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第115回 № SW- -96

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第115回 № SW- -96
加圧接触通電型トーチを用いたGMA溶接技術の開発 注1)
目
次
1.
はじめに
2.
キャップ付き加圧接触通電型GMAトーチの開発
3.
軟鋼銅メッキワイヤによる連続アーク発生テスト
4.
ワイヤリトラクト式のアークスタート技術の開発
5
おわりに
1. はじめに
インバータ電源やマイコン制御技術の進展により,電源側での精細な制御が可能になり,
スパッタ発生が相当に減少したと言われている1).また,ワイヤ材質面からもスパッタ減
少への工夫がなされている2).
しかし,ワイヤに確実に通電し,速度むら無くワイヤ送給することは,スパッタ無く安
定してGMA溶接する上での基本事項であるが,今ひとつ改善の余地があるように思われた.
(より詳しい説明)
そこでホットワイヤ用に開発した
1)
加圧接触通電チップ
2)
三角孔セラミックチップ
3)
伸縮センサ付きプッシュプルワイヤ送給装置
を組み込み,更に,アークスタート時のスパッタ減少策としての
4)
リトラクト・アーク・スタート
技術もより的確に行えるようにしたMAG溶接装置を試作した.
そしてパルスアーク電源と組み合わせ用いて,長時間スパッタ無く,チップ交換頻度もず
っと少なく溶接できることを実証したので,以下に紹介する.
1
2. キャップ付き加圧接触通電型GMAトーチの開発
図1に開発したGMA用トーチの分解した写真と構造図を示す.トーチの軸となる部材は
銅合金からなる本体部でその中心孔にワイヤをガイドしながら本体部とワイヤとを絶縁す
るテフロンライナ,およびワイヤを通している.本体部の外周には高抵抗で熱伝導性が良い
SiCからなるセラミック部材を置きその間に冷却水を流して両者を直接的に水冷してい
る.
本体先端部に2組の通電チップと押さえの板ばねをおいてワイヤを挟んで加圧接触通電
するようにしている.通電チップを包むようにして円錐台形の銅製のキャップを被せている.
このキャップはセラミック部材に接触固定され間接的に水冷されている.また,シールドノ
ズルも同様に,セラミック部材に接触固定され,間接的に水冷されている.
銅キャップの先端部には,その内接円がワイヤ径に近い三角孔のセラミックガイドが固定
されていて,トーチ中心からワイヤを送出するようにしている.
シールドガスは本体部に設けたガス通過孔を通って本体先端部でワイヤ通過孔に出て,手
のひらを合わせた形の通電チップの手のひら部に向けて吹き出して通電チップを冷却して
いる.一部は三角孔セラミックガイドの角部から流出するが,多くは銅キャップの上部に設
けられた8ヶのガス孔を通過してシールドノズル内に均等に排出される.
通電チップはクロム銅で作成したが,その通電部に銅―タングステンをろう付けしたチッ
プも作成した.
シールドガス
水 水
高電気抵抗・高熱伝導性の
シリコンカーバイド
水冷構造
板バネ
加圧接触式通電チップ
通電チップ保護カバー
三角孔セラミックチップ
図1
開発したGMA用トーチの構造
2
図2に,ロボットに搭載した溶接トーチの状態を示す.GMAトーチ,プル送給装置,伸
縮センサなどから構成されている.
伸縮センサ
プル送給装置
図3 回転鋼管上で長時間ビード置き試験
ワイヤ: φ1.2mm 軟鋼(銅メッキ)
アーク電流: 210A パルス電流
アーク電圧: 30V
GMAトーチ
シールドガス: 15%CO2-Ar
トーチ先端外径
: 23mm
母材: 炭素鋼管,φ216
1回: 連続9回転, 約20分強
アーク電源: PULSE MIG 500CAPⅡ(日立)
図2 ロボット搭載 したGMAトーチ
3. 軟鋼銅メッキワイヤによる連続アーク発生テスト
図2の装置を用いて,図3のような軟鋼鋼管を回転し,インバータ式パルス電源(PULSE
MIG 500 CAPⅡ)を用いてアーク電流 210A,パルスありのスプレイ移行条件下で約 20 分連
続ビード置きを繰り返す長時間アークテストを行った.
最初にクロム銅チップを用いた
が,85分経過後には,図4に示
すように,チップが摩耗して接触
通電不良を起こすようになった.
