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Littleの公式で読み解く 生物学的待ち行列
Littleの公式で読み解く 生物学的待ち行列 豊泉 洋 早稲田大学 1 オダギリくんの選択 昇進 独立 転職 http://www.lifecard-choice.com/top.html 2 自己犠牲、利他主義 ✦ 自分の繁殖機会を逸するようなリスクを背負って、他の個 体を助ける行動。 ✦ 鳥の警戒音 ✦ 苦い虫 ✦ 働きバチ ✦ 溺れている人を助ける ✦ なぜ、組織に属して自己犠牲を? ✦ 社会性昆虫の研究 ✦ アリ、ハチ、シロアリ・・・ 3 進化論との矛盾? ✦ 社会性昆虫による組織社会の進化は、ダー ウィンの進化論に矛盾する? 協調 ただ乗り ? 進化論的に有利 4 進化論的説明 どうやって「自己犠牲」遺伝子が広まるか? ✦ 群選択(group selection) - 他のグループとの闘争 ✦ 近親者選択(kin selection) - Fisher 1930, Hamilton 1963 ✦ 互恵的利他行動 (囚人のジレンマ) - 親切の交換 - Trivers 1971 ✦ 信号理論 - リスクを引き受けるだけの能力がある- Zahavi 1987 ✦ 操作理論 - 単に利己的な遺伝子に操作されている - Dawkins 1982 5 別解 ✦ 集団に属することで、その集団のトップに なって、自分(自己犠牲遺伝子)が有利に繁 殖できるチャンスがある。 リスクがあるのに、不確定な未 来に投資して、本当に利益があ るのか? 6 Social Queueを作るハチ ✦ Hairy-Faced Hover Wasp ✦ 学名:Liostenogaster flavolineata ✦ マレーシアのスズメ バチの仲間 ✦ 女王のみが繁殖し、他はヘルパーとなる。 ✦ 近親者ではないのに、集団に加わる。 ✦ 厳格な年功序列によるsocial queueを作る 7 Social Queue 女王 dominant dominantだけが繁殖 helper dominantになる前に死 亡する可能性あり 新参者 到着順の階級 8 To Join or Not to Join ✦ Social queueに参加すると・・・ 利点 dominantになれば、他のhelperの助けを得て、有 利な条件で繁殖できる 欠点 ✦ 繁殖できないかもしれない 単独で繁殖すると・・・ 利点 必ず、繁殖機会が得られる 欠点 helperをあてにできないので、自分の力で巣を運営 しなければならない 9 social queue Life time C1 C0 C-3 C-2 helper C-1 C2 dominant 女王の期間中に、他の個体 数分の利益を得る。 R 0 time 10 独立であるとともに、queue 内の位置にも独立に決まるとす M/G/∞ queue の系内客数過程となる。 の social queue は厳格な年功序列制度を持つため、queu る。したがって、N (0) > 0 ならば、C0 はヘルパーとして活 刻 0 に queue にいた個体全てが死滅している場合に、C0 進化上、個体(利己的な遺伝子)の「成功」は繁 ominant になれた場合に、その時点を T 、C0 の死亡時点 殖可能性(fitness)によって測ることができる。 次のように定義する。 !" D N (t)dt C0 が dominant, T R= 0 C0 が non dominant, Reward = Fitness nt になってから寿命を全うするまでに、自分の繁殖を手伝 Fitnessは、dominantになっている期間のhelperの数 の地位を確保する前に死亡した場合には、利益は 0 と考え に依存すると仮定する。 益は次のように表すことができる。 # X 11 オダギリくんの選択 昇進 独立 転職 http://www.lifecard-choice.com/top.html 12 スズメバチの選択 昇進 独立 転職 13 どうやって評価するか? ✦ 確率的な分析 ✦ Markov過程の理論を使う - 豊泉、スズメバチの作る待ち行列, 2006年度待ち行列シンポジウム「ユビキタ スネットワーク社会における情報通信サービスの設計・評価法」 - www.f.waseda.jp/toyoizumi/research/papers/social_queue.pdf - 確率的なモデルを作る - Markov性を利用して分析する 14 M/M/∞ queue 15 Sample Path 16 どうやって評価するか? 0) = n の条件付きで考える。n ≥ 1 の場合、dominant になるためには、 ✦ 確率的なモデル - X0 ≥ max Xe,i , i=1,...,n 到着過程がどうなっているか? ある。ここで、Y = maxi=1,...,n Xe,i とすると、 0 - 滞在時間の分布は? dP {Y ≤ x} = nGe (x)n−1 dGe (x), それぞれに相関は? とY - の独立性より 確率論を駆使した、複雑な議論 P {C0 is dominant|N (0−) = n} = P {X0 ≥ Y } ! ∞ = P {X0 ≥ x}dP {Y ≤ x} 0 ! ∞ =n (1 − G(x))Ge (x)n−1 dGe (x). 0 17 どうやって評価するか? サンプルパス解析 Littleの公式を使う 18 Littleの公式 ✦ 系内客数と滞在時間の関係式 ✦ PASTAと並び、待ち行列理論でもっともよ く使われる基本的な性質 ✦ どんな待ち行列にも使用可能(到着やサー ビスに制限なし!) 