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論文 - 政策研究大学院大学

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論文 - 政策研究大学院大学
低層住宅地における最低敷地面積規制と
その長期的影響に関する実証分析
要旨
都市部における住宅政策は、高度成長期までは量的住宅問題の解決に向けたものが中心であっ
たが、徐々に量から質に対するものへと転換してきている。また、成熟した社会への変化に伴い、
良好な都市環境、住環境に対する関心が高まるなど価値観の転換が見られるようになり、住環境
の向上、保全のための政策が重視されるようになってきている。
本研究では、住環境の向上・保全のための公共部門の介入として定められる最低敷地面積規制
を対象とする。最低敷地面積規制は、外部不経済の抑制と最有効利用の阻害という相反する側面
があり、先行研究では規制を正当化できないものとして、否定的に捉えているものもある。しか
し、本研究では、敷地分割や高度利用により、都市部のゆとりある住環境が減少傾向であること
に問題意識をおき、最低敷地面積規制の適正な水準は住宅地の違いにより異なること、戸建て住
宅中心の低層住宅地においては、ゆとりある住宅地ほど、強い規制が当該地域の魅力を向上させ
ることを実証した。また、良好な住環境の住宅地を長年に渡り維持し続けることで、その地域や
近隣に及ぶ外部性のみならず、市域全体など広域に及ぶ外部効果が得られる可能性を示した。こ
れらの結果から、最低敷地面積規制を適正に設けること、自治体の住宅地としての価値を高める
ことをも考慮した土地利用政策を行うことを提案する。
2016 年(平成 28 年)2 月
政策研究大学院大学
まちづくりプログラム
MJU15606 柴田
陽子
目次
1 はじめに ....................................................................................................................................... 1
2 最低敷地面積規制が地価に及ぼす影響 ........................................................................................ 1
背景 .................................................................................................................................... 1
理論と仮説 ......................................................................................................................... 2
分析方法 ............................................................................................................................. 3
推定モデル ......................................................................................................................... 4
分析結果 ............................................................................................................................. 7
考察 .................................................................................................................................. 10
3 良好な住環境の近隣と広域に与える外部効果について............................................................. 10
背景 .................................................................................................................................. 10
理論と仮説 ........................................................................................................................11
分析方法 ............................................................................................................................11
分析モデル ....................................................................................................................... 12
分析結果 ........................................................................................................................... 13
考察 .................................................................................................................................. 15
4 事例研究 ..................................................................................................................................... 15
目的 .................................................................................................................................. 15
低層住宅地の土地利用についての事例 ........................................................................... 15
考察 .................................................................................................................................. 17
5 政策提言と課題........................................................................................................................... 18
政策提言 ........................................................................................................................... 18
課題 .................................................................................................................................. 19
