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第 26 回 生体機能関連化学シンポジウム「若手フォーラム」

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第 26 回 生体機能関連化学シンポジウム「若手フォーラム」
第 26 回 生体機能関連化学シンポジウム「若手フォーラム」
主催:日本化学会
生体機能関連化学部会
若手の会
共催:日本化学会、筑波大学学際物質科学研究センター
会期:平成23年9月11日(日) 13:00〜20:00
会場:筑波大学 総合研究棟B棟 公開講義室(茨城県つくば市天王台1-1-1)
プログラム
13:00-
受付開始
13:50-
開会の挨拶
生体機能関連化学部会若手の会 関東幹事代表 高橋俊太郎 (東工大院生命理工)
招待講演
14:00-14:40 古田 寿明(東邦大学理学部生物分子科学科)
「遺伝子の機能発現を光制御するケージド化合物の設計と合成」
14:40-15:20 鈴木 勉(東京大学大学院工学系研究科)
「RNA修飾の生合成から細胞内の化学反応を学ぶ」
15:20-15:40
休憩
15:40-16:20 岩浦 里愛((独) 農業・食品産業技術総合研究機構)
「DNA鋳型によるナノファイバーアーキテクトニクス」
16:20-17:00 三輪 佳宏(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
「共創研究! 化学とバイオイメージング」
17:00-17:20
写真撮影、ポスター掲示 (幹事会)
17:20-19:30
ポスター発表(奇数前半、偶数後半) & 懇親会
19:30-19:45
ポスター賞表彰式
20:00
閉会
1
ポスター発表
奇数番号:前半(17:20-18:25)、偶数番号:後半(18:25-19:30)
(ポスター番号の後の*は学生を示しています)
P-01* DNA のモチーフ構造を利用した金ナノ粒子アレイの構築
○橋爪 未来 1、上原 岳暁 1、三好 希望 1、新宮原 正三 2、葛谷 明紀 1、大矢 裕一 1(1 関西大
化学生命工、2 関西大システム理工)
P-02* 共有結合塩基対を有する DNA の構造評価
○岡田 宗大、幡野 明彦(芝浦工業大学大学院 工学研究科 応用化学専攻)
P-03* 高い配列認識能をもつ PNA 蛍光センサーによる RNA 検出
○松本 桂彦、中田 栄司、森井 孝(京都大学 エネルギー理工学研究所)
P-04* RNA 固定化水晶発振子上での RNA シャペロンタンパク質 Hfq の結合挙動の観察
○吉田 亜矢、古澤 宏幸、岡畑 惠雄(東工大院 生命理工)
P-05* 架橋反応性を有するピリミジン誘導体の合成と評価
○草野 修平、萩原 伸也、茂木 琢真、永次 史(東北大学多元物質科学研究所)
P-06* 機能性官能基を核酸塩基部位に有する非天然ヌクレオシドの核酸代謝酵素による合成
○与那覇 奨 1、幡野 明彦 2(1 芝浦工業大学工学部応用化学科、2 芝浦工業大学大学院工学研究
科応用化学科専攻)
P-07* 人工塩基対導入による蛍光色素の高輝度化
○加藤 智博、関口 康司、樫田 啓、浅沼 浩之(名古屋大学大学院 工学研究科)
P-08
1 本鎖 DNA を対象とした遺伝子操作法の開発
○愛場 雄一郎 1,2, Tuomas Lönnberg2, 小宮山 眞
大学 先端科学技術研究センター)
1,2
(1 東京大学大学院 工学系研究科、2 東京
P-09* シアヌル酸とアミノピリジンの水素結合塩基対によるポリヌクレオチド二重鎖形成
○島崎 啓、幡野 明彦(芝浦工業大学大学院 工学研究科 応用化学専攻)
P-10* ナノ構造体による部位特異的 DNA 組み換え酵素 Cre の反応制御
○勝田 陽介 1、遠藤 政幸 2、王恵瑜 1、日高久美 1、杉山弘 1,2(1 京都大学理学研究科、2 京都大
学物質細胞統合システム拠点)
P-11* 人工核酸 aTNA と SNA への色素導入による高機能化
○村山 恵司、冨田 孝亮、樫田 啓、浅沼 浩之(名古屋大学大学院 工学研究科)
P-12* フルオレセインへの分子認識能を有するα3β3 デノボタンパク質の探索と結合活性評価
○大倉 裕道1、高橋 剛2、三原 久和1(1 東京工業大学大学院 生命理工学研究科、2 群馬大学
先端科学研究指導者育成ユニット)
P-13* 幹細胞/前駆細胞の同定を目指した ALDH 活性検出蛍光プローブの開発
○土岐 裕子 1、花岡 健二郎 1、多田 幸雄 2、長野 哲雄 1(1 東京大学大学院 薬学系研究科、2
東京大学 創薬オープンイノベーションセンター)
P-14* 生体応用可能な近赤外蛍光カルシウムプローブの開発
○江川 尭寛、花岡 健二郎、小出 裕一郎、宇治田 早紀子、高橋 直矢、池谷 裕二、松木 則
夫、長野 哲雄(東京大学大学院 薬学系研究科)
2
P-15* 膜タンパク質を標的とした蛍光標識阻害剤の合成
○山口 眞澄、幡野 明彦(芝浦工業大学 工学部 応用化学科)
P-16* 非対称色素クラスターによる蛍光色素の高効率消光を目指した励起子相互作用の増大
○藤井 大雅 1、原 雄一 1、大澤 卓矢 1、樫田 啓 1,2、梁 興国 1,2、吉田 安子 2、浅沼 浩之
(1 名古屋大学大学院 工学研究科、2 名古屋大学 予防早期医療創成センター)
1,2
P-17* 構造学的知見に基づく蛍光バイオセンサーの創製と薬剤スクリーニング
○鬼追 芳行 1、高岡 洋輔 1、大谷 淳二 1、有田 恭平 1、築地 真也 2、有吉 眞理子 1、栃尾 豪
人 1、白川 昌宏 1、浜地 格 1(1 京都大学大学院 工学研究科、2 長岡技術科学大学 産学融合
トップランナー養成センター)
P-18* 選択的タンパク質のラベル化を目指した蛍光上昇型蛍光プローブの開発
○平林 和久 1、花岡 健二郎 1、下西 学 2、長野 哲雄 1(1 東京大学大学院 薬学系研究科、2 東
京大学大学院 薬学系研究科 GCOE)
P-19* 細胞表面タンパク質への機能性ナノ粒子ラベル化法の開発と応用
○吉村 彰真 1、水上 進 1,2、森 勇樹 2、吉岡 芳親 2、菊地 和也 1,2(1 大阪大学大学院 工学研
究科、2 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター)
P-20* アフィニティ駆動型アシル転移反応による細胞環境での高速かつ部位特異的なタンパク質化学
修飾法の開発
○宋 智凝 1、湊 大志郎 1、王 杭祥 1、古志 洋一郎 1、野中 洋2、清中 茂樹 1、森 泰生 1、高
岡 洋輔 1、築地 真也3、浜地 格 1(1 京都大学大学院 工学研究科、2 九州大学 稲盛フロンテ
ィア研、3長岡技科大産学融合セ)
P-21* 高速原子間力顕微鏡を用いたコンドロイチンポリメラーゼの一分子酵素反応の観察
○大塚 雅徳 1、森 俊明 1,2、岡畑 恵雄 1(1 東京工業大学大学院 生命理工学研究科、2JST-さき
がけ)
P-22* ヘム獲得蛋白質 HasA のヘム結合活性に及ぼす円順列変異導入の影響
○寺田 光良 1、荘司 長三 1、小崎 紳一 2、渡辺 芳人 3(1 名古屋大学大学院 理学研究科、2 山
口大学 農学部、3 名古屋大学 物質科学国際研究センター)
P-23* 水晶発振子を用いた膜タンパク質機能解析系の構築
○矢澤 健二郎、古澤 宏幸、岡畑 恵雄(東京工業大学大学院 生命理工学研究科)
P-24* トライアングル型金属多核錯体の自己集積と対アニオンによる形態制御
○飯田 昌也 1、佐々木 正男 1、山村 正樹 1,2、鍋島 達弥 1,2(1 筑波大学大学院 数理物質科学
研究科、2 筑波大学学際物質科学研究センター(TIMS))
P-25* 水晶発振子による翻訳を異常に終結したリボソームの定量解析法
○日下部 峻斗 1、高橋 俊太郎 1, 2、岡畑 恵雄 1(1 東京工業大学大学院生命理工学研究科、2
東京工業大学生命 GCOE)
P-26* ビオローゲン-シトクロム c3 2 元分子系固定化電極の調製とこれを用いた EQCM 測定
○角谷 沙央梨、深井 麻美、朝倉 則行(東京工業大学大学院 生命理工学研究科)
P-27
繊維状ウイルスからなるハイドロゲルの構築
○澤田 敏樹 1,2, 芹澤 武 2(1 東京大学 駒場オープンラボラトリー、2 東京大学 先端科学技術
研究センター)
P-28* 水晶発振子を用いたタンパク質合成速度の評価
○辻 健太郎 1、高橋 俊太郎 1,2、岡畑 恵雄 1(1 東工大院生命理工、2 東工大生命 GCOE)
3
P-29* 電気化学測定を用いたシトクロム c3 の電子移動指向性
○深井 麻美 1、田木 正樹 1、朝倉 則行 2(1 東京工業大学大学院 工学研究科、2 東京工業大学
大学院 生命理工学研究科)
P-30* 三脚型配位子を用いたらせん型錯体の構築
○奥原 昂 1、山村 正樹 1,2、鍋島 達弥 1,2(1 筑波大学大学院 数理物質科学研究科、2 筑波大学
学際物質科学研究センター(TIMS))
P-31* EQCM 法による電極固定化シトクロム c の酸化還元挙動測定
○小林 弘奈、小林 永佑、朝倉 則行(東京工業大学大学院 生命理工学研究科)
P-32* 大腸菌タンパク質膜透過における輸送経路の経時観察
○小泉 翔平、古澤 宏幸、岡畑 恵雄(東京工業大学大学院 生命理工学研究科)
P-33* 水晶発振子-アドミッタンス法(QCM-A)を用いた高分子ゲル薄膜の物性評価
○山下 明宏、古澤 宏幸、岡畑 恵雄(東京工業大学大学院 生命理工学研究科)
P-34
エンプラ結合性ペプチドを用いた表面の機能化
○伊達 隆明、芹澤 武(東京大学 先端科学技術研究センター)
P-35* フォースカーブ測定を用いたグリコーゲンホスホリラーゼ b による糖鎖伸長反応の解析
○金子 卓史 1、森 俊明 1,2、岡畑 惠雄 1(1 東京工業大学大学院 生命理工学研究科、2JST-さき
がけ)
P-36* 低酸素環境を標的とする近赤外蛍光プローブの開発とその応用
○朴 文 1、花岡 健二郎 1、清瀬 一貴 1、西松 寛明 2、平田 恭信 2、長野 哲雄 1(1 東京大学大
学院 薬学系研究科、2 東京大学医学部付属病院)
4
招待講演
5
遺伝子の機能発現を光制御する
招待講演1
ケージド化合物の設計と合成
古田寿昭
東邦大学理学部生物分子科学科
e-mail: [email protected]
細胞の生理機能を担う個々の分子の機能は明らかになりつつあるが,既存の研究手法
の組み合わせだけでは,生命の全体像を捉えることは難しい。生理機能を担うタンパ
ク質やシグナル分子の機能を,本来働くべき時期に働いている場所で制御することが
望まれる。例えば,遺伝子のコンディショナルな機能制御がこれに相当するが,遺伝
子ノックアウトや RNAi に高い時空間分解能は望めない。そこで,これを可能にする
要素技術を確立するため,ケージド化合物の化学を活用して時期および細胞(組織)
特異的に,生理現象を制御する技術開発を目的に研究している [1,2]。本講演では,遺
伝子の機能発現を光制御する試みについて,我々のグループの研究を中心に紹介する
[3-5]。
プラスミドの DNA のケージング
ケージド DNA を調製するには 2 つの方法が考えられる。全長 DNA を適切なケージン
グ試薬でランダムに修飾する方法と [3],化学合成した修飾プライマーから酵素的に
伸長して全長のケージド DNA にする方法である [5]。このうち,ランダム修飾による
方法は,操作が簡単で試薬が手に入れば誰でも利用できる点と,適用できる DNA の
配列に制限がないと考えられる点で優れている。しかし,これまでに報告されている
ランダム修飾によるケージド DNA は,光照射の前後で数倍程度の発現誘導の上昇し
か実現できていなかった [3, 6]。
Bhc‐caged RNA
RNA
Bhc‐diazo
dsDNA
Bhc‐caged DNA
そこで,EGFP およびルシフェラーゼ発現プラスミドをモデル化合物に選び,Bhc-diazo
による DNA のケージングと,光照射によるアンケージング条件の最適化をはかった
ところ,光照射によって最高で 10 倍程度の発現上昇が観察できることを明らかにし
た。しかし,ケージングに使用したプラスミド DNA の量を考慮すると,光照射後に
発現するタンパク質の絶対量が少ないこと(未修飾の DNA に対して 0.01%程度),ま
た,使用する DNA の量を増やしても発現するタンパク質の量が一定量を超えないこ
第 26 回
6
生体機能関連化学
若手フォーラム
とも明らかになった。
そこで,さらに効率よく発現上昇する系の構築を目指し,アンケージング後に生成し
たプラスミド DNA が細胞内で複製される系の効果を検討した。SV40 ori を持つルシ
フェラーゼ発現ベクターpRL-SV40 を Bhc-diazo でケージングし,COS-7 細胞に導入後
に紫外光を照射すると,未照射細胞に比べて 100 倍以上の発現上昇が実現できた。ま
た,発現の絶対量も未修飾のプラスミドによる発現量の数%程度まで増加することを
確認した。今回開発した SV40ori を持つケージドプラスミドと SV40 large T 抗原発現
細胞の組み合わせを用いると,光照射によって最高で 300 倍以上の発現効率の上昇が
達成できることも明らかにした。これは,従来の方法が,ケージングによってプラス
ミド DNA から mRNA への転写を光制御するのに対し,large T 抗原発現細胞では,1
細胞内のコピー数が複製により飛躍的に上昇したことによる。すなわち,ランダム修
飾によるケージングで DNA の複製を光制御可能なことを意味している。
核酸のケージド化合物の機能化
ランダムケージングで調製したケージドプラスミド DNA は,未修飾 DNA の混入を抑
えるために,大過剰の Bhc-diazo でケージングしなければならない。プラスミド DNA
1分子が大量の Bhc 基で修飾されるため,光照射によってすべての Bhc 基が脱保護さ
れた DNA の量は少なくなってしまう。この問題を解決するために,精製用のビオチ
ンタグ付きのケージング試薬 Bio-Bhc-diazo を合成した。アビジンビーズを用いて
Bio-Bhc-diazo でケージングした dsDNA を精製できること,および,紫外光照射で
Bio-Bhc 基を脱保護できることを確認した。さらに,精製後の Bio-Bhc-caged dsDNA
を哺乳動物培養細胞に導入すると,紫外光照射後の目的遺伝子の発現量は,未修飾
DNA の 80%以上に回復することを明らかにした。
ヌクレオチドのケージング試薬である Bhc-diazo をビオチンで修飾して,ケージドヌ
クレオチドのアフィニティ精製が可能になった。同様にして,機能性ケージド核酸の
合成に展開している。PNA を導入した PNA-Bhc-diazo は ssDNA の塩基配列を認識し
て修飾する。PNA は dsDNA と 3 本鎖を形成するので,PNA-Bhc-diazo を細胞内に導
入すると,核内に侵入してターゲット配列の dsDNA をケージングするケージドアン
チジーン試薬も夢ではない。また,ターゲッティング機能の付与も可能である。例え
ば,RGD-Bhc-diazo でケージングしたヌクレオチドは,インテグリンを高発現する細
胞に集中することが期待される。
生きた細胞内で遺伝子の機能発現を効率よく光制御するために,オリゴ核酸のケージ
ド化合物を開発し,さらにその高機能化を図ってきた。今後は,哺乳動物個体での使
用を可能にする機能化が必要であろう。
[1] Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1193-1200 (1999), [2] Nature Immun. 10, 627-635 (2009), [3] Nature
Genetics, 28, 317-325 (2001), [4] Org. Lett. 9, 4717-4720 (2007), [5] Chem. Commun. 46, 2244--2246,
(2010), [6] J. Biol. Chem. 274, 20895-20900 (1999)
第 26 回
7
生体機能関連化学
若手フォーラム
招待講演2
RNA 修飾の生合成から細胞内の化学反応を学ぶ
鈴木
勉
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻
e-mail: [email protected]
RNA は転写後に様々なプロセシングや修飾を受けて成熟し、はじめてその本来の機能を発
揮します。天然に存在する RNA 修飾は現在までに 100 種類を超えており、塩基やリボース
のメチル化などの単純なものから、水酸化、アセチル化、異性化、硫化、還元、アミノ酸の付
加など様々な修飾体が知られています。これらの修飾は機能性分子である RNA に多様な
化学的性質を付与することで、RNA が新たな機能を獲得するための戦略であると考えられ
ます。また、RNA 修飾は tRNA、rRNA、mRNA、核内低分子 RNA をはじめ、miRNA や
piRNA など様々な non-coding RNA に普遍的に存在します。RNA 修飾の果たす役割として
は、立体構造の安定化、他の RNA や RNA 結合タンパク質との相互作用、細胞内局在や安
定性の制御、遺伝情報の修飾と解読などが知られていますが、その機能と生合成過程には
未解明な部分が多く残されています。RNA 修飾の異常が疾患の原因となる例が報告され、
タンパク質の機能異常ではなく、RNA の質的な異常に起因する疾患という概念が生まれつ
つあります。また、ヒト脳の mRNA 中にはイノシンが大量に含まれており、トランスクリプトーム
