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エグゼクティブサマリー - International Energy Agency

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エグゼクティブサマリー - International Energy Agency
WORLD
ENERGY
OUTLOOK
2012
エグゼクティブサマリー
Japanese translation
WORLD
ENERGY
OUTLOOK 2012
エグゼクティブサマリー
官民の意思決定者をはじめ、エネルギー部門関係者全てにとっ
て、WEO2012は必須のレポートである。本書は2035年までのエネル
ギー動向について信頼できる見通しを示し、それがエネルギー安全保
障、環境の持続可能性、経済発展にどのような意味を持つかを考察して
いる。
石油、石炭、天然ガス、再生可能エネルギー、原子力を全てカバーし、気候
変動問題の最新分析も併せて収録。世界のエネルギー需要、生産、貿易、投
資、二酸化炭素排出を国・地域別、燃料別、部門別に詳しく論じている。
また特別分析として、次の項目を取り上げ詳細に分析している。
„„
ネルギー効率化の持つポテンシャルとして、純粋に経済的な観点から、
エ
エネルギー市場、経済、環境に対して、国ごと、部門ごとにどのような影響
をもたらすのか。
„„
国内の需要を満たすこと、そして、世界の石油・ガス需要への供給とい
自
う、イラクのエネルギー部門における極めて重要な二つの役割。
„„
資源が逼迫の度合いを増し、その利用がますます争点になってきてい
水
るなかでの水とエネルギーの関係。
„„
近代的エネルギーサービスを万人が利用可能になるまでの進捗状況
の計測基準の提示。
多くの不確定要素があることは事実であるが、多くの決定を今すぐ行わ
なければならない。WEO2012の分析は、我々のエネルギーの未来形
成に携わらなければならない全ての人に、極めて有益である。
www.worldenergyoutlook.org
国際エネルギー機関
その主な使命はこれまでも、そして今日も次の二つである。石油供給の物理的途絶に対して
加盟国が集団的に対処することで、エネルギー安全保障を促進すること。加盟28か国、および
その他の国々に対し、信頼できる、手頃な価格の、かつクリーンなエネルギーを確保するための
方策について、権威ある調査分析を行うこと。IEAは、加盟国間のエネルギー協力に関する包括的
プログラムを実施している。各加盟国は、石油純輸入量90日分に相当する備蓄を義務づけられて
いる。IEAの目的は次の通りである:
n あ
らゆる種類のエネルギーにつき、特に石油供給が途絶された場合に効果的な緊急対応を行う能力を
維持することによって、加盟国に確実かつ十分な供給へのアクセスを確保すること。
n 特に気候変動の要因となる温室効果ガスの削減を通じ、
グローバルな経済成長および環境保護を向
上させる持続可能なエネルギーを促進すること。
n エネルギーデータの収集および分析を通じ国際市場の透明性を向上させること。
n エネルギー効率の改善や低炭素技術の開発及び活用等を通じ、将来のエネルギー供給を
確保し、環境への影響を軽減するエネルギー技術に関するグローバルな協力を支持す
ること。
n 非加盟国、産業界、国際機関、その他の関係者との取り組みや対話を通
じ、
グローバルなエネルギーの課題への解決策を見出すこと。
© OECD/IEA, 2012
International Energy Agency
9 rue de la Fédération
75739 Paris Cedex 15, France
IEA加盟国:
オーストラリア
オーストリア
ベルギー
カナダ
チェコ
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシャ
ハンガリー
アイルランド
イタリア
日本
韓国
ルクセンブルク
オランダ
ニュージーランド
ノルウェー
ポーランド
ポルトガル
スロバキア
スペイン
スウェーデン
スイス
トルコ
英国
米国
本出版物の使用および配布は
制限されている。利用条件はオ
ンライン上に公開されている。
http://www.iea.org/termsandconditionsuseandcopyright/
欧州委員会もIEA
の活動に参加している。