謝辞................................................................................................................................................. 20
参考文献 ......................................................................................................................................... 20
1 はじめに
戦後、一世帯一住宅の実現を目標に展開された我が国の住宅政策は、1970 年代に入ると劣悪な
住環境への対策の必要性から、徐々に量的政策から質の向上、持続的な維持へと転換してきた。
そして近年では、成熟した社会への変化に伴い、更に良好な都市環境、住環境に対する関心が高
まるなど価値観の転換が見られるようになり、2004 年には景観法が制定されるなど、住環境の向
上、保全のための政策が特に重視されるようになってきている。
一方、都市部の住宅地においては、敷地分割や、戸建て住宅から共同住宅への建て替えなど、
高度利用することで高い収益が見込めることから、ゆとりある戸建て住宅中心の住環境は減少傾
向にある。その情勢の中、ゆとりある住環境を残し、維持し続ける住宅地もある。そのひとつが
兵庫県芦屋市六麓荘町である。当該住宅地は、1928 年から開発された住宅地であるが、長年にわ
たり、地域住民が独自の協定を自らで運営し、住環境を維持してきている。2006 年に法的根拠の
ある地区計画を定め、現在は、官民一体の良好な住環境を維持する取組みを行っている。その取
組みの中でも、最低敷地面積規制を設けることで、地域に見合わない小規模の宅地が生じること
を防止し、ゆとりある住環境を維持し続けている。そして、住宅都市である芦屋市において最も
特徴的なこの地区が、市の閑静な住宅地のイメージ価値を高めてきたとも言われている。
土地利用規制の必要性や効果について、経済分析から規制の非効率を指摘し、正当化できない
ものとして否定的に捉えている先行研究もある。また、土地の有効利用を妨げる規制は緩和すべ
きだと言われる傾向もある。しかし、本稿は、住環境の質の向上に対する意識が高まる中、その
ゆとりある良好な住環境の減少傾向に問題意識を持ち、最低敷地面積規制とゆとりある良好な住
環境の経済学的な影響について検証するものである。実証分析から、住宅地の状況によって望ま
しい規制水準が異なり、ゆとりある住宅地ほど適正な規制強度が強くなることを明らかにする。
また、ゆとりある戸建て中心の良好な住環境の住宅地が残されていくことで、その住宅地の近隣
に及ぶ外部効果だけではなく、自治体の住宅地としての価値も高めていく可能性があることにつ
いても明らかにする。そして、まち全体の魅力を上げるためには、官民一体の土地利用に対する
取り組みが欠かせないことを事例研究により示す。
本稿の構成は次の通りである。第 2 章では、最低敷地面積規制が地価に及ぼす影響について、
背景から理論と仮説、分析方法について述べた上で分析結果と考察を示す。第 3 章では、良好な
住環境の住宅地の外部効果について、第 2 章と同様の構成で述べる。第 4 章では、事例研究につ
いて述べ、第 5 章では、以上の分析と事例研究を踏まえた政策提案を行い、今後の課題を示す。
2
最低敷地面積規制が地価に及ぼす影響
背景
最低敷地面積規制は建築物の敷地面積に下限を設け、小規模な住宅の建築を抑制し住環境を確
保するために設けられるものである。米国では一般的であるが、日本では注目されてこなかった
規制である。しかし、1980 年に地方自治法に基づく条例として筑波研究学園都市で制定されたの
が先例となって、他都市の条例や地区計画での敷地規定などで利用されることとなった(三
井,2015)
。1992 年以降になると、都市計画法の改正により、用途地域や開発許可基準としても定
められるようになってきている。
1
先行研究では、谷下ら(2009)のように、規制が住環境の維持改善に寄与する可能性を検証して
いるものもあるが、中里(2012)は、最低敷地面積規制が密集抑制の効果を持つものの市場を歪め、
地価の下落を招いていると述べている。また、大嶽(2014)は開発許可における最低敷地面積規制
の非効率性を検証し、規制を緩和することを提案している。これらは、負の外部性についての経
済分析から規制の非効率を指摘するものである。また、都市部においては土地の有効利用、高度
利用の促進を図る必要性から、土地利用規制は土地の有効利用を妨げるものとして、規制緩和が
望ましく言われる傾向もある。
実際の都市部の住宅地を見ると、敷地分割や、戸建て住宅から共同住宅への建て替えなど、高
度利用されることで、ゆとりある戸建て住宅中心の住環境は変化し、ゆとりある住環境は減少傾
向にある。また近年、住環境の質の向上に対する意識が高まる傾向にあることから、そのゆとり
ある良好な住環境が減少していることに問題意識を持ち、最低敷地面積規制の正の効果に着目し、
その規制の効果と望ましい規制の設定について検証をする。
理論と仮説
住宅地は、人の住環境に対する選好の違いにより、様々なものが存在する。住環境を評価する
指標(国土交通省,2011)にあげられるように、犯罪や災害、環境阻害を示す安心・安全や、生活の
利便性、街なみの景観や緑、空間のゆとりによる美しさや豊かさ、そしてコミュニティや環境負
荷への配慮といった持続性など、住環境の種類とそれに対する人々の選好は様々であり、郊外の
自然豊かな住宅地を好む人もいれば、駅前や中心市街地で利便性の高い住宅を好む人もいる。ま
た、子育て期や高齢期などのライフステージ、そして世帯人数などにより、求められる居住環境
は異なってくる。したがって、多様な居住ニーズに対応できる環境があり、選択できることが、
人々の効用を高め、社会的余剰の増加にも寄与する。
土地利用規制は、外部性をコントロールすることで、求められる住環境の維持に役立っている。
戸建て中心の住宅地における空間的ゆとりは、公園や道路などの公共空間と、個人等が所有する
各敷地の空間によりもたらされ、各敷地の土地利用が地域全体の空間的ゆとりに与える影響は大
きい。そのため、周辺環境を向上、もしくは維持する土地利用を行うことで、地域全体の住環境
は維持される。しかし、個人の利益としては、その住環境の維持に反する敷地分割や、集合住宅
の建設など、高度利用をすることでより高い利益が得られる。特にゆとりがあり、良好な住環境
の住宅地においては、その周囲の良好な環境の便益を利用しながら、自らは敷地分割など行い、
その住環境を悪化させるなど、良好な住環境にフリーライドし、利益の最大化を図るインセンテ
ィブが強く働くために適正な規制を設けることが社会的厚生最大化の観点から正当化される。
また、最低敷地面積規制は、土地の不可逆性からも規制を設けることが効率的であるといえる。
土地の利用は、一度特定の用途に供せられると長期にわたりその用途で利用され、他の用途への
転換が困難となる。または、複数の権利者が所有する細分化された土地を統合するには、権利の
調整に多大な時間と労力がかかり、多額の費用を要することから、一度損なわれた住環境を改善
することは困難である。しかし、将来のコストについては、考慮されることはなく、短期的な視
野で土地利用が決定されることが多いため、規制によって住環境を維持することが効率的といえ
る。
2
しかし、最低敷地面積規制は常に厳格であれば良いというわけではない。規制が厳しければ敷
地の分割が困難になり利用しにくくなるうえ、大きすぎる敷地は空間的ゆとりを生む一方、取得
コストが高額になるため流動性の低下を招く。逆に規制が緩すぎると、敷地分割により過剰に建
て詰まり、通風採光に必要な空間が保てないなど住環境の悪化が考えられる。このように、最低
敷地面積の規制水準には、空間的ゆとりと土地の利用性とのトレードオフの関係があるため、規
制水準が低すぎても高すぎてもその規制は評価されず、最適な規制水準があると考えられる。
また、先に述べたように多様な住環境の住宅地が求められることから、住宅地それぞれに求め
られる規制の最適な水準は住宅地により異なる。住環境よりも費用を抑えた住宅を求める人にと
っては、敷地規模が小さい住宅地が好まれるため、規制水準の高い最低敷地面積規制は評価され
ないが、ゆとりある住環境を重視する人は、敷地規模が大きな住宅地を好みその住環境が維持さ
れる最低敷地面積規制値を評価する。そのため、住宅地の住環境の価値は、規制を適正な水準に
