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エグゼクティブサマリー Japanese Translation WORLD ENERGY OUTLOOK 2 0 1 3 WORLD ENERGY OUTLOOK 2013 エネルギー価格の大きな地域間格差が国際競争力に影響を及ぼす世界 で、誰が勝者になり、誰が敗者になるのか。 既存油田の生産減少を補い、かつ需要の増加に応えるには、莫大な量の 石油が必要になる。 その石油はどこから来るのか。 アジア、欧州及び北米の天然ガス価格が急速に収斂していくための引き 金になりうるのは何か。 それはエネルギー市場にどのような影響を及ぼす のか。 再生可能エネルギーの自律的成長は可能か。 それによりグローバルな気 候変動目標を達成できるのか。 化石燃料補助金の段階的廃止と貧困層による近代的エネルギーサービ スの利用はどこまで進展・拡大していくのか。 これらの問いやその他の多くの問いに対する答えが、全てのエネルギー 源、地域、需要部門における2035年までの見通しを描いたWEO2013に 示されている。石油に関しては、その資源、生産、需要、精製、国際貿易の 状況を詳細に分析している。 グローバルなエネルギーバランスにとって 重要な要素であるエネルギー効率についても、他のエネルギー源と同 列に取り上げ、その見通しと貢献について一章を割いて提示している。 また、 ブラジルのエネルギー部門に関する詳細な見通しと世界のエネル ギー情勢への影響についても考察している。 詳細な情報については以下のサイトを参照。 www.worldenergyoutlook.org 国際エネルギー機関 その主な使命はこれまでも、そして今日も次の二つである。石油供給の物理的途絶に対して 加盟国が集団的に対処することで、エネルギー安全保障を促進すること。加盟28か国、および その他の国々に対し、信頼できる、手頃な価格の、かつクリーンなエネルギーを確保するための 方策について、権威ある調査分析を行うこと。IEAは、加盟国間のエネルギー協力に関する包括的 プログラムを実施している。各加盟国は、石油純輸入量90日分に相当する備蓄を義務づけられて いる。IEAの目的は次の通りである: n あ らゆる種類のエネルギーにつき、特に石油供給が途絶された場合に効果的な緊急対応を行う能力を 維持することによって、加盟国に確実かつ十分な供給へのアクセスを確保すること。 n 特に気候変動の要因となる温室効果ガスの削減を通じ、 グローバルな経済成長および環境保護を向 上させる持続可能なエネルギーを促進すること。 n エネルギーデータの収集および分析を通じ国際市場の透明性を向上させること。 n エネルギー効率の改善や低炭素技術の開発及び活用等を通じ、将来のエネルギー供給を 確保し、環境への影響を軽減するエネルギー技術に関するグローバルな協力を支持す ること。 n 非加盟国、産業界、国際機関、その他の関係者との取り組みや対話を通 じ、 グローバルなエネルギーの課題への解決策を見出すこと。 IEA加盟国は: オーストラリア オーストリア ベルギー カナダ チェコ デンマーク フィンランド フランス ドイツ ギリシャ ハンガリー アイルランド イタリア 日本 韓国 ルクセンブルク オランダ ニュージーランド ノルウェー ポーランド ポルトガル スロバキア スペイン © OECD/IEA, 2013 スウェーデン International Energy Agency スイス 9 rue de la Fédération トルコ 75739 Paris Cedex 15, France 英国 米国である 本出版物の使用および配布は 制限されている。利用条件はオ ンライン上に公開されている。 http://www.iea.org/termsandconditionsuseandcopyright/ 欧州委員会もIEA の活動に参加している。 エグゼクティブ・サマリー 急速に変貌するエネルギー情勢における針路 エネルギー部門に関する長年の固定観念の多くが書き換えられようとしている。主要 な輸入国が輸出国になりつつある一方、これまでずっと主要なエネルギー輸出国とさ れてきた国々が世界的な需要増の中心地にもなってきている。政策と技術を適切に組 み合わせれば、経済成長、エネルギー需要、エネルギー起源 CO2 排出量の相関関係を 弱めることができることも実証されてきている。非在来型石油・ガスと再生可能エネ ルギーの増加によって、世界のエネルギー資源分布に関する理解も変化している。