チップを加圧してワイヤに接触し
ているので,機械的な摩耗の進展
が速くなるものと考えられる.
(a) 通電チップ同士が接触
(b) 通電チップの摩耗状態
図4 クロム銅チップの連続アークテスト(85分後)結果
3
そこで,4mm 角の耐摩耗性に優れた銅タングステンチップをワイヤと接触する部分にろう
付けした通電チップを作成してテストした.図5に示すように,6時間経過しても両通電チ
ップ間のギャップの変化が殆ど無かった(0.1mm 程度?).チップはワイヤ直径の 1/2 近く
摩耗するまで使用できるので,それ以上のテストは中止した.100 時間以上は使用できると
(b) 通電チップの摩耗状態
(a) 通電チップ間のギャップ大
(c) キャップ先端の状態
(d) シールドノズルの状態
図5 銅タングステンチップの連続アークテスト(6時間後)結果
推察している.
アーク発生中はデータレコーダでアーク電圧,アーク電流を監視し続けていたが,一度も
接触不良などで短絡・溶断が生じるような事態は発生せず,6時間経過してもスプレイ移行
状態が安定して保たれていた.
遮光ガラス越しにはスパッタの発生は見えなかったが,肉眼では細かなスパッタが発生し
ているように見受けられた.採取したところ,スラグ除去なしに多層盛りしたこともあって,
大部分がはじけたスラグであり,それと母材からのスパッタと推察している 0.1mm以下の
小さな球状の粒がごく少量あった.(より詳しい説明)
通電チップの温度上昇を知るために,通電チップの脚部側面に,非可逆性の変色で温度測
定(変色精度±2℃)するサーモラベル(日油技研工業(株))を貼って測定した.
図6にアーク電流とチップ温度を示す.連続通電テストした 210Aでは 150℃程度であっ
た.そこで,更に電流を高くしてテストしたが,400Aにしても 210℃程度であった.
銅キャップによるアークおよび溶融池からの輻射熱の遮断効果に合わせて,シールドガス
による冷却効果が効いていると思われる.
4
チップ温度 ( ℃ )
300
変色なし(以下)
200
変色(以上)
100
100
200
300
400
アーク電流 (A)
図6 加圧接触通電チップの温度測定結果
4. ワイヤリトラクト式のアークスタート技術の開発
通常のGMA溶接のアークスタートでは,送給されてきたワイヤが母材に接触して短絡
し,しばしば多量のスパッタを発生しながら,溶断してアークを形成する.定常状態では安
定したスプレイ移行でスパッタ発生が皆無になっても,このアークスタート時に大粒のスパ
ッタを発生して製品に付着すると,意味は半減する.図5の試験片でも,ビード表面に付着
しているスパッタはアークスタートの際に発生したものだけであった.
これとは別に,アークスタート時に母材は接触していてチップ側で接触不良気味になる
と,チップ側からアークスタートしてチップを損傷するケースがある.
当初,加圧接触通電チップを用いたGMAトーチでも,通常
のGMA同様にしてアークスタートしていた.すると,ワイヤ
が母材に接触して長時間短絡してワイヤ全体が抵抗加熱されて
軟化する状態になった場合に,ワイヤ曲がり癖による力によっ
てバネで押さえている2ヶの通電チップに抗して横にずれ,未
加熱のワイヤがキャップ内でセラミックガイド孔から外れたと
ころに突き当たる形になり,その結果ワイヤ送給ができなくな
ることが稀にあった.図7にそのようにしてワイヤ送給詰まり
を発生したときのワイヤの状態を示す.
図7 キャップ内で
これらの問題の解決には,ワイヤを母材にタッチして直ぐ引
き上げる(リトラクト)ことにより,必ずワイヤ先端からアー
クを発生させると良いと考えた.
5
ワイヤ変形
そこで,伸縮センサ付きプッシュプルワイヤ送給装置では,プルモータの応答性が非常
に速いことを利用して,リトラクトスタートすることを検討した.なお,伸縮センサでは中
心から±10mm 程度は制御可能動作範囲内なので,プッシュモータは前進送給したままの状
態で,瞬時プルモータのみ逆転させることで,容易に即応できた.
図8(a),(b)に,リトラクトスタートでの,(c),(d)に通常スタートでのオッシログラム
を示す.オッシログラムで見ると,リトラクトスタートやワイヤ先端をニッパで切ることは,
高電流期間を短くすることに寄与している.
