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(有)菊地珈琲豆の微細構造の観察及び特性評価 - OASIS
FMS-111111-05-03 先端研究施設共用促進事業【複合極限環境評価法による先進材料開発】 室蘭工業大学 OASIS/FEEMA 計画推進室 利 用 成 果 報 告 書 Ⅰ-1. 利用課題名 有限会社菊地珈琲豆の微細構造の観察及び特性評価 Ⅰ-2. 利用者名 有限会社菊地珈琲 Ⅰ-3. 利用施設名 室蘭工業大学 FEEMA 施設 Ⅰ-4. 利用期間 平成 Ⅰ-5. 利用の目的・内容 22 年 10 月 1日 – 平成 23 年 9月 30 日 珈琲豆利用においては輸入された原料の豆の焼成及び焙煎条件の最適化が重要であ り、焼成・焙煎の状態が販売されるコーヒー豆の価格を決める重要な要素となる。この ために焼成・焙煎条件の決定においては多くの専門家の経験に基づく原料豆の評価とあ る程度の試行錯誤を含む焼成・焙煎条件の決定が必要とされている。利用者である菊地 珈琲ではこの為に業務の効率化と経費削減を目指して焼成・焙煎条件の機器分析評価に よる決定手法の検討を進めているところである。この検討の基本となるのはコーヒー豆 の中のアロマが詰まった気孔等の観察、特性評価により、珈琲豆の香り成分が多く引き 出され、コーヒー豆の中に保持される適切な焼成・焙煎温度等が決められる事への期待 がある。 本課題の目的は高性能の先端研究設備及び高度な解析技術を利用した微細構造解析 を始めとする総合的な特性評価が上記の期待に対する原理的な実現性を示すことを目 指すことにある。よって、関連設備が充実しており、多くの知識と経験により支援が受 けられる本プログラムに申請した次第である。 また、近年食品の産地偽装に関する事件が問題となり、中でも珈琲豆は産地によりブ ランド性が異なっていることから価格に差が生じ、産地偽装が懸念されている。このよ うな食品の産地表示の正当性を確認する方法としていくつかの手法があり、有機組成に よる産地判別もその一つである。また、微量元素組成による産地判別法も有用な方法で ある。植物は土壌から水とともに様々な元素を吸収して成長する為、植物に含まれる微 量元素の組成は栽培土壌の組成を反映することが期待でき、微量元素が食品の産地を判 別するための重要な指標となる。このような手法がどこまで簡略化された機器分析と評 価手法によって可能となるかを明らかにすることも本課題の重要な目的である。しか し、2 番目の課題は大規模な実験を必要とされるため、将来の課題としてとどめ置く。 Ⅰ-6. 社会・経済への波及 効果の見通し コーヒーという極めて消費量の多い飲料の市場において、中間原料としてのコーヒー 豆の調整済または焙煎済状態での販売における企業の優位性の確保に必要となる技術 の構築を目指す活動の第一歩となるものである。 簡易性があり、かつ実用性の高い観察・分析手法を用いることで、どこまで本課題で 目指している焼成・焙煎条件の決定が機械化できるかのめどをつけるためのものであ り、原理的には実現性がきわめて高い手法であると考えられる。本課題での予備的な検 討を通して、この実現性が示されることにより、次段階のより実用手法に近い検討が行 われることになり、同時に行われる、原料となるコーヒー豆の産地判別手法の簡略化に ついても期待される。これらの手法の確立はコーヒー豆の流通経路の再編にも及びうる 大きな業界構造の変革をもたらしうるものと考えられる。 Ⅰ-7. 公開延期の希望 有 ( 年間) 無 Ⅱ.成果の概要 1. 検討内容及び結果 今年度は予備検討として標準的な焙煎条件で焙煎されたコーヒー豆を用い、産地の異なる豆について(1) 電界放射型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた気孔形状の観察と、 (2)産地の指標となると考えられている 6 種類 の元素について定量分析を行い、産地判別の指標として採用する際の問題点の摘出を試みた。 (1)焙煎された豆の構造解析 珈琲豆(焙煎豆)の観察は光学顕微鏡観察を基礎として表面状態の解析、並びに豆を破砕した後の破面観察 より気孔の表面状態と形状を主としてアロマの気密性の観点より評価を試みた。電界放射型電子顕微鏡による 珈琲豆の微細構造写真(元の豆の破面状態、粉砕後の豆の破面状態、抽出用に粉砕した豆の破面状態)を図 1 ~3 に示す。 図 1 の写真(SEM 像)からわかるように、孔と孔の間が密になっており、香りを発するアロマ成分が気孔から 出ていきにくい構造(アロマが維持されている状態)になっていることが分かる。また、豆を粉砕した後の状 態(図 2, 3)では、粉砕前の状態(図 1)よりも若干ではあるが気孔の中のアロマ成分が外に逃げている様に 考えられる。これは、粉砕したことで珈琲豆の表面が空気に触れる面積が増えたことにより、酸化が進み気孔 の中のアロマ成分が逃げてしまったものと考えられる。 図 1 元の気孔の破面状態(SEM 像 500 倍) フィルター用に粉砕したもの 図 2 粉砕後の豆の破面状態(SEM 像 500 倍) エスプレッソ用に粉砕したもの 図 3 抽出用に粉砕した豆の破面状態(SEM 像 500 倍) (2)定量分析による珈琲豆の産地判別分析 さらに、本研究では産地の指標となる 6 元素(Mn, Fe, Ni, Rb, Sr, Ba)を基に、5 産地(ジャマイカ, イン ドネシア, コロンビア, キューバ, ブラジル)の生豆(各産地 4 試料)について分析を行なった。1 試料あたり の分析時間は 1 時間で行なった。得られた各生豆の元素量を図 2 に示し、産地ごとの各元素の平均値と標準偏 差を表 1 に示した。表 1 からわかるように、Mn, Fe, Ni, Ba は全般的にジャマイカ産(a)に多く、Rb, Sr はコ ロンビア産(c)に多く含まれていることがわかった。また、インドネシア産(b)やキューバ産(d)の Rb, Sr は平 均値は高いものの、検出量のばらつきが大きいことがわかった。ブラジル産(e)に関しては、検出された全元素 量が他の産地に比べ少ないことを確認した。 (a)ジャマイカ, (b)インドネシア, (c)コロンビア, (d)キューバ, (e)ブラジル 図 2 EDS により得られた産地別珈琲豆(生豆)の検出元素データ サンプル数 検出元素量(cps) Mn Fe Ni Rb Sr Ba ジャマイカ 4 インドネシア 4 産地 コロンビア 4 3.78±0.49 2.88±0.49 3.63±0.18 3.42±0.44 2.65±0.37 3.29±0.14 2.65±0.32 2.02±0.33 2.54±0.12 12.90±1.85 12.78±6.17 12.94±1.46 12.74±1.77 12.65±5.94 12.89±1.44 5.24±0.68 3.94±0.70 5.04±0.32 検出元素量:平均値±標準偏差 キューバ 4 ブラジル 4 3.19±0.47 2.88±0.44 2.26±0.35 10.77±2.05 10.75±2.06 4.45±0.65 2.79±0.08 2.53±0.05 1.96±0.07 9.83±1.66 9.74±1.58 3.93±0.11 表 1 産地別珈琲豆(生豆)の検出元素の平均値及び標準偏差値 2. まとめ 珈琲豆(焙煎豆)の微細構造を観察した結果、孔と孔が密になっており、香りを発するガス(アロマ)が豆 から出ていきにくい構造になっていることが確認できた。また、粉砕後の豆の状態より、豆の表面と空気が触 れる面積が増えた分、酸化が進み孔の中のアロマが逃げてしまったものと考えられる。 5 産地の珈琲豆(生豆)を分析した結果、検出された各元素は産地ごとに特徴的な分布を示し、産地判別の指 標となる 6 元素を用いることで産地による特性化が可能であることが確認できた。 今後は栽培地や品種などの起源情報を明確にさせ、更に多数の試料について分析を行なうことにより確度の 高い産地判別法を確立できると考えられる。 本課題で使用したエネルギー分散形 X 線分析装置(EDS)は検体の分析に適しており、微細構造の観察や産地判 別を含めた食品の品質管理のための分析方法として、今後も様々な試料への適用が期待される。