エ ネルギー市場を支える力学を理解することは、経済、エネルギー、環境に関する目標 を並立させようとする政策当局にとって極めて重要である。世界のエネルギー動向を うまく見越して対応できれば有利な立場を得られる一方、そうでなければ政策や投資 の判断を誤りかねない。このワールド・エネルギー・アウトルック(WEO-2013)は、 エネルギーと気候変動の 2035 年までの傾向に関して、異なる選択肢を採った場合の影 響について検討し、エネルギー情勢が急速に変貌する中で、政策当局、産業界、その 他の利害関係者が自らの針路を探るための一助となり得る知見を提供する。 © OECD/IEA, 2013 エネルギー需要の重心は、世界のエネルギー使用量を 3 分の 1 押し上げる新興経済諸 国、特に中国、インド、中東へと決定的に移りつつある。中国のアジア域内における 存在感が際立っているが、WEO2013 の中心シナリオである新政策シナリオでは、2020 年以降、インドが主要な需要増の牽引役として取って代わる。東南アジアもエネルギ ー消費の中心地として浮上している(詳細については 2013 年 10 月発表の『WEO 特別 報告書:東南アジアエネルギーアウトルック』を参照)。中国は今まさに最大の石油 輸入国になろうとしており、インドは 2020 年代初頭までに最大の石炭輸入国となる。 米国は 2035 年までに、自国のエネルギー需要の全てを国内資源で賄う方向へと着実に 進む。全体として、これらの変化は、エネルギー貿易の中心が大西洋からアジア太平 洋地域へと転換することを示している。高水準の石油価格、ガス・電力価格の根強い 地域間格差、多くの国々におけるエネルギー輸入額の増加などを背景に、エネルギー と経済全般との関係が注目を集めている。エネルギーと経済開発の結びつきは、アフ リカの現状に如実に示されている。アフリカは、豊富な資源に恵まれているにもかか わらず、 1 人当たりエネルギー使用量が 2035 年で世界平均の 3 分の 1 未満にとどまる。 現在、世界で電力を利用できない 13 億人のうち約半数、伝統的なバイオマスの利用に 頼って調理をしている 26 億人のうち 4 分の 1 は、アフリカにいる。世界全体で見て、 化石燃料は引き続きエネルギー需要で圧倒的な割合を占め、エネルギー、環境、気候変動 の相関関係に影響を及ぼしている。 世界の温室効果ガス排出量の 3 分の 2 を占めるエネルギー部門は、気候変動目標が達成さ れるかを左右する極めて重要な役割を果たす。停滞している CO2 削減策もあるが、米国大 統領の気候行動計画、中国のエネルギー構成に占める石炭の割合を抑制する計画、欧州の 2030 年のエネルギー及び気候変動目標に関する論議、 日本の新たなエネルギー計画に関す る議論などはどれもエネルギー起源 CO2 排出量の伸びを抑制する可能性がある。中心シナ リオでは、政府によってすでに発表されているエネルギー効率化策、再生可能エネルギー 支援策、化石燃料補助金削減策、さらに一部の国の炭素価格導入などの影響を織り込んで いるが、それでもエネルギー起源 CO2 排出量は 2035 年までに 20%増加する。この場合の エグゼクティブ・サマリー 1 長期的な世界平均気温の上昇は、国際的に合意された 2℃という目標を大幅に上回る 3.6℃ となる。 競争に必要なエネルギーを持っているのは誰か エネルギー価格の大きな地域間格差が、経済成長の推進や停滞におけるエネルギーの 役割についての論議を引き起こしている。ブレント原油の 2011 年以降の平均実質価 格は 1 バレル 110 ドルであるが、これほど長期にわたる石油価格の高止まりは石油市 場の歴史上初めてである。しかし、世界的に比較的均一な原油価格とは違って、他の 燃料の価格は地域差が大きくなりやすい。天然ガスの価格差は 2012 年半ばの極端なレ ベルから縮小してきているが、 米国内の価格は依然として欧州の輸入価格の 3 分の 1、 日本の輸入価格の 5 分の 1 である。電力価格も多様で、日本と欧州の平均的な大口需 要家が支払っている電力料金は米国の水準の 2 倍以上、中国の産業界が支払っている 料金ですら米国の水準のほぼ 2 倍である。多くの国、経済部門にとって、競争力を構 成する上でエネルギーの占める割合は比較的小さい。しかし、エネルギーのコストは、 化学、アルミニウム、セメント、鉄鋼、製紙、ガラス、石油精製といったエネルギー 集約型産業にとっては、特に製品が国際的に取引されている場合には極めて重大な要 素になり得る。