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語ろう!これからの維持管理(PDF形式 297 キロバイト)
中東蒲原土地改良協議会事務局 はじめに 去る9月11日、県土連ビル講堂を会場に「土地改良施設の維持管理」研修会を開催した。毎年開催 する当協議会企画の一コマだが、今回は近隣の土地改良区からも多数のご参加を頂いた。誌上を借り て御礼したい。維持管理は私たちにとって重要な課題である。しかし、これまでは真正面から議論を してこなかった。このテーマには多種多様な要素が含まれていて捉えづらいからかもしれない。 ストックマネジメントを考える 私たちはこれまで維持管理について少し無頓着であったかもしれない。これまでは維持管理で悩む 前に、より高度な水管理や効率的な営農を目指し様々な更新整備を進めてきた。今ある施設をできる 限り長く使うという当たり前のことが、その課程の中で忘れ去られていたからかもしれない。国県営 事業の完了までには十年を超える歳月が掛かった。少なくともこの間、施設の機能低下などは後回し にして、今より便利で立派な施設ができることを農家と語ってきた。 昨年、ストックマネジメント事業が始まった。これからは管理の時代だと言わんばかりに「ストッ ク(資産)」と「マネジメント(管理、経営)事業」という英語が使われた。事業の意図は管理か、 経営か、事業名を聞いただけでは分かりづらい。これまでも○○モデル事業、△△パイロット事業な どのカタカナ事業はあったが、ストックマネジメント事業には、これまでとは違った響きが感じられ る。島根大学・長束教授はこのことを学会誌「水土の知(76-3) 」で次のように述べている。 (略)ストックマネジメントの必要性は、農家経済が厳しい中‥水利施設の長寿命化を図ることに よって、限られた予算の中で効率的に水利ストックの機能を維持するという財政上の視点から論じら れることが多い。‥国からみれば、水利システム全体としての共用年数の延伸を図る‥と考えられ、 地方行政から見れば疎水百選、ビオトープ、親水など‥地域用水機能を生かした地域づくり、‥郷土 史や環境学習の素材などを通じ、施設をより地域づくりに生かすことと考えられる。一方、受益者か ら見れば、水管理施設やファームポンドの追加、パイプライン化など営農変化や農業構造変化に対応 した施設体系の修正、水利用調整組織の再検討など、‥より管理しやすい施設に改良することと考え られる。(略) 立場によって異なるイメージを受けるのも仕方がないと納得してしまう。これからストックマネジ メントを運営の柱にしなければならない土地改良区は何を考えなければならないのだろう。初めてだ けに見当も付かない。いずれにしてもそれぞれの土地改良区が地域の土地柄に合わせて独自の維持管 理の手法を見つけ出さなければならないのだろう。農地・水・環境保全向上対策で交流が深まる地域 住民の声も大切にしながら。 長寿命化の功罪 ストックマネジメント事業の導入をためらう仲間がいる。施設を長寿命化させ、ものを大事にする ことは良いこと、でも、それにはこれからも高額な維持管理費を徴収しなければならない。米を含む 農産物全般の価格が低迷する中、組合員に管理費を払い続けてもらえるのだろうかと心配している。 農地の利用集積や経営の法人化は農政の方向だ。これからの農業経営に現行施設を長寿命化させるこ とは本当に良いことなのだろうかと悩んでいる。建設当時には元気な農家がたくさんいた。公平な用 水配分も大切な目的の一つだった。今日の経営環境ではとうてい受け入れられない施設が、施設の長 寿命化を主流とする時代の中で土地改良区を悩ませている。想定外の社会経済環境が今後も起こり得 る。その時、土地改良施設の費用対効果の要諦は維持管理費の最小化にあるのかもしれない。 研修会から 「員外賦課は可能か?」 「施設機能がもたらす効用の大きさに応じて、利益を受ける者が維持管理費を負担すべきだ」とは 今回の研修会を実施するにあたり行った勉強会の中での議論である。農業農村がもたらす多面的機能 の効果額が年数兆円に上るとの試算もある。行政は旧農業基本法の下、農業の効率化や近代化を目指 し農業構造の改善を進めてきた。近年、農家の高齢化等と相まって農家数の減少と階層分化が進み成 果が上がったかに見える中、 耕作放棄は拡大し農地の潰廃も進み賦課面積は減少を続けている。将来、 土地改良区の財務基盤はどうなるのだろう。維持管理すべき施設が減らない中、このまま土地改良区 で管理を続けることができるのだろうか。 一方、地域では農業と無縁な地域住民が増えている。それなら、利益を受けているそうした員外受 益者に賦課することはできないか。単純にそんな期待をもって今回の研修会に臨んだ。講師をお願い した元近畿農政局農村計画部長・山下紀行氏からは、特定受益者賦課制度(土地改良法第36条第8項[要約] 著しく利益を受ける特定受益者から受益を限度として土地改良事業に要する経費の一部を徴収することができる/昭和47年度 改正/平成13年度現行規定)が明文化されてはいるが、その適用は極めて困難とのご指導を頂いた。 結果は残念だったが、行政から公的支援(公益相当の)を受けている私たちが取り得る選択肢が明 らかになったような気がする。それは、これまでにも増して農家が農業で稼げるよう支援すること。 そして、農業農村のもつ多面的機能を享受している地域住民にその価値を認めさせ、農村の保全活動 や地域農業への支援を促進させることだろう。新農業基本法で農業農村が持つ多面的機能が謳われて 以来、ずっと気に掛かっていた「員外賦課」について、ようやく気持ちの整理がついた。いつか、 「員 外賦課」が世の中から認知される日がくることを夢見ながら、当面は「極めて困難である」ことを肝 に銘じて、農家の応援団に徹しよう。組合員が喜んで賦課金を納めてくれるよう努力しよう。 維持管理は目的実現のために行うもの 私たちの地域では都市化が進んで農地に連担しない道水路も多い。施設だけが残り、施設の目的は 農業の振興から住民生活の保全に変わった。年々その度合いが高めているものも多い。それらの施設 の管理はどうあればよいのだろう。管理責任区分の明確化や維持管理に関する費用(公的な管理支 援、全額公費負担による公物管理)のあり方なども詰めなければならない仕事だ。土地改良区の業務 リスクを軽減することは、農家の負担リスクを減らすことに繋がるからだ。そして、多分これからの 土地改良区にとって最も大事な仕事は農家の経営方針に沿って柔軟に維持管理の手法を見直すことだ ろう。多くの土地改良施設がこのような事態を想定しないで造られている中、出来ることから地道に やるしかない。新規事業を起こす時には維持管理の視点からもっと声を出さなければいけない。新た な農業の展開、新たな農村づくりのため、維持管理を考える新たな仕組みづくりが必要だと思う。こ れからも多くの仲間と維持管理について語り合い多くの知恵を共有できたらと願っている。