エグゼクティブ・サマリー 世界のエネルギー情勢は新たな局面を迎えつつある 世界のエネルギー情勢は変化しつつあり、エネルギー市場と貿易に幅広い影響を及
しうる。米国における石油・ガス生産の復活により世界の構図が塗り替えられつつ
あり、一部の国の原子力の撤退、風力・太陽光発電技術の継続的な利用急増、非在
来型ガス生産の世界的普及などにより、さらに再編される可能性もある。国際石油
市場の見通しは、イラクが国内石油部門の復興を成し得るかどうかに左右される。
世界のエネルギー効率を改善するための協調的な取り組みにおいて、新たな政策イ
ニシアティブが拡大・実行されれば、エネルギー情勢がさらに一変する可能性があ
る。グローバルなシナリオと多様なケース分析に基づき、このワールド・エネルギ
ー・アウトルック(世界エネルギー展望)は、これらの新たな動きが今後数十年間
の世界のエネルギー動向や気候変動の傾向にどのような影響を及ぼすかを評価して
いる。さらに、エネルギーシステムが抱えている極めて重要な課題、すなわち、新
興経済諸国における所得と人口の増加に牽引されて増加し続ける世界のエネルギー
需要に応えること、世界の最貧困層にエネルギーを提供すること、世界を気候変動
目標の達成に導くこと、これらの諸問題に与える影響ついても考察している。
新たな展開や政策を全て考慮しても、世界は、グローバルなエネルギーシステムを
より持続可能な軌道に乗せることが未だにできていない。新政策シナリオ(ワール
ド・エネルギー・アウトルックの中心シナリオ)では、世界のエネルギー需要は
2035 年までに 3 分の 1 以上増加するが、このうち 60%は中国、インド、中東におけ
る需要増によるものである。OECD 諸国では、エネルギー需要はほとんど増えていな
いが、石油と石炭(一部の国では原子力)から天然ガスと再生可能エネルギーへの
転換が見られる。低炭素のエネルギー源が増加するにもかかわらず、世界のエネル
ギー構成では化石燃料が引き続き支配的なシェアを占める。それを支えているのは
補助金で、2011 年の化石燃料に対する補助金は 5,230 億ドルで、対 2010 年比 30%
近く増え、再生可能エネルギーに対する補助金の 6 倍以上に達した。化石燃料に対
する補助金のコストは石油価格の上昇によって押し上げられているが、補助が最も
広く行われているのは依然として、改革の機運が失われたように見える中東と北ア
フリカである。新政策シナリオの場合、温室効果ガス排出量の増加による世界平均
気温の長期的な上昇幅は 3.6℃となる。
米国のエネルギー・フローの潮目が変わる 米国のエネルギー動向は様変わりしており、その影響の及ぶ範囲は北米そしてエネ
ルギー部門をはるかに超える。米国における石油・ガス生産の回復は、軽質タイト
オイル、シェールガス資源の開発・利用を可能にしている上流技術によって牽引さ
れているが、ガス・電気料金の低下による産業競争力の向上と相まって経済活動に
拍車をかけ、世界のエネルギー貿易における北米の役割を着実に変えつつある。
2020 年頃までに、米国は世界最大の石油生産国となる(2020 年代半ばまでにサウ
ジアラビアを抜く)ことが見込まれるとともに、運輸部門での新たな燃費政策の影
響が現れ始める。この結果、米国の石油輸入量は継続的に減少し、北米は 2030 年
エグゼクティブ・サマリー 1
頃に石油の純輸出国となる。これがアジアへの国際石油貿易の流れを加速し、中東
産石油をアジア市場へと運ぶ戦略的ルートの安全保障が注目されるようになる。米
国は現在、国内エネルギー需要全体の約 20%を輸入に頼っているが、その米国が輸
出入を差し引きした純量でほぼ自給自足するようになる。これは、他の大半のエネ
ルギー輸入国で見られる傾向と正反対である。
しかし、世界市場の影響を受けない国はない いかなる国もエネルギーの「孤島」ではなく、様々な燃料、市場、価格間の相互作
用は強まっている。大半の石油消費国は世界的な価格変動の影響に慣れている(石
油輸入量を減らしても、米国が国際市場の動向と無縁でいることはできない)。し
かし、他の分野においても相互関係がより強まるだろう。最近の例として、米国で
は天然ガスの低価格化により石炭使用量が減少し、その分、欧州輸出用の石炭が増
えている(それが欧州ではより価格の高いガスに取って代わっている)。2012 年の
最低価格で見ると、米国の天然ガス価格は欧州の輸入価格の約 5 分の 1、日本の輸
入価格の約 8 分の 1 だった。今後、液化天然ガス貿易がより柔軟になり、契約条件