の複雑性を増大させることで、脳がもつ複雑かつ高度な情報ネットワークの構築に関与して
いる可能性があります。RNA の機能発現に必要な RNA 修飾は、高次レベルでの生命現象
に深く関与する重要な要素であると言えます。
私たちは、生命現象の発現に RNA修飾がどのように関わっているかを明らかにすることを
目標に研究を行っています。また、新規 RNA 修飾を発見し、その化学構造を決定すること
で RNA が有する化学的な多様性を探求したいと考えています。さらに、RNA 修飾の生合成
経路を明らかにすることで“生体内の化学反応を学ぶ”というモティベーションがあります。
RNA 修飾の機能を深く理解するためには、RNA 修飾の化学構造や修飾部位を正確に
同定する研究手法の確立や、修飾酵素の同定と生合成経路の解明が不可欠です。私たち
は、微量な RNA を全自動で精製する装置(往復循環クロマトグラフィー)や、RNA の高感度
質量分析法(RNA-MS)を独自に開発し、微量な RNA を直接的に解析することで、新規修飾
塩基の構造決定や修飾部位の同定を行っています。また、逆遺伝学的なアプローチと
RNA-MS を組み合わせることにより機能未知遺伝子群から RNA 修飾遺伝子を網羅的に同
定するための方法論(リボヌクレオーム解析)を確立しました。実際にこの手法を用い、大腸
菌および酵母から新規 RNA 修飾酵素を多数同定しています。これらの RNA 修飾遺伝子を
破壊することで、RNA 修飾の生理的な機能を探求しています。また RNA 修飾酵素を組換え
タンパク質として取得し、RNA 修飾を試験管内で再構成させることで、細胞の中で RNA 修
飾がどのようなしくみで生合成されるかを深く理解しようと日夜努力を続けております。
第 26 回
8
生体機能関連化学
若手フォーラム
本講演では、最近私たちが、
構造決定した新規シチジン修飾
で あ る ア グ マ チ ジ ン
(2-agmatidylcytidine; agm2C)に
ついてご紹介したいと思います。
アグマチジンはアーキア由来
tRNAIle のアンチコドン1字目に
特異的に存在し、イソロイシンを
受容する特異性と、AUA コドン
図 1 アグマチジンは AUA コドンの解読に
必須の修飾塩基である。
の解読能の両方の機能に必須
であることが明らかとなっています(図 1)。アグマチジンはシチジンの 2 位にアグマチンが結
合した修飾塩基です。シチジンの 2 位が置換されることで、シトシン環がエナミンからイミンへ
と異性化し、塩基対合の際のプロトンのドナーアクセプターパターンをウラシル環の様に変
化させることで、G ではなく A と対合できるようになります(図 1)。この性質により、AUA コドン
が解読できるようになります。アグマチンはアルギニンが脱炭酸した代謝物であり、ポリアミン
生合成の前駆体として知られています。実際に、安定同位体標識したアグマチンを培地に
加え、アーキアを培養すると添加したアグマチンが実際に agm2C に取り込まれていることを
見出しました。さらに、私たちは比較ゲノムを用いて、アグマチジン修飾酵素(tRNAIle
agmatidine synthetase; TiaS)を同定しました。組換え TiaS を用い、アグマチンと ATP を基質と
し、転写合成した tRNA に agm2C を試験管内で形成することに成功しました。詳細な反応機
能の解析と tRNA-TiaS 複合体の結晶構造解析(産総研、沼田倫征博士との共同研究)から、
TiaS は自身のリン酸化と tRNA のリン酸化を触媒する新規のキナーゼドメイン(TCKD と命
名)を有し、三段階の反応で agm2C を形成する反応機構を明らかにしました(図 2)。
図2
TiaS によるアグマチジン修飾形成反応
第 26 回
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生体機能関連化学
若手フォーラム
招待講演3
DNA 鋳型によるナノファイバーアーキテクトニクス
岩浦
里愛
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
e-mail: [email protected]
はじめに ナノスケールの構造を構築するためのアプローチ法として、現在はトップ
ダウン手法が主流であるが、最小のエネルギーで最大の正確性をもつ技術として自己
集合によるボトムアップ型アプローチも精力的に研究されている。例えば、両親媒性
分子が形成する自己集合体については、これまでミセルやベシクルなどの球状集合体
に加え、チューブ状、ファイバー状、らせん状など一次元的に組織化されたナノ構造
体の形成が明らかになりつつある。このため、両親媒性分子はボトムアップ型ナノ構
造体の形成素子として期待されている。さらに、自己集合の中でも、J.-M. Lehn らの
研究に代表される、分子認識を利用した自己集合は、階層的で高度な機能や情報を持
つナノ構造が得られる手段として非常に注目されている。
一方、生体反応は分子認識の宝庫であり、化学者にとって人工的な分子認識系を構
築する上で非常に魅力的で、参考にすべきシステムの一つであると言えよう。例えば、
DNA は遺伝情報の伝達やタンパク質合成などを担う重要な分子であるが、その本質
は精密な分子認識と自己集合による二重らせん形成である。この性質を利用して、
DNA をナノスケール構造体の形成素子として用い、様々なナノ構造-例えば、はし
ご状構造、トライアングル、立方体など-ができることが報告されている。また、DNA
を鋳型とした微粒子の配列制御や DNA デバイスへの応用など、この 10 年あまりで
DNA は有機材料としても優れた分子であることがあきらかになりつつある。
このような背景から、我々は DNA と相互作用可能な部位を組み込んだ自己集合性分
子と、DNA との分子認識を介したボトムアップ型アプローチによるナノファイバー
形成について研究を行っている。本講演ではナノファイバーの合成、構造、機能につ
いて紹介する。
図 1 双頭型ヌクレオチド脂質と鋳型 DNA の二成分系自己集合によるヘリカルナノ
ファイバー形成
第 26 回
10
生体機能関連化学
若手フォーラム
DNA 鋳型による双頭型脂質のらせん状ナノファイバー形成 1)-5), 7), 8), 10)
長鎖オリゴメチレン鎖の両末端に、アデニル酸、グアニル酸、チミジル酸、シチジ
ル酸を連結した種々の双頭型ヌクレオチド脂質を合成した(図 2)。これらのヌクレオ
チド脂質は水中で自己集合し、核酸塩基部位に依存してナノシート、ナノファイバー、
ナノベシクルなど多様なナノ構造を形成した。次に、これらの双頭型ヌクレオチド脂
質と相補的な鋳型 DNA を二成分系自己集合した結果、G-18-G-dC20、A-18-A-dT20、
T-n-T(n = 18-20)-dA20 では直径 6 nm のらせん構造をもつナノファイバーとなった。種
々の測定結果から、これらのファイバー中では双頭型ヌクレオチド脂質両端の核酸塩
基と鋳型 DNA の核酸塩基間で相補的核酸塩基対が形成されていることが明らかとな
った。
図 2 双頭型ヌクレオチド脂質の自己集合および鋳型 DNA との二成分系自己集合に
よる多様な分子集合体形成
DNA を鋳型とした π 共役系分子のらせん状ナノファイバー形成 6), 9)
アントラセンのようなπ共役系分子を鋳型 DNA 手法により自己集合させることが
できれば、分子間距離が一定に保たれたアセン分子の一次元配列が得られるため、π
軌道の重なりや向きの揃った電子励起による新たな機能の発現が期待できる。アント
ラセンの 2 および 6 位にスペーサーを介してチミジル酸を導入したチミジル酸-アン
トラセン複合体 1 を新たに合成し、水中での自己集合および鋳型 DNA である dA20 と
の二成分系自己集合(1-dA20)を行った(図 3a)。その結果、1-dA20 からは均一な幅
(6 nm)をもつらせん状ナノファイバーが得られた。また、1 の自己集合体および
1-dA20 の二成分系自己集合体を含む水溶液の UV-Vis および蛍光スペクトルを比較し
たところ、1-dA20 のスペクトルでは小さなストークスシフトを示した。以上より、ナ
ノファイバー中のアントラセン部位は短軸方向に head-to-tail 型の配向を取ることに
より、J 会合体を形成していることが明らかとなった(図 3b)。次に、1 の自己集合体
および 1-dA20 の二成分系自己集合体について時間分解蛍光スペクトル測定を行った
ところ、二成分系自己集合体中のアントラセンは、自己集合体中のアントラセンに比
第 26 回
11
生体機能関連化学
若手フォーラム
べて蛍光寿命が長寿命化していることを見いだした。これは、アントラセンが水分子
から隔離されるとともに相補的核酸塩基対形成によって分子運動が抑制され、無輻射
失活がおこりにくくなったためであると考えられる。以上のように、DNA 鋳型手法
によりアントラセン分子が精密に一次元集積したらせん状ナノファイバーを構築す
ることに成功し、そのナノファイバー中のアントラセンは励起状態が安定化されるこ
とを明らかにした。
図 3 (a)チミジル酸-アントラセン複合体 1 と鋳型 DNA、(b) 1-dA20 の二成分系自己
集合による J 会合体の模式図
謝辞
本研究を遂行するにあたり、清水 敏美 博士(産総研 ナノチューブ応用研究
センター)、亀山 眞由美 博士(農研機構 食品総合研究所)に多大なご助言を頂きまし
た。また、蛍光寿命は由井 宏治 准教授(東京理科大学 理学部)の研究室で測定して
頂きました。感謝申し上げます。
参考文献
1) Iwaura, R.; Ohnishi-Kameyama, M.; Yoshida, M.; Shimizu, T., Chem. Commun. 2002,
2658-2659. 2) Iwaura, R.; Yoshida, K.; Masuda, M.; Yase, K.; Shimizu, T., Chem. Mater. 2002,
14, 3047-3053. 3) Iwaura, R.; Yoshida, K.; Masuda, M.; Ohnishi-Kameyama, M.; Yoshida, M.;
Shimizu, T., Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 1009-1012. 4) Iwaura, R.; Minamikawa, H.;
Shimizu, T., J. Colloid and Interface Sci. 2004, 277, 299-303. 5) Iwaura, R.; Shimizu, T.,
Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4601-4604. 6) Iwaura, R.; Hoeben, F. J. M.; Masuda, M.;
Schenning, A.; Meijer, E. W.; Shimizu, T., J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 13298-13304. 7)
Iwaura, R.; Kikkawa, Y.; Ohnishi-Kameyama, M.; Shimizu, T., Org. & Biomol. Chem., 2007, 5,
3450-3455. 8) Iwaura R., Ohnishi-Kameyama M., Shimizu T., Chem. Commun., 2008,
5770-5772. 9) Iwaura R., Iizawa T., Ohnishi-Kameyama M.; Chem. Eur. J., 2009, 15,
3729-3735. 10) Iwaura R., Iizawa T., Minamikawa H., Ohnishi-Kameyama M., Shimizu T.;
Small, 2010, 6, 1131-1139.
第 26 回
12
生体機能関連化学
若手フォーラム
第 26 回
13
生体機能関連化学
若手フォーラム
招待講演4
共創研究!
化学とバイオイメージング
三輪
1
2
佳宏 12, 田中 順子 2
筑波大学大学院 人間総合科学研究科
筑波大学 先端学際領域研究センター
e-mail: [email protected]
<概要>
生物をナマで見る新しい技術を開発することは、生命科学のブレイクスルーにつな
がる可能性があり、非常に要望も高まっている。しかし新しい蛍光イメージングはた
だ単に生物学的な工夫だけでは実現することは困難であり、光学系や工学技術者と連
携した装置開発、化学研究者と連携した新しい蛍光プローブや測定技術開発、民間企
業も巻き込んだ産学連携研究など、幅広い分野との連携なしにはとうていなしとげら
れない。そこで我々は、こうした連携研究を積極的に推進している。
<研究テーマ1>
生きた細胞の中での情報伝達は、時空間的に制御されたタンパク質―タンパク質間
相互作用によって担われている。したがって、生きている細胞の中でのタンパク質間
相互作用をナマで検出することは時空間的制御機構を明らかにする上で重要である。
そのためには、2種類の蛍光タンパク質を用いて、蛍光物質が近接した場合に起こる
共鳴エネルギー移動(FRET)を利用することが普及している。しかしそのFRET の検
出を2色の蛍光強度比から算出している限りは、人工的に1つのポリペプチドに遺伝
子上で連結したプローブでしか検出ができない。この問題を解決するためには、数ナ
ノ秒の蛍光寿命計測を生きた細胞において実施できれば、蛍光寿命の短縮に基づいた
正確で定量的なFRET 検出が可能になる。そこでわれわれは三井造船株式会社ととも
に、「蛍光寿命測定フローサイトメータ、およびそのための蛍光タンパク質プローブ
開発を進めて来た。現在、このシステムを応用して、早稲田大学中尾研究室と天然化
合物ライブラリーのスクリーニングを進め、抗がん作用をもつリード化合物の探索を
進めている。
第 26 回
14
生体機能関連化学
若手フォーラム
<研究テーマ2>
生体イメージングに適した新しい蛍光色素が開発できれば、その性質を応用した新
しい計測も可能になると期待される。これを実現するためには有機合成の専門no研究
室とのコラボレーションが必須である。そこで、筑波大学新井研究室との連携研究を
行い、新規蛍光色素TsukubaGreen を開発することができた(図1)。この色素は1)
極めて長い蛍光寿命、2)pH 依存性に
励起スペクトルが変化する、というユ
ニークな性質をもっていたため、この
性質を利用した応用技術の開発も進め
ている。
図1
TsukubaGreenの構造
<研究テーマ3>
最後に、再生医療やガン研究において実験動物を用いる際に、生きたままの状態で
まったく傷つけることなく非侵襲に体内をスキャンすることが可能になれば、様々な
病態の研究や治療モデルの開発に有用である。そこで我々は蛍光でこれを実現するた
めの様々な技術開発も行っている。そのためには、近赤外領域の蛍光を自在に扱うた
めの準備が必要となる。そこで我々は、1)民間企業と連携して、イメージング用の
特別な飼育条件の検討、2)近赤外域で十分な蛍光強度を発揮できる蛍光タンパク質
の応用、についても解析を進めている。
これらの連携研究の実際に関して紹介することで、若い研究者の方々との活発な情
報交換を行い、マルチスキル型研究者になるための戦略や連携研究の重要性について
議論する。
第 26 回
15
生体機能関連化学
若手フォーラム
ポスター発表
16
*
DNA
のモチーフ構造を利用した
P-01
金ナノ粒子アレイの構築
橋爪 未来 1,上原 岳暁 1,三好 希望 1,新宮原 正三 2,葛谷
1
明紀 1,大矢 裕一 1
関西大化学生命工,2 関西大システム理工
e-mail: [email protected]
1.概要
DNA は配列特異的な認識能を有し,温度可逆的に配列に依存しない比較的剛直な二重らせ
ん構造をとる。さらに任意の配列を持つ DNA を自動合成可能であり,三叉路や四叉路などの
構造を構築可能であるなどの特徴を有しており,ナノ組織体を構築するビルディングブロッ
クとして最適な分子である。一方,金ナノ粒子はプラズモン共鳴など,バルク状態とは異な
った性質を示す。さらに,金ナノ粒子 (AuNP) の配列・組織化により,分散状態では達成で
きない特異な光学的・電気的性質を示す材料を構築できると考えられ,AuNP を空間的に制御
して配列化することはナノテクノロジーにおける技術目標の一つとなっている。AuNP を配列
化するためには,金-チオール結合などによって導入した官能基を用いて組織化を行う手法が
一般的であるが,AuNP は球形で異方性を有していないため,1 個の AuNP 上に複数の官能基
を導入する場合にはそれらの相対的な位置関係を制御することは困難であった。これを解決
する手法として,AuNP をアルカンチ
オールで被覆することにより反応特異
点を形成するということが報告されて
いる 1)。アルカンチオールが金基盤平
面上で自己組織化単分子膜 (SAM) を
形成する場合,ある角度傾いて配列す
ることが知られており,これを金ナノ
粒子上で行うと,傾きが集積されて
AuNP 上の極部分に比較的反応性の高
い特異点が形成される。本研究では,
この特異点に位置選択的に DNA を導
入し T-motif 2) ,DX-motif 3) といった
DNA の組織構造と組み合わせること Fig. 1. Schematic illustration of formation of linear
で AuNP の配列化を試みた。(Fig. 1)
AuNP array.