設定することで高く評価されるといえる。そのことから、最低敷地面積規制は、空間的ゆとりの
異なる住宅地それぞれに最適な規制水準があり、よりゆとりのある住宅地ほど住環境の価値を最
大化する規制水準は高くなると予測される。
分析方法
ここでは、住環境に対するそれぞれの選好によって集まる複数の住宅地について、最低敷地面
積規制の地価に及ぼす影響を分析する。ここで検証をする最低敷地面積規制は、戸建ての敷地面
積を想定し、低層住宅地を対象とする。住宅地の分類は、空間的ゆとりの程度により分類するが、
具体的には世帯密度を用いることとする。世帯密度とは、地域の面積に占める世帯数である。空
間的ゆとりは、各敷地面積の規模と建築物の大きさ、道路の幅員、公園や公共空地によって異な
ってくることから、その指標として世帯密度が適している。
分析は、土地や地域の環境価値は地価に反映するという資本化仮説に基づき、ヘドニック・ア
プローチにより、規制の違いによる地価への影響を検証する。
分析範囲は、細分化や高度利用されることによって、その住環境の質が低下する可能性のある
住宅地が適する。都市部周辺の住宅地は、その可能性が高いことから、近畿大都市圏の通勤圏と
される範囲を分析対象とする。大都市交通センサス近畿圏報告書(2012)によると、大阪市中央
区、北区と神戸市中央区への鉄道定期券利用の通勤者数が最も多く、通勤所要時間は 62 分である。
大阪市中央区などへの所要時間 60 分圏内が 30km 圏であることから、大阪駅・神戸市の三ノ宮駅
から 30km 圏内の人口集中地区にある住居系用途地域を対象とする。
この範囲には、密集した住宅地から比較的敷地規模の大きな住宅地まで、歴史的に古くから住
宅地であったところから新規に開発された住宅地まで、様々な住宅地が存在している。また、自
治体毎に定められる土地利用規制についても、2 府県にわたり 100 の市区町を含むことから、多
様性のあるデータが得られる。
さらに、低層住宅地における最低敷地面積規制の地価への影響を検証することから、一戸建、
長屋建て、1、2階建共同住宅を低層住宅とし、上記圏内の第 1・2 種低層住居専用地域、第 1・
2 種中高層住居専用地域、第 1・2 種住居地域、準住居地域における、低層住宅が過半数を占める
町丁目を対象とする。
3
土地利用規制データは、各自治体で定める用途地域と地区計画による容積率、建物の最高高さ、
最低敷地面積、条例や要綱で定める最低敷地面積について、各自治体ホームページなどを調査し、
地理情報システム(以下「GIS」という)にて作成した。
最低敷地面積規制の状況は以下の通りである。用途地域では、市街地の環境を確保するために
必要な場合に限り、200 平方メートルを限度に都市計画で定めることができるが、これにより規
制を定めている自治体は少なく、分析対象の住宅地においては、神戸市の第 1・2 種低層住居専用
地域のうち、建ぺい率 40%・容積率 80%の地区に定めるのみである。また、地区計画は、主に良
好な市街地環境の形成や維持を図るため、地区の特性に応じたきめ細かなまちづくりを行うため
の制度であり、分析範囲では 529 の地区計画がある。そのうち戸建て住宅を想定した最低敷地面
積規制は、約 7 割の地区で定めている。その規制値の範囲は、60 平方メートルから 430 平方メー
トルまであり、住宅地の密集の防止を目的とするものと、ゆとりある住環境の維持を目的とした
ものとがある。また、条例や要綱による規制は、規制対象となる開発面積や開発戸数の下限値を
設ける場合がある。その条例や要綱では、規制対象の開発行為後に再分割することや、規制対象
規模未満で開発することで、規制値より狭小な敷地にすることが可能である。そのため、今回の
分析では規制対象行為を限定せず、新たな宅地開発や、敷地の分割の全てを規制の対象とするも
のを採用する。これによると、約 4 割の自治体が行政区域の一部に最低敷地面積規制を定めてい
る。これらの制度による最低敷地面積規制の分布状況を図 1 に示す。
また、世帯密度は、平成 22 年度(2010 年)の国勢調査による町丁目毎の世帯の種類と数、町
丁目面積のデータから、世帯密度を算出している。低層住宅地の世帯密度の分布を見ると、大阪
市、神戸市の中心部ほど世帯密度は高く、密集して空間的ゆとりが少ないが、郊外になるほど世
帯密度は小さくなり、ゆとりある住宅地になっていることが分かる。低層住宅地の世帯密度で住
宅地を分類し、それぞれについて分析を行うため、世帯密度を 4 分位に分ける。世帯密度の中央
値より密度の高い住宅地は、マンションの占める割合が高くなるため分析対象から除く。世帯密
度の下位 25%以下の住宅地を住宅地①、下位 25%から 50%までの住宅地を住宅地②とし、それぞれ
の住宅地について分析を行う。
被説明変数である地価データは、宅地建物取引業法に基づき、国土交通大臣の指定を受けた指
定流通機構のうち、近畿 2 府 4 県の不動産会社が加盟する公益社団法人近畿圏不動産流通機構(以
下「近畿レインズ」という)の提供による、2009 年 9 月から 2015 年 11 月までに取引が成立した
土地取引価格の平米単価を使用する。そのうち、建築が不可能な土地や取引価格に正確性を欠く
情報については除外した。この取引価格にその土地の規制状況や世帯密度などの情報を加えるた
めに、取引価格データにある住所から、総務省統計局による jSTATMAP のジオコーディング機能を
利用し、GIS データに加工し、作成した土地利用規制、世帯密度情報などを結合させた。
推定モデル
住宅地①、住宅地②それぞれで分析を行い、各住宅地において、地価を最大にする最適な規制
強度があることを計測するため、推定式は推定式(1)に示すとおり、最低敷地面積規制の 2 乗項
を含めるものとする。また、被説明変数である地価は、取引価格の平米単価の対数を取ったもの
とする。
4
推定式 ln(地価) = 𝛽0 + 𝛽1 (最低敷地面積規制) + 𝛽2 (最低敷地面積規制)
2
+ ∑ 𝛽𝑗 (コントロール変数) + (誤差項) ――――(1)
また、推定式(2)に示すとおり、最低敷地面積規制を規制強度で分類したダミー変数を用い
て、それぞれの規制強度ダミーの地価への影響を計測し、推定式(1)と同様の結果が得られるかを
検証する。
推定式 ln(地価) = ∑6𝑖=1 𝛽𝑖 (規制強度 𝑖ダミー) + ∑ 𝛽𝑗 (コントロール変数)
――――(2)
コントロール変数は推定式(1)、推定式(2)ともに地積、容積率、用途地域ダミー、最寄り駅・主
要駅からの距離、建築条件ダミー、私道負担ダミーとする。変数の内容や出典、基本統計量につ
いては表 1、表 2 のとおりである。
表 1
変数の内容
【説明変数】
内 容
出 典
最低敷地面積規制
用途地域、地区計画、条例等により定められている最低敷地面積(㎡)。複
数の制度で規制がある場合には最大のものを採用
各自治体HP等
地積
土地取引の土地面積(㎡)
近畿レインズ
容積率
用途地域、地区計画により定められている容積率(%)の最高限度。複数の
制度で規制がある場合には最小のものを採用
低層住居専用地域ダ
ミー
第1種低層住居専用地域および第2種低層住居専用地域である場合に1、そ
れ以外は0をとるダミー変数
中高層住居専用地域
ダミー
第1種中高層住居専用地域および第2種中高層住居専用地域である場合に
1、それ以外は0をとるダミー変数
住居系用途地域ダ
ミー
第1種住居地域および第2種住居地域、準住居地域である場合に1、それ以
外は0をとるダミー変数
最寄駅からの距離
最寄り駅からの距離 (km)
大阪駅からの距離
主要駅である大阪駅からの距離 (km)
三ノ宮駅からの距離
主要駅である神戸市三ノ宮駅からの距離 (km)
建築条件有ダミー
土地取引情報に建築条件があることが示されている場合に1、それ以外は0
建築条件無ダミー
土地取引情報に建築条件がないことが示されている場合に1、それ以外は0
建築条件不明ダミー
土地取引情報に建築条件について示されていない場合に1、それ以外は0
私道負担有ダミー
土地取引情報に私道負担があることが示されている場合に1、それ以外は0
私道負担無ダミー
土地取引情報に私道負担がないことが示されている場合に1、それ以外は0
私道負担不明ダミー
土地取引情報に私道負担について示されていない場合に1、それ以外は0
規制強度1ダミー
最低敷地面積規制が60㎡以上70㎡以下の場合に1、それ以外は0
規制強度2ダミー
最低敷地面積規制が70㎡より大きく90㎡以下の場合に1、それ以外は0