エネルギー集約型産業は、産業部門全体における付加価値の約 5 分の 1、雇用者数の 4 分の 1、エネルギー使用量の 70%を占めている。 エネルギー価格の差は産業競争力に作用し、投資決定や企業戦略に影響を及ぼす。中 心シナリオでは、天然ガス価格の地域間格差は縮小していくが、それでも 2035 年まで を通して大幅な格差が残る。また、電力価格については、多くの地域で地域間格差は 硬直的である。アジアを中心とする多くの新興国では、エネルギー集約型製品に対す る内需の大幅な伸びが生産の急増を下支えする(輸出の拡大にもつながる)。しかし、 その他の地域においては、相対的なエネルギーコストが産業動向により決定的な役割 を果たす。米国では、エネルギー集約型製品の世界における輸出シェアがわずかだが 上昇する。これは、エネルギー価格の相対的な低さと産業動向が連動していることを 最も明瞭に示している。対照的に、欧州連合及び日本の輸出シェアは大きく縮小、両 者合わせて現在のシェアの 3 分の1を失う。 © OECD/IEA, 2013 エネルギーから経済の活性化を模索する 各国は、より効率的、競争的かつ相互に連繋したエネルギー市場を促進することで、高 価格の影響を低減させることができる。各地域におけるガス市場間の価格差は、グロー バルなガス市場への動きが迅速化すれば、さらに縮小しうる。そのためには、ガス価格 収斂シナリオで検討したように、アジア太平洋地域におけるガス市場改革の加速と北米 からの液化天然ガス(LNG)輸出(及び LNG の液化コストや輸送費の低下)を追い風に して、現在の LNG 契約形態や石油連動型価格メカニズムの硬直性を緩和する必要がある。 また、一部の地域、特に中国といくつかの中南米諸国、さらに欧州の一部においても、 非在来型ガス資源の開発における米国の成功を小規模にでも再現できる可能性がある。 ただし、資源の質、生産コスト、さらに一部の国では開発に対する社会的受容性に関し て、不確実性は残る。 エネルギー効率の再重視の動きは定着しつつあり、これは競争力の改善という範囲を 大幅に超えた利益をもたらす。この 1 年間に導入された特筆すべき政策としては、欧 2 World Energy Outlook 2013 州と日本における建築物の効率化策、北米における自動車の燃費向上策、一部の中東 諸国における空調機器の効率化策、そして中国とインドにおけるエネルギー価格改革 などが挙げられる。効率化策は、産業部門のコストを引き下げるばかりでなく、エネ ルギー価格が家計(欧州連合ではエネルギーの家計支出に占める割合が非常に高い水 準に達している)や輸入額(日本ではエネルギー輸入額の GDP に占める割合が急速に 上昇している)に及ぼす影響も軽減する。しかし、エネルギー効率の可能性はまだ十 分に生かされておらず、中心シナリオの場合でも、経済性に見合うポテンシャルの 3 分の 2 は手付かずのままである。エネルギー効率化投資への様々な障害を取り除く施 策が必要である。これには、2012 年に世界全体で 5,440 億ドルに増加したと推計され る化石燃料補助金の段階的廃止も含まれる。 エネルギー競争力を強化するということは気候変動対策の手綱を緩めるということ ではない。2013 年 6 月に発表された『WEO 特別報告書:エネルギーと気候変動の構 図を描き直す』は、経済成長を損なわずに 2020 年までに排出量の増加に歯止めをかけ ることができる 4 つの現実的措置―効率の改善、最も効率の悪い石炭火力発電所の建 設及び使用の制限、石油・ガスの上流部門におけるメタン排出量の最小化、化石燃料 補助金改革―を明らかにした。この一連の措置は、我々の中心シナリオですでに織り 込まれている動向、特に再生可能エネルギー技術の利用増を補完する役割を果たす。 ただし、政府としては、2012 年に 1,000 億ドルに達し、2035 年には 2,200 億ドルへと 拡大が見込まれる再生可能エネルギーへの助成制度の設計には細心の注意を払う必要 がある。再生可能エネルギーが競争力をつけていくにつれて、追加コストの負担者に 過度の負担をかけずに、低炭素エネルギー源の多様な便益を享受できるような助成制 度であることが重要である。気候変動に関する国際的取り決めを慎重に検討していく ことで、排出量の抑制に向けて断固たる行動をとる国のエネルギー集約型産業が、そ うでない国との不公平な競争に晒されないようにすることができる。 