が変われば、各地域のガス価格が相関性を強めていくだろう。これはつまり、ある
地域の価格変動がこれまでより速く他の地域に波及するということである。個々の
国・地域内でも、競争力のある電力市場はガス市場と石炭市場の繋がりをより強め
ていく一方、これらの市場は、再生可能エネルギーの役割の増加や、場合によって
は、原子力の役割の減少にも適応する必要がある。エネルギー安全保障や経済、環
境面の目標を同時に推進しようとしている政策当局は、ますます複雑化し、時には
相反する選択をしなければならなくなっている。
エネルギー効率の高い世界を実現するためのシナリオ エネルギー効率化は、政策当局が利用し得る主要な選択肢として幅広く認められて
いるが、現在の取り組みはその経済的ポテンシャルを十分に活用するには程遠い。
この 1 年で、主要なエネルギー消費国は新たな対策を発表している。中国は 2015
年までにエネルギー原単位(単位 GDP あたりのエネルギー消費)を 16%引き下げる
ことを目標として打ち出している。米国は新たな燃費基準を採用している。EU は
2020 年のエネルギー需要を 20%削減することを約束している。日本は 2030 年まで
に電力消費量の 10%削減を目指している。新政策シナリオでは、これらの対策によ
って、この 10 年間遅々として進んでいなかった世界のエネルギー効率が改善する
ことになる。しかし、これらの対策やその他の新政策を実施・導入しても、エネル
ギー効率を改善できるポテンシャルの大部分(建築物では改善余地の 5 分の 4、ま
た、産業部門では半分以上)は、2035 年になっても依然として手つかずのままであ
る。
我々のエネルギー効率化シナリオは、効率化投資への障害にどのように対処すれば、
この効率改善ポテンシャルを実現可能とし、エネルギー安全保障、経済成長、環境
面で大きな利益を実現し得るかを示したものである。これらの利益は、何らかの大
きな、あるいは予期せぬ画期的新技術の実現によってではなく、経済的に実行可能
なエネルギー効率化策の実行を妨げている障害を取り除くだけで得られるものであ
る。施策が成功すれば、世界のエネルギー動向と気候変動の趨勢により大きな影響
2
World Energy Outlook
を及ぼし、新政策シナリオと比べ、世界の一次エネルギー需要の伸びは半減するだ
ろう。石油需要は 2020 年以前にピークに達し、2035 年までに日量約 1,300 万バレ
ル少なくなるだろう。この減少分は、ロシアとノルウェーの現在の生産量を合わせ
た分に匹敵するものであり、新たな発見と開発を求める圧力が緩和される。エネル
ギー効率化技術への追加投資額 11 兆 8,000 億ドル(2011 年価格)は、燃料に対す
る支出の低減によって、十二分に相殺されるだろう。その効果で 2035 年までの経
済生産を累積で 18 兆ドル押し上げ、世界経済が徐々に方向転換していくのに貢献
しうる。GDP の押し上げ幅が最も大きいのはインド、中国、米国、欧州である。近
代エネルギーを世界中に行き渡らせることに資するとともに、地域の汚染物質排出
量が大幅に減少するため、大気の質も改善する。エネルギー由来の CO2 排出量は
2020 年以前にピークに達し、その後の長期的な気温上昇幅は 3℃となるだろう。
我々は、エネルギー効率化シナリオを実現し得る政策の原則を提案する。具体的な
手段は国や部門によって異なるが、対処する必要のある分野は大まかに 6 つある。
1、経済的利益の測定と開示を強化することによって、エネルギー効率をはっきり
と目に見えるものにする必要がある。2、効率性の問題を政府、産業、社会の様々
なレベルの意思決定に統合すべく、エネルギー効率に対する注目度を引き上げる必
要がある。3、政策当局は、投資家が妥当な報酬を得られるようなビジネスモデル、
金融商品、インセンティブを創出・支援することによって、エネルギー効率化への
投資環境を改善する必要がある。4、非効率的なアプローチの利用を阻止する規制
と、効率的なアプローチの利用を促すインセンティブを組み合わせることによって、
政府はエネルギー効率を高める技術を主流に押し上げることができる。5、期待さ
れる省エネルギーを実現するには、監視、検証、実施が極めて重要である。6、あ
らゆるレベルにおいて、エネルギー効率の統治・管理能力に対する投資を拡充する
ことが、これらの措置を下支えするのに必要である。