(1) ワイヤ リトラクト スタート方式
(b) 先端凝固のまま
(a) 先端ニッパ切り
アーク電圧
(V)
50
25
0
アーク電流
(A)
400
ワイヤ速度
(m/min)
200
0
10
0
-10
(2) 通常のワイヤスタート方式
(d) 先端凝固のまま
(c) 先端ニッパ切り
アーク電圧
(V)
50
25
0
アーク電流
(A)
400
200
0
図8 アークスターと方法の検討
何回か試行した結果,ワイヤに無負荷電圧を印可したまま母材に接触するまで 3m/min で
ワイヤ送給し,母材に接触したことを電流検出センサで検知した瞬間,5m/min でワイヤを
約 60ms の期間引き戻したあと,定常溶接速度でワイヤ送給するようプログラムした.高速
ビデオで観察したところ,約4mm 引き上げる設定になっていた.
6
図9にワイヤ送給開始時のワイヤ先端の動きを高速ビデオで示す.実際には,ワイヤが
母材に接触して通電開始したことをアーク電流センサで検出して,ワイヤ戻しを行った.
図9 スタート時のワイヤ先端の動き (ビデオ)
この状態で開発したGMAトーチを用い,ワイヤ先端をニッパで切断した場合と,アー
クを切ってワイヤ先端が凝固し球状化したままの場合について,アークスタートを繰り返し
テストした.また比較のため,通常トーチを用い,通常のアークスタートをした場合につい
ても検討した.図10に,その高速ビデオを示す.
図10
リトラクトスタートの状況 (ビデオ)
高速ビデオで観察すると,アークスタート時のスパッタ発生はアークスタートしてから
40ms 程度までの現象であった.そしてリトラクトスタートを行うと,スパッタの発生は少
なくかつスパッタの粒が小さいように見受けられた.また,ワイヤ先端をニッパで切断する
とスパッタ発生はより少なくなるようであった.
7
リトラクトスタートすると,スタート時にワイヤエクステンション部全体が抵抗加熱さ
れる前にワイヤ先端と母材間でスパークするために,スパッタになって飛散する溶滴の形成
が少ないであろう.すなわち,アークスタート時のスパッタ量が少なくなる,あるいは少な
くともエクステンション部のワイヤが溶けて吹き飛んだような大粒のスパッタは発生しな
くなることが期待される.そのような観点から,通常のGMAアークスタートの状態と比較
観察して見たが,おおむね正しいように,見受けられた.
今回のアークスタートの実験に使用した電源は,アークスタート時からパルスが掛かっ
ていたので,スタート時の状態変化も大きくなっている面があった.アークスタート時には
パルスなしの低電流にするとスパッタは激減するのではないかと期待している.
この件に関
しては,未検討である.
5.
おわりに
(1) GMA溶接用に加圧接触通電するトーチを開発した.銅タングステンを用いた通電
チップを用いると,軟鋼銅メッキワイヤに対して十分長時間の使用に耐えることを確
認した.
(アルミニウムの連続溶接試験では,更に長時間使用できることを確認した.)
(2) GMAスタート時に,伸縮センサ付きプッシュプルワイヤ送給装置を用いてワイヤ
が母材に接触した瞬間にワイヤを少し急速に引き戻して,
必ずワイヤ先端からアーク
発生する技術(リトラクトスタート)を開発した.アークスタートの安定化と,スタ
ート時のスパッタ発生量減少に寄与する.
(3) アークスタート時の電源制御を改善すると,金属スパッタは皆無的で,チップ交換
頻度もごく少ないGMA溶接が可能になるのではないかと期待している.
出 典
1) 堀,渡辺,中沢,佛崎,永島:加圧接触通電チップを用いたGMA及びホットワイヤ
用トーチの開発:溶接法研究委員会 SW-2736-00(2000,12,1)
2)
上記講演で使用したビデオ
3)
堀,中沢,田桑,永島:ホットワイヤ用トーチの開発,ホットワイヤ溶接法の研究(第 16 報):
溶接学会全国大会講演概要 第 63 集 16~17 (1998,10)
参考文献
8
1) 三田:知って得するマグ/ミグ溶接の基礎知識:溶接技術 1999年2月号
2) 中野:マグ溶接ソリッドワイヤの現状:溶接技術 1999年1月号
pp62-68
pp125-131
(2016.5.19)
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