ライトタイトオイルは今後 10 年を揺るがすが、その後落ち着いていく © OECD/IEA, 2013 ライトタイトオイル(LTO、またはシェールオイル)、超深海油田などの新型資源の 新規開発や、既存油田の回収率を高める技術によって、未だ生産されていない石油の 推定埋蔵量は押し上げられつつある。しかし、世界は石油が豊富な新時代に入ろうと しているわけではない。石油価格が 2035 年まで 1 バレル 128 ドル(2012 年基準実質 価格)へと着実に上昇していくことは、これら新資源への開発を後押しする。ただし、 いかなる国も、LTO によって世界最大の石油生産国へと浮上しつつある米国のような 成功を収めることはできない。日量 1,400 万バレル増加して 2035 年には日量 1 億 100 万バレルに達する世界の石油需要と、日量 6,500 万バレルへと微減する在来型原油生 産との差は、非在来型石油(LTO を含む)と天然ガス液(NGL)の増加によって埋めら れる。 唯一の低コスト産油地域である中東は、今後も石油の長期見通しの中心的役割を担う。 OPEC 諸国が世界の石油需要を満たす上で果たす役割は、米国の石油生産、カナダのオイ ルサンド、ブラジルの深海生産、世界各地の天然ガス液からの生産量の増加により、今後 10 年間は一時的に低下する。しかし、2020 年代半ばまでに、非 OPEC 諸国の生産量は減少 エグゼクティブ・サマリー 3 に転じ、中東諸国が世界全体の供給増加分の大半を担うようになる。全体として、国営石 油会社とその政府が、世界の確認及び推定埋蔵量全体の約 80%を支配する。 既存油田からの生産量の減少を補う必要性が、2035 年までの上流部門の石油投資を牽 引する主要な原動力となる。1,600 以上の油田を対象にした我々の分析によれば、生産 がいったんピークに達すると、油田の種類により異なるが、平均的な在来型油田の生 産量は毎年約 6%ずつ減少していく。このことは、既存油田からの在来型原油生産量が 2035 年までに日量 4,000 万バレル以上減少することを意味している。また、大半の非 在来型油田事業は、急速な油田減少を防ぐための継続的な掘削に大きく依存している。 我々が予測する 2035 年までの需要を満たすために必要な総生産量 7,900 億バレルの半 分以上は、単に減産分を補うためだけに必要なのである。 運輸部門と石油化学部門の需要により、石油使用量は、ペースこそ落ちるものの、2035 年まで増加傾向をたどる。OECD 諸国における石油使用量は加速度的に減少する。2030 年前後に、中国が米国を抜いて最大の石油消費国になり、中東の石油消費量は欧州連合 を上回る。需要の地理的なシフトは、インドが 2020 年以降最大の需要増加国に浮上す ることで、さらに確実なものとなる。石油消費は 2035 年までに、運輸部門と石油化学 部門という、わずか 2 つの部門に集中するようになる。運輸部門の石油需要は 25%増加 し、日量 5,900 万バレルに達するが、増加分の 3 分の 1 はアジアにおけるトラック燃料 用である。石油化学の分野では、主に中東、中国、北米が、世界全体の原料用需要を日 量 1,400 万バレルへと押し上げる。高水準の石油価格を背景に、エネルギー効率の改善 が促され、また代替エネルギーを利用できる場合には、石油の地位が低下し、バイオ燃 料と天然ガスが運輸用燃料としてある程度の地歩を築いていく。 石油精製と石油貿易における大移動 © OECD/IEA, 2013 石油需給の構成の大きな変化が、世界の石油精製産業にますます複雑な課題を突きつける が、すべての事業者が生き残れるだけの態勢を整えているわけではない。天然ガス液の生 産増、バイオ燃料、石炭やガスの液化技術により、精製システムを通らずに需要家まで届 く液体燃料の割合が高まっていく。それでもなお、石油精製業者は、ガソリン需要の増加 量のほぼ 3 倍にあたる日量 500 万バレルを超える軽油需要の急増分に応えるために投資す る必要がある。石油消費のバランスがアジア及び中東へと傾くことで、これらの地域では 精製能力が引き続き増強される。しかし、多くの OECD 諸国では、需要の後退と石油製品 輸出市場の競争により、精製施設を閉鎖する圧力が強まる。我々の推計によれば、2035 年までに世界全体で日量約 1,000 万バレル分の精製施設が閉鎖されるリスクがあるが、そ のリスクが最も大きいのは OECD 諸国、特に欧州の精製業者である。 