エネルギー効率の改善によって、気温上昇を 2℃以内に抑える期限を少
し先延ばしできる 過去のワールド・エネルギー・アウトルックで示してきたように、気温上昇を 2℃
以内に抑えるという気候変動目標は年を追うごとに難しさも要するコストも増して
きている。450 シナリオはこの目標の達成に必要な施策について検討したものだが、
それによれば、2035 年までに許容可能な CO2 排出量の約 5 分の 4 はすでに既存の発
電所、工場、建築物などによって「ロックイン」(固定化)されている。2017 年ま
でに CO2 排出量の抑制策を講じなければ、許容可能な CO2 排出量の全量がその時点
で存在するインフラによってロックインされることになる。エネルギー効率化シナ
リオの場合のように、エネルギー効率の高い技術を急速に普及させれば、この全量
がロックインされる時期を 2022 年まで先送りし、切望されている温室効果ガス排
出量の削減合意を世界全体で得るまでの時間を稼ぐことができる。
CO2 回収・貯留(CCS)技術が広範に普及しない場合、世界が気温上昇を 2℃以内に
抑えるという目標を達成しようとすると、化石燃料確認埋蔵量の 3 分の 1 しか
2050 年までに消費できない。この結論は、世界全体の「CO2 埋蔵量」(化石燃料確
認埋蔵量から排出される可能性のある CO2 排出量)に関する我々の評価に基づいて
エグゼクティブ・サマリー 3
いる。この CO2 埋蔵量の約 3 分の 2 は石炭関連、22%は石油関連、15%はガス関連で
ある。地域別に見ると、3 分の 2 は北米、中東、中国、ロシアにある。この結論は、
CO2 排出量を軽減する主要な選択肢としての CCS の重要性を浮き彫りにしているが、
CCS の普及ペースは依然として極めて不透明であり、現在すでに稼働している商業
ベースのプロジェクトはわずか一握りしかない。
トラックが原油需要増分の多くを占める。 新政策シナリオでは、新興経済諸国における石油消費量の増加、特に中国、インド、
中東における運輸用の増加が OECD の需要減少分をはるかに上回り、石油使用量を
着実に押し上げていく。2035 年の石油需要は 2011 年の日量 8,740 万バレルから
9,970 万バレルへと増加し、IEA 平均原油輸入価格も 1 バレル 125 ドル(2011 年価
格。名目ベースでは 1 バレル 215 ドル超)へと上昇する。運輸部門はすでに世界の
石油消費量の半分以上を占めているが、このシェアは、乗用車が 17 億台へと倍増
し、陸上貨物輸送が急増することによってさらに増える。陸上貨物輸送は世界の石
油需要の増分の約 40%を占める。トラック、中でも主にディーゼル車向けの石油消
費量は乗用車向けの消費量よりはるかに速いペースで増加するが、これは、ひとつ
には、トラックの場合、燃費基準を導入している地域が乗用車の場合ほど広まって
いないためである。
非 OPEC 諸国の石油生産量はこの 10 年にわたり徐々に増加していくが、2020 年以
降の供給量は OPEC 依存度が益々高まる。米国の軽質タイトオイル、カナダのオイ
ルサンド、天然ガス液、ブラジルの深海油田からの生産の急増など、非在来型石油
供給量が大幅に増加することで、非 OPEC 諸国の生産量は 2015 年以降押し上げられ、
2011 年の日量 4,900 万バレル弱から日量 5,300 万バレル超へと増加する。この水準
は 2020 年代半ばまで維持されるが、その後は減少に転じ、2035 年には日量 5,000
万バレルとなる。OPEC 諸国の生産量は、特に 2020 年以降増加し、世界全体の生産
量に占める OPEC のシェアは現在の 42%から 2035 年には 50%近くまで上昇する。世
界全体の石油生産量の純増分は、全て非在来型石油と天然ガス液による。非在来型
石油には、2020 年代の大半を通じて日量 400 万バレルを超える軽質タイトオイルが
含まれている。2035 年までに必要とされる石油・ガス探査への投資額 15 兆ドルの
うち、約 30%は北米への投資である。
イラクの成否が今後を左右する 世界の石油供給量の伸びに対してイラクが群を抜いて最大の貢献者となる。何十年
にも及ぶ紛争と不安定のを経て、イラクが生産量を拡大しようとする意欲は、資源
の規模や生産コストによって制約を受けるものではないが、それを実現するには、
エネルギー供給網全体をうまく調整し、自国の豊富な炭化水素資源からどのように
