
稀少部位子宮内膜症の画像診断
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の,その発生部位は非常に特徴的である.腸管
た月経血が左側にとどまりやすく,骨盤外では
子宮内膜症はダグラス窩や左付属器に密接する
月経血が腹水と同様に右傍結腸溝から右横隔膜
直腸・S 状結腸に
割が発生する〔 〕
.
下腔へと時計回りに流れるため右側に分布して
頻度は下がるが終末回腸,盲腸,虫垂も忘れて
いる.なお,肺子宮内膜症には左右差がなく,
∼
はならない発生部位である〔 〕
.尿路子宮内
膜症は膀胱,尿管,腎の発生が :
:
と報
血行性の転移 が 発 生 機 序 と 考 え ら れ て い る
.
〔 〕
告されており,膀胱に多く腎はきわめてまれで
このように稀少部位子宮内膜症の発生部位に
ある〔 〕
.膀胱病変は膀胱後壁から頂部にか
は特徴があり,その好発部位において子宮内膜
けての発生がほとんどであり,これは膀胱子宮
症を念頭に置くことは十分可能で,かつ重要で
窩の腹膜から病変が進展するためと考えられて
ある.例えば手術歴のない女性の腸閉塞におい
いる〔 〕
.尿管病変は骨盤内の下部尿管に多い
て,終末回腸に閉塞機転となる壁肥厚や屈曲が
〔 〕
.皮膚や腹壁病変の好発部位は,臍,鼠径
あれば腸管子宮内膜症を念頭に置いて診療を進
)
,月経随伴性
部,術創部であり,術創部はとくに帝王切開後
めることが重要であるし(図
が有名である〔 , 〕
.胸郭子宮内膜症症候群
気胸の CT において,他の気胸の原因を除外す
は胸膜病変と肺病変に分類され,圧倒的に前者
るとともに右横隔膜病変を検出できればより積
が多い.さらに胸膜子宮内膜症においては横隔
極的に子宮内膜症を示唆することができる(図
膜病変がほぼ必発であり,横隔膜後面に多い
)
.この右横隔膜病変は非常に小さく同部位
〔 , 〕
.これはまず横隔膜に形成された子宮
を丁寧に探さない限り検出は難しいので,まず
孔による
は子宮内膜症を念頭に置くこと,そして病変の
後天性横隔膜欠損孔を介して胸腔内に広がるた
好発部位を丁寧に読影することが重要である.
めであり,月経随伴気胸も腟より流入した空気
ポイント
内膜症が先天性あるいはその病変の
がこの横隔膜欠損孔を通って右胸腔に入ること
)Common site との関連を見抜く.
稀少部位子宮内膜症は単独で存在することは
少なく,common site の子宮内膜症を伴うこと
が原因と考えられている.
子宮内膜症の発生部位には特徴的な左右差が
が多い.したがって,common site 病変との関
あり,骨盤内では左側にやや多く,骨盤外では
連を見抜くことは的確な診断に重要である.胸
顕著に右側に多い〔 〕
.例えば骨盤内では com-
郭子宮内膜症や鼠径部子宮内膜症では
割以上
mon site 病変である卵巣子宮内膜症も左側に
で骨盤内病変が合併するので〔 , 〕
,骨盤内
多いと報告されており,稀少部位である尿管子
病変の存在が重要な診断の手掛かりとなる.と
宮内膜症も左側に多い〔 〕
.一方骨盤外では,
くに鼠径部子宮内膜症のなかには円靭帯に沿っ
胸膜子宮内膜症はほぼ右側のみに発生し〔 ,
て病変が進展する場合があり,common site で
〕
,鼠径部子宮内膜症も
割が右側であり〔 ,
〕
,坐骨神経子宮内膜症も右側に多く報告さ
ある円靭帯との連続性を読み解くことは重要で
ある〔 〕
.直腸・S 状結腸子宮内膜症は約
れている〔 〕
.腸管子宮内膜症にも同様の傾
割が卵巣病変を,約
割が子宮後頸部病変を合
向があり,骨盤内では左側結腸である S 状結
併する〔 〕
.また骨盤腹膜や仙骨子宮靭帯な
腸に多く,骨盤外では右側結腸である盲腸や虫
どの common site 病変との連続性が診断に有
垂,そして終末回腸に発生するものの左側結腸
用な場合もある(図
にはまず発生しない.これらの左右差は,子宮
割以上が子宮体部前壁病変を合併し(図
内膜症が月経 血 逆 流 に よ っ て 生 じ る と い う
これは膀胱子宮窩の腹膜病変が子宮や膀胱に広
Sampson の子宮内膜移植説によって理解しや
がっていることを示唆する〔 〕
.例外的に単独
すい〔 〕
.すなわち,骨盤内では左付属器が
で発生しやすい病変として腹壁・臍の子宮内膜
S 状結腸に覆われているため左卵管から逆流し
症があり,これらは骨盤内病変の合併が約
)
.膀胱子宮内膜症は
)
,
∼
64
坪山
図
歳代 胸膜子宮内膜症による月経随伴性気胸の CT(箕面市立病院 中島和広先生のご厚意による)
肺野条件(a)
:右気胸を認め,肺に気胸の原因となるような気腫性変化や囊胞は認めない.
縦隔条件(b)
:右横隔膜後面に小結節を認め(矢印)
,より積極的に子宮内膜症を示唆することができ
る.手術にて同部位に 孔を伴う子宮内膜症病変を認め,切除された.
割と他部位に比べて極端に少ない〔 , 〕
.
これは腹壁子宮内膜症の多くが手術操作による
子宮内膜の機械的移植によって発生するためで
あり,さらに手術歴と関連が低い臍子宮内膜症
では血行性・リンパ行性転移が機序として有力
視されている〔 〕
.
おわりに
稀少部位子宮内膜症の画像所見は,子宮内膜
症の代表格である卵巣子宮内膜症と大きく異な
り,わずかな異常所見が診断の鍵となる場合も
多い.漫然とした読影で的確な診断を得ること
は難しく,その好発部位においては常に子宮内
膜症の可能性を念頭に置き,想定されるわずか
図
歳代 血便で発症 し た 直 腸 子 宮 内 膜 症 の
MRI
T 強調像:直腸右側壁に低信号域を認め(矢
頭)
,その外側に低信号の腫瘤を認める
(矢印)
.
腫瘤は子宮内膜症の common site である右仙
骨子宮靭帯に位置し, 内部に点状高信号域を,
辺縁に spiculation を伴っており,
典型的な深部
内膜症の像を呈する.当初下部内視鏡の生検
で確定診断に至っていなかったが,MRI で仙
骨子宮靭帯から進展した子宮内膜症が強く疑
われ, 最終的な病理診断の確定につながった.
な異常所見も見落とさないように積極的に検索
する姿勢が重要である.
文
献
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