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第178回 葛飾高砂会「フィンランドの医療事情

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第178回 葛飾高砂会「フィンランドの医療事情
高砂報 256 号
平成 26 年 7 月 22 日
第 178 回
葛飾高砂会
編集担当:斎藤杏子管理栄養士・加藤則子管理栄養士・加藤光敏院長
テーマ:フィンランドの医療事情
平成 26 年 7 月 22 日(火)午後 12 時半から同 14 時半まで、クリニック地下集会室にて、多数参
加のもと 7 月定例患者会が開かれました。
(1)フィンランドから学んだ予防医学と糖尿病
慈恵医大晴海トリトンクリニック
加藤秀一先生
~院長より はじめに~
慈恵医大の後輩にあたる加藤先生は、優秀の秀と一番を兼ね備えた、元気な先生です。今日は留
学先であったフィンランドの医療福祉から、予防医学のお話を伺いましょう。
1.フィンランドと
はどんな国か
私は 2002 年から
3 年間、留学してい
ました。とても自然
が豊かで、オーロラ
が 見 え る こ と で有
名です。ムーミンや
ク リ ス マ ス タ ウン
など、観光地もたく
さんあります。実は
フ ィ ン ラ ン ド 人は
と て も 合 理 的 な国
民です。1939~1940 年の冬戦争では、敵軍が寒さをしのぐテントと料理を作る車両を最優先に攻
撃する作戦で、大国ソ連軍と互角に戦いました。
フィンランドは1型糖尿病が多い国といわれています。1970 年以降での標準化死亡比(SMR:病
のある人がない人に比べどれくらい死亡するリスクが高いかを示す数値)は、フィンランドの 1
型糖尿病は 310、日本の 690 よりずっと低い良い値でした。その後、日本もかなり治療環境が整い、
フィンランドに近づく低い値が出ています。
2.糖尿病治療の質の格差は?
一回の診療時間の違いを見てみましょう。日本の忙しい病院では3分診療ですが、フィンランド
では24分と出ていますね。また、飛行機事故も少なく、100 万飛行回数中どのくらい大事故があ
るかという指標が出ています。日本航空が 1.36 であるのに対し、フィンエアは 0.0 と、ほぼ大事
故を起こしていないということです。これは、『当たり前のことを当たり前に実行する国民性、少
しでも整備などに疑
念があれば、それが
払拭されるまで飛行
機を飛ばさない』と
いう、徹底した仕事
ぶりだからです。
タンペレ糖尿病セ
ンターという教育施
設があります。26 室、
最大で 52 人の患者
さんとその家族が入院できます。家族と一緒、すごいですね。日本にもこういう施設があると良い
んですけどね。常勤医師は2人しかいません。宿直スタッフがいて何かあれば対応します。看護師
や管理栄養士などのスタッフに権限が委譲されています。レジャーインストラクターや教育プラン
ナーもいます。教育入院の期
間は 1~2 週間です。
センターには大きなキッ
チンスタジオが用意されて
いて、患者さんと家族が糖尿
病の治療食の作り方を実習
できます。日本ではなかなか
クリニック内にキッチンを
作る事が許可されていない
のが実情ですね。フィンラン
ドのサウナ・プールも完備さ
れ、トレーニングマシーンの
置かれた運動療法室、フット
ケアも重要視されています。
食事療法は、パンなどカー
ボカウントを学び、量や種類、
おかずも自分で選んで取る
ビュッフェ方式です。日本の食事指導のような最初から正確に狙いを定めた細かな指導でなく、誘
導ミサイルのように指針だけ最初に示し、あとは頻回に軌道修正する指導法で成果をあげています。
フィンランドはランセット誌 2011 年の調査で 193 ヶ国中、死産率が最も低く、英国・フランス・
ニュージーランドよりも低いのです。一方で手厚い出産支援策にもかかわらず、少子化が進んでい