2.方法
11-メルカプトウンデカン酸と 4-メルカプトフェニル酢酸を 2 : 1 の割合で溶解させたエタノ
ールに粒径 10 nm の金コロイド溶液を加え,48 h 攪拌した。遠心分離で AuNP を回収してエ
タノールによる洗浄を行い,TBE buffer に分散させた。ここに各種の長さ・配列のチオール
修飾 DNA を AuNP に対して 20 倍加えて 1 h 反応させ,限外ろ過により余分な DNA を取り除
いた。得られた AuNP/DNA 結合体とそれぞれのモチーフを形成するよう設計した組み合わせ
の DNA を加えてアニーリングをすることで,AuNP の配列化を行った。配列化は透過型電子
顕微鏡 (TEM) を用いて確認した。
3.結果及び考察
TEM 観察により,AuNP の直線的配列化が確認された。この AuNP アレイは,AuNP 間を 1
本の DNA 二重螺旋で繋いだだけのものと比べ,より直線性が高く,AuNP 間の距離の分布が
狭いことも明らかとなった。これにより,T-motif や DX-motif を用いることによって,より精
密な金ナノ粒子の直線的配列化が達成できることが示された。
1) F. Stellacci et al.Science 315, 358-361 (2007).
2) S. Hamada, S. Murata, Angew. Chem. Int. Ed. 48, 6820-6823 (2009).
3) T. J. Fu, N. C. Seeman, Biochemistry 32, 3211–3220 (1993).
第 26 回
17
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-02*
共有結合塩基対を有する DNA の構造評価
岡田宗大, 幡野明彦
芝浦工業大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
e-mail: [email protected]
DNA は,地球上の全生物の遺伝情報源であ
り、四種類の塩基による相補的水素結合で二
重らせんを形成している。本研究では、可逆
的な共有結合であるジスルフィド結合で塩基
対形成する非天然ヌクレオシド S を合成し、
DNA 内に導入してその構造について検討し 図 1. ジスルフィド結合で塩基対形成する非天
然ヌクレオシド S の化学構造
た。(図 1)。
融解温度実験を行い,DNA の熱安定性を評 表 1. 非天然ヌクレオシド S を含む DNA の酸化的条
価したところ、15mer オリゴヌクレオチドの 件下と還元的条件下での融解温度
中央にジスルフィド結合塩基対を導入した
DNA では、73℃となった。水素結合で塩基対
が形成される天然の DNA では 44℃となり、
融解温度が 29℃上昇することがわかり、熱安
定性が向上することが分かった。しかし還元
剤存在下で融解温度測定を行ったところ、ミ
スマッチ配列を 1 つ含む DNA と同様の融解温
度(33℃)を示した。同様に 21mer の中央に
a: Mercaptoethanol 無, b: Mercaptoethanol 15mer の配列
ジスルフィド結合塩基対を導入した配列でも 100μM, 20mer,21mer の配列 200μM
融解温度測定を行い、同様な傾向であること
が分かった。(表 1)。
非天然ヌクレオシド S を含む DNA の構造
を調べるために、円二色性スペクトルを測定
した。ジスルフィド結合塩基対を有する DNA
は、全体構造としては天然の B 型 DNA とほぼ
同じスペクトルを示した。また還元剤である
メルカプトエタノール存在下で測定を行った
ところ、温度を変化させてもコットン効果は
変化せず、二重鎖を形成していない可能性が
示唆された。 1H-NMR の NOE 距離情報を基
にして、155 個の距離拘束条件で Simulated 図 2. 距離制限分子動力学による 20 個のエネルギ
Annealing を行った。100 回の計算を行ったと ー極小値の平均構造
ころ、21 個の拘束条件を満たす構造が得られ
た。その平均化構造を図 2 に示した。ジスルフィド結合塩基対は DNA 中にインター
カレートしているものの、2つのチオフェニル基は同一平面には無いことがわかった。
DNA はジスルフィド結合塩基対部分で折れ曲った構造をしているが、他の部分は B
型 DNA とほぼ同じ構造をしていることが分かった。
第 26 回
18
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-03*
高い配列認識能をもつ PNA 蛍光センサーによる RNA
検出
松本桂彦・中田栄司・森井孝
1
京都大学
エネルギー理工学研究所
e-mail: [email protected]
[概要]
近年、ノンコーディング RNA (ncRNA) が生体内で重要な役割を果たしていること
が知られるようになり、細胞内での RNA の挙動をモニターできるプローブの開発が
盛んに行われている。しかし、細胞内には様々な RNA が多量に存在しているため、
任意の RNA のみを特異的に検出することはいまだ困難である。そこで、侠雑下でも
目的の RNA を特異的に検出できる配列識別能のたかいプローブを作製した。
[方法]
ペプチド核酸(PNA)は、DNA や RNA に比べて相補配列の識別能が優れている
ことが知られている。さらに、細胞毒性が低く、ヌクレアーゼやプロテアーゼ耐性が
高いため、細胞内でも安定して使用することができると考えられる。本研究ではまず、
蛍光修飾された PNA と消光分子とイノシンで修飾された RNA をハイブリダイズさ
せ、消光状態を作った。RNA 中のイノシンは PNA 中のシトシンと塩基対形成してお
り、完全にフルマッチな二重鎖に比べて水素結合が一本少ない準安定な二重鎖を形成
している。この消光した準安定二重鎖は PNA に完全に相補的な配列をもつターゲッ
ト RNA が存在するときのみ鎖交換を起こし、PNA とターゲット RNA の安定な二重
鎖を形成する。このとき、PNA の蛍光分子と RNA の消光分子が離れるため、蛍光発
光を示すようになる。
[結果及び考察]
ターゲット配列として ALDH2 の SNP サイトを含む 20 塩基を認識するプローブを
作製し、RNA の配列特異的検出を行った。その結果、ターゲット RNA 配列に 1 塩基
変異を導入したものはほとんど蛍光発光を示さず、目的の配列を完全に含む RNA 存
在下でのみ強い蛍光発光を示した。また、in vitro での転写 RNA や total RNA 中で
も目的の RNA のみを特異的に検出することにも成功している。
[結論]
この準安定二重鎖を用いたプローブは、目的配列中の任意のグアニンをイノシンに
変更し、相補的な PNA とハイブリダイズさせるだけであり、設計が非常に容易であ
る。また、蛍光分子、消光分子の組み合わせを変えることで検出波長を調整すること
が可能であり、配列認識能も高いため、複数の RNA を侠雑系の中でも正確に識別で
きる汎用性の高いプローブである。
第 26 回
19
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-04*
RNA 固定化水晶発振子上での
RNA シャペロンタンパク質 Hfq の結合挙動の観察
吉田 亜矢, 古澤 宏幸, 岡畑 惠雄
東工大院 生命理工
e-mail : yoshida.a.aa @m.titech.ac.jp
【概要】RNA シャペロンタンパク質 Hfq は 6 量体の環状タンパク質であり、機能性低分子 RNA
(sRNA)と mRNA の 5'非翻訳領域との間で RNA 二本鎖形成を促進させることで、mRNA 上でのリ
ボソームによる翻訳反応を調節していることが知られている。近年、Hfq と sRNA による翻訳調節機
構が注目されているが、Hfq が RNA の二本鎖形成を促進させるメカニズムについては未だ不明瞭
なままである。本研究では、構造多様性を持つ RNA にどのように Hfq が結合するのかに着目し、様
々な形状の RNA を固定化した水晶発振子マイクロバランス(QCM)を用いて、大腸菌由来の Hfq に
よる RNA 認識特異性を観察した。
【方法】QCM 基板上に 3' 末端をビオチン修飾した RNA を一定量結合させ、RNA 固定化基板を作製
した。そこへ Hfq を所定濃度添加し、RNA に対する Hfq の結合過程をリアルタイムに観察した。
【結果及び考察】QCM を用いて、さまざまな RNA に対する Hfq の結合過程を観察することができた
(図 1)。Hfq の認識配列である AAC 配列を n=2, 4, 8, 12 個もつ RNA(AAC(n) RNA)に Hfq を添加
すると振動数減少(質量増加)が観察され、AAC 配列が長く、Loop が大きい RNA ほどより多くの Hfq
が結合した。一方で、AAC 配列を持たず Hfq が結合しないと予想される tRNA にはほとんど結合し
なかったことから、Hfq が RNA の AAC 配列特異的に結合することがわかった。また、動力学解析を
行った結果、結合速度定数 kon はどの RNA でも同じ値であり、解離速度定数 koff は AAC 配列が長
い RNA ほど小さくなった。このことから、カチオン性表面を持つ Hfq が静電的相互作用でどの RNA
に対しても同様に近づき、その後、AAC 配列が長いものほど、より安定な複合体を形成しているこ
とがわかった。
図 1:様々な形状の RNA に対する Hfq の結合挙動の観察
50 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, 200 mM NaCl, pH 7.5, at 25 °C
第 26 回
20
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-05*
架橋反応性を有するピリミジン誘導体の合成と評価
草野
修平, 萩原 伸也, 茂木 琢真、永次
史
東北大学多元物質科学研究所
e-mail: [email protected]
【序】遺伝子発現を制御する方法としてオリゴヌクレオチド (ON) を用いる方法が盛んに検討
されている。ON は、相補的な塩基配列と選択的に二本鎖を形成するため、配列選択的な遺伝
子発現制御法への様々な展開が検討されている。最近では、miRNA を標的とした遺伝子発現
制御、ON を用いたエキソンスキッピングの誘導など、RNA の転写後調節に関連した ON に
よる遺伝子発現制御が特に注目されている。これらの方法論では、標的 RNA と ON との間で
形成される複合体の安定性が、遺伝子発現制御の効率に大きく影響する。我々は、標的 RNA
-ON 複合体を安定化する方法として、共有結合を形成する架橋反応性 ON の開発を行ってい
る。これまでに、架橋性核酸塩基 (4-amino-6-oxo-2-vinylpyrimidine, 1) を組み込んだ ON が中性
条件下、標的 RNA のウラシルに対して特異的に架橋形成することを明らかにしている 1)。本
講演では、架橋性核酸の高次構造制御による塩基選択性の拡張について報告する。
【結果】1 の架橋反応は、標的の
H
H
O
N H
ウラシルに対して塩基対を形成
O
N H
N
O
N
H N
し、反応点が近接することで進行
N
O
N
H
N
N
N
O
N RNA
N
O
すると考えられる (Fig. 1)。この O O
RNA
H N
1
H
考察に基づき、我々は反応性塩基
O
2
O
4-amino-6-oxo
をフレキシブルな短いリンカー
-2-vinylpyrimidi
で結合した 2 を設計した。2 は、
Fig. 1 新規架橋分子の設計
グアニンと塩基対を形成した際
に 1 よりも安定な二本鎖を形成すると予想され、その結果グアニンとの架橋反応性が向上す
ると期待した(Fig. 1)。
合成した 2 を導入した ON (3) を用いて架橋反応の検討を行ったところ、中性条件下、相補
的な位置にグアニンを持つ RNA に対して選択的に架橋反応が進行することがわかった (Fig.
2)。さらに、これらの反応は 1 mM の Zn または Ni 添加により加速され、24 時間後 90%とい
う高い収率で架橋反応が進行することがわかった。現在、2 を導入した ON を用いたアンチセ
ンス効果について検討を行っており、本発表ではこれらの結果および反応の詳細について発
表する予定である。
3: 5'-d(CCGCGT-2-TCGCCG)-3'
3'-r(GGCGCA-Y-AGCGGC)-FAM-5'
5'-d(CCGCGT-2-TCGCCG)-3'
3'-r(GGCGCA-Y-AGCGGC)-FAM-5'
The reaction was performed with 10 M
ODN 3 and 5 M target ORN in 50 mM
MES, 100 mM NaCl, pH 7.0, 37 ºC
Fig. 2 ODN 3 と標的 RNA との架橋反応
1) Nagatsugi, F. et al. Chem.Commun. 2009, 42, 6463.
第 26 回
21
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-06*
機能性官能基を核酸塩基部位に有する
非天然ヌクレオシドの核酸代謝酵素による合成
与那覇 奨 1, 幡野 明彦 2
1
芝浦工業大学工学部応用化学科,2 芝浦工業大学大学院工学研究科応用化学科専攻
e-mail: [email protected]
概要
蛍光プローブやタグなどの機能性官能基を導入した塩基が,核酸代謝酵素であるチミジン
ホスホリラーゼの基質となり,非天然ヌクレオシド合成に利用できるかを検討した.ウラシ
ル塩基の 5´ を修飾しても,塩基転移反応が進
行することが分かった.
はじめに
モレキュラービーコンや遺伝子診断に利用
する DNA には,構成単位であるヌクレオシド
の目的の位置に蛍光色素を導入する必要があ
る.しかし,ヌクレオシドには機能性官能基
が多数あり,有機化学的には保護基を導入し
て目的の官能基のみに蛍光色素を導入しなけ スキーム チミジンホスホリラーゼによる塩基部位
ればならない.核酸代謝酵素であるチミジン 交換反応と機能性官能基の導入塩基の交換反応
ホスホリラーゼは,チミジンの塩基部位をウ
ラシル誘導体に交換することができる(スキーム).本酵素を利用すれば,リボース部位の
水酸基を保護する必要無く,塩基部位に様々な官能基を導入することができると期待した.本
研究では,チミジンホスホリラーゼによって様々なウラシル誘導体が非天然ヌクレオシドへ
導入可能かを検討した.
結果と考察
塩基部位交換反応に用いるウラシルは,表に示す様な 5´ 位に
様々な官能基を導入した化合物を用いた.チミジン 50 mM,ウ
ラシル誘導体 5 mM,37 ℃のリン酸緩衝液(1 mM, pH 6.8)中,
チミジンホスホリラーゼ 10 U/mL を用いて反応を行った.結果
を表に示した.5´ 位にビニル基 (2) やエチニル基 (3) を導入した
ウラシルでは,短時間(0.5 〜 2.0 h)で 80 % を越える反応転換
率を示した.次に,クリックケミストリーによる蛍光色素標識を
可能にするために,化合物 4, 5 の検討を行った.1,2,3-トリアゾ
ール環をウラシルの 5´ 位に有した化合物 4 はチミジンホスホリ
ラーゼによって 24 時間で 82 % の反応転換率であった.蛍光標識
するためのリンカーをつけた化合物 5 は,反応は進行しなかっ
た.そこで,アルキル基のフレキシビリティーを増加させ,アル
キル鎖長を検討するために,薗頭カップリングでウラシルにエチ
ニルアルキル基を連結した化合物 6, 7 で検討した.化合物 6, 7 と
も転移反応は進行したが,アルキル鎖長が長くなると転換反応率
は低下し,反応時間も増加することが分かった.