規制強度3ダミー
最低敷地面積規制が90㎡より大きく110㎡以下の場合に1、それ以外は0
規制強度4ダミー
最低敷地面積規制が110㎡より大きく120㎡以下の場合に1、それ以外は0
規制強度5ダミー
最低敷地面積規制が120㎡より大きく150㎡以下の場合に1、それ以外は0
規制強度6ダミー
最低敷地面積規制が150㎡より大きく240㎡以下の場合に1、それ以外は0
5
国土交通省
国土数値情報HP
等
GISで作成
近畿レインズ
各自治体HP等
表 2
基本統計量
住宅地①
変数名
観測数
住宅地②
平均値 標準誤差 最小値
最大値
観測数
平均値 標準誤差 最小値
最大値
地価 (万円/㎡)
2,596
9.802
5.870
0.334
39.39
2,596
11.38
6.529
0.288
54.44
ln(地価)
2,596
2.109
0.617
-1.096
3.674
2,596
2.269
0.600
-1.245
3.997
最低敷地面積規制 (m2)
2,596
69.35
69.55
0
400
2,596
71.84
65.65
0
210
最低敷地面積規制の2乗項
2,596
9,645
12,053
0 160,000
2,596
9,469
9,885
0
44,100
地積 (m2)
2,596
231.0
269.9
4.010
7,202
2,596
197.5
117.9
15.87
1,700
容積率 (%)
2,596
141.1
200.8
50
9,999
2,596
140.6
278.4
80
9,999
低層住居専用地域ダミー
2,596
0.592
0.492
0
1
2,596
0.649
0.477
0
1
中高層住居専用地域ダミー
2,596
0.188
0.390
0
1
2,596
0.241
0.428
0
1
住居系用途地域ダミー
2,596
0.221
0.415
0
1
2,596
0.110
0.313
0
1
最寄り駅からの距離 (km)
2,596
1.182
0.720
0.023
4.249
2,596
1.069
0.670
0.063
3.732
大阪駅からの距離 (km)
2,596
30.090
15.760
1.990
63.740
2,596
26.240
13.290
3.317
61.610
三ノ宮駅からの距離 (km)
2,596
28.700
10.680
2.565
50.190
2,596
28.670
11.100
2.916
50.380
建築条件有ダミー
2,596
0.052
0.223
0
1
2,596
0.062
0.241
0
1
建築条件無ダミー
2,596
0.794
0.405
0
1
2,596
0.784
0.412
0
1
建築条件不明ダミー
2,596
0.154
0.361
0
1
2,596
0.154
0.361
0
1
私道負担有ダミー
2,596
0.037
0.188
0
1
2,596
0.055
0.227
0
1
私道負担無ダミー
2,596
0.347
0.476
0
1
2,596
0.348
0.477
0
1
私道負担不明ダミー
2,596
0.616
0.486
0
1
2,596
0.597
0.491
0
1
規制強度1ダミー
2,596
0.022
0.147
0
1
2,596
0.023
0.150
0
1
規制強度2ダミー
2,596
0.069
0.253
0
1
2,596
0.080
0.272
0
1
規制強度3ダミー
2,596
0.104
0.306
0
1
2,596
0.112
0.316
0
1
規制強度4ダミー
2,596
0.069
0.254
0
1
2,596
0.059
0.236
0
1
規制強度5ダミー
2,596
0.182
0.386
0
1
2,596
0.259
0.438
0
1
規制強度6ダミー
2,596
0.093
0.291
0
1
2,596
0.042
0.201
0
1
図 1
最低敷地面積規制分布
6
分析結果
推定式(1)
推定式(1)の分析結果を表 3 に示す。分析結果より、住宅地①、住宅地②ともに最低敷地面積
規制は 1%の水準で有意であり、F 検定の結果から、最低敷地面積規制の 2 乗項を含む妥当性が統
計的にあるといえる。また、最低敷地面積規制の 2 乗の係数が負になっていることから、最低敷
地面積と地価との関係は上に凸の 2 次曲線になり、地価を最大にする規制値があることが予想さ
れる。分析結果から最低敷地面積規制と地価の予測値の関係を描いたものを図 2 に示す。図中の
点は、規制強度に応じた予測地価を示し、線は 95%信頼区間を表している。この図から最低敷地
面積規制と地価の間には、上に凸の関係があり、地価を最大にする最適点があることが分かる。
また、住宅地①と住宅地②とでは地価を最大にする最適点が異なり、住宅地①の最適点がそれよ
りも世帯密度の高い住宅地②の最適点より規制強度が高くなっている。
推定式(2)
推定式(2)の結果を表 4 に示す。分析結果より住宅地①、住宅地②ともに各規制強度ダミーの
うち 1 つを除き 1%の水準で有意であり、住宅地①では規制強度 5 ダミーの係数が最大になり、住
宅地②では規制強度 4 ダミーの係数が最大になることから、地価を最大にする規制値がそれぞれ
あることが分かる。また、分析結果から、最低敷地面積規制が地価に与える影響の推移を図 3 に
示す。図中の点はトリートメント変数の係数を、線は 95%信頼区間を表している。信頼区間が 0
の上方もしくは下方にある係数の推定値は、統計的に負または正に有意であることを示す。この
図より推定式(1)の結果と同様、地価を最大にする最適な規制水準があり、住宅地①と住宅地②と
では最適な規制水準が異なり、住宅地①の最適点の規制値は住宅地②のそれより高くなることが
分かる。
図 4 は、最低敷地面積規制と地価の対数を取ったものの残差をプロットしたものである。2 次
曲線にあてはめると図中の線で示すとおり、最低敷地面積規制と地価とは上に凸の関係があり、
住宅地①の最適点の規制値は住宅地②のそれより規制強度が高く、推定式(1)の分析結果と同じ傾
向であることが分かる。また、規制の最適水準の位置に比べ、実際の規制は低いところに集中し
ていることが分かる。
これより仮説通り、戸建中心の住宅地において、密集の程度による住環境の違いにより、地価
を最大にする最低敷地面積規制の最適な水準は異なり、より低密度であるほど最適な規制水準は
大きいことが実証された。
7
表 3
推定式(1)の推定結果
被説明変数 ln(地価)
変数名
最低敷地面積規制 (㎡)
住宅地①
係数
住宅地②
標準誤差
0.0017 *** (0.0006)
最低敷地面積規制の2乗項
-0.00001 *** (0.000002)
地積 (m2)
-0.0005 *** (0.000087)
容積率 (m2)
-0.0005
(0.0009)
低層住居専用地域ダミー
0.0297
(0.0970)
中高層住居専用地域ダミー
0.0399
(0.0321)
最寄り駅からの距離 (km)
-0.0420 **
(0.0175)
大阪駅からの距離 (km)
-0.0085
(0.0063)
三ノ宮駅からの距離 (km)
-0.0153 **
(0.0060)
建築条件有ダミー
0.2370 *** (0.0405)
建築条件無ダミー
0.1030 *** (0.0282)
私道負担有ダミー
-0.1450 *** (0.0519)
私道負担無ダミー
0.0192
(0.0205)
定数項
3.8130 *** (0.3480)
行政区固定効果
yes
年次固定効果
yes
観測数
2,596
決定係数
0.543
0.0096
F検定
係数
標準誤差
0.0035 *** (0.0009)
-0.00002 *** (0.000005)
-0.0007 *** (0.0001)
-0.0016 *
(0.0009)
-0.0753
(0.0933)
0.0714 *
(0.0396)
-0.0607 *** (0.0152)
-0.0044
(0.0073)
-0.0400 *** (0.0070)
0.2590 *** (0.0379)
0.0827 *** (0.0309)
-0.0574
(0.0468)
0.0389 **
(0.0189)
3.9870 *** (0.2670)
yes
yes
2,596
0.557
0.0003
注)OLSによる推定結果
括弧内は不均一分散頑健標準誤差