長期的価値を引き出すかを明確にし、そして石油政策に関する国内のコンセンサス
をまとめ上げることが必要となる。我々の予測では、イラクの石油生産量は 2020
年に日量 600 万バレルを超え、2035 年には日量 800 万バレル超へと増加する。イラ
クは急成長するアジア市場、主に中国への主要な供給国となり、2030 年までには、
ロシアに代わり世界第 2 位の石油輸出国となる。イラクによるこの供給量の増加が
4
World Energy Outlook
なければ、石油市場は逼迫し、石油価格は 2035 年までに新政策シナリオの水準よ
り 1 バレル約 15 ドル高くなる。
イラクは 2035 年までに石油輸出により約 5 兆ドルの収入を得るが、これは年平均
2,000 億ドルであり、同国の将来展望を好転させる機会をもたらす。イラクの場合、
エネルギー部門は山積する他部門への支出ニーズと資金の取り合いをすることにな
るが、喫緊の課題は電力供給力がまず需要に追いつき、そして需要増加に対応して
いくことである。計画されている新規の発電設備が予定どおりに整備されれば、電
力網を基盤とした発電量は 2015 年頃にピーク需要に追いつく。現在は大半が燃焼
処理されている随伴ガスの採取と処理、非随伴ガスの開発によって、より効率的な
ガス火力発電所の導入が可能となり、一旦国内需要が満たされれば、ガス輸出に乗
り出す展望も開ける。石油輸出収入をより大きな繁栄へと転換するには、様々な制
度を強化し、収入と支出を効率的かつ透明性をもって管理するとともに、より多様
な経済活動を奨励するのに必要な進路を定める必要がある。
天然ガスの黄金時代はさまざまな色合いを持ちうる
天然ガスは全てのシナリオで世界需要が増加する唯一の化石燃料であり、そのこと
は天然ガスが異なる政策条件の下でも堅調に推移することを示している。しかし、
先行きの見通しは地域によって異なる。中国、インド、中東では需要が大幅に増加
する。積極的な政策支援と規制改革により、中国の消費量は 2011 年の約 1,300 億
立方メートルから 2035 年には 5,450 億立方メートルへと増加する。米国では、低
価格と潤沢な供給を背景に、ガス需要は 2030 年頃に石油を追い抜き、エネルギー
構成で最大を占める燃料となる。欧州では、ガス需要を 2010 年水準まで戻すのに
ほぼ 10 年かかる。日本における需要増加も、価格上昇、再生可能エネルギー及び
エネルギー効率を重視する政策によって制約を受ける。
2035 年までの世界全体のガス生産量増加分の約半分を非在来型ガスが占めるが、
この増加の大半は中国、米国、オーストラリアによるものである。しかし、非在来
型ガス事業は未だに形成期にあり、多くの国ではその資源の拡がりと品質において
不確実性を伴っている。2012 年 5 月発表のワールド・エネルギー・アウトルックの
特別報告書で分析されているように、非在来型ガス生産による環境への影響に対す
る懸念もある。環境影響に適切に対処しなければ、非在来型ガス革命は頓挫するこ
とになりかねない。国際社会の信頼は、強固な規制枠組みと規範的な産業活動によ
って支えられる。供給源の強化と多様化、中国における適度な輸入需要、米国のよ
うな新たな輸出国の台頭などによって、非在来型ガスは貿易フローの多様化への動
きを加速し、在来型ガスの供給国や従来の石油と連動したガス価格設定メカニズム
への圧力になる可能性がある。
石炭は今後も選択される燃料でありつづけるか 石炭は過去 10 年間の世界全体のエネルギー需要増加分の約半分を満たしており、
再生可能エネルギーの合計より速いペースで伸びている。石炭需要が今後も大幅に
増加するか、それとも減少に転じるかは、CO2 排出量のより少ないエネルギーに対
する優遇政策の程度、より効率的な石炭燃焼技術の普及、そして特に長期的に見て
エグゼクティブ・サマリー 5
重要な CCS などにかかっている。世界の石炭バランスにとって最も重要な政策決定
は、北京とニューデリーで行われることになる。中国とインドの両国だけで非 OECD
諸国の石炭需要増加見込みの約 4 分の 3 を占めるからである(OECD の石炭使用量は
減少する)。中国の需要は 2020 年頃にピークに達し、その後は 2035 年まで横ばい
で推移する。インドの石炭消費量は伸び続け、2025 年までに米国を追い抜き、世界
第 2 位の石炭消費国となる。石炭貿易は、インドが世界最大の石炭純輸入国となる
2020 年までは増え続けるが、その後は、中国の輸入減少により、横ばいとなる。こ