第 26 回
22
表 チミジンホスホリラーゼ
の塩基部位転移反応に及ぼす
塩基の 5´ 官能基の効果
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-07* ス ペ ー
人工塩基対導入による蛍光色素の高輝度化
スを空けてください
加藤 智博, 関口 康司, 樫田 啓, 浅沼 浩之
名古屋大学大学院 工学研究科
e-mail: [email protected]
【序】 量子ドットは従来の蛍光色素一分子によるラベル化と比べその発光強度が大きいことから近年
注目されている。しかしながら、量子ドットはそれ自体に細胞毒性がある点や、調製法が煩雑である
といった問題点があった。我々はこれまでに、量子ドットと蛍光色素の特徴を併せ持った高輝度蛍光
色素クラスター “DNA ドット”の調製に成功している[1]。 “DNA ドット”では蛍光色素を塩基対間に挿
入することにより、色素同士の相互作用に基づく自己消光を天然塩基対によって抑制することで高
輝度な発光を実現した。しかしながら、その際蛍光色素が隣接する核酸塩基により消光されてしまう
という根本的な問題点があった。そこで、本研究では核酸塩基からの電子移動を抑制する分子(イン
スレーター)を核酸塩基-蛍光色素間に導入することにより蛍光量子収率の向上を目指した。
【実験】 インスレーターとしてシクロヘキサン環に着目し、isopropylcyclohexane(H in Figure 1)を
DNA に導入した。また、蛍光色素は核酸塩基への電子移動で消光することが知られているピレン
(P)を用いた。合成した配列を Figure 1 に示す。ピレンと塩基対間に H 残基を疑似塩基対として導入
することによりピレンの蛍光量子収率の向上を目指した。インスレーターを導入していない配列
(P1/N)ではピレンの発光はほぼ完全に抑制された(Figure 2 の実線)。それに対し、H-H ペアを2つ
導入した配列(H2AP/H2B)では非常に強いピレンのモノマー発光が観察された。量子収率を算出
したところ、P1/N では 0.01 以下であったのに対し、H2AP/H2B では 0.19 に増加した。更に、H-H ペ
アを6つ導入したところ、蛍光強度はさらに増大し、量子収率は 0.34 まで増加した(H6AP/H6B)。以
上の様にインスレーター塩基対を導入することによりピレンの量子収率の飛躍的な向上に成功した。
本発表では詳しいメカニズムや他のインスレーターについて[2]も併せて報告する予定である。
[1] H. Kashida, K. Sekiguchi, X. G. Liang and H. Asanuma, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 6223-6230.
[2] H. Kashida, K. Sekiguchi and H. Asanuma, Chem. Eur. J. 2010, 16, 11554-11557.
Figure 1. Schematic illustration and sequences
of modified DNA synthesized in this study.
Figure 2. Fluorescence emission spectra of P1/N,
H2AP/H2B and H6AP/H6B. Conditions: [NaCl] =
100 mM, pH 7.0 (10 mM phosphate buffer), [DNA]
= 1.0 M. Excitation wavelength was 345 nm.
第 26 回
23
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-08
1 本鎖 DNA を対象とした遺伝子操作法の開発
愛場
雄一郎 1,2, Tuomas Lönnberg2, 小宮山 眞 1,2
1
2
東京大学大学院 工学系研究科
東京大学 先端科学技術研究センター
e-mail: [email protected]
【緒言】当研究室ではこれまで、
(a)
(b)
Ce(IV)/EDTA を利用した DNA の位置
2本鎖DNA
1本鎖DNA
選択的切断法を開発し、各種遺伝子
操作にも成功してきた(Fig. 1)。
相補鎖DNA
PNAs:
Ce(IV)/EDTA は 2 本鎖 DNA をほとん
ど切断しないものの、1 本鎖 DNA を
1本鎖状態
Gap構造
非常に迅速に加水分解するという興
味深い特徴がある。そこで、2 本鎖
DNA には人工核酸である PNA(ペプ
Ce(IV)/EDTA
Ce(IV)/EDTA
チド核酸)を配列特異的にインベー
ジョンさせ、1 本鎖部位を形成させる
ことで選択的な切断を達成している。
また、1 本鎖 DNA に対しては、相補
的な DNA を用いてギャップ構造を
形成させ、ギャップ部位の1本鎖部
分を選択的に加水分解し、望みの位 Figure 1. Strategy for the site-selective scission of (a)
置での切断が可能となっている。通 double- and (b) single-stranded DNA by Ce(IV)/EDTA.
常では 2 本鎖 DNA を対象とした遺伝子操作が一般的であるが、本手法では 2 本鎖だ
けではなく 1 本鎖状態の DNA をも対象とすることが可能である。
しかしながらこれまでの手法では、ターゲット 1 本鎖 DNA の切断部位以外を相補
鎖 DNA によって被覆する必要があり、対象とする DNA のサイズに限界があった。そ
こで本研究では、Ce と強く相互作用する配位子を相補鎖に導入し、切断効率と選択
性を向上させることで、短鎖相補鎖 DNA のみを用いた 1 本鎖 DNA 切断系を構築した。
【実験・結果】まず、複数のホスホン酸からなる EDTP 配位子を相補鎖 DNA の末端
に導入した。これら相補鎖 DNA を用いてギャップ部位に EDTP 配位子を配置し、
Ce(IV)/EDTA を切断部位近傍に引き寄せることで、切
断活性を向上させ、さらに非特異切断も大きく抑制す
Ce
ることに成功した。その結果、長鎖 1 本鎖 DNA を対
象とした場合でも、全体を相補鎖にて被覆せずとも短
鎖 DNA のみを用いて、位置選択的な切断を達成した
(Fig. 2)
。本系は、短鎖 EDTP-DNA のみを利用し、
長鎖相補鎖 DNA を必要としないため、対象 DNA の
サイズによらない位置選択的切断が可能である。
Figure 2. Site-selective scission
またこれを利用し、BFP から GFP 遺伝子への遺伝 of long single- stranded DNA by
using short EDTP-DNAs.
子操作にも成功したので、併せて報告する。
Ce
第 26 回
24
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-09*
シアヌル酸とアミノピリジンの水素結合塩基対による
ポリヌクレオチド二重鎖形成
島崎 啓 , 幡野 明彦
芝浦工業大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
e-mail: [email protected]
DNA の水素結合パターンは、プリンと
ピリミジンの相補的塩基対形成であるが
(図 1a)、水素結合パターンが適合すれ
ば、六員環-六員環の疑似塩基対でも二重
鎖を形成することが期待できる。
本研究では、二つの六員環疑似塩基の
相補的水素結合形成により、DNA が二重
鎖を形成する化合物のデザインを行った
(図 1b)。新しい水素結合塩基対として、
シアヌル酸とアミノピリジンを選択して
合成を行った。
アミノピリジン型ヌクレオシドは、リ
チオ化を用いてカップリングを行い、光
延反応を用いて環化した。カップリング
収率、環化収率ともに 40%となったが、
β体とα体、β/α= 4 の混合物であった。
シアヌル酸型ヌクレオシドのホスホロ
アミダイト化を行い、DNA 合成機を用い
て DNA 配列内に導入し、融解温度測定
を行った。その結果、DNA (dT)15/(dA)15
の融解温度は 46 ℃、チミジンの変わりに
シアヌル酸型ヌクレオシド X を中央に入
れた DNA (dT)7X(dT)7/(dA)15 の融解温度
Scheme. a: nBuLi,n-hexane,THF,-78℃,40min
; b: N,N-dibenzyl-5-bromo-2-aminopyridine,THF
,-78℃,1h and then -78℃ to 0℃ over 3h; c:
DIAD, Ph3P, THF, 0℃; d: TBAF, MeCN, rt; e:
H2,Pd/C,MeOH; f: BzCl,DIPEA,THF g: DMTrCl,
DIPEA ,THF,rt; h: amidite, DIPEA ,CH2Cl2.
1.2
A=(At-A0)/(Amax-A0)
は 37 ℃、チミジンの変わりにピリミジン
ミスマッチ塩基としてシチジンを中央に
入れた二重鎖である DNA (dT)7C(dT)7/(d
A)15 では 34 ℃となった(図 2) 。シチジ
ンを入れた DNA よりも、シアヌル酸型
ヌクレオシドを入れた DNA の方が融解
温度が 3℃高く、熱安定性が高いので、
シアヌル酸とアデニンの水素結合がミス
マッチングでないことが確認された。
図 1.a) アデニン=チミン(天然)の水素結合による
DNA、b) 本研究でデザインした非天然ヌクレオシド
による DNA.
1
0.8
0.6
0.4
(dT)7C(dT)7/(dA)15
(dT)7X(dT)7/(dA)15
(dT)15/(dA)15
0.2
0
-0.2
10
20
30
40
50
60
温度(℃)
70
80
90
図 2. 天然 DNA と非天然 DNA の融解温度曲
線.25 μM of DNA in 10 mM Phosphate buffer
(pH 7.0), 500 mM NaCl, 0.5 ℃/min.
第 26 回
25
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-10*
ナノ構造体による部位特異的 DNA 組み換え酵素 Cre
の反応制御
勝田陽介 1・遠藤政幸 2・王恵瑜 1・日高久美 1・杉山弘 1,2
(1 京都大学理学研究科
2
京都大学物質細胞統合システム拠点)
e-mail: [email protected]
[概要] バクテリオファージ P1 由来の DNA 組み換え酵素 Cre は四量体でその機能を
発現し、2 本鎖 DNA を配列特異的に相同組み換えを行う。Cre が認識する LoxP 配列
を含む 2 本鎖 DNA を DNA フレーム[1]-[3]に導入し、Cre による組み換え生成物と組み
換え反応を原子間力顕微鏡により観察した。また、Cre 四量体を trap するために、LoxA
配列[4]を用いる観察も併せて行った。
[方法] バクテリオファージ P1 由来の DNA 組み換え酵素 Cre は四量体でその機能を発
現し、2 本鎖 DNA を配列特異的に相同組み換えを行う。Cre が認識する LoxP 配列を
含む 2 本鎖 DNA を DNA フレームに導入し、Cre による組み換え生成物と組み換え反
応を原子間力顕微鏡により観察した。
[結果及び考察] Parallel 配置の 2 本鎖 DNA に Cre を反応させると、Cre は目的配列へ
の結合はみられたが、反応が進行することなく酵素がモノマーに分解し解離した。一
方、antiparallel 配置の 2 本鎖 DNA を Cre と反応させると、2 本鎖 DNA 同士が中央で
接した構造が観察され、さらには目的生成物である loop-shape へと構造が変わる様子
を動画で観察することに成功した。
[1]
[2]
[3]
[4]
J. Am. Chem. Soc. 132, 1592(2010)
Angew Chem Int Ed., 49, 9412( 2010)
J Am Chem Soc. 132 1631 ( 2010)
Nature, 389, 40(1997)
第 26 回
26
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-11*
人工核酸 aTNA と SNA への色素導入による高機能化
村山恵司, 冨田孝亮, 樫田啓, 浅沼浩之
名古屋大学大学院 工学研究科
e-mail: [email protected]
[概要] 近年、PNA や LNA などの人工核酸が注目
を集めている。我々はこれまでに D-Threoninol を
骨格として核酸塩基を導入した人工核酸である
acyclic Threoninol 核酸(aTNA)と、Serinol を骨格と
する人工核酸 Serinol 核酸(SNA)の合成に成功して
いる 1,2。その際、これら二つの人工核酸はそれぞ
れ逆平行で相補的な塩基配列を認識し、aTNA 同
士、SNA 同士で非常に安定な二重鎖を形成するこ
とを見出だした。そのため、これらの人工核酸は Fig 1. Structures of aTNA and SNA
核酸プローブ等への応用が期待できる。そこで、
本研究では aTNA と SNA の更なる高機能化を目指し、これらの人工ヌクレオチドへ
の色素分子の導入を行った。
[結果及び考察] 8mer の aTNA(Ta/Tb)に対し、ピレンを付加的に導入した配列を合
成し(TaDP/TbDP)、融解温度、吸収スペクトル、蛍光スペクトル測定を行った。まず、
ピレン(dP)導入 aTNA の融解温度を測定した。その結果、未修飾の aTNA の Tm は 62.7
o
C であったの対し、dP を導入した TaDP/TbDP の Tm は 38.0 oC と 24.7 oC 不安定化す
ることが分かった。次に蛍光スペクトルを測定したところ(Fig 2)、二重鎖を形成して
いない 50 oC においてはモノマー発光(λem = 406 nm)しか観測されなかったのに対し、
二重鎖を形成している 20 oC ではモノマー発光が減少し、強いエキシマー発光(λem =
503 nm)が見られた。これは、aTNA 二重鎖内部でピレン同士が二量体を形成したこと
を示している。以上のように、非環状骨格をもつ aTNA においても、二重鎖の形成と
解離によって色素間の相互作用を制御することに成功した。
本発表では色素修飾 SNA の物性についても併せて報告する。
[参考文献] 1Asanuma, H.; Toda, T.; Murayama, K.; Liang, X.G.; Kashida, H. J. Am. Chem.
Soc. 2010, 132, 14702-14703. 2Kashida, H.; Murayama, K.; Toda, T.; Asanuma, H. Angew.
Chem. Int. Ed. 2011, 50, 1285-1288.
O
NH
O
O
O
P
O-
Ta
Tb
TaDP
TbDP
dP
1'- GCATCAGT -3'
3'- CGTAGTCA -1'
1'- GCAT-dP-CAGT -3'
3'- CGTA-dP-GTCA -1'
Scheme 1. Sequences of aTNA.
Fig 2. Fluorescence emission spectra of TaP/TbP duplex. (ex. = 355 nm).