19 個体数と滞在時間 滞在時間 個体数の変化 time 20 当てはめてみると time 21 面積の保存 「持ち込まれた滞在時間の全体」=「系内客数過程の積分値」 W6 W5 W4 W3 W2 N (t) ! L(t) !W Wnn n=1 n=0 W1 "" t t L(s) 00 L(s)ds L(s)ds time L = λW 22 0 " t L(s)ds L = λW L =:Littleの公式 λW (2) 0 L = λW 面積の保存より、 " 0 t L(s)ds = " t N (t) ! (3) W n N (t) ! n=1 L(s)ds = 0 (3) Wn 十分長い期間を考えれば、 " (4) (4) n=1 1 t" t L(s)ds E[L] = lim 1 t 0 L(s)ds E[L]t→∞ = lim t→∞ t 0 N (t) ! N (t) N (t) 1 ! N (t) 1 = lim W n = lim W t→∞t→∞t t N N (t)(t)n=1 n (5) (5) (6) (6) n=1 = λE[W = λE[W ] ] (7) (7) 23 1 E[L] = lim t→∞ t " t L(s)ds 0 ところでSocial Queueでは? Life time C1 C2 C6 C5 C4 helper C3 N (t) 1 = lim t→∞ t N (t) dominant = λE[W ] " t L(s)ds = 0 R1 R4 R2 0 T N (t) ! N (t) ! W n=1 Rn n=1 R5 D 1 time 24 利得の期待値 ! 1 t L(s)ds E[L] = lim 先ほどと同様に、 t→∞ t 0 ! t 1 E[L] = lim Nt→∞ (t)t N (t) L(s)ds " 1 = lim t→∞ NN (t)(t)1 t = lim t→∞ = λE[R] = λE[R] 0 t R " n (9) (1 N (t) n=1 Rn N (t) n=1 (10) (11) (1 前の結果と合わせて、 E[W ] = E[R] (1 25 N (t) 1 = lim t→∞ t N (t) Rn n=1 = λE[R] Social queueの公平性 E[W ] = E[R] 平均的に、自分が働いた分だけ、利得 がある。期待値的には、参加しても、 参加しなくても、利得は同じ。 宝くじが好きなハチは参加? 26 ! 分業による効率化 1 E[L] = lim t→∞ t t L(s)ds 0 N (t) 1 = lim t→∞ t N (t) = λE[R] N (t) " n=1 組織が大きくなれ L ば、女王の利益は 大きくなる E[W ] = E[R] H(t):時刻tでの 女王の利益 H(t) = 2L(t) − 1 27 R N (t) 1 = lim t→∞ t N (t) 利益の分配 = λE[R] N (t) " Rn n=1 トップに位置する女王のみが利益を得る。 E[W ] = E[R] W6 W5 W4 H(t) = eaL(t) − 1 W3 W2 H(s) W1 G1 G2 G4 G5 ! 0 t H(s)ds = N (t) " Gn n=1 time 28 H(t) = eaL(t) − 1 (13) H = λG ! t H(s)ds = 0 ✦ N (t) " Gn (14) n=1 先ほどと同様な議論より、 1 E[H] = lim t→∞ t ! t H(s)ds 0 N (t) N (t) 1 " = lim Gn t→∞ t N (t) n=1 = λE[G] (15) (16) (17) 29 t→∞ = t N0(t) N (t) n=1 " N (t) 1 = lim λE[G]t→∞ t N (t) 選択 = λE[G] Gn n=1 集団を組んだことにより、より大きな利益 が得られ、 E[H] E[H] ≥ E[L] ≥ E[L] の時には、 E[H] E[L] E[G] = ≥ = E[W ] λ λ したがって、social queueに参加した方が得 になる! 2 30 E[H] E[L] E[H] E[L] 簡単な例:M/M/∞ E[W ] = E[R] E[G]== ≥ = E[G] ≥ =E[W E[W] ] λλ λλ 集団サイズに対して指数関数的に利得が増加 する。 L(t) H(t) = 2 L(t) − 1 L(t) H(t) = = 22 −−11 λ/µ E[H(t)] = e λ/µ − 1 −1 E[H(t)] = e ! t N (t) " 個人が得る利得の期待値は? λ/µ H(s)ds e= −G 1n 0 E[G] = eλ/µ n=1 −1 λ E[G] = λ ! t 1 2 H(s)ds E[H] = lim t→∞ t 31 本当にいつでも得なのか? ✦ eλ/µ − 1 E[G] = λ (2 女王になれるのは、ほんの一握り。 eλ/µ − 1 E[G] = λ−λ/µ µ 1 P {top} = λ (1 − e )≈ E[L(t)] eλ/µ − 1 E[Gtop ] = eλ/µ−λ/µ −1 ) E[Gtop ]µ(1 = − e −λ/µ µ(1 − e ) (2 (2 32 本当にいつでも得なのか? ✦ eλ/µ − 1 E[G] = λ (2 社長になれるのは、ほんの一握り。 eλ/µ − 1 E[G] = λ−λ/µ µ 1 P {top} = λ (1 − e )≈ E[L(t)] eλ/µ − 1 E[Gtop ] = eλ/µ−λ/µ −1 ) E[Gtop ]µ(1 = − e −λ/µ µ(1 − e ) (2 (2 33