れらの予測は、政策の変更や代替燃料(例えば中国の非在来型ガス)の開発、イン
フラのタイムリーな利用可能性などに左右されるため、一般炭の国際市場と価格に
は大きな先行き不透明感がある。
原子力が後退した場合、何がその穴を埋めるのか 世界の電力需要はエネルギー消費全体の 2 倍近いスピードで増えるが、この需要に
応えることは、高経年化した発電部門のインフラをリプレースするために必要な投
資を考えると、一層困難になる。2035 年までに建設される新設発電所の約 3 分の 1
は、廃止される発電所に代わるためのものである。新設能力の半分は再生可能エネ
ルギー源をベースにしたものだが、石炭は引き続き最大の発電燃料の座に留まる。
2035 年までの中国の電力需要の伸びは日米両国を合わせた現在の電力使用量を上回
り、中国の石炭火力発電量は原子力、風力、水力発電の総発電量と同程度増加する。
電力価格の世界平均は 2035 年までに実質ベースで 15%上昇するが、これは燃料費の
上昇、より資本集約型の発電能力への転換、再生可能エネルギーへの補助、一部の
国における CO2 への価格付けなどによるものである。電力価格は地域によって大き
な開きがあり、最も高いのは引き続き EU と日本で、その価格は米国と中国の価格
を大幅に上回る。
2011 年の福島第一原子力発電所事故を受けて政策を見直す国もあり、原子力に期
待される役割は縮小している。日本とフランスが最近、原子力利用の削減を打ち出
している国に加わった一方、米国とカナダでも原子力の競争力は比較的安価な天然
ガスの挑戦を受けている。原子力発電所の設備容量の伸びに関する我々の予測は、
昨年版のワールド・エネルギー・アウトルックの予測を下回っており、原子力発電
量が中国、韓国、インド、ロシアにおける発電量の増加に牽引されて絶対量では増
加する一方、電力構成に占める原子力のシェアはやや低下する。原子力からの転換
は、その国の化石燃料輸入費用、電力価格、気候変動に関する目標の達成に要する
取り組みの水準などに大きな影響を及ぼす可能性がある。
再生可能エネルギーが日の当たる地位に台頭
水力発電の着実な増加と風力発電、太陽光発電の急拡大によって、再生可能エネル
ギーは世界全体のエネルギー構成において不可欠な要素としての地位を確立してい
る。2035 年までに再生可能エネルギーは、全発電量の約 3 分の 1 を占めるように
なる。太陽光発電は他のいかなる再生可能エネルギー技術よりも速いペースで増加
する。再生可能エネルギーは 2015 年までに世界第 2 位の電源(石炭のほぼ半分)
となり、2035 年までに世界全体で最大の電源である石炭に迫る。バイオマス(発電
用)とバイオ燃料の消費量は 4 倍へと増加し、国際貿易量は増加する。世界全体の
6
World Energy Outlook
バイオエネルギー資源は、食料生産と競合せずに、バイオ燃料とバイオマスの供給
量に関する我々の予測を十分に満たすことができるが、土地利用への影響について
は注意深く対処する必要がある。再生可能エネルギーの急増は、技術費用の減少、
化石燃料価格の上昇、炭素排出への価格付けなどによっても後押しされるが、主に
世界全体で 2011 年の 880 億ドルから 2035 年に約 2,400 億ドルへと増加する補助金
の継続によって下支えされる。新規の再生可能エネルギープロジェクトを支援する
ための補助金は、政府や消費者への過度の負担を避けるため、発電能力の増加や再
生可能エネルギー技術のコストの低下に合わせ、長期的に調整していく必要がある。
全ての人がエネルギーを利用できる環境整備という目標への注力を継続 この 1 年の進展にもかかわらず、電力を利用できない人口は依然として約 13 億人、
近代的な調理設備を利用できない人口は 26 億人に上る。アジアの開発途上国 4 か
国とサハラ以南アフリカの 6 か国の合計 10 か国において電力を利用できない人口
が 3 分の 2 を占め、インド、中国、バングラデシュの 3 か国においては近代的な調
理設備を利用できない人口が半分以上を占める。国連の持続可能な開発会議(リオ
+20)では、2030 年までの近代的エネルギー利用に関する目標について拘束力のあ
るコミットメントはもたらされなかったが、国連が提唱する「全ての人のための持
続可能エネルギーの国際年(the UN Year of Sustainable Energy for All)」の