[aTNA] = 5 μM, [NaCl] = 100 mM, pH 7.0 (10 mM phosphate buffer)
第 26 回
27
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-12*
フルオレセインへの分子認識能を有する
α3β3 デノボタンパク質の探索と結合活性評価
大倉裕道1, 高橋 剛2, 三原久和1
1
2
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
群馬大学 先端科学研究指導者育成ユニット
e-mail: [email protected]
【概要】タンパク質は、酵素活性やシグナル伝達など多様な機能を発現する際、種々のター
ゲット分子を厳密に認識している。これまでに所望の分子認識能をもつタンパク質を自在に
獲得する試みとして、既存のタンパク質をスキャフォールド(土台)とし、アミノ酸を置換
し、スキャフォールド上へ新たな結合サイト構築が行われている。アミノ酸置換による立体
構造の不安定化を避けるため、これらの研究に用いられるスキャフォールドは概して安定な
三次構造をもつタンパク質である。一方、生体内では、安定な三次構造をもつタンパク質の
みならず、単独では三次構造を安定に保持しない molten globule なタンパク質の中にも厳密な
分子認識を行っているものがあることが明らかにされている。このような molten globule なタ
ンパク質は単位体積あたりの分子認識表面積が広く、結合・解離速度が速い傾向にあること
が報告されている。我々は molten globule なタンパク質も分子認識能を付与するスキャフォー
ルドとして利用でき、さらに速い結合・解離速度もつタンパク質を獲得しやすいのではない
かと考えた。そこで、molten globule な性質を示したデノボタンパク質をモデルスキャフォー
ルドとして用い、ファージディスプレイ法により Fluorescein をターゲットとしたスクリーニ
ングを行った。スクリーニングの結果、Fluorescein に対して数十 nM の解離定数をもつタンパ
ク質を得ることができ、molten globule なタンパク質のスキャフォールドとしての有用性が示
唆された。
【方法】スキャフォールドのデノボタンパク質には、当研究室において設計遺伝子ライブラ
リから獲得され、33 モチーフをもち、配列の異なる二種の人工タンパク質 vTAJ13、vTAJ36
を用いた 1。これらのタンパク質の二次構造をつないでいるリンカー配列 2 箇所の 3 残基ずつ
計 6 残基をランダムアミノ酸へと置換し、ファージディスプレイ法を用いて Fluorescein を標
的としたアフィニティセレクションを行った。
【結果及び考察】セレクションの各ラウンドのファージプールを用いて phage ELISA を行っ
たところ、vTAJ13、vTAJ36 の両スキャフォールドにおいてラウンドを繰り返すことによりタ
ーゲットへの結合量が増加した。この結果はターゲットを認識するファージプールへと濃縮
されていることを示唆している。次いで配列解析を行い各アミノ酸の使用頻度を求めた。プ
ラスの電荷をもつアミノ酸であるヒスチジン、リジン、アルギニンを合わせた使用頻度はど
ちらのスキャフォールドを用いた場合にも 20~30%と高かった。また、グリシン、プロリン
の使用頻度はそれぞれ vTAJ13 では 12~25%、 8~11%であったのに対して、vTAJ36 では 8~
15%、1~5%でありスキャフォールド間で差異がみられた。立体構造安定性やフルオレセイン
への結合に適した立体配置をそれぞれのスキャフォールドで確保するためにこの差がみられ
たと考えられる。さらに単離したタンパク質で結合速度定数を SPR により算出した結果、数
十 nM の解離定数を示すクローンの存在が確認された。よって molten globule な人工タンパク
質33 デノボタンパク質をスキャフォールドとして用いた場合、所望の結合活性をもつタン
パク質が得られることが明らかとなった。
【参考文献】1) Jumawid, M. T. et al., Protein Sci. 2009, 18, 384-398
第 26 回
28
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-13*
幹細胞/前駆細胞の同定を目指した
ALDH 活性検出蛍光プローブの開発
土岐
裕子 1, 花岡 健二郎 1, 多田
幸雄 2, 長野 哲雄 1
1
2
東京大学大学院 薬学系研究科
東京大学 創薬オープンイノベーションセンター
e-mail: [email protected]
【概要】
幹細胞は自己複製能と多分化能を有する細胞であり、臨床および基礎研究の両面か
ら幹細胞を高感度に同定分離する技術が必要とされている。アルデヒドをカルボン酸
へと代謝するアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)は生体内において様々な系統の
幹細胞/前駆細胞に高発現している為、細胞内の ALDH 活性を検出することにより、
幹細胞/前駆細胞としての能力が高い細胞の同定が達成可能となる。既存の ALDH 活
性検出型蛍光プローブとしては、BODIPY を基本骨格とした ALDEFLUOR が存在す
るが、酵素反応産物の細胞内滞留性向上のみに依存し、蛍光特性が変化しないために
S/N 比が低い問題点を有する。そこで、本研究では ALDH と特異的に反応することで
蛍光特性が変化し、幹細胞/前駆細胞の同定を可能とする生細胞内 ALDH 酵素活性検
出蛍光プローブの開発を目的とした。
【方法】
ALDH 活性を検出する蛍光プローブの分子設計における基礎検討として、ALDH の
基質認識について検討を行った。そこで、まず蛍光団として Fluorescein を用い、蛍光
団からアルデヒド部位までのリンカーの長さが異なる様々な化合物を合成し、基質認
識への影響を調べた。更に、BODIPY を母核とした既存の ALDEFLUOR の様々な類
縁体を合成し、基質認識に関してより詳細に検討を行った。また、ALDH に関するド
ッキングシミュレーションを行い、実験結果と計算化学的な手法との整合性について
検証を行った。
【結果及び考察】
上記の実験から、蛍光団からアルデヒド部位までのリンカーの長さ、蛍光団への嵩
高い置換基の導入、アルデヒド部位の導入位置によって、酵素反応速度が大きく変化
することが明らかとなった。これら実験結果より、ALDH の基質認識において達成す
べき重要なポイントを 3 点見出した。また、ALDH に関するドッキングシミュレーシ
ョンにより、実験結果が計算化学的手法と矛盾しないことを確認した。
【結論】
ALDH による基質認識が蛍光団およびリンカーの構造に依存し、以下の 3 点の達成
が基質認識に有利となることを見出した。
● リンカーが十分に長く、蛍光団からアルデヒド部位が離れている。
● 嵩高い置換基を持たない構造的に小さな蛍光団を利用する。
● BODIPY 骨格の 3 位の位置にアルデヒド有するリンカーを導入する
現在は、これまでに得られた基質認識に関する知見と計算化学的なシミュレーション
を基に、基質認識されうる構造に焦点を当て、ALDH 酵素活性を蛍光変化として検出
可能な新たな蛍光プローブの開発を行っている。
第 26 回
29
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-14*
生体応用可能な近赤外蛍光カルシウムプローブの開発
江川尭寛, 花岡健二郎, 小出裕一郎, 宇治田早紀子, 高橋直矢,
池谷裕二, 松木則夫, 長野哲雄
東京大学大学院 薬学系研究科
e-mail: [email protected]
カルシウムイオンは、生体の枢要なセカンドメッセンジャーとして様々な生命現象
に関与し、その挙動を蛍光イメージングにより可視化することで多くの重要な知見を
もたらしてきた。特に、カルシウム蛍光プローブにより神経発火を細胞内のカルシウ
ムイオン濃度変動として捉えることで、多ニューロンからなるネットワーク解析を行
うことができる。そのため、神経科学においてカルシウム蛍光イメージングは不可欠
な手法の一つとなっている。現在、バイオイメージングに広く用いられているカルシ
ウムプローブは紫外から可視領域に吸光、蛍光波長を有している。一方で、近赤外領
域 (650-900 nm)の光は組織透過性が高く、バックグラウンド蛍光や細胞毒性が低いと
いう特性があるためイメージングに適しており、さらに、多くのバイオイメージング
色素は可視光領域に蛍光波長を有するため、それら色素との共染色が可能である。こ
のような理由から、汎用性のある近赤外蛍光カルシウムプローブは生物学研究の新た
なツールとして長きにわたり求められてきた。しかしながら、現在までに開発されて
きた近赤外蛍光カルシウムプローブは、実際に生体応用されているカルシウムプロー
ブに比べて蛍光強度変化が僅かであることを始め、多くの欠点を有するためバイオイ
メージングへの応用例は皆無である。
そこで我々は、10 位 Si 置換ローダミンを母核とした新規近赤外蛍光カルシウムプ
ローブ、CaSiR-1 をデザイン・合成し、そのバイオイメージングへの応用の可能性を
精査した。CaSiR-1 のカルシウムイオン存在下での蛍光は非存在下と比較して約 1000
倍もの大きな強度を示し、CaSiR-1 をロードした神経細胞を発火させることで蛍光強
度もそれに同期して変化することを確認した。さらに、多細胞における蛍光イメージ
ング解析を容易にすることを目的として acetoxymethyl (AM)体を合成し、脳切片にお
ける複数の神経細胞の自発活動を可視化することに成功した。そして、一部の神経細
胞に GFP を発現させたマウスに、CaSiR-1 およびグリア細胞を選択的に染色する
sulforhodamine 101 を同時にロードしイメージングを行ったところ、それら 3 つの蛍
光が分離可能であると同時に、シャーファー側枝を刺激した際の神経発火をカルシウ
ムイオン濃度変化としてとらえることに成功した。
Ca2+
Intensity
Intensity
395
395
Non
fluorescence
295
195
95
-5
195
95
-5
Wavelength
630
680
730
669 nm
295
780
Wavelength
630
680
730
780
Reference: Egawa, T.; Hanaoka, K.; Koide, Y.; Ujita, S.; Takahashi, N.; Ikegaya, Y.; Matsuki, N.; Terai, T.;
Ueno, T.; Komatsu, T.; Nagano, T. J. Am. Chem. Soc. in press.
第 26 回
30
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-15*
膜タンパク質を標的とした蛍光標識阻害剤の合成
山口眞澄, 幡野明彦
芝浦工業大学 工学部 応用化学科
e-mail: [email protected]
細胞の分化や分裂などの生命現象を
調べるには、抗体染色する必要があり生
きた状態での観察が行えなかった。 近
年、機能性プローブ分子でタンパク質をラ
ベル化することにより、生きた状態で細胞
の様々な機能解析が可能になってきた。
本研究では、血糖の調整を行う加水分解
酵素であるグルコシダーゼ(小腸上皮細
胞に存在する膜タンパク質)の挙動を特
異的に、そしてリアルタイムで観察する
ことを目的とし、蛍光プローブを有した
図 1. 本研究の概要図。膜酵素としてグルコシダー
ゼを発現している細胞のみを蛍光標色可能。
グルコシダーゼ阻害剤の合成を行う(図
1)
。
ターゲット酵素のグルコシダーゼ阻害
剤であるデオキシノジリマイシンは、メ
チル α-D-グルコピラノシドを出発原料と
し、OH 基をベンジル基で保護、1 位を加
水分解して化合物 2 を合成した。化合物 2
を DMSO 酸化してエステル化合物 3 を収
率 92 % で得た。次にアンモニアの求核
反応を行い、化合物 4 を経て、直ちに
DMSO 酸化を行い化合物 5 を得た。化合 Scheme 1, a: BnCl, KOH in Dioxane at rt, b: THF, H2O at rt, 82 %. c:
物 5 はシアノ水素化ホウ素ナトリウムで Ac2O in DMSO at rt, 92 %. d: 7 M NH3 in MeOH at rt, 70 %. e: Ac2O in
DMSO at rt, 69 %. f: NaCNBH3, HCOOH in CH3CN at reflux, 53 %. g:
環化還元し、化合物 6 を得た。化合物 6
LiAlH4 in THF at reflux, 93%. h: Pd/C in MeOH at rt.
はリチウムアルミニウムハイドライドに
て還元し、化合物 7 を合成した。中圧の接触
還元にてベンジル基を脱保護し、化合物 8 の
デオキシノジリマイシンを得た (Scheme1)。
蛍光プローブと結合するリンカー部分は、
2-アミノエタノールを出発原料として 2 位の
第 2 級アミンを用いてダンシル基を導入し、
化合物 10a を収率 76%で得た。また、出発原
Scheme 2. h: Dansyl chloride, Et3N in CH2Cl at rt (a,
料の 2-アミノエタノールのほかに、炭素鎖を 76% ; b, 97% ; c, 96% )
さらに延ばした 4-アミノ-1-ブタノールや 6アミノ-1-ヘキサノールでも合成を行ったところ、化合物 10b を収率 97%、化合物 10c を収率
96%で得た。
第 26 回
31
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-16*
非対称色素クラスターによる蛍光色素の高効率消光を
目指した励起子相互作用の増大
藤井
大雅 1, 原
雄一 1, 大澤 卓矢 1, 樫田 啓 1,2, 梁
1,2
, 吉田 安子 2, 浅沼 浩之 1,2
興国
1
2
名古屋大学大学院 工学研究科
名古屋大学 予防早期医療創成センター
e-mail: [email protected]
[ 緒言]
Molecular Beacon (MB)などの
DNA 検出プローブの高感度化には、タ
ーゲット不在下でのバックグラウンド
蛍光の高効率消光が不可欠である。こ
れまで我々は、 D-threoninol を介して
DNA 鎖中へ色素を導入し、それぞれ 1
残基の蛍光色素と消光剤からなる疑似
塩基対(ヘテロ会合体)を報告した 1)。
その際、異種色素間の励起子相互作用
が効率的な消光に寄与することを明ら Scheme 1. Modified DNA synthesized in the present study.
かにした。もし 1 残基の蛍光色素に 2
残基の消光剤を会合させれば、色素間の
励起子相互作用の向上による蛍光色素の
更なる消光が期待される。
そこで本研究では、消光剤 2 残基と蛍
光色素 1 残基からなる非対称色素クラス
ターを調製し、蛍光色素の高効率消光を
目指した。まず、NMR 解析により構造決
定し、蛍光測定により非対称色素クラス
ターの消光能を評価した。
[実験・結果] 本研究で合成した色素導入
DNA の配列と構造を Scheme 1 に示す。蛍
光色素として Cy3(Y)消光剤としてニト Fig. 1. Fluorescence spectra of Y1a and Y1a/Rnb,
nm. Solution conditions were as
ロメチルレッド(R)を用いた。蛍光測定 excited at 546
follows: 20 oC, [Rnb] = 0.4 M, [Y1a] = 0.2 M,
の結果、どの二重鎖も一本鎖と比べ強く [NaCl] = 100 mM, pH 7.0 (10 mM phosphate
消光し、消光剤-蛍光色素比が 1 対 1 の buffer).
Y1a/R1b に対し 2 対 1 の Y1a/R2b の蛍光
強度は大きく減少した(Fig. 1)。一方、消光剤 3 残基以上の場合、2 対 1 と比べ消光能は向上し
なかった。従って、2 対 1 の会合体で十分消光することが分かった。
また本設計を利用した MB(MB2)を調製したところ、1 対 1(MB1)の場合と比べ消光能
は向上し、MB の高感度化に成功した。
1) Y. Hara, T. Fujii, H. Kashida, K. Sekiguchi, X. G. Liang, K. Niwa, T. Takase, Y. Yoshida, H. Asanuma,
Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5502-5506.
第 26 回
32
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-17*
構造学的知見に基づく蛍光バイオセンサーの創製と薬
剤スクリーニング
鬼追 芳行 1, 高岡 洋輔 1, 大谷 淳二 1, 有田 恭平 1, 築地 真也 2,
有吉 眞理子 1, 栃尾 豪人 1, 白川 昌宏 1, 浜地 格 1
1
2
京都大学大学院 工学研究科
長岡技術科学大学 産学融合トップランナー養成センター
e-mail: [email protected]
最近我々は、独自に開発したタンパク質化学修飾法である「リガンド指向型トシル(LDT)
化学」を用いて、炭酸脱水酵素(CA)を 19F-NMR バイオセンサー化し、更にX線結晶構造解
析によりそのセンシング機構を分子レベルで解明することに成功した。今回我々は、この構
造学的知見を基に蛍光バイオセンサーの合理的な創製を試みた。
◎
方法
最近我々は、ラベル化試薬 1 を用
いて CA を高効率かつ部位特異的に
ラベル化し、CA 阻害剤の親和性を化
学シフト変化で読み出す 19F-NMR バ
イオセンサーを構築した[1]。更に、そ
の機構を結晶構造解析により解明し
た。この知見を基に、高感度検出可
能な蛍光バイオセンサーを構築する
べく 1 と類似構造を有するラベル化
試薬 2 を設計・合成した。2 は CA と
特異的に結合するリガンド分子と、
蛍光分子を導入するためのアルデヒ
ド基とが、トシルエステル基を介し
て連結した構造である。
この 2 が CA Figure.1 Schematic of the biosensor construction strategy
に認識されると、CA の活性中心近 using LDT chemistry
傍の求核性アミノ酸残基とトシルエ
ステル基とが反応することでアルデヒド基が CA に提示される。更に、シッフ塩基形成によ
り様々な蛍光分子のオキシアミン誘導体を CA の活性中心近傍に導入することで、蛍光バイ
オセンサー化に適した色素を効率良く選別することにした(Fig.1)。
◎ 結果及び考察
まず 2 を用いて、効率良く CA の活性中心近傍を蛍光ラベル化できること、ラベル化部位
は 1 と同じであることを確認した。更に、本戦略で複数種の色素修飾 CA を用意でき、その
どれもが CA 阻害剤に対して良好な蛍光応答を示し、CA 阻害剤の検出やスクリーニングに使
用可能なバイオセンサーとして機能することが明らかとなった。
◎ 結論
X 線結晶構造解析による構造学的知見を基に、蛍光バイオセンサーを合理的に設計・構築
することに成功した。この結果は、合成分子とタンパク質によるハイブリッドセンサーの開
発研究において、重要な発展をもたらすことが期待される。
◎ 参考文献
[1] S. Tsukiji, M. Miyagawa, Y. Takaoka, T. Tamura, I. Hamachi, Nat. Chem. Biol., 5, 341-343 (2009)
第 26 回
33
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-18*
選択的タンパク質のラベル化を目指した
蛍光上昇型蛍光プローブの開発
平林
和久 1, 花岡 健二郎 1, 下西
学 2, 長野 哲雄 1
1
2
東京大学大学院 薬学系研究科
東京大学大学院 薬学系研究科 GCOE
e-mail: [email protected]
【概要】タンパク質の選択的蛍光ラベル化技術は、標的タンパク質の細胞内での局在や挙動
を直接可視化することを可能にするため、それら機能の解明に大きく寄与することができる。
一方、タンパク質の機能への影響が小さいとされるタンパク質の選択的蛍光ラベル化法とし
て、アミノ酸 10 残基程度の長さのペプチド鎖と蛍光性小分子の選択的な相互作用を利用した
手法が近年、注目されている。しかしながら、タンパク質のラベル化の前後で蛍光特性が変
化し、高い S/N 比を達成する蛍光プローブの報告は殆どなく、わずかにある報告も依然とし
て改良の余地がある。そこで本研究では、特定のアミノ酸配列を選択的に認識して結合し、
大きな蛍光上昇を示す可視光励起可能な蛍光プローブの開発を行うことを目的とした。
【方法】具体的には、可視光励起可能な 2’,7’-dichrolofluorescein を蛍光団として、His6 配列(His
tag)との選択的な相互作用が知られている Ni2+-NTA (nitrilotriacetic acid)錯体構造および、蛍光
団からの光誘起電子移動 (d-PeT)により蛍光の消光が可能であると同時に、Cys 残基の thiol 基
との反応により脱離反応を生じることが期待される 2,4-dinitrophenyl ether 構造の、2 つの部位
を分子内に組み込んだ蛍光プローブ NTA-DCFDNB-Ni2+の分子設計およびその合成を行った
(Figure 1)
。
【結果および考察】設計した蛍光プローブを実 (A)
際に合成したところほぼ無蛍光性であった。一
方、Ni2+存在下において、His tag と Cys 残基を共
に持つペプチド鎖 Ac-CysHis6Tyr-NH2 の添加を
NTA-Ni2+構造
行ったところ、これまでの His tag 認識プローブ
の中で最も大きい約 20 倍の可視光励起可能な蛍
光上昇を示した。次に開発した蛍光プローブを
2,4-Dinitrophenyl
用いて、ペプチド鎖を結合させたマイクロビー
ether 構造
ズの蛍光イメージングを行った。その結果、余
剰なプローブの洗浄操作を行うことなく、ペプ (B)
チド鎖 Ac-CysHis6Tyr-NH2 が結合したマイクロ Figure 1. (A) Chemical structure of NTA-DCFDNB
ビーズ選択的にビーズ表面の蛍光上昇を観察す -Ni2+ complex. (B) Amino acid sequence of designed
ることに成功した。さらに、組み換えタンパク peptide tag.