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す
表 4
推定式(2)の推定結果
被説明変数 ln(地価)
変数名
規制強度1ダミー
住宅地①
係数
-0.464 ***
住宅地②
標準誤差
係数
標準誤差
(0.159)
-0.102
(0.134)
規制強度2ダミー
0.041
(0.066)
0.163 ***
(0.062)
規制強度3ダミー
0.133 ***
(0.043)
0.224 ***
(0.044)
規制強度4ダミー
0.243 ***
(0.070)
0.364 ***
(0.072)
規制強度5ダミー
0.245 ***
(0.049)
0.195 ***
(0.053)
規制強度6ダミー
0.159 ***
(0.056)
0.186 ***
地積 (m2)
(0.069)
-0.0005 ***
(0.00003)
-0.0007 ***
(0.00007)
容積率 (%)
0.005 ***
(0.00062)
0.003 ***
(0.00065)
低層住居専用地域ダミー
0.535 ***
(0.064)
0.351 ***
(0.075)
中高層住居専用地域ダミー
0.042
(0.030)
0.085 **
(0.035)
最寄り駅からの距離 (km)
-0.016
(0.018)
-0.043 ***
(0.016)
大阪駅からの距離 (km)
-0.018 ***
(0.005)
-0.024 ***
(0.006)
三ノ宮駅からの距離 (km)
-0.0002
(0.005)
-0.0096 *
(0.005)
建築条件有ダミー
0.271 ***
(0.045)
0.274 ***
(0.042)
建築条件無ダミー
0.125 ***
(0.025)
0.106 ***
(0.024)
私道負担有ダミー
-0.162 ***
(0.048)
私道負担無ダミー
行政区固定効果
0.017
-0.035
(0.021)
(0.040)
0.042 **
yes
yes
yes
yes
2,596
2,596
決定係数
0.963
注)OLSによる推定結果
括弧内は不均一分散頑健標準誤差
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す
0.969
年次固定効果
観測数
8
(0.020)
図 2
最低敷地面積規制と地価予測値
住宅地②
住宅地①
図 3
図 4
最低敷地面積規制の地価への影響
最低敷地面積規制と地価の残差
9
考察
低層住宅地において、住環境の価値の最大化を目的とした場合、最低敷地面積規制の最適な水
準は、住環境の違いによって異なり、住環境のゆとりがあるほど最適な規制水準は高いことから、
地域特性に応じた最低敷地面積規制を適切に設けることで、住環境を最適にし、住宅地の魅力を
高めることに繋がる。しかし、実際の住宅地においては、最適な水準の規制に設定されず、それ
よりも低く設定されるものが多い。その要因のひとつに合意形成の難しさがある。規制を設ける
場合、住民主導による場合と行政主導による場合とがある。住民主導であれば、住民の合意の下
に規制が定められることは当然だが、行政主導であっても、計画決定の手続きの中で縦覧やパブ
リックコメントを行い、審議会や議会に諮ることで住民の意見が反映されるため、合意されない
規制を設けることは困難である。2.2 の理論と仮説で述べたように、個人の利益は、その住環境の
維持に反する敷地分割や集合住宅の建設など、高度利用をすることでより高い利益が得られるた
め、社会的便益よりも私的便益が上回る。そのため、住民全体で合意できる水準は、社会的便益
を最大にする水準よりも低くなる。
3
良好な住環境の近隣と広域に与える外部効果について
背景
土地はその利用方法により、周囲に好影響や悪影響を及ぼすという外部性を持つ場合がある。
隣の敷地の手入れが良ければ快適さが増し、住宅地の価値が上がるが、騒音や臭気を出す工場の
隣では、快適性が損なわれ住宅地の価値が下がる。このように、住宅や敷地の土地利用は、周辺
の住宅地の住環境に影響を与える。外部性は、市場を通さずに別の経済主体の状態に便益や損失
を与えることである。外部性が存在する場合、市場均衡は社会全体の総便益を最大化できず効率
的ではないため、ピグー税や数量規制などの対策により需給調整を行うことに経済学的合理性が
ある。
住環境は、前章 2.2 で述べた住環境を評価する指標に示されるような、多くの要素により決め
られ、個々の住宅や敷地に影響を及ぼすとともに、個々の住宅や敷地もまた住環境を形成する要
素となり、似たような特徴を持つ住宅が集積し、面的な広がりを持つことで地域の住環境は形成
される。よって、低層住宅地において空間的ゆとりを持ち、手入れの行き届いた質の良い住宅地
は、近隣に及ぼす正の外部性があるといえる。その正の外部効果とは、視覚的な快適性と空間的
ゆとりを共有することに由来するため、視認や体感することができる、限られた範囲に及ぶもの
である。
また、良好な住環境の住宅地がまちの魅力に与える影響を考えてみると、田園調布や芦屋、鎌
倉等の都市部近郊のゆとりと格式ある戸建て中心の低層住宅地は、象徴的地区の存在や長年にわ
たる住環境の維持から、地域名が良好な住環境の代名詞として広く認知されている。これについ
て内田(1987)は、多くの人に共通したイメージを与えると、社会的な価値を生み出すことがあ
り、例えば田園調布や芦屋は高級住宅地としての場所イメージを保つことによって価値を上昇さ
せていると述べている。また、浅見(2006)は、まちの魅力は無視できない要素となっていて、
東京圏における市街地部の住宅地価値は、多くは利便性のファクターで決まると言われているが
実際に分析してみると、ブランド性の要素も少なからず影響していると述べている。このように
10
象徴的な住宅地が長期間にわたり、良好な住環境を維持していることが広く認知されることで、
他の住宅地との差別化が進み、住環境の質に対する信頼を得て、それがまち全体の住宅地として
の魅力やブランド価値を高めるといえる。
理論と仮説
良好な住環境の住宅地は、その近隣の住宅地や往来する人に、その住環境を目にしたり空間を
共有したりすることによって、快適さなどの効用を与える正の外部効果がある。これは前述の通
り、近隣に与える外部効果である。
さらに、前章で述べた良好な住環境を長年維持し、社会にその存在が認知され、差別化と信頼
を得ている象徴的な住宅地によるまちの住宅地のブランド価値を上げる効果は、象徴的住宅地が
広域に与える外部効果といえる。その効果は、その地区の住民だけではなく、行政も共に住環境
の維持に取り組むことで、自治体単位の住宅地としてのイメージを向上させるものになり、自治
体全体に及ぶと考える。
象徴的地区と高級住宅地のイメージを持つ兵庫県芦屋市は、前述の住環境の外部性についての
検証を行う理想的な住宅地である。
芦屋市六麓荘は、第 1 章で触れたとおり 1928 年から開発され、
当時から舗装された道路の下には電線共同溝を整備し、電柱のない街なみをつくり、浄水場の整
備やバスの運行なども独自に行う先駆的なまちづくりが行われた住宅地である。戦後や高度成長
期など激しく変わる社会情勢の中でも、町内会が道路や水路などの施設を所有、一体管理し、各
敷地の土地利用についても独自の協定を定め自らで運営することで、特色ある住環境を維持して
きた。現在は、2006 年に法的根拠のある地区計画を定め、官民一体の土地利用に対する取組みを
行い、その住環境を維持し続けている。その土地利用に対する取組みや維持している住環境から
市内の中で最も象徴的な住宅地といえる。また、芦屋市自体が高級住宅地と言われるが、その住
宅地として象徴的な六麓荘をマネジメントや、包含する芦屋市にその象徴的地区のイメージが波
及し、芦屋市自体がそのイメージを持つようになる。それが市全体の利便性や街なみなどの要素
では説明できない住宅地のブランド価値になっていると考える。
以上のことから、芦屋市六麓荘を象徴的地区とし、その地区に近いほど強い正の外部性があり、
象徴的地区からの距離が同じであれば、他の要素をコントロールしても芦屋市内の地価は市外よ
り高くなり、市内全域に及ぶ正の外部性があると予測する。
分析方法
芦屋市と隣接する神戸市東灘区、灘区の住居系用途地域を分析範囲とする。この地域一帯に戸
建中心の低層住宅地が広がっていることから、本稿で対象とする低層住宅地に与える象徴的地区
の距離による外部性や、市境を越えることの空間的な変化についての検証に適した場所といえる。