ます。重税が少子化の原因の一つと考えられます。
高負担高福祉で公的医療を受ける際の自己負担額も少なく、医療訴訟がほとんどありません。し
かし一般消費税は 22%、高所得者の所得税は約 50%に達し、さらに他の税が加わります。公的医療
では 1 型糖尿病は 2 ヵ月毎の受診、2 型糖尿病は 4 ヵ月毎の受診と、日本より診察間隔が開いてい
ます。もっと利便性が高い自費診療もありますが、医師の診察は 20 分で 8000 円ぐらいです。(コ
メディカルならば 30 分で 4200 円ぐらい)
新規に医療機関を受診しようとしても、まずトリアージ係に緊急性があるかないか判断され、緊
急性が無ければ 3 ヵ月後の予約になったりします。
予防医学という言葉からは…防ぐだけの受け身で消極的な印象を受けますが、予防医学は病気に
なる前に、機先を制して、その病気の根源を治療してしまう、攻めの医学です。
予防医学に勝る治療医学はありません。食事・運動療法をがんばって下さい。そして、マルチプ
ロフェッショナルでいきましょう。コメディカルを最大限活用して、分からないことは聞き、みん
なが健康になって頂ければいいですね。
院長感想: ほんとに日本は規制が厳しい国ですよね。良いことをやろうという人の足を引っ張る。
フィンランドは人口が少なく、小さな集落に人が点在しているから、医者がいない場所もあるから、
合理的に予防に努力する国なんでしょうね。
フィンランドは、冬になると日照時間が4時間しか無いのですが、精神的なことはどうでしょう。
加藤秀一先生: 実は自殺が多いのです。日照と自殺の関係はありますが、他にも理由があります。
福祉がしっかりしているから、独居でも生活できる、生活保護の人が多く、生き甲斐がない。孤独
な人が多いのではないかと思います。福祉が発達しすぎているのも、またデメリットでもあるかも
しれないですね。例えば発展途上国では多額の税金を払わず(払えず)社会福祉が発達していなく
ても、高齢者は大勢の子孫に囲まれています。子孫からの仕送りが老後の年金であり、子孫が福祉
の担い手でもあります。大勢の子孫に囲まれていたら自殺は少ないでしょう。日本は、さらなる少
子化のリスクをおかしてでも今後も税金を増やし、福祉の充実を目指すのか、難しい問題だと思い
ます。
(以下先生との Q&A)
Q: 運動することによってストレス発散ができるといいですね。
A: フィンランドは秋にスポーツの日があり、仕事は休み。1日レクリエーションをし、日を浴び
外で運動しようという日がありましたよ。
Q: 音楽はどうですか?
A: フィンランドはシベリウス音楽院が有名ですね。カンテレの音楽も有名です。関心が内側に向
いているような気がします。うつになっていく人の傾向として、孤独感とともに心の関心領域が小
さくなっていく傾向があります。コップ一杯の狭い小さな関心領域ではなく、バスタブのように広
く大きく関心を持つことです。バスタブたたいても、水がこぼれないですよね、大勢の人とつなが
りを持って関心領域を広げましょう。些細なことでも、そこだけに気持ちを集中して心配するのは
避けるべきです。
教会は人の集まるところのコミュニティとして機能しています。自殺してしまう人は、そういう
所にも来なくなってしまいます。
Q: もし、加藤秀一先生が病気になったらフィンランドで治療しますか、日本ですか?
A: 妻はフィンランドと日本、両方で出産しましたが、フィンランドがいいそうです。ヘルシンキ
大学附属病院でも通常の分娩は助産婦が全面的に担当します。医師からコメディカルへと権限が委
譲されています。医師はハイリスク出産を担当します。緊急事態や重症例に対応するための予備的
な能力が確保されています。ただし産後数日で退院しなければなりません。一般には 2~3 泊です
ね。
事務長: 私は、安心して医療を受けられる国の方が発展している気がします。
Q: フィンランドの糖尿病教育で、果物はどうですか?