質を用いた実験においても、開発した蛍光プローブが His6Cys 配列融合タンパク質(EBFP)を
選択的に認識して大きな蛍光上昇を観察することに成功した。
【結論】本研究において、His6Cys 配列を選択的に認識して結合し、大きな蛍光上昇を示す蛍
光プローブ NTA-DCFDNB-Ni2+を論理的な分子設計によって開発することに成功した。本分子
設計ストラテジーは、His tag のみならず他のペプチドタグへの応用も可能であると考えている。
第 26 回
34
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-19*
細胞表面タンパク質への機能性ナノ粒子
ラベル化法の開発と応用
吉村彰真 1、水上進 1,2、森勇樹 2、吉岡芳親 2、菊地和也 1,2
1
2
大阪大学大学院 工学研究科
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター
[email protected]
細胞表面タンパク質は様々な生命現象に関わっており、その機能によって膜受容体やイオ
ンチャネル、トランスポーターなどに分類できる。これらのタンパク質はシグナル伝達や、
生物学的物質の細胞内への輸送に関わっているため、細胞表面タンパク質の研究は非常に重
要であると言える。そのための研究方法として、タンパク質ラベリングは強力な手法の 1 つ
である。我々はこれまでに変異体-ラクタマーゼ (BL-tag) をタグとして、様々な色素やスイ
ッチ機構を有する蛍光性小分子のラベル化に成功している 1。
本研究では、この BL-tag テクノロジーを用いたタンパク質ラベリングシステムと機能性ナ
ノ粒子を組み合わせることを試みた。我々はそのようなナノ粒子として、蛍光性量子ドット
(QDs) と超常磁性酸化鉄 (SPIO) に着目した。QDs は蛍光性小分子と比較して蛍光強度が強く
光退色性に強い、また SPIO は MRI において優れた陰性造影能を有しているなど、ナノ粒子
は小分子よりも優れた点を多数有している。これらのナノ粒子導入のために、ビオチンラベ
ル化プローブ BHA をデザイン、合成した。BHA はビオチンとアンピシリンがリンカーを介
して結合した構造を有しており、BL-tag へのラベル化によって、標的タンパク質のビオチン
化が可能となる。ここにストレプトアビジン修飾のナノ粒子を添加することによって、容易
に標的タンパク質への導入が可能となる (Scheme 1)。
まず、HEK293T 細胞に過剰発現させた BL-tag 融合の上皮成長因子受容体 (BL-EGFR)に BHA
を介してストレプトアビジン修飾 QDs を導入し、蛍光ラベル化、および EGFR のリガンドで
ある上皮子成長因子 (EGF)の刺激による BL-EGFR の細胞内移行を検出できた。また、
BL-EGFR をコードしたプラスミドを遺伝子導入した後、異なる時間に複数種類の量子ドット
で染め分け、BL-EGFR のパルスチェイスラベリングにも成功した 2。
続いて、BHA を介してストレプトアビジン修飾の SPIO を HEK293T 細胞に過剰発現させた
BL-EGFR に導入した。そして、MRI 測定を行ったところ SPIO ラベル化細胞のペレットおよ
び分散状態での検出に成功した。
Scheme 1. Labeling mechanism of functional nanoparticles through BHA.
【参考文献】
1. S. Mizukami, S. Watanabe, Y. Hori, K. Kikuchi, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 5016-5017; S.
Watanabe, S. Mizukami, Y. Hori, K. Kikuchi, Bioconjug. Chem. 2010, 21, 2320-2326.
2. A. Yoshimura, S. Mizukami, Y. Hori, S. Watanabe, K. Kikuchi, ChemBioChem 2011, 12, 1031–1034.
第 26 回
35
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-20*
アフィニティ駆動型アシル転移反応による細胞環境で
の高速かつ部位特異的なタンパク質化学修飾法の開発
宋 智凝 1・湊 大志郎 1・王 杭祥 1・古志 洋一郎 1・野中 洋2
・清中 茂樹 1・森 泰生 1・高岡 洋輔 1・築地 真也3・浜地 格 1
1
2
京都大学大学院 工学研究科
九州大学 稲盛フロンティア研
3
長岡技科大産学融合セ
e-mail: [email protected]
以前に我々は、タンパク質に親和性のあるリガンドにアシル転移反応の有機触媒である
N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)を連結した「リガンド連結 DMAP」と、適切な反応
性を有する「アシル化剤」によって、タンパク質を部位特異的かつ効率的に化学修飾する「ア
フィニティ駆動型アシル転移反応」法を開発している(Fig.1)。今回我々は、本手法の試験管
内での改善を行い、細胞環境での膜タンパク質ラベル化とバイオセンサーへの機能化に成功
した。
・方法:
以前に開発した「アフィニティ駆
動型アシル転移反応」の効率を上げ
るべく、リガンドに複数の DMAP を連
結する戦略を考案した。
リガンド連結多価 DMAP と一連のア
シル化剤を設計合成し、試験管内で
精 製 タ ン パ ク 質 SH2 domain 、
Congerin II、FKBP12 へのラベル化反
応を観察した。また、改良した本手
法を用いて、細胞環境で細胞膜表面
の G タンパク質共役受容体(GPCR)
である Bradykinin B2 受容体 (B2R)、
細胞内在性膜タンパク質である葉酸
受容体へのラベル化を試み、B2R リガ
ンドバイオセンサーの構築にも挑戦
した。
・結果、考察及び結論
DMAP を複数連結することによって、試験管内で精製タンパク質を、特異性を落とすことな
く最大で 17.2 倍速くラベル化することに成功した。この飛躍的な効率の向上によって、細胞
環境で細胞膜タンパク質 Bradykinin B2 受容体 (B2R)、内在性膜タンパク質である葉酸受容
体の特異的な修飾を達成し、B2R リガンドを細胞膜上で蛍光検出が可能なバイオセンサーの
構築にも成功した。
・参考文献
Wang, H.; Hamachi, I. et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 12220-12228
第 26 回
36
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-21*
高速原子間力顕微鏡を用いたコンドロイチン
ポリメラーゼの一分子酵素反応の観察
大塚 雅徳 1, 森 俊明 1,2, 岡畑 恵雄 1
1
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
2
JST-さきがけ
e-mail: [email protected]
概要
酵素反応の一分子観察は、酵素の動的挙動などの新たな知見を得られることが期待
されている。本研究では高速原子間力顕微鏡(高速 AFM)を用いて、大腸菌 K4 株由来
のコンドロイチン伸長酵素(K4CP)による糖鎖伸長反応の一分子観察を行った。
方法
マイカ基板上に Mn2+を介してアクセプター基質であるコンドロイチン硫酸 C(MW:
60,000)を固定化し、高速 AFM を用いて観察した。その後 K4CP を添加し、糖鎖への
結合挙動を観察した。さらに糖ドナー基質である UDP-GlcA、UDP-GalNAc 存在下でも
同様の実験を行った。また、アクセプター基質としてヒアルロン酸、デルマタン硫酸、
ヘパリンを固定化した基板についても同様の実験を行い、比較した。
また、マイカ基板を 3–アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)水溶液に浸漬し
て APTES 修飾マイカ基板(AP-Mica)を調製し、AP-Mica 上に K4CP を物理吸着させた
のちコンドロイチンアクセプター、糖ドナー存在下で液中観察した。
結果及び考察
マイカ上に固定したコンドロイチン硫酸 C 上に K4CP が選択的に結合する様子が観察
され、糖ドナーを加えることで結合寿命が延びることが観察された。また、コンドロ
イチン硫酸 C 以外のアクセプターを固定化した基板では溶液中での実験で確かめられ
ているそれぞれの反応性に応じた結合挙動が観察された。また、AP-Mica 上に酵素を
固定して反応観察を行った結果、伸長過程のリアルタイムな観察はできなかったもの
の、図に示すようにアクセプターとして添加した糖鎖よりも遙かに長い糖鎖が酵素か
ら伸びている様子が観察できた。
Fig. Observation of polymerized Chondroitin
第 26 回
37
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-22*
ヘム獲得蛋白質 HasA のヘム結合活性に及ぼす
円順列変異導入の影響
寺田光良 1, 荘司長三 1, 小崎紳一 2,渡辺芳人 3
1
名古屋大学大学院 理学研究科
2
山口大学 農学部
3
名古屋大学 物質科学国際研究センター
e-mail: [email protected]
【概要】Heme acquisition system A(HasA)は、緑膿菌やセラチア菌等のグラム陰性菌
が鉄欠乏状態に陥ると分泌するヘム獲得タンパク質であり、そのヘムに対する結合定
数は非常に大きい(Ka = 5.3×1010 M-1)。結晶構造解析より、HasA はヒスチジンとチ
ロシンを含む上下 2 つのループによってヘムと結合している。ヘムの捕捉前後でヒス
チジンを有するループの構造が大きく変化しているため、このループがヘムの捕捉に
関与していると考えられる。また、配位子であるヒスチジンをアラニンに置換するこ
とで第 5 配位子を失った変異体が、単量体間で、補足したヘム同士のスタッキングに
よって二量化を形成した結晶構造が最近報告された。そこで本研究では、本来の N、
C 末端を適当なアミノ酸リンカーで連結し、新たな N、C 末端を任意の部位に配置す
る円順列変異法により、ヒスチジンを有するループを完全に取り除いた変異体を作製
し、その変異体のヘムの結合に対する挙動を調べた。
【方法】円順列変異法によって、ヒスチジンを有するループを完全に取り除いた緑膿
菌由来 HasA を、大腸菌を宿主として発現し、各種クロマトグラフィーにより精製し
た。精製したタンパクを濃縮,温度変化,塩濃度の変化等の処置を施し、ゲルろ過、
各種分光学的な手法を用いて測定した。
【結果と考察】ヒスチジンを有するループを完全に取り除くことで、ヘム同士のスタ
ッキングによる二量化が促進されると考えたが、そのような二量化の形成が確認でき
ず、むしろ抑制されていた。実験結果より、二量体を形成するには、ループ同士のス
ワッピング等、その存在がむしろ重要であると考えられる。今回の測定条件のように
溶液状態では二量体が安定に存在することができず、結晶条件でのみ安定に存在する
とも考えられる。
図 1 HasA のヘム結合様式とヘム結合部位
第 26 回
38
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-23*
水晶発振子を用いた膜タンパク質機能解析系の構築
矢澤 健二郎, 古澤 宏幸, 岡畑 恵雄
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
【概要】
膜タンパク質は、エネルギー変換、物質輸送、情報伝達といった生命にとって重要な機能を担い、
膜タンパク質の機能解析はその機能を制御する医薬品の合理的な設計などに有効である。こうし
た膜タンパク質の活性を観察し機能を評価するには脂質二分子膜中に存在する状態で行うのが理
想であるが、これまでの膜タンパク質の活性測定は界面活性剤を用いたミセル内やベシクルを用
いた分散系で行われており定量的かつ経時的な測定が困難である場合が多かった。以前より当研
究室では水晶発振子(QCM)を、その基板上に物質が吸着すると質量に応じて振動数が変化するこ
とを利用して分子間相互作用を重さで検出するバイオセンサーとして利用してきた。本研究では、
QCM 基板上に膜タンパク質を脂質二分子膜内に埋め込んだ界面活性剤非存在下の機能解析系を
構築した。モデル膜タンパク質として、大腸菌細胞内のジスルフィド結合導入に関与する
DsbB(DiSulfide Bond formation protein B)を用いて、リガンドである DsbA とのチオール− ジスルフ
ィド結合交換反応が起こる際の反応中間体を基板上での質量変化として検出した。
【方法】
NeutrAvidin を固定した QCM 基板上に C 末端にビオチンを提示する BCCP タグを融合した
BCCP-DsbB をアビジン-ビオチン結合で配向固定化した。大腸菌脂質と界面活性剤 DDM との混合ミ
セルを添加し DsbB の疎水性部分に吸着させた後、系内を希釈して、界面活性剤を除くことで、
DsbB を脂質二分子内に埋め込んだ QCM 基板を調製した。還元剤処理後脱塩した DsbA を添加し、
DsbB との反応の質量変化を観察した(図 1)。
図 1:QCM 基板上の脂質二分子膜に埋め込んだ膜タンパク質 DsbB の固定化
【結果及び考察】
DsbA と DsbB の反応の最初の求核攻撃に関わる DsbA の Cys30 および DsbA の解離に関わる
Cys33 の変異体を作製したところ、前者では DsbB との反応は観察されず(図 2a)、後者では結合の
みが観察された(図
2b)。DsbA(native)
を添加した場合
は、振動数減少に
続き、振動数上昇
が起こり(図 2c)、
DsbA と DsbB との
結合およびそれに
続くジスルフィド結
合交換反応を確認
できた。
図 2:QCM 基板上での DsbB と DsbA の反応評価 (50 mM citrate, 100 mM NaCl, 25 °C)
【結論】
QCM 基板上に膜
タンパク質を配向制御して脂質二分子膜に埋め込んだ解析系を構築できた。
第 26 回
39
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-24*
トライアングル型金属多核錯体の自己集積と
対アニオンによる形態制御
飯田昌也 1, 佐々木正男 1, 山村正樹 1,2, 鍋島達弥 1,2
1
2
筑波大学大学院 数理物質科学研究科
筑波大学学際物質科学研究センター(TIMS)
e-mail: [email protected]
【概要】
R
R
3+ 3X–
当研究室では、三つの saloph 部位から成るトライアング
ル型 Trisaloph 配位子を開発し 1)、Trisaloph 配位子の三つの
N
N
Zn
N2O2 部位で亜鉛イオンと、O6 部位でランタニドイオンと錯
O
O
O La O
形成したヘテロ四核錯体の合成を報告してきた 2)。ヘテロ
N Zn
Zn N
O
O
N
N
R
四核錯体は三価のカチオンであり、三つの対アニオンが隣 R
R
R
接して配位していると考えられる。今回、Trisaloph 亜鉛ラ
1: R = OC4H9
ンタンヘテロ四核錯体の対アニオンを変えることによる、
2: R = O
O
O
O
O
自己集積体の形態制御について検討を行った。
【方法】
フェニレンジアミンとジアルデヒドとの縮合反応の後、一当量のランタンと三当量
の亜鉛を錯形成させ、ヘテロ四核錯体 1 を得た。トリフラート錯体にリン酸二水素イ
オンを加え、対アニオン交換を行うことで、リン酸二水素錯体 1(H2PO4)3 を得た。同
様に、アダマンタンを末端に有するポリエーテル鎖を導入した錯体 2 を合成した。
R
O
3
H2N
R
H2N
R
+
3
N
OH
Zn(OAc)2•2H2O
LaX3•1.5H2O
OH
CHCl3/CH3OH/H2O=10:4:1
O
O
N Zn
O
R
N
R
R
Zn
3X–
N
O
La
O
3+
O
O
Zn N
N
R
R
1(OAc)3 : X = OAc (73%)
1(OTf)3 : X = OTf (67%)
1(H2PO4)3 : X = H2PO4 (50%)
2(OAc)3 : X = OAc (94%)
2(OTf)3 : X = OTf (98%)
Bu4N(H2PO4)
【結果及び考察】
親水性ホスト化合物であるシクロデキストリン(-CD)を 2 に添加することで、錯体
を含水溶媒に分散した。-CD 溶液中の 2(OAc)3 の会合体を SEM により観察したとこ
ろ、直径 120 nm の球状の会合体を形成していることがわかった。一方、2(H2PO4)3 の
会合体の SEM 観察を行ったところ、ファイバー状の形態をしていることが明らかと
なった。すなわち、クラスター金属間を架橋する対アニオンの違いによって、錯体の
自己集積体の形態が変化することがわかった。
【参考文献】
1) Tetrahedron Lett. 2001, 42, 8861.