需給の新しい勢力図は、世界の石油貿易フローがアジア市場へとシフトすることを意 味しているが、これは石油の安定供給を確保するための協調的な取り組みにも影響を 及ぼす。北米は純ベースで、2035 年までに原油を輸入する必要がなくなり、石油製品 の一大輸出地となる。アジアは、-限られた戦略的輸送ルートを経由することになる が-世界市場からより多くの原油を引き寄せ、石油貿易において他の追随を許さない 中心地となる。石油は、中東(原油輸出総量でもアジアの輸入ニーズを賄えなくなる) からだけでなく、ロシア、カスピ海、アフリカ、中南米、カナダからもアジアにやっ てくる。中東における輸出向け製油所の新設は、より多くの石油製品(原油としてで 4 World Energy Outlook 2013 はなく)が世界市場に出回る可能性を高めるが、この新しい施設の多くはやがて中東 域内での需要増に応えるものとなる。 風力と太陽光との新しい時代に適応する電力部門 再生可能エネルギーは 2035 年までの世界全体の発電量増加分の半分近くを占めるが、 出力が不安定な電源である風力と太陽光がこの再生可能エネルギー拡大の 45%を占め ている。再生可能エネルギー源による発電量の増加が絶対量ベースで最も大きいのは中 国で、欧州連合、米国、日本を合わせた増加量を上回る。一部の市場では、不安定な再 生可能エネルギーの割合が高まることで電力部門において難題が生じ、現状の市場が適 切な投資と長期安定供給を確保する設計になっているかについて根本的な疑問が呈さ れている。再生可能エネルギーは、世界の電力構成に占める割合で今後数年のうちに天 然ガスを抜き、2035 年には 30%を超え、主要な発電燃料として石炭と肩を並べるまでに なる。現在の原子力発電所の建設ペースは安全規制の見直しにより鈍化しているが、 原子力発電量は、中国、韓国、インド、ロシアに牽引される形で、やがて 3 分の 2 増 加する。CO2 回収・貯留(CCS)技術が広範に普及すれば、電力部門で期待されている CO2 排出原単位の低減が加速することも考えられるが、我々の予測では、2035 年まで に CCS が導入されるのは世界全体の化石燃料火力発電所のわずか 1%程度にすぎない。 経済性と政策が(両者の程度は異なるが)、石炭・ガス動向の鍵を握る © OECD/IEA, 2013 今後も多くの地域において石炭は引き続きガスより安価な発電燃料であるが、発電効 率の改善、地域の大気汚染削減、気候変動緩和のための政策介入が、長期的な動向を 左右する上で極めて重要となる。特に重要となるのが、エネルギー使用量全体に占め る石炭の割合を制限する計画を大筋で示している中国の政策選択である。中国の石炭 使用量は現在、同国以外の全世界を合わせた量に匹敵する。中心シナリオでは、世界 の石炭需要は 2035 年までに 17%増加するが、その増加の 3 分の 2 は 2020 年までに生 じる。OECD 諸国の石炭使用量は減少する。これに対し、非 OECD 諸国、特にインド、 中国、東南アジアの石炭使用量は、中国の需要が 2025 年前後に頭打ち状態になるにも かかわらず、3 分の 1 増加する。インド、インドネシア、中国が石炭生産量増加分の 90%を占める。OECD 諸国の中では唯一オーストラリアが、輸出需要によって生産量を 大幅に増加させる。 市場環境は世界の国・地域ごとに著しく異なるが、他の化石燃料と比べた場合の柔軟性 と環境上の利点は、天然ガスを長期的にわたり優位な立場におく。伸びが最も大きいの は新興国、特に、2035 年までに使用量が 4 倍に増加する中国と、中東である。しかし、 欧州連合では、今後も再生可能エネルギーの割合の上昇と石炭と比較した場合の発電部 門における競争力の弱さに苦しめられるが、ガス消費量はなんとか 2010 年の水準まで 復帰する。北米は引き続き非在来型ガスの大量生産から恩恵を受けるが、このガスのう ち一部は、少量だが重要な意味を持って LNG として海外市場に輸出される。これは、ア フリカ東部、中国、オーストラリアその他の地域における在来型及び非在来型ガス開発 とともに、世界のガス供給の多様性を高めることに貢献する。複数の市場が新たに結び 付くことが触媒となり、ハブ価格のより広範な採用を含め、ガス価格決定方式に変化が もたらされる。 エグゼクティブ・サマリー 5 ブラジルは深海及び低炭素エネルギー開発の最前線に立つ WEO2013 で特集しているブラジルは、主要な石油輸出国になるとともに世界有数のエ ネルギー生産国となる。