使用する土地利用規制、世帯密度、地価に関するデータは、第 2 章の分析と同じデータを使用
し、六麓荘からの距離は GIS で作成した。まちの違いによって住環境の価値に影響を与える要素
として、安全性や生活の利便性を示す刑法犯認知件数、保育所定員数、卸売・小売業事業所数を
兵庫県市区町別主要統計指標や各市統計情報から作成した。
11
分析モデル
分析では、象徴的地区である六麓荘からの距離で近隣に及ぶ外部性を計測する。また、芦屋市
内か市外かによる違いを示す芦屋ダミーにより広域に及ぶ外部性を計測する。芦屋ダミーによっ
て代表されるのは、芦屋市の住宅地としてのブランド価値だけではないが、駅からの距離や地積、
容積率などその土地の持つ価値や、まちの違いによって地価に影響を与える要素をコントロール
変数に加えることで、芦屋の住宅地としてのブランド価値を計測できるモデルとしている。
象徴的地区からの距離による外部効果は視覚的なものや、空間の体感により得られるものであ
ることから、近いほど効果が高いが、五感で認知できないと効用は得られないことから、外部効
果は距離に対して線形ではないと考えられる。そのため、距離の累乗項を含めたモデルとする。
推定式 ln(地価) = 𝛽0 + 𝛽1 𝐴 + 𝛽2 𝐿 + 𝛽3 𝐿2 + ⋯ + 𝛽𝑛 (𝐿 ∙ 𝐴) + 𝛽𝑛+1 (𝐿2 ∙ 𝐴) + ⋯
+ ∑ 𝛽𝑗 (コントロール変数) + (誤差項) ――――(3)
𝐴 ∶ 芦屋ダミー 𝐿 ∶ 六麓荘からの距離(𝑘𝑚)
コントロール変数は地積、用途地域ダミー、容積率などの土地利用規制、最寄り駅・主要駅から
の距離、建築条件ダミー、私道負担ダミー、世帯密度、刑法犯認知件数、保育所定員数、卸売・
小売業事業所数としている。
表 5 は推定式(3)で使用する変数のうち、推定式(1)、(2)で用いたもの以外の変数の説明である。
また、基本統計量は表 6 のとおりである。
表 5
変数の内容
【説明変数】
内 容
出 典
芦屋ダミー
芦屋市内である場合に1、それ以外は0
六麓荘からの距離
芦屋市六麓荘外縁からの距離 (km)
建物の最高高さ規制
用途地域、高度地区、地区計画により定められている建物の高さの最高限
度(m)。複数の制度で規制がある場合には最小のものを採用
各自治体HP等
町丁目の世帯密度
H22国勢調査による町丁目の世帯数をその面積で除したもの(千世帯/k㎡)
政府統計サイト
e-Stat
刑法犯認知件数
市区、年毎の刑法犯認知件数を人口1万人当りの件数に換算したもの
(件/1万人)
保育所定員数
市区、年毎の保育所定員数を人口1万人当りの人数に換算したもの
(人/1万人)
卸売・小売業事業所数
市区、年毎の卸売り・小売業事業所数を人口1万人当りの件数に換算した
もの(件/1万人)
12
GISで作成
兵庫県市区町別
主要統計指標
および
各市統計情報
表 6
基本統計量
変数名
観測数
平均値 標準誤差 最小値
最大値
地価 (万円/㎡)
509
27.90
11.10
0.94
71.65
ln(地価)
509
3.23
0.50
-0.06
4.27
芦屋ダミー
509
0.32
0.47
0
1.00
六麓荘からの距離(km)
509
4.70
2.82
0
9.84
六麓荘からの距離の2乗
509
0.49
0.83
0
3.46
地積 (㎡)
509
187.3
332.6
23.95
7,076
容積率 (%)
509
163.2
49.68
80
300
最低敷地面積規制 (㎡)
509
46.76
66.02
0
400
建物の最高高さ規制(m)
509
15.84
7.04
0
31
低層住居専用地域ダミー
509
0.43
0.50
0
1
中高層住居専用地域ダミー
509
0.44
0.50
0
1
住居系用途地域ダミー
509
0.13
0.34
0
1
最寄り駅からの距離 (km)
509
0.59
0.31
0.03
1.91
大阪駅からの距離 (km)
509
20.99
2.93
16.04
26.13
三ノ宮駅からの距離 (km)
509
7.70
3.03
2.22
12.39
建築条件有ダミー
509
0.08
0.27
0
1
建築条件無ダミー
509
0.76
0.43
0
1
建築条件不明ダミー
509
0.16
0.37
0
1
私道負担有ダミー
509
0.08
0.28
0
1
私道負担無ダミー
509
0.30
0.46
0
1
私道負担不明ダミー
509
0.62
0.49
0
1
町丁目の世帯密度(千世帯/k㎡)
509
5.59
2.97
0.21
18.62
刑法犯認知件数(件/1万人)
509
106.6
24.03
60.67
147.8
保育所定員数(人/1万人)
509
127.2
26.98
81.02
178.2
卸売・小売業事業所数(件/1万人)
509
93.86
9.67
81.44
118.3
分析結果
表 7 に示す分析結果から、線形モデルに対して距離の 2 乗項を加えると F 検定の結果より、モ
デルの改善が確認できたが、距離の3乗項を加えてもモデルは改善しないことから、距離の2乗
項を含むモデルを採用する。芦屋ダミーは 1%の水準で有意であり、係数の符号は正であることか
ら芦屋市内であれば、市外であるときに比べ地価が高くなることが予測される。
距離の2乗項を含む分析結果から、六麓荘からの距離に対する地価の予測値の関係を描いたも
のを図 5 に示す。図中の点は、距離に応じた予測地価を示し、線は 90%信頼区間を表している。
この図から距離が小さいほど地価が高く、距離が大きくなるほど地価の下がり方は小さくなる。
また、距離が同じでも市内に比べて市外の地価は、距離に対する地価の下がり方が小さい。信頼
区間を考慮するとわずかな差の可能性があるが、距離が同じであれば、他の要素をコントロール
しても市内の地価は市外より高い。
13
表 7
推定式(3)の推定結果
被説明変数 ln(地価)
線形モデル
2次モデル
変数名
係数
芦屋市ダミー
0.967 ***
(0.307)
-0.174 ***
(0.055)
六麓荘からの距離の2乗
-
-
六麓荘からの距離の3乗
-
係数
1.948 ***
(0.398)
1.481
0.096
(0.102)
-0.015
(0.429)
-0.024 ***
(0.008)
-0.005
(0.077)
-
-
-
-0.001
(0.004)
-0.247 ***
(0.064)
-0.778 ***
(0.186)
-0.039
(0.611)
芦屋ダミー*六麓荘からの距離の2乗
-
-
0.099 **
(0.049)
-0.369
芦屋ダミー*六麓荘からの距離の3乗
-
-
-
-
0.094
芦屋ダミー*六麓荘からの距離
地積(㎡)
容積率(%)
-0.0002
(0.0002)
0.003 ***
(0.001)
最低敷地面積規制(㎡)
0.0002
(0.001)
建物の最高高さ規制(m)
-0.016 ***
(0.005)
低層住居専用地域ダミー
0.360 ***
中高層住居専用地域ダミー
係数
3次モデル
標準誤差
六麓荘からの距離(km)
標準誤差
-0.0002
(0.0002)
0.003 ***
(0.269)
*
-0.0003
(0.001)
(0.837)
(0.052)
(0.0002)
0.004 ***
(0.001)
(0.001)
0.0004
(0.001)
-0.016 ***
(0.005)
-0.018 ***
(0.005)
(0.117)
0.395 ***
(0.117)
0.385 ***
(0.121)
0.223 ***
(0.066)
0.208 ***
(0.064)
0.192 ***
(0.065)
最寄り駅からの距離 (km)
-0.302 ***
(0.080)
-0.380 ***
(0.092)
-0.376 ***
(0.095)
大阪駅からの距離 (km)
-0.391 ***
(0.072)
-0.404 ***
(0.074)
-0.391 ***
(0.076)
三ノ宮駅からの距離 (km)
-0.570 ***
(0.088)
-0.578 ***
(0.088)
-0.571 ***
(0.087)
建築条件有ダミー
0.177 ***
(0.068)
0.172 **
(0.070)
0.171 **
(0.070)
建築条件無ダミー
0.015
(0.054)
0.011
(0.055)
0.008
(0.054)
私道負担有ダミー
-0.069
(0.074)