2) a) Chem. Lett. 2006, 35, 1070. b) Chem. Eur. J. 2010, 16, 10638.
第 26 回
40
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-25*
水晶発振子による翻訳を異常に終結した
リボソームの定量解析法
日下部 峻斗 1, 高橋 俊太郎 1, 2, 岡畑 恵雄 1
1
東京工業大学大学院生命理工学研究科
2
東京工業大学生命 GCOE
e-mail: [email protected]
【緒言】
生体内では、リボソームにより忠実にペプチド合成が行われ、タンパク質が作られ
ている。しかし、タンパク質合成中にリボソームは何らかの原因で停止し、翻訳の異
常終結がしばしば起こる。本研究では、水晶発振子マイクロバランス(QCM)を用い
て翻訳を異常に終結した頻度を定量的に解析できる方法を構築した(Fig. 1)。また、
この方法を用いて一反応の翻訳成功率を評価し、翻訳反応におけるタンパク質の長さ
や構造に関しての発現制御機構を明らかにした。
【実験方法】
基板にストレプトアビジン(SAv)を固定した QCM セル内に終結因子(RF)以外の
翻訳因子と mRNA を添加し、N 末端に Strep- tavidin binding peptide を融合した様々
なタンパク質を翻訳させた。このとき、SAv とリボソーム新生ペプチド複合体との結
合による質量変化を翻訳量として評価し、さらに RF を添加することでリボソームと
ペプチドの解離による振動数変化量により最後まで正常に翻訳されたタンパク質の
翻訳成功率を求めた。
【結果と考察】
タンパク質の一例としてλファージ
protein D(pD)を用いて、翻訳されるタ
ンパク質の長さを短くしていったところ、
長さが長いほど翻訳成功率が低いことが
わかった。このことから、タンパク質の
長さ、つまり翻訳領域によって発現量が
制御されていることがわかった。また、
異なる立体構造をもつタンパク質につい
ての解析も検討したので併せて報告した 図. QCM による翻訳過程の観察と pD の翻訳成功率
い。
Figure 1. Observation of Translation in a QCM Cell.
第 26 回
41
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-26*
ビオローゲン-シトクロム c3 2 元分子系固定化電極の
調製とこれを用いた EQCM 測定
角谷
沙央梨, 深井 麻美, 朝倉 則行
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
【概要】酸化還元タンパク質シトクロム c3 は分子内に 4 つのヘムを有し、生体内にお
いて酵素ヒドロゲナーゼと電子伝達を行う。これまでの研究で、4 つのヘムの役割と
して、電子受容ヘムと電子供与ヘムが明らかになっている。本研究では、電子移動の
際のヒドロゲナーゼの動き
をより詳細に解析すること
を目的として、Fig.1 に示す
ビオローゲン‐シトクロム
c3 2 元分子系固定化電極を
調製し、高感度 EQCM(電気
化学的水晶振動子マイクロ
バランス)測定によりヒドロ Fig.1 Schematic drawing of the viologen heme I oriented cytochrome c3
ゲナーゼとの間の分子間電 dyad immobilized electrode.
子移動について調べた。
【方法】ビオローゲン-シトクロム c3 固定化電極の調製法を示す。まず、水晶振動子
金電極上にビオローゲンの単分子層を構築した。次に、固定化したビオローゲンと
FePPIX を結合させ、FePPIX を固定化した。固定化した FePPIX とヘム I を選択的に欠
損させたシトクロム c3 を電極上で再構成させ、ヘム I が電極側に位置する均一な配向
の電極を調製した。この電極を用いて EQCM 測定を行った。
【結果及び考察】EQCM 測定により、固定化したシトクロム c3 と溶液中のヒドロゲナ
ーゼとの酸化還元による電子移動複合体の形成を調べた。得られた振動数変化から、
シトクロム c3 が還元型のときには、ヘム IV から電子を供与するためヒドロゲナーゼ
が電極から遠ざかり、シトクロム c3 が酸化型のときには、ヘム I が電子を受容するた
めヒドロゲナーゼが電極に近づくことがわかった。バックグラウンドの EQCM 応答
と比較して、ヒドロゲナーゼが動いたことによる正味の振動数変化を調べた。この結
果、ヒドロゲナーゼの動きが 0.4 Hz に相当することがわかった。このヒドロゲナーゼ
の 0.4Hz 分の動きは、固定化したシトクロム c3 全分子に対する変化量である。電気化
学測定により、電極表面のシトクロム c3 の分子数が 8.1x10-13 mol cm-2 であることがわ
かっているため、固定化シトクロム c3 1 分子あたりのヒドロゲナーゼの動きは 1x10-12
Hz であることが明らかとなった。以上のことから、ビオローゲン-シトクロム c3 2 元
分子系固定化電極を用いて、ヒドロゲナーゼの挙動を振動数変化で表すことができた。
第 26 回
42
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-27
繊維状ウイルスからなるハイドロゲルの構築
澤田敏樹 1,2, 芹澤 武 2
1
2
東京大学 駒場オープンラボラトリー
東京大学 先端科学技術研究センター
e-mail: [email protected]
ウイルスがホストである細胞によって増殖される感染性の構造体であることはよ
く知られており、遺伝子である核酸と遺伝子産物であるいくつかのタンパク質といっ
た生体高分子によって構成される。そのタンパク質のサイズおよび形状、さらに官能
基の数や位置といった分子情報は、ウイルス自身のゲノム遺伝子によって厳密に規定
されている。これらのウイルスを“有機ナノ超分子組織体”として見立てれば、ハイ
ブリッドマテリアル構築のための優れたスキャフォールドとして魅力的な分子組織
体である。
我々はファージディスプレイ法において多く利用されているウイルスの一種であ
る M13 ファージをナノマテリアルとして利用することに着目した。M13 ファージは 5
nm 直径 × 1 m 長、分子量約 1600 万と極めて巨大な単一な構造をもち、遺伝子工学
的手法により表面に任意の機能性ペプチドやタンパク質を提示できる。また合成化学
的に表面修飾する手法も近年報告されており、単にスキャフォールドとして利用する
のみならず、ウイルスそのものを機能性高分子として利用し、マテリアル構築へと展
開する研究が近年始まりつつある。本研究では、タグペプチドとして用いられる HA,
FLAG, Myc ペプチドを末端に提示した M13 ファージを用い、タンパク質(抗タグ抗
体およびプロテイン A)の分子認識をトリガーとしたハイドロゲル構築を目的とした。
ファージ、抗体およびプロテイン A 固定化金ナノ粒子(PA-AuNPs)を所定の濃度
で緩衝液中で混合した。混合した溶液は特定の条件下においてハイドロゲル化した
(Figure)。ハイドロゲルの物性は押込み破断特性評価により定量的に評価した。そ
の結果、ハイドロゲル化にはファージ、
抗体および PA-AuNPs の濃度比が重要
であった。また、ハイドロゲルの強度
はタグペプチドと抗体との相互作用に
強く依存することも見出した。すなわ
ち、繊維状ウイルスがナノマテリアル
の構成要素として有用であり、ウイル
ス末端の分子認識がマテリアルのマク
ロな構造特性に影響を及ぼすことを明
らかにした。透過型電子顕微鏡による Figure A schematic illustration of hydrogels
ハイドロゲルのナノ構造観察も行って composed of tag-peptide displaying M13
phages, antibodies, and protein A conjugated
おり、併せて報告する。
AuNPs.
第 26 回
43
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-28*
水晶発振子を用いたタンパク質合成速度の評価
健太郎 1, 高橋 俊太郎 1,2, 岡畑 恵雄 1
辻
1
2
東工大院生命理工
東工大生命 GCOE
e-mail: [email protected]
【緒言】 タンパク質生合成は、開始コドンから終止コドンまでのオープンリーディングフ
レームをリボソームが翻訳する過程である。この翻訳速度は、近年鎖長やレアコドンといっ
た mRNA の配列によって、翻訳速度に影響を与えていることが示唆されている。本研究では、
mRNA の配列に依存した翻訳速度、翻訳量の評価を目的とし、水晶発振子マイクロバランス
法 (QCM)を用いて翻訳の開始、伸長過程の経時観察を行った。
【実験方法】 Streptavidin に特異的に結合する SBP タグの翻訳領域上流に、T7-tag を導入し、
それと翻訳を停止させる SecM 配列を連結した mRNA を作成した(Fig. 1A)
。この mRNA を
翻訳するとリボソームから SBP タグが提示され、
複合体が Streptavidin と結合できる
(Fig. 1B)。
この mRNA を用い、Streptavidin を固定した QCM 基板上で無細胞タンパク質合成を行った。
伸長因子 EF-G を添加することで、翻訳を開始させ、その際の振動数減少(質量増加)の様子
からタンパク質合成過程を追跡した。
【結果と考察】 EF-G 添加後しばらくすると合成された SBP を提示したリボソームと
Streptavidin が結合し、振動数が減少した(Fig. 1C)
。このとき、SBP 上流の配列を、T7-tag の
個数を変えて比較すると、T7-tag が長くなるにつれて、振動数変化開始までのタイムラグが
延びた。リボソームが mRNA を翻訳する過程において、mRNA の長さの分だけ翻訳に時間が
かかっており、この時間変化を観察することができた。
Figure 1. (A) The sequence of the translated mRNA. (B) A schematic illustration of the
step-wise translational process in a QCM cell. (C) Typical frequency changes by the translation
in a QCM cell in response to the addition of mRNAs coding SBP.
第 26 回
44
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-29*
電気化学測定を用いたシトクロム c3 の電子移動指向性
深井 麻美 1, 田木 正樹 1, 朝倉 則行 2
1
2
東京工業大学大学院 工学研究科
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
【概要】シトクロム c3 は分子内に 4 つのヘムを持つ酸化還元タンパク質である。これ
までの当研究室の研究からこれら 4 つのヘムのうち、ヘム I が電子の入口となり、ヘ
ム IV が出口となることが示唆されている。したがって、シトクロム c3 分子内の電子
移動には指向性がある。本研究では、シトクロム c3 の電子移動反応の指向性を明らか
にすることを目的とし、シトクロム c3 固定化電極を用いた高感度 EQCM(電気化学
的水晶振動子マイクロバランス)法と極小プローブ電極による電流特性を測定した。
【方法】シトクロム c3 固定化電極には、ヘム I が電極側に配向した 2 種類の電極を調
製した。Fig.1 に調製した 2 種類のシトクロム c3 固定化電極の概念図を示す。Fig.1(a)
の C4 電極は、リンカーに 1,4-ジアミノブタンを用 (a)
い、電極と FePPIX との間の距離が長い。Fig.1(b)
のベンゼンジアミン電極では、FePPIX 固定化電極
の調製に 1,4-ベンゼンチオールを用いることで、リ
FePPIX
ンカーの折れ曲がりを防いだ。次に、それぞれの
電極上に固定化した FePPIX とヘム I 欠損シトクロ
ム c3 を電極上で再構成させ、ヘム I が電極側に位
(b)
置する配向でシトクロム c3 を電極上に固定化した。
この 2 種類の電極を用いて EQCM 測定を行った。
【結果及び考察】酸化還元に伴う電極上のシトク
FePPIX
ロム c3 の挙動を高感度 EQCM 法により測定した。
Fig. 2 に、ベンゼンジアミン電極において電位ステ
ップと同時測定した振動数変化を示す。電位は-0.3 Fig.1 Schematic representation of
V と-0.6 V の間でステップさせた。振動数変化を見 (a) C4 electrode, and (b) benzene
ると、酸化、還元反応のどちらにおいても電位ス diamine electrode.
テップ後、直ちに振動数変化は一定値になってい
Reduction Oxidation Reduction
る。したがって、ベンゼンジアミン電極ではシト
-300 mV
-600 mV
-600 mV
クロム c3 の酸化還元に伴い電極上のリンカーは折
れ曲がらないことが分かった。同様の手法で測定
0.5
した C4 電極の EQCM 応答では、電位ステップ後
0.0
10 s が経過しても振動数変化は一定値にならず、酸
化還元に伴い電極上のリンカーが折れ曲がること
-0.5
が分かった。さらに、これらの電極を用いて電子
0
10
20
移動指向性の測定を行なった。極小プローブ電極
Time / s
上に固定化した酸化還元メディエーターをシトク
Fig.2 EQCM response of benzene
ロム c3 固定化電極に接近させ、その電流特性から
diamine electrode.
指向性を明らかにした。
heme IV
heme I
heme IV
F / Hz
Potential
heme I
第 26 回
45
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-30*
三脚型配位子を用いたらせん型錯体の構築
奥原昂 1, 山村正樹 1, 2, 鍋島達弥 1, 2
1
2
筑波大学大学院 数理物質科学研究科
筑波大学学際物質科学研究センター(TIMS)
e-mail: [email protected]
【概要】
金属イオンなどの外部刺激によりゲスト認識能を制御できるアロステリックホスト
coordination unit
の合成は、超分子化学において非常に興味深いテーマである。
そこで本研究では、ピボットユニット近傍に配位子部位であ
O
R
N
N
R
O
II N
るビピリジンを、各鎖の末端に分子認識部位を導入した新規
Fe
N
N N
O
な三脚型配位子 L を設計した。L はそのビピリジン部位が
R
[L•Fe]2+
Fe(II)と正八面体型錯体を形成することで、3 つの分子認識部
recognition unit
位が集積した C3 対称のらせん型構造をとると予想される。
【方法】
トリス(2-ヒドロキシフェニル)メタンを出発原料に、トリスビピリジン L1 (R = Me) お
よび L2 (R = Br) を合成した。さらに L2 の鈴木-宮浦カップリング反応を用いて様々な
官能基を導入した L3-L5 を合成した。この三脚型配位子の錯形成挙動について検討す
るため、L1 と 2 価の鉄との紫外可視吸収スペクトルおよび 1H NMR スペクトルを用い
た滴定実験、ESI-MS スペクトル測定を行なった。
【結果及び考察】
紫外可視吸収スペクトル滴定において鉄(II)-ビピリジン正八面体型錯体に特徴的な
MLCT 吸収である 518 nm の吸収が増加していく様子が確認された。また ESI-MS スペ
クトルでは m/z 447.10 に[L1•Fe]2+の分子イオンピークのみが観測され、同位体パター
ンが一致したことからも、定量的に 1:1 錯体を与えることがわかった。1H NMR スペ
クトルにおいて、塩化鉄(II)の添加に伴いベンジル位のプロトンがジアステレオトピ
ックに観測されたことから、錯形成により剛直な C3 対称のらせん型構造をとってい
ることが示唆された。
O
O
N
N
O
N
R
N
N
2+
R
N
O
O
FeCl2•4H2O
NaPF6
CHCl3, CH3OH
CHCl3, CH3CN, H2O
O
R
N
N
N FeII N
N N
R
R
2 PF6-
R
[L1•Fe]2+
L1 : R = Me
L3 : R = 4-Me2NC6H4
L4 : R = 4-MeO2CC6H4
L5 : R = 1-Nap
96%
第 26 回
46
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-31*
EQCM 法による電極固定化シトクロム c の
酸化還元挙動測定
小林弘奈, 小林永佑, 朝倉則行
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
【概要】
本研究では,電極上での酸化還元分子の挙動を測定することを目的とし,高感度 EQCM を用
いた測定法の開発を目指した。酸化還元分子のモデルとしてシトクロム c を用いて,電極表
面に構築した長鎖アルキルにシトクロム c を結合させた。この電極上での酸化還元に伴うシ
トクロム c の挙動を高感度 EQCM 測定を利用して調べた。
【方法】
(b)
Fig.1 に示す 2 種類のシトク (a)
⊿F / Hz
⊿F / Hz
ロム c 固定化電極を調製した。
S
S
N
COO- +
+
S
Fig.1(a)は,長鎖アルキルを高
COOS
NH
S
C
COO- +
密度に構築し,シトクロム c を
O
S
S
N
COO- +Cyt c
Cyt c
静電的に結合させており,シト
Fig.1 Immobilization of cytochrome c on electrode
クロム c が電極に近づくスペー
(a) via electrostatic interaction and (b) via covalent bond.