取組によってこの目標に対する歓迎すべきコミットメントが新たに生まれている。
しかし、さらに大きな取り組みが必要とされている。我々の予測によれば、さらな
る行動がとられなければ、2030 年になっても電力を利用できない人口は約 10 億人
に上り、近代的な調理設備を利用できない人口は依然として 26 億人を超える。
我々の予測では、2030 年までに全ての人がエネルギーを利用できる環境を整備する
には累積で約 1 兆ドルの投資が必要である。
我々は、政策当局による近代的エネルギーの提供に向けた進捗状況の調査を支援す
べく、80 か国のエネルギー開発指数(EDI)を提示している。EDI は、家庭やコミ
ュニティレベルにおける国のエネルギー開発状況を測る総合指数である。これによ
れば、近年では広範な状況の改善が見られるが、最も大きな進展を示しているのは
中国、タイ、エルサルバドル、アルゼンチン、ウルグアイ、ベトナム、アルジェリ
アである。しかし、エチオピア、リベリア、ルワンダ、ギニア、ウガンダ、ブルキ
ナファソなど、EDI の数値が依然として低い国も多い。数値が最も悪いのはサハラ
以南アフリカ地域であり、ランキングの下位半分において多数を占めている。
エネルギーも喉が渇いてきている
エネルギー生産のための水需要がエネルギー需要の 2 倍のペースで伸びていくのは
必至である。水はエネルギー生産にとって不可欠である。発電においても、石油・
ガス・石炭の抽出・輸送・処理においても、さらには、これまでにも増して、バイ
オ燃料の生産に用いられる作物の灌漑においても水が用いられる。我々の推定によ
れば、2010 年のエネルギー生産向け取水量は 5,830 億立方メートルで、このうち消
費量(取水されたが、水源に戻されなかった量)は 660 億立方メートルだった。
2035 年までに水の消費量が 85%増加するとの予測は、水多消費型の発電への動きが
進むこととバイオ燃料の生産拡大を反映したものである。
エグゼクティブ・サマリー 7
人口増加と経済成長による水資源獲得競争が高まるにつれ、エネルギー計画の実現
可能性に関する評価基準として水の重要性が増している。水資源の制約により、す
でに既存設備の稼働面の信頼性に悪影響が及んでいる地域もあり、今後ますます追
加的なコストがかかるようになる。場合によっては、水不足で計画の実現可能性を
脅かされることもあるだろう。エネルギー部門の水制約に対する脆弱性は広範な地
域に広がっており、特に、中国や米国の一部地域におけるシェールガスの開発や発
電、インドの水多消費型の発電所群の運営、カナダのオイルサンド生産、イラクに
おける油田圧力の維持などに悪影響を及ぼしている。エネルギー部門の水に対する
脆弱性を管理するためには、より優れた技術の利用や、エネルギー政策と水政策の
統合強化などが必要である。
本文書の原文は英語である。IEA は本和訳が原文に忠実であるようあらゆる努力をしているが、 多少の相違がある可能性もある。 IEA PUBLICATIONS, 9 rue de la Fédération, 75739 Paris Cedex 15 Layout in France by Easy Catalogue ‐ Printed in France by IEA, November 2012 Photo credits: GraphicObsession 8
World Energy Outlook
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la
Int
de
e
r
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rue
ation
al Energy Agency • 9
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online:
www.iea.org/books
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r
dé
Fé
at
io
n•
Books published before January 2011
- except statistics publications are freely available in pdf
75
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