-0.054
(0.073)
-0.052
(0.073)
私道負担無ダミー
0.058
(0.049)
0.062
(0.047)
0.068
(0.048)
町丁目の世帯密度(千世帯/k㎡)
0.005
(0.011)
0.001
(0.011)
0.001
(0.011)
刑法犯認知件数(件/1万人)
0.017
*
(0.010)
0.019 **
(0.010)
0.019 **
(0.010)
保育所定員数(人/1万人)
0.008
*
(0.004)
0.008 **
(0.004)
0.008 **
(0.004)
卸売・小売業事業所数(件/1万人)
-0.036 **
(0.014)
-0.028 **
(0.014)
-0.030
定数項
行政区固定効果
16.740 ***
(2.295)
15.340 ***
(2.320)
15.320 ***
年次固定効果
観測数
決定係数
yes
yes
-0.00005
標準誤差
*
yes
yes
*
yes
yes
509
509
509
0.330
0.352
0.355
F検定
0.003
注)OLSによる推定結果 括弧内は不均一分散頑健標準誤差 ***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す
図 5 六麓荘からの距離と地価予測値
14
0.192
(0.015)
(2.515)
考察
良好な住宅地として象徴的な六麓荘の近隣には外部性があり、近いほど正の外部効果は大きく、
離れるほど距離に対する外部効果の下がり方は小さくなる。また、市外に六麓荘の外部性は及び
にくいことから、六麓荘が芦屋市という行政単位に影響を与えている可能性がある。また、他の
要素をコントロールしても芦屋市の地価が市外より高いことから、市域全体に及ぶ正の外部効果
があり、住宅地のブランド価値を示していると考えられる。
4
事例研究
目的
第 2 章では、地域特性に応じた最低敷地面積規制を適切に設けることで、住宅地の魅力を上げ
ることを示した。また、ゆとりある低層住宅地ほど、最適な規制水準は高くなることを示した。
そして第 3 章では、長年良好な住環境を維持している地域には、住宅地としてのブランド価値が
ある可能性を示した。本章ではこれらの検証を元に、全国の高級住宅地を対象に事例研究を行い、
高級住宅地の立地する自治体や地域住民は、住宅地の価値を高めるためにいかにして土地利用政
策を実施すればよいのか、また、どのような場合にブランド価値は醸成されるのかを時間的経過
とともに追う。
低層住宅地の土地利用についての事例
第 3 章で分析を行った芦屋市六麓荘と、その地区に隣接し同様の立地条件にある住宅地、苦楽
園の成り立ちと土地利用について説明し、高級住宅地として知られる 3 つの住宅地の土地利用の
規制と変化、住宅地のブランド力について述べる。また、建築協定による土地利用の事例を取り
上げる。
兵庫県芦屋市六麓荘の土地利用
芦屋市六麓荘は、東隣の西宮市に隣接する山手に位置し、大阪の財界人らによる株式会社六麓
荘により、東洋一の別荘地を目指し 1928 年から一体開発された住宅地である。当該地区は第 3 章
3.2 で述べたとおり、町内会と行政が連携した取組みを行うことで住環境を維持している。図 6
(国土地理院ウェブサイトの空中写真から筆者が作成)は、地区内の標準的な街区の現在と約 40
年前の建物の変化を比べたもので、網掛けしている建物が敷地分割し建てられたものである。こ
の図から敷地規模が比較的保たれてきていることが分かる。
図 6
六麓荘の住宅地の変化
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兵庫県西宮市苦楽園の土地利用
西宮市苦楽園は芦屋市六麓荘と隣接し、六麓荘に先駆け 1914 年から郊外住宅地・別荘地とし
て開発され、独自の土地利用規制を定めずに随時、山林の宅地開発が行われてきた。当該地区は
山手の閑静な住宅地であり、マンション開発や敷地分割などが行われている状況から、住宅需要
があり、魅力ある住宅地と言える。しかし、1980 年代にマンション開発や乱開発に対する反対運
動が盛んであったことや、近年、進む敷地分割に地域独自の規制を求める声が出ていると聞く。
これはかつてあった空間的ゆとりのある住環境を重視する人にとっては、住環境から得られる便
益が損なわれてきて、ゆとりよりも利便性などに対する価値が高い人に好まれる住宅地に住環境
の質が変化しつつあると考えられる。六麓荘と同様に、当該地区の標準的な街区の 40 年前と現在
の建物の変化を図 7(国土地理院ウェブサイトの空中写真から筆者が作成)に示す。この図より
六麓荘と比較すると、六麓荘は 4 件に 1 件が、苦楽園は 2.6 件に 1 件が敷地分割されている。街
区内の最も大きな敷地面積の縮小の割合は、六麓荘が 2 割強であるのに対し、当該地は 7 割強と
なっていて、大規模な敷地が残っていないことが分かる。
図 7
苦楽園の住宅地の変化
郊外の高級住宅地の事例(千葉県千葉市緑区あすみが丘 6 丁目)
千葉市緑区あすみが丘は、東京駅から約 1 時間の土気駅南側に 1980 年代に開発された 3.13 平
方キロメートルのニュータウンである。戸建住宅地に、高層マンション、商業施設も整備された
様々な需要に応えるまちづくりがされているが、その一角に「ワンハンドレッドヒルズ」と名付
けられた1敷地 2、3 千平方メートルの高級住宅地がある。大変整った街なみで、建築協定による
土地利用規制をしているが、約 2 割の分譲地が残り、この立地に求められる住環境としては過剰
にゆとりがあるともいえる。また、その区域のすぐ外には商業施設やマンションが建ち並び、唐
突にこの地区が造られているようにみえる。周辺の公示地価の変動率を他の都市部の低層住宅地
と比べると 2009 年、2010 年の全国的下落からの回復が遅いことから、高級住宅地として知られ
るが、地域一帯にその住環境の外部効果は及んでいないと考えられる。
敷地分割の進む住宅地の事例
(神奈川県横浜市青葉区美しが丘 2 丁目 3 丁目、東京都大田区田園調布 3 丁目 4 丁目)
神奈川県横浜市青葉区美しが丘 2 丁目 3 丁目は多摩田園都市の一部として、米国ニュージャー
ジ州の田園都市・ラドバーンをモデルに 1960 年代から開発された戸建て住宅地である。開発当
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初から定めていた建築協定は、2003 年に決定された地区計画に移行したが、その後も土地利用に
対する取組みを行政に任せるのではなく、地域住民による細やかなまちづくりルールを定め、官
民一体で当該地区の住環境を保全する取組みが行われている。しかし、定められている最低敷地
面積規制は、180 平方メートルで現在の敷地規模の半分程度である。そのため、周囲の街なみと
は異なる敷地分割が一部に見られる。開発から 40 年を過ぎ、世代交代の時期を迎えて更に敷地分
割が進み、ゆとりある住環境から作り出されてきたまちの魅力が変化する可能性がある。
美しが丘よりも歴史があり、敷地分割が進みながらもまちのイメージ価値を維持している事例
として、東京都大田区田園調布 3 丁目 4 丁目がある。当該地区は 1923 年から分譲され、当時の
標準区画は 500 平方メートル程度であったのに対して、現在の最低敷地面積規制は 165 平方メー
トルであり、高度成長期から敷地分割が進み、空間的ゆとりは減少してきている。しかし、周辺
住宅地との公示地価の歴然とした差からも、高級住宅地としてのイメージを維持し続けていると
いえる。これは、地域住民による住環境を守るための自主的な取組みを長年行ってきた効果と考
えられ、空間的ゆとりは重要な要素であるが、その減少が必ずしも住宅地のブランド価値を失わ
せるとは限らないことを示している。差別化され、信頼される多くの人を惹きつける取組みがさ
れれば、敷地分割が進む美しが丘もブランド価値を持ち続けられると考える。
建築協定の事例(福岡県福岡市早良区百道浜 4 丁目)
福岡県福岡市早良区百道浜 4 丁目は、
1980 年代に開発された埋立地の一角にある戸建住宅地で、
開発当時から 2 つの建築協定が継続されている。この地域では、当該地以外でも建築協定のある
住宅地は協定の無い住宅地に比べ、地価の上昇率が高いことから建築協定のある地域は住環境に
対する信頼が高い可能性がある。しかし、当該地は建築協定の期限切れを数年後に控えているこ