A: 規定の範囲内で食べていいとされています。アメリカでは、ケーキは食べるな、果物はいい。
ステーキはだめだ、すき焼きがいい、という具合です。日本では、すき焼きは肉の脂を野菜が吸っ
ているからだめだと思いますけどね。ただ、生の果物や野菜は高価なので、日本では病院食で多種
多様な生の果物や野菜が提供されているのを見て、ヨーロッパ人は驚きます。あちらの病院食とし
て生で提供されるのはリンゴ、バナナ、トマト、キュウリくらいです。
さかえを読む会
会長
花島實・事務長
加藤則子
~会長よりはじめに~
前回は、さかえの中で皆さんに読んでほしい項がたくさんあったので、盛りだくさんに院長がお
話ししました。いつもと違う流れに戸惑った方が多いとのことで、この、さかえを読む会の流れを
一度整理しましょう。さかえを読む会というのは、3年前に始まりました。もっとこの患者会を盛
り上げようということで、さかえを使って話し合っていたのが、だんだんこんなに盛大になってき
ました。今後も皆さんに盛り上げてもらいながら、楽しく読んでいきたいので宜しくお願いします。
1.さかえ8月号より
果物は食べて良いの?(加藤則子管理栄養士記事)
会長: 事務長がさかえの執筆をしたので、その項から読んでいきましょう。
事務長: 皆さんの中に、果物は食べてはいけないと思っている人はいませんか?果物の何がいけ
ないといわれるのでしょうか。
A さん: 食べ過ぎてしまうこと
B さん: 糖があるから。
栄養相談でお話を伺った人達に、果物を食べる習慣があるかを聞いたところ、男性や単身者の多
くは食べていませんでした。理由は、皮をむいたりするのがめんどう。値段が高い。果物は無くて
も食事がすむ。新製品のアイスやケーキなどの菓子をつい買ってしまう。買って帰るのは重たい。
生ゴミが出る。そんな声が聞こえてきました。
果物は、季節性があり、贈答品であったり、しかも日持ちがしないものも多く、時として食べ過
ぎてしまう方がいらっしゃいます。間食で食べて、次の食前血糖値が上がりすぎる人もいます。適
度に適時食べればビタミンも食物繊維も摂れます。国民健康・栄養調査調査ではビタミン C の摂取
量と果物の摂取量の年齢・性別グラフは同じように動いていました。つまり、果物をよく食べる高
齢女性はビタミン C も充分に摂取できていました。そこで食べ過ぎない食べ方として、料理に使う
ことを提案しました。
P17 人間ドック学会の現在の基準より緩い新たな基準値 結果を読み解く
人間ドック学会は多数のデータですが、やや若めの健常人に近い方が多く含まれているデータで
の結果ですから、そのような偏ったデータで「将来の重大疾患を抑制できる基準値」として理解さ
れるような発表は極めて危険です。世界中こんな基準は一つもありません。マスコミの誤報と読め
ますが、そのように誤ってとれるように発表した責任は重いと思われます。
血圧 いままでは 130/85mmHg で高いといわれていたのに、そうではなく 147/94mmHg まで正常とい
うことでしょうか?(患者)
加藤秀一先生: 人間ドッ
ク学会の認定医でもあるの
で、裏話もご紹介しましょ
う。4 月に健康の基準を広げ
ます、と突然ニュースに出
ました。私はびっくりして、
人間ドック学会の理事に問
い合わせたら『私も知らさ
れていなかった』とのこと
です。後日、日本人間ドッ
ク学会から今すぐ基準が変
わるものではないと手紙が
きました。小委員会で薬を
飲んでいない健康な人の値
を報道に出したが、マスコ
ミが誤解して報道してしま
い、学会でも各方面からの
反論にびっくりし、修正文
を出したとのことです。ま
た当初から糖尿病や心臓病
のある人は目標値が違うと
しています。
余病が無ければこの数字
でもいいという意見もあり
ますが、私は異議ありです。
事務長: 先日、
「みそ汁3
回飲むと血糖病に良いんで
しょ、糖尿病学会で発表と
ネットに情報が入ったので
実行しています」という初診の患者さんがいました。これは、山口の住民検診でみそ汁を 1 日 3
回飲む男性と 2 回以下で分けると、前者の方が糖尿病発症率は低かったというものでした。さて皆
さん、みそ汁を 1 日 3 回飲む人はどんな人だと思いますか?
「よく身体を動かす人」、「主に和食の人」
そうですね。
「みそ汁飲めば、糖尿病によい」というわけでなく、
「みそ汁飲めば、糖尿病にならな
い」ということでもなさそうですね。報道というのは人の気を引くように、ある意味作られている
と思い、自分で判断することが大切ですね。以上
(不許転載・患者教育転用可 加藤内科クリニック・葛飾 加藤光敏、加藤則子)
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