主に最近発見された一連の海上油田により、ブラジルの石油生 産量は 2035 年までに日量 600 万バレルへと 3 倍に増加するが、これは世界全体の石油 生産量純増分の 3 分の 1 を占め、ブラジルは世界第 6 位の石油生産国となる。天然ガス 生産量も 5 倍以上に増え、2030 年までに大幅に増加する国内需要の全てを賄えるように なる。石油及びガス生産量の増加は、極めて複雑かつ資本集約度の高い深海開発に依存 し、その生産には中東やロシアのそれを上回る額の上流投資が必要とされる。この投資 額の多くは、国営石油会社であるペトロブラスが負担する必要がある。ペトロブラスが 戦略的油田の開発において委任された役割は、巨額に上る様々な投資プログラム全体に 対して経営資源を効果的に配分する能力に重きが置かれている。モノやサービスはブラ ジル国内で調達されることになっているため、余裕のない供給網はさらに厳しいものに なる。 © OECD/IEA, 2013 ブラジルのエネルギー使用量は 80%増加するが、電力を誰でも利用できるようになるこ とも含め、ブラジルの持つ豊富で多様なエネルギー資源がこれを支える。電力消費量の 増加を牽引するのは拡大する中流層のエネルギー需要であり、その結果、運輸用燃料需 要が大幅に伸びるとともに電力消費量が倍増する。この需要に応えるには、エネルギー システムの全体にわたり、年平均 900 億ドルという多額の投資をタイムリーに行う必要 がある。新たな資金を発電部門にもたらしたり、消費者価格の上昇圧力を軽減したりす る上で、発送電施設の新設に入札制度を導入することが極めて重要となる。新規参入者 が魅力を感じるような、円滑に機能するガス市場を整備することも、投資の促進や産業 の競争力強化の助けになり得る。エネルギー効率化策を強化すれば、急成長するエネル ギーシステムが受ける緊張は緩和される。 化石燃料の利用可能性が増し、その使用が増えているにもかかわらず、ブラジルのエ ネルギー部門は依然として CO2 原単位が世界で最も低い国の 1 つである。ブラジルは すでに再生可能エネルギーで世界のトップクラスにあるが、2035 年までにその生産量 を倍増するとともに、国内のエネルギー構成に占める割合を現在の 43%に維持する。 電力部門を支えるのは今後も水力発電である。しかし、残存資源の多くがアマゾン地 域など遠隔地にあったり、環境脆弱性が高かったりするために、水力発電への依存度 は低下していく。電力構成に占める割合が高い燃料の中でも、先導役を果たすのは、 競争力があることがすでに判明してきている陸上風力発電、そして天然ガス、バイオ マス発電である。運輸部門では、ブラジルはすでに世界第 2 位のバイオ燃料生産国で あるが、主にサトウキビエタノールによるその生産量は、3 倍以上に増える。環境脆 弱性の高い地域を無理に開墾しなくても、適切な耕作地域だけでこの増加分を十分に 確保することができる。2035 年までに、ブラジルのバイオ燃料は国内の道路交通燃料 需要のほぼ 3 分の 1 を満たし、その純輸出は世界全体のバイオ燃料貿易の約 40%を占 めるようになる。 6 World Energy Outlook 2013 本文書の原文は英語である。 IEAは本和訳が原文に忠実であるようあらゆる努力をしているが、 多少の相違がある可能性もある。 © OECD/IEA, 2013 This publication reflects the views of the IEA Secretariat but does not necessarily reflect those of individual IEA member countries. The IEA makes no representation or warranty, express or implied, in respect of the publication’s contents (including its completeness or accuracy) and shall not be responsible for any use of, or reliance on, the publication. IEA PUBLICATIONS, 9 rue de la Fédération, 75739 Paris Cedex 15 Layout and printed in France by IEA, November 2013 Photo credits: © GraphicObsession