と、隣接地(建築協定に合意しない区画)が約 2 割存在していることから、協定の更新や、地域
住民の運営による建築協定から、行政の指導による地区計画への移行が将来困難になることや、
今の住環境が維持されない可能性がある。
建築協定については、森本(2011)が協定の現状について神戸市・堺市・箕面市で詳しく調査を
行っている。その調査によると、協定地区内の区画の 4 割以上が隣接地である地区や、協定に合
意している区画における違反が 5%以上となっている地区があることから、協定が形骸化している
地区が多数あると思われる。その要因として知識や関心の低さと選好の違いがあげられる。1 人
協定と言われる開発者が最初の分譲時に予め定める協定の地区においては、地域住民の協定や法
規に対する知識が低くなる可能性がある。それは、住民間でルールを考え、合意形成を行い定め
る協定に比べて、知識を得る機会が少なく、関心も低い可能性があるからである。また、世代交
代などで地域の住環境と合わない住環境の質を選好する人が、その土地を引き継ぎ所有者となる
などにより、住民の求める住環境の質と協定とに乖離が生じることがあると考えられる。また、
森本(2011)は、協定の形骸化に対して、運営委員会の運営や,協定に対する行政の関与の度合い
について見直す必要性があると述べている。
考察
開発の動機と立地条件が共通する六麓荘と苦楽園の住宅地を比べると、土地利用規制の違いで
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その後の街なみに違いが出てくることがわかる。また、建築協定の事例から協定が形骸化し、実
効性に乏しい土地利用規制になる要因は、地域住民の住環境に対する意識が協定と異なることに
ある。これらの事例から、人は自らの選好に応じて住環境を選ぶ一方で、その人の土地利用によ
って住環境は影響を受け変化することから、住環境を維持するためには、地域住民の住環境に対
する共通意識を持つことが重要であるといえる。
また、象徴的地区は、まちのシンボルとしてまち全体の魅力を高める外部効果を及ぼすと考え
られる。しかし、あすみが丘の例で見たように、住宅地の立地条件と敷地規模が人々の選好に合
わない場合は、広々と整った特徴ある景観の住宅地であるにもかかわらず、周辺への外部効果は
見受けられない。それに対して田園調布は、敷地の分割が進み、空間的ゆとりが減少しているも
のの高級住宅地としてのイメージを持ち続けているのは、地域住民が住環境を変化させつつも土
地利用に対する取組みをし続けている成果と考えられる。
田園調布や美しが丘、六麓荘に共通することとして、土地利用に対する取組みが地域住民によ
るものだけではなく、行政も法的拘束力のある規制を定め、地域住民と連携した取組みを行って
いることがあげられる。住環境に対する取組みについては、行政よりも地域住民のほうが高いイ
ンセンティブを持つと考えられる。それは、地域住民は近隣の外部性を直接受け、住環境の便益
や損失を受ける当事者であることから、住環境を維持しようとする強い動機があるためである。
しかし、建築協定の事例でみた隣接地の増加、協定違反があることはそれに従わない。これは地
域住民が求める住環境の質に差があり、そうした地区での地域住民による協定の運営は、近隣住
民間の争いを避けるために厳格に行うことが難しく、協定の実効性が乏しくなるためと考えられ
る。これより、それぞれの地域にとって良好な住環境を築くためには、官民一体となった取組み
が欠かせないと言える。
5 政策提言と課題
本研究では、低層住宅地において、最低敷地面積規制を最適な水準で定めることで住環境の価
値を最大にすることができ、その適正な規制水準は、住宅地の空間的ゆとりの違いによって異な
ることを実証した。また、良好な住宅地として象徴的な住宅地を持ち、長年その環境を維持する
ことで、市域全体など広い範囲の住宅地としての価値を高める可能性があり、それは地域住民と
行政とが共に土地利用に対して取組むことで実現することを示した。これより以下の政策提言を
行う。
政策提言
(1) 最適な規制を設け住環境の維持を図る
土地の住環境は、その不可逆性から一度損なわれると改善が困難であることから、空間的ゆと
りがあり、良好な住環境の住宅地には、その状況に応じた最適な最低敷地面積規制を定めること
で、住環境から得られる効用を高め、維持することができる。
(2) 規制の合理性を示す
住環境からの便益の最大化を目的とする場合、地域特性に応じた最低敷地面積の最適規制水準
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に対して、住民の合意する規制水準は過小になる。そのため、社会的効用が最大になる規制値を
客観的、科学的な情報を示すことで、最適な水準の規制に対する社会的合意を得られやすくする
ことが考えられる。
(3) 住環境を維持するインセンティブを与える
正の外部効果がある住宅地の住環境が維持されないのは、正の外部効果を含めた社会的便益よ
り、個々の土地利用により得られる便益である私的便益が大きいためである。その乖離を補うた
めに必要な税の減免や補助を行い、その住環境を維持するインセンティブを与え、ゆとりある住
環境の長期的な維持の実現を図ることが考えられる。補助として緑化、景観形成に関する助成制
度は既にあるが、多くは外観修景に関する形成や維持修繕の費用に対する補助である。住環境の
重要な要素である空間的ゆとりに対する補助項目について、検討されるべきではないだろうか。
(4) まち全体の価値を高めることを考慮した土地利用政策を行う
ゆとりある住宅地の住環境の維持、向上のため官民一体での取り組みは、当該住宅地の価値を
高めるだけではなく、自治体全体の住宅地としての価値を高める、大きな外部効果を得る可能性
があることを行政は認識する必要がある。地域住民の住環境向上への自発的取り組みをサポート
することで地域の住環境の価値を高め、各地域の正の効果を広く波及させ、行政区全体の価値を
高めることを考慮した土地利用政策を行うことを提案する。
課題
第 2 章の検証では、規制の最適水準があり、住宅地の違いにより差があることを示したが、空
間的ゆとりによる住宅地の分類をより細かく行うことで、住宅地の敷地規模に対する最適規制水
準の精度の高い数値が示されると考える。そのためには、今回は入手できるデータの都合上、住
宅地の空間的ゆとりの指標として町丁目単位の世帯密度を用いたが、町丁目の中でも世帯密度が
異なる場合があることから、実際の街なみに合わせた世帯密度の算定を行うことが望ましい。ま
た、今回、実現性が異なることから対象としなかった規制対象行為を定める規制についても、考
慮した推計を行うことで、規制の効果をより精密に計測できると考える。
第 3 章の検証では、芦屋市とその市外周辺を対象に分析を行ったが、より一般化するためには、
他の地区における検証を行う必要がある。また、住宅地の地価分析から住宅地のブランド価値の
計測を行ったが、住環境の価値に影響を及ぼす要因を更に研究することで、より明確な価値の計
測をすることができると考えられる。
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謝辞
本稿の執筆に当たり、原田勝孝助教授(主査)、三井康壽客員教授(副査)、中川雅之客員教授
(副査)、安藤至大客員准教授(副査)、橋本博之客員教授(副査)から丁寧かつ熱心なご指導を
いただいたほか、福井秀夫教授(まちづくりプログラムディレクター)から示唆に富んだ大変貴
重なご意見をいただきました。また、まちづくりプログラムの関係教員、学生の皆様からは研究
全般に関する多くの貴重なご意見をいただきました。ここに記して感謝の意を表します。
また、ご多忙中に関わらずデータ提供にご協力いただいた公益社団法人近畿圏不動産流通機構
の担当者様、各自治体の担当者様、ヒアリングや資料の提供にご協力いただいた各自治会の方々
にもこの場を借りて深く感謝申し上げます。更に、政策研究大学院大学にて研究の機会を与えて
いただいた派遣元に改めて感謝申し上げます。
なお、本稿における見解及び内容に関する誤り等については、全て筆者に帰属します。また、
本稿は筆者の個人的な見解を示したものであり、所属機関の見解を示すものではないことを申し
添えます。
参考文献
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20
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