スが無い。Fig.1(b)は,長鎖ア
ルキル鎖の修飾密度を下げ,シトクロム c を共有結合させている。その結果シトクロム c が
電極に近づくスペースを有している。
これらの電極を用いて酸化還元の際の振動数変化を EQCM 測定し,シトクロム c の挙動を調
べた。
【結果及び考察】
(a)
(b)
100 mV (5 s)
150 mV (5 s)
100 mV
150 mV
Fig.1(a) の 電 極 の EQCM
-300 mV
-100 mV
測定の結果を Fig.2(a)に示
0.10
す。電位を-100 mV にする
0.20
0.05
とシトクロムcは還元型,
0.00
0.15
-0.05
電位を 100 mV にするとシト
0.10
-0.10
クロムcは酸化型になって
0.05
-0.15
いる。QCM 応答をみると,
-0.20
0
5
10
0
5
10
Time / s
Time / s
シトクロムcが還元型の場
Fig.2 Potential step EQCM response of cytochrome c immobilized
合と酸化型の場合の振動数
electrode (a) via electrostatic interaction and (b) via covalent bond.
の差がほとんど無く一定で
ある。従って,シトクロムcはほとんど動いていないことがわかった。
Fig.1(b)の電極の EQCM 測定の結果を Fig.2(b)に示す。電位を-300 mV にするとシトクロ
ムcは還元型,電位を 150 mV にするとシトクロムcは酸化型になっている。QCM 応答をみる
と,シトクロムcを還元型にした場合,振動数はゆっくり上昇し一定値になっていることか
ら、シトクロムcが遠ざかっていることがわかった。また,シトクロムcを酸化型にした場
合,振動数はゆっくり減少し一定値となっていることから、シトクロムcは電極に近づいて
いることがわかった。
以上のことから,シトクロムcが電極界面に接近したり離れたりする動きを EQCM 測定によ
り調べることができた。
第 26 回
47
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-32*
大腸菌タンパク質膜透過における輸送経路の経時観察
○小泉 翔平・古澤 宏幸・岡畑 恵雄
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
[概要]
大腸菌の分泌タンパク質輸送では、細胞質で合成されたタンパク質を細胞膜を透過
してペリプラズムへ運ぶ Sec 系と呼ばれるシステムが存在する。Sec 系では輸送する
タンパク質の選別が N 末端に存在するシグナル配列を認識することで行われ、シャペ
ロン SecB や膜透過駆動因子 SecA、透過孔を有する膜タンパク質 SecYE の因子が関わ
っている。タンパク質輸送は合成された基質タンパク質が (1) SecA および SecB によ
って SecYE 上に輸送される過程と (2) SecA と共に SecYE に結合した基質タンパク質
が SecA の ATP 加水分解反応に伴って SecYE を通って膜の反対側に透過される過程と
に分けられる。本研究では、これら二つの段階を経るタンパク質の膜透過過程につい
て、経時的に観察することを目的とした。
[方法]
水晶発振子基板上に膜タンパク質 SecYE を脂質膜に埋め込まれた状態で固定化し、
SecYE への各因子による基質タンパク質 proOmpA の輸送過程を観察した。その後、
ATP を加えることで SecA による SecYE を介したタンパク質の膜透過反応について観
察を行った。
[結果及び考察]
SecA、SecB、proOmpA を混合した溶液を SecYE 上へ添加したとき、結合が観察さ
れ、SecA と proOmpA のみでも同様であった。一方、proOmpA がない場合や、SecA
添加後に proOmpA を添加した場合には結合は見られなかった。このことから、SecYE
への輸送は SecA と基質のみで行われていることが示唆された。その後 ATP を添加し
たところ、SecA の ATP 加水分解による SecYE を介した膜透過反応が生じる過程も観
察することができた。
図
水晶発振子基板上の SecYE への基質輸送過程の観察
第 26 回
48
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-33*
水晶発振子-アドミッタンス法(QCM-A)を用いた高分
子ゲル薄膜の物性評価
山下明宏, 古澤宏幸, 岡畑恵雄
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
e-mail: [email protected]
[概要]
生体内には多くのゲルが存在する。生体の表面にもゲルが存在し、微生物や赤血球の表面
に糖鎖が多数存在するのは表面糖鎖ゲルが流体抵抗低減に関与しているためと考えられてい
る。生体に限らず界面の物性はマクロ物性(摩擦、接着、吸着など)に影響を与えることか
ら、界面のゲル物性を調べることは重要である。水晶発振子は特定の周波数でずり振動する
基板であり、水晶発振子をネットワークアナライザーに接続してアドミッタンス解析を行う
と、その振動物性をエネルギー散逸値(D 値)として評価することができる(QCM-A 法)。
特に水溶液中で発振させた場合は、水晶発振子の D 値はその基板に付着した物質及び、その
溶液との相互作用における表面物性を直接反映するものと考えられる。
本研究では、水晶発振子基板表面に種々の高分子ゲルを固定化したときのゲル物性を D 値
で評価することを試みた。また異なる周波数からそれぞれ得られる D 値を用いて、貯蔵弾性
率 Gʼと損失弾性率 G”を算出し、物性の違いを議論した。
[方法]
装置の評価のために一般的なソルトマテリアルであ
るポリジメチルシロキサン(PDMS)を QCM の金基
板上にスピンコートで薄膜を形成し、そのときの
27MHz の振動数変化及びその 3 倍波である 81 MHz
の振動数変化の測定を行った。また、PDMS の架橋度
を変化させ、そのときの G’、G”を算出を物性の測定
を行った。
2
1.6
1.4
弾性率 [MPa]
1.5
1.2
G'
1
1
0.8
0.6
G"
0.5
tanδ
tanδ
[結果と考察]
図 2 に架橋度を変えた PDMS の G’及び G”を示した。
架橋度を上げると、貯蔵弾性率 G’が上昇しているこ
とがわかった。大きな PDMS ゲルを手で圧縮した場
合においても固くなっていくことが確認できたので、
物性評価できていることがわかった。QCM-A 法を用
いると、金基板上の物質の物性を測定できることから、
様々な生体分子の水溶性ゲルの弾性率の測定に応用
できると期待できる。
図 1 QCM-A の装置
0.4
0.2
0
非架橋
20:1
15:1
10:1
0
図 2 異なる架橋度の PDMS の貯蔵弾性
率 G’及び損失弾性率 G”.G” / G’ = tanδ .
比は PDMS と架橋剤の体積比を表す
第 26 回
49
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-34
エンプラ結合性ペプチドを用いた表面の機能化
伊達 隆明, 芹澤
武
東京大学 先端科学技術研究センター
e-mail: [email protected]
【緒言】近年、人工マテリアルと生体との界面を構築するためにペプチドの特異的な
相互作用を利用する方法が注目されている。当研究室においてもすでに高分子材料に
対して特異的に結合するペプチドを数多く取得している 1)。これらのペプチドを高分
子表面に濃密に安定吸着させることができれば、貴金属や酸化物表面の自己組織化単
分子膜と同様に、高分子表面の簡便な修飾法として期待できる。中でもエンジニアリ
ン グ プ ラ ス チ ッ ク の 一 種 で あ る ポ リ エ ー テ ル イ ミ ド (PEI) 結 合 性 ペ プ チ ド
(p1:TGADLNT) は、PEI に対して高い結合定数 (5.6 × 108 M-1) を示すことを明らかにし
た 2)。本研究では、p1 を化学修飾することにより表面修飾剤として設計し、PEI 表面
上でのタンパク質の固定化と非特異吸着の抑制を目指した。
【実験】スピンコート法により金基板上に PEI (Figure (a), Ultem 1000) フィルムを調製
した。PEI フィルムに対するペプチド、タンパク質、DNA の結合 (または吸着) は表面
プラズモン共鳴法により観察した。p1 の C 末端をビオチン化し (p1-B)、PEI 表面に固
定化後、ストレプトアビジン (SAv) の結合量を定量した。また、p1 の C 末端にタンパ
ク質低吸着性のペプチド (EKEKEKE) 3) を導入し (p1-EK)、PEI 表面に固定化後、牛血
清アルブミン (BSA) の吸着量を定量した (Figure (b))。
【結果】PEI フィルムに予
め固定化した p1-B を介し (a)
て SAv を固定化することが
できた。効率よく SAv を固
定化するためには、適切な
(b)
ペプチドの固定化密度を設
p1-B
p1-EK
定することが重要であるこ
Biotin
p1
p1 EKEKEKE
とが分かった。さらにペプ
BSA
チドを介して固定化した
Streptavidin
DNA
SAv は、その後の DNA の固
定化やハイブリダイゼーシ
ョンなどに利用できる可能
PEI
PEI
PEI
性を示した。また、p1-EK
を予め PEI 表面に濃密に固 Figure (a) A chemical structures of PEI (Ultem 1000). (b)
定化することで BSA の吸 Schematic illustrations of surface modification of PEI films using
着を抑制できた。すなわち、 p1-B (left) and p1-EK (right)
p1 が PEI 表面上で様々な機能を導入するための表面修飾剤として良好に機能するこ
とを明らかにした。
1) Serizawa, T.; Matsuno, H.; Sawada, T. J. Mater. Chem. 2011, 21, 10252. (Review).
2) Date, T.; Sekine, J.; Matsuno, H.; Serizawa, T. ACS Appl. Mater. Interfaces, 2010, 3, 351.
3) Chen, S. F.; Cao, Z. Q.; Jiang, S. Y. Biomaterials 2009, 30, 5892.
第 26 回
50
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-35*
フォースカーブ測定を用いたグリコーゲンホスホリラ
ーゼ b による糖鎖伸長反応の解析
金子 卓史 1, 森 俊明 1,2, 岡畑惠雄 1
1
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
2
JST-さきがけ
e-mail: [email protected]
【緒言】 AFM(Atomic Force Microscopy, 原子間力顕微鏡)は先端を分子レベルまで尖らせた細
い探針(プローブ)を用い、試料表面との相互作用力を認識してイメージングする走査型プ
ローブ顕微鏡の一つである。また、試料表面とプローブ間に生じた力とその位置をプロット
する事でフォースカーブを描く事もできる。AFM が検出できる力のスケールは 10-104pN のオ
ーダーであり、基板-プローブ間距離も数 nm の精度で検出可能である。さらに常温、大気圧
条件で水中における測定が可能なため、一分子レベルの生体分子間相互作用力の検出に応用
されている。本研究では
CH OH
CH OH
CH OH
CH OH
Phosphorolysis
AFM のこの能力を活か
O
O
O
O
O
HO P OH +
+
OH
OH
OH
OH
OH
OH
し、フォースカーブ測定
O
O
H
OH
OH
OH
OH
OH n-1 Polymerization
OH n-1
OH
に よ っ て Glycogen
(α-1,4-D-glucosyl)n
(α-1,4-D-glucosyl)n-1
G1P
Pi
phosphorylase b (GPb
Scheme.1 Reversible reaction catalyed by GPb.
from rabbit muscle)の 17
mer オリゴアミロースに対する結合、加リン酸分解反応の逆反応である伸長反応を観察した。
【実験】マイカ基板、及び Si3N4 製カンチレバーに対して APTES (3-aminopropyltriethoxysilane)
を用いて蒸気法によってアミン修飾した。さらに、アミンカップリング法により、リンカー
として 8 分岐の PEG 鎖を固定化した。その後、マイカ基板には引き続きアミンカップリング
法で GPb を固定化し、一方カンチレバーにはオキシルアミンを修飾後、17 mer オリゴアミロ
ースを固定化した。修飾後の基板、探針を用いてフォースカーブ測定を行い、酵素−基質間の
特異的相互作用を観察した。さら
にその後、1 mM AMP(活性化剤)、
30 mM G1P(Glucose-1-phosphate, モ
ノマー)を添加して伸長を観察し
た。
【結果・考察】 酵素、糖鎖、リ
ンカーの長さから、特異的相互作
用は 45-50 nm 前後に検出されたこ
とを確認した。続いて AMP、G1P
Fig.1 Schematic of Force curve (left).
を添加した所、検出された力のピ
Elongation of sugar chain due to injection of effectors
ークのシフトが確認された。この
2
2
2
2
O
O P OH
OH
ことは糖鎖の伸長を意味し、kcat は~ 0.2 s-1 (5 nm / 72 s)と見積もられた。これは、以前当研究
室で得た多分子系による結果、kcat ~ 9 s-1 と比較して非常に小さい。現在、AFM で得られた値
が酵素固定化の影響を受けているかどうか確認するため、QCM 法によって検討しているとこ
ろである。
第 26 回
51
生体機能関連化学
若手フォーラム
P-36*
低酸素環境を標的とする
近赤外蛍光プローブの開発とその応用
朴 文 1, 花岡 健二郎 1, 清瀬 一貴 1,
西松 寛明 2, 平田 恭信 2, 長野 哲雄 1
1
東京大学大学院 薬学系研究科
2
東京大学医学部付属病院
e-mail: [email protected]
生体内における異常な低酸素状態はがんや梗塞をはじめとする様々な疾患に関与
している事が報告されており、そのため、それら可視化は臨床医療のみならず基礎生
命科学研究においても非常に重要である。
我々はこれまでに、低酸素環境下におけるアゾ基の還元的開裂反応に着目し、アゾ
基を有する近赤外消光団である BHQ-3 を利用した低酸素環境検出蛍光プローブの開
発に成功している。その分子設計としては、常酸素環境下では消光団により蛍光団の
蛍光が消光されることでプローブとしては無蛍光性であるのに対し、低酸素環境下に
おいては消光団のアゾ基が還元的開裂を受けて、プローブが蛍光を発する分子デザイ
ンになっている。本研究においては、動物個体への応用を考え、その高い光透過性お
よび低い自家蛍光からさらに近赤外領域に吸収・蛍光波長を有するプローブのデザ
イン・合成を行った。
具体的には、消光団としては BHQ-3 を、蛍光団としては本研究室で開発されたロ
ーダミン系近赤外蛍光色素および Cy5.5 を用いた。本プローブに利用したこれらの蛍
光色素は最大吸収・蛍光波長を近赤外領域である 700 nm 付近に有し、動物個体での
使用に適したプローブである。開発したプローブは、in vitro や細胞実験において、低
酸素環境特異的に蛍光の上昇を示し、また in vivo にもおいて体外からも肝臓や腎臓の
虚血を高感度に捉えることに成功した。また、用いる蛍光団によってもプローブの体
内動態が大きく異なることを見出した。今後は、本プローブを更に構造展開すること
で、腫瘍や脳虚血など病態における低酸素環境の可視化を目指す。
第 26 回
52
生体機能関連化学
若手フォーラム
第 26 回生体機能関連化学シンポジウム若手フォーラム世話人
高橋 俊太郎
花岡 健二郎
山村 正樹
(東京工業大学大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻)
(東京大学大学院薬学系研究科)
(筑波大学大学院数理物質科学研究科)
第 26 回生体機能関連化学シンポジウム若手フォーラム講演要旨集
2011 年
9 月 11 